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薬食審査発 0711 第 1 号 平成25年7月11日 各都道府県衛生主管部(局)長 殿 厚生労働省医薬食品局審査管理課長 (公印省略) 「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガ イドライン」について 医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法は、臨床薬物動態試験又は非 臨床薬物動態試験(トキシコキネティクス試験を含む。)において、体内動態(吸 , 分布, 代謝及び排泄)、バイオアベイラビリティ、生物学的同等性、薬物間 相互作用等の評価に利用されているものですが、一連の分析過程を通して妥当 性が適切に確認され、十分な信頼性を有することが必要です。 今般、生体試料中薬物濃度分析法が十分な信頼性を有することを保証するた めのバリデーション及びその分析法を用いた実試料分析に関して推奨される一 般的な指針を、別添のとおりガイドラインとして取りまとめましたので、貴管 下関係業者に対して周知方お願いします。 . 本ガイドラインの要点 1) 本ガイドラインは、医薬品の製造販売承認申請に用いる試験成績の評 価のために、生体試料中薬物濃度分析法が十分な信頼性を有することを 保証するためのバリデーション及びその分析法を用いた実試料分析に関 する指針を示したものであること。 2トキシコキネティクス試験及び臨床試験における生体試料中の薬物又 はその代謝物の濃度を定量する際に用いられる分析法であって、低分子 化合物(内因性物質を除く。)の液体クロマトグラフィー、ガスクロマト

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薬 食 審 査 発 0 7 1 1 第 1 号

平 成 2 5 年 7 月 1 1 日

各都道府県衛生主管部(局)長 殿

厚生労働省医薬食品局審査管理課長

( 公 印 省 略 )

「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガ

イドライン」について

医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法は、臨床薬物動態試験又は非

臨床薬物動態試験(トキシコキネティクス試験を含む。)において、体内動態(吸

収, 分布, 代謝及び排泄)、バイオアベイラビリティ、生物学的同等性、薬物間

相互作用等の評価に利用されているものですが、一連の分析過程を通して妥当

性が適切に確認され、十分な信頼性を有することが必要です。

今般、生体試料中薬物濃度分析法が十分な信頼性を有することを保証するた

めのバリデーション及びその分析法を用いた実試料分析に関して推奨される一

般的な指針を、別添のとおりガイドラインとして取りまとめましたので、貴管

下関係業者に対して周知方お願いします。

1. 本ガイドラインの要点

(1) 本ガイドラインは、医薬品の製造販売承認申請に用いる試験成績の評

価のために、生体試料中薬物濃度分析法が十分な信頼性を有することを

保証するためのバリデーション及びその分析法を用いた実試料分析に関

する指針を示したものであること。

(2) トキシコキネティクス試験及び臨床試験における生体試料中の薬物又

はその代謝物の濃度を定量する際に用いられる分析法であって、低分子

化合物(内因性物質を除く。)の液体クロマトグラフィー、ガスクロマト

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グラフィー、又はそれらと質量分析法を組み合わせた分析法に適用する

ものであること。

(2) ISR(Incurred samples reanalysis)、段階的アプローチ等の欧米のガ

イドライン等で取り込まれている考え方を導入したこと。

(3) リガンド結合法(免疫学的分析法等)に関する生体試料中薬物濃度分

析法についても、同様のガイドラインを整備する予定であること。

2.今後の取扱い

平成 26年 4月 1日以降に開始される本ガイドラインの適用範囲となる生体

試料中薬物濃度試料分析法は、本ガイドラインの基準に基づくものであるこ

と。なお、当該分析法を活用した試験成績は、医薬品の製造販売承認申請に

際し添付すべき資料とすることができる。

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別添

医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法

のバリデーションに関するガイドライン

目次

1. はじめに

2. 適用

3. 標準物質(標準品)

4. 分析法バリデーション

4.1. フルバリデーション

4.1.1. 選択性

4.1.2. 定量下限

4.1.3. 検量線

4.1.4. 真度及び精度

4.1.5. マトリックス効果

4.1.6. キャリーオーバー

4.1.7. 希釈の妥当性

4.1.8. 安定性

4.2. パーシャルバリデーション

4.3. クロスバリデーション

5. 実試料分析

5.1. 検量線

5.2. QC試料

5.3. ISR

5.4. キャリーオーバー

6. 注意事項

6.1. 定量範囲

6.2. 再分析

6.3. クロマトグラムの波形処理

6.4. システム適合性

6.5. 回収率

7. 報告書の作成と記録等の保存

関連ガイドライン一覧

用語解説

附録 段階的アプローチの利用

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1. はじめに

医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析は,対象薬物やその代謝物の有

効性及び安全性を評価する上で,臨床薬物動態試験や非臨床薬物動態試験(ト

キシコキネティクス試験を含む。)に活用され,得られた生体試料中薬物濃度は,

体内動態(吸収,分布,代謝及び排泄),バイオアベイラビリティ,生物学的同

等性及び薬物間相互作用等の評価に利用されている.

一方,生体試料中薬物濃度分析には,一連の分析過程を通して妥当性が適切

に確認され,十分な信頼性を有する方法を用いることが必要である.

本ガイドラインは,医薬品の製造販売承認申請に用いる試験成績の評価のた

めに,生体試料中薬物濃度分析法が十分な信頼性を有することを保証するため

のバリデーション及びその分析法を用いた実試料分析に関して推奨される一般

的な指針を示したものである.

そのため,特別な分析法を用いる場合や得られた濃度情報の使用目的によっ

ては,科学的な判断に基づき,あらかじめ妥当な判断基準を設定する等,柔軟

な対応を考慮することが必要である.

2. 適用

本ガイドラインは,トキシコキネティクス試験及び臨床試験における薬物又

はその代謝物の生体試料中薬物濃度を定量する際に用いられる分析法のバリデ

ーション並びに当該分析法を用いた実試料分析に適用するものとする.対象薬

物は低分子化合物(内因性物質を除く.)を中心とし,主に液体クロマトグラフ

ィー( liquid chromatography: LC),ガスクロマトグラフィー( gas

chromatography: GC),又はそれらと質量分析法(mass spectrometry: MS)

を組み合わせた分析法を対象とする.

なお,「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平

成 9 年 3 月 26 日厚生省令第 21 号)の対象とならない非臨床試験で使用される

分析法は,当該ガイドラインの適用対象ではないが,当該ガイドラインの内容

を参考に必要なバリデーション等を実施してよい.

3. 標準物質(標準品)

標準物質(標準品)は,分析対象物質を定量分析する上で基準となるもので

あり,主に分析対象物質を添加した既知濃度の試料である検量線用標準試料及

び Quality Control(QC)試料の調製に用いられる.標準物質の品質は測定デ

ータに影響を及ぼすため,品質が保証された標準物質を使用しなければならな

い.使用する標準物質については,ロット番号,含量又は純度,及び保存条件

を明らかにした分析証明書又はそれに代わる文書が必要である.入手先,化学

構造及び有効期限等を明らかにしておくことが望ましい.内標準物質に対する

分析証明書等は必ずしも必要ではないが,分析対象物質の分析に影響を与えな

いことを確認した上で内標準物質を用いる必要がある.

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4. 分析法バリデーション

薬物又はその代謝物の生体試料中薬物濃度を定量する際の分析法を確立する

際には,施設ごとに分析法バリデーションを実施する.

4.1. フルバリデーション

分析法を新たに確立する際には,フルバリデーションを実施する.

フルバリデーションでは,選択性,定量下限,検量線,真度,精度,マトリ

ックス効果,キャリーオーバー,希釈の妥当性及び安定性等を評価する.通常,

フルバリデーションは,分析対象となる種又はマトリックス(主に血漿,血清,

全血又は尿)ごとに実施する.

既にフルバリデーションを実施した分析法に,代謝物等を新たな分析対象物

質として追加する場合には,フルバリデーションの実施を考慮する.また,文

献等で公表された分析法を使用する場合にも,フルバリデーションの実施が必

要である.

分析法バリデーションに用いるマトリックスは,抗凝固剤や添加剤を含め,

分析対象の実試料にできるだけ近いものを使用する.希少なマトリックス(組

織,脳脊髄液又は胆汁等)を対象とした分析法を確立する場合には,十分な数

の個体から十分な量のマトリックスが得られない状況が問題となる場合がある.

そのような場合には,代替マトリックスを使用することができる.代替マトリ

ックスは,検量線を構成する各試料及び QC 試料の調製等に用いられる.ただ

し,代替マトリックスを使用する場合には,分析法を確立する過程においてそ

の妥当性を可能な限り検証する.

4.1.1 選択性

選択性とは,試料中の他の成分の存在下で,分析対象物質及び内標準物質を

区別して検出することができる能力のことである.

選択性は,少なくとも 6個体から得られた個別のブランク試料(分析対象物

質や内標準物質を添加せずに前処理するマトリックス試料)を用いて評価する.

各分析対象物質及び内標準物質に対する妨害がないことを確認する.希少なマ

トリックスを使用する場合には,6個体よりも少ない個体から得られたマトリッ

クスを使用することも許容される.

ブランク試料において妨害物質に由来する応答変数(レスポンス)が認めら

れない,又は妨害物質に由来するレスポンスが定量下限における分析対象物質

の 20%以下及び内標準物質の 5%以下でなければならない.

4.1.2. 定量下限

定量下限とは,試料中において分析対象物質を信頼できる真度及び精度で定

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量することができる最も低い濃度である.

定量下限における分析対象物質のレスポンスは,ブランク試料の 5 倍以上で

ある必要がある.定量下限における平均真度は、理論値の±20%以内,精度は 20%

以下でなければならない.

4.1.3. 検量線

検量線は,分析対象物質の理論値とレスポンスの関係をグラフに示したもの

である.

検量線は,分析対象物質ごとに作成される必要がある.検量線の作成には,

可能な限り実試料と同じマトリックスを使用し,既知濃度の分析対象物質を添

加して作成する.検量線は,定量下限を含む 6 濃度以上の検量線用標準試料,

ブランク試料及びゼロ試料(内標準物質を添加したブランク試料)から構成す

る.検量線の回帰式及び重み付け条件には,一般的に濃度とレスポンスの関係

を示す最も単純なモデルを用いる.重回帰式を用いても良い.ただし,検量線

の回帰式の算出には,ブランク試料及びゼロ試料を用いない.報告書には,用

いた回帰式を記載する.

回帰式から求められた検量線用標準試料の各濃度の真度は,定量下限におい

て理論値の±20%以内とし,定量下限以外においては理論値の±15%以内とする.

検量線用標準試料の 75%以上かつ,定量下限及び検量線の最高濃度を含む少な

くとも 6濃度の標準試料が,上記の基準を満たすものとする.

4.1.4. 真度及び精度

真度とは,それぞれの分析対象物質の定量値と理論値との一致の程度のこと

である.精度とは,それぞれの繰り返し分析によって得られる定量値のばらつ

きの程度のことである.

真度及び精度は,QC試料,すなわち分析対象物質濃度が既知の試料を分析す

ることによって評価される.バリデーション時においては,検量線の定量範囲

内で,最低 4 濃度(定量下限,低濃度,中濃度及び高濃度)の QC 試料を調製

する.QC試料の濃度については,低濃度は定量下限の 3倍以内,中濃度は検量

線の中間付近,高濃度は検量線の最高濃度の 75%以上であるものとする.分析

単位内の真度及び精度は,各濃度あたり少なくとも 5 回の繰り返し分析をする

ことによって評価される.分析単位間の真度及び精度は,少なくとも 3 回の分

析単位を繰り返し分析することによって評価される.

各濃度における平均真度は,理論値の±15%以内でなければならない.ただし,

定量下限では±20%以内であるものとする.各濃度における定量値の精度は,

15%以下でなければならない.ただし,定量下限では 20%以下とする.

4.1.5. マトリックス効果

マトリックス効果とは,分析対象物質のレスポンスが試料中のマトリックス

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由来成分によって影響を受けることである.マトリックス効果の評価は,MSを

用いる分析法で実施される.

マトリックス効果は,マトリックスファクター(MF)を算出することによっ

て評価される.MF は,マトリックス存在下での分析対象物質のレスポンスを,

マトリックス非存在下でのレスポンスと比較することによって算出される.MF

の算出には,少なくとも 6 個体から得られたマトリックスを用いる.内標準物

質を用いて,MFを補正しても良い.MFの精度は,個体間で 15%以下でなけれ

ばならない.

マトリックスを用いて調製した QC 試料を分析することによっても,マトリ

ックス効果を評価できる.少なくとも 6 個体から得られたマトリックスを用い

て調製した QC 試料を分析し,定量値の精度は,個体間で 15%以下でなければ

ならない.

なお,希少なマトリックスを使用する場合には,6個体よりも少ない個体から得

られたマトリックスを使用してよい.

4.1.6. キャリーオーバー

キャリーオーバーとは,分析機器に残留した分析対象物質が定量値に影響を

与えることである.

キャリーオーバーは,最高濃度の検量線用標準試料を測定した後にブランク

試料を測定することによって評価される.最高濃度の検量線用標準試料を測定

した後のブランク試料のレスポンスは,原則として,定量下限における分析対

象物質 20%以下且つ内標準物質の 5%以下でなければならない.

この基準を満たさない場合には,その程度を検討し,実際の実試料分析に影

響を及ぼさないような手段を考慮する.

4.1.7. 希釈の妥当性

試料を希釈して分析する必要がある場合には,希釈が分析対象物質の定量値

に影響を与えないことを確認する.

希釈の妥当性は,試料中における分析対象物質の濃度を検量線の定量範囲内

となるようにブランクマトリックスで希釈する場合,実試料分析における希釈

方法を考慮した適切な希釈倍率を選択し,それぞれを少なくとも 5 回の繰り返

し分析をすることによって評価する.希釈された試料の平均真度は理論値の

±15%以内,精度は 15%以下でなければならない.

試料の希釈に代替マトリックスを用いる場合は,同様にして,当該マトリッ

クスを用いることが真度又は精度に影響を及ぼさないことを示す.

4.1.8. 安定性

分析対象物質の安定性評価は,試料を採取してから分析するまでの各過程が

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分析対象物質の濃度に影響を及ぼさないことを保証するために実施する.安定

性の評価は,実際の保存条件又は分析条件にできる限り近い条件で行う.安定

性の評価においては,溶媒又はマトリックスの種類,容器の材質,保存条件等

に留意する.

バリデーション試験では,凍結融解安定性,短期保存安定性(室温,氷冷又

は冷蔵等),長期保存安定性,前処理後試料中安定性を評価する.いずれの安定

性についても,実際の保存期間を上回る期間で評価する.

標準原液及び標準溶液中の安定性の評価には,通常,最高濃度及び最低濃度

付近の溶液を用いる.各濃度あたり少なくとも 3回の繰り返し分析を行う.

マトリックス中の安定性の評価には,低濃度及び高濃度のQC試料を用いる.

QC試料の調製には,抗凝固剤や添加剤を含め,実際の条件にできるだけ近いマ

トリックスを使用する.各濃度あたり少なくとも 3回の繰り返し分析を,QC試

料を保存する前後に行うことで安定性を評価する.原則として各濃度における

平均真度を指標として,理論値の±15%以内でなければならない.なお,分析対

象物質の特性等を考慮し,他の指標が科学的により適切に評価できる場合には,

当該指標を用いても良い.

4.2. パーシャルバリデーション

既にフルバリデーションを実施した分析法に軽微な変更を施す場合には,パ

ーシャルバリデーションを実施する.パーシャルバリデーションで評価する項

目は,分析法の変更の程度とその性質に応じて設定する.

パーシャルバリデーションを実施する典型的な事例として,分析法の他施設

への移管,分析機器の変更,定量範囲の変更,分析に使用する試料量の変更,

抗凝固剤の変更,前処理法や分析条件の変更,試料の保存条件の変更,併用薬

の分析に与える影響の確認又は希少なマトリックスの使用等が挙げられる.

パーシャルバリデーションにおける判断基準には,原則としてフルバリデー

ションと同様の判断基準を設定する.

4.3. クロスバリデーション

クロスバリデーションは,主に同一の試験内で複数の分析施設で分析する場

合,又は異なる試験間で使用された分析法を比較する場合に実施される.クロ

スバリデーションによる比較は,それぞれのフルバリデーション又はパーシャ

ルバリデーションを実施した上で実施する.分析対象物質を添加した同一の QC

試料又は実試料を分析し,QC試料の各濃度の平均真度を評価又は実試料の濃度

の乖離度を評価する.

同一の試験内で複数の分析施設を用いる際のクロスバリデーションにおいて

は,室内及び室間再現精度を考慮し,低濃度,中濃度及び高濃度各濃度で少な

くとも 3 回の繰り返し分析による QC 試料の平均真度は,原則として理論値の

±20%以内でなければならない.実試料を使用する場合では,少なくとも 3分の

2の試料の乖離度が±20%以内でなければならない.

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原理等が異なる分析法を用いる際のクロスバリデーションにおいては,分析

法の性質を考慮した上で,科学的な判断に基づき,個別にその実施方法及び許

容できる平均真度又は乖離度による基準を設定して評価する.

5. 実試料分析

実試料とは,トキシコキネティクス試験又は臨床試験等から得られる試料の

うち,生体試料中薬物濃度分析に供する試料のことである.実試料分析には,

分析法バリデーションによって確立された分析法を用いる.実試料分析では,

分析法バリデーションで安定性が確認された条件下で実試料を取り扱い,安定

性が確認された期間内に検量線(ブランク試料,ゼロ試料及び 6 濃度以上の検

量線用標準試料)及び QC試料と共に実試料を分析する.

実試料分析での分析法の妥当性は,分析単位ごとに検量線,QC試料で評価す

る.更に薬物動態を主要な評価項目とする試験では,異なるマトリックスごと

に代表的な試験を選択して ISR(incurred sample reanalysis;定量値の再現性

確認のため,異なる日に別の分析単位で投与後試料を再分析すること)を実施

し,分析法の再現性を確認する.

なお,キャリーオーバーが懸念される実試料分析では,妥当性の評価項目に

キャリーオーバーを加える.

5.1. 検量線

検量線は,実試料中の分析対象物質の濃度を算出するために用いられる.実

試料分析に用いる検量線は,分析法バリデーションで確立した方法によって,

分析単位ごとに作成される必要がある.検量線の回帰式及び重み付け条件には,

分析法バリデーションのときと同様のモデルを用いる.

回帰式から求められた検量線用標準試料の各濃度の真度は,定量下限におい

ては理論値の±20%以内,定量下限以外においては理論値の±15%以内でなけれ

ばならない.検量線用標準試料の 75%以上かつ少なくとも 6 濃度の検量線用標

準試料が上記基準を満たさなければならない.

実試料分析において,検量線用標準試料の定量下限又は検量線の最高濃度が

基準を満たさなかった場合には,これらの次の濃度の検量線用標準試料を定量

下限又は検量線の最高濃度としてもよい.その場合,変更された検量線の濃度

範囲は,少なくとも 3 濃度(低濃度,中濃度及び高濃度)の QC 試料を含まな

ければならない.

5.2. QC試料

QC試料は,検量線や実試料の分析に用いられた分析法の妥当性を評価するた

めに分析される.

検量線の濃度範囲内で,少なくとも 3 濃度(低濃度,中濃度及び高濃度)の

QC試料を分析単位ごとに分析する.通常,低濃度は定量下限の 3倍以内,中濃

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度は検量線の中間付近,高濃度は検量線の最高濃度の 75%以上と設定される.

分析する QC 試料の数としては,各濃度あたり 2 試料又は分析単位内の実試料

数の 5%以上のいずれか多い方とする.QC 試料は,少なくとも実試料の前後で

測定される必要がある.

QC 試料の真度は理論値の±15%以内であるものとし,全 QC 試料の 3 分の 2

以上かつ各濃度の 2 分の 1 以上の QC 試料が上記基準を満たさなければならな

い.

5.3. ISR(Incurred samples reanalysis)

生体試料中薬物濃度分析においては,分析法バリデーションや実試料分析に

用いられる検量線用標準試料及び QC 試料による分析法の妥当性確認を実施し

ても,実試料を用いた分析結果に再現性がない事例が少なくない.実試料の不

均一,コンタミネーションのような操作誤りに基づくものから実試料に特有の

生体由来成分や未知代謝物の影響に至るまで,その原因には様々なものが想定

される.ISR とは,定量値の再現性確認のため,異なる日に別の分析単位で投

与後試料を再分析することであり,ISR を実施して,再現性を確認しておくこ

とが分析値の信頼性を高めるものとなる.また,ISR で再現性が確認できない

分析法がある場合に,その原因を調査し,改善策を講じる契機となる.

通常,ISRは薬物動態を主要なエンドポイントする試験で異なるマトリック

スごとに代表的な試験を選択して実施される.例えば,非臨床試験ではトキシ

コキネティクス試験の異なる動物種ごとに,臨床試験においては,健康被験者,

腎機能又は肝機能低下のある被験者を対象とするそれぞれの薬物動態試験のう

ち代表的な試験,並びに生物学的同等性試験で実施される.なお,非臨床試験

の ISRを実施する実試料には,採取条件が同等である非臨床試験の予備試験等

から得られる実試料を活用することもある.

ISR を実施する試料は,できるだけ多くの個体から通常最高血中濃度及び消

失相付近の試料を含むよう選択し,安定性が保証された期間内に ISR を実施す

る.ISRを実施する実試料数は,1000を超えない実試料数に対してその約 10%,

1000を超えた実試料数では,それに 1000の超過数に対して約 5%に相当する試

料数を加えた数を目安とする.

ISR の評価には,乖離度を用いる.乖離度は,ISR により得られた定量値と

初回の定量値の差を両者の平均値で除した値に100を乗じることで算出される.

ISR を実施した試料のうち,少なくとも 3 分の 2 以上の試料において,乖離度

が±20%以内でなければならない.ISRの結果が上記基準を満たさなかった分析

法では,その原因を調査し,実試料分析への影響を考察して必要に応じた対応

を取らなければならない.

なお,ISRは,乖離度のばらつきを評価するために実施しているものであり,

個別の実試料において ISR の結果が±20%を超えても,その初回の定量値を,

再分析値へ置き換える又は棄却してはならない.

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5.4. キャリーオーバー

キャリーオーバーが実試料中の分析対象物質の定量分析に影響を及ぼすと懸

念される場合には,実試料分析中に 4.1.6と同様の手法を用いてキャリーオーバ

ーを評価し,定量値への影響について考察する.

6 注意事項

6.1. 定量範囲

実試料分析によって得られる定量値が,検量線の定量範囲の中で狭い範囲を

推移する場合には,それに応じてQC試料濃度の再設定を行うことが望ましい.

検量線の定量範囲を変更する場合には,パーシャルバリデーションを実施す

る.ただし,検量線の定量範囲又は QC 試料の濃度又は数を変更する前に分析

した実試料を,これらの変更後に再分析する必要はない.

6.2. 再分析

サンプルの分析を実施する前に,あらかじめ再分析を実施する場合の理由,

再分析の手順及び再分析を行った場合の定量値の取扱いに関する事項を計画書

又は手順書に設定する.

再分析を実施する際の例として,検量線又は QC 試料が分析法の妥当性の基

準を満たさなかった場合,定量値が検量線の最高濃度以上であった場合,投与

前試料又は実薬非投与群の試料中に分析対象物質が認められた場合,前処理操

作又は分析機器の不具合,クロマトグラムの異常等が発生した場合に実施され

る他,異常値の原因追求等が挙げられる.

薬物動態学的な理由による再分析については,可能な限り実施しないことが

望ましい.特に生物学的同等性試験においては,薬物動態的に不自然という理

由のみで再分析を実施して定量値を変更してはならない.ただし,臨床試験に

おいて,患者の安全性に影響を及ぼす可能性がある予期しない結果又は異常な

結果が確認された場合に,特定の試験サンプルを再分析することは制限されな

い.

いずれにせよ,再分析を実施した場合には,用いた試料の情報,再分析を実

施した理由,初回の定量値が得られている場合には初回定量値,再分析によっ

て得られた定量値並びに採用値及びその選択理由と選択方法を報告書に記載す

ることが必要である.

6.3. クロマトグラムの波形処理

クロマトグラムの波形処理及び再波形処理の手順は,あらかじめ計画書又は

手順書等に設定しておく必要がある.

再波形処理を実施した場合には,再波形処理を実施した理由及び再波形処理

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を行う前後のクロマトグラムを保存しておく必要がある.

6.4. システム適合性

生体試料中薬物濃度分析には,適切に維持及び管理された分析機器を用いる

べきである.このため,機器の定期点検に加えて,生体試料中薬物濃度分析に

用いる機器が適切に動作していることを,システム適合性の確認として測定前

に確認することが望ましい.ただし,生体試料中薬物濃度分析においては,シ

ステム適合性の確認とは別に,通常分析単位ごとに検量線及び QC試料の評価

によって分析法の妥当性を確認するため,システム適合性の確認は必須ではな

い.

6.5. 回収率

回収率とは,試料の前処理過程における分析対象物質の回収効率である.

回収率は,分析法の特性を明らかにするために評価することが望ましい.

回収率は,分析対象物質を生体試料に添加して前処理したときのレスポンス

と,ブランクの生体試料を前処理した後に分析対象物質を添加したときのレス

ポンスとを比較することによって算出される.回収率は,値そのものより再現

性があることが重要である.

7. 報告書の作成と記録等の保存

十分な再現性及び信頼性を有することを保証するため,分析法バリデーショ

ン及び実試料分析によって得られた結果を,以下に示すバリデーション報告書

及び実試料分析報告書として作成し,関連の記録や生データと併せて適切に保

存する.

また,関連の記録や生データは,標準物質及びブランクマトリックスに関す

る授受,使用及び保存の記録,試料に関する授受,調製及び保存の記録,分析

の実施記録,装置の校正記録及び設定値,逸脱の記録,通信の記録,並びに分

析結果及びクロマトグラム等の生データは,棄却された分析単位において得ら

れたデータも含めて全て保存する.

バリデーション報告書

バリデーションの要約

標準物質に関する情報

ブランクマトリックスに関する情報

分析方法

バリデーションの評価項目と判断基準

バリデーションの結果及び考察

分析の棄却及びその理由

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再分析に関する情報

計画書及び手順書からの逸脱事項並びに試験結果に対する影響

参照する別試験,手順書及び参考文献の情報

代表的なクロマトグラム

実試料分析報告書

実試料分析の要約

標準物質に関する情報

ブランクマトリックスに関する情報

実試料の受領及び保存に関する情報

分析方法

分析の妥当性に関する評価項目と判断基準及びその結果

実試料分析の結果及び考察

分析の棄却及びその理由

再分析に関する情報

計画書及び手順書からの逸脱事項並びに試験結果に対する影響

参照する別試験,手順書及び参考文献の情報

必要に応じて代表的なクロマトグラム

関連ガイドライン一覧

1) 厚生労働省医薬食品局審査管理課長:「医薬品の臨床試験及び製造販売承認

申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」について,平

成22年2月19日薬食審査発0219第4号(ICH M3(R2))

2) 厚生省薬務局審査管理課長:「トキシコキネティクス(毒性試験における全

身的暴露の評価)に関するガイダンス」について,平成8年7月2日薬審第443

3) 厚生省医薬安全局審査管理課長:「非臨床薬物動態ガイドライン」について,

平成10年6月26日医薬審第496号

4) 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知:「後発医薬品の生物学的同等性試

験ガイドライン等の一部改正について」,平成24年2月29日薬食審査発第

0299第10号

5) 事務連絡:「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラインに関する質疑応

答集(Q&A)について」等の改正等について,平成24年2月29日

6) 厚生労働省医薬局審査管理課長通知:「医薬品の臨床薬物動態試験について」,

平成 13年 6月 1日医薬審発第 796号

7)US FDA: Guidance for Industry, Bioanalytical Method Validation, U.S.

Department of Health and Human Services, FDA, Center for Drug

Evaluation and Research, Center for Veterinary Medicine(2001)

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8) EMA: Guideline on bioanalytical method validation,

EMEA/CHMP/EWP/192217/2009, Committee for Medicinal Products for

Human Use(2011)

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用語解説

安定性 Stability:所定の時間,特定の条件下での溶媒中又はマトリックス中に

おける分析対象物質の化学的又は生物学的安定性.分析対象物質の安定性評価

は,試料を採取してから分析するまでの各過程が分析対象物質の濃度に影響を

及ぼさないことを保証するために実施される.

応答変数(レスポンス)Response variable:分析機器の検出器から得られた応

答のことであり,通常,応答を電気信号に変換して記録されたクロマトグラム

から得られるピーク面積値(あるいはピーク高さ値)で表す.

回収率 Recovery:生体試料の前処理過程における分析対象物質の回収効率.

回収率(%) = (分析対象物質を生体試料に添加して前処理した後のレスポン

ス)/(ブランクの生体試料を前処理した後に分析対象物質を添加した時のレスポ

ンス)×100.

乖離度 Assay variability:同じ試料を用いて行った定量値間の相違の程度.両

者の平均に対する両者の差をパーセント表記したもの.

乖離度(%) = {(比較する分析の定量値)-(基準となる分析の定量値)}/(両者の平均

値)×100.

希釈の妥当性 Dilution integrity:試料を希釈して分析する場合に,希釈が分析

対象物質の定量値に影響を与えないことを確認するために評価される.

キャリーオーバー Carry over:分析機器に残留した分析対象物質が定量値に影

響を与えること.

クロスバリデーション Cross validation:同一の試験内で複数の分析施設で分

析する場合,又は異なる試験間で使用された分析法を比較する場合に実施され

るバリデーション.クロスバリデーションによる比較は,それぞれのフルバリ

デーション又はパーシャルバリデーションを実施した上で実施する.

検量線 Calibration curve:分析対象物質の濃度とレスポンスの関係を示したも

の.定量下限を含む 6 濃度以上の検量線用標準試料,ブランク試料及びゼロ試

料(内標準物質を添加したブランク試料)から構成される.

検量線用標準試料 Calibration standard:検量線の作成に用いる分析対象物質

を添加した既知濃度の試料.検量線用標準試料を用いて検量線を作成し,QC試

料や実試料の濃度を算出する.

再分析 Reanalysis:試料の前処理から測定までの一連の操作を再度行うこと.

システム適合性 System suitability:測定前に,分析対象物質の標準試料溶液

等を用いて分析機器が適切に動作していることを確認すること.

実試料 Study sample:トキシコキネティクス試験又は臨床試験等から得られる

試料のうち,生体試料中薬物濃度分析に供する試料.

真度 Accuracy:定量値と理論値との一致の程度.理論値を 100%としたときの,

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パーセント表記で表される.

真度(%) =((定量値) /(理論値))×100

精度 Precision:繰り返し分析して得られる定量値間の一致のばらつきの程度.

変動係数(CV)または相対標準偏差(RSD)のパーセント表記で表される.

精度(%) = ((標準偏差)/(平均値))×100

ゼロ試料 Zero sample:内標準物質を添加したブランク試料.

選択性 Selectivity:試料中の他の成分の存在下で,分析対象物質及び内標準物

質を区別して検出することができる能力.しばしば特異性と同義語のようにも

使われるが,特異性は選択性の究極の形としてこれらを区別する指摘もある.

この指摘を踏まえると,特異性は一般的に一つの成分のみを検出することがで

きる能力である一方で,選択性とはある特性を持った一群の物質を検出する能

力と定義できる.すなわち,選択性とは分析対象物質及び内標準物質以外の成

分を検出する可能性もあるが,比較的これらの物質を区別して定量できる能力

を意味する.

代替マトリックス Surrogate matrix:希少なマトリックス(組織,脳脊髄液,

胆汁等)のため量に限りがある場合等,本来のマトリックスの代わりとして用

いられるマトリックス.

段階的アプローチ Tiered approach:分析法の妥当性の検証を限定的な内容と

するものであり,開発の段階が進むにつれて,検証内容をフルバリデーション

に近づけていく手法.(附録参照)

定量下限 Lower limit of quantification (LLOQ):試料中において分析対象物質

を信頼できる真度及び精度で定量することができる最も低い濃度.

定量範囲 Quantification range:試料中において分析対象物質を信頼できる真

度及び精度で定量することができる濃度の範囲.生体試料中薬物濃度分析に用

いる分析法の定量範囲は,検量線の定量範囲及び希釈の妥当性によって保証さ

れる.

投与後試料 Incurred sample:実試料のうち,実薬を投与した後に得られる試

料.

特異性 Specificity:「選択性」の用語解説を参照.

内標準物質 Internal standard (IS):分析対象物質の前処理中の回収率や分析機

器によるレスポンスの補正を目的に添加される物質.分析対象物質に構造の類

似した物質や安定同位体でラベル化した物質が用いられる.

パーシャルバリデーション Partial validation:既にフルバリデーションを実施

した分析法に軽微な変更を施す場合に実施するバリデーション.パーシャルバ

リデーションで評価する項目は,分析法の変更の程度とその性質に応じて考慮

する必要があり,その範囲は日内の真度及び精度のみの評価からほとんどフル

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バリデーションに至るまで多岐にわたる.

バリデーション Validation:種々の評価を通じて十分な再現性及び信頼性を有

することを立証すること.

標準原液 Stock solution:標準物質を適切な溶媒に溶解して調製した最高濃度

の非マトリックス溶液.

標準物質(標準品) Reference standard:分析対象物質を定量分析する上で基

準となるものであり,主に検量線用標準試料や QC試料の調製に用いられる.

標準溶液 Working solution:標準原液を適切な溶媒で希釈して調製した非マト

リックス溶液.主として,検量線用標準試料や QC 試料を調製するため,マト

リックスに添加する.

ブランク試料 Blank sample:分析対象物質や内標準物質を添加せずに前処理す

るマトリックス試料.

フルバリデーション Full validation:すべてのバリデーション項目,即ち,選

択性,定量下限,検量線,真度,精度,マトリックス効果,キャリーオーバー,

希釈の妥当性及び安定性を評価する.通常,分析法を新たに確立する際に実施

する.

分析 Analysis:前処理から分析機器による測定までを含めた一連の分析のプロ

セス.

分析対象物質 Analyte:試料中の分析の対象となる物質.医薬品,生体分子又

はその誘導体,代謝物,分解産物等.

分析単位 Analytical run:検量線,QC 試料及び実試料等から成る試料群.通

常,同一条件のもと,同じ試薬を用いて同じ試験実施者により中断されること

なく前処理された一連の試料群(バッチ)を 1つの単位として分析する.

前処理後試料 Processed sample:分析装置による測定に供される試料であり,

生体試料を前処理することによって得られる.

マトリックス Matrix:分析のために選択された全血,血漿,血清,尿又は他の

体液や組織.マトリックス中の組織外因性化学物質(抗凝固剤を除く)及びそ

の代謝物を含まないものをブランクマトリックス (blank matrix)と呼ぶ.

マトリックス効果 Matrix effect:試料中のマトリックス由来成分による分析対

象物質のレスポンスへの影響.

マトリックスファクター Matrix factor (MF):マトリックス非存在下での分析

対象物質のレスポンスに対するマトリックス存在下での分析対象物質のレスポ

ンスの割合.

MF = (マトリックス存在下での分析対象物質のレスポンス)/(マトリックス非存

在下での分析対象物質のレスポンス).

ISR Incurred sample reanalysis (ISR):定量値の再現性確認のため,異なる日

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に別の分析単位で投与後試料を再分析すること.

QC 試料 Quality control (QC) sample:分析法の信頼性を評価するために用い

る分析対象物質を添加した既知濃度の試料.実試料分析において QC 試料は,

検量線や実試料の分析に用いられた分析法の妥当性を評価するために分析され

る.

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附録 段階的アプローチの利用

臨床薬物動態試験で分析の対象とするヒトでの代謝物は,臨床試験の早期段

階では必ずしも明らかにならないことが多く,標準物質としてバリデーション

に供するために十分な量を準備するにはある程度の期間が必要なため,医薬品

開発の効率化を考慮し,分析法バリデーションを段階的アプローチと呼ばれる

方法を採用して進めることがある.

段階的アプローチとは,分析法の妥当性の検証を限定的な内容とするもので

あり,開発の段階が進むにつれて,確認項目及びその内容をフルバリデーショ

ンに近づけていく手法である.医薬品の開発の初期から中期に段階的アプロー

チを利用することによって,開発の早期段階での評価を可能とし,医薬品開発

の見通しを立てやすくすることにより,効率的な医薬品の研究開発につながる

ものと期待される.

ただし,段階的アプローチを用いる場合においても,得られる濃度データの

再現性及び信頼性を高めるために,分析法の妥当性の検証には,科学的な判断

に基づいてあらかじめ妥当な判断基準を設定することが望ましい.

1) Viswanathan, C.T., Bansal, S., Booth, B., DeStefano, A.J., Rose, M.J.,

Sailstad, J., Shah, V.P., Skelly, J.P., Swann, P.G. and Weiner, R.: AAPS J., 9(1), E30-E42(2007)

2) Timmerman, P., Kall, M.A., Gordon, B., Laakso, S., Freisleben, A. and

Hucker, R.: Bioanalysis, 2(7), 1185-1194(2010)

3) US FDA: Guidance for Industry, Safety Testing of Drug Metabolites,

U.S. Department of Health and Human Services, FDA, Center for Drug Evaluation and Research(2008)