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This document is downloaded at: 2020-05-16T15:43:21Z Title 現在価値測定と負債の測定 Author(s) 今田, 正 Citation 経営と経済, 78(1), pp.33-51; 1998 Issue Date 1998-06-25 URL http://hdl.handle.net/10069/29111 Right NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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Title 現在価値測定と負債の測定

Author(s) 今田, 正

Citation 経営と経済, 78(1), pp.33-51; 1998

Issue Date 1998-06-25

URL http://hdl.handle.net/10069/29111

Right

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE

http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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経営と経済第78巻第1号1998年6月

現在価値測定と負債の測定

今田正

Abstract

This paper discusses fundamental recognition and measurement

issues relating to fair value accounting. Especially, our goal is to in-

vestigate fundametal accouting implication of using present value in ac-

counting measurement.

In October 1997, the Financial Accounting Standards Board issued a

Exposure Draft, Using Cash Flow Information in Accounting

Measurements. This Statement provides a framework for using future

cash flows as the basis for an accounting measurement. That is to say,

the Boad's role is incorporating the objectives and conceptual basis for

using present value techniques in financial accounting measurement in-

to its conceptual framework. So, we analyse two measurement issues

relating to present value accountig for liabilities and the implication of

identifying three measurement objectives for liabilities.

はじめに

伝統的会計の主要な焦点は,企業活動の投入と産出の過程におかれ,これ

ら収益生成の過程の焦点は収益実現,すなはち,企業の投入物が現金ないし

現金等価物に転化する時に置かれた。しかし,これら伝統的実現主義と原価

基準の測定概念は,もはや金融商品の認識と測定といった問題にとって適合

的とはいえないとされる。なぜなら,現在の実務において,特に,多くの金

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34 経営と経済

融派生商品は認識されないが,それは,歴史的原価基準によった場合,金融

派生商品は当初原価を有しないことによる。すなはち,その当初原価はゼロ

であるから,それら金融派生商品はその公正価値の変動が認識されなければ,

実際的に捉えられない。また,企業は金融商品価格の変動による過度の損失

に曝されることを避けるという金融リスクのマネイジメントの必要性を益々

認識しつつあり,これらが公正価値評価導入の根拠とされている(1)

確かに,多くの金融派生商品は,伝統的金融商品と異なり,単に契約を反

映するにすぎず,何らの具体的対価の初期移転を伴わないが故に,その大部

分が“オフ・バランス"である。また,財務諸表上に認識される場合でも,

金融派生商品に関する実現また未実現損益は損益認識上,関連項目の計上額

の一部,あるいは資産又は負債として繰延べられることになる。

かくて,これらの諸問題から導き出されるところは,全ての金融派生商品

を資産又は負債として認識し,かつ公正価値をもって測定することである。

まさに,各会計基準設定機関が金融派生商品を含む金融商品の認識と公正価

値測定の方向を指向している。 FASBは『公開草案~ I金融派生商品及び類

似の金融商品並びにヘ、ソジ活動に関する会計処理J(問6年 6月j2)を, ASB

が『公開草案~ I金融派生商品及びその他の金融商品J(1仰年7月rを,

IASC は『討議資料~ I金融資産及び金融負債に関する会計処理J(1997年 3

月)4)を表わし,公正価値会計を方向づけた。特に注目されるのは, FASBが

『公開草案~ I会計測定におけるキャッシュ・フロー情報の利用J(1997年 6

月)5)を表わし,現在価値測定を会計測定一般における基礎概念として「概念

フレーム・ワーク」の一環に位置づけたことである。

現在価値測定という将来予測要素の導入を伴う割引価値計算がもっ会計的

意味はなにか,ここでは負債評価に焦点をおいて検討する。

(1) IASC, Discussion Paper, Accounting for Financial Assets and Financial Liabilities,

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現在価値測定と負債の測定 35

March 1997, Overview of the Steering Committee's Proposals, para.2. 2.羽Tilson,A.C.

and Smith, G.R., Proposed Accounting for Derivatives: Does it Address the Concerns

of Current Accounting? Accounting Horizons, September 1997, p.70.

(2) FASB, Exposure Drajt, Accountig for Derivative and Simi1ar Financial Instruments

and for Hedging Activities, June 1996.

(3) ASB, DisαtSsion Paper, Derivatives and other Financial Instruments, July 1996.

(4) IASC, Discussion Paper, Accounting for Financial Assets and Financia1 Liabilities.

(5) FASB, Exposure Drajt, Using Cash Flow Information in Accounting Measurements,

June 1997.

1.公正価値測定の論理

(1) 公正価値概念

資産及び負債の公正価値測定がもっ会計的意味はなにか,まず公正価値の

概念についてみよう。

近年, FASBはいくつかの基準書において公正価値の規定を行っている。

SFAS第107号「金融商品の公正価値の開示J(削年f)をはじめ, SFAS第

115号「負債証券及び持分証券の会計J(附年);2)SFAS第121号「長期性資

産の減損及び処分予定の長期性資産の会計J(1995年),(3)SFAS第122号「モー

ゲージ サービス権の会計処理J(問5年rを通じてほぼ同じ定義が用いら

れてきた。特に, SFAS第125号「金融資産の譲渡及びサービス業務と負債

の消滅に関する会計処理J(1附年tは以下のように公正価値の定義を行っ

ているが,その用語法は SFAS第107号を引き継ぎながらも,一部転換も計

られている。

「資産(あるいは負債)の公正価値とは強制売却あるいは清算売却以外で,意思

ある当事者聞の現在の取引において資産(負債)が購入(発生)されるか,売却(決

済)される金額である。活発な市場の公表市場価格は公正価値の最適証拠であり測

定の基礎として用いられることになる。もし公表市場価格が利用できる場合は,公

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正価値は取引数量に市場価格を乗じて算出される。

もし公表市場価格が利用できない場合は,その状況下で最適情報に基づいた公正

価値の見積りがなされるべきである。公正価値の見積りは同類の資産また負債の価

格やその状況下で利用できる限りの評価手法の結果を考慮すべきである。評価手法

の例としては,期待将来キャッシュ・フローのリスク調整した割引率を用いた現在

価値,オプション・プライシング・モデル,マトリックス・モデル,オプション・

アジャステッド・スプレッド・モデル,および基礎的分析法が含まれる。……金融

負債やサービス業務負債を予測キャッシュ・フローの割引による公正価値で測定す

るにあたっての一つの目的はそれら負債が独立した第三者との取引において負債が

決済される割引率を用いことである」と。

この中で特に注目されるのは, i金融負債を予測将来キャッシュ・フロー

の割引による公正価値で測定するにあたっての一つの目的はそれら負債が独

立した第三者との取引において決涜される割引率を用いることであるj)と述

べ,負債評価におけるエクシット・ヴァリュウ・アプローチを方向づけたと

ころである。

(2) FASBの公正価値の位置づけ

FASBは, 1996年 6月, w公開草案ji金融派生商品及び類似金融商品並び

にヘッジ活動に関する会計処理j)を表したが,これは,金融派生商品を含む

金融商品全般の認識・測定の基準化が指向されることを意味するが,先ずは,

全ての金融派生商品を契約による権利(義務)に基づき,貸借対照表におい

て資産,負債として認識し,公正価値で測定しなければならないとした。)金

融派生商品は現金で決済することができる権利または義務であるから資産ま

たは負債である。有利な状況にある金融派生商品を現金を受取ることによっ

て決済できるのは,将来経済便益に対する権利の証拠であり,その商品が資

産であることを示している。同様に,不利な状況にある金融派生商品を決済

するために要求される現金の支払いは,将来において資産を犠牲にする義務

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の証拠であり,その金融派生商品が負債であることを示している:九するの

である。

つぎに,測定問題については,公正価値こそ金融商品について最も適合的

で,金融派生商品について唯一の適合的な測定となるという。

すなはち,金融資産・負債の公正価値は原価ないし原価基準による測定よ

り,より適合的で理解し易い情報を提供する。それは過去の取引価格という

より実体の金融商品の現在の現金等価額を表しているという:2)特に金融資産

の多くにとって公正価値測定は実践的であり,公正価値測定は市場や類似の

金融商品の市場を参考とすることによる予測によって得られ,また市場情報

が利用できない場合は割引キャッシュ・フロー分析といった他の評価手法を

用いて予測できる(13)これと同じ理由から,公正価値こそ金融派生商品につい

ての唯一の測定属性であり,すべての金融派生商品が財務諸表上に公正価値

をもって表示されるべきである,とした?)

このように規定された公正価値測定は,金融資産・負債の測定において具

体的に適用される。公正価値予測は直接には市場に依拠するが,公正価値測

定の特徴は,市場情報が得られない場合には,計算 (ca1curation)モデルた

る割引キャッシュ・フロー分析等の予測手法を取り入れることである。特に

注目されるのは,次節にみるごとく,割引キャッシュ・フロー法が単なる計

算モデルにとどまらず,現在価値が会計の基本的な測定属性として位置づけ

られるところであり,会計測定の新たな転換を意味する。

(1) FASB, SFAS No.107, Disc10sure about Fair Value of Financial Instruments, 1991.

(2) FASB, SFAS No.115, Accounting for Certain Investments in Debt and Equity

Securities, 1993.

(3) FASB, SFAS No.121, Accounting for the Impairment of Long-Lived Assets and for

Long-Lived Assets to Be Disposed Of,1995.

(4) FASB, SFAS No.122, Accounting for Mortgage Servicing Rights, 1995.

(5) FASB, SFAS NO,125, Accounting for Transfers and Servicing of Financial Assets

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and Extinguishments of Liabilities, 1996.

(6) Ibid., paras. 42,43,44.

(7) 昂id.,para. 44.

経営と経済

(8) FASB, Exposure Drajt, Accounting for Derivative and Simi1ar Financial Instruments

and for Hedging Activities, 1996.

(9) 昂id.,para.52.

(10) 昂id.,para.54.

帥昂id.,para.55.

(1~ lbid., para.56.

(13) Ibid., para.57.

(1~ 昂id. , para.58.

2 .割引現在価値の概念フレーム・ワーク化

(1) 会計測定におけるキヤ‘Yシュ・フロー情報の導入

FASBは, 1997年6月, w公開草案~I会計測定におけるキャッシュ・フロー

情報の利用jl)(以下,単に『公開草案』という。)を表したが,このステイトメ

ントの役割は,会計測定の基礎に将来キャッシュ・フローを用いるうえでの

フレーム・ワーク化を計ることである。その導入の論理は,会計測定の多く

は現金収支額,現在原価,また現在市場価値といった観察可能な市場決定額

を用いてきたが,資産・負債の測定基準として予測将来キャッシュ・フロー

を用いることも多く,ここに,現在価値測定の問題が生じるというのであ

る。

FASBは,かつて SFAC第 5号において,現在用いられている資産・負

債の測定属性として歴史的原価(歴史的収入額),現在原価,現在市場価値,

正味実現可能(決済)価額,及び将来キャッシュ・フローの現在(割引)価

値を掲げた (3)これについて, w公開草案』は,この 5つの測定属性のうち,

現在原価,現在市場価値及び正味実現可能価額の 3つの属性は当初認識時に

おける測定と事後期間におけるフレシュ・スタート測定 (fresh-start

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measurement)に焦点を置き,また,歴史的原価属性については当初認識

時における測定と事後のアモーチゼイションに焦点を置いた。しかし,現在

価値属性についてはアモーチゼイションの利息法 (interestmethod)に焦

点をおき,当初認識時及びフレシュ・スタート測定に用いることには着目し

てこなかったというのである(4)

かくて, ~公開草案』の役割は a. 将来キャッシュ・フローの金額又は

時期,あるいはその双方が不確実である場合に,現在価値の利用を支配する

一般原則を示すこと。 b.特に, r公正価値J(fair value)または「実体固

有の価値測定J(entity-specific measurement)のいずれかを見積もる際に,

会計測定における現在価値の目的を共通に理解させることにある,とした (5)

まず,現在価値計算の特性は測定に貨幣の時間的価値を導入することであ

り,予測将来キャッシュ・フローを用いて測定する場合はいつも財務報告上

有効である。それは,予測将来キャッシュ・フローの現在価値は,資産の取

得時に支払った歴史的原価を含めて,全ての市場価格に合意されている。そ

の関係は,貸出金あるいは社債といった金融資産に適用すれば明らかであり,

全ての資産に適用される。しかし,現在価値計算の要素はキャッシュ・フロー

と金利の結合であり,予測キャッシュ・フローに特有の不確実性とリスクが

反映されねばならないという (6)

そこで, ~公開草案』は会計測定における現在価値の目的を公正価値と実

体固有の価値測定なる予測目的に区分する。その論理はこうである。キャッ

シュ・フロー情報に基づく測定は予測と仮定を用いるが,実体固有の予測と

仮定は資産または負債の公正価値のそれとは異なるという(7)実体固有の価値

測定は実体固有の価値を見積もるための予測と仮定を用い,対照的に,公正

価値の測定は意思を有する当事者が,一定の価格をもって市場で取引を行う

と仮定する。予測キャッシュ・フローの仮定を市場が行うか,主体的実体が

行うかの差異である。この実体固有の価値測定は時に「使用価値J(value in

use)また「実体にとっての価値J(value to the entity) とも称される。以

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40 経営と経済

上から,資産(また負債)の実体固有の価値測定とは, r実体が,対象物を

その経済期間に渡り,その使用(また決済)および最終的な処分を通じて実

現する(また支払う)と期待する将来キャ、ソシュ フローの現在価値であるj)

とされる。そして,実体固有の価値測定を選択する場合の理由に次のような

事例をあげる(10)

a.特定の資産・負債の市場価値に関する情報が得られない場合。

b.既存の市場に数少ない取引しかなく,活発な市場の公正価値を正確に

反映しない場合。

C. 実体が市場において入手し得る情報よりも,優れた,あるいは異なっ

たキャッシュ・フロー情報を持っている場合。

d.実体が,市場における他者が持っていないような特別な技術またはプ

ロセスを持っている場合。

特に e. として掲げる, r実体が,最も高い利用又は最も効率良い決済

という,市場の観点、とは異なる方法で資産を利用し,負債を弁済する計画を

もっている場合」という事例は実体固有の価値測定の概念に近く,まさに資

産,負債の評価を主体的かっ主観的に行うという実務を許容する枠組みを用

意したものであるとみられるのである。

(2) 期待キャッシュ・フ口一概念

つぎに,現在価値による会計測定に伴う不確実性とリスクを反映させる方

法は,キャシュ・フローをリスクに相応した利子率で割り引くか,いま一つ

は,キャッシュ・フローを修正してリスク・フリーの利子率で割りヲ|くかで

ある (ll)適切な利子率の見積りは,契約によりキャッシュ・フローの金額と時

期が約定されているときには容易であるが,約定されていないときには適当

な利子率が入手できないため,予測キャッシュ・フローの修正が必要とされ

る。

ところで,現在価値の適用にあたっては,典型的には一つの予測キャッシ

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現在価値測定と負債の測定 41

ュ・フローと単一の金利が用いられてきた。特に,アメリカでは,キャッシ

ュ・フローの時期や金額が契約によって確定している場合に現在価値の利用

が受け入れられてきたとされる。

これに対して.~公開草案』は,現在価値の伝統的アプローチに替えて「期

待キャッシュ・フローJ(expected cash flow)概念を導入した。期待キャッ

シュ・フローとは一定範囲の予測キャッシュ・フローの確率によってウェイ

トづけされた平均値であるとされ,伝統的アプローチとの差異は次のような

点にあるという。

a.期待キャッシュ・フロー・アプローチは,測定に用いられる諸仮定に

ついて明示的な表明を要求する。逆に,伝統的アプローチは,契約上の

キャッシュ・フローまたは最大のキャッシュ・フローを用い,その他の

要素は利子率の中に黙示的に反映されていると仮定する。

b.期待キャッシュ・フロー・アプローチは,一つの可能性の高いキャッ

シュ・フロではなく,可能性あるキャッシュ・フローの全ての期待値を

を用いる。例えば,キャッシュ・フロー金額が,それぞれ10%.60%. 30

%の確率で. 100ドル.200ドル.300ドルであると仮定した場合,期待

キャッシュ・フローは.220ドル(100x 0.1 +200 x 0.6+300 x o. 3)と

なる。期待キャッシュ・フローは最大見積りに基づく伝統的アプローチ

によった場合の200ドルとは異なる。

c.期待キャッシュ・フロー・アプローチは,不確実性やリスクについて

の明示的な表明を要求する。

d.期待キャッシュ・フロー・アプローチは,キャッシュ・フローの時期

が不確実であるとき,現在価値法の利用を認める。例えば. 1, 000ドル

のキャッシュ・フローが l年目. 2年目. 3年目にそれぞれ10%.60%.

30%の確率で受け取られるとした場合,期待現在価値は898.61ドルとな

り,伝統的な最大見積り907.03ドル (60%の確率)とは異なる。

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42 経営と経済

デフォルト・フリーの投資の金利 5%

5%で割引L、た l年目の1,000ドルの現在価値 952.38ドlレ

確率 10.00% 95.24ドル

5%で割引いた 2年目の1,000ドルの現在価値 907.03ドlレ

確率 60.00% 544.22

5%で割ヲ|いた 3年目の1,000ドルの現在価値 863.84ドル

確率 30.00% 259. 15

期待現在価値 898.61ドル

FASBは,期待キャッシュ・フローは,現在,継続的に用いられてはい

ないが,年金,退職後給付,保険債務といった特定の会計測定に専ら用いら

れている。最近,それらは,強制ではないが,貸出金,長期資産の減損等の

測定にも認められているという。)すなはち,実務に用いられていることを前

提としながら,一定範囲のキャッシュ・フローの確率によってウェイトづけ

された平均値の手法のみを意味する用語として概念フレーム・ワークに位置

づけたのである。

(1) FASB, Exposure Drajt, Using Cash Flow Information in Accounting Measurements.

(2) 昂id.,para.1.

(3) FASB, SFAC No.5, Recognition and Measurement in Financial Statements,1984,

para.67.

(4) FASB, Exposure Drajt., op.cit., paraふ

(5) 昂id.,para.9.

(6) 昂id.,paras.l3, 16, 19.

(7)(8) 昂id.,para.40. ASB, Working Paper, Discounting in financial reporting, Apri11997,

para.3.1.

(9) Ibid., para.43. ASB, Exposure Drajt, Statement of Principles for Financial Reporting,

November 1995, para.5.7.

(10) 昂id.,para.41.

Úl)(l~ 昂id. , para.25.

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現在価値測定と負債の測定 43

(l3)昂id.,para.34.

的昂id.,para.35.この概念は,既に, 1996年に FASBプロジェクトにおいて,新しい会

計概念として導入されている (FASB, Special Report, The F ASB Project on Present

Value Based Measurements, an Analysis of Deliberations, Upton, W.S., Jr., 1996, p.

49. )0

(15) 昂id.,para.36.

3.現在価値と資産・負債の測定

(1) 資産の現在価値測定

さて,資産,負債の測定における現在価値測定はいかに論理づけられるの

か。それは,その測定属性を将来事象たるキャッシュ・フロー概念に求める

ことである。

資産は,通常,取引における支払価額あるいは観察可能な市場価値といっ

た観察可能な属性を用いて測定される。もし観察可能な尺度が得られないか,

実体に固有の金額を開発することが測定目的である場合には,会計人はキャ

ッシュ・フロー情報に依拠することになる,という。すなはち,予測将来キ

ャッシュ・フローをその現在価値で報告することは,非割引額で報告するよ

り,より適合的情報を提供することになるというfそして,資産測定におけ

る現在価値法の適用に関する一般原則を次のように示した (3)

a.予測キャッシュ・フローと利子率は,一つまたグループ資産を独立した第三者

との取引において取得するか否かを決定する際に考慮するであろう全ての将来事

象と不確実性についての諸仮定を反映すべきである。

b.利子率は,予測キャッシュ・フローに固有の諸仮定と一貫した諸仮定を反映す

べきである。たとえば,契約上のキャッシュ・フローに通常適用される利子率は

将来のデフォルトについての期待を反映するであろう。これと同じ利子率が期待

キャッシュ・フローを割り引くために用いられるべきではない。

c.予測キャッシュ・フローと利子率は,一つまたグループ資産に関係のない偏見

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44 経営と経済

や要因に束縛されてはならない。

d.予測キャッシュ・フローまた利子率は,可能性ある単一の金額ではなく,一定

範囲の可能性のある結果を反映すべきである。

(2) 負債の現在価値測定

前述の資産の測定の一般原則は,負債の測定と現在価値の関係にも適用さ

れるが,負債の測定は,資産のそれとは異なり,異なった測定目的を持ちう

るとされるfFASBは,以下のような三つの負債に関する測定目的を識別

した。

「資産としての公正価値J(Fair value as assets) 社債の市場価格のよ

うに,ある実体の負債を他の実体が資産として保有することを希望する価額

である。例えば,ローン収入額は,貸し手が借り手の将来キャッシュ・フロー

の約束を資産として保有する際に支払う価格である。同様に,社債の公正価

値は,それら証券が市場において資産として取引される価格である、いう。

すなはち,資産の歴史的原価(また取替原価)概念に相当し,負債をその収

入額で測定することを意味すると解される。

「決済における公正価値J(Fair value in settlement) 実体が第三者に

負債を引き受けてもらうために支払わなければならない金額で、あるfこの公

正価値の尺度として決済の公正価値に着目したプロナウンスメントにSFAS

第125号がある (9)決済の公正価値は現在の取引を予定する。したがって,決

済の公正価値の見積りに用いられる仮定のキャッシュ・フローは独立の第三

者が当該債務を引受けるのに要求する価格設定の際に期待する金額を反映す

べきであるとされる。

「実体による決済の価値J(Value in settlement by the entity) 実体が

将来において債務を決済するために支払うと期待する金額であり,負債の実

体固有の価値測定をいう:たの場合,実体による決済は債務の全期間に渡つ

ての決済を予定する。したがって,仮定のキャッシュ・フローは実体が負う

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現在価値測定と負債の測定 45

と見込まれる金額を反映すべきであるとされる;2)なお,負債の公正価値を他人がそれを資産として保有する価値で測定する

場合,デ、フォjレト リスクに関する修正が必要となる(13)対照的に,決済の公

正価値は実体がその債務を他者をして引受けさせるのに支払わねばならない

資産(現金)額であり,一旦,第三者が債務を引き受けた場合,実体の支払

能力は無関係である。同様に,実体による決済の価値測定はデフォルト・リ

スクに関する修正を反映すべきではなく,決済に際し支払う資産価値による,

とされる。

(1)(2) FASB, Exposure Draft, op.cit., para.49.

(3) 昂id.,para.50.

(4) 昂id.,para.51.

(5) 昂id.,paras.52, 53. 54.

(6) 昂id.,para.52.

(7) Ibid., para.52.すなはち,歴史的収入 (historicalproceed)また借換収入 (replace-

ment loan)を含む概念と解される。

(8) 昂id.,para,53.

(9) SFAS第125号は,前述のように. I予測将来キャッシュ・フローの割引による公正

価値による金融負債の測定において,一つの目的はそれら負債が独立した第三者との

取引において決済される割引率を用いることである」と述べ,包括的エクシット・ヴ

ァリュウ・アプローチを採用したのである (Perry,R.E.,ed., Accounting for Deriva-

tives, IRWN,1997. p.267.)。

(10) F ASB, Exposure Draft, op.cit., para.53.

(11)(17)昂id.,para.54.

(13) 昂1・'d., para.55.

(1~ Ibid., para.56.

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46 経営と経済

4.負債評価の論理とその意味

FASBは,かつて,財務報告の第一義的目的は企業のキャッシュ・フロー

見込みに関する金額,時期及び不確実性についての評価の助けになる情報を

提供することであるとした。財務諸表の多くの項目がその計上にあたって見

積り,仮定また判断にその基礎をおいている。そして,この将来予測の会計

の基礎をなしているのが公正価値の概念である。公正価値評価を支える大き

な要素は,先ずは予測可能性にある。例えば,金融商品の公正価値は将来キ

ャッシュ・フローの予測の優れたた基礎となる。なによりも,公正価値は実

体の保有する金融商品の,過去の取引価格ではなく,現在の現金等価額を表

している。すなはち,公正価値は将来キャッシュ・フローに関する情報が市

場を通じて組み込まれており,市場の評価を表している,とされるのであ

る;2)FASBは, SFAS第107号において次のように規定した (3)

「金融商品の公正価値は直接,また間接にそれに具現される純将来キャッシュ・

フローを,現在の金利と市場のキャッシュ・フロー・リスクの評価の双方を反映し

て割り引いた現在価値に関する市場の評価を表している。投資家及び与信者は,彼

ら自身へのキャッシュ・フローの源泉として,実体への純将来キャシュ・フローの

金額,時期及び不確実性の予測に関心を有している」と。

このように会計測定の基礎に将来キャッシュ・フローを置くことは,当然、

に会計の測定属性として現在価値を用いることを意味し,割引現在価値手法

を伴う。

だが,先にみたように,現在価値の「概念フレーム・ワーク」化の論理的

特徴は現在価値測定の目的を公正価値の予測と実体固有の価値測定とに概念

区分することである。すなはち,現在価値という評価手法としては同じであ

るが,予測キャッシュ・フローに関する仮定を,市場が行うのか,主体的実

体が行うのかに差異にあるとされ,その価額も異なる。特に,資産,負債の

実体固有の価値測定は実体の期待将来キャッシュ・フローの現在価値であ

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現在価値測定と負債の測定 47

り,それを「使用価値J,r実体とっての価値j)といった主体的,また主観的

価値として概念的に設定することによって,現在価値測定のもつ予測要素を

論理づけたのである。

では,資産,負債の現在価値測定はどのように論理化されるのか。一般に

は,市場価値のような観察可能な測定属性に依拠するが,それが得られない

場合はキャッシュ・フロー情報に着目することになり,その現在価値が適合

的となるというのである。特に,負債に関しては,三つの測定目的として区

分された。負債の「資産としての公正価値Jは,ある実体の負債を他の実体

が資産として保有することを希望する価額であり,キャッシュ・イン・フ

ローとしての収入額また借換収入 (replacementloan)を含むエントリー・

ヴァリュウ・アプローチとみられる。また「決済の公正価値」は,負債の第

三者による引受価額であり,キャッシュ・アウト・フローたるエクシット・

ヴァリュウによる測定である。それは現在返済価格 (currentrepurchase

price)であり,債務が債権者の同意を得て決済され,また買戻し償還され

うる金額である (8)さらに, r実体による決済価値」は,債務の決済において

実体が支払うと期待する資産価値であり,将来支出の現在価値を意味してい

る。

これら三つの測定属性は測定目的は異にはしているが,歴史的収入額を含

めて現在価値測定を基礎とし,現在市場価値をも意味している (9)

では,この三つの負債測定属性の概念的な設定の意味はなにか。例えば,

L.ローレンセンは確定額支払ローンをモデルに負債の測定概念を三つに区分

した。

(1) 負債の返済のために追加借入れをすると仮定した場合の収入額 (The

proceeds of hypotheticalloans)

(2) 債権者が受け入れ可能な早期弁済額 (Thecreditor's acceptable

early-discharge amount)

(3) 基金額 (Thefunding amount)

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48 経営と経済

(1)のローン収入額は「現存の利息及び元本に関する将来債務を決算日に新

たな条件で借入れると仮定したときの調達可能額11)であり,資産の現在取替

価格に類似し負債の借換え時価を表しているとみられるのである。しかし,

ローレンセンは,これは負債の現時点の借換えを仮定しており,現に存在し

ていないか,債務を負っていない負債の属性を表しており,問題があるとい

う。 (2)は, 1"決算日において負債が弁済されるとした場合に債権者が受け入

れ可能な最少金額」のことである(12)しかし,ローレンセンは,債権者が受け

入れ可能な金額を正確に知ることは難しい。また,負債の基礎といなってい

る証券の現在市場価格も債権者が受け入れ可能な当該負債に関する早期弁済

額の証拠とはならないとした。かくて,ローレンセンは負債を, (3)の基金額

で評価することを提案した。基金額は, 1"実体が,決算日現在の負債の見積

支払額を満期日に支払うのに必要となる金額を提供することを目的とする基

金をもって,決算時に証券を購入するのに必要な貨幣額14)である。この概念

はディフィーザンスに通じるが,ローレンセンはディフィーザンスが実際に

発生した負債の消去に焦点があるのに対して,基金額は負債を表示する場合

の問題であって,現実に基金が設定されていない負債にも適用されるとし,

一般的に論理化した。具体的には,これは最も経済的な投資戦略のもとでリ

スク・フリーの負債証券を購入したと仮定し,これを負債の支払に充てると

した場合の金額であり,それは証券の購入時価であるか,購入証券の将来キ

ャッシュ・フローの現在価値である。いずれにしても,基金額の概念は決済

時価たるエクシット・ヴァリュウ・アプローチを示している。

このように,ローレンセンは三つの負債の測定属性のうちから一つに絞っ

た。これに対して,先に分析したFASBW公開草案』は特定の測定属性を主

張することはない。むしろ,三つの測定概念を用意することによって,測定

属性の選択を許容したとみられる。例えば,ローレンセンの三つの測定属性

は, W草案』が規定する「資産としての公正価値」また「決済の公正価値」

なる負債概念に包括されるとみられ,特に,ローレンセンの「基金額」概念

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現在価値測定と負債の測定 49

は決済時価であるが,その主体的性質から「実体による決済の価値J,すな

はち実体の期待決済価値の性質をもっと解されるのである。

(1) FASB, SFACNo.l, Objectives of Financia1 Reporting by Business Enterprises, 1978,

para.37. ]ohnson. L.T., Robbins, B.P., Swieringa, R.]. and Wei1, R.L., Expected

Va1ues in Financia1 Reporting, Accounting Horizons, December 1993, p.77.

(2) IASC, Discussion Paper, Accounting for Financia1 Assets and Financial Liabi1ities,

March 1997, p.87.

(3) FASB, SFASNo.107, Disc10sures about Fair Value of Financia1 Instruments,1991,

para.40.

(4) FASB. Exposure Draft, op.cit., para.43J使用価値」はエントリー・ヴァリュウ,エク

シット・ヴァリュウと並んで,公正価値概念を構成する価値概念の一つであり,その予

測は企業に固有で潜在的に私的情報を含む (Barth,M.E. and Landsman, W.R., Fun-

damental Issues Related to Using Fair Value Accounting for Financia1 Reporting, Ac-

counting Horizons, December 1995, pp.101-104.)。

(5) R.スターリングは「割引価値は測定ではない。それは数学的に修正した予測である。

したがって割引価値には現在の経験を通じて確かめられる対応物がないーーすなはち

割引価値は『主観的』である。……割引価値の適合性の基礎をなしているものはまた,

その主観性の基礎をなしているものである。一割引価値は予測である」という

(Sterling, R., Toward a Science of Accounting, Houston, Texas,1979, p.126.)。

(6) FASB, Exposure Draft, op.cit., para.49.

(7) Kulkarni, Deepac, The Valuation of Liabi1ities, Accounting and Business Research,

Summer 1980, p.291.佐藤信彦「負債の測定と割引現在価値計算の本質J~会計』第147巻

第 5号, 1995年5月, 15頁。醍醐聴「負債の時価評価と利益計算J~会計』第152巻第

6号1997年12月, 1頁。万代勝信「負債の評価と負債概念JW会計』第153巻第3号, 1998

年3月, 83頁,参照。

(8) 負債を決済時価で評価することについては,社債のごとき長期負債はその条件を充

たさないという説もある(森田哲蒲「企業会計における時価基準J~産業経営研究』第19

号, 1997年, 8~9頁)。

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50 経営と経済

(9) たとえば, R.スターリングはいう。「割引将来キャッシュ・フローは現在市場価値に

等しくなる。……割引価値は現在市場価格にほかならないからである。事例によって

この点を考えてみよう。ここで次のように想定する。ある資産の市場価格が$100であ

り,今から 1年間のこの資産は $125のキャッシュ・フローを生み出す。となると,こ

こでの市場割引率は(125/100)-1=25%である。そこで,割引価値は $125/1.25=

$100,すなはち現在市場価格である」と (Sterling,R., op.cit., p.139.)0 Beaver,

W.H., Financial Reporting;・AnAccounting Revolution, New Jersey, 1981, p.67.

(1~ Lorensen, L., Accounting for Liabilities, AICPA, Accounting Research Monograph

No.4, 1992, p.45.

Ul) Ibid., pp.45-46.

(1~ Ibid., p.49.

(13) 昂id.,pp.65-66.

(1~ 昂id. , p.52.

Ú~ 昂id. , p.55. Wearing, R.T., Liability Va1uation and Debt Defeasance: A Cash-Flow

Exit-PriceCCaFE)Approach, ABACUS, Vol,29, No.2, 1993, p.179.

おわりに

ここでは,現在価値測定法の導入とその概念フレーム・ワーク化の会

計的意味を検討した。現在価値測定属性は将来事象たる将来キャッシュ

・フロー情報の会計測定への組み込みによって機能する。ただし,負債

の測定は割引現在価値を基礎としながらも,金融商品等の負債の測定目

的に応じた測定属性が選択され得る。

一般に,負債の測定属性としては,資産の測定属性に照応して,歴史

的収入の他,時価基準として,仮定的借入収入,現在返済価格,将来キ

ャッシュ・フローの現在価値等として提示されている。歴史的収入は過

去の借入時の収入額であり,仮定的借入収入は現在借換の収入可能額で

ある。また現在返済価格は現在時点の決済を仮定した支出金額であり,

現在価値は将来支払予定額を割りヲ|いた金額である。例えば,歴史的収

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現在価値測定と負債の測定 51

入と借換収入との差異は借入れ時期の差異にすぎず,その収入金額の差

異は将来支払予定総額を如何なる割引率で割りヲ|くか,借入れ時の借入

れ利子率か,現在時点の借入れ利子率かの差異であり,割引現在価値で

あるという点での差異はない。同様に,他の測定属性もまた割引現在価

値としての意味を有している。

ここに分析した『公開草案』も負債の測定属性として特定の属性を提

示しているわけではない。特に負債については,現在価値という測定手

法は共通でありながら,その三つの測定目的として提示し,金融負債の

性質に応じた,まさに,測定目的に応じた測定属性の選択を根拠づける

概念的枠組みを用意したところにその役割があるとみられるのである。

(1) 佐藤信彦「負債の測定と割引現在価値JnrCPA ジャーナル~ No.503, JUN.1997, 32

頁,参照。