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TRAVEL JOURNAL 2017.2.27 TRAVEL JOURNAL 2017.2.27 22 23 JNTOSEMINAR 外客攻略のヒント JNTO発 外客攻略のヒント ※日本はアメリカやアフリカなどとともに「長距離方面」に分類される 来場者でにぎわうCMT 日本ブース ドイツ人の休暇旅行動向(15年) (単位:100万人) 行き先 長距離方面 5.6 5.0 4.8 5.3 5.0 4.5 クロアチア 2.2 2.1 1.9 2.3 2.0 2.0 トルコ 5.0 5.3 5.2 5.0 5.0 4.9 イタリア 5.7 5.4 5.7 5.5 5.8 5.3 地中海 25.5 24.4 24.7 25.4 24.3 24.8 ギリシャ 2.0 1.6 1.8 2.0 1.3 1.7 オーストリア 3.7 4.2 3.6 3.5 3.8 3.6 スペイン その他 9.1 23.6 8.9 24.8 8.6 23.2 9.5 23.4 9.0 23.6 9.0 23.2 国内 20.0 21.5 21.7 21.4 21.5 21.5 14 12 10 15年 13 11 17年が明けて第2土曜となる1月14日、ドイツ南 西部の主要都市シュツットガルトで「CMT The Holiday Exhibition(CMT)」が開幕した。9日間 の会期中に20万人以上が来場する欧州最大の一般 消費者向け旅行博である。これを皮切りに、ドイ ツでは各地で旅行博が開催される。新年早々から 旅行博が開催され、多くの人が集まる理由は、ド イツの年度が1月から始まり、職場内でバケーショ ン休暇の調整が始まるからである。ドイツ人の休暇 は最低2週間から1カ月単位と日本の基準からする と極めて長く、事前に休暇の調整が必要となる。 ドイツに限らず、オーストリアや北欧諸国でもこの 時期に旅行博が開催されるのは同じ理由だ。 ドイツ人は、世界で最も旅行好きの国民といわ れている。15年の旅行統計によると、6920万人い る14歳以上のドイツ人の外国への休暇旅行回数は 年間6910万人回。全員が年に1回は外国へ休暇旅 行をしている計算になる。さらに休暇旅行とは5日 以上の旅行を指し、それより短い旅行はショート ブレイクと分類され、休暇とは別物と考えられてい ることにも注目すべきだ( 15年のショートブレイク は8490万人回でドイツ国内が75%)。 また、ドイツも日本と同様に人口減少が見込ま れており、旅行市場の単純な拡大は難しい。ただ、 欧州外への長距離旅行はここ数年順調に増加し、 この傾向はこれからも継続すると見られている。 そのような状況のなか、今年の CMT では全般的 な高い旅行意欲は昨年と同様ながら、日本への具 体的な訪問希望が高まっていることを感じた。昨 クルーズでの訪日旅行者も昨年に比べて格段に 増加している。すでに来年秋の訪日クルーズを予約 し、寄港地情報を入手しにCMTに来場したシニ アカップルによると、「日本行きは人気が高く、す ぐに一杯になる」とのことだ。訪問地ではオプショ ナルツアーもあるが、彼らは「オプションは団体行 動で価格が高い。せっかくなので自分の足でその土 地の雰囲気に浸りたい」と話す。ドイツ人旅行者の 多様な志向と倹約ぶりがうかがえる。 訪日ドイツ人は、FIT 旅行者が圧倒的に多いが、 それだけに事前の情報収集には余念がない。クルー ズ旅客の寄港地での1日ツアーのほか、「日本の庭 園を見て回りたい」「国立公園に行きたい」といっ たさまざまな要望が寄せられてきている。ただ、現 在販売されている訪日旅行商品は代表的な観光地 を巡る周遊型が多くを占めている。最近でこそ、 先に挙げた北海道や沖縄の商品も販売されるよう になったが、基本は追加オプション扱いで、ドイツ 人個々の要望に必ずしも合致した商品構成とはな っていない。日本国内では、 JTBのサンライズツアー が国内発のツアーとして有名で、テーマ性のあるツ アーなど年々プログラムを拡充している。ただそれ でも、東京や京都など主要観光地発着商品が中心 で、地方発着の商品や地方のみに関心のある旅行 者は自分でアレンジをしなければならない。 日本では、テーマ別や方面別など多種多様な旅 行商品が販売されている。これらは外国人旅行者 の利用は想定されていなかったが、あまり手間をか けずとも外国人も利用できるのではないだろうか。 また、各地で設立されている地域DMOでは、地 域の魅力を紹介した着地型旅行商品の開発に力を 入れていると聞いている。外国人旅行者向けの商 品が開発・販売されることにも期待したい。 一方で、商品開発の先にある流通は一番の課題 である。現在は誰でもネットを通じて簡単に予約で きるが、最近、当事務所には「メールを送っても返 事がない」「英語サイトがあっても英語予約ができ ない」といった苦情も寄せられる。せっかくの商品 もこれでは販路を見いだせない。 また、日本は情報の得やすい近隣ヨーロッパ諸 国への旅行と異なるため、ドイツでは訪日旅行にお ける旅行代理店の利用は一定以上の割合がある。 このような背景もあり、今まで訪日旅行はグループ しか扱っていなかった大手の DERTOUR(デアツ アー)では、 17年シーズンから FIT への対応を強化。 ホテル予約だけでなく、東京3泊4日や富士登山な どの着地型商品のほか、ジャパン・レールパスの販 売も開始したと聞いている。同社は、自前店舗を 含めドイツ全国に9000以上の旅行代理店と契約が あり、その販売網は強力である。そのほかの大手 オペレーターも国内の契約代理店を活用して営業 しており、ドイツで販路を広げたいのであればこの ネットワークを利用することが効果的である。 フランクフルト事務所では、現地の旅行博を通じ た消費者への情報発信だけでなく、ツアーオペレー ターへの情報発信も行っており、最近では後者へ の対応も増加している。現地旅行業界にアプロー チできる JNTO の機能を、各地の着地型商品のマー ケティングに活用してもらいたい。 年までは「いつかは行ってみたいから」といった将 来のための情報収集が多かったが、今回は「今年・ 来年に行く」という来場者が非常に多く、地名を 出して行き方を聞くなど具体的な質問も多かった ため、1人当たりの対応時間も長くなった。共同出 展した日系の旅行会社では、すでに数件成約した との報告もある。これまでの訪日旅行は、旅行博 で情報収集した後、半年程度をかけてじっくり吟 味して決めるものだったが、今やドイツ人にとって ずっと身近になってきたことを実感できる。 なかでも照会が多かった地域が北海道と沖縄だ。 北海道はスキーと手つかずの自然、沖縄はドイツ人 の一番の休暇目的であるビーチリゾートのイメージ を求めてというものである。大自然との触れ合いや 体験に対する関心が高いこともうかがい知れた。こ の2地域がドイツ人の関心を集める理由は、地道な がら継続的なプロモーションの成果としてドイツ人 に知られるようになったこと。そしてその結果とし て大手オペレーターが商品化し、カタログに掲載さ れるようになったことが大きい。 ドイツでは、例年11月ごろに各旅行会社が翌年 の総合ツアーカタログを作成。全国の旅行代理店 を通じて旅行者に配布する。部数は各社とも数万 ~10数万部で、最低100~200ページの厚さには 驚かされる。これらは各家庭に1年間置かれるため、 家で何度も読み返されて知名度の向上に貢献する。 幸いなことに、訪日客の増加で各社の訪日商品ペー ジも増えており、日本の露出も増加するといった好 循環が生まれている。 高まる期待と不足する商品流通 日本に比べて休暇が長いドイツ。 長距離方面への需要拡大を追い風に訪日旅行への関心も年々高まっている。 ただ、多様性や体験を求めるドイツ人旅行者を誘致するには、 現地の流通事情を踏まえた商品展開が鍵となりそうだ。 vol.59 現地の業界ネットワーク活用へ 国内の現地発着ツアーの不足 大野金幸 フランクフルト事務所長 (次回は3月27日号に掲載します)

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Page 1: SEMINAR JNTO発 外客攻略のヒント外客攻略のヒント JNTO発 外客攻略のヒント 来場者でにぎわうCMT日本ブース ※日本はアメリカやアフリカなどとともに「長距離方面」に分類される

TRAVEL JOURNAL 2017.2.27 TRAVEL JOURNAL 2017.2.2722 23

JNTO発SEMINAR

外客攻略のヒント

JNTO発 外客攻略のヒント

※日本はアメリカやアフリカなどとともに「長距離方面」に分類される来場者でにぎわうCMT日本ブース

●ドイツ人の休暇旅行動向(15年)(単位:100万人)行き先

長距離方面 5.65.04.8 5.35.04.5

クロアチア 2.22.11.9 2.32.02.0

トルコ 5.05.35.2 5.05.04.9

イタリア 5.75.45.7 5.55.85.3

地中海 25.524.424.7 25.424.324.8

ギリシャ 2.01.61.8 2.01.31.7

オーストリア 3.74.23.6 3.53.83.6

スペイン

その他

9.1

23.6

8.9

24.8

8.6

23.2

9.5

23.4

9.0

23.6

9.0

23.2

国内 20.021.521.7 21.421.521.5

141210 15年1311

 17年が明けて第2土曜となる1月14日、ドイツ南西部の主要都市シュツットガルトで「CMT The Holiday Exhibition(CMT)」が開幕した。9日間の会期中に20万人以上が来場する欧州最大の一般消費者向け旅行博である。これを皮切りに、ドイツでは各地で旅行博が開催される。新年早々から旅行博が開催され、多くの人が集まる理由は、ドイツの年度が1月から始まり、職場内でバケーション休暇の調整が始まるからである。ドイツ人の休暇は最低2週間から1カ月単位と日本の基準からすると極めて長く、事前に休暇の調整が必要となる。ドイツに限らず、オーストリアや北欧諸国でもこの時期に旅行博が開催されるのは同じ理由だ。 ドイツ人は、世界で最も旅行好きの国民といわれている。15年の旅行統計によると、6920万人いる14歳以上のドイツ人の外国への休暇旅行回数は年間6910万人回。全員が年に1回は外国へ休暇旅行をしている計算になる。さらに休暇旅行とは5日以上の旅行を指し、それより短い旅行はショートブレイクと分類され、休暇とは別物と考えられていることにも注目すべきだ(15年のショートブレイクは8490万人回でドイツ国内が75%)。 また、ドイツも日本と同様に人口減少が見込まれており、旅行市場の単純な拡大は難しい。ただ、欧州外への長距離旅行はここ数年順調に増加し、この傾向はこれからも継続すると見られている。 そのような状況のなか、今年のCMTでは全般的な高い旅行意欲は昨年と同様ながら、日本への具体的な訪問希望が高まっていることを感じた。昨

 クルーズでの訪日旅行者も昨年に比べて格段に増加している。すでに来年秋の訪日クルーズを予約し、寄港地情報を入手しにCMTに来場したシニアカップルによると、「日本行きは人気が高く、すぐに一杯になる」とのことだ。訪問地ではオプショナルツアーもあるが、彼らは「オプションは団体行動で価格が高い。せっかくなので自分の足でその土地の雰囲気に浸りたい」と話す。ドイツ人旅行者の多様な志向と倹約ぶりがうかがえる。 訪日ドイツ人は、FIT旅行者が圧倒的に多いが、それだけに事前の情報収集には余念がない。クルーズ旅客の寄港地での1日ツアーのほか、「日本の庭園を見て回りたい」「国立公園に行きたい」といったさまざまな要望が寄せられてきている。ただ、現在販売されている訪日旅行商品は代表的な観光地を巡る周遊型が多くを占めている。最近でこそ、先に挙げた北海道や沖縄の商品も販売されるようになったが、基本は追加オプション扱いで、ドイツ人個々の要望に必ずしも合致した商品構成とはなっていない。日本国内では、JTBのサンライズツアーが国内発のツアーとして有名で、テーマ性のあるツアーなど年々プログラムを拡充している。ただそれでも、東京や京都など主要観光地発着商品が中心で、地方発着の商品や地方のみに関心のある旅行者は自分でアレンジをしなければならない。 日本では、テーマ別や方面別など多種多様な旅行商品が販売されている。これらは外国人旅行者の利用は想定されていなかったが、あまり手間をかけずとも外国人も利用できるのではないだろうか。また、各地で設立されている地域DMOでは、地

域の魅力を紹介した着地型旅行商品の開発に力を入れていると聞いている。外国人旅行者向けの商品が開発・販売されることにも期待したい。

 一方で、商品開発の先にある流通は一番の課題である。現在は誰でもネットを通じて簡単に予約できるが、最近、当事務所には「メールを送っても返事がない」「英語サイトがあっても英語予約ができない」といった苦情も寄せられる。せっかくの商品もこれでは販路を見いだせない。 また、日本は情報の得やすい近隣ヨーロッパ諸国への旅行と異なるため、ドイツでは訪日旅行における旅行代理店の利用は一定以上の割合がある。このような背景もあり、今まで訪日旅行はグループしか扱っていなかった大手のDERTOUR(デアツアー)では、17年シーズンからFITへの対応を強化。ホテル予約だけでなく、東京3泊4日や富士登山などの着地型商品のほか、ジャパン・レールパスの販売も開始したと聞いている。同社は、自前店舗を含めドイツ全国に9000以上の旅行代理店と契約があり、その販売網は強力である。そのほかの大手オペレーターも国内の契約代理店を活用して営業しており、ドイツで販路を広げたいのであればこのネットワークを利用することが効果的である。 フランクフルト事務所では、現地の旅行博を通じた消費者への情報発信だけでなく、ツアーオペレーターへの情報発信も行っており、最近では後者への対応も増加している。現地旅行業界にアプローチできるJNTOの機能を、各地の着地型商品のマーケティングに活用してもらいたい。

年までは「いつかは行ってみたいから」といった将来のための情報収集が多かったが、今回は「今年・来年に行く」という来場者が非常に多く、地名を出して行き方を聞くなど具体的な質問も多かったため、1人当たりの対応時間も長くなった。共同出展した日系の旅行会社では、すでに数件成約したとの報告もある。これまでの訪日旅行は、旅行博で情報収集した後、半年程度をかけてじっくり吟味して決めるものだったが、今やドイツ人にとってずっと身近になってきたことを実感できる。 なかでも照会が多かった地域が北海道と沖縄だ。北海道はスキーと手つかずの自然、沖縄はドイツ人の一番の休暇目的であるビーチリゾートのイメージを求めてというものである。大自然との触れ合いや体験に対する関心が高いこともうかがい知れた。この2地域がドイツ人の関心を集める理由は、地道ながら継続的なプロモーションの成果としてドイツ人に知られるようになったこと。そしてその結果として大手オペレーターが商品化し、カタログに掲載されるようになったことが大きい。 ドイツでは、例年11月ごろに各旅行会社が翌年の総合ツアーカタログを作成。全国の旅行代理店を通じて旅行者に配布する。部数は各社とも数万~10数万部で、最低100~200ページの厚さには驚かされる。これらは各家庭に1年間置かれるため、家で何度も読み返されて知名度の向上に貢献する。幸いなことに、訪日客の増加で各社の訪日商品ページも増えており、日本の露出も増加するといった好循環が生まれている。

高まる期待と不足する商品流通日本に比べて休暇が長いドイツ。長距離方面への需要拡大を追い風に訪日旅行への関心も年々高まっている。ただ、多様性や体験を求めるドイツ人旅行者を誘致するには、現地の流通事情を踏まえた商品展開が鍵となりそうだ。

vol.59

現地の業界ネットワーク活用へ

国内の現地発着ツアーの不足

大野金幸 フランクフルト事務所長

(次回は3月27日号に掲載します)