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DB DI DV HL HS F.公衆衛生学分科会 一般演題:50題(F-1~F-50) 座長 9月16日(木)9:00~16:50 第 5 会場 F-1~F-3 福士 秀人(岐阜大学) F-4~F-6 杉山 誠(岐阜大学) F-7~F-9 伊藤 啓史(鳥取大学) F-10,F-11 村上 洋介(帝京大学) F-12,F-13 加来 義弘(国立感染症研究所) F-14~F-16 勢戸 祥助(大阪府立大学) F-17~F-19 丸山 総一(日本大学) F-20~F-22 山﨑 栄樹(帯広畜産大学) F-23~F-25 中馬 猛久(鹿児島大学) F-26~F-29 浅井 鉄夫(動物医薬品検査所) F-30,F-31 苅和 宏明(北海道大学) F-32,F-33 清水 健太(北海道大学) F-34,F-35 伊藤 啓史(鳥取大学) F-36~F-38 高鳥 浩介(NPO 法 人 カ ビ 相 談 センター) 9月17日(金)9:00~11:00 第 5 会場 F-39~F-41 長谷部理絵(北海道大学) F-42~F-44 山田 一孝(帯広畜産大学) F-45~F-47 武士 甲一(帯広畜産大学) F-48~F-50 五十君静信(国立医薬品食品衛生 研究所)

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Page 1: F.公衆衛生学分科会tech.obihiro.ac.jp/~jsvs150/program/pdf/Syo_F.pdf体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から 640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチ

特別企画

A解 

B病 

C寄生虫

DB微生物(細菌)DI微生物(免疫)DV微生物(ウイルス)

E家 

F公衛生

G繁 

HL臨床(産業動物)HS臨床(小動物)I生理・化

J薬・毒

K実動医

F.公衆衛生学分科会

一般演題:50題(F-1~F-50)

座長

9 月16日(木) 9:00~16:50 第 5 会場F-1~F-3 福士 秀人(岐阜大学)F-4~F-6 杉山 誠(岐阜大学)F-7~F-9 伊藤 啓史(鳥取大学)F-10,F-11 村上 洋介(帝京大学)F-12,F-13 加来 義弘(国立感染症研究所)F-14~F-16 勢戸 祥助(大阪府立大学)F-17~F-19 丸山 総一(日本大学)

F-20~F-22 山﨑 栄樹(帯広畜産大学)F-23~F-25 中馬 猛久(鹿児島大学)F-26~F-29 浅井 鉄夫(動物医薬品検査所)F-30,F-31 苅和 宏明(北海道大学)F-32,F-33 清水 健太(北海道大学)F-34,F-35 伊藤 啓史(鳥取大学)F-36~F-38 高鳥 浩介(NPO 法人カビ相談

センター)

9 月17日(金) 9:00~11:00 第 5 会場F-39~F-41 長谷部理絵(北海道大学)F-42~F-44 山田 一孝(帯広畜産大学)

F-45~F-47 武士 甲一(帯広畜産大学)F-48~F-50 五十君静信(国立医薬品食品衛生

研究所)

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Page 2: F.公衆衛生学分科会tech.obihiro.ac.jp/~jsvs150/program/pdf/Syo_F.pdf体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から 640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチ

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F-42008年北海道におけるダニ媒介性脳炎ウイルスの分離と性状解析○山崎翔子、好井健太朗、持舘景太、村田 亮、真田崇弘、苅和宏明、高島郁夫(北大院 獣医・公衆衛生)

【目的】ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)はフラビウイルス科フラビウイルス属に属し、ヒトに重篤な脳炎を引き起こす人獣共通感染症の原因ウイルスである。日本では1993年に北海道道南地域の北斗市(旧上磯町)で初めてTBE患者が発生し、本研究室で同地域のイヌの血液からTBEVOshima5-10株を分離した。その後の継続的な疫学調査により、同地域で現在まで10年以上に渡り流行巣が維持されていることが示された。そこで本研究では、北海道におけるTBEVの疫学的危険度を再評価するために、現在流行しているウイルスの分離および生物学的性状の解析を試みた。【方法】2008年に北斗市で捕獲した野鼠の脾臓乳剤をBALB/c哺乳マウスに脳内接種し、このマウスの脳乳剤をBHK細胞に接種することでウイルス分離を行った。ウイルスの分離はIFAによるウイルス抗原検出とRT-PCRによるウイルス遺伝子検出によって確認した。分離したウイルスの遺伝子RNA全長の塩基配列を決定し、BHK細胞に接種し経時的に観察するとともに培養上清中のウイルス量を測定した。【結果と考察】今回、北斗市のアカネズミより新たにTBEVOshima08-AS株が分離された。Oshima08-AS株のウイルス遺伝子はOshima5-10株と比較して36個の塩基の相違があり、非構造蛋白質に12個のアミノ酸の相違を伴うものだった。BHK細胞におけるウイルスの細胞変性効果、プラークの形成及び増殖速度にも両株で違いが認められた。今後はマウス感染モデルでOshima08-AS株の病原性を解析し、生物学的性状の詳細を明らかにしていくことを計画している。

F-3展 示 動 物 に お け るChlamydophila psittaciお よ びC. pneumoniaeDNAの検出状況荻島 徹、○壁谷英則、畠山理沙、上間育美、根岸ふゆ美、丸山総一(日本大 獣医公衆衛生)

【目的】近年、動物展示施設において鳥類や哺乳類からオウム病に感染した事例も報告されている。本研究では各種展示動物のChlamydophila psittaciとC. pneumoniaeDNAの検出状況を検討した。【材料と方法】2005-2009年度に、動物取扱業飼育施設由来の外見上健康な動物、1,140頭(哺乳類72種299頭、爬虫類46種173頭、および鳥類130種668羽)から採取した糞便および総排泄腔スワブを用いた。各検体からDNAを抽出し、Chlamydophila属の16SrRNA、MOMP各領域を標的としたnested-PCRおよびPCRにより各DNAを検出し、その塩基配列から種を決定した。一部の検体についてはChlamydophila属のMOMPVD2、C. pneumoniaeのVD4各領域を標的としたPCRを行い、各塩基配列から系統解析を行った。【結果と考察】C. psittaciDNAは、哺乳類の6.4%(19/299)、爬虫類の8.7%(15/173)、および鳥類の7.5%(50/668)から検出された。C. pneumoniaeDNA陽性率は哺乳類で0.3%(1/299)、鳥類で0.3%(2/668)であったのに対し、爬虫類では5.8%(10/173)と有意に高い値を示した。VD2領域の系統解析では、C. psittaci遺伝子型I、II、IV、C. pneumoniaeに加え、既存種とは異なる3つのクラスターに分類された。C. pneumoniaeVD4領域の系統解析では、検出された遺伝子の多くは人、爬虫類、両生類各由来株に近いクラスターに分類された。VD2、VD4両領域の系統解析では、ヨーロッパヘビトカゲとパンサーカメレオン由来検体は固有のクラスターを形成した。以上より、哺乳類、爬虫類も鳥類と同様にC. psittaciを保菌していること、爬虫類は他の動物種に比べ高率に固有のC. pneumoniaeを保有している可能性があることから、今後展示動物から人への感染リスクを評価する必要があると思われた。

F-2エゾリス由来ノミからのリケッチア属細菌の検出○松本高太郎1、佐々木広美1、山内健生2、猪熊 壽1(1帯畜大 臨床獣医学研究部門、2富山県衛生研究所)

【背景と目的】リケッチア属細菌はノミやマダニ、シラミといった吸血節足動物により媒介され、人に発熱、斑状皮疹などを引き起こすことが知られている。エゾリスは北海道に生息するリスであり、生活圏は人と重なっている。今回、エゾリスに寄生していたノミからリケッチア属細菌のDNAが検出されたのでこれを報告する。【材料と方法】2009年2月に交通事故で帯広畜産大学附属家畜病院に運び込まれたエゾリスより、ノミ5個体を採取した。1個体はノミの種の同定に用い、4個体からDNAを抽出後、gltA遺伝子を標的としたリケッチア属特異的スクリーニングPCRを実施した。陽性検体について、PCR産物の配列決定を行った。さらにgltA遺伝子とrpoB遺伝子の配列を決定し、系統学的位置づけの検討を行った。【結果と考察】同定を行ったノミの種は、Aenigmopsylla grodekoviであった。スクリーニングPCRでは4検体全てが陽性を示し、321bpのgltA遺伝子の解析の結果、4検体とも互いに100%一致した。このうち1検体について1234bpのgltA遺伝子と3927bpのrpoB遺伝子配列を決定したところ、gltA遺伝子はRickettsiasp.SGL01と最も高い相同性を示し(98.5%)、既知の種についてはR. felisと最も高い相同性を示した(97.9%)。rpoB遺伝子については、R. felisと最も高い相同性を示した(97.9%)。R. felisは人に病原性を持つことが知られているが、今回検出されたリケッチア属細菌の人および動物に対する病原性は不明である。今後、本リケッチア種の病原性、および分布についてさらなる調査が必要であると考えられた。

F-1日本紅斑熱患者が増加する熊本県上天草地域におけるイノシシの疫学的役割○齋藤 亨、佐々木広美、藤澤哲郎、竹内俊彦、吉本 薫、松本高太郎、猪熊 壽(帯畜大 臨床獣医学研究部門)

【背景と目的】日本紅斑熱(JSF)はRickettsia japonica(Rj)を病原体とするマダニ媒介性感染症である。熊本県では2007年から上天草地域に集中して患者が急増している。同地域では野生イノシシが増加しており、JSF感染との関連が疑われているが、実態は不明である。本研究ではJSF感染におけるイノシシの疫学的役割の解明を目的とした。【材料と方法】2009年10月~2010年4月に同地域で捕獲されたイノシシの血液18頭分、およびイノシシより回収されたマダニ100個体、また、2010年4月に患者多発地域の畑にて旗振り法で採取したマダニ169個体を用いた。血液は血清と血餅に分離し、それぞれRjAoki株を抗原としたIFAおよびRickettsia属特異的nestedPCRに供した。マダニは、同定後適宜選抜してDNA抽出を行い、nestedPCRによりRickettsia検出を行った。PCR陽性検体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチマダニ、ヤマアラシチマダニの2属4種が回収され、PCRでは54検体中22検体が陽性を示した。このうち、タカサゴチマダニ1検体からRjDNA断片が検出された。旗振り法ではアカコッコマダニを加えた3属5種が採取され、PCRでは38検体中6検体が陽性を示したが、Rjは検出されなかった。以上からイノシシは保菌動物ではないが、Rj保有マダニの運搬者である可能性が考えられた。

Page 3: F.公衆衛生学分科会tech.obihiro.ac.jp/~jsvs150/program/pdf/Syo_F.pdf体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から 640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチ

F-8ダニ媒介性脳炎/オムスク出血熱のキメラウイルスの作成と性状解析○好井健太朗1、寸田祐嗣2、苅和宏明1、Michael Holbrook3,4、高島郁夫1(1北大 院・獣医・公衆衛生、2北大 院・獣医・比 較 病 理、3テ キ サ ス 大 学、4NIAID Integrated Research Facility)【背景と目的】 哺乳動物に感染するダニ媒介性フラビウイルスの多くは、ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)に代表されるように脳炎を引き起こす。一方、出血熱を起こすダニ媒介性フラビウイルスも知られており、オムスク出血熱ウイルス(OHFV)はその一つである。近年の研究により、OHFVは他の出血熱ウイルスよりもむしろTBEVに近縁であることが遺伝子系統樹解析で明らかになった。遺伝子相同性の高いTBEVとOHFVが、脳炎と出血熱といった異なる病態を引き起こす要因は何であるか、ほとんど不明である。そこで本研究では病態の相違に関わるウイルス側因子を同定するため、感染性cDNAを用いてTBEVとOHFVのキメラウイルスを作成し、その性状を解析した。【材料と方法】 TBEV・Oshima株 とOHFV・Guriev株 の 感 染 性cDNAを 元 にprM/Eの領域を組み換えたキメラウイルスを作成し、4つのウイルス(TBEV、TBEV-OHF/ME、OHFV、OHFV-TBE/ME)を実験に用いた。それぞれのウイルスに関して、BALB/cマウスに接種時の臨床症状や生存率、ウイルスの体内動態や組織病理像を解析し比較した。【結果と考察】 マウスでの感染実験ではOHFVと比較して、TBEV-OHF/ME・OHFV-TBE/ME共に脳においてウイルスが早い時期から検出されたため、TBEVのエンベロープ膜蛋白prM/E、及びCとNS蛋白の双方がウイルスの神経侵襲性に寄与していることが示唆された。さらに臨床症状や生存率も各ウイルス間での相違が認められ、組織病理像との関連性が示唆されたため、今後解析を進め病態の発現機序に関わる要因を検証していく予定である。

F-7ダニ媒介性脳炎ウイルスSofjin株の感染性cDNAの構築○高野絢子、大森優紀、好井健太朗、横澤香菜、苅和宏明、高島郁夫(北大 院・獣医・公衆衛生)

【目的と意義】ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)は、人に重篤な脳炎を起こす人獣共通感染症の原因ウイルスである。以前、北海道においてTBEVOshima5-10株が分離され、遺伝子解析によりOshima5-10株は病原性の強い極東型に分類されたが、極東型の標準株であるSofjin-HO株よりもマウスにおける病原性は低かった。両株の遺伝子の相同性は98%以上であることから、病原性の相違を決定するウイルス側因子が明らかになれば、TBEVの病原性発現機序を解析する上で重要な知見となると考えられる。そこで本研究では任意のウイルスゲノムの改変を可能とする、Sofjin-HO株の感染性cDNAを構築した。【材料と方法】以前、構築したSofjin-HO株由来のレプリコン(第148回学術集会報告)を元に、欠損している構造蛋白領域を挿入することで、感染性cDNAを構築した。感染性cDNAから合成したmRNAをBHK細胞に導入し、上清より回収したウイルスを、BHK細胞やマウスへ接種し、増殖性・病原性を解析した。【結果と考察】感染性cDNA由来mRNAを導入した細胞培養上清から、感染性ウイルス(Sofjin-IC)を回収することができた。Sofjin-ICは細胞接種時にプラークを形成し、また、Sofjin-IC感染マウスは、Sofjin-HO株接種時と同様の症状を示し死亡した。また、Sofjin-ICを用いることで、親株の準種に由来するアミノ酸の相違が、病原性や増殖性に影響を与えていることを示した。以上の結果より、本感染性cDNAは、病原性の解析に有用であると考えられる。今後は、Sofjin-HO株とOshima5-10株の間での病原性を比較解析することで、TBEVの病原性発現に重要な遺伝子配列を同定し、その分子機序を明らかにして行く計画である。

F-6ダニ媒介性脳炎ウイルスのE蛋白の糖鎖付加がウイルス性状に与える影響○柳原なつみ1、好井健太朗1、後藤明子1,2、伊川綾恵1、石塚万里子1、苅和宏明1、高島郁夫1(1北大院 獣医・公衆衛生、2北海道立衛生研究所)【目的】ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)はフラビウイルス科に属し、人に重篤な脳炎を起こす人獣共通感染症の原因ウイルスである。TBEVはエンベロープ膜上に2種類の糖蛋白(M,E)を持ち、それぞれに1カ所ずつN結合型糖鎖付加配列をもつ。本研究室の以前のウイルス様粒子を用いた研究によって、E蛋白の糖鎖付加がウイルス粒子の分泌に重要であることを示した。今回、我々はさらに感染性cDNAからE蛋白上のN結合型糖鎖付加配列を欠損した組換えウイルスを作成し、これを用いて糖鎖付加がウイルスの生物学的性状に与える影響を解析した。【方法】TBEV北海道分離株Oshima5-10株由来の感染性cDNAにE蛋白に糖鎖が付加されないように変異を導入し、合成したmRNAを細胞に導入して細胞上清からE蛋白のN結合型糖鎖付加配列を欠損したウイルス(TBEV-ΔEg)を得た。E蛋白の糖鎖付加はレクチンブロットにより確認した。TBEV-ΔEgおよび、親株と同じ遺伝子配列をもつTBEV-ptを哺乳動物細胞に感染させて経時的にウイルスの増殖性を調べ、E蛋白の糖鎖の付加の有無による影響を解析した。【結果と考察】今回作成したTBEV-ΔEgはTBEV-ptと異なりE蛋白の糖鎖が付加されないことがレクチンブロットで確認された。BHK細胞にそれぞれのウイルスを感染させると、TBEV-ΔEgはTBEV-ptと比較してウイルス分泌量が減少しており、哺乳動物細胞においてE蛋白の糖鎖付加はウイルス増殖に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後はさらにマウス感染モデルを用いて、ウイルス動態や病原性を調べることでTBEVのE蛋白の糖鎖付加がウイルスの生物学的性状へ与える影響について詳細に解析していく予定である。

F-51980年代に北海道の流産ブタ胎仔から分離された日本脳炎ウイルス○新井 智1、浜田雅史1、多屋馨子1、高島郁夫2、岡部信彦1(1感染研 感染症情報センター、2北大)

背景これまで日本では、西日本を中心に患者発生が報告されているものの、北海道では患者報告も無くワクチンも積極的に接種されてこなかった。しかしながら、1984年から3年間、ブタ流産胎仔から日本脳炎ウイルスが分離され、北海道にも日本脳炎ウイルスの存在が示されている。そこで1980年代に北海道で分離された日本脳炎ウイルスについて全長配列を決定し、各地のウイルス株と比較することで本ウイルスの由来を検索したので報告する。材料方法1984年9月に分離されたImagane株(I株)、1985年7月に分離されたKamiiso株(K株)、1986年3月に分離されたAbashiri株(A株)を用いた。IおよびK株は北海道帯広家畜衛生保健所の渡辺卓俊氏より、A株は同空知家保の田口雅持氏より分与を受けた。ウイルスはブタ流産胎仔脳を哺乳マウス脳内に接種し分離した。哺乳マウス脳継代5代以内のウイルスを2009年にVero細胞に接種し、培養液からVirusRNAを抽出し、Reversetranscriptionを行い、PCRを用いて全領域を増幅してダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定した。結果および考察北海道で分離された3株の全塩基配列を決定した。配列は10968nt、推定されたアミノ酸は3432aaであった。配列はI株とK株の間で1ntの違いで、I株とA株の間で22ntの違い、99.8%の相動性であった。塩基配列の結果から、I株とK株の分離年は異なるものの、同一Originと予想された。Blast検索したところ、1987年に韓国で分離されたK87P39株に対して最も高い相動性を示した。今後新たに北海道で分離されたウイルスが見つかれば、1980年代に分離されたウイルスとの相同性について比較検討することにより、日本脳炎ウイルスの国内での存在様式について検討したい。

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F-12メキシコ由来のハンタウイルスに対するモノクローナル抗体の作出と各種ハンタウイルスに対する反応性の検討○吉田喜香1、苅和宏明1、真田崇弘1、Ngonda Saasa1、瀬戸隆弘1、吉松組子2、有川二郎2、好井健太朗1、高島郁夫1(1北大 獣医・公衆衛生、2北大 医学研究科・病原微生物)【背景と目的】ハンタウイルス肺症候群(HPS)はげっ歯類を病原巣動物とするハンタウイルス感染症の一つであり、南北アメリカ大陸で発生が報告されている。メキシコにおいても新規のハンタウイルスがげっ歯類に保有されることが遺伝子レベルで判明したが、ウイルスの抗原性については全く明らかにされていない。そこで、メキシコのハンタウイルスの核蛋白質(NP)に対するモノクローナル抗体(MAb)の作出を試みた。【材料と方法】大腸菌発現系を用いてメキシコのハンタウイルスの一種であるMontanovirus (MTNV)のNPを発現させ、これをマウスに免疫して4種類のMAbsを作出した。酵素抗体法(ELISA)およびWesternblotting(WB)により、各種ハンタウイルスのNPに対するこれらのMAbsの反応性の比較を行った。さらに、CompetitiveELISAを用いて、4種類のMAbsの認識部位に関する解析を行った。【結果と考察】各種ハンタウイルスのNPに対するMAbsの反応性をELISAとWBで調べたところ、4クローン中3クローンが3種類のメキシコのハン タ ウ イ ル ス(MTNV,Carrizalvirus:CARV, お よ びHuitzilacvirus:HUIV)とアメリカ合衆国においてHPSの原因となっているSinNombrevirus (SNV)に反応することが明らかになった。残りの1クローンはELISAでホモのMTNVとSeoulvirusにのみ反応した。これらのことから、MTNVのNPは他のメキシコのハンタウイルスやSNVのNPと血清学的に交差することが判明した。また、CompetitiveELISAの結果、4種類のうち2種類のMAbsは互いにNPとの結合を阻害したことから、これらのMAbsはNP上の近接した領域を認識しているものと考えられる。今後、これらのMAbsを用いることで、HPS関連ハンタウイルスの検出系への応用も予定している。

F-11と畜場に搬入されたブタにおけるA群ロタウイルスの検出およびその遺伝学的解析○岡寺康太1、安部昌子2、伊藤直人1,2、杉山 誠1,2(1岐阜大 応用生物科学部・人獣共通感染症学研究室、2岐阜大院連獣)

【背景と目的】A群ロタウイルス(RV)は幼若動物に急性胃腸炎を引き起こす。RVは幅広い宿主域をもち人獣共通感染症の原因となる可能性も指摘されている。そのため、本症の制御には自然界におけるRVの生態を把握する必要がある。しかし、その生態は未だに不明である。また、RVゲノムは11本の2本鎖RNA分節であるため、遺伝子再集合を起こす。この遺伝子再集合により遺伝的多様性が拡大すると考えられている。そこで今回、ヒトと生活環境が近く、感染状況が未把握の健康なブタからRVの検出を試みることにより、ブタにおけるRVの生態を探った。【材料と方法】名古屋市及び群馬県のと畜場に搬入された健康なブタ(90例及び87例)の糞便を用いた。この20%乳剤からRTPCR法によりRV遺伝子を検出し、ダイレクトシーケンス法によりVP4及びVP7遺伝子の部分的塩基配列を決定した。【結果と考察】名古屋市90例中13例、群馬県87例中4例からRV遺伝子が検出された。名古屋市13例の遺伝子型の内訳は、G1P[7]、G2P[7]、G2P[27]、G3P[7]、G4P[13]、G4P[27]、G5P[7]及びG6P[13]であった。一方、群馬県4例の内訳は、G2P[x(未知の遺伝子型)]、G3P[13]及びG5P[13]であった。これらの中に、VP4遺伝子P[7]の塩基配列は100%一致するにもかかわらずVP7遺伝子型はG1、G2、G3及びG5と、両遺伝子の組合せが異なる株が存在したことから、遺伝子分節の再集合が起きていることが示唆された。今回、多様な遺伝子型のRVが名古屋市及び群馬県のと畜場に搬入されたブタに感染していることが明らかとなった。また、このことから、他の地域のブタにおいても同様に多様な遺伝子型のRVが浸潤している可能性が考えられた。協力機関:群馬県食肉衛生検査所、名古屋市食肉衛生検査所

F-10ウシ正常個体由来A群ロタウイルスの全ゲノムを対象とした分子系統学的解析○安部昌子1、伊藤直人1,2、杉山 誠1,2(1岐阜大院連獣、2岐阜大 応用生物科学部・人獣共通感染症学研究室)

【背景と目的】A群ロタウイルス(ARV)はヒトを含めた様々な動物種に広く分布し、幼若個体に下痢症を起こす。ARVのゲノムは11本の分節RNAであるため、遺伝子分節の組換えを起こすことが知られているものの、自然界における実態は不明である。これまでに我々は、同地域の6株のウシ正常個体由来ARV株について全ゲノムを解析し、遺伝子型を決定した。その結果、外殻蛋白を構成するVP7及びVP4の遺伝子型(G及びP)の組み合わせが様々である一方、他の遺伝子分節は大部分が共通したタイプであったことから、VP7及びVP4遺伝子が積極的に組換えを起こしている可能性を指摘した(第148回本学会)。今回、さらにこれら6株の遺伝的関連性を明らかにするため、各遺伝子分節について進化系統学的解析を行った。【材料と方法】2006年から2007年に、岐阜県のウシ正常個体から分離された6株のARV株(G10P[11]-2株、G8P[11]-2株、G6P[11]-1株及びG21P[29]-1株)について、MEGA4を用いて進化系統樹を作製し、解析した。【結果と考察】各分節における進化系統樹から、この地域に分布するARVには少なくとも4つの遺伝系統(G10P[11]-a系統、G8P[11]-b系統、G6P[11]-c系統及びG21P[29]-d系統)が存在することが明らかになった。6株は各系統に分かれているものの、G8P[11]の株(b系統)は11分節中3分節がa系統、1分節がd系統といったように、それぞれの系統を背景に、異なる系統に属する遺伝子分節が混在していた。このことは、ARVの各遺伝子分節が複雑に組換えを起こしていることを示している。以上、ARVの全ゲノムを対象とした進化系統学的解析により、野外ではVP4及びVP7遺伝子に限らず、他の遺伝子分節においても頻繁に組換えが起きていることが明らかとなった。

F-9分泌型アルカリフォスファターゼ発現VSVシュードタイプを利用したニパウイルス中和試験法の確立○加来義浩1、野口 章1、奥谷晶子1、堀田こずえ1、福士秀悦2、井上 智1、山田章雄1(1感染研 獣医科学部、2感染研 ウイルス第1部)【目的】ニパウイルス(NiV;パラミクソウイルス科ヘニパウイルス属)は、1990年代に出現した人獣共通感染症、NiV感染症の原因ウイルスである。我々は第146回本学会において、感染性NiVを用いない安全な血清診断法として、GFP発現組換え水疱性口炎ウイルス(VSV)シュードタイプを利用した中和試験法を報告した。今回は、より簡便に感染価を測定できるよう、分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)発現シュードタイプを利用した中和試験法の確立を試みた。【方法】NiVの表面蛋白質(F、G蛋白質)を発現した「VSV由来SEAP発現シュードタイプ」(VSV-NiV-SEAP)を作製した。VSV-NiV-SEAPを、階段希釈した被検血清と混和し、96穴プレート上のVero細胞に接種した。24時間後に、回収した培養上清に基質を加え、上清中のSEAP量をELISAプレートリーダーで測定した。被検血清には、ヒト、ブタ、コウモリなど複数種のNiV感染血清と非感染血清を用いた。同一の被検血清に対して、本法と、感染性NiVを用いた中和試験法を行い、両法の感度比較を行った。【結果】VSV-NiV-SEAPとNiV感染血清を混和したところ、被検血清量に依存して、上清中のSEAP量の減少が認められた。この減少曲線を用いて中和抗体価を算出したところ、全ての被検血清において、感染性NiVを用いた試験法よりも高い抗体価が得られた。【総括】従来のGFP発現シュードタイプでは、感染価を測定するために蛍光顕微鏡あるいは蛍光プレートリーダーを用いる必要があった。一方、SEAP発現シュードタイプは、より安価なELISAプレートリーダーで、迅速に感染価を計測できるため、本法は、途上国でも普及しうる中和試験法として期待できる。本研究は豪州家畜衛生研究所LinfaWangらとの共同研究である。

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F-16インフルエンザAウイルスRNA増幅法についての検討○藤田 修、宇田晶彦、棚林 清、堀田明豊、山本美江、山田章雄(感染研 獣医科学部)

【背景および目的】 インフルエンザAウイルス(InfAv)発症直後ではウイルス排出量が少なく、RT-PCR法などでも検出されないことがある。本研究ではInfAvゲノム検出の前段階でHA亜型同定にも利用可能なRNAを簡便・短時間・大量に増幅する方法の構築を目的として、定温で増幅可能なNASBA法とTRC法を検討した。【材料と方法】 各核酸増幅反応に用いたプライマーは現在まで報告されているInfAvのHA遺伝子の株間で比較的保存されていた領域内に設計した。ウイルス株はA/Narita/1/2009 (H1N1pdm)とA/Brisbane/59/2007 (H1N1)(感染研インフルエンザウイルス研究センターより分与)および、A/browfly/Kyoto/93/2004 (H5N1京都株)で、発育鶏卵で増殖後その漿尿液からQIAampUltraSensVirusKit (Qiagen)を用いてRNAを抽出した。これらを鋳型にNASBA法とTRC法を用いてウイルスRNAを増幅し、その増幅効率をリアルタイムRT-PCR法により測定した。【結果および考察】 京都株RNAにて両方法の増幅効率を調べた結果、TRC法は鋳型RNAの添加量が少ないと増幅効率はきわめて不良だったが、NASBA法は鋳型RNAが少なくても安定した増幅が認められた。次にNASBA法でInfAv3株の時間毎の増幅を調べた結果、いずれの株でも90分間で1万倍以上増幅できる事が確認された。高額な機器を必要としないNASBA法はHA亜型の異なる少量のInfAvのHA領域RNAを短時間で効率良く増幅する方法として有用性の高い事が示唆された。

F-15野生水禽由来鳥インフルエンザウイルスの鶏継代による病原性獲得機序○藤本佳万1,2、伊藤啓史1,2、伊藤壽啓1,2(1鳥取大 獣医公衆衛生学教室、2山口大院連獣 病態予防獣医学講座)

【緒言】野生水禽由来の低病原性鳥インフルエンザウイルスA/teal/Tottori/150/02 (H5N3)を鶏雛の気嚢で12代継代した変異株(以下12a株:第147回本学会)は、鶏に静脈内接種した場合(致死率100%)と比較して、自然感染経路に近い経鼻接種ではそれ程強い致死性を示さない。そこで本研究では、12a株のさらなる鶏継代を実施し、継代株の病原性および遺伝子変異を比較した。【材料と方法】12a株を4週齢鶏で10代呼吸器継代もしくは4代脳継代し、それぞれ12a10n株および12a4b株を得た。各継代株を6週齢鶏に経鼻接種し(107.0EID50/羽)、病原性を評価した。病原性の上昇が認められた継代株については、全ゲノム遺伝子の決定を行い、推定アミノ酸配列を12a株と比較した。【結果と考察】12a株を接種した6週齢鶏では4羽中2羽のみが死亡し、残りの2羽は軽度の沈鬱を示した。一方、12a10n株および12a4b株接種ではともに全ての鶏が死亡し、平均死亡時間はそれぞれ3.7日および2.6日であった。接種3日後における各臓器中のウイルス感染価は、12a株と比較して継代株の方が100~1000倍高かった。12a株との推定アミノ酸配列の比較では、12a10n株で7箇所(PB2:4箇所、PA、NPおよびNS:各1箇所)、12a4b株で1箇所(HA)の置換が認められ、共通したアミノ酸置換は存在しなかった。以上の成績から、12a10n株および12a4b株は異なる機序により病原性を増強させたと考えられた。すなわち、野生水禽由来鳥インフルエンザウイルスの鶏継代による病原性の増強には複数の機序が存在することが示唆された。

F-14病原体検出用マイクロアレイの開発○宇田晶彦、棚林 清、藤田 修、堀田明豊、山本美江、山田章雄(感染研 獣医科学部)

【目的】我々は、ヒトや動物に病気を起こす病原体を、特異的・網羅的に検出するマイクロアレイの開発を試みている。ゲノムプロジェクトが終了又は途中の病原体509種(ウイルス147種、細菌276種、真菌49種、古細菌30種、その他7種)の全長ゲノム配列とタンパク毒素等74遺伝子についてプローブを約5万種類設計した。設計した全プローブのホモロジー検索を行い、特異的検出に有効であると推測された38,986プローブを選定し、これらのプローブを搭載したマイクロアレイを作製した。本研究では、病原体検出用マイクロアレイのプローブが各病原体に対して特異性が確保されている事を明らかにし、その有効性を探る基礎データ取得を目的とした。【方法】病原体検出用マイクロアレイのモデル病原体としてインフルエンザウイルス、コクシエラ属菌、大腸菌、エルシニア属菌、および野兎病菌の核酸を使用した。これらの核酸はPhi29DNAポリメラーゼで増幅、断片化、蛍光標識後、病原体検出用マイクロアレイに反応させた。各サンプルから得られた蛍光シグナルと統計的数値(p<0.001,z>3.09)に基づき、病原体ゲノムの陽性判定を行った。【総括】病原体モデルとして使用した、インフルエンザウイルス、コクシエラ属菌、大腸菌、エルシニア属菌、および野兎病菌のゲノム核酸は病原体検出用マイクロアレイでそれぞれのプローブに特異的に反応したことから本病原体検出用マイクロアレイは、既知病原体を一括して、簡単、網羅的に検出できる可能性が示唆された。更に、病原体陽性判定を自動的に行うソフトウェアの開発も進めている。

F-13ウエストナイルウイルスのE蛋白糖鎖付加が鳥類における病態に与える影響の解析○戸谷理詩1、好井健太朗1、村田 亮2、秋田紗希4、田中智久3,4、苅和宏明1、梅村孝司4、高島郁夫1(1北大 獣医・公衆衛生、2東京農業大学 農・畜産・家畜衛生学、3阪大 微研、4北大院 獣医・比較病理)【背景と目的】ウエストナイルウイルス(WNV)はフラビウイルスに属し、自然界では鳥類と蚊の間で感染環が維持されている。近年の北米での流行株は鳥類、哺乳類で高い病原性を示すが、WNVの鳥類体内における増殖動態および発病機序の詳細は不明である。我々は以前の研究で北米流行株からエンベロープ蛋白上にN型糖鎖付加部位を持つ株(LP株)と持たない株(SP株)を分離した。そして初生雛への実験感染により糖鎖付加が初生雛における病原性に関与することを示してきた。そこで本研究では、糖鎖付加が鳥類の病原性に与える影響をさらに詳細に解析するため、体内におけるウイルスの動態や免疫応答と病態の関係性を検討した。【材料と方法】2日齢の初生雛(ボリスブラウン)に100PFUのLP株またはSP株を皮下接種し、接種2、6日後に安楽殺して血液と臓器を採取した。そして各臓器におけるウイルス力価の測定及び病理学的解析を行うとともに、リアルタイムPCRにより炎症性サイトカインの発現の定量を行い比較した。【結果と考察】LP株接種雛では接種後2、6日ともに、SP株接種雛に比べて高いレベルのウイルス血症が認められた。さらにLP接種群では接種後6日で心臓、脾臓からウイルスが検出されたのに対し、SP接種群ではほとんど検出されなかった。また脳、肝臓からは両群ともにほとんど検出されなかった。病理学的解析ではLP株接種雛で重度の壊死性心筋炎がみられた。またウイルス接種群では、非接種群に比べて比較的高い炎症性サイトカインの発現が心臓、脾臓で認められたが、LP株、SP株で差は認められなかった。以上の結果から、WNV接種雛ではE蛋白の糖鎖付加により心臓での増殖性が高くなり、組織の傷害につながったものと考えられる。

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特別企画

A解 

B病 

C寄生虫

DB微生物(細菌)DI微生物(免疫)DV微生物(ウイルス)

E家 

F公衛生

G繁 

HL臨床(産業動物)HS臨床(小動物)I生理・化

J薬・毒

K実動医

F公衛生

F-20宿主細胞との共培養系におけるA型ウェルシュ菌の増殖解析○星 英之1、松澤健志1、山本茂貴2、鎌田洋一3、三宅眞実1(1大阪府大院 獣医・獣医公衆衛生、2国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部、3国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)【目的】A型ウェルシュ菌は食中毒及びガス壊疽の原因菌として重要である。嫌気性菌であるウェルシュ菌(CP)が感染を成立する過程には、宿主細胞との複雑な相互作用が関与すると予想されるが、その詳細は明らかではない。本研究ではCPのin vitro感染モデルを構築する目的で、ヒト結腸癌由来細胞とCPを共培養し、菌の増殖が受ける影響を解析した。【方法】FTG培地で37℃、20-24時間嫌気培養を行ったCP(A型、typestrain、JMC1290株、理研BRCより入手)を集菌、洗浄後、DMEMで再懸濁した。6穴プレートで培養したCaco-2細胞に上記CP懸濁液を加え、37℃で好気(CO2-incubator内)あるいは嫌気(アネロパック・ケンキ、三菱ガス化学)条件下で培養した。CPの増殖は、培養開始後4、8、24時間の培養上清の濁度(A650nm)により評価した。【結果】ウシ胎児血清(FCS)非存在下では、好気培養、嫌気培養に関わらず、CPの増殖にはCaco-2細胞の存在が必須であった。一方、20%FCS存在下では、Caco-2細胞が無くても嫌気的に培養することでCPが増殖した。前者の実験系にFCSを添加したり、後者の系にCaco-2細胞が存在すると、いずれも菌の増殖は亢進した。【総括】CPは宿主細胞が存在する環境では、細胞によるredoxstateの変化や宿主由来の栄養素を利用することで、通常増殖できなかった条件でも増殖できるようになることが明らかになった。今後この感染モデルを使いCPと宿主細胞の相互作用を分子レベルで解析していきたい。

F-19イヌブルセラ病抗体検査法の評価○木村昌伸、今岡浩一、鈴木道雄、山田章雄(感染研 獣医科学部)

【目的】イヌブルセラ病の各種血清学的診断法を比較検討した。比較した検査法は、イムノクロマト法(ICA)、蛍光抗体法(IFA)、一般に広く用いられている試験管凝集反応(TAT)、さらに、インハウス・テストとしてマイクロプレート凝集反応(MAT)とウェスタンブロット法(WB)の全5種である。【方法】繁殖施設でのBrucella canisアウトブレーク時の犬血清109検体と非感染犬血清60検体、計169検体に対して各方法により抗体を検出法した。それぞれの検査結果の相関係数(kappastatistic)を求めて比較した。【成績】ICA、IFA、MAT、TATの結果には、それぞれ比較的高い相関が見られた(κ=0.76-0.83)。特にICA、IFA、MAT、の相関は、非常に高かった(κ=0.93)。アウトブレークの犬血清109検体では、WBと他の4法との相関は低く(κ=0.29 -0.49)そのうちTAT陰性の58検体ではさらに低かった(κ=0.02-0.32)。しかし、アウトブレーク時の検体中、TAT陽性の51検体と非感染犬血清60検体での比較では、WAを含むすべての検査法の結果は、ほぼ一致した。【結論】広く用いられるTATと比較してICA、IFA、MATは、イヌブルセラ病の診断に十分な感度と特異性を有していた。WBでは、他の検査法では陰性となったアウトブレーク時の検体の多くが陽性となった。これは、WBが高感度であるため抗体価の低い検体でも検出可能であったことによると考えられる。繁殖施設におけるアウトブレークでは、WB以外の検査法では、低抗体価の感染動物を見逃す可能性があり、注意しておく必要がある。

F-18イヌのブルセラ症の血清学的診断におけるRBP抗原の有用性の検討○西田隆司、橘 理人、度会雅久(山口大 農・獣医公衆衛生)

【背景と目的】ブルセラ症はブルセラ属菌の感染により引き起こされる人獣共通感染症である。人では波状熱、動物では不妊や流産を引き起こし、経済的損失を生じさせる。イヌのブルセラ症の原因菌はB.canisであり、近年、日本国内においても集団発生事例が報告されている。イヌのブルセラ症の血清学的診断は、全菌体を抗原として用いた試験管凝集反応試験(TAT)により行われているが、特異性に問題がある。より特異性の高い診断法を開発するために、本報告では特異性の高い抗原を検索し、診断用抗原としての有用性を検討した。【材料と方法】B.canisのリゾピン結合蛋白(RBP)を抗原として用い、被検血清はTATで陽性または陰性であった血清を用いた。ウエスタンブロット法により被検血清とRBP抗原の反応性を確認した。またRBP抗原をラテックスビーズに固着させ、被検血清を用いてマイクロプレート凝集反応試験(MAT)を行い、凝集像を確認した。同時にSOD抗原を用いてRBP抗原と同様にMATを行い、凝集像を確認した。【結果と考察】ウエスタンブロット法では、TAT陽性の血清とRBP抗原との特異的反応が観察されたが、TAT陰性の血清とRBP抗原との反応は観察されなかった。MATでは、TAT陽性の血清では凝集像が観察され、TAT陰性の血清では凝集像が観察されなかった。またSOD抗原を固着させたビーズを用いたときにみられた凝集像はRBP抗原を固着させたビーズを用いたときと同様であった。以上の結果からRBP抗原はSOD抗原と同様にブルセラ感染血清と特異的に反応し、血清学的診断用抗原として有用であることが示された。

F-17multiplex PCRによるサルモネラ主要血清型迅速同定法○秋庭正人、楠本正博、岩田剛敏(動衛研 安全性研究チーム)

【目的】サルモネラの血清型別には通常,4日程度の時間を要するが,検査の現場では特定の血清型を迅速に同定する手法の開発が望まれている。そこで,我々は公衆衛生ならびに家畜衛生上,重要視される血清型Typhimurium(ST),Dublin(SD),Enteritidis(SE),Choleraesuis(SC),Gallinarum,Infantis,Hadarの 遺 伝子をmultiplexPCR(m-PCR)により検出することで,当該血清型を迅速に同定する手法の開発を試みた。【方法】遺伝子データベース上の全ゲノム塩基配列データから,上記7血清型が保有し,当該血清型以外での保有率が低いと予想される遺伝子を,それぞれ3つ選び出した。サルモネラ属が保有するinvA遺伝子を陽性対照とし,計4遺伝子を多重検出する7つのm-PCR系を確立した。いずれの系も4遺伝子が検出できた場合,標的血清型であると判定できる。標的血清型については,それぞれ13~162の野外分離株を,非標的血清型については115の異なる血清型から各1株を用いて特異性の検証を行った。【結果と考察】標的血清型DNAをテンプレートとしたとき,いずれの系でも全ての供試菌株で4遺伝子陽性の結果が得られた。すなわち,標的血清型での陰性例は認められなかった。非標的血清型DNAをテンプレートとしたとき,一部の例外を除いて4遺伝子陽性となる例は認められなかった。非標的血清型における陽性(偽陽性)は,ST,SD,SE,SCを標的としたm-PCR系で認められ,被検菌はその抗原構造から標的血清型と近縁である可能性が考えられた。偽陽性を示した血清型の分離頻度は低いことなどから,本法は日常検査での使用に耐えうる十分な特異性を有していると考えられた。また,本法はST及びSC単相変異株の同定法として利用できる可能性が示唆された。

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F-24愛 玩 用 に 輸 入 さ れ た 小 型 哺 乳 類 か ら 分 離 さ れ たBartonella属菌の分類学的性状○藤長悠太、井上 快、壁谷英則、丸山総一(日本大 獣医公衆衛生)

【目的】我々は第147回本学会において、愛玩用に輸入された小型哺乳類の26%(142/546)がBartonella属菌を保菌しており、gltAおよびrpoB遺伝子領域における遺伝子系統解析の結果、分離株の61%(86/142)は既存種に近縁な4遺伝子系統、39%(56/142)は新種と思われる6遺伝子系統のBartonella属菌に分類されることを報告した。本研究では新種と思われる6系統の分離株ついて、形態的、細菌学的、分子生物学的な性状解析を行った。【材料と方法】6系統から2株づつ、計12株を選択し、透過型電子顕微鏡による形態、ならびに26項目の生化学的性状について検討した。さらに、ftsY遺伝子領域の塩基配列からG+C含量(mol%)の推定を行った。また、各分離株の16SrRNA、ftsZ、gltA、groEL、ribC、rpoB、16S-23SITS領域の塩基配列から、既存種との相同性を検討するとともに、7遺伝子領域を連結した塩基配列から系統樹を作成し、6系統の分離株の分類学的位置について検討した。【結果と考察】電子顕微鏡による解析では、全ての株は線毛を保有しており、野兎や野鼠を自然宿主とするB. alsaticaおよびB. tribocorumと類似した形態を示した。生化学的性状、推定G+C含量(36.2-38.9mol%)は、いずれも既存のBartonella属菌種のものと類似していた。gltA、rpoB領域における塩基配列の相同性は、検討した全ての株がBartonella属の菌種を分類する上での基準値である96.0%、95.4%以下であった。さらに、7遺伝子領域の連結配列から作成した系統樹でも、各分節が99-100%と高いブートストラップ値で支持された6つの系統に分岐し、既存種とは明確に異なる遺伝子系統を形成したことから、今回検討した6系統に属する株はいずれも新種のBartonella属菌であることが示唆された。

F-23Capnocytophaga canimorsus臨床分離株およびイヌ・ネコ口腔内分離株の性状○鈴木道雄、木村昌伸、今岡浩一、山田章雄(感染研 獣医科学部)

【目的】Capnocytophaga canimorsus感染症はイヌ・ネコ咬傷・掻傷感染症の1種であり、これまでに世界で約250例の報告がある。C. canimorsusはイヌ・ネコの口腔内常在菌であり、ヒトに感染しても発症は極めて稀であるが、発症した場合は急激に敗血症に至ることもあり、致死率は約30%とされる。国内でも死亡例を含む症例が報告されている。今回、患者由来の臨床分離株およびイヌ・ネコ口腔内分離株について、16SrRNA遺伝子の塩基配列および薬剤感受性を調べた。【方法】臨床分離株9株、イヌ・ネコ分離株11株の計20株を用いた。遺伝子解析には16SrRNA遺伝子のユニバーサルプライマーおよびC. canimorsus特異的プライマーを用いた。薬剤感受性試験は26種類の抗菌剤について、Disk法で行った。【結果】16SrRNA遺伝子配列は臨床分離株は全てATCC35979株と98%以上の相同性があったが、イヌ・ネコ分離株の中には95~97%の相同性の株もみられた。薬剤感受性は、βラクタム系、セフェム系およびテトラサイクリン系に対しては概ね感性であったが、アミドグリコシド系には耐性であった。一部の株はペニシリンGやクリンダマイシンなどに対して耐性を示した。【考察】イヌ・ネコ分離株と比較して、臨床分離株の遺伝的バリエーションが少ない事については、今後、ヒトへの病原性との関連を含めて、検討する必要があると考えられる。咬傷・掻傷感染症に用いる抗菌剤としてβラクタム系、テトラサイクリン系が一般的に推奨されている。今回調べた臨床分離株の中にはなかったが、イヌ・ネコ分離株の中にはβラクタマーゼ産生株もみられたため、オーグメンチン、メロペネムなどβラクタマーゼの影響を受けにくいものを選択するべきである。

F-22Puumalaウイルスを感染させたシリアンハムスター(Mesocricetus auratus)の感染動態の解析○真田崇弘1、苅和宏明1、谷川洋一1、Abu Daud Nur Hardy1、瀬戸隆弘1、永田典代2、吉松組子3、有川二郎3、好井健太朗1、高島郁夫1(1北大院 獣医・公衆衛生、2感染研 感染病理部、3北大院 医・病原微生物)【背景と目的】ハンタウイルスは人に感染すると腎症候性出血熱やハンタウイルス肺症候群といった重篤な疾患を引き起こす。一方、自然宿主である野生げっ歯類に感染しても症状を示すことはなく長期間に渡って持続的な感染が成立する。現在、自然宿主におけるハンタウイルスの持続感染を解析できるような実験動物系がないために、いまだ本ウイルスの持続感染を起こすメカニズムは解明されていない。そこで今回我々はハンタウイルスに属するPuumalaウイルス(PUUV)がシリアンハムスター体内で持続感染するかどうかについて検討した。【材料と方法】4週齢のシリアンハムスターにPUUVを3,300ffu、皮下接種し、実験感染させた。感染後3~70日に渡って血液と各種臓器を採材し、血清はELISAや中和試験による抗体の検出を行い、各種臓器はリアルタイムPCR法によるウイルス遺伝子量の定量と病理学的解析に用いた。【結果と考察】実験感染させたハムスターでは、ウイルス遺伝子が肺、腎臓、脾臓、心臓、肝臓および脳の各種臓器から検出され、感染後14日目がピークとなった。その後、IgMやIgG、中和抗体の誘導に伴い各種臓器でのウイルス遺伝子量は減少するものの感染後70日までウイルス遺伝子が検出された。また病理学的解析の結果、肺、腎臓、副腎および小脳においてウイルスの抗原が検出された。肺、副腎および小脳においてやや炎症反応がみられたもののその他臓器では炎症反応はみられず、また体重減少や臨床症状もみられなかった。以上のことから、PUUVを感染させたハムスターは自然宿主と同様に無症状かつ持続的に感染することが示された。PUUV感染ハムスターの系は、今後自然宿主での持続感染機構を解明するうえで有用なモデルになると考えられる。

F-21血清中に含まれるCampylobacter jejuniの自発凝集活性促進物質の検出○吉本有貴、山崎 渉、三澤尚明(宮崎大 農学部獣医学科獣医公衆衛生学教室)

【目的】主要な食中毒の原因菌であるCampylobacter jejuniによる下痢発症メカニズムは不明な点が多く残されているが、C. jejuniが持つ自発凝集(AAG)活性は、他の病原細菌と同様に、病原性に関わることが報告されている。本菌のAAG活性は鞭毛の発現と密接な関係を持ち、鞭毛欠損株ではリン酸緩衝液(PBS)中でAAGは観察されない。当研究室ではC. jejuni81-176の鞭毛欠損株を牛血清中に懸濁すると、AAG活性が回復することを発見した。そこで本研究では、C. jejuniが血清中の成分によって病原性に影響を与えるのかを調べると共に、血清中のどのような成分がAAGの回復に関わっているのかを探索した。【方法】ヒト由来C. jejuni81-176野生株と、そのflbA遺伝子をノックアウトした鞭毛欠損株を用い、INT-407細胞への付着能を比較した。さらに、牛血清中のどのような成分が鞭毛欠損株のAAG活性を回復させるかを調べるため、成牛血清の酵素処理、限外濾過、塩析等の処理を行い、鞭毛欠損株のAAG活性を比較した。【結果】細胞付着試験では、菌懸濁液に無血清培地と牛血清を用いて比較したところ、野生株、鞭毛欠損株共に牛血清の方が無血清培地よりも付着菌数が多かった。また血清中のAAG促進物質は硫酸アンモニウム濃度が50%以下で沈殿する分子量10万以上の画分に含まれるタンパク質であった。【考察】牛血清中に含まれるタンパク成分によりC. jejuni株のAAGが促進され、培養株化細胞への付着性も増加することが明らかとなり、病原性の発現には宿主側の因子も重要な要因であることが示唆された。

Page 8: F.公衆衛生学分科会tech.obihiro.ac.jp/~jsvs150/program/pdf/Syo_F.pdf体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から 640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチ

特別企画

A解 

B病 

C寄生虫

DB微生物(細菌)DI微生物(免疫)DV微生物(ウイルス)

E家 

F公衛生

G繁 

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J薬・毒

K実動医

F公衛生

F-28牛から分離された多剤耐性サルモネラ血清型StanleyとTypyimuriumの遺伝子解析○ 中 馬 猛 久1、Hesham Dahshan1、Francis Shahada1、森木 啓2、岡本嘉六1(1鹿児島大 獣医公衆衛生、2鹿児島県 中央家保)2005年 か ら2008年 に 鹿 児 島 県 の 牛 か ら 分 離 さ れ た 多 剤 耐 性Salmonella の調査を実施した。検出された多剤耐性Salmonellaの血清型はStanley、Typhimurium、および04:dであった。分離されたS.Stanleyは、アンピシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、スルファメトキサゾール、オキシテトラサイクリン、トリメトプリム、カナマイシンに耐性を示し、一般的なS.TyphimuriumDT104と共通した耐性パターンを示した。しかしながら、それらの耐性に関与する遺伝子として、blaTEM、catA、 aadA2、 tetA、 sul1、 dfrA12、aphA1遺伝子が検出され、S.TyphimuriumDT104とは異なる遺伝子パターンであった。シークエンス解析により、1.5kbのクラス1インテグロン遺伝子カセットとして、aadA2、 dfrA12 が検出された。プラスミド解析と接合実験により、この菌株が保有する約210kbのプラスミドは大腸菌に転移し、7剤すべてに対する耐性がそれらに相当する遺伝子とともに転移した。病原性遺伝子invA はTyphimurium、Stanley、O4:dのすべての株から検出された。しかし、S.Stanleyには、S.TyphimuriumDT104に特徴的な遺伝子群SGI1、病原性遺伝子spvC、pefA、rckは認められなかった。以上より、このS.Stanley株とS.TyphimuriumDT104とは薬剤耐性遺伝子と病原性遺伝子の特徴が異なることがわかった。また、S.Stanleyの多剤耐性はプラスミドを介し同時に他の腸内細菌との間を移動することが明らかになった。

F-27犬由来フルオロキノロン-セファロスポリン多剤耐性大腸菌の系統発生分類による解析○佐藤豊孝1、横田伸一2、大久保寅彦1、石原加奈子1、岡林環樹2、藤井暢弘2、田村 豊1(1酪農大 獣医・食品衛生、2札幌医科大学 医・微生物学講座)【目的】獣医療でのフルオロキノロン系抗菌薬(FQ)使用に伴うFQ耐性菌の出現が増加しFQ耐性大腸菌の多くはセファロスポリン系抗菌薬(CS)にも耐性を示すとの報告がある。今回、系統発生分類によるFQ及びCS耐性株の関連性について検討した。【材料と方法】動物病院に来院した犬の直腸スワブから分離した大腸菌を供試し、エンロフロキサシン(ERFX)及びセフポドキシム(CPDX)両剤耐性33株、ERFX耐性18株、CPDX耐性10株、感受性35株をmultiplex PCRにより系統A、B1、B2又はDに分類した。また同様に18の病原遺伝子の検索も行った。【結果及び考察】両剤耐性株(A,15.2%;B1,18.2%;B2,18.2%;D,48.6%)、ERFX耐 性 株(A,11.1%;B1,33.3%;B2,11.1%;D,44.4%)及 びCPDX耐 性 株(A,30%;B1,30%;B2,0%;D,40.0%)の主要な系統はDであったが、感受性株(A,11.4%;B1,31.4%;B2,40.%;D,17.1%)ではB2であった。系統B2は病原遺伝子数(平均8.8)が最も多かったが、耐性薬剤数(平均3.4)は最も少なかった。系統DはB2に次いで病原遺伝子数(平均5.4)が多く、最も多くの薬剤(平均7.4)に耐性を示した。系統Dが感染症の原因となった場合、抗菌薬治療を困難にする危険性が考えられた。また、両剤耐性株とERFX耐性株との系統発生分類の分布に類似性(r=0.80)が認められた。しかし、両剤耐性株とCPDX耐性株の間に明らかな相関は認められなかった。以上のことからFQ耐性株がCS耐性化しやすいことが考えられた。

F-26伴侶動物病院由来メチシリン耐性ブドウ球菌を用いた分子疫学マーカーの評価○ 齊 藤 恵 子1、 石 原 加 奈 子2、 上 野 弘 志1、 田 村  豊2、村松康和1(1酪農大 獣医・人獣共通感染症学、2酪農大 獣医・食品衛生学)【目的】近年、獣医療におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や メ チ シ リ ン 耐 性Staphylococcus pseudintermedius(MRSP)の報告が増加している。これらの感染源の特定のため、分子疫学解析は重要である。今回、伴侶動物病院由来MRSA及びMRSPの各種分子疫学マーカーの評価を行った。【材料・方法】獣医師及び犬等由来MRSA(SCCmecI型1株、II型18株、IV型5株)を用い、コアグラーゼ型別並びにspa遺伝子及びcoa遺伝子のPCR-RFLPを実施し、SCCmec型及びPFGE型と比較した。また、PCR-mappingに よ り 犬 等 由 来MRSP(SCCmecIII型)11株 のSCCmecの構造を解析した。【結果】MRSAは、spa-RFLP(5型)、coa-RFLP(4型)及びコアグラーゼ型(3型)の順に多く型別でき、これらの型はSCCmec型及びPFGE型と相関がみられた。しかし、SCCmecII型1株のspa-RFLP型はSCCmecIV型の4株と同じであった。MRSPの11株中10株は、Desclouxら(2008)が報告したSCCmecII-III型と推定され、残る1株はJ1、J2及びJ3領域の構造の違いからSCCmecII-III型のvariantと考えられた。【総括】PCR-RFLPやSCCmec型別はPFGEと比べ、短時間で結果が得られた。そのため、MRSAについては、spa-RFLP、coa-RFLP及びSCCmec型別を組み合わせることで、迅速に感染源や伝播経路の推定に基づく予防対策を講ずることが可能である。また、MRSPについては、PCR-mappingによりSCCmecII-III型のvariantの存在を明らかにした。これらの手法は、分子疫学解析に応用できるものと考えられた。

F-25わが国の鹿におけるBartonella 属菌の分布とそのベクターの検討○佐藤真伍1、壁谷英則1、山崎真梨1、武野侍那子1、鈴木和男2、相馬幸作3、増子孝義3、小林信一4、丸山総一1(1日本大 獣医公衆衛生、2ふるさと自然公園センター、3東京農業大学 生物産業・動物生産管理、4日本大 畜産経営)【目的】欧米の野生鹿は3種のBartonella菌を高率に保有しており、その伝播には外部寄生虫が関与していると考えられている。しかし、わが国の鹿におけるBartonella属菌の保有状況やそのベクターに関する報告はほとんどない。本研究では、わが国の鹿とその外部寄生虫におけるBartonella属菌の保有状況ならびにベクターについて検討した。【材料と方法】平成20年11月~ 平成22年3月の間に、北海道・奈良県・和歌山県で捕獲された野生鹿(エゾジカ19頭とホンシュウジカ18頭)、宮城県・愛知県の飼養鹿(ホンシュウジカ27頭)から血液を、奈良県の野生鹿からマダニ33匹とシラミバエ10匹を採取した。各試料からBartonella属菌を分離するとともに、分離株のgltA領域(312bp)の塩基配列から系統解析を行った。【結果と考察】野生鹿の59%(22/37)からBartonella属菌が分離されたが、飼養鹿からは分離されなかった。エゾジカとホンシュウジカの保菌率はそれぞれ42%(8/19)、78%(14/18)であった。シラミバエの90%(9/10)からBartonella属菌が分離されたのに対し、マダニでは3.0%(1/33)から分離されたのみであった。遺伝子系統解析の結果、分離株はB. capreoliと同一あるいは独立したクラスターを形成した。また、マダニ分離株の遺伝子型は寄生していた鹿の株と同一であったが、シラミバエ分離株では異なっていた。以上から、わが国の野生鹿は少なくとも2種のBartonella属菌を高率に保菌していることが初めて明らかとなった。野生鹿の外部寄生虫の寄生状況、分離株の系統解析の成績から鹿のBartonella属菌の水平伝播にはシラミバエが深く関与している可能性が示唆された。今後、鹿が保有するBartonella属菌の公衆衛生上の意義を検討する必要があると思われた。

Page 9: F.公衆衛生学分科会tech.obihiro.ac.jp/~jsvs150/program/pdf/Syo_F.pdf体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から 640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチ

F-32狂犬病ウイルスのインターフェロン抵抗性及び病原性におけるP蛋白質核外輸送シグナルの重要性○ 伊 藤 直 人1,2、 正 谷 達 謄2、 中 川 敬 介2、 山 岡 理 子2、杉山 誠1,2(1岐阜大 応用生物科学部・人獣共通感染症研究室、2岐阜大院連獣)【背景と目的】狂犬病ウイルス(RV)P蛋白質は、自然免疫を回避する機能を持つ。すなわち、インターフェロン(IFN)の作用を制御する重要な転写因子STAT1に結合し、その核内移行を阻害する。我々は、強毒の西ヶ原株とその継代株で弱毒のNi-CE株の間でP蛋白質の同機能を比較し、前者が後者よりも効率的にSTAT1の核内移行を阻害することを報告した(Itoet al.,J.Virol.,2010)。一方、西ヶ原株P蛋白質に存在する核外輸送シグナル(NES)は、Ni-CE株P蛋白質には存在しない。Ni-CE株P蛋白質にNESを導入したところ、そのSTAT1阻害能が復帰したことから、NES活性によりP蛋白質-STAT1複合体が細胞質に保持されることが示された。しかし、RVのIFN抵抗性及び病原性におけるNESの重要性は不明である。今回、NESを導入したNi-CE変異株、Ni-CE(NES+)株を作出し、そのIFN抵抗性及び病原性をNi-CE株と比較した。【材料と方法】遺伝子操作系によりNi-CE(NES+)株を作出した。ヒト神経系SK-N-SH細胞に各株を接種し(moi=0.01)、IFN-α(500U/ml)の存在下で3日間培養した。その培養上清中の感染価を比較し、各株のIFN抵抗性の違いを検討した。また、ddYマウス(雌・4週齢)に106FFUのウイルスを脳内接種することにより、各株の病原性を比較した。【結果と考察】IFN-α存在下のNi-CE株の感染価が1.3x103FFU/mlであったのに対し、Ni-CE(NES+)株は2.7x105FFU/mlと高かった。また、Ni-CE株の感染が全てのマウスに対して非致死的であったのに対し、Ni-CE(NES+)株は40%のマウスに致死的感染をもたらした。以上より、P蛋白質上のNESは、RVのIFN抵抗性及び病原性に重要な役割を担うことが明らかになった。共同研究者:G.W.Moseley博士(豪・Monash大学)

F-31狂犬病ウイルスN蛋白質がマウス脳内におけるインターフェロン応答及びウイルス感染動態に及ぼす影響○ 正 谷 達 謄1、 伊 藤 直 人1,2、 中 川 敬 介1、 山 岡 理 子1、杉山 誠1,2(1岐阜大院連獣、2岐阜大 応用生物科学部 人獣共通感染症学研究室)【背景及び目的】強毒の狂犬病ウイルス西ケ原(Ni)株と弱毒のNi-CE株の病原性の違いには、ウイルスN蛋白質をコードするN遺伝子が関与している。また、Ni株N遺伝子をNi-CE株のゲノムに持つ強毒のキメラウイルスCE(NiN)株は、Ni-CE株に比べI型インターフェロン(IFN)産生を抑制する(Masatanietal., J.Virol.,2010)。しかし、脳におけるIFN応答及びウイルス感染動態にN蛋白質がどのような影響を及ぼすかは不明のままである。そこで本研究では、Ni株N蛋白質が関与する病原性発現機構の解明を目的とし、Ni-CE株及びCE(NiN)株感染マウスの脳におけるIFN応答及びウイルス感染動態を比較した。【材料及び方法】Ni-CE株及びCE(NiN)株をそれぞれddYマウス(6週齢・雌)に脳内接種し(104FFU)、経日的に脳を摘出し組織標本を作製した。IFN応答の指標となるリン酸化STAT1を蛍光免疫染色により検出した。また、抗N蛋白質単クローン抗体を用いて免疫染色を行い、感染細胞の分布を比較した。【結果及び考察】Ni-CE株感染5日目のマウスの海馬において、CE(NiN)株感染マウスよりも強いリン酸化STAT1のシグナルが認められたことから、CE(NiN)株感染マウスの脳ではIFN応答が抑制されていることが示された。一方、Ni-CE株感染マウスにおけるウイルス抗原の分布が海馬に限局していたのに対し、CE(NiN)株の抗原は海馬、視床及び大脳皮質に広く分布していた。以上の結果より、脳におけるウイルス感染の拡大にNi株N蛋白質によるIFN応答抑制が関与している可能性が示された。

F-30狂犬病ウイルスNi-CE株の弱毒性状に関連するウイルス遺伝子の同定○山岡理子1、清水健太1、正谷達謄1、中川敬介1、伊藤直人1,2、杉山 誠1,2(1岐阜大院連獣 応用生物科学部 人獣共通感染症学研究室、2岐阜大 応用生物科学部 人獣共通感染症学研究室)【背景と目的】狂犬病ウイルスNi-CE株の感染が成熟マウスに非致死的であるのに対し、その親株の西ヶ原株は成熟マウスに致死的な感染を引き起こす。これまで我々は、Ni-CE株のゲノムに西ヶ原株由来のN、P及びM遺伝子を単独で導入したキメラウイルスが成熟マウスに致死的な感染を引き起こすことを示し、西ヶ原株とNi-CE株の病原性の違いにこれらのウイルス遺伝子が関連することを報告した(Shimizuetal.,VirusRes.,2007)。一方、Ni-CE株由来のN、P及びM遺伝子を導入することにより、西ヶ原株の病原性がどのように変化するかについては不明のままである。そこで今回、西ヶ原株のゲノムにNi-CE株由来のN、P及びM遺伝子を同時に導入したキメラウイルスNi(CENPM)株を作出し、その病原性を西ヶ原株と比較した。【材料と方法】遺伝子操作により、Ni(CENPM)株を作出した。マウス神経系NA細胞を用いて、本株の増殖性を検討した。また、ddYマウス(雌・6週齢)にNi(CENPM)株及び西ヶ原株を脳内接種し(103FFU)、その症状の推移を14日間観察した。【結果と考察】Ni(CENPM)株はNA細胞において西ヶ原株と同等の増殖性を示し、また西ヶ原株と同様に成熟マウスに致死的な感染を引き起こした。一方で、Ni(CENPM)株感染マウスの全個体が死亡するのには14日を要したのに対し、西ヶ原株感染マウスは接種後6日目までに全て死亡した。両株感染マウスの症状の進行に差が認められたことにより、Ni-CE株由来のN、P及びM遺伝子の導入の結果、西ヶ原株の病原性が減弱することが示された。また、Ni(CENPM)株の感染が致死的であったことから、Ni-CE株の弱毒性状には他のウイルス遺伝子(GあるいはL遺伝子、または両者)も関連することが明らかとなった。

F-29犬および人由来セファロスポリン耐性大腸菌における耐性因子の比較○大久保寅彦1、佐藤豊孝1、石原加奈子1、石井良和2、田村 豊1(1酪農大 獣医食品衛生学、2東邦大学 医学部微生物・感染症学講座)【目的】基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)やAmpC型βラクタマーゼの産生能の獲得による第3世代セファロスポリン耐性菌の出現が獣医療および人医療現場より報告されている。本研究では犬及び人から分離されたセフポドキシム(CPDX)耐性大腸菌について、耐性化機構の異同を明らかにするため耐性因子の比較を行った。【方法】CPDX4μg/ml存在下で発育を認める大腸菌として犬由来株28株及び人由来株42株の計70株を供試し、セファゾリン(CEZ)、CPDX、セフタジジム(CAZ)、セフェピム(CFPM)に対するMIC値を寒天平板希釈法で測定した。またPCR法によりβラクタマーゼ遺伝子を検索して、blaCTX-MおよびblaAmpCについては塩基配列解析によりバリアントを特定するとともに上流に挿入配列が存在するかを別途PCRにて確認した。さらにampCPromoterRegionの塩基配列解析により染色体性のAmpC過剰産生の有無を確認した【結果】分離株はCEZ及びCPDXに耐性を示したがCFPMに対しては感受性であった。耐性遺伝子としてblaCTX-

M-9groupを保有するものが犬由来株で4株、人由来株で30株存在し、blaCTX-M-2groupを保有するものが人由来株で6株存在した。blaCMY-2

の保有は犬由来株で14株、人由来株で1株確認された。検出されたβラクタマーゼ遺伝子の上流にはいずれもISEcp1が存在した。AmpC過剰産生が疑われる株は犬由来株でのみ確認された。【考察】セファロスポリン耐性に関与する遺伝子の保有状況は、犬由来株ではblaCMY-2が多いのに対し人由来株ではblaCTX-Mが多い傾向が認められた。また染色体性AmpC過剰産生株は犬からのみ見つかった。以上の結果から、犬または人由来セファロスポリン耐性大腸菌の間には耐性因子保有率の頻度に差があると考えられる。

Page 10: F.公衆衛生学分科会tech.obihiro.ac.jp/~jsvs150/program/pdf/Syo_F.pdf体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から 640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチ

特別企画

A解 

B病 

C寄生虫

DB微生物(細菌)DI微生物(免疫)DV微生物(ウイルス)

E家 

F公衛生

G繁 

HL臨床(産業動物)HS臨床(小動物)I生理・化

J薬・毒

K実動医

F公衛生

F-36佐賀県のアライグマにおけるアナプラズマ科病原体DNAの検出○兼田稔也、馬場健司、西村 仁、佐藤 宏(山口大 農・獣医寄生虫病学)

【背景】外来動物であるアライグマは、国内における分布域を拡大し続けている。その生息域は人や飼育動物の生活圏と重なる部分があり、アライグマが各種感染症の媒介動物となることが危惧されている。今回、アライグマが保有する病原体の一つとして報告が少ないアナプラズマ科病原体に注目し、佐賀県で捕獲されたアライグマを対象として、アナプラズマ科病原体DNAの検出を行った。【材料と方法】2009年8月から2010年2月までに佐賀県全域で捕獲されたアライグマ50検体を対象とした。脾臓からDNAを抽出後、スクリーニングとしてアナプラズマ科病原体の16SrRNA遺伝子を標的としたpolymerasechainreaction(PCR)を行った。また、Anaplasma bovis (A.bovis)16SrRNA遺伝子特異的プライマーを用いてPCRを行い、ダイレクトシークエンス法により陽性検体の塩基配列を解析した。【結果と考察】スクリーニングPCRでは、50検体中20検体(40%)が陽性を示した。陽性検体からランダムに抽出した8検体の塩基配列を解析した結果、いずれも遺伝子バンクに登録されている北海道のアライグマで検出されたA.bovis16SrRNA遺伝子と100%の同一性を示した。次にA.bovis特異的プライマーを用いてPCRを行ったところ、50検体中17検体(34%)が陽性を示した。また、これらの陽性検体の塩基配列を解析した結果、いずれもA.bovis16SrRNA遺伝子と一致した。以上の結果より、佐賀県内のアライグマにはA.bovisが高率に感染しており、アライグマが好適なreservoirとなっていることが示唆された。

F-35狂犬病ウイルス(CVS-11)の末梢感染により麻痺症状を示したC57BL/6Jマウスの中枢神経組織における宿主遺伝子のマイクロアレイ解析○杉浦尚子1、宇田晶彦2、小嶋大亮3、野口 章2、奥谷晶子2、加来義浩2、朴 天鎬3、山田章雄1,2、井上 智1,2(1岐阜大院連獣 連合獣医学研究科、2感染研 獣医科学部、3北里大 獣医畜産学研究科)【目的】我々は、狂犬病ウイルス(固定毒(CVS-11株))を末梢感染させて四肢の麻痺が見られるマウスの病理発生を組織学的・免疫学的に解析してきた。本研究では、麻痺症状を示したマウスの脳と脊髄における発症病理と宿主応答を明らかにするために宿主遺伝子の網羅的な機能分類および相互作用解析をマイクロアレイで行った。【方法】C57BL/6Jマウスの左腓腹筋肉内に107 focus-formingunitsのCVS-11株を100μl筋肉内接種し、7日後に脳と脊髄を採材して、ウイルス抗原の分布を免疫組織化学で確認した。ウイルス感染マウスの神経組織における遺伝子発現の変動をマイクロアレイで調べた。変動した遺伝子の機能と相互作用はIngenuityPathwayAnalysis (IPA)で解析した。【結果と考察】CVS-11株接種7日後の全てのマウスが麻痺症状を示し、脳と脊髄にウイルス抗原、免疫細胞の浸潤像が見られた。マイクロアレイによる遺伝子の機能分類で、免疫反応、細胞浸潤、細胞死に関わる遺伝子の発現が有意に上昇していた。特に、インターフェロン、ケモカイン、JAK/STAT系の遺伝子発現が感染後の脳と脊髄で上昇しており、遺伝子の相互作用を解析した結果、インターフェロン応答に関与する遺伝子群に含まれる既知のIRF1、OAS1、Mx1の他に、IFITM1、IRF9、IFI35、IFIT1、IFIT3、PSMB8等の発現上昇が明らかになった。これら応答遺伝子群の発現上昇は組織の炎症反応に関与していると考えられており、固定毒(CVS-11株)で見られる特徴的な神経組織の強い炎症反応や免疫応答との関連性が示唆された。

F-34複数の機構により弱毒化された狂犬病ウイルスの弱毒性状の安定性○ 中 川 敬 介1、 伊 藤 直 人1,2、 正 谷 達 謄1、 山 岡 理 子1、杉山 誠1,2(1岐阜大院連獣、2岐阜大 応用生物科学部 人獣共通感染症学研究室)【背景と目的】狂犬病ウイルスのG蛋白質333位アミノ酸(G333)は主要な病原性決定基として知られている。一方、弱毒の固定毒であるNi-CE株の弱毒化機構には他の遺伝子領域が関連しており、そのG333は 強 毒 型 のArgの ま ま で あ る(Shimizuetal.,VirusRes.,2007)。以前、我々はG333に弱毒型アミノ酸のGluを保有するNi-CE変異株(Ni-CE333Glu株)がNi-CE株と同等の免疫原性を有し、さらにNi-CE株よりも弱毒化されていることを報告した(第146回本学会)。複数の機構により弱毒化されたNi-CE333Glu株は、安定した弱毒性状を持つことが期待されるものの、その安定性については検証していない。これまで、狂犬病ウイルスの弱毒性状の安定性を評価する方法として、乳のみマウス脳継代後の病原性の変化を検証する方法が知られている。そこで今回、本法を用いて、Ni-CE333Glu株の弱毒性状の安定性を調べた。【材料と方法】2日齢ddYマウスに、Ni-CE333Glu株を脳内接種することにより3継代した。この脳内接種継代法により強毒化することが知られているHEP株を陽性対照として用いた。得られた脳継代株(105FFU)を6週齢ddYマウスに脳内接種することにより、病原性を評価した。また、脳継代株の病原性に関与するアミノ酸の変化をダイレクト・シークエンス法により調べた。【結果と考察】乳のみマウス脳継代により陽性対照のHEP株が強毒化したのに対し、Ni-CE333Glu脳継代株は親株と同様に弱毒であった。この脳継代の結果、HEP株のG333が弱毒型のGlnから強毒型のArgに変異していた。一方、Ni-CE333Glu株は脳継代後もG333にGluを保持しており、他の病原性関連アミノ酸も変異していなかった。以上より、Ni-CE333Glu株が安定した弱毒性状を持つことが明らかとなった。

F-33狂犬病ウイルスの末梢感染性に関連する遺伝子の解析○上利尚大1、伊藤直人1,2、正谷達謄2、中川敬介2、山岡理子2、杉山 誠1,2(1岐阜大 応用生物科学部・人獣共通感染症学研究室、2岐阜大院連獣)

【背景と目的】狂犬病ウイルス固定毒の西ヶ原株は、筋肉内接種により成熟マウスに神経症状を伴った致死的感染を引き起こす。一方、本株の鶏胚線維芽細胞馴化株であるNi-CE株を筋肉内接種した場合、感染マウスに症状は全く認められない。このように、両株の末梢感染性には顕著な違いが認められるものの、この相違に関連するウイルス遺伝子は不明のままである。そこで今回、Ni-CE株のゲノムに西ヶ原株のN、P、M、GあるいはL遺伝子を単独で導入した5種類のキメラウイルス[それぞれCE(NiN)株、CE(NiP)株、CE(NiM)株、CE(NiG)株及びCE(NiL)株]を用いて、西ヶ原株及びNi-CE株の末梢感染性の違いに関連する遺伝子の解析を試みた。【材料と方法】106FFUの西ヶ原株、Ni-CE株及び各種キメラウイルスを1群5匹のddYマウス(4週齢・雌)の大腿筋に接種した。その後、各ウイルス感染マウスの症状と生存数の推移を14日間観察した。【結果と考察】西ヶ原株感染マウスは、接種後7日以内にすべて神経症状を示し死亡した。これに対し、Ni-CE株、CE(NiM)株、CE(NiG)株及びCE(NiL)株感染マウスはすべて生存し、症状を全く示さなかった。一方、CE(NiP)株及びCE(NiN)株感染マウスでは、それぞれ5匹中4匹および1匹が発症し死亡した。したがって、西ヶ原株とNi-CE株の末梢感染性の違いには複数の遺伝子が関連しており、その中でもP及びN遺伝子が重要であることが示唆された。最近、我々は、西ヶ原株がNi-CE株より効率的にインターフェロンの作用及び産生を阻害していることを示し、それぞれにP及びN蛋白質が関与することを報告している。このことから、狂犬病ウイルスの末梢感染性に自然免疫回避が関与している可能性が考えられた。

Page 11: F.公衆衛生学分科会tech.obihiro.ac.jp/~jsvs150/program/pdf/Syo_F.pdf体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から 640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチ

F-40メーリングリストを用いた地方病型牛白血病(EBL)に関する参加型疫学調査○門平睦代(帯畜大 畜産学部)

【目的】全国畜産支援研究会(通称:農場どないすんねん研究会)が2009年7月に大阪にて開催した、参加型疫学とコミュニケーションに関するワークショップの中で、地方病型牛白血病(EBL)を題材とした演習を行った。参加者らは公衆学的意義があると判断し、参加型手法を用いてEBLの現状把握と今後の対策を導き出すために調査を継続した。【方法】同年9月にメーリングリスト(EBL-ML)を立ち上げた。参加者は、家畜生産者3名、地方公務員15名、大学職員3名、国内および国際研究員5名、開業獣医師7名、農業共済等組合獣医師6名、出版社1名、人間関係研究員1名である。また、グループ掲示板に参考文献や作成資料等をアップロードし、閲覧出来る機能も追加した。数か月間ブレインストーミングを続け、KJ法を用いてカテゴリー分けした。【結果】現状の把握では、1)牛白血病ウイルス(BLV)感染率と経済的損失を量的に把握するためのコントロール方法の比較研究の欠落、2)淘汰を奨励する補償金問題も含めた牛白血病の清浄化対策に関する明確なガイドラインなし、3)行政と個人の生産者の責任区分の不明確さ、4)酪農家がEBL清浄化対策を始める動機は経済的損失;今後の対策としては、1)全国疫学調査の際には、リスク因子分析だけではなく、単位面積当たりの吸血昆虫数などリスク因子の多い地域の視覚化(リスクマッピング)など、リスクベース研究の実施、2)生産者が主役というアプローチによる対策の検証・再構築、3)出生後早期のBLV検査の実施、4)繁殖障害の際の陽性牛の優先的な淘汰などがあげられた。【総括】生産者の努力だけでは本病のコントロールは難しいので、現場獣医療サービスへの期待は高い。

F-39ウガンダ国首都カンパラの都市部における、非正規流通牛乳の摂取によるヒトブルセラ病感染リスク評価およびリスク低減シミュレーション○ 蒔 田 浩 平1,2、Eric Fevre2,3、Charles Waiswa4、Mark Eisler3、Susan Welburn3(1酪 農 大 衛 生 環 境 教 育群、2International Livestock Research Institute (ILRI), Kenya、3University of Edinburgh, UK, Centre for Infectious Diseases、4Makerere University, Uganda, Faculty of Veterinary Medicine)【目的】ウガンダ国首都カンパラでは、近年ヒトのブルセラ病が多発している。本研究では、本病の最良な対策を検討するため、酪農場と牛乳販売者への二つの調査と病院の医療記録調査をもとに推計学的リスク評価を行った。【方法】酪農場調査では、層化無作為抽出した56地方会議(最小行政単位)177農場において、酪農に関する情報を収集するとともに牛425頭から血清を採取し、CELISA法でブルセラ検査を行った。牛乳販売者調査では、都市部の24地方会議で74の牛乳店と5人の牛乳露天商に質問し、非正規流通経路を把握した。これら販売者と、遡り追跡した牛乳卸売業者および自転車で販売する業者の135人に質問し、117件で牛乳を採取、直接ELISA法でブルセラ検査を実施した。医療記録調査では、ムラゴ国立病院の検査記録からブルセラ病患者数を得た。それら3つの調査から得られたデータを用いてリスクモデルを作出した。このモデルをもとに考案した8つの疾病対策についてリスク低減をシミュレーションし、対策によってもたらされる負の効果と実行可能性を質的に評価し、比較した。【結果】都市部のカンパラで非正規流通されている牛乳は、購入時に12.7%(90%CI7.0-19.0)がBrucellaに感染しており、年間発生率は1万人当たり5.3人(90%CI3.9-6.7)であった。最良の対策は、ウガンダ最大の酪農地帯ムバララもしくはカンパラの都市周辺部に牛乳煮沸工場を建設し、流通業者にこの工場への牛乳販売を義務化することで、これら対策の90%成功によりリスクはそれぞれ47.4%(90%CI21.6-70.1)または82.0%(90%CI71.0-89.0)削減される。

F-38ドブネズミ由来の皮膚糸状菌症原因菌Arthroderma vanbreuseghemiiの遺伝子型○佐野文子1、春成常仁2、谷川 力2、村田倫子3、高橋容子1、村上 賢3、猪股智夫4(1千葉大 真菌センター、2イカリ消毒株式会社  技術研究所、3麻布大 分子生物、4麻布大 実験動物)Arthroderma vanbreuseghemiiはヒト-ヒト感染だけでなく,ヒトと動物の間で接触により感染する人獣共通皮膚菌糸状症原因菌の1種である.本菌種による感染はわが国でも愛玩動物および実験動物用げっ歯類との接触による感染事例が報告されている.また,海外ではネズミを捕る習性のあるネコで本菌種の感染率が高いことから,ネズミが感染に関与していることが示唆されている.【目的】A. vanbreuseghemiiの感染経路にげっ歯類が関与していることを検証するために千葉県,東京都、神奈川県,北海道などで捕獲されたドブネズミ(48頭),クマネズミ(17頭),計65頭について調べた.【方法】エーテル吸入麻酔下で被毛・落屑を歯ブラシで採集し,アクチジオンと抗生物質を添加したポテト・デキストロース寒天平板培地にて35℃,14日間培養した.生育してきた白色集落の形態,ribosomalRNA 遺伝子のinternal transcribedspacer (ITS)1-5.8S-ITS2領域の配列により同定し,遺伝子型による分子疫学的解析をおこなった.【結果】千葉県で3頭,神奈川県で1頭のドブネズミより本菌種が分離され(6.3%),ITS領域の配列は既知のヒト症例由来株と同一であった.【考察】世界的にはこの遺伝子型は足白癬,体部白癬などのヒト症例由来株が多く,ドブネズミおよびネコ由来株は記録されていない.今回の結果から,ヒトでの本菌種感染経路にドブネズミの関与が示唆された.しかし,動物との関連が示唆されたヒト症例,ヒトとネコの集団感染例,げっ歯類由来株などで他の遺伝子型が確認されている.今回の分離株の遺伝子型からドブネズミ→ネコ→ヒトの感染経路は証明できなかった.

F-37千葉県で飼育されているシャモ(軍鶏)から分離されたMicrosporum gallinae○村田倫子1、佐野文子2、猪股智夫3、村上 賢1(1麻布大 分子生物、2千葉大 真菌センター、3麻布大 実験動物)

【目的】Microsporum gallinaeはニワトリ類の皮膚糸状菌症の原因菌として知られ、インド、イラン、パキスタン、ナイジェリア、アメリカ、ロシア、オーストラリア、ブラジルなどの比較的温暖な地域に分布する。我が国でも2008年に沖縄県でシャモ愛好家に体部白癬例が確認された。しかし、患者飼育シャモを含む沖縄県内の家禽類からは本菌種は分離されなかった。一方、シャモは闘鶏のため全国的な移動をするので、遠隔地への拡散が予想された。そこで闘鶏が現在も継承されている千葉県での調査を試みた。【方法】シャモ愛好家保有および飼育施設のニワトリ類53羽(シャモ:雌2羽;雄18羽,ニワトリ:雌8羽;雄25羽)の肉冠に透明粘着テープを貼りつけ、表皮角質を採集し、シクロへキシミドとクロラムフェニコールを添加したポテトデキストロース寒天平板培にて35℃で28日間培養し、白色集落を釣菌し、形態とrRNAITS領域の配列で分離菌を同定した。【結果】10ヶ月齢の雄シャモ1頭の肉冠よりMicrosporum gallinaeが1株分離された。菌陽性個体は特記すべき症状はなかった。なお、この株の遺伝子型は沖縄県の症例由来株とは異なる遺伝子型であった。【総括】千葉県で本菌種が分離されたことから、闘鶏による全国的拡散が示唆された。歴史的にシャモは江戸時代にタイから我が国に入ったといわれている。本菌種感染のシャモでの症状は軽症が多いことから、本菌種も同時に入ったがその存在に気づかず、今日に至った可能性もある。現在、近隣地域の調査を進めている。

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特別企画

A解 

B病 

C寄生虫

DB微生物(細菌)DI微生物(免疫)DV微生物(ウイルス)

E家 

F公衛生

G繁 

HL臨床(産業動物)HS臨床(小動物)I生理・化

J薬・毒

K実動医

F公衛生

F-44哺乳類宿主におけるブドウ球菌の進化生態学的研究○佐々木崇1、椿下早絵1、柿澤恵子2、吉羽宣明3、深田恒夫4、伊藤豊志雄5、井上貴史5、江袋 進5、佐藤 梓6、池辺祐介6、平松啓一1(1順天堂大学 医・感染制御科学、2K. Exotic Care、3埼玉県農林総合研究センター 畜産研究所・酪農・肉牛担当、4岐阜大院連獣、5実験動物中央研究所、6秋吉台自然動物公園 動物部)【背景・目的】ブドウ球菌(Staphylococcus)属は、哺乳類、鳥類、爬虫類の皮膚や鼻腔内常在菌であり、45菌種の記載がある。一部の菌種では宿主特異性が知られるが、多くの菌種は生態学的知見に乏しい。本研究では、哺乳類のブドウ球菌生態調査を行い、宿主動物とブドウ球菌属の系統進化の関連を考察した。【材料と方法】哺乳類53種、1006個体の、皮膚・鼻腔検体よりブドウ球菌を分離した。菌種同定はhsp60遺伝子の塩基配列で行った。【結果】S. delphiniグループ(S. delphini,S. pseudintermedius,S. intermedius,S. schleiferi,S. felis,S. lutrae,S. chromogenes,S. hyicus)の菌種は、コウモリ分岐後のローラシア獣類のみから分離 さ れ、S. pseudintermedius,S. schleiferi,S. felisは 食 肉 目、S. chromogenes,S. hyicusは鯨偶蹄目にそれぞれ特異的であった。霊長類では、原猿類分岐後の真猿類においてS. aureusグループ(S. aureus,S. simiae,S. warneri,S. pasteuri,S. epidermidis,S. capitis, S. caprae,S. haemolyticus,S. hominis,S. lugdunensis)の菌種が高率に分離された。【考察】S. delphiniグループはローラシア獣類とともに共種分化してきたことが示唆された。また、S. aureusグループの菌種は、真猿類の種に強い特異性があることが示唆された。

F-43ペット喪失直後の飼主における精神的健康度と属性の関連○木村祐哉(北大院 医・医療システム)

【目的】ペットの喪失は人々に深い悲しみをもたらすが、こうした死別反応がどのような要因の影響下にあるのかは十分に検討されていない。本研究では、死別反応に影響を及ぼす要因を探るため、客観的評価が可能な心理尺度を用いた調査を行った。【方法】北海道、東京、愛知、岐阜で公営あるいは民営のペット火葬施設に協力を仰ぎ、火葬の依頼に訪れた飼主それぞれ100名に自記式調査用紙を配布した。調査用紙には、対象者の属性や死別状況に関する設問とともに、アウトカムとして精神健康調査票28項目版(GHQ28)を採用した。回答は2週間以内に返送するように求めた。回答時点で死後21日以内のものを対象とし、該当者のGHQ28が6点以上の場合にハイリスクと判定した。次にLikert法によってGHQ28の全項目および下位尺度を再集計し、有意水準5%として、各種要因との関連性を統計学的に検討した。なお、本研究は倫理委員会の承認の元で行われ、調査対象者への配慮から、調査用紙にはペットロス・ホットラインの紹介と調査協力撤回届を同封した。【結果】回答の得られた94/400名(23.5%)のうち、54/94名(95%信頼区間46.8-67.6%)がハイリスクだった。尺度得点は飼主が女性、室内飼育の場合に高値を示し、飼主の年齢、動物の年齢、SRRSと負の相関を示した。また、公営あるいは民営で違いは認められず、東京では他の地域より高かった。【考察】半数の飼主がハイリスクとなったが、喪失直後にみられる症状の多くは正常な死別反応の範疇であると考えられ、必ずしも専門的介入を要するとは限らない。介入の必要性については、今後の研究で経時的変化を踏まえて検討する必要がある。

F-42尿中酸化ストレスマーカーを指標としたイヌの健康評価法の検討○水野謙太朗1、稲葉洋平3、内山茂久3、欅田尚樹3、後藤純雄2、高木敬彦1(1麻布大 獣医学部、2麻布大 生命・環境科学部、3国立保健医療科学院 生活環境部)【目的】近年、伴侶動物と寝食を共にする飼育家庭が増えており、それ故伴侶動物の疾患に対する飼い主の関心は高まりつつある。しかしながら動物では疾患発見の遅れがヒトよりも多く起こりやすいことから、動物病院でのより高度な獣医療が求められている。この問題の1解決策として前疾患状態の検出方法の開発が必要と考えている。ヒト尿中に排出されるDNA損傷型酸化ストレスマーカーの8-hydroxy-2’-deoxyguanosine(8-OHdG)は、喫煙や疾患で有意に増加することから、その尿中濃度はヒトの健康指標の1つとして有用であると報告されている。そこで尿中8-OHdGを健康指標として伴侶動物の健康評価を検討することとした。本研究ではイヌ尿中8-OHdG/Creatinine値と個体情報・生活情報との関連性についての疫学調査を行った。【方法】一般家庭の健康なイヌ197頭の朝方の尿採取と、イヌの個体情報・生活情報(運動・食餌・受動喫煙)に関するアンケートを実施した。尿検体は固相抽出後、高速液体クロマトグラフィ-電気化学検出器に供し8-OHdGを測定した。なお尿中Creatinine測定にはJaffé法を用いた。【結果および考察】集めた検体は雄89頭(去勢済34頭)、雌108頭(避妊済44頭)であった。体重は平均15.1kg(中央値11.0kg)、月齢は平均64.5ヶ月(中央値55.0ヶ月)であった。現在93頭分の測定が終了し、8-OHdG/Creatinine平均値が6.2ng/mg、最大が32.1ng/mg、最小が0.46ng/mgである。今後、全ての測定を完了させ、生活情報との関連性にも着目しつつ考察していく。

F-41BSE感受性に関わる東南アジアのウシプリオン遺伝子多型○内田玲麻1、Agus Heriyanto2、Chalermchaikit Thongchai3、Tran Thi Hanh4、堀内基広5、石原加奈子6、田村 豊6(1酪農大 獣医・人獣共通感染症学、2National Veterinary Drug Assay Laboratory・Indonesia、3Chulalongkorn Univ., Faculty of Veterinary Science、4National Institute of Veterinary Research, Veterinary Hygiene Department、5北大院 プリオン病学講座、6酪農大 獣医・食品衛生学)【目的】牛海綿状脳症(BSE)は、伝達性神経変性性疾患であるプリオン病の一種である。ウシではその感受性因子として、プリオン遺伝子のpromoter領域およびintron1領域の挿入/欠損による多型が報告されている。2008年の報告で、ベトナム在来牛群は独特のプリオン遺伝子多型頻度をもつことが示されたことから、東南アジアには特有のプリオン遺伝子多型頻度を示す在来牛群が存在することが推察された。そこで本研究では、東南アジア在来牛群のプリオン遺伝子多型について調査した。【方法】タイ、ベトナムおよびインドネシアの在来牛群を対象にPCR法により、promoter領域およびintron1領域における挿入/欠損の有無、また蛋白翻訳領域中のoctarepeat回数を調べた。さらに独特の遺伝的背景を持つバリ牛について、蛋白翻訳領域における一塩基多型を検索した。【結果】Promoter領域ではインドネシアおよびタイにおいて、またintron1領域では3カ国全ての在来牛群において、感受性とされる欠損型の出現頻度が低かった。インドネシアのバリ牛、南カリマンタン州の在来牛ではOctarepeat5回の個体が有意に多かった。バリ牛の蛋白翻訳領域シークエンスの結果、バンテン(Bos javanicus)でのみ報告されている一塩基置換および新規の一塩基置換を確認した。【考察】調査した在来牛群で認められたプリオン遺伝子多型の出現傾向は、元来東南アジアに生息する牛群系統の遺伝子性状に由来するものと考えられた。今回見つかった一塩基多型はB.javanicusで報告されており、バリ牛がこれを祖先とする報告に一致した。東南アジアの在来牛においてBSE感受性遺伝子の出現頻度が低かったことは注目され、今後ウシプリオン遺伝子データベースの構築に寄与すると考えられる。

Page 13: F.公衆衛生学分科会tech.obihiro.ac.jp/~jsvs150/program/pdf/Syo_F.pdf体はシークエンス解析を行った。【結果と考察】IFAでは40倍から 640倍以上の抗体価がみられたが、末梢血PCRは全て陰性を示した。イノシシからはタカサゴキララマダニ、キチマダニ、タカサゴチ

F-48小笠原諸島父島の外来種グリーンアノールから分離されたサルモネラの血清型およびPFGE解析○炭山大輔1、林田生野1、後藤和郎2、滝口正明3、高藤裕二3、泉谷秀昌4、貫名正文5、村田浩一1(1日本大 生物資源科学部、2株)緑生研  調査部、3財)自然環境研究センター、4感染研 細菌第1部、5神戸市環保研 微生物部)【背景と目的】これまで我々は、小笠原諸島父島の外来種であるグリーンアノール(Anolis carolinensis)からSalmonellaspp.を分離し、ノヤギ(Capra hircus)の同菌保有状況や薬剤耐性と併せて報告してきた(第147回日本獣医学会学術集会、第15回日本野生動物医学会大会)。今回は、更に検体数を増やして実施した血清型別、薬剤感受性試験およびPFGE解析の結果を報告する。【材料と方法】2007年10月、2008年6月および2009年7月に、小笠原諸島父島各所で採取したグリーンアノールのクロアカスワブ141検体、冷凍保存死体の腸内容18検体、ノヤギの糞便20検体および公衆トイレの拭き取り試料38検体を培養に供した。また、分離菌株の薬剤感受性試験(抗生・抗菌剤12種類)、血清型別、PFGE法による系統解析を行った。【結果と考察】グリーンアノールの35.8%、ノヤギ糞便の12.5%、公衆トイレ試料の2.6%からSalmonellaspp.が分離された。調査年次間に分離率の差を認めなかった。血清型別は、S.Oranienburg が50株、S.Adelaideが2株、S.Weltevredenが1株であり、アンピシリン耐性が3株、オキシテトラサイクリン耐性が23株確認された。島内における耐性株の局在は認められなかった。S.OranienburgのPFGE解析では3系統の存在が確認されたが、3系統すべてが検出されたのは港周辺のみであった。グリーンアノールとノヤギおよびグリーンアノールと公衆トイレからの分離株は、それぞれ同系統に属しており、島内において本菌が各種生物間で伝播している可能性が示唆された。本研究は、日本大学学術研究助成、文部科学省ハイテク・リサーチ・センター整備事業および学術フロンティア推進事業の助成を得て行われた。

F-47鶏と体のカンピロバクター制御技術の開発○新木泰輔、佐々木賢美、山崎 渉、三澤尚明(宮崎大 農学部獣医学科獣医公衆衛生学教室)

【はじめに】カンピロバクター食中毒の感染源として最も重要視されているのは鶏で、養鶏場や食鳥処理場において本菌の防除対策を講じることが急務となっている。食鳥処理工程における殺菌処理には、主に次亜塩素酸が使用されているが、鶏と体の細菌に対する殺菌効果は低い。本研究では、鶏と体に付着したカンピロバクターの新しい殺菌技術の開発を目指し、次亜塩素酸に代わる殺菌剤、真空装置および共振型超音波を組み合わせた微生物制御技術の創出を試みた。【材料及び方法】殺菌剤として、次亜塩素酸に加え、塩化セチルピリジニウム(CPC)を用いた。殺菌剤の浸透を促進させるため、真空装置を用いて殺菌剤の薬液に浸漬したと体を吸引した。さらにと体表面の付着細菌を遊離促進させるための手段として、と体に均一に超音波を照射できる共振型超音波照射を行った。食鳥処理場のチラー処理後のブロイラー中抜きと体を用い、胸および背の皮に付着しているカンピロバクターをMPN法にて定量的に測定した。対照として、未処理と体及び水道水を用いて処理したと体の菌数を測定した。【結果及び考察】対照群の胸および背の皮のカンピロバクター菌数の平均は、それぞれ4.3cfu/g、1.6×101cfu/gであった。CPCを用い、吸引処理と超音波照射処理を組合せて行った方法が最も殺菌効果が高く、カンピロバクターの菌数は処理前の1/10~1/100程度に減少させることができた。次亜塩素酸でも吸引と超音波処理を組み合わせることにより、処理前の1/10以下に減少した。また、CPCを用いた共振型超音波処理のみの殺菌方法でも1/10以下に減少した。以上の結果から、本研究で開発した手法が、従来の次亜塩素酸に浸漬させる方法に比べ、高い殺菌効果を有することが分った。

F-46首都圏100ヶ所で採取した中水の水質について○押田敏雄1、堀 有希1、河合一洋1、福安嗣昭2(1麻布大 獣・衛生学第一、2麻布大 獣・衛生学第二)

 【目的】近年の継続的な人口増や水資源の汚染、周期的な渇水のため水資源の多様な活用が求められて中水利用が脚光を浴びるようになってきた。その水質は上水レベルでなければならない必要はないが、雨水には非常用飲料水という概念もあるため、今後の中水は上水レベルの水質が求められるようにもなるものと思われる。このようなことから、現在首都圏一帯で稼動中の中水利用施設100ヶ所の中水を採取して、pH、透過率、残留塩素(ClO)、亜硝酸性窒素(NO2-N)、硝酸性窒素(NO3-N)、アンモニア性窒素(NH4-N)、大腸菌群および一般細菌を測定し、上水の水質基準などと比較した。 【方法】供試材料:東京、神奈川、千葉および埼玉県内で稼動中の中水道システム利用施設内の便器洗浄用水を滅菌サンプルびん(100ml)に採取し、材料とした。測定項目および方法:pHはpHメーターで、透過率は分光光度計でDWを対照として波長370nmで測定し、ClO、NO2-N、NO3-NおよびNH4-Nはパックテストで測定し、大腸菌群数はデソ培地を、一般細菌数は標準寒天培地を用い、培養・計測した。 【結果】pH:全試料が上水の水質基準値内の数値だった。透過率:99%を越えるものが全試料の64%あった。NO2-N、NO3-N、NH4-N:上水の水質基準値内であったものが全試料の90%以上あった。このように有機物の除去率が優れた中水では、大腸菌群や一般細菌についても上水の水質基準値内だったものが全試料の80%以上あった。ClO:全体的にその含有量が低く、水道法施行規則を満たすものは全試料の35%であった。採水した中水すべてについては、上水の水質基準を満たすものは37%であった。また、1970年代から現在にかけて下水の再生技術のうち水質に関しては、ほぼ満足な結果が得られた。

F-45Listeria monocytogenesの国内流通食品からの分離状況と低温保存食品中での消長○岡田由美子1、大貫泉美2、五十君靜信1(1国立衛研 食品衛生管理、2栃木県県南食肉衛検 検査課)

【目的】人獣共通感染症であるリステリア症の原因菌Listeria monocytogenes(以下リステリア)は、ヒトへは主に食品を通じて感染する。本菌は0℃以下でも増殖可能な低温耐性を持ち、冷蔵保存された食品中での増殖がしばしば見られる。一方、国内ではリステリア症のほとんどが散発事例であり、原因食品が特定されていない。今回我々は、未だ解明されていない国内での市販食品を原因とするリステリア症の感染リスクを明らかにする際の基礎的資料として、本症の原因食品として強く疑われている非加熱喫食食品を中心に、汚染実態の定量的調査を行った。また、日本特有の食品に本菌を接種し、冷蔵温度帯での消長を観察する低温保存試験も実施した。【方法】国内流通食品1500検体について国際的標準法であるISO法に従い、本菌の汚染状況を定性的・定量的に解析した。低温保存試験は、しらす2種と浅漬けにATCC19115株を約4×103CFU/g接種し、4℃及び10℃で賞味期限の約1.5倍まで保存し、経時的に菌数を測定した。【結果及び考察】1500検体中21検体(1.4%)からリステリアが検出された。内訳は、魚介類及び魚介加工品由来が765検体中16検体(2.1%)、食肉製品が315検体中3検体(0.96%)、漬物類が105検体中1検体(0.95%)、チーズが180検体中1検体(0.56%)であり、納豆75検体と低温殺菌乳60検体は全て陰性であった。低温保存試験では、本菌が増殖可能な水分活性を持つ食品においては、接種後2日目には10℃で保存した場合に4℃保存のものよりも有意に高い菌の増殖が見られ、本菌の感染リスクの軽減に冷蔵温度が重要であることが示された。

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F-50北海道の乳牛におけるCoxiella burnetiiの血清疫学調査○小宮智義1、齋藤純子1、鳥庭弘子1、平井克哉2(1北里研究所 生物製剤研究所、2天使大学)

細胞内偏性寄生菌Coxiella burnetiiの感染によって起こる人獣共通感染症のQ熱(コクシエラ症)の宿主域は広範囲におよび、特に乳牛や羊などの家畜に抗体保有率が高いことが諸外国を中心に報告されている。最近オランダでは、Q熱の大流行があり、昨年6例の死者を含む2,300例を越える患者の発生が報告されている。この流行の感染源は、緬山羊の流産に起因する。その他、家畜を感染源とする散発例が諸外国で報告されているため、今回北海道における乳牛および繁殖障害乳牛を中心とした血清疫学と初乳の菌保有率を調査したので報告する。【材料および方法】2008年に北海道内で採取した健康牛12頭、繁殖障害牛50頭の血清を用いて、C.burnetiiI相菌およびII相菌に対する抗体測定をIFAで行い、IFA抗体価64倍以上を陽性と判定した。2009~2010年に札幌市近郊21牧場で採取した210頭の初乳検体について、C.burnetiicom1遺伝子をターゲットとしたNestedPCRを行い特異遺伝子の検出を行った。【結果および考察】C.burnetii I相菌に対する抗体陽性率は健康牛8%(1/12)、繁殖障害牛12%(6/50)で、II相菌に対する抗体陽性率は健康牛33%(4/12)、繁殖障害牛28%(14/50)であった。今回の調査では、健康牛と繁殖障害牛における抗体陽性率の有意差は認められなかった。一方、初乳におけるC.burnetii遺伝子検出は4.8%(10/210)であり、陽性検体について細胞による分離を試みたが、分離できなかった。以上の結果より、乳牛の抗体保有率および菌保有率は、我々が約10年前に実施した北海道内乳牛の疫学調査より低い抗体保有率を示したが、本症のヒトへの感染源としての可能性は考えられ、今後も調査を継続実施していく必要があると思われた。

F-49Campylobacter jejuniとC. coli検出用の細胞膨化致死毒素(cdt)遺伝子を標的としたReal-time PCR法の開発とその応用○山崎伸二1、四良丸幸1、井上春奈1、日根野谷淳1、名木田章2、松久明生1,3、朝倉昌博1,3(1大阪府大院 生命・獣医国際防疫、2水島中央病院 小児科、3扶桑薬品工業(株) 研究開発センター)【目的】C. jejuniやC. coliによる食中毒は近年大きな問題となっている。しかしながら、C. jejuniとC. coliを簡便で迅速に鑑別できる検査法はなく、その開発が求められている。我々は、細胞膨化致死毒素(cdt)遺伝子がC. jejuni、C. coli及びC. fetusに菌種特異的かつ普遍的に存在することを見いだした。本研究では、cdt遺伝子を標的とし、サイクリングプローブ法を用いたC. jejuni/C. coli検出用のReal-timePCR法を開発して患者及び食肉検体を用いて評価した。【方法】C. jejuniと C. coliのボイルテンプレートを作製し、サイクリングプローブ法を用いたReal-timePCR法の検出限界を調べた。C. jejuniとC. coliを含む8菌種のカンピロバクター属菌269株と11菌種の腸管感染菌を含む63株を用いて、本Real-timePCR法の感度および特異性を調べた。さらに下痢症患者直腸スワブ便検体や市販鶏肉の増菌培養液から直接ボイル法にてPCRテンプレートを調製し迅速検査を試みた。【結果・考察】本Real-timePCRの特異性はC. jejuni 、C. coliとも100%(0/63)、検出感度はC. jejuniで99.5%(185/186)、C. coliでは100%(65/65)であった。検出限界はC. jejuni 、C. coliとも1PCRtubeあたり1cfuであった。下痢症患者検体を培養せず直接検査した結果、本Real-timePCR法では約2時間でC. jejuni, C. coliを検出でき、その結果は培養法とマルチプレックスPCR法を併用した検査結果と一致した。一方、市販の鶏肉12検体中、増菌培養12時間で5検体、16時間で9検体がC. jejuni陽性となった。サイクリングプローブ法を用いたReal-timePCRは、電気泳動を必要とせず簡便、迅速にC. jejuni及びC.coliを鑑別・検出できる有用な方法である。