analysis of questionnaire data for nurse in palliative

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265 Copyright © 2012 日本感性工学会.All Rights Reserved. 1. 癌治療において,コメディカル従事者の必要性が日増しに 高まっている.とくに,看護師は,医師の補助だけでなく, 患者および親近者(家族)の心のケアを担うという意味で重 要な役割を担っている.このような時流のなかで,注目され ているのが緩和ケアである[1]. 緩和ケアに対する研究は,患者,家族,看護師,あるいはチー ム医療など様々な対象に焦点があてられており,その内容 も,疼痛緩和を目的としたオピオイドに対する QOL 評価の 導入に関する研究[2]といった,治療指針に絡む研究から, 終末期がん患者の家族の心情に対する記述的調査[3]といっ た,患者・家族のスピリチュアルな調査まで多岐にわたる. このような時流のなかで,緩和ケアに対する現況について の幾つかのアンケート調査が報告されている.例えば,渡辺 ら[4]は,新潟県立がんセンター新潟病院における,緩和 ケア病棟に対する患者家族の意識に対するアンケート調査を 実施している.また,小田原ら[5]は,東邦大学医療センター 大森病院における緩和ケアに対するチーム医療の現状と問題 点をアンケート調査の結果に基づいて考察している. アンケートの内容には,自由記述方式[3],あるいは対面 方式[6]による質的調査での報告だけでなく,量的調査も 行われている.それらの統計的方法の目標は,(1)評価尺度 の構成あるは因果推論といった潜在構造の探索・評価に関す る研究[78],(2)結果(応答)に対する影響要因(すなわ ち回帰モデル)の探索・評価に関する研究[9-11],である. 上記の(2)に焦点を当てるとき,緩和ケアに対するアンケー ト調査分析には,重回帰分析,あるいはロジスティック回帰 分析などの線形モデルが用いられている.ただし,線形モデ ルでは,非線形構造および高次交互作用を表現できない.ま た,アンケート・データの分析では,適合度の悪い(寄与率 の低い)推定モデルに遭遇することが少なくない. 下川ら[12]は,アンケート調査のデータ分析にアンサ ンブル学習法の一つである,多重化法型回帰樹木法(MART: Multiple Additive Regression Trees)[13]を応用すること で,重回帰分析に対する上記の問題点を解決できることを指 摘している.また,推定モデルに基づくグラフィクスを解釈 することで,重回帰分析では得られなかった新たな知見を見 出している. MART 法は,CART 樹木[14]の線形結合によって推定 モデルが与えられる(このとき,アンサンブル学習法では, CART 樹木を基本学習器あるいは弱学習器と呼ぶ).そのた め,推定モデルを解釈できない.このことは,推定モデルを プロダクション・ルールで解釈できる CART 樹木の長所を 失っていることを意味する. 看護師に対する緩和ケアのアンケート調査データの ルール・アンサンブル法による分析 下川 敏雄*,布内 美智子**,松本 晴美**,辻 光宏*** * 山梨大学大学院医学工学総合研究部‚ ** 松下記念病院‚ *** 関西大学総合情報学部 Analysis of Questionnaire Data for Nurse in Palliative Care by Rule Ensemble Method Toshio SHIMOKAWA*, Michiko NUNOUCHI**, Harumi MATSUMOTO** and Mitsuhiro TSUJI*** * Department of education, Interdisciplinary Graduate School of Medicine and Engineering, University of Yamanashi, 4-3-11 Takeda, Kofu-shi, Yamanashi 400-8511, Japan ** Matsushita Memorial Hospital, 5-55 Sotojima, Moriguchi-shi, Osaka 570-8540, Japan *** Faculty of Informatics, Kansai University, 2-1-1 Ryozenji, Takatsuki-shi, Osaka 569-1095, Japan Abstract : The importance of team medical treatment in which doctors and co-medical colleagues (i.e., nurse, pharmacist, CRC, and so on) treat cancer together has been increasing. The nurse’s main roles are to help with the cancer therapy and provide mental support to patients and families. We surveyed the concerned nurse’s involvement in the cancer therapy using a questionnaire. We asked them the need for palliative care, importance of team medical treatment, etc. The purpose of our analysis was to explore factors that influence the nurse while providing palliative care. Multiple linear regression analysis is one of the most popular methods for performing data analysis of questionnaires. However, it cannot construct a model with an interaction effect and nonlinear structure. We adopted the rule ensemble (RE) method because it can model nonlinear and interaction structures. Furthermore, in the RE method, the estimated model can be interpreted based on rules (base learner). Moreover, we illustrated some graphical representation evaluation of estimated RE model. Therefore, we provided some influence factors about the intention of the nurse during palliative care and illustrated them using a graphical representation. Keywords : ensemble learning, regression analysis, graphical diagnosis, palliative care 日本感性工学会論文誌 Vol.12 No.2 pp.265-274 2013Received 2012.02.28 Accepted 2012.11.15 原著論文

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Page 1: Analysis of Questionnaire Data for Nurse in Palliative

265Copyright © 2012 日本感性工学会.All Rights Reserved.

1. 序

癌治療において,コメディカル従事者の必要性が日増しに高まっている.とくに,看護師は,医師の補助だけでなく,患者および親近者(家族)の心のケアを担うという意味で重要な役割を担っている.このような時流のなかで,注目されているのが緩和ケアである[1].緩和ケアに対する研究は,患者,家族,看護師,あるいはチー

ム医療など様々な対象に焦点があてられており,その内容も,疼痛緩和を目的としたオピオイドに対するQOL評価の導入に関する研究[2]といった,治療指針に絡む研究から,終末期がん患者の家族の心情に対する記述的調査[3]といった,患者・家族のスピリチュアルな調査まで多岐にわたる.このような時流のなかで,緩和ケアに対する現況についての幾つかのアンケート調査が報告されている.例えば,渡辺ら[4]は,新潟県立がんセンター新潟病院における,緩和ケア病棟に対する患者家族の意識に対するアンケート調査を実施している.また,小田原ら[5]は,東邦大学医療センター大森病院における緩和ケアに対するチーム医療の現状と問題点をアンケート調査の結果に基づいて考察している.アンケートの内容には,自由記述方式[3],あるいは対面方式[6]による質的調査での報告だけでなく,量的調査も

行われている.それらの統計的方法の目標は,(1)評価尺度の構成あるは因果推論といった潜在構造の探索・評価に関する研究[7,8],(2)結果(応答)に対する影響要因(すなわち回帰モデル)の探索・評価に関する研究[9-11],である.上記の(2)に焦点を当てるとき,緩和ケアに対するアンケート調査分析には,重回帰分析,あるいはロジスティック回帰分析などの線形モデルが用いられている.ただし,線形モデルでは,非線形構造および高次交互作用を表現できない.また,アンケート・データの分析では,適合度の悪い(寄与率の低い)推定モデルに遭遇することが少なくない.下川ら[12]は,アンケート調査のデータ分析にアンサンブル学習法の一つである,多重化法型回帰樹木法(MART:

Multiple Additive Regression Trees)[13]を応用することで,重回帰分析に対する上記の問題点を解決できることを指摘している.また,推定モデルに基づくグラフィクスを解釈することで,重回帰分析では得られなかった新たな知見を見出している.

MART法は,CART樹木[14]の線形結合によって推定モデルが与えられる(このとき,アンサンブル学習法では,CART樹木を基本学習器あるいは弱学習器と呼ぶ).そのため,推定モデルを解釈できない.このことは,推定モデルをプロダクション・ルールで解釈できるCART樹木の長所を失っていることを意味する.

看護師に対する緩和ケアのアンケート調査データの ルール・アンサンブル法による分析

下川 敏雄*,布内 美智子**,松本 晴美**,辻 光宏***

* 山梨大学大学院医学工学総合研究部‚ ** 松下記念病院‚ *** 関西大学総合情報学部

Analysis of Questionnaire Data for Nurse in Palliative Care by Rule Ensemble Method

Toshio SHIMOKAWA*, Michiko NUNOUCHI**, Harumi MATSUMOTO** and Mitsuhiro TSUJI***

* Department of education, Interdisciplinary Graduate School of Medicine and Engineering, University of Yamanashi, 4-3-11 Takeda, Kofu-shi, Yamanashi 400-8511, Japan

** Matsushita Memorial Hospital, 5-55 Sotojima, Moriguchi-shi, Osaka 570-8540, Japan*** Faculty of Informatics, Kansai University, 2-1-1 Ryozenji, Takatsuki-shi, Osaka 569-1095, Japan

Abstract : The importance of team medical treatment in which doctors and co-medical colleagues (i.e., nurse, pharmacist, CRC, and so on) treat cancer together has been increasing. The nurse’s main roles are to help with the cancer therapy and provide mental support to patients and families. We surveyed the concerned nurse’s involvement in the cancer therapy using a questionnaire. We asked them the need for palliative care, importance of team medical treatment, etc. The purpose of our analysis was to explore factors that influence the nurse while providing palliative care. Multiple linear regression analysis is one of the most popular methods for performing data analysis of questionnaires. However, it cannot construct a model with an interaction effect and nonlinear structure. We adopted the rule ensemble (RE) method because it can model nonlinear and interaction structures. Furthermore, in the RE method, the estimated model can be interpreted based on rules (base learner). Moreover, we illustrated some graphical representation evaluation of estimated RE model. Therefore, we provided some influence factors about the intention of the nurse during palliative care and illustrated them using a graphical representation.Keywords : ensemble learning, regression analysis, graphical diagnosis, palliative care

日本感性工学会論文誌 Vol.12 No.2 pp.265-274(2013)

Received 2012.02.28Accepted 2012.11.15

原著論文

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日本感性工学会論文誌 Vol.12 No.2

他方,緩和ケアのアンケートでは,「どのような看護師が緩和ケア業務に問題を抱えているか」,あるいは,「どうすれば緩和ケア業務の問題を解消できるか」に対する示唆を見出すことが重要になる.これらの解釈を行うには,推定モデルをブラックボックス化するMART法には困難である.本論文では,MART法の推定モデルに対するブラックボックス化を回避する方法として,ルール・アンサンブル(RuleFit)法[15]をとり上げる.RuleFit法とは,基本学習器にCART樹木により得られるふし(ノード)を用いる方法である.これにより,推定モデルに影響を与える要因をプロダクション・ルールの形式で提示できるだけでなく,応答の分位点に対応する説明変数の影響の大きさを表すこともできる.本論文では,M病院で実施した緩和ケアに対するアンケート調査の結果に対して,RuleFit法を適用する.そこでは,緩和ケアに対する日常業務の困難さ(応答変数)として,(1)症状緩和参画の困難さ,(2)専門家の支援の困難さ,(3)医師とのコミュニケーション不足,(4)患者・家族とのコミュニケーション不足,に分け,それらに影響を与える要因(説明変数)として,(a)看護師の背景要因,(b)緩和ケアの知識,(c)緩和ケアに対する取り組み姿勢,をとり上げる.そして,それぞれの応答変数に対して,RuleFit法によりモデルを推定する.そして,得られた結果に対する解釈を通して,アンケート分析に対するRuleFit法の有用性を提示する.

2. 緩和ケアの概要

世界保健機構は,「緩和ケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,疾患の早期よりの痛み,身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に関してきちんとした評価をおこない,それが障害とならないように予防したり対処したりすることで,クオリティー・オブ・ライフ(生活の質,生命の質)を改善するためのアプローチである」と定義している[1].また,2006年度6月に成立した「がん対策基本法」にお

いても,緩和ケアが重点的に取り組む課題として掲げられたことから,看護研究の分野では,積極的に研究されている.質の高い緩和ケアを提供するためには,医療者の知識・技術の向上が希求されている.また,緩和ケアでは,患者・家族への心的ケアも重要であることから,「経験」も重要な要因として考えられる.

3. 本論文の位置づけ

緩和ケアに対する量的なアンケート調査の統計的分析方法の目標には,(1)評価尺度の構成あるは因果推論といった潜在構造の探索・評価に関する研究,(2)結果(応答)に対する影響要因(すなわち回帰モデル)の探索・評価に関する研究,がある.

目標(1)において,吉岡ら[7]は,看取りケアに対する評価尺度を構成するために,看護師に対するアンケート調査を行っている.そこでは,アンケート項目に対する探索的因子分析による因子抽出のもとで,共分散構造分析に基づいて評価尺度を作成している.また,田内・神里[8]は,患者のスピリチュアルケアに対する,看護師のスピリチュアリティ,背景要因,あるいは信仰といった要因の因果関係を共分散構造分析によって明らかにしている.目標(2)において,田邊・岡村[9]は,緩和ケア病棟にお

ける看護師の離職意向に影響を与える影響要因をステップワイズ法を伴う重回帰分析によって評価している.また,福井・猫田[10]は,末期がん患者に対する4種類のケア(インフォームドコンセントに対するケア,家族への精神的ケア,家族に対する患者のケアの教育,死の受け止めに関するケア)に対して,看護師の背景要因および病院のシステム要因がどのように影響しているかを重回帰分析で評価している.さらに,福井[11]は,がん患者の家族に対する,患者の情報(疾患,治療,予後)の伝達の有無と,疾患の程度,治療,および緩和ケアの関連性をロジスティック回帰分析で明らかにしている.本論文では,目標(2)に焦点を当てるが,これらの研究

で用いられている多くの回帰分析の方法が,重回帰分析,あるいはロジスティック回帰分析といった古典的な線形モデルである.ただし,アンケート調査では,応答に対する非線形構造,あるいは交互作用構造といった,複雑な要因構造をもつことが往々にある.このような状況での線形モデルの適用は,低い適合度のモデルを推定する可能性が強い.このときの解釈は,「推定回帰モデルに殆ど意味がない状況」での誤った考察しか導かない[12].本論文の目標は,統計的機械学習法などで開発されている,新たな統計的手法を導入することで,アンケート調査結果を「適切なモデル当てはめ」のもとでの解釈する方法を提示することにある.統計的機械学習法において,注目されている非線形回帰手法がアンサンブル樹木法である[13-18].この方法では,応答に対する説明変数の非線形構造,あるいは交互作用を自動的にとり込むことができる.ただし,アンサンブル樹木のモデル構造は,「ブラックボックス化」される問題がある.本論文で適用するルール・アンサンブル(以降,RuleFit)法は,基本学習器を樹木モデルから,ルールモデル(樹木によって構成される枝に対応するルール)に修正した方法である.これにより,モデル全体の解釈は困難のものの,応答に影響の強いルール(本論文では,困難さに影響を与えるルール)を得ることができる.

4. アンケート調査の概要

4.1 アンケートの目的アンケートは,M病院において,緩和ケアに関する実態を調査するために実施された.その目標は,緩和ケアに対する困難感に対する影響要因を明らかにし,M病院における緩和ケアの質的向上に向けての課題を提起することで

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看護師に対する緩和ケアのアンケート調査データのルール・アンサンブル法による分析

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あった.そのために,緩和ケアの困難感に関する項目とともに,(1)被験者背景,(2)緩和ケアに対する知識・環境,(3)緩和ケアに対する取り組みの姿勢といった影響要因として考えられる事柄について調査を行った.

4.2 調査方法アンケートは,M病院における看護師(手術室・中央材料部室・医療安全推進室を除く)に対し.2010年1月14日から1月22日にかけて実施された.被験者(看護師)には,研究の目的および主旨を事前に説明したうえで,自由意志に基づいて参加を募った.アンケート調査の結果,263名の回答が得られ,有効回答

数は253名(回収率96.2%)だった.また,欠測を含まない,完全な回答が得られた被験者数は,197名だった.

4.3 アンケートの内容M病院では,2006年に緩和ケアチームが発足し,ラウン

ドによるコンサルテーションや緩和ケアに関する研修会を実施してきた.その結果,緩和ケアに対する知識や技術の経年的な向上が認められるものの,それを実感している看護師が少ないのが現状である.それは,看護師の緩和ケアに対する取り組みは,緩和ケアのスキルだけでなく,チーム医療としての医師,薬剤師などの専門家とのコミュニケーション,あるいは患者・家族とのコミュニケーションなど多岐にわたるためであると考えられる.本アンケート調査では,看護師のこれらの困難さに何が影響しているか,とくに,および緩和ケアの講習などが効果的か否かを検討することにある.アンケート調査の内容は,緩和ケアに従事する専門家の

意見に基づいて作成された「緩和ケアに関する医療者の知識・態度・困難感の評価尺度[19,20]」を参考に作成した.

このアンケート調査に基づき,困難感を「疼痛などの症状の緩和への参画の困難さ(症状緩和参画の困難さ)」,「薬剤師・臨床心理士といった専門家の支援の困難さ(専門家の支援の困難さ)」,「医師とのコミュニケーション不足」,「患者・家族とのコミュニケーション不足」に分け,これらを応答としした(因に,地域連携に関しては,評価から除外した).そして,これらの困難感に影響を与える要因として,知識,態度に関する項目を用いた.さらに,被験者の背景要因および現在の被験者の状況が,困難さに影響を与えると考え,これらも併せて調査した.図1は,上記のもとでとられたアンケート調査をまとめた

特性要因図である.このとき,緩和ケアにおける困難度には,患者の痛みなどのケアから,医師・専門家などとのチーム医療,あるいは患者・家族に対する心的ケアの困難度のそれぞれに対して,個別にRuleFitモデルをあてはめ,要因構造を評価する.影響要因には,被験者の背景,緩和ケアに関連する知識および,緩和ケアに対する取り組みの姿勢を用いる.影響要因および応答のアンケート内容を以下に示す.被験者の背景:被験者の背景について以下の回答を求めた:(a)年齢,(b)臨床経験年数,(c)終末期がん患者のケアの経験人数(経験した人数,過去1年の経験した人数,心に残る患者の人数),(d)緩和ケアのセミナーあるいは講義の学習時間・受講回数(e)学校教育での緩和ケアの講義時間,(f)看護師の免許取得後の講習会の受講時間,(g)院外での講習会の受講回数),(h)親近者の看取り経験の有無,(i)親近者の終末期ケアの経験の有無,緩和ケア取組みに対する状況:(a)緩和ケアに対する関心の有無,(b)緩和ケアについての相談相手の有無.緩和ケアに対する知識:被験者の緩和ケアに対する知識に関して,5ドメイン20項目を調査した:(a)緩和ケアに対する

図1 本アンケートにおける特性要因図

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日本感性工学会論文誌 Vol.12 No.2

理念,(b)疼痛に対する対処法の知識,(c)呼吸困難に対する対処法の知識,(d)せん妄に関する知識,(e)消化器症状に対する知識,それぞれの質問項目では,「1.正しい」「2.間違っている」

「3.分からない」による三者択一での回答を求めた.そして,「正解」には1点,「誤答」または「分からない」には0点を与え,それぞれのドメインに対して合計値を算出した.したがって,合計点が高いほど,それぞれのドメインに対する知識があると判断した.緩和ケアに対する取り組み姿勢:緩和ケアに対する取り組み姿勢に関して,6ドメイン18項目を調査した:(a)疼痛治療に対する積極性,(b)呼吸困難の対処に対する積極性,(c)せん妄に対する積極性,(d)看取りケアに対する積極性,(e)医師・専門家とのコミュニケーションに対する積極性(医療者間対話),(f)患者・家族のケアに対する積極性(患者中心のケア).それぞれの質問項目では,「1.行っていない」「2.あまり行っていない」「3.時々行っている」「4.たいてい行っている」「5.常に行っている」の5段階での回答を求めた.そして,それぞれのドメインに対して合計を算出した.したがって,合計点が高いほど,それぞれのドメインに対する緩和ケアを実践していると判断した.緩和ケアに対する困難度:緩和ケアに対する困難感に関して,4ドメイン15項目を調査した:(a)疼痛などの症状の緩和への参画の困難さ(症状緩和参画の困難さ),(b)薬剤師・臨床心理士といった専門家の支援の困難さ(専門家の支援の困難さ),(c)医師とのコミュニケーション不足,(d)患者・家族とのコミュニケーション不足.末期がんでは,疼痛,せん妄,うつ状態などの症状がしばしば発生する.このような場合には,投薬などの治療を行う.(a)は,患者がこのような状況のときに,被験者(看護師)が対処(治療という意味ではなく,そのような患者さんに遭遇した場合にどのような手順で行えばよいか)に困難さを感じているを調査している.それぞれの質問項目は,「1.思わない」「2.たまに思う」

「3.時々思う」「4.よく思う」「5.非常に思う」の5段階で

回答を求めた.ここでは,点数が高いほど緩和ケアに対する困難度を感じている(ネガティブに捉えている)と判断した.

5. RuleFit法に基づくデータ分析

5.1 被験者背景図2は,被験者の年齢分布を表している.全体の62.1%

(157/253)が30歳以下であり,31歳から40歳までの被験者は23.7%(60/253)だった.したがって,被験者は,比較的若年者に偏っていることが分かる.図2の年齢分布は,この傾向を反映しているように思える.図3は,被験者の臨床経験に対するヒストグラムである.年齢分布が若年者に偏っているため,必然的に,被験者の臨床経験も浅い傾向にある.そのため,臨床経験が15年を超える被験者の割合は,全体の18.9%(41/217)しか存在しなかった.

5.2 RuleFit法での結果ここでは,完全な回答が得られた197名の被験者を用い

る.緩和ケアに対する困難度を表す4種類のドメインのそれぞれを応答とし,そして被験者の背景(12項目),緩和ケアに対する知識(4ドメイン),緩和ケアに対する取り組み姿勢(6ドメイン)を説明変数としたもとで,RuleFitモデルを当てはめた.表1は,4種類の応答のそれぞれに対してあてはめた

RuleFitモデルでのルール重要度の上位3個を表している.ここで,ルール重要度とは,推定RuleFitモデルにおいて,応答の予測に対して最も影響を与えた基本学習器(ルール)を100としたときの相対測度を意味する.すなわち,どのようなルールが緩和ケアの困難さに影響を与えているかを評価するのに用いることができる.また,部分ルール重要度とは,応答の一部に対するルールの影響を表している.表1

では,強く困難を感じている被験者でのルール重要度を意味している.その結果,12個のルールのなかの6個において「臨床経験」が含まれていただけでなく,すべての応答において存在した.とくに,応答「症状参画緩和の困難さ」および「患者・

図3 臨床経験に対するヒストグラム図2 被験者の年齢構成(括弧内は被験者数)

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看護師に対する緩和ケアのアンケート調査データのルール・アンサンブル法による分析

日本感性工学会論文誌 Vol.12 No.2

家族とのコミュニケーション不足」では,2個のルールのなかに「臨床経験」が含まれた.したがって,臨床経験による影響が多大な影響を及ぼしていることがわかる.「臨床経験」による分岐点を眺めると,4年あるいは7年といった,臨床経験が5年付近でのルールが多いことが伺える.表1の右端の数字は,80パーセント点以上の値をもつ被験者での部分ルール重要度を表している(いいかえれば,それぞれの応答に対して強い困難さ(問題意識)をもっている被験者を表している).すべての応答で,最大のルールには変化が認められなかった.応答「専門家の支援の困難さ」では,ルールR2bの部分ルール重要度が,全データに比べて約10

程度上昇した.応答「専門家の支援の困難さ」以外の応答では,「臨床経験」を含むルールのルール重要度が最も高かった.ただし,「専門家の支援の困難さ」でも応答に対して強い問題意識をもっている被験者では,「臨床経験」が強い影響を及ぼしていると推察される.次いで,個々の応答に対するルールを省察する.応答「症状緩和参画の困難さ」では,「疼痛・オピオイド(正誤)」あ

るいは「緩和ケアの知識(正誤)」といった,症状緩和に直接的に結びつく知識に関する項目がルールに多く含まれた.このとき,ルールR1aでの重要度が極端に高かった.このとき,回帰係数(RuleFit法では,重回帰分析の標準化回帰係数と同様に解釈できる)が-1.196であることから,臨床経験が中央値よりも高く(臨床経験の中央値=6年),症状緩和に関する知識の乏しい(正解数が1以下)被験者では,症状緩和参画の困難さに対するネガティブ感が減少した.応答「専門家の支援の困難さ」では,ルールR2aに含まれ

る項目が,すべて緩和ケアへの積極性に関するドメインだった.このとき,回帰係数が-0.900であることから,呼吸困難,せん妄および看取りケアに積極的な被験者は,専門家の支援の困難さを感じていないようである.応答「医師とのコミュニケーション不足」では,ルール

R3aが臨床経験のみで構成された.回帰係数が0.824であることから,臨床経験が4年以上の被験者のほうが,医師とのコミュニケーション不足を感じるようである.「患者・家族とのコミュニケーション不足」では,ルールR4aのなかで,

表1 それぞれの応答に対してあてはめたRuleFitモデルのルール重要度が上位3位の基本学習器の概要サポート:ルールに該当する被験者の割合,回帰係数:ルールに対する回帰係数である.回帰係数が正値ならばルールに該当する場合には困難度が上昇する(他方,負値ならば減少する),重要度(全体):すべての被験者でのルール重要度(困難度に最も影響を与えるルールを100としたときの相対測度),重要度(≧80%):応答の80パーセント点以上をとる被験者でのルール重要度.すなわち,強く困難を感じている被験者でのルール重要度を意味する.

応答 ルール サポート 回帰係数 重要度 (全体)

重要度 (≧80%)

症状緩和参画の困難さ

R1a: {臨床経験 ≧ 7} 0.918 -1.196 100.0 100.0

 ∩{疼痛・オピオイド(正誤) ≦1}        R1b: {相談相手 = 有} 0.699 -0.387 51.8 38.2

 ∩{緩和ケアの知識(正誤) ≦ 1}         ∩{医療者間対話 ≧ 6}        

R1c: {臨床経験 ≧7} 0.204 0.204 51.7 38.0

 ∩{疼痛・オピオイド(積極性) ≧13}        

専門家の支援の困難さ

R2a: {呼吸困難(積極性) ≧9} 0.526 -0.900 100.0 100.0

 ∩{せん妄(積極性) ≧6}         ∩{看取りケア(積極性) ≧9}        

R2b: {5≦臨床経験 ≦21} 0.270 0.818 80.9 91.3

 ∩{免許取得 = 専門学校}         ∩{過去の人数 ≧ 2}        

R2c: {終末期ケア人数≦ 2} 0.194 0.904 79.6 43.2

  ∩{身内の終末期ケア=いいえ}        

医師とのコミュニケーション不足

R3a: {臨床経験 ≧4} 0.571 0.824 100.0 100.0

R3b: {過去の人数 ≧2} 0.230 -0.746 76.9 86.1

  ∩{身内の終末期ケア=いいえ}         ∩{せん妄(積極性) ≦ 8}        

R3c: {呼吸困難(積極性) ≧8} 0.153 0.720 63.5 23.1

 ∩{看取りケア(積極性) ≦9}        

患者・家族とのコミュニケーション

不足

R4a: {臨床経験 ≧7} 0.301 -0.661 100.0 100.0

 ∩{看取りケア(積極性) ≧9}        R4b: {臨床経験 ≦4} 0.434 0.598 97.8 32.5

 ∩{緩和ケア講習回数 ≦ 3}         ∩{疼痛・オピオイド(正誤) ≦1}         ∩{せん妄(積極性) ≧9}        

R4c: {過去の人数 ≦ 2} 0.321 0.629 96.8 23.5

  ∩{身内の終末期ケア=いいえ}         ∩{患者・家族のケア(積極性) ≦12}        

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臨床経験とともに看取りケアに対する積極性が含まれた.回帰係数が-0.661であることから,臨床経験が7年以上であり,看取りケアに積極的(9以上)な被験者ほど患者・家族とのコミュニケーション不足を感じないようである.図4は,4種類の応答に対する推定RuleFitモデルでの変数重要度および部分変数重要度である.ここで,変数重要度とは,推定RuleFitモデルにおいて,応答の予測に対して最も影響を与えている変数を100としたときの相対測度である.すなわち,説明変数のどの項目が緩和ケアに対する困難さに影響を与えているかをみることができる.また,部分変数重要度とは,応答の一部に対する変数重要度を表しており,図4では,緩和ケアに対して高い困難さを示す被験者に対する説明変数の影響の大きさを表している.

その結果,全データでの変数重要度と応答が(80パーセント点以上の値をもつ被験者での)部分変数重要度の傾向には殆ど差異が認められなかった.いずれの応答でも「臨床経験」での変数重要度が最も高かった.他方,「年齢」による影響は小さかった.つまり,年齢にかかわらず,臨床経験が強い影響を与えるようである.緩和ケアに関する知識よりも緩和ケアへの取り組み姿勢

(積極性)の影響のほうが強い傾向を示した.とくに,応答「呼吸困難の対処に関する知識」は,いずれの応答でも影響が僅かだった.応答「症状緩和参画の困難さ」では,「緩和ケア講習回数」,そして応答「患者・家族とのコミュニケーション不足」では,「緩和ケア講義時間」が強い影響を及ぼした.したがって,

(a) 症状緩和参画の困難さ (b) 専門家の支援の困難さ

(c) 医師とのコミュニケーション不足 (d) 患者・家族とのコミュニケーション不足

図4 それぞれの応答に対してあてはめたRuleFitモデルでの変数重要度(■は全データ集合での変数重要度であり,■は応答の80パーセント点以上をもつ応答での部分変数重要度である)

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看護師に対する緩和ケアのアンケート調査データのルール・アンサンブル法による分析

日本感性工学会論文誌 Vol.12 No.2

緩和ケアに関する講習は,医療従事者とのコミュニケーションよりも,むしろ緩和ケアに対するスキル上昇,あるいは患者とのコミュニケーション向上において強い影響を与えることが示唆された.ルール重要度および変数重要度の結果より,すべての緩

和ケアの困難さにおいて,「臨床経験」が強い影響を及ぼしていることが示唆された.そのため,部分従属プロットを用いて,「臨床経験」のそれぞれの応答への影響を省察する(図5).ここで,部分従属度とは,説明変数の変化に対する応答の期待変化を表している.すなわち,説明変数の挙動に対して,応答がどのように変化しているかを見ることができる[13].応答「症状緩和参画の困難さ」では,臨床経験が10年付近まで減少傾向を示した.応答「専門家の支援の困難さ」および「医師とのコミュニケーション不足」は,臨床経験が5年付近まで急激な増加傾向を示した.応答「患者・家族とのコミュニケーション不足」では,臨床経験が12年付近まで減少傾向を示し,その後,25年付近で増加傾向を示した.前述したが,本アンケート調査では,15年以上の臨床経験を重ねたベテラン看護師の被験者は,全体の20%未満である(図3).そのため,25年以上での急激な増加傾向

には,疑義がもたれる(真のモデルの傾向を捉えているとは思えない).このような傾向変化は,応答「専門家の支援の困難さ」の10年以降でも示唆された.つまり,応答「専門家の支援の困難さ」および「医師とのコミュニケーション不足」といった医療従事者とのコミュニケーションでは,臨床経験の浅い看護師よりも,むしろ臨床経験を積んだベテラン看護師ほどネガティブに捉えていた.他方,応答「症状緩和参画の困難さ」および「患者・家族とのコミュニケーション不足」といった,患者・家族と接する応答に対するネガティブ・イメージは,臨床経験の浅い看護師ほど強くなる傾向にあった.応答「症状緩和参画の困難さ」および「患者・家族との

コミュニケーション不足」は,図4のなかで緩和ケア講習に関する項目の影響を強く受けていることが示唆された.そのため,応答「症状緩和参画の困難さ」では,「緩和ケア講習回数」,そして,応答「患者・家族とのコミュニケーション不足」では「緩和ケア講習時間」での部分従属プロットを描写し,それぞれの説明変数による影響を省察した(図6).その結果,いずれの応答でも,講習を受講することで,ネガティブ・イメージが緩和されることが示唆された.

(a) 症状緩和参画の困難さ (b) 専門家の支援の困難さ

(c) 医師とのコミュニケーション不足 (d) 患者・家族とのコミュニケーション不足

図5 それぞれの応答に対してあてはめたRuleFitモデルでの臨床経験に対する部分従属度のプロット(X軸:説明変数,Y軸:部分従属度)

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6. 他の手法との予測確度の比較

Friedman & Popescu[15]および下川ら[16]は,RuleFit

法が,樹木を基本学習器に用いる他のアンサンブル学習法よりも予測確度に優れていることを,シミュレーションにより提示している.ここでは,緩和ケア・データに関するアンケート分析を,線形回帰,CART法,Random Forest法[17],そしてMART法に適用し,性能を評価した.線形回帰を用いた理由は,アンケート調査分析に用いられる「おなじみ」の方法であり,CART法は,アンサンブル学習法の基本学習器であるため,対照手法として選択した.また,Random Forest

法およびMART法は,樹木モデルを基本学習器に用いる回帰のためのアンサンブル学習法なので採用した.評価基準には,平均残差平方和の10重交差確認推定値を用いた.図7は,このときの結果である.X軸のなかの,症状緩和は,応答「症状緩和参画の困難さ」,専門家は,応答「専門家の支援の困難さ」,医師対話は,応答「医師とのコミュニケーション

図7 他の手法との比較(平均残差平方和は10重交差確認法により計算している)

(a) 症状緩和参画の困難さに対する緩和ケアでの 講習回数の部分従属プロット

(b) 患者・家族とのコミュニケーション不足に対する 緩和ケアでの講習時間の部分従属プロット

図6 緩和ケア講習による部分従属プロット(X軸:説明変数,Y軸:部分従属度)

不足」,「患者対話」は,応答「患者・家族とのコミュニケーション不足」での結果を表している.いずれの応答においても,CART法およびLR(線形回帰)での平均残差平方和が極端に悪かった.他方,RuleFit法の平均残差平方和は最も低かった.

RuleFit法は,MART法と同様のアルゴリズムで得られた樹木モデルの個々のふし(ノード)を基本学習器に用いて,モデルを構築する.そのため,MART法に比べて良好な性能を示すのは,おおよそ想像できる.また,RandomForest法の回帰での性能が,MART法に比べて低いことは,杉本ら[18]で報告されている.図7はこれらを裏付ける結果を示した.

7. 結 び

本論文では,緩和ケアのアンケート調査の結果に対するルール・アンサンブル法の適用を試みた.ここでは,得られた知見を整理する:1. 緩和ケアに対する取り組みが積極的な看護師のほうが緩和ケアに対する諸種の困難に直面する傾向にあった.いいかえれば,緩和ケアに対する取り組みが積極的な看護師のほうが,看護ケアへの問題意識が高いといえる.

2. すべての困難さに対して,臨床経験による影響が顕著であった.このとき,専門家あるいは医師といった,医療者側とのコミュニケーションに対するネガティブ・イメージは,臨床経験が長いほど高くなるのに対して,患者・家族とのコミュニケーション,あるいは症状緩和に対するネガティブ・イメージは,臨床経験が短いほど高くなる傾向にあった.

3. 患者・家族とのコミュニケーション,あるいは症状緩和に対するネガティブ・イメージは,緩和ケア講習を行うことで緩和されることが示唆された.また,モデル適合度の適切性を他の回帰諸法およびアンサンブル学習法と比較した結果,ルール・アンサンブル法が最良の結果を示した.すなわち,ルール・アンサンブル法は,

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看護師に対する緩和ケアのアンケート調査データのルール・アンサンブル法による分析

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既存のアンサンブル法に比べて予測確度に優れているだけでなく,様々な観点から解釈できる有用な方法であるといえる.

補遺:ルール・アンサンブル(RuleFit)法の概要アンサンブル学習法(集団学習法)のモデルは,複数の単純な「弱い」基本学習器(CART法により得られる樹木)を連結することで構成される.樹木の個々のふし(根幹ふしを除くすべての子ふし)により基本学習器を構成することで,応答に強く影響を与える要因をプロダクション・ルール(ルール項)により提示できる.また,RuleFit法[15,16]では,線形項を基本学習器に用いることができるため,真のモデル構造が線形の場合でも適切にモデルを当てはめることができる.さらに,個々の基本学習器に対して,lasso法[21]による縮小回帰推定による重み付けを行うことで,不必要な基本学習器が削除できる.ルール項の構成には,CART法[14]の成長過程のみを

用いる(以降,CART法により得られる樹木モデルをCART

樹木と呼ぶ).いま,Sjを説明変数xjがとることができる,すべての可能

な部分集合とする(xj ∈Sj).そして,CART樹木のふしkにおいて,変数xjのとることができる,Sjの部分集合をsjkとする(sjk ⊆ Sj).このとき,ふしkより得られるRuleFit法の基本学習器(ルール)rkは

(1)

で与えられる.ここに,I (⋅)は,括弧内が真なら1,偽なら0

をとる指標関数である.このとき,sjkに対するルールは,説明変数xjが計量値の場合には,区間

である.ここに,x–jk , x+

jkは,sjkの上限と下限を表す.また,x jがカテゴリカル変数の場合には,分岐で用いられたカテゴリに部分集合である.いま,ステイジmで構成されたCART樹木の終結ふし数を tmとするとき,M回のステイジワイズ過程で得られる基本学習器(ルール項)の数Kは

で得られる.ここに,tmは,m番目のCART樹木の終結数である.

Rulefit法では,MART法と同様に,ステイジワイズ戦略によって,CART樹木をアンサンブルさせる.このとき,MART法では,個々の樹木の過剰適合を防ぐために,小さなCART樹木が構成される.これに対して,RuleFit法では,個々の基本学習器(1)に対して, lasso法による重みづけ,および刈り込みを行うことから,過剰適合が回避できる.RuleFit法では,より多くのプロダクション・ルールの探索が重要になることから,様々な大きさのCART樹木の構成

が希求される.そのため,Friedman & Popescu[15]では,指数乱数に基づく樹木サイズの選定方法を提案している.この方法では,終結ふし数 tmを

により選定する.ここにγは,指数分布E(1 / t-− 2)に従う乱数であり,floor (γ )は,γ以下の最大の整数である.さらに,t-( ≥ 2)は,M回のアンサンブルに対する期待終結ふし数を表す.

RuleFit法によるモデルは,ルール項(1)の加法形式で与えられる.したがって,RuleFitモデルのなかに線形項を導入することもできる.ただし,単純に線形項を含めることは,外れ値に対して比較的頑健なCART樹木の特徴を阻害するかもしれない.そのため,Friedman & Popescu[14]は,Huberのロバスト回帰法の類推から得られる修正型線形項

(2)

を用いている.ここに,δ –j , δ

+jは,異常値とその他の観測値

を区分するためのしきい値であり,変数xjのqおよび(1-q)分位点により得られる.したがって,RuleFit法のモデルは,式(1)および式(2)を用いることで

(3)

により与えられる. 式(3)の回帰パラメータα k , β jには,lasso法による縮小回帰推定を用いることで

により与えられる.ここに,λ ≥0は,lasso型罰則に対する調整パラメータである.RuleFit法における最適λの選定には,lasso型線形回帰モデル(Tibshirani[20])と同様に,ν重交差確認法が用いられる.なお,ルール項および線形項は,他の線形縮小回帰モデルと同様に,尺度化される.また,L(⋅)は,任意の損失関数であり,例えば,最小2乗損失

などを用いることができる.ここに,F̂RFit (x)は,RuleFit

モデルによるyの推定値である.RuleFit法は,統計総合環境Rのプログラムとして提供さ

れている.RuleFit法のプログラムおよび利用方法は,http://www-stat.stanford.edu/~jhf/R-RuleFit.htmlより得ることができる.

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参 考 文 献

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められるもの:チームとしてのあり方,心身医学,No.52,

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河内文:終末期がん患者の家族支援に焦点を当てた看取りケア尺度の開発,日本看護科学会誌,Vol.29,No.2,

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下川 敏雄(正会員)

2004年大阪大学大学院基礎工学研究科修了.大阪大学医学部附属病院未来医療センター特任研究員を経て,現在,山梨大学大学院医学工学総合研究部准教授.博士(工学).この間,医学統計学,環境統計学,データマイニング

に関する研究に従事.2002年~日本計算機統計学会広報委員,

2004年~NPO法人臨床試験推進機構 統計アドバイザー.

布内 美智子(非会員)

1980年神奈川県立看護専門学校助産学科卒業,1983年よりパナソニック健康保険組合松下記念病院勤務.1990 年に滋賀県立大学人間看護学研究科基盤看護学分野修了,現在,パナソニック健康保険組合松下記念病

院勤務小児科・血液内科・循環器科病棟師長.看護学修士,認定看護管理者.

松本 晴美(非会員)

1991年近畿大学医学部附属看護専門学校卒業.近畿大学医学部附属病院を経て,現在,パナソニック健康保険組合松下記念病院消化器内科・血液内科病棟師長.日本看護協会がん性疼痛看護認定看護師認定.

辻 光宏(非会員)

1974年 京都大学数理工学科修了.現在,関西大学総合情報学部教授.工学博士.この間,統計グラフィックスやクラスター解析等に関する研究に従事.