epitaxy25). - jst
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338(2) 光学 第11巻 第4号(1982年8月)
解説
導 波 路 形 レ ン ズ
波多腰 玄 一
東京芝浦電気(株)総合研究所 〒210 神 奈川県川崎市幸区小向東芝町 1
(1982年6月12日 受理)
Waveguide Lenses
Gen-ichi HATAKOSHI
Research & Development Center, Tokyo Shibaura Electric Co., Ltd.,
1, Komukai Toshiba-cho, Saiwai-ku, Kawasaki-City 210
1. ま え が き
光 導波 路 を用 い た 光 信 号 処 理 に お い て 導 波 路 レ ン
ズ1~3)は 重 要 な素 子 の 一 つ で あ る.1968年Shubert,
Harris4)に よっ て集 積 光学 相 関 器 が提 案 され て お り,そ
の 中 です でに導 波 路形 の フー リエ変 換 レ ンズの概 念 図 が
示 され てい る.そ の後,光 導 波 路 の研 究 の発 展 に伴 な っ
て 様 々 な導 波路 レンズ が提 案 され研 究 され て きた.そ れ
らは1)モ ー ドイ ンデ ック ス レンズ(ル ネ ブ ル グ レンズ
を含 む),2)ジ オデ シ ック レンズ,3)グ レー テ ィン グ
レン ズの三 つ に大 別 され る.以 下 で はそ れ ぞれ の レンズ
に つ い て,こ れ ま で報告 され てい る例 を挙 げ,そ の原 理,
構 造,作 製 法 な どにつ いて述 べ る.な お 光導 波 路 レ ンズ
に つ い て は文献2)に 詳 し く解 説 さ れ てい る の でそ ち ら
も御 参照 頂 きた い.
2. モ ー ドイ ン デ ッ ク ス レ ン ズ
モ ー ドイ ンデ ックス(mode-index)レ ンズ5~13)は 屈折
率 の相 違 を利用 す る レン ズで,基 本 的 に は従 来 の レンズ
の 原理 をそ の ま ま導波 路 に適用 した もの で ある.Fig. 1
(a)は そ の一 例 を示 した もので,基 板,薄 膜,カ バ ー(こ
の場 合 は空 気)の 屈折 率 が それ ぞれn1 , n2, n3 (n2>
n1, n3)の 三 層 構 造 光 導 波 路 に,n2よ り高 い 屈 折 率
n'2を 持 つ 凸 レン ズの形 を した媒 質 を埋 め込 ん で,導 波
路形 の凸 レンズを形成 している.こ の ような光導波路内
を進む光 は図のZ方 向の境界条件 から決まる導波モー ド
として記述 され,そ の実効伝搬 定数 β(波 の伝搬方向の
位相定数)は 次式 を満たす14).
ββ2=kk20nn21+rr21=kk20nn22-kk22=kk20nn23+rr23 (1)
k2d-tan-1(α1r1/k2)-tan-1(α3r3/k2)
=mπ (2)
(m=0, 1, 2,……)
こ こでdは 膜厚,k0=2π/λ,λ は 光 の 波 長 で あ る.
またdj(j=1, 3)は 次 式 で 与 え られ る.
αj=1 (TEモ ー ド)
nn22/nn2j (TMモ ー ド)(3)
βとk0の 比N(≡ β/k0)は 導 波 光 に対 す る導 波 路 の 見
か け の屈折率 を表 わす 量 で,等 価 屈折 率 ま たは 実効 屈折
率 と呼 ばれ て いる.(1)式 か らわ か る よ うにNはn1, n3よ
り大 き く,n2よ り小 さい.
モ ー ド次数mが 同 じな らば,n2ま た はdが 大 き いほ
ど,実 効 屈折 率Nは 大 き な値 を とる.し た が ってn2を
変 化 させ るか わ りにFig. 1 (b)~(g)の よ うに膜 厚dを 変
え る こ とに よっ て もレ ンズ を形成 す る こ とが で き る.な
おFig. 1 (b), (c), (f)の型 の レンズ で は,導 波層 と レンズ
部 分 とで媒 質 が異 な る場 合 もあ る.
こ の よ うなモ ー ドイ ンデ ック ス レンズ は マ ス ク を通 し
ての蒸 着 またはスパ ッタ リン グ1,5~7,10),フ ォ トリソ グ ラ
導波路形 レンズ(波 多腰) 339(3)
Fig. 1 Typical mode-index lenses.
フ ィ8~10)な ど に よ って作 製 され る.従 来 の レン ズ と違
って,形 状 をマ ス クに よ りコ ン トロー ル で きる のは導 波
路 レ ンズの特 徴 の 一 つ で ある.収 差 の な い非球 面 レンズ
に相 当す るモ ー ドイ ンデ ックス レン ズ も考 え られ た8,11).
レ ンズ,プ リズ ムな ど数 種類 の素 子 を光 導 波路 上 に配
置 す る 方法 の一 つ と して,多 モ ー ド厚 膜導 波 路 に よ り各
素 子 を接 続 す るハ イブ リッ ド型 光 回路 が 考 え られ てい る.
Kerstenら12)は 厚 膜 感 光 プ ラス チ ック シ ー トを導 波路
に用 いて,フ ォ トリ ソグ ラフ ィによ り記録 され た パ ター
ン をエポ キ シ樹脂 で埋 め るこ とに よ り導 波路 レンズ を作
製 した.Ravetti13)は 導 波 路材 料 と して ガ ラ ス ペー ス ト
を用 い,ス ク リー ンプ リン ト法 によ り厚 膜導 波 路 レンズ
を作 製 した.
3. ル ネ ブ ル グ レ ン ズ
モ ー ドイ ンデ ックス レンズ の一 種 で球 面 収差 のな い も
の と してル ネ ブ ル グ(Luneburg)レ ンズ15~30)が あ る.こ
れ は 中心 対称 の屈 折 率 分布 を持 つ レンズ で,Fig. 2に
示 した よ うに二 つの 同心 円の一 方 の円 周上 の 点 を他 方 の
円 周上 の点 に 収差 な しに結 像 す る特性 を持 って い る.入
射 光 が平 面波 の場 合 す な わ ちFig. 2でs0=∞ と した場
合 の ル ネブ ル グ レン ズの 屈折 率 分布n(r)は 次 の よ うな積
分 方程 式 に よ り与 え られ る15,18).
n(r)=exp〔 ω(ρ,s)〕 (4)
(5)
ρ=n(r)r (6)
こ こでrは レンズ 中心 か らの距 離,sは 焦点 距 離 で いず
れ も レ ンズ半径 で規 格 化 した もの で あ る.ま たn(r)は レ
Fig. 2 Geometry of Luneburg lens.
ンズ の まわ りの媒 質 の 屈折 率 で規 格 化 され て お り,0≦
r<1で はn(r)>1, r=1(レ ン ズェ ッジ)でn(r)=
1と な る.
導波 路 ルネ ブ ル グ レン ズの構造 と して は,Fig. 3に
示 す よ うに,導 波 路上 に屈折 率 の高 い ドー ム状 の オー バ
ー レイ ヤ ー(ま たは ア ン ダー レイ ヤ ー)を つ け た もの が
一 般 に用 い られ てい る .こ の場合 に は(4)式 で与 え られ る
実 効屈折 率 の 分布 に対 応 させ て,レ ン ズ部 分 の膜 厚 分布
を決 めな けれ ば な らな い.(4)~(6)式 は一般 には解 析 的 に
解 け ない の で,数 値計 算 に よ り屈 折率 分布 お よび膜 厚 分
布 を求 める方 法 が と られ てい る18,27).
Fig. 3 Configuration of waveguide Luneburg lens.
レ ンズ部 分 の高 屈折 率層 の形成 方 法 と して,マ ス ク を
用 い た蒸 着3,24,29),シ ャ ドウマスクスパ ッタ リング16,21~23)
が ある.そ の際,望 み の膜 厚 分 布 を得 るた め に1)円 形
マ ス クを基 板 か ら離 して置 く20)〔Fig. 4(a)〕, 2)円 錐
340(4) 光 学 第11巻 第4号(1982年8月)
シ ャ ドウ マ ス ク を 用 い る16,21~23)〔Fig. 4(b), (c)〕, 3)
リ ン グ マ ス ク を 用 い る3,24)〔Fig. 4(d)〕, 4)基 板 お よ
び マ ス ク を 移 動 さ せ な が ら 多 段 階 に 蒸 着 す る29)〔Fig.
Fig. 4 Formation of Luneburg lens layer using (a) raised
circular mask20), (b) conical shadow mask16), (c)
two-conical-section mask21~23), (d) ring opening
mask3,24), (e) diaphragm with a variable-diameter
aperture on mobile stage29).
4(e)〕 な どの方 法 が とられ て い る.Yao, Andersonら21~23)
はFig. 4(c)の 方法 で マ ス クの 形 状 を 工 夫 す る こ とに よ
り回 折 制 限 レンズ を作 った.井 上 ら24,3)は 円 形 お よ び リ
ング状 の 開 口 を もつ二 種類 の マ ス ク を組 み 合 わ せ て用 い,
基 板 か らのそ れ ぞれ の距 離 に よ って蒸 着 され る膜 厚 分 布
を コン トロー ル した 〔Fig. 4(d)〕. Tsang25)はFig. 5
Fig. 5 GaAs Luneburg lens made by molecular beam
epitaxy25).
Table 1 Example of materials for mode-index lenses.
導波路形 レンズ(波 多腰) 341(5)
に 示 す よ うな シ リコ ンシ ャ ドウマ ス ク を用 いて,MBE
法 に よ りGaAs基 板 上 にAlxGa1-xAsの ル ネブ ル グ
レ ンズ を作成 した.
膜 厚 分布 に よ り実 効 屈折 率 を変 える 方法 の他 に,カ ル
コ ケナ イ ドガ ラス を レー ザ ー また は電 子 ビー ムで露 光 す
る こ とに よ り屈折 率 その もの を変 える作 製法 も報 告 され
て い る.Bykovskiiら29)はAs2Se5を レーザ ー蒸 着 に
よ りFig. 4(e)の 方 法 でつ け た後,He-Neレ ー ザ ー 光
を照射 す る こ と によ り最 終的 な屈 折率 分布 の補 正 を行 な
って い る.ま た藤 田 ら30)はAs2S3の 導 波 路 に電 子 ビー
ム直 接描 画 を行 ない,屈 折 率 分布 型 の ル ネブ ル グ レンズ
を作 製 した.
ル ネプ ル グ レンズ を含 め て一 般 に モ ー ドイ ンデ ックス
レンズ を作 製す るに は,基 板,導 波層,レ ンズ層 の三 種
類 の材 料 が 必 要 となる.こ れ まで報 告 され て い るモ ー ド
イ ンデ ック ス レンズの材 料 お よび作 製 法 をTable 1に ま
とめ た.表 中で括 弧 内は波 長633nmに 対す る屈 折 率 を
表 わす.な お これ らは文 献 に報 告 され てい る値 を記 した
もの で,作 製法 に よ って は異 な る こ とが あ る.
4. ジ オ デ シ ック レン ズ
平 行 曲面 を境界 とす る 導波 路 で は,光 は フ ェル マー の
原理 に従 い 曲面 に 沿 った 光路 長 が最 も短 くな る よ うな道
を進 む.こ の最 短 線 を曲 面 の測 地 線(geodesic)と い い,
光 の こ の よ うな性 質 を利 用 した レン ズ をジ オデ シ ッ ク レ
ン ズ31~59)と 呼 ぶ.
ジ オデ シ ック レン ズは基 板 に くぼみ(ま たは ドーム形)
を作 り,そ の 上 に導 波 層 をつ け るこ とに よ り作 製 され る.
こ こ で原理 を簡 単 に説 明 す る た めに,Fig. 6に 示 す よ
うな球 面 ジ オデ シ ック レンズ(く ぼ み が球 面 の一 部 か ら
成 る レンズ)を 考 える.Fig. 6(a)でx軸 に 平 行 に 入射
した光 線 が レ ンズ通過 後x軸 を横 切 る点 のx座 標 をfと
す る と32),
f/Rc=sinφ/sinψ (7)
こ こでRcは レ ンズ の半 径,φ は 光線 入 射位 置Pと レン
ズ中心0を 結 ぶ 直線 がx軸 とな す 角,ま た ψは レンズ通
過 後 の 光線 がx軸 となす 角 で あ る.光 線 の 出射 位 置 をQ
と し,<POQ=Δ とす る と次 の関係 が成 り立 つ.
ψ=2φ+Δ-π (8)
Δ と φとの 関係 が 求 まれ ば(7), (8)式 よ りfが φの 関数 と
して表 わ され る.レ ンズ の直径 お よびPQが 球 の 中心 に
対 して張 る角 をそ れ ぞれ2θ,α とす る と(Fig. (b)),
Fig. 6 Geometry of spherical geodesic lens.
球面三角の正弦,余 弦定理から,
Sinθ/Sinφ=Sinα/SinΔ (9)
cosα=coscos2θ+sinsin2θcosΔ (10)
(9), (10)式か ら α を 消 去 す る と,
cot(Δ/2)=tanφcosθ (11)
し た が っ て(7), (8), (11)式 よ り,
(12)
φ→0と す る と上式 は
f/Rc=1/〔2(1-cosθ)〕 (13)
(13)式は球 面 ジ オデ シ ック レン ズの近軸 で の焦点 距 離 を与
え る.
(12)式か らわ か る よ うに,焦 点 距離fは 入射 光射 の光軸
か らの距離(=Rcsinφ)に よ って変 わ る.こ れ は くぼ
み の形 状 を球 面 と した こ とに起 因 す る.こ の よ うな球 面
収 差 を補 正す るた め,1)エ ッジの 丸 め を 行 ない,そ の
曲 率 半径 とRcと の 比 を適 当 な値 に選 ぶ36,40)〔Fig. 7
(a)〕, 2)二 つ の球 面 を組 み 合 わ せ た 形 状 に す る39)
〔Fig. 7(b)〕, 3)球 面 ジ オ デ シ ッ ク レ ン ズ と モ ー ドイ ン
デ ッ ク ス レ ン ズ を組 み 合 わ せ る34,43,45)〔Fig. 7 (c),
(d), (e)〕 な ど の 方 法 が 考 え ら れ て い る.Fig. 7(c)は
342(6) 光 学 第11巻 第4号(1982年8月)
Fig. 7 Spherical aberration correction in geodesic lens. (a) edge-rounding36,40), (b) combination of two spherical surfaces39), (c) combination of mode- index and geodesic lens34), (d) corrector plate43), (e) overlay-corrected lens45), (f) spheroidal de- Pression37,58).
ー ドイ ンデ ッ クス レン ズ と球 面 ジオ デ シ ック レンズ とで
は球 面 収 差 の符 号 が逆 で あ る こ とを利 用 し た 方 法 であ
る34). Vahey43)はFig. 7(d)の よ うな補 正 板 を ジ オデ
シ ック レンズ とは別 の位 置 に設 け て収 差 を補 正 す る方 法
を検 討 した.Bettsら45)はFig. 7(e)に 示 さ れ る よ うに,
入射 エ ッ ジがx=a0+a1y+… …+anynで 表 わ さ
れ る オ ーバ ー レイ型 の レ ンズ を考 え,収 差 を補 正す る た
め の係 数ajの 値 を計 算 した.
一 方,球 面 収 差 を生 じな い非球 面 ジオ デ シ ッ ク レンズ
に つ い て も,そ の形 状 の 計算 に関 してい ろ い ろな取 り扱
い が な され てい る40,44,46~52). Vahey, Wood37)お よ び
Myer, Ramer58)は 理 想 的 な非 球 面 の代 わ りに回 転 楕 円体
面 を考 え 〔Fig. 7(f)〕,そ の場 合 の 収 差 に つ い て 検 討
した.
ジ オデ シ ック レンズに用 い られ て い る導 波 路材 料 と し
て は,Ti/Li NbO341), 7059ガ ラ ス1,34),ポ リウ レ
タ ン42,52), silicon oxynitride34),ア ク リル樹 脂38),エ ポ
キ シ樹脂48)な どの例 が報 告 され てい る.Chenら41,42,52)
は ポ リウ レタ ン導波 路 お よ びTi/Li NbO3導 波 路 を用
い てス ポ ッ ト半値 幅 が それ ぞ れ1.8μmお よび3μmに
絞 れ る非 球面 ジ オデ シ ック レンズ を作 製 した.
一 般 に非 球 面 の加 工 は球 面 の場 合 に 比べ て難 しい.非
球 面 の くぼ み の形 成 方 法 と しては1)超 音 波 衝 撃 加 工 法,
2)ダ イヤ モ ン ド回転 加 工 法,3)ダ イヤモ ン ドジ ェネ レー
テ ィ ング な どが あ る52). Lilienhofら59)は 合成 黒 鉛 で非
球 面 の型 を作 り,ガ ラス基 板 を軟 化 点 以 上 に熱 して高圧
窒素 で型 に押 し付 ける こ と に よ り曲面 を形成 した.
特 殊 な作 製法 に よる レン ズ と して,シ リコンの 異 方性
エ ッチ ン グ を利 用 したFig. 8の よ うな形 状 の ジ オデ シ
ッ ク レン ズ53),弾 性 ゴム導 波 路 を用 い て圧 搾 空気 で形 状
を コン トロー ルす る こ とに よ り焦 点距 離 を変 え られ る ジ
オ デ シ ッ ク レンズ57)が 報 告 され て い る.
Fig. 8 Anisotropically etched geodesic lens53).
5. グ レー テ ィ ン グ レ ン ズ
光 導 波 路 レ ンズの研 究 の 初期 にShubert, Harris5)に よ
って導 波 路 上 の フ レネ ル ゾー ン レ ンズが 提案 され て い る .
またKenanら60)は グ レー テ ィ ン グ利 用 の光 導 波 路素 子
と して,光 ス イ ッチ,変 調 器 な ど と共 に グ レー テ ィ ン グ
レ ンズ を挙 げ てい る.
グ レーテ ィ ング レンズ は一 種 の ホ ログ ラム と考 える こ
とが で き,"薄 いホ ログ ラム"に 対 応 す る フ レネ ル ゾー
ン型61~63)と"厚 い ホ ログ ラム"に 対 応 す る ブ ラ ッ グ
型64~71)と が あ る.い まFig. 9に 示 す よ うに,導 波 路
上 をx方 向 に伝 搬 す る導 波 平 面波 を,原 点0に 収 束 す る
導波 円筒 波 に変 換 す る グ レー テ ィ ング レン ズ を考 え る.
こ の二 つ の波 の位 相 差 Ω はx, yの 関 数 と して 次 式 で
表 わ され る.
Ω(x,y)=β{√xx2+yy2+x} (14)
ここでβはα)式で与 えられ る導波光の実効伝搬定数 であ
る.レ ンズの位置 をx=-fと する とそこでのΩは
Ω(y)=β{√yy2+ff2-f} (15)
導波路形 レンズ(波 多腰) 343(7)
グ レー テ ィン グ レ ンズは,屈 折 率 がcosΩ に比 例 して変
化 してい る よ うな構 造 の もの と考 える こ とが で きる.Ω
と して(15)式を用 い た ものは一 次元 化 した フ レネ ル ゾー ン
プ レー トに相 当す る.ま た レ ンズの 厚 さ方 向 ま で考慮 し
た もの がブ ラ ッグ型 で,そ の場 合 のΩ は(14)式で与 え られ
る.
ブ ラ ッ グ型 グ レー テ ィ ング レンズ の格 子線(Ω=2m
πの 曲線)はFig. 9に 示 した よ うに0を 焦 点 と す る放
物 線群 とな る.x方 向 に進 む導 波 平面 波 が こ の レンズに
入 射 す る とブ ラ ッグ回折 が 起 こ り,0に 収 束 す る光 が生
ず る.ブ ラ ッ グ型 で は レンズ の厚 さLを 適 当 に選 ぶ こ と
に よ り,原 理 的 に は100%の 回折 効 率 を得 る こ とが で き
る.た だ しブ ラ ッグ回折 なの で,効 率 は入 射 角 に強 く依
存 し,ブ ラ ッグ角 か らずれ る と回折 光 強度 は 急激 に減 少
す る.
Fig. 9 Grating lens focusing a plane guided wave to a
point 0.
一方 フレネルゾー ン型の場合は,入 射角が多小変化 し
て も回折光強度はあま り変わ らない.し か し0に 収束す
る光の他に,0次 光(回 折 せずに透過する光),-1次
光(レ ンズに対 して0と 反対側の点から発散す る光)お
よびその他の高次回折光が生ずるので効率は低い.
Fig. 10に フ ルネ ル ゾー ン型 お よび ブ ラ ッ ク型 グ レー
テ ィ ン グ レンズ の構 造 を模 式 的 に示 した.実 際 の作 製 で
は この図 の よ うにバ イ ナ リーパ タ ー ンが用 い られ てい る.
い まFig. 11の よ うな断 面構 造 のブ ラ ッグ レ ンズ を考
え,レ ンズ領 域 で の膜厚h(x, y)が 次式 で与 え られ る
とす る.
h(x,y)=d-Δd1… …Ω(x y)<0の 領 域
d+Δd2…… Ω(x y)>0の 領 域
(16)
Fig. 10 Schematic of waveguide grating lenses. (a) Fresnel-
zone type, (b) Bragg type.
Fig. 11 Configuration of Bragg lens.
こ こでdは グ レーテ ィン グの ない領 域 で の膜 厚 で ある.
この とき グ レー テ ィ ン グ レンズ領 域 で の屈折 率n(x,
y, z)は 次式 に よ り与 え られ る69,71)
nn2(x,y,z,)=
……d-Δd1<z<d+Δd2n
n20(z)… … そ の 他 (17)
ここ でn0(z)は グ レーテ ィン グの ない 領 域 で の屈 折 率
で,z<0, 0<z<d, z>dに 対 してそれ ぞ れn1,
n2, n3の 値 を とる.
(17)式中 のcosΩ(x, y)の 項 がブ ラ ッグ回折 に寄 与 す る
項 とな る.グ レー テ ィ ング レンズに お け る導 波 光 の 回折
は結 合 モ ー ド理 論 に よ り取 扱 われ る68~73).筆 者68,69)
は ブ ラ ッグ レン ズ領 域 に お ける電 場 ベ ク トルEが,入
射 平 面波 お よ び回折 円筒波 の電場 ベ ク トルEp, Ecを
用 い て,
E=R(x,y)Ep+S(x,y)Ec (18)
の 形 で 記 述 され る と仮 定 し,マ ク ス ウェル の 方 程 式 に
代 入 す る こ とに よ り,R, Sに 関 す る結 合 モ ー ド方程 式
344(8) 光 学 第11巻 第4号(1982年8月)
を導 いた.そ の方 程式 中 に現 われ る結 合 係数 を計算 す る
際 に(17)式で与 えたn(x, y, z)の 表 式 が使 われ る.
グ レー テ ィン グ レンズ は フ ォ ト リソグ ラフ ィ65,67),
電 子線 リソグラフ ィ61,64)な どに よ り作 製 さ れ る.筆 者
ら64,67)は パ イ レ ックス ガ ラス基 板 上 に コーニング7059
ガ ラス をRFス パ ッタ した導 波 路 を用い て,上 に述 べ た
二 つ の方 法 でパ ター ン を記録 し,最 終 的 に導 波 路 を化 学
エ ッチ ン グす る ことに よ って ブ ラ ッ グ型 グ レーテ ィン グ
レ ンズ を作 製 した.Ashley, Chang61,62)は 電 子 線 リ ソグ
ラ フ ィお よ び リフ トオ フの手 法 を用 い てBaO導 波 路 上
にCeOの フ レネ ル ゾー ンパ ター ンを作 っ た.Yaoら65)
お よ びLeeら66)は フ ォトリソグラフ ィ とプ ラズ マ エ ッチ
ン グに よ りブ ラ ッグ型 グ レー テ ィ ン グ レンズ を作製 した.
Mottierら63)はLPCVD(減 圧CVD)に よ り作 製 し た
Si3N4導 波 路 上 にSiO2の フ レネ ル ゾー ンパ ター ンを形
成 し,レ ンズ領 域 で の実 効 屈折 率変 化 が再 現性 良 く得 ら
れ る こ とを示 してい る.
Fig. 10に 示 した グ レーテ ィン グ レン ズ以 外 に,Fig.
12の よ うな構 造 の もの も報 告 され てい る.小 林 ら74)は
As2S3膜 の 導 波 路 に 電子 線 直接 描 画 を行 な うこ と に よ
Fig. 2 Waveguide Fresnel lenses of cominuous phase
shift. (a) graded-index type74), (b) analogue Frenel lens type75).
り屈 折 率分 布 型 の フ レネル レン ズ を作 製 した 〔Fig. 12
(a)〕. Valetteら75)はSi3N4導 波 路 上 にFig. 12(b)の よ
うな フ レネル レンズ を作 った.ま た電 気 光学 効 果 を用 い
た"ア クテ ィブ"な グ レー テ ィング レンズ も報 告 され て
い る76,77).
6. 光導波路 レンズ応用デバ イス
最 初 に述 べ た よ うに,導 波 路 レンズは 光信 号 処理 にお
いて重 要 な 役割 を果 たす 素子 で,フ ー リエ変 換,相 関 演
算,コ ンボ ル ー シ ョンな どへ の 応 用 が 考 え ら れ て い
る4,78).具 体的 なデ バ イス へ の応 用 と して は フー リェ変
換 を利用 した光 スペ ク トラム アナ ライ ザー が あ り,各 種
の導波 路 レンズ を使用 した例 が報 告 され て い る77~86).
このよ うな導波路応用デバ イスに関 しては文献78),
84)に 解説 され てお り,参考文献 も多 く挙げ られている
ので,詳 しくはそちらを御参照頂 きたい.
7. あ と が き
モー ドインデ ックス,ジ オデシ ックおよび グレーティ
ングレンズについて,文 献 に報告 され ている例を中心に
述べた.こ こで紹介 したよ うに,導 波路お よび導波路 レ
ンズは様々な作製法が考 えられている.実 際のデパ ィス
へ応用する場合 には,目 的 に合った作製法の選択が必要
となるであろう.
本稿 の執筆にあた り,資 料,文 献 リス トの一部 を御提
供頂き,ま た御助言 を頂いた東京大学工学部 田中俊一 教
授 に感謝致 します.
文 献
1) D.B. Anderson, R.L. Davis, J.T. Boyd and R.R.
August: IEEE J. Quantum Electron., QE-13 (1977)
275.
2) 田 中 俊 一;応 用 物 理,48 (1979) 241.
3) G. Hatakoshi, H. Inoue, K. Naito, S. Umegaki and S.
Tanaka: Opt. Acta, 26 (1979) 961.
4) R. Shubert and J.H. Harris: IEEE Trans. Microwave
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5) R. Shubert and J.H. Harris: J. Opt. Soc. Am., 61
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6) R. Ulrich and R.J. Martin: Appl. Opt., 10 (1971)
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7) P.K. Tien, S. Riva-Sanseverino, R.J. Martin and G.
Smolinsky: Appl. Phys. Lett., 24 (1974) 547.
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