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省エネルギー型大温度差水蓄熱・FCU-水・空気式空調システムの性能、第 1 報:概要 Realizing Energy-efficient Water-Air HVAC System with Fan-coil-units and TES System Part-1 System Philosophy 名誉会員 ○中原信生(環境システック中原研究処)、技術フェロー 奧宮正哉(名古屋大学) Nobuo NAKAHARA *1 , Masaya OKUMIYA* 2 *1 Nakahara Laboratory, Environmental Syst.-Tech. * 2 Nagoya University Due to realized extra-large temperature difference for combination of centralized heat pumps with water thermal storage tank and individual controlled fan-coil units with special two-way valves interlocked with fan controllers, the water-air system can compete with build.-multi packaged units system from the viewpoints of cost and individual controllability with better energy efficiency. The two parts of the present report verify the fact by the actual performances as well as simulation study. Thus, the water and air HVAC system will now revive as the prototype of any kinds of buildings. 1. 空調方式の変遷、全空気からビルマルチへ 1.1 全空気(all air) 方式から空気・水方式(air & water)(1)全空気方式:20 世紀初から普及を始めた空調システム は、空気洗浄器(エアワッシャー)や冷却加熱コイル+空気濾 過器を用いて温湿度・空気質調整した空気を居室等に供給 して目的空間の温湿度と空気質環境を調整する全空気方式 に始まった。その原型は井水を用いたエアワッシャーであっ たと思われ、冷凍機が発明されてからは冷温水ワッシャー・ コイルが用いられた。空調が発達するにつれ、環境調整の 精度は向上していき、その最たるものが手術室やクリーンル ームの空調となった。この時代に空調技術の基礎理論はトレ ーン社の技師 William Goodman 氏によって確立された(Air Conditioning Analysis with Psychrometric Charts & Tables)。 (2)空気・水方式:ガラス張りビルの普及に伴い窓通過負荷 の増大を効果的に処理するために空気搬送ではなく水搬送 に頼るべくファンコイルユニット(以下 FCU と書く)と誘因ユニ ットが開発され、1950~1960 年代から普及した。また室内高 照度照明の普及により増大するインテリア負荷を処理するた めにダクトの高速化や熱回収方式が採用され始めた。これら はその後、省エネルギーの時代に入って、エネルギー効率 の悪いものは淘汰されていき、誘因方式や二重ダクト方式、 高速ダクトは消えていくが、FCU 方式はペリメータ、インテリ アを問わず負荷処理の効率性により生き残る。然し 21 世紀 に入るまでは業務空間の空気汚染の主力である喫煙の制限 が不十分であったため、換気回数を確保すべくインテリアは 全空気方式が望ましく、負荷変動に対しては呼吸・喫煙等の 汚染源である人体に比例してインテリア負荷が変動するとし て、省エネ効果のある変風量方式が時代の寵児となった。 1.2 ビル用マルチ(パッケージ)方式(冷媒(・空気)方式) そこへユーザーの個別制御、個別計量(電気)の容易さ、 設計の簡便化を売り物とし、水に代わる冷媒配管による負荷 処理を可能としたビル用マルチ方式が 1980 年代より出現し、 小型から大型ビルにまで大きくシェアを伸ばしてきた。初期 には、冷媒漏れによる環境汚染の問題、ユニットの空気濾過 能力不足、外気導入の問題、不快ドラフトの発生が指摘され てきたが、徐々に改善されつつ有り、最近は禁煙の普及に よって人体起源の室内空気汚染が極小化されてきたので、 我が国のみならず世界的にも日本発のこの方式が普及しつ つある状況である。この方式では中央熱源機器が不要であ り、大きな熱源機室が不要となるメリットがあるが、そのことが 逆に小型分散パッケージの設置位置の制約(冷温空気のバ イパス)、空冷(熱)熱源機の COP の限界と言う問題を残した。 2.蓄熱式熱源方式の変遷と大温度差追求の軌跡 2.1 CWV 時代の蓄熱システム 水蓄熱方式は 1957 年柳町政之助氏の論文により普及の 火ぶたを切るが、未だ蓄熱槽効率の概念が確立されて居ら ず、コイル制御も定流量三方弁制御一色の時代であった(そ の中で筆者はブリードイン方式を採用して温度差の確保に 努めた、NHK 大阪放送会館新館など)ため、温度プロフィル 的には中だるみ現象や交叉プロフィルが続出して熱源運転 に支障を来し、運転不可能或いは部分負荷運転を強いられ ることなどが多かったため、余裕を持たせた熱源と蓄熱槽容 量を設計する事となり、蓄熱方式本来のメリットである全負荷 終日運転による熱源容量削減という経済性効果も高効率運 転も実現せず、所期の効果を得られない例が多かった。 2.2 VWV の普及と FCU の壁 学会の省エネルギー技術基準が発行され、変水量技術と 大温度差の採用が推奨され、空調機の二方弁制御採用例 に関しては(弁の CV 値を適切に選んで居れば)温度差の確 保が容易になった。然しながら前述の空気・水方式の FCU においては従来機の温度差は 3℃くらいで有ったため、水 蓄熱システムの最適化の観点から筆者は FCU コイル数増大 による温度差の拡大を推奨し、1990 年代には小水量大温度 差型 FCU が姿を現し、設計値として 8℃以上の温度差を求 めることができるようになった。所が仮に比例二方弁制御が 採用されたとしても(個別に採用されることはコストの観点か らも不可能な時代であった)負荷に対応してユニットファンが 手動で減速されてしまうので熱交換が不十分になって殆ど 温度差が付かずに蓄熱槽に還ってしまうのが通例であった。 そればかりか時には制御弁無し、或いは制御弁付きでもファ

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省エネルギー型大温度差水蓄熱・FCU-水・空気式空調システムの性能、第 1 報:概要

Realizing Energy-efficient Water-Air HVAC System with Fan-coil-units and TES System

Part-1 System Philosophy

名誉会員 ○中原信生(環境システック中原研究処)、技術フェロー 奧宮正哉(名古屋大学)

Nobuo NAKAHARA*1, Masaya OKUMIYA*2 *1 Nakahara Laboratory, Environmental Syst.-Tech. *2Nagoya University

Due to realized extra-large temperature difference for combination of centralized heat pumps with water thermal storage

tank and individual controlled fan-coil units with special two-way valves interlocked with fan controllers, the water-air

system can compete with build.-multi packaged units system from the viewpoints of cost and individual controllability

with better energy efficiency. The two parts of the present report verify the fact by the actual performances as well as

simulation study. Thus, the water and air HVAC system will now revive as the prototype of any kinds of buildings.

1. 空調方式の変遷、全空気からビルマルチへ

1.1 全空気(all air)方式から空気・水方式(air & water)へ

(1)全空気方式:20 世紀初から普及を始めた空調システム

は、空気洗浄器(エアワッシャー)や冷却加熱コイル+空気濾

過器を用いて温湿度・空気質調整した空気を居室等に供給

して目的空間の温湿度と空気質環境を調整する全空気方式

に始まった。その原型は井水を用いたエアワッシャーであっ

たと思われ、冷凍機が発明されてからは冷温水ワッシャー・

コイルが用いられた。空調が発達するにつれ、環境調整の

精度は向上していき、その最たるものが手術室やクリーンル

ームの空調となった。この時代に空調技術の基礎理論はトレ

ーン社の技師 William Goodman 氏によって確立された(Air

Conditioning Analysis with Psychrometric Charts & Tables)。

(2)空気・水方式:ガラス張りビルの普及に伴い窓通過負荷

の増大を効果的に処理するために空気搬送ではなく水搬送

に頼るべくファンコイルユニット(以下 FCU と書く)と誘因ユニ

ットが開発され、1950~1960 年代から普及した。また室内高

照度照明の普及により増大するインテリア負荷を処理するた

めにダクトの高速化や熱回収方式が採用され始めた。これら

はその後、省エネルギーの時代に入って、エネルギー効率

の悪いものは淘汰されていき、誘因方式や二重ダクト方式、

高速ダクトは消えていくが、FCU 方式はペリメータ、インテリ

アを問わず負荷処理の効率性により生き残る。然し 21 世紀

に入るまでは業務空間の空気汚染の主力である喫煙の制限

が不十分であったため、換気回数を確保すべくインテリアは

全空気方式が望ましく、負荷変動に対しては呼吸・喫煙等の

汚染源である人体に比例してインテリア負荷が変動するとし

て、省エネ効果のある変風量方式が時代の寵児となった。

1.2 ビル用マルチ(パッケージ)方式(冷媒(・空気)方式)

そこへユーザーの個別制御、個別計量(電気)の容易さ、

設計の簡便化を売り物とし、水に代わる冷媒配管による負荷

処理を可能としたビル用マルチ方式が 1980 年代より出現し、

小型から大型ビルにまで大きくシェアを伸ばしてきた。初期

には、冷媒漏れによる環境汚染の問題、ユニットの空気濾過

能力不足、外気導入の問題、不快ドラフトの発生が指摘され

てきたが、徐々に改善されつつ有り、最近は禁煙の普及に

よって人体起源の室内空気汚染が極小化されてきたので、

我が国のみならず世界的にも日本発のこの方式が普及しつ

つある状況である。この方式では中央熱源機器が不要であ

り、大きな熱源機室が不要となるメリットがあるが、そのことが

逆に小型分散パッケージの設置位置の制約(冷温空気のバ

イパス)、空冷(熱)熱源機の COP の限界と言う問題を残した。

2.蓄熱式熱源方式の変遷と大温度差追求の軌跡

2.1 CWV時代の蓄熱システム

水蓄熱方式は 1957 年柳町政之助氏の論文により普及の

火ぶたを切るが、未だ蓄熱槽効率の概念が確立されて居ら

ず、コイル制御も定流量三方弁制御一色の時代であった(そ

の中で筆者はブリードイン方式を採用して温度差の確保に

努めた、NHK 大阪放送会館新館など)ため、温度プロフィル

的には中だるみ現象や交叉プロフィルが続出して熱源運転

に支障を来し、運転不可能或いは部分負荷運転を強いられ

ることなどが多かったため、余裕を持たせた熱源と蓄熱槽容

量を設計する事となり、蓄熱方式本来のメリットである全負荷

終日運転による熱源容量削減という経済性効果も高効率運

転も実現せず、所期の効果を得られない例が多かった。

2.2 VWVの普及と FCUの壁

学会の省エネルギー技術基準が発行され、変水量技術と

大温度差の採用が推奨され、空調機の二方弁制御採用例

に関しては(弁の CV値を適切に選んで居れば)温度差の確

保が容易になった。然しながら前述の空気・水方式の FCU

においては従来機の温度差は 3℃くらいで有ったため、水

蓄熱システムの最適化の観点から筆者はFCUコイル数増大

による温度差の拡大を推奨し、1990 年代には小水量大温度

差型 FCU が姿を現し、設計値として 8℃以上の温度差を求

めることができるようになった。所が仮に比例二方弁制御が

採用されたとしても(個別に採用されることはコストの観点か

らも不可能な時代であった)負荷に対応してユニットファンが

手動で減速されてしまうので熱交換が不十分になって殆ど

温度差が付かずに蓄熱槽に還ってしまうのが通例であった。

そればかりか時には制御弁無し、或いは制御弁付きでもファ

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ンとのインターロック無しというのもある始末で、FCU におけ

る低温度差の壁が中々突破できなかった。

2.3 二方弁制御の温度差変動特性

ここで二方弁制御の、負荷変動に対するコイル出入口温

度差変動特性を示しておく。概念化のために CAV/VWV の

組み合わせで熱交換係数が不変の範囲、顕熱交換のみとし

た時のコイル設計条件時(a)と負荷半減時(b)の温度差変動を

図1に示す。図に示すように設計時のアプローチによって程

度は異なるが、交換熱量を示す図の影をつけた面積が50%

となるためには冷水温度はこのような軌跡を辿らねばならず、

還水温度は定格設計値を上回ることになる。但し、VAVの場

合は仮に極低風量で熱交換係数が 50%に低下したとすると、

この面積は同一でなければならないので定格値と同じ軌跡

を辿るし、潜熱が入ったときは温度差図では表現しきれない。

(a) 設計アプローチが大 (b) 設計アプローチが小 図1 二方弁制御コイルの負荷減少時の温度差特性

2.4 FCU大温度差還水化への軌跡

(1) 小温度差の実態:FCU では、①無制御ないしオンオフ

制御、②時にはファンとのインターロック無しで流し放し(例

えば電源集中管理で継続運転の前提にも関わらず利用者

が自由にファンをオフにしてしまったときなど)、比例二方弁

が設置されていても適正な小 CV値の小流量 2 方制御弁は

高価な工業用しか無かったので現実的に利用不可能であっ

た。せいぜい①ゾーン制御を適用するか、②普通の商用 2

方弁を FCU に用いるか、何れにしても大きな負荷率変動範

囲で図1に示したような特性を得ることは不可能であったた

めに、図2の実施例のように、真夏でも温度差 1℃に満たず

((a)図)、折角空調機側で得た 5~8℃の温度差すら、FCUの

過大流量に圧倒されてヘッダー往還温度差が 2℃くらいに

成ってしまう((b)図)、と言うのが常態で有った。

(a) コイル温度差実測例 (b) 統合ヘッダーでの温度差

図2 コイル及びヘッダー往還温度差実例1)

(2) バランス型蓄熱槽での対応

避けられなかったこのような状態に対し、蓄熱槽側で対処

しようとしたのが筆者らによるバランス型蓄熱槽の開発である。

温度成層型蓄熱槽において蓄熱槽への入力水を一旦サブ

ヘッダーに受け、本槽との間の連通管より自然循環入力さ

せるもので有り、入力水温度によって本槽の温度(密度)分布

との関係で最もバランスの良い連通管より入力するので、既

に形成している温度成層を乱すことがない。その実例を図3

に示す。本例では13℃程度の温度差が確保できている。

(a) 6月負荷時の実測 (b) 5月負荷時の実測

図3 バランス型温度成層蓄熱槽の低負荷時温度プロフィル

(3) 大温度差確保弁による極大温度差の実現

今世紀に入る頃低価格高精度の小水量用比例制御二方

弁が開発された。筆者らが既報で発表済みの N 病院2)及び

名大CKKビル3)に適用したもので、図4にその特性を示す。

(a) Nビル制御の冷房実測例(S社製)

(b) CKKビル制御の暖房実測例(出口温度変動制御)

図4 CKK大温度差確保弁(A社製)の実績

N 病院に適用された弁

は還水温度を所定値に確

保させるもので、図4(a)に

示すように極小負荷まで

一定の還水温度を確保し

ている。この方式では残念

ながら図1(a)に示した小負

荷時に温度差が拡大する

という二方弁特性が生かさ

れていない。またファンが

低速化したときは温度差

確保が無理になる。そこで 図5 CKK水系統略図

FCU出入口温度差

Kan1996.8.22

0

5

10

15

20

25

22 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

温度

(℃

4FFCU往温度4FFCU還温度4FAHU往温度4FAHU還温度

****

**

**

Kan 1996.8.22

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2

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22 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

温度

(℃

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

流量

(lit/min)・

熱量

(kcal/min)

二次側P-7往温度二次側P-7還温度二次側P-7流量二次側P-7熱量

低負荷時 高負荷時

室温設定

入口水温

出口水温

θao θai

θai

θwo

θwi

θao△θa

△θw

θwi θwo

空気

冷水

△2’

△2

△1

△1’

△θa’

△θw’

θao’

,θwo’

θwo’

θao’

θao θai

θai

θwo

θwi

θao△θa

△θw

θwi θwo

空気

冷水

△2’

△2

△1

△1’

△θa’

△θw’

θao’

,θwo’

θwo’

θao’

井水

アースチューブ・エコシャフト経由

外気

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二次側空調機がFCUのみで構成される図 5のCKKビルで

は、要求性能として図6示した制御フロー(部分)を提示して

性能発注した結果、図4(b)の試験結果に示すように低負荷

時に予想通りの大温度差が得られた。図7は結果として得ら

れた温度成層型蓄熱槽の大温度差温度プロフィルを示す。

図6 FCU大温度差確保二方弁の制御提示フロー(部分)

図7はピーク負荷時7月 20 日

14:00~7月25日8:00の間の

同時蓄放熱状態で満蓄に達

するまでの温度プロフィルで

ある。ほぼ17℃一定の極大温

度差が得られ、設計温度差は

10℃なのでこの場合の蓄熱

槽効率は 150%になる。な

お、図6の制御思想を実現す

るためには図中に示したよう

にファンコントローラーとの連

携が必要で有り、温度差が確保できないときは自動モードで

はファンを増速させ(図6)、一方、手動モードとしてL(低)速度

を選んでもM(中)速度を確保するように細工した。

3.大温度差による水搬送動力の極小化

図8に CKK ビル中央熱源系の初年度の空調エネルギー

消費量を事前シミュレーション値と並べて示す。一次側に関

図8 CKK中央熱源系の熱源+二次ポンプの一次エネ ルギー消費量、実績と事前シミュレーションの比較5)

しては既報 6)に記したように9月頃から井水系のトラブルによ

り高性能全力運転が出来なくなったことが響いているが、二

次側ポンプは負荷追随で制御され極小値になっている。単

純なインバーター回転数制御によるポンプ動力は吐出圧制

限のないときは搬送流量の3乗に、吐出圧一定の時は流量

の一乗に、(擬似)末端圧一定制御或いは二方弁開度最大化

送水圧リセット制御の時は流量の二乗程度に比例する。二

乗と考えても 16~17℃の温度差では電力消費量は殆ど無

視できる値になる。事実、床面積(研究室系の換算延床面積

4403m2)当りの一次エネルギー消費量のうちで放熱二次ポ

ンプの一次エネルギー消費量は約 11MJ/m2/年に過ぎない。

4.蓄熱式水―空気(FCU)システム(water-air)の提唱

4.1 コンセプト

前時代のペリメータ負荷処理のみを FCU または誘因ユニ

ットに頼り、インテリアは全空気に頼った空気・水(air-water)

方式に対して、CKKのようにインテリア負荷も大温度差FCU

に依存し、外気供給を主目的とした空気系と組み合わせた、

水が室内負荷処理の主体である「水・空気方式」 (water-air)

を提唱する。外気供給の手段は対象空間の性格により壁直

づけまたはダクト方式の全熱交換器利用、アースチューブ

経由、外調機などが適用されよう。何らかの意味で(高度濾

過空気による)換気回数を増やす必要が有る場合は循環空

気とともに処理する空調機を用いる必要が有るだろう。この

種の水-空気方式は従来も高度発熱のあるインテリア室空間

に対して利用される事はあったが、ここでは、大温度差蓄熱

システム+大温度差FCUの組合わせを前提として考察する。

4.2 水・空気方式の空気調和としての妥当性

(1)ビル用マルチ方式の功罪と水-空気方式の挑戦

筆者はビル用マルチ方式の普及に対し当初から全面的な

賛意を示し得なかったのは以下の理由によった。但し空気

質の問題は先述のように無喫煙化により、また空気分布の問

題も改善されつつあり下線を引いた項目が残る問題である。

1) 空気質の低下

ⅰ)低質な空気濾過性能

ⅱ)外気導入上の難点

2) 劣悪な空気分布、強いドラフト

3) 冷媒漏れがあったときの人体・環境への影響

4) 冷媒配管式の小型分散設置AHPの低成績係数

5) 適正な設計プロセスの簡略化による空調技術の退廃

ⅰ) 綿密な負荷計算を省略

ⅱ) 貧弱な空気分布設計(ユニット設置に拘束されて)

ⅲ) 熱源や空調のシステム化技術、環境制御を省察する

ことによる快適空間設計理念の喪失

6) 十分な加湿が困難

7) 結果として熱源容量の合計が過大容量になる。

8) 冷暖フリーの場合、混合エネルギー損失が発生する。

これに対して一般に認められているように下記のメリットが

あり、或るものは上記の課題と裏腹である。また下線の項目

は決定的なメリットと言われるが、④に関しては 5)を考慮す

ればメリットにはならない。⑤、⑥への挑戦が本報の水・空気

方式であり、更に 5)、④に示した空調技術の温存を図りたい。

6)加湿の問題は共通の課題であり別途に考察したい。

Start

出入口冷温水温度差≧指定値?

室温状態は?(P(I)制御)

yes

過冷(冷房)または過熱(暖房)

no

適切

二方弁制御(絞る)(温度差さらに拡大)

暑い(冷房)または寒い(暖房)

ファン速度maxか?

ファン速度を一段階上げる

yes

no

弁は全開か?yes

no

弁を一段階開ける

二方弁はもっと絞れるか?

no

暖房時の南側系統か?

熱源は熱回収モードか?

yes

yes

冷房モードに切替操作後運転継続

yes

no

弁閉止

ファン速度はmaxか

yesファン速度を1段階

上げる

no

弁開度はminか?

弁開度を絞る

no

yes

end

制御サンプル間隔ごと

ファンコイルユニット制御概念フロー v3、2012.7.21, NN

警報①!・弁故障(閉まらない)・室温が顕著に過冷過熱(LTD過小)

警報②!能力の限界

・冷温水温度過過高低・弁故障(開かない)

no

ファン速度を一段階下げる

ファン速度minか?

no

yes

冷水に切り替え?

yes

no

弁閉止

動作条件・弁は低流量対応自動二方弁である。・FCUは大温度差小流量設計で適切に選定され、能力は最大室負荷に見合って選定され性能は検証されている。(正常に動作すれば室負荷処理と大温度差確保は保証されている。)・制御動作はPまたはPI動作とする。・正常動作時(水側指定大温度差確保時)は比例帯はSP±1℃・水側指定大温度差が確保できないときの室温制御はSP±2℃・室温が上記範囲に収まる状態で、水温度差は指定値以上大きければ大きい方が良い。

警報発信条件①大風量、小水量(弁最小開度)にも拘わらず温度差がつかない。 ・冷温水送水温度異常で熱交換不足である。 ・室温が極端に過冷・過高で熱交換不足である。 ・弁が故障して指示どおりに閉まっていない。②大風量・大水量(弁全開、FCU全能力)に拘わらず冷暖房不足 ・負荷がFCU能力に比して大きすぎる。 ・冷水送水温度異常で熱交換不足 ・弁が故障して指示どおりに開いていない。

制御サンプル間隔、弁開閉速度(1サンプル間隔内の開閉開度)は最適調整のこと。

図7 CKKピーク負荷時蓄 熱温度プロフィル実績4)

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① ユーザーの好みのオンオフ、温度設定ができる。(但し

複数のユーザーが競合する可能性が高い)

② 冷房・暖房が自由に切り替えられる冷暖フリーが可能。

③ 運転時間帯や電力課金が熱源ユニットごとユーザー単

位で自由に決められる。

④ 設計がメーカーの機器選択の範疇に入ってしまい、設

計者の技量が余り影響せず、設計戦力をセーブできる。

⑤ イニシャルコストが安価である(と言われる)。

⑥ 不用意な設計の中央熱源、全空気方式または空気・水

方式よりエネルギー消費量が少ない(と言われる)。

(2)FCUを用いた中央熱源蓄熱式水・空気方式への置換え

ビル用マルチの室内ユニットを大温度差型ファンコイルに

置き換えてやれば、3)の課題は水配管問題に置き換えられ、

4)~6)は解決し、5)-ⅳ)と 7)はほぼ同じ課題条件として残る。

①②に対しては同様のメリットがあり、③に関しては熱量計

測をすればこれを規準にした課金が容易になるし、事実、エ

ネルギー管理の観点から細かく熱量計測する時代に入って

いる。⑤~⑥に関しては高効率な蓄熱槽(確実な大温度差

確保)と延長運転による熱源機器容量の最大限の縮小と最

高効率な運転を実現すればコスト、エネルギーともビルマル

チに引けをとることは無い。これについては次報のシミュレ

ーションによる比較に託したい。④については 5)と対の問題

で有り、筆者としてはそれによって設計者の空調技術への

歓心を取り戻し、技術の退廃を防ぐ大きな目的の一つである。

インテリアスペースに FCU を「持ち込む事の難点とされて

きた水配管からの漏れに関して述べると、冷温水に関しては

樹脂管や O リング利用による圧着式配管接合技術の進歩、

水質保全技術の向上などにより、また、共通課題である排水

パンからの漏水に関しては室内・天井裏空間の清浄化によ

る目詰り機会の減少などが問題解決に寄与するが、何れに

しても問題の程度はビル用マルチの場合と同水準である。

4.3 典型的システム系統図

ヒートポンプ・蓄熱センターで作成した適正蓄熱システムダ

イアグラム構築ツール(トータルシステムダイアグラム)を用い

て描いた水・空気方式の基本ダイアグラムを図9に示す。

5.終わりに

中原が長年追求してきた大温度差FCU制御と蓄熱槽の高効率化

技術 7)が、筆者らが主体的に関与した名古屋大学研究棟 CKK 空

調システムのコミッショニング成果を通して得た水-空気方式の復権

を提案し、冷媒・空気ビル用マルチ方式にエネルギー・コスト・環境

各性能とも対抗しそれを凌駕し得て、しかも空調システム技術の衰

退を防ぐ絶好のシステムとして提案するものである。最後にヒートポ

ンプ・蓄熱センターの蓄熱技術基準策定にご協力下さった委員各

位と、CKKプロジェクトに関与された名古屋大学の施設管理関連部

門、森村設計事務所、大温度差確保制御弁メーカー、そしてコミッ

ショニングチームのメンバー各位のご協力に深謝するものである。

文献:以下はすべて空気調和・衛生工学会大会論文集より 1) 中原・祝:既設蓄熱システムの運転実態性能診断に関する研究、その 2、1997 2) 中原・河路・工藤:蓄熱システムの最適化ツールの開発と例題、第 1報、2008 3) 中原・奧宮・岡田:大学施設のトータルビルコミッショニングの実践研究、第 1報~第 3報、2012 4) 中原・奧宮・宮崎・神村・西谷:同上、第 1報、2014 5) 鈴木・奧宮:同上、第 11報、2014 6) 奧宮・鈴木:同上、第 9報、2014 7) 中原・射場本・南島:蓄熱システムのライフサイクル最適化の技術及び性能検証のマニュアル体系について、2015

T :制御用側温体 T :計測用側温体H :熱量計

Q :流量計 P :圧力計 CP :制御器・コントロールパネル

:原線(システム構成用定規としての線)

:原弁(システム構成用定規としての弁)または閉止状態

:ブライン配管

:モデルシステム配管

:モデルシステム使用弁(開放または作動状態

:制御信号線

図9 水蓄熱式水・空気(FCU)システム の略系統図(熱回収+冷却/加熱塔)

凝縮器

圧縮機ヒートポンプ

ダブルバンドル

ダブルバンドル

蒸発器

凝縮器CP

T T

④a冷却塔制御

④c冷却塔水槽凍結防止制御(冬季)

T

S/S冷却塔

ヒートソース/ヒートシンクⅡ

④b冷却塔制御CP

④b冷却塔出口温度制御

BEMS

②a,b,dヒートポンプ等発停制御②cヒートポンプの容量制御

②d3方弁開度リセット

⑪BEMSによるエネルギー管理

VWV系

冷水

還水

主管

熱交換器T

T

密閉系

Ⅲ-b

(密閉系)

(密閉系)

VWV系

冷水

送水

主管

連結完全混合槽型

連結温度成層型

単独温度成層型バランス温度成層型

など

蓄熱槽形式

Ⅰ 蓄熱槽

Ⅱ ヒートソース/ヒートシンク

Ⅲ-a 変水量(VWV)開放系システム

-b 同上、密閉シ系ステム

Ⅳ-a 定水量(CWV)開放系システム

蓄熱方式

サブシステム

①~⑫ 制御ルーチン

T T

①a,b熱源機冷水出口温度制御

CP

⑧変流量系統二次ポンプ流量制御CP

二方弁開度情報

⑧ポンプ台数制御

熱交換器T

T

T

T

CP

④d 熱回収モード採放熱切換制御

VWV(変水量)システム

ファンコイルユニット

C/COIL大温度差確保弁

CP 空調室

⑩室温制御(大温度差確保制御)

T T

C/COIL

CP

⑩室温制御

空調室

空調機

T

C/COIL

T

ファンコイルユニット大温度差確保弁

CP 空調室

⑩室温制御(大温度差確保制御)

T

C/COIL

TCP

⑩室温制御

空調室

空調機

T

TCP

⑥熱交換器出口温度スライド制御

⑧変流量系統二次ポンプ流量制御

⑧ポンプ台数制御⑩b 冷温水切換制御

P

CP

Q

⑨(過熱防止制御)

T

T加熱防止用センサ

⑨(過熱防止制御)

冷(温)水送水ポンプ

流れすぎ防止用手動弁P

CP

Q

⑧変流量系統二次ポンプ流量制御⑧ポンプ台数制御

冷・温水切り替え弁

低温側

Ⅰ 高温側

低温側

Ⅰ 高温側

低温側

Ⅰ 高温側

(冬期冷房負荷がないときはこの系統は不要

右側の冷水系統を、冬期は温水に切り替えればよい)

暖房側系統

VWV系

温水

還水

主管

VWV系

温水

送水

主管

CP

T

T

③熱源機温水出口温度制御

P

CP

Q

温水送水ポンプ

P

CP

Q

循環系統の接続

循環用HPチラー

/加熱塔

凝縮器

圧縮機ヒートポンプ

ダブルバンドル

ダブルバンドル

蒸発器

凝縮器CP

T T

④a冷却塔制御

④c冷却塔水槽凍結防止制御(冬季)

T

S/S冷却塔

ヒートソース/ヒートシンクⅡ

④b冷却塔制御CP

④b冷却塔出口温度制御

BEMS

②a,b,dヒートポンプ等発停制御②cヒートポンプの容量制御

②d3方弁開度リセット

⑪BEMSによるエネルギー管理

VWV系

冷水

還水

主管

熱交換器T

T

密閉系

Ⅲ-b

(密閉系)

(密閉系)

VWV系

冷水

送水

主管

連結完全混合槽型

連結温度成層型

単独温度成層型バランス温度成層型

など

蓄熱槽形式

Ⅰ 蓄熱槽

Ⅱ ヒートソース/ヒートシンク

Ⅲ-a 変水量(VWV)開放系システム

-b 同上、密閉シ系ステム

Ⅳ-a 定水量(CWV)開放系システム

蓄熱方式

サブシステム

①~⑫ 制御ルーチン

T T

①a,b熱源機冷水出口温度制御

CP

⑧変流量系統二次ポンプ流量制御CP

二方弁開度情報

⑧ポンプ台数制御

熱交換器T

T

T

T

CP

④d 熱回収モード採放熱切換制御

VWV(変水量)システム

ファンコイルユニット

C/COIL大温度差確保弁

CP 空調室

⑩室温制御(大温度差確保制御)

T T

C/COIL

CP

⑩室温制御

空調室

空調機

T

C/COIL

T

ファンコイルユニット大温度差確保弁

CP 空調室

⑩室温制御(大温度差確保制御)

T

C/COIL

TCP

⑩室温制御

空調室

空調機

T

TCP

⑥熱交換器出口温度スライド制御

⑧変流量系統二次ポンプ流量制御

⑧ポンプ台数制御⑩b 冷温水切換制御

P

CP

Q

⑨(過熱防止制御)

T

T加熱防止用センサ

⑨(過熱防止制御)

冷(温)水送水ポンプ

流れすぎ防止用手動弁P

CP

Q

⑧変流量系統二次ポンプ流量制御⑧ポンプ台数制御

冷・温水切り替え弁

低温側

Ⅰ 高温側

低温側

Ⅰ 高温側

低温側

Ⅰ 高温側

(冬期冷房負荷がないときはこの系統は不要

右側の冷水系統を、冬期は温水に切り替えればよい)

暖房側系統

VWV系

温水

還水

主管

VWV系

温水

送水

主管

CP

T

T

③熱源機温水出口温度制御

P

CP

Q

温水送水ポンプ

P

CP

Q

循環系統の接続

循環用HPチラー

/加熱塔