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SAFE CITIES INDEX 2017 加速する都市化と セキュリティ強化に向けた取り組み ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる報告書 Sponsored by

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SAFE CITIES INDEX 2017加速する都市化とセキュリティ強化に向けた取り組みザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる報告書

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© The Economist Intelligence Unit Limited 2017

Safe Cities Index 2017加速する都市化とセキュリティ強化に向けた取り組み

本報告書について 1

エグゼクティブ・サマリー 2

はじめに 5

カテゴリー1:サイバーセキュリティ 8

自己防衛ツールとしてのモバイル機器 12

カテゴリー2:医療・健康環境の安全性 13

カテゴリー3:インフラの安全性 17

カテゴリー4:個人の安全性 21

都市犯罪がもたらす経済的損失 25

おわりに 26

付録1:指数ランキング 28

付録2:指数算出方法 32

目次

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1© The Economist Intelligence Unit Limited 2017

Safe Cities Index 2017加速する都市化とセキュリティ強化に向けた取り組み

n 国連人間居住計画都市リスク軽減部門責任者都市レジリエンス・プロファイリング・プログラム責任者 Dan Lewis

n ニューヨーク大学ルディン交通政策研究所ディレクター都市政策・都市計画担当教授Mitchell Moss

n Igarapé Institute共同創業者 Robert Muggah

n ニューヨーク市立大学 オールバニー校ロックフェラー公共政策カレッジ准教授Brian Nussbaum

n コロンビア大学都市公共政策プログラム教授Michael Nutter

n ブルッキングス研究所外交政策シニアフェロー Michael O'Hanlon

n GovTech SingaporeCEO Jacqueline Poh

n New Cities Foundation 理事長 John Rossant

n ドレクセル大学学長 兼 公共医療学部教授Ana Diez Roux

n ストックホルム国際平和研究所ディレクター Dan Smith

『Safe Cities Index 2017』 は、NEC に よ る協賛の下でザ・エコノミスト・インテリジェンス・ ユ ニ ッ ト(The Economist Intelligence Unit [EIU])が作成した報告書である。本報告書の作成にあたっては、49 の指標をサイバーセキュリティ(Digital Security)、医療・健康環境の安全性(Health Security)、インフラの安 全 性(Infrastructure Security)、 個 人 の 安全性(Personal Security)という 4 つのカテゴリーに分け、世界 60 都市を対象として分析が行われた。

同 指 数 の 算 出・ 構 築 は Chris Clague、Stefano Scuratti、Ruth Chiah、報告書の執筆は Sarah Murray、編集は Chris Clague が担当した。報告書の作成にあたっては、広範なリサーチと専門家への詳細にわたる聞き取り調査も実施している。ご協力をいただいた下記の専門家(姓のアルファベット順に記載)には、この場を借りて感謝の意を表したい:

n 米州開発銀行市民安全対策リードスペシャリストNathalie Alvarado

n Kroll サイバーセキュリティ マネージング・ディレクターAlan Brill

n The King's Fund公共医療・格差問題担当シニアフェローDavid Buck

n フランス都市安全フォーラムエグゼクティブ・ディレクターElizabeth Johnston

本報告書について

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2 © The Economist Intelligence Unit Limited 2017

Safe Cities Index 2017加速する都市化とセキュリティ強化に向けた取り組み

エグゼクティブ・サマリー

のインターネット)はその典型的な例だ。センサーを使ってデータを収集し、WiFi をつうじて様々な機器から転送することで、遠隔的・効率的なインフラ・サービス管理を実現するなど、IoT は都市運営のあり方に新たな可能性をもたらしている。例えば、スマートメーターをつうじてマンションやオフィスビルを電力網と接続すれば、エネルギー利用の効率化やコスト削減が見込めるだろう。

監視カメラ(CCTV)や Web カメラ、人工知能(AI)、データ・アナリティクスをはじめとするテクノロジーの普及により、都市犯罪やテロリズムに対する警察の対応能力も大きく向上している。

だが、都市の “スマート化” を性急に進めれば、大きなリスクが生じかねない。デジタル・テクノロジーへの投資に見合ったサイバーセキュリティ対策が講じられなければ、都市の脆弱性は高まってしまう。先進都市の多くは(規模は都市ごとに異なるものの)、すでに投資を進めている。しかし財政状況の厳しい都市が、最優先課題としてセキュリティ対策にリソースを投入するのは容易でない。

サイバーセキュリティを軽視すれば、計り知れないリスクを抱えることになる。もしハッカーが電力網を無力化すれば、都市全体が大混乱に陥ることは想像に難くない。都市行政担当者は、こうしたシナリオを現実に起こりうるものとして対策を講じなければならないのだ。

世界には、社会的・経済的ハブとして繁栄する都市が数多く見られる。新興国 * では地方部住民が都市へ流入し、先進国のグローバル都市には世界各国の人材が集中する中で、過去に例を見ない規模のメガシティが生まれている。こうした 1000 万人以上の住民を抱えるメガシティは、2016 年時点で世界に 31 あったが、その数は 2030 年までに 41 へと増加する見通しだ。1 こうした都市の繁栄と表裏一体として浮上する問題が、脆弱性を増しつつある都市の安全といえるだろう。

都市のあり方を考える上でまさに規模は重要な要因となる。セキュリティ上の課題は経済成長や人口増加に比例して拡大・深刻化するからだ。住宅供給能力(スラム化のリスク)や、ヘルスケア、交通網、水道・電力インフラへの負担も、都市化の進行とともに増大する。

人災も例外ではない。ロンドン、パリ、バルセロナをはじめとするヨーロッパ各都市で近年発生した事件が象徴するように、知名度・経済力の高い都市がテロ攻撃の標的となるリスクが高まりを見せている。また所得格差の広がりとともに深刻化する貧富の差は(2011 年の「イギリス暴動」にも象徴されるように)、都市における暴動リスクを高めている。

都市環境に大きな変化をもたらす流れは他にもある。“スマートシティ” の構築に向けた、デジタル・テクノロジーの急速な普及だ。テクノロジーが都市に恩恵をもたらすことはいうまでもない。IoT(Internet of Things = モノ

1 The World's Cities in 2016: Data Booklet, United Nations.   http://www.un.org/en/development/desa/population/publications/pdf/urbanization/the_worlds_cities_in_2016_data_booklet.pdf

* 新興国本報告書では、OECD 非加盟国(シンガポールを除く)を新興国の定義として用いている。

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リマは 13、ヨハネスブルグは 9、ホーチミンは 10、ジャカルタは 13 順位を落とした。

n ラ ン キ ン グ 上 位 を 占 め た の は ア ジ ア・  ヨーロッパの都市総合ランキングのトップ 10 には、東アジア4 都市(東京・シンガポール・大阪・香港)とヨーロッパ 3 都市(アムステルダム・ストックホルム・チューリッヒ)がランクインしている。

n ランキング下位はアジア・中東・アフリカの都市で占められている総合ランキングのワースト 3 位に入ったのは、ダッカ・ヤンゴン・カラチだ。最下位 10都市には、東南アジアの 3 都市(マニラ・ホーチミン・ジャカルタ)、南アジアの 2 都市(ダッカ・カラチ)、中東・アフリカの 2 都市(カイロ・テヘラン)が入っている。

n 都市の安全性と所得水準には依然として密接な関係がある。また高所得都市のランキングは上昇傾向総合ランキングの上位半分は、高所得国の都市によってほぼ独占されている(下位半分は新興国の都市が占める)。また、高所得国14 都市のうち 10 都市は、2015 年版の調査から順位を上げている。

n 都市の安全性を左右する要因は所得レベル だけではない総合ランキングでトップ 10 に入った都市のほとんどは、高所得あるいは中所得層に属する。しかし、高所得層に分類される中東の 2 都市(ジッダ・リヤド)は、ランキングの 40 位圏内に入っていない。

現 代 都 市 に 共 通 す る 特 徴 の 1 つ は、 複 雑に相互連関するシステム・インフラの存在だ。そして、こうした特徴は都市の安全性に大きな影響を及ぼす。例えば、住宅環境の質と住民の健康状態に密接な関連性があることは、多くの専門家によって指摘されている。メディア報道ではテロ攻撃に注目が行きがちだが、より日常的に都市住民の脅威となるのは交通事故のリスクだ。気候変動が加速する中、自然災害も都市の新たな脅威となっている。2017 年 8 月末に米テキサス州ヒューストンを襲ったハリケーン “ハーヴィー” は、災害リスクの脅威を再認識するきっかけとなった。

『Safe Cities Index 2017』では、2015 年版の 4 つのセキュリティ・カテゴリー(サイバーセキュリティ、医療・健康環境の安全性、インフラの安全性、個人の安全性)が引き続き用いられているが、今回は新たに 6 つの指標が設けられた。また 2015 年版から新たに 10 都市がランキングに加わり、調査対象都市は合計 60 に増えている。

本調査の主要な論点は以下の通り:

n 2015 年版の調査と同様、総合ランキング 首位は東京東京の順位は “医療・健康環境の安全性” カテゴリーで前回から 7 つ上昇したが、 最大の強みは “サイバーセキュリティ” 分野だ。一方、“インフラの安全性” ではトップ 10 から脱落し 12 位となった。

n 多くの都市では安全性が低下傾向に2 つの都市(マドリッド[+ 13]とソウル[+6])を除いた多くの都市は、前回よりも順位を落としている。例えばニューヨークは 11、

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n ランキングに影響を及ぼした米国における インフラの質低下“インフラの安全性” カテゴリーでトップ 10に入った米国の都市はなく、トップ 20 を見てもわずか 1 都市(サンフランシスコ)だ。同分野でトップ 10 に選ばれたのは、いずれもヨーロッパの都市(マドリッド・バルセロナ・ストックホルム・アムステルダム・チューリッヒ)と、アジア太平洋の都市だった(シンガポール・ウェリントン・香港・メルボルン・シドニー)。

n 一方、米国の都市はサイバーセキュリティの分野で高スコアを獲得サイバーセキュリティ分野のトップ 10 のうち 4 都市は北米から選ばれている(シカゴ・サンフランシスコ・ニューヨーク・ダラス)。

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はじめに

60 都市を対象とする今回の調査では、急速な都市化が進む新興国と大きな変化の見られない先進国の間で、安全レベルの差の大きさが改めて浮き彫りとなった。総合ランキングのトップ3 は 2015 年と変わらず(東京・シンガポール・大阪)、これら 3 都市のスコアには小数点単位の差しかない。トップ 10 に入った残り 7 つが、主にアジアとヨーロッパの都市であることも同じだ。

EIU が初の『Safe Cities Index (世界の都市安全性指数ランキング)』を発表したのは 2 年前のことだ。世界の都市人口は、それ以来 1 億5000 万人以上増加し、合計 40 億人を超えた。この 2 年間で増加した都市人口の 90%以上は、地方部住民の流入が加速する新興国都市で占められている。一方、多くの先進国都市では人口が概ね横ばい状態にある。高齢化と人口減少を背景に、規模の縮小に直面する都市も見られる。

  * 新たに調査対象となった都市

1 東京     89.802 シンガポール      89.643 大阪     88.874 トロント     87.365 メルボルン     87.306 アムステルダム     87.267 シドニー     86.748 ストックホルム     86.729 香港     86.2210 チューリッヒ     85.2011 フランクフルト     84.8612 マドリッド     83.8813 バルセロナ       83.7114 ソウル     83.6115 サンフランシスコ    83.5516 ウェリントン *     83.1817 ブリュッセル     83.0118 ロサンゼルス     82.2619 シカゴ     82.2120 ロンドン     82.10

21 ニューヨーク     81.0122 台北     80.7023 ワシントン DC     80.3724 パリ     79.7125 ミラン      79.3026 ダラス *     78.7327 ローマ     78.6728 アブダビ     76.9129 ブエノスアイレス   76.3530 ドーハ     73.5931 クアラルンプール *   73.1132 北京     72.0633 アテネ *     71.9034 上海     70.9335 サンチアゴ     70.0336 クウェートシティ   67.6137 リオデジャネイロ   66.5438 サンパウロ     66.3039 メキシコシティー   65.5240 イスタンブール     65.23

41 モスクワ     63.9942 ジッダ *     62.8043 デリー     62.3444 リマ     61.9045 ムンバイ     61.8446 ボゴタ *     61.3647 リヤド     61.2348 カサブランカ *     61.2049 バンコク     60.0550 ヨハネスブルク     59.1751 カイロ *     58.3352 テヘラン     56.4953 キト *     56.3954 カラカス *     55.2255 マニラ *     54.8656 ホーチミン     54.3357 ジャカルタ     53.3958 ダッカ *     47.3759 ヤンゴン *     46.4760 カラチ *     38.77

図 1:Safe Cities Index 2017 総合ランキング

平均値 = 72

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上回る 29 位にとどまった。後者は “インフラの安全性” で下位半分にランクされており、シカゴ

(27 位)とワシントン DC(28 位)の成績も振るわなかった。公共インフラの老朽化は、長い間米国で議論の的となっている問題だ。今回の結果は、こうした議論が具体的アクションに結びついていない現状を浮き彫りにしている。

『Safe Cities Index』は原則として、絶対的安全性よりも相対的安全性を評価対象としている。しかしその点を考慮しても、都市の総合的安全性は 2015 年以来大きく改善していないようだ。先進国(特にヨーロッパ)の都市では、テロ攻撃が “個人の安全性” に影響を与えた。また新興国の都市では、急速な人口拡大とともにインフラや医療サービス、警察への負担が増しており、機能麻痺に陥るケースも見られる。

もちろん改善の兆しが全くないわけではない。少なくとも先進国では、サイバーセキュリティ向上のためリソースを拡大する都市が増えている。例えばソウルは、PC のウィルス感染台数や個人情報の窃盗件数を減らし、同カテゴリーでの順位を 2015 年版のランキングより

今回のランキングで最下位となったのは、新たに調査対象となった 10 都市の 1 つ、カラチだ。カラチのスコアはすべての分野で低調だったが、特に振るわなかったカテゴリーは“個人の安全性”だ(60 位 = 最下位)。その背景は色々と考えられるが、主な要因となったのはランキング対象都市の中で最も頻繁かつ深刻なテロ攻撃を受けている点だろう。2015 年版ランキングの最下位都市ジャカルタは、今回、60 都市の中で 57位となった。その一因となっているのは、カラチ・ヤンゴン・ダッカなどの都市が調査対象に加わったことだ。

今回トップ 30 に入った唯一の新興国都市はブエノスアイレスで、中東のアブダビ(28 位)とドーハ(30 位)に挟まれた 29 位に選ばれている。この 2 都市とならんで中東から調査対象となったジッダ(42 位)とリヤド(47 位)は、先進国都市の中で最もランクが低かった。特に“インフラの安全性” と “個人の安全性” の分野では評価が低い。

一方、新興国都市で最高ランクを獲得したのは、今回から対象リストに加わった都市クアラルンプールだ。総合ランキングでは北京(32位)や上海(34 位)を上回る 31 位に選ばれている。最も評価が高かったカテゴリーは “個人の安全性”(24 位)で、薬物使用やジェンダー・セーフティ、テロ攻撃の脅威といった項目で良好なスコアを獲得した。

今回調査対象となった北米 7 都市は、もれなくランキング上位半分に入ったが、重要分野で他の先進国都市に遅れをとっている。例えば“医療・健康環境の安全性” のカテゴリーでは、ニューヨークが 31 位、ダラスもそれをわずかに

17     サンフランシスコ 91.21

21     ニューヨーク 88.39

21     ロスアンゼルス 88.27

27     シカゴ 87.47

28     ワシントン DC 82.38

34       ダラス 79.23

ランキング    都市名 スコア

図 2 インフラの安全性:米国都市のランキング・スコア

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29 も上げた。だが、安全性のレベルは都市ごとに大きな差が見られるのが実情だ。多くの場合、財源・人・政治など様々なリソースの状況が取り組みレベルを左右している。同様に課題となっているのは、関係者の理解不足だ。ただ後者の場合、取り組みの重要性に対する理解を深め、問題を特定し、他都市の対応を学ぶことで、安全性の向上を図ることができるだろう。『Safe Cities Index』は、まさにこうした目的のために作成されたものだ。

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はずだ。また電力網が攻撃されていれば、銀行から電話、食料の流通網、医療サービスまで、都市のあらゆるサービスがさらに深刻な影響を受けただろう。

フランスのパリを拠点とするNPO New Cities Foundation の John Rossant 理事長は、スマート化を進める都市の増加にともない、サイバー攻撃の脅威がさらに高まることを懸念している。同氏によると、「オープン・プラットフォームのデジタル技術を活用する都市は増加する一方」だ。「こうした流れは喜ばしいことではあると同時に、サイバー攻撃に対する脆弱性が高まることは避けられない。水道、交通、電力などへの影響を考えれば、攻撃の脅威は深刻だ」という。

ニューヨーク大学 ルディン交通政策研究所で都市政策・都市計画を研究する Mitchell Moss教授も、都市のスマート化にともなうリスクを懸念する 1 人だ。Michael Bloomberg ニューヨーク市長のアドバイザーを務めた経験を持つ同氏は、「データは統合されればされるほど、攻撃の標的になりやすい」と指摘する。「皮肉なことだが、複数のコミュニケーション・システムが並存し、縦割り体制で運営されるネットワークの方が脆弱性ははるかに低い。」

今回の調査結果を見ると、いくつかの地域ではサイバー攻撃の脅威に対する取り組みが進んでいるようだ。特にアジアと北米の都市は、“サイバーセキュリティ” のカテゴリーで高い

2016 年 11 月のある土曜日。サンフランシスコの LRT(次世代型路面電車)利用客は、突然運賃の支払いができなくなり騒然となった。2 ハッカーがシステムを運営するコンピュータに侵入し、全てのデータを暗号化。システム復旧の代償として、身代金を要求したのだ。このケースでは翌日に運行が復旧したが、こうした事件は今後増加する可能性が高い。いわゆる“スマートシティ” では、都市インフラとブロードバンドや無線通信可能なセンサー、ビッグデータやアナリティクスが常に接続された状態にある。万全なセキュリティ体制が構築されていなければ、サイバー攻撃に対する脆弱性はますます高まることになる。

本件において、サンフランシスコの自治体が被った金銭的被害は、システム復旧作業中における利用者への無料サービスという限定的なものだった。だが、さらに悲惨な事態を想定することも可能だ。「仮に (運賃徴収システムではなく) 鉄道運行システムが攻撃されていたら、ベイエリアの通勤客が大混乱に陥っただろう」と語るのは、 サイバー攻撃とテロリズムに詳しいニューヨーク市立大学オールバニー校ロックフェラー公共政策カレッジの Brian Nussbaum准教授だ。

システムが平日に攻撃されていれば、そして中枢システムが狙われていれば、何千人という通勤客や学校に向かう子供達、介護のために実家へ向かう乗客などが大勢足止めされた

カテゴリー 1:サイバーセキュリティ

2 Wired: https://www.wired.com/2016/11/sfs-transit-hack-couldve-way-worse-cities-must-prepare/

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サイバー攻撃への長期的な対応能力を強化することは、どの都市にとっても重要だ。“サイバーセキュリティ” の分野でサンフランシスコと並んで 7 位のロサンゼルスは、8 月に米国初の市営サイバー研究所を立ち上げた。官民パートナーシップをつうじて運営される同研究所は、同市のネットワークに対するサイバー攻撃やハッキングを発生後すぐに分析し、企業・住民のネットワーク・電子機器保護に役立つ情報を配信する。5

一方、同カテゴリーで 24 位のロンドンは、同市市長、警視庁、市警察による革新的パートナーシップをつうじ、ロンドン・デジタルセキュリティ・センターを運営している。企業向けトレーニングや研修プログラム、セキュリティ・デジタルフットプリントの分析サービスなどを提供するのが同センターの目的だ。6

その他の都市でも、サイバー攻撃への対応強化に向けた試みが行われている。サイバー

スコアを獲得した。同カテゴリーのトップ 10 は、アジアの 3 都市(東京・シンガポール・香港)と、北米の 6 都市(シカゴ・トロント・サンフランシスコ・ロサンゼルス・ニューヨーク・ダラス)で占められている。

サイバー攻撃への対応のため、警察に専門部署を設ける都市も見られる。同カテゴリーで 5 位の香港はその一例だ。香港は 2015 年、デジタルフォレンジック(犯罪の立証のための電磁的記録の解析技術など)やテクノロジー犯罪抑止といった分野で対応能力の強化を図るため、サイバーセキュリティ・テクノロジー部門を設立した。3

世界的イベントの開催が、サイバーセキュリティ対策強化のきっかけとなることもある。例えば日本の場合、政府は 2020 年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けた準備の一環として、サイバー攻撃対策や基幹インフラ防御への取り組みを加速させている。4

v

1 東京 88.40

2 シンガポール 86.84

3 シカゴ 86.75

4 アムステルダム 85.79

5 香港 85.77

6 トロント 85.33

7 ロスアンゼルス 85.12

7 サンフランシスコ 85.12

9 ニューヨーク 84.95

10 ダラス * 84.65

51 モスクワ 49.03

52 バンコク 44.44

53 カイロ * 43.29

54 カラチ * 43.22

55 テヘラン 39.88

56 ホーチミン 39.78

57 ヤンゴン * 39.07

58 ダッカ * 38.33

59 マニラ * 36.61

60 ジャカルタ 36.60

最上位 10 都市 最下位 10 都市

  * 新たに調査対象となった都市

3 Hong Kong, The Facts, The Police, July 2016. https://www.gov.hk/en/about/abouthk/factsheets/docs/police.pdf 4 Foreign Press Center Japan  http://fpcj.jp/en/assistance-en/briefings_notice-en/p=55298/ and SIP: http://www8.cao.go.jp/cstp/panhu/sip_english/cybersecurity.pdf 5 LA Mayor: https://www.lamayor.org/mayor-garcetti-launches-nation%E2%80%99s-first-city-based-cyber-lab 6 London Digital Security Centre: https://londondsc.co.uk/#aboutus

図 3: サイバーセキュリティ 最上位 10 都市・最下位 10 都市

平均値 = 66.2

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Safe Cities Index 2017加速する都市化とセキュリティ強化に向けた取り組み

ニューヨーク市立大学の Nussbaum 教授によると、財政規模の大きな都市でも、リソース不足によってセキュリティ体制の構築が阻害されるケースは少なくない。「大きな問題を抱えているのは、いわゆるグローバル・シティよりも少し規模の小さな都市だ」と同氏は指摘する。「ニューヨーク市警察には、FBI 職員の 3 倍にあたる 3万 5000 人の警官がいる。そのため、人口規模で世界のトップ 20 に入る都市でも難しいほどの専門性と対応能力を実現できる」という。

同カテゴリーで、全体的にスコアが振るわなかったのは、ラテンアメリカの都市だ。例えばブエノスアイレスは 23 位、リオデジャネイロとサンパウロは同スコアで 49 位にランクされている。「ブラジルのサイバー犯罪発生件数は世界トップレベルだ」と語るのは、ブラジル・ラテンアメリカ・アフリカを対象にセキュリティ・司法・開発問題を研究する独立系シンクタンク Igarapé Institute の共同創業者 Rober Muggah 氏。「その背景となっているのは、同国でかなり早期からインターネット・バンキングが普及したことだ。そのため、非常に進んだハッカーのコミュニティが存在する。」

セキュリティにおいて、この 2 年で順位を上げた都市が 17 あったことは、こうした取り組みの反映だろう。とりわけ良好な結果を残したのは、ランクを12位上げたシカゴだ。大手サイバーセキュリティ企業がいくつも本社を構える同市の Rahm Emanuel 市長は、今年 1 月に新たな研修プログラムの立ち上げを発表した。7 シティ・カレッジズ・オブ・シカゴ(City Colleges of Chicago)との連携をつうじて国防総省が開発した同プログラムの目的は、官民両セクターで基幹ネットワークのセキュリティ対策に携わる専門家の数を増やすことだ。

2017 年版のランキングでは、メルボルン(+10 位)、ソウル(+ 16 位)、イスタンブール(+9 位)のように、こうした取り組みの結果順位を上げた都市がいくつも見られた。

サイバーセキュリティの分野では、財政規模が都市のスコアに少なからず影響を与えているようだ。今回のランキングでも、最下位 5 都市のうち 4 つ(ホーチミン・ヤンゴン・ダッカ・マニラ)は低所得都市だった。こうした都市は、テクノロジー分野で十分な対応能力を持たないことが多く、リソース配分という意味でも伝染病・貧困対策などが優先されがちだ。

都市名 上昇分(位)  上昇分(スコア)

図 4: サイバーセキュリティ 最も順位・スコアを上げた都市と下げた都市

ソウル   16      21.5

シカゴ 12      17.4

メルボルン 10      16.9

イスタンブール 9      18.4

バルセロナ 7      13.2

フランクフルト 7      17.6

アブダビ  -24      -10.4

ムンバイ  -24      -10.0

サンチアゴ  -21      -6.4

ジャカルタ  -17      -8.4

デリー        -16      -5.2

ホーチミン  -14      -5.5

7 City Colleges of Chicago: http://www.ccc.edu/news/Pages/CCC-Cyber-Security-Training.aspx

都市名 下降分(位)  下降分(スコア)

注:2015 年版と 2017 年版の成績比較については、付録ページ(P.28 右段 2 段落目)を参照

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同氏によると、デジタル・テクノロジーの普及が遅れる新興国では、サイバー攻撃に対する脆弱性が目立つ。「発展途上国が抱える大きな課題は、リスクの認識不足から、十分なセキュリティ対策を施さないユーザーが多いことだ」と同氏は説明する。Muggah 氏が(専門用語を駆使して)具体策として挙げるのは、パスワードの定期的な変更、最新セキュリティ・パッチのダウンロード、不審メールの開封を避けることなどだ。また「新興国では、経済成長とともに急ピッチでオンライン・バンキングへの移行が進んでいる。そのため、先進国と比べセキュリティ対策が遅れているのが実情だ」としている。

新興国はテクノロジーの力を駆使することで、本来であれば発展の過程で踏むべき段階を省略することが可能になった。実店舗型の金融機関からインターネットバンクへの移行はその一例だ。しかし南米諸国で見られるように、急速なデジタル化には詐欺・盗難リスクの高まりという代償もつきまとう。

Nussbaum 氏によると、セキュリティ対策を軽視してテクノロジー導入を進める自治体は先進国でも少なくない。「中には予算が十分確保できない中で、テクノロジーを導入しようとする自治体もある」という。「テクノロジー活用に長けた自治体は、導入スピードやコスト・パフォーマンスにこだわらない。こうした

メリットを謳うモデルの多くは、セキュリティ対策に不備があるからだ」と同氏は指摘する。

同氏がテクノロジー導入の注意点として挙げるのは、従来型(ローテク)の危機対応能力を維持することだ。「ウクライナで起きた電力網へのサイバー攻撃(2015 年 12 月発生)で被害が限定的だった理由の 1 つは、電力会社が職員を現地に派遣し、手動で復旧させる能力を備えていたことだ」ということを考えても、「人力のバックアップ体制を維持しておくことは非常に重要だ」という。

一方 Kroll サイバーセキュリティのマネージング・ディレクター Alan Brill 氏が勧めるのは、サイバーセキュリティを専門に統括する最高情報セキュリティ責任者(CISO)を任命あるいは外部から雇うことだ。こうした人材を確保する予算のない小規模自治体には、他の選択肢もある。「町会や教育委員会、消防組合などと連携を図れば、セキュリティ専門家(のサービス)を共有することも可能だ」と同氏は指摘する。

Brill 氏によると、自治体にはあらゆる選択肢を模索し、住民をサイバー攻撃の脅威から守る責任がある。「自治体がスマートシティ化の推進を真剣に考えているのなら、セキュリティ対策を軽視せず、プロジェクトの最重要事項の 1 つとして取り組む姿勢を見せるべきだ。」

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自己防衛ツールとしてのモバイル機器

ビデオをアップロードし、ハラスメントに遭遇した場所・時間・内容などの情報交換を行うことができる。10

市民の安全確保だけでなく、犯罪解決に役立つサービスも存在する。例えば米国では、児童誘拐警報システム アンバーアラート(Amber Alert)をつうじ、州政府や市町村自治体が児童誘拐事件の速報を携帯電話ユーザーに配信している。手がかりになりそうな情報を持つ近隣住民が、画像や場所、電話番号などを自治体に送信できる仕組みだ。同システムを活用し、2017年 2 月時点で合計 868 名の子供が救助されている。11

デジタル・テクノロジーは、都市インフラに新たな脅威をもたらす反面、住民の安全確保や防犯にも役立つ存在だ。アプリ開発企業によるイノベーションやモバイル機器の普及とともに、市民は個人の安全確保とコミュニティのセキュリティ向上、そして犯罪摘発に重要な役割を果たすようになっている。

暴力事件の横行がきっかけとなり、新たなモバイルサービスが生まれたケースもある。例えば武装強盗や銃撃戦が頻発するリオデジャネイロ(“個人の安全性” カテゴリーで 38 位)では、目撃者やメディア、警察の提供する情報を活用し、銃撃戦の発生場所をリアルタイムで追跡するアプリが開発された。アムネスティ・インターナショナルと地元研究者グループが開発したモバイルアプリ “Fogo Cruzado” (十字砲火)は、銃撃戦の発生情報を市民に提供する。また別のアプリ、“Onde Tem Tiroteio”(銃撃戦の場所)も同様のサービスを行っている。8

デ リ ー で は、 女 性 に 対 す る 性 犯 罪 の増加(特に市バスで発生した 23 才医学生のレイプ事件)を懸念した元航空会社役員Elsa D'Silva 氏が、共同創業者とともに女性向けの護身用アプリ “Safecity” を開発している。9 同アプリでは女性市民が写真や

8 Brazil apps track gunfire as Rio de Janeiro violence spikes, Reuters, July 4, 2017.   https://www.reuters.com/article/us-brazil-security-app-idUSKBN19P2C3 Safecity.in: http://safecity.in/externalpages/about.html 9 http://safecity.in/externalpages/about.html10 Can the Safecity app make Delhi safer for women? The Guardian, August 15, 2015. https://www.theguardian.com/cities/2015/aug/13/can-the-safecity-app-make-delhi-safer-for-women 11 US Department of Justice: https://www.amberalert.gov/

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カテゴリー 2:医療・健康環境の安全性

不備が目立つのも事実だ。ランキングの最下位10 都市のうち 9 つは、低所得層(ムンバイ・ヤンゴン・ダッカ・カラチ)もしくは低中所得層に属する都市(ヨハネスブルク・キト・カラカス・ジャカルタ・カイロ)が占めている。

人口の高齢化が進む都市では、住民の健康管理やウェルビーイングを効率的かつ低コストで実現する手段として、テクノロジーの役割が重要となる。例えばシンガポール(13 位)では、健康状態をリモート監視できるテクノロジーを活用し、高齢者の自活を支援している。Elderly Monitoring System は、ネット接続が可能なセンサーを用い、高齢者の日常的な活動を追跡。活動量低下や不規則な行動パターンなどを検知

救急サービスや医療機関、ソーシャルケアをはじめとするヘルスケア・サービスの拡充は、市民の安全確保に向けて政策担当者が重視する課題の 1 つだ。また、交通管理プログラムや緑地の整備といった形で、健康環境を保全する重要性も高まっている。

医療・健康環境の改善には一定の財源が必要となる場合も多いが、各都市の環境は必ずしも財政規模と比例しない。同カテゴリーのトップ10 に入った高所得層の都市はわずか 2 つ(東京・チューリッヒ)で、ドーハ(45 位)などランキングの下位にとどまる都市も多く見られた。

だが財政規模の小さな都市では、医療体制の

 1 大阪 87.15

 2 東京 85.63

 3 フランクフルト 84.06

 4 チューリッヒ 83.39

 5 ソウル 82.72

 6 シドニー 81.80

 7 ブリュッセル 81.41

 8 パリ 81.35

 9 メルボルン 81.34

 10 ストックホルム 79.94

 51 カサブランカ * 58.52

 52 ヨハネスブルク 57.71

 53 キト * 57.46

 54 カラカス * 56.72

 55 ムンバイ 55.74

 56 ジャカルタ 54.40

 57 カイロ * 52.28

 58 ヤンゴン * 45.79

 59 ダッカ * 45.59

 60 カラチ * 39.92

最上位 10 都市 最下位 10 都市

  * 新たに調査対象となった都市

図 5: 医療・健康環境の安全性 最上位 10 都市・最下位 10 都市

平均値 = 69.2

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ランドのヘルスケア研究を専門とするシンクタンク The King's Fund の公共医療・格差問題担当シニアフェロー David Buck 氏は、「組織構造や資金の流れ、報告系統といった意味で、現在の体制はあまりに複雑すぎる」と懸念する。

こうした状況を考えても、自治体が医療分野で果たす役割は決して小さくない。医療と都市の安全性には、骨折治療や疾病予防といった分野にとどまらない関連性があるからだ。都市住民の健康状態に重要な影響を及ぼす健康的な食環境の確保は、その一例だろう。だが食環境の改善は決して容易ではない。例えば、米国の多くの都市は “フードデザート **(食の砂漠)”の問題に直面している。今回のランキングでは、ヨーロッパの都市が “安全かつ質の良い食料へのアクセス” という指標で良好なスコアを獲得する一方、北米の都市はすべて 20 位以下にランクされた。

米国には、こうした現状の改善に取り組む都市も見られる。例えばニューヨーク市の住宅局 は、 園 芸・ 緑 化 ブ ロ グ ラ ム(Garden and Greening Programme)を実施し、公営住宅の住民にガーデニング技術支援やリソースを提供している。14

都市農園の拡大には、こうしたプログラムだけでなく法整備が必要な場合もある。区画制限や認可料金が普及を阻むことも少なくないからだ。例えばシカゴ(27 位)は、一部地域で都市農園の整備を可能にするため、区画規制条例の改正を最近実施した。15

心臓病をはじめとする疾病リスクの軽減には、健康増進や交通事故防止、大気の質向上などの

し、関係者に緊急通知を送ることができる。12

暴力事件と精神疾患には一定の関連性が認められる。そのため、都市で発生する暴力事件の抑止には医療サービスの支援が不可欠だ。暴力事件には犯罪・人種・社会・文化・環境など様々な要因が関係しているが、精神疾患をその1つとして挙げる研究は多い。暴力事件のリスク評価を目的とした専門的ガイドライン“HCR-20”は、20 項目あるリスク要因リストの中に、精神疾患や人格障害に直接関連する要因を 4 つ含めている。13

「精神疾患とその治療を考えれば、ヘルスケア・セクターと都市の安全性には興味深い関連性がある」と指摘するのは、欧州都市安全フォーラム(European Forum for Urban Security)のエグゼクティブ・ディレクター Elizabeth Johnston 氏。同フォーラムのフランス支部エグゼクティブ・ディレクターも兼任する同氏によると、医療関係者は病状管理のサポートだけでなく、高リスク患者の特定にも重要な役割を果たすことができる。「多くの都市は、(個人の権利を侵害しない形で)都市の安全に役立つ情報を専門家同士で交換するプログラムを実施している」という。

だが多くの都市は、医療サービスの分野で組織の壁という大きな課題に直面している。犯罪防止・交通・インフラといった分野を管轄する一方で、ヘルスケア分野の権限は地方自治体や国に委ねている都市が少なくないためだ。例えばロンドンでは、同分野の各種権限が市長室、地元自治体、国民保健サービス(NHS)そして持続可能性・変革パートナーシップ・プログラム(STP)* に分割されている。イング

12 Intellectual Property Intermediary (under Singapore’ s Ministry of Trade and Industry): https://www.ipi-singapore.org/technology-offers/elderly-monitoring-system-ems 13 Mental Illness, Personality Disorder and Violence: A Scoping Review, The Offender Health Research Network, 2012. http://www.ohrn.nhs.uk/OHRNResearch/MIviolence.pdf 14 NYC.gov: http://www1.nyc.gov/site/foodpolicy/help/urban-growing-and-gardening.page 15 City of Chicago: https://www.cityofchicago.org/city/en/depts/dcd/supp_info/urban_agriculturefaq.html

*STP(Sustainability and Transformation Partnership programme) 地域ごとのニーズに即した医療政策の提案を行う英国の連携プログラム。2016 年 3 月に設立された。

** フードデザート(食の砂漠/ Food desert) ファーストフード店やコンビニエンスストアは多数あるが、生鮮食料品を安く買える店がほとんどない地域のこと。

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ワシントン DCフランクフルトクウェートシティ

ダラスモスクワ

ヨハネスブルクシカゴジッダリヤド

クアラルンプールイスタンブールニューヨークロスアンゼルス

マニラウェリントンテヘラントロントリマソウル

サンチアゴ

0 10,000 20,000 30,000 40,000

住民100万人あたりの自動車交通事故 年間発生件数資料: 現地データソース・EIUによる推計

今回の調査では、車両事故頻度を評価した指標で最も良好な成績(つまり事故頻度が少ない)を上げた 10 都市のうち 9 つが新興国の都市だった(残り 1 都市はアテネ)。その一因として考えられるのは、自動車の数が少ないために事故件数も少なくなっているという実情だ。しかし事故の報告件数が少ないことも、こうした結果につながっている可能性がある。

都市が直面するリスクとして、テロ攻撃が大きな注目を浴びることも多い。だが、交通事故による 2015 年の死亡者数は 120 万人と、テロ事件による死亡者数 3 万人をはるかに上回っている。16

取り組みが欠かせない。ウォーキングコースや緑地の設置は、その対策として有効だ。Buck 氏によると、「近年の研究により、アクセスが容易で良質な緑地の整備は、精神疾患の予防につながることが明らかになっている」という。

都市デザインの調整も、事故抑止の手段として重要な役割を果たす。「傷害死亡率、特に事故死亡率は、都市の安全性を評価する指標として重要だ」と指摘するのは、ドレクセル大学学長で公共医療学部教授を務める疫学の専門家 Ana Diez Roux 氏。「都市によって実情は異なるが、新興国には交通事故関連の死亡率が極めて高い国も見られる」という。

図 6: 自動車交通事故の発生率

16 Brookings, “Securing global cities: Best practices, innovations, and the path ahead” , March 16. https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2017/03/fp_201703_securing_global_cities.pdf

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都市のレイアウト・デザインは、他にも様々な形で医療・健康環境に影響を与える。Diez Roux 教授によると、「物理的な都市環境は、活発な人・交通の流れを左右する」という。「例えば、(車の “運転しやすさ” よりも )“歩きやすさ”(walkability)を優先すれば、歩行者環境を向上させることができる。同じように、公共交通機関の利用を拡大すれば、大気の質を改善し慢性疾患の発生率を抑えることができる。」

Buck 氏もこの見方に同意し、「住民すべての健康問題を解消できるわけではないが、住宅・交通機関・緑地・自転車の利用などを促すように(そして健康環境を向上するように)都市をデザインすることは可能だ」と指摘する。

基本計画をベースに建設される新都市は、設計段階で健康環境やウェルビーイングに配慮し、インフラやサービスをゼロから構築できるという利点を持つ。2001 年にプロジェクトが開始され、埋め立て地に建設されたソウル近郊のハイテク都市 松島(ソンド)は、こうした都市の一例だ。同都市では、すべての住民が徒歩でオフィス地区へ通勤できるよう、中心部に公園が

配置されている。近隣地域へ徒歩でアクセスを可能にし、サイクリング道路も充実させることで、健康的ライフスタイルを促すのが狙いだ。17

都市政策の分野では、ヘルスケア戦略の重要性が認識されつつある。自治体の権限がすべての側面に及ばなくても、その重要性は変わらない。例えば英国のグレーターマンチェスターでは、地元自治体の権限拡大に取り組むプロジェクト DevoManc が進められている。またロンドン(19 位)も、London Partners と呼ばれるプロジェクトを実施している。臨床委託グ ル ー プ(Clinical Commissioning Group = CCG)や各自治区、市庁、市長、NHS イングランド、イングランド公衆衛生サービス(Public Health England)が連携して進める同プロジェクトの目的は、意思決定やリソース配分に各地域住民の意思をより反映させることで医療・健康環境がどのように変化するのか検証することだ。18 Buck 氏によると、「イングランド公衆衛生サービスの幹部は、このプロジェクトをつうじて各自治区の区長との関係を深めている」という。「ヘルスケア分野で権限を拡大する試みが、都市自治体の意識を変えつつある。」

17 Alexandra Lich ́ a, Songdo and Sejong: master-planned cities in South Korea, 2015. https://halshs.archives-ouvertes.fr/halshs-01216229/document18 London.gov: https://www.london.gov.uk/what-we-do/health/london-health-and-care-devolution/what-health-and-care-devolution-means-london

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 1 シンガポール 97.05

 2 マドリッド 96.76

 3 バルセロナ 96.59

 4 ストックホルム 96.18

 5 ウェリントン * 96.13

 6 アムステルダム 96.05

 7 香港 96.04

 7 メルボルン 96.04

 9 シドニー 95.73

 10 チューリッヒ 95.71

 51 ムンバイ 59.12

 52 デリー 58.49

 53 カラカス * 58.42

 54 リヤド 56.88

 55 ヨハネスブルク 55.06

 56 マニラ * 52.89

 57 キト * 52.03

 58 ヤンゴン * 48.58

 59 カラチ * 40.11

 60 ダッカ * 38.42

最上位 10 都市 最下位 10 都市

カテゴリー 3:インフラの安全性

典型的な例だ。米国の都市はトップ 10 に 1 つも入っておらず、高所得層に属するワシントンDC とダラスは、ともに同カテゴリーでスコアが最も低かった。

同様に高所得層の都市であるリヤド(54 位)も、2015 年版の調査から順位を 14 下げた。その一因となったのは、近年の原油価格下落を受けた政府の緊縮財政だろう。

こうした例外は見られるものの、高所得層の都市はこのカテゴリーのスコアが概ね高い。トップ 10 に選ばれた都市は、いずれも高所得層あるいは中高所得層に属している(シンガポール・マドリッド・バルセロナ・ストック

2017 年 6 月にロンドン西部で発生し、およそ80 名の死亡者を出したグレンフェルタワー火災の映像は世界に衝撃を与えた。低所得者向け高層公営住宅の住民に対する安全保護対策が不十分だったとして、地元自治体は大きな批判にさらされている。深刻な被害をもたらしたこの火災は、建物・道路・橋といったインフラの安全確保が、都市の重要な任務であることを再認識する出来事となった。

インフラの安全性向上に財源が必要なことは確かだ。だがこのカテゴリーのランキングを見ると、高所得都市が必ずしも上位に入っているわけではない。与野党両議員が長い間インフラ投資拡大の必要性を訴えている米国は、その

* 新たに調査対象となった都市

図 7:インフラの安全性 最上位 10 都市・最下位 10 都市

平均値 = 78.2

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住地域も拡大の一途をたどっている。中には、水道や下水処理システムといった基本インフラを欠く地域もある。Lewis 氏は、「都市は富の源泉だ(あるいはそういうイメージがつきまとう)。管理体制が十分でなければ、今後も非計画居住地が増加していくだろう」と指摘する。

そ し て 人 口 拡 大 は、 高 所 得 層・ 低 所 得 層両方の都市でインフラの負担を増大させている。2016 年時点で人口 100 万人以上の都市は512 あったが、2030 年までにその数は 662 に増加する見込みだ。20 「都市化の加速、人口の過密化、経済格差や各種サービスへのアクセスギャップ。こうした事態が深刻化すれば、社会・政治問題や政情不安の要因になりかねない」と指摘するのは、ストックホルム国際平和研究所**(Stockholm International Peace Research Institute)ディレクターの Dan Smith 氏。都市サービスの利用者が増加すれば、安全・治安上のリスクが生じるという。その一例として同氏が挙げるのは、ラッシュアワーが交通インフラにもたらす負担だ。「人がひしめき合うような状態の中で安全性を確保するのは極めて難しい。」

新興国でインフラ問題を悪化させているのは、都市計画専門家の不足だ。国連人間居住計画のデータによると、英国には 10 万人あたり 38人の専門家がいるのに対し、ナイジェリアではわずか 1.44 人、インドでは 0.23 人だ。21 今回調査対象となったインドのデリー・ムンバイは、いずれも “都市の安全性” カテゴリーで最下位10 都市に入っている。

都市インフラへさらに脅威をもたらしているのは、ハリケーン・洪水・暴風といった自然災害の深刻化と頻繁化だ。2011 年にタイで起きた

ホルム・ウェリントン・アムステルダム・香港・メルボルン・シドニー・チューリヒ)。

最下位 10 都市のうち 6 都市は、低所得の都市だった(ムンバイ・デリー・マニラ・ヤンゴン・カラチ・ダッカ)。都市の所得レベルに関わりなく、既存インフラの更新には大規模な投資が必要だ。しかし国連人間居住計画(UN Habitat) 都市リスク軽減部門の責任者 Dan Lewis 氏によると、インフラの安全性は予算規模だけでなく、運営体制の質にも左右されるという。都市レジリエンス・プロファイリング・プログラムの責任者も務める同氏は、「インフラが管理責任者の意図を直接反映する形で機能することが重要だ」と指摘する。「インフラの質は劣るが、ガバナンスや管理・規制体制は優れている都市もある。その一方で、インフラの質は高いものの、管理体制に不備がある都市も見られる」という。

インフラ投資の際、自治体は相反する様々なニーズに直面する。ブルッキングス研究所の外交政策シニアフェローで 2017 年発表の報告書

『Securing Global Cities』 の 著 者 Michael O’Hanlon 氏によると、「経済レベルが高く、広範な課税ベースを持つ大都市は、病院・学校・インフラなどに大規模な投資を行えるため、シナジー効果を得やすい」という。また「質の高い学校や病院があっても、インフラや警察の質が低ければ、経済成長は実現しにくい」と述べている。

新興国で都市インフラの負担増大の一因となっているのは、急速な人口拡大(特に地方部から流入する若者)だ。世界で最も急速に人口が増加する 47 都市のうち、6 つはアフリカの都市で 40 はアジアの都市(中国が 20)だ。19

都市化の進行にともない、スラムや未計画居

19 The World Cities Report 2016, Urbanization and Development: Emerging Futures, UN Habitat. https://unhabitat.org/un-habitat-launches-the-world-cities-report-2016/ 20 The World’ s Cities in 2016: Data Booklet, United Nations. http://www.un.org/en/development/desa/population/publications/pdf/urbanization/the_worlds_cities_in_2016_data_booklet.pdf 21 UN Habitat: http://wcr.unhabitat.org/quick-facts/

** 同研究所は今年 9 月、第2 回ストックホルム・セキュリティ会議(Stockholm Security Conference) “混迷の時代における都市安全性”(Secure Cities in an Insecure World)を開催した。

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れなかった場合の年間被害額は、1 兆米ドル(約112 兆円)に達するという。22

「世界の都市の 3 分の 2 が沿岸部にあることを考えれば、海面上昇がもたらす脅威は深刻だ」と指摘するのは Igarapé Institute の Muggah氏。「防災上の観点からだけでなく、防止から環境順応・リスク緩和へのパラダイムシフトという意味でも大きな課題になるだろう。」

だが自然が都市にもたらすのは脅威ばかりではない。気候変動にともなう自然環境の変化が新たな脅威をもたらす一方、自然の力を利用

洪水や、2012 年にニューヨークとニュージャージーを襲ったハリケーン・サンディ、今年テキサス州ヒューストンに甚大な被害をもたらしたハリケーン・ハーヴィーなどは記憶に新しい。

こうした災害は、人命だけでなく都市財政にも大きな被害をもたらす。世界銀行と OECD が行なった研究によると、洪水の平均被害総額は2005 年時点の年間 60 億米ドル(約 6720 億円)から、2050 年までに 520 億米ドル(約 5 兆8200 億円)へと増加する見込みだ。また現在、海面上昇や地盤沈下の進行が世界各地の沿岸部大都市に脅威をもたらしている。対策が講じら

マニラパリキト

ブリュッセルリマカラチロンドン

サンチアゴ台北デリームンバイ大阪東京ボゴタヤンゴンメルボルンシドニーミラノローマ

ホーチミン

0 5 10 15 20 25

住民100万人あたりの年間死亡者数

資料:EM-DAT・EIUによる推計

22 Future flood losses in major coastal cities, December 2012: http://www.nature.com/nclimate/journal/v3/n9/full/nclimate1979.html cites on the World Bank website at: http://www.worldbank.org/en/news/feature/2013/08/19/coastal-cities-at-highest-risk-floods

図 8:自然災害による犠牲者

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して対策を講じることも可能だ。透水性舗装やプランターの設置、屋上緑化など、いわゆる “グリーンインフラ” を活用すれば、暴風雨による洪水を未然に防ぐこともできる。自治体がグリーンインフラの設置を促進するインセンティブを打ち出せば、一定の効果を上げるはずだ。例えばワシントン DC は、特定地区内でビルを建設する場合にグリーンインフラの設置を義務付けている。こうした取り組みが難しい地域では、対象外地域でサステナビリティ・プロジェクトに取り組む開発業者から、“雨水貯留クレジット” を購入可能だ。23

グリーンインフラは、気候変動の抑止・軽減にも効果をもたらす可能性がある。トロントで行われたシミュレーション試験によると、屋根総面積の半分が緑化された場合、気温が同市全体で 1 〜 2 度(華氏)下がるという。24

スマート・テクノロジーの進化もインフラの安全性向上を後押しする要因だ。センサーを使って基幹サービスネットワークを監視すれば、水やエネルギーの節約につながるだけでなく、

遠隔的にネットワークの状態をチェックできる。そうすれば、人による監視作業よりも早期に問題発見・解消が可能だ。

またスマート・テクノロジーを活用すれば、低地の都市インフラを洪水から守ることもできる。例えばオランダ水運管理局(Rijkswaterstaat)は、独立系の応用研究機関 Deltares と連携して“スマート堤防” を開発中だ。スマート堤防にはセンサーが組み込まれており、リアルタイムで状態を監視。補修作業の必要性や洪水発生時の避難を早期に判断するのに役立つという。25

テクノロジーを活用すれば、インフラの安全性向上に向けた取り組みに住民が参加することも可能だ。ソウル(25 位)はスマート化プロジェクトの一環として、スマートフォンを使ったインフラ異常の通報システムを開発した。壁の綻びや道路陥没などを見つけた住民は同システムを利用し、発見場所や現場写真、具体的な状況などの情報を市の担当者に送ることができる。通報した住民は、その後の補修状況を確認することも可能だ。26

23 DC.gov: https://doee.dc.gov/service/stormwater-retention-credit-trading-eligibility-requirements24 Performance of Green Roof Systems, National Research Council, Canada, Report No. NRCC-47705, Toronto, Canada, 2005. http://nparc.cisti-icist.nrc-cnrc.gc.ca/eng/view/object/?id=a3f06fba-bf23-4b72-a2e9-881eafda6613 25 YaleEnvironment360, To Control Floods, The Dutch Turn to Nature for Inspiration, February 2013. http://e360.yale.edu/features/to_control_floods_the_dutch_turn_to_nature_for_inspiration 26 Smart Seoul Status & Strategies, Shin Jong-woo, Director, Information Planning Division Seoul Metropolitan Government, slide 8. https://seoulsolution.kr/sites/default/files/gettoknowus/Smart%20Seoul%20Status%20%26%20Strategies%20for%20e-Government_201604.pdf

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カテゴリー 4:個人の安全性

亡くなった犠牲者は、世界全体で 3 万人。一方、殺人事件の死亡者数は 44 万人だった。27

“ 個 人 の 安 全 性 ” の 分 野 で、 最 も 評 価 が高かった地域はアジアだ。このカテゴリーでは、上位 10 都市のうち 5 つをアジアの都市が占め、日本の 2 都市も選ばれている(シンガポール・大阪・東京・台北・香港)。こうした結果が見られた背景には、同地域の文化的価値観がある。

2017 年 8 月、バルセロナ ランブラス通りでテロ事件が発生し、群衆に突入してきたバンに多くの通行人がなぎ倒された。同事件の前にも、ニースやロンドンの国会議事堂近くにあるウェストミンスター橋などで、車を使った同様のテロ攻撃が行われている。こうした事件が人々に衝撃を与えたことは事実だが、テロ事件による犠牲者の数は、都市犯罪や暴力事件のそれをはるかに下回る。2015 年にテロ攻撃で

カラチイスタンブール

ムンバイバンコクダッカカイロパリ

クウェートシティデリーボゴタ

ブリュッセルメキシコシティジャカルタテヘラン香港

モスクワヤンゴン北京マニラアテネ

0 25 50 75 100 200 300 400 500 600

年間平均負傷者数・死亡者数

資料: 世界テロリズムデータベース・EIUによる推計(数値は2007~2016年の平均値)

27 Brookings, “Securing global cities: Best practices, innovations, and the path ahead” , March 16. https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2017/03/fp_201703_securing_global_cities.pdf

図 9:テロ攻撃の頻繁度と深刻度

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政策プログラムの教授でフィラデルフィア市長を務めた経験も持つ Michael Nutter 氏。「都市を攻撃すれば、メディアから最も大きな注目を浴びることもできる。」

暴力事件・犯罪・交通事故などと比較すれば犠牲者数の少ないテロも、数字では計り知れない影響を都市にもたらすことがある。「テロ攻撃は社会のつながりに対する脅威と捉えられることが多い」と指摘するのは欧州都市安全フォーラムの Johnston 氏。「世界では、ヘイトクライムや異なるグループ間の衝突も増加しつつある。」

都市計画の専門家に今求められているのは、人の移動の自由を確保しながら、テロ攻撃から市民を守るバランスのとれた方策だ。ストックホルム国際平和研究所の Smith 氏は、「市民の行き来を妨げず都市中心部の安全を確保するために、何をどの程度できるのか。これは都市のあり方に関わる問題だ」と語る。「最近ではどの

「アジアの都市、特に日本がトップを占めたのは、ある意味自然なことだ。文化的要因も影響を及ぼしているだろう」と語るのは New Cities Foundation の Rossant 氏。 例 え ば 警 視 庁 のデータによると、東京で昨年落とし物として届けられた現金の総額は約 36 億 7 千万円だった。そのうち 4 分の 3 は、持ち主の元へ無事に返されたという。28

死亡者数という意味で比較的低いレベルにあるとはいえ、テロリズムは都市にとってますます大きな脅威となっている。今回の調査では、テロ攻撃に関する指標の最高値を記録した都市が、ヨーロッパ(バルセロナ・アムステルダム)、アメリカ・アジア・中東などすべての地域で1 つ以上見られた。

「都市は地球上で最も人口密度の高い場所だ。テロリストが人っ子一人いない野原の真ん中よりも人の多くいる都市を標的にするのは当然だろう」と語るのは、コロンビア大学 都市公共

 1  シンガポール 94.94

 2  ウェリントン * 92.28

 3  大阪 91.59

 4  東京 91.57

 5  トロント 91.52

 6  台北 90.02

 7  香港 89.75

 8  メルボルン 88.52

 9  ストックホルム 87.93

 10  アムステルダム 87.42

 51  ジャカルタ 59.24

 52  テヘラン 59.18

 53  モスクワ 58.00

 54  ヨハネスブルク 57.65

 55  ボゴタ * 55.66

 56  キト * 55.41

 57  ヤンゴン * 52.43

 58  ホーチミン 50.53

 59  カラカス * 47.36

 60  カラチ * 31.85

最上位 10 都市 最下位 10 都市

* 新たに調査対象となった都市

28 This May Be the World’ s Most Honest City, Bloomberg Markets, March 17, 2017. https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-03-14/this-may-be-the-world-s-most-honest-city

図 10:個人の安全性 最上位 10 都市・最下位 10 都市

平均値 = 74.4

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氏。「我々の調査によると、暴力事件発生率が最も高い 50 都市のうち 43 はラテンアメリカの都市だ。そのうち 25 都市はブラジルにある。」

こうした現状は、今回のランキングにも反映さ れ て い る。 ラ テ ン ア メ リ カ の 都 市 は、 同カテゴリーで全体として下位にとどまった(例えばサンチアゴ[36 位]、サンパウロ[37 位]・リオデジャネイロ[38 位])。45 位のメキシコシティ、48 位のリマ、55 位のボゴタ、56 位のキトなど、さらに下位にランクされた都市もある。政情不安と食料不足に直面するベネズエラのカラカスが、下から 2 番目の 59 位にランクされたことも驚きに値しない。

ラテンアメリカ諸国は都市犯罪への対応に苦慮しているが、自治体は犯罪や殺人事件の撲滅に役立つ様々なツールを活用可能だ。テクノロジーはそうしたツールの 1 つだろう。例えば、街灯を防犯手段として使う自治体は増えている。一見すると何の変哲もない街灯柱も、消費電力から大気汚染レベル、信号、駐車スペースなどの監視ツールとして活用できる。またセンサーを組み込んで騒音レベルの変化を監視すれば、犯罪や暴動の予兆を検知することも可能だ。

監視カメラ(CCTV)も、多くの都市で有効な防犯ツールとして活用されている。「ロンドンや東京の街角を見渡せば、あらゆるところに監視カメラが設置されているのがわかる」と語るのは、New Cities Foundation の Rossant 氏。

監視カメラや Web カメラに、顔認識・歩行分析・行動検出といった人工知能(AI)テクノロジーを組み合わせれば、発生と同時に犯罪行動・異常行動の検知・通報が可能となり、緊急対応

ような物理的バリアが設置可能で、どのようなバリアは設置できないのか、様々な優れたアイディアが提案されている。」

デザイン面に注意を払いながら物理的防御策を講じれば、都市が要塞のように人を遠ざけることもない。例えば、歩車分離ポストコーンなどの都市インフラやストリートファーニチャー

(道路沿いに設置された物や機器)を導入すれば、安全強化の手段として活用できるだろう。情報案内施設、ベンチ、パーキングメーター、ニューススタンド、バス停のシェルターといった構造物の強度を上げれば、車を使ったテロ攻撃に対する防衛手段となる。

“個人の安全性” のカテゴリーでトップ 10 に選ばれたのは、すべて高所得層あるいは中高所得層に属する都市だった(シンガポール・ウェリントン・大阪・東京・トロント・台北・香港・メルボルン・ストックホルム・アムステルダム)。

若者による暴力行為は、全世界の都市に共通して見られる問題だ。特に若者の失業率が高い都市ではその傾向が顕著となる。世界銀行によると、格差・貧困・差別に直面する若者は、犯罪・暴力行為・薬物使用などに手を染めやすいという(こうした若者は “youth at risk”[危険にさらされた若者]と呼ばれる)。29

一方、ラテンアメリカ諸国やカリブ諸国は、世界銀行によって “甚大な規模の課題”(challenge of epidemic proportions)とレッテルを貼られるほどの状況に直面している。これらの地域で発生する殺人事件は、1 日当たり 400 件(14分に 1 件)にも上る。30 「ラテンアメリカ諸国では、殺人事件の発生率が世界で最も高い」と指 摘 す る の は Igarapé Institute の Muggah

29 Supporting Youth at Risk A Policy Toolkit for Middle Income Countries, World Bank, 2008. http://documents.worldbank.org/curated/en/514781468175152614/pdf/437050WP0ENGLI1YouthAtRisk01PUBLIC1.pdf30 Urban Violence: A Challenge of Epidemic Proportions September 6, 2016, World Bank. http://www.worldbank.org/en/news/feature/2016/09/06/urban-violence-a-challenge-of-epidemic-proportions

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カメラネットワーク拡大を熱心に唱える国民も少なくない」という。

都市の安全強化には、テクノロジーだけでなくデザインも重要な役割を果たす。そのキーワードとしてコロンビア大学の Nutter 教授が挙げるのは、3R(レストラン[restaurant]・小売

[retail]・住宅[residential])だ。同氏によると、「人の行き来やビジネス、住民の活動で地域が活気づければ、安全性の向上にもつながる」という。

「あまり注目されることはないが、こうした取り組みと一緒に質の高い照明インフラを導入することも有効な手立てだ。」

暴力事件や犯罪が蔓延する都市でも、様々な戦略を組み合わせることで状況を改善できる。その一例として挙げられるのがコロンビアのメデジンだ。同市は犯罪・麻薬撲滅戦略の推進と並行し、社会のつながり強化や都市インフラ刷新(公共交通機関・図書館・コミュニティセンターなど)といった取り組みを行っている。

「同市の場合、国と自治体のパートナーシップが特に効果を発揮した」と指摘するのは、ブルッキングス研究所の O'Hanlon 氏。「こうした取り組みは、様々なレベルの行政機関がコストを共同負担することで初めて実現したものだ。」

米州開発銀行(Inter-American Development Bank)の市民安全対策リードスペシャリストNathalie Alvarado 氏によると、ラテンアメリカ諸国の都市犯罪・暴力事件対策には包括的なアプローチが求められる。犯罪や暴力事件は、個人に対する攻撃から麻薬密輸まで様々な理由で発生する。同氏が統合的アプローチを重視するのはそのためだ。「事件の発生を抑止することも大事だが、根本的な原因に目を向けることも必要だ」と同氏は指摘する。

も し や す く な る。 例 え ば 中 国 で は、 警 察 とテクノロジー企業が連携し、市民の行動監視能力を強化している。31

新たなツールの普及やテロ事件の増加、都市人口の拡大などを背景に、監視テクノロジー市場は急速な成長を遂げている。IHS Markit の予測によると、2012 年時点で 20 万台だった法人向け HD 監視カメラ市場の販売台数(世界全体)は、今年中に約 2900 万台へと増加する見込みだ。32

監視カメラの導入という点ではロンドンが有名だが、中国でもテクノロジーの活用が急速に進んでいる。政府の公式機関紙 人民日報は 2015 年、北京の「あらゆる街角」にビデオ監視カメラを設置したと発表している。33

だが監視テクノロジーの活用を検討する際には、細心の注意が必要だ。人種的分析や、“ビッグ・ブラザー” による監視を警戒する都市住民が、導入に反対する可能性もあるからだ。例えば米国では、アメリカ自由人権協会(the American Civil Liberties Union)が“警察監視体制のコミュニティ管理”(Community Control Over Police Surveillance = CCOPS)と呼ばれるプログラムを発足した。同プログラムの目的は、各都市の警察が市民や自治体議員の関与なしに監視体制の構築を進めないようチェックすることだ。34

防犯対策の効果を可視化すれば、住民の理解を得やすくなる。例えばシンガポールでは、街中に設置された何万台もの警察監視カメラ(PolCam)を活用し、2012 年のプログラム開始以来 1000 件以上(同国政府調べ)の事件解決に役立ててきた。同国首相官邸の管轄下にある法定機関 GovTech の CEO Jacqueline Poh 氏によると、「こうした目に見える結果を残すことで、国民の高い支持を獲得できた。監視

31 China seeks glimpse of citizens’ future with crime-predicting AI, Financial Times, July 23, 2017.   https://www.ft.com/content/5ec7093c-6e06-11e7-b9c7-15af748b60d032 Top Video Surveillance Trends for 2017, IHS Markit. https://cdn.ihs.com/www/pdf/TEC-Video-Surveillance-Trends.pdf 33 Beijing police have covered every corner of the city with video surveillance system, People’ s Daily, October 5, 2015. http://en.people.cn/n/2015/1005/c90000-8958235.html34 ACLU: https://www.aclu.org/issues/privacy-technology/surveillance-technologies/community-control-over-police-surveillance?redirect=feature/community-control-over-police-surveillance

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都市犯罪がもたらす経済的コスト

Competitiveness Report)では、犯罪・盗難事件発生率がビジネス進出の大きな足かせになっていることが指摘されている。同レポートでは、犯罪と盗難が南アフリカ市場参入を検討する企業にとって最も大きな課題とされる 16 要因のうち 6 位に挙げられている。スイスとシンガポールで、こうした要因が下から 2 番目にランクされたのとは対照的だ。36

こうした点を考えても、自治体が都市犯罪や暴力事件撲滅に取り組むべき理由は、住民への義務にとどまらない。健全なレベルの税収を確保し、都市としての競争力を維持するためにも、効果的な対策が不可欠なのだ。犯罪や暴力事件が蔓延するラテンアメリカ諸国の都市も、大きな損失を強いられている。「ラテンアメリカ諸国の現状がもたらす経済コストは膨大なものだ」と指摘するのは、米州開発銀行の Alvarado 氏。「我々が最近行なった研究によると、犯罪・暴力事件による損失は、(ラテンアメリカ全体の)年間 GDP の平均 3%、約 2610 億米ドル(約 29.2 兆円)に達している。」

同氏によると、コストが発生するのは警察や司法といった分野だけではない。失われた収益機会や、加害者の服役による労働力減少といった形でも自治体に損失を強いる。事態をさらに深刻化させているのが、若者世代の事件関与率が最も高い現状だ。

「彼らは国の将来を担う存在だ」と同氏は語る。「我々にとって、犯罪や暴力は単なる安全性だけでなく、国・都市の経済発展を左右する問題だ。」

犯罪や暴力事件、破壊行為には、人的被害だけでなく経済的コストもつきものだ。そして、物理的損害は収益機会の損失につながり、自治体の防犯対策予算をさらに減少させるという負の連鎖を引き起こす。

米 国 先 端 政 策 研 究 所(Center for American Progress)が米国 8 都市を対象に行った研究によると、2010 年に発生した殺人・レイプ・襲撃・強盗事件の直接被害額は 420 億米ドル(約 4.7 兆円)にも上る(被害者・加害者[逮捕・服役後]両方にかかる警察・刑事司法機関のコスト、被害者の治療費、喪失所得などを含む)。35 こうした暴力行為は不動産価値、ひいては都市の財政にまでマイナス影響を及ぼすという。例えば、ボストンで殺人事件発生率が 25%低下すると、住宅価格は 110 億米ドル

(約 1.2 兆円)上昇する見込みで、自治体の税収拡大(固定資産税など)にもつながる可能性が高い。

犯罪発生率が上昇すれば、住宅所有者保険の保険料も高くなり、住民の生活コスト増加を招く。大家も住人も、防犯照明・フェンス・防犯カメラ・CCTV といった最新セキュリティ機器の導入を余儀なくされ、最終的にその影響は都市全体に及ぶ。例えば、高いスキルを持つ人材の確保が難しくなれば、企業投資の誘致に支障が出るはずだ。

“個人の安全性” カテゴリーで 54 位にランクされたヨハネスブルグは、今まさにこうした課題に直面しており、世界経済フォーラムの作成した『世界競争力レポート 2015-2016』(Global

35 Center for American Progress, The Economic Benefits of Reducing Violent Crime, 2012   https://cdn.americanprogress.org/wp-content/uploads/issues/2012/06/pdf/violent_crime.pdf36 The Global Competitiveness Report 2015–2016, World Economic Forum, 2015.    http://www3.weforum.org/docs/gcr/2015-2016/Global_Competitiveness_Report_2015-2016.pdf

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おわりに

増加や移民など)や気候変動リスクは、都市インフラと経済・社会システムにかかる負担を増大させている。

都市の規模が拡大するにつれ、原子力発電所 の メ ル ト ダ ウ ン、 自 然 災 害、 犯 罪 組 織 やテロ攻撃などの壊滅的被害に直面するリスクは高まる一方だ。

様々なリスクに向き合わなければならない自治体には、数多くの手段が存在することも事実だ。例えばテクノロジーを利用すれば、都市インフラや犯罪捜査の効率化が図れるだろう。モバイルアプリという武器を手にした住民も、犯罪抑止や汚染レベル監視など、ステークホルダーとして様々な形で取り組みに貢献できる。

今日、都市の安全性は地元自治体や住民の関心事に留まらない。世界のトップ 600 都市が グ ロ ー バ ル 経 済 の GDP の 60 % を 占 め るなど、都市の重要性は地球規模で拡大しているからだ。37 今や世界人口の半数以上が都市に住んでおり、その割合は 2030 年までに 60%へ増加する見込みだ。38

193 の 国 連 加 盟 国 は 2015 年、 地 球 環 境保全と貧困撲滅を目指し、持続可能な開発目標

(Sustainable Development Goals [SDGs])を採択した。SDGs が掲げる 17 の目標の 1 つに都市問題が挙げられていることも、こうした流れを考えれば当然のことだ。目標第 11 では、

都市の安全強化に向けた取り組みで、自治体は様々な側面を考慮する必要がある。その多くは、相互に関連する要因だ。例えばサイバー攻撃は、電力・水道などのシステムを無力化できる力を持つ。そのため、インフラの安全性を高めるには、サイバーセキュリティの強化が不可欠だ。また、それらの物理的インフラは、呼吸器疾患など慢性病の予防や交通事故被害の抑止(つまり医療・健康環境の安全性)に影響を与えるだろう。

自治体に包括的アプローチが求められるのはそのためだ。だが多くの都市では、様々な行政組織間に壁が存在することもあり、こうしたアプローチの実現が難しい。厳しい財政状況の中で、医療・治安維持・サイバーセキュリティといった重要分野に予算を振り分ける自治体は、難しい選択を迫られるだろう。

そして取り組みの優先順位は、地域によって大きく異なる。例えばアフリカの都市では、道路インフラや交通システムの改善が、怪我人や死亡者の減少につながるかもしれない。ラテンアメリカ諸国の都市は、同じ目的のために犯罪・暴力事件の撲滅を優先させるべきだ。一方、ヨーロッパの都市ではこうした分野よりも、社会のつながりを脅かす大規模移民や若者の失業問題が重要となる。

地域ごとに優先順位の違いはあるものの、統合的アプローチの必要性という点ではどの都市も変わらない。人口構成のシフト(人口

37 The World Cities Report 2016, Urbanization and Development: Emerging Futures, UN Habitat.     https://unhabitat.org/un-habitat-launches-the-world-cities-report-2016/ 38 SDGs http://www.un.org/sustainabledevelopment/cities/

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都市コミュニティ構築の成功が持続可能な開発実現のために不可欠だと謳われている。そしてこの目標を達成するために、都市の安全性強化が重要となることはいうまでもない。

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サイバーセキュリティ

平均値 = 66.2

医療・健康環境の安全性

平均値 = 69.2

* 新たに調査対象となった都市

付録 1:指数ランキング

* 新たに調査対象となった都市

1 東京

2 シンガポール

3 シカゴ

4 アムステルダム

5 香港

6 トロント

7= ロサンゼルス

7= サンフランシスコ

9 ニューヨーク

10 ダラス *

11 メルボルン

12 シドニー

88.40

86.84

86.75

85.79

85.77

85.33

85.12

85.12

84.95

84.65

83.32

82.96

13 ストックホルム

14 大阪

15 ワシントン DC

16 フランクフルト

17 ブリュッセル

18 ソウル

19 チューリッヒ

20 ウェリントン *

21= バルセロナ

21= マドリッド

23 ブエノスアイレス

24 ロンドン

82.81

82.11

80.88

80.50

79.96

78.42

77.98

74.80

74.44

74.44

74.14

73.36

25 ミラノ

26 ローマ

27 パリ

28 アブダビ

29 ヨハネスブルク

30 クアラルンプール *

31 台北

32 ジッダ *

33 北京

34 ドーハ

35 アテネ *

36 イスタンブール

73.29

71.62

70.37

68.77

66.28

66.17

65.98

65.86

65.38

64.02

61.94

61.71

37 リヤド

38 キト *

39 サンチアゴ

40 クウェートシティ

41 リマ

42 上海

43 カラカス *

44 カサブランカ *

45 ボゴタ *

46= デリー

46= ムンバイ

48 メキシコシティ

60.86

60.65

60.57

60.17

59.78

59.42

58.39

57.37

54.62

54.61

54.61

53.69

49= リオデジャネイロ

49= サンパウロ

51 モスクワ

52 バンコク

53 カイロ *

54 カラチ *

55 テヘラン

56 ホーチミン

57 ヤンゴン *

58 ダッカ *

59 マニラ *

60 ジャカルタ

51.96

51.96

49.03

44.44

43.29

43.22

39.88

39.78

39.07

38.33

36.61

36.60

1 大阪

2 東京

3 フランクフルト

4 チューリッヒ

5 ソウル

6 シドニー

7 ブリュッセル

8 パリ

9 メルボルン

10 ストックホルム

11 トロント

12 アムステルダム

87.15

85.63

84.06

83.39

82.72

81.80

81.41

81.35

81.34

79.94

79.84

79.79

13 シンガポール

14 台北

15 マドリッド

16 バルセロナ

17 ミラノ

18 ローマ

19 ロンドン

20 ブエノスアイレス

21 アテネ *

22 サンフランシスコ

23 ワシントン DC

24 香港

79.72

79.23

78.69

78.54

76.72

76.38

76.06

74.84

74.57

74.15

73.38

73.29

25 モスクワ

26 ロサンゼルス

27 シカゴ

28 メキシコシティ

29 ダラス *

30 上海

31 ニューヨーク

32 ウェリントン *

33 アブダビ

34 北京

35 サンチアゴ

36 クアラルンプール *

72.59

72.26

71.78

70.79

70.27

69.92

69.73

69.51

68.54

67.63

67.17

67.15

37 バンコク

38 リヤド

39 ボゴタ *

40 リオデジャネイロ

41 クウェートシティ

42 サンパウロ

43 ジッダ *

44 テヘラン

45= ドーハ

45= イスタンブール

47 リマ

48 ホーチミン

66.64

66.13

65.37

64.80

63.81

63.74

63.56

62.96

62.60

62.60

62.48

61.29

49 マニラ *

50 デリー

51 カサブランカ *

52 ヨハネスブルク

53 キト *

54 カラカス *

55 ムンバイ

56 ジャカルタ

57 カイロ *

58 ヤンゴン *

59 ダッカ *

60 カラチ *

60.12

59.65

58.52

57.71

57.46

56.72

55.74

54.40

52.28

45.79

45.59

39.92

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29© The Economist Intelligence Unit Limited 2017

Safe Cities Index 2017加速する都市化とセキュリティ強化に向けた取り組み

インフラの安全性

平均値 = 78.2

* 新たに調査対象となった都市

個人の安全性

平均値 = 74.4

* 新たに調査対象となった都市

1 シンガポール

2 マドリッド

3 バルセロナ

4 ストックホルム

5 ウェリントン *

6 アムステルダム

7= 香港

7= メルボルン

9 シドニー

10 チューリッヒ

11 大阪

12 東京

97.05

96.76

96.59

96.18

96.13

96.05

96.04

96.04

95.73

95.71

94.61

93.59

13 ロンドン

14 トロント

15 ローマ

16 アブダビ

17 サンフランシスコ

18 ミラノ

19 パリ

20 ブリュッセル

21 ニューヨーク

22 ロサンゼルス

23 フランクフルト

12 ブエノスアイレス

93.44

92.75

92.31

91.36

91.21

90.36

89.90

88.56

88.39

88.27

88.16

87.99

25 ソウル

26 台北

27 シカゴ

28 ワシントン DC

29 アテネ *

30 ドーハ

31 サンチアゴ

32 リオデジャネイロ

33 サンパウロ

34 ダラス *

35 クアラルンプール *

36 モスクワ

87.93

87.59

87.47

82.38

82.05

81.72

81.35

79.53

79.44

79.23

78.12

76.36

37 北京

38 上海

39 メキシコシティ

40 クウェートシティ

41 イスタンブール

42 ボゴタ *

43 バンコク

44 カイロ *

45 カサブランカ *

46 ホーチミン

47 リマ

48 テヘラン

74.49

74.30

72.98

71.66

70.79

69.79

68.33

68.00

66.27

65.73

64.47

63.95

49 ジャカルタ

50 ジッダ *

51 ムンバイ

52 デリー

53 カラカス *

54 リヤド

55 ヨハネスブルク

56 マニラ *

57 キト *

58 ヤンゴン *

59 カラチ *

60 ダッカ *

63.32

61.74

59.12

58.49

58.42

56.88

55.06

52.89

52.03

48.58

40.11

38.42

1 シンガポール

2 ウェリントン *

3 大阪

4 東京

5 トロント

6 台北

7 香港

8 メルボルン

9 ストックホルム

10 アムステルダム

11 フランクフルト

12 シドニー

94.94

92.28

91.59

91.57

91.52

90.02

89.75

88.52

87.93

87.42

86.70

86.46

13 ドーハ

14 マドリッド

15 ロンドン

16 ソウル

17 バルセロナ

18 ワシントン DC

19 サンフランシスコ

20 チューリッヒ

21 ロサンゼルス

22 シカゴ

23 ブリュッセル

24 クアラルンプール *

86.04

85.61

85.52

85.34

85.28

84.82

83.74

83.72

83.40

82.84

82.09

81.02

25 ニューヨーク

26= 北京

26= ダラス *

28 上海

29 アブダビ

30 ムンバイ

31 パリ

32 ミラノ

33 デリー

34 クウェートシティ

35 ローマ

36 サンチアゴ

80.98

80.76

80.76

80.07

78.95

77.89

77.23

76.83

76.61

74.82

74.39

71.02

37 サンパウロ

38 リオデジャネイロ

39 マニラ *

40 カイロ *

41 アテネ *

42 ブエノスアイレス

43 ダッカ *

44 イスタンブール

45 メキシコシティ

46 カサブランカ *

47 リヤド

48 リマ

70.08

69.85

69.83

69.75

69.03

68.41

67.15

65.84

64.62

62.63

61.04

60.87

49 バンコク

50 ジッダ *

51 ジャカルタ

52 テヘラン

53 モスクワ

54 ヨハネスブルク

55 ボゴタ *

56 キト *

57 ヤンゴン *

58 ホーチミン

59 カラカス *

60 カラチ *

60.80

60.05

59.24

59.18

58.00

57.65

55.66

55.41

52.43

50.53

47.36

31.85

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30 © The Economist Intelligence Unit Limited 2017

Safe Cities Index 2017加速する都市化とセキュリティ強化に向けた取り組み

1 東京 89.80 2 大阪 88.87 3 ソウル    83.61 4 ニューヨーク 81.01 5 ブエノスアイレス 76.35 6 北京 72.06 7 上海 70.93 8 サンパウロ 66.30 9 メキシコシティ 65.52 10 デリー 62.34 11 ムンバイ 61.84 12 カイロ * 58.33 13 マニラ * 54.8614 ホーチミン 54.33 15 ジャカルタ 53.39 16 ダッカ * 47.37 17 カラチ * 38.77

1 ロサンゼルス 82.262 ロンドン 82.103 パリ 79.714 リオデジャネイロ 66.545 イスタンブール 65.236 モスクワ 63.997 リマ 61.908 バンコク 60.05

1 シンガポール 89.642 トロント 87.363 香港 86.224 マドリッド 83.885 バルセロナ 83.716 シカゴ 82.217 台北 80.708 ワシントン DC 80.379 クアラルンプール * 73.1110 サンチアゴ 70.0311 ボゴタ * 61.3612 リヤド 61.2313 ヨハネスブルク 59.1714 テヘラン 56.49

1 メルボルン 87.302 アムステルダム 87.263 シドニー 86.744 ストックホルム 86.725 チューリッヒ 85.206 フランクフルト 84.867 サンフランシスコ 83.558 ウェリントン * 83.189 ブリュッセル 83.0110 ミラノ 79.3011 ダラス * 78.7312 ローマ 78.6713 アブダビ 76.9114 ドーハ 73.5915 アテネ * 71.9016 クウェートシティ 67.6117 ジッダ * 62.8018 カサブランカ * 61.2019 キト * 56.3920 カラカス * 55.2221 ヤンゴン * 46.47

人口規模別ランキング1500 万人以上

平均値 = 66.22

1000 〜 1500 万人

平均値 = 70.22

500〜 1000 万人

平均値 = 75.39

500 万人以下

平均値 = 75.08

* 新たに調査対象となった都市

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付録 2:指数算出方法

づき指数ランキングが作成された。2017 年版では対象都市が 60 に拡大し、指標の数も 49 に増加している。

こうした変更が生じたこともあり、2015 年版と 2017 年版のランキングは必ずしも直接比較が可能ではない。

対象都市の拡大

2017 年版のランキングでは、新たに 14 都市が加わり、2015 年版の 4 都市が対象から外された。所得レベルや地理的位置といった観点から、より多様な都市を調査対象とするためだ。

 2017 年版ランキングで対象に加えられた都市

 アテネ   ボゴタ カイロ

 カラカス カサブランカ ダラス

 ダッカ ジッダ カラチ

 クアラルンプール マニラ キト

 ウェリントン   ヤンゴン

2017 年版ランキングで対象から外れた都市

 広州 モントリオール 深圳

 天津

概観

ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は 2015 年、世界主要都市を対象とし、その安全性を4つのカテゴリー(サイバーセキュリティ、医療・健康環境の安全性、インフラの安全性、個人の安全性)に分けて評価する指数ランキングを発表した。『Safe Cities Index 2015』は、NEC による協賛の下、都市や公共の安全に対する世界の関心の高まりを受けて作成されたものだ。

国連の推計によると、2016 年時点の世界人口の半数以上が都市住民だ。39 こうした流れを考えれば、公共(特に都市)の安全性について理解する重要性はさらに高まっている。NEC の協賛の下で 2017 年版の調査を再び実施したのは、現状をより明確に把握し、2015 年版の調査以降生じた重要な変化を検証するためだ。

2015 年版・2017 年版    指数ランキングの違い

2015 年版・2017 年版の調査は、ともに安全性の 4 本柱(サイバーセキュリティ、医療・健康環境、インフラ、個人)に焦点を当てている。だが 2017 年版では、テロリズムや市民暴動をはじめとした人災の脅威に関する指標が新たに加えられた。また今回の調査では新たなデータを盛り込み、指標の改善も行われている。2015年版は、4 カテゴリーにまたがる 43 の指標に基

39 http://www.un.org/en/development/desa/population/publications/pdf/urbanization/the_worlds_cities_in_2016_data_booklet.pdf

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2017 年版ランキングでは、指標のスコア算出に用いられるデータもアップデートされた。汚職レベルを示す指標など、いくつかの指標では新たなデータソースが使われている。また下記の指標については、データの質と入手可能性といった制約を考慮して定義が見直された :

2017 年版ランキングでは、テロリズムや市民暴動、紛争などに対する懸念の高まりを反映し、人災の脅威に関する 6 つの指標が新たに加えられた。

人災の脅威に関連する新たな指標

指標のアップデート

カテゴリー       2015 年版 2017 年版  新たな指標

医療・健康環境の安全性 11   12   • 生物化学兵器・化学兵器・放射能兵器を使った攻撃件数

インフラの安全性       9   10   • 施設やインフラを標的とした攻撃件数

個人の安全性 15   19   • テロ攻撃の深刻度   ・テロリズムの脅威   ・軍事紛争の脅威   ・市民暴動の脅威

カテゴリー     指標    修正項目

医療・健康環境の安全性  ヘルスケア・サービスへのアクセス “ヘルスケア・サービスの質”に関する指標との重複を避け、 サービスへのアクセスに注目するため定義を見直した。

個人の安全性   ジェンダー・セーフティ 同指標では、レイプ事件の件数から、女性が被害者となっ た殺人事件の発生件数へと定義が変更された。性暴力事 件は件数が過小報告されがちであるという問題や、国・ 地域によってレイプ事件の定義が異なるという問題に対 応するためだ。殺人事件は報告される割合が高く、女性 の被害者に限定することでジェンダー・セーフティとい う問題により関連づけることができる。

個人の安全性 犯罪組織による活動 犯罪組織の活動から、組織犯罪のリスクへと定義を変更。 データのアップデートにまつわる問題へ対応し、軽犯罪 発生率や凶悪犯罪発生率に関する既存指標の定義が一部 重複する点を見直すことを目的としている。

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全対策のレベルといった準指標だ。アウトプット面には、自動車事故発生件数や歩行者の死亡事故発生率、施設やインフラに対するテロ攻撃の発生件数などの準指標が含まれている。

“個人の安全性” では、犯罪や暴力事件など人が生み出す脅威の発生リスクを評価している。インプット面では、警察の関与レベル、データ活用型防犯対策の利用度、所在国の政治的安定性といった因子を考慮した。アウトプット面では、軽犯罪・重犯罪の発生率、体感的な安全性の他、市民暴動、軍事紛争、テロリズムの脅威といった新たな因子も評価している。

指標について

同ランキングは 49 の準指標で構成されており、それぞれ量的・質的カテゴリーに分けられる。

量的指標:全 49 項目の指標のうち 18 項目は、住民 100 万人あたりの車両事故年間発生件数といった量的データに基づいている。

質的指標:31 項目の指標は、政治的安定性やインフラの質など、都市の安全性に関する質的評価に基づいている。

データソース

本調査に使用されたデータは、EIU の研究者チ ー ム が 2017 年 6 月 か ら 9 月 に 収 集 し たものだ。都市の住みやすさ、リスク度など、EIUが独自に作成したデータに加え、公的機関から公開データ(最新年)も分野に応じて使用された。主要なデータソースとなったのは、世界保健機関(WHO)やカスペルスキー研究所などだ(詳細については次ページの表を参照)。入手可能な

4 つの指数カテゴリー

ランキングの対象となった都市は、下記 4 つのカテゴリーについてスコアを算出。各カテゴリーは、政策やサービスへのアクセスといったインプット指標と、大気の質や犯罪の蔓延などのアウトプット指標からなる、3 〜 12 の準指標により構成されている。

“サイバーセキュリティ” では、都市住民がプライバシー侵害やなりすまし詐欺の不安を感じることなく、インターネットなどのデジタル・テクノロジーを利用可能な環境にあるかを評価している。インプット面では、サイバー攻撃に対する認識度や、導入されるテクノロジーのレベル、サイバーセキュリティ専門チームの有無といった基準で都市を評価した。アウトプット面では、なりすまし詐欺の発生率、ウィルス感染したコンピュータ台数の推計から指数を算出した。

“医療・健康環境の安全性” では、都市による自然環境保全への取り組みや医療サービスのレベル・質といった観点から評価を行っている。インプット面では環境政策や質の高い医療サービスへのアクセス、アウトプット面では大気の質・水質・平均寿命・乳幼児死亡率といった準指標を元にスコアを算出した。2017 年版では、テロ攻撃が都市の医療システムに与える影響を評価するため、化学兵器・生物化学兵器・放射能兵器による攻撃の件数に関する新たな準指標が加えられた。

“インフラの安全性” では、都市インフラなどの物理的環境や、災害・テロ攻撃に対する脆弱性などを評価する。インプット面で考慮の対象となったのは、インフラの質や交通機関による安

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にならないよう、国レベルの場合は 50 ポイント、都市レベルの場合は 100 ポイントを獲得するという方法で標準化された。

全ての値を標準化(つまり 0 〜 100 スケールに)することで、標準化されたその他のスコアとの直接比較は可能になる。だが max-min 法を使えば、実際のパフォーマンスが変わらなくても、2015 年版の調査からスコアが変わることになる。例えばスコアが標準化された指標を用いれば、最下位の都市のスコアが 2015 年版より低くなった場合、実際のパフォーマンスに関わらずその他都市のスコア全体を押し下げることになる。

指標の構成

総合指数は、元となるすべての指標の総合計スコアだ。指数はまずカテゴリーごとに集計され、各カテゴリー(例えば “個人の安全性”)のスコアが算出される。 総合指数は、各カテゴリーのスコアの合計に基づいて算出される。各カテゴリーのスコア算出のため、それぞれの準指標は割り当てられた加重により合計される。準指標は、4 つの主要指標カテゴリーと同様、すべて均等に加重計算されている。

場合は特定都市に関するデータを使用。入手が困難な場合は、地域レベル・国レベルのデータを元に代替データが作成された。

指標の標準化

指標について各国の総得点の算出を可能にするため、プロジェクトチームはまず収集したデータを比較可能にする必要があった。したがって量的指標は最小値 - 最大値計算を用いて、0 から100 のスケールで標準化された。得点は、最高得点の国が 100 点、最低得点が 0 点で、平均値から標準偏差が求められている。

質的指標も標準化が行われている。得点は 0〜 100 のスケールの場合もあり、1 〜 5 のスケールが用いられた場合もある(1 が最低あるいは最もネガティブな評価で、5 が最高あるいは最もポジティブな評価)。こうした得点についても、質的指標と同様の方法で標準化が行われた。

その他の指標は、2 〜 4 ポイントのスケールで標準化されている。例えば “サイバーセキュリティ専門チームの有無” という指標では、国レベルの専門チームを持つ都市と、都市レベルの専門チームを持つ都市のいずれもスコアが 0

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1. サイバーセキュリティ      ウェイト:25%

A.  インプット

指標  単位      情報ソース

1.1.1. プライバシーポリシー  1 – 5, 5 = 強いポリシー   DLA Piper Data Protection Laws of the World・EIU による分析

1.1.2. サイバー脅威への住民の意識   0 – 3, 3 = 非常に強い    EIU による分析

1.1.3. 官民パートナーシップ  0 – 2, 2 = 密接な連携    EIU による分析

1.1.4. 導入テクノロジーのレベル  0 – 100, 100 = 最高    EIU による分析

1.1.5. サイバーセキュリティ専門チーム 0 = 無 1 = 国レベルのみ EIU による分析

 2 = 国・都市レベル

B. アウトプット

1.2.1. なりすまし詐欺発生率    % Gemalto Breach Level Index

EIU による分析

1.2.2. ウィルス感染した PC の割合  スケール 1 – 5, 5 = 最高 Kaspersky Lab

1.2.3. インターネット・アクセスの割合 % ITU

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2. 医療・健康環境の安全性 ウェイト:25%A.  インプット

指標  単位      情報ソース

2.1.1. 環境政策  0 – 100, 100 = 最高 EIU による分析

2.1.2. ヘルスケアサービスへのアクセス 0 – 100, 100 = best EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング

2.1.3. 人口 1000 人あたりの病床数  床 世界銀行・ 現地データソース

2.1.4. 人口 1000 人あたりの医師数  人 世界保健機関(WHO)・現地データソース

2.1.5. 安全で良質な食料へのアクセス  0 – 100, 100 = 最高 EIU による分析

2.1.6. ヘルスケアサービスの質  1 – 5, 5 = 最高 EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング

B. アウトプット

2.2.1. 大気の質  PM 2.5 レベル WHO

2.2.2. 水質  0 – 100, 100 = 最高 EIU による分析

2.2.3. 平均寿命    年数:長期の方が良い 世界銀行・現地データソース

2.2.4. 乳幼児死亡率  出生児 1000 人あたり死亡数 世界銀行・現地データソース

2.2.5. がん死亡率  人口 10 万人あたり死亡数 WHO

2.2.6. 生物化学兵器・化学兵器  過去 10 年の 世界テロリズムデータベース    化学兵器・放射能兵器を  年間平均攻撃件数    使った攻撃件数

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3. インフラの安全性 ウェイト:25%A. インプット指標  単位      情報ソース

3.1.1. 交通安全施策の実施レベル  0 – 10, 10 = 最高 WHO・EIU による分析

3.1.2. 歩行者の快適性  0 – 5, 5 = 最高 EIU による分析

3.1.3. 道路インフラの質  1 – 5, 5 = 最高 EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング

3.1.4. 電力インフラの質  1 – 5, 5 = 最高 EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング

3.1.5. 防災管理・災害時の事業継続計画 1 – 5, 5 = 最高 EIU による分析

B. アウトプット

3.2.1. 自然災害による死亡者数  人/百万人/年 EM - DAT  過去 5 年の平均値

3.2.2. 車両事故発生件数  件/百万人/年 現地データソース

3.2.3. 歩行者死亡事故の発生件数  件/百万人/年 WHO・現地データソース

3.2.4. スラム人口の割合  % 国連人間居住計画・現地データソース

3.2.5. 施設・インフラに対するテロ攻撃 過去 10 年の平均発生件数 世界テロリズムデータベース

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4. 個人の安全性 ウェイト:25%A. インプット指標  単位      情報ソース

4.1.1. 警察の関与レベル  0 – 1, 1 = 強化プラン有  EIU による分析  0 = 無

4.1.2. コミュニティレベルの巡回活動  0 – 1, 1 = 有 0 = 無 EIU による分析

4.1.3. 街中犯罪データの有無  0 – 1, 1 = 有 0 = 無 EIU による分析

4.1.4. データ活用型防犯対策    0 – 1, 1 = 有 0 = 無 EIU による分析

4.1.5. 民間によるセキュリティ効果  0 – 1, 1 = 有 0 = 無 EIU による分析

4.1.6. 銃規制の実施レベル  0 – 10, 10 = 徹底した実施 Free Existence Gun Rights Index

4.1.7. 政治安定性リスク  0 – 100, 0 = リスク無し EIU 運用リスクモデル

B. アウトプット

4.2.1. 軽犯罪発生率  1 – 5, 5 = 高い発生率 EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング

4.2.2. 凶悪犯罪発生率  1 – 5, 5 = 高い発生率 EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング

4.2.3. 組織犯罪による活動  0 - 4, 4 = 高いリスク評価 EIU 運用リスクモデル

4.2.4. 汚職レベル  0 – 100, 100 = 最も低い Transparency International

4.2.5. 薬物使用率  推定使用者が人口に 国連薬物犯罪事務所・現地データソース  占める割合(%)

4.2.6. テロ攻撃発生件数  過去 10 年の 世界テロリズムデータベース  年間平均発生件数

4.2.7. テロ攻撃の深刻度  過去 10 年の 世界テロリズムデータベース  平均負傷者・死亡者数

4.2.8. ジェンダー・セーフティ  人 WHO・現地データソース   ( 女性の 10 万人あたり    殺人事件犠牲者数)

4.2.9. 体感的な安全性  0 – 100 Numbeo    100 = 体感的に最も安全

4.2.10. テロリズムの脅威  0 – 4, 0 = 極めて高い EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング  4 = 許容できるレベル

4.2.11. 軍事紛争の脅威 0 – 4, 0 = 極めて高い EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング  4 = 許容できるレベル

4.2.12. 市民暴動の脅威 0 – 4, 0 = 極めて高い EIU 世界で最も住みやすい都市ランキング  4 = 許容できるレベル

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グローバル・ビジネスインテリジェンスのリーディング企業ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は、英国 The Economist を傘下とするメディア・グループ ザ・エコノミスト・グループの研究・分析部門です。EIU は 1946 年の創立以来約 70年にわたり、世界で生じる変化やビジネス機会、リスクに関する情報を提供し、企業・金融機関・政府機関をサポートしてきました。

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本報告書に記載された情報の正確を期すため に 、あ ら ゆ る 努 力 を 行 っ て い ま す が 、ザ・エ コ ノ ミ ス ト ・ イ ン テ リ ジ ェ ン ス・ユ ニ ッ ト は 第 三 者 が 本 報 告 書 の 情報・見解・調査結果に依拠することによって生じる 損害に関して一切の責任を負わないものとします。

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ロンドン 20 Cabot Square London E14 4QW United Kingdom Tel: (44.20) 7576 8000 Fax: (44.20) 7576 8500 E-mail: [email protected]

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