報 告 iadc wellcapとiwcfの 相違点* 小 山 輝 之**

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Page 1: 報 告 IADC WellCAPとIWCFの 相違点* 小 山 輝 之**

石油技術協会誌 第69巻 第5号(平 成16年9月)

JOURNAL OF THE JAPANESE ASSOCIATION FOR PETROLEUM TECHNOLOGY

VOL. 69, NO. 5 (Sept., 2004)

報 告

IADC WellCAPとIWCFの 相 違 点*

小 山 輝 之**

(Received August 3, 2004; accepted September 3, 2004)

A comparison between IADC WellCAP and IWCF

Teruyuki Koyama

Abstract: JOGMEC TRC has held a Well Control Seminar since 1987 and that has a cumulative total of 632 attendances currently. The seminar has been authorized Well Control Accreditation Program (WellCAP) training course by International Association of Drilling Contractors (IADC) since 1999. On the other hands, European Well Control Forum was established in 1992, and it was assumed the new name of International Well Control Forum (IWCF) in 1994. There are, therefore, two major certification systems in the world at this time. However, it's striking that IADC and IWCF have concluded the International Alliance for Well Control Program (IAWC) in May 1997. IAWC is a joint program that is intended to provide a uniform training and quality assured

independent certification standard in well control. In this paper, characteristics of each system are presented with a focus on the differences

between WellCAP and IWCF requirement. JOGMEC will discuss the future of the well control seminar.

Key words: Well control, seminar, training, simulation, IADC, IWCF, WellCAP, IAWC, JOGMEC, certification

1. ウ ェル コ ン トロ ー ル講 習 会 の経 緯

独立行政法人石油天然 ガス ・金属 鉱物資源機構(以 下

JOGMEC)技 術 セ ンターで は昭和62年 よ り毎年 継続 し

てケー ススタデ ィ講座「 ウ ェル コン トロール講習会」 を

開催 し,平 成15年 度 まで に累計632名 が受 講 して いる。

また,本 講座 は平成11年 にIADC (International Asso-

ciation of Drilling Contractors)よ り,WellCAP発 行

団体 として正式に認可 されている。

近 年本邦石油開発関係各 社 において もHSEマ ネー ジ

メ ン トを導 入するなど,安 全 ・環境保 全管理 に注 目が集

ま り,IADC WellCAP(以 下WellCAP)の ような世界

的 な権 威 の あ る資 格 を基準 と し,そ の取 得 をHSEマ

ニ ュアルな どに明記す る会社 もあ る。 さ らに本講習会 を

継続 して開催 して きたため,受 講経験者の ウェルコ ン ト

ロールに関 す る知 見の 向上 に伴 い,受 講 希望 者 が上級

コー スに集 中す る傾 向が見 られ る。一部 受講者 か らは,

よ り難 易度 の高 いケースに対応 した講義 ・演習 の希望 が

出てい るが,本 講 習会で使 用 して いるテキス トは平成9

年度 に作成 した ものであ り,毎 年一部改訂を して いる も

のの,掘 削技 術の進歩 とともに 「水平坑井 ・高傾斜井掘

削」,「大水 深掘削」,「油系泥水を用 いた掘削」,「高温 ・

高圧井掘削 」な どにお けるウェル コ ントロール手法 の詳

細 を網羅 す るには至 っていない。 また,本 講習会 の特徴

は英 国Drilling Systems社 製 「DRILLSIM5000」(以

下DS-5000,図1お よび図2を 参照)を 使 用 し,実 際 の

リグを擬似体 験で きるフル スケール シ ミュ レーシ ョンに

よる教育訓練 を実施で きることだが,上 述 した各種作業

中に おけ るウ ェル コン トロー ルを実践 す る シ ミュ レー

* 平 成16年6月16日,平 成16年 度 石 油 技 術 協 会 春 季 講 演 会 作井

部 門 シ ン ポ ジ ウ ム 「ウ ェ ル コ ン トロ ー ル 」 に て 講 演This

paper was presented at the 2004. JAPT Drilling

Symposium entitled "Well control" held in Hokkaido,

Japan, June 16, 2004.

** (独)石 油 天 然 ガ ス ・金 属 鉱 物 資 源 機 構Japan Oil, Gas

and Metals National Corporation

Copyright C 2004, JAPT

Page 2: 報 告 IADC WellCAPとIWCFの 相違点* 小 山 輝 之**

547小 山 輝 之

図1 シ ュ ミ レー タの 概 観(ド リ リ ング コ ン ソー ル)

図2 シ ュ ミレー タの概 観(チ ョー クマ ニ ホ ー ル ド)

シ ョンは整備 されて いな い。

さ らに,WellCAPサ ーテ ィフ ィケ ー トは世 界のす べ

ての地域で通用す るもので はな く,欧 州や豪州 の石油会

社 が 操 業 す る地 域 で はIWCF (International Well

Control Forum)サ ーティフィケー トが必要 とされ る

場 合 が多 い。 現在IADCは,IWCFとIAWC (Inter-

national Alliance of Well Control)と 呼 ばれ るウェル

コン トロール講習会認定 システ ムを構築 し,同 一講座 で

両機関 の認定 を受 けることが可能 となった。本邦石油 会

社 が 操 業 す る地 域 もさ ま ざ ま な地 域 に広 が るな か,

WellCAPお よびIWCFの 認証 を同時に取 得で きるこ と

は非常 に効率的で あると判断 され たため,上 述 の指摘事

項 を踏 まえつつ,将 来IWCF認 定 の講 習会の実施 を目指

すべ く,最 初 のステ ップと して テキス ト改訂 を実施 す る

ため に,平 成15年 度 に「 ケーススタディ講座 「ウ ェル コ

ン トロール講習会」 テキ ス ト改訂 仕様 策定 の ための調

査」 を 日本海洋掘削(株)に委託す るとともに独 自調査 を実

施 した。

こ こで は,こ の調 査で判 明 したWellCAPとIWCF

の相違点 を中心 に,こ の調査内容 について紹介す る。

2. WellCAPに つ い て

WellCAPと はWell Control Accreditation Program

の 略 で あ り,1995年IADCが ウ ェ ル コ ン トロ ー ル 教 育

の標 準化,な らび に 管 理 シ ステ ム の 強 化 を 目的 と して ス

タ ー ト した制 度 で あ る。WellCAPの 認 定 ハ ン ドブ ッ ク

に よ る と,WellCAPの 目的 は世 界 中 で通 用 す る ウ ェル

コ ン トロー ル教 育 の カ リキ ュ ラム の基 本 を作 る こ と,そ

の カ リキ ュ ラム ・ガ イ ドライ ン と と もに個 々 の熟 練 度 を

産 業 界 に対 して 明 確 に 提 示 す る こ との で きる公 式 な認 証

制 度 を 提 供 す る こ と で あ る。WellCAPに 認 定 さ れ た

コー ス で あ れ ば,世 界 各 国 どの教 育機 関 の コー ス を受 講

して も,ほ ぼ 同様 の 内 容 を講 習 し,一 定 レベ ル の知 識 と

技 術 を 習得 す る こ とが 可 能 で あ る。

した が って,WellCAPで は,そ の コ ー ス認 定 に あ た

り,テ キ ス トの 内 容 ・カ リキ ュ ラム ・シ ミュ レー シ ョ

ン ・コー ス の時 間 か ら,イ ンス トラ ク ター の要 件 な ど に

つ い て 細 か く規 定 さ れ て い る。JOGMEC講 習 会 の 受 講

希 望 者 か らは 「一 回 の コー ス人 員 を増 や して ほ しい」 と

い う要 望 が 多 い が,WellCAPで は,シ ミュ レー タ の数

と講 師 の人 数 か ら ク ラ スの最 大 許 容 人 数 を明 確 に定 あ て

い るた め,少 人 数 で 開 催 せ ざ る を 得 な い。 コ ー ス の時 間

に 関 して も,一 般 的 な ウ ェル コ ン トロー ル トレー ニ ン グ

の 場 合 は20時 間 以 上 と 定 め られ て い る。 な お,こ の

WellCAPの 規 定 す る認 定 要 件 は 定 期 的 に 見 直 し を 受

け,ア ップ デ ー トさ れ て い る。

JOGMEC講 習 会 は,こ のWellCAPの 規 定 に則 っ て

開催 さ れ て い る。 コー ス は,初 級 コー ス,中 級 陸 上 コ ー

ス,中 級 海 洋 コー ス,上 級 コー ス,リ フ レ ッシ ャ ー コ ー

ス の5コ ー ス が あ り(実 際 に は リ フ レ ッシ ャ ー コ ー ス は

希 望 者 が い な い た め に 開催 して い な い),例 え ば,上 級

コー ス で は以 下 の 内容 を講 義 して い る。

・基 礎 知 識 の レ ビ ュー

・キ ッ クの検 知 と兆 候

・ウ ェル コ ン トロー ル 法

・ウ ェル コ ン トロー ル装 置

・サ ブ シー で の ウ ェル コ ン トロー ル

・特 殊 環 境 下 で の ウ ェル コ ン トロー ル

・関連 す る最 新 技 術

実 習 に 関 して は,前 述 し たDS-5000な ど の 実 際 の リ

グを擬 似 体 験 で きる シ ミュ レー タ を用 いて トレー ニ ン グ

す る こ とが必 要 な こ と,ま た,例 え ば,ガ スが チ ョ ー ク

を通 過 す る 際 に発 生 す るノ イ ズ の擬 似 体 験 が必 要 な こ と

や,ド リ ラー ズ コ ン ソー ル とチ ョー クパ ネル 間 の距 離 が

2m以 上 離 れ て い な けれ ばな ら な い と い った こ とな ど も

J. JAPANESE ASSOC. PETROL. TECHNOL. Vol. 69, No. 5 (2004)

Page 3: 報 告 IADC WellCAPとIWCFの 相違点* 小 山 輝 之**

548 IADC WellCAPとIWCFの 相違点

WellCAPで 規 定 され て い る。

3. IWCFに つ い て

1982年 よ りEU(欧 州 共 同体)に お い て 始 ま っ た標 準

的 ウ ェ ル コ ン トロ ール トレー ニ ン グ教 育 要 綱 お よ び認 定

基 準 策 定 の動 き は,1992年12月,ウ ェル コ ン トロ ー ル ト

レー ニ ン グ の 認 定 管 理 機 関European Well Control

Forum (EWCF)と して 実 を結 び,本 拠 地 が オ ラ ン ダ

のハ ー グ市 に創 設 さ れ た。1994年9月 にInternational

Well Control Forum (IWCF)と 名称 を 変 更 し,そ の

後IWCFの ウ ェル コ ン ト ロー ル トレー ニ ン グ認 定 講 座

は,欧 州,豪 州,中 東 な ど に拡 が り,2003年12月 現 在,

参 加 団 体 は55ヶ 国180団 体 と な り,累 計 の 受 講 者 は

73,000人 を超 え て い る。

IWCFは,テ ス トを運 営 ・管 理 し,受 験 生 の 知 識 と

技 術 を 評 価 す る テ ス ト執 行 機 関 で あ る。IWCFサ ー

テ ィ フ ィケ ー トは,ウ ェル コ ン トロー ル トレー ニ ン グを

受 講 す る必 要 は な く,IWCFが 運 営 す る テ ス トを 受 験

し,70%以 上 正 答 す れ ば 取 得 す る こ とが で き る。 本 テ ス

トはIWCFの テ ス トプ ロ グ ラ ム の 基 準 に し た が っ て,

Rotary Drilling Well Control programとWell Inter-

vention Pressure Control programの2つ の カ テ ゴ

リー に 分 類 され る。WellCAPに 対 応 し て い る も の は

Rotary Drilling Well Control programで あ るが,

IWCFの カ テ ゴ リー は さ ら に4つ の レベ ル(Drillerレ

ベ ル,Supervisorレ ベ ル,陸 上,海 洋 の 組 み 合 わ せ)

に分 類 され,以 下 の3種 類 の試 験 が 実施 され て い る。

(1) IWCF認 定 シ ミ ュ レー タ を 使 用 し た シ ミュ レー

タ操 作 能 力 を評 価 す る実 技 試 験(Practical Section)

(2) ウ ェル コ ン トロー ル で使 用 さ れ る装 置 ・機 器 につ

い て の機 能,機 構,構 造,業 界 規 格 な どを 含 む 総 合 的 知

識 を評 価 す る筆 記 試 験(Equipment Section,試 験 時

間 は約1時 間)

(3) ウ ェル コ ン トロ ール 実 施 に か か わ る理論,手 順 の

理 解 度 を総 合 的 に評 価 す る筆 記 試 験(Principles & Pro-

cedures Section,試 験 時 間 は約2時 間30分)

こ れ らの筆 記 試 験 問 題 はQuestion Bankと 呼 ば れ る

問 題 デ ー タバ ンク か ら選 定 し,試 験 ごと に作 成 さ れ る。

こ のQuestion Bankは 英 語 版 で あ る が,2003年3月 現

在13言 語(日 本 語 は 含 まれ て い な い)に 翻 訳 さ れ て運

用 され て い る。 デ ー タバ ン クの 問 題 は今 後 も増 補 され て

い く予 定 で あ る。 筆 記 試 験 実 施 の 際 に は,IWCFよ り

試 験 監 督 者 が 派 遣 され,試 験 問 題 は厳 重 に管 理 さ れ て い

る。 試 験 問 題 は,試 験終 了 後 で も外 部 に公 開 さ れ ず,回

答 用 紙 ・問 題 用 紙 ・計算 な どの メ モ は試 験 終 了 後 に 回収

され,試 験 の 際 の 正 否 を確 認 す る こ と は で きな い。

4. IAWCに つ いて

冒 頭 に述 べ た とお り,IADCは1997年3月 の 広報

WellCAP Bulletin97-02に おいて,「IADCはIWCFと

IAWCと 呼 ぶRotary Drillingウ ェル コン トロー ルに

関 して提携す ることで合意 した」 と発表 した。 その合意

内容 は以 下の とお りであ る。

(1) IADCのWellCAPト レーニ ング基準 とIWCFの

認 定 基準 を結 合 させ,Rotary Drillingウ ェル コ ン ト

ロールに関す る整合規格を確立す るべ く取 り組む。

(2) IAWCに 加入 を希望 し,かつ 認定 され た教 育機

関は,受 講者 に対 してWellCAPト レーニング講習終了

後 に行 われ るIADC WellCAP認 定試験を放棄 し,そ の

代 わ りにIWCF認 定試験を受験 させ る。

(3) WellCAP認 定各機関 のIAWCへ の参加 はそれぞ

れの 自由意 志 で あ るが,IAWCの 認 定 を受 け るに は

IADC WellCAP InstitutionとIWCF Assessment

Centreに よ る認定 の両方が必要 である。

(4) IAWC管 理 組織 は,IADCか ら5名,IWCFか

ら5名 の計10名 の管理委員 か らな り,管 理委員会の議長

は1年 ご とに 交代 す る。 組織 の 目的 は,す べ て の

IAWC認 定 講習会 の運用 を監視す ること,教 育課程 と

認定試 験 を適正 な もの に してお くこと,IAWCの 効 率

の良 い運営 に関 して お互 いに意見具 申を行 ってい くこと

な どで ある。

(5) 本合意 は1997年3月 か ら2年 間有効 として,両 者

いずれかが これ を破棄 しない限 り,そ れ以降7年 ごとに

両者の調印を以 って更新 され る。

IAWCの 実 際の運 用 は,IWCFに よ って1998年6月

か ら開始 されて いる。

上述(2)で示 した とお り,受 講者 はWellCAP認 定 の講

義 ・実 習教 習を受講 後,IWCF認 定 の試 験 に合格 す る

ことに よって,WellCAPとIWCF両 方 のサーテ ィフィ

ケー トを取得す ることがで きる。

5. WellCAPとIWCFの 相 違 点

この章 で は,実 際 の講義 ・試験 の中でWellCAPと

IWCFで は どのよ うな違いがあ るか述 べたい。WellCAP

につ いて は,JOGMECが 開催 して い る 「ウェル コン ト

ロー ル講 習会」 のテキ ス トな らびに講習 内容 を参 考 に

し,IWCFに 関 して は,調 査 の中で受講 した英 国 アバ

デ ィー ンにあ るABERDEEN DRILLING SCHOOLS &

Well Control Training Centreに て開催 された上級

ウ ェル コ ン トロール講 習講座 「Shell Advanced Well

Control Training」 のテ キス トな らび に講 習内容 を元

に比較 した。

石油技術協 会誌 69巻5号(2004)

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549小 山 輝 之

WellCAPで はウェル コン トロールの技術 の理解 と習

得 に焦点を置いてお り,基 礎知識 の レビューを必ず行 う

こと,さ まざまな ウェル コン トロール手法 につ いての講

義があ ること,ド リラー ズ法 とウェイ トア ン ドウェイ ト

法を用いた シ ミュレー ションを実施す ることにより,基

礎理論を完全に理解 していれば,さ まざまな状況 に応用

可能であ ろうとの理 念が感 じられ る。

一方,IWCFで は,よ り実 践 に近 い理論 の理解 を主

体 に考えている。 これは,一 般的 となった高傾斜井 ・水

平坑井での シ ミュレー ションを必ず実施す るこ と,ス ト

リップイ ン作業 やDST中 のウ ェル コ ン トロール に関す

る講義 にも力 を入 れて いる ことか らも分か る。 シ ミュ

レーシ ョンは ドリラーズ法 を基本的 に用 い,そ の他,ボ

リュメ トリック法を用い ス トリップイ ン作業 の実習 も実

施 してい る。 さ らに先述 した テス トの一項 目にあるとお

り,ウ ェル コン トロールに関係す る機器 に関す る詳細な

知識が要求 され る。両者 に共通 な ことは,4日 間の講習

中 に4回 の シ ミュレー ションを実施す ることか ら分か る

よ うに,実 習 での技術 の習得に力を入れて いることであ

る。

5.1 ウ ェルコ ン トロールの基本について

ウェル コン トロールの基礎 理論 に関 しての要求事項に

つ いて はそれ程 大 きな違 い は無 い。 ただ し,IWCFで

はよ り実践 に近 い分野 の理論 的な説明が されて いる。例

えば異常高圧層 の7つ の代表 的な構造 とその割合な どが

明記 されて いる。 また,掘 削 計 画を立 て る上 で重要 な

ケーシ ング設置深度 の計算方法 について も,地 層 圧 ・地

層破壊 圧 との関係 と ともに取 り上 げ られて いる。 さ ら

に,特 殊 な状況下 でのキ ックに対 す る注意点が,キ ック

の浸入流体 の挙動 と ともに説 明されてい る。特 にその浸

入流体 がガ スで あ る場合,WellCAPで は油系泥水 を想

定 して いな い た め 簡 単 に紹 介 され て い る程 度 だ が,

IWCFで は水系泥 水使 用時 との挙 動 の違 いが詳 し く解

説 されて いる。

一方,ウ ェル コ ン トロール手 法 について はIWCFで

ドリラーズ法,ウ ェイ トア ン ドウェイ ト法,ボ リュメ ト

リック法 に関 して詳細 な説 明がされてい るものの,そ の

他 の手 法 に関 して は と くに言 及 され て いな い。Wel-

lCAPで はさまざまな手 法 ごとにその手 順や特徴 につ い

て説 明 されて い る。IWCFで は,ボ リュメ トリック法

を使用 した ウェルコ ン トロールシ ミュ レー ションも実施

して いるが,時 間的 な制約か ら,完 全 にキルウェル(抑

圧)し な い実習 となっているのが現状 である。

ウェル コ ントロールの基本 に関 する相違点 の一覧表 を

表1に 示す。

5.2 ウ ェル コ ン トロー ル機 器 につ い て

WellCAPとIWCFの 最 も異 な る点 は,ウ ェ ル コ ン ト

ロ ー ル に関 係 す る 各 機 器 の 説 明 に あ る。IWCFで は前

述 した と う り,筆 記 テ ス トにEquipment Sectionが あ

るた め,こ れ らの 説 明 に非 常 に力 を入 れ て い る。 ウ ェ ル

コ ン トロ ー ル の 主 要 機 器 で あ るBOPに 関 して は,ア

ニ ュ ラータイ プ ,ラ ム タイ プ に つ い て,各 社 の代 表 的 な

表1 相 違 点 の 一覧(キ ック コ ン トロ ー ル の基 礎)

○:記 載 あり △:記 載 はあるが不十分 ×:記 載 なし

J. JAPANESE ASSOC. PETROL. TECHNOL. Vol. 69, No. 5 (2004)

Page 5: 報 告 IADC WellCAPとIWCFの 相違点* 小 山 輝 之**

550 IADC WellCAPとIWCFの 相違点

モデルの分解図が各 パー ッとともに説 明 されている。 ま

た,ゲ ー トバル ブ,チ ョー クバ ル ブ,マ ッ ドガスセパ

レー ター,BOPを 開 閉 させ る コ ン トロール ユニ ッ ト,

クロー ジングユニ ッ トなどの ウェル コン トロール機器 に

関 して も断面図 や分解 図 を用 いて細 か く説 明 されて お

り,さ らに各ッールのイ ンスペ クション方 法や,圧 力 テ

ス トの手順 に関 して も詳細 な説 明がされている。

この ことは,ウ ェルコ ン トロールに用 い る各機器 に詳

細 な説 明が必要 とされ る程,IWCFの 筆記 試験 内容 の

レベルが高 いことを意味す る。 しか しなが ら,実 際 には

各社 にはさまざまなモデルが存在 し,各 モデルによって

細部 が異 な って いるため,代 表 モデルに関 してのみ詳細

に説 明することが,一 般的 なウ ェル コン トロール講習 に

必要 かど うかは疑問であ る。特定 の掘削(請 負)会 社へ

の講習で あれば,そ の会社 で使用 されている機器 の仕様

に あ わ せ た説 明 を す る こ と は重 要 だ が,そ れ で は

IWCFの 筆記試験 をパ スす ることは難 しい。

一 方,WellCAPで は機 器 の説 明 に テ キ ス トの 一 章 を

割 い て い る もの の,IWCFの 内 容 に 比 べ て貧 弱 で あ る

こ と は否 あ な い。 特 に アキ ュム レー ター ユ ニ ッ ト,サ ブ

シ ー で のBOPコ ン トロ ー ル ラ イ ンな ど の コ ン トロ ー ル

シ ステ ム に関 す る図 表 が少 な い こ とが 目立 つ。

ウ ェ ル コ ン トロ ール機 器 に関 す る相 違 点 の一 覧 表 を表

2に 示 す 。

5.3 WellCAP・IWCFの 課 題 と問 題 点

5.1,5.2.で は,WellCAPとIWCFが 網 羅 して い る 内

容 の 違 い につ いて 述 べ た が,こ の項 で は,こ れ らの サ ー

テ ィ フ ィ ケ ー ト取 得 の た め の講 習 会 に お け る長 所 ・短 所

に つ い て 述 べ る。

IWCF, WellCAP, IAWCの 資 格 の 有 効 期 間 はす べ

て2年 間 で あ り,2年 ご との受 講 も し くは試 験 をパ ス し

な けれ ば な らな い 。 これ は,ウ ェ ル コ ン トロ ー ル が掘 削

技 術 者 等 に と っ て根 幹 とな る技 術 で あ るた め,2年 ご と

に 知識 を リフ レッ シ ュす る必 要 が あ る こ とと,技 術 の進

表2 相違点の一覧(キ ックコン トロール機器)

○:記 載 あ り △:記 載 はあ るが不十分 ×:記 載 な し

石油技術協会誌 69巻5号(2004)

Page 6: 報 告 IADC WellCAPとIWCFの 相違点* 小 山 輝 之**

551小 山 輝 之

歩 に遅れず につ いて い くことを 目的 としている。 その上

で3つ の資格それぞれ に長所 と短所 があ り,技 術者が活

動 するエ リア ・国が指定す るサーテ ィフィケー トの種類

と,会 社側が どの ような思想 を以 って こうした認定を受

けさせ るか によって選択 は変 わ って くるだろ う。

特 に知識 と経験 が豊富 な技術 者 はIWCFの 資格 は有

効 であ り,WellCAPで は基 礎理論 に費 やす時間が長 く

なるため,彼 らにとって は物足 りない内容 になって しま

う。一方,経 験 の少 ない技術 者は,基 礎理論か らしっか

りと した講 義 と実 習 を 繰 り返 すWellCAPも し くは

IAWCの 資格 が適 して いる。 しか しなが ら,IAWCで

は,IWCFの テス ト範 囲 も網 羅 しな ければな らないた

め,講 義時 間が長 くな って しまい,ま たWellCAPで は

詳細 にカバ ー しないウェル コン トロール各機器 などにつ

いては独習す る必要が あるため,受 講者 の負担が増加す

る欠点が ある。 どち らの内容 に も一 長一短 があ り,ど の

システムが優れて いるとは判 断で きないが,資 格 の取得

とい う観点 ではな く,ウ ェル コン トロールに関す る知識

と技術 の習得 が目的の講習会 としてはWellCAPの 基準

に沿 った ものが適 して いる と感 じてい る。

6. 技 術 発 展 に伴 う ウ ェル コ ン トロー ル に つ いて

JOGMEC講 習会 の受講 者 か ら得 られ た意 見 と して,

「もっとケ ーススタデ ィを増 や して欲 しい」 とい うもの

がある。特 に水平坑井掘削 時 ・大水深掘削 時のウェル コ

ン トロールに関す る要望 が強い。 こうした技術的 な要求

に対す る,JOGMEC講 習会 の将来 の課 題 につ いて述 べ

る。

6.1 水平坑井掘削時の ウ ェルコ ン トロール

水平坑井掘削 は,技 術 の進歩 に伴 い,も はや特殊な作

業 ではな く,一 般的 な作業 として数 多 くの坑井が掘削 さ

れている。 こうした背景 の中,多 くの講習会で は,通 常

の コースの一部 と して取 り入れ られて いる。IWCFで

は,高 傾斜 井 もし くは水平 坑井 にお ける ウェルコ ン ト

ロールの実習 は必須項 目 とな ってい る。水平坑井が垂直

坑井 と違 う点 は,水 平部 では掘削流体 の水頭圧が変わ ら

ないために,垂 直井 とは違 った圧力挙動 をすることであ

る。 また,キ ック時 の浸入流体 量が多 くな りやす い傾向

があるため,キ ックの予 防 ・検知技術 に関 して垂直井 と

は違 った手 法を用い る必要 があ る。現在JOGMECの 講

習で使 用 して いるDS-5000で も十分 に対応可能であ り,

わずかなア ップグ レー ドで水 平坑井 の実習 を講習会 に加

え ることができるため,今 後 導入の検討を考慮 したい。

6.2 大水深掘削時 のウ ェル コン トロール

大 水深掘 削 に関 して世 界 に 目を向 ける と,メ キ シコ

湾,ブ ラジル,ア フ リカな どにおいて多 くの大水深油 ・

ガス田が開発 に移行 している。近年,日 本国内 にお いて

も大水深井 が掘削 されるようにな り,今 後その必要 性 は

ますます増えて い くであろ う。 この大水 深掘 削時の問題

点 は,高 い地層圧 と低 い地層破壊圧 によ り泥水比重 の選

択 値 の許 容 幅が 小 さ くな る傾 向 にな る ことで あ る。 ま

た,海 底付 近 は低温高圧状態で あるため,そ こにガ スが

存在 す るとハ イ ドレー トの生成 が懸念 され る。大水 深掘

削 時 に はウ ェル コ ン トロール手 法 に関す る知識 とと も

に,機 器 に関す る知識 も要求 される。 シ ミュ レー ション

に関 して は,DS-5000に い くつかのモ ジュールを組 み込

む ことによ って対応が可能 となるため,本 件 も導入 を検

討 してい きた い。

6.3 油系泥水 につ いて

日本 国内 にお いては,法 規制 の懸念か ら油系泥水(オ

イルベー スマ ッ ド:OBM)は 使 用 され たことが ないが,

海外 で は必要 に応 じて油系泥水 もしくは合成泥水(シ ン

セテ ィ ックベー スマ ッ ド:SBM)を 用 いて坑井 が掘削

さ れ て い る。 油 系 泥 水 使 用 時 の キ ッ クは水 系 泥 水

(WBM)と は違 う挙動 を示 し,特 に ガスキ ック時 には

特別 な考慮 が必要 となる。油系泥水使用時の ウェルコ ン

トロールにつ いて は,特 殊な条件 を加え なけれ ばな らな

いた め,近 年 にな りよ うや くその挙動 とウ ェル コ ン ト

ロールを再現す るシ ミュ レーシ ョンプログラムが開発 さ

れた。 この システムをDS-5000に 組み込む には,大 掛か

りなア ップグ レー ドが必要であ り,ま た講習会 の中で こ

れ ら泥水 の特性 につ いて説明す る必要 もあ るため,テ キ

ス ト内容 の改定 と併 せて,JOGMEC講 習会 の将来 にお

ける課題 とした い。

6.4 高温 ・高圧井の ウェル コン トロール

高温高 圧井 にお けるウェル コン トロール は,海 外の講

習会 では独立 した コースを設 定 して,講 義 ・実習が行わ

れてい る。高温 ・高圧井の場 合 は,極 めて綿密な計画 と

多大 な注 意を払 って,ウ ェル コン トロールを遂行す る必

要 があ る。 また掘削時,地 層 が逸泥 とフローを繰 り返す

バ ルーニ ングや スーパーチ ャー ジングとい った特 殊な現

象 が発生 す るた めに キ ックの検知 が難 しい。 こう した

ウ ェル コ ン トロールの実習 をDS-5000で 再現す るに は,

大掛 か りな アップグ レー ドが必要 とな る。 高温 ・高圧井

のウ ェル コン トロール は,実 習 について は将来の課 題 と

し,と りあえず は講習会テキス トの内容 を改訂 す る方 向

で今後検 討 して いきたい。

6.5 ア ンダ ー グラ ウ ン ドブ ロー ア ウ トにつ い て

ア ン ダー グ ラ ウ ン ドブ ロー ア ウ トは,そ の発 生 を 防 ぐ

こ と が第 一 義 で あ るが,ウ ェル コ ン トロー ル に つ い て の

知 識 は必 要 で あ る。 現 在,DS-5000で は,こ の発 生 を再

現 す る こ と はで き るが,抑 圧 手 順 は通 常 の方 法 を取 らな

J. JAPANESE ASSOC. PETROL. TECHNOL. Vol. 69, No. 5 (2004)

Page 7: 報 告 IADC WellCAPとIWCFの 相違点* 小 山 輝 之**

552 IADC WellCAPとIWCFの 相違点

い ため,キ ル ウェルを実習す ることはで きない。 またそ

れ ぞれのケー スに合 わせて抑圧手順 が決 め られ るた め,

一般 的な講 習 と して手順 を解説 す る ことには疑 問 が あ

る。 しか しなが ら,講 義 にお いて,こ れ まで に述べ たさ

まざまな ケース と併せて アンダー グラウン ドブローアウ

トの紹介 と,そ の発生原因 ・発生を防止す るため の対策

な どの基本理論 を習得す ることは重要であ る。 したが っ

て,JOGMECの 講 習会 テキ ス ト内 容 に反映 させ るべ

く,将 来の検討課 題 と した い。

7. 最 後 に

JOGMECが 開催 してい るウェル コン トロール講 習会

は,WellCAPの 講 習 内容 を ベー ス と した内容 で あ る

が,受 講者か ら得 られ るさまざまな意見や希望 に添 うべ

く,今 後 もテキ ス トの改定,シ ミュ レーシ ョンケースの

増 強 を検討 して い く。 また,IWCFやIAWCの サ ー

テ ィフ ィケー ト取得について も検討 したい。

参 考 文 献

IADC Well Control Accreditation Program, Feb., 2004: HANDBOOK FOR ACCREDITATION FORM

WCT-1 Revision 040218, International Well Control Forum, lst Jan. 2000:

Rotary Drilling Well Control Surface & Subsea BOP Stack Certification Syllabus Version 4.1.

IWCF, Mar, 2003: Information for Prospective Members IWCF-INF-001.

IADC WellCAP, Mar. 1997: Bulletin 97-02. IADC WellCAP, Aug. 1997: Bulletin 97-06. IADC WellCAP, May. 1998: Bulletin 98-01.

日本海洋掘削(株)エンジニア リング事業 部,Mar.2004:平

成15年 度 ケーススタディ講座 「ウェル コン トロール講

習 会」 テキ ス ト改 訂作業 仕様 策定 の ため の調 査報告

書.

石油技術協会誌 69巻5号(2004)