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Issue10 EY グローバル・テレコムリーダー Jonathan Dharmapalan EY Japan エリア・テレコムリーダー 塚原 正彦 2013 4-6 月期 OTT の脅威を克服する Inside Telecommunications(第 10 号)へようこそ。 Inside Telecommunications は、テレコム業界の注目すべき動向を四半期ごとに お伝えしています。今号では、オーバー・ザ・トップ(以下「 OTT」)事業者に対応す るための事業戦略から、EU 単一市場に向けた動きまで、さまざまなテーマを取り 上げます。 ご意見・ご感想などがございましたら、ぜひお寄せください。 Inside Telecommunications EY テレコムセンターによる テレコムセクター最新トレンド

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Issue10

EY グローバル・テレコムリーダー

Jonathan Dharmapalan

EY Japan エリア・テレコムリーダー

塚原 正彦

2013年 4-6月期

OTTの脅威を克服する Inside Telecommunications(第 10号)へようこそ。

Inside Telecommunicationsは、テレコム業界の注目すべき動向を四半期ごとに

お伝えしています。今号では、オーバー・ザ・トップ(以下「OTT」)事業者に対応す

るための事業戦略から、EU 単一市場に向けた動きまで、さまざまなテーマを取り

上げます。 ご意見・ご感想などがございましたら、ぜひお寄せください。

Inside Telecommunications EY テレコムセンターによる

テレコムセクター最新トレンド

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Issue 9

Contents

序章 .............................................................................................................................. 3

サービスイノベーション ..................................................................................................... 4

• OTTの脅威に対する通信事業者の取組 ................................................................................................................... 4

• 販売奨励金モデル見直しの動き、通信事業者が端末購入資金を支援 ............................................................................ 6

テクノロジー ................................................................................................................... 8

• 拡大を続ける LTE.................................................................................................................................................. 8

• 新興市場では端末カテゴリーの境界が曖昧に ............................................................................................................ 9

規 制 ..................................................................................................................... 11

• 単一通信市場へ向けて改革を推進する EU ............................................................................................................. 11

• テレコムセクターの自由化を進めるミャンマー、2社にモバイルライセンスを付与 ............................................................ 12

M & A ..................................................................................................................... 14

• はじめに ............................................................................................................................................................. 14

• 規模とサービスの拡大を目指すドイツ市場 ............................................................................................................... 14

• ブルガリア、クロアチア、アイルランドでも進む M&A .................................................................................................. 15

• アジア太平洋では、既存事業者が法人向けソリューションを拡大 ................................................................................. 16

• デジタルヘルスが新たなトレンドに .......................................................................................................................... 17

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序章

欧州のテレコムセクターでは 2013年第 2四半期、多くの分野で重要な動きがあった。主要市場で拡張

を図る通信事業者がいた一方で、活動範囲を縮小する事業者もあった。欧州委員会は、相互接続料

金の引下げや周波数割当調整のほか、複数の国で事業展開する通信事業者を支援する「パスポート」

の発行など、欧州における通信市場の統一へ向けた様々な改革案を提示した。

市場構造の効率化は一朝一夕に実現できるものではない。欧州市場における LTE の展開は他の途上国・地域

に比べ遅れている。欧州においては、通信事業者、規制当局共にインフラ整備の必要性に迫られている。

固定回線の分野も同じ課題を抱えている。EUは「デジタルアジェンダ」の中で掲げた「2013年末までにベーシッ

クブロードバンドのカバー率 100%」という目標の達成は間近となっている。しかし一方で、超高速ブロードバンド

のカバー率は依然低いままであり、「2020年に 30Mbps以上のサービスの世帯普及率 100%」との目標につい

ては、今年 1月までの 1年間では 49%から 54%に増えた程度に留まった 1。

通信事業者にとっての最優先課題は依然としてインフラ更改だが、新サービスの開発も同じく重視されている。

世帯シェアの獲得競争が激化する中、通信事業者らは住宅向けサービスとして新しいホームセキュリティ機能を

提案している。米国では最近、AT&T が一般消費者向け新サービスとして、ホームオートメーションを可能にする

「Digital Life」を発表した。

幅広い用途の革新的なセキュリティ商品・サービスが次々と発表されている。5月には Deutsche Telekomが、

アプリケーションやウェブサイトについて、使用言語を問わず脆弱性の特定が可能な開発者向けツールを発売

した。企業向けのマネージド・セキュリティ・サービスも勢いを増している。モバイルセキュリティの基準となるべき

枠組みを求める声は業界内で高まっており、既に標準化団体も取り組みを開始した。米国立標準技術研究所

(NIST)は 5月、「連邦情報システムおよび組織のセキュリティおよびプライバシー管理」の第 4改訂版を発行し

た。同ガイドラインは、BYOD(Bring Your Own Device、私有端末の業務利用)やモバイルマルウェアの拡大が

セキュリティに及ぼす影響に言及している。

スマートフォンの盗難事件もたびたび話題となっている。警察当局の発表によると、ロンドンだけで毎月 1万台も

のスマートフォンが盗難の被害に遭っているという。米国の検察当局らは 6月、「Secure Our Smartphones」と

いう新しい取り組みを発表し、紛失・盗難端末の転売防止の為、端末メーカーに対し、「キルスイッチ」などの技

術的対策を求めた。1

Adrian Baschnonga

EYグローバル・テレコム・センター リードアナリスト

1 “Digital Agenda Scorecard 2013,” European Commission.

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サービスイノベーション

• OTTの脅威に対する通信事業者の取組 ショートメッセージサービス(SMS)など、いままでモバイル事業者の収益源となっていたサービスは、今や OTTに奪われつ

つある。チャットアプリによるモバイル・インスタントメッセージ(IM)の送出件数は 2012年、SMSのそれを上回った。2

OTT による無料又は低価格なインスタントメッセージサービスは、多くのユーザーを引き付けた。グループチャットなどの機

能も評価が高い。また、モバイル・インスタントメッセージの利用者は、SMS の利用者と比べ、利用頻度が高いという。

Informaの調査によれば、SMS利用者の送信は 1日当たり 5件程度であるのに対し、OTTユーザーは 1日平均 32.6件

のメッセージを送っているという3。

図 1 全世界の SMS とモバイル IMのトラフィック比較

モバイル・インスタントメッセージの利用が広がる中、通信事業者の音声および SMSサービスは、明らかに打撃を受けてい

る。ある予測によると、ソーシャル・メッセージング・アプリケーションにより、通信事業者は 2013 年に 326 億米ドル、2020

年には 860億米ドルを失うという4。通信事業者は、自らの収益源や顧客基盤を脅かすこうした勢力に対抗するため、アプリ

ケーション開発業者との提携やメッセージング基盤の構築など、様々な戦略を探っている。

韓国の携帯電話会社 SK Telecom と KT、LG U+は昨年の後半、共同で独自のボイスメッセージサービス基盤「Joyn」を立

ち上げた。GSMA もこのブランドをサポートしている。韓国市場は KakaoTalk などの OTT アプリに席巻されていたものの、

SK Telecomの発表によれば、Joynの登録者はサービス開始後 2 カ月足らずで 100万人に達したという。

こうした通信事業者同士の連携の強化は中国市場でも見られた。China Mobile と China Unicomは 5月、アプリケーショ

ンの利用者向けと開発者向けそれぞれに、標準決済プラグインを提供すると発表した。世界最大のモバイル市場における

アプリケーション決済のシェア拡大が狙いだ。

China Mobileはまた、2007年に開始した IMサービス「Fetion(飛信)」のテコ入れを強化している。同社は 4月、「飛信」の

プラットフォームを他のサービスプロバイダーにも開放すると発表した。同社の「飛信」は高い人気を博していたが、Tencent

(騰訊)や Sina(新浪)といった中国の OTT 事業者が登場するとその市場を奪われていった。China Mobile は来年、飛信

の競争力を再び強化すべく 6億 3,800万元以上を投じ、巻き返しを図る5。

各国の通信事業者は OTT の脅威に対抗するため、バンドルサービスの強化も進めている。Vodafone は昨年、定額制の

通話・メッセージと従量制のデータ利用を組み合わせた「Red プラン」を投入した。同社は 4 月、最新の「Red プラン」をさら

2 “Press release: OTT messaging traffic will be twice the volume of P2P SMS traffic by end-2013,” Informa, 29 April 2013. 3

同上 4 “Social messaging will continue its rise in 2013,” Ovum, 5 March 2013. 5 “China Mobile to pour $100m into mobile IM,” Telecom Asia, 18 April 2013.

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に 14の欧州市場に拡大する計画を発表した。

欧州の通信事業者は新規ブランドを投入し、OTT のカスタマーエクスペリエンス(利用者体験)に対抗しようとしている。O2

UK は 2 月、Apple と Android のスマートフォンを利用しているポストペイドの加入者向けに、VoIP アプリ「TuGo」を投入し

た。「TuGo」は基本的にクラウドベースのサービスであり、利用者は複数の端末からWi-Fi経由でログインすることができる。

通信事業者が提供する音声・SMSサービスとの統合も可能である。

料金体系の見直しと、アプリケーションの刷新という、この 2 つのアプローチに加え、モバイル・バリューチェーンにおけるポ

ジショニングについても大幅な見直しが行われている。豪 Telstraは 1月、アプリケーションソリューション開発のため、GAP

(Global Applications and Platforms)という事業部を新設した。同事業部は企業および公的機関向けのアプリケーション

開発に特化する。消費者向け市場が飽和状態であるためだ。同社は新サービス開発のため、社内に限らず外部のアプリ

開発業者との提携も視野に入れている。

各国の通信事業者は、アプリケーションプロバイダーや端末メーカーに欠けている機能を補完するという協力関係も進めて

いる。料金回収代行サービスはその一例だろう。スペインのTelefonicaは 5月、Samsungと料金回収代行サービスの契約

を締結した。これにより、Samsung が提供するデジタルコンテンツの利用者は、電話料金と共にその利用料を支払うことが

できるようになる。

これに先立ち Skype は 2 月、モバイル決済サービスを提供する Mach と提携し、料金回収代行サービスを開始した。同サ

ービスはロシアを皮切りに、米国、カナダにも進出した6。モバイル事業者は、このような契約においてVoIP料金の一部を受

け取ることができる。各国の通信事業者はリテール部門における収益のカニバリゼーションを懸念しているが、上記のよう

な B2Bの取り組みは、そうした懸念を緩和することができるだろう。

フランスの多国籍通信事業者 Orangeは、検索大手 Googleのアフリカにおけるトラフィックが増えるよう事業協力していた

ことを認めた。これは意外な展開であり、ネットワークの中立性を脅かすものである。ウェブサービスを優先する行為自体は

目新しいものではないが(Amazonの AWS Direct Connectなど)、Orange と Googleの事例はネットワーク事業者とウェ

ブ大手との従来の関係から大きく逸脱したものと言える。

だが、これはあくまでも例外的な事例である。中国のモバイル事業者全 3社は 4月、OTTサービスが通信ネットワークに負

荷を与えたとして補償を要求した。ネットワーク中立性の問題は、通信事業者とOTT事業者との間で、依然としてセンシティ

ブな問題となっていることを示している。

総括すると、各国の通信事業者は現在、アプリケーションプロバイダーや野心的な大手ウェブ関連企業との共存戦略を模

索して実験中であるといえる。特定のローカル市場のダイナミクスを活用するか、それとも他者と提携し新しい市場セグメン

トに低コストで参入するか、どのような戦略をとるかは、様々な要因に左右される。

特定の市場、特定のパートナーとの関係では、より戦術的な動きが見られよう。長期的なポジショニング見直しの一環とし

て、各国の通信事業者は新しい事業部を設置し、グローバルレベルで機動性の向上と市場投入期間の短縮を図ろうとして

いる。相互依存が進む各国のテレコムセクターにおいて、通信事業者は今後も、自らのサービス構成を見直しながら、既存

の収益源を維持するため多種多様な対応策を示していくだろう。

6 ”Skype goes live with MACH Direct Operator Billing,” Business Wive, 5 Feburary 2013

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図 2 OTT環境下の通信事業者の戦略

• 販売奨励金モデル見直しの動き、通信事業者が端末購入資金を支援 モバイルデータ利用の増加は、各国のテレコムセクターにおいて引き続き重要なテーマである。しかしモバイル事業者が危

惧するのは、データトラフィックの一様でない「成長プロファイル」、そしてデータの収益と利益の問題である。

欧州や北米の多数のサービスプロバイダーはこの数カ月、利益率維持のため、高額な販売奨励金を削減する策を打ち出

してきた。T-Mobile USAは3月、米国の事業者としては初めて、スマートフォンの販売奨励金を打ち切り、7月に新プログラ

ム「Jump」を発表した。Jumpの加入者は、月々10米ドルを 6カ月間支払えば、新しいスマートフォンに機種変更できる。つ

まり年に 2回、より新しいモデルにアップグレードできるのである。

AT&T も、加入者の携帯端末購入を支援する新プラン、「Next」をスタートさせた。このプランでは、20 カ月分割で端末を購

入すると、12 カ月後にそれを下取り、新機種と交換することができる。

どちらの例も、端末代金と月額使用料を明示することで顧客の選択肢を増やし、より柔軟なサービスを提供しようとする試

みだ。新品同様のスマートフォンは高値で転売できるという利点もある。しかし、こうした努力にもかかわらず、米国市場の

主要スマートフォンメーカーに対する販売奨励金は、未だに価格の 70%以上となっている。

図 3 メーカーごとの販売奨励金の対価格比(米国)

欧州では販売奨励金モデルをめぐる試行錯誤が長引いている。最初に奨励金を廃止したのはスペインのサービスプロバイ

ダーだが、事業者ごとに対照的な経過をたどっている。景気低迷と競争激化により、Telefonica と Vodafone は 2012 年、

販売奨励金の廃止に踏み切った。しかし Vodafone は同年下半期、これを復活させた。Orange は一貫してスマートフォン

の販売奨励金を続けている。

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通信事業者はサービスの見直しにおいても迅速であるべきということを、スペインの事例は示している。販売奨励金の廃止

または削減による営業費用の節約は、解約率の増加と背中合わせなのかもしれない。販売奨励金は今後も、市場シェアを

確保しデータ収益を増やすための重要な手段であり続けるだろう。

月次の端末代金と使用料金を区別した場合、顧客は適正なプランを選びにくくなるというリスクもある。顧客調査の結果、ス

マートフォンやタブレットのユーザーの多くはモバイル・データ・パッケージの料金体系に混乱していることが明らかになった。

EY が全世界 6,000 人のモバイルユーザーにアンケート調査を実施したところ、データ料金について十分に理解していると

答えた回答者は 56%に留まった。多くの市場で従量課金制や超過料金制が導入されている現在、さらに複雑な要素が加

われば、状況は悪化しかねない7。

それでも、欧州では新たな端末購入支援プランが次々に登場している。O2 UKは 4月、「Refresh」という料金プランを開始

した。顧客は各種プランの中から選択でき、通信時間、テキスト、データの料金とは別に、端末代金を支払うことができる。

このプランで特に画期的な点は、古い端末の下取りに際して現金が支払われることと、端末代金完済後は月々の通信料の

みの支払いで済むことである。こうしたことは、機種変更にあまり積極的でない利用者の買い替えを促す効果もある。デン

マークの TDC Rate、O2 Germanyの My Handyなど、近隣の市場でも同種のプランが展開されている。「コスト面の透明

性を高めてほしい」「早期解約手数料を払わずに何度も端末をアップグレードしたい」といった顧客の幅広い要望に応えるた

め、今後、更に複雑な料金プランが登場することになろう。

顧客のニーズも更に変化し続けるだろう。新たな端末購入支援プランが登場する度に、特にハイエンドのプリペイドユーザ

ーを引き付けることができるだろう。一方で適正なマージン管理はサービスプロバイダーが先進国市場で成功する上で今後

も重要視されよう。その意味で、端末購入支援プランや販売奨励金プランは新たな方向へ進化していくものと思われる。通

信事業者は柔軟な課金モデルを追求しつつも、サービス内容をシンプルかつ効果的に伝える努力を怠ってはならない。

7 The mobile maze, EY, October 2012.

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テクノロジー

• 拡大を続ける LTE LTE はその拡大ペースにおいて、依然として最も成長の速いモバイルテクノロジーである。GSA(Global mobile Suppliers

Association)の最新データによると、2013年 7月 31日現在、76カ国で 200の商用 LTEネットワークが稼働している8。合

計 443の事業者が全世界 130 カ国で LTEに投資しており、GSAの予測では、2013年末には 93 カ国で 260の商用ネッ

トワークが利用できるようになる。

LTEサービスの周波数として最も普及しているのは 1800MHz帯で稼動中の商用ネットワークの 43%を占めており、以下、

2.6GHz帯が 34%、800MHz帯がおよそ 1割となっている。

図 4 商用 LTEネットワークの立上げ

ここ数カ月、4Gサービスを開始する事業者が相次いでいる。アフリカのMTNは 4月、ウガンダで初の LTEを立ち上げた。

同じくアフリカの Smile Communicationsは 5月、タンザニア初の 4Gサービスを 800MHz帯で開始した。レバノンの国営

事業者 Touchは 5月、4Gの LTEサービスを開始した。同社はサービス開始時から首都ベイルートの 80%をカバーしてい

るという9。

先進国のモバイル事業者による LTEサービスの開始も続いている。スイスの Sunriseは 6月に全人口の 22%をカバーす

る LTEネットワークを始動させ、年内に 50%まで拡大する計画である。オーストラリアでは Vodafoneが 6月、アデレード、

ブリスベン、メルボルン、ニューカッスル、パース、シドニーを対象とする同国 3 番目の LTE サービスを開始した。同社は 5

月、スペイン初の商用 LTE も立ち上げた。1800MHz帯と 2.6GHz帯の両方を使い、7都市をカバーする。

図 5 世界の LTEの展開状況(2013年 6月現在)

8 “GSA confirms 200 LTE networks are commercially launched in 76 countries,” GSA, 7 August 2013 9 “Touch launches commercial LTE,” Telecompaper, 23 May 2013

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通信速度の面からも、より高度な LTE の導入が求められている。韓国の SK Telecom は 6 月、世界で初めて

LTE-Advanced(以下、LTE-A)サービスを開始した。LTE-Aでは下り 150Mbpsの速度が見込まれる。このサービスに先立

ち、Samsungは世界初の LTE-A対応端末を発売した。

興味深いのは、「800MBの動画をわずか 43秒でダウンロードできる」という LTE-Aサービスにおいても、現在の LTEの従

量課金プランは変わらないということだ。LG U+は 7月、韓国で 2番目の LTE-Aを開始した10。SK Telecom と同様、キャリ

アアグリゲーション技術を用いて高速化を図っている。

LTE が急成長する中、一部地域が取り残されることが懸念されている。GSMA は 5 月、「欧州における LTE の展開と通信

速度は米国に遅れている」と指摘した。GSMAの調査によれば、2013年末に米国のモバイル接続の 20%が LTE経由とな

るのに対し、EU では 2%に届かない11。この格差は GSA のデータにも表れており、欧州での LTE 接続は現在、世界全体

の 2.4%を占めるにすぎないという12。GSMAは改善策として、「規制改革」「効率的な市場統合の推進」などを挙げている。

• 新興市場では端末カテゴリーの境界が曖昧に スマートフォンの話題といえば、処理能力の向上や新しいOSの登場など、とかく高性能端末の最新動向が注目されがちだ。

しかし途上国市場では、多くの端末メーカーやアプリ開発業者が、より安価なベーシック端末でスマートフォン並のユーザー

エクスペリエンスを実現するという課題に取り組んでいる。

端末メーカーは、新興市場における高性能端末の需要拡大に商機を見出している。ある予測によれば、新興諸国では携帯

電話の全出荷台数に占めるスマートフォンの割合が 2010年の 43%から 2013 年には 65%になる見込みという13。先進国

市場の競争が熾烈化する中、多くのメーカーは新興市場のモバイルユーザーのニーズを取り込むことによって成長戦略の

差別化を図っている。

とはいうものの、新興市場では今なおフィーチャーフォンの保有者が多く、途上国でのスマートフォンの平均販売価格は

2013年の 307米ドルから 2017年には 259米ドルへと徐々に下がる見通しである14。このため端末メーカーとアプリケーシ

ョンプロバイダーは、現在の主流である高価なスマートフォン OS に頼ることなく、よりレベルの高いデバイスエクスペリエン

スを提供するよう求められている。

図 6 フィーチャーフォン利用者の対人口比

今年になり、数多くのベンダーが従来のスマートフォンとフィーチャーフォンの境界を曖昧にするような新型端末を発表して

いる。Samsungは 2月、4機種の「スマートフィーチャーフォン」から成る Rexシリーズを発売した。同シリーズは Javaベー

スの端末で、ChatON、Yahoo Messenger、Google Talkなどの各種チャットサービスと一体化しているほか、Facebookや

10 “SK Telecom Launches World’s First LTE-Advanced Network,” SK Telecom, 26 June 2013.

11 “New GSMA Report Highlights Widening Gap Between European and United States Mobile Markets,” GSMA, 29 May 2013. 12 “Global LTE Market Update,” GSA, 23 May 2013.

13 “Smartphones Expected to Grow 32.7% in 2013 Fueled by Declining Prices and Strong Emerging Market Demand, According to IDC,” IDC, 4 June 2013. 14 同上

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Twitter、Google+もサポートする。また、どの端末もシングルSIMとデュアルSIMのバージョンがある。インドやアフリカとい

った市場では、キャリア間の通話料金が高いために、複数の SIM カードを持つことが通話料の節約になる。そうした市場で

は、デュアル SIMは重要なポイントとなろう

端末ベンダーの中で、Nokia はスマートフォン的な機能を備えた低価格デバイスの先駆者である。同社は 2011 年、

Windows Mobileではなく Series 40をプラットフォームにした Ashaシリーズを発売した。同社は 2013年 5月、自社製の

Ashaプラットフォームで稼働する初の機種、Asha 501を発売した。同プラットフォームは、2年前に買収したノルウェーのモ

バイルソフトウェア企業 Smarterphoneのソフトウェアがベースとなっている。

こうした背景の下、主流OSをプラットフォームとする端末の価格は下がり続け、かつてない数のOSが狭い価格帯で競合し

ている。インドのメーカーMicromaxは、Androidを搭載した低価格機種 Smartyのラインナップを増やしている。また、同じく

インドのKarbonnは4月、Androidベースの端末A4およびA3を発売した。両モデルともデュアルSIMをサポートし、1GHz

のプロセッサを搭載しているものの、2G端末にすぎない。手頃な価格のスマートフォンが重視される中、Firefox OSなど新

たなモバイル OSの登場も、端末の適正価格やデバイス産業の勢力図に影響を与えるだろう15。

一方、アプリケーション開発業者もフィーチャーフォン利用者により良いアプリケーションエクスペリエンスを提供するべく研

究を重ねている。通常のモバイルブラウザは最大 100 キロバイトの容量を使うが、オーストラリアの新興企業 biNu のプラ

ットフォームは、1キロバイト以下でテキストを表示できる16。これにより、ナイジェリア、トルコなどの 500万人を超えるフィー

チャーフォンユーザーが、ソーシャルメディアを使い、友人とチャットを楽しみ、biNu プラットフォーム上で提供されるアプリで

言語を学べるようになった。

こうして、各種のイノベーションにより、スマートフォンの定義そのものが変わりつつある。いわゆる「ファブレット」がスマート

フォンとタブレットの境界を曖昧にしているのと同じだ。だが、スマートフォンとフィーチャーフォンの定義をめぐる懸念は、単

に呼び方の問題だけではない。製品カテゴリーの定義が不明瞭であれば、各種デバイスの分類がベンダーや業界アナリス

トによって異なるような事態を招き、マーケットインテリジェンス(市場に関する幅広い情報)の価値をも損ねることになりか

ねない。

アプリケーション開発業者などデバイス産業のエコシステムに関わる業者とエンドユーザーが抱く期待は、多様な端末のカ

テゴリーについてどのような共通認識を持っているかに左右されよう。業界用語がモバイルコンピューティングのイノベーシ

ョンスピードに追い付けるかどうかは、今後の課題である。

15 新しいモバイル OSに関するより詳しい情報は、Inside Telecommunications(第 9号)を参照 16

“Making Feature Phones Smart — BiNu Brings App World to Developing Countries,” Bloomberg, 20 June 2013.

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規 制

• 単一通信市場へ向けて改革を推進する EU 欧州のテレコムセクターでは今年、「非効率な投資を減らし、新技術の適用速度を速めるため、通信規制全般を改革しなけ

ればならない」という議論が続いている。LTEの展開、導入における欧州と米国の差は今なお大きく、全世界の LTE接続に

占める欧州の割合は 5%にも満たない。固定回線に関しても、欧州で超高速ブロードバンドにアクセスできる世帯は、わず

か 2%である。

固定ブロードバンドとモバイルブロードバンドの分野において、欧州の技術サイクルが他の地域より遅いことの根本原因は、

過度な市場の細分化にあると考えられている。欧州委員会は、成長に必要な「規模の経済」を阻む障害が依然存在してい

ると考えている。同委員会の Neelie Kroes副委員長は 6月に行ったスピーチで、「事業者は規模の経済を実現できずにい

る」と指摘した17。同委員会の試算によると、欧州通信市場の統一による効果は、年間 1,100億ユーロに達する可能性があ

るという。

欧州の政策立案者らによると、欧州単一市場へ向けた動きにより、通信事業者が直面するいくつもの障害を軽減できると

いう。欧州テレコムセクターの統一を推進するため、様々な取り組み提案されており、その一例が「EU パスポート」である。

これが導入されると、EU の一国で承認された事業者は他の加盟国でも認定され、かつ本国の規制に従うことができる。バ

ーチャルビットストリーム、高品質相互接続など、標準ネットワーク接続サービスに特化できることも、通信事業者にとって

「予測しやすい環境」の整備を助けると期待されている。

周波数割当政策の見直しも行われている。EU は「地域的な調整が不十分なため、通信事業者は複数市場への投資を見

据えた戦略を立てられず、端末メーカーは適切な LTEデバイスを供給できない」と指摘している。通信事業者らは、「周波数

オークションで調達された資金がネットワークインフラに再投資されないことが多い」と言う。ある業界関係者は、「オークショ

ンの枠組みの一環として新規参入を促すルールも、逆効果になりかねない」と考えている。欧州委員会によれば、周波数の

ライセンス期間、ブロックサイズなどの標準化に取り組むことで、より一貫性のある産業環境が整う可能性があるという。

業界細分化の抑制と同時に、エンドユーザーのニーズにも応えなければならない。モバイルサービスの相互接続料金撤廃

は今も欧州委員会の優先課題である。同委員会は 6 月、欧州域内におけるモバイルサービスの音声通話、テキストメッセ

ージ、インターネットアクセスの相互接続料金の撤廃を決議した。欧州議会産業委員会は 7月、相互接続料金を 2015年ま

でに撤廃する法案を全会一致で可決した。しかし、卸売料金を一気に削減すれば競争激化に繋がり、結果的にネットワー

ク投資に影響を及ぼすのではないかという懸念もある。

図 7 EUのローミング料金上限の推移

17 “Speech: Building a connected, communicating single market,” European Commission, 17 June 2013.

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ネットワークの中立性に関する課題も残っている。欧州委員会は、通信事業者によるコンテンツの平等な扱いを保証する法

律の必要性を訴えている。同委員会はこれまで、オープンインターネットの基本要素として、「顧客との透明なコミュニケーシ

ョン」や「サプライヤーの変更手続きの簡素化」を指摘しつつ、この件に関しては静観の構えを示してきた。しかし、同委員会

のKroes副委員長は6月、スピーチで、「OTTサービスの阻止や制限という慣行は終わりにするべきだ」との考えを示した。18

EU の法案は、2014 年の議会選挙前の法文化を視野に、9 月には欧州委員協議会へ送られるため、時間が限られている。

従って今回の単一市場への提言は、欧州枠組みの再編というより、むしろ既存ルールの改善に留まろう。

今後は、これまで以上に市場構造の効率化が求められるだろう。しかし、今回の変更案にも、新たな問題を孕むリスクがあ

る。例えば、周波数割当計画が単独で立案されないようにするのは難しい。周波数の評価やオークション形式に大きなばら

つきが残っているからだ。実際、国境を越えた市場で規模の経済を実現することが細分化抑制の最終目的であるなら、ネッ

トワーク共有の拡大も重要な役割を果たすだろう。

EU の欧州通信ネットワーク事業者協会(ENTO)は、単一市場という改革の方向性を歓迎する一方、現計画では不十分だ

と主張する。同協会の理事会議長は、「明確な改革計画はまだこれから」と語る19。こうした見方に従えば、周波数割当の改

革は欧州テレコムセクターにとって直ちに追い風とはならず、むしろ汎欧州的な通信サービスにとっては、規制は軽くなるど

ころか、かえって重荷となる可能性もあろう.。

• テレコムセクターの自由化を進めるミャンマー、2社にモバイルライセンスを付与 ミャンマー政府は 6月、同国全土を対象としたモバイルライセンスを、ノルウェーの Telenor、カタールのOoredooの 2社に

付与すると発表した。ライセンス期間は 15年の予定である。これら 2社がライセンス手続きを完了できなかった場合の予備

候補として、France Telecom-Orange と日本の丸紅のコンソーシアムが指名されている。

このライセンスでは、ミャンマー農村部におけるモバイルインフラの整備が求められている。Telenor は既に、同国でモバイ

ルサービスを提供する方法の概要を提示している。HSPA および LTE 対応のテクノロジーを使ってネットワークを構築し、

2014 年に始動させる予定だ20。一方、Ooredoo は、かつて閉鎖的だったこの市場への投資が直接・間接の雇用創出効果

を強調している。21

このライセンス付与は、テレコムセクターの自由化に取り組むミャンマーにとって、大きな一歩である。同国政府は 2012 年

後半、ライセンス付与先を決めるにあたり、ミャンマー通信事業免許入札評価・選考委員会という独立した委員会を設置し

た。候補者に事前資格審査申請書を提出させ、その展開プラン、カバレッジや販売の見通しなどを基準にランク付けを行っ

た。

全国的なモバイルインフラの整備は、ミャンマーの長期的な社会経済的変革を促す起爆剤になると期待されている。2012

年末時点の携帯電話普及率がわずか 11%というミャンマーは、世界の通信事業者にとって「最後のフロンティア」ともいえる

存在である。モバイルサービスが社会変革に資すると考える同国政府は、2015 年までに普及率 50%という目標を掲げて

いる。

同国におけるテレコムセクターの成長は同国全体の生産性向上に寄与するだろう。携帯電話普及率が 10%上昇すれば

GDP が 0.6%上昇するという研究報告もある。こうしたモバイルサービス普及と経済成長の相関関係は他のアジア諸国で

実証済みだ22。同時に、モバイルヘルスやモバイル金融サービスなど、モバイル端末を通じて提供される多様な付加価値

サービスが国民の暮らしにもたらす変化も大きい。

18 “Speech: The EU, safeguarding the open internet for all,” European Commission, 4 June 2013. 19 “ETNO Executive Board Chair Luigi Gambardella’s remarks from EU Commission’s hearing on the Telecom Single Market,” ETNO, 18 June 2013.

20 “Telenor is a successful applicant for telecommunications licence in Myanmar,” Telenor, 27 June 2013.

21 “Ooredoo Wins Myanmar Licence,” Ooredoo, 27 June 2013.

22 “Unfinished Business: Mobilizing new efforts to achieve the 2015 millennium development goals,” World Bank, September 2010.

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図 8 東南アジア諸国の 1人当たり GDP と携帯電話普及率

同国の低い携帯電話普及率は、ライセンスを獲得した企業に数々のメリットをもたらす一方、課題もまた、山積している。例

えば、同国農村部におけるカバー率は現時点でほぼゼロであることを考えれば、同国政府の「普及率 50%」という目標はい

かにも遠い。アフリカでは近年、普及率が爆発的に伸びているが、それでも 2005 年に 12%だった普及率が 60%に達した

のは 2012年のことだ23。これに照らせば、2年間で 40%の普及率向上という同国の目標は、いささか野心的に見える。

同国テレコムセクターの新規参入者は、様々な課題に直面している。ネットワーク展開に際しては、山がちの地形、人口密

度の低さ、未整備の道路といった障害が立ちはだかり、用地取得に関連する問題も解決しなければならない。

さらに、農村部でのモバイルサービスの価格受容性についても疑問が残る。隣国のタイや中国のモバイルネットワークは、

国境地帯に住む富裕層に受け入れられ、これらの地域では質の高いサービスが提供される見込みだ。もっとも、ミャンマー

の人口動態は、基本的に悪いものではない。すなわち、識字率は 91%と高く、人口の 25%は労働年齢未満の若い世代で

ある24。

一方、同国の ICT 政策立案者は、短期的かつ長期的なフレームワークを整備しなければならない。まずはモバイルライセ

ンス発行のために、新しい通信法を議会で可決する必要がある。この重要な立法手続きに遅れが生じていることから、ライ

センス申請者の中には、「規制上のリスクが高まった」として撤退したところもあった。

同国で不足しているインフラは ICT分野だけではない。例えば、同国には外国人が使える ATMが 1台しかなく、また、停電

も少なくない。モバイルテクノロジーが他のインフラの限界を克服し、補完できる存在となるためには、業界横断的かつ革新

的な思考が不可欠だ。同国が社会経済向上の機会を最大限に生かせるかどうかは、同国政府の見識ある政策にかかって

いよう。

23 “Mobile cellular subscriptions 2000–2012,” ITU, 2013. 24 “UIS Statistics In Brief,” UNESCO, 2011; “Myanmar, The Last Frontier?,” Forbes, 9 November 2012.

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Issue 9

M & A

• はじめに テレコムセクターにおける M&Aの勢いは世界的に続いている。2013年第 2四半期に発表されたディールは 165件で、第

1四半期の 148件から増加した。南北アメリカでは、大型案件が続いた後一段落し、ディール総額は 210億米ドルと、前年

同四半期より 61%減少した。しかし、欧州における市場内取引の数を見ると、有力な通信事業者は明らかに自らのポートフ

ォリオを再編し、小規模市場での規模縮小と他の市場でのポジションの強化を図っている。

EMEIA地域(欧州、中東、インド、アフリカ)におけるディール金額は 178億米ドルで、2013年第 2四半期の 85%を占めた。

一方、南北アメリカでは、その前の半年間の高水準に比べると著しく減少した。アジア太平洋と日本でもディール金額は減

少し、欧州各国の固定回線およびモバイル市場のディールに関心が集まった。

図 9 地域ごとのテレコム企業 M&Aディール金額(2013年第 2四半期)

• 規模とサービスの拡大を目指すドイツ市場 今四半期最大のディールは、6月の英Vodafoneによるドイツ最大のケーブルテレビ会社Kabel Deutschland買収だった。

買収金額は 101億米ドルである。ブロードバンドと有料テレビサービスの顧客 850万世帯を抱える Kabelを獲得したことに

より、Vodafone は固定回線市場におけるポジションを強化できる。家庭向けサービスの競争が激化するドイツにおいて、ク

アッドプレイサービス(モバイル、固定、ブロードバンド、テレビの 4 つを組み合わせたバンドルサービス)を提供する見通し

がついたことになる。

このような統合パッケージは新規顧客にアピールするだけでなく、解約率を押し下げる効果もある。欧州最大の市場である

ドイツにおいて、Kabel 買収前の Vodafone のモバイル加入者数はブロードバンド顧客の 10 倍近かった。買収後は、世帯

普及率 33%を誇る Kabelの高速ケーブルインフラを武器に、既存の固定回線事業者を脅かす存在となる。

Vodafone は、買収から 4 年後にはコストや設備投資のシナジー効果が 3 億ユーロを超えると見込んでおり、スケールメリ

ットの追求はサービスラインの拡大とに連動しているという。同社はこれに先立つ 5 月、VDSL ブロードバンドおよびテレビ

サービスを顧客に提供するため、Deutsche Telekom のネットワークへのアクセスに関する契約を結んでいるが、Kabel 買

収によって、Vodafoneは既存事業者のインフラへの依存度を下げることができる。

ドイツのマルチプレイサービス市場はフランスやスペインほど成熟しておらず、高速ブロードバンドはさらに成長の余地があ

る。同国における高速インフラのカバー率は EU 平均を上回るものの、30Mbps 以上のブロードバンド接続の比率は他の

EU市場より低い。

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図 10 ドイツのインフラ普及・サービス導入状況(2012年)

ドイツのモバイル市場では企業統合も進行している。Telefonica は 7 月、107 億米ドル相当の現金と株式によりドイツ第 4

位のモバイル事業者を買収することを発表した(2013 年第 2 四半期の M&A データには含まれない)。同国第 3 位と第 4

位のモバイル事業者の合併により、モバイル市場シェアの半分以上を占める Vodafone と T-Mobile Germanyの 2社はい

っそう厳しい競争に直面するだろう。

ドイツ市場における規模とシナジーの拡大を狙ったこの買収が成立すれば、市場シェア 38%、顧客数 4,300 万のモバイル

事業者が誕生する。販売、顧客サービスやネットワークサービスの統合による 50億〜55億ユーロのコスト削減が目標とし

て掲げられている25。

• ブルガリア、クロアチア、アイルランドでも進む M&A 各通信事業者がポートフォリオを刷新し、特定地域への注力を強めていることから、欧州市場全体で M&A が活発化してい

る。香港の Hutchison Whampoa は 6 月、アイルランドでのプレゼンス強化に乗り出し、モバイル事業者の O2 Ireland を

11億米ドルの現金で買収した。

この買収により、Hutchisonの現地ユニットである 3 Irelandの市場シェアは 4倍の 37.5%に増え、首位の Vodafoneに次

ぐ勢力となる。Hutchisonは価格競争と 4Gサービスの活用で売上げを伸ばす計画だ。同社は昨年、アイルランド第 3位の

モバイル事業者 Meteorを保有する Eircomの買収を試みるも不成功に終わっていた。

この買収案件は欧州委員会の審査を受けることになる。EU は、この合併を「欧州単一市場に向けた動きの副産物」と認識

しているが、反トラスト当局はこのディールのメリットをじっくり検討するだろう。アイルランドのモバイル料金は依然高止まり

している。Hutchison Whampoaは昨年の Orange Austria買収時と同様、周波数の売却を要請される可能性がある。EU

は、VodafoneのKabel買収を支持するとみられる。モバイル市場のシェアに影響を与えず、長期的には競争を促す可能性

が高いためだ。

O2 Irelandの親会社Telefonicaにとって、今回の売却はさらなる事業縮小の一環である。スペインを本拠地とする同社は 4

月、エルサルバドル、グアテマラ、ニカラグア、パナマに保有する資産の 40%を大手多国籍企業 Corporacion Multi

Inversiones(CMI)に売却すると発表した26。支配権は維持する予定だが、運営そのものは CMI とのジョイントベンチャーで

ある Telefonica Centroamerica Inversionesに統合する。

中欧・東欧でもディール数は上昇傾向にある。ノルウェーの Telenorは 4月、市場シェア 36%を擁するブルガリア第 2位の

モバイル企業 Globul を、ギリシャの OTEから 9億 3,500万米ドルで買収すると発表した。Telenor Groupは売上の半分

以上を本拠地の北欧市場以外から得ており、ハンガリー、モンテネグロ、セルビアでも事業を展開している。同社は 4月、セ

ルビアで、モバイル決済を担当する銀行として KBC Bankaを買収した。同社は今後、Globulが持つブルガリア市場に関す

25

“Telefonica agrees with KPN the acquisition of E-Plus to form a leading digital telco in Germany,” Telefonica, 23 July 2013. 26 “Telefonica reaches an agreement with Corporacion Multi Inversiones to sell 40% of its assets in El Salvador, Guatemala, Nicaragua, and Panama,” Telefonica 30

April 2013.

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Issue 9

るノウハウを同社の規模や経験に統合していく方針だ27。

一方、ブルガリアのWiMAX事業者である Max Telecomは、ロシアの投資家に買収された。同社は 2011年 12月に取得

した 1800MHz帯ライセンスを使って、2013年第 3四半期に LTEサービスを開始する予定だ。

Telekom Austriaの子会社で、クロアチア第 2位のモバイル企業 VIPnetは 6月、クロアチアのケーブルネットワーク事業者

3 社の買収を発表、融合戦略を加速している。買収するのは、OKI と KTS、ビジネス・サービス・プロバイダーMetronete

Telekomunikacijeの固定通信網資産である28。

買収の結果、VIPnetは 6,500人の顧客を獲得し、ザグレブやダルマチア海岸の 27,000世帯にもアクセスできるようになる。

同社は、モバイル通信や多様なバンドルサービスのクロスセルやアップセルの機会が増えると強調している。

図 11 テレコム企業の大型 M&A(2013年第 2四半期)

• アジア太平洋では、既存事業者が法人向けソリューションを拡大 アジア太平洋地域の事業者には、新しい地域の新しい成長セグメントに参入してソリューション機能を拡大しようとする動き

が見られる。今四半期のディール金額は欧州や南北アメリカの水準を大きく下回ったが、これは、テクノロジー部門などで

の小規模な買収への意欲が高まっていることの表れである。

日本の NTT は法人向けサービスの事業機会を狙った買収を模索しつつ、海外事業の拡大を続けている。同社は 6 月、米

国のマネージド・セキュリティ・サービス会社である Solutionary を 2 億 1,000 万米ドルで買収した。Solutionary は 600 を

超す法人顧客を持ち、金融サービスや医療など幅広い分野でセキュリティ分析およびコンサルティングサービスを提供して

いる。

NTT コミュニケーションズは同じく 6月、タイのデータセンター事業者 Digital Port Asia Limitedの株式 74%を取得した。タ

イは 2011年の洪水で甚大な被害を受け、同社は 2012年、同国の事業継続計画のニーズに対応するため設立された。

Telecom New Zealand もまた、データセンター・サービス分野に注目している。同社は 4月、株式非公開のデータセンター

事業者 Reveraを 8,250万米ドルで買収した。契約条件によると、Reveraはブランドを保持したまま別会社として営業し、

27 “Telenor acquires the second largest mobile operator in Bulgaria,”Telenor, 26 April 2013. 28 “Vipnet Acquires a Further Three Local Fixed Net Providers in Croatia,” Telekom Austria, 7 June 2013.

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Telecom New Zealandの法人部門Gen-Iを通じてクラウドサービスを強化する模様。両社は今後、それぞれの顧客に向け

た新製品の開発で協力する。Reveraにとっては、販売先を拡大し、中核的プラットフォームへの投資を増やすことができる

という利点がある。

オーストラリアの Telstra も、技術系スタートアップ企業に投資するなど、今四半期は活発な動きを見せた。同社はベンチャ

ー・キャピタル・ユニットの Telstra Ventures を通じて、米国のアプリケーション開発業者 Kony Solutionsに、1,800万米ド

ルを投資した。Konyは、大企業が様々な OSやデバイスで素早くアプリケーションを展開できるよう、カスタマイズが容易な

プラットフォームを提供している。このディールにより、Kony は Telstra の顧客チャネルを活用して、アジア太平洋全域で事

業拡大を加速できる。29

• デジタルヘルスが新たなトレンドに クラウドやモバイルソリューションに対する企業の需要が高まる中、アジアの通信事業者は、デジタル革命の渦中にある業

界に照準を合わせている。中でも医療分野は、新しいテクノロジーの導入によってバリューチェーン全体の効率が改善され

ており、特に魅力的なターゲットだ。

Telstra と Seven West Mediaは 5月、オンライン医療プラットフォームの HealthEngineに対し、1,100万米ドルを共同出

資した。2006 年設立の HealthEngine は医療実務者のリストと予約システムを提供しており、専門医の分野へも拡張する

計画である。その後、Telstraは端末上で患者情報を医療実務者に提供する IP Healthにも投資した。その過程で、病院に

提供するサービスの種類を拡大している。

NTT ドコモは 4 月、デジタル・ヘルス・サービス分野を強化する取組みの一環として、日本最大の医療データベース会社、

日本アルトマークの株式 77.5%を取得した。NTTドコモは 1年前、医療関連データのシームレスな管理を実現するため、医

療機器のオムロンヘルスケアと協力して、医療ユニットを設立していた30。

日本では、医療費(GDP 比)は世界平均より低いものの、65 歳以上が人口の 20%以上を占め、2060 年には 40%に達す

る見込みだ31。また、日本の人口 1,000人当たりの医師数は 2.14人と、他の先進国より少ない

32。こうしたことから、新技術

の導入は外来と臨床の連携強化に貢献しよう。

図 12 アジア太平洋地域におけるテレコム企業の主要 M&A

29 “Kony Secures $18.3M Series D Funding from Telstra Ventures for Global and Cloud Expansion Companies also announce joint reseller agreement,” Kony, 25

June 2013. 30 “DOCOMO and Omron Healthcare to Establish docomo Healthcare, Inc,” NTT docomo, 2 July 2012. 31 “Japan population to shrink by a third by 2060,” The Guardian, 30 January 2012. 32 “Global Health Observatory Data Repository,” World Health Organization.

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