突然の解散発表から1年 my chemical romanceのベスト・ア … · 2014. 3. 6. · you my...

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突然の解散発表から1年 MY CHEMICAL ROMANCEのベスト・アルバムがついにリリース! ウェイヴやデイスコ・サウンドも取り入れたカラフルかつポップな作風からは、 バンドの野心が感じられた……と、当時は思ったものだが、ひょっとすると、 Brendan O’Brienと完成させたアルバムをお蔵入りにしたところから 新たな方向性を模索しながらバンドはすでに求心力を失っていたのかも しれない。 今回、リリースされるベスト・アルバムには彼らがリリースした4枚のアル バムからの15曲に加え、メンバーが一緒にスタジオで最後に作り上げた 「Fake Your Death」という未発表曲と結成間もないMCRがレコー ディングした、いわゆる「Attic Demo」と呼ばれる初期デモ音源3曲が 加えられている。 つまり、4枚のアルバム以前と以後も含め、MCRというバンドの歩みを辿る ことができる選曲になっているわけだ。Gerardはベスト・アルバムにこんな コメントを寄せている。 “バンドにさようならを言うのはすごく悲しいけど、このベスト・アルバムは、 俺たちの最高の楽曲たちを祝福してくれる完璧なコレクションだと思って いる、この楽曲たちが、君たちに、そして俺たち自身に与えてくれた〈喜び〉 というものを、これからも伝え続けてくれることになるからね” MCRが初めて作ったという「Skylines And Turnstiles」、その後、「Our Lady Of Sorrows」と改題される「Knives / Sorrow」、そして「Cubicles」 の初期デモ音源の3曲は正直、そのショボさに、よくぞ収録した!と逆に拍手 を贈りたいが、デビュー・アルバムのヴァージョンと聴きくらべれば、誰もが 曲のブラッシュ・アップが連想させるバンドの急成長に驚かずにいられない だろう。その間、わずか数ヶ月。 そして、彼らが最後に残した美しいピアノ・バラードの「Fake Your Death」 が印象づける成熟を思えば、MCRというバンドがものすごいスピードで 成長しながらロック・シーンの頂点を究めたことが理解できるはずだ。それを 考えれば、突然の解散は必然だったのかもしれない。 現在、メンバーたちはそれぞれに音楽活動を続けている。近い将来、新しい 音楽をひっさげ、日本のファンの前にも戻ってきてくれるに違いない。 『May Death Never Stop You - The Greatest Hits 2001-2013』 は全19曲収録の通常盤に加え、ミュージック・ビデオのアウトテイクなどを 収録したDVDをカップリングした2枚組デラックス・エディショもリリース される。山口 智男 Your Love』でデビュー。その後の彼らを思えば、かなりハードコアの影響が 色濃い曲の数々は同時にヴァンパイアやゾンビを題材にした歌詞を含め、 ゴスの要素も感じられ、Gerardによるエモーショナルな絶叫ヴォーカル とともに荒削りながらもすでにハードコアという表現には収まりきらない 個性をアピールしていた。そして、彼らはPureVolumeやMySpaceと いった、今では誰もが当たり前のように使っているSNSサイトを通して、 いち早くファンベースを作り上げていくのだが、当時、ブームとして盛り上がり 始めていたスクリーモの新鋭として、MCRの名前はここ日本にも伝わって きた。 確か、その時はまだ大手のレコード店では取り扱いがなかった『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』を、エモやインディー・ ロックを専門としている小さな輸入CD店で注文後、入荷まで1週間か2週間 か待ってようやく入手したことは、今となってはデビュー・アルバムを聴いた 時の衝撃とともに懐かしい思い出だ(彼らの存在を教えてくれたUさん、 改めてありがとう!)。 2004年6月、メジャー・レーベルからリリースした2ndアルバム『 Three Cheers For Sweet Revenge』からは「Helena」「I’m Not Okay (I Promise)」「The Ghost Of You」といったヒット・シングルも生まれ、 自らの悲劇的な体験とパラノイアをゴス風味やコンセプチュアルなストーリー とともに詩的に昇華させるMCRは、現実世界に居場所を見つけられない 若者たちの共感を得ることで、ロック・シーンでめきめきと頭角を現して いった。 そんなカリスマ性がエモ文化を不健全と考える勢力から“若者を惑わせて いる!”とバッシングされるという現代の魔女裁判を思わせるような出来事も あったが、死をテーマにしたロック・オペラに挑戦。エモ/スクリーモの範疇に 収まりきらない音楽性をアピールした『The Black Parade』(2006年10月 発表)の大成功(全米2位)によって、彼らは世界規模のロック・バンドとして 人気と評価を確かなものにしたのだった。 前述したとおり、2007年5月には武道館公演も実現。それまでMCRを キワモノと考え、見向きもしなかった人たちも『The Black Parade』大ヒット (オリコン洋楽チャート1位!)と武道館公演の成功以降、手の平を返した ように彼らを絶賛しはじめた、という話を関係者から聞いた時は、ずいぶんと 溜飲が下がったものだ。 その後、PEARL JAMやRAGE AGAINST THE MACHINEなどの 作品で知られるプロデューサー、Brendan O’Brienと組み、MC5やTHE STOOGESのようなサウンドを目指したロック路線のアルバムを完成させた ものの、自分たちが今、作るべき作品なのかと考えたのか、結局お蔵入り にすると(その時の楽曲は『Conventional Weapons』シリーズとして 2012年9月から5ヶ月間にわたって、2曲ずつ配信と7インチ・シングルという 形で発表された)、『The Black Parade』を手掛けたプロデューサー、 Rob Cavalloと一から作り直した『Danger Days: The True Lives Of The Fabulous Killjoys』を、2010年11月にリリース。その『Danger Days』 は全米8位と前作ほどチャート・アクションは振るわなかったものの、ニュー・ ひょっとしたらMCRというバンド名は知っていても彼らのことをよく知らない という若い読者もいるのでは?そこで、今回はたっぷり2ページもあるので、 ベスト・アルバムの内容を紹介する前に00年代のロック・シーンに大きな 足跡を残したMCRのキャリアを、個人的な思い出も交えながら振り返って みたい。 Gerardも“このベスト・アルバムで、俺たちと一緒にMY CHEMICAL ROMANCEの過去を紐解く旅に出かけて、その旅のちょっとした味わいを 一緒に楽しんでくれたら嬉しいよ”と言っているので、ぜひお付き合いいた だきたい。 MCRの結成は2001年。当時、アニメーターとして働いていたGerardが 9.11同時多発テロ事件を目の当たりにしたことをきっかけに人生の針路 を変更。自分の考えをダイレクトに伝えるには音楽が1番だと思い立ち、 バンドを始めたことがそもそものスタートだった。バンド名は映画化もされた 『Trainspotting』で知られるスコットランドの作家、 Irvine Welshの短編集 『Ecstasy: Three Tales Of Chemical Romance』のタイトルから拝借 した。 その後、地元であるニュージャージーのインディー・レーベル、EYEBALLと 契約したMCRは翌2002年7月、THURSDAYのGeoff Rickleyをプロ デューサーに迎えた『I Brought You My Bullets, You Brought Me 2013年3月22日、バンドのオフィシャル・サイトを通じて、突然、解散を発表。 あまりにもあっけない、逆に、だからこそ潔いとも言えるやり方で13年に 及ぶキャリアに終止符を打ったMY CHEMICAL ROMANCE(以下MCR)。 解散の主な理由は2つ。バンドが燃え尽きてしまったことと、アートである べきはずの音楽活動が自分たちではどうにもできないぐらい大きなショウ・ ビジネスになってしまったことだった。 ちなみにバンドのフロントマンだったGerard Wayは解散発表後、自身の Twitterで以下のようなコメントを発表した。“時が来れば、僕たちはやめる。 それは自分という存在の内側でわかることだ。そしてそんな内側の声が、 音楽よりも大きく聞こえるようになったんだ” 制作に着手としていたと伝えられていた5作目のアルバムは、とうとう完成 させられずじまいだった。そして、解散の発表から約1年、『May Death Never Stop You - The Greatest Hits 2001-2013』と題されたベスト・ アルバムがリリースされることになった。 日本武道館公演を成功させるなど、ここ日本でも一時代を築いたMCRでは あるけれど、その彼らが日本のファンの前に姿を現したのは、横浜アリーナ 2デイズを含む2011年1~2月のジャパン・ツアーが最後だった。すでに3年 も前の話だ。さらに遡れば、人気や注目度という意味で、瞬間最大風速が 吹いたと言える武道館公演は2007年5月。7年も前になる。 May Death Never Stop You The Greatest Hits 2001-2013[WARNER MUSIC JAPAN] 2014.3.26 ON SALE!! 【スペシャル・エディション】CD+DVD WPZR-30493/4 \3,314(税別) 【通常盤】CD WPCR-15360 \2,457(税別) I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love(2002) Three Cheers For Sweet Revenge(2004) The Black Parade(2006) Danger Days: The True Lives Of The Fabulous Killjoys(2010)

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Page 1: 突然の解散発表から1年 MY CHEMICAL ROMANCEのベスト・ア … · 2014. 3. 6. · You My Bullets, You Brought Me Your Love』を、エモやインディー・ ロックを専門としている小さな輸入CD店で注文後、入荷まで1週間か2週間

突然の解散発表から1年MY CHEMICAL ROMANCEのベスト・アルバムがついにリリース!

ウェイヴやデイスコ・サウンドも取り入れたカラフルかつポップな作風からは、

バンドの野心が感じられた……と、当時は思ったものだが、ひょっとすると、

Brendan O’Brienと完成させたアルバムをお蔵入りにしたところから

新たな方向性を模索しながらバンドはすでに求心力を失っていたのかも

しれない。

今回、リリースされるベスト・アルバムには彼らがリリースした4枚のアル

バムからの15曲に加え、メンバーが一緒にスタジオで最後に作り上げた

「Fake Your Death」という未発表曲と結成間もないMCRがレコー

ディングした、いわゆる「Attic Demo」と呼ばれる初期デモ音源3曲が

加えられている。

つまり、4枚のアルバム以前と以後も含め、MCRというバンドの歩みを辿る

ことができる選曲になっているわけだ。Gerardはベスト・アルバムにこんな

コメントを寄せている。

“バンドにさようならを言うのはすごく悲しいけど、このベスト・アルバムは、

俺たちの最高の楽曲たちを祝福してくれる完璧なコレクションだと思って

いる、この楽曲たちが、君たちに、そして俺たち自身に与えてくれた〈喜び〉

というものを、これからも伝え続けてくれることになるからね”

MCRが初めて作ったという「Skylines And Turnstiles」、その後、「Our

Lady Of Sorrows」と改題される「Knives / Sorrow」、そして「Cubicles」

の初期デモ音源の3曲は正直、そのショボさに、よくぞ収録した!と逆に拍手

を贈りたいが、デビュー・アルバムのヴァージョンと聴きくらべれば、誰もが

曲のブラッシュ・アップが連想させるバンドの急成長に驚かずにいられない

だろう。その間、わずか数ヶ月。

そして、彼らが最後に残した美しいピアノ・バラードの「Fake Your Death」

が印象づける成熟を思えば、MCRというバンドがものすごいスピードで

成長しながらロック・シーンの頂点を究めたことが理解できるはずだ。それを

考えれば、突然の解散は必然だったのかもしれない。

現在、メンバーたちはそれぞれに音楽活動を続けている。近い将来、新しい

音楽をひっさげ、日本のファンの前にも戻ってきてくれるに違いない。

『May Death Never Stop You - The Greatest Hits 2001-2013』

は全19曲収録の通常盤に加え、ミュージック・ビデオのアウトテイクなどを

収録したDVDをカップリングした2枚組デラックス・エディショもリリース

される。 山口 智男

Your Love』でデビュー。その後の彼らを思えば、かなりハードコアの影響が

色濃い曲の数々は同時にヴァンパイアやゾンビを題材にした歌詞を含め、

ゴスの要素も感じられ、Gerardによるエモーショナルな絶叫ヴォーカル

とともに荒削りながらもすでにハードコアという表現には収まりきらない

個性をアピールしていた。そして、彼らはPureVolumeやMySpaceと

いった、今では誰もが当たり前のように使っているSNSサイトを通して、

いち早くファンベースを作り上げていくのだが、当時、ブームとして盛り上がり

始めていたスクリーモの新鋭として、MCRの名前はここ日本にも伝わって

きた。

確か、その時はまだ大手のレコード店では取り扱いがなかった『I Brought

You My Bullets, You Brought Me Your Love』を、エモやインディー・

ロックを専門としている小さな輸入CD店で注文後、入荷まで1週間か2週間

か待ってようやく入手したことは、今となってはデビュー・アルバムを聴いた

時の衝撃とともに懐かしい思い出だ(彼らの存在を教えてくれたUさん、

改めてありがとう!)。

2004年6月、メジャー・レーベルからリリースした2ndアルバム『Three

Cheers For Sweet Revenge』からは「Helena」「I’m Not Okay

(I Promise)」「The Ghost Of You」といったヒット・シングルも生まれ、

自らの悲劇的な体験とパラノイアをゴス風味やコンセプチュアルなストーリー

とともに詩的に昇華させるMCRは、現実世界に居場所を見つけられない

若者たちの共感を得ることで、ロック・シーンでめきめきと頭角を現して

いった。

そんなカリスマ性がエモ文化を不健全と考える勢力から“若者を惑わせて

いる!”とバッシングされるという現代の魔女裁判を思わせるような出来事も

あったが、死をテーマにしたロック・オペラに挑戦。エモ/スクリーモの範疇に

収まりきらない音楽性をアピールした『The Black Parade』(2006年10月

発表)の大成功(全米2位)によって、彼らは世界規模のロック・バンドとして

人気と評価を確かなものにしたのだった。

前述したとおり、2007年5月には武道館公演も実現。それまでMCRを

キワモノと考え、見向きもしなかった人たちも『The Black Parade』大ヒット

(オリコン洋楽チャート1位!)と武道館公演の成功以降、手の平を返した

ように彼らを絶賛しはじめた、という話を関係者から聞いた時は、ずいぶんと

溜飲が下がったものだ。

その後、PEARL JAMやRAGE AGAINST THE MACHINEなどの

作品で知られるプロデューサー、Brendan O’Brienと組み、MC5やTHE

STOOGESのようなサウンドを目指したロック路線のアルバムを完成させた

ものの、自分たちが今、作るべき作品なのかと考えたのか、結局お蔵入り

にすると(その時の楽曲は『Conventional Weapons』シリーズとして

2012年9月から5ヶ月間にわたって、2曲ずつ配信と7インチ・シングルという

形で発表された)、『The Black Parade』を手掛けたプロデューサー、

Rob Cavalloと一から作り直した『Danger Days: The True Lives Of

The Fabulous Killjoys』を、2010年11月にリリース。その『Danger Days』

は全米8位と前作ほどチャート・アクションは振るわなかったものの、ニュー・

ひょっとしたらMCRというバンド名は知っていても彼らのことをよく知らない

という若い読者もいるのでは?そこで、今回はたっぷり2ページもあるので、

ベスト・アルバムの内容を紹介する前に00年代のロック・シーンに大きな

足跡を残したMCRのキャリアを、個人的な思い出も交えながら振り返って

みたい。

Gerardも“このベスト・アルバムで、俺たちと一緒にMY CHEMICAL

ROMANCEの過去を紐解く旅に出かけて、その旅のちょっとした味わいを

一緒に楽しんでくれたら嬉しいよ”と言っているので、ぜひお付き合いいた

だきたい。

MCRの結成は2001年。当時、アニメーターとして働いていたGerardが

9.11同時多発テロ事件を目の当たりにしたことをきっかけに人生の針路

を変更。自分の考えをダイレクトに伝えるには音楽が1番だと思い立ち、

バンドを始めたことがそもそものスタートだった。バンド名は映画化もされた

『Trainspotting』で知られるスコットランドの作家、Irvine Welshの短編集

『Ecstasy: Three Tales Of Chemical Romance』のタイトルから拝借

した。

その後、地元であるニュージャージーのインディー・レーベル、EYEBALLと

契約したMCRは翌2002年7月、THURSDAYのGeoff Rickleyをプロ

デューサーに迎えた『I Brought You My Bullets, You Brought Me

2013年3月22日、バンドのオフィシャル・サイトを通じて、突然、解散を発表。

あまりにもあっけない、逆に、だからこそ潔いとも言えるやり方で13年に

及ぶキャリアに終止符を打ったMY CHEMICAL ROMANCE(以下MCR)。

解散の主な理由は2つ。バンドが燃え尽きてしまったことと、アートである

べきはずの音楽活動が自分たちではどうにもできないぐらい大きなショウ・

ビジネスになってしまったことだった。

ちなみにバンドのフロントマンだったGerard Wayは解散発表後、自身の

Twitterで以下のようなコメントを発表した。“時が来れば、僕たちはやめる。

それは自分という存在の内側でわかることだ。そしてそんな内側の声が、

音楽よりも大きく聞こえるようになったんだ”

制作に着手としていたと伝えられていた5作目のアルバムは、とうとう完成

させられずじまいだった。そして、解散の発表から約1年、『May Death

Never Stop You - The Greatest Hits 2001-2013』と題されたベスト・

アルバムがリリースされることになった。

日本武道館公演を成功させるなど、ここ日本でも一時代を築いたMCRでは

あるけれど、その彼らが日本のファンの前に姿を現したのは、横浜アリーナ

2デイズを含む2011年1~2月のジャパン・ツアーが最後だった。すでに3年

も前の話だ。さらに遡れば、人気や注目度という意味で、瞬間最大風速が

吹いたと言える武道館公演は2007年5月。7年も前になる。

『May Death Never Stop YouThe Greatest Hits 2001-2013』

[WARNER MUSIC JAPAN]

2014.3.26 ON SALE!!

【スペシャル・エディション】 CD+DVD

WPZR-30493/4 \3,314(税別)

【通常盤】 CD

WPCR-15360 \2,457(税別)

『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』(2002)

『Three Cheers For Sweet Revenge』(2004)

『The Black Parade』(2006)

『Danger Days: The True Lives Of The Fabulous Killjoys』(2010)