1980および1981年から2009および2010年の 猪苗代湖北岸の水生 …

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69871980および1981年から2009および2010年の 猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化 福島大学共生システム理工学類   黒 沢 高 秀  福島大学共生システム理工学類   荒 井 浩 平  水草研究会   薄 葉   満  猪苗代湖の自然を守る会   鬼多見   賢  福島大学教育学部   林   義 昭  47 はじめに 猪苗代湖は湖岸周囲55.32㎞,面積103.3㎢の日本で 番目に大きい湖である。公共用水域(湖沼)で2002 年度から2005年度まで年連続で水質日本一となるな ど,水質の良い湖として知られていた。猪苗代湖の水 質が良好であった理由として,長瀬川から供給される 鉄,ケイ素,アルミニウムを主成分とする凝集塊によ るリンの凝集沈殿作用により,TP濃度が0.003㎎/ ℓ程度に低く抑えられ,一次生産を抑制し,CODを0.5 0.6㎎/ℓの極めて低いレヴェルに留めていたと考 えられている(藤田・中村20072007)。しかし, TN濃度は0.250.27㎎/ℓと比較的高く(藤田・ 中村2007),CODとTP以外の指標では必ずしも 水質がよいとは言えなかった。 猪苗代湖では1990年代以降,水質や環境変化が社会 的に大きな注目を集めてきた。少なくとも1930年代以 降,4.6から5.4の間を保っていたpHが(吉村1944益子ほか1973,千葉19801984,千葉・木村1995,中 村ほか1995),1997年以降上昇に転じた。水質の悪化 を懸念した県は2002(平成14)年に「猪苗代湖及び裏 磐梯湖沼水環境の保全に関する条例」を制定するなど, 猪苗代湖の水環境の保全を図った(阿部2002)。しか し,200620072009年度では大腸菌群数が基準値を 超えたため,水質ランキングで対象外になり,地元に 衝撃を与えた。2008年には,湖心のpHは6.36.7弱酸性からほぼ中性の値になった(福島県2009)。北 岸では水質悪化が顕在化しており,2001年には沿岸に COD や TN濃度が高い水域が出現していることが確 認されている(藤田ほか2002)。 猪苗代湖の湖心の水質は,1971年から福島県によ り定期的に観測されており,pH,透明度,BOD, COD,全リン濃度,全窒素濃度などの水質の変化が 詳細に明らかになっている。一方で,現在水質の悪化 が問題となっている北岸には,調査地点が設置されて いなかったため,過去の水環境に関してはほとんどわ かっていない。 19791981年度に福島大学によって行われた猪苗代 湖の自然に関する総合研究の中で,林ほか(1982)は, 19801981年の夏に猪苗代湖北岸の松橋浜から高橋川 河口にかけて,湖内に設置した12か所のコドラートの 水生植物群落の組成をまとめている。また高橋川河口 沖と三城潟沖(野口記念館前)において水生植物の湖 岸からの配列について調査し,植生断面図を作成して いる。この調査で猪苗代湖北岸における水生植物群落 は岸から沖へ向かって抽水植物群落(ヨシ群落 コモ群落 ヒメガマ群落 コウホネ群落) 浮葉植 物群落(ヒルムシロ・アサザ群落) 沈水植物群落(コ ウホネ群落)の順に配列していることを明らかにした (林ほか1982)。この林ほか(1982)には猪苗代湖北岸 のコドラートを設置した場所が地図で示されているた め,同じ場所で植生調査を行うことで水深,底質,各 コドラートにおける出現種や被度などの結果を比較す

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1980および1981年から2009および2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化 (6987)

1980および1981年から2009および2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化

福島大学共生システム理工学類  黒 沢 高 秀 福島大学共生システム理工学類  荒 井 浩 平 

水草研究会  薄 葉   満 猪苗代湖の自然を守る会  鬼多見   賢 

福島大学教育学部  林   義 昭 

―  ―47

はじめに

 猪苗代湖は湖岸周囲55.32㎞,面積103.3㎢の日本で4番目に大きい湖である。公共用水域(湖沼)で2002

年度から2005年度まで4年連続で水質日本一となるなど,水質の良い湖として知られていた。猪苗代湖の水質が良好であった理由として,長瀬川から供給される鉄,ケイ素,アルミニウムを主成分とする凝集塊によるリンの凝集沈殿作用により,T−P濃度が0.003㎎/ℓ程度に低く抑えられ,一次生産を抑制し,CODを0.5~0.6㎎/ℓの極めて低いレヴェルに留めていたと考えられている(藤田・中村2007a,2007b)。しかし,T−N濃度は0.25~0.27㎎/ℓと比較的高く(藤田・中村2007a),CODとT−P以外の指標では必ずしも水質がよいとは言えなかった。 猪苗代湖では1990年代以降,水質や環境変化が社会的に大きな注目を集めてきた。少なくとも1930年代以降,4.6から5.4の間を保っていたpHが(吉村1944,益子ほか1973,千葉1980,1984,千葉・木村1995,中村ほか1995),1997年以降上昇に転じた。水質の悪化を懸念した県は2002(平成14)年に「猪苗代湖及び裏磐梯湖沼水環境の保全に関する条例」を制定するなど,猪苗代湖の水環境の保全を図った(阿部2002)。しかし,2006,2007,2009年度では大腸菌群数が基準値を超えたため,水質ランキングで対象外になり,地元に衝撃を与えた。2008年には,湖心のpHは6.3~6.7と

弱酸性からほぼ中性の値になった(福島県2009)。北岸では水質悪化が顕在化しており,2001年には沿岸にCODやT−N濃度が高い水域が出現していることが確認されている(藤田ほか2002)。 猪苗代湖の湖心の水質は,1971年から福島県により定期的に観測されており,pH,透明度,BOD,COD,全リン濃度,全窒素濃度などの水質の変化が詳細に明らかになっている。一方で,現在水質の悪化が問題となっている北岸には,調査地点が設置されていなかったため,過去の水環境に関してはほとんどわかっていない。 1979~1981年度に福島大学によって行われた猪苗代湖の自然に関する総合研究の中で,林ほか(1982)は,1980~1981年の夏に猪苗代湖北岸の松橋浜から高橋川河口にかけて,湖内に設置した12か所のコドラートの水生植物群落の組成をまとめている。また高橋川河口沖と三城潟沖(野口記念館前)において水生植物の湖岸からの配列について調査し,植生断面図を作成している。この調査で猪苗代湖北岸における水生植物群落は岸から沖へ向かって抽水植物群落(ヨシ群落→マコモ群落→ヒメガマ群落→コウホネ群落)→浮葉植物群落(ヒルムシロ・アサザ群落)→沈水植物群落(コウホネ群落)の順に配列していることを明らかにした

(林ほか1982)。この林ほか(1982)には猪苗代湖北岸のコドラートを設置した場所が地図で示されているため,同じ場所で植生調査を行うことで水深,底質,各コドラートにおける出現種や被度などの結果を比較す

資 料

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福島大学地域創造 第22巻 第2号 2011.2(6988)

―  ―48

ることができる。しかし,当時は水生植物分類学的研究があまり進んでおらず,佐竹ほか(1981,1982a,1982b)や角野(1994)のような検索表が含まれる網羅的な図鑑も刊行されていなかった。そのため,植物の専門家であっても,正確な同定は困難であったと思われる。 本研究では,林ほか(1981,1982)の調査で採集されたと考えられる標本を再検討した上で,林ほか

(1982)の植生調査結果の再評価を行う。また,同じ場所で植生調査や観察を行うことで,約30年の間で見られた水生植物群落の変化を明らかにする。これを元に,1980年頃の猪苗代湖の北岸の水質や,今後猪苗代湖の弱酸性・中性化が続いた場合の水生植物群落の変化について議論する。

方   法

 2009年8月18日から9月28日,および2010年8月18

日に猪苗代湖北岸で現地調査を行った。1980~1981年の植生と比較するために,林ほか(1982)の図4−5および4−7から読み取った湖岸からの距離と緯度経度から,松橋浜から高橋川河口の間で調査した23か所

(松橋浜1か所,白鳥浜1か所,三城潟沖11か所,高橋川河口沖10か所)の位置を特定した。その場所に2m×2mのコドラート枠を設置した(図1,2)。コドラートの緯度経度はGPSを用いて計測した。GPSは白鳥浜,松橋浜の調査ではデジタルカメラNikon COOLPIX P6000に搭載されているGPS機能(最小表

示は1秒)を使用し,三城潟沖,高橋川河口沖の調査ではGARMIN POKE-NAVI(最小表示は10分の1秒)を使用した。コドラートの湖岸からの距離は,ごく近い場合は巻き尺を,それ以外は光学距離測定器

(Bushnell社製,Lyte Speed720XL)を用いて計測した。湖岸からの距離で特定した場所と,緯度経度から特定した場所が大きく異なる場合は,両方にコドラートを設置した。各コドラートでは,底質を観察し,水深を計測し,抽水層,浮葉層,沈水層の各層ごとの植物の種類と被度を記録した。抽水・浮葉植物は目視により,沈水植物については目視および水中めがねを用いて計測した。水の濁りがひどい等水中の様子が分からない場合は,熊手を用いて10回以上コドラート内を探り,出現頻度・量から被度を推定した。植物種の被度は百分率で記録し,被度が1%未満で極めて低い場合は+と記録した。三城潟沖および高橋川河口沖では,ウェーダー(胴長靴)を着用して湖内を歩ける範囲(水深85

㎝程度以内)で目視および水中めがねによる水生植物群落の観察を行った。これらの観察とコドラート調査をもとに,林ほか(1982)の図に合わせて三城潟沖および高橋川河口沖の植生断面図を作成した。 林ほか(1982)の調査の際に採集されたと考えられる,福島大学共生システム理工学類生物標本室FKSEに保管されている猪苗代湖北岸の水生植物の標本を調査し,同定の再検討を行い,採集場所などを記録した。 なお本研究では高橋川河口より松橋浜までを猪苗代湖北岸とした。

図1 猪苗代湖北岸で1980~1981年(林ほか1982)および2009~2010年に植生調査を行った位置。国土地理院数値地図25000(地図画像)福島(2002

年10月1日発行)より作成。

0 1000 m

ABCD7-9 1-3,11-13 14

6

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1980および1981年から2009および2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化 (6989)

―  ―49

図2 猪苗代湖北岸で1980~1981年(林ほか1982)および2009~2010年に植生調査を行った位置の高橋川河口沖および三城潟沖の拡大図。国土地理院数値地図25000(地図画像)福島(2002年10月1日発行)より作成。

図3 猪苗代湖北岸の三城潟沖のコドラートCD1~CD4沿いの1980

~1981年および2009~2010年の水生植物の群落断面図。*は本研究により同定を訂正した植物。

結   果

1.2009~2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落 三城潟の湖岸沿いの底質は泥質で,沖に出ると砂

質もしくは砂泥質に変わった。水深は湖岸から10m

沖へ出た地点(ちょうどヨシ群落が消え湖面が見える付近)から急激に深くなり62㎝に達した(図3下)。その後は110m沖(水深55㎝)まで緩やかに浅くなり,その先は再び深くなり,250m沖では水深88㎝に達

0 500 m

AB1CD1CD2CD3

CD4

9

123

131110

1287

AB2AB3AB4AB5AB6

AB7

エゾノヒルムシロ

またはヒルムシロ

コウホネ

クロモ

ヨシ

セキショウモ

セキショウモ

ヒメホタルイ

0

1m

0

0

1m

100m

CD1 CD2 CD3

CD1 CD2 CD3 CD4

CD4

1980~1981年

2009~2010年

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福島大学地域創造 第22巻 第2号 2011.2(6990)

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表1.猪苗代湖の三城潟沖の林ほか(1982)が調査した場所と同じ位置に設置したコドラートの2009年8月の水生植物の被度.

    コドラート番号は林ほか(1982)の図4-6に対応している。林ほか(1982,図4-5)より湖岸からの距離から推測した位置と緯度経度から推測した位置が大きく異なった場所では,2か所のコドラートを設置している。網掛けにした部分がコドラートを設置する際に基準にした値である。コドラート位置は図2参照。*は本研究により林ほか(1982)の同定を訂正したもの。

コドラート番号CD1 CD2 CD3 CD4

緯度経度 湖岸からの距離 緯度経度 湖岸からの距離 緯度経度 湖岸からの距離 緯度経度 湖岸からの距離調 査 日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日緯 度(37°) 31′55.1″ 31′55.0″ 31′59.5″ 31′53.5″ 31′51.8″ 31′52.0″ 31′47.2″ 31′47.4″経 度(140°) 04′25.7″ 04′25.0″ 04′25.9″ 04′25.9″ 04′25.9″ 04′26.0″ 04′25.9″ 04′26.0″湖 岸 か ら の距  離(m) 10 10 68 55 122 110 256 250

水  深(㎝) 62 47 54 57 58 55 91 88

底 質 砂泥 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂抽水層被度(%) 0 0 0 0 0 0 0 0

抽 水 層 種 数 0 0 0 0 0 0 0 0

浮葉層被度(%) 0 0 0 0 0 0 0 0

浮 葉 層 種 数 0 0 0 0 0 0 0 0

沈水層被度(%) 70 + + 0 + + 80 80

沈 水 層 種 数 2 1 1 0 1 1 3 3

ク ロ モ 70 + + 5 5

セキショウモ + + + 75 75

ヒメホタルイ + +

過 去 の 植 生(林ほか1982) 植物なし

*エゾノヒルムシロまたはヒルムシロ群落 コウホネ群落 植物なし

現 在 の 状 況 クロモ群落またはわずかにクロモ わずかにクロモ わずかにセキショウモ セキショウモ群落

表2.猪苗代湖北岸で林ほか(1982)が植生調査を行ったのと同じ地点に設置したコドラートの2009年8月または9月の水生植物の被度.

    コドラート番号は林ほか(1982)の表4-5による。

コドラート番号 1 2 3 6 7 8 9 10 11 12 13 14

調 査 地 点 三城潟(野口記念館周辺) 松橋浜 高橋川周辺 三城潟(野口記念館周辺) 白鳥浜調 査 日 9月3日 9月3日 9月3日 9月29日 9月29日 9月29日 9月29日 9月3日 9月3日 8月22日 9月3日 9月29日緯 度(37°) 31′57.1″ 31′56.0″ 31′54.6″ 31′28.9″ 31′49.8″ 31′50.1″ 31′51.3″ 31′49.6″ 31′51.8″ 31′51.7″ 31′52.6″ 31′49.2″経 度(140°) 04′28.2″ 04′28.7″ 04′29.0″ 06′54.3″ 03′46.9″ 03′48.7″ 03′48.7″ 04′29.8″ 04′29.8″ 04′26.9″ 04′33.4″ 06′37.2″湖 岸 か ら の距  離(m) 0 35 80 20 125 126 94 238 171 141 168 112

水  深(㎝) 0 30 45 45 72 77 46 55 36 56 64 53

底 質 泥 砂 砂泥 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂泥抽水層被度(%) 30 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

抽 水 層 種 数 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

ヨ シ 30

浮葉層被度(%) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2

浮 葉 層 種 数 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1

ア サ ザ 2

沈水層被度(%) 0 1 5 50 72 31 30 0 1 1 10 50

沈 水 層 種 数 0 2 1 2 4 3 4 0 1 3 3 3

ク ロ モ 5 30 20 1 + 10 +セキショウモ 1 5 45 40 10 15 + 50

ホソバミズヒキモ + 1 1 1 +ヒメホタルイ 1 1 1 +コ カ ナ ダ モ 10

シャジクモ類 +

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1980および1981年から2009および2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化 (6991)

―  ―51

した。抽水植物ではヨシが湖岸付近で群落を形成していた。浮葉植物は見られず,沈水植物ではクロモ,セキショウモ,ヒメホタルイ,ホソバミズヒキモが見られた(表1,2)。特にクロモとセキショウモが多く見られ,クロモは湖岸から近い位置に密に見られた。一方,セキショウモは湖岸から200m以上離れた地点で群落が見られた。三城潟沖における湖岸からの水生植物群落の配列は,ヨシ群落(抽水)→クロモ群落(沈水)→セキショウモ群落(沈水)の順であった。 高橋川河口付近の底質は砂質であった。水深は,59m沖の31㎝まで緩やかに深くなった後,急激に深くなり145m沖では114㎝に達した(図4下)。岸から145mから221mにかけてはほぼ平坦で,岸から280mの地点で水深160㎝まで深くなった後,一旦浅くなって295m沖で水深144㎝になった。その後は緩やかに深くなって457m沖で水深198㎝になった。抽水植物,浮葉植物は見られなかった。沈水植物ではクロモ,セキショウモ,ホソバミズヒキモ,ヒルムシロ,ヒメホタルイが見られた(表2,3)。いずれの植物も湖岸から100m以上沖へ出た地点で確認された。高橋川河口における湖岸からの水生植物群落の配列は,クロモ・セキショウモ・ヒルムシロ群落

(沈水)→クロモ・セキショウモ・ホソバミズヒキモ群落(沈水)→セキショウモ群落(沈水)の順で

あった。高橋川河口沖では,岸から500m以上沖の地点でもセキショウモやヒメホタルイが生育していた。 その他,コドラートを設置した場所の素表を表2に示す。松橋浜沖のコドラート6と白鳥浜沖のコドラート14は,いずれもセキショウモが優占していた。

2.1980および1981年の調査で採集された標本 ラベルの地名や日付,採集者から,林ほか(1982)の調査の際に猪苗代湖北岸で採集されたと考えられる標本が,福島大学共生システム理工学類生物標本室FKSEに28点確認された(付記1)。東北大学植物園TUS(旧理学部附属青葉山植物園標本室TUSG)では標本が確認できなかった。 フサモと同定されていた3点の標本は沈水形であったが,沈水葉の裂片が細いことなどからいずれも同属で別種のタチモと考えられる。セキショウモと同定されていた標本2点の内1点は,葉に鋸歯が無く,長方形の細胞が規則正しく並んでいることから,ミクリ科のミクリ属植物の沈水形と考えられる。ミクリ属植物は沈水葉のみでは,種までは同定が不可能とされる(角野1994)。エビモと同定されていた1点は,沈水葉の葉縁が波打たず,小形の沈水葉が枝先に比較的密に付くことなどから同属で別種のエゾノヒルムシロと考えられる。ヒルムシロと

図4 猪苗代湖北岸の高橋川河口沖のコドラートAB1~AB7沿いの1980~1981年および2009~2010年の水生植物の群落断面図。*は本研究により同定を訂正した植物。

0

1m

AB1 AB2 AB3 AB4 AB5 AB6 AB7

1980~1981年

エゾノヒルムシロ

またはヒルムシロ

ヒメホタルイセキショウモ

0

0

1m

100m

AB1 AB2 AB3 AB4 AB5 AB6 AB7

2009~2010年

ヒルムシロ

ホソバミズキヒモクロモ

セキショウモ

タチモ コウホネ

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福島大学地域創造 第22巻 第2号 2011.2(6992)

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表3.猪苗代湖の高橋川河口沖の林ほか(1982)が調査した場所と同じ位置に設置したコドラートの2009年8月の水生植物の被度.

    コドラート番号は林ほか(1982)の図4-6に対応している。林ほか(1982,図4-5)より湖岸からの距離から推測した位置と緯度経度から推測した位置が大きく異なった場所では,2か所のコドラートを設置している。網掛けにした部分がコドラートを設置する際に基準にした値である。コドラート位置は図2参照。*は本研究により林ほか(1982)の同定を訂正したもの。

コドラート番号AB1 AB2 AB3 AB4 AB5 AB6 AB7

緯度経度 湖岸からの 距 離 緯度経度 湖岸から

の 距 離 緯度経度 湖岸からの 距 離 緯度経度 湖岸から

の 距 離調 査 日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日 8月22日緯 度(37°) 31′53.4″ 31′53.4″ 31′52.4″ 31′52.7″ 31′50.8″ 31′48.8″ 31′46.0″ 31′47.0″ 31′44.5″ 31′45.0″ 31′38.5″経 度(140°) 03′44.1″ 03′44.1″ 03′44.4″ 03′44.2″ 03′44.4″ 03′44.3″ 03′44.4″ 03′44.4″ 03′44.4″ 03′44.4″ 03′44.4″湖 岸 か ら の距  離(m) 6 10 59 35 94 145 295 221 337 280 457

水  深(㎝) 25 19 31 23 71 118 144 124 170 160 198

底 質 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂 砂抽水層被度(%) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

抽 水 層 種 数 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

浮葉層被度(%) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

浮 葉 層 種 数 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

沈水層被度(%) 0 0 0 0 0 1 80 90 10 60 20

沈 水 層 種 数 0 0 0 0 0 2 4 3 4 3 2

ク ロ モ + 30 50 3 30

セキショウモ 1 50 20 4 30 20

ホ ソ バ ミズ ヒ キ モ + 2

ヒ ル ム シ ロ 20

ヒメホタルイ + 1 + +過 去 の 植 生

(林ほか 1982)*エゾノヒルムシロ

またはヒルムシロ群落*エゾノヒルムシロ

またはヒルムシロ群落 植物なし コウホネ群落

コウホネ・セキショウモ群落 コウホネ群落 植物なし

現 在 の 状 況 植物なし 植物なし 植物なし まれにセキショウモ

セキショウモ群落 クロモ群落 まれに

沈水植物ク ロ モ・セキショウモ群落

セキショウモ群落

同定されていた3点の標本のうち2点は,いずれも浮葉が少なく,小形の沈水葉が枝先に比較的密に付くことなどから同属で別種のエゾノヒルムシロと考えられる。オヒルムシロと同定されていた1点の標本は,浮葉の基部が鋭形で,沈水葉に葉身があることから同属で別種のヒルムシロと考えられる。フトイと同定されていた標本は,根茎が細く,茎が湾曲することなどから同属で別種のヒメホタルイと考えられる。アブラガヤと同定されていた1点の標本は,小穂が黒灰色であること,刺針状花被片が糸状で長いことなどから同属で別種のツルアブラガヤと考えられる。

考   察

1.1980,1981年から2009,2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化 表4に1980年または1981年(林ほか1982)および

2009年の猪苗代湖北岸に生育する水生植物のブロン・ブランケ(Braun-Blanquet)の方法による被度階級を示す。また,三城潟沖と高橋川河口沖の1980年または1981年(林ほか1982)および2009~2010年の植生断面図を図3,4に示す。これらの図表は,標本調査の結果を反映して林ほか(1982)の植物名を訂正している。なお,猪苗代湖からヒメビシやオニビシが報告されてきたが,著者の一人(薄葉)の観察によると,少なくとも1980年代以降に猪苗代湖に見られるヒシ属植物はヒシのみである。その集団の中に腹部の両側に多少なりとも刺状突起が発達してあたかも4刺性に見えるものがあり,これらがヒメビシやオニビシと同定されたものと思われる(薄葉 未発表)。そのため,林ほか(1982)のヒメビシの報告もヒシとして扱った。 三城潟沖ではエゾノヒルムシロの消滅が確認された。林ほか(1982)で生育が確認されたエゾノヒルムシロはコドラートだけでなく,その周辺でも全く

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1980および1981年から2009および2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化 (6993)

見られなかった。エゾノヒルムシロは1980年および1981年の調査で4枚の標本が採集されており,当時三城潟沖に比較的多く生育していたことが伺えるが,その後1987年および1999年には見られなかったとされる(薄葉2002)。現在エゾノヒルムシロは,名倉山下の湿地に少数個体生育しているのみである

(黒沢ほか2008)。コドラート2ではマコモ群落が,コドラート3ではヒメガマ群落が確認できなかった。マコモやヒメガマは周囲に多少とも生育が見られるので,消滅したわけではないが,ヨシ群落と湖内の間に群落を作るほどではなくなっていた。林ほか(1982)のコドラート調査では出現しなかったが,1987年の三城潟にはヒロハノエビモとヤナギモも多数生育していた(薄葉 未発表)。このうちヒロハノエビモは現在も多数見られるが(黒沢ほか 未発表),ヤナギモは生育が確認されていない。ヤナギモも三城潟の浅瀬では大きく減少し,消滅した可能性もある。 高橋川河口沖ではコウホネ群落の消滅(コドラート7,8,9,AB4,AB5,AB6),コカナダモの出現(コドラート9),セキショウモの増加(コドラート7,8,9,AB6,AB7)などの変化が確認された。コウホネはコドラート周辺でも全く

見られなかった。コウホネ群落の消滅は松橋浜周辺(コドラート6)でも確認された。コカナダモは林ほか(1981,1982)で報告されておらず,当時は生育していなかったものと思われ,薄葉(2002)は1980年代後期に猪苗代湖に侵入したものと推測している。現在は高橋川河口沖のほか,白鳥浜,金田,小黒川河口周辺など,主に北岸で見られる(黒沢ほか2008,黒沢ほか 未発表)。林ほか(1982)によると1980年代初めには高橋川河口沖では岸から350m

の範囲までしか水生植物が生育していなかったが,2010年には500m以上沖までセキショウモやヒメホタルイが見られるようになっていた。 白鳥浜(コドラート14)ではアサザ群落が縮小し,セキショウモ,クロモ,ホソバミズヒキモの出現が確認された。コドラート内のアサザの被度は林

(1982)の75~100%から10~25%に減少したが,周囲に密なアサザ群落が存在するため,局所的に減少しただけか,コドラートの位置のずれによる可能性がある。 薄葉(未発表)は,1970年代から1980年代にかけて,松橋浜においてフトイ,ツルアブラガヤ,ミズドクサなどの弱酸性の湖沼あるいは腐植や泥炭の堆積した沼沢でよくみられる種類の群落を確認してい

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表4.林ほか(1982)で1980~1981年に行われた植生調査結果と2009年に行った植生調査結果の比較.    コドラート番号は林ほか(1982)の表4-5による。被度は林ほか(1982)に合わせてブロン・ブ

ロンケの全推定法で表している。*は本研究により林ほか(1982)の同定を訂正したもの。コドラート番号 7 8 9 1 2 3 10 11 12 13 14 6

場 所 高橋川河口 三城潟(野口記念館前) 白鳥浜 松橋浜調 査 年 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009 1981 2009

湖岸からの距 離(m) 125 126 94 0 35 80 238 171 141 168 112 20

水深(㎝) 180 72 200 77 200 46 20 0 15 30 15 45 120 55 130 36 50 56 60 64 110 53 120 45

底 質 微砂 砂 微砂 砂 微砂 砂 泥 泥 泥 砂 泥 砂泥 砂 砂 粘土 砂 泥 砂 泥 砂 泥 砂泥 泥 砂出現種類数 4 4 3 3 2 4 1 1 2 2 2 1 3 0 2 1 1 3 1 3 2 4 6 2

ヨ シ 5 3

マ コ モ 5

ヒ メ ガ マ 5

コ ウ ホ ネ 5 5 2 1 5 + 1 5

ア シ カ キ +*タ チ モ 1 +*ヒメホタルイ 1 1 + + 1 +

ア サ ザ 5 1 1

*ヒ   シ + + 1

*ヒルムシロ +*エゾノヒルムシロまたはヒルムシロ

3 + 5 5 5

ホ ソ バ ミズ ヒ キ モ 1 1 1 + +

セキショウモ + 3 1 2 2 1 2 + 3 3

ク ロ モ 3 2 1 + 2 + 2

コカナダモ 2

シャジクモ類 +

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福島大学地域創造 第22巻 第2号 2011.2(6994)

るが,これらも現在の松橋浜では見られない。林ほか(1982)により記録が残されていたために今回の研究で明らかにすることができた場所や群落以外にも,1980年代以降の猪苗代湖北岸では,水生植物群落の大きな変化が生じていたものと考えられる。

2.1980年頃の猪苗代湖の水質と水生植物群落の分布 1980年代に北岸で多く確認されている植物のうち,タチモはpH6.3~8.5,コウホネはpH5.9~9.0,クロモはpH6.1~9.7,ヒシはpH5.9~10.2,セキショウモはpH6.5~9.7と,いずれも弱酸性からアルカリ性の湖沼や溜池に生育するとされる

(Kadono1982)。猪苗代湖の湖心はpH4.6~5.4の酸性であったが,これらが多く生育していた三城潟の岸から約200~250m沖まで,高橋川河口沖の約100~300mの間,松橋浜沿岸は少なくとも1980年には弱酸性から中性であったものと考えられる。実際,益子ほか(1973)は1972年に行った水質調査で白鳥浜のpHが6.4であることを報告している。また,松橋浜に隣接する天神浜では,1980年6月11日にpH6.7,7月21日にpH6.6を記録している(福島県保健環境部1981)。ただし,福島県により高橋川河口付近で定期的な水質調査が始まった1991年には,pH5.0~5.2(4月26日にpH7.2が記録されているが,その時だけなので高橋川からの流入水が影響を与えたものと思われる)であり(福島県1992),高橋川河口付近の岸辺のpHの上昇は起こっていなかったものと考えられる。藤田ほか(2002)は,2001年に北岸の広い範囲で弱酸性から中性の水域が見られることを報告したが,1980年頃には既に少なくとも北岸の一部に弱酸性から中性の水域が広がっていたものと考えられる。 一般に,水生植物群落は岸から抽水植物群落,浮葉植物群落,沈水植物群落の順に配列する(大滝・石戸1980)。1980年頃にはヨシ群落,マコモ群落,ヒメガマ群落,コウホネ群落などの抽水植物群落,およびエゾノヒルムシロ群落,アサザ群落などの浮葉植物群落は良く発達していた(林ほか1982)。しかし,浮葉植物群落の沖側には,コウホネの沈水形が見られるのみで,よく発達した抽水植物群落や浮葉植物群落に見合う沈水植物群落は見られなかった。林ほか(1982)は,1980年頃には,高橋川河口沖では湖岸から350m沖合の水深2mの所まで,三城潟沖では湖岸から150m沖合の水深130㎝の所まで,相名目浜では湖岸から180m沖合の水深140

㎝の所までしか水生植物群落が見られなかったことを記している。林ほか(1982)の分布図でも,北岸では水生植物が分布しているのは水深2~2.5m以下の場所のみであることが読み取れる。一般に,抽水植物は水深約1m以内に,浮葉植物は水深約2m以内に,沈水植物は水深約3m以内に生育するとされ(大滝・石戸1980),尾瀬沼(透明度約2~5m)では,水深約6mまで沈水植物が生育している(野原2007)。1980年の猪苗代湖湖心の透明度は7.5~11.4mに達しており(福島県保健環境部1981),水深2~2.5m以上の部分に沈水植物群落が成立していないのは不自然と考えられる。一般に,水生植物の多くは,好適なpHが6~7.4程度であり,pH5以下になると生育不能なものが多いとされる(大滝・石戸1980)。1980年頃に見られた水深2~2.5mまでに限られた水生植物の分布や,浮葉植物群落の沖にある沈水植物群落の欠如または貧弱さは,当時の猪苗代湖の中心部や沖合の低リン濃度およびpHの低さによるものと考えられる。

3.湖全体の弱酸性・中性化による水生植物群落の 変化 猪苗代湖の湖心はpH4.6~5.4の酸性を保っていたが,1997年頃よりpHが上昇し,2008年にはpH6.3~6.7と弱酸性からほぼ中性の値になった(福島県2009)。猪苗代湖北岸には広い湖棚状の平坦面が広がっているが,特に小黒川河口沖から白鳥浜沖付近では湖岸から1,500m沖合でも水深は2.5m以下である。猪苗代湖の湖心の透明度は8.5~15mと依然極めて高い(福島県2009)。したがって,湖全体が酸性から中性になることにより,現在北岸で見られる沈水植物の多くが,潜在的には現在より沖合まで生育することができるようになったと考えられる。特にコカナダモとヒロハノエビモは,尾瀬沼でそれぞれ水深約6mおよび約4mの深部にも生育していることから(野原2007),猪苗代湖でもかなり沖合で確認されるようになる可能性がある。 一方で,湖心の全リン濃度はまれに0.006㎎/ℓが観察されたものの,おおむね<0.003㎎/ℓと極めて低いレヴェルである(福島県2009)。リンの制限により,沈水植物の密な群落が見られるのは,高い全リン濃度が見られる北岸沿岸や(藤田ほか2002),リン負荷の高い高橋川や小黒川からの流入水の影響のあるこれらの河口の沖に留まっているものと思われる。低pHによる制限がなくなった現在,

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1980および1981年から2009および2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化 (6995)

低リン濃度が,猪苗代湖の沈水植物の大幅な増加や沖合への分布拡大を制限する要因として重要性を増しているものと考えられる。

謝  辞

 東北農業研究センターの村上敏文氏,福島大学共生システム理工学類の高橋啓樹氏,森康裕氏,福島大学教育学部の安藤太一郎氏には,現地に同行いただき,調査を手伝っていただきました。福島大学共生システム理工学類の森康裕氏と丸山愛氏には植生断面図の作成を手伝っていただきました。以上の方々に御礼申し上げます。本研究の一部は平成20,21,22,23年度「きらめく水のふるさと磐梯」湖美来基金水環境保全活動事業支援事業助成金,福島大学・清らかな湖,美しい猪苗代湖の水環境研究協議会共同研究「猪苗代湖の水生植物及び生物多様性保全に関する調査研究」(平成21年度),「猪苗代湖の水生植物等に関する調査研究」

(平成22年度),および福島大学自然共生・再生研究プロジェクト「阿武隈川流域水循環系の健全化に関する研究」(平成18~22年度)により行われた。

摘  要

 近年の水質や植生などの環境変化が大きい猪苗代湖北岸で,1980年および1981年に調査が行われたのと同じ場所で2009年および2010年に植生調査や観察を行うことにより,約30年の間で見られた水生植物群落の変化を具体的に明らかにした。三城潟沖ではエゾノヒルムシロの消滅,およびマコモやヒメガマの減少が確認された。高橋川河口沖ではコウホネ群落の消滅,コカナダモの出現,セキショウモの増加などの変化が確認された。また,1980年代初めには岸から350mの範囲までしか水生植物が生育していなかったが,2010年には500m以上沖までセキショウモやヒメホタルイが見られるようになっていた。猪苗代湖の湖心はpH4.6~5.4の酸性であったが,三城潟の岸から約200~250m

沖まで,高橋川河口沖の約100~300mの間,および松橋浜沿岸は1980年頃に弱酸性からアルカリ性を好む水生植物が繁茂していたことから,当時既に弱酸性から中性であったものと考えられる。一方,1980年頃に見られた水深2~2.5mまでに限られた水生植物の分布や,浮葉植物群落の沖にある沈水植物群落の欠如または貧弱さは,当時の猪苗代湖の中心部および沖合の低リン濃度およびpHの低さによるものと考えられる。

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近年,湖全体が酸性から中性になることにより,現在北岸で見られる沈水植物の多くが,潜在的には現在より沖合まで生育することができるようになったと考えられる。このように,現在は低pHによる制限がなくなったため,猪苗代湖の沈水植物の大幅な増加や沖合への分布拡大を制限する要因として,低リン濃度が重要性を増しているものと考えられる。

引用文献阿部喜一.2002.福島県猪苗代湖及び裏磐梯湖沼群の

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1980および1981年から2009および2010年の猪苗代湖北岸の水生植物群落の変化 (6997)

付記1 林ほか(1981,1982)の調査の際に猪苗代湖北岸で採集されたと考えられる維管束植物標本。

 科は基本的にエングラーの体系を用いている。学名と和名は「YList」(米倉 ・ 梶田 . 2003. BG Plants 和名−学名インデックス http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/bgplants/download.php)に従った。2009 年および 2010 年の調査の際に猪苗代湖北岸で確認されていない植物は和名に下線を付した。学名の後の[ ]内に,環境省のレッドリストカテゴリ,福島県のレッドデータブック(生物多様性情報システム http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html;福島県生活環境部環境政策課 2002)を記した。「II 類」,「準」はそれぞれ絶滅危惧 II 類,準絶滅危惧を示す。標本は採集者名,標本番号,採集日,標本室シート番号を記した。いずれの標本も福島大学共生システム理工学類生物標本室 FKSE に保管されている。

シダ植物ミズニラ科 ISOETACEAEヒメミズニラ Isoetes asiatica(Makino)Makino[環境省準,福島県 II 類]

猪苗代湖野口記念館前,水深1.3m(Y.Makino s.n., Aug. 3, 1981, FKSE15391)

被子植物 双子葉類 離弁花類スイレン科 NYMPHAEACEAEコウホネ Nuphar japonica DC.

猪 苗 代 湖, 水 深180 ㎝(Y.Hayashi s.n., Aug. 7, 1980, FKSE15388); 猪 苗 代 湖, 水 深 200cm(Y.Hayashi s.n., Aug. 7, 1980, FKSE15390);三ツ和 野口記念館

(Y.Hayashi s.n., Aug. 7, 1980, FKSE15386)(Collector unknown s.n., Aug. 7, 1980, FKSE65004);三ツ和 野口記 念 館 前(Y.Makino s.n., Aug. 3, 1981, FKSE15387),

(Y.Makino s.n., Aug. 3, 1981, FKSE65005); 天 神 浜(Y.Hayashi s.n., Aug. 6, 1980, FKSE15395),(Y.Hayashi s.n., Aug. 6, 1980, FKSE65006)

ヒシ科 TRAPACEAEヒシ Trapa japonica Flerow

天 神 浜(Y.Hayashi s.n., Aug. 6, 1980, FKSE15377),(Y.Hayashi s.n., Aug. 6, 1980, FKSE15375)

アリノトウグサ科 HALORAGACEAEタチモ Myriophyllum ussuriense(Regel)Maxim.[福島県 II 類]

猪 苗 代 湖, 水 深180 ㎝(Y.Hayashi s.n., Aug. 7, 1980, FKSE15413);猪苗代湖(Y.Hayashi s.n., Aug. 7, 1980, FKSE15412);猪苗代湖,水深220cm(Y.Hayashi s.n., Aug. 7, 1980, FKSE15414)

被子植物 双子葉類 合弁花類ミツガシワ科 MENYANTHACEAEアサザ Nymphoides peltata(S.G.Gmel.)Kuntze[福島県 II 類]

天 神 浜(Y.Hayashi s.n., Aug. 6, 1980, FKSE15408),(Y.Hayashi s.n., Aug. 6, 1980, FKSE15409)

トチカガミ科 HYDROCHARITACEAEセキショウモ Vallisneria natans(Lour.)H.Hara[福島県 II 類]

天神浜(Y.Makino s.n., Aug. 3, 1981, FKSE15380)

被子植物 単子葉類ヒルムシロ科 POTAMOGETONACEAE

ヒルムシロ Potamogeton distinctus A.Benn.三 ツ 和 野 口 記 念 館(Y.Hayashi s.n., Aug. 7, 1980, FKSE15400),(Y.Hayash i s .n . , Aug . 7 , 1980 , FKSE65003)

エゾノヒルムシロ Potamogeton gramineus L.[福島県 II 類]三 ツ 和 野 口 記 念 館(Y.Hayashi s.n., Aug. 7, 1980, FKSE15397),(Y.Hayash i s .n . , Aug . 7 , 1980 , FKSE15396),(Y.Mak ino s .n . , Aug . 3 , 1981 , FKSE15406),(Y.Mak ino s .n . , Aug . 3 , 1981 , FKSE15404)

ヒロハノエビモ Potamogeton perfoliatus L.[福島県 II 類]三 ツ 和 野 口 記 念 館 前(Y.Makino s.n., Aug. 3, 1981, FKSE15403)

ミクリ科 SPARGANIACEAEミクリ属 Sparganium sp.

三 ツ 和 野 口 記 念 館 前(Y.Makino s.n., Aug. 3, 1981 , FKSE15373),(Y.Makino s.n., Aug. 3 , 1981 , FKSE15381)

カヤツリグサ科 CYPERACEAEヒメホタルイ Schoenoplectus lineolatus(Franch. et Sav.)T.Koyama

天神浜(Y.Makino s.n., Aug. 3, 1981, FKSE15383)ツルアブラガヤ Scirpus radicans Schk. 

堅田 入江(Y.Makino s.n., Aug. 3, 1981, FKSE15416)

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