16-3 電波 (石黒) - 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/bball/final/cha… ·...

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Page 1: 16-3 電波 (石黒) - 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view電波干渉計の基本は、図16-3-4に示すようなアンテナ2素子の干渉計である。干渉計の測定量は、各アンテナで受信した信号間の相関関数(複素)の振幅と位相である。アンテナ間隔を離すと、天体のわずかな方向の変化でも位相変化と

3 電 波

1 .     電 波 望 遠 鏡 の 歴 史

宇 宙 か ら の 電 波 が 地 球 に 届 い て い る

こ と が 発 見 さ れ て か ら ま だ 80 年 く ら い

し か 経 っ て い な い 。 1931年 、 米 国 ベ ル 電

話 研 究 所 の カ ー ル ・ ジ ャ ン ス キ ー ( Karl Jansky) が 、 無 線 通 信 の 障 害 と な る 雑 音

電 波 の 研 究 か ら 、 地 球 外 か ら の 電 波 を

偶 然 に 発 見 し た ( 図 16-3-1 ) 。 そ の 電 波

の 到 来 方 向 を 詳 し く 調 べ た 結 果 、 そ の

発 生 源 が 銀 河 系 の 中 心 で あ る こ と が 判

明 し た 。 当 時 の 天 文 学 者 は こ の 大 発 見

に 大 き な 関 心 を 示 さ な か っ た 。 と こ ろ

が 、 1937年 に 、 米 国 の ア マ チ ュ ア 天 文 家

で あ る グ ロ ー ト ・ リ ー バ ー (Grote Reber) が 、

自 宅 の 庭 に 木 造 の 口 径 10m の パ ラ ボ ラ ・

ア ン テ ナ を 建 設 し 、 銀 河 系 の 電 波 地 図

を 作 成 す る こ と に 成 功 し た 。 こ の ア ン

テ ナ は 宇 宙 か ら の 電 波 を 受 信 す る 目 的

で 作 ら れ た 初 め て の 電 波 望 遠 鏡 で あ る 。

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Page 2: 16-3 電波 (石黒) - 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view電波干渉計の基本は、図16-3-4に示すようなアンテナ2素子の干渉計である。干渉計の測定量は、各アンテナで受信した信号間の相関関数(複素)の振幅と位相である。アンテナ間隔を離すと、天体のわずかな方向の変化でも位相変化と

図 16-3-1   宇 宙 電 波 を 発 見 し た 波 長 15mの ア ン テ ナ と 発 見 者 の カ ー ル ・ ジ ャ ン

ス キ ー   ( 米 国 国 立 電 波 天 文 台 )

そ の 後 、 電 波 望 遠 鏡 は 大 き な 進 化 を

と げ 、 感 度 で 7 桁 、 解 像 力 ( 角 度 分 解

能 ) は 9桁 も 向 上 し た 。 表 16-3-1 は 世 界

の 主 な 地 上 電 波 望 遠 鏡 の 一 覧 で あ る 。

電 波 望 遠 鏡 は 、 単 一 ア ン テ ナ 電 波 望 遠

鏡 と 複 数 の ア ン テ ナ ・ 受 信 機 を 結 合 す

る 電 波 干 渉 計 に 分 け ら れ る 。 単 一 ア ン

テ ナ 電 波 望 遠 鏡 の 中 で 、 固 定 ア ン テ ナ

の Arecibo300m球 面 鏡 、 駆 動 可 能 な ド イ ツ

Effelsberg100m 鏡 と 米 国 GBT ( グ リ ー ン バ ン

ク ・ テ レ ス コ ー プ ) 100m 鏡 ( 図 16-3-2) 、 ま た ミ リ 波 帯 で は 野 辺 山 45 m 鏡 が 、

そ れ ぞ れ 世 界 最 大 級 の も の で あ る 。

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Page 3: 16-3 電波 (石黒) - 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view電波干渉計の基本は、図16-3-4に示すようなアンテナ2素子の干渉計である。干渉計の測定量は、各アンテナで受信した信号間の相関関数(複素)の振幅と位相である。アンテナ間隔を離すと、天体のわずかな方向の変化でも位相変化と

表 16-3-1   世 界 の 主 な 地 上 電 波 望 遠 鏡

( 理 科 年 表 よ り 作 成 )

図 16-3-2  世 界 最 大 規 模 の 単 一 ア ン テ ナ

電 波 望 遠 鏡 GBT ( グ リ ー ン バ ン ク ・ テ レ

ス コ ー プ )   ( 米 国 国 立 電 波 天 文 台 )

電 波 干 渉 計 で は 、 こ れ ま で 米 国

ニ ュ ー メ キ シ コ 州 の VLA ( Very Large Array ) が 最 大 規 模 で あ っ た が 、 そ れ を

大 幅 に 上 回 る 規 模 の 巨 大 電 波 干 渉 計

3

単一アンテナ電波望遠鏡

電波干渉計 VLBI

メートル波・センチ波 Arecibo球面鏡(300m)

Effelsberg (100m)GBT(100m)

VLA(25mx27)(最大基線 36km)

GMRT(45mx30)(最大基線 25km)

VLBA(25mx10)(最大基線 8000km)

VERA(20mx4)(最大基線 2300km)

ミリ波・サブミリ波 LMT(50m)野辺山(45m)IRAM(30m)JCMT(15m)

ALMA(12mx54+7mx12

)(最大基線 18km)

SMA(6mx8)(最大基線 500m)

既存の電波望遠鏡をリンクした観測を行うことがあるが、専用装置はない。

Page 4: 16-3 電波 (石黒) - 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view電波干渉計の基本は、図16-3-4に示すようなアンテナ2素子の干渉計である。干渉計の測定量は、各アンテナで受信した信号間の相関関数(複素)の振幅と位相である。アンテナ間隔を離すと、天体のわずかな方向の変化でも位相変化と

ALMA ( ア タ カ マ 大 型 ミ リ 波 サ ブ ミ リ 波

干 渉 計 の 略 で ア ル マ と 呼 ぶ ) が 現 在 チ

リ ・ ア タ カ マ 高 地 で 建 設 中 で あ る 。

ALMA は 、 口 径 12m ア ン テ ナ 54 台 、 口 径 7mア ン テ ナ 12 台 の 、 合 計 66 台 を 組 み 合 わ

せ た 巨 大 な 干 渉 計 で あ り 、 最 大 18 k m

相 当 の 電 波 望 遠 鏡 に 匹 敵 す る 解 像 力 を

実 現 す る ( 図 16-3-5) 。 ミ リ 波 ~ サ ブ ミ

リ 波 の 波 長 帯 を カ バ ー し 、 ハ ッ ブ ル 望

遠 鏡 よ り 一 桁 高 い 解 像 力 を 活 か し 、 銀

河 や 星 の 形 成 と 進 化 、 惑 星 系 や 生 命 の

誕 生 な ど 天 文 学 の 重 要 課 題 に 挑 戦 す る 。

2011年 か ら 、 完 成 し た 一 部 を 使 っ て 既 に

試 験 的 な 共 同 利 用 が 開 始 さ れ て お り 、

2013年 に は シ ス テ ム 全 体 が 完 成 し 、 本 格

的 な 運 用 が 開 始 さ れ る 。

VLBI( 超 長 基 線 電 波 干 渉 計 ) で は 、 大

陸 間 な ど 極 端 に 離 れ た 電 波 望 遠 鏡 を 結

合 し 、 ミ リ 秒 角 以 下 の 角 度 分 解 能 を 実

現 す る 。 こ の 種 の 電 波 望 遠 鏡 で は 、 米

国 の VLBA が 最 大 規 模 で あ り 、 そ の 基 線

長 ( ア ン テ ナ 間 の 距 離 ) は 8千 kmに も 及

ぶ 。 さ ら に 基 線 長 を 伸 ば す た め の 技 術

と し て 、 宇 宙 に 打 ち 上 げ ら れ た ア ン テ

ナ を 利 用 す る ス ペ ー ス VLBIが あ る 。 1997年 と 2011年 に 、 そ れ ぞ れ 日 本 と ロ シ ア か

ら 打 ち 上 げ ら れ た ス ペ ー ス VLBI衛 星 で は 、

地 上 の 電 波 望 遠 鏡 と の 間 で 最 大 基 線 長 3万 k m ~ 35 万 k m で の VLBIが 実 現 し た 。

ALMA に 継 ぐ 将 来 の 巨 大 電 波 望 遠 鏡 と

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し て 、 3千 kmの 範 囲 に 3千 台 以 上 の ア ン

テ ナ を 展 開 し 、 全 体 で 1平 方 k m の 実 効

開 口 面 積 を 実 現 す る SKA ( Square Kilometer Array ) 計 画 が 、 イ ギ リ ス 、 オ ラ ン ダ 、

オ ー ス ト ラ リ ア な ど 8 ヵ 国 の 国 際 協 力

で 進 め ら れ て い る 。 ALMA と は 逆 に セ ン

チ メ ー ト ル 波 か ら メ ー ト ル 波 の 長 波 長

帯 を 狙 っ た も の で 、 宇 宙 初 期 の 暗 黒 時

代 に 最 初 の ブ ラ ッ ク ホ ー ル や 最 初 の 星

が ど の よ う に し て 誕 生 し た か な ど の 謎

を 解 く こ と が 期 待 さ れ て い る 。

2 .     電 波 天 文 観 測

電 波 は 可 視 光 線 や X線 と 同 じ 電 磁 波 の

仲 間 で あ る が 、 波 長 が 遠 赤 外 線 よ り 波

長 の 長 い も の を 言 う 。 波 長 数 十 メ ー ト

ル よ り 長 い 波 長 の 電 波 は 地 球 の 電 離 層

を 通 過 す る と き に 吸 収 さ れ る た め 、 地

上 の 電 波 望 遠 鏡 で 観 測 で き る 波 長 は 主

に メ ー ト ル 波 か ら サ ブ ミ リ 波 に か け て

の 波 長 域 に 限 ら れ る 。

  天 体 か ら の 電 波 は 主 に 、 高 温 の 電 離

ガ ス か ら の 「 熱 的 電 波 」 、 高 エ ネ ル

ギ ー 電 子 が 磁 場 中 で ら せ ん 運 動 す る こ

と で 発 生 す る 「 非 熱 的 電 波 」 ( シ ン ク

ロ ト ロ ン 放 射 と も い う ) 、 星 間 ガ ス 中

の 原 子 、 分 子 が 発 す る 「 線 ス ペ ク ト ル

電 波 」 の 3種 類 に 分 け ら れ る 。 電 波 天 文

観 測 で は 、 こ れ ら 天 体 か ら 発 生 す る 電

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波 を ア ン テ ナ で 受 信 し 、 低 雑 音 受 信 機

で 検 出 や ス ペ ク ト ル 分 析 ( 光 学 望 遠 鏡

で の 分 光 に 相 当 ) を 行 う 。

  電 波 天 文 観 測 の 最 も 基 本 と な る の は 、

天 体 の 電 波 強 度 分 布 ( マ ッ プ ) を 得 る

こ と で あ る 。 単 一 ア ン テ ナ 電 波 望 遠 鏡

で は 、 ア ン テ ナ を 2次 元 走 査 す る こ と に

よ り 、 ま た 電 波 干 渉 計 で は 、 複 数 の ア

ン テ ナ か ら の 信 号 を 相 関 さ せ 、 「 開 口

合 成 」 を す る こ と に よ り 、 電 波 強 度 分

布 を 得 る 。 マ ッ プ か ら 、 天 体 の 構 造

( 温 度 分 布 や 密 度 分 布 ) が 求 め ら れ る

が 、 そ こ に 線 ス ペ ク ト ル の 情 報 が 加 わ

る と 、 ガ ス 中 の 原 子 ・ 分 子 の 種 類 が 分

か り 、 さ ら に ド ッ プ ラ ー 効 果 を 利 用 す

る と 、 ガ ス の 運 動 に つ い て の 情 報 が 得

ら れ る 。 ま た 、 偏 波 ( 光 の 偏 光 と 同

じ ) の 観 測 が 出 来 る 場 合 は 、 磁 力 線 の

構 造 ( 方 向 と 強 さ ) に つ い て の 情 報 を

得 る こ と が で き る 。

3 .     単 一 ア ン テ ナ 電 波 望 遠 鏡

  単 一 ア ン テ ナ 電 波 望 遠 鏡 は 、 電 波 望

遠 鏡 の 中 で 最 も 基 本 と な る も の で あ る 。

図 16-3-3は こ の タ イ プ の 電 波 望 遠 鏡 の 基

本 構 成 で あ る 。 光 学 望 遠 鏡 の 反 射 鏡 に

相 当 す る ア ン テ ナ で 受 信 し た 宇 宙 か ら

の 極 め て 微 弱 な 電 波 信 号 は 、 受 信 機 シ

ス テ ム で 検 出 お よ び ス ペ ク ト ル 分 析 な

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ど の 信 号 処 理 が 行 わ れ る 。 ア ン テ ナ や

受 信 機 な ど の 制 御 お よ び 最 終 的 な デ ー

タ 処 理 に は コ ン ピ ュ ー タ が 重 要 な 役 割

を 果 た す 。

一 般 に 、 望 遠 鏡 の 性 能 を 表 す 指 標 は 、

「 解 像 力 」 と 「 集 光 力 」 で あ る 。 望 遠

鏡 の 解 像 力 は ( 波 長 / 口 径 ) で 、 ま た 、

集 光 力 ( ア ン テ ナ 利 得 ) は ( 口 径 / 波

長 ) 2 で 決 ま る 。 し た が っ て 、 解 像 力 お

よ び 集 光 力 の ど ち ら も 、 口 径 が 大 き い

ほ ど 、 ま た 波 長 が 短 い ほ ど 高 く な る 。

図 16-3-3  単 一 ア ン テ ナ 電 波 望 遠 鏡 の 基

本 構 成 。 ア ン テ ナ は 光 学 望 遠 鏡 の 反 射

鏡 に 相 当 し 、 宇 宙 か ら の 微 弱 な 電 波 を

集 め る 。 ア ン テ ナ 焦 点 に 設 置 さ れ る 受

信 機 前 段 部 、 そ の 後 の 受 信 機 後 段 部 を

経 て 、 信 号 処 理 部 で 信 号 の 検 出 や 分 光

( ス ペ ク ト ル 分 析 ) が 行 わ れ る 。

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ア ン テ ナ

解 像 力 お よ び 集 光 力 は 、 実 際 に は 、

ア ン テ ナ の 鏡 面 精 度 と 指 向 精 度 に よ っ

て そ の 性 能 が 制 限 さ れ る 。 大 型 ア ン テ

ナ に な る ほ ど 、 自 重 に よ る 構 造 変 形 や

風 ・ 日 照 に よ る 姿 勢 変 化 の た め 、 口 径

に 見 合 っ た 性 能 を 達 成 す る こ と が 困 難

と な る 。 重 力 や 風 の 影 響 を 受 け る 地 上

の 望 遠 鏡 で は 100m 程 度 の 口 径 ( 例 : 図

16-3-2 の GBT ) が 限 界 で あ る 。

メ ー ト ル 波 の よ う な 長 波 長 で は 、 八

木 ア ン テ ナ や そ の 集 合 体 な ど の 形 式 も

あ る が 、 ほ と ん ど の 電 波 望 遠 鏡 で 採 用

さ れ て い る ア ン テ ナ は パ ラ ボ ラ ・ ア ン

テ ナ で あ る 。 鏡 面 精 度 と 指 向 精 度 は そ

れ ぞ れ 、 観 測 す る 最 短 波 長 で の ア ン テ

ナ ビ ー ム 半 値 幅 の 1/10 ~ 1/20 が 要 求 さ れ

る 。 長 波 長 帯 で は 、 金 網 の 反 射 面 で も

十 分 反 射 鏡 と し て 機 能 す る 一 方 、 極 め

て 高 い 精 度 が 要 求 さ れ る ミ リ 波 ・ サ ブ

ミ リ 波 観 測 用 の ア ン テ ナ で は 、 鏡 面 精

度 で 10 ミ ク ロ ン 、 指 向 精 度 で 1秒 角 程 度

が 要 求 さ れ る 。 こ の た め 、 CFRP ( 炭 素

繊 維 ) な ど の 温 度 変 化 に 強 い 材 料 を 使

用 し た り 、 風 や 日 射 の 影 響 を 避 け る た

め 、 光 学 望 遠 鏡 と 同 様 な ド ー ム 内 ( レ

ド ー ム と 呼 ば れ る ) に 設 置 さ れ る こ と

も あ る 。

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受 信 機 シ ス テ ム

  検 出 感 度 を 大 き く 左 右 す る 「 受 信 機

前 段 部 ( フ ロ ン ト エ ン ド と も 呼 ぶ ) 」

は ア ン テ ナ の 焦 点 面 に 設 置 さ れ 、 そ こ

か ら 出 た 信 号 を 最 終 的 に は 「 受 信 機 後

段 部 ( バ ッ ク エ ン ド と も 呼 ぶ ) 」 を 経

由 し て 、 最 後 に デ ジ タ ル 分 光 計 な ど の

「 信 号 処 理 部 」 で 分 光 ( ス ペ ク ト ル 分

析 ) 処 理 な ど の 高 度 な 信 号 処 理 を 行 う 。

こ こ で 重 要 な こ と は 、 宇 宙 か ら 到 来 す

る 電 波 は 雑 音 性 の も の で あ り 、 地 球 大

気 な ど 周 囲 の 環 境 や 観 測 装 置 そ の も の

か ら 発 生 す る 雑 音 と 区 別 が つ か な い こ

と で あ る 。 こ の た め 、 ア ン テ ナ を 天 体

方 向 と 背 景 の 空 に 交 互 に 向 け て そ の 差

分 を と る ス イ ッ チ ン グ 観 測 や 、 ス ペ ク

ト ル の 観 測 か ら 天 体 か ら の 信 号 と 不 要

な 雑 音 を 区 別 し た り す る 。

  フ ロ ン ト エ ン ド と し て は 、 過 去 に は

メ ー ザ ー 増 幅 器 や パ ラ メ ト リ ッ ク 増 幅

器 な ど が 使 用 さ れ た こ と も あ っ た が 、

そ の 後 は よ り コ ン パ ク ト で 格 段 に 性 能

が 高 い 方 式 が 開 発 さ れ た 。 主 に セ ン チ

波 帯 ま で は 冷 却 し た 半 導 体 増 幅 器 が 使

わ れ て い る が 、 ミ リ 波 か ら サ ブ ミ リ 波

に か け て は 、 絶 対 温 度 4 度 以 下 に 冷 却

し た SIS ( 超 伝 導 ) ミ キ サ ー と 呼 ば れ る

周 波 数 変 換 器 を 使 用 し 、 周 波 数 を い っ

た ん 低 い 周 波 数 に 変 換 し て か ら 増 幅 を

行 う 。 バ ッ ク エ ン ド と し て は 、 過 去 に

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は 、 フ ィ ル タ ー バ ン ク や 音 響 光 学 型 分

光 計 が 使 用 さ れ た が 、 現 在 は デ ジ タ ル

型 の 分 光 計 が ほ と ん ど で 、 10GHz を 超 え

る 帯 域 の 実 時 間 で の 信 号 処 理 が 可 能 と

な っ て い る 。

  こ れ ま で の 多 く の フ ロ ン ト エ ン ド で

は 、 空 の 1 方 向 し か 見 ら れ な い 1 画 素

の CCDカ メ ラ 相 当 で あ っ た が 、 最 近 で は

焦 点 面 に 複 数 画 素 の 「 ア レ イ カ メ ラ 」

を 搭 載 で き る よ う に な り 、 数 百 画 素 の

イ メ ー ジ が 同 時 に 得 ら れ 、 観 測 効 率 が

大 幅 に 向 上 さ せ る こ と が で き る よ う に

な っ た 。

ア レ イ カ メ ラ 搭 載 の 電 波 望 遠 鏡 が 将 来

の 主 流 と な る こ と は 間 違 い な い 。

4 .     電 波 干 渉 計

歴 史 的 に は 、 電 波 望 遠 鏡 の 解 像 力 が

光 学 望 遠 鏡 に 比 べ て 格 段 に 低 く 、 観 測

上 の 大 き な 制 限 と な っ て い た 。 1940年 後

半 に 、 複 数 の ア ン テ ナ を 結 合 す る 電 波

干 渉 計 の ア イ デ ア が 生 ま れ 、 最 近 で は

光 学 望 遠 鏡 の 解 像 力 を 大 幅 に 上 回 る こ

と が で き る よ う に な っ た 。 1946年 頃 か ら 、

イ ギ リ ス と オ ー ス ト ラ リ ア で 干 渉 計 の

開 発 競 争 が 行 わ れ 、 そ の 後 イ ギ リ ス の

マ ー テ ィ ン ・ ラ イ ル ( Martin Ryle) ら の グ

ル ー プ が 干 渉 計 技 術 を 大 き く 発 展 さ せ

た 「 開 口 合 成 法 」 を 編 み 出 し 、 現 在 の

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世 界 の 干 渉 計 の 礎 を 築 き 上 げ た 。

干 渉 計 の 基 本 原 理 と シ ス テ ム

  電 波 干 渉 計 の 基 本 は 、 図 16-3-4に 示 す

よ う な ア ン テ ナ 2素 子 の 干 渉 計 で あ る 。

干 渉 計 の 測 定 量 は 、 各 ア ン テ ナ で 受 信

し た 信 号 間 の 相 関 関 数 ( 複 素 ) の 振 幅

と 位 相 で あ る 。 ア ン テ ナ 間 隔 を 離 す と 、

天 体 の わ ず か な 方 向 の 変 化 で も 位 相 変

化 と し て 現 れ 、 素 子 ア ン テ ナ の 指 向 性

で は 区 別 で き な い よ う な 天 体 の 細 か な

構 造 ( 例 え ば 原 始 惑 星 系 円 盤 や 原 始 星

か ら の 双 曲 流 ジ ェ ッ ト な ど ) に 関 す る

情 報 が 得 ら れ る 。 干 渉 計 の 角 度 分 解 能

は [ 波 長 / 基 線 長 ] で 決 ま る の で 、 長 基

線 、 短 波 長 ほ ど 、 角 度 分 解 能 が 高 く な

る 。

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図 16-3-4  電 波 干 渉 計 の 基 本 と な る 2素 子

干 渉 計 の 構 成 例 。 各 ア ン テ ナ で 受 信 し

た 信 号 を 長 距 離 離 れ た 相 関 器 ま で 伝 送

で き る よ う 、 低 い 周 波 数 に 変 換 す る 。

電 波 の 振 幅 と 位 相 の 情 報 を 忠 実 に 維

持 ・ 伝 送 す る こ と が 干 渉 計 の 性 能 を 決

定 す る 。

図 4 の 英 文 ⇒ 和 文

Mixer →  周 波 数 変 換 器

LO  →   局 部 発 振 器

IF Amp   →   中 間 周 波 増 幅 器

LASER Synthesizer   →   レ ー ザ ー 基 準 信 号

発 生 器

Optical Fibers   →   光 フ ァ イ バ ー

Digital Spectro-correlator   →   デ ジ タ ル 分 光

相 関 器

図 16-3-4の シ ス テ ム は 、 ALMA の 例 で あ

る 。 周 波 数 が 極 め て 高 く 、 信 号 を 直 接

長 距 離 伝 送 す る こ と が 不 可 能 な た め 、

各 ア ン テ ナ の 周 波 数 変 換 器 ( 現 在 は 7

つ の 周 波 数 帯 を カ バ ー す る SIS ミ キ サ ー

群 ) で 低 い 周 波 数 に 変 換 し 、 中 間 周 波

増 幅 器 で 増 幅 後 、 デ ジ タ ル 信 号 に 変 換

し て 光 フ ァ イ バ ー で 長 距 離 伝 送 す る 。

特 に 位 相 情 報 が 重 要 で あ り 、 干 渉 計 シ

ス テ ム の 性 能 は 、 各 ア ン テ ナ で 受 信 し

た 信 号 の 振 幅 と 位 相 の 情 報 を い か に 忠

実 に 維 持 ・ 伝 送 で き る か に か か っ て い

る 。

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  こ の た め 、 図 16-3-4の 例 で は 、 中 央 か

ら 光 フ ァ イ バ ー で 2波 長 の レ ー ザ ー 信 号

を 送 り 、 各 ア ン テ ナ の LO( 局 部 発 振 器 )で そ の ビ ー ト 信 号 か ら 周 波 数 変 換 用 の

基 準 信 号 を 作 り 出 す 。 光 フ ァ イ バ ー の

伸 び 縮 み で 位 相 が 狂 わ な い よ う に 、

フ ァ イ バ ー 長 を 常 時 ミ ク ロ ン 精 度 で 計

測 し 補 正 し て い る 。 デ ジ タ ル 分 光 相 関

器 は 、 専 用 の 超 高 速 デ ジ タ ル 信 号 処 理

装 置 で あ り 、 ア ン テ ナ 間 の 信 号 遅 延 を

補 正 し た 後 、 数 千 チ ャ ン ネ ル の ス ペ ク

ト ル 成 分 に 分 解 し 、 各 周 波 数 成 分 ご と

の 相 関 値 を 求 め る 処 理 が 実 時 間 で 行 わ

れ る 。

  ALMA で は 口 径 12m ア ン テ ナ 54 台 、 口 径

7mア ン テ ナ 12 台 の 、 合 計 66 台 を 組 み 合

わ せ た 巨 大 な 電 波 干 渉 計 ( 図 16-3-5) で

あ る が 、 基 本 的 に は 、 多 く の 2素 子 干 渉

計 に 分 解 し て 考 え る こ と が で き る 。 一

般 に 、 N 台 ア ン テ ナ が あ る と 、 N(N-1)/2だ け の 2素 子 干 渉 計 の 組 み 合 わ せ が あ り

得 る の で 、 ALMA に は 2145組 の 2素 子 干 渉

計 が 存 在 す る 。

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図 16-3-5  標 高 5000m に 居 並 ぶ ALMA の ア ン

テ ナ 群 。 口 径 1 2 m ア ン テ ナ 54 台 、 口

径 7 m ア ン テ ナ 12 台 、 合 計 66 台 の 高 精

度 ア ン テ ナ を 組 み 合 わ せ 、 最 大 口 径 1

8 k m の パ ラ ボ ラ ア ン テ ナ に 相 当 す る

解 像 力 を 実 現 す る 。 [ALMA ( ESO/NAOJ/NRAO) ]

開 口 合 成 法

  あ る 基 線 長 の 2素 子 干 渉 計 は 、 天 体 の

輝 度 分 布 の 中 の 特 定 の フ ー リ エ 成 分

( 空 間 周 波 数 成 分 ) に 感 ず る 共 振 器 の

よ う な 働 き を す る 。 図 16-3-6に 示 す よ う

に 、 ア ン テ ナ 間 隔 ( 基 線 長 ) を 長 く し

て い く と 、 よ り 高 い フ ー リ エ 成 分 を 観

測 す る こ と に な る 。 こ こ で 点 状 の 電 波

源 を 観 測 す る 場 合 を 想 定 す る 。 一 つ の

基 線 長 で 観 測 す る と 、 あ る 正 弦 波 状 の

レ ス ポ ン ス ( 干 渉 縞 と 呼 ぶ ) と な る が 、

天 体 が ど の 山 の 方 向 に あ る か 不 定 と な

る 。 そ こ で 、 い く つ か の 基 線 長 で 観 測

し た 結 果 を コ ン ピ ュ ー タ の 中 で 足 し 算

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す る と 図 6 の 最 下 部 に あ る よ う に 、 真

の 方 向 に 鋭 い レ ス ポ ン ス が 得 ら れ 、 こ

の 方 向 に 天 体 が あ る こ と が 分 か る 。

た っ た 2台 の ア ン テ ナ で も 、 ア ン テ ナ 間

隔 を 変 え な が ら 観 測 す る こ と に よ り 、

原 理 的 に い く ら で も 高 い 解 像 力 を 得 る

こ と が 可 能 と な る 。 こ れ が 、 1次 元 で の

開 口 合 成 の 原 理 で あ る 。 こ の と き 、 全

体 の 観 測 時 間 内 で は 、 天 体 の 輝 度 分 布

が 変 化 し な い と い う 条 件 が 必 要 で あ る

が 、 激 し く 変 化 す る 太 陽 の よ う な 天 体

を 除 け ば 、 ほ と ん ど の 天 体 に 適 用 可 能

で あ る 。

図 16-3-6  1次 元 の 場 合 の 開 口 合 成 の 原 理 。

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短 い 基 線 長 ( No.1と No.2の ア ン テ ナ 間

隔 ) の 観 測 ほ ど 、 天 体 の 広 が っ た 成 分

に 感 度 が あ り 、 基 線 長 を 長 く す る ほ ど

細 か な 構 造 に 感 度 が あ る 。 た っ た 2台 の

ア ン テ ナ で も 、 基 線 長 を 変 え て 観 測 を

繰 り 返 し 、 そ の デ ー タ を 最 後 に 合 成 す

る と シ ャ ー プ な 画 像 が 得 ら れ る ( 最 下

段 、 点 源 の 場 合 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン )

  2次 元 の 天 体 の 輝 度 分 布 は 、 2次 元 的

に 基 線 長 を 変 化 さ せ る こ と に よ っ て 得

ら れ る が 、 大 変 手 間 が か か る こ と に な

る 。 そ こ で ラ イ ル ら の グ ル ー プ は 、 地

球 の 自 転 を 利 用 す る と 、 ア ン テ ナ 移 動

の 手 間 を 大 幅 に 減 ら す こ と が で き る こ

と を 発 見 し 、 「 地 球 の 自 転 を 利 用 し た

開 口 合 成 法 」 を 編 み 出 し た 。 観 測 対 象

の 天 体 か ら 地 球 を 見 る と 、 図 16-3-7の よ

う に 、 自 転 に と も な っ て 基 線 の 方 向 と

長 さ が 時 々 刻 々 変 化 す る 。 こ の 時 観 測

さ れ る フ ー リ エ 成 分 を コ ン ピ ュ ー タ の

中 に 蓄 え 、 観 測 後 フ ー リ エ 変 換 と い う

処 理 を 施 す と 、 天 体 の 2次 元 画 像 が 得 ら

れ る 。 一 般 に は 、 観 測 効 率 を 上 げ る た

め に 、 な る べ く 多 く の ア ン テ ナ を 基 線

の 重 複 を 最 小 と す る 配 列 に 並 べ て 観 測

が 行 わ れ る 。

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図 16-3-7  天 体 か ら 見 た 干 渉 計 基 線 の 変

化 。 観 測 す る 天 体 か ら 見 る と 、 No.1とNo.2の 2台 の ア ン テ ナ を 結 ぶ 干 渉 計 基 線

の 方 向 と 間 隔 が 、 地 球 の 回 転 に と も

な っ て 、 時 々 刻 々 変 化 す る 。 こ の 原 理

に よ り 、 ア ン テ ナ 移 動 の 手 間 を 大 幅 に

改 善 し た の が 、 「 地 球 の 自 転 を 利 用 し

た 開 口 合 成 法 」 で あ る 。

5 .     VLBI(超 長 基 線 電 波 干 渉 計 )

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  ア ン テ ナ 間 隔 を 数 百 kmか ら 数 千 kmにま で 拡 張 し て 、 天 体 の 超 微 細 の 構 造 を

描 き 出 す 手 法 が VLBI (Very Long Baseline Interferometer) で あ る 。 場 合 に よ っ て は 、

大 陸 間 の 電 波 望 遠 鏡 を 組 み 合 わ せ て 干

渉 観 測 が 行 わ れ る 。

  VLBIで は 、 通 常 の 干 渉 計 と は 異 な り 、

各 ア ン テ ナ か ら の 信 号 を ケ ー ブ ル 等 で

伝 送 す る こ と が 不 可 能 と な る 。 そ こ で 、

各 ア ン テ ナ で 受 信 し た 信 号 を 高 密 度 の

テ ー プ レ コ ー ダ な ど に 記 録 し 、 そ れ を

一 ヵ 所 に 運 び 、 相 関 処 理 を 行 う 。 こ の

と き 、 信 号 の 記 録 と 同 時 に 極 め て 精 確

な 原 子 時 計 の 信 号 を 同 時 に 記 録 し 、 干

渉 計 と し て 重 要 な 位 相 の 情 報 を 失 わ な

い よ う に す る 。

  既 存 の 電 波 望 遠 鏡 を 組 み 合 わ せ た VLBI観 測 も 行 わ れ る が 、 VLBI専 用 の 望 遠 鏡 も

建 設 さ れ て お り 、 口 径 25m ア ン テ ナ 10 基を 最 大 8千 kmに 展 開 す る 米 国 の VLBA が 世

界 最 大 で あ る 。 日 本 で も 、 口 径 20m ア ン

テ ナ 4 基 を 日 本 列 島 に 沿 っ て 設 置 し 、

2300km の 最 大 基 線 長 を 有 す る VERA (VLBI Experiment of Radio Astronomy) が あ る 。

地 球 上 の ア ン テ ナ を 組 み 合 わ せ た VLBIの 最 長 基 線 長 が 地 球 の 直 径 で 制 限 さ れ

て い た が 、 1997年 に 日 本 で 世 界 初 の ス

ペ ー ス VLBI衛 星 「 は る か 」 が 打 ち 上 げ ら

れ 、 軌 道 上 の 口 径 8 m ア ン テ ナ と 地 上

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VLBIネ ッ ト ワ ー ク を 結 合 す る 最 大 基 線 長

3 万 k m の 干 渉 計 が 実 現 し た 。 ま た 、

2011年 に は 、 ロ シ ア の 口 径 10 m ス ペ ー ス

VLBI衛 星 「 RADIOASTRON 」 が 打 ち 上 げ ら れ 、

最 大 基 線 長 35 万 k m で の VLBI観 測 が 可 能

と な っ た 。

VLBI 技 術 は 電 波 天 文 学 特 有 の も の で あ

る が 、 今 後 も さ ま ざ ま な 工 夫 が さ れ て 、

電 波 領 域 に お け る 超 高 解 像 イ メ ー ジ ン

グ に 挑 ん で い く こ と が 期 待 さ れ る 。

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