iv 熱力学第2法則 iv-1 可逆過程 平衡状態、準 ... - …iv 熱力学第2法則 iv-1...
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IV熱力学第 2 法則
IV-1可逆過程
平衡状態、準静的過程、可逆過程
ここで、II-2 で説明した、熱平衡状態、準静的過程、可逆過程の復習をしま
す。これらは、理想気体単体ではなく、外部との熱や仕事のやりとりが関係す
る概念です。すでに習った内容ですが、これからのこの章の説明で重要になり
ます。
【熱平衡状態】系 A と B を接触させたが、熱エネルギーの移動がない状態で
落ち着いた時、「系 A と B は熱平衡状態にある」と言います。つまりは同じ温度
ということです。これは変化のない静的状態です。
【準静的過程】実質的に平衡状態が保たれるように十分ゆっくり変化させる
過程です。これは、系の温度差やピストンの速度をゼロに近づけた極限と考え
てよいでしょう。時間当たりの熱の移動と仕事量(仕事率)はゼロに近づきま
す。しかし、熱エネルギーや仕事はこれらの時間積分なので一定値です。変化
に要する時間が無限大に近づく、仮想的「ゆっくり」なのです。準静的状態で
は温度差なしで熱の移動を考え、ピストンはシリンダー内の気体と外気の圧力
差がなくて移動します(ピストンの運動エネルギーがゼロ)。
【可逆過程】気体の状態を元に戻すことができる過程です。準静的過程であ
れば可逆過程になります。以下で述べていく定温圧縮と膨張、さらに断熱圧縮
と膨張は可逆過程です。これに対して不可逆過程は、大きな温度差のある系で
の熱の移動です。外部からの働きかけなしに、温度差を戻すことはできません。
V—p 図
物質量(モル数 n)が変化しないならば、気体の状態は3つの状態量 p, V, T
のうちの 2 つで決まり、従って状態変化は2つの状態量の変化で表現できます。
この2つを p と V にとり、変化過程を図で表現するのが V-p 図です。
V—p 図で元の状態に戻る変化は、仕事(力学
エネルギー)を熱エネルギーに変える、あるい
はその逆のプロセスを表します。変化の過程を
表す軌跡は閉じた形になり、その面積が仕事(力
学的エネルギーの移動)になります。図のよう
に右回りであれば W<0 なので、外部から熱エネ
ルギーを得て、外部に同じ量の力学的エネルギ
ーを出して元の状態に戻ります。
この章では、定温過程(ΔT=0;W+Q=0)と断熱
過程(Q=0)の、2つの変化を考えます。どのよ
うな変化も、この2つの合成で再現できます。
原理的には定圧過程(Δp=0)や定積過程(ΔV=0;
W=0)でも良いのですが、定温過程と断熱過程で
考えると便利です。次節では定温過程と断熱過
程の2種類で閉じた過程を構成します。
V
PT
�W
V
PT
IV-2カルノーサイクル
定温過程
気体の入ったシリンダーを恒温槽に入れ、ピストン
をゆっくり引っ張る過程は定温膨張です。温度が一定
なので内部エネルギーは変わりません。ピストンが動
いたことで気体は外部に仕事 W をしますが、同量の
熱 Q が恒温槽から流入して温度が一定に保たれます。
つまり Q+W=0 です。
最初の状態を A とし、この時の状態量を pA, VA, TA とします。ここで TA を一定
に保って圧力と体積を pB と VB にします。V-p 図では下図のような pV=一定の曲
線が軌跡になり、気体が受けた仕事は積分
W= –∫pdV
で与えられます。これを計算すると
W= –∫(nRTA /V)dV
= nRTA(lnVA –lnVB) (4.2.1a)
= nRTA ln(VA /VB) (4.2.1b)
になります。
PV=nRT�
piston
pull�dx�
constant temperature�
T=TA PV=constant
V
P
–W=Q A
B
Q= nRTA ln(VA/VB)
断熱膨張
図のようにシリンダーを断熱ジャケットに入れ、ピ
ストンを引いて体積を増やす過程が断熱膨張です。こ
こでは状態 B から状態 C に変えた(状態量を pC, VC, TC)
とします。熱エネルギーの出入りが無く、外部に仕事
をするので気体の温度は下がります。
この過程で p, V, T がどのように変
化するかを計算しましょう。Q=0 なの
で、内部エネルギー変化は仕事 W=–
pdV だけになり、
dU= –pdV (4.2.2)
です。左辺に式(3.3.1) dU = (f /2) nRdT
を代入すると
–pdV = (f /2) nRdT (4.2.3)
になります。更に p=nRT/Vを代入して整理すると体積変化と温度変化の関係式
–dV/V = (f /2) dT/T (4.2.4)
が得られます。この両辺を状態 B から定積分すると
–(lnV –lnVB) = (f /2) (lnT – lnTB)
となります。この式を変形すると体積と温度変化の関係式になります。
(T/ TB) =(V/ VB)–1/(f/2) (4.2.5)
圧力変化の計算は、状態方程式の変分 pdV+Vdp=nRdT に式(4.2.3)を代入して進
めます。
Vdp= (f /2+1) nRdT (4.2.6)
後は式(4.2.3)から式(4.2.5)を導いたのと同じ手順で下式を得ます。
(T/ TB) =(p/ pB) 1/(f /2+1) (4.2.7)
最後に p と V の関係も見ましょう。式(4.2.3)と(4.2.6)から
–(dV/V)/(f /2) =(dp/p)/(f /2+1) (4.2.8)
PV=nRT�
piston dx�
heat insulator�
pull�
PVγ =constant TVγ-1 =constant
V
P
–W= nR
B
C
Q=0 TC–TB γ-1
を得ます。ここで、定圧比熱の定積比熱に対する比
γ =CP/CV=(f /2+1)/(f /2) (4.2.9)
を使うと式(4.2.8)は体積変化と圧力変化の関係式
–γ (dV/V) =(dp/p) (4.2.10)
になります。この式を積分し、変形して得られる下式がポアソンの公式です。
pVγ= 一定 (4.2.11)
この式を pV=nRT を使って
TVγ-1 = 一定 (4.2.12)
と書き換えることもできます。これは式(4.2.5)の変形でもあります。
この時の V-p 図は前のページの図です。気体にされる仕事量は以下のように
計算できます。
W = –∫BCpdV
= –∫BCpBVBγ/VγdV
= –pBVBγ(VC
1–γ–VB1–γ)/(1–γ)
= (pCVC–pBVB)/(γ–1)
= nR (TC–TB) /(γ–1) (4.2.13)
カルノーサイクル
上記の状態 C から定温圧縮して状態 D とし、さらに断熱圧縮をして状態 A に
戻す閉じた過程を、カルノーサイクルと
言います。元の状態に戻るので内部エネ
ルギーは元のままであり、
∫ABCDdU=0 (4.2.14)
が成り立ちます。したがって、力学エネ
ルギーと熱エネルギーの出入の和はゼロ
のはずで、以下が成り立ちます。
∫ABCDdW+∫ABCDdQ=0 (4.2.15)
ここからは、W も Q も正の値と負の値を定義して扱います。気体が吸収する
熱 QIN は QIN >0、気体が放出する熱 QOUT は QOUT <0 とします。カルノーサイク
ルであれば、定温変化だけ考えれば良いので式(4.2.1b)から、
∫ABCDdQIN = QAB= –WAB = nRTA ln(VB/VA) (4.2.16a)
∫ABCDdQOUT = QCD= –WCD = nRTC ln(VD/VC) (4.2.16b)
です。対数部に体積比が出てきますが、これに対しては断熱過程の式(4.2.12)
T BVBγ-1 = TCVC
γ-1
TAVAγ-1 = TDVD
γ-1
と、T A=TB, T C=TD から得られる
VB /VA=VC /VD (4.2.17)
を使うことができます。すると式(4.2.16)の QAB と QCD の比は以下になります。
この式は気体の種類に依らないので、一般に成立する式です。
1
(4.2.18a)
(4.2.18b)
V
P
T=TC
T=TA
QDA=0 WDA>0
QAB>0 WAB<0
QBC=0 WBC<0
QCD<0 WCD>0
A
D
B
C
2
カルノー機関の熱変換効率
ここで、カルノーサイクルを繰り返し、熱エネルギーを仕事に変換する装置
を考えます。これがカルノー機関です。この場合に熱効
率ηを下式で定義します。
η =dW
ABCD!∫dQINABCD!∫
(4.2.19)
η =1 が効率 100%で、全ての熱エネルギーが力学エネル
ギーに変わる過程です。この場合は∫dQOUT=0 です。つ
上図のカルノーサイクルであれば、
η = |WAB+ WBC+ WCD+ WDA|/QAB (4.2.20a)
= 1 –|QCD|/QAB (4.2.20b)
です。式(4.2.18)を使えば式(4.2.16)は以下になります。
熱効率は熱を吸収する温度 T A と放出する温度 T C だけで決まります。QCD を小
さくするほど熱効率は高くなりますが、式(4.2.18)により、それには温度 T C を下
げなければいけません。T C がゼロにならないのであれば、QCD をなくすことは
できません。
η =1–TC /TA (4.2.21)
カルノーの定理
熱機関の最大効率は、作業物質にはよらず、2 つの温度のみで決定される。
TA�
TC�
-W�
QOUT�
QIN�
IV-3熱力学第二法則
熱力学第 2 法則の様々な表現
以下は熱力学 2 法則の等価な表現で、式(4.2.18)から導出できる。
これらの原理はそれぞれ右図の過程 C
と T の否定である。C は他に何の変化をも
残さない(W=0)のでエネルギー保存則か
ら QIN = |QOUT|である。すると TA = TC であ
り、低温の物体から高温の物体に移す過程
は条件を満たさない。次に T だが、|QOUT|à0 ならば TCà0 なので、現実には
存在しえない機関になる。
2 つの原理の等価性は論理式で¬C ! ¬T(¬は否定)なので、対偶であるC!T
を示せば証明になる。証明には過程の可逆性とエネルギー保存則を使うが、カ
ルノーの定理は必要ない。まず高温
部から熱 Q1 を吸収して仕事 W2 を行
う過程 A を考える。A と C を認める
と、T はこれらの合成過程なので、
C-->T が証明されたことになる。次
に T を認め、高温部に対する T の逆過程 B
も認める。これらを連続して行うと C にな
るので、T-->C も証明された。
クラウジウスの原理(熱力学第 2 法則):他に何の変化をも残すことなく,
熱を低温の物体から高温の物体に移すことはできない。
トムソンの原理:1 個だけの熱源を利用して,その熱源からの熱を吸収して,
それを全部仕事に変える事の出来る熱機関は存在しない。
�
�
Q1�
Q1�C� W2�
Q2�T�
� �
�
�
�
Q1�
Q1�C� W2�
Q2�T�A �
Q1�
Q1-W2�W2� �
�
�
Q1�
Q1�C� W2�
Q2�T�� B�
Q2�
熱効率の一般性
ここではクラウジウスの原理が全ての可逆過程に対して(理想気体を前提と
せず)成り立つと仮定する。この仮定により、理想気体に関するカルノーの原
理の対象を全ての可逆課程に拡大できることを証明する。
まず、熱の移動を仕事に変える可逆機
関 U があるとする。機関 U に対して、
この仕事で熱を低温部から高温部へ移
す、カルノーの定理に従う機関 Ca が存
在するはずである。図のようにこれら一体と考えると、異なる温度の物体間の
熱の移動になる。この移動が可逆でクラウジウスの原理と矛盾しないためには、
熱の移動はゼロでなければならない。つまり任意の可逆機関 U の温度、熱、仕
事に関する関係式は、カルノーの定理に従うのである。
原子力電池
気体を使わない熱機関の例が原子力電
池です。放射性同位元素の崩壊熱が熱源
で、ゼーベック効果で電気エネルギーを
取り出します。この効果は、金属や半導
体の内部に温度勾配があると電位差が発
生する現象で、同じ温度差でも金属によ
って電位が異なります。2 種類の金属で閉
回路を作ると電流が流れ、これを電力として取り出すのです。圧縮や膨張とい
った機械的な動きがないので、ほとんど故障しません。数 10 年といった長期間
にわたって電力を供給できるので、太陽電池を使えない外惑星探査機などに搭
載されています。
Q1-Q3�CW�
Q2�U Ca
Q �Q1�
Q4� Q1-Q3�=
�
�
A B
IV-4エントロピー
カルノーサイクルの一般化
カルノーサイクルで得た式(4.2.18a)を任意のサイクルに拡張する。まず式を
以下に変形しておく。
QAB /TA +QCD /TC=0 (4.4.1)
V-p 図上で元の位置に戻る任意の過程(サイク
ル)は、小さな定温過程と断熱過程を足したも
のと考えることができる。つまり、式(4.4.1)
は積分に一般化でき、下式になる。
!"!= 0 (4.4.2)
これをクラウジウスの関係式という。ここで、
新しい量 S を以下で定義する。
クラウジウスの関係式は、この S が V-p 図上の位置、つまり気体の状態によっ
て決まる状態量であることを示しており、これをエントロピーと呼ぶ。これは
変化量に対する定義だが、絶対量の定義は後で説明することになる。重要なの
は、S が状態量であるという点である。このエントロピーは、状態量ではない熱
Q にある量を掛けて状態量に変換した量と考えることができる。
dS=dQ/T (4.4.3)
V
P
TC
TA
Q=0
Q>0
Q=0
Q<0
B�
V
P
エントロピーの増大
クラウジウスの原理をエントロピーで表現しよう。クラウジウスの原理は、
低温 TCの物体から高温 TAの物体への熱の移動を否定する。IV-3 の図では、TA>TC
であれば Q>0 にならないという意味になる。ここで高温物質と低温物質を一体
と考え、エントロピー変化を計算すると以下になる。
ΔS=Q/TA–Q/TC=Q(1/TA–1/TC)
したがってクラウジウスの原理は下式の表現になる。
ここでの変化の方向は「前から後」である。可逆過程であれば TA=TCなのでdS=0
である。また、dS>0 の過程は、高温物質から低温物質へ熱が移るだけの不可逆
過程である。式(4.4.4)は任意の準静的過程で成り立ち、これをエントロピー増
大の原理という。これもまた、熱力学第二法則の表現の一つである。
V-p 図上に示したサイクルの過程では、外部との熱の授受を行ってエントロピ
ーが増減する。つまり、①非孤立系の②可逆過程ではエントロピーが増減する。
そして状態が戻ればサイクルを通じたエントロピーの変化はゼロである。これ
に対して式(4.4.4)の対象は①孤立系であり、②不可逆過程を含む。具体例は孤
立系内に温度差があり、内部で熱移動が起きる場合である。
不可逆過程のエントロピー変化は、過程前の状態と過程後の状態が等しい可
逆過程のエントロピー変化で計算する。エントロピーは状態量として定義され
たが、式(4.4.2)は可逆過程である
から成り立つのである。前述の例
であれば、右図のように 1 つの孤
立系を 2 つの非孤立系に分けて、
それぞれの可逆変化の和で考える
のである。
dS ≥ 0 (4.4.4a) 前から後への変化
TA�
TC�
dS=––– – ––– < 0��������
TA TC �
TA�
TC�
Q
dSA=–|Q|/TA�
dSC=Q/TC�
エントロピー変化の一般式
孤立系のエントロピー増大を示す式は、これを非孤立系の式に容易に書き直
すことができる。非孤立系の可逆過程のエントロピー変化dS=dQ/T を式
(4.4.4a)に加えれば
dS ≥ dQ/T (4.4.4.b)
となる。これが非孤立系の不可逆過程を含むエントロピー変化である。
混合エントロピー
ここでは、熱の移動を伴わない不可逆過程のエントロピー変化を計算しよう。
前述のように、初期状態と終状態が同じ可逆過程を考え出し、その可逆過程に
沿って∫dQ/T を計算すれば良い。その例としてまず自由膨張を、次に種類の異
なる気体の混合を考える。
右図の自由膨張では、体積が増え、圧力が下がり、温度は変わ
らない。力学的仕事はなく、熱の入出もない。そこで同じ変化を
起こす可逆過程である定温膨張のエントロピー変化を計算する。
この場合は外部に仕事をし、同量の熱が流入する。熱は式(4.2.1)
で与えられる仕事と同僚で逆符号なので、この過程のエントロピ
ー変化は
∆𝑆 = !"!= !"#
!= 𝑛𝑅 !"
!!!!!
= 𝑛𝑅ln 𝑉𝑓𝑉𝑖
(4.4.5)
と計算できる。これが自由膨張のエントロピー変化になる。
次に右図のような同じ温度の気体 A と気体 B の
混合を考えよう。この場合は気体 A の自由膨張と
気体 B の由膨張を重ね合わせたと考えることで、
可逆過程に換算する。
ΔS = ΔSA+ΔSB
に対して式(4.4.5)を使うと
∆𝑆 = 𝑛!𝑅 ln !!!!!!!
+ 𝑛!𝑅 ln !!!!!!!
(4.4.6)
となる。このような異なる種類の物質の混合による
エントロピーの増加を混合エントロピーという。
Vi�
Vf�
nA, PA, VA� nB, PB, VB�
T �
V=VA+VB�P=(PAVA+PBVB)/(VA+VB) �
IV-5分子レベルで考えたエントロピー
分子集団の状態を確率計算
エントロピーは「乱雑さ」と表現されることも多いが、これは物理表現とは
言えない。詳細は統計力学になるが、エントロピーは分子集団が取りうる状態
の数に対応する量である。状態数の増加が実質的に不可逆過程を意味すること
を、体積が 2 倍となる自由膨張を例に、ざっくり説明しておく。
体験的に、自由膨張した気体が自然に膨張前の状態に戻ることはない。しか
し微視的に考えると、自由膨張前後で個々の分子のエネルギーは同じなので、
膨張後から膨張前の状態に戻ることは不可能ではない。実際に起きないのは戻
る確率がゼロに近いからである。この確率を計算するために、同じエネルギー
で取りうる状態を数え、それぞれの状態になる確率が等しいと考えよう。
自由膨張なのでシリンダーを隔壁で 2 等分し、左に N 個の気体分子、右は真
空とする。隔壁を取り除いて気体を自由膨張させると状態数は 2 倍になる。1 個
の分子が取りうる状態は、自由膨張前は左だけなので状態数を 1 とすれば、膨
張後は右にも存在できるので状態数は 2 になるのである。先ほどの確率で考え
れば、自由膨張後に膨張前と同じ左にいる確率はどの分子も 1/2 である。N 個の
分子すべてが左にいる確率はゼロではなく、(1/2)Nになる。この確率は、膨張
前の状態数 1 N =1 を膨張後の状態数 2 Nで割った値でもある。
この確率を 1 モル(N=NA)の空気で計算してみよう。空気分子の衝突頻度は
1 気圧で 2 X10-10秒に 1 回程度なので、この時間内に NA/2 回衝突が起きて集団
の状態が変わるとする。気体が自由膨張前の状態に戻る頻度は (2 X10-10)/( NA/2)/
2–NA に一回となる。この状態が実現するまでの時間をざっと計算すると10!×!"!"
秒というとんでもない時間になる。この桁数は 23 桁ではなく 2X1023 桁である。
自由膨張
分子レベルのエントロピーはこの状態数に対応す
る量であり、以下の対数(ボルツマンの式)で定義
される。
S=kB lnW (4.5.1)
ここで W は状態数(W だが仕事ではない)で、kB
はボルツマン定数である。
この式を体積が r 倍になる自由膨張に当てはめる。
1 分子の状態数は体積に比例し、分子が N個あれは
状態数はその N乗である。従って、
S2 –S1= kB lnW2 – kB lnW1 =kB ln(W2/W1) = NkB ln r (4.5.2)
となる。ここで NkB = nR、r =Vf /Vi なので、
ΔS=nR ln(Vf /Vi) (4.5.3)
である。これはまさに、可逆過程から求めた式(4.4.5)そのものである。
T �
T �
n, rV�
n, V�
同一粒子の混合
異種粒子の混合でエントロピーは増えたが、同種の粒子の混合であればエン
トロピーは増えないはずである。これを確認するために論を進めて、新たに分
子の区別という概念を導入する。1 分子の状態数が w のとき、N 個の分子の状
態数は wNである。しかし分子に個性がなく区別できないと考えると、wN
は多く
数え過ぎということになる。区別できない状態を一つの
状態と数え直すと、全体の状態数は wN/ N!になる。先ほ
どの自由膨張では N!を省いて状態数の比をとっていた
が結果は変わらない。
ここでは簡単のため、混合前の物質量、気圧、温度が
同じであったとする。片側だけの粒子数を N0、状態数を
w0 とすると片側だけのエントロピーSA は以下である。
SA = kB ln [w0N/ N0!] (4.5.4)
混合状態では状態数、粒子数がともに 2 倍になるので
S f = kB ln [(2w0)2N/(2 N0)!] (4.5.5)
である。混合前のエントロピーは S i =SA+SB=2SA なので、前後のエントロピーの
差(変化量)は、
S f —Si = kB ln [(2w0)2NA/(2N0)!] -2kB ln [w1
N/N0!]
= kB [2N0 ln (2w0) –ln(2N0)! -2(N0ln w0-lnN0!)]
= kB [2N0 ln2 –ln(2N0)! +2lnN0!]
となる。ここでスターリングの近似式 lnN0! ≈ N0 (lnN0-1) を使うと、
Sf —Si ≈ kB [2N0 ln2 –2N0 (ln2+lnN0–1) +2N0 (lnN0–1)] = 0 (4.5.6)
である。つまり全く同じ種類の粒子を混合した場合、分子数 N0が十分大きけれ
ばエントロピーは増えないのである。
A B�
T �
T �
T �