fec100におけるrdiのジーラスタ 使用前後比較
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FEC100におけるRDIのジーラスタ 使用前後比較
日本医科大学付属病院 乳腺科 栗田 智子
化学療法における標準治療とは
v 標準治療とは 『科学的根拠に基づいた観点から、現在選択でき
る最善の治療法』である。
v 標準治療の完遂とは、ガイドラインに記載された治療レジメンを、
科学的根拠となった試験と同じ治療強度(DI : dose intensity)を
保持して治療する必要がある。
v 化学療法剤の減量やスケジュール延期は、標準治療の完遂を容易に妨げる。
v 化学療法レジメンの有用性に関するエビデンスは、計画投与量を計画通りのスケジュールで実施することが前提である。
Bonadonna G, et al. N Engl J Med. 1995;332:901-906 Kwak LW, et al. J Clin Oncol. 1990;8:963-977
RDIと予後との相関を報告したエビデンス
v 治療効果とRDIとの相関を報告した様々なエビデンス
• 早期乳癌
• 非ホジキンリンパ腫 (NHL)
• 進行非小細胞肺癌 (NSCLC)
• Stage III–IV 卵巣癌
RDI ↓ Survival ↓
RDI (Relative Dose Intensity) とは
RDI (Relative Dose Intensity) とは
v RDIの定義:計画時の治療強度(DI) と 実際の治療強度(DI)の比
v 計算方法Ø 1st step: 各薬剤毎に標準(計画時)のDIを求める
Ø
Ø 2nd step: 各薬剤毎に実際のDIを求める
Ø
Ø 3rd step: 各薬剤毎にRDIを求める
Ø
Ø 4th step: 治療レジメンにおけるRDI平均値を求める
Standard DI =
Actual DI =
RDI =
Average RDI =
Epelbaum R et al: Israel J Med Sci 1988; 24: 533-537
1サイクルあたりの計画投与量 (mg/m2)
1サイクルの計画期間 (週)
1サイクルあたりの実際の投与量 (mg/m2)
実際に1サイクルに要した期間 (週)
Actual DI (mg/m2/週)
Standard DI (mg/m2/週)
各薬剤毎のRDIの和 (%)
当該レジメンに含まれる薬剤数
RDI (Relative Dose Intensity) とは
延期週数(6コース合計で)
延期なし 1 週 2 週 3 週 4週 5週
減量 %
(
6
ー
全体
)
減量なし 100.0 % 93.8 % 88.2 % 83.3 % 78.9 % 75.0 %5 % 95.0 % 89.1 % 83.8 % 79.2 % 75.0 % 71.3 %
10 % 90.0 % 84.4 % 79.4 % 75.0 % 71.1 % 67.5 %15 % 85.0 % 79.7 % 75.0 % 70.8 % 67.1 % 63.8 %20 % 80.0 % 75.0 % 70.6 % 66.7 % 63.2 % 60.0 %25 % 75.0 % 70.3 % 66.2 % 62.5 % 59.2 % 56.3 %30 % 70.0 % 65.6 % 61.8 % 58.3 % 55.3 % 52.5 %35 % 65.0 % 60.9 % 57.4 % 54.2 % 51.3 % 48.8 %40 % 60.0 % 56.3 % 52.9 % 50.0 % 47.4 % 45.0 %45 % 55.0 % 51.6 % 48.5 % 45.8 % 43.4 % 41.3 %50 % 50.0 % 46.9 % 44.1 % 41.7 % 39.5 % 37.5 %
Ø RDIの値 乳癌FEC療法、3週ごと、6コース予定の化学療法の場合 (例・・・5-FU:500 mg/m2、EPI:100 mg/m2 、CPA:500 mg/m2)
FEC治療6コース(Total 18週)を通して、15%を超える減量や2週を超える遅延があると、RDI<85%になる。
Epelbaum R et al: Israel J Med Sci 1988; 24: 533-537をもとに算出
Bonadonna G, et al. N Engl J Med. 1995;332:901-906
乳房切除後の期間 (年)
予定投与量(%)
05 10 15 20
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0全
生存
率(%
)
0
≥ 85 (n = 42)
65–84 (n = 94)
< 65 (n = 71)
Control (n =179)
【術後補助療法(CMF)の投与量と生存予後との関連】
RDIと予後との相関を報告したエビデンス~早期乳癌(海外データ)~
予定投与量が85%以上保持できた症例では85%未満の症例に比し予後良好であることが認められたが、より重要なのは、85%未満の症例はコントロール(手術のみ)と大きく変わらない。
早期乳癌患者における術後補助化学療法を評価したイタリア多施設共同の無作為比較試験:Milano Trial(20年フォローアップ)対 象:1973-5年、治癒切除可能な腋窩リンパ節転移陽性乳癌患者 (n=386)方 法:手術単独群(n=179)と術後補助化学療法(CMF療法)実施群(n=207)との予後を比較
評 価 : 非再発死亡(主要評価)、全生存、Relative dose-intensity毎の全生存検 定 : 2群間の生存比較:log-rank test( P値:両側検定)
0 2 4 6 8 10
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
0 2 4 6 8 10
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
遅延サイクル(n = 792)
0 2 4 6 8 10
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
遅延日数(n = 792) RDI (n = 790)
Dis
ease
-fre
e su
rviv
al
years years years
≤2サイクル (580)
>2サイクル (212)
<15⽇(559)
≥ 15⽇ (233)
≥85% (697)
<85% (93)
HR: 2.07 (95%CI: 1.61–2.67) P < 0.0001
HR: 1.77 (95%CI: 1.38–2.28) P < 0.0001
HR: 1.65 (95% CI: 1.18–2.23) P < 0.0029
(A) RDI (Relative Dose Intensity)とDFS (Disease-free survival)
(B) RDIとOS (Overall survival) 遅延サイクル(n = 793) 遅延日数(n = 793) RDI (n = 791)
Ove
rall
surv
ival
years years years
≤2サイクル (581)
>2サイクル (212)
<15⽇(560)
≥ 15⽇ (233)
≥85% (698)
<85% (93)
0 2 4 6 810
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
0 2 4 6 8100.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
0 2 4 6 8100.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
HR: 1.70 (95% CI: 1.24–2.33) P = 0.0008
HR: 1.49 (95% CI: 1.09–2.04) P = 0.0115
HR: 1.73 (95% CI: 1.17–2.55) P = 0.0055
Chirivella I, et al. Breast Cancer ResTreat 2009; 114: 479-84
※p-valueは何れもloglank test
RDIと予後との相関を報告したエビデンス~早期乳癌(海外データ)~
スペイン単一施設のレトロスペクティブ解析(10年フォローアップ)対 象:1980-2000年アンスラサイクリンベースの補助化学療法を行った早期乳癌患者(stageⅠⅢA) (n=793)方 法:院内全乳癌データより化学療法の減量及びスケジュール・治療延期による予後への影響を調査した留意点:G-CSFの投与なし、安全性:解析対象外
発熱性好中球減少症とは
発熱性好中球減少症の定義(Febrile neutropenia:FN)
� 好中球 <500/uL
� 好中球 <1000/uL かつ 48時間以内に<500/uLに減少すると予測
かつ
� 腋窩温 ≥37.5℃ (口腔内温 ≥38℃)
発熱性好中球減少症診療ガイドライン 日本臨床腫瘍学会編 2012年
FN発症
化学療法レジメンのFN発症リスク
(薬剤、治療強度など)
治療症例の背景因子FN発症リスク
(年齢、全身状態など)
Lyman GH, et al. Supportive Cancer Therapy 2003: 1; 23-35
発熱性好中球減少症発症のリスク
治療症例の背景によるFN発症リスク初回治療前のFNのリスクの評価
1. 患者年齢65 歳以上
2. 前治療として化学療法や放射線療法を有する
3. 好中球減少症や腫瘍の骨髄浸潤を有する
4. FN 発症前の合併症がある 1)好中球減少症
2)感染症や開放創がある
3)直近に手術療法を受けた
5. Performance Status が悪い
6. 腎機能の低下
7. 肝機能障害特に高ビリルビン血症
日本癌治療学会 がん診療ガイドライン http://jsco-cpg.jp/guideline/30.html#g03
FNの重症度(Grade)
u 好中球減少症
CTCAE v4.03 日本語訳 JCOG/JSCO 版
有害事象Grade
1 2 3 4 5
好中球数減少 <LLN-1500/mm3
<LLN-1.5×109/L<1500-1000/mm3
<1.5-1.0×109/L<1000-500/mm3
<1.0-0.5×109/L<500/mm3
<0.5×109/L-
LLN: (施設)基準値下限
u 発熱性好中球減少症
有害事象Grade
1 2 3 4 5
発熱性好中球減少症
- - ANC<1,000/mm3で、かつ、1回でも38.3℃(101℉)を超える、または1時間を超えて持続する38℃以上(100.4℉)の発熱
生命を脅かす; 緊急処置を要する
死亡
FN発症時の対応策
� 経口抗菌薬(低リスクFN患者では外来にて治療可能)
Ø シプロフロキサシン(CPFX):600㎎分3+アモキシシリン・クラブラン酸
カリウム(AMPC/CVA):750㎎分3
Ø レボフロキサシンン(LVFX):500㎎分1
v 発熱時、処方してある抗菌薬を1週間内服し、内服開始後も3日以上継続して発熱がある場合、電話連絡
v 低リスクの可能性が高いと判断された場合、そのまま在宅で経過観察可能 G-CSFを治療的投与することはない
虎の門病院 臨床腫瘍科 高野利実先生
FNの重症化リスク評価
項目 スコア
臨床症状 無症状 軽度の症状 中等度の症状
553
血圧低下なし 5
慢性閉塞性肺疾患なし 4
固形がんである、あるいは造血器腫瘍で真菌感染症の既往がない 4
脱水症状なし 3
外来管理中に発熱した患者 3
60歳未満(16歳未満には適応しない) 2
21点以上:低リスク 20点以下:高リスク
発熱性好中球減少症診療ガイドライン 日本臨床腫瘍学会編 2012年
G-CSFの投与方法
• 1 コース目からFNを予防する目的で投与• FN発症率が20%以上のレジメン(乳癌ではFEC、TAC)
• FN発症率が10-20%のレジメンでFN発症リスク因子あり
一次予防的投与
• 前コースでFNを生じたり,遷延性好中球減少症で投与スケジュールの延期が必要となったりした場合,次コースで予防的に投与
• 緩和的化学療法では次コースの投与量もしくはスケジュール変更を検討• 治癒率向上が期待できる悪性リンパ腫、早期乳癌、胚細胞腫瘍等で考慮
二次予防的投与
• FN発症時に投与• 積極的に推奨されない
• 高リスクの場合で考慮
治療的投与
日本癌治療学会 がん診療ガイドライン http://jsco-cpg.jp/guideline/30.html#g03
ジーラスタ一般名;ペグフィルグラスチム(遺伝子組換え) Pegfilgrastim
<用法・用量に関連する使用上の注意>がん化学療法剤の投与開始14日前から投与終了後24時間以内に本剤を投与した場合の安全性は確立していない。
一般的には、がん化学療法終了後の24時間~72時間にジーラスタ®を投与することが推奨されます※)。
※) Koumakis G et al. Oncology; 56: 28-35, 1999
ジーラスタ添付文書第3版(2016年9月改訂)
副作用
主な副作用(5.0%以上)
LDH上昇 162例(25.6%)
背部痛 121例(19.1%)
発熱 91例(14.4%)
関節痛 90例(14.2%)
倦怠感 65例(10.3 %)
ALT上昇 61例(9.7%)
ALP上昇 61例(9.7%)
頭痛 53例(8.4%)
筋肉痛 53例(8.4%)
AST(GOT)上昇 45例(7.1%)
白血球増加 45例(7.1%)
好中球増加 41例(6.5%)
発疹 37例(5.9%)
リンパ球減少 35例(5.5%)
[承認時] ジーラスタ添付文書第3版(2016年9月改訂)
(1) ショック、アナフィラキシー(頻度不明)(2) 間質性肺炎 (0.5%)(3) 急性呼吸窮迫症候群(頻度不明)(4) 芽球の増加(頻度不明)(5) 脾腫 (0.3%) ・脾破裂(頻度不明)
(6) 毛細血管漏出症候群(頻度不明)(7) Sweet症候群(頻度不明)(8) 皮膚血管炎(頻度不明)
その他の重大な副作用
当院におけるFEC100によるジーラスタ
使用前後におけるRDI比較
当院におけるG−CSFの使用状況
2015年1月〜2016年12月 FEC100(5-FU:500 mg/m2、EPI:100 mg/m2 、CPA:500 mg/m2)を施行した症例 (n=44)
一次予防30%
二次予防2%
治療的投与11%
未治療57%
FEC100における好中球減少症の割合
0
5
10
15
20
25
30
一次予防 二次予防 治療的投与 未使用
Grade 4
Grade 3
Grade 2
Grade 1以下
0
5
10
15
20
一次予防 二次予防 治療的投与 未治療
スケジュール通りの完遂
化学療法の延期
減量
中止
G-CSFの使用方法における治療経過
帯状疱疹 肝機能障害(HBV再活性化) にて治療中止
ジーラスタ使用による副作用の発現状況
42.8 42.8 35.7
14.3 14.3 14.3 7.1 7.1
0
20
40
60
80
100
%
G-CSF使用状況における RDIの比較
P=0.61 no significant difference
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
一次予防(ジーラスタ使用) 未使用
mean and data plot
RDI
一次予防 (n=13) 96.5%
二次予防 (n=1) 90%
治療的投与 (n=6) 97.3%
未使用 (n=24) 93.0%
化学療法延期・減量に至った症例 (RDI 70.5%)67歳女性 両側乳癌術後 既往歴;食道癌術後 (60歳時)、 2014/12/8 両側乳癌にて乳房切除術+センチネルリンパ節生検
Triple negative乳癌 NG3, ly3, v1, n0, Ki67 80%
FEC100 ① FEC100 ② FEC100 ③ FEC100 ④ (75%doze)
FN発症に伴う肺炎疑い→ 5日間入院、セフェピム静注 G-CSF(フィルグラスチム150μg)皮下注射
延期 延期 延期
35
35.5
36
36.5
37
37.5
38
38.5
39
39.5
0
2000
4000
6000
8000
10000 白血球数
好中球数
初回治療前のFNのリスクの評価
† performance Status(PS)とは全身症状の指標であり,Eastern Cooperative Oncology Group によって分類される。 0:無症状,1:軽度の症状があり,2:日中の50%以上は起居,3:日中の50%以上は就床,4:終日就床††レジメンの異なる先行化学療法におけるFNの既往歴
G-CSF適正使用ガイドライン 2013年版 Ver.3 一般社団法人 日本癌治療学会編
ASCO※ EORTC※※ NCCN※※※
• 高齢者(65 歳以上)• 進行がん• 化学療法または放射線療法施
行歴• 治療前の好中球減少または腫
瘍の骨髄浸潤• 感染の存在• 開放創の存在または最近の手
術施行歴• PS†不良または栄養状態不良• 腎障害• 肝障害(特にビリルビン高値)• 心血管疾患• 複数の合併症• HIV 感染
• 高齢者(65 歳以上)• 進行がん• FN の既往歴††
• 高齢者(65 歳以上)• PS†不良• 化学療法施行歴• 放射線治療歴• 治療前好中球減少
• 腫瘍の骨髄浸潤• 感染や開放創• 最近の手術歴• 腎障害• 肝障害(ビリルビン高値) • HIV 感染(特にCD4 細胞数
の少ない患者)
※ASCO:Smith TJ et al; J Clin Oncol 33:3199-3212. 2015 ※※EORTC:Aapro MS et al; Eur J Cancer 47: 8-32, 2010
※※※NCCN Guidelines 2015 Version 1 Myeloid Growth Factors
治療症例の背景によるFN発症リスク
結果
� ジーラスタによる一次予防では、合併症に伴う治療中止は見られず、またRDIは97%を維持でき、安定して治療計画を立てることが出来た。
� ジーラスタの副作用では発熱のほか、背部痛・腰痛・筋肉痛が見られたが、いずれもGrade1以下であった。
� ジーラスタ使用に伴い、①コース目より幼若好中球増多となった症例を認めたが、その後ジーラスタを使用しても、特に異常は認めなかった。
ご清聴有り難うございました
ジーラスタ使用例 幼若好中球増多した症例
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000 白血球数
好中球数
LDH
FEC100 ① FEC100 ②(80%doze) FEC100 ③ (80%doze) FEC100 ④ (80%doze)
63歳女性 左乳癌術前 Triple negative, NG1, ly2,v1,n+(2/8), Ki67 7%( ケモ前30%) 術前化学療法施工中、ジーラスタ投与10日後に倦怠感を訴え、来院。幼若好中球増多を確認。
②コース以降80%dozeとし経過をみたが、その後ジーラスタ使用するも経過問題なく、幼弱好中球出現も認めず。
ジーラスタ