海陸風の研究・ · wsw1.328.7 広航 ne 2.524.1 ne 2.725.1 ne 1.727.o...

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551.553.11:551.507.32 海陸風の研究・ 井野英雄・根山芳晴** 広島湾における海陸風の実態,主として垂直構造を究明するために2つの方法で実験観測をおこなった結果を 報告する.すなわち,300m高度を飛行する定容積気球を海上と陸上で放球,ヘリコプターによる追跡観測をお こなって,小島,陸地,川,市街地等の地形的影響によって現われる上昇・下降運動から海陸風に伴う大気の運 動の実態を究明した.さらに広島湾南部の島と沿岸の気象台,そして市街地北方とで毎時のパイボール観測をお こなって海陸風循環のそれぞれの場所における時間変化や場所による違いを求めた.特に陸風は顕著な上層の反 対風が見られたが,当日は自由大気中の一般流が南西で海風とほぼ同じ風向であったため,明瞭な反対風は観測 されなかった.海風の上限の日変化が気温の日変化に較べて海上ではほぽ合致しているが,陸上では早く現われ ている.また最大風速出現時が最高気温出現時に2~3時間遅れて対応していること,さらに海風速最大高度は 海上と陸上とでかなり異なることがわかった. 1.はしがき 元来,海陸風の現象は,太陽から受けた放射エネルギ ーが熱容量の相違から陸地と海上との間に水平方向の強 い温度傾度を生ずるために,それが等圧面の傾斜をもた らし発現するもので,大気大循環に較べてスケールの小 さい現象ではあるが,海陸風循環系を形成していること から,局地風として海岸地方ではいろいろな面で興味あ る問題である. わが国でも海陸風の卓越する瀬戸内海については,古 くは陸上での地上風のいっせい観測によって一日中の海 陸風の交換時刻,強さそして、なぎ”等が調べられてお り(飯田,1950),最近では神戸付近でのパイボール観測 による海陸風循環の垂直断面が報告されている(神戸海 洋気象台,1966).その他新潟(二宮,1960)や四日市 (波多,1971)についても海陸風が調べられている. 米国では,この種の地上および上層風の時間的変化に ついて1922年頃から研究されており,特に最近になって Fisher (1960), Frezzola (1963), Ilsu (1970) etc.カミ広 汎な海風循環に関する地上観測を含めたパイボール,ラ ジオ・ゾンデ,航空機による上層風の観測をおこなって かなり明瞭な実験的モデルが得られている.一方それら の観測事実の究明とは別に,海風の物理的モデルの提出 *AStudyoftheLandandSeaBreeze **H.Ino,Y.Neyama(広島地方気象台) 一1972年2月19日受理一 1972年6月 (Estoque,1961)や数値解析(Wexler,1946, 1951etc.)の研究もある.このように米国においては, 1960年以降大規模な野外実験観測がおこなわれてきた が,日本ではまだほとんど判っていない現況で,その原 因は局地風の垂直観測の困難さ(経費的,労力的)によ っている. 本研究では,瀬戸内海の広島湾における海陸風の垂直 構造を調べるために,海上と沿岸そして内陸部の3か所 の観測点を結ぶ線が,ほぼ海風の走向と一・致するように とって,その各々の地点で,地上風と上層風の毎時観測 をおこなった.さらに海風が陸上に浸入するとき,地形 (丘,川,市街地,小島)の影響でどのような水平・垂 直方向の変化が現われるかを究明するために,300m局 度を浮遊するようにしたPlastic Supper Pressur (定容積気球)をヘリコプターで追跡観測した.これと 同じようなことを米国ではTetroon観測(Ange11,19 Hass,1967)でおこなっている.この種の観測はある一 定期間そして1日中での連続観測をおこなって,地形に 応じた海陸風循環モデルを作ることが望ましいが,多大 の費用と労力にはばまれてなかなか容易ではない.今回 は初めての試みとして,西日本が太平洋高気圧におおわ れて一般流のほとんどない1971年7月30日(第1図参照) の一日間観測を実施したので,その結果を報告しいくつ かの興味ある事実を述べる.参考までに,第1表に示す と,陸風は市の西部と広島湾で東分をもった北風,東部 17

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Page 1: 海陸風の研究・ · wsw1.328.7 広航 ne 2.524.1 ne 2.725.1 ne 1.727.o w1.328.o sw 2.629.6 ssw3.930.1 ssw3.831.o ssw3.632.o ssw4.332.o

551.553.11:551.507.321.2

海陸風の研究・

井野英雄・根山芳晴**

 要 旨

 広島湾における海陸風の実態,主として垂直構造を究明するために2つの方法で実験観測をおこなった結果を

報告する.すなわち,300m高度を飛行する定容積気球を海上と陸上で放球,ヘリコプターによる追跡観測をお

こなって,小島,陸地,川,市街地等の地形的影響によって現われる上昇・下降運動から海陸風に伴う大気の運

動の実態を究明した.さらに広島湾南部の島と沿岸の気象台,そして市街地北方とで毎時のパイボール観測をお

こなって海陸風循環のそれぞれの場所における時間変化や場所による違いを求めた.特に陸風は顕著な上層の反

対風が見られたが,当日は自由大気中の一般流が南西で海風とほぼ同じ風向であったため,明瞭な反対風は観測

されなかった.海風の上限の日変化が気温の日変化に較べて海上ではほぽ合致しているが,陸上では早く現われ

ている.また最大風速出現時が最高気温出現時に2~3時間遅れて対応していること,さらに海風速最大高度は

海上と陸上とでかなり異なることがわかった.

 1.はしがき

 元来,海陸風の現象は,太陽から受けた放射エネルギ

ーが熱容量の相違から陸地と海上との間に水平方向の強

い温度傾度を生ずるために,それが等圧面の傾斜をもた

らし発現するもので,大気大循環に較べてスケールの小

さい現象ではあるが,海陸風循環系を形成していること

から,局地風として海岸地方ではいろいろな面で興味あ

る問題である.

 わが国でも海陸風の卓越する瀬戸内海については,古

くは陸上での地上風のいっせい観測によって一日中の海

陸風の交換時刻,強さそして、なぎ”等が調べられてお

り(飯田,1950),最近では神戸付近でのパイボール観測

による海陸風循環の垂直断面が報告されている(神戸海

洋気象台,1966).その他新潟(二宮,1960)や四日市

(波多,1971)についても海陸風が調べられている.

 米国では,この種の地上および上層風の時間的変化に

ついて1922年頃から研究されており,特に最近になって

Fisher (1960), Frezzola (1963), Ilsu (1970) etc.カミ広

汎な海風循環に関する地上観測を含めたパイボール,ラ

ジオ・ゾンデ,航空機による上層風の観測をおこなって

かなり明瞭な実験的モデルが得られている.一方それら

の観測事実の究明とは別に,海風の物理的モデルの提出

*AStudyoftheLandandSeaBreeze**H.Ino,Y.Neyama(広島地方気象台)

 一1972年2月19日受理一

1972年6月

(Estoque,1961)や数値解析(Wexler,1946,Defant,

1951etc.)の研究もある.このように米国においては,

1960年以降大規模な野外実験観測がおこなわれてきた

が,日本ではまだほとんど判っていない現況で,その原

因は局地風の垂直観測の困難さ(経費的,労力的)によ

っている.

 本研究では,瀬戸内海の広島湾における海陸風の垂直

構造を調べるために,海上と沿岸そして内陸部の3か所

の観測点を結ぶ線が,ほぼ海風の走向と一・致するように

とって,その各々の地点で,地上風と上層風の毎時観測

をおこなった.さらに海風が陸上に浸入するとき,地形

(丘,川,市街地,小島)の影響でどのような水平・垂

直方向の変化が現われるかを究明するために,300m局

度を浮遊するようにしたPlastic Supper Pressure Baloon

(定容積気球)をヘリコプターで追跡観測した.これと

同じようなことを米国ではTetroon観測(Ange11,1961,

Hass,1967)でおこなっている.この種の観測はある一

定期間そして1日中での連続観測をおこなって,地形に

応じた海陸風循環モデルを作ることが望ましいが,多大

の費用と労力にはばまれてなかなか容易ではない.今回

は初めての試みとして,西日本が太平洋高気圧におおわ

れて一般流のほとんどない1971年7月30日(第1図参照)

の一日間観測を実施したので,その結果を報告しいくつ

かの興味ある事実を述べる.参考までに,第1表に示す

と,陸風は市の西部と広島湾で東分をもった北風,東部

17

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300 海陸風の研究

⑨1・〆L

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♂ 9720

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○第1図b850mb

で西分をもった北風,北部ではほぼ北風そして市外東部

ではほぼ東風となって地形的影響を強く受けている.海

風は市内東部を除き南南西で,いずれも最高気温の出現

時刻を過ぎて2~3時間後に最大風速が観測されている.

 2.観測方法

 A。パイボールによる上層風

 前述の3か所で6時から19時まで毎正時放球し,30秒

18

第1図d 300mb

毎の高度角と方位角をセオドライトの一点観測によって

読みとり,20分間続けた.気球は20grのものを用い,

上昇速度は1分間100mとした.

 B.地上気象要素

 前述の3か所で臨時に気温,風向,風速の毎時観測を

おこない,その他市内の会社や官公庁の常時観測値を集

めた.

、天気”19.6.

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海陸風の研究 301

第1表 各地の風と気温の時問変化(1971年7月30日)

時 刻

観測所

要素

6789

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

6789

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

気 象 台

風  風  気向  速  温

 N    4.0 24.3

 N  1.825.O

NNE 2.5 26.8

 N    O.8  28.8

SSE 1.529.6

 S2.231.5SW 2.331.7

SSW2.332.5SSW2.532.4SSW2.332.4 S3.531.5SSW2.831.2SW 3.030.3

SW 2.829.2

WSW1.328.7

広航

NE 2.524.1NE 2.725.1

NE 1.727.O

W1.328.OSW 2.629.6

SSW3.930.1SSW3.831.OSSW3.632.OSSW4.332.OSW 5.431.1

SSW5.731.5SSW4.330.9SW4.830.1

SSW4.429.4SSW3.928.7

能 美 島

風  風  気向  速  温

  CN E  1.3

N E  1.5

N E  1.5

S SW O.3

S晒1 2.5

SW  2.3

SW  2.5

S SW2.5S SW2.5S S E 3.O

S SW 1.7

 S  2.8

S SW2.7

白 島 小

風  風  気向  速  温

25.O    C

26.3    C

29.O    C

28.8   N  O.5

31.O  SE O.5

31.5 SSW2.031.O SW 1.8

32.6・SW 1.5

32.6 SSW2.333.2 SW 1.7

31.8 SSW1.731.8 SW 1.5

30.1 SW 1.7

28.8 SW 3.7

東洋工業

E N E 1.O

E N E 1.O

E N E 1.O

E N E L5

S S E 2.O

S S W 3.O

S SW3.6S SW3.OS S W4.5

S SW3.OS S W4.5

S S W5.O

S W  3.8

SW  4.5

WS W 2.5

32.0

33.0

33.5

34.0

34.5

34.5

35.0

35.0

34.5

24.8

27.4

29.0

28.3

32.0

31.6

32.3

33.1

34.1

34.0

34.3

33.8

32.5

31.5

五日市駅

2.0

2.0

2.0

1.7

1.7

2.0

2.9

3.0

3.0

2.2

3.3

2.4

2.2

2.0

1.9

中国電力

風  風  気向  速  温

NWN NWNW  C S

S S E

S S E

S S E

 S

S S E

 S

S S E

 S

 S

S S W

2.3 24.3

1.0 25.2

1.0 27.9

  30.01.6 31.5

2.7 32.7

2.5 33.7

3.5 34.4

3.133.82.8 34.5

4.5 34.7

3.0 34.5

4.2 33.2

4.9 31.6

2.2 30.2

横 川 駅

1.7

0.8

1.2

0.2

0.7

1.2

0.7

1,2

0.9

0.5

1.7

3.4

3.8

5.0

5.1

消 防 局

0.7

0.5

0.3

0.3

0.8

2.5

2.3

2.0

2.0

1.8

2.7

2.3

2.3

1.8

0.3

 C.定容積気球による観測

 Plastic Supper Pressure Balloon(テトラ型)は地上気圧

から80mbの大気中でほとんど容積が一定となるように

作られた気球で,米国ではTetroonと呼ばれている.こ

の気球は一定高度を水平に浮遊させて種々の気象観測を

おこなうのが目的である.今回はこの一定高度を300m

とし,地上から他の気球で持ち上げ300m高度で切り離

す方法を用いた.具体的には模図のように,上昇速度を1

1972年6月

分間200mにした30gr気球でPSPBを飛揚させ,300m高

度で両者の継ぎ目を導火線で焼き切った.この方法は米

国でもおこなわれていたが,PSPBにはほとんど浮揚力

がないので,両気球全体がどれだけの上昇速度をもつよ

うになるかが問題点であった.前日の予備実験でまず2

分で焼け切れるように導火線をセット(最高高度400m

で切り離れる計算)して飛揚させ,切り離し時間を計っ

たところ1分54秒で切離し,その時の高度がヘリコプタ

19

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502

↑200%ln

、.砂導火線ぐ

μ!PSPB

海陸風の研究

一の観測で255mと判ったので,この実験から全体の上

昇速度毎分約130mが得られた.これにもとづき,本観

測にあたっては導火線の燃焼時間を調整した.かくして

ほぼ300m高度で浮遊したPSPBが海陸風にのって飛行

する状態をヘリコプターで追跡観測した.放球場所は8

時に気象台上,14時と17時には能美島とした(第2図参

照).なお参考までにヘリコプターによる具体的観測方

法を述べる.位置の決定は5分毎にPSPBの飛行前面で

気球より下空を,後面で上空を通るようにし,斜めに気

球を中心とした円形旋回をして(半径500m位)その中

心位置を決め,それを海図および2万分の1の地図上に.

記入した.高度はヘリコプターが気球飛行方向に対して

平行に同高度を50~70m離れて飛行して決め野帳に記入

した.この他任意の時刻における上空の気温観測もおこ

なった.

 PSPBによる観測上の問題点

 ω 別の気球で持ちあげて一定高度で切り離す方法は.

導火線や線香による燃焼時間の調整によってできるが,

この場合時間をセットするのに全体の上昇速度が持ちあ

げ気球の上昇速度に対してどのようになるのかをあらか

じめ実験して求めておくことが必要である.

 (2)一定高度を飛行する気球の追跡にはヘリコプター一

0 5 10 15 20Km

20

 

    蕪、

蒸,鞭

・飴讃   勲島食・・

       ロ

第2図 観測所配置図

                 ・ 覇                 ヲ,一筆

匿   .轟、翼  \き鯵 〆戯}藪.灘.㍑ダ 弓鎚熱蒙,騎  畷野IS鞠一一羊 縞       /繍1藤翼曝/イ

      〆lll驚》階劉

     ! ・署  、『霞野謂     島  /      翼  ぐ 蔭

    鳶/謡ズ戴 翻

藩 議灘幾   ほ と            ぴ ヤげ   ロ                  ヨてロ

   鋳       ぎ  、イ

 に7栖     無 ノ  祇誉虻                 欝麗鰹 一凶、

ミだゴ

睦簾論誰        .鍵竃翻,

第3図 PSPBの流跡線図中の数字は高度(ft)

、天気”19.6..

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海陸風の研究

による方法とレーダーによる方法がある.米国での報告

(Hass etc.,1967)によると前者の方がより正確のよう

であるが,ただ費用の高いことと市街地上の低空飛行の

困難性と法的制約に問題がある.

 3.聖SPBの流跡線

 14時と17時に能美島上で放球されたPSPBの流跡線が

第3図に示されている.両気球とも若干の蛇行は見られ

るが,何れも広島市に達した.特に注目したいのは14時

の気球が市内最大の太田川放水路の上を飛行し上流で着

水したことと,17時の気球が川の上をさけて陸地上を飛

行し市街地を通って広島県中央部付近まで60キ・を飛び

自然落下したことである.流跡線上の5分間毎の距離と

沿岸に達するまでの時間(14時のときは55分,17時のと

305

きは35分間)から判るように,気球は17時のときの方が

14時のときより速い速度であり,また陸地にかかって加

速している.この事実は400~500m高度での海風が最高

気温の現われる時刻よりおくれて(2~3時間)最大風

速を持つようになることを示し,地上での現象とほぼ一

致している.

 また第3図に見られる8時気象台上で放球した気球は

初め南東に飛び,太田川に出てからはほぼ西岸に沿って

南下し,沿岸から約2キ・の海上で放球後50分たって西

に向きを変え,60分後に着水した.当日8時は気象台と

能美島ともに北よりの陸風となっており,これに乗って

南下したものと考えられる.西に向きを変えたのは8時

30分頃からしだいに海風の影響を受けだし,9時の能美

 x100ftlll

10

5

3QQ

3仏

31.4

2aぎc

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…喜’上324

太由壇唱末』r各

20

15

10

5

274 275 2η

278

298

,318

落 上 3Q3川 ’陸上

325  呵一

5 10 15 20km

第4図 西能美島上で放球されたPSPB追跡図 上段:14時,下段:17時放球

島の実測より見て,着水直前には南東風が吹いていたと

推定される.

 4.PSPBに対する地形の影響

 気球飛行過程での垂直運動を見るために第4図を示す.

上段の図は14時放球の様子を示してあるが,前図の流跡

線図から判るように,この飛行に対する地形は海上と川

の上とになっており,陸地上は飛ばなかった.海抜107m

の能美島観測点で放球後1000ftに達して急下降を始め,

1972年6月

14時07分に600ftと最低高度になった.その後急上昇し

て14時10分に990ftにもどった.1分30秒位で切り離し

高度(1000ft)に違したあとの下降気流は,現地の風向

が南南西であったことから能美島による山越え気流のた

めと考えられる.この下降気流はパイボール観測中にも

しばしば見られた.14時15分から20分にかけての下降気

流は大那沙美島の地形的影響によるものであろう.その

後はどんどん上昇し,広島湾のほぼ中央付近で最高高度

21

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304 海陸風の研究

1720ftに達して後ゆっくり下降を始めた.15時一時陸地

にかかって40ft程上昇したが,太田川放水路にかかって

からはしだいに下降しながら約43キ・を飛んだ.PSPB

はほぼ等密度面に沿って飛行しているために,大気温が

約1.40C昇温したことと,さらに相対的に低い水温の影

響を受けて川の上では陸地に対し相対的な気柱の縮みが

おき,大気密度に対し気球密度が大きくなったために気

球の下降成分が各時刻毎に加わってセットされれ等密度

面をはずれ,浮揚力が微弱のために着水したものと考え

られる.

 下段の17時のPSPB飛行については,放球後の島の

影響による下降気流が見られなかったが,これは当時の

風向が南南東(17時,270m高度)であったため能美島

の地形では山越えによる下降気流がおきにくい条件の

あったためと思われる.パイボール観測でもこの風向で

は気球の下降現象はみられなかった.その後は順調に約

1500ft高度を飛行し,陸上にかかって上昇し1700ftに達

した.その間,太田川や元安川を越えるときほぼ100ft

下降する現象を見せた.ヘリコプターの飛行時間の制約

により途中で観測を打ち切ったが,前述のようにかなり

の時間飛行した.この観測期間中気温が約27度と一定に

近い値を示していたことは,等密度面がほぼ一定であっ

たと考えられ,気球が14時の時より概観的には水平高度

を飛行した.

 気象台上での放球のPSPBの着水の原因は,同気球の

拾得者の言よりガス洩れが全く考えられないから,下降

以上の下降気流があったものと思われ,その原因につい

ては次のように推察できる.すなわち,気球の位置から

見て,南南東約3キ・の所に似島(海抜278m)がある

ため,これを越えて吹いた南東風のために風下側に生じ

たstandingeddystreaming(F6rchgott,1949)による

下降気流の出現と考えられる.この問題は興味ある山越

え気流として別の究明にゆずりたい.

 5.風の鉛直解析

 A.7月30日の下層大気の状態

 第6図は米子と福岡における大気下層の状態曲線と風

700

750

800

850

900

1000

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第6図 米子(左),福岡(右)における大気下層

    の状態×100ft

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第5図 気象台上で放球されたPSPB追跡図

気流によるものと思われる.第5図によると,放球後20

分で最高高度1400ftに達した後,海上に出ていったん上

昇したが,5分間に300ft,100ft,390ftと下降して着水

した経過からみると,もとの高度にもどる自球の浮揚力

22

の鉛直変化を示す.当日は昼夜共下層大気は安定成層を

示し,両地点共暖気流入の状況を示している.そして

900m高度辺を境に下層では9時に南東風,21時には北

東風が吹いているのに,それ以高では南西風が卓越して

いる.さらに800mb辺を中心とした成層内の福岡では,

9時から21時の間に高気圧セルが東進した状況を示す風

向・風速の変転が見られる.このような一般場は,後述

しているように時間的に変化する海陸風高度を決定する

のに極めてまぎらわしいことを示唆するもので,春秋の

ように自由大気中で偏西風の卓越している時期の方がよ

り明らかに決めることができるであろう.

 B.海陸風の時間変化

 広島湾内の能美島,沿岸の気象台そして市街地北部の

白島におけるそれぞれのパイボール観測による風の鉛直

分布の時間変化を示したのが第7図である.

 まず第7・a図によると,8時までは300mより低層

、天気”19.6.

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海陸風の研究 305

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1972年6月 25

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308 海陸風の研究

で北東の陸風が吹いている.そして上層には反対風であ

る西よりの風が現われている.10時には弱い南南東の風

となり(恐らく寒なぎ”に対応),11時から南南西の風で

海風の出現が顕著に認められる.海風の上限の時間変化

をみると,11時からしだいに高くなり,14~15時には

950m高度にまで達している.以後しだいに下降し19時

には、11時頃とほぼ同じ350mくらいにさがっている.

 次に気象台では第7・b図にみられるように,北東の

陸風は8時までその上限を350mとして明瞭に認められ

る.そして9~10時は弱い南東風で交替期を示し,11時

以後南南西の海風が出現している.その上限高度の時間

変化は,出現とともに700m辺まで現われ,12時に1200m

と最高高度に達し以後16時に450mまでさがり,ふたた

び上昇して18~19時には600mに達している.

 さらに白島小学校では第7・c図のように,陸風は8

時まで現われ,気象台と同様350m辺までその上限がみ

られる.そして反対風は西風が現われている.9~10時

には南東風が現われ,11時以後には1000mにも達する南

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第8図 各観測所におけ」る朝,昼,夕方の風の

    鉛直分布

南西風(海風)が現われている.海風の上限は13時頃に

1100mの最高高度に達し以後ゆっくり下降して18時と19

時には500mとなった.

 以上3地点の海陸風の特徴をまとめてみると,海風は

沿岸と陸上で最高高度の現われる時刻が12~13時なの

に,海上では14~15時と約2時間遅れている.さらに

陸・海風の交替期間(なぎ)が海上の方で短かい.また

陸風の上限高度は陸上の方が高く,海風は日中と夕方と

で海岸(気象台)における上限の他,地点との相対的高

さが異なっている(第8図参照).類似点はいずれの地点

も陸風の上層に反対風(西風)が出現していることと海

風の上層には顕著な反対風は認められないがいずれも南

西風がみられることである.

 C.海陸風循環系より上層の風

 海陸風循環系の上層に現われている風の場を解析して

みると(第7・a・b・c図参照),共通していることは,

1100m辺を中心高度にしてかなりの上下幅はあるが,南

西風層が存在していることである.そしてさらに上層に

は12~13時まではほぼ西風があり,13~14時以後は南南

西に変っている.この高度はほぼ1800m付近である.こ

のことは各観測地点に共通しており,一般的状況のと

ころで述べた上層の高気圧セルの通過を物語るものと思

う.この日の海陸風系上2000mまでの風の時間変化は大

勢的には海上も沿岸上もそして陸地でもよく似た分布を

している.海陸風循環系上でほぼ南西風が卓越して,南

南西風で示される海風との境が不明瞭になっている.な

お海上で11~13時に1000~500m層内に南南東風がみら

れるが,これも海風とみなせば海上,沿岸,市街地北部

の3地点とも海風の垂直時間変化の模様が類似すること

になるが,この風向の違いを説明することは難かしい.

 D.海陸風速の時間変化

 陸風速の鉛直分布(第9図参照)では,200~300mで

風が強くなり400~500mで弱くなっていることは3地点

とも同じである.海風に変って,11時には能美島と気象

台で400m高度で弱風,白島では逆に強風になっている.

白島では300mと1400mで弱風となるような風速の鉛直

分布が15時以後19時まで続いている.気象台上では18時

と19時に900mと100mで強風,300mと1400mの弱風と

似てはいるが,その強風と弱風の差が極めて大きく特徴

的である.第10図によって海風速の時間鉛直分布をみる

と,海風最大風速高度は海上で200m辺(19時)と300m

(13~14時)と600m(18時),沿岸では海風上限の真下

800m辺(13時)と100m(18~19時),陸地で600m辺

、天気”19.6.

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海陸風の研究 309

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各観測点における海風速の鉛直分布の時間変化(単位:m/s)

能美島(左) 気象台(中央) 白島小学校(右)

(14時)に現われており,地域的にかなり異なった様子

を示している.特に海上と沿岸で夕方下層にかなり強い

海風の存在していることは興味深く,水平の気温傾度に

よる力とまさつとの間のエネルギーのやりとりの差が寄

与して現われたものと思う.また気象台上で夕方900m

1972年6月

1516171819

辺に出現している8m/sの強い風は海風上限はるか上層

にあり,この傾向は能美島にも18時600m高度で6m/sの

強い風が現われて類似している.

 6.あとがき

 瀬戸内海における海陸風の鉛直構造を究明する特別観

27

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310 海陸風の研究

測として広島湾でおこなった結果について述べた.特徴

的な結論は各項の終わりに述べたので再記しないが,要

約すると,海陸風循環系の中で海上から陸地に向う空気

は山越え気流や陸地上での局地的上昇気流,川の上での

相対的下降気流の影響を受けて鉛直運動をし,さらに海

上から陸上にかかると加速して複雑に変化するようであ

る.また海風高度が陸上で12~13時頃,海上で14~15時

に最も高くなること,最大風速が最高気1,,1の出現時より

2~3時間遅れていること,陸風循環の方が上層の反対

風を含めて顕著に現われているのに,海風循環は自由大

気中の一般流との境が明瞭でなかった.最後に瀬戸内海

では散在する小島の影響で海陸風の垂直構造がかなり複

雑であることに留意すべきことを付言したい.

          謝   辞

 この特別観測は広島地方気象台と広島航空測候所の各

有志職員によっておこなわれ,特にヘリコプター追跡観

測は第六管区海上保安部広島航空基地の絶大なるご協力

を得た.また大阪管区気象台と日本気象協会関西本部の

研究費助成によってなされたことを記し,あわせて各位

に深く謝意を表します.さらにPSPB切り離しに関して

は関西本部の貴重な助言と技術指導を得,また各測器の

貸与に大阪航空測候所,広島航空測候所と岡山航空出張

所が便を計ってくださったことを追記して感謝します.

参考文献

1)Angell,J.K.and D.H.Pack,1961:Estimation

 of Vertical Air Motion in Desert Terrain from

  Tetroon Flights.Mon.Wea.Rev.,89,273-

  283.2)Estoque,M.A.,1961:A Theoretical Investi-

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  J.Atomos.Sci.,19,244-250.

3)Fisher,E.L.,1960:An Observational Study

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7)Hsu,S.A.,1970: Coastal Air-circulation

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  Mon.Wea.Rev.,98,487-509.

8)飯田 務,1950:広島市内の海陸風,昭和25年  大阪管区研究会誌,2号.

9)川鍋安治,1966:神戸市東部における海風の測

  風2点観測結果について,神戸海洋気象台彙報,

  176,43-52.

10)神戸海洋気象台,1966:播磨灘東部で実施した

  海風観測結果,神戸海洋気象台彙報,176,53-

  64.

11)W.M.O.,1960:The AirHow over Mountains.

  Technical Note No.34,WMO-No.98.TP.43.

(以下330ぺ一ジの続き)

区分に適用した場合の検討が主である.水越はK6ppen

の気候区分,河村は各種の湿潤・乾燥示数の検討を行

い,水収支項の季節変化・年々変化が激しいモンスーン・

アジアに在来のものをそのまま用いることへの疑問を投

じ,概根はThomthwaiteの方法を用い,水収支の立場

からの地域区分を試みている.

 以上で,不満足ながら全論文の内容にふれた事にな

る.この辺で,何等かの苦言を提するのが書評の通例で

あるが,このような多くの分野を含む論文集に対し,専

門家でないものが口をはさむ事はしない方がよさそう

だ.ただ,ヒマラヤ山系の効果に正面から取り組んだ研

究が含まれていないことが淋しく感ぜられた.

 モンスーン・アジアの水収支を対象とした論文集は,

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世界的にも初めての試みであり,また英語で書かれてい

るので,国外の関心を強くひくであろう.冒頭で,日本

での気象関係者の関心はうすかったと述べたが,それで

も,現在までにかなりの論文が書かれている.しかし,

その大半が日本語であるため,折角の労作も海外の研究

者の注目をひかない事が多かった.最近,ハワイ大学の

Ramageによりかかれた「Monsoon Meteorology」(1971)

の文献リストを見れば,それがはっきりする.モンスー

ンに関する日本の研究からの引用は僅か10篇,しかもそ

のうちの5篇は,たまたま同じ大学にいる村上多喜雄氏

のものである.出版までの苦労は大変だったそうである

が,今後気象学・気候学の分野でこのような試みが次々

となされることが望ましく,その先鞭を着けたものとし

て高く評価したい.(敬称略)       (片山昭)

黙天気”19.6.