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目  録

第四回日中友好中国大学生日本語科

卒業論文コンクール

記 念 文 集

編集者

小野寺 健・王健宜・劉肖雲

2004年11月8日

目  録

卒業論文コンクール開催の主旨小野寺 健(1)

第四回受賞者名簿()

第四回応募論文一覧()

最優秀論文

インタビューにおけるポライトネス・ストラテジーの考察

――日本語と中国語の対照を中心に戴 楽()

山部赤人の叙景歌における「静と動」の世界石 芃()

日本漫画の影響について

――中国に対する影響を中心に潘 焱()

審査員講評(到着順)

審査委員の所感小野寺健()

審査員所感曲 維()

初心忘るべからず王健宜()

第4回大学生卒業論文を審査して秦明吾()

審査所感高文漢()

卒業論文の審査に参加して宿久高()

論文審査随想于栄勝()

審査所感譚晶華()

第四回全国日本語卒業論文コンクールに思うこと徐一平()

審査所感邱 鳴()

審査所感徐 氷()

審査所感(未提出)修 剛()

付録

人民網関係記事()

第四回募集要項()

第一回から第四回までの応募大学と応募論文数の推移一覧()

第四回応募大学卒論一覧()

第一回、第二回、第三回、第四回受賞論文一覧()

第五回募集要項()

卒業論文コンクール開催の主旨

小野寺 健

 日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクールは、 専門性の高い日本語学習者を育成し、中国における日本語教育の指針を示すと共に、日本語教育の振興と学術の向上に寄与することを目的として開催されます。ところで、卒業論文作成は卒業要件の一つであるが、その意義について言及されることは少ない。そこで、以下愚見を披露致します。「論語」には、「子曰、学而不思則罔。思而不学則殆。」という言葉があり、カントは「知識は経験と共に始まるが、思惟が無ければ盲目だ」と言っております。これは、学問をする人間は受身で物事を捉えるのではなく、謙虚に学びつつも、自分の頭で良く咀嚼し批判的に物事を考察する訓練が、大切だということです。

 また、学問で得られた知識を現実社会に当て嵌め、その有効性を検証することにより、真の学問としての価値を高めることが出来ます。1.学問、2.仮説の定立、3.検証、4.自説の確立という学問上のプロセスを、常に意識する習慣が大切です。

そして、日本語を読み話せることが究極の目的ではなく、1.論理的思考回路の構築と、2.豊かな感性を育むことが、追求すべき課題です。1.については問題ないでしょう。しかし、2.こそが困難な課題なのです。かくて、2.の達成如何が、学問の成否を左右することになります。独自の学問体系を確立しつつも、他者に対する思いやりや、社会との調和を如何にして図るかということが、大きな課題になるのです。別の言葉でいえば、「バランス感覚」の陶冶こそが、大きな鍵を握ります。

さらに、学問の目的は「真理の探究」です。そのためには、面子などという小さな価値を、捨て去るだけの勇気が必要です。ところで、学生がこのような能力を高める機会は、卒業論文作成に尽きると思われます。そこで、卒業論文作成を格好の契機と捉え、「青春の記念碑」ともいうべき、優れた論文が作成されることを、念じて止みません。

第四回日中友好中国大学生日本語科卒業論文

コンクール受賞者名簿

 

 第四回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクールの審査会は、曲阜師範大学日照学院で開催され、言語・文学・社会・文化部門毎の個別審査と、三部門主査と審査委員長との合同審査を経て、受賞論文が下記の通り決定致しました。

最優秀論文指導賞

 言 語 部 門:趙 剛・西安交通大学

 文 学 部 門:何蔚紅・北京外国語大学

 社会・文化部門:加納 巧・南開大学

最優秀論文賞

言 語 部 門:戴 楽・西安交通大学・

インタビューにおけるポライトネス・ストラテジーの考察――日本語と中国語の対照を中心に

eq \o\ad(文学部門,       ):石 芃・北京外国語大学・

山部赤人の叙景歌における「静と動」の世界

 社会・文化部門:潘 焱・南開大学・

日本漫画の影響について――中国に対する影響を中心に

優秀論文賞

  eq \o\ad(言語部門,       ):蔵 薇・華僑大学・

間接言語行為からみる日本語の会話原則

――リーチの会話における「丁寧さの原則」について

  eq \o\ad(文学部門,       ):王昇達・東北師範大学・

二十世紀前半中日文学交流の一様相――「読書雑誌」と日本

 社会・文化部門:黄 頴・華南師範大学・日本女性名の表と裏

優良論文賞

  eq \o\ad(言語部門,       ):張暁東・寧波大学・

「人」という漢字の読み方「じん」と「にん」

――「~人」という語群に対する考察

  eq \o\ad(文学部門,       ):杜麗娜・西安交通大学・

森鴎外試論――「舞姫」における豊太郎と作家の関係性を中心に

 社会・文化部門:張 琳・大連大学・

情感ニーズにおける日本消費者の非理性的行為

特別顕彰(論文コンクールの発展に、著しい貢献のあった個人又は団体)

 秦明吾・北京第二外国語学院日本語学部主任・教授

 高文漢・山東大学日本語学部主任・教授

第四回中国大学生日本語科卒業論文コンクール応募論文一覧表

応募論文一覧表(言語部門)

(18篇)

登録番号

氏名

学校名

テーマ

指導教師

1

張暁東

寧波大学日本語学部

「人」という漢字の読み方「じん」と「にん」—————「~人」という語群に対する考察

張正軍・呂明剣

3

童 年

同済大学日本語学部

情報の縄張り理論から見る「ね」と「よ」

呉 侃

4

王 欣

河北大学日本語学部

「モノ」、「ノ」、「コト」についての研究

―——形式名詞における機能、意味と使い分け

孫 鋭

6

鮮于太花

瀋陽師範大学

中国人の話す日本語の問題点 

—————日本語らしい日本語を話すために

呑山猛

14

汪 星

青島大学日本語学部

日英中三ヵ国語アスペクト問題について

郭鴻雁

15

王晶晶

大連民族学院

日本語の慣用句

—————身体に関する慣用句を中心に

王 鋭

17

戴 楽

西安交通大学

インタビューにおけるポライトネス・ストラテジーの考察 

—————日本語と中国語の対照を中心に

趙 剛

21

金春福

東北師範大学

数量詞に対する格助詞の制約を見る 

――中、日両国比較の視点から

林忠鵬

25

朱緒芹

山東大学日本語学部

日本語の省略表現 

――省略の種類、理解の仕方、原因について

29

呂壮林

河南師範大学

「阿Q正伝」の竹内好訳についての考察

――原作と翻訳の差異を比較検討する

島本智恵子

33

劉雲霞

北京第二外国語学院

「すねる」「ひがむ」「ひねくれる」の意味分析

俵山雄司

35

張昇紅

貴州大学

ラシイとヨウダの比較 

――モダリティの視点から

青木房子

44

張唐梁

天津外国語学院

日本語の自他動詞についての一考察

――自他動詞の認定を中心に

杜武媛

45

任婷婷

清華大学

日本語終助詞の機能と意味についての一分析  ――モダリティ理論と情報のなわばり理論の観点から

張 威

46

蔵 薇

華僑大学

間接言語行為からみる日本語の会話原則  ――リーチの会話における「丁寧さの原則」について

黄慶法

49

張 瑾

洛陽外国学院

否定表現理解の諸問題 

――日本語科二年生を対象に

姚灯鎮

50

張逸萍

福建師範大学

汉日不完全性比喻之比较

林 璋

51

戴艶麗

福建師範大学

关于指示词「この・その・あの」的日译汉问题

林 璋

応募論文一覧表(文学部門)

(17篇)

登録番号

氏名

学校名

テーマ

指導教師

2

沙 金

同済大学日本語学部

『武蔵野』

――国木田独歩文学の故郷と桃源

張 頴

5

範麗嬌

河北大学日本語学部

日本女性の精神分析   

—————円地文子の「女坂」を中心に

張如意

8

黄雷鳴

北京大学

安部公房的《砂女》与卡夫卡、加缪的存在主义 —————兼论日本式存在主义文学创作

于栄勝

10

石 芃

北京外国語大学

山部赤人の叙景歌における「静と動」の世界

何蔚紅

11

張成華

遼寧師範大学

『斜陽』のテーマ「斜陽」について

安藤桂子

12

任海丹

遼寧師範大学

古き枕古き衾、誰とともにか  

—————「源氏物語の桐壷」と「長恨歌」

張暁寧

18

杜麗娜

西安交通大学

森鴎外試論 ――「舞姫」における豊太郎と作家の関係性を中心に

城田潤二

19

伏怡琳

復旦大学

「壁」における疎外と自由 

――実存主義哲学の視点から

邹 波

20

王昇達

東北師範大学

二十世紀前半中日文学文化交流の一様相 ――「読書雑誌」と日本

徐 氷

22

黄兆林

中山大学

三島由紀夫の男色大学

佟 君

23

陳 崢

北京聨合大学旅游学院

「雪国」における葉子について

林 暁

26

馬暁光

吉林大学

「蛇婿」と「蛇女房」の昔話の比較研究

于長敏

28

張光漢

河南師範大学

中日女流作家輩出の違いを探求する ――中古における両国文学現象を比較しながら

諸岡伸

34

付 如

北京第二外国語学院

「伊豆の踊り子」の表現の芸術性について

山岸麻耶

36

楊柳如

華南師範大学

「今昔物語集」の女性像 

――作者の編纂意図から見る

楊金萍

39

程立紅

大連大学

山崎豊子と「大地の子」

楊 華

43

朱 虹

天津外国語学院

「徒然草」の無常観

――対立・矛盾を超えた統一・調和

張暁希

応募論文一覧表(社会文化部門)

(20篇)

登録番号

氏名

学校名

テーマ

指導教師

7

張 雪

瀋陽師範大学

贈り物から日本人の人間関係を考える

王賀英

9

林 暢

北京外国語大学

青少年非行の現状とその原因について

汪玉林

13

邵 劭

青島大学日本語学部

模倣と創造の軌跡 —————古代日本書道考

荊 玲

16

劉 静

大連民族学院

大連開発区にある日系企業の人事管理制度についての調査研究

金 山

24

申志娟

北京聨合大学旅游学院

日本語の称賛表現について 

――文化の視点から

段継華

27

張英男

吉林大学

中国の旧正月と日本のお正月の比較

春口淳一

30

陳菁晶

厦門大学

諺から見た日本の伝統的家族関係

林娟娟

31

孫 耀

厦門大学

諺に出た魚の名前から見る日本文化 

――比較文化の角度から

陳端端・小林賢章

32

王筱青

北京第二外国語学院

遠慮がちな日本人

――「はい」と「いいえ」から考察する

周 莉

37

黄 頴

華南師範大学

日本女性名の表と裏

李 琳

38

張 琳

大連大学

情感ニーズにおける日本消費者の非理性的行為

石若一

40

趙美玲

大連大学

流行語に見る戦後の日本

金春梅

41

曲 萌

南開大学

アニメ監督宮崎駿の自然観について 

――宮崎駿のアニメ3部を中心に

南 善

42

潘 焱

南開大学

日本漫画の影響について

――中国に対する影響を中心に

加納巧

47

姜 楠

東北財経大学

圧力に晒される人民元とその行方

徐雪梅

48

成 慧

洛陽外国学院

察しの文化と日本語の表現 

――省略と遠まわしの表現を中心に

姚灯鎮

52

張育栄

上海外国語大学

慣用句から見た中日文化

大西進

53

王振宇

上海外国語大学

中国の人材開発に存在する問題 

――教育と企業の人事管理についての提案

実光順子

54

李 丹

天津理工大学

中国の影響を受けた日本文化について

謝衛平

55

卞玉怡

天津理工大学

日本人の自然観について

劉小栄

インタビューにおけるポライトネス・ストラテジーの考察

———日本語と中国語の対照を中心に

             

西安交通大学

戴 楽

要 旨

ポライトネスは、人間が円滑なコミュニケーションを行うために使う重要な手段である。カルチャーショックや誤解の多い異文化間のコミュニケーションを摩擦なく順調に進めるために、ポライトネスを表す手段に関する日中対照研究は必要である。本研究では、日本語母語話者の間と中国語母語話者の間で行ったインタビュー資料を収集・調査した。そして、インタビューにおける日中両言語のポライトネス・ストラテジーの使用傾向、特徴を考察し、その日中対照分析を行い、日本語と中国語のポライトネス・ストラテジーの共通点と相違点を検討した。さらに、その相違点を生み出す文化的要因を考察した。インタビューにおけるポライトネス・ストラテジーは積極的ポライトネスと消極的ポライトネスの二つに大別し、またそれぞれの下位分類も設けた。分析から、日本人は中国人より消極的ポライトネス・ストラテーを愛用し、中国人は日本人より積極的ポライトネス・ストラテジーを重視することが明らかになった。全体的には、日本人は中国人よりポライトネスを重視し、ポライトネス・ストラテジーを多用することも分かった。さらに、日本人と中国人の人間関係の捉え方・性格・思考様式・敬語形式の違いは、それらの相違点を生み出す主な文化的要因であることが検証された。

キーワード  ポライトネス・ストラテジー 面子 積極的ポライトネス・ストラテジー 消極的ポライトネス・ストラテジー 配慮

摘 要

礼貌表现是人们为了顺利进行交际而采用的一种重要手段。为了促进存在着诸多文化冲突和误解的异文化间的人际交流顺利进行,有必要对日语和汉语中的礼貌策略进行对比研究。本论文收集了在日语母语者之间和汉语母语者之间进行的访谈资料,通过对其进行调查分析,来考察日语访谈和汉语访谈中礼貌策略的使用情况和特点,并对两者进行了对比分析,从而来探讨日语和汉语访谈中使用礼貌策略的共同点和不同点。另外,还进一步考察了产生这些差异的文化方面的因素。本论文主要将访谈中的礼貌策略分为积极礼貌策略和消极礼貌策略两大类,每一类还分别设有下位分类。通过分析,得知日本人比中国人更喜欢用消极策略,而中国人比日本人更注重积极策略。同时,明确了日本人整体来说比中国人更重视礼貌表现,更多用礼貌策略这一点。另外,还证明了日本人和中国人在人际关系的处理方式、性格、思维方式和敬语形式方面的不同是产生这些差异的主要文化原因。

关键词 礼貌策略 面子 积极礼貌策略 消极礼貌策略 体谅

1. はじめに

ポライトネスは、人間のコミュニケーションを行う重要な手段である。人間は調和な人間関係を保つために、相手や場合によって、適切なポライトネス・ストラテジーを選んで、コミュニケーションを行わなければならない。人間のコミュニケーションには様々な形があるが、その中でインタビューが一つの特別な形として挙げられる。インタビューは参加する人や話題によって違いもあるが、普通は観衆・聴衆や読者たちに向かって行うフォーマルなコミュニケーションであるために、くだけた言い方で話すことができず、ポライトネス・ストラテジーが一般より多用されると考えられる。また、上手く使用されなければ、悪い評価をされたりする恐れもあるので、ポライトネスはインタビューで他の場合よりも重要な役割を果たしていると言えるだろう。

ポライトネスを表すストラテジーは様々であり、相手の面子や場面・発話内容などによって違う。正確・適切に使えば、自分と相手の面子が保てるが、逆に、適切に使わないと、相手の面子を傷つけ、人間関係がギクシャクする場合が少なくない。コミュニケーションを行う際、どのようなポライトネス·ストラテジーを使用するかは言語や文化・社会・習慣などによっても違うと考えられる。したがって、カルチャーショックや誤解を招きやすい異文化間のコミュニケーションでは、ポライトネス・ストラテジーの不適切な使用から起こされた摩擦が他の場合よりも多いと言えよう。

従来、ポライトネス理論については、欧米の研究が多く、特にLeech(1983)やBrown & Levinson(1987)のポライトネス理論が注目されている。近年、日本語や中国語の日常会話を中心とするポライトネスに関する研究も色々行われてきた。しかしながら、日中両言語におけるポライトネス・ストラテジーの全体像を明らかにする日中対照研究はあまり行われていない。また、インタビューのような特殊な談話形式を対象とする分析は言及されていない。

日中両言語のポライトネスの特徴をとらえるため、本研究では、先行研究を踏まえた上で、日中両言語のインタビューにおけるポライトネス・ストラテジーの使用頻度、特徴を考察し、さらにその共通点と相違点を検討する。本研究の分析結果は、これからの中国における日本語教育、日中異文化間コミュニケーション能力の養成に資することを期待する。

本論文は7部分から成る。はじめにに続く第2部分では先行研究を考察する。

第3部分では、本研究に用いるデータの収集方法、ポライトネス・ストラテジーを分析する方法を示す。第4部分では、まず、積極的ポライトネス・ストラテジーと消極的ストラテジー・ポライトネスを説明し、次に、ポライトネス・ストラテジーの分類を紹介し、日中両言語のポライトネス・ストラテジーを分析する。第5部分では、日中両言語のポライトネス・ストラテジーの使用傾向を考察する。また、第6部分では、日中両言語のポライトネス・ストラテジーの共通点と相違点、その相違点を生み出す要因について述べる。最後の第7部分では、本論文のまとめ、及び今後の課題を記述する。

2. 先行研究

ポライトネスの研究は主に語用論的問題として扱われてきた。欧米などの西洋文化におけるポライトネスの研究には、特にLeech(1983)やBrown& Levinson (1987)などが成果を挙げている。日本語のポライトネスに関する研究には、井出(1986)、宇佐美(1997,2002)、宮田(2000)などがあげられ、中国語では、顧曰国(1992)、Kaidi Zhan(1992)、曲衛国・陳流芳(1999a,1999b)などがある。

2.1 Leechのポライトネスの原理

Leech(1983:128-129)はポライトネスの原理を下記の六つの公理に細分している。

(1) 気配りの公理 (Tact Maxim)

(a) 相手への負担を最小限にせよ (b) 相手への利益を最大限にせよ

(2) 寛大さの公理 (Generosity Maxim)

(a) 自己への利益を最小限にせよ (b) 自己への負担を最大限にせよ

(3) 是認の公理 (Approbation Maxim)

(a) 相手への非難を最小限にせよ (b) 相手への賞賛を最大限にせよ

(4) 謙遜の公理 (Modesty Maxim)

(a) 自己への賞賛を最小限にせよ (b) 自己への非難を最大限にせよ

(5) 同意の公理 (Agreement Maxim)

(a) 自己と相手との意見の不一致を最小限にせよ (b) 自己と相手との意見の一致を最大限せよ

(6) 共感の公理 (Sympathy Maxim)

(a) 自己と相手との反感を最小限にせよ (b) 自己と相手との共感を最大限にせよ

 Leechは、「自己」は話し手を指しているが、「相手」とは必ずしも聞き手ではなく、話の中に出てくる関係のある人や物であることもあると指摘している。また、(1)と(2)、(3)と(4)、(a)と(b)はそれぞれ対をなし、(5)と(6)は単独であると提示している。Leechによれば、これらの六つの公理とそれぞれの下位の公理には、重要度の違いがあるという。たとえば、(1)「気配りの公理」は六つの公理でもっとも重要で、他の公理より多用される。そして、(1)と(2)、(3)と(4)の組み合わせには(1)、(3)の方がより重要で、(a)(b)の組み合わせには(a)の方がより重要である。このような重要度の違いから、「自己」よりも「相手」を尺度とし、「最大限する」という積極的な手段よりも「最小限する」という消極的な手段に焦点を置くのが普通であるというLeechのポライトネスの原理が見られる。

2.2 Brown & Levinsonのポライトネス理論

 Brown & Levinson (1987:62)はGoffman(1986)が提唱する面子[1]を積極的面子(Positive Face)と消極的面子(Negative Face)の2種類に区分し、次のように定義している。

積極的面子:自分のことを相手によく評価してもらいたい、友好的に思われたいという願望。

消極的面子:相手に押しつけられたくない、自由を阻害されたくないという 願望。

Brown & Levinsonはこの2種類の面子を脅かす行為を面子威嚇行為 (Face Threatening Acts,以下FTAとする)と呼んでいる。円滑にコミュニケーションをするには、このFTAを軽減し、解消しなければならないBrown & Levinson (1987:58)によれば、相手とやり取りをする時に、FTAを解消するために、つまり相手の面子を傷つけないようにするために、話者は下記のような五つのポライトネス・ストラテジーを使用するという。

(1) 無修正・あからさまに言う (without redress action)

(2) 積極的ポライトネス:相手の積極的面子に配慮するように言う (positive politeness)

(3) 消極的ポライトネス:相手の消極的面子に配慮するように言う (negative politeness)

(4) オフ・レコード:露骨に言わずに、言外にほのめかす (off record)

(5) FTAを避けるために、その話題に触れない (Don’t do the FTA)

相手の面子を傷つける可能性が低いほど上の(数の少ない)方のストラテジーを選択し、逆にその可能性が高いほど下の(数の大きい)方を選択するのが一般的である。また、Brown & Levinsonは、積極的ポライトネスの具体的な表現として15種の下位ストラテジーを、消極的ポライトネスの具体的な表現として10種の下位ストラテジーを、また、オフ・レコードの具体的な表現として15種の下位ストラテジーを挙げている。

2.3 日本語のポライトネスに関する先行研究

井出他(1986)は、敬語行動のストラテジーを構成する方法を「わきまえ方式」と「働きかけ方式」に分け、日本での敬語行動は「わきまえ方式」が主であるとし、欧米での敬語行動は「働きかけ方式」が主であるとしている。Brown &Levinsonのポライトネス理論は、「働きかけ方式」を主として考えたものであるため、日本人の敬語行動に合わないと批判している。

宇佐美(1997,2002)は、Brown & Levinsonのポライトネス理論を評価しながらも、ポライトネスを「一文、一発話行為レベル」や「いくつかの発話の連鎖レベル」という短い談話レベルで捉えるだけでは不十分であると指摘し、ポライトネス理論をより普遍的なものに発展させていくために、「総体としての談話それ自体」を、ポライトネスを規定する変数の一つに加えて考える「ディスコース・ポライトネス」という捉え方を導入することが必要であると主張し、その基本的な考え方と枠組みを提示している。

宮田(2000)は、Brown & Levinsonのポライトネス理論を日本語に当てはめて研究した。敬語の使用は消極的ポライトネスであり、敬語の不使用は積極的ポライトネスであると指摘しながらも、「今日は土曜日です」のように文末に待遇的態度を示さざるを得ない日本語の特徴を挙げ、「です」は必ずしもFTAを想定して面子を傷つけないようにするために使われるものではないと指摘している。ポライトネス理論を日本語に当てはめるには限界があると主張している。

2.4 中国語のポライトネスに関する先行研究

顧曰国(1992)は、LeechとBrown & Levinsonの理論を視野に入れて語用論的視点から中国語のポライトネスを考察している。顧曰国は、消極的面子の概念は中国語の面子の概念と合わないことを理由とし、Brown & Levinsonのポライトネス理論を批判し、Leechの「ポライトネスの原理」に基づいて中国語の「丁寧さの原則」を下記のようにまとめている。

(1) 自分を貶し他人を高める原則

(2) 呼称用語を使用する原則

(3) 高雅の原則

(4) 相手の見解と一致を求める原則

(5) 徳言行の原則

曲衛国・陳流芳(1999a,1999b)の一連は、顧曰国(1992)の「礼」に基づいた丁寧さの定義を批判し、「礼貌」はコミュニケーションをする時のストラテジーであると主張している。さらに、Goffman(1986)の面子理論とポライトネス理論に基づいた「中国伝統礼貌原則」を提唱している。即ち、「親近の原則(親近感を示すほど丁寧になる)」と「社会関係原則(相手を高めるほど丁寧になる)」である。

Brown & Levinsonのポライトネス理論を中国語に当てはめる実証研究には、Kaidi Zhan(1992)があげられる。Kaidi Zhanは、ポライトネス理論には普遍性があり、ポライトネス・ストラテジーは文化と言語によって異なると述べ、中国語でのポライトネスは中国語の文法や韻律論などに基づいた中国文化と中国人の心理的な特徴を受けたものだと指摘している。

2.5 ポライトネスに関する日中対照研究

ポライトネスについての日中対照研究の中で、注目すべき研究として、荻野(1986)があげられる。荻野は、「場面による敬語の使い分け」、「他人との付き合い」、「敬語意識·敬語に対する考え方」などの面から日本人と中国人を比較している。荻野(1986:24)は、日中両言語での形式の違いに拘らずに、両言語の機能に着目して、「日本語には敬語があり、中国語にはあまりないと言うが、それは敬語行動の場合、日本では相手・場合により言葉の使い分けの慣習が比較的はっきりしているので、それが目につきやすいのに対し、中国語ではわかりにくく、慣習がはっきりしないだけで、使い分けていないのではない」とポライトネスでの両言語の共通性を主張している。

これまでの研究は「ポライトネス」や「丁寧さ」の概念を定義し、それを言語別に分析するものが多い。だが、いったいどのようにすれば、ポライトな言語行動が達成できるのか、即ちポライトネス・ストラテジーについてはほとんど検討されていない。Brown & Levinsonはポライトネス・ストラテジーを分類し、詳しく論述しているが、それは英語体系で行われている研究であり、他の言語にも必ず適応しているとは言いにくい。また、ポライトネスに関する日本語と中国語の対照研究は、日常会話を分析対象としているものに限られているため、インタビューのような特殊な談話形式を対象とする分析は言及されていない。

日中両言語のポライトネスの特徴をとらえるため、上述した先行研究を踏まえた上で、日中両言語のインタビューにおけるポライトネス・ストラテジーの使用頻度、特徴を考察し、さらにその共通点と相違点を検討する。

3. 資料収集と研究方法

本研究の考察に使用する資料は、日本人母語話者の間で行ったインタビューと中国人母語話者の間で行ったインタビュー各40編である。インタビュアーとゲストが全て有名人で、インタビュアーが相手の経歴を知っているものである。日本人のゲストは、男性と女性それぞれ20人、合計40人であり、中国人はそれと同じである。これらの資料は全部本や雑誌で公開されているインタビューの記録であり、長さも同じぐらいである。(インタビュー資料の詳細は付録の表aを参考)

本研究では、これらの資料に基づいて、主にBrown &Levinsonのポライトネス理論を利用し、ポライトネス・ストラテジーを「積極的ポライトネス・ストラテジー」と「消極的ポライトネス・ストラテジー」に大別する。また、主にLeechのポライトネスの原理によって、それぞれ新たな下位分類も設ける。積極的ポライトネス・ストラテジーを「配慮型」、「尊敬型」、「賞賛型」、「感謝型」、「同意型」、「同情型」、「挨拶型」、「祝賀型」とに分類し、消極的ポライトネス・ストラテジーを「顧慮型」、「謙遜型」、「謙虚型」、「陳謝型」、「自責型」、「寛容型」に分類する。それから日中両言語のインタビューにおける各ポライトネス・ストラテジーの使用頻度を対照して分析し、その共通点と相違点を検討する。

4. インタビューにおけるポライトネス·ストラテジー

4.1 積極的ポライトネスと消極的ポライトネス

発話内容そのものは相手にとって利益になる、あるいは負担になることがある。したがって、談話内容や場合によっては話者が適切な方法でポライトネスを表す必要がある。この方法、つまりポライトネスを表す手段はポライトネス・ストラテジーの問題になる。本研究では、ポライトネス・ストラテジーとは、話者が自分の意図をポライトに相手に伝え、相手との調和的な人間関係を保つために用いる手段であると定義する。

Brown & Levinson(1987)は人間の使用するポライトネス・ストラテジーを五つのパタンに分け、その中で、積極的ポライトネスと消極的ポライトネスを主なストラテジーとして、下記のように定義している。

積極的ポライトネス――聞き手が認められ、仲間とみなされている感じを増やすコミュニケーション手段。

消極的ポライトネス――聞き手に行動の自由を束縛された、負担をかけられたと感じるのを減らすコミュニケーション手段。

(B&L 1987:129)

Brown &Levinsonの理論によると、人間には積極的面子と消極的面子がある。人間がコミュニケーションを行う際、ポライトネス・ストラテジーを用いるのは、相手のこの二つの面子を傷つけないように配慮した結果であろう。したがって、本研究では、対談で相手の気持ちや考えを配慮し、ポライトネスを表す手段を積極的ポライトネス・ストラテジーと消極的ポライトネス・ストラテジーに分けて検討する。本研究での積極的ポライトネスと消極的ポライトネスはBrown &Levinson (1987)が提出している積極的ポライトネスや消極的ポライトネスと少し違って、Brown & Levinson (1987)が挙げているほかの三つのポライトネス・ストラテジーパタンも含めている。区別するために、ここでは新たな定義を提出する。

積極的ポライトネス・ストラテジーは相手の積極的面子に配慮して、よく評価され、認められ、関心を抱かれ、尊敬されたいなど相手の積極的願望に添うように発話するというコミュニケーション手段である。

消極的ポライトネス・ストラテジーは相手の消極的面子に配慮して、自由を阻害されたくない、押しつけられたくないなど相手の消極的願望に添うように発話するというコミュニケーション手段である。

ここの「相手」とはLeech(1983)が説明している「相手」と同じで、必ずしも聞き手ではなく、話の中に出てくる関係のある人や物であることもある。

4.2 ポライトネス·ストラテジーの分類について

本研究では、主にBrown &Levinsonの理論に基づいて、ポライトネス・ストラテジーを分類してみる。上述のように、Brown &Levinsonはポライトネスを達成する手段を五つのポライトネス・ストラテジーに大別している。しかし、ストラテジー(1)の「無修正・あからさまに言う」は普通、相手の面子を配慮しないケースが多いために、ここではポライトネスを表す手段としない。たとえ相手の面子を配慮して用いられても、相手の利益になると考えることを言うだけなので、本研究では、積極的ポライトネス・ストラテジーに入れている。例えば、「ぜひ、紅白に出てください。」と直接に言うのは、「紅白に出る」ことは相手にとって望ましいこと、相手にとって利益になることと考えているためである。そして、ストラテジー(4)の「オフ・レコード」は、相手にとって負担や非難になると考えて、相手の消極的面子を傷つけないために、露骨に言わずに、言外にほのめかすので、本論文では、これを消極的ポライトネス・ストラテジーに入れている。(5)の「FTAを避けるために、その話題に触れない」というストラテジーは、つまり言葉で表さず、口に出さないということで、本研究の分析対象とは矛盾があるために、考察しない。したがって、本論文では、インタビューにおけるポライトネス・ストラテジーを主に積極的ポライトネス・ストラテジーと消極的ポライトネス・ストラテジーに分けて検討する。

積極的ポライトネス・ストラテジーと消極的ポライトネス・ストラテジーの下位分類は、主にLeechのポライトネスの原理によって設ける。Leech(1983)はポライトネスが「気配りの公理」や「是認の公理」など六つの公理に従わなければならないと指摘している。しかし、いったいどのようにすれば、ポライトネスを達成するのかはあまりはっきりしていない。本研究で設ける積極的ポライトネス・ストラテジーと消極的ポライトネス・ストラテジーの下位分類はほとんどこれらの公理に従っている。例えば、「賞賛型」と「寛容型」は「相手への非難を最小限にせよ、相手への賞賛を最大限にせよ」という是認の公理に忠実である。「謙虚型」と「自責型」は「自己への賞賛を最小限にせよ、自己への非難を最大限にせよ」という謙遜の公理に従っている。このように、「感謝型」、「陳謝型」と「同意型」などに分類する。

ただし、立場や関係の点から見ると、相手を敬ったり、自己が謙ったりして話すこともあるが、この点については、Leechはあまり指摘していない。Leech の言及していない部分について、Brown &Levinson(1987)は、消極的ポライトネス・ストラテジーの下位分類として、「敬意を表す」を挙げている。それによって、本研究では、「敬意を表す」というのを「尊敬型」と「謙遜型」に分ける。ただし、Brown &Levinson(1987)は「尊敬型」を消極的ポライトネス・ストラテジーの下位分類としているが、本研究では、「尊敬型」を積極的ポライトネス・ストラテジーの下位分類として検討する。「尊敬型」は相手に対する敬称や相手の動作などを敬って言う尊敬動詞を使用することによって、積極的に相手を持ち上げ、相手に自分より上と積極的に感じさせるストラテジーであるため、積極的ポライトネス・ストラテジーに属するのが適切だと考えられる。ポライトネス・ストラテジーの分類は下記の通りである。

積極的ポライトネス・ストラテジー

配慮型、尊敬型、賞賛型、感謝型、同意型、同情型、挨拶型、祝賀型

消極的ポライトネス・ストラテジー

顧慮型、謙遜型、謙虚型、陳謝型、自責型、寛容型

4.3 各ポライトネス·ストラテジーの説明

4.3.1 配慮型

配慮型は、関心を抱かれたい、理解されたいという相手の積極的面子に配慮し、相手への利益を増やすことを表すストラテジーである。インタビューでは、発話者が相手の身体状況や精神状況に関心を示したり、相手の利益になることに対する期待を示したり、相手のことを十分理解していることを示したりすることである。

〈関心表示〉

(1) 阿川: …略… 奥様がお亡くなりになって一年ですね。ご本によりますと、毎日泣いてばかりいらしたそうですが、少しは元気になられたんですか。

蛭子:ええ、もう全然大丈夫です。   (452 阿川佐和子*蛭子能収)

(2) 林:北海道マラソンは途中棄権で残念でしたね。お体の具合はもう大丈 夫ですか。

長谷川:もう生き返りました。…略…   (184 林真理子*長谷川理恵)

(1)では、話し手は奥様に亡くなられた聞き手の悲しい気持ちに配慮し、今の精神状況を聞き、聞き手に対する関心を示している。(2)では、話し手は相手の体の具合という身体状況を問うことによって、聞き手に対する関心を示している。

〈期待表示〉

(3) 阿川:いま一番楽しいことはなんですか。彼といるときとかなんか。

水野:ないなぁ。

阿川:そんな冷めてて、いいんかいッ。まあ、でも、幸せなご結婚生活を期待しております。      (458 阿川佐和子*水野真紀)

(4) 林: …略… でも、冬になると編集者がなんのかんの理由をつけてふぐを食べに来るんでしょ。

高樹:アハハ、ぜひ食べにいらしてください。

(140 林真理子*高樹のぶ子)

(5) 杨澜:退休之后,您还想写一些关于汉唐时期的历史小说,不知道是不是已经动笔?

查良镛:还没有动笔。…略…

杨澜:我们除了读小说以外,可能还会获得一本历史书,一部政治书和研究出来的其他作品。真希望能早日看到。 (9 杨澜*查良镛)

(6) 陈逸飞:…略… 我马上还要到德国、奥地利去补一些镜头,还要请几位小时候在上海长大的犹太人在4月份的时候来上海。

杨澜:故地重游。那祝您成功!…略… (4 杨澜*陈逸飞)

(3)(5)では、話し手は聞き手の幸福な生活や新しい作品を心から期待することを表明している。(4)の「ぜひ…てください」は積極的に聞き手を誘う言葉であり、聞き手の希望に従うように話し、相手の来訪などに対する期待を強く表すためによく使われる。(6)では、話し手は聞き手の成功を祈り、聞き手を励ますことによって、それに対する期待を示している。

〈理解表示〉

(7) 美輪:だから、あらゆる企業に責任がある。多くの原因が重なって今の世の中になっているんですからね。それで、私は各企業が人々を犯罪と狂気に向けて追い立てるのはおやめなさいというの。

阿川:納得するなあ。        (446 阿川佐和子*美輪明宏)

(8) 中村:俺、高校のときって成績がかなり良かったんですよ。だからそれなりに勉強できるって自分で思ってたんですけど、大学に入った途端、「ただの学生」になっちゃって。クラスの3分の1は塾高から上がってきた連中で、すげえ都会の香りって感じで。

林:わかる、わかる。       (182 林真理子*中村雅俊)

(9) 鲁豫:那音乐对你来说意味着什么,它肯定不单单是一个工作,而是你生活的全部?

崔建:对,有可能,我明白你的意思,你想问我生活里边还有没有其他的,如果我总是谈音乐,…略… (1 鲁豫*崔建)

(7)(8)(9)では、「納得する」「わかる」「我明白」という発話によって、相手の言うことや言いたいこと、あるいは相手の気持ち・境遇などをよく理解していることを表明している。

4.3.2 尊敬型

相手を積極的に持ち上げて、相手の行為・人格などに対する敬意を表すことである。相手に対する敬称を用いたり、相手の動作などを敬って言う言葉や文型を使用したりして、積極的に自分より上という感じをさせるストラテジーである。その表し方として、敬称や尊敬動詞などいろいろあり、インタビューでよく使われる。

(10) 野坂:お父上は、志賀先生以外大体許さなかった。麻雀やってても、すぐ怒髪天を衝く。

阿川:あ、外でも怒ってましたか。 (447 阿川佐和子*野坂昭如)

(11) 林:昔の経営者って、ずいぶん粋なことをなさるんですね。高島さん、ラブレターもたくさんお書きになったと聞いていますけど。

高島:ずいぶん送りました。…略…   (187 林真理子*高島忠夫)

(12) 鲁豫:我看您书里面回忆见第一面的时候,您内心的那种震撼是很大的。陈香梅:是。…略… (6 鲁豫*陈香梅)

(13) 杨澜:请您谈一下当部长以来总体的一个感受,谈谈您的心得吧。

石广生:这是人民对我的重托,…略… (20 杨澜*石广生)

(10)(12)(13)では、「お父上」「您」という敬称で、聞き手を敬う気持ちを表している。(11)(13)では、「なさる」「请」という尊敬動詞や「お…になる」という尊敬を表す文型が使用されている。尊敬を表す表現は、日本語では多様であるのに対し、中国語のインタビュー資料には、「您」と「请」しか現れていない。その中でも、「您」が99%を占めている。

4.3.3 賞賛型

よく評価されたい、誉められたいという相手の積極的願望に添うように使用するストラテジーである。相手の持ち物や業績など相手に属する物事のすばらしさなどをよく認め、相手の行為や価値観などを高く評価し、言葉で心の底から感嘆することにより、相手への賞賛を大きく表現することである。

 

(14) 林:岡本さんの声、すごく響くきれいな声ですけど、昔から「歌がうまい」とか「声がいい」とか言われてたんですか。

岡本:ドリカムに出合うまで、歌はいちばん苦手でした。…略…

(112 林真理子*岡本真夜)

(15) 水野:出張先のホテルの部屋に薄いまな板を持ち込んで、タマネギをガンガンそこで切って練習したり。刻んだタマネギがたくさん出るので、これでお菓子を作ってみるかっていう発想ですね。

阿川:ヒェー。えらいッ!…略…   (458 阿川佐和子*水野真紀)

(16) 龙梅:开始我也没看中他,他那时候虎头虎脑的,你刚才进来看到了。

鲁豫:我看形象很好。 (12 鲁豫*龙梅)

(17) 杨澜:我很欣赏您对人生的态度,也是余秋雨在您画册前言里写的,说您如果在大晴天出去旅游,会觉得很开心;…略…

陈逸飞:我很随缘,随缘是福,这个很重要,有的时候你自己跟自己过不去跟什么? (4 杨澜*陈逸飞)

(14)では、「きれい」という言葉で聞き手の声を賞賛している。(15)のように、「えらい」を使い、聞き手の技術や行動などを高く評価することもよくある。(16)では、話し手は「很好」と言い、聞き手側の人のスタイルや容姿を誉めている。(17)では、「我很欣赏您…」という発話によって、聞き手の態度や人生観を賞賛することを表明している。

4.3.4 感謝型

相手に助けられ、誉められた時、あるいは相手から何らかの恩恵を受けた時、それをありがたく感じることを示したり、相手に対するありがたい気持ちを言葉で言い表したりするストラテジーである。それによって、行為や協力を認められたいという相手の積極的願望をかなえ、相手との対立を小さく表現する。

(18) 渡辺:表現意欲がわいてきて、ガーッとなっちゃう。あなたもすごいよ。ああいういやらしさ、いや、これは褒め言葉なんだよ。

林:ありがとうございます。      (95 林真理子*渡辺淳一)

(19) 阿川:今度、NHKで私の原案のドラマ『お見合い放浪記』に主演してくださいまして、ありがとうございます。

水野:いえ、すごく光栄です。このお話をいただいたときは、ああ、この役は他の人にやられたら悔しいかもって思ったんです。

(458 阿川佐和子*水野真紀)

(20) 蔡澜:因为你长得漂亮啊!

杨澜:谢谢。…略… (7 杨澜*蔡澜)

(21) 张行:…略… 但我相信,这对自己今后的成长,事业的发展,是一个很好的基础。

鲁豫:谢谢你张行,谢谢。 (3 鲁豫*张行)

(18)(20)では、相手の賞賛に対して、「ありがとう」「谢谢」と言い、感謝している。(19)(21)では、聞き手の協力や恩恵に対するありがたい気持ちを表している。

4.3.5 同意型

意見や提議を認められたい、受け入れられたいという相手の積極的願望に配慮して、相手を尊重し、相手の意見や考えに賛成することをを表すストラテジーである。自分と相手との合意を最大限にせよという公理に忠実である。

(22) 阿川:い〜え、いろいろございますわよ。「奈っちゃん」とお呼びしてよろしいですか。

小島:はい、もちろんです。   (450 阿川佐和子*小島奈津子)

(23) 阿川:ブロック塀をなくす運動もやりたいんです。

美輪:もう、国民栄誉賞をあげちゃいたい。大賛成!…略…

(446 阿川佐和子*美輪明宏)

(24) 鲁豫:你知道为什么吗,因为公众的承受力没有这么强,他们觉得:我们还没有准备好,我们还没有调试好心情,璩美凤怎么就出来了。

璩美凤:我觉得你讲的有道理。 (5 鲁豫*璩美凤)

(25) 杨澜:我想经济结构也要多元化。香港二十年前有制造工业,现在已经很弱小。而且在恒生指数一百个指数成分股份里,没有一个是工业股。

田长霖:对,完全正确。 (23 杨澜*田长霖)

 (22)(25)では、相手の提議や見方に対して、「はい」「对」という肯定的な答え方に、さらに「もちろん」「完全正确」を付け加え、完全に認め、賛成するように見せている。(23)では、話し手は「大賛成」という言葉を用い、賛成する気持ちを直接に強く表している。(24)のように、相手の意見に理屈があると言うことによって、相手に賛成することを表すこともある。

4.3.6 同情型

相手の不運な経験を自ら体験したように感じ、相手の悲しみや苦しみ、悩みなどを相手の立場に立って思いやり、哀れむことを表すストラテジーである。自分と相手との共感を大きく表現しようとすることである。

(26) 長谷川:…略… 今回はレース前の2週間、アメリカのポートランドで調整していたんです。調整は完璧だったんです。だからなんでだろうと思って。

林:ほんと、残念でしたね。長谷川さん、走っていてどんなときが楽しいんですか。       (184 林真理子*長谷川理恵)

(27) 乙葉:「カッコいいよね」って言われる人じゃなくて、「アブないよね」って言われる人に好かれるタイプで、みんなに「そういう人専門だね」っていわれました。

林:まあ、カワイソー。        (119 林真理子*乙葉)

(28) 阮仪三:我当时碰到的不光是这个钉子。…略…

杨澜:阮教授,我觉得您挺不容易的。您只是一位学者,一位知识分子,手中没有权力,也没什么钱。…略… (29 杨澜*阮仪三)

(29) 鲁豫:其是你知道吗,仔细想的话,在这个事件当中,受伤最深的肯定是璩美凤,她很痛苦。…略…

璩美凤:身为女人,如果事情发生之后,男性也有一些担当的话,我相信可能女性受伤或受的影响会比较少一点点。 (5 鲁豫*璩美凤)

(26)では、話し手は相手の失敗した後の悔しい気持ちに配慮し、自分も残念に思うことを示している。(27)の「カワイソー」は相手の苦しい経験に対する同情を直接表しているものである。(28)では、話し手は「不容易」という自分の感想を言い、聞き手の不運な経験を思いやり、同情の気持ちを表している。(29)では、話し手は聞き手が傷つけられたことを認め、その苦しみや精神的な苦痛を哀れんでいる。

4.3.7 挨拶型

インタビューの始めに、直接話題に入るのは失礼と考えて、社交的・儀礼的な言葉で相手とやりとりしたり、歓迎の意を表したり、やわらかい雰囲気を作り出したりするストラテジーである。親切にもてなされたいという相手の積極的願望に添うのが目的である。

 

(30) 阿川:お久し振りでございます。ご自宅に伺うのは十年ぶりですね。

美輪:あれはまだあなたがハジケる前じゃなくって?

(446 阿川佐和子*美輪明宏)

(31) 阿川:お帰りなさいませ。いつもクマさんのホームページの「ゲージツ日報」楽しく読んでます。

篠原:おう、イタリアまでお祝いのメールくれて、ありがとうな。

(457 阿川佐和子*篠原勝之)

(32) 杨澜:您好,梁先生。请问,在1997年10月香港股市再次大跌的时候,您的第一个反应是什么?

梁定邦:我第一个反应就是看看香港当时的交易制度和管理制度,…略…

(3 杨澜*梁定邦)

(33) 鲁豫:美凤你好。

璩美凤:你好,不好意思,我坐在这里是吧? (5 鲁豫*璩美凤)

(30)(31)のように、聞き手に長い間会わなかったら、「お久し振りです」と言ったり、聞き手が海外から帰ったとしたら、「お帰りなさい」と挨拶したりしてから、対談に入るのは親切に感じられる。(32)(33)では、互いに「你好」という中国人が常用する挨拶の言葉でやりとりをし、礼儀を表明している。

4.3.8 祝賀型

相手にめでたいことがある時、それに対する自分の喜びの気持ちを伝えたり、相手の業績や成功をお祝いしたり、そのめでたいことの価値を認め、さらに強調したりするストラテジーである。

(34) 林:このたびは総長ご就任おめでとうございます。

白井:まだ新米で。          (146 林真理子*白井克彦)

(35) 阿川:芥川賞受賞、おめでとうごさいます。

吉田:ありがとうございます。  (451 阿川佐和子*吉田修一)

(36) 杨澜:首先,祝贺你的演出成功!要不是演员们唱意大利文,大家几乎觉得这是一个中国的故事了;…略…

张艺谋:我首先不同意你刚才那个说法,那不是你说的。…略…

(28 杨澜*张艺谋)

(37) 杨澜:前不久法国政府授予你文化艺术高级军官勋章,那是一件值得庆祝的事情。同时,他们也说你是法国人心中最美的中国女性。你觉得,从外国人的眼光来看,他们欣赏你哪些地方?

巩俐:我觉得他们说的这种美是整体的,…略… (25 杨澜*巩俐)

(34)(35)では、「おめでとう」という言葉で、聞き手が大学の総長に就任したことや聞き手が受賞したことに対する喜びの気持ちを伝え、お祝いしている。(36)の「祝贺……成功」も明らかに祝賀している発話である。(37)では、聞き手が勲章を授けられたことの価値を認め、それが祝賀に値するのを強調し、お祝いする気持ちを表している。

4.3.9 顧慮型

批判されたくない、押しつけられたくないという相手の消極的面子に配慮し、直接相手に反対するのを避けたり、相手への負担や損失を小さく表現しようとしたり、相手の消極的面子を保ったりすることを表すストラテジーである。

〈対立回避〉

(38) 蛭子: …略… だけど俺はそういうのは捕まえるべきじゃないと思いますよ。

阿川:お気持ちは分かるけど……、反省は?

(452 阿川佐和子*蛭子能収)

(39) さだ:メロディーですね。自分では素晴らしいメロディーライターだと思ってますね。メロディー集がいくつも出てるぐらいですから。

林:もちろんメロディーも素晴らしいと思いますけど、私はものを書く人間だから、やっぱり詞は素晴らしいと思う。…略…

(82 林真理子*さだまさし)

(40) 杨澜:不知道吴导演是否同意我这样的观点:引起华语电影滑坡,特别是香港部分的滑坡的另一个重要原因是创作萎缩,没有好的剧本。您认为是吗?

吴思远:剧本是很重要,但也不能把电影滑坡单归为没有好剧本。…略…

(1 杨澜*吴思远)

(41) 杨澜:我最近读到黄仁宇先生写的《中国大历史》这本书,不知道您是否看过?其中提到一个观点就是:中国几千年的…略…,这点上您是不是跟他有相同的看法?

查良镛:他这本书写得很好,但基本精神我不同意,…略…

(9 杨澜*查良镛)

(38)(39)では、相手の意見に直接反対するのを避けるために、「…は分かるけど」「…と思いますけど」という発話によって、まず相手の意見の正確性を述べてから、自分の意見を提出している。(40)(41)では、話し手はまず「…很重要」「…很好」と言い、相手の考え方や作品の価値を認めてから、反対の意見を出している。

〈負担・損失減少〉

(42) 美輪: だからね、こんな白いシャツに黒いパンツなんて格好しないでさ。あの、ねえ……、もうちょっと……。

阿川:言葉を選ばないで、全部おっしゃってください。

(446 阿川佐和子*美輪明宏)

(43) 氷川:20、30代には嫌われてるんですかね。

林:そうじゃなくて、20、30代ってあんまり演歌は聞かないのかもしれない。          (103 林真理子*氷川きよし)

(44) 鲁豫:您的爱人是在哪一年……?

陈爱莲:应该是在1968年吧,1968年去世了。 (7 鲁豫*陈爱莲)

(45) 杨澜:…略… 可不可以跟我们讲一下当时为什么要提出辞呈?

田长霖:1997年我提出辞呈,原因很多。 (23 杨澜*田长霖)

(42)では、話し手は聞き手の服装に意見があるが、考えるままに言い出せば、聞き手の面子を傷つけやすいと配慮し、省略して言葉を選んで発話している。(43)では、相手が人に嫌われるという可哀相な境遇に落ちないように、話し手は別の原因を探し、述べることによって、相手を損失から救おうとしている。(44)では、家族の人が亡くなった悲しい思い出が相手の心理負担になると心配し、話し手はそれに関する言葉を省略して間接的に聞いている。(45)のように、「可不可以」「能不能」というヘッジ表現をつけ、許可を求めるような聞き方も聞き手への負担を軽くするために使われるものである。

4.3.10 謙遜型

積極的な尊敬型と対応し、謙遜型は消極的に相手に対する敬意を表すものである。自分や自分にかかわりのある人・動作、あるいは自分に所属する物事などを謙って自分を卑下して、自分を低いものとして述べるストラテジーである。これによって、消極的に自分より上というのを相手に感じさせ、相手に対するポライトネスを表す。謙称・謙譲動詞や文型などいろいろな表し方がある。

(46) 蛭子:それにうちの女房は、もともと警察が嫌いなんですよ。

阿川:危ない記事になりそう、これ。 (452 阿川佐和子*蛭子能収)

(47) 林:以前、TBSの「王様のブランチ」でお目にかかりましたね。私の本を紹介してくださって。

えなり:はい。『ミスキャスト』を読ませていただきました。          (117 林真理子*えなりかずき)

(48) 浅丘:これ、差し上げます。

阿川:えっ、やっ、嬉しいッ!…略…

(454 阿川佐和子*浅丘ルリ子)

(49)  林:もっと肉声でどんどんお話しいただきたいですよね。…略… ああいうお話をもっとお聞きしたいなと思うんです。

渡辺:そうですね。…略…      (102 林真理子*渡辺みどり)

(46)では、「うちの女房」という謙称で、話し手は自分側の人を謙って聞き手に対する敬意を表している。(47)(48)では、「お目にかかる」「いただく」「差し上げる」という謙譲動詞が使用されている。(49)では、「お…いただく」「お…する」という謙遜を表す文型で、自分を低いものと示し、聞き手に自分より上と感じさせる。謙遜型は中国語の資料に現れていない。

4.3.11 謙虚型

自分の能力や才能などを誇らないように、自分の存在を低くし、自分への賞賛を小さく表現しようとする消極的なストラテジーである。相手の誉め言葉を否定し、相手の賞賛を素直に受け入れられない様子を示し、自分の能力の限界を強調し、控え目な様子を表すことである。

(50) 林:わあおー!背が高くてステキ!これだけの容姿を持っていて、サラリーマンでいるなんて、もったいないですよ。やっぱり進むべき道に進まれたという感じですね。

平:いやいや……。        (121 林真理子*平岳大)

(51) 林:そういうことじゃなくて!このあいだ、「おニャン子クラブ」が同窓会してるの見たら、みんな30代半ばなのにエッ!と愕然とするぐらいおばさんになってた人がいましたけど、黒田さんは衰えがないんですよね。

黒田:そんなことないですよ。   (183  林真理子*黒田知永子)

(52) 杨澜:…略… 有人说您是文学界仅次于鲁迅、巴金和沈从文的一位二十世纪的文学大师,我不知道您是如何评价自己在文学界的地位的?

查良镛:多谢他们这样的评价,实际上是不敢当。…略…

(9 杨澜*查良镛)

(53) 鲁豫:现在您去什么地方?一年当中起码的有一个多半时间在外面住吧?

陈香梅:…略… 很多人找陈香梅,很多事情根本不应当我去做的,其实我也没有这么大的本事。 (6 鲁豫*陈香梅)

(50)(51)では、相手の賞賛に対して、話し手は控え目な様子で否定し、自分への賞賛を小さく表現しようとしている。(52)の「不敢当」も自分の才能を誇らないように使われる控え目な表現である。(53)では、話し手は自分の能力の限界を強調している。

4.3.12 陳謝型

自分の領域に侵入されたくない、他人に影響されたくない、邪魔されたくないという相手の消極的願望を考慮し、それらの願望に違反するようなことを話した時、あるいは聞こうとする時、相手にお詫びをし、相手の了解を求めるストラテジーである。

 

(54) 阿川:私事で大変失礼ながら、お二人の結婚が決まったとき、私、友達とこっくりでお二人の将来を占ったら、「二年後に離婚」って出たんですよ。

浅丘:みんなにそう言われましたよ。…略…

(454 阿川佐和子*浅丘ルリ子)

(55) 林:一人の人に決めるには、まだ早いですよね。

長谷川:そうですか?でも、そんなこと言わないでください。

林:あっ、ゴメン、ゴメン。    (184 林真理子*長谷川理恵)

(56) 璩美凤:因为我个人造成社会的影响,我要深深地跟大家表达我的歉意。

鲁豫:你还记得你第一次知道自己出事是什么时候吗?还记得吗?

(5 鲁豫*璩美凤)

(57) 杨澜:你们为什么决定不要孩子?对不起,这个话题太个人化了。在你们这个年纪想到不要孩子,两个人自由自在地过日子的人,还不算太多。

李银河:我们婚前就说好不要孩子的,我们可能是赶上第一波做这种选择的人。…略… (18 杨澜*李银河)

(54)では、話し手自分の行為は聞き手の私的領域を侵犯するおそれがあるので、まず聞き手に謝ってから、そのことを言い出している。(55)(57)では、聞き手の消極的面子を傷つけることを言ってしまい、話し手は「ごめん」「对不起」とお詫びをしている。(56)は他の例と少し違って、話し手はインタビューを聞いている人全体に陳謝し、社会の了解を求めている。これは、聞き手は必ず一人に限らず、観衆や聴衆たちも聞き手であるというインタビューの独特なところから生み出された特別な例である。

4.3.13 自責型

相手の消極的面子を傷つける可能性のあることを話した、あるいは話そうとする時、それは自分の過ちだと認めて、そんな話は余計だとか、自分が馬鹿だとか、いろいろと自分を責めることで、自分が悪かったということを表明し、相手に責任を負わせないようにする。つまり、自分への非難を大きく表現する。自責型は一般的に陳謝型を伴って用いられる。

(58) 林:好きになったら、即どうのこうのなるってタイプじゃないですよね。人間として信用できるとなると、魂と魂とが深くふれあう関係ぐらいにならないと難しいってことでしょうから、今の小雪さんに釣り合う年齢でいるかしらって、余計なお世話ですけど。なんか急に不安になってきて。同世代の友達も少なそうだし。

小雪:少ないですね。           (181 林真理子*小雪)

(59) 白井:昔の卒業生には悪いけど、今はきれいな人が多いよね。

林:でも、早稲田出身の人って、愛校心はすごくあっても、…略…

(146 林真理子*白井克彦)

(60) 鲁豫:你觉得很伤心吗?

宫雪花:伤心。

鲁豫:这是个很傻的问题,当然会很伤心。我的意思是……

(8 鲁豫*宫雪花)

(61) 杨澜:我呢,比较俗气一点,还要问一个比较实际的问题:中国加入世界贸易组织以后,海外质量比较好的电器会议相对便宜的价格进入中国市场。那么,张先生,您认为您已经做好准备去迎接这样的竞争了吗?

张瑞敏:我的准备就是你进来以后我要与你公平竞争。…略…

(2 杨澜*张瑞敏)

(58)では、聞き手が自分の言うことを気にかけないように、話し手は自分の話は余計だと話の後に補充している。(59)では、話し手はまず自分が悪いと自責してから、他人の消極的面子を傷つける可能性のあることを言い出している。(60)では、話し手は自分の不適切な言い方に気づき、それがばからしい質問だと強く自分を責めている。(61)も(59)と同様に、話し手はまず自分に品がないと自己非難してから、聞きたい問題を提出している。

4.3.14 寛容型

相手の消極的面子を十分に考慮し、相手への非難を小さく表現するストラテジーである。相手の過失・誤り・失敗などを咎めたてなく、相手の不適切な言葉や行動などを気にせず、相手を許すのを表明することである。さらに、心が広く、相手の苦衷を思いやり、他の良い面を積極的に認め、相手の言いたいことを言わせたり、謝らないようにさせたりすることもある。

(62) 美輪:だからね、こんな白いシャツに黒いパンツなんて格好しないでさ。あの、ねえ……、もうちょっと……。

阿川:言葉を選ばないで、全部おっしゃってください。

(446 阿川佐和子*美輪明宏)

(63) 阿川:悲状感は全然ないの?

吉田:でも、ほんとに、自分が貧乏生活をしてるという意識がなくて。ごめんなさい。

阿川:謝らないでよ。最近は収入も増えて。

(451 阿川佐和子*吉田修一)

(64) 杨澜:所以,您在各个方面,包括价钱方面都很支持他。

查良镛:…略… 后来他没有能力买,我觉得这也不是他的过失,…略… 因为他做生意没成功,所以他没有力量完成这个合约,我可以原谅的,也谈不上侠义,做事情通情达理罢了。

杨澜:您非常宽容。 (9 杨澜*查良镛)

(65) 杨澜:你激人家老板,说没钱就别干这个。

张艺谋:其实已经来不及了,就剩几天了,我也只是宣泄一下我的不满。我并不怪他们,他们非常辛苦,就是他们的感觉和我想得还不一样。 (28 杨澜*张艺谋)

(62)では、相手に遠慮しないように注意し、言いたいだけに言わせ、不適切な言葉があっても気にしない様子を示している。(63)では、相手に謝らないように注意し、相手への非難を小さく表現しようとしている。(64)(65)では、相手の過失や失敗などを咎めたてず、相手を許すことを表明している。

5. 日中両言語の対照

5.1 各ポライトネス·ストラテジーの使用頻度の比較

上述した分類方法で、日中両言語のインタビュー資料におけるポライトネス・ストラテジーの使用数や使用率を調査し、それぞれの特徴をとらえるために、統計表を作成し、その対照研究を行う。

5.1.1 積極的ポライトネス·ストラテジー

積極的ポライトネス・ストラテジーは相手の積極的面子を傷つけないように気配りして、積極的に円滑な人間関係を維持するために使用するコミュニケーション手段である。インタビューでは、相手に対する敬意やありがたい気持ちなどを表したり、相手の良いところをたたえたり、お世辞を言ったりする積極的な社交的言葉が重要な役割を果たしている。

日中両言語のインタビュー資料における積極的ポライトネス・ストラテジーの使用数と使用率についての調査結果は表1のとおりである。

表1  積極的ポライトネス・ストラテジーの統計表

ストラテジー

(分類)

日本語

中国語

使用数

使用率%

使用数

使用率%

配慮型

27

2.7

8

1.2

尊敬型

776

78.3

540

81.3

賞賛型

153

15.4

68

10.2

感謝型

8

0.8

13

2.0

同意型

11

1.1

12

1.8

同情型

10

1.0

12

1.8

挨拶型

2

0.2

9

1.4

祝賀型

5

0.5

2

0.3

(合計)

992

100

664

100

(ストラテジー使用率=各積極的ポライトネス・ストラテジー使用数/総積極的ポライトネス・ストラテジー使用数。以下同様。)

表1から、積極的ポライトネス・ストラテジーについては、日中両言語とも尊敬型に集中する傾向があることが分かる。尊敬型の使用率は両言語とも非常に高く、3/4以上も占めているが、その使用数は中国語より日本語のほうが多い。しかし、尊敬型の使用率は中国語のほうが多いことから、中国語は使用の集中度が高いことが分かる。同じ尊敬型でも、日本語の表現は中国語の表現と少し違う。日本語では、「おっしゃる」、「なさる」などのような尊敬動詞や「お/ご…になる」、「れる・られる」などの表現で表すことが多い。しかし、中国語ではこのような表現が見られず、「您」という敬称で表現するのが普通である。そこから、尊敬を表す表現は日本語のほうが中国語より多様であると言えるであろう。

その次に、両言語とも賞賛型が多く使用されているが、日本語の使用数がより多く、中国語の2.3倍近くあることが見られる。中国人は日常会話で日本人より賞賛型を愛用し、賞賛型が中国人会話の慣習性の一つ[2]と言われるのに反して、ここで日本語の使用率が中国語よりも高いのはインタビューの特徴と言えるであろう。積極的ポライトネス・ストラテジーの中で、尊敬型と賞賛型が多用されるのは両言語のインタビューにある共通しているところである。

ほかの積極的ポライトネス・ストラテジーは尊敬型と賞賛型に比べれば、非常に小さな割合を占めている。その中で、日本語は配慮型に集中する傾向があり、中国語は大体平均的に分布している。差があまり大きくないが、日本語のほうは配慮型と祝賀型が中国語より多用され、中国語は感謝型、同意型、同情型、挨拶型の使用率が日本語より高いことが見られる。

積極的ポライトネス・ストラテジーの使用の総数から見れば、日本語は中国語の約1.5倍である。積極的ポライトネス・ストラテジーについては、両言語にある程度の差があるが、共通しているところが少なくないと言えよう。

5.1.2 消極的ポライトネス・ストラテジー

消極的ポライトネス・ストラテジーは、相手の消極的面子を傷つけないように配慮し、消極的な言葉や表現で角が立たないような調和な人間関係を保つために使用するコミュニケーション手段である。相手の私的領域への侵犯、個人の自由への干渉をしないことを表すストラテジーである。インタビューでは、相手に負担をかけないようにいろいろ顧慮して、相手のプライバシーなどに関する話題を避けたり、自分のことを謙遜したり、相手の賞賛などを遠慮したり、自分のそそっかしさを責め、謝ったりするなどのストラテジーが見られる。

表2はインタビューにおける消極的ポライトネス・ストラテジーの統計結果を示したものである。

表2  消極的ポライトネス・ストラテジーの統計表

ストラテジー

(分類)

日本語

中国語

使用数

使用率%

使用数

使用率%

顧慮型

18

7.3

36

70.6

謙遜型

160

64.8

0

0

謙虚型

31

12.6

7

13.7

陳謝型

28

11.3

4

7.9

自責型

8

3.2

2

3.9

寛容型

2

0.8

2

3.9

(合計)

247

100

51

100

表2から分かるように、日本語の消極的ポライトネス・ストラテジーの総数は中国語よりはるかに多く、その5倍近くもある。そして、日本語話者の使用した消極的ポライトネス・ストラテジーは謙遜型に集まり、中国語話者の使用したストラテジーは顧慮型に集中する傾向があることが分かる。

日本語では、「いただく」、「お目にかかる」などの謙譲動詞や「お…する」というような謙遜を表す表現が発達しているために、自分を謙る謙遜型をとることが多い。一方、中国語には謙遜を表す文法的体系がなく、現代において、中国人に謙辞があまり使用されていないので、本考察の謙遜型はゼロである。中国語のインタビューでは、相手にかける負担を減軽するように、「能不能……」、「如果可以的话……」というヘッジ表現をつけ、婉曲的に表す顧慮型が多用される。

インタビューでは、中国人は「負担・損失減少」という顧慮型を多用する。しかし、相手の意見などに反対する時、中国人は「这一点我不同意你的看法」「但我认为……」などと言い、直接反対することを示し、直接反対の意見を述べることが多い。それに対して、日本人は相手の消極的面子によく配慮し、直接反対するのを避ける「対立回避」という顧慮型をよく使う。

また、表2から、謙虚型、陳謝型と自責型の使用数は中国語より日本語のほうが多いことが見られる。しかし、消極的ポライトネス・ストラテジーの総数に差があるために、謙虚型、陳謝型と自責型のパーセント数は日中両言語はほぼ同じである。

誉められた時、中国人はそのまま受け入れ、感謝することが多いのに対して、日本人は控え目な様子で遠慮し、否定する謙虚型を多用することが分かる。また、日本語話者は陳謝型を多用するのも一つの特徴と言えよう。インタビューでは、インタビュアーがゲストにいろいろな個人的な問題を聞くことが避けられないのである。こういう相手の消極的面子を傷つけやすいことに言及する時、中国語話者は顧慮型を多用するが、日本語話者は陳謝型をよく使う。自責型はたまに陳謝型と一緒に使われることもある。たとえば、「ばかなこと言っちゃって、すみません」など。したがって、自責型も日本語のほうが多いわけである。また、両言語とも寛容型の使用は非常に少ない。

5.2 ポライトネス·ストラテジー全体の比較

表3は、日中両言語のポライトネス・ストラテジーの全体的な使用傾向を明らかにするために、積極的ポライトネス・ストラテジーと消極的ポライトネス・ストラテジーそれぞれの使用数と使用率を表したものである。

表3 ポライトネス・ストラテジーの全体統計表

ストラテジー

(分類)

日本語

中国語

使用数

使用率

使用数

使用率

積極的ポライトネス

992

80.1

664

92.9

消極的ポライトネス

247

19.9

51

7.1

(合計)

1239

100

715

100

表3から分かるように、日本語のポライトネス・ストラテジーの総数は中国語よりずっと多く、その1.7倍ほどある。そこから、日本人は中国人よりポライトネスを重視し、ポライトネス・ストラテジーを多用すると言えるであろう。

また、インタビューでは、日本語、中国語とも消極的ポライトネス・ストラテジーより積極的ポライトネス・ストラテジーをよく使用することが見られる。積極的ポライトネス・ストラテジーの使用率は中国語のほうが高く、中国語のストラテジー使用の集中度が日本語より高いことも分かる。そして、消極的ポライトネス・ストラテジーの使用率は日本語のほうが中国語より高い。その使用率の差異から、積極的ポライトネス・ストラテジーは中国人の方が日本人より重視するが、消極的ポライトネス・ストラテジーは日本人の方が中国人より愛用する傾向があると言えよう。

6. 考察

6.1 日中両言語のポライトネス·ストラテジーの共通点と相違点

以上での分析や比較する結果に基づいて、日中両言語のインタビューにおけるポライトネス·ストラテジーの共通点と相違点を下記のようにまとめる。

6.1.1 共通点

1) 積極的ポライトネス・ストラテジーについては、両言語とも尊敬型の使用 率が一番高く、賞賛型がその次に多く使用される。ほかの積極的ポライトネス・ストラテジーは尊敬型と賞賛型に比べれば、日本語でも、中国語でも非常に少なく、両言語とも積極的ポライトネス・ストラテジーパタンの集中度が高いことが見られる。

2) 全体から見れば、両言語とも積極的ポライトネス・ストラテジーの使用率は消極的ポライトネス・ストラテジーよりずっと高く、インタビューでは両言語の話者とも消極的ポライトネス・ストラテジーより積極的ポライトネス・ストラテジーを多用し、重視することが分かる。

6.1.2 相違点

1) 積極的ポライトネス・ストラテジーについては、日中両言語の分布傾向が似ている。しかし、使用数は日本語のほうが中国語より多いが、使用率は日本語より中国語の方が多いことが観察された。また、尊敬型の表現に相違がある。日本語は「おっしゃる」、「なさる」などのような尊敬動詞や「お/ご…になる」、「れる・られる」などの表現で表すことが多いが、中国語にはこのような表現がなく、「您」という敬称で表現するのがほとんどである。尊敬を表す表現は日本語のほうが中国語より多様である。

2) 日本語の消極的ポライトネス・ストラテジーの総数は中国語よりはるかに多く、その5倍近くもある。そして、分布傾向に違いも大きい。中国語は顧慮型にかなり集中しているが、日本語は謙遜型に集まっている。中国語では、謙遜型はゼロである。相手に質問する時、中国語話者は顧慮型を多用するが、日本語話者は陳謝型を愛用する。誉められた場合、中国語話者は感謝型で返答することが多いのに対して、日本語話者は謙虚型をよく使う。相手に反対する時、中国語話者は直接反対することが多いが、日本語話者は「対立回避」という顧慮型を多用し、婉曲的・間接的に反対する意見を述べることが多い。

3) 全体的には、日本人は中国人よりポライトネスを重視し、ポライトネス・ストラテジーを多用する。しかし、積極的ポライトネス・ストラテジーの使用率は中国語の方が高い。積極的ポライトネス・ストラテジーは中国人の方が日本人より重視するが、消極的ポライトネス・ストラテジーは日本人の方が中国人より愛用することが分かる。

6.2 相違点を生み出す要因について

言語表現は文化や社会・習慣などと密接な関係がある。ポライトネス・ストラテジーは文化と言語などによって異なる(Kaidi Zhan:1992)。異なった国のポライトネスを表す言語的手段は、その背景にある異なった文化や習慣などにかなり大きな影響を与えられていると言えよう。日中両言語のインタビューにおけるポライトネス・ス