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診療情報集約のためのSOAを活用した 院内システム間連携基盤の構築とその実効性 名古屋市立大学病院 管理部医事課病院情報システム係 飯田征昌 (    ) 92 新 医 療 2013年6月号 NeoChart 40 稿

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  • 要旨:病院情報システム(HIS)の連携

    基盤にサービス指向アーキテクチャ(SO

    A)活用することで、連携プロセスの可視

    化や集約化と各ベンダ間の仕様依存度の低

    い連携が図られる。これに、HISの核と

    なる電子カルテシステム(EMR)内への

    部門システムデータの格納を組み合わせる

    ことで、効率的な診療情報集約と高度な部

    門データ利活用の実現につながり、複雑化

    するシステム間連携の最適化へのアプロー

    チとして非常に有用性が高いと考える。

    診療情報集約のためのSOAを活用した院内システム間連携基盤の構築とその実効性

    名古屋市立大学病院管理部医事課病院情報システム係

    飯田征昌

    (    )92新 医 療 2013年6月号

     

    本院は2004年1月より、ベンダと共同

    で開発を行った電子カルテシステム(以下、

    EMR)(富士通:N

    eoChart

    )を病院情報シ

    ステム(以下、HIS)の中心に据え、稼働

    から9年を経た現在は40を超える部門システ

    ムとの連携を実施している。

     

    本稿では、これまでのHIS・部門システ

    ム間連携における課題を取り上げ、その課題

    解決を目指して構築した、サービス指向アー

    キテクチャ(SOA)によるシステム間連携

    と診療情報集約の基盤について紹介する。

    システム間連携の技術的課題

     

    従来の一般的なシステム間連携における手

    法として挙げられるのが、それぞれのシステ

    ム間かつ連携する情報の内容ごとに、データ

    連携のためのプログラムにより1対1で接続

    する方式である。この方式の場合、拡張性や

    保守性の観点で次の問題点が挙げられる。

    ・1接続単位毎に1プログラムで構成される

    ため、徹底したカプセル化を進めない限りは

    部門システムの数に比例した重複コードのプ

    ログラムコピーが発生し、基幹となるHIS

    側の軽微な仕様変更であっても膨大な作業工

    数を要する。

    ・オーダ連携や患者情報・診療記録などHI

    Sのさまざまな情報を、各部門システムから

    直接更新や生成を行う場合、異なるアプリ

    ケーション間での排他やトランザクション処

    理など高度な連携プロセスを要するが、接続

    システムや連携する情報の種別毎にプログラ

    ムが構築されるままでは、拡張性の低さに起

    因したコスト増が見込まれる。

    ・散在する連携プログラムのログやプロセス

    の管理が集約・

    可視化されていないことで、

    院内を流通する情報のトレーサビリィに劣

    り、トラブル時などの状況把握や分析が困難

    である。

     

    本院においては、HISベンダとの共同開

    発であるため、ソースコードやプログラム構

    成の実体を把握可能であることから、前述の

    ような問題点を指摘できる。しかし、多くの

    ブラックボックス化されたパッケージシステ

    ムでは、こうした問題点の把握すら困難であ

    り、ベンダの自発的な取り組みに期待するほ

    かない。このような状況であるからこそ、シ

    ステム間連携の基盤はベンダ非依存のモデル

    を目指さなければ、これらの課題解決は困難

    であると考える。

    部門システム発生の診療情報集約の

    必要性とそのアプローチ

     

    重症部門システムや眼科システムをはじめ

    とする一部の部門システムは、経過記録や診

  • 図 2 部門システムに蓄積された診療情報の集約方法

    図 1 システム間連携手法イメージ

    ・部門システムからのメタデータ(XML 等)とオブジェクト(画像、PDF 等)を汎用的な形で電子カルテに取り込む

    ・取り込んだ情報のオリジナルを参照・編集するための URL や API の情報を持つことで、部門システムとシームレスな連携を可能にする

    (    )93 新 医 療 2013年6月号

  • 図 4 SOA によるシステム間連携処理イメージ(オーダ受付処理)

    図 3 SOA によるシステム間連携基盤の概要

    (    )94新 医 療 2013年6月号

    断所見情報といった診療録として取り扱うべ

    き診療情報が発生しており、EMRの一部を

    担うシステムとなっている。それゆえ、これ

    らから発生する診療情報のHIS連携は、特

    に重視しなければならないポイントである。

     

    しかし、実際には部門の診療情報にアクセ

    スするためのURLをEMRに送信するのみ

    の簡易な連携が一般的手法となっており、非

    常に不完全な連携方式だと言わざるを得ない。

     

    事実、眼科システムの診療記録や内視鏡・

    病理などのレポートは、EMRに張り付いた

    URLをクリックして各部門のV

    iewer

    を起

    動しなければ参照できないため、その操作方

    法に気付かずに参照すべき情報を見落とすと

    いった事例の報告も発生しており、本質的な

    意味での見読性が担保されない問題のある方

    式である。

     

    また、カルテ開示の際に部門システム毎に

    診療記録を抽出しなければならない手間が膨

    大となる点も看過できない課題な他、医療機

    関同士の診療情報交換・連携においてもEM

    R内の診療記録を公開する仕組みが一般的で

    あることから、URL連携であれば部門の診

    療記録は当然のことながら欠落してしまう。

     

    このような問題点に対し、近年はEMRや

    部門システムなど院内の診療記録をPDFな

    どの形式で出力し、別に用意したドキュメン

    トアーカイブシステムに格納することで診療

    記録を集約する手法も用いられつつある。こ

    の方式は、全ての診療記録の見読性を担保す

    るには有用である一方、システム構成として

    いささか冗長である感は否めない。

     

    またPDFやHTML形式のデータはメタ

    データとして扱えないため、別途XML形式

    等でも出力を行い、データウェアハウス(以

    下、DWH)に格納することで二次利用可能

    な方式を併用している事例もある。だがこの

    情報をDWHではなくEMRに格納し、診療

    記録の参照が可能な仕組みとなるならば、全

    診療情報のEMRへの一元的な集約が可能と

    なり、その後の利活用も自在な形となる。

    システム間連携の課題

    解決のためのSOA採用

     

    以上のシステム間連携における技術的課題

    の解決および、EMRへの診療情報集約の実

  • 図 5 SOA 連携基盤の管理画面とトレースログ

    (    )95 新 医 療 2013年6月号

    現のために、導入すべき技術や手法を検討し

    た結果、図1に示す通り、従来型の接続方式

    に対してスター型接続のシステム間連携基盤

    を構築することにより、ベンダ間の直接接続

    による連携を排除可能な設計とした。

     

    また、各システムからのさまざまな形式・

    手段による要求に応じ、リアルタイムでHI

    Sデータの送信や生成を行うなど、手続き処

    理による連携の実現にはSOAの適用が最も

    有効であると判断し、SOAを実装する統合

    ミドルウェア(InterSystem

    s Ensemble

    )を

    用いた構築により、システム間連携の一元化

    と拡張性の両立を図った。また、それは連携

    に係る中長期的なコストも抑制することが可

    能であるとの結論に達した。

     

    ここで、SOAの概念について簡単に整理

    すると、

    ①アプリケーションあるいはその機能の一部

    を、共通の〝サービス〟としてコンポーネン

    ト化

    ②サービスを必要に応じて組み合わせること

    で、新たなシステムを構築する

    ③各コンポーネントは以下の条件を満たす手

    法で構築・運用する

    ・プラットフォーム非依存(OSや開発言語

    を問わない)

    ・汎用的な仕様の利用が基本(SOAP、H

    L7など)

    ・相互接続性の確保

     

    といった点が挙げられる。この概念にミド

    ルウェアの充実した管理機能等が組み合わさ

    れることで、先述した技術的課題解決の決定

    打に成り得るとの期待を抱き、判断に至った

    次第である。

     

    同時に、部門発生の診療情報をメタデータ

    の形で格納する部門ツール機能(図2)をE

    MR上に設計・構築し、11年度に実施した部

    門システム更新に併せてこれらを実現するに

    至った。

    SOAによる

    システム間連携基盤の概要

     

    現在、SOAによって運用している部門シ

    ステム・HIS間インターフェース連携の概

    要を図3に示す。

     

    HL7をはじめとする標準規格や各ベンダ

    間の独自レイアウトなど、多彩なデータ

    フォーマットやプロトコルに対応した形で、

    各システム間とのサービスをSOA基盤上で

    集約している。

     

    その後、HIS情報の検索(JDBC)、

    HIS情報更新に必要なメッセージ(XML)

    への変換・生成、HIS更新モジュール(.N

    ET

    API

    )の起動・実行もSOA基盤上で行うこ

    とにより、部門システムからHISの情報を

    更新・生成するプロセスの一元化を図ってい

    る(図4)。

     

    ちなみに、EMR更新モジュールはベンダ

    が提供するものをそのまま使用しているが、

    本院のEMRのデータ更新処理部分がAPI

    として公開され、全て統一された様式のメッ

    セージ(XML)によって行う洗練された仕

    組みであったことは、今回の取り組みのきっ

    かけでもあり、大きな成功要因でもある。

     

    よって、生成する更新用メッセージとその

    メッセージの生成処理手順次第で、EMR全

    ての情報(診療記録・オーダ・患者情報・検

    査結果・熱形表など)の追加・更新・削除が

    可能な構造としている点は、汎用性を高める

    上での最大のポイントでもある。

  • (    )96新 医 療 2013年6月号

    施することが可能となるなど、トレーサビリ

    ティ向上の効果は大変有用であった。

     

    さらに、併せて導入したEMRの部門ツー

    ル機能等により、部門システムで発生する診

    療記録として必要な情報を、EMR上にその

    ままメタデータとして保持することや、EM

    R発生データと全く同様の扱いの情報生成が

    可能となった。確かに表示データ生成の工夫

    が必要ではあるものの、院内の診療情報の一

    元管理をEMR上にて実現する基盤の構築

    を、当初の目標通り達成できたのである。

     

    これにより、かねてからの課題であった部

    門記録の見落としや部門システムとの二重入

    力などの課題の解消につなげることを可能と

    したほか、DWH等の2次利用系における診

    療情報の集約においても、個別に部門システ

    ムから診療情報を収集せずとも、従来通りの

    HISとの連携のみで集約可能な構造とな

    り、シンプルな連携ルートで多様な情報を収

    集可能することが可能となっている。

     

    今回の成果を踏まえ、14年1月稼働の次期

    構築・運用後の評価と今後の展望

     

    SOAを用いたシステム間連携基盤の構築

    により、部門システムからEMRの情報を直

    接更新・

    生成するといった高度な連携プロセ

    スを、相手先のデータフォーマットや通信プ

    ロトコルに対して柔軟に対処できる多様な手

    段を備えつつも、疎結合かつ一様の手続きで

    構築可能という、最適かつ確実な形での診療

    情報の集約が可能となった。

     

    また、開発に際してはデータコネクション、

    トランザクション、ログ、エラーなどの基本

    的な処理は全てSOA基盤内の機能に拠るこ

    とが可能となった。その結果、データフロー

    や変換処理を中心としたコーディングのみで

    開発可能となることから、開発期間の短縮と

    連携プロセスや流通するデータやログの可視

    化・一元化が図られ、デバッグや障害時の状

    況把握や再送信処理といった対応もGUI

    ベースの管理機能(図5)を用いて素早く実

    病院情報システムにおいては、院内ほぼ全て

    のシステム間連携基盤をSOAにて構築する

    方針で現在設計作業を進めている。

     

    また、今後はFileM

    aker, MS A

    ccess

    、各

    種検査機器、モバイルデバイス、Webサー

    ビスなどといったさまざまなシステムや機器

    との連携や、DWHやBIツールによる分析

    結果のリアルタイムでのフィードバックな

    ど、メッセージベースのみならず、高度なス

    ケジューリングやデータ監視機能等を活用す

    る予定だ。そして、診療情報利活用のための

    アプリケーション基盤としてのSOA連携基

    盤のさらなる応用に取り組み、院内のあらゆ

    る情報インフラのシームレスな連携を通じ

    て、HIS全体のフレキシビリティと持続可

    能性のさらなる追求を目指す次第である。

    ※     

    飯田征昌(いいだ・まさよし)●80年愛知県生

    まれ。07年名古屋工業大工学部卒。99年から現職。

    医療情報技師。