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1 近年,四輪車両に関する研究が盛んに行われ,市販 の自動車に自動運転技術が実装されはじめている.し かし,車両を目的の位置へ移動させる制御系設計を考 えるとき,四輪車両は非ホロノミックな性質を持ち, 静的連続フィードバックによる安定化ができない 1) め,一般に制御設計は困難である.そのため,従来研 究として,円周族追従による自動駐車 2) や時間軸状態 制御形による安定化 3),4) ,フラットネス理論 5) による追 従制御が提案されている.円周族追従制御は簡便な目 標軌道を設定し,軌道からの偏差を安定化することで 目標座標へ収束させる手法であり,設計が比較的容易 である.しかし,目標軌道が円軌道となるため,駐車 スペースが限られる場合など,適切な経由点を設定す る必要がある.時間軸状態制御は,非ホロノミックシ ステムに対して有効な手法として知られている.しか し,車両の状態変数の一部を時間軸と見立てるもので あるため,車両の駐車を考える場合,その駐車軌道が 制約される.フラットネス理論は非線形のシステムに 対して,座標変換とフィードバックを施すことにより, 等価な線形システムへと変換する手法である.変換後 の線形システムに対して安定化制御系を設計し,変換 前の座標に戻すことで安定化が達成される.しかし, 変換後のシステムに対して最適な設計を行ったとして も,変換前のシステムに対する最適性は保証されない 点に注意が必要である. また,実際の環境においてはモデル化誤差や外乱が 存在するため,安全性の向上のためにロバストな制御 系設計は重要な課題である.一般にロバスト性を持つ とされる制御系設計として,スライディングモード制 御(SMC6) や外乱オブザーバ 7),8) がある.SMCは非線 形システムを対象としたロバスト設計手法として実用 性が高く広く用いられている.しかし,SMCのロバス ト性はリレー入力のゲインに依存するが,入力制約が 存在するときゲイン設計は困難となることがある.一 方,外乱オブザーバは,想定される未知の不確かさを 推定することにより対処しようとする考え方である. さらに,よりロバスト性を向上させることを目的とし てモデル予測制御(MPC9) SMCを用いた制御則が 提案されている 10) 本研究では外乱の影響を軽減しロバスト性の向上を 目的として,外乱オブザーバによるロバスト追従制御 系設計を行う.まず,外乱オブザーバにより外乱量を 推定し,その推定値に基づいてフラットネス理論によ り四輪車両の線形化を行う.次に,線形化されたシス テムの誤差方程式に対してMPCSMCを用いた追従 制御系を設計する. 以下に本論文の構成を示す.まず2章で制御対象であ る四輪車両のダイナミクスおよびSMCMPC,外乱オ ブザーバについて概略を述べる.次に, 3章で提案手法 を示し, 4章でシミュレーションにより提案手法と外乱 オブザーバを利用しない場合の比較を行い,提案手法 の有効性を確認する.最後に,5章でまとめとする. 2 基礎理論 2.1 制御対象 Fig. 1に本研究で用いる四輪車両のモデルを示す.本 研究で用いる状態方程式は次式となる. ̇ 1 = 4 cos 3 ̇ 2 = 4 sin 3 ̇ 3 = 4 tan 1 ̇ 4 = 2 (1) ここで, 1 , 2 は後輪中心座標を表し, 3 は姿勢角, 4 は車両速度である. 1 , 2 はそれぞれ操舵角,加速度で ある. はホイールベースを表す.また,四輪車両は次 の拘束条件を受ける. | 1 |≤ 1 | 2 |≤ 2 | 4 |≤ 4 (2) ここで, 1 , 2 , 4 はそれぞれ操舵角制限値,加 速度制限値,速度制限値である. 外乱オブザーバによる四輪車両のロバスト軌道追従制御 小林友明 ○植西宣仁(大阪府立大学) Robust Trajectory Tracking Control for Four Wheel Vehicles with Disturbance Observer T. Kobayashi, * N. Uenishi (Osaka Prefecture Univ.) AbstractIn this paper, we present a new robust trajectory tracking control for four wheel vehicles with disturbance observer. In the conventional study, a control law by combining sliding mode control (SMC) and model predictive control (MPC) is proposed to improve robustness of SMC. However, it does not sufficiently remove the influence of disturbance. Therefore, we redesign the control input by using the estimated value by the disturbance observer in order to the influence of disturbance is removed. Simulation results show the effectiveness of the proposed method. Key Words: Sliding mode control, Model predictive control, Disturbance observer Fig. 1: Four wheel vehicle model. 60 回自動制御連合講演会(2017 11 10 日~ 12 日・東京) © 2017 SICE 17PR0002/0000-1030 SuA3-4

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1 緒 言

近年,四輪車両に関する研究が盛んに行われ,市販の自動車に自動運転技術が実装されはじめている.しかし,車両を目的の位置へ移動させる制御系設計を考えるとき,四輪車両は非ホロノミックな性質を持ち,静的連続フィードバックによる安定化ができない1)ため,一般に制御設計は困難である.そのため,従来研究として,円周族追従による自動駐車2)や時間軸状態制御形による安定化3),4),フラットネス理論5)による追従制御が提案されている.円周族追従制御は簡便な目標軌道を設定し,軌道からの偏差を安定化することで目標座標へ収束させる手法であり,設計が比較的容易である.しかし,目標軌道が円軌道となるため,駐車スペースが限られる場合など,適切な経由点を設定する必要がある.時間軸状態制御は,非ホロノミックシステムに対して有効な手法として知られている.しかし,車両の状態変数の一部を時間軸と見立てるものであるため,車両の駐車を考える場合,その駐車軌道が制約される.フラットネス理論は非線形のシステムに対して,座標変換とフィードバックを施すことにより,等価な線形システムへと変換する手法である.変換後の線形システムに対して安定化制御系を設計し,変換前の座標に戻すことで安定化が達成される.しかし,変換後のシステムに対して最適な設計を行ったとしても,変換前のシステムに対する最適性は保証されない点に注意が必要である.

また,実際の環境においてはモデル化誤差や外乱が存在するため,安全性の向上のためにロバストな制御系設計は重要な課題である.一般にロバスト性を持つとされる制御系設計として,スライディングモード制御(SMC)6)や外乱オブザーバ7),8)がある.SMCは非線形システムを対象としたロバスト設計手法として実用性が高く広く用いられている.しかし,SMCのロバスト性はリレー入力のゲインに依存するが,入力制約が存在するときゲイン設計は困難となることがある.一方,外乱オブザーバは,想定される未知の不確かさを推定することにより対処しようとする考え方である.さらに,よりロバスト性を向上させることを目的としてモデル予測制御(MPC)9)とSMCを用いた制御則が提案されている10).

本研究では外乱の影響を軽減しロバスト性の向上を目的として,外乱オブザーバによるロバスト追従制御

系設計を行う.まず,外乱オブザーバにより外乱量を推定し,その推定値に基づいてフラットネス理論により四輪車両の線形化を行う.次に,線形化されたシステムの誤差方程式に対してMPCとSMCを用いた追従制御系を設計する.

以下に本論文の構成を示す.まず2章で制御対象である四輪車両のダイナミクスおよびSMC, MPC,外乱オブザーバについて概略を述べる.次に,3章で提案手法を示し,4章でシミュレーションにより提案手法と外乱オブザーバを利用しない場合の比較を行い,提案手法の有効性を確認する.最後に,5章でまとめとする.

2 基礎理論

2.1 制御対象

Fig. 1に本研究で用いる四輪車両のモデルを示す.本研究で用いる状態方程式は次式となる.

�̇�1 = 𝑥4 cos 𝑥3 �̇�2 = 𝑥4 sin 𝑥3

�̇�3 =𝑥4

𝑙tan 𝑢1

�̇�4 = 𝑢2

(1)

ここで,𝑥1, 𝑥2は後輪中心座標を表し,𝑥3は姿勢角,𝑥4

は車両速度である.𝑢1, 𝑢2はそれぞれ操舵角,加速度である.𝑙はホイールベースを表す.また,四輪車両は次の拘束条件を受ける.

|𝑢1| ≤ 𝑢1𝑙𝑖𝑚 |𝑢2| ≤ 𝑢2𝑙𝑖𝑚 |𝑥4| ≤ 𝑥4𝑙𝑖𝑚

(2)

ここで,𝑢1𝑙𝑖𝑚 , 𝑢2𝑙𝑖𝑚, 𝑥4𝑙𝑖𝑚はそれぞれ操舵角制限値,加速度制限値,速度制限値である.

外乱オブザーバによる四輪車両のロバスト軌道追従制御

小林友明 ○植西宣仁(大阪府立大学)

Robust Trajectory Tracking Control for Four Wheel Vehicles with Disturbance Observer

T. Kobayashi, * N. Uenishi (Osaka Prefecture Univ.)

Abstract- In this paper, we present a new robust trajectory tracking control for four wheel vehicles with disturbance observer. In the conventional study, a control law by combining sliding mode control (SMC) and model predictive control (MPC) is proposed to improve robustness of SMC. However, it does not sufficiently remove the influence of disturbance. Therefore, we redesign the control input by using the estimated value by the disturbance observer in order to the influence of disturbance is removed. Simulation results show the effectiveness of the proposed method. Key Words: Sliding mode control, Model predictive control, Disturbance observer

Fig. 1: Four wheel vehicle model.

第 60 回自動制御連合講演会(2017 年 11 月 10 日~ 12 日・東京) © 2017 SICE17PR0002/0000-1030

SuA3-4

参照軌道との誤差システムを考える.フラットネス理論5)を用いると,次の線形状態方程式が得られる.

�̇�1 = 𝑒2 �̇�2 = �̅�1 �̇�3 = 𝑒4 �̇�4 = �̅�2

(3)

ここで,𝑒1, 𝑒3はそれぞれ𝑥1, 𝑥2方向の位置偏差,𝑒2, 𝑒4

はそれぞれ𝑥1, 𝑥2方向の速度偏差を表し,�̅�1, �̅�2は変換後の誤差システムの入力である.変換後の参照入力を𝑣1

∗, 𝑣2∗とすると,システムに印可する入力は次式となる.

𝑢1 = tan−1 {−

𝑙(𝑣1 sin 𝑥3 − 𝑣2 cos 𝑥3)

𝑥42 }

𝑢2 = 𝑣1 cos 𝑥3 + 𝑣2 sin 𝑥3

(4)

ただし,𝑣1, 𝑣2は変換後のシステムの入力であり,次式で表される.

𝑣1 = �̅�1 + 𝑣1

∗ 𝑣2 = �̅�2 + 𝑣2

∗ (5)

2.2 SMC6)

SMCは安定な切換超平面へ状態を拘束することで

安定化を達成する手法である.制御入力は状態を超平

面に拘束する等価入力と,状態を超平面へ近づけるた

めの切換入力により構成される.次の線形システムと

切換関数を考える.

𝜉̇ = 𝐴𝜉 + 𝐵𝑢, 𝜉 ∈ ℝ𝑛 , 𝑢 ∈ ℝ𝑚 (6)

𝜎 = 𝑆𝜉, 𝜎 ∈ ℝ𝑚, 𝑆 ∈ ℝ𝑚×𝑛 (7)

ここで,𝜉, 𝑢はそれぞれ状態変数,入力であり,𝜎は切

換関数である.このとき,等価制御入力は次式で与え

られる.

𝑢𝑒𝑞 = −(𝑆𝐵)−1𝑆𝐴𝜉 (8)

また,切換入力は次式とする.

𝑢𝑛𝑙 = − (𝑘1sgn(𝜎1)

⋮𝑘𝑚sgn(𝜎𝑚)

) (9)

ここで,sgn(∙)は符号関数であり,𝑘𝑖(𝑖 = 1, ⋯ , 𝑚)はゲ

インである.よって,SMC入力は次式となる.

𝑢 = −(𝑆𝐵)−1𝑆𝐴𝜉 − (𝑘1sgn(𝜎1)

⋮𝑘𝑚sgn(𝜎𝑚)

) (10)

次に最適な切換超平面の設計方法について述べる.まず,システム(6)を次の正準系に座標変換する.

𝜉1̇ = 𝐴11𝜉1 + 𝐴12𝜉2

𝜉2̇ = 𝐴21𝜉1 + 𝐴22𝜉2 + 𝐵2𝑢 𝜎 = 𝑆𝜉

(11)

スライディングモードにおける状態の変動を最小にする最適な滑り平面を求めるために,次の評価関数を導入する.

𝐽 = ∫ [𝜉1

𝜉2]

[𝑄11 𝑄12

𝑄21 𝑄22] [

𝜉1

𝜉2] d𝑡

𝑡

𝑡𝑠

(12)

ただし, 𝑄12⊤ = 𝑄21,𝑄 = [

𝑄11 𝑄12

𝑄21 𝑄22] > 0であり,𝑡𝑠は

状態𝜉が切換平面に到達したときの時刻である.この

とき,補助変数𝜏を次式で定義する.

𝜏 = 𝜉2 + 𝑄22−1𝑄12

⊤ 𝜉1 (13)

式(11),(12),(13)より,次式が得られる.

𝜉1̇ = 𝐴11∗ 𝜉1 + 𝐴12𝜏

𝐽 = ∫ (𝜉1⊤𝑄11

∗ 𝜉1 + 𝜏⊤𝑄22𝜏)d𝑡𝑡

𝑡𝑠

(14)

ただし,𝐴11∗ , 𝑄11

∗ は次式で与える.

𝐴11

∗ = 𝐴11 − 𝐴12𝑄22−1𝑄12

⊤ 𝑄11

∗ = 𝑄11 − 𝑄12𝑄22−1𝑄12

⊤ (15)

ここで,最適な切換超平面を求めるために,式(14)の最適制御問題を解く.式(14)の最適制御問題のRiccati方程式は次式である.

𝑃𝐴11∗ + 𝐴11

∗⊤𝑃 − 𝑃𝐴12𝑄22−1𝐴12

⊤ 𝑃 + 𝑄11∗ = 0 (16)

よって,評価関数𝐽を最小にする解は,式(16)の正定対称な唯一解𝑃を用いて次式となる.

𝜏 = −𝑄22−1𝐴12

⊤ 𝑃𝜉1 (17)

式(13),(17)より,次式が成り立つ.

𝜉2 = 𝜏 − 𝑄22

−1𝑄12⊤ 𝜉1

= −𝑄22−1(𝐴12

⊤ 𝑃 + 𝑄22−1𝑄12

⊤ )𝜉1 (18)

よって,切換平面は次式となる.

𝜎 = (𝐴12⊤ 𝑃 + 𝑄22

−1𝑄12⊤ )𝜉1 + 𝑄22𝜉2 = 0 (19)

したがって,行列𝑆は次のように設計される.

𝑆 = [𝐴12⊤ 𝑃 + 𝑄22

−1𝑄12⊤ 𝑄22] (20)

ここで,SMCの安定性について次の命題が成り立つ. 【命題 1】 SMC入力により状態は切換超平面に対して漸近安定である

(証明) 𝑚 = 1として次のリアプノフ関数の候補を考える.

𝑉 =1

2𝜎1

2 ≥ 0 (21)

リアプノフ関数の候補(21)の時間微分は次式となる.

�̇� = 𝜎1𝜎1̇

= 𝜎1(𝑆𝜉̇)

= 𝜎1[𝑆(𝐴𝜉 + 𝐵𝑢)] = −𝑘1𝑆𝐵𝜎1sgn(𝜎1)

(22)

よって,𝑆𝐵 > 0のとき𝑘1 > 0,𝑆𝐵 < 0のとき𝑘1 < 0とすると,�̇� < 0となり,状態は切換超平面に対して漸近安定である. □

したがって,状態を安定な切換超平面に収束させ,システムを安定化させることができる.

2.3 MPC9)

次の状態方程式,初期値,評価関数を与える.

�̇�(𝑡) = 𝑓(𝑡, 𝑥(𝑡), 𝑢(𝑡)), 𝑥(𝑡0) = 𝑥0 ∈ ℝ𝑛 (23)

𝐽 = 𝐺(𝑥(𝑡1)) + ∫ 𝐿(𝑡, 𝑥(𝑡), 𝑢(𝑡))d𝑡𝑡1

𝑡0

(24)

最適制御問題とは,状態方程式および初期値(23)に対して制御区間[𝑡0, 𝑡1]内で評価関数(24)が最小となる制御入力𝑢∗(𝑡)および状態軌道𝑥∗(𝑡)を求めることである.

MPCはサンプリング時間ごとに最適制御問題を解き,最適入力を逐次適用する手法である.

2.4 外乱オブザーバ 7),8)

次の非線形システムを考える.

�̇�(𝑡) = 𝑓(𝑥) + 𝑔1(𝑥)𝑢 + 𝑔2(𝑥)𝑑 (25)

ここで,𝑥, 𝑢, 𝑑はそれぞれ状態変数,入力,外乱量である.また,外乱量は有界であり,次の条件を満たす.

limt→∞

�̇� = 0 (26)

ここで,外乱を状態変数とみなしたシステムを考える.

�̇� = 0

𝑦𝑑 = 𝑔2(𝑥)𝑑 = �̇�(𝑡) − 𝑓(𝑥) − 𝑔1(𝑥)𝑢 (27)

ここで,𝑦𝑑は外乱を状態変数とみなしたシステムの出力である.システム(27)に対して,次式の外乱オブザーバを設計する.

�̇̂� = 𝐿(𝑥)(𝑦𝑑 − �̂�𝑑)

= 𝐿(𝑥)(�̇�(𝑡) − 𝑓(𝑥) − 𝑔1(𝑥)𝑢 − 𝑔2(𝑥)�̂�)

�̂�𝑑 = 𝑔2(𝑥)�̂�

(28)

ここで,�̂�は外乱推定量,�̂�𝑑は外乱オブザーバ(28)の出力であり,𝐿(𝑥)はオブザーバゲインである.Fig. 2に外乱オブザーバ(28)のブロック線図を示す.

ここで,外乱オブザーバ(28)について次の命題が成り立つ.

【命題 2】 𝐿(𝑥)𝑔2(𝑥) > 0なるオブザーバゲイン𝐿(𝑥)を設計したとき,外乱推定量�̂�は外乱量𝑑に収束する. (証明) 推定誤差を次式で定義する.

𝑒 = 𝑑 − �̂� (29)

推定誤差の時間微分は次式となる.

�̇� = �̇� − �̇̂�

= −𝐿(𝑥)(𝑦𝑑

− �̂�𝑑)

= −𝐿(𝑥)𝑔2(𝑥)(𝑑 − �̂�)

= −𝐿(𝑥)𝑔2(𝑥)𝑒

(30)

したがって,𝐿(𝑥)𝑔2(𝑥) > 0のとき,推定誤差𝑒は原点に対して漸近安定である.すなわち,外乱推定量�̂�は外乱量𝑑に収束する. □

しかし,外乱オブザーバ(28)において,�̇�は利用できないため,次の補助変数を導入する.

𝑧 = �̂� − 𝑝 (31)

ただし,𝑝は次の条件を満たすように設計する.

𝐿 =𝜕𝑝

𝜕𝑥 (32)

このとき,�̇�を利用しないオブザーバは次式となる.

�̇� = �̇̂� − �̇� = 𝐿(𝑥)(�̇�(𝑡) − 𝑓(𝑥) − 𝑔1(𝑥)𝑢 − 𝑔2(𝑥)�̂�)

−𝜕𝑝

𝜕𝑥�̇�

= −𝐿(𝑥){𝑓(𝑥) + 𝑔1(𝑥)𝑢 + 𝑔

2(𝑥)(𝑧 + 𝑝)}

�̂� = 𝑧 + 𝑝

(33)

3 提案手法

3.1 外乱オブザーバの定式化

姿勢角に外乱が影響することを加味し,次の四輪車両の状態方程式を考える.

�̇�1 = 𝑥4 cos 𝑥3 �̇�2 = 𝑥4 sin 𝑥3

�̇�3 =𝑥4

𝑙tan 𝑢1 + 𝑥4𝑑

�̇�4 = 𝑢2

(34)

ここで,𝑑は有界な外乱であり,条件(26)を満たすとす

る.このとき,外乱の状態方程式は次式となる.

�̇� = 0

𝑦𝑑 = 𝑥4𝑑 = �̇�3 −𝑥4

𝑙tan 𝑢1

(35)

ここで,𝑦𝑑は外乱のシステムの出力である.命題 2より,オブザーバゲイン,補助変数を次式で定義する.

𝐿 = 𝑘𝑜𝑥4

𝑧 = �̂� − 𝑘𝑜𝑥3𝑥4 (36)

ただし,𝑘𝑜は正の定数である.このとき,外乱オブザーバは次式となる.

�̇� = −𝑘𝑜𝑥42 (

tan 𝑢1

𝑙+ 𝑧 + 𝑘𝑜𝑥3𝑥4) − 𝑘0𝑥3𝑢2

�̂� = 𝑧 + 𝑘0𝑥4𝑥3 (37)

3.2 入力設計

システム(34)に対して外乱オブザーバをもとにフラットネス理論を適用し線形化を行うと誤差システムは式(3)となり,外乱の影響を除去することができる.ただし,入力の変換式は外乱推定値�̂�を用いて次式となる.

𝑢1 = tan−1 {−𝑙 (

𝑣1 sin 𝑥3 − 𝑣2 cos 𝑥3

𝑥42 + �̂�)}

𝑢2 = 𝑣1 cos 𝑥3 + 𝑣2 sin 𝑥3

(38)

ここで,誤差システム(3)に対する入力�̅�1�̅�2,の設計方法について述べる.切換超平面への収束性の改善およびロバスト性の向上のために,MPCを用いたSMCが提案されている10).この手法では,到達モードにおいて切換超平面から離れているとき,すなわち|𝜎𝑖| > 𝛼𝑖のとき,次式の評価関数を最小にするMPCにより入力を求める.

𝐽 = 𝑥⊤𝑃𝑥 + ∫ (𝜎⊤𝜎 + 𝑢⊤𝑅𝑢)d𝑡𝑡1

𝑡0

(39)

状態が切換超平面近傍にあるとき,すなわち|𝜎𝑖| ≤ 𝛼𝑖

のとき,SMC入力を用いる.また,誤差システムは二つの2次元1入力のサブシステムとみなすことができ,命題 1より,SMC入力による誤差システムの安定化が達成される.

4 数値実験

四輪車両の自動駐車を想定して数値実験を行い,提案手法の有用性を検証した.提案手法では,まず参照軌道を設計し,その後追従制御系を設計することで駐車問題を軌道追従問題へ変換する.参照軌道および参照入力は非線形最適制御問題の数値解法アルゴリズムである REB アルゴリズム 11)により初期位置から駐車位置までの最適軌道を得た.軌道計画におけるシミュレーション条件を Table 1に示す.初期値を原点とし,指定の駐車位置へ向きを変えて駐車する設定とした.

Table 1: Parameters of trajectory planning

Wheel base 𝑙 = 0.25[m]

Initial state [0 0 0 0]

Parking state [4 −1.5𝜋

20]

Limit of steering 𝑢1𝑙𝑖𝑚 =35

180𝜋[rad]

Limit of

acceleration 𝑢2𝑙𝑖𝑚 = 6.0[m/s2]

Limit of velocity 𝑥4𝑙𝑖𝑚 = 2.7[m/s]

Fig. 2: Disturbance observer.

また,軌道追従制御におけるシミュレーション条件を Table 2に示す.前述の軌道設計の条件に対して,進行方向の初期値をずらしている.これは提案手法の追従性能を評価するためである.さらに車両の姿勢角には外乱を加え提案手法のロバスト性を検証した.

Fig. 3~Fig. 6にシミュレーション結果を示す.Fig. 3

は走行軌跡である.初期位置から設計された追従軌道に沿って駐車位置へ移動できていることがわかる.Fig.

4(a),(b),(c),(d)はそれぞれ𝑥1, 𝑥2, 𝑥3, 𝑥4の追従誤差の時刻歴である.これにより,提案手法のほうが従来手法に比べて追従誤差が小さく追従性能が良いことがわかる.とくに,Fig. 4(c)の姿勢角誤差をみると,従来手法では定常偏差が残っているのに対して,提案手法は外乱の影響を抑制し高いロバスト性を示していることがわかる.また,Fig. 5は外乱オブザーバの推定誤差の時刻歴である.これにより,外乱オブザーバの推定値は外乱量に収束していることがわかる.Fig. 6(a),(b)は入力の時刻歴であり,入力制約内での制御が行われていることがわかる.

Table 2: Parameters of tracking control

Initial state [0 0𝜋

60]

Initial condition of

observer

�̂�0 = 0 𝑧0 = 0

Parameters of

switching 𝛼1 = 𝛼2 = 0.3

Switching function 𝜎1 = 𝑒1 + 𝑒2 𝜎2 = 𝑒3 + 𝑒4

Weight matrix of

SMC 𝑄 = diag[1 1]

SMC gain 𝑘1 = 𝑘2 = 1

Observer gain 𝑘𝑜 = 20

Weight matrix of

MPC

𝑃 = [

14.4 16.3 0 016.3 20.7 0 0

0 0 14.4 16.30 0 16.3 20.7

]

𝑅 = diag[0.01 0.01]

Disturbance 𝑑 = 0.3[rad/m]

Fig. 3: Simulation results.

(a) Error of 𝑥1

(b) Error of 𝑥2

(c) Error of 𝑥3

(d) Error of 𝑥4

Fig. 4: Time history of state errors.

Fig. 5: Time history of estimation error.

(a) 𝑢1

(b) 𝑢2

Fig. 6: Time history of inputs.

5 結 言

本研究では,外乱オブザーバに基づいたフラットネス理論による線形化を行い,MPCと SMCを組み合わせた軌道追従制御系設計を提案した.数値実験から,提案手法によるロバスト性の向上が確認され,提案手法の有効性が示された.

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