mev 領域ガンマ線天体探査 - 京都大学 · シンチレータを用いた8×8 ピクセ...

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MeV 領域ガンマ線天体探査 、株 ( )、永 ( )( )( ) 1 はじめに 1991 に打ち げられたガンマ ( )CGRO EGRET により、 から 270 GeV ガンマ 体が され ( 1)、ガンマ して 待されている。 2 すように、GeVTeV ガンマ X しているが、130 MeV CGRO COMPTEL ( 1) がある 、他 域より 1 悪い感 って いる。 、多く 待され がら、 30 された る。これ MeV 域に にイメージング されてい いため ある。 MeV ガンマ あるが、こ (ガンマ )、ブラックホール (π 0 )、活 核ジェット、パル サー、γ バースト、γ バリオン 、さらに Primordial Blackhole から、 、宇 にまたがる 題が多い あり、GeV 域以 された を越 える 体から 待されている。こ よう MeV ガンマ するために 、大 体角 MeV ガンマ るイメージング いた る。 1 : 100 MeV EGRET されたγ ( )[1]COMPTEL サーベイマップ ( )[2]2:X ・ガンマ ( )“Our Goal” ガンマ メラを 50cm に拡 して、衛 した 2 コンプトン検出器 COMPTEL よう コンプトン ( 3 ) 、コンプトン きた エネルギー、 ガンマ エネルギーしか いために、 ガンマ が円 にしか まら い。そ ため、宇 して るバックグランド しく、 に、 された感 より 1 悪い感 しか いこ が打 した [3]1

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Page 1: MeV 領域ガンマ線天体探査 - 京都大学 · シンチレータを用いた8×8 ピクセ ルアレイを開発し、浜松ホトニクス 社フラットパネル、8×8ch

MeV領域ガンマ線天体探査

窪 秀利、谷森 達、身内 賢太朗、株木重人、岡田 葉子、高田 淳史、西村 広展、服部 香里、上野 一樹 (京大)、永吉 勉 (早稲田大)、折戸 玲子 (神戸大)、関谷 洋之 (東大)

1 はじめに

1991年に打ち上げられたガンマ線天文衛星 (米)CGRO EGRET検出器により、全天から約 270個のGeVガンマ線放射天体が発見され (図 1)、ガンマ線天文学は、新たな天文学として発展が期待されている。図 2に示すように、GeV・TeVガンマ線領域は、硬 X線領域と同じ検出感度を達成しているが、1∼30 MeVの領域は CGRO衛星 COMPTELの全天探査 (図 1)があるのみで、他の領域より 1桁以上悪い感度となっている。実際、多くの天体の検出が期待されながら、定常的放射天体は未だ 30個程度が発見されたのみである。これはMeV領域に有効な測定手段、特にイメージング手法が開発されていないためである。

MeVガンマ線は、電磁波天文学では数少ない未開拓領域であるが、この領域は、超新星の元素合成 (核ガンマ線放射)、ブラックホール近傍の直接観測 (π0中間子の崩壊)、降着円盤、活動銀河核ジェット、パルサー、γ線バースト、γ線背景放射、銀河のバリオン量の測定、さらには Primordial Blackhole探査など、宇宙物理から、素粒子、宇宙論にまたがる重要な問題が多い領域であり、GeV領域以上で検出された数を越える天体からの放射が期待されている。このようなMeVガンマ線観測を実現するためには、大立体角で、且つMeVガンマ線の到来方向が数度の角度分解能で測定出来るイメージング観測装置を用いた全天探査が必要となる。

図 1 : 100 MeV以上で EGRETで検出されたγ線源分布 (上)[1]。COMPTELの全天サーベイマップ (下)[2]。

図 2 : X線・ガンマ線領域での現時点での連続成分感度 (但し点線は計画中)。“Our Goal”の線は、本研究のガンマ線カメラを 50cm立方に拡張して、衛星に搭載した場合の感度。

2 コンプトン検出器

COMPTEL検出器のような従来のコンプトン検出器 (図 3左)は、コンプトン散乱が起きた場所と反跳電子のエネルギー、散乱ガンマ線の方向とエネルギーしか測定しないために、入射ガンマ線の方向が円錐上

にしか求まらない。そのため、宇宙線が検出器と衝突して作るバックグランドの除去が難しく、結果的に、

打上げ前に予想された感度よりも 1桁悪い感度しか達成できないことが打上げ後に判明した [3]。

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図 3 : 従来のコンプトン検出器 (左)および、我々が開発した、反跳電子の 3次元飛跡を測定する新方式の検出器 (右)。

現在、図 3右に示すような、コンプトン散乱による反跳電子の飛跡を 3次元測定し、この情報を加えることで、入射ガンマ線の到来方向を 1イベント毎に決定できる次世代コンプトン検出器の開発が日米欧で進められている。この検出器はバックグランド除

去能力が高いために、従来よりも高感度を達成できる。我々は、

この新しい検出原理に基づく、小型の 10~30 cm立方の検出器を気球に搭載し、バックグランド除去能力の測定、および数天体

のMeVガンマ線観測を行なうことを目的とし、将来的には、人工衛星または国際宇宙ステーションに搭載して、従来よりも 1桁良い感度で、全天探査を行なうことを目指している (図 2)。我々が開発したコンプトン検出器の構成図を図 4に示す [4][5]。

コンプトン散乱体は、ガス Time Projection Chamber(TPC)を用いている。他のグループにより、コンプトン散乱体に半導体 [6][7]や液体シンチレータ [8]を用いた検出器も開発されているが、我々は、コンプトン反跳電子の多重散乱による角度分解能の悪化を小さくするために、ガスを採用した。そのため、検出効率

は、半導体や液体を用いた検出器に比べ低いが、角度分解能の向上によりバックグランド除去能力が上がる

ことで、高感度を達成できる。開発したガス検出器のドリフト層の底面には、微細加工技術を用いて独自

に開発した、400μmピッチのアノード・カソードを持つワイヤレスガス比例計数管が置かれており、反跳電子の 3次元飛跡をサブミリ間隔で捉えることができる。一方、コンプトン散乱されたガンマ線は、ガスTPCの周囲を覆っている、6mm角ピクセルアレイからなる位置検出型シンチレータと PMTによって、エネルギーと吸収位置が測定される。これら、ガス TPCとシンチレータによる測定から、入射ガンマ線の到来方向とエネルギーが求まる。さらに、この検出器は、コリメータが不要であり、大きな視野を持つため、

全天探査に適している。

PMTs

e-e+

e-

~10MeV γ~1MeV γ

-PICμ

Drift plane

Scintillator

図 4 : 我々が開発したコンプトン検出器の構成図 (左)とプロトタイプの写真 (右)。

3 イメージングカメラ・プロトタイプの開発

コンプトン反跳電子を捉えるために開発したガス TPC(μ-TPC)の概念図を図 5に示す [9][10]。コンプトン散乱の反跳電子が、ガスを電離して生じた電子は、ドリフト電場 (∼0.4 kV/cm)によってドリフト (Arベースのガスでは v ∼4 cm/μs)し、我々が開発したピクセル型ガスチェンバー (μ-PIC)[11][12] により読み出される。μ-PICは、100μm厚のポリイミドの両面に、カソードおよびアノードピクセル電極が 400μmピッチで並んだ構造をしており、アノード電極付近でなだれ増幅が起きる。アノードとカソードは直交して

いるため、2次元の XY位置情報が得られ、位置分解能 ∼120μm(RMS)が得られている。さらに、ドリフト時間とドリフト速度から算出された z位置情報と合わせて、荷電粒子の 3次元飛跡を求めることができ、3次元位置分解能 ∼0.4 mm(RMS)を得ている。

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図 5 : μ-TPCの概念図 (左)と、μ-TPCで測定した 1 MeV陽子および 500 keV電子の 3次元飛跡 (右)。

μ-PICは、PCB技術を用いて製造しているため、大面積化や大量生産が容易であると

いう利点を持つ。現在、10×10 cm2 の大き

さの μ-PICが、ガスゲイン∼6000で安定に動作しており、最大 15,000を達成している。MIPを検出するためには、1万以上のゲインが必要であるため、増幅器 GEM[13]と合わせることで、ゲイン∼1万で、安定動作できている。10×10×8 cm3 のドリフトケ-ジと

合わせた TPCが、耐圧容器に収められ、コンプトン反跳電子の 3次元飛跡を捉えることに成功している。カソードおよびアノード信

号の増幅には、LHC ATLAS TGC用に開発された 4ch入力 IC(ASD)のプリアンプ時定数を 16nsから 80nsに変更したものを用いている。エネルギー分解能は、∼20%@22 keV(FWHM)を得ている。この ASDには、さらにディスクリミネーターが含まれ、LVDS規格の出力パルスは、100 MHzクロックの FPGAに入力され、アノードとカソードのコインシデンスを取って 2次元座標を算出している。この情報は、散乱γ線がシンチレータをヒットした時からのドリフト時間情報とともに、VMEバスのメモリボードに転送され、VMEオンボード CPUで処理される。

図 6 : フラットパネル光電子増倍管と GSO 8×8ピクセルアレイ(左)。662 keV γ線を全面照射した時の入射位置再構成画像 (右)。

一方、コンプトン散乱γ線を捉え

るために、6×6×13mm3の GSO(Ce)シンチレータを用いた 8×8 ピクセルアレイを開発し、浜松ホトニクス

社フラットパネル、8×8ch マルチアノード光電子増倍管 (H8500) と組み合わせ、5×5cm2 の面積をカバーす

る、2 次元位置検出型シンチレーションカメラを開発した (図 6)。読み出しは、H8500を 3つに繋げ、192chのアノードを抵抗分割し、4ch にまとめて、ディスクリート部品で組み立てた増幅器とピークホールド ADC を用いている。エネルギー分解能は、9%@662 keV(FWHM) を得ている。また、IDE 社のASIC(VA32HDR11/VA32HDR14/TA32CG2)を使った読み出し試験も行っており、将来的には、ASIC読み出しに切替える予定である。

4 プロトタイプのγ線再構成性能

-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

50

prox-yEntries 14900Mean x 2.61Mean y -0.0419RMS x 22.12RMS y 18.28

prox-yEntries 14900Mean x 2.61Mean y -0.0419RMS x 22.12RMS y 18.28

-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

50

prox-yEntries 162500Mean x 0.105Mean y 0.09613RMS x 24.2RMS y 24.25

prox-yEntries 162500Mean x 0.105Mean y 0.09613RMS x 24.2RMS y 24.25

図 7 : 662 keVガンマ線源を 2個置いた場合の再構成画像。反跳電子方向を用いた場合 (左)と用いない従来の場合 (右)。

製作したプロトタイプは、1気圧の Arガスとエタンを混ぜたガスを充填したTPC (10×10×8 cm3)の底面に、GSO シンチレータ 8×8 アレイを 3×3(15×15 cm2)に配置したものである (図 4)。反跳電子の方向を用いたコンプトン再構成と、用いない従

来の再構成法により得られた、2個の 662 keVガンマ線源がある画像を図 7に示す。電子の方向を用いない場合、2つのガンマ線源の分離がかなり困難であり、電子の方向を捉えることにより、正確なガン

マ線画像が得られることがわかる。次に、検出器か

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ら 40 cm離れた面上で、エネルギーの異なる二つの線源、137Csと 54Mnを 12 cm離して置いた時の再構成画像を図 8に示す。二つの線源が分離できており、137Csの 662 keVおよび 54Mnの 835 keVのピーク付近のエネルギー範囲を絞って再構成した画像では、それぞれの線源の位置と一致しており、サブMeV領域において、エネルギー情報を持ったイメージングが実証された。同様にして、57Coや 133Baを用いた実験により、122 keVから 835 keVの範囲のガンマ線に対して、コンプトン散乱の再構成に成功しており、図 9に示すように、角度分解能は、662 keVで、ARM角 8.5度、SPD角 120度 (共に FWHM)を達成している。これは、シリコン多層検出器と CsI(Tl)シンチレータを用いた、ドイツで開発中のコンプトンカメラMEGAにおける、1 MeV以上の角度分解能 [14]と同等の性能を持つことを示している。反跳電子と散乱γ線のエネルギー測定値から得られた、入射γ線のエネルギー分解能は、662 keVで 15%(FWHM)である(図 9)。また、FOVは、1 sr (FWHM)を得ている (図 9)。

図 8 : 左から順に、線源 137Csと 54Mnを同時に置いた時の再構成画像、再構成エネルギースペクトル、622–702 keVの範囲を抜き出した再構成画像、785–885 keVの範囲を抜き出した再構成画像。

図 9 : プロトタイプで得られた、入射γ線の再構成角度分解能 (左)、エネルギー分解能 (中)、有効面積の天頂角依存性 (右)。

5 今後の予定

平成 18年度に、上記のプロトタイプを気球に搭載し、三陸から放球し、観測を行うことを考えている。Crabなどの天体を検出するには検出面積が小さいため、宇宙拡散および大気γ線バックグランドのエネルギースペクトルや方向依存性を、サブMeV領域において測定する予定である。現在、検出効率を上げるために、Arガスではなく、Xeガスを用いた動作試験を行っている。また、GSOシンチレータ散乱γ線検出器を TPC(10×10×8 cm3)の側面に 2段組みで配置しつつあり、最終的には、TPCの底面と側面を合わせて、33個の PMT(H8500)を配置し、760 cm2をカバーする散乱γ線検出器となる。

気球実験の準備と並行して、30×30 cm2 の大きさの μ-PICを開発し、アノード 768ch、カソード 768chの読み出し回路を用いて、基本性能を測定中である。また、これに合わせて、15 cmおよび 30 cmのドリ

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フト長を持つドリフトケ-ジや、TPCを収める耐圧容器の試験を行っているところである。完成すれば、気球に搭載し、Crabや Cyg X-1を観測することを考えている。衛星搭載は、50×50×50 cm3の大きさを持

つ TPCを考えており、シミュレーションによれば、COMPTELに比べて、1桁良い感度を達成できると予想される。また、FOVは、COMPTEL∼1.5 srに比べて、我々の検出器は、4 [email protected] MeV、5 sr@1 MeVという広い視野を持ち、全天探査に適しているため、ブレーザーなどの強度変動の激しい天体の連続モニ

ターや突発天体の発見に威力を発揮すると期待される。

6 まとめ

ガス TPCと位置検出シンチレータを組み合わせて、γ線の入射方向とエネルギーをイベント毎に決定できるイメージングカメラを開発し、サブMeV領域において、γ線イメージングができることを実証した。現在、18年度の気球実験に向け、10 cm立方の搭載検出器を製作中である。また、30 cm立方の検出器を開発中であり、完成すれば気球に搭載し、Crabなどを観測する予定である。将来的には、50 cm立方の検出器を人工衛星や ISSに搭載し、未開拓領域であるMeVγ線領域において、従来よりも 1桁良い感度で、全天探査を行なうことを目指している。実現すれば、超新星、ブラックホール天体や強磁場星、宇宙背景放

射などの理解が深まると期待される。

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