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政治制度論

政治制度論・政治学Ⅰの試験問題と成績評価状況(新しい順)

2018年度 試験用課題(2018年11月26日実施)

〇 事前に配布した「答案作成にあたっての注意」を踏まえ、講義の内容を参考資料として、自分なりの筋道を立てて議論をまとめることに留意しつつ、次の課題に答えなさい(時間は特段の事情がない限り90分)。解答に直接関係ない記述があれば、相応ないし相当に減点する。白紙はメモゥ用紙として使うこと。

課題:ディモクラシの制度化とその限界について、具体的な論点(2つ以上)に関する言及を交えながら、論じなさい。

受験条件  事前に出題テェマを提示した(ディモクラシの制度化とその限界)。持ち込み不可。

出題の意図と採点のポイント及び全体の講評(一部、重複している点を了解のこと) 採点期間が短く(12/06の成績入力締切前に第4タァムの授業が始まる)、時間が充分にはとれないため、誤字や誤記があること、順不同(羅列)になることを了承のこと(これでも丸2日かかっている)。なお、「答案作成上の注意」に書いた注意点の多くは省略する。

【全体】

採点は3回おこなう。最初の方で採点する答案は、採点が甘くなったり、厳しくなったりするからである。2回目は採点基準を変えて点数を付ける。3回目は最終チェックである。その際に加点要素を「懸命に」探す▼今回は、初めて途中で終わっている答案がなかった。素晴らしい。時間内に書き切ることが重要である▼最後に掲載した統計でわかるように、今回は優答案が2割である。これでも大盤振る舞いである。当初の「予定」は優以上が4割だった。優が少なかった理由の1つは、抽象名詞の使い方に大幅な改善を要する学生が多いことだろう(答案内容の出来以前の問題である)。このままだと、他の法学、政治学の科目でも低い評価が出る可能性が高いからすぐに改善した方がいい▼優が少ないもう1つの理由は、単に勉強不足だろう。出題テェマが事前に提示されているにも拘わらず、準備せずに試験に臨んだ学生がいるという事態に溜息が止まらない▼具体例を複数挙げていない場合は減点した▼全体として答案の分量が少ないのが気になる。90分もあるのだから、表裏一杯に書くものだろう。それに分量が少ないと加点したくともできない(76点の学生のうち、もう少し例を含めて書いてあれば80点~86点だった学生が数名いた。もったいない▼「減点マニアか?」といいたくなるほど、答案作成上の注意を無視する学生が何名かいた。故意か過失かはともかく、その自虐的な趣味を評価する習慣がないので遠慮なく減点した▼「字は人となりを表す」というが、字の巧拙・読みやすさは世の中では重要である▼記述と中味とがズレている答案が多かった。一例を挙げる。「日米を比較すると、独の象徴大統領制は…」、意味不明である▼主語と述語があっていない文章、主語がない文章が多い。提出5~10分まえに読み直してチェック・推敲すること▼勉強したことを文脈に沿わない形で書く学生がいる。加点対象にはならない▼「できるかどうか」と「すべきか否か」を区別しない学生も結構いる。両者の区分は弁識の基本である▼答案や論文と評論とはまったく異なる。現実政治を評論しても答案では解答したとはみなされない。もちろん短く例として挙げるのは構わないし、加点対象となる。政治学の場合、論文と評論との違いを意識しない・できない学生が多いという印象はある▼さまざまな歴史事例を挙げるのは大変結構だが、内容が(相当)間違っていたり、思い込んでいたり、進歩史観や階級史観など特定の歴史観に基づいた断定であれば減点される。今回の答案の例だと、絶対王政や市民革命などである▼制度の説明の間違いが少なくなかった。プリントで確認しておくこと▼書き出しは採点者への挨拶である。答案作成でも優美が求められる。論点に関する一般論や枠組みを提示するか、どのような順番で論じるかを示すのが常道だろう▼論点を指摘することは大切だが、論点に則して根拠を示して論じるのが通例であり、論点の指摘に留まってはどこまで理解されているのかが伝わらない▼一方で、根拠の提示なく、「~~すべき」等と平気で書かないこと。根拠の提示なしに断定できるなら、そもそも論じる必要はない▼前後のつながりを考えずに覚えたことをつらつらと書かない▼記述が前後している答案が多い。▼勉強したことを羅列しても、解答全体とのつながりがない場合には、その努力は評価には反映されづらい▼論じる上では、文と文、段落と段落との関係が重要であり、流れるような文章だと加点される(数名いて心地よい)。論じるとは道筋に沿って考察することである▼固有の制度や事象に言及する場合には必要最低限の説明を加える▼最初に言葉の定義をする癖は良い。ただ、その説明は主要な単語、論点と密接に関わる言葉だけで充分である▼同じようなことをくどくどと書かない▼本論とは関係のないことを(結構長目に)書いてしまう癖のある学生がいる。関係ない知識の披瀝を抑制することも答案作成上の重要な礼儀作法である▼挙例はいいが、個人の経験や体験を書いても仕方ない。印象論になりやすい▼言葉遣いや論じる順番・構成が似た答案が複数あった。協力して作成した「模範解答」を覚えるのは構わないが、きちんと意味を理解せずにうろ覚えで書いて支離滅裂になっている答案があった。同じ模範答案を用いて解答したのに評価が違っているのはそのためである▼論じるスタイルがいい(読みやすい)答案がいくつかある。採点する側も気分が良くなる。今後もその方向で進んでいってほしい▼挙例は加点対象となるが、意味や文脈がズレている例を、しかも数行以上書くのは減点対象となりやすい▼若干名が数行の全く同じ文章を繰り返し書いている。答案を最後に読み返すこと▼権力分立などの説明に際して、肝心の全体の課題であるディモクラシの制度化とその限界との関連が書かれていない答案が多かった▼民意の反映を、選挙制度との関連、議院内閣制・大統領制の比較、基本的人権の尊重との関係、世論調査の問題点で考察している答案が多かった。裁判官、公務員の選出方法(非ディモクラシ)への言及、民意の暴走はやや少なく、憲法と法律との関係(違憲法令審査権)や国民投票(住民投票)、権力分立と民意との関係の言及は一層少なかった。以上の論点をいくつか選んで要領よくまとめてくれれば80点以上である。

【個別】

<加点項目。行論に直接には関係しなくても、考察が不充分であっても、内容に応じて加点(順不同)>

 ▼ディモクラシの意味・複数の側面(理念(運動)=民主主義、体制=民主制、政体=民主政)▼ディモクラシの制度化の意味と可能性や妥当性▼民意の意味やその抽出・表出(選挙制度、世論調査)▼直接民主政と間接民主政との比較▼民意の反映に関する議院内閣制・大統領制の比較▼「民意」の暴走▼民意と基本的人権の尊重との関係▼ディモクラシと非デモクラシ(裁判官、公務員、天皇・国王など)との関係▼憲法と法律との関係(違憲法令審査権)▼国民投票(住民投票)▼民意と権力分立との関係▼公民教育▼個々の国家の事例の説明▼ダール、ランシエールなどの議論の紹介▼各国の国民投票の事例の引用▼リンカーンの言葉の立論への活用▼外交や軍事等政策分野での民意の反映の是非▼個々人の民意の表明の問題点▼行政国家・給付国家・福祉国家あるいは統治の高度化との関係▼個々の選挙制度の説明▼独任制や合議制との関係▼国家政治と地方政治(地方自治)との違い▼中央地方関係の説明▼民意の反映と命令的委任▼民主政と国民の責任との関係▼政治参加のあり方▼実効部分と尊厳部分▼権力と権威▼混合政体▼民主政と統治への要求過剰との関係

<減点対象とした記述や項目、問題文に指示してあるものについては省略。他人事だと思わないでチェックすること>

1.奇妙な、意味不明の、あるいはわかりづらい(わからなかった)表現

  ▼民意の数?▼ディモクラシを実行する?▼統治が分立?▼民衆の真意?▼ディモクラシの介入は被治者の権利の介入である?▼議院内閣制の行政システム?▼権力の乱用を防止するする点でディモクラシは介入してはならない?▼裁判員制度がすべての裁判(ママ)に適用されないのは、あくまで法の下の平等であって、民意による裁判ではないからである?▼民意を確定できれば、ディモクラシの根幹が崩れる?▼ディモクラシの正常な状態を安定させる?

2.言葉の意味の誤解・理解不足

▼立法と立法府、行政と行政府、司法と司法府との混同▼非民主的と反民主的との混同▼議院内閣制では議会が行政権を行使する→首相ないし内閣が行政権を行使する▼アメリカの内閣→大統領(行政府)、内閣らしきものはあるが…▼独大統領は国民が選ぶ→選ぶのは両院▼ルソーと半大統領制→(ほぼ)無関係

3.内容の誤解

▼外交政策を国民投票にかけられない→国のあり方を決める外交政策こそ、国民投票にかけるべきだとする議論。EUの加盟・離脱に関しては多くの国で国民投票(条約の国内効力の要件となっている場合もある)▼住民自治では素人の住民が政策を決定している→あり得ない▼議院内閣制の問題点は意見が対立すること→意見が対立すること・対立があること自体は素晴らしいはず▼世論調査は直接民主政→両者は無関係▼比例代表制は全国区→衆議院議員選出に関する現行制度は地域ブロック制▼アメリカ大統領は直接国民から選ばれているから権力が集中しやすい→直接公選と権力集中とは一応独立事項▼大統領制では議会は大統領の補佐機能を担う→両者は分離が原則▼議院内閣制を採用する国では1つの機関が破綻してもすべては崩壊しない→議会が破綻すれば議院内閣制は崩壊する▼首相公選は直接民主政→直接民主政とは国民投票など。代表者を選ぶのはいずれも間接民主政

4.その他

▼少数派の基本的人権を侵害することが公益に反する→そうとも限らないから厄介。また民主政が侵害を認めないとは限らない▼天皇・国王のような名誉を与える存在(権威、尊厳的部分)も統治機関▼問題を起こす議員がいることと、民意が反映されているか否かとはまったく別問題▼民意が変わりやすいことと、民意を確定できないこととは別問題。ある時点で民意は確定すると擬制できるから民主政は成り立つ。そうでないと、選挙制度などは正統性を失う。ただ、ある時点での民意と別の時点での民意とが異なることは常態▼直接民主政の問題点は効率が悪いだけではない、技術的に不可能であることに加え、仮に可能でもその結果が望ましいとは限らないこと▼人民、国民、民衆、大衆、市民という言葉は論争を呼ぶ用語なので使い方に注意。ニュアンスが分かった上で使うこと。特に人民、民衆、市民は政治色が濃い▼裁判所は国民の代表者から構成される国会が制定する法律に基づいて判断するから、国民は間接的に司法権にたずさわっている→そうとはいえない。司法府に影響を及ぼしているとはいえる▼議院内閣制や大統領制は統治体制ではなく統治制度。統治体制としては間接民主制▼選挙によって優秀な人材が議員に選ばれている→優秀の定義次第だが、賛成は得られにくいだろう▼過大な権力行使により政治の多元性が失われる→いいたいことは分からないではないが、価値観の多様性・統治手法の多元性などの方がわかりやすい

5.誤字

(誤)実践に→(正)実際に▼(誤)撤底→(正)徹底▼(誤)政治機関→(正)統治機関▼(誤)適性である→(正)適切である▼(誤)上手に機能する→(正)上手く機能する▼(誤)根定→(正)根底▼(誤)行き止まり→(正)行き詰まり▼(誤)態形→(正)形態▼(誤)価値感→(正)価値観▼(誤)三権分立を行使する→(正)三権分立を実施・実現する▼(誤)行政の人選→(正)行政官の人選▼(誤)権力分流→(正)権力分立▼(誤)行政政策→(正)行政・政策▼(誤)正とする→(正)是とする▼(誤)国民選挙→(正)国民投票▼(誤)幸福を侵害→(正)幸福追求権を侵害▼(誤)確心→(正)確信▼(誤)意見を委託する→(正)意思を委託する▼(誤)国家意思へと反映→(正)国家意思に反映▼(誤)自由や平等ができる→(正)自由を獲得し、平等を達成できる▼(誤)政制→(正)政治▼(誤)理念を体制へ接近する→(正)理念を体制へ組み込む・変換する・体制として確立する▼(誤)1票の格差→(正)1票の較差▼(誤)効率を阻害する→(正)効率を低下する・効率化を阻害する▼(誤)権力分担→(正)権力分立▼(誤)民意を聞く→(正)民意を問う▼(誤)これの前提として→(正)この前提に・これを前提として▼(誤)政治形態→(正)政治制度・政治体制▼(誤)後論する→(正)後述する▼(誤)行政権を行政する→(正)行政権を行使する▼(誤)その例には…挙げられる→(正)その例として…挙げられる▼(誤)乗っ取り→(正)則り▼(誤)肯綮する→(正)肯綮に中る▼(誤)制度を施行→(正)制度を整備▼(誤)政治を信託する→(正)統治(権)を信託する▼(誤)主催者→(正)主権者▼(誤)政治憲法体制→(正)統治システム・統治形態・政体▼(誤)統治体制→(正)統治形態▼(誤)専問的・専文的→(正)専門的▼(誤)正当性を付与→(正)正統性を付与▼(誤)被治者の意志→(正)被治者の意思▼(誤)目視化→(正)可視化▼(誤)議員内閣制→(正)議院内閣制▼(誤)罪罰→(正)刑罰・加罰▼(誤)法律は議会によって立法される→(正)議会が立法する・法律は議会によって制定される▼(誤)根幹がなくなる→(正)根幹が崩れる▼(誤)統治機構の分立・統治の分立→(正)統治権力の分立(その結果、複数の統治機構が設置・併置)▼(誤)大統領の権力濫用に陥りやすい→(正)大統領が権力を濫用しやすい・大統領による権力濫用が起こりやすい▼(誤)状況適応性→(正)状況に適応するとはいえるが、一般には状況適合性か、状況適応能力▼(誤)代わりはない→(正)この答案の文脈では「変わりはない」▼(誤)(少数派の権利が)保証される→(正)保障される▼(誤)妥当性を調査→(正)妥当性を審査

受験者数、GP分布、50点以上の成績の平均点、最高点他統計 授業登録者61名、受験者55名、受験率90.2%

件数(受験者数)

55

分布

0

0.0%

11

20.0%

35

63.6%

9

16.4%

不可(25/50点以上)

0

0.0%

不可(24/49点以下)

0

0.0%

単純平均

73.6

 

平均(25/50点以上)

73.6

 

最高点

86

 

最低点

60

 

2017年度 政治制度論・政治学Ⅰ 試験用課題(2018年2月8日実施)

AとBいずれも解答しなさい。Aは解答用紙の表面に、Bは解答用紙の裏面に、それぞれ解答すること。解答に関係しない記述があれば、相応ないし相当に減点する。配布したメモ用紙は提出しなくていい。解答(特にB)に際し、以下の点を守ること。

 「真の」「本当の」「真実」「本質」を用いない▼体言止めを用いない▼3つ以上の段落に分けて書く▼「さて」「ところで」「とすれば」「すると」「なので」「となると」「だが」を用いない▼行頭に句読点を打たない▼「~~するわけである」などの「わけ」を用いない▼「~~だ」「~~のだ」「~~のである」を用いない(「~~である」はokAy)▼「~~です」「~~ます」を用いない▼「~~なければならない」「~~すべきである」を用いない▼「思う」「感じる」「考えた」及びその類義語を用いない▼「~における」「~において」をできるだけ用いない▼私見(結論)は一通り論じてから書く▼無駄な・解答に関係しない空白行を設けない▼字は程良い大きさで、程良い濃さで書く(鉛筆はHB以上)

A ある都市の議会選挙では比例代表制が採用されており、市議会の議席総数は12である。ある年の開票結果は有効投票総数2,400,000で、A党、B党、C党の獲得票数は、それぞれ1,160,000、780,000、460,000だった。議席配分にヘアー方式(最大剰余法)とドント方式を用いた場合、それぞれの政党に割り当てられる議席数がいくつになるのか、答えなさい。なお、計算方法の説明や計算結果だけではなく、計算の過程(表を含む)も書くこと(配点の目安:50 点)。

B 議院内閣制度の趣旨を念頭に、「国会の委員会審議では、与党会派に所属する議員に政府に対する質問時間を与えるべきではない。」について論じなさい(配点の目安:50点)。

受験条件  事前に出題範囲を指定した(選挙制度と議院内閣制度)。持ち込み不可

出題の意図と採点のポイント及び全体の講評(一部、重複している点を了解のこと) 時間が充分にはとれないため、繰り返しがあること、誤字や誤記があること、順不同(羅列)になることを了承のこと(これでも作成に丸2日かかっている)

【全体】 

◯ 採点は3回おこなう。最初の方で採点する答案は、採点が甘くなったり、厳しくなったりするからである。2回は独立して点数を付け(採点基準も異なる)、3回目を最終チェックとする。その際に加点要素を「懸命に」探す。今回は、AとBでは問題の性質が異なるため、採点の基準も異なる。▼Aでは、各計算方式の趣旨が書かれ、計算方法が理解され、正しく計算されていれば、45点以上となる。Bでは、論点の指摘が少々不足していても、指定されたスタィルで「それなりに」論じ、最後にまとめがあれば、35点前後とした。然るべき論点が列挙され、順序立てて論じ、まとめをきちんと書いてあれば、40点以上になる。▼最後に掲載した統計でわかるように、今回は80点以上の答案が2割以上あった。しかし、当初の予定は4割から5割だった。少ない理由はAでの失点である。Bで36点(6割)以上あっても、全体として59点以下になっている学生もいた。▼Bでは、複数の視点で考えようとしながらもその視点間の関係を明らかにせずに、ただ羅列するに留まっている答案が多かった。▼枝葉というより単なる「葉っぱ」の考察にのめり込んでいる答案も少なくなかった。▼何よりも、試験範囲が事前に提示されているにも拘わらず、準備せずに試験に臨んだ学生がいるという事態に溜息が止まらない。

<答案の書き方あるいは論じ方(特にBについて)>(問題文に書いた注意点の多くは省略)

(1) 答案は読んでもらうものである。世の中は貴方を中心に動いていない。答案は分野による違いは多少あっても、整えて作成するものである。もちろん、採点するのは貴方ではないことを承知の上で自分のスタィルを貫くのは自由であり、想定外の結果を引き受ければ済むだけかも知れない。

(2) 書き出しは採点者への挨拶である。答案作成でも優美が求められる。書き出しには何通りかの手法がある。論点に関する一般論や枠組みを提示するか、どのような順番で論じるかを示す。事例問題であれば、論点を一通り簡潔に述べるのがいいだろう。是非を論じる場合だと、何を書くのかを書き、是(非)とする議論を述べ、その立論の根拠に合わせて非(是)とする議論を述べると形になりやすい。(是非を)論じなさいという課題に対して、冒頭から「私は賛成・反対である」と書かれると採点する気が失せる。少なくとも印象は相当悪い。厳しい教員だと0点かも知れない。最初に結論を書くのは、討論会、プレゼンティション、自然科学分野やアメリカ流の論文などで用いられる手法だが、説得の勝ち負けを競うか、読者の省エネのためのスタィルであって、大学の試験や公務員試験の解答スタィルとしては好ましくない。邪推だが、高校か予備校で小論文の指導を受けた影響か、就職活動のハウツー本の熟読の成果なのだろう。この種の技法はわかりやすいし、実際ビジネスなどでも奨励されることがあるが、学問の世界・答案が求める知性は嫌う。是非両論など各種の主張をバランスよく考察していないという印象を与えるからである。それに実際の処、この「文頭結論」というスタィルをとる答案は総じて出来がよくない。

(3) 論点に則して根拠を示して論じるのが通例である。▼論点の指摘に留まっては、どこまで理解されているのかが伝わらない。一方で、根拠の提示なく、「~~すべき」等と平気で書く学生がいる。根拠の提示なしに断定できるなら、そもそも論じる必要はない。▼解答が途中で終わっている学生がいつも何名かいる。時間内に処理することも答案作成の基本である。100メートル競走で90メートルまで走って止まれば試合放棄と見なされる。ただし、である。「出来が悪いが完成している答案」と、「標準以上の出来ながら終わっていない答案」のいずれを高く評価すべきかは、すべての教師を悩ませる問題だろう。学問の世界では後者を評価するはずだが(1970年代後半、京大入試での数学の採点がその方針だという噂だった。メモゥ用紙も提出させたからである。京大方式に倣おうかとも思ったが、止めることにした)、世間の常識でない。90分で1問、2つの問題を読み、選択し、プロット(全体図、航路図)作成に20分ぐらいかけても、まだ70分ある。考えるのはプロットを作っている時で、60分でプロットに従って書き終え、10分ほどで読み返す。内容に関する「推敲」と誤植に関する「校正」をする。時間が足りなくなる理由はプロットの未完成にある。プロット作成の重要性を再確認すること。答案作成能力の涵養が望まれる。最後まで書いてあれば、数点加点である。もったいない。時間の配分や調整も答案作成のプロとしての学生の腕の見せ所である。▼前後のつながりを考えずに覚えたことをつらつらと書く学生が多い。記述が前後している答案も少なくない。勉強したことを羅列しても、解答全体とのつながりがない場合には、その努力は評価には反映されづらい。減点要素となる可能性さえある。論じる上では、文と文、段落と段落との関係が重要であり、流れるような文章だと加点される。論じるとは、道筋に沿って考察することである。▼固有の制度や事象に言及する場合には、必要最低限の説明を加えること。▼最初に言葉の定義をする癖は良い。ただ、その説明は主要な単語、論点と密接に関わる言葉だけで充分である。▼相反する立場を論じる場合には、いずれの立場でも共有される事実や論理をまず提示することが手順として求められる。換言すれば、共有できない部分があるから、それが論点となる。重要なのは論理による説得力である。▼是非を問うとは、特定の主義を採らない限り、メリット・ディメリットを論じることではない。この辺り、言葉遣いに注意すること。

(4) 結論はまとめることを基本とする。その後で私見を加えてもいい。「結論がない」、「結論が出ない」という結論でも構わない。その理由をきちんと書けば説得力がある。もちろん、是非いずれもそのままでは妥当ではないという結論もある。条件を付け加えるなどの工夫が必要だろう。必要・不要という結論の出し方は要注意である。肯定されれば必要になるが、議論の次元が異なる。是でなくとも必要である場合もあるが、必要だから肯定(正当化)されるとは限らない。▼私見はどの立場をとっても構わない。貴方の賛否は論じる上では重要ではない。論じるとは、自分以外の他者に受け容れられる議論を進めることである。自分の結論は決まっていても、是非の議論では、自分の意見を加えることをぐっと我慢して、各論点にどういう根拠(正当性)があるかを整理して示すことが重要である。論じる途中で自分の意見を挟み込んでいる答案が多い。それが好ましくないから、結論の中に個人的な意見(賛否)を述べる場合に私見という形を取る。▼私見は私の見解という意味で用いること。そうすれば、気分の吐露や感想文めいた表現はなくなる。何らかの結論が望ましい理由を付した論理を示すことが求められている。▼私見は簡潔に(数行で)書く。私見が長くなるのは、論点整理がきちんとできていないからである。▼私見を述べる場合には、主要な論点に即して自分が採らない側の議論の欠点部分を指摘し、その上で自分の意見を述べるという方法もあるが、やや高等だろう。▼結論部分に本論で扱えなかった点を書いておくことはいい。▼論点に関する叙述と結論とが、また文頭結論スタィルでは文頭の結論と最後の結論とが違っている答案がある。途中で気が変わったのだろうか。

(5) 同じようなことをくどくどと書く癖がある学生が時々見受けられる。おそらくは日常会話にもその癖が現れているだろう。「治す」のは今のうちである。▼本論とは関係のないことを(結構長目に)書いてしまう癖のある学生がいる。関係ない知識の披瀝を抑制することも重要な作法である。それに間違っていれば減点されるだけである。▼例を書くのはいいが、個人の経験や体験を書いても仕方ない。それにどうしても印象論になりやすい。答案は床屋政談や井戸端会議の書き下ろしではない。そろそろ「気づいて」ほしい。▼言葉遣いが似た答案が複数あった。「協力して」勉強した結果なのだろう。協力して作成した「模範解答」を覚えるのは構わないが、きちんと意味を理解せずにうろ覚えで書いて支離滅裂になっている答案があった。同じ模範答案を用いて解答したのに、評価がかなり違っているのはそのためである。▼論じるスタイルがいい(読みやすい)答案がいくつかある。採点する側も気分が良くなる。必ずしも内容を伴っていなくても加点したくなる。おそらく他の試験でも、その学生達は解答作成に苦労していないだろうと思う。今後もその方向で進んでいってほしい。

<言葉遣いや答案の作法など> 

他人の今日の間違いは自分の明日の間違いであるから、確認すること(他山の石)。誤字といっても、明治時代などの文献にはその用法が見られる場合もあるので、必ずしも誤字だとは断定できない。親友を信友、子供を小供(この漢字の復活が望まれる)と書くなどその例は数百、数千ある(漱石には多い)。

(1) 誤字など (誤)分る→(正)割る、(誤)法式→(正)方式、(誤)穫得→(正)獲得、(誤)正数→(正)正の整数、(誤)元に→(正)基に、(誤)議度→(正)議席、(誤)意行→(正)意向、(誤)議員内閣制→(正)議院内閣制、(誤)形式状→(正)形式上、(誤)強行裁決→(正)強行採決、(誤)必到→(正)必至、(誤)可欠→(正)可決、(誤)用づいて→(正)基づいて、(誤)内閣政党制→(正)政党内閣制、(誤)与党派→(正)与党会派、(誤)事体→(正)事態、(誤)党主→(正)党首、(誤)自由に則する→(正)自由に資する、(誤)制席→(正)制度、(誤)意を反する→(正)意に反する、意見を異にする、(誤)禁示→(正)禁止、(誤)制治制度→(正)統治制度、(誤)内閣立法法案→(正)内閣提出法案、(誤)内閣への監査→(正)内閣の活動の監視?、(誤)少さい→(正)小さい、「求まる」→「求められる」、(誤)則している→(正)即している(則は則る(のっとる))、(誤)審義→(正)審議、(誤)獲票数→(正)得票数、(誤)投表→(正)投票、(誤)権力分流→(正)権力分立、(誤)念頭に上げる→(正)念頭に置く、(誤)懸念事項→(正)懸案事項、(誤)議会の信頼→(正)議会の信任、(誤)民主主議→(正)民主主義、(誤)少数部分→(正)小数部分、(誤)市長議会→(正)市議会?

(2) 同音異義語 「初めに」と「始めに」、「意志」と「意思」、「測る」と「図る」と「計る」と「諮る」、「司る」と「掌る」、「趣旨」と「主旨」

(3) その他  話し言葉(口語)は、解答や正式文書には用いない。採点する気が失せる。▼日本語としては充分に馴染んでいない外来語の扱いは難しい。可能な限り、カタカナは用いないように努力すると日本語の質が高まる。ただ、アィデンティティのように、適切な日本語訳が見つからない場合にはカタカナ表記を用いるより他ない。▼ひらがな、カタカナ、漢字がきちんと書けていない答案が結構ある。「リ」と「ソ」と「ン」、「シ」と「ツ」、「名」と「各」などが間違いの定番。心当たりのある人は今のうちに「治して」おくこと。カタカナ・ひらがなの五十音を書いて、友達に見せてみるといい(間違いをきちんと指摘してくれる人を友達という)。▼「字は人となりを表す」というが、字の巧拙・読みやすさは世の中では重要だと思う。▼箇条書きはできるだけ避けること。論述にはふさわしくないと見なされやすい。▼左端(最近は右端も多い)の空白列、あるいは(意味不明の)空白行などが結構あった。そのような癖は「治す」こと。答案は貴方のノートではない。▼語尾に用いる動詞の語彙数を増やしておくことは、難しい漢字を読めるよりははるかに重要である(西欧に較べ、日本の国語教育ではこの点が欠けている)。推論、推測など意味を誤って用いられている例が多い。▼どうしても読めない字がいくつかあった。5分ぐらいはかけて読もうとしたが、結局あきらめた。▼問題文に指定された単語・用語はそのまま使うこと。新しい単語を用いるなら、定義するのが作法であり、手順である。不注意か自己中かはわからない。▼解答とわざわざ最初に書く必要はない。段落番号を打つ必要はない。▼文字が薄いもの、小さいものがまだあった。字の濃淡は答案では評価に反映すると思う。▼「ということ」という表現はなるべく用いない。かったるいし、美しくない。

【A】

 各方式の趣旨や計算方法についてはプリントを参照のこと。

<減点対象とした記述や項目、問題文に指示してあるものについては省略。他人事だと思わないでチェックすること>

数値の桁を揃えていない答案が多かった。今のうちに癖をつけること。社会人になったら、発注ミスなどの原因となる。▼ 計算ミスが多かった。電卓を使えばないという反論は無効である。頭と手で計算する癖がつけば、電卓で計算しても間違いが減る。電卓に頼ると入力ミスから生じる間違いを数秒以内にみつける「勘」が養われない。日本人の作成した資料が先進国でダントツに正確な・だったのは、ソロバンを使って頭と手を使う文化があっただろう。ただ、今は発注ミスが増えている。▼勘違いの答案が本当に多かった。友人と話しているうちにアッと思うことだろう。ヘアー方式だと小数第1位の計算違いが数名。ドント方式での計算間違いの方が多かった。計算が違っていれば、結果は正しくともそれは単なる偶然である。ドント方式で表を作成していないもの、表中に順位をつけていないものは減点した。順位をつけることに意味があるからである。また計算はあっているのに、大きい順の番号を付け間違っている答案が複数あった。慌てたのだろうか、もったいない。綺麗に表を作ると間違えないともいえる。▼ 12議席を12席のように書く学生が多かった。確かに、椅子に座るが…▼経済学部を除く文系学生には数学は不要だと思っている学生がいるが、これは算数である。▼ヘアー方式は結局、比率であるが、問題は「当選基数に足りない」端数の処理である。そのあたりがわかっていない答案が結構あった。比率だから、余りを考えるのもいいが、その場合、〇〇余り〇〇などと書いてある(書き方を間違えているものもあった)のは間違いの元となる。また、小数第1位で四捨五入している答案が結構あった。こちらは明らかな間違いである(たとえば、3つの政党の小数第1位がいずれも5以上だった場合を考えればわかるだろう)。▼時間がなかったのか、わからなかったのか、一方のみ書いた答案が結構あった。出来はよかっただけにもったいない。▼ 計算の下書きを答案に残す学生が数名いた。何のための下書き用紙だろうか。▼ヘアー方式の場合、残る議席は、小数部分の大きい政党順に議席が配分されることを書き忘れている学生が多かった。A、Bに1議席ずつ割り当てられるではなく、まずB政党に1議席、次にA政党に1議席配分されるである。

【B】

 議院内閣制度の基本は、三権分立、すなわち立法、行政、司法という国家権力作用をそれぞれ「専ら」担う機関として議会、内閣、裁判所を設置した上で、議会が内閣の長たる内閣総理大臣を選出し、内閣総理大臣がメンバーを選出して内閣をつくる(それが議会の委員会が政府を構成するという意味である。「議会の委員会が内閣を形成する」が議院内閣制一般の特色であり、歴史的経緯を踏まえた表現であるが、日本では、国会が国会議員の中から内閣総理大臣を選出し、内閣総理大臣が組閣するのであって、議会が組閣するための委員会を作るのではない)。その骨子は内閣が自らの正当性の根拠であり、被治者(国民)の代表である議会と連帯して統治責任を負う点にある。従って、議会の信任を失えば、内閣が総辞職することが要諦となる(責任本質説)が、権力分立との関係でいえば、議会が内閣に対して一方的に優位にあることは望ましくないことから、首相あるいは内閣に議会の解散権を与えて議会と内閣との間に抑制と均衡が働くようにすることもこの制度の要諦である(均衡本質説)とされる。この両側面とある程度対応したものが、<国会対内閣>と<野党対与党=政府>(政党という媒体により、政府を構成する集団と政府を構成しない集団とに国会議員を分ける発想)である。国会(委員会)が審議する法案のうち、政府提出法案に関して国会議員は内閣に質問する(国会議員が提出する法案なら内閣は関係ない)が、その場合、<国会対内閣>で考えるなら、国会議員が質問することは当然の職務であるのに対し、<野党対与党=政府>で考えるなら、与党会派に所属する議員が政府に対して質問することの意味が問われる。このあたりを、議院内閣制度の趣旨や政党の機能を説明した後に、論じてもらえれば、合格点である。

<加点項目。行論に直接には関係しなくても、考察が不充分であっても、内容に応じて加点(順不同)>

内閣のメンバーでもある国会議員は、一種の利益相反の状態にあるのではないかという指摘、▼衆議院と参議院では役割が異なる(選出方法も異なる)ため、両院で与党会派議員に質問時間を与えるか否かの是非が異なるという指摘。これは上院制度のありかたと関わるが、議論自体は難しい。参議院が良識の府と位置づけられれば全員が質問すべきだろう。▼与党内部の議論が公開されていないことから、与党会派議員の政府に対する質問には意味があるという指摘、▼ほとんどなかったが、連立政権の場合をどう考えるのかという指摘があってもよかっただろう。▼制度上の議論(規範論)に、実際の政党政治(政党史)の事例を加える考察。本来は別次元の問題であるが、現実を踏まえて制度を設計・刷新すべきであり、また制度(規範)によって現実を変えるという制度と運用との循環関係があるから重要ではある。▼与党議員こそ、法案採決に重要な・実質上の鍵を握っているのだから、政府に対して質問する時間を設けるべきという意見。但し、与党内部で議論すればいいという主張に対する有力な反論にはならない。また、最近の野党の質問は、政策論議などと無関係なものが多く、むしろ与党側の質問に実質があるという指摘。野党根性が染みついているならどうしようもないだろう。与党からは、野党には思いつかない質問がでる可能性があり、法案の内容に関して同じ立場からの質問であるがゆえに、かえって議論が深まる可能性があるという指摘も同様である。▼先日、この問題が国会で議論されていたが、その内容に言及したもの、▼委員会の公開、非公開に則して問題のあり方を考察したもの、▼政党の役割を説明したもの、▼党議拘束があるならば、与党議員の質問には意味が無いという指摘。ただし、党議拘束がかかるかどうかは国会での審議次第という側面もあって、時間の順序を考えると、党議拘束の存在を与党議員の質問時間削除・削減の根拠とし難い。▼政府提出法案に反対した場合に除名処分などを受ける可能性の指摘については、個別事情によるとしか云いようがないが、除名処分は簡単に出せるものではない。▼国民の代表である国会に対する政府の説明責任があるという指摘、▼国会での質問は、議員にとっては「ハレ」の舞台である(テレビ中継もある)から、与党会派議員だからといって、質問時間を奪うのは好ましくないという指摘。委員会審議を政治舞台と考えれば、その通りである。▼個人の信条に関わる法案もあるから与党会派議員にも質問時間を与えるべきという指摘。但し議員提出法案の場合には当てはまらない。政府に対する質問はないからである。

<減点対象とした記述や項目、問題文に指示してあるものについては省略。他人事だと思わないでチェックすること>

(1) 権力分立に関する、基本的な部分での誤解(「議会の委員会」については上記参照)

  議会の内閣に対する不信任(政治的にそのような意味を持つことはあるが、不信任案は衆議院)▼議会の大臣に対する不信任(個々の大臣に対する衆議院の不信任決議は、内閣総理大臣に対する不信任案とは異なり、法的拘束力はない)▼首相の議会解散権(→衆議院の解散)▼国会は首相を任命(任命ではなく、指名)。大臣は首相に選ばれるが、この場合は憲法上任命と呼ばれる。▼行政と行政権と行政府の混同、▼内閣は解散ではなく、総辞職、▼国会=立法権、内閣=行政権、裁判所=司法権とする答案、▼国会と内閣とは対等、又は議会が内閣に対して優位にあることは不要という指摘。国権の最高機関であるという憲法第41条の規定に反する。▼内閣総理大臣は衆議院議員ではなく、国会議員。但し、参議院議員から内閣総理大臣が選ばれたことはない。▼大臣は国会議員とは限らない(憲法では半数以上)。なお、国会議員でもある大臣が国会で答弁することこそ、議会のチームが内閣を構成することを意味している。

(2) 制度に関する誤解

   質問時間は国会議員個人に与えられているのではなく、(一定数以上の)会派に与えられている。▼与党から内閣総理大臣が選出されるのではなく、内閣総理大臣を選出した政党(会派)が与党。「地球は太陽の周りを1年かけて回る」という間違いと同じ。▼独任制や合議制は決定権限の所在の類型であって、選ばれ方ではない。▼日本の場合、省庁の編制に合わせて委員会が設置・編制される傾向が高いが、議会の委員会は議会で設置されるのであって、大臣や省庁の下にはない。▼官僚が国務大臣に任命されることはほとんどない(官僚出身の国会議員は話が別である)。大臣が省庁の長であるから官僚だと考えたとすれば、間違いだが、国会議員以外の者が就任していると考えたならば、日本の制度の特色を理解しているとも考えられる。ともあれ、省庁の長に国会議員が就くことに議院内閣制の趣旨がある。従って、本来は全員国会議員であってもいいはずである。▼首相を出す政党は議会では与党会派であり、複数の政党が1つの会派をつくることがある。▼与党の質問時間をなくすと、国会の内閣に対する監視機能が低下するという指摘は、野党の審議内容次第では、むしろ逆かも知れない。▼予算案は法案ではない。内閣に作成権限があり、内閣が国会に提出する(憲法第73条)。▼内閣総理大臣は国民の定期的な選挙で選ばれないため、任期がない。数十日で辞任する(辞任させられる)首相もいれば、何年も在職する首相がいる。▼議会に質問時間を与えることと、与党会派に質問時間を与えることを区別していないもの、▼首相も国務大臣であるから、首相や国務大臣ではなく、首相や大臣でいい。

(3) 指摘

   与党内部にも与党首脳部に反対する議員がいるから質問時間を与えるべきであるという議論が多かったが、誰に質問させるかは与党の執行部が決めるから、その指摘は現実には実現しづらい。▼議会の最大会派(政党)が与党となるとは限らない。自民党は55年体制以降、2009年を除いて第1党だが、細川内閣、羽田内閣は非自民内閣である。村山内閣(社会党)では自民党は与党(自民党、社会党、さきがけ)。▼権力と権威の分離は本問とは直接関係しない。なお、その意味を誤解している答案(議会=権力、内閣=権威など)が複数あった。▼現在与党議員にも質問時間が認められているから、この提案が問題となる。▼本問の議論の前提は、政府提出法案であることである。▼与党側の質問でも公正な立場からの質問なら認めるべきだというが、質問が公正かどうかは事後的にしかわからない。不適切な質問を認めるべきではないについても同様。▼与党内部で複数の意見がある場合などは、与党対政府の審議を国会で行うことに意味があるとする指摘は、議員立法には当てはまらない。▼イギリスは常任委員会制度ではなく、本会議制度で政府対野党(影の政府)という形になっている。それは議会の座席配置に表れている。▼質問時間を与えるのは議会に権限を与えることであるという指摘があったが、国会が唯一の立法機関であり、政府提出法案が多い状態が本来あるべき姿ではない。▼与党議員の質問は事前に政府に知らされているから必要ないという指摘があるが、野党の質問も通常事前に伝えられており(そうでないと大臣は答えられない)、しかも通常官僚が答弁する大臣のための答弁書のようなものを作成する。▼会派と政党の混同。議会活動の単位は会派であることが多いため、無党派議員は特定の会派に所属することがある。▼ 「委員会での審議が与党内の審議であって、与党と政府との結びつきを妨げる」?、与党と政府とが一体であると考えれば、委員会で与党会派が審議するのは、仲間内での紛糾を誘うという意味だろうか、▼政府が国民に対して政策・施策の説明をするための機会を設けるために与党議員が質問するという議論があるが、さすがにどうだろうか。国会が政府・与党の宣伝機関になってしまいかねない。それに、政策や施策の説明なら、他にも機会がある。

<補足>

  制度上の意味をきちんと書く。その上で実態の説明を書く。政治制度論のテストである。▼政府が法案を提出するのは議院内閣制度の趣旨に反するとして、形式だけは議員提出立法の形をとる国がある。その場合、審議は法案提出側と残る側との間で行われるが、与党議員の提出法案が多いから、結局首相が(おそらく形式上は党首として)答弁することになる。▼与党議員も野党議員も国民代表だから、質問する権利を剥奪されるべきでないという意見があるが、むしろ与党の政策への批判・監視の場所として国会を位置づければ、与党議員の質問時間がなくても構わないという立論にも説得力がある。▼国会運営には金がかかるという議論があるが、費用の問題は重視されるべきではないだろう。それに国会審議自体には大した費用はかからない。むしろ、費用の節約によって審議が手抜かれる方が結果的には「高くつく」。▼妥協案として、野党の方に多くの質問時間を与えるという提案があったが、1つの考え方だろう。現在のように、会派の人数比率で質問時間を決めるのは、国民の代表者からなる国会としては当然かもしれないが、国会審議の持つ両側面を考えると疑問が生じるのも当然である。ともあれ、野党の質問に対して堂々と答えられる政治家の登場が望まれるが、野党の質問の質も上がらないと話にはならない。▼与党議員があらわす国民の意思は内閣提出法案に反映されているとみることもできる。▼政党内閣だから内閣は政党にのみ責任を持つというのは、そのような事例(国会や国民への責任放棄)があるかもしれないが、本問題のような制度設計を考える上では想定されない。政党は制度上媒体に過ぎない。▼与党議員に質問時間を与えることにで審議の迅速化が図れるという議論。与党=政府一体という観点を国会と内閣との連帯と読み替えれば、迅速化にも意味が出てくる。野党だけに質問時間を与えると(無駄に)伸ばそうとするという指摘があるが、迅速・早急に決めないことも議会の役割ではある。それに実際には質問時間は予め割り当てられている。▼日本では、他国のように質問による引き延ばしが出来ない・しづらい(審議時間の制限が多数決で可能)ため、野党は投票行動で引き延ばしを行う(牛歩戦術)。ただ、これには会期の設定の問題も関係している。通年議会にすれば色々変わるだろう(一部自治体で導入。地方自治法第102条と102条の2)▼そもそも昼間、一般の社会人に国会中継を観る時間があるとはとても思えない。議会での審議の説明のために、メディアが存在するのだろう。▼議院内閣制度の趣旨の理解次第では、問題文の主張が野党からなされるとは限らない。▼国会は与党会派議員の「造反」の舞台ともなりうるが、相当の批判を受けることになる。

5・9・10 受験者数、GP分布、50点以上の成績の平均点、最高点他統計

 

合計

13.9%

1.5%

0.0%

27.7%

10.2%

21.2%

22.6%

22.6%

32.8%

11.7%

27.7%

26.3%

不可(25/50点以上)

7.3%

14.6%

5.1%

不可(24/49点以下)

16.8%

23.4%

14.6%

単純平均

34.4

30.4

65.7

平均(25/50点以上)

38.8

34.2

70.7

最高点

48

49

88

最低点

0

3

3

 注) 授業登録者152名、受験者137名、受験率90.1%。最終段階で得点調整(加点要素を考慮)しているために、AとBの統計と最終の統計とは合っていない

2016年度 特殊講義(政治制度論)/政治学Ⅰ  試験用課題(2016年8月4日実施)

次の課題について、柔軟に発想し、緻密に論じなさい。 解答に直接関係のない記述があれば、相応ないし相当に減点する。メモ用紙は提出しなくていい。 なお、事前に知らせたように、解答に際しては、以下の点を守ること。

・「~~性」「~~的」「~~化」などの用語は便利だが、できるだけ用いないで表現してみる。

 ・「真の」「本当の」を用いない。「真実」「本質」も用いない。体言止めを用いない。 ・4つ以上の段落に分けて書く。

 ・段落の最初に「さて」「ところで」を用いない。文頭に、「とすれば、」「すると、」「なので、」「となると、」「だが、」などの口語表現を用いない。行頭に句読点を打たない。

 ・「~~するわけである」などの「わけ」を用いない。「~~だ」「~~のだ」「~~のである」は用いない。「~~である」はokay。「~~です、~~ます」を用いない。「~~なければならない」「~~すべきである」を用いない。

 ・「思う」「感じる」及びその類義語を用いない。「と考えた」という表現を用いない。

 ・「~~における」「~~において」をできるだけ用いない。

 ・私見は一通り議論してから書くなら構わない。

 ・指示されない限り、空白行を設けない。

課題:主要先進国の政治制度とその運用を参考に、ディモクラシの制度化という観点から、国民投票の妥当性について論じなさい。

<受験条件  事前にキーワード(「国民投票」)と答案作成上の注意事項を示した。持ち込み不可>

<出題の意図と採点のポイント(成績評価状況作成の時間が成績登録との関係で充分にはとれないため、繰り返しがあること、誤字や誤記があること、順不同(羅列)になることを了承のこと)>

<全体の講評>

◯ この試験に限らず、採点は3回おこなうことにしている。2回は独立して点数を付け(採点基準も異なる)、その上で3回目に最終チェックをする。その際に加点要素を「懸命に」探す。少々論点の指摘が抜けていても、指定されたスタィルで「それなりに」論じ、最後にまとめがあれば、70点前後の答案とした。この前後(66点から74点の範囲)の答案が相当数を占めるのはそのせいだろうが、後述するように真に残念である。順序立てて論じ、まとめをきちんと書いてあれば、80点以上の答案になる。政治制度論という比較的簡単な試験なのに、80点以上の答案が4名と少ないのは、総じて減点要素が多かったためだと考えてもらっていい。評価点数の下1桁が8だった人は、誤字や誤記、表現の稚拙、不用意な断定や例示など減点要素が多かったためである。また、複数の視点で考えようとしながらも、その視点の間の関係を明らかにせずに、ただ羅列するに留まっている答案が多かった。さらに枝葉というより、葉の考察にのめり込んでいる答案も少なくなかった。正直いうと、今回は、80点以上を30~40%は出すことになるんだろうと少し楽しみにしていた。ところが、ところが、である。国民投票というキィ・ワードが事前に提示されているにも拘わらず、その意味を調べずに試験に臨んだ学生が相当数いた。どういうことなのだろう・・・。どのような制度が、国民投票に該当するのか、それぞれの概要と問題点を調べる程度の準備は出来たはずである。溜息が止まらない。なお、この講義は、カリキュラム上、政治制度論(旧カリ)と政治学Ⅰ(新カリ)に分かれている。学部を問わず、前者が2年生以上、後者が1年生である。採点基準は同じなので統計上大した意味はないと思うが、文末には細かい統計も掲載しておいた。当然なのかも知れないが、2年生以上の方が点数が良かった。

<答案の書き方>(問題文に書いた注意点の多くは省略する)

(1) 論じなさいという指示に対して、冒頭から「賛成・反対である」と書かれると、採点する気が失せる。貴方の賛成、反対は論じる上では重要ではない。論じるとは、他者に受け容れられるような立論を進めることである。従って、個人的な意見を述べる場合には私見という形を取る。また、是非を問う場合、必要かどうかは別の問題である。両者は次元が異なる。是とされるものは必要だろうが、必要なものが是とされるとは限らない(必要悪という言葉がある)。また、是非は功利主義の立場に立たない限り、メリット・ディメリットを論じることとは違う。言葉遣いに注意すること。

(2) 答案なので、「私は」という言葉はほぼ登場しないはずである。もちろん「私見」で書くことは認められる。冒頭から「私は」などと書かれると、採点する気が失せる。少なくとも印象は相当悪い。厳しい教員だと、それだけで0点かも知れない。私見は、私の意見という場合と私の見解という場合とがあるだろう。私の意見となれば、少しラフになる。答案では私の見解の意味で用いるのが通例だろう。そうすれば、気分の吐露や感想文めいた表現が減る。私見を述べる場合に希望は書かない。どうあるべきかが問われているからである。望ましい理由を付した論理を示すことが求められている。一般に政治学では私見は加点要素に過ぎない。答案によっては問題への解答部分より私見の方が多いものがあった。私見では、自分が採らない議論の「駄目な」部分を指摘し、その上で自分の見解を述べて自分の主張の説得力を増すという方法がある。私見が長くなるのは、論証部分で論点整理をきちんとできていないからである。私見ではじめて個々の論点に触れている場合には相応に減点した。

(3) 答案は読んでもらうものだということを再確認されたい。採点するのは貴方ではない。そして、答案は単に書くものではなく、答案は作成するものであることを意識されたい。

(4) 論点を挙げるだけで、その論点の説明、なぜそれが論点となるのかを施さない答案が少なくなかった。本問の場合、妥当性の是非両方の議論を書くことが求められている。貴方の個人的な賛否だけを書いても仕方がない。「論じること」が求められているのだから、「思う」、「思われる」、「かもしれない」などの表現は用いられない。断言は好ましくないが、明言は必要である。「思う」などの代わりに、「という判断もある」、「という評価も可能である」、「と推測できる」、「と想定できる」、「と思料する」などの言い換え表現を覚えておくと便利だが、その意味を考えずに用いている例が多かった。特に推論や推察の意味で推測を用いている例が目立った。

(5) 前後のつながりを考えずに、覚えたことをつらつらと書く学生が多い。記述が前後している答案も少なくなかった。勉強したことを羅列しても、勉強の努力は買われても、解答全体とのつながりが分からない場合には、評価にはその努力は反映されづらい。むしろ減点要素となる。論じる上では、文と文、段落と段落との関係が重要であり、流れるような文章だと加点される。読みやすい答案も結構あったのでそれだけで加点した。従って、最初にプロットを作ることが重要になる。論じるとは、道筋に沿って考察することである。

(6) 書き出しも重要である。いきなり、論じはじめても唐突すぎる。挨拶なしで本題に入るような不作法という印象を与えかねない。書き出し方には何通りかある。問題となる論点に関する一般論や枠組みを提示するか、自分がこれからどのような順番で論じるかを示すのが一般だろう。事例問題であれば、論点となる部分を簡潔に述べるのもいい。従って、最初に肯定論あるいは否定論から論じ始めるのはいかにも唐突である。一方で、書き出しは「そこそこ」いいのだが、途中で息切れしている答案が多かった。やはりきちんとしたプロットを作る癖をつけるようにした方がいい。その作業をふまえるだけで10点は違ってくるはずである。そしてその際に時間配分も書いておく。90分で1問なのに途中で考察が終わっている答案もけっこうあった。時間配分も試験を受ける際の基本技能である。また、「国民投票の妥当性」という主題に入るまでが長すぎて、肝心の主題に関する解答が質量とも貧相な答案がかなりあった。そういえば、試験中メモ用紙を下書き用紙のように用いている学生がいた。下書きするのは卒業研究などでは大切な習慣だが、も試験では、時間欠乏の原因となるだけでなく、頭の整理にも役立たない。プロット作成やマッピングに習熟すること。

(7) 制度について言及する場合には、必要最低限の説明を加えること。最初に言葉の定義をする癖は良い。ただ、その説明は主要な単語、論点と密接に関わる言葉だけで充分である。

(8) 似たような答案が複数あった。「協力して」勉強した結果なのだろう。協力して作成した「模範解答」を覚えるのは構わないが、きちんと意味を理解せずにうろ覚えで書き写し、支離滅裂になっている答案がいくつかあった。同じ模範答案を用いて解答したのに、評価がかなり違っているのはそのためである。

<ポィント>(加点要素でもある)

◯ 国民投票の分類とその分類が妥当性の議論に影響するか否かを考える。いくつも分類があり、特に言及する必要はない(言及してあれば加点した)が、参考のために書いておく(法学部生以外の学生も多いので、憲法学での用語は用いないことにする。また、これら以外の分類もあるが省略)。なお、(1)-1には言及して欲しい。

(1)-1 目的による分類。制度を作る(立法)、政策への賛否を示す、人を選ぶ・辞めさせる

(1)-2 実施の条件による分類。義務(日本の憲法改正)、議会などが必要だと認めた場合、国民が要求した場合

(1)-3 効果による分類。法的効果があるもの(拒否も含む)と参考・諮問に留まるもの

(1)-4 発議権の所在による分類。政府、議会、一定数以上の議員、一定数以上の有権者。なお、発議権と発案権を区別する議論がある。日本では憲法第16条(請願権)と関連づけて論じられる。

(1)-5 性格による分類。国民表決(referendum)、国民拒否(popular vote)、国民発案(initiative、直ちに国民投票となるものと議会の審議に付されるもの)、国民意思表示(prebiscite)、国民解職(recall)。なお、日本の最高裁判所裁判官の国民審査はリコールに該当すると考えるのが普通に思えるが、議論があるようである。

(1)-6 日本の国民投票。憲法第96条(憲法改正)、第95条(地方自治特別法の制定に際しての住民投票)、第79条(最高裁裁判官の国民審査)

(2) 議員や大統領などの選出を、この場合の国民投票に含めて議論するか否かをまず提示する。どちらでも構わないが、問題の所在を理解していることを示す必要がある。なお、議員や大統領の選出のみを論じている場合には相応に減点した。国民投票を論じるが求められている場合に、議員や大統領の選出に限定するのはかなり特異だからである。人の選出(罷免)と立法や政策選択との違いは、後者では一定程度の事柄に関する(専門)知識が不可欠となる点にある。従って、議会やマスコミが果たす役割、さらには公民教育(シチズンシプ)が重要となる。さらに、立法または政策選択型の国民投票の場合、一般には発議は二者択一の提示になりやすいが、二者択一以外の方法はあるのかなどの検討があれば加点した。

(3) そもそも国論・世論を二分することが予測される重大案件は、国民投票の対象にふさわしいのか、むしろ二分するからこそ国民投票にふさわしいといえるのか。また、重要な問題ほど国民自らが決定した方がいいのか、重要な問題ほど国民の決定は危ういと考えて忌避すべきなのか、このあたりの考察が基本

(4) 各国の国民投票制度の説明。日本については、「唯一の立法機関」という特異な規定のある憲法第41条との関係が論点。ただ、国民投票も結局は何らかの法律に基づいて行われるから、憲法学などで言うほど問題ではないように思える(国民という機関への委任と考えればいい)。いずれにしても、憲法第41条はやはり特異である。

(5) 国民投票と住民投票との違いの言及(連邦制では州民投票)。但し、これは非常に難しい。住民投票には論点が多いからである。本問は国民投票なので言及する必要はないが、日本でも住民投票は相当に制度化が進んでおり、実施回数も多いので面白い。法学部生は憲法及び行政法を参照のこと。卒業研究にもいいテーマである。

(6) 「国民による政治」と「国民のための政治」との関係は基本的論点の1つ。ディモクラシにおけるアマチュアリズムの問題とも関連する。また、「誰が決めるのか」と「どのように決めるのか」と「何のために決めるのか」という観点から考察してもいい。重要なのは、国民投票で決めてはいけない争点(=基本的人権)があると見なすのか否かである。

(7) 国民投票によって成立した立法(憲法改正を除く)や政策と違憲立法審査権との関係。これは議会で成立した立法に対する違憲審査よりも微妙な問題を含むだろう。民意が直接に反映していると見なされるからである。

(8) 発議権とも関連するが、プレビシット(政府による国民投票の利用)の危険性。ただ、この議論を強調することは、国民審査制度そのものの否定につながりかねないという指摘も必要

(9) 技術的な問題だが、過半数の意味が案外理論上は面白い。有権者の過半数、投票総数の過半数、有効投票総数の過半数のいずれが望ましいのかである。さらに、過半数(多数決)での決定という考え方がディモクラシとどのような関係にあるのかに関する考察。ただ、過半数による決定がディモクラシを否定するという単純な議論は成り立たない。

(10) 国民投票の有権者は国民か公民(有権者にふさわしいと見なされる国民。年齢のみならず、登録制などを含む)かは原理上の問題

(11) 選挙権のない者の意思の問題。これに言及する答案が多かったが、実はそれほど重要ではない。0歳児の選挙権を認める議論はさすがに支持を得られないからである。従って、年齢による「差別」は程度問題となる。

(12) 有権者に外国人を含めるか否かという論点。国民投票なのだから外国人は当然含まれないという説明は妥当に思えるが、案外難しい(国籍と市民籍といった構成員資格との関連)。ただ、これは憲法というよりは立法政策の問題である。なお、イギリスなどの国民投票の場合、「外国人」が含まれていたことの説明があれば加点した。なお、住民投票の場合には、外国人の扱いが異なるという立論は十分根拠がある。

◯ 民意に関する考察

(1) 民意は実体として存在するのか、制度によって明らかになるのか、誰かが汲み取ることで明らかになるものか

(2) 民意と主権論との関連。国民主権と人民主権。ナシオン主権(命令委任の否定)、プープル主権(憲法第43条は人民代表制、諮問的国民投票制度を肯定という議論がある)

(3) 議員は国民代表であって、民意(この場合は選挙民だろう)に従うことは命令委任の禁止として一般に憲法違反とされている。ディモクラシ、国民投票と命令委任禁止との関係

(4) 衆愚政治、ポピュリズム批判の指摘。しかし、それらも民意であることを前提としてないと議論が雑になる。民意の正統性を否定することになるからである。換言すれば、多くの答案では、民意という言葉を使用する際に「立派な民意」という意味をこっそりと込められている。しかし、立派でないのも民意である。

(5) ディモクラシを前提とすれば、民意が制度に反映すればそれは正しい政治である。民意が反映しても正しくない政治があるという立論には無理がある。ただ、その結果はしばしば「良くない」。正しさと良さとを区別すること。

(6) ディモクラシにおける決定過程の重要性の指摘。議会制度では立法と同様にその前提となる議論が重要である。国民投票の場合には公開の議論に乏しいという欠点がある。インターネットなどを用いても事情は変わらないだろう。

◯ その他(上記の補足)

(1) 国民投票によって生じる責任の問題は難しい。国民が決めたことはみんなの責任で結局は無責任になりやすいから、国民投票ではなく議会が決める方が(間接民主制)責任の所在が明確になるという立論はある。ただし、もともと国民投票の実施を決めたこと自体の責任という面倒な問題はありそうである。国民への丸投げとも評価されるからである。

(2) 多数決に問題があるとしても、多数決そのものを否定ことは選挙制度そのものを否定することになりかねない。その制度理念は多数意見を国民の総意と見なすことだからである。また、国民投票による多数決と議会の票決の多数決とは何が違うのか、ともに少数派の意思が軽視されていることには変わりはない。もちろん、議会の場合、議論する過程がある点が重要である。その際に、多数派の法案が少数派の意見を組み込んで部分的に修正されることがしばしばあるからである。それでも、与野党も個々の議員も、憲法に書かれているように自分の支持者の意思から独立して、国民代表として行動するとはとても思えないから、議会での議論も党派色が濃いだろう。

(3) 発案と発議の違いは案外重要である。例えば、日本の場合、憲法改正の国民投票の発議権は議会にあるが、議院内閣制では事実上政府だろう。ただ、憲法学などでは、発議権と発案権とを分けて議論する傾向があるようである。その場合、政府にも発案権を認めており、さらには国民にも発案権があるとされる。後者は主権者だからわかりやすいが、前者は少し分かりづらい。

(5) ディモクラシが理念であることを、その実現が不可能であるではなく、その実現には色々な考え方や方法があると表現した方がいい。理念には、実現不可能なものと、目標という二つの意味や側面があるからである(プリントを参照のこと。カント<柄谷行人で検索すれば該当箇所が見つかるはずである)。

(6) 先進国が間接民主制を採用している理由は、国家の規模などの理由から直接民主制を採用できないという消極的理由だけではない。間接民主制を採用する積極的理由についての言及が必要である。そうでないと、国民投票が間接民主制の欠点を補完するという議論に偏ってしまいかねない。

<加点項目。行論に直接には関係しなくても、考察が不充分であっても、内容に応じて加点(順不同)>

(1) イギリス、スコットランド、スイス、フランスなど国民投票の実施事例の紹介と説明

(2) 国民投票制度が実質上機能する前提として住民の「質」、公民教育が必要であるという議論。もちろん、これは際どい議論であることも言及しておく必要がある。

(3) 国民投票の妥当性を高めるための制度改革を提案しているもの

(4) ディモクラシの目的に関する考察。なお、ディモクラシの目的が基本的人権の尊重にあるとする答案が多かったが、あくまでもディモクラシの目的は民意の反映である。だからこそ、基本的人権の尊重に関わる問題については、国民投票に馴染まないという議論がある。

(5) ディモクラシと政党政治との関係に関する考察

(6) フランス人権宣言などに関する言及

(7) ディモクラシと古典ディモクラシ、現代ディモクラシ(間接民主制を中心とした先進国の制度運用)との違いの指摘

(8) 世論形成におけるメディア(ミィディア)の役割と弊害

(9) 行政国家化、福祉国家化と、国民投票との関係。特に、議会の機能低下との関連

(10) 有権者資格、成立要件など、国民投票に関する制度の検討

<減点対象とした記述や項目、問題文に指示してあるものについては省略。他人事だと思わないでチェックすること>

(1) 誤字

(誤)確心→(正)確信、(誤)近差→(正)僅差、(誤)献貢→(正)貢献、(誤)妥当性が強い→(正)妥当性が高い、(誤)制治→(正)政治、(誤)撤底→(正)徹底、(誤)正統制→(正)正統性、(誤)不可決→(正)不可欠、(誤)指適→(正)指摘、(誤)心況→(正)心境、(誤)二沢→(正)二択、(誤)議員内閣制→(正)議院内閣制、(誤)半大統領性→(正)半大統領制、(誤)完壁→(正)完璧、(誤)文野→(正)分野、(誤)「考えの元」→(正)「考えの下」、(誤)柔盾→(正)矛盾、(誤)動入→(正)導入、(誤)頒雑→(正)煩雑、(誤)増化→(正)増加、(誤)詐す→(正)許す、(誤)政度→(正)制度、(誤)放壊→(正)崩壊、(誤)責極→(正)積極、(誤)議員制→(正)議院制、(誤)低抗→(正)抵抗、(誤)働突→(正)衝突、(誤)最骨潮→(正)真骨頂・最高潮、(誤)内閣統理大臣→(正)内閣総理大臣(統理という言葉は重要だが、総理大臣と呼ぶ)、(誤)法方→(正)方法、(誤)態系→(正)体系、(誤)約語→(正)訳語、(誤)多勢いる→(正)大勢いる、(誤)一目僚然→(正)一目瞭然、(誤)投標→(正)投票、(誤)意示→(正)意思、(誤)重容→(正)重要、(誤)反官贔屓→(正)判官贔屓、(誤)解離→(正)乖離、(誤)衡突→(正)衝突、(誤)二捨択一→(正)二者択一、(誤)今だに→(正)未だに、(誤)投標→(正)投票

区制の「区」の中が「十」になっているもの▼「1時的に」→「一時的に」(このような場合には算用数字を用いない)▼「憲法改憲」→「憲法改正」▼「複合政体」・「混合統治」→「混合政体」(元はmixed polity)▼「制制力」→「抑制力」?▼「先進行」→「先進国」?▼「決策」→決定?▼同調の「調」のつくりが「同」となっているもの▼「一権化」→「一元化」?▼「体表」→「体現」?▼「国各」→「各国」・「国毎」?▼「例え」→「たとえ」▼「他方」・「他方で」→「一方で」▼「文字通りに」→「文字通り」▼「代議者」→「代議員」▼「国民達、議員たち」→「国民、議員」▼「1つに」→「第1に」▼「反対に」→「一方で」・「これとは対照的に」▼「二者択一の選択」→「二者択一」▼「少人派」→「少数派」▼「くみ落とす」→「汲み損ねる」▼「説得性」→「説得力」▼「広義の意味では」→「広義では」▼「そうすると」→「そうだとすると」・「そうであるならば」▼「まず初めに」→「初めに」、▼撰ぶの「撰」は特定の用語以外は用いない

(2) 同音異義語や類義の間違い

「意志」と「意思」、「議員」と「議院」、「治める」と「納める」と「収める」と「修める」、「最も」と「尤も」、「元に」と「基に」と「下に」、「分留」と「分立」、「様態」と「容体」、「濫用」と「乱用」(新聞などでは後者。意味上の違いはないが、権力のランヨウの場合は前者が一般的か)、「図る」と「計る」、「初めに」と「始めに」(前者と後者は微妙にニュアンスが異なる)、「意味」と「意義」

(3) 造語?

「国民投票率」?、議民?(文脈からすると州民が選んだ代表者というぐらいの意味か)、「国家の運用機関」→国家は運用しない。運用は国家財政などに用いる。「行政の主権」?、「独立派」→「離脱派」、「確実な民意」のような表現

(4) 不要なカタカナは用いない。「ダイレクトに」→「直接に」

(5) 口語表現は答案や正式文書には用いない。エッセイではない。口語が頻繁に用いられると、採点する気が起こらない。まさかとは思うが、話し言葉と書き言葉の区別が意識されていないのだろうか。

「かと言って」→「そうであるとしても」、「よって」→「従って」、文末の「~~し、」(例えば、~~は悪いし)、「対して」→「これに対して」、「いくら」→「たとえ」、「みたいである」→「のようである」、「反対に」→「これと反対に」、「以上に述べる」→「以上述べる」、「加えて」→「これに加えて」。多少中級編で難しいが、答案では、「~~が、」もなるべつ使わないように工夫する。「◯◯わけではない」は「◯◯とは限らない」、「にもかかわらず」→「それにもかかわらず」、「結果」→「その結果」、「と同時に」→「それと同時に」、「それでも」→「それにも拘わらず」、「一応」→「ひとまず」、やるというのは口語、やり方も同様に口語。

(6) 解答とわざわざ最初に書く必要はない。段落番号を打つ必要はない。文字が薄いもの、小さいものがまだあった。字の濃淡は答案では好みの問題では済まされない。試験はこれからも当分は手書きであるから、薄い字で得することはない。薄くて小さい字だと、判読するだけで採点者は疲れてしまう。答案は、教師には読む義務があるものだが、学生の立場では読んで「いただく」ものである。まだ、左側に(右側も)数文字分の空白列を、あるいは最初や途中に空白行を設けた学生が数名いた。そのような癖は早く治すこと。美しくない。それに減点対象となりうる。

(7) 問題との関連を考えずに、5カ国の政治制度の説明を施しているもの。また、日本やイギリスの議員の選出とアメリカの大統領の選出を較べるもの。議員を選ぶことと行政府の長を選ぶこととは意味合いが異なる。もちろん、ディモクラシの正統性の点での比較なら意味があるが、それは1つの国の中の議員集団と大統領との比較である。なお、大統領などの直接選挙は直接民主制ではない。間接民主制である。直接民主制と直接選挙、間接民主制と間接選挙とを混同する学生が数名いた。

(8) 民衆、人民、市民といった政治色濃厚な言葉の使い方に注意。専門用語や意味が確定している場合など特殊な文脈以外では使わない方が無難である。また市民革命といえる・その名に値するものは歴史上存在しない。学者とマスコミの幻想・政治宣伝である。

(9) 国民投票から外国人を排除することを問題視する学生が数名いたが、何が問題なのかが書かれていない。

(10) 有効と妥当との違いを区別していないもの

(11) 相変わらず、少数意見が無視されるから多数決は好ましくないといった多数決に関する誤解

(12) 衆愚政治という指摘が多かったが、ディモクラシの理念からすれば衆愚政治など存在しない。その質の上下はともかく、身の丈に合った政治である。もちろんだからこそ、ディモクラシの制度化が問題となっている。

(13) 国民投票の結果、賛否が際どい場合を懸念する学生が多いが、それならば、成立要件を3分の2などにすれば済むから枝葉の、技術的な議論である。多数派と少数派に分かれることを懸念する声があるが、その懸念を尊重すれば、今後一切の決定はできなくなる。問題の性質にもよるが、全会一致が望ましいと考える発想こそ、ディモクラシに反するともいえる。これと関連するが、イギリスの例に関して見直しを求める声が多いなどマスコミの意見に影響されている答案が多かった。また、イギリスのEU離脱が国民のためにならない決定であると断定する答案が多かったが、そうとは決まっていないはずである。離脱の方が好ましい可能性は否定できない。いずれも、マスコミなどの影響を懸念している学生がマスコミに影響されている証拠である。

(14) 論じる途中で、「感じた」などの表現を用いている答案があったが、その表現を�