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Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと宿主域に関 する研究( 本文(Fulltext) ) Author(s) 大槻, 紀之 Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 乙第131号 Issue Date 2014-09-24 Type 博士論文 Version ETD URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/50401 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと宿主域に関する研究( 本文(Fulltext) )

Author(s) 大槻, 紀之

Report No.(DoctoralDegree) 博士(獣医学) 乙第131号

Issue Date 2014-09-24

Type 博士論文

Version ETD

URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/50401

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと

宿主域に関する研究

大槻 紀之

2014年

岐阜大学連合獣医学研究科

Page 3: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

目次

緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

第1章 ヒトネクチン4を受容体としたイヌジステンパーウイルス感染の検討

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

1. 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

1. 細胞

2. フローサイトメトリー解析

3. ウイルス

4. ウイルス増殖能

5. ウイルス力価測定

6. 膜融合実験

7. イヌジステンパーウイルス H遺伝子の解析

3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

1. ヒトネクチン4を受容体としたイヌジステンパーウイルス感染の検

2. ネクチン4発現ヒト肺胞上皮細胞におけるイヌジステンパーウイル

ス増殖能の検討

3. 親株と馴化株における Hタンパク質の塩基配列の比較

4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

Page 4: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

第2章 H358 細胞馴化ウイルスの馴化にかかわるウイルス側因子の探

索・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

1. 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

1. 次世代シークエンス解析

2. ダイレクトシークエンス法による P遺伝子の塩基配列解析

3. 膜融合実験

3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

1. Ac96I-VDS株馴化過程におけるウイルス遺伝子の変異

2. 007Lm-VDS株馴化過程におけるウイルス遺伝子の変異

3. Cタンパク質のアミノ酸配列比較

4. 007Lm-VDS株の Hタンパク質を用いた膜融合実験

4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35

図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

第3章 イヌジステンパーウイルス Vタンパク質の機能の検討・・・・・46

1. 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46

2. 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48

1. 細胞とウイルス

2. ウイルス増殖能

3. ウイルス力価測定

4. ウエスタンブロッティング

5. 免疫染色による IRF3(IFN-regulatory factor 3)核移行の検出

Page 5: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

6. RT-PCRによる IFN活性化遺伝子群(ISGs)転写量の定量

3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53

1. Vタンパク質発現 H358細胞におけるウイルスの増殖

2. Vタンパク質発現 H358細胞におけるウイルス感染時の IRF3の核

移行

3. Vタンパク質発現 H358細胞における ISGs転写活性の比較

4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55

図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59

結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67

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1

緒言

ジステンパーは,発熱・くしゃみ・下痢さらには痙攣・麻痺などの神経症状

を引き起こす致死率の高い,イヌにおける代表的なウイルス感染症の一つであ

る(1)。本病の病原体であるイヌジステンパーウイルスは,イヌや他のイヌ科動

物のみならず,他のほ乳類にも感染し(15),1987 年にはバイカル湖のアザラシ

を大量死させ(36),1994 年にはセレンゲティにおけるライオンでの大規模な流

行を引き起こす(57)など,新興感染症の原因としても知られている。

イヌジステンパーウイルスはパラミクソウイルス科,モルビリウイルスに属

し,近縁のウイルスには牛疫ウイルス,小反芻獣疫ウイルス,麻疹ウイルスな

どがあり,いずれも致死率の高いウイルスである。これらジステンパーウイル

スに近縁のウイルスは,麻疹ウイルスではヒトが,牛疫ウイルスではウシや水

牛など,小反芻獣疫ウイルスではヒツジやヤギなどが固有の宿主動物である。

一方,これらのウイルスではイヌジステンパーウイルスのように多種多様な動

物への感染は報告されていない。イヌジステンパーの予防のため,我が国では

細胞培養馴化生ウイルスワクチンが使用され,飼育犬における本病の発生はほ

ぼ制御されている。一方で,日本や世界各地で,フェレット(51)や野生のアライ

グマ(59),動物園のトラ(42)などにおいて,本症の感染・流行が報告されている。

イヌジステンパーウイルスの一般的な感染経路は感染動物の鼻汁,唾液など

を介した経気道的なものであり,体内に侵入したウイルスは呼吸器周囲にある

リンパ節や扁桃などのリンパ組織で増殖をする。感染後 3 から 5 日に最初の発

熱がみられ一度解熱し,数日後に再び発熱する。この様な二峰性の発熱はジス

テンパーに特徴的なものである。通常,発熱時に鼻汁,咳,結膜炎などの症状

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を示し,ウイルスの全身への感染に伴い呼吸器症状および血便を伴う下痢など

の消化器症状が現れる。呼吸器および消化器症状は,しばしば二次感染により

重篤化する。また,初期の発熱時には白血球減少症がみられる。ウイルスが脳

内に侵入すると,痙攣・麻痺などの神経症状を呈するジステンパー脳炎を引き起

こす。脳炎を引き起こすと予後が非常に悪くなる(2, 5, 41)。この中枢神経系へ

の高い侵襲性は同じモルビリウイルス属である牛疫ウイルスや麻疹ウイルスと

大きく異なる点である(85)。なお,感染病理学的にはジステンパーウイルスは主

に,リンパ系組織および上皮組織を標的としている。

イヌジステンパーウイルスの属するモルビリウイルス属の研究は,ヒトへ感

染し麻疹を引き起こす麻疹ウイルスで多くなされている。麻疹は,ワクチン接

種率の低い国や地域では今なお多くの感染者を出し,発展途上国の小児では未

だに死亡率の高い急性感染症である。麻疹ウイルスは上部呼吸器から体内に侵

入し,ジステンパーウイルスと同様に鼻炎,結膜炎,上気道炎,二峰性発熱な

どの症状と全身の発疹,免疫抑制などを引きおこす。麻疹によるウイルス脳炎

の発生頻度は低いが,麻疹罹患 7~10 年後に,亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる

脳炎を数万人に 1 人の頻度で引き起こす。麻疹もイヌジステンパーと同様に有

効な生ワクチンが存在し,世界的に接種されている(71)。

モルビリウイルス属は一本鎖マイナス鎖 RNA をゲノムとしエンベロープを

有するウイルスである(30, 41)。イヌジステンパーウイルスゲノムは6個の構造

タンパク質と2個の非構造タンパク質をコードしている。エンベロープ上には,

細胞接着能を有する受容体結合タンパク質(Hemagglutinin ;Hタンパク質)お

よび細胞融合能を有する融合タンパク質(Fusion protein ;Fタンパク質)が存

在し,ウイルス粒子中には RNA ゲノムとそれに結合した核タンパク質

(nucleoprotein ;Nタンパク質)で構成されるヌクレオカプシドを有する(30)。

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ヌクレオカプシドに P(phosphoprotein)タンパク質および L(large)タンパ

ク質から構成される RNA依存性 RNAポリメラーゼが結合し,リボ核タンパク

質(RNP)複合体を形成している。また,M(matrix)タンパク質はエンベロ

ープを裏打ちすると共に H および F タンパク質のウイルス粒子内部分と RNP

複合体双方と結合し粒子形成に関わっている(図 A)。なお,ウイルスゲノム

上にコードされている遺伝子は以上 6 種のタンパク質をコードするもので,3’

端から N,P,M,F,H,L遺伝子の順で並んでいる(図 B)(30, 41)。

イヌジステンパーウイルスは 6 種の構造タンパク質以外に非構造タンパク質

として,アクセサリータンパク質と呼ばれる Vタンパク質および Cタンパク質

を有する。この 2 つのタンパク質はともにP遺伝子上にコードされている。す

なわち P 遺伝子を鋳型として転写される際に鋳型であるゲノム上には存在しな

い1ヌクレオチドが mRNA の特定部位に挿入される RNA editing と呼ばれる

現象により Vタンパク質mRNAが作られ,Vタンパク質が合成される。このた

め,Vタンパク質は P タンパク質とは RNA editing が生じる点までは共通の

mRNAを有し,アミノ末端側は同一であるが,カルボキシル末端側は異なると

いう特徴を持つ。C タンパク質はPおよびVタンパク質とは異なる P タンパク

質mRNA上の読み枠を利用し翻訳される(図 B)。アクセサリータンパク質は

パラミクソウイルス亜科のウイルスが共通して有しており,基本的なウイルス

増殖には不要であるものの,宿主のインターフェロン機能に対抗する機能を有

するタンパク質であることが明らかとなっている(16, 21, 43, 54, 81)。

イヌジステンパーウイルスの宿主細胞への侵入は,H および F タンパク質が

協調して働くことにより引き起こされている。モルビリウイルス属の細胞侵入

機構は,1993年に麻疹ウイルスワクチン株の受容体として,CD46が同定され

たことから研究が進んできた(19, 45)。しかし CD46が受容体として機能するの

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は麻疹ウイルスワクチン株のみであり,野外株や他のモルビリウイルス属にお

いては受容体として利用できないことから真の受容体ではないと考えられた(7)。

その後,2000年になって,SLAM(signaling lymphocyte activation molecule;

CD150)が麻疹ウイルスの受容体として同定された(82)。さらに,2001年には,

牛疫ウイルスおよびイヌジステンパーウイルスが,それぞれ,ウシおよびイヌ

の SLAMを受容体として利用できることが報告され(83),SLAMがモルビリウ

イルス属共通の細胞受容体として機能することが分かった。SLAM は成熟樹状

細胞,胸腺細胞,リンパ球などの免疫細胞表面に存在しており,リンパ系組織

を標的とするイヌジステンパーウイルスや麻疹ウイルスの感染分布とも一致し

ている。またモルビリウイルス感染でみられる白血球減少症や免疫抑制は,

SLAM 陽性 T 細胞の減少が関係することが報告されている(65)。これらのこと

より,SLAM がモルビリウイルスの受容体であることとウイルスの感染個体内

での分布や免疫抑制病態とは密接な関係があると考えられる。また,イヌジス

テンパーウイルスの受容体がイヌ SLAM と同定された後,イヌ SLAM 恒常発

現 Vero細胞を用いることにより,これまで分離が困難であった野外感染動物か

らのジステンパーウイルスの分離が容易となった(67)。

一方で,麻疹ウイルスにおいて SLAMを発現していない非免疫系細胞である

内皮細胞,上皮細胞および神経細胞への感染が in vivoで認められており(37, 39),

SLAM以外のウイルス受容体の存在が強く疑われてきた。2011年になり,麻疹

ウイルスの上皮細胞における受容体がネクチン 4 であることが明らかにされた

(40, 47)。ネクチン4は極性をもつ上皮細胞に発現している分子であり,細胞の

極性化,分化など様々な細胞活性を制御している(74)。その後,2012 年には,

イヌジステンパーウイルスの上皮細胞受容体がイヌネクチン4であることが報

告された(52)。ヒトにおいてネクチン4は中枢神経系には発現していないが,イ

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ヌにおいてはネクチン4が脳内で発現していることが確認され,ジステンパー

が神経症状を強く起こすことに関係している可能性が示唆されている(52)。

細胞表面上のウイルス受容体は,ウイルスの宿主域やウイルスの指向性に大

きく関わることが知られている(10, 58)。細胞上の受容体が動物種間で大きな差

がない場合はウイルスの宿主域が広がることが予測される。先にも述べたよう

に,イヌジステンパーウイルスは多くのほ乳類に感染し,病気を引き起こすこ

とが報告されている。近年,中国や日本においてサルへの致死的な感染が報告

されているものの(53, 62),これまでにヒトへの感染に関する報告はない。本研

究では,イヌジステンパーウイルスのヒトへの感染リスク評価の一助とするた

めに,ウイルス受容体の細胞上での発現と感染性の関係から,イヌジステンパ

ーウイルスのヒト上皮細胞への感染メカニズムおよび宿主域を規定するウイル

スおよび宿主細胞の要因について検討を行った。

第1章では,イヌジステンパーウイルスがヒトネクチン4を受容体として利

用可能か否かを検討し,さらに増殖性との関連性についても解析を行った。第 2

章では,同様の受容体結合能を有するにもかかわらず細胞内での増殖能が異な

るウイルス株間での集団(準種)としての遺伝子変化(アミノ酸置換)を比較・

解析し,受容体以外の増殖に係わるウイルス側の要因について検討した。さら

に,第 3 章では,このウイルス因子が引き起こした細胞内での増殖のメカニズ

ムの違いについて解析を行った。

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第1章:ヒトネクチン4を受容体としたイヌジステンパーウイルス感染の

検討

序論

イヌジステンパーウイルスの Hタンパク質は宿主細胞上の受容体との結合能

を,F タンパク質はウイルスエンベロープと細胞膜との融合能を有している。

細胞へのウイルスの侵入は Hタンパク質が受容体に結合することにより始まる。

初めに H タンパク質が細胞表面の受容体と結合することにより,F タンパク質

の構造変化が引き起こされる。次に構造変化を起こした F タンパク質の機能に

より細胞膜とウイルスエンベロープが融合する(24) (図1-1)。このように,両

タンパク質が協調的に機能することにより膜融合を引き起こし,ウイルスの宿

主細胞への侵入が起きる。

イヌジステンパーウイルスは,イヌ SLAMおよびイヌネクチン4を受容体と

して利用できることが報告されている(52, 83)。SLAMは主にリンパ球系細胞に

発現している。一方,ネクチン4は極性をもつ上皮細胞に発現している。それ

に加え,イヌでは中枢神経系にもネクチン4が発現していることが知られてい

る(52)。モルビリウイルス属は SLAM を受容体として利用するが,宿主とは異

なる種の SLAM は基本的には利用できないことが報告されているが(67, 83),

これまでにイヌジステンパーウイルスがヒトネクチン4を受容体として利用可

能か否かについては調べられていない。

一方,麻疹ウイルス Hタンパク質との結合に重要なヒトネクチン 4の Vドメ

イン(40, 47)とイヌネクチン 4のVドメインのアミノ酸の間には僅か 6アミノ酸

の違いしかなく(48)(図1-2),イヌジステンパーウイルスがヒトネクチン4を受

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容体として利用できる可能性は否定できない。

そこで,第1章では,初めにイヌネクチン4がイヌジステンパーウイルスの

受容体であることを同定した手法(52)と同様に,アフリカミドリザル腎由来細胞

である Vero細胞にヒトネクチン4を発現させた細胞を作製し,本細胞において

イヌジステンパーウイルスが増殖可能かを検討した。次に,ヒトネクチン4を

発現する麻疹ウイルス感受性ヒト肺胞上皮細胞においてイヌジステンパーウイ

ルスが増殖可能か否かを検討した。これら2種の細胞を用いた試験結果より,

イヌジステンパーウイルスが,ヒトネクチン4を受容体として利用できるか否

かを評価した。

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材料および方法

1. 細胞

Vero細胞(九州大学大学院 柳雄介教授より分与)は 5%ウシ胎子血清(FCS)

(製品番号:10437028,Invitrogen)添加 Dulbecco’s modified Eagle’s medium

(DMEM)(製品番号:D6429,SIGMA)で培養された。麻疹ウイルス感受性ヒ

ト肺胞上皮細胞 NCI-H358(H358)細胞(78)は 10%FCS 添加 RPMI-1640(製品

番号:22400, Invitrogen)で培養された。イヌ SLAM 発現 Vero 細胞

( Vero.dogSLAMtag) (67),およびイヌネクチン4発現 Vero 細胞

(Vero/dN4)(52)は5%FCSおよび1 mg/ml G418(製品番号:10131,Invitrogen)

添加 DMEM(5%FCS DMEM+G418)で培養された。ヒトネクチン4発現 Vero

細胞(Vero/hN4)は以下のように作製された。H358 細胞より QIAamp RNA

Blood Mini kit(製品番号:52304,Qiagen)を用い Total RNA を抽出し,

Transcriptor First Strand cDNA Synthesis kit(製品番号:04379012001,

Roche Applied Science)を用いた逆転写反応により cDNA を得た。得られた

cDNA を鋳型として KOD-plus-(製品番号:KOD-201,TOYOBO),プライ

マ ー セ ッ ト 5 ‘ -GAATTCAGTCTGCCTTTCAACCA-3’ お よ び

5’-GCGGCCGCAGGCAGGCCTGGGTCA-3’(下線は制限酵素 EcoRI および

NotIの切断配列を示す)を用いPCR法にてヒトネクチン4の cDNAを増幅さ

せた。得られたヒトネクチン4 cDNA 断片を pCNX2ベクター (46)の

EcoRI/NotI クローニング領域に挿入し,ヒトネクチン4発現ベクター,

pCNX2-hNectin4 ベクターを作製した。 pCNX2-hNectin4 ベクターを

TransIT-LT1(製品番号:MIR2304,Mirus)を用い Vero細胞に導入すること

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により,ヒトネクチン4恒常発現 Vero細胞,Vero/hN4を作出した。Vero/hN4

は 5%FCS DMEM+G418培地で培養された。いずれの細胞も5%CO2,95%空

気,37℃の条件で培養され,細胞培養プレートで培養する場合は 2~3x105個/ml

の細胞密度で,0.5 ml(24穴プレート),1 ml(12穴プレート),3 ml(6穴プ

レート)ずつ各穴に加えられ培養された。

2. フローサイトメトリー解析

細胞表面のネクチン4の発現量を確認するために,24穴細胞培養プレート(製

品番号:3524,Corning)で培養された Vero/hN4細胞,Vero/dN4細胞および

H358細胞を 0.1%EDTA-リン酸緩衝液処理にて回収し,ブロッキング液(0.3%

牛血清アルブミン,0.1%NaN3-リン酸緩衝液)にて処理を行った。その後,一

次抗体として抗ヒトネクチン4ヤギ血清(製品番号:AF2659,R&D system)

を,対照血清として正常ヤギ IgG(製品番号:500-G00,PEPROTECH)を反

応させた。次に二次抗体として Alexa Flour488抗ヤギ IgGロバ抗体(製品番号:

A-11055,Molecular probes)を反応させた後, FACSCalibur フローサイト

メーター(Becton Dickinson)により 1x104個の細胞表面上の蛍光を解析した。

3. ウイルス

表1-1に示す 6 株の野外分離ウイルスを実験に用いた(宮崎大学 山口良二

教授より分与)。用いたウイルス株はいずれも,ジステンパー罹患イヌあるいは

ジステンパーにより死亡したイヌより Vero.dogSLAMtag 細胞を用いて分離さ

れたものであった(32, 33)。Ac96I 株および 007Lm 株については,継代後 3-4

日目の単層培養状態の Vero.dogSLAMtag 細胞に感染多重度(multiplicity of

infection: MOI)= 0.02で接種し,2-3日培養後上清を回収し,その上清を新た

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な Vero.dogSLAMtag細胞に接種することを1-2回繰り返した後,その上清を

ストックウイルスとした。それぞれを Ac96I-VDS株,007Lm-VDS株と名付け

た。

H358 細胞馴化ウイルス株を得るために,Ac96I-VDS 株および 007Lm-VDS

株を継代後 4日目の単層培養状態の H358細胞にMOI= 0.02で接種した。感染

細胞を 8 代継代した後,セルスクレイパーを用い細胞を掻き取り培養液ごと 3

回の凍結融解を繰り返し,700xg,20分,4℃で遠心を行い,その上清をスト

ックウイルスとした。それぞれを Ac96I-H358株及び 007Lm-H358株と名付け

た。

4. ウイルス増殖能

24 穴の細胞培養プレート(製品番号:3524,Corning)で 2 日間培養し単層培

養状態となった Vero 細胞,Vero/dN4 細胞,Vero/hN4 細胞および H358 細胞

に,各ウイルス株を MOI=0.01 で接種した。細胞を5%CO2,95%空気,37℃

の条件下で培養し,Vero細胞,Vero/dN4細胞および Vero/hN4細胞では 24,

48,72及び 96時間後に,H358細胞では 1,3,5および 7日後に培養上清を

回収した。回収した上清のウイルス力価を後述の「ウイルス力価測定」に従い

測定した。

5. ウイルス力価測定

Vero.dogSLAMtag細胞を2日間培養し単層培養状態とした6穴の細胞培養プ

レート(製品番号:3506,Corning)から培養液を除いた後,10 倍階段希釈を行

ったウイルス液 0.1 mlを接種した。37℃,5%CO2,95%空気の条件下で1時

間ウイルスを吸着させた後,2%FCSおよび 0.8%アガロース(製品番号:50013,

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IWAI Chemicals)を添加した Eagle’s minimal essential medium(MEM)(製

品番号:05900,NISSUI Pharmaceutical)(0.8% アガロース MEM)を各穴

に 3 ml加えた。接種後7日目に,各穴に 0.01%のニュートラルレッド(製品番

号:N2889,SIGMA)を含む 0.8%アガロースMEMを 2 ml加え,さらに 2日

後に形成されたプラックを計測してウイルス力価 PFUを算出した。

6. 膜融合実験

Ac96I-VDS株の Hタンパク質発現ベクターを次のように作製した。ストック

ウイルスよりウイルス RNA を,High Pure Viral RNA Kit(製品番号:

11858882001,Roche Applied Science)を用い抽出した。得られたウイルス RNA

を鋳型として SuperScriptIII reverse Transcriptase(製品番号:18080044,

Invitrogen)を用い cDNAを合成させた後,Prime STAR GXL DNAポリメラー

ゼ(製品番号: R050A, Takara-bio)およびプライマーセット 5’-

GGACACTTAGTGATGCTCTCCTACCAAGACAAGGTGGGTG-3’および,5

‘-CTCCACAGGGTGTCAAGGTTTTGAACGGTTACATGAGA-3’(下線は制

限酵素 DraIIIの切断配列を示す)を用い PCRにて H遺伝子を増幅させた。増

幅させた H 遺伝子断片をタンパク質発現ベクターpCA7(77)のマルチクローニ

ングサイトにDraIIIのクローニングサイトを導入し作製したpCA7-DraIIIベク

ターのDraIIIクローニング領域に挿入し,Hタンパク発現ベクターを作製した。

12穴の細胞培養プレート(製品番号:3512,Corning)に単層培養状態の Vero

細胞,Vero/dN4 細胞および Vero/hN4 細胞に Ac96I 株の F タンパク発現ベク

ター(63)(0.3μg)単独又は作製した Hタンパク発現ベクター(0.3μg)と共

に TransIT-LT1(製品番号:MIR2304,Mirus)を用い導入した。細胞融合に

よる多核巨細胞を容易に観察できるように,Seki らの報告(68)に従い蛍光タン

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パク発現ベクター(pCR-FR-mCherry;0.3μg)も,同時に細胞に導入した。発

現ベクター導入 48時間後に,蛍光顕微鏡 Axio Observer D1(Zeiss)を用い細胞

を観察した。

7. イヌジステンパーウイルス H 遺伝子の解析

ストックウイルスよりウイルス RNAを,High Pure Viral RNA Kit(製品番

号:11858882001,Roche Applied Science)を用い抽出した。得られたウイル

ス RNA を鋳型として SuperScriptIII reverse Transcriptase (製品番号:

18080044,Invitrogen)を用い cDNAを合成させた後,Prime STAR GXL DNA

ポリメラーゼ(製品番号:R050A,Takara-bio)およびプライマーセット CDV-ff1,

CDV-HS-2(31)を用いた PCRにて H遺伝子を増幅させた。得られた PCR産物

を QIAQuick Gel extraction kit(製品番号:28706,Qiagen)を用い精製し,

Big Dye terminator v3.1 cycle Sequencing Kit(製品番号:4337455,Applied

biosystems)およびキャピラリーシークエンサー(3130xlジェネティックアナ

ライザ,Applied biosystems)を用いて PCR産物の塩基配列を決定した。

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14

結果

1. ヒトネクチン4を受容体としたイヌジステンパーウイルス感染の検討

フローサイトメトリーによる解析の結果,作製した Vero/hN4 細胞において

ネクチン4の発現が確認された。Vero/hN4 細胞での蛍光のピークは 1x102.0付

近にあり 1x102.8付近にピークを有する Vero/dN4 細胞に比べ低く,Vero/hN4

細胞表面上のネクチン4分子の発現量は Vero/dN4 細胞のそれより少ないこと

が示された(図1-3)。

作製したVero/hN4細胞とVero細胞ならびにVero/dN4細胞に6株のウイル

スを接種した結果,Vero/hN4細胞および Vero/dN4細胞では全てのウイルス株

接種群で多核巨細胞を形成する細胞変性効果(CPE)が観察された(図1-4)。

一方で,Vero 細胞ではいずれのウイルス接種群においても CPE は観察されな

かった。

次に各細胞でのウイルスの増殖能を確認するために,Ac96I-VDS 株および

007Lm-VDS株を Vero細胞,Vero/hN4細胞および Vero/dN4細胞に接種後,

経時的に各培養上清中のウイルス力価を測定した。その結果,両株とも,

Vero/hN4 細胞,Vero/dN4細胞で,感染後 96 時間目において 104.9~

105.2PFU/mlの力価で増殖した。また,Ac96I-VDS株では培養期間を通して,

Vero/hN4 細胞,Vero/dN4細胞間での増殖性に差は確認できなかったが,

007Lm-VDS株については Vero/hN4細胞でのウイルス力価が接種後 72時間目

まで, Vero/dN4 のそれに比べ約 3 倍高かった。(図1-5)。一方,Vero 細胞

においては両株とも効率的な増殖は確認できなかった。

次に,H タンパク質が多核巨細胞の形成に直接的に関与しているかを確認す

るために,Hおよび Fタンパク質発現系を用いた膜融合実験を 3種の細胞(Vero

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15

細胞,Vero/hN4細胞,Vero/dN4細胞)で実施した。その結果,いずれの細胞

においても F タンパク質発現ベクター単独では膜融合が観察されなかった(図

1-6)。一方,H タンパク質発現ベクターを同時に導入することにより

Vero/hN4細胞,Vero/dN4細胞では多核巨細胞の形成を伴う膜融合が確認され

た。Vero細胞では膜融合は観察されなかった。観察された多核巨細胞を比較す

ると,Vero/dN4細胞における多核巨細胞が,Vero/hN4細胞で観察されるそれ

より大きかった。

2. ネクチン4発現ヒト肺胞上皮細胞におけるイヌジステンパーウイルス

の増殖能の検討

前項において,ヒトネクチン4を発現させた Vero細胞において,イヌジステ

ンパーウイルスが増殖することが確認できたが,この現象はほ乳動物でのタン

パク質発現ベクターを用いて人為的に作製した細胞で観察されたため,ヒトネ

クチン4を発現している細胞で同現象を確認する必要がある。そこで,ネクチ

ン4を発現しているヒト肺胞上皮細胞 H358 細胞でイヌジステンパーウイルス

が増殖可能かを調べた。

フローサイトメトリー解析の結果,H358 細胞での蛍光のピークは 1x101.4

にあり,1x102.0付近にピークを有する Vero/hN4細胞に比べ低く,H358細胞

表面上のヒトネクチン4の発現量は,Vero/hN4細胞のそれより少ないことが示

された(図1-7 A)。このH358細胞におけるAc96I-VDS株および 007Lm-VDS

株の感染後 5日目のウイルス力価は 1x102.0PFU/ml程度で,他の 4株のウイル

ス力価(1x103.0~1x104.0PFU/ml)と比較して明らかに低かった(図1-7 B)。

次に H358 細胞で十分な増殖が確認されなかった Ac96I-VDS 株および

007Lm-VDS株について,同細胞に感染させ,感染後 1,3,5,7日後のウイル

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ス力価を測定したところ,007Lm-VDS 株は,ほとんど増殖が確認できなかっ

た。また,Ac96I-VDS株でも,接種 7日後には僅かながら増殖が確認できたも

のの,感染後 5 日目までは増殖がほぼ抑制されていた(図1-7 C)。そこで,

両株を感染させた H358細胞を 8代継代した後,細胞および上清を 3回凍結融

解し,遠心後の上清を回収することにより馴化ウイルス Ac96I-H358 および

007Lm-H358を得た。馴化ウイルス Ac96I-H358および 007Lm-H358の H358

細胞での増殖能を確認するために,親株と同様の方法でウイルス増殖を確認し

た。その結果,両株とも,7日目に 105.2PFU/mlの力価を示し,H358細胞でよ

く増殖することが確認された。

3. 親株と馴化株における H タンパク質の塩基配列の比較

Ac96I-VDS株および 007Lm-VDSの H358への馴化が,Hタンパク質の変化

により獲得された表現系であるかを確認するために,親株である Ac96I-VDS株

および 007Lm-VDS株,そして各馴化株である Ac96I-H358株,007Lm-H358

株の H遺伝子について,PCRダイレクトシークエンス法により塩基配列を比較

した。その結果,親株と馴化株間で受容体結合能のある Hタンパク質コード遺

伝子の塩基配列の違いは確認できなかった。

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考察

本章では,Vero細胞にヒトネクチン4を発現させた細胞を用いて,イヌジス

テンパーウイルスがヒトネクチン4をイヌネクチン4とほぼ同程度受容体とし

て感染時に利用できることを示した。

今回,使用したウイルス株は全てイヌあるいはヒトネクチン4を発現させた

Vero細胞に効率よく多核巨細胞を形成させることが確認された(図1-4)。ウ

イルスの増殖能についてはAc96I-VDS株では発現させたネクチン4の動物種差

は認められず,007Lm-VDS 株では接種後72時間目まではイヌネクチン4発

現細胞でやや増殖が悪かったが,96時間目では動物種差は認められなかった。

以上,Vero/dN4細胞と Vero/hN4細胞間でイヌジステンパーウイルスによる多

核巨細胞の形成の差が認められなかったこと,また,両細胞間でウイルスの増

殖に大きな違いが認められなかったことより,発現させているネクチン4の動

物種間の差によるウイルス感受性の違いはないと考えられた。

Lan ら(32)が報告しているように,Ac96I-VDS 株は Vero 細胞での増殖がほ

とんど認められないが,007Lm-VDS 株では,ウイルスは完全には排除されず

感染が成立していることが推察された(図1-5)。これは Vero細胞にイヌジス

テンパーウイルスに対する別の受容体があることを示すデータであると考えら

れる。しかしながら,Ac96I-VDS 株は Vero 細胞内で殆ど増殖できず,ウイル

スは排除されていくことから,本株は 007Lm-VDS 株が利用していると予想さ

れる未知の受容体を利用できないと考えられる。このことより,この Vero細胞

上に存在すると考えられる未知の受容体は,イヌジステンパーウイルス共通の

受容体ではなく,ウイルス株特異的な受容体であることが示唆された。

続いてウイルス感染を指標とするのではなく,細胞の受容体と Hタンパクと

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の結合に引き続き細胞融合が生じていることを確認するため,H および F タン

パク質発現系を用いた膜融合実験を行った(図1-6)。その結果,Vero/hN4細

胞においても,細胞融合が引き起こされ,H タンパク質とヒトネクチン4の結

合性が強く示唆された。Vero/hN4細胞と Vero/dN4細胞での細胞の融合性を比

較したところ,同じ量の両タンパク質発現ベクターを加えているにも関わらず,

Vero/dN4細胞での細胞融合が Vero/hN4 細胞に比して強く出ている像が認め

られた。この結果は,H タンパク質とネクチン4の結合能の違いを反映してい

るのではなく,図1-3に示した細胞表面上のネクチン4発現量の差に起因する

ものと考えられた。

一方で,麻疹ウイルスの細胞レベルでの宿主域を決める要因は受容体の利用

能だけでなく,宿主細胞内の要因もあることが報告されている(26)。そこで,ヒ

ト細胞への感染の有無を確認するため,ヒトネクチン4を発現する H358 細胞

でのウイルスの増殖能を調べた(図1-7)。その結果,試験に用いた6株中4

株のウイルスは H358 細胞でウイルスの増殖が確認された,これらの株はヒト

ネクチン4を受容体として利用し,ヒト細胞内で効率よく増殖が可能であるこ

とが示された。一方で,Ac96I-VDS株および 007Lm-VDS株は同細胞での増殖

が強く抑制され,H358細胞において両株は,ウイルスの増殖のいずれかの段階

で抑制されていると考えられた。そこで,両株を H358 細胞で増殖が可能とな

るように馴化させ,馴化の過程で Hタンパク質の遺伝子配列に変化が生じるか

を確認した。この結果,両株とも馴化の過程で Hタンパク質の遺伝子変化は認

められなかったことから,馴化のメカニズムには受容体の結合性の変化と関連

性がないと考えられた。このことは,イヌジステンパーウイルスが細胞に侵入

した後,細胞内での複製能力が株間で違うことを示唆するものである。

以上,イヌジステンパーウイルスはヒトネクチン4を受容体として利用し,

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細胞への感染を成立させることを示すことができた。さらに,ネクチン4発現

ヒト由来細胞において増殖が抑制されるイヌジステンパーウイルスの解析から,

受容体結合性とは異なる細胞内の増殖要因の存在が示唆された。

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第2章:H358 馴化ウイルスの馴化にかかわるウイルス側の因子の探索

序論

第1章ではイヌジステンパーウイルス野外株がヒトネクチン4を受容体とし

て利用できることを示した。一方で,Ac96I-VDS株および 007Lm-VDS株の2

株はヒトネクチン4を発現する H358 細胞での増殖が強く抑制されていた。し

かし,両株とも H358 細胞で8代継代することにより容易に H358 細胞で増殖

する馴化ウイルスを得ることができた。この馴化はウイルスの受容体結合タン

パクである Hタンパク質をコードする遺伝子の変異を伴うものでなかった。こ

のことより,馴化の仕組みは Hタンパク質の受容体結合能に起因するものでは

なく,細胞内でのウイルスの複製能力の違いによると推測された。

パラミクソウイルス属の宿主域を決定する因子として,受容体利用能以外に

宿主細胞の自然免疫に対抗する機能の有無が報告されている(22, 23, 28)。また,

それ以外のウイルス側の要因により細胞レベルでの宿主域が規定されている可

能性もある。

そこで本章では,H358 細胞における Ac96I-VDS 株と馴化ウイルス

Ac96I-H358株,007Lm-VDS株と馴化ウイルス 007Lm-H358株間での複製能

力の違いを規定するウイルス側の因子を特定するため,両ウイルスの親株と馴

化株の遺伝子配列を次世代シークエンス解析によりウイルスの集団(準種)と

して遺伝子変化(アミノ酸置換)を比較・解析した。

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材料および方法

1. 次世代シークエンス解析

第一章と同様の方法で継代後 2 日間培養し,単層培養状態となった

Vero.Dog.SLAMtag 細胞に Ac96I-VDS 株および 007Lm-VDS 株を MOI=0.01

で接種し 2 日間培養した上清,ならびに継代後 2 日間培養し単層培養状態とな

ったH358細胞にAc96I-H358株および 007Lm-H358株をMOI=0.01で接種し

6日間培養した上清を回収した。回収したウイルス上清を 1/5量の 30 w/v %シ

ョ糖 NTE緩衝液(0.1M NaCl,0.01M Tris,1mM EDTA,pH7.4)の上にの

せ,185,000×g,4℃,2 時間遠心を行った。沈殿として得られた精製ウイル

スから,Isogen(製品番号:371-02503,NIPPON Gene)を用いウイルス RNA

を抽出した。ウイルス RNAより Scriptseq v2 RNA-Seq Library Preparation

Kit(製品番号:SSV21106,Epicentre Biotechnologies)を用いて RNAseqラ

イブラリーを作製した。Pair-end short reads によるディープシークエンスは

MiSeq (illmina)および GAIIx system(illmina)を用い解析を行った。得られ

た塩基配列について,007Lm株の全塩基配列(Acc.No.AB474397.1)を参照配

列として,BWAマッピングツール(34)を用い解析した後,各塩基のバリエーシ

ョンをカウントした。得られたマッピングデータの可視化には GenomeJack

viewer (Mitsubishi Space softwear)を用いた。

2. ダイレクトシークエンス法による P 遺伝子の解析

各ウイルス株よりウイルス RNAを,High Pure Viral RNA Kit(製品番号:

11858882001,Roche Applied Science)を用い抽出した。得られたウイルス

RNAを鋳型として SuperScriptIII reverse Transcriptase (製品番号:18080044,

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30

Invitrogen)を用い cDNAを合成させた後,Prime STAR GXL DNAポリメラー

ゼ ( 製 品 番 号 : R050A , Takara-bio ) お よ び プ ラ イ マ ー セ ッ ト

5’-ACCAGTGAAGAGAGTTTCTCCTGTC-3’ ,

5’-GATCCAAATGTTCTTCCAATCGG-3’を用い PCRにて P遺伝子を増幅させ

た。得られた PCR産物を QIAQuick Gel extraction kit(製品番号:28706,

Qiagen)を用い精製し,Big Dye terminator v3.1 cycle Sequencing Kit(製品

番号:4337455,Applied biosystems)およびキャピラリーシークエンサー

(3130xlジェネティックアナライザ,Applied biosystems)を用いて PCR産物

の塩基配列を決定した。これら塩基配列より,C タンパク質および V タンパク

質の推定アミノ酸配列を決定した。

3. 膜融合実験

007Lm-VDS株の Hタンパク質発現ベクターを次のように作製した。ストッ

クウイルスよりウイルス RNA を,High Pure Viral RNA Kit(製品番号:

11858882001,Roche Applied Science)を用い抽出した。得られたウイルス

RNAを鋳型として SuperScriptIII reverse Transcriptase (製品番号:18080044,

Invitrogen)を用い cDNAを合成させた後,Prime STAR GXL DNAポリメラー

ゼ(製品番号: R050A, Takara-bio)およびプライマーセット 5’-

GGACACTTAGTGATGCTCTCCTACCAAGACAAGGTGGGTG-3’および,5

‘ -CTCCACAGGGTGTCAAGGTTTTGAACGATTACATGAGA-3’ ( 下 線 は

DraIIIの切断配列を示す)を用い PCRにて H遺伝子を増幅させた。増幅させ

た H 遺伝子断片を第 1 章「膜融合実験」で使用したタンパク質発現ベクター

pCA7-DraIIIの DraIIIクローニング領域に挿入し,Hタンパク発現ベクターを

作製した。作製した 007Lm-VDS株 Hタンパク質発現ベクターと,第 1章で使

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用した Ac96I株の Fタンパク質発現ベクターを用い,第 1章「膜融合実験」の

方法に従い,膜融合実験を実施した。

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32

結果

1. Ac96I-VDS 株馴化過程におけるウイルス遺伝子の変異

表2-1および図2-1 A に Ac96I-VDS 株と Ac96I-H358 株間でのウイルス

の塩基配列の獲得変異あるいは,存在比率(各塩基番号における総リード数を

分母とし,各塩基リード数を分子として算出する百分率)の変動が生じた塩基

のうち,15%以上比率の変動が確認された塩基を示した。表に示すように馴化

の過程で 15%以上の存在比率が変動した塩基は 13塩基あった。このうち 10塩

基についてはアミノ酸置換を誘導する変化であり,N遺伝子上に 3箇所,M遺

伝子上に 4箇所,P遺伝子,F遺伝子,L遺伝子上に各 1箇所存在した。この中

で最も存在比率が変動したのはP遺伝子上に存在する2198番目の塩基であった。

Ac96I-VDS株の 2198番目の塩基は 91%がチミン(T),残りの 9%がシトシン

(C)であるのに対し,馴化株である Ac96I-H358 株では全て C に変化してい

た。この P遺伝子の変化により,Pタンパク質および Vタンパク質の 133番目

のアミノ酸が,Ac96I-VDS 株では 91%がバリン,9%がアラニンをコードして

いたのに対し,Ac96I-H358株ではアラニンをコードするもののみとなった。こ

の P遺伝子の変異により,Cタンパク質のアミノ酸にも置換が生じ,Ac96I-VDS

株では 126番目のアミノ酸に相当する箇所が終止コドンとなるものが 91%,残

り 9%がグルタミンをコードしているのに対し,Ac96I-H358株では全てがグル

タミンとなっていた。

2. 007Lm-VDS 株馴化過程におけるウイルス遺伝子の変異

表2-2および図2-1 Bに 007Lm-VDS株と 007Lm-H358株間でのウイル

スの塩基配列の獲得変異あるいは,存在比率の変動が生じた塩基のうち,表2-

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1と同様に 15%以上比率の変動が確認された塩基を示した。007Lm-VDS 株の

馴化過程では,6箇所の塩基の比率変動が認められた。このうち 3箇所はアミノ

酸置換を伴うものであった。アミノ酸置換を伴った変異は,P 遺伝子上,H 遺

伝子上および F遺伝子上に各1箇所あった。Pタンパク質の 267番目のアミノ

酸が 007Lm-VDS 株ではメチオニン(48%)とバリン(52%)がほぼ同じ比率

で存在するのに対し,007Lm-H358株では殆どがバリン(97%)となっていた。

この P遺伝子の変異により,Vタンパク質の 267番目のアミノ酸も親株ではチ

ロシン(48%)とシステイン(52%)がほぼ同じ比率で存在するのに対し,馴化

株ではその殆どがシステイン(97%)であった。また,F タンパク質の 116 番

目のアミノ酸がシステインからチロシンに,H タンパク質の 548 番目のアミノ

酸がメチオニンとトレオニンがほぼ同じ比率で混在していたものが,馴化の過

程により全てトレオニンに置換されていた。

3. C タンパク質のアミノ酸配列比較

Ac96I-VDS株において,Cタンパクの 126番目のアミノ酸に相当する箇所に

終止コドンが入っていることが,次世代シークエンス解析の結果から判明した。

この終止コドンによりAc96I-VDS株はAc96I-H358株に比してカルボキシル末

端が短い C タンパクを有することが明らかとなった。そこで,C タンパク質に

おけるカルボキシル末端欠損が他の野外ウイルス株でも生じているのか確認す

るため,第1章で用いたウイルス株の P遺伝子の塩基配列を PCRダイレクトシ

ークエンス法により決定した。決定された塩基配列より予想される C タンパク

質のアミノ酸配列を得て,各株間での比較を行った(図2-2)。この結果,

Ac96I-VDS株を除いた各株(007Lm-VDS株,82Con株,55L株,M24Cr株,

Th12株)全てが,174アミノ酸残基より構成される Cタンパクを有していた。

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34

一方,Ac96I-VDS 株のみが,2198 番目の塩基が T に変化することで生じた終

止コドンにより,カルボキシル末端が欠損した 125残基より構成される Cタン

パクを有することが明らかとなった。

4. 007Lm-VDS 株の H タンパク質を用いた膜融合実験

次世代シークエンス解析の結果,007Lm-VDS株と 007Lm-H358株の Hタン

パク質の 548 番目のアミノ酸において,大きな比率の変動が認められていた。

すなわち,親株ではメチオニンとトレオニンがほぼ同じ比率で存在していたの

に対し,馴化株では全てがトレオニンに置換されていた。H タンパク質は受容

体結合性を有するため,この変異がヒトネクチン4の利用能に差を与えるか確

認する必要が有る。そこで,H タンパク質の 548 番目のアミノ酸がメチオニン

である 007Lm株 Hタンパク質発現ベクター(548Met)および 548番目のアミ

ノ酸がトレオニンである H タンパク質発現ベクター(548Thr)と Ac96I-VDS

株の F タンパク質発現ベクターを用いた膜融合実験を行った。その結果,F タ

ンパク質発現ベクター単独では膜融合が確認されなかった(図2-3)。一方,同

時に 548Met または 548Thr 導入することにより Vero/hN4 細胞および

Vero/dN4細胞では膜融合が観察された。Vero細胞では Hおよび Fタンパク質

発現ベクターを同時に導入しても膜融合は観察されなかった。

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35

考察

本章では,H358 細胞で増殖が抑制されたウイルス株 Ac96I-VDS 株および

007Lm-VDS 株とそれらを親株として H358 細胞で増殖可能となった馴化ウイ

ルスAc96I-H358株および 007Lm-H358株の合計4株を次世代シークエンスに

より解析を行った。得られた遺伝子情報より,ウイルスの集団(準種)として

遺伝子変化(アミノ酸置換)を確認し,H358細胞においてウイルスの複製が可

能となったウイルス側の因子を検討した。

次世代シークエンス解析の結果,Ac96I-VDS株においては Hタンパク質遺伝

子上には馴化の過程で変異は認められず,本株の馴化に Hタンパク質の受容体

への結合能が影響しないことを示すことができた。このことは第 1 章で述べた

イヌジステンパーウイルスはヒトネクチン4を受容体として利用できるという

という結論を支持するものであると考えられた。

Ac96I-VDS株の馴化過程で最も大きく変化したのは P遺伝子上の 2198番目

の塩基の変化であった(表1-1)。P 遺伝子は P タンパク質以外に非構造タン

パク質である Cおよび Vタンパク質をコードしている。Cおよび Vタンパク質

は培養細胞でのウイルス複製には必須ではないが,宿主の自然免疫に対する対

抗機能を有するタンパク質である(17, 44, 60, 69)。Ac96I-VDS株の殆ど(91%)

は 2198 番目の塩基がチミンであり,それによりカルボキシル末端欠損の C タ

ンパク質を有していた (図2-2)。一方,馴化株である Ac96I-H358株の Cタン

パク質は完全長である 174 残基を有するものだけであった。これらのデータか

ら完全長のCタンパク質の発現はH358細胞でのウイルス複製に重要であるが,

Vero/hN4並びに Vero.dogSLAMtagでは重要でないことが示唆された。麻疹ウ

イルスの報告では麻疹ウイルスの Cタンパク質を 157番目以降のアミノ酸から

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欠損させると宿主のインターフェロンに対抗する機能を失うと報告されている

(44)。また,Vero 細胞で増殖させた麻疹ウイルスにおいてはカルボキシル末端

欠損 Cタンパク質や,Cタンパク質にアミノ酸置換を引き起こす変異が P遺伝

子上に生じることが知られている(38, 76, 80)。さらに,Vero細胞はインターフ

ェロン産生能が欠損しているが(11, 20),H358細胞はインターフェロン産生機

構を有することが報告されている(25)。これらのことを考慮すると,Ac96I-VDS

株がカルボキシル末端欠損 C タンパク質を有する理由として,自然界で得たと

いうより,ウイルスを分離継代する際に Vero.dogSLAMtag を用いたために生

じたと考えられる。

以上,C タンパク質が Ac96I-H358 株の H358 細胞での増殖に重要な役割を

果たしている可能性を示した。一方,C タンパク質以外の変異も H358 細胞で

の増殖に影響を及ぼしている可能性も否定できない。次世代シークエンス解析

の結果より H358 細胞での増殖能に影響を与える可能性があるアミノ酸置換を

伴う遺伝子の変化がNおよびMタンパク質をコードする遺伝子上に存在してい

た。それらのアミノ酸置換は N タンパク質では,129 番目の残基がロイシンか

らバリンに 296 番目がイソロイシンからメチオニンに,467 番目がグルタミン

酸からリジンへの変化でであった。Mタンパク質においては,84番目がトレオ

ニンからプロリンに,178番目がフェニルアラニンからロイシンに,206番目が

アスパラギンからアスパラギン酸に変化していた。麻疹ウイルスの研究では,

M タンパク質の変異が宿主ではない種の培養細胞での増殖に影響するという報

告がある(18, 38, 72, 73)。それゆえ,Ac96I-H358株におけるMおよび Nタン

パク質の変異がヒト細胞での増殖に影響するか否かについては今後の課題であ

る。

他にも,Mタンパク質の 329番目の残基がロイシンからグルタミンに,Fタ

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37

ンパク質の 331番目がアルギニンからプロリンに,Lタンパク質の 1748番目が

アスパラギン酸からアスパラギンへのアミノ酸置換が確認された。しかしなが

ら,これら3箇所の変異は,Ac96I-VDS株での主要なアミノ酸であったものが

(72-84%),馴化により 100%の比率になっただけであるため,H358細胞での

増殖に影響を与えないと予想された。

007Lm-VDS株の馴化過程では,次世代シークエンス解析の結果より Hタン

パク質をコードする遺伝子上に 50%近い存在比率の変動が確認された(表2-

2)。その箇所は 8721番目の塩基であり,この変異は Hタンパク質においてア

ミノ酸置換を引き起こすものであった。この 8721番目の塩基の存在比率が変動

することにより,親株では Hタンパク質の 548番目の残基がトレオニン 52%,

メチオニン 48%の比率で混在していたものが,馴化株である 007Lm-H358 株

では 100%トレオニンに置換されていた。この Hタンパク質 548番目のアミノ

酸の変化がヒトネクチン4の利用能に影響するかを膜融合実験で確認をした。

その結果,548番目のアミノ酸がトレオニンであってもメチオニンであっても,

Vero/hN4 細胞で細胞融合が確認されたことから(図2-3),この変異は H タ

ンパク質のヒトネクチン4への結合能に影響しないと考えられた。H タンパク

質の機能が受容体への結合であることを考慮すると,ヒトネクチン4への結合

能に影響を与えない 8721番目の塩基の存在比率の変動は,007Lm-VDS株にお

ける H358細胞での増殖に影響を与えないと予想された。

H タンパク質のアミノ酸置換以外に,P 遺伝子および F 遺伝子上にアミノ酸

置換を伴う遺伝子配列の変異が確認された。P遺伝子上の変異は 2599番目の塩

基であり,007Lm-VDS株ではアデニンが 48%,グアニンが 52%の比率で存在

していた。2599番目の塩基は Pタンパク質だけでなく Vタンパク質もコードす

る領域であり,この塩基に変異が入ることにより Pおよび Vタンパク質のアミ

Page 43: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

38

ノ酸配列が変化することが予想された。P遺伝子上の 2599番目の塩基がアデニ

ンであれば,P タンパク質の 267 番目のアミノ酸がメチオニンに,グアニンで

あればバリンをコードする。Vタンパク質においては,2599番目の塩基がアデ

ニンであれば V タンパク質の 267 番目のアミノ酸がチロシン(Tyr267)に,グ

アニンであればシステイン(Cys267)をコードする。図2-4に示すように Cys267

はパラミクソウイルス科のウイルス間で高度に保存されている V タンパク質の

7個のシステイン残基の一つに相当し(84),Zinc finger ドメインを形成するの

に重要な残基である(35)。それゆえ,Cys267が Tyr267に置換されるとドメイン

の構造を維持できず,V タンパク質の機能が失われると考えられた。パラミク

ソウイルスの Vタンパク質の機能として Cタンパク質と同様に宿主の自然免疫

機構への対抗能が知られており(13),Cys267が H358細胞での増殖に重要な役割

を果たしている可能性が示された。007Lm-VDS株の Vタンパク質が Tyr267を

有する理由として,ウイルスを分離継代する際に Vero.dogSLAMtag を用いた

ために生じた可能性が考えられる。つまり IFN産生能を欠くVero.dogSLAMtag

での増殖時には抗自然免疫機能が不要であるため,分離継代過程において,

007Lm株の分離材料中に存在していたVタンパク質の抗自然免疫機能が失われ

たクローンが選択されたか,あるいは Cys267から Tyr267への置換が,IFN系の

自然免疫機能の働かない細胞内でのウイルス増殖に有利であるために生じた可

能性が考えられた。

Fタンパク質の変異は 5281番目の塩基が親株では殆どがグアニンであるの対

し,馴化株ではグアニンが 23%,アデニンが 76%の比率となっていた。この変

異により Fタンパク質の 116番目の主要なアミノ酸がシステインからチロシン

へと置換されていた。F タンパク質はウイルスの引き起こす膜融合において重

要な役割を果たすことより,この変異がウイルスの H358 細胞への馴化に影響

Page 44: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

39

するか否かの検討は今後の課題である。

近年,麻疹ウイルスの分離に Vero/hSLAM細胞,イヌジステンパーウイルス

の分離にVero.dogSLAMtagなどのようにVero細胞由来の培養細胞で多くのウ

イルス分離が行われている(50, 67)。確かにインターフェロン産生能を欠いてい

る Vero細胞およびその関連細胞を用いることは,ウイルスの分離にとっては優

位性があると考えられる。一方で,宿主細胞の自然免疫に対する対抗機能が低

いクローンを選択的に分離することや,分離の過程で自然免疫への対抗機能を

失う変異を獲得させてしまう危険性がある。本章で解析したイヌジステンパー

ウイルス2株も,本来自然免疫対抗機能を有するCあるいはVタンパク質に特

徴的な変異が確認されており,この変異はウイルス分離に Vero.dogSLAMtag

細胞を用いたために生じたことも推測された。この点を考慮すると,ウイルス

の病原性を評価する場合,ウイルスの分離は H358 細胞のようなインターフェ

ロン産生機構が働いている細胞を使用することが望ましいと考えられた。

本章では,H358細胞で増殖が抑制されていたウイルス株がどのような過程で

H358細胞での増殖が可能となったのかを,次世代シークエンスによる解析を行

い検討した。その結果,Ac96I-VDS株では Cタンパク質の欠損が,007Lm-VDS

株では V タンパク質の変異が,H358 細胞での増殖抑制に影響しており,これ

らの変異が解消されることにより増殖が可能となることを示すデータを得た。

このことは,イヌジステンパーウイルスのアクセサリータンパクが H358 細胞

の自然免疫系に対抗する機構を有するという,新たな情報を提供できた。

Page 45: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

40

表2-

1 A

c96I

-VD

S株から

Ac9

6I-H

358株への馴化過程で生じた変異

Ac9

6I-V

DS

A

c96I

-H35

8

総リード数

存在比率

(%)

総リード数

存在比率

(%)

アミノ酸置換

遺伝子

塩基番号

A

C

G

T

A

C

G

T

タンパク

N

792

349

0 0

0 10

0

138

0 0

75a

25

N

L2

29V

N

97

4 54

1 0

1 0

99

14

8 0

32

0 68

N

- N

99

5 34

0 0

0 0

100

11

6 0

0 43

57

N

I296

M

N

1506

10

0 0

0 10

0 0

33

18

0

82

0

N

E467

K

P/V

/C

2198

10

24

0 9

0 91

101

0 10

0 0

0

P an

d V

V

133A

C

12

6Qb

M

3681

36

4 98

0

2 0

73

78

22

0

0

M

T84P

M

39

65

63

0 0

0 10

0

46

50

0 0

50

M

F1

78L

M

4047

48

10

0 0

0 0

37

73

0

27

0

M

N20

6D

M

4417

81

84

0

0 16

31

100

0 0

0

M

L329

Q

F 59

26

196

0 78

22

1

61

0

100

0 0

F

R33

1P

F 60

74

167

26

0 74

0

37

97

0

3 0

F

- L

9107

19

4 2

0 98

0

23

17

0

82

0

L -

L 14

271

39

72

0 28

0

50

10

0 0

0 0

L

D17

48N

a 下線は獲得又は選択されてきた塩基を示す

b 126番目の終止コドンがグルタミンに置換された

Page 46: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

41

表2-2 007Lm-VDS株から007Lm-H358株への馴化過程で生じた変異

007L

m-V

DS株

007L

m-H

358株

総リード数

存在比率

(%)

総リード数

存在比率

(%)

アミノ酸置換

遺伝子

塩基番号

A

C

G

T

A

C

G

T

タンパク

P/V

25

99

5725

48

0

52

0

1155

3

0 97

a 0

P

M26

7V

V

Y26

7C

F 52

81

171

1 0

99

0

56

76

0 23

0

F

C11

6Y

F 68

85

583

0 9

0 90

459

0 76

0

24

F

- H

87

21

42

0 52

0

48

72

0

100

0 0

H

M

548T

L

1307

9 17

60

46

0 53

0

44

0 3

0 97

0

L

- L

1493

9 12

51

89

0 11

0

46

7 12

0

88

0

L -

a下線は獲得又は選択されてきた塩基を示す

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45

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46

第 3 章:イヌジステンパーウイルス V タンパク質の機能の検討

序論

第 2 章では H358 細胞で増殖出来なかったウイルスは,アクセサリータンパ

ク質である Cまたは Vタンパク質に変異があることを示した。さらに,これら

の変異によりアクセサリータンパク質の機能の一つである自然免疫への対抗機

構が充分に働かないため,インターフェロン産生能を有する H358 細胞での増

殖が抑制されている可能性を示した。

第 2 章で検討したウイルスのうち,007Lm-VDS 株はパラミクソウイルス科

のウイルスで高度に保存されている V タンパク質のシステイン残基に変異が生

じていた。麻疹ウイルスの V タンパク質はそのカルボキシル末端が病原体を認

識する宿主因子であるmad-5と相互作用することにより,自然免疫機構である

1 型インターフェロン(IFN)の産生を抑制することが報告されている(12, 55,

75)。また,1 型 IFN が細胞表面上の受容体に結合することで活性化される

JAK-STAT経路を麻疹ウイルスの Vタンパク質が抑制し,この経路を介して転

写が促進される抗ウイルスタンパクの発現を抑制する機能を有することも報告

されている(8, 9, 49, 79)。このように麻疹ウイルスの Vタンパク質は宿主の自然

免疫系の IFN誘導系および産生された IFNにより活性化される IFN応答系を

共に阻害し,自然免疫に対抗する機能を有している。

そこで,本章ではイヌジステンパーウイルスの V タンパク質がヒト肺胞上皮

細胞由来の H358 細胞において,細胞の自然免疫に対抗する機能を有している

のか否かの検討を行った。さらに,V タンパク質が宿主の自然免疫に対する対

抗機能を有するとするのであれば,どの段階で対抗機能を有するのかを,

Page 52: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

47

007Lm-VDS株および 007Lm-H358株由来のVタンパク質をH358細胞に恒常

的に発現させた細胞を用いて検討を行った。

Page 53: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

48

材料および方法

1. 細胞とウイルス

H358細胞およびVero.DogSLAMtag細胞は第1章に示す条件で培養された。

ヒト SLAM発現 Vero細胞である Vero/hSLAM細胞(50)も Vero.DogSLAMtag

細胞と同条件で培養された。イヌジステンパーウイルス Vタンパク質発現H358

細胞は以下のように作製された。007Lm-VDS 株よりウイルス RNA を High

Pure Viral RNA Kit(製品番号:11858882001,Roche Applied Science)を用

い抽出した。得られたウイルス RNA を鋳型として SuperScriptIII reverse

Transcriptase (製品番号:18080044,Invitrogen)を用い cDNA を合成させた

後,Prime STAR GXL DNAポリメラーゼ(製品番号:R050A,Takara-bio)

を お よ び プ ラ イ マ ー セ ッ ト 5’-

GGAATTCATGGCAGAGGAGCAGGCCTATCATG-3’ , 5’-

CCCCAAGCTTTTAAGCATGTGTGATACTCTTGA-3’(下線は制限酵素 EcoRI

および HindIII切断配列を示す)を用い PCR法にて Vタンパク質 cDNA断片

を得た。得られた V タンパク質 cDNA 断片を pcDNA3.1(-)-V5 ベクター(29)の

EcoRI/HindIII クローニング部位に挿入し,イヌジステンパーウイルス V タン

パク質発現ベクターを作製した。pcDNA3.1(-)-V5ベクターは発現させるタンパ

ク質のアミノ末端側に V5タンパク質をタグとして付加するベクターである。作

製した Vタンパク質発現ベクターより,Vタンパク質の 267番目のアミノ酸が

システイン(V-Cys267)およびチロシン(Try267)をコードするクローンを選択

し,それぞれをpcDNA3.1(-)-V-Cys267およびpcDNA3.1(-)-V-Tyr267と名付けた。

pcDNA3.1(-)-V-Cys267 および pcDNA3.1(-)-V-Tyr267 をそれぞれ TransIT-LT1

(製品番号:MIR2304,Mirus)を用い H358 細胞に導入することにより,V

タンパク質恒常発現 H358 細胞クローン,H358-V-Cys267-5,H358-V-Cys267-6

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49

および H358-V-Tyr267-11を作製した。作製した Vタンパク質発現細胞は 10%

FCS添加 RPMI-1640(製品番号:22400,Invitrogen)に 1 mg/mlG418(製品

番号:10131,Invitrogen)添加した培地を用い培養された。イヌジステンパー

ウイルス 007Lm-VDS株は第1章で使用したものを用いた。麻疹ウイルス Vタ

ンパク質の機能と同様の機能をイヌジステンパーウイルスの V タンパク質が有

するかを確認するために,Vタンパク質欠損EGFP発現麻疹ウイルス(MVΔV)

として Ikegameら(25)が報告したものを使用した。

2. ウイルス増殖能

24穴の細胞培養プレート(製品番号 3524,Corning)で 2日間培養し単層培

養状態となった H358-V- Tyr267-11,H358-V- Cys267-6および H358細胞に,各

ウイルス株を MOI=0.01 で接種した。細胞を 37℃,5%CO2,95%空気の条件

下で 5 日間培養し,培養上清を回収した。回収した上清のウイルス力価を

Vero.dogSLAMtag細胞(007Lm-VDS株)または Vero/hSLAM細胞(MVΔV

ウイルス)を用いて後述の「ウイルス力価測定」に従い測定した。

3. ウイルス力価測定

イヌジステンパーウイルスの力価測定は第 1章で示した方法を用いて行った。

MVΔV ウイルスの力価測定には,24 穴の細胞培養プレート(製品番号 3524,

Corning) で 2日間培養し単層培養状態となった Vero/hSLAM細胞を用いた。

細胞培養プレートから培養液を除いた後,10倍階段希釈を行ったウイルス液 0.1

ml を接種した。37℃,5%CO2,95%空気の条件下で1時間ウイルスを吸着さ

せた後,2%FCSおよび 0.8%アガロース(製品番号:50013,IWAI Chemicals)

を添加したMEM培地(製品番号:05900,NISSUI Pharmaceutical)を各穴

Page 55: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

50

に 3 ml加え,37℃,5%CO2,95%空気の条件下で培養した。接種 48時間後に,

EGFPを発現するフォーカスを蛍光顕微鏡観察下(Axio Observer D1,Zeiss)

で計測し,ウイルス力価 FFUを算出した。

4. ウエスタンブロッティング

12 穴の細胞培養プレート(製品番号 3512,Corning) で 2 日間培養し単層

培養状態のH358-V-Tyr267-11,H358-V-Cys267-5,H358-V-Cys267-6およびH358

細胞を溶解緩衝液(150mM NaCl,10mM Tris-HCl pH7.4,1% Triton X-100,

1% sodium deoxycholate,0.1% SDS)に溶解し,得られた溶解液を 15,000 x g,

5分,4℃で遠心分離を行った。遠心上清に等量のトリス SDS β-MEサンプル

処理液(製品番号:423437,COSMO BIO)を加え,95℃,5分の加熱処理後,

ポリアクリルアミド電気泳動を行った。泳動分離後,ゲル中のタンパク質をニ

トロセルロース膜(製品番号:RPN303D,GE Healthcare)に転写した。転写

後,ニトロセルロース膜に,一次抗体として抗 V-5 マウスモノクローナル抗体

(製品番号:R960-25,Invitrogen)および抗チューブリンマウスモノクローナ

ル抗体(製品番号:T5168,SIGMA)を反応させた後,二次抗体として西洋ワ

サビペルオキシダーゼ標識抗マウス二次抗体(製品番号:55564,Cappel)を

反応させた。化学発光には ECL Advance Western blotting Kit(製品番号:

RPN2135,GE Healthcare)を使用し,化学発光シグナル検出には

LAS-1000plus image analyzer(Fuji Film)を用いた。

5. 免疫染色による IRF3 (IFN-regulatory factor 3)核移行の検出

コラーゲン Iコートカバーガラス(製品番号:4912-010,AGC Techno Glass)

上で 2日間培養し,単層培養状態となった H358-V-Tyr267-11,H358-V-Cys267-6

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51

および H358細胞に 007Lm-VDS株をMOI=0.1で接種した。接種 48時間後に

4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液(PBS)を用い感染細胞を固定後,

0.5%Triton-X含有 PBS処理にて膜透過処理を行った。固定した細胞を PBSで

洗浄し,一次抗体として抗イヌジステンパーウイルスサル抗体および抗ヒト

-IRF-3マウス抗体(製品番号:550428,BD Biosciences),二次抗体として Alexa

Fluor488抗ヒト IgGヤギ抗体 (製品番号:A11013,Molecular Probes)および

Alexa Fluor 594抗マウス IgGロバ抗体 (製品番号:ab150108,Abcam)を二次

抗 体 と し て そ れ ぞ れ 反 応 さ せ た 。 ま た 細 胞 の 核 染 色 の た め

diamidino-2-phenylindole (DAPI)(製品番号:D9542,SIGMA)による染色も

同時に行った。染色後,FV1000D共焦点レーザー顕微鏡(Olympus)により観

察し,得られたデータをFV10-ASW(Olympus)および ImageJ softwear(NIH)

を用い解析を行った。

6. RT-PCR による IFN 活性化遺伝子群(ISGs)転写量の定量

6穴の細胞培養プレート(製品番号:3506,Corning) で 2日間培養し単層

培養状態となったH358-V-Tyr267-11,H358-V-Cys267-6およびH358細胞を 100

ユニット/mlのヒト IFN-β(商品名:フェロン,Toray)で処理を行った。IFN-

β処理後 0,2,4,8時間後に Trizol(製品番号:15596-018,Invitrogen)に

より細胞からトータルRNAを抽出した。トータルRNAより Transcriptor First

Strand cDNA Synthesis kit(製品番号:04379012001,Roche Applied Science)

およびランダムヘキサマーを用いて cDNAを合成した。定量的 PCRは合成した

cDNAを鋳型として,LightCycler 480 Probe master(製品番号:04887301001,

Roche Applied Science ), universal probe library ( 製 品 番 号 :

04688996001(ISG15) , 04689020001(OAS1) , 04685075001(ISG56) ,

Page 57: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

52

04688589001(GAPDH),04688961001(HPRT1),Roche Applied Science)お

よびライトサイクラー480 (Roche Applied Science)を用い,これらのプロトコ

ールに従い行われた。IFN活性化遺伝子の ISG15,OAS1および ISG56の cDNA

は GAPDH又は HPRT1遺伝子を用いて標準化した後定量された。

Page 58: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

53

結果

1. V タンパク質発現 H358 細胞におけるウイルスの増殖

V タンパク質恒常発現細胞,H358-V-Cys267-5,H358-V-Cys267-6 および

H358-V-Tyr267-11 を作製した。これらの細胞ではウエスタンブロッティングに

より,V タンパク質の発現が確認された(図3-1A)。一方 H358-V-Cys267-5

においては,その化学発光シグナルが弱く,H358-V-Cys267-6 および

H358-V-Tyr267-11と比較して Vタンパク質の発現量が低いことが確認された。

H358-V-Tyr267-11,H358-V-Cys267-6 および H358 細胞に 007Lm-VDS 株を

MOI=0.01 で感染させ,感染 5 日後のウイルス力価を測定した。その結果,

H358-V-Tyr267-11 および H358 細胞では,共にウイルス力価は低く同程度

(102.0PFU/ml)であった(図3-1B)。一方,H358-V-Cys267-6 細胞では

103.2PFU/mlのウイルス力価を示し,H358-V-Tyr267-11および H358細胞に比

べおよそ 15倍高いウイルス力価を有していた。

次に H358 細胞で殆ど増殖出来ない MVΔV(25)が H358-V-Tyr267-11 および

H358-V-Cys267-6 細胞で増殖可能かを確認するため, 007Lm-VDS 株と同様に

試験を行った。その結果,H358-V-Cys267-6 細胞では 103.5FFU/ml のウイルス

力価を示し,MVΔV の増殖が確認できた(図3-2A)。一方で,

H358-V-Tyr267-11および H358細胞ではウイルスの増殖は確認できなかった。

MVΔVを H358-V-Cys267-5および H358-V-Cys267-6細胞に接種したところ,

各細胞での多核巨細胞の出現を観察した。一方,H358 細胞および

H358-V-Tyr267-11 細胞では多核巨細胞は殆ど確認できなかった(図3-2B)。

このように,V-Cys267タンパク質の発現量が少ない H358-V-Cys267-5 細胞にお

いても,H358-V-Cys267-6細胞と同程度のMVΔVによる感染細胞の広がりを確

Page 59: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

54

認することができた。

2. V タンパク質発現 H358 細胞におけるウイルス感染時の IRF3 の核移

007Lm-VDS 株を感染させた H358-V-Tyr267-11,H358-V-Cys267-6 および

H358細胞における IRF3の核移行の有無を確認した。この結果,いずれの細胞

においてもウイルスに感染した細胞では IRF3の核移行が確認された(図3-3)。

一方でウイルス抗原がない非感染細胞では IRF3の核移行は観察されなかった。

3. V タンパク質発現 H358 細胞における ISGs 転写活性の比較

H358-V-Tyr267-11,H358-V-Cys267-6および H358細胞を IFN-βで処理した

後に,誘導される ISGs(ISG15,OAS1,ISG56)の転写活性を定量 RT-PCR

法により確認した。この結果,H358-V-Tyr267-11 および H358 細胞では IFN-

β処理により 2時間後には 3種全ての ISGsの転写が誘導され,4時間および 8

時間後においても ISGsの転写が確認された。一方,H358-V-Cys267-6細胞にお

いては測定した ISGs3種全ての転写活性が完全に抑制されていた(図3-4)。

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55

考察

本章ではイヌジステンパーウイルスの V タンパク質がヒト肺胞上皮細胞由来

の H358 細胞内で宿主の自然免疫機構に対抗する機能を有するのか否かを中心

に検討を行った。

初めに 007Lm-VDS 株および 007Lm-H358 株がそれぞれ有する,V-Tyr267

および V-Cys267タンパク質を恒常発現させた H358細胞で,007Lm-VDS株の

増殖が回復するか確認した。その結果, H358-V-Tyr267-11細胞ではウイルス増

殖の回復は認められなかった,一方 H358-V-Cys267-6 細胞ではウイルスの増殖

が確認された(図3-1B)。この結果より,V-Cys267タンパク質が H358 細胞

内で機能し,007Lm-VDS 株の H358 細胞内でのウイルスの増殖を促進する機

能を有することを示すことができた。また,007Lm-H358株が V-Cys267タンパ

ク質をコードする遺伝子を多く持つ集団であることが,H358細胞で本ウイルス

が増殖できることの要因の一つであることが示唆された。

また,Vタンパク質発現 H358細胞とMVΔVを用いた実験により,V-Cys267

タンパク質発現 H358 細胞ではウイルスの増殖がみられた(図3-2 A ,B)。

一方で,H358-V-Tyr267-11 および H358 細胞では,MVΔV の増殖は確認でき

ず,多核巨細胞も殆ど形成しなかった。これらのことより,V-Cys267 タンパク

質は麻疹ウイルスの V タンパク質の機能を完全に補完することが確認された。

このことは,イヌジステンパーウイルスの Vタンパク質が麻疹ウイルスの Vタ

ンパク質と同様の機能を有することを示唆するものと考えられた。また,

H358-V-Cys267-6 細胞と比較して V タンパク質の発現量の少ないクローンであ

る H358-V-Cys267-5細胞においても,多核巨細胞の形成は H358-V-Cys267-6と

同程度観察された。このことより V タンパク質の発現量の多寡はその機能には

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56

影響しないことを示すことができた。

宿主細胞における RNA ウイルスの感染を認識する細胞内センサー分子とし

て RIG-Iや mda-5が知られている(27, 86)。これらのセンサー分子はその下流

にあるアダプター分子を介して1型 IFNの転写に関わる転写因子群を活性化さ

せ,IFNの産生を誘導する。この IFNの転写因子を活性化する因子の一つとし

て,IRF3の核への移行が知られている(64, 87)。産生された IFNは自身や周辺

の細胞上に発現している1型 IFN受容体と結合し,それに引き続き細胞内シグ

ナル経路である JAK-STAT 経路を活性化し,抗ウイルス活性をもつ IFN 活性

化遺伝子群(ISGs)の転写を誘導する(56)。先にも述べたように,麻疹ウイル

スの V タンパク質が mda-5 経路での IFN 誘導系を阻害することが知られてい

る(12, 55, 75)。また,麻疹ウイルスの Vタンパク質は IFN誘導系だけでなく,

IFN応答系である JAK-STAT経路を抑制し,宿主の自然免疫に対抗する機能を

有することが報告されている (8, 9, 55)。そこで,007Lm-VDS 株および

007Lm-H358株の有する V-Tyr267および V-Cys267タンパク質が IFN誘導系お

よび応答系を阻害するか否かを検討した。初めに,H358-V-Tyr267-11,

H358-V-Cys267-6および H358細胞に 007Lm-VDS株を接種して,IRF3の核移

行が生じるか否かを観察した。その結果,いずれの細胞についてもウイルス感

染細胞では IRF3 の核移行がみられ(図3-3),V-Tyr267および V-Cys267タン

パク質は共に IRF3の核移行の段階では IFN誘導系を阻害しないことが示され

た。この結果は V-Tyr267および V-Cys267タンパク質がともに mda-5 経路での

IFN誘導系を抑制していない可能性や,他のパラミクソウイルスと同様にRIG-I

経路の IFN誘導系を阻害しない(12)可能性などを示すものと考えられる。

次に,IFN の刺激により活性化され,抗ウイルス活性を有するタンパク質の

合成を誘導する ISGsである ISG56,OAS1,ISG56(61, 66)の転写活性を Vタ

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ンパク質が阻害するか否かを Vタンパク質発現 H358細胞用い検討した。その

結果 IFN-βの刺激により,H358-V-Tyr267-11および H358細胞では ISGsの転

写が誘導された,一方で H358-V-Cys267-6細胞での ISGsの転写は完全に抑制さ

れていた(図3-4)。この結果より,H358細胞内で V-Tyr267タンパク質は IFN

応答系を阻害しない一方で,V-Cys267タンパク質は IFN応答系を効率よく阻害

することを示すことができた。さらにいえば,V-Cys267タンパク質の IFN応答

阻害機能は,267番目のアミノ酸を Cysから Tyrに置換することにより,その

機能が完全に失われることを示している。267 番目のシステインはパラミクソ

ウイルス科で高度に保存され(84),このシステインを含む 7残基のシステインが

Vタンパクの構造維持に重要であることから(35),この構造が維持できなくなる

と V タンパク質の機能が失われることが予想されている。本実験結果よりジス

テンパーウイルスにおいてもこの 267番目のシステインがウイルスの Vタンパ

ク質の有する自然免疫対抗機構にとって重要な残基であることを示すことがで

きた。

本章では,イヌジステンパーウイルスの V タンパク質が,ヒト由来の H358

細胞内において,細胞の自然免疫機能に対する対抗機能を有することを示した。

また,その機能維持のためには他のパラミクソウイルス科のウイルスで高度に

保存されているシステインに相当する 267 番目のシステイン残基が重要である

ことを示すことができた。さらには,V タンパク質の自然免疫対抗機構は宿主

細胞における IFN応答系を阻害することによりその機能を維持していることが

明らかとなった。V-Cys267タンパク質が麻疹ウイルスの V タンパク質の機能を

完全に補完していることを考慮すると,この IFN応答系の阻害は麻疹ウイルス

の V タンパク質と同様に V-Cys267タンパク質が JAK-STAT 経路を阻害するこ

とにより生じていると考えられた。これらのことより,イヌジステンパーウイ

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ルスのヒト細胞への感染にあたり,宿主の自然免疫への対抗機能を潜在的に有

するという新しい知見を提供することができた。

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結論

イヌジステンパーウイルスの主たる宿主動物はイヌおよびイヌ科の動物であ

るが,その他霊長類を含む多くの哺乳動物に感染することが知られている。し

かしながら,これまでのところヒトに感染したという報告はない。多くのヒト

は麻疹ウイルスに対する免疫を有しており,麻疹ウイルスに対する免疫がジス

テンパーウイルスに対しても働くという報告がある(3, 4, 14, 70)。さらに,イヌ

ジステンパーウイルスはサルの SLAMおよびネクチン4を受容体として効率よ

く利用できるが,ヒトの SLAMは利用できないとの報告もある(6, 62, 63)。ウ

イルスがヒト SLAMを受容体として利用できないこと,麻疹ウイルスに対する

免疫がイヌジステンパーウイルスに対して有効であることは,自然界でヒトへ

の感染がない理由であると考えられる。しかしながら,近年の研究では Hタン

パク質の1アミノ酸変異によりヒト SLAMをウイルスが利用可能となることが

報告されており(6, 63),受容体レベルではイヌジステンパーウイルスがヒトへ感

染するリスクが潜在的に存在すると考えられる。本研究では,イヌジステンパ

ーウイルスがヒトネクチン4を受容体として利用しヒト上皮細胞への感染が可

能か否かを調べると共に,他の要因が培養細胞レベルでの宿主域の決定に関与

しているかを検討した。その結果,以下の知見が得られた。

1. イヌジステンパーウイルスはヒトネクチン4を受容体として利用でき,培養

細胞レベルではヒト上皮細胞で増殖が可能である。

2. カルボキシル末端欠損 Cタンパク質を有する Ac96I-VDS株は,ヒト肺胞上

皮由来細胞 H358 での増殖が強く抑制されるものの,H358 細胞で継代する

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ことにより容易に完全長の C タンパク遺伝子を持つ株に置換され効率的に

増殖可能となった。

3. Vタンパク質の 267番目のアミノ酸がシステインからチロシンに変異してい

た 007Lm-VDS株は H358での増殖が強く抑制されるものの,H358細胞で

継代することにより容易にシステインに変異し,効率的に増殖が可能となっ

た。

4. 007Lm-H358株が有するV- Cys267タンパク質はH358細胞内で IFN応答系

を阻害する機能を有する。

5. イヌジステンパーウイルスの V タンパク質も他のパラミクソウイルス同様

Zinc fingerドメインを形成するために重要な 267番目のシステインが Vタ

ンパク質の機能維持に重要である。

本研究により,イヌジステンパーウイルスは培養細胞レベルでは,ヒトネク

チン4を受容体として利用でき,またヒト細胞における自然免疫への対抗機構

を有することを明らにすることができた。これまで,イヌジステンパーウイル

スのヒトへの感染に関する報告はなされていない。しかし,ヒト上皮細胞の受

容体を利用できること,そしてヒトの自然免疫への対抗機構を有することを考

慮すると,イヌジステンパーウイルスのヒトへ対する感染の潜在的危険性があ

ると考えられる。

イヌジステンパーウイルスの主たる宿主のイヌがヒトの生活に密接に関わっ

ていることを考慮すると,イヌがヒトへの感染源となりうる可能性が高い。幸

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いにもイヌジステンパーにおいてはイヌに対して有効なワクチンが存在してお

り,ワクチンの接種によりその発生の制御が可能である。ヒトへの感染のリス

クを低減させる意味合いにおいても,本ワクチンの飼養犬に対する接種は非常

に有効であると考えられ積極的な接種がなされることを期待したい。また,イ

ヌジステンパーウイルス感染を動物感染症として捉えるだけでなく,ヒトにと

っての新興感染症になる可能性のあるものと認識することもヒトへの感染リス

クを低減するのに重要であると考えられる。

本研究で得られた知見は,イヌジステンパーウイルスのヒトへのリスク評価

にとどまらず,モルビルウイルスの宿主細胞内における自然免疫からの回避機

構の解明,さらにイヌジステンパーウイルスを含むモルビリウイルスが進化の

過程でどのように宿主域を広げてきたか等,その発生あるいは進化のメカニズ

ムを考える上で,貴重な情報を提供している。

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66

謝辞

本研究の遂行にあたり,多大なご指導およびご助言を賜った国立感染症研究

所 竹田 誠 博士に謹んで感謝致します。また,本研究の遂行にあたり終始ご

協力を賜った,国立感染症研究所 ウイルス第 3部職員各位に謹んで感謝致しま

す。

論文草稿にあたり適切なご助言を賜った 岐阜大学 人獣共通感染症学研究室

杉山 誠 教授,帯広畜産大学 原虫病研究センター 鈴木 宏志 教授,岩手大

学 獣医微生物学研究室 村上 賢二 教授,東京農工大学 国際家畜感染症防疫

研究教育センター 水谷 哲也 教授,岐阜大学大学院連合獣医学研究科 浅井

鉄夫 教授に心より謝意を表します。

次世代シークエンス解析を実施するにあたり,技術指導および適切な助言を

賜りました国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター 黒田 誠 博士,

関塚 剛 博士,に厚く御礼申し上げます。

また,ウイルスタンパクと細胞受容体について有益なご助言を頂いた,北海

道大学大学院 薬学研究院 前仲 勝実 教授に厚く御礼申し上げます。

快く材料を提供してくださった,宮崎大学 獣医病理学研究室 山口 良二 教

授,九州大学大学院 医学研究院 柳 雄介 教授に心より感謝致します。

最後に,本研究の遂行・論文の執筆にあたり支えていただいた,私の家族に

深謝致します。

Page 72: Title イヌジステンパーウイルスの感染メカニズムと …...として,アクセサリータンパク質と呼ばれるV タンパク質およびC タンパク質

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