title クォーターフェニル及びテトラゾール誘導体の相転移及...

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Title クォーターフェニル及びテトラゾール誘導体の相転移及び 物性に関する研究( 本文(FULLTEXT) ) Author(s) 佐原, 将彦 Report No.(Doctoral Degree) 博士(工学) 甲第021号 Issue Date 1995-03-24 Type 博士論文 Version publisher URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/1742 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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  • Title クォーターフェニル及びテトラゾール誘導体の相転移及び物性に関する研究( 本文(FULLTEXT) )

    Author(s) 佐原, 将彦

    Report No.(DoctoralDegree) 博士(工学) 甲第021号

    Issue Date 1995-03-24

    Type 博士論文

    Version publisher

    URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/1742

    ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

  • クォーターフェキル及びテトラゾ-ル

    誘導体の相転移及び物性に関する研究

    平成 7 年1月

    佐 原 将 彦

  • クォーターフェニル及びテトラゾ-ル

    誘導体の相転移及び物性に関する研究

    学位論文:博士(工学)/桝-/9

    佐 原 将 彦

  • 目次

    第1編 クオーターフェニル誘導体及びクォーターフェニル共重合

    ポリエステルの相転移及び物性

    第1章 序論

    第2章 4. 4‥'-ジアルキルオキシクォーターフユニルの液晶相転移

    2. 1 序

    2. 2 合成

    2.2.1 4-ブロモ14'-アルキルオキシビフェニルの合成

    2.2.2 4, 4'‥-ジアルキルオキシクォーターフェニル(DAQP)の合成

    2. 3 実験方法

    2.3.1 DSC測定

    2.3.2 偏光顕微鏡観察

    2.3.3 混和性試験

    2. 4 結果と考察

    2.4.1 DSCの測定結果と考察

    2.4.2 偏光顕微鏡観察の結果と考察

    2.4.3 混和性試験の結果と考察

    2. 5 結果と結論

    第3章 ジアルキルクォーターフェニルー4. 4‥'-ジカルポキシレート

    の液晶相転移

    3. 1 序

    3. 2 合成

    3.2.1 ジアルキルクオーターフェニルー4, 4‥'-ジカルポキシレート

    (DCQP)の合成

    3. 3 実験方法

    3. 4 結果と考察

    3.4.1 DSCの測定結果と考察

    3.4.2 偏光顕微鏡観察の結果と考察

    3.4.3 混和性試験の結果と考察

    3.4.4 DCQPの液晶相転移挙動の比較検討

    1-107

    卜4

    5-34

    5

    6-9

    6-7

    8-9

    10

    10

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    10

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    ll-21

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    35

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    36-38

    37

    39-55

    39-44

    45-48

    49-50

    51-55

  • 3. 5 結論

    第4毒 クオーターフェニル共重合ポリエステルの物性

    4. 1 序

    4. 2 実験方法

    4.2.1 試料

    4.2.2 DSC測定

    4.2.3 誘電測定

    4.2.4 直流電気伝導度測定

    4.2.5 動的粘弾性測定

    4. 3 結果と考察

    4.3.1 DHQポリマ-の熱的性質

    4.3.2 DHQポリマーの誘電的性質

    4.3.3 DHQポリマーの直流電気伝導度

    4.3.4 DHQポリマーの力学的性質

    4. 4 DHQポリマーの分子運動に関する考察と結論

    第5章 総括

    参考文献

    第2編 テトラゾール誘導体の非線形光学特性

    1. 序論

    2. 実験方法

    2.1 試料

    2.2 融点測定

    2.3 SHG測定

    2.4 UV測定

    3. 結果と考察

    3.1 テトラゾ-ル誘導体の置換基とSHG強度の関係

    3.2 SHG強度と分子超分極率(β)及び基底状態における双極子

    モ-メント(u)の関係

    3.3 SHG強度と吸収端波長の関係

    4. 総括

    ll

    56

    57-103

    57

    58-60

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    臼3:E!

    105-107

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    1川-112

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    ユlo

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    127

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    参考文献

    謝辞

    論文目録

    5.

    HI

  • 第1編 クォーターフェニル誘導体及びクォーターフェニル共重合ポリエステル

    の相転移及び物性

    第1章 序論

    現在2万種以上の液晶性物質が見出されており,各種液晶化合物はその特性に応

    じて液晶表示装置をはじめとして様々な工業的応用に使われている。液晶の発見

    と誕生は19世紀にさかのぼり, 1888年にオーストリアの植物学者Reinitzerがコレ

    ステロールの安息香酸や酢酸のエステルの液晶性を見出したことに端を発してい

    る。彼はこれらのエステル化合物がある温度領域で白濁した液状を呈し,多彩な

    美しい真珠光を発する現象を発見したl)。翌年の1889年,ドイツの物理学者

    Lehmannは自分で考案した加熱装置付き偏光顕微鏡を用い,この白濁した液体が液

    体でありながら結晶に特有な複屈折性を示すことを見出した2)。この白濁した流動

    状態は,結晶と液体の両方の特性を併せもつということで彼はこれを"Fl丘ssige

    Kristalle'●と名づけたo これが現在の液晶(liquid crystal)の語源となっている.

    その後ドイツには液晶研究が深く根ずき、 1900年代初頭からVorlanderとその多数

    の共同研究者により多くの液晶物質が合成され,液晶性と化学構造の関連性につ

    いての研究が始められた3~6)0

    Grayは液晶を形成する分子の構造として次のような条件が必要であることを述

    べている7)0

    l)分子の幾何学的形状が細長い棒状,あるいは平板状であること。

    2)分子の平行配列を維持するために,適当な大きさの分子間相互作用を有す

    ること。

    また,分子間相互作用は次の3つに分類される。

    i)分子中の永久双極子モーメント間の直接的相互作用。

    ii)分子の誘起双極子モーメントによる相互作用。

    iii)分散力(ファンデルワールスカ) 0

    1), 2)の点を考慮して化合物が液晶を持つための化学構造は,細長い形状で永久

    双極子を有するグループをもつか,あるいは分子自体が高い分極性をもっことが

    要求される。

    1

  • 典型的な液晶形成化合物はcore部と名付けられた剛直な基を中央部にもち,さ

    らにその両末端に屈曲性のある末端基を右するものである。ビフェニルは代表的

    なcoreを形成するもので現在最もよく使われている。中央のcoreを形成する環の

    数を増やすと液晶性が増大することから、最近ではビフェニルにべンゼン環を一

    つ伸ばしたターフェニルもcoreとして注目されつつある.特に最近Grayらはタ-

    フェニルの側方にF原子を導入したターフェニル誘導体を合成し,その液晶性の調

    査を行っている8~15)。しかしながら現在までの所ターフェニルよりさらにべンゼン

    環を1つ伸ばしたクォーターフェニルをcoreとする化合物はあまり液晶性が研究

    されておらず, 2, 3の研究者たちによって報告されているだけである5・16・17)。古く,

    1927年, Vorほnderらはクォーターフェニルの4, 4‥'位にニトロ基及びアミノ基

    を導入した化合物がそれぞれネマティック(Ⅳ)相を示すことを報告した5)0 1972年

    にSc血ubertらは,クオーターフェニルの4, 4'‥位にアシル基を導入した化合物が

    N及びスメタティツクC(Sc)相を示し,アルキル基を導入した化合物がスメクティツ

    ク相を示すことを報告した17)。また,彼らはクオーターフェニルの4, 4…位にア

    ルキルオキシカルポニル及びアルキルオキシカルポニルペンチル基を導入した化

    合物がスメクティツク相を示すことは報告しているが17),細かい相の同定は行っ

    ていない。その後, 4, 4‥'位にアルキル基を導入した化合物についてはDemusら

    によりN及びスメクティツクA(SA)相を示すことが報告されている18)0

    次に一連のポリフェニルはかたい棒状構造をもつもので,液晶性と分子の直線

    性の関係を論ずるのに最も簡明で興味あるモデル化合物である。ベンゼン、ビ

    フェニル, p一夕ーフェニル, p-クォーターフェニルは液晶性を示さないが, p-キ

    ンクフェニル19720)及びp-セキシフェニル20122)はそれぞれN相及びN, SA相を示すこと

    が見出されてきている。 1984年にIrvineらは、 p-キンクフェニル及びp-セキシ

    フェニルとの混和性試験によりp-クオーターフェニルがそれ自身で潜在的に液晶

    を形成する能力があることを見出している20)。このcore自身のもつ潜在能力は興

    味深いところである。

    ポリフェニルは化学的に安定であり、最も直線性が良く、かたいcore部を形成

    するものの1つと考えられる。したがって、ポリフェニル基をcoreにもつ化合物

    の液晶性の研究は重要なものである。しかしながら上述のようにクォーターフェ

    ニルのような長いポリフェニルをもった化合物の液晶性の研究はさはど行われて

    2

  • いないのが現状である。その理由としては合成上の困難さと液晶の熱安定性が非

    常に良くなり液晶温度域が高くなるためと考えられる。本研究では、クォーター

    フェニルの4. 4…位にアルキルオキシ基(-OCnH2。十l:n=ト18)及びアルキルオキシカ

    ルポニル基(-COOR)を導入した一連の化合物を合成し,その液晶相転移挙動を調査

    した。一般に末端基としてはアルキルオキシ基の方がアルキル基よりも液晶性を

    高めることが知られており23~25), 4. 4…位にアルキルオキシ基を導入した化合物

    はアルキル基を導入した化合物に比べて高い液晶性を有することが期待される。

    また, 4, 4‥ '位にアルキルオキシカルポニル基を導入した化合物は以前Schubert

    らにより報告された化合物であるが, 4, 4‥'位にアルキル基を導入したものと比

    較すると液晶相を形成する温度領域が広く,良好な液晶形成能をもつことが確認

    されている18)。本論文は第2章で一連の4. 4…-ジアルキルオキシタオーターフェ

    ニル(DAQP)また第3章で一連のジアルキルクォーターフェニルー4, 4…-ジカルポ

    キシレート(DCQP)の液晶相転移挙動を述べている。

    近年,熱可塑性エラストマー(以降TPEと略す)は従来のゴム材料に比べて迅速

    に熱可塑性樹脂用成形機で加工ができ,加硫工程を必要とせず,またリサイクル

    が可能であるという点で注目されてきている26~30)0

    一般にエラストマーとはゴム分子同士を化学的に結合させること(架橋あるい

    は加硫)によって得られたゴム弾性体のことを指し, TPEは常温でゴム弾性体の性

    質を示し、高温で可塑化されるポリマーのことを指す。構造的には、一般にTPEは

    柔軟なセグメント(ソフトセグメント)と塑性変形を防止するためのかたいセグ

    メント(ハードセグメント)からなるブロック共重合体により形成される。

    TPEの特徴は,従来のゴム材料が主として加硫による化学的架橋によってゴム弾

    性を発現させているのに対して,ハードセグメントの可逆的な凝集による物理的

    架橋によりゴム弾性を発現させている点にある。物理的架橋の様式としては,エ

    ステル系エラストマー,アミド系エラストマー及びオレフィン系エラストマーの

    ようにハードセグメントとして結晶性ポリマーを用いたときの結晶相,スチレン

    系エラストマーのようにハードセグメントとして高いガラス転移温度のポリマー

    を用いたときの凍結相やウレタン系エラストマーのような水素結合による凝集相

    などが挙げられる。

    3

  • 本研究はソフトセグメントがアジピン酸とエチレングリコールからなるポリエ

    ステルにハードセグメントとしてクオーターフェニルを導入した共重合ポリエス

    テルの構造と物性を明らかにするのを目的としている3卜35)。この共重合ポリエス

    テルは以前仁木らによってハードセグメントドメインとソフトセグメントドメイ

    ンがミクロ相分離構造を取ること、またハードセグメント相が擬液晶相をもつエ

    ラストマーであることが報告されている32・34・35).このようにこのエラストマ-は

    剛直なクォ19L-フェニルの凝集した結晶あるいは液晶のドメインが物理的架橋

    点として働く新しいまた有用な物性をもつTPEとして注目されている。第4章では

    クオーターフェニルの含む共重合体に対して示差走査熱量測定、誘電測定,直流

    電気伝導度測定及びねじれ振動法による動的粘弾性の測定を行い,ハードセグメ

    ントとソフトセグメントの相分離、構造及び分子運動について検討した結果を述

    べる。

    4

  • 第2章 4, 4'‥-ジアルキルオキシクオーターフェニルの液晶相転移

    2.1序

    本章では,クォーターフェニルの両末端にアルキルオキシ基を導入した4.

    4‥'-ジアルキルオキシクォーターフェニル(以降DAQPと略す)の液晶相転移挙動

    について述べる。今回、アルキルオキシ基の炭素数(a)がl-18の化合物を合成し

    たが、これらはすべて新規な物質である。これら18種のDAQPの液晶相転移挙

    動は、示差走査熱量(DSC)測定,偏光顕微鏡観察及び混和性試験により検討した。

    5

  • 2.2 合成

    2.2.I 4-ブロモー4'-アルキルオキシビフェニルの合成

    4-ブロモー4'-アルキルオキシビフェニルの合成は一般的によく知られている

    ウィリアムソン合成法を基にして以下のように行った。

    ヽ\ヽ\

    ヽ\ヽ\

    OH + CnH2n+1Br

    OCnH2m+1

    KOH / EtOH

    renux

    例として, 4-ブロモー4'-へキシルオキシビフェニルの合成法について述べる。

    還流冷却器と滴下ロートを備えた300mlの三つロフラスコに溶媒としてエタノール

    150皿1を入れ, 4-ブロモー4'-ヒドロキシビフェニル10.Og(0.04mol)及び4N水酸化カ

    リウム水溶液10mlを加え加熱捜拝しながら臭化n-へキシル9.9g(0.06皿01)を徐々に

    滴下した。滴下後撹拝還流し,反応の進行状態を薄層クロマトグラフィー(展開溶

    咲:クロロホルム)を用いて調べ、原料のスポットがなくなるまで反応を行った(還

    流時間:8-12時間)。反応溶液を室温まで冷却した後,水100皿1及び10%塩酸を加え

    て酸性溶液としてから沈澱物を渡別し乾煉を行い,粗結晶を得た。この粗結晶を

    エタノールで2回再結晶し,無色透明の結晶を得た(収量Il.5g,収率86.3%)O講料

    の純度は薄層クロマトグラフィーにより決定した.試料の同定は、 1H核磁気共鳴及

    び赤外分光分析法を用いて行った。その帰属を図2. 1に示す。

    6

  • 1H-NMR(270杜Hz, CDC13) :

    a b c d

    CH3CH2(CH2)3CH20

    e I g h

    (1-′/,h(「

    G 7.52(d, 2H,

    7.47(d, 2H,

    7.40(d, 2H,

    6.96(d. 2臥

    3.99(t, 2臥

    1.79(札 2臥

    J=8Ⅲz, [b)

    I-8Iz. Hf)

    J=8Hz, Hg)

    J=8Hz. He)

    ∫-6Hz, Hd)

    I-6Iz. Hb)

    1.53-1.35(札 6臥J-細z, H。)

    0.91(t. 3H, ∫-6Hz, Ha).

    IR(KBr) : 3045cm~1. v(c-I) : 2956c皿ー1.vas(cI3); 2938c皿-I. vas(cH2);

    2870c皿ーl, vs(cH3) ; 1256cm~1, vas(c-o-c) ; 1080c皿~l,vs(c-Br) :

    1031cml. vs(c-o-c): 734, 814c皿~1,8(c-H); 497c皿-I, 8(c-c).

    図2.1 4-ブロモ14'-へキシルオキシビフェニルの1I-NMR及びIRスペクトル

    アルキルオキシ基の炭素数(n)が1の化合物については、臭化メチルの代わりに

    よう化メチルを用いて合成を行った。 nが13以上の化合物については,再結晶溶媒

    としてクロロホルムを用いて精製を行った。

    7

  • 2.2.2 4. 4‥'-ジアルキルオキシクオーターフェニル(DAQP)の合成

    DAQPの合成は斉藤らの方法36)を基にして以下のように行った。

    ヽ\ヽ\

    H2n+1CnO

    0 CmII2m+1KOH / EG, H20

    Pd/C, 110℃

    ヽ\ヽ\ヽ\ヽ\OCnH2n+1

    例として、 4. 4‥'-ジノニルオキシクォーターフェニルの合成法について述べ

    る。還流冷却器を備えた300皿1の三つロフラスコに溶媒としてエチレングリコール

    80ml及び水10mlを入れ, 4-プロモー4'-ノニルオキシビフェニル7.5g(0.02皿01), 4Ⅳ

    水酸化カリウム水溶液10皿1及び5%Pd-C触媒0.9g(0.血mol)を加え, 110℃で48時間

    加熱撹拝した。反応溶液を室温まで冷却した後,水200ml及び塩酸を加えて溶液を

    中和し,沈澱物を渡別した。沈澱物をジメチルホルムアミド500mlに加熱溶解させ,

    熱時ろ過をすることにより残留したPd-Cを除去し,粗結晶を得た。この粗結晶を

    トルエンで2回再結晶し,無色透明の結晶を得た(収量0.8g,収率13.5%)0

    アルキルオキシ基の炭素数がl-3までの化合物については,ジメチルホルムア

    ミドを用いて再結晶を繰り返し行い,メタノールで洗浄することにより試料の精

    製を行った。

    試料の同定は,元素分析,質量分析及び赤外分光分析法を用いて行った。元素

    分析及び質量分析の結果を表2.1に示す。また、赤外スペクトルの帰属を表2.2に

    示す。得られた試料は元素分析及び質量分析の結果が理論値と一致していること

    及び示差走査熱量分析の融解のピークが鋭く変化していることから純粋であると

    判断した。

    8

  • 表2.1 D^QP同族体の元素分析及び質t分析のデータ(Hュn+1CnOC6H4C6Ⅲ4C6H4C6Ⅲ40CnH2n+1)

    Calculated Formula Found m/e

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    8

    9

    10

    ll

    12

    13

    14

    15

    16

    17

    18

    85.22 6.05

    85.25 6.64

    85.27 7.16

    85.29 7.61

    85.31 8.00

    85.33 8.35

    85.35 8.67

    85.36 ■8.95

    85.37 9.21

    85.38

    85.40

    85.41

    85.41

    9.45

    9.66

    9.86

    10.04

    85.42 10.20

    85.43 10.36

    85.44 10.50

    85.44 10.63

    85.45 10.76

    C 26H2202

    C28H2602

    C 30H3002

    C32H3402

    C34H3802

    C36H4202

    C38H4602

    C40H5002

    C42H5402

    C44H5802

    C46H6202

    C48H6602

    C50H7002

    C52H7402

    C54H7802

    C 56H8202

    C58H8602

    C 60H9002

    84.96 5.94

    85.27 6.51

    85.05 7.05

    85.03 7.50

    85.18 7.97

    85.06 8.37

    85.15 8.72

    85.19 8.82

    85.55 9.34

    85.25 9.56

    85.42

    85.52

    85.16

    85.38

    85.27

    85.35

    85.74

    85.69

    9.85

    10.05

    10.31

    10.45

    10.64

    10.65

    10.84

    10.71

    366, 351

    394, 366

    422, 380

    450, 394

    478, 408

    506, 422

    534, 436

    562, 450

    590, 464

    618, 478

    647, 492

    674, 506

    702, 520

    730, 534

    758, 548

    786, 562

    814, 576

    表2.2 D^q同族体の赤外スペクトルの帰属

    波数【m-1] 帰属

    3038

    2955-2850

    1260-55

    1 030-25

    81 5-1 0. 730-20

    495

    芳香族C-d*抽振動

    脂肪族C一日伸轟振動

    Cヰ{逆対称伸轟振動(工づ≠)c」トC対称伸轟振動(エづ≠)

    芳香族C=式日面外変角振動

    芳香族C・" 面外変角振動

    9

  • 2.3 実験方法

    2.3.I DSC測定

    DSC測定は,セイコー電子工業(秩)製SSC5000熱分析システムを用いて昇降温

    速度5K/minにて行った.

    2.3.2 偏光顕微鏡観察

    偏光顕微鏡観察は透明点が573K以上の化合物と573K以下の化合物と分けて行い,

    次の2横種で行った。

    透明点が573K以上の化合物については、 Linka皿社製TH-600RMS型ホットステージ

    を備えた01y皿puS社製BH-2型偏光顕微鏡を用いて直交ニコル下,昇降温速度5K/凪in

    で組織観察を行った。

    透明点が573K以下の化合物については, Mettler社製FP82型ホットステージを備

    えたNikon社製Optiphoto-Pot XTP-11型偏光顕微鏡を用いて直交ニコル下、昇降温

    速度5K/皿inで組織観察を行った。

    2.3.3 混和性試験

    昇華性その他のために上記の偏光顕微鏡観察で決定できないDAQPのスメク

    ティツク相の同定をするために混和性試験を用いた。ここで混和物の相転移温度

    はDSC測定により決定した。

    具体的には相転移既知の基準物質としてDAQP(n-8)を用い, DSC測定用試料ホル

    ダーに2成分の試料を秤量した。まず第1昇温過程で2つの化合物の融点以上の温度

    618K (DAQP(n-8)の透明点)まで温度を上げてよく混和させた後に折り返し,第1

    降温過程を行ったo次に第2昇温過程で673K付近まで温度を上げて相転移温度を決

    定したo 5K/minと10K/minの昇降温速度の違いによる相転移温度の差がはとんど見

    られなかったため, 10K/minの昇降温速度で測定を行った。

    10

  • 2.4 結果と考察

    2.4.1 DSC測定の結果と考察

    図2. 2にDAQP(n=4)のDSC曲線を示す。この化合物は633K付近より昇華が始まるた

    め、第1昇温過程(1I)から第1降温過程(1C)への折り返しを625Kで行い、第2昇温過

    程(2H)の結果をデータとして用いた。 2Hにおいては520Kに結晶相の転移, 610Kに

    結晶相から液晶相への転移の吸熱ピ-ク(融点)が観察され,さらに670Kに液晶

    棉(スメクティツクA(SA)相)から等方性液体への転移の吸熱ピーク(透明点)が

    観察される. 617-670Kの間でSA相を示すことは混和性試験により確認された。こ

    の混和性試験の詳細については後で述べる。なお, DAQP(n-l-3)については融解

    した直後に昇華が始まり、 lつの結晶相の転移と融点に対応するピークのみが観察

    できた。

    図2. 3にDAQP(n-5)のDSC曲線を示す. DAQP(n-4)と同様に633K付近より昇華が始

    まるため, 1Hから1Cへの折り返しを620Kで行ったo 2Hにおいて335及び493Kに結晶

    相の転移に対応する吸熱ピークが観察され, 594Kに融点に対応する吸熱ピーク、

    653Kに透明点に対応する吸熱ピークが観察される。 600-653Kの間でSA相を示すこ

    とは後で述べる偏光顕微鏡観察によって確認された。以下に述べるアルキルオキ

    シ基の炭素数(n)が6以上の高級同族体の液晶相についてはすべて偏光顕微鏡観察

    により相の同定を行った。

    図2. 4にDAQP(n-8)のDSC曲線を示す。 1Hにおいて374と466K付近に結晶相の転移

    に対応するブロードな吸熱ピークが観察され, 575Kで結晶相からSA相への転移、そ

    して617KでSA相から等方性液体への転移が見られる。 2Hでは結晶相の転移温度のシ

    フトが見られたが, SA相は柑と同じく575-618Kに見られた。なお,昇華性はnの小

    さい化合物に比べてかなり低下しているが,等方性液体で630K付近より昇華が始

    まった.なお, DAQP(n-6,7)のDSC曲線では, n-6の化合物に対しては587-640K、

    n-7の化合物に対しては580-623KでSA相が観察され, n-8の化合物の挙動に類似し

    ていた。

    図2. 5にDAQP(n-9)のDSC曲線を示す。 1Hにおいては402, 439及び452Kに結晶相の

    転移に対応する吸熱ピークが観察され, 565Kで結晶相はSA相に転移し, 597KでSA相

    ll

  • はSc相に転移している.そして600KでSc相は等方性液体へと転移している。この化

    合物を境にして液晶相のタイプはSAからSc相へと変化している。

    DAQP(n-12)では,例えば図2. 6のDSC曲線で見られるように545-573KでSc相を示

    す。また, 1Hにおいては407, 422及び445Kに結晶相の転移に対応する吸熱ピ-ク

    が見られる。なお、 DAQPのnが10,ll,13,14及び15の化合物については、それぞれ

    558-589K, 549-579K、 539-565K、 534-558K及び529-550KでSc相を示した。 DSC

    曲線はn=12の化合物とよく似ていた。

    図2. 7にDAQP(n=16)のDSC曲線を示す。 1H及び2Hにおいて533-546Kの間でSc相が

    観察される. 1Cにおいては542Kに透明点に対応する発熱ピークが見られる。また,

    他のDAQPでは昇温過程と降温過程の透明点のピークトップの差が1K程度であるの

    に対し、ここでは4Kの差がある。 1I及び2Hにおいて533Kに見られたピ-クは1Cに

    おいては低温側に8Kシフトして525Kに見られ,凝固点と重なっている。昇温過程

    においては533-546K,降温過程においては525から542Kの間でSc相を形成している.

    ところで昇温過程における533KのDSCピークでは結晶相との急激な変化が偏光顕微

    鏡組織観察には見られなかった.しかしこのDSCの533Kのピ-クは降温過程では

    525Kに見られ,過冷却のような現象を示す。したがって, 533Kのピークは結晶の

    融点と考えた。

    DAQPのn=17及び18の化合物はそれぞれ519-542K及び525-542KでSc相をもってい

    た。 DSC曲線はn=12の化合物と類似していた。

    表2. 3にDAQP同族体(n=1-18)のDSC測定の第2昇温過程のデータから求めた相転

    移温度ならびに相転移におけるエントロピー変化の値を示す。結晶相の転移が分

    裂した場合には変化の最も大きい温度を示した。 n=l-3の化合物の透明点は昇華

    性のため求めることができなかったため,混和性試験より求めた値を掲載した。

    融点,透明点についてはnの数が増えるにつれて低温側にシフトしており、また液

    晶相を示す温度範囲も少しずつ小さくなっていることがわかる。 n=4及び5の化合

    物の透明点におけるエントロピー変化の値は、昇華が起こっているものの他の

    DAQPの値とオーダー的にはよい一致を示している。

    融解に伴うエントロピー変化はn=4及び5の化合物では小さい値を示しているが、

    他の同族体では25J・mol11・Kl程度であることがわかる。 n-4及び5では融点より6-

    7K低温域に1つの結晶相の転移があるが,このエントロピー変化と上記の融解エン

    12

  • トロピーとの和はn-4では14,またn-5では21J・mol11・Klである。この値は他の同族

    体の融解エントロピーと同程度である。このようなことより融解エントロピーが

    アルキル鎖長にはとんど依存していないことから,融解に対する分子の乱れが主

    にクオーターフェニル間同士の相互作用に起因していることが推察される.透明

    点のエントロピー変化については非常にわずかではあるが奇偶効果を示しながら

    ァルキル鎖長に比例して増大しているo結晶相の転移については、炭素敷か4ない

    しは5ごとに転移の数及びエントロピー変化の大きさが変化しているように思われ

    る。

    図2. 8に第2昇温過程におけるDAQPの転移に伴うエンタルピー変化の総計(∑△H)及

    びエントロピー変化の総計(∑△S)をアルキルオキシ基の炭素数(n)に対してプロッ

    トしたものを示す。 n-l-4については∑△H, ∑△S共にはぼ同じオーダーの値を示し

    ている。 n-4-9の間では奇偶効果が見られ,屈曲性のアルキル鎖の相互作用が強

    く現れていることがわかる。 n-9-17においてはわずかに奇偶効果は現れているが,

    nが増大するにつれて∑△H, ∑△S共に単調に増加している。

    13

  • 図2.2 DAQP(n=41のDSC曲線

  • g†

    ≦†

    400丁/K

    500

    図2.5 DAQP(n=9)のDSC曲線

  • g†

    ≦1

    300 400丁/K 500

    図2.6 DAQP(n=12)のDSC曲線

  • g†

    ≦1300 400 500

    丁/K

    図2.7 DAQP(n=16)のDSC曲線

  • 表2.3 DAQP同族体の相転移温度(K)/相転移のエントロピー変化(J・

    mol~1・ K~')

    H 2n+a nO p o o o) OC nH 2∩+1

    C4 Sc SA

    Eg

    1 ●

    2 ●

    3 ●

    4 ●

    5 ●

    6 ●

    7 ●

    8 ●

    9 ●

    10 ●

    11 ●

    12 ●

    13 ●

    14 ●

    15 ●

    16 ●

    17 ●

    18 ●

    604/ 17

    548/ 16

    529/ 16

    520/ 17

    335/ 29

    344/ 17

    380/ 39

    353/ 10

    396/ 57

    397/ 53

    409/ 72

    403/ 68

    412/ 76

    411/109

    415/122

    414/136

    416/162

    404/ 74

    610/ 8

    493/16

    476/14

    454/ 5

    481/ 8

    439/ 5

    433/13

    427/16

    422/16

    418/ 7

    445/ll

    444/ll

    444/ll

    444/10

    464/ 9

    594/13

    463/15

    453/14

    449/14

    447/14

    446/13

    445/12

    - 626/21- 637/16- 631/16- 617/ 6

    ● 600/ 9- 587/20● 580/23

    -

    575/24● 566/22● 558/23● 549/25● 545/26● 539/25- 534/25-

    529/26

    524/28 ● 533/ 5-

    519/36-

    525/33

    ● 665a)/● 678a)/● 680a)/● 670/15● 653/14● 640/14● 623/16● 618/19

    ● 597/3 ● 600/15● - 589/22● - 579/25● - 573/26● - 565/24● - 558/24● - 550/28● - 546/25● - 542/31● - 542/26

    a)混和性試験より求めた価

  • 200

    ▼~

    I

    lo

    ≡■l

    ⊇■100ii::ヨ

    3:

    A

    レ叫

    5 10 15

    〟/ carbon number

    ▼~

    J

    :∠「

    i-

    -o

    ≡■

    ■]

    U〉

    A

    レ叫

    300

    図2.8 第2昇温過程におけるDAQPの転移に伴う全工ンタルピー変化

    (∑△18及び全エントロピー変化(∑△S)のnに対するプロット

    2l

  • 2.4.2 偏光顕微鏡観察の結果と考察

    図2. 9に降温過程で撮影したDAQP(n=5-8)の偏光顕微鏡写真を示す。なお写真は

    直交ニコル下,倍率は100倍である. (a)は, DAQP(n=5)の611Kにおける組織写真を

    示す。右上の方に扇状(フアン)組織,それ以外の部分には多角形(ポリゴナ

    ル)組織が見られた。これらはSA相に特有な組織であり, SA相を示すことが見出さ

    れた. (b)はDAQP(n=6)の625K, (c)はDAQP(n=7)の616K, (d)はDAQP(n=8)の580Kに

    おける組織写真を示す。すべての写真においてファン組織が見られることからSA相

    を示すことが見出された。

    図2. 10に降温過程で撮影したDAQP(n=9)の偏光顕微鏡写真を示す. (a)は598K,

    (b)は588K, (c)は569Kにおける組織写真である。 (a)においてはフアン組織が見ら

    れ、 SA相を示していることがわかる。 (b)は(a)と同一の部分を撮影したものである

    が,右半分の部分には乱扇状(ブロークンファン)組織が見られる。これはSc相に

    見られる典型的な組織であり, Sc相であると同定した。 (c)は(b)の写真の右斜め上

    の部分を撮影したものであるが, (c)の右上の部分にはブロークンフアン組織に加

    えてシュリーレン組織が見られる。ブロークンフアンとシュリーレン組織が同時

    に観測されるのは、 Sc相の特徴の一つであり,このことからもSc相を示しているこ

    とが裏づけられた。

    図2. 11に降温過程で撮影したDAQP(n=10, 12. 13及び18)の偏光顕微鏡写真を示

    す. (a)はDAQP(n=10)の585K, (b)はDAQP(n=12)の567K, (c)はDAQP(n=13)の557K,

    (d)はDAQP(n=18)の527Kにおける組織写真であるo (a), (c)においてはブロークン

    フアンとシュリーレン組織が同時に見られ, (b)ではブロークンフアン組織, (d)

    ではシュリーレン組織が見られる。以上のことからこれらはすべてSc相であると同

    定した。なお、 n=ll, 14, 15及び17においても同様の組織が観測され, Sc相を示す

    ことが見出された。

    図2. 12にDAQP(n=16)の偏光顕微鏡写真を示す。 (a)-(c)は降温過程, (d)及び

    (e)は昇温過程において撮影したものである. (a)は533Kにおける組織写真であり,

    シュリーレン組織が見られることからSc相であることがわかる。 (b)は525Kにおけ

    る組織写真であるが,部分的にシェリーレン組織が残っているo (c)は513Kにおけ

    る写真であり,これは完全に結晶状態になっている。 (d)は(c)の状態から昇温し,

    22

  • 526Kで撮影したものであるが, (c)と比べると部分的に乱れていることがわかるo

    (d)から徐々に昇温すると(d)の写真にみられた部分的な乱れが広がり, (e)の状態

    になる. (e)はDSC測定で見られた結晶相-Sc相転移温度(533K)より高温の536Kで撮

    影したものであり、シュリーレン組織が見られる。 (b), (d)の写真からは組織が

    部分的に乱れていることだけはわかる。したがって図2.7のDSC曲線のICにおける

    523-525K及び昇温過程における524-533Kの相は、結晶相と考えられる。

    23

  • (a) DAQP(n=5):降温過程. XIOO. at 611K

    (b) DAQP(n-6):降温過程, XIOO. at 625K

    図2. 9 DAQP同族体の偏光顕微鏡写真

    二:J

  • (c) DAQP(n=7):降温過程, XIOO. at 616K

    (d) DAQP(n-8):降温過程. XIOO. at 580K

    図2. 9 DAQP同族体の偏光顕微鏡写真

  • (a)降温過程, ‡100

    at 598K

    (c)降温過程. XIOO

    at 569K

    図2.10

    (b)降温過程, ‡100

    at 588K

    DAQP (n-9)の偏光顕微鏡写真

    -・il

  • (a) DAQP(n-10):降温過程. XIOO. at 585K

    (b) DAQP(n-12):降温過程. X100. at 567K

    図2. ll DAQP同族体の偏光顕微鏡写真

    j''.:

  • (c) DAQP(n=13):降温過程. XIOO. at 557K

    (d) DAQP(n=18);降温過程, X100. at 527K

    図2. ll DAQP同族体の偏光顕微鏡写真

    :I:モミ

  • (a)降温過程, Ⅹ100

    at 533K

    (c)降温過程, ‡100

    at 513K

    (b)降温過程. XIOO

    at 525K

    図2. 12 DAQP(n-16)の偏光顕微鏡写真

    :‖、l

  • (d)昇温過程, XIOO. at 526K

    (e)昇温過程. X100. at 536K

    図2. 12 DAQP(n-16)の偏光顕微鏡写真

    1l、!

  • 2.4.3 混和性試験の結果と考察

    混和性試験を行う際には,できるだけ分子の形が類似したもので行うのが良い

    とされている。 DAQPのn=l-4は昇華性が強いために単独では液晶相の同定ができ

    なかった。したがって, DAQP(n-l-4)の相は基準物質としてSA相を示すことが確認

    されたDAQP(n=8)を用い、 DSC測定により混和性試験を行い決定した。

    図2. 13に混和性試験により得られた2成分系の相図を示す。 (a)はDAQP(n=l),

    (b)はDAQP(n=2), (c)はDAQP(n-3), (d)はDAQP(n=4)の結果を表している。すべて

    の化合物がDAQP(n-8)と混和し, SA相を示すことが確認された。透明点のDAQP(n-8)

    に対するプロットははぼ直線となっており、混合液晶は正則溶液的に振る舞うこ

    とがわかった。 n=l-3の化合物の透明点はDAQP(n=8)の濃度を0に外挿することに

    より求めた。求められたDAQP(n=l, 2及び3)の透明点はそれぞれ, 665, 678及び

    680Kとなった.

    31

  • 660

    600

    660

    660

    600

    660

    600

    O

    DAQP(n=1 -4)

    50

    moI%

    図2. 13 DAQP(n=l, 2, 3トDAQP(n=8)の2成分系相図

    32

    100

    DAQP(n=8)

  • 2.5 結果と結論

    DAQPの液晶相転移温度とアルキルオキシ基の炭素数(n)の関係をまとめて図2. 14

    にプロットした。 Cは結晶、 SAはスメクティツクA相, ScはスメクティツクC相, Ⅰは

    等方性液体相を表す。 DAQPは長く、かたいクオーターフェニル基のために液晶の

    熱安定性は非常に高いことがわかる。 a-I-9の化合物についてはSA相をまたn-9-

    18の化合物についてはSc相を示すことが確認された。またn-3-18ではnが増加する

    につれて透明点は奇偶効果を示しながら徐々に低下し,また液晶温度域も小さく

    なることがわかった。

    33

  • 700

    5 10

    〟/ carbon number

    15

    図2.14 DAQP同族体の液晶相転移温度のアルキルオキシ基の炭素数(∩)に対するプロット

    34

  • 第3章 ジアルキルタオーターフェニルー4. 4‥'-ジカルポキシレートの

    液晶相転移

    3.1序

    本章では,クオーターフェニルの両末端にアルキルオキシカルポニル基を導入

    したジアルキルタオーターフェニルー4. 4‥'-ジカルポキシレート(以降DCQPと

    略す)の液晶相転移について述べる。直鏡アルキル誘導体としてプロピル

    (DCQP(n=3)),プチル(DCQP(n=4)) 、ペンチル(DCQP(n-5)) ,オクチル

    (DCQP(n=8))及びドデシル(DCQP(n-12))の化合物,また分岐アルキル誘導体と

    してイソプロピル(DCQP(i3)),イソプチル(DCQP(i4))

    、 2-エチルへキシル

    (DCQP(2EH))及びシクロへキシル(DCQP(CⅡ))の液晶相転移挙動を検討し,アル

    キル鏡の長さと分岐に対する液晶相の出現と熱安定性について詳細に調べている。

    35

  • 3.2 合成

    3.2.1ジアルキルクォーターフェニルー4, 4‥'-ジカルポキシレート(DCQP)

    の合成

    DCQPの合成は斉藤らの方法37)を基にして以下のように行った。

    ヽ\ヽ\

    H2S 04,HCl

    renux

    COOH + CnH2m+10H

    ヽ\ヽ\

    ヽ\ヽ\

    Ⅲ2m+1CnOOC

    COOCnH2n+1

    COOCmH2n+1

    RONa / EG

    Pd/C, 110℃

    ヽ\ヽ\ヽ\ヽ\COOCnH2n+1

    例として,ジプロピルクォーターフェニルー4. 4…-カルポキシレート(DCQP

    (n=3))の合成法について述べるo なお、プロピル4-ブロモビフェニルー4'-カルポ

    キシレートの合成は, 4-ブロモビフェニルー4'-カルポン酸をプロピルアルコール

    に溶解させ,触媒として濃硫酸及び濃塩酸を加えて還流することにより行った。

    36

  • 還流冷却器を備えた300mlの三つロフラスコに溶媒としてエチレングリコール

    100mlを入れ,合成したプロピル4-ブロモビフェニルー4'-カルポキシレート

    6.4g(0.02mol),ナトリウムプロピラート3.3g(0.04皿01)及び5%Pd-C触媒

    0.9g(0.4m皿01)を加え, 110℃で20時間加熱撹拝した。反応溶液を室温まで冷却し

    た後,水200ml及び塩酸を加えて溶液を中和し,沈澱物を涼別した。沈澱物をジメ

    チルホルムアミド500皿1に加熱溶解させ,熱時渡過をすることにより残留したPd-C

    を除去し,粗結晶を得た。この粗結晶をトルエンで2回再結晶し,無色透明の結

    晶を得た(収量0.6g,収率12.5%)0

    .試料の同定は、元素分析,質量分析及び赤外分光分析法を用いて行った。元素

    分析及び質量分析の結果を表3. 1に示す。また、赤外スペクトルの帰属を表3.2に

    示す。得られた試料は元素分析及び質量分析の結果が理論値と一致していること

    及び示差走査熱量分析における融解のピークが鋭く変化していることから純粋で

    あると判断した。

    3.3 実験方法

    DSC測定,偏光顕微鏡観察及び混和性試験は,第2章3節に述べたのと同じ方法で

    行った。

    37

  • 表3. 1 ∝肝同族体の元素分析及び質t分析のデータ(ROOC

    ・C6H4C6H4C6H4C6H41COOR)

    R C alculate dFormula Found m/e

    propy1 80. 3 1

    buty1 80. 60

    penty1 80. 87

    octy1 81.51

    dodecy1 82. 1 5

    isopropy1 80. 3 1

    isobuty1 80. 60

    2-e血ymexy1 81.51

    clobex 1 81.69

    6.32 C32H3004

    6.76 C34H3404

    7.16 C36H3804

    8.14 C42H5004

    9.10 C50H6604

    6.32 C32H3004

    6.76 C34H3404

    8.14 C42H5004

    6.86 C38H3804

    80.12

    80.63

    80.80

    81.23

    82.18

    80.31

    80.42

    81.35

    81.71

    6.24 478,436

    6.81 506,450

    7.11 534,464

    7.98 618,506

    9.30 730,562

    6.28 478,436

    6.75 506,450

    8.30 618,506

    6.81 558

    表3.2 ∝(P同族体の赤外スペクトルの帰属

    波数[甜11] 帰属

    29 70-2 830

    1716

    1275・づ5

    1120-一oo

    770・巧0. 830J1 5

    71 51695

    脂肪族仙伸抽長軸

    凹伸轟振動(工l沖)

    C・u逆対称伸籍振動(エステル)0 " 逆対称伸嶺撮動(エス沖)

    芳香族C=式日面外変角振動

    芳香族Cl:1:面外変角振動

    38

  • 3.4 結果と考察

    3.4.1 DSC測定の結果と考察

    図3. 1にDCQP(n=4)のDSC曲線を示す。この化合物は透明点付近より分解が始まる

    ため、第1昇温過程(1H)から第1降温過程(1C)への折り返しは570Kで行った。なお

    試料の分解は、 DCQP(n=3及び5)についても見られたため透明点以下の温度で折り

    返した.第2昇温過程(2H)においては450Kで結晶相の転移に対応する吸熱ピークが

    且られ, 446Kに分裂したピークが見られるo そして516Kで結晶相から液晶相への

    転移の吸熱ピ-ク(融点)が見られ、 635Kで液晶相から等方性液体への転移の吸

    熱ピーク(透明点)の吸熱ピークが見られるo 516-635Kの液晶相は後述の混和性

    試験の結果からSA相を示すことが確認された。 DCQP(n-3及び5)のDSC曲線は基本的

    にはn=4の化合物のDSC曲線と同じであった。 n=3及びn=5の化合物はそれぞれ537-

    657K及び503-619KでSA相を示した.

    図3. 2にDCQP(n=8)のDSC曲線を示す. 2Iにおいては462Kに結晶相の転移、 472Kに

    融点が観察され、 572Kに透明点が観察されるo また, 553KにSA-Sc液晶相転移に対

    応する非常に小さな吸熱ピークが見られる。ここで, SA及びSc相は偏光顕微鏡観察

    によって決定されたo DCQP(n-12)のDSC曲線は, 454-527KでSc相, 527-534KでSA

    相が存在することを示した。

    図3. 3にDCQP(2EH)のDSC曲線を示す。図からわかるように345-450Kの温度域にSc

    相が見られた。 1?においては345Kの融点の吸熱ピ-クにわずかな分裂が見られる

    が, 2Hにおいては345Kに単一の吸熱ピークのみが観測される。 1Cにおいては凝固

    点に対応する発熱ピークは331と328Kに分裂する。この化合物で注目したいのは,

    図3. 2と比較しても判るようにDCQP(n=8)などと比べてSc液晶温度域が広いことであ

    る。また、クォーターフェニルというかなりかたいcoreを持ちながら、常温にか

    なり近い温度、即ち345KよりSc液晶相を示すという点は新しいSc‡相等の応用面へ

    の期待がもたれる。

    表3. 3にDCQP同族体のDSC測定の第2昇温過程のデータから求めた相転移温度及び

    相転移におけるエントロピー変化の値を示す。結晶相の転移が分裂した場合には

    変化の最も大きい温度のみを示した。 n=3, 4. 5, 8及び12の化合物については相

    39

  • 転移温度が他の研究者により報告されているので比較のためその値も掲載した。

    融点、透明点共に相転移温度は文献値とは良い-一-・一致を示しているものと思われる。

    DCQP(C))についてはDSC測定から透明点に対応するピークが検出されなかったため

    偏光顕微鏡観察から求めた値を示した。

    直鎖アルキルと分岐アルキルで比較してみると、直鎖アルキルの方が透明点は

    高く,透明点におけるエントロピー変化も大きい。 DCQP(n=4)とDCQP(i4)で融点に

    おけるエントロピー変化を見るとDCQP(i4)の方が圧倒的に大きいが、結晶相の転

    移におけるエントロピー変化をたしたものを比較してみるとはぼ同じぐらいの大

    きさになっていることがわかる。 DCQP(n=3)とDCQP(i3)の比較では、融点でのエン

    トロピー変化も結晶相の転移におけるエントロピー変化のたした値もはぼ同じぐ

    らいの大きさになっている。このことから、液晶相に至るまでに分子のパッキン

    グのトータルの乱れる度合いははぼ同じであることがわかる。

    40

  • 図3.1 DCQP(n=4)のDSC曲線

  • g†

    胃。

    丁/K

    図3.2 DCQP(n=8)のDSC曲線

    42

  • g†

    ≦†

    図3.3 DCQP(2EH)のDSC曲線

    43

  • 表3.3 DCOP同族体の相転移温度(K)/相転移のエントロピー変化(J. rTDI~1・ K-1)

    Roo° p o o tj OOR

    Compound R CI C2 C3 Sc SA 工

    DCQp(n=3)

    DCQP (n=4)

    DCQP(n=5)

    DCQP(n=8)

    DCQP(n=12)

    DCQP(土3)

    DCQP(土4)

    DCQP (2EH)

    DCQP (CH)

    propyl

    buヒyl

    pen亡yl

    oc亡yl

    dodecyl

    i 80prOpYli 80buty12-e亡hylhexyl

    cyc lohexyl

    ● 423/30 ●

    ● 450/25 ●

    ● 459/41 ●

    ● 462/42 ●

    ● 463/18 ●

    ● 461/ 1 ●

    ● 345/56 -

    ● 514/47-

    537/16-

    - 542a)-

    516/16-

    - 517a)- 503/15 -

    - 507a)- 472/17 ● 553/1- 482a)- 454/79 ● 527/3- 453a)

    481/ll ● 497/18 ●

    475/47- ●

    ● 657/ 3- 629a)

    ● 635/10- 624a)

    ● 619/ll- 615a)

    ● 572/13- 588a)

    ● 534/12- 543a)-

    540/-

    553/- 450/

    0.4

    0.6

    7

    - 534b)/

    a)文献18,以前の報告ではスメクティツク相を示すことが見い出された。b)偏光顕微銀概察より得られた価

  • 3.4.2 偏光顕微鏡観察の結果と考察

    図3.4に降温過程で撮影したDCQP(n-8, 12)の直交ニコル下,倍率100倍での偏光

    顕微鏡写真を示す。 (a)は, DCQP(n=8)の488K, (b)はDCQP(n=12)の475Kにおける組

    織写真であり、両者共にシュリーレン組織が見られ、 Sc相を示していることが見出

    された。 n-8, 12はそれぞれ553, 527K以上でホメオトロピック配向しやすいため,

    良好な写真を撮影することは出来なかったが、 SA相によく見られるファン組織の一

    部を観測することが出来た。

    図3.5に降温過程で撮影したDCQP(i3, i4, 2EH及びCH)の偏光顕微鏡写真を示す。

    (a)はDCQP(i3)の508K、 (b)はDCQP(i4)の535K、 (c)はDAQP(2EH)の432K、 (d)は

    DAQP(CH)の523Kにおける組織写真である。 (a), (b)においてはシュリーレン組織

    が見られ, Sc相を示していることが見出された。 (c)においては写真の右半分と左

    半分で色が異なるが共にシュリーレン組織が見られる。左半分を見ると1点から

    4本のブラッシュが出ているのがわかるが、これはSc相に見られるシュリーレン組

    織に特徴的なものである。 (d)においては組織は細かくなっているが(c)と同様の

    組織が見られる。以上のことからこれらはすべてSc相であると同定した。

    45

  • (a) DCQP(n=8):降温過程. XIOO, at 488K

    (b) DCQP(n-12):降温過程. XIOO. at 475K

    図3. 4 DCQP同族休の偏光顕微鏡写真

    Ea

  • (a) DCQP(i3):降温過程. XIOO. at 508K

    (b) DCQP(i4):降温過程, XIOO, at 535K

    図3. 5 DCQP同族体の偏光顕微鏡写真

    47

  • (c) DCQP(2EH):降温過程. XIOO. at 432K

    (d) DCQP(CE):降温過程. XIOO. at 523K

    図3. 5 DCQP同族体の偏光顕微鏡写真

    48

  • 3.4.3 混和性試験の結果と考察

    DCQP(n=3-5)は透明点が高く,等方液体相で熱分解するので液晶相の同定を偏

    光顕微鏡観察で行うのが困難であった。したがってこの液晶相の同定のため

    DAQP (n=8)との混和性試験をDSC測定で行った。

    図3. 6に混和性試験により得られた2成分系の相図を示す。 (a)はDCQP(n=3)、 (b)

    はDCQP(n=4), (c)はDCQP(n=5)の結果を表している。すべての化合物がDAQP(n=8)

    と混和し、 SA相を示すことが確認された。透明点の組成に対するプロットは多少膨

    らみを持っているのがわかる。 DCQPとDAQPでは末端基がアルキルオキシ基とアル

    キルオキシカルポニル基というように異なっているため,何らかの相互作用をし

    ていることが推察される。

    49

  • 700

    600

    500

    600

    500

    0 50 100

    DCQP(n=3-5) mOl% DAQP(n=8)図3.6 DCQP(n=3,4,5トDAQP(n=8)の2成分系相図

    50

  • 3. 4. 4 DCQPの液晶相転移挙動の比較検討

    表3. 4にDCQPの直鎖アルキルと分岐アルキルで比較した相転移挙動,液晶相の温

    度範囲(△T)及び透明点の温度差(△Ti)を示す。 △Tiは,直鎖アルキルの透明点

    から分岐アルキルの透明点を引いた値を表している。液晶相のタイプで比較して

    みると、直鎖アルキルの場合にはSA相、分岐アルキルの場合にはSc相を示している

    ことがわかる。 SA及びSc相は共に層状の構造を持っているが、前者の場合には層辛

    面に対して分子の長軸が垂直に並んでおり、後者の場合には層平面に対して分子

    の長軸がある角度だけ傾いている。分岐アルキルの場合にSc相になるのは,分岐し

    た部分が分子間のパッキングを乱し,分子が傾いた方が安定に存在できるためと

    考えられる。

    液晶相を示す温度の幅についてはプロピル,プチル共に直鎖アルキルの方が広

    いことがわかる。ただし, 2-エチルへキシルの場合には温度幅がある程度維持さ

    れている。分岐の位置や分岐の仕方で液晶形成能が変わることは予想されるが,

    比較の対象が少ないために詳細な議論をすることはできなかった。

    透明点に関しては分岐アルキルの方が低く,分岐によりプロピルでは117K、プ

    チルでは82K低下している。 2-エチルへキシルについてもプロピルやプチルと比較

    してみると透明点はかなり低いことがわかる。液晶の熱安定性という観点から、

    アルキル基の分岐はその熱安定性を低下させる効果があると言える。

    表3.5に、 DCQPとコアの部分がターフェニルになった化合物(DCTP)の相転移挙動,

    液晶の温度範囲(△T)及び透明点の温度差(△Ti)を示す。ここでの△TiはDCQPの

    透明点からDCTPの透明点を引いたものを表している。 DCTPについては, Demusらの

    値を用いた36)0

    相転移の挙動についてはDCQP, DCTP共に同一の液晶相を示していることがわか

    る。 n-5の場合にはSA相、 n-8の場合にはSA及びSc相を示している。液晶相のタイプ

    に関してはコアの部分よりも末端基の効果の方が強く反映されていることが示唆

    される。

    液晶相を示す温度範囲についてはDCQPの方がDCTPより広く、 n=5では56K、 n=8で

    は68K広くなっている。このことから、コアの形状がより棒状になった方が液晶形

    成温度範囲は広くなることが言える。

    5l

  • 透明点に関してはDCQPの方が高く,液晶の熱安定性は向上している。大ざっば

    に見れば,ベンゼン環が1つ増えるごとに約100K高くなると言える.

    表2.3と表3.3を用いて比較してみると、透明点は全体的にDAQPの方がDCQPより

    高く, C=0の部分を炭素1つ分と見て比べても10-30Kはど高く,液晶の熱安定性は

    DAQPの方がDCQPよりも高いことがわかる。液晶相を示す温度範囲についてはDCQP

    の方が50-70Kはど広くなっており,液晶形成温度範囲はDCQPの方がDAQPよりも優

    れていることが言える。

    図3.7にDCQPの液晶相転移温度をアルキル基の炭素数(n)に対してプロットした

    ものを示す。 n=3, 4, 5, 8及び12以外はDe皿uSらの結果を用いた。この図から, n

    が5以下の化合物についてはSA相を発現し, 8-12の間ではSA及びSc相を示すことが●

    わかる。 n=6. 7に関しては本研究では検討していないが, SA相を示す可能性がある

    と考えられる。

    52

  • 表3.4 DCQP同族体の相転移.液晶温度範囲(AT)及び透明点の比較

    R Phase transition/K AT/K ATi/K

    propyl

    b utyl

    isopropyl

    isobuty1

    2・ ethylhexyl

    C537SA657I

    C516SA635I

    C497S c540I

    C475Sc553I

    C345Sc450Ⅰ

    ATi = ATi n.,- ATi is.: ATi

    n.,.正銘アルキル基の透明点;ATi

    is..分岐アルキル基の透明点

  • 表3. 5 DCQP同族体の相転移.液晶温度範囲(AT)及び透明点のDCTP同族体との比較

    Compound Phase transition /K AT/K ATi/K

    DCQP(n=5)

    DCTP(n=5)

    DCQP(n=8)

    DCTP(n=8)

    C503SA619I

    C413SA473I

    C472Sc553SA572I

    C41 1Sc424SA443Ⅰ

    ATi = ATiquat

    ・ ATite,:

    ATiquat.DCQPの透明点;

    ATite,.DCTPの透明点

    Hュm+1CnOOC

    ヽ\ヽ\ヽ\

    DCTP

    COOCnH2n+1

  • 700

    600

    500

    0 5 10- 15

    〟/ carbon number

    図3.7 DCQP同族体の液晶相転移温度のアルキル基の炭素数(∩)に対するプロット

    55

  • 3.5 結論

    一連のDCQPの相転移を検討した結果,直鎖アルキルDCQPではアルキル鎖の炭素

    数nが5以下ではSA相, n-8-12ではScとSA相が見られた。分岐アルキル基の導入は

    液晶の熱安定性を低下させることがわかった。液晶相のタイプに関しては直鎖ア

    ルキル基ではSA相,分岐アルキル基ではSc相を形成しやすいことが見出された。

    2-エチルへキシル化合物(DCQP(2EⅡ))に関しては液晶領域が常温にかなり近く,

    液晶相の温度範囲が100K近くあることから応用への期待がされる.また,光学活

    性基を導入した場合には強誘電性液晶になることが予想され,この観点からも興

    味深い物質であることが言える。

    56

  • 第4章 クォーターフェニル共重合ポリエステルの物性

    4.1序

    液晶分子をハードセグメントとするブロック共重合体は新しいタイプの熱可塑

    性エラストマーとして注目されてきている。仁木らは,図4.1に示したハードセグ

    メントとしてクオーターフェニルを含む共重合ポリエステルを合成し,その構造

    と物性を‡線構造解析,動的粘弾性、 DSCにより検討している3卜35)。それによると

    このポリマーは,クォーターフェニルからなるハードセグメントドメインとアジ

    ピン酸及びエチレングリコールからなるソフトセグメントドメインがミクロ相分

    離構造を取ることが確認されており、ハードセグメントドメインは結晶あるいは

    液晶のような秩序構造をもち、物理的架橋点として働くことが報告されている。

    \\\へ\\\\

    0 0 o o

    o-g.cH2,4岩-o七(o.cH2'201g'CH2'.ピーo七

    4・4…-ジヒドロキシクオーターフェニルーエチレングリコールー

    アジピン鞍共重合体

    図4.1クォーターフェニルを含む共重合ポリエステルの構造

    本章は,クォーターフェニルの含量がそれぞれ2.50. 3.75, 5.00. 7.50及び

    10.Omol%の共重合ポリエステルに対してDSC測定,誘電測定,直流電気伝導度測定、

    ならびにねじれ振動法による動的粘弾性測定を行い、ハードセグメント,ソフト

    セグメントの相分離構造及び分子運動について新しい知見を得た結果を述べてい

    る。

    57

  • 4.2 実験方法

    4.2.1試料

    クオーターフェニルを含む共重合ポリエステルは積水化学工業(秩)より提供

    されたものである。

    ここでは,この共重合ポリエステルをDHQポリマーとし、クォ-ターフェニルの

    含量が低濃度のものからDHQl, DHQ2のように略記する。クォーターフェニル含量

    と略称との対照表を表4. 1に示す。

    表4.1クォーターフェニル含量と略称との関係

    クオーターフェニル濃度(mol%)

    DHQI

    DHQ2

    DⅢQ3

    DHQ4

    DⅢQ5

    4.2.2 DSC測定

    DSC測定は、セイコー電子工業(秩)製SSC5000熱分析システムを用いて210-

    573Kの温度範囲で昇降温速度10K/minにて行った。

    58

  • 4.2.3 誘電測定

    誘電測定は, YHP社製4274AマルチフリクェンシLCRメーターを使用し,周波数域

    100Hz-100kHzの11種の測定周波数で100-420Kの温度範囲にて行った。測定用電

    極としては、主電極,対電極及びガード電極からなる3端子電極を用いた39・40)。こ

    こで試料はl.Omm程度の厚みのシートで、その表面に金蒸着することにより電極と

    した。これを上記の測定電極に挿入して測定した.なお,測定は0.5K/minの昇温

    速度において行った。温度の検出には,熱電対として鉄-コンスタンタンを用い,

    試料と氷点との間の電位差をタケダ理研社製デジタルマルチメータTR6841で測定

    した。

    LCRメータ-においては静電容量(C)及びtan8が測定され,これをGP-IBインター

    フェイスを通じてNEC社製パーソナルコンピュータPC-9801Fに転送し、次式により

    誘電率(e')及び誘電損失(e'')の値を得た。

    E'- C/Co

    e"- e'tan8

    ここで、 Coは真空における静電容量である。

    4.2.4 直流電気伝導度測定

    直流電気伝導度測定は,約37Vの直流電圧(Ⅴ)を印加してKEITHLEY社製610Cエレ

    クトロメーターを用いて240-420Kの温度範囲で伝導電流(I)を測定し,横河電機

    社製3057ポータブルレコーダ-で記録することにより行った。なお,測定は

    0. 5K/minの昇温速度において行った.測定用電極及び温度の検出方法については

    誘電測定の時と同じである。

    59

  • 直流電気伝導度(G)は,次式により求められた.

    d I

    A V

    O =

    ここで, dは試料の厚さ[m], Aは主電極の有効面積[m2]である。

    4.2.5 動的粘弾性測定

    ねじれ振動法による動的粘弾性測定は,レスカ社製自由減衰型粘弾性測定装置

    RD-1 100ADを用いて140-580Kの温度範囲で対数減衰率A及び振動周期Tを測定する

    ことにより行われ,貯蔵弾性率(G'),損失正接(tans)及び損失弾性率(G'')が求め

    られた。なお,測定周波数は試料の形状及びヤング率により異なるが0.2-3Ⅱzの

    範囲で行われた. tans. G'及びG''はAとTを使って次式により求められたo

    tans-A/ 7T

    G' - qI(27T/T)2

    G''- G'tan∂

    (q:試料の形状因子, I:付加慣性能率)

    60

  • 4.3 結果と考察

    4.3.I DⅢQポリマーの熱的性質

    図4. 2に各DIQポリマーの第2昇温過程におけるDSC曲線を示す.各試料i=.230K付

    近に二次転移的な変化が,また280Kおよび320K付近にそれぞれ吸熱ピークが見ら

    れる. 230K付近の変化はガラス転移温度(Tg)に対応していると考えられるo DHQポ

    リマーのTgを表4.2に示す。明らかにTgはクオーターフェニルの含量にさはど依存

    していない。

    表4.2 DHQポリマーのガラス転移温度(Tg)

    ポリマー Tg/K

    仁木らは31),クオーターフェニルを含まないアジピン酸とエチレングリコール

    の共重合ポリマー(ホモポリマー)においては結晶部分の融解に対応するピーク

    が318K付近に見られ,クオーターフェニルの濃度が5.00mol%以上ではこのピーク

    が消失することを見出している。したがって本実験で見られたポリマーの320Kの

    ピークは,アジピン酸とエチレングリコールからなるソフトセグメントの結晶部

    分の融解によると結論される。

    図4. 3にDIQl, DHQ2及びDHQ3のDSC曲線を拡大したものを示すo DIQl及びDIQ3に

    61

  • ついては280K付近にブロードな吸熱ピークが明らかに見られる。仁木らは室温で

    の広角X繰回折からDHQポリマーの結晶回折パターンがアジピン酸-エチレングリ

    コールポリエステル(ホモポリマー)のものと異なっており、クオーターフェニ

    ルモノマーの回折パターンとよく一致することを指摘し,クォーターフェニルセ

    グメントは相分離を起こし,結晶化していることを報告している32・34)0 280K付近

    の吸熱ピークは現在のところ良くわからないが,ハードセグメントであるクオー

    ターフェニルがソフ~トセグメントの結晶部分と何らかの相互作用をしている比較

    的乱れた結晶領域があり,これが280Kで融解することによるとして理解されるよ

    うに思われる。少量のハードセグメントの導入はソフトセグメントの結晶部分を

    乱し,ホモポリマーで見られた融点よりも低温側で融解が起きることが推察され

    る。このピークがDHQ2において明白に見られなかった三理由はわからないが,多分

    分子量あるいは熱処理の違いによるためと思われる.この280KのピークがDHQ4及

    びDHQ5で見られないのはクォーターフェニルの含有量が増えることにより相分離

    がさらに明瞭に起きるためと推察した。

    62

  • 400

    丁/K

    図4.2 DHQポリマーのDSC曲線

    63

    gl

    d`⊃=l山

  • d〉くrrT

    d【】ZLJJ

    200 250

    丁/K

    図4.3 DHQポリマーのDSC曲線

    64

  • 4.3.2 DHQポリマーの誘電的性質

    図4.4(a)及び(b)にそれぞれ, DHQlの1. 10, 100kHzにおける誘電率(e')及び誘

    電損失(e")の温度依存性を示す. (a)においては250Kに緩和に対応する変化が見ら

    れ、 295Kに周波数依存のないe'のピーク及び315Kにe'の不連続な変化が観察され

    るo また、 1kHzにおいては360Kに誘電異常が観察されるo e''においては200及び

    250K付近に緩和が見られ,低温側からそれぞれ†及びβ緩和と表すことにするoし

    かし, e'に見られた295及び315Kの変化に対応する変化はe"には見られなかった.

    また低周波数域の高温度域ではイオン伝導によるE"の急激な増加が見られる。 Tg

    は230Kであり, †緩和はTg以下で見られる分子鎖の局所的な運動,β緩和はガラス

    転移に起因するソフトセグメントのミクロブラウン運動によるものと帰属される。

    図4. 5にD(QlのTg以上の高温域におけるe'の温度依存性の拡大図を示すo 295及

    び315Kに見られるe'の変化は、前述したDSC測定から得られたソフトセグメントの

    結晶部分の融解に対応していると考えられる. 360Kに見られた誘電異常について

    はこのデータだけから判断することは出来ないが,ハードセグメント部分の分子

    運動に関係していることが予想される。

    図4.6(a)及び(b)にそれぞれ, DHQ2の1. 10. 100kHzにおけるe'及びe'tの温度依

    存性をそれぞれ示すo (a)においては250Kに緩和に対応する変化が見られ, 280Kに

    わずかに周波数依存している誘電異常及び323Kにわずかなe'の不連続な変化が観

    察される. (b)においてはDIQlと同様に200及び250K付近にそれぞれ†緩和及びβ緩

    和が見られる。

    図4. 7にDHQ2の高温域のe'の温度依存性の拡大図を示すo 280K付近に見られたe'

    のピークはβ緩和と重なっているためわかりにくいが,このことはDSC測定におい

    てはっきりしたピークは得られていないことと一致する。しかし、ソフトセグメ

    ントがハードセグメントにより乱された結晶部分の融解に対応している280Kの変

    化はあるように思われるo 323Kのe'の変化は、ソフトセグメントの結晶部分の融

    解に対応していると考えられるo 3及び5k?zにおいて400Kに見られた誘電異常につ

    いてはこのデータだけから判断することは出来ないが、ハードセグメント部分の

    分子運動に関係していることが予想される。

    図4.8(a)及び(b)にそれぞれ, DIQ3の1, 10, 100kHzにおけるe'及びe"の温度依

    65

  • 存性を示す。 (a)においては250Kに緩和に対応する変化が見られ, 290Kに周波数依

    存性のはとんどない誘電異常が観察される。 (b)においてはDHQlらと同様に200及

    び250K付近にそれぞれγ及びβ緩和が見られる.

    図4. 9にDHQ3の高温域のe'の温度依存性の拡大図を示すo 290K付近に見られるe'

    のピークは,ソフトセグメントがハードセグメントにより乱された結晶部分の融

    解に対応していると推察される。 300及び500Hzにおいて375Kに誘電異常が見られ

    るが、 420K以上にハードセグメント部分の分子運動に関係する変化があることが

    予想される。ここでDHQl及びDHQ2と異なる点は320Kのe'の変化がはとんど見られ

    ないことである.この変化は次に述べるDHQ4及びDHQ5でも見られなかった.この

    ことはハードセグメントのクオーターフェニル含量が増加すると共にかたいクォ

    ーターフェニルが相分離を起こし,ソフトセグメントのアジピン酸-エチレング

    リコール共重合体領域の結晶が融解してもさはど体積変化を起こさず, e'の不連

    続的な変化が非常に小さくなったものと考えられる。

    図4. 10(a)及び(b)にそれぞれ、 DHQ4の1. 10, 100kHzにおけるe'及びe''の温度依

    存性を示す。 250Kにβ緩和が,また190K付近に†緩和が見られる。また, 1kHzにお

    いては350Kに誘電異常が観察される。

    図4. 11にDHQ4の高温域のe'の温度依存性の拡大図を示す. 280K付近には変化は

    見られず, 350Kに誘電異常が見られる。

    図4. 12(a)及び(b)にそれぞれ, DHQ5の1. 10, 100kHzにおけるe'及びE"の温度依

    存性を示すo 200及び250K付近にそれぞれγ及びβ緩和が見られる.また280及び

    320K付近におけるe'及びe"の変化は見られなかったが, 370K付近に誘電異常が見

    られている。

    図4. 13にDHQ5の高温域のe'の温度依存性の拡大図を示す。 370Kに誘電異常が見

    られるが、周波数が増大するにつれて変化は小さくなっている。 DHQ4との比較か

    らは、この誘電異常はクオーターフェニルの含量に比例して高温側にシフトし,

    またピークの大きさは大きくなっている。このことからこの誘電異常はハードセ

    グメントの分子運動によるものであることが示唆される。このことは後述の力学

    的測定においても見られる。

    図4.14にDHQポリマーのβ及びγ緩和に対してアレニウスプロットした結果を示す。

    β及び†緩和共にほぼ直線に載っていることがわかる。直線の傾きから求めた活性

    66

  • 化エネルギーの値を表4. 3に示す。 β緩和の活性化エネルギーは240-280kJ・皿01~lと

    DHQ含量にはさほど依存しないことがわかる。 γ緩和に関してはDHQl及びDHQ2の値

    がそれぞれ93. 4及び80. 6kJ・mol-1とDIQ3-5における53-57kJ・mol-1に比べて大き

    い。これはソフトセグメントの結晶性が大きいことが関係しているように思われ

    る。

    図4.15(a)及び(b)にDHQポリマーの誘電特性をまとめて示した。 (a)はl及び

    look:zにおけるe'の温度依存性, (b)は1kHzにおけるe"の温度依存性を表しているo

    Tg(230K)より低温度域にγ緩和,また高温度域にβ緩和が見られる.β緩和はアジピ

    ン酸-エチレングリコール領域の無定形域のミクロブラウン運動に帰属される。

    クォーターフェニルの低濃度のDHQlでは結晶性が高いためにe''の極大値は小さい.

    またDHQ5ではクォーターフェニルによりソフトセグメントの結晶化は抑圧される

    が,アジピン酸-エチレングリコ-ル領域の割合が減少しe◆'の極大値は少々低下

    しているのがわかるo 280及び320Kの転移はクォーターフェニル濃度が高いDHQ4及

    び5ではかたいクオーターフェニル領域の相領域の架橋効果により見られなくなる。

    67

  • 丁/K

    図4・4(a) DHQlの1,10,100kHzにおける誘電率( e ')の温度依存性

    68

  • 丁/K

    図4.4(b) DHQlの1,10,100kHzにおける誘電損失( e ")の温度依存性

    3E

  • 250 300 350 400丁/K

    図4.5 DHQlの種々の周波数における誘電率(e ')の温度依存性

    70

  • 200

    r/K

    300

    ■\

    図4.6(a) DHQ2の1,10,100kHzにおける誘電率( e ')の温度依存性

  • r/K

    図4.6(b) DHQ2の1,10,100kHzにおける誘電損失( e ll)の温度依存性

    72

  • 300

    丁/K

    350

    U

    図4.7 DHQ2の種々の周波数における誘電率(e ')の温度依存性

    73

    ■ヽ

  • 200 300 400

    丁/K

    図4.8(a) DHQ3の1,10,100kHzにおける誘電率( e ')の温度依存性

    74

  • 200 300 400

    丁/K

    図4.8(b) DHQ3の1,10,100kHzにおける誘電損失( e ‖)の温度依存性

    75

  • 350

    丁/K

    図4・9 DHQ3の種々の周波数における誘電率(e ')の温度依存性

    76

  • 200 300 400

    丁/K

    ■l

    図4.10(a) DHQ4の1,10,100kHzにおける誘電率( e ')の温度依存性

    77

  • 200 300 400

    丁/K

    図4.10(b) DHQ4の1,10,100kHzにおける誘電損失( e ‖)の温度依存性

    78

  • 図4.ll DHQ4の種々の周波数における誘電率(e ')の温度依存性

    79

  • 200丁/K

    300

    図4.12(a) DHQ5の1,10,100kHzにおける誘電率( e ')の温度依存性

    80

  • 丁/K

    U

    図4.12(b) DHQ5の1,10,100kHzにおける誘電損失( e '■)の温度依存性

  • 250 300 350丁/K

    U

    ■l

    400 450

    図4・13 DHQ5の種々の周波数における誘電率(e ')の温度依存性

    82

  • 103T-1 / K-1

    図4.14 DHQポリマーのβ及びγ緩和に対するアレニウスプロット

    83

  • 表4.3..アレニウスプロットから求めたβ及的緩和における活性化エネルギー(AH)

    DHQ content / mol% AH / kJ・mol-1

    259

    282

    236

    246

    282

  • 一山

    h

    200 300 400

    丁/K図4.15(a) DHQポリマーの1及び100kHzにおける

    誘電率( e ')の温度依存性

    85

  • 200 300

    丁/K図4.15(b) DHQポリマーの1kHzにおける誘電損失

    ( e ‖)の温度依存性

    86

  • 4.3.3 DHQポリマーの直流電気伝導度

    図4. 16-20にDHQポリマーの直流電気伝導度(G)の温度の逆数に対する依存性を

    示す。 DHQポリマーはG-1/Tプロットにおいてクオーターフェニルの含有量に関係

    なく280K付近(Tl)に変化が見られ,さらにDJQ5では明瞭ではないが, DIQl-4は

    320K付近(T2)に変化が見られる。これらは前述したようにそれぞれDSCに見られた

    280及び320Kの吸熱ピークに対応し、クオーターフェニル基の関係した比較的乱れ

    たアジピン酸-エチレングリコールエステル鎖の結晶及びアジピン酸-エチレン

    グリコールの結晶域の融解に対応すると思われる。ただし、温度が高くなるにつ

    れてoの温度に対する変化(増加)の程度が小さくなる傾向にあるが、それがどの

    ような機構によるかはここでは明白でない。何か結晶の融解あるいはクォーター

    フェニルの分子運動に関係があるように思われるが,今後検討する必要がある。

    表4. 4に図より求めたuに対する活性化エネルギー及び280K及び320K転移温度(Tl

    及びT2)を示す。 TくTlでのGに対する活性化エネルギーの値は,クォ-ターフェニ

    ルの含量に依存せず、はぼ150kJ・molー1程度であり,またTlくTくT2においては

    70kJ・moll程度である。一方、 T2くTにおける活性化エネルギーの値は40-60kJ・

    mol~~1程度である。前述したように高温域はど活性化エネルギーの値が小さくなっ

    ている理由はここでは明白でないが、クォーターフェニルの秩序構造及び分子運

    動と関係しているかも知れない。この点は今後の課題である。

    87

  • 10-15

    103丁-1 / K-1

    図4.16 DHQlの直流電気伝導度(♂)の温度の逆数に対する依存性

    88

  • 丁/K

    l」lll■

    I

    ≡∽ 10-lloi=±

    b

    10-15

    103丁-1 / K-1

    図4.17 DHQ2の直流電気伝導度(♂)の温度の逆数に対する依存性

    89

  • 10-153103丁-1/K-1 4

    図4.18 DHQ3の直流電気伝導度(♂)の温度の逆数に対する依存性

    90

  • 丁/K

    10-15

    103丁-1 / K-1

    図4.19 DHQ4の直読電気伝導度(♂)の温度の逆数に対する依存性

    91

  • r/K

    103丁-1 / K-1

    図4・20 DHQ5の直涜電気伝導度(♂)の温度の逆数に対する依存性

    92

  • 表4.4.電気伝半座の1〝プロットにおいて勾配が変化する温度(Tl.T2)及び勾配から求めた

    活性化エネルギー(AⅢ)

    DHQ content/mol% Tl/K T2/K AH/kJ・mol11

    T

  • 4.3.4 DHQポリマーの力学的性質

    図4. 21にD:Qlの貯蔵弾性率(G')及び損失係数(tans)の温度依存性を示すo 230K

    にTgに対応するβ緩和が見られ,275及び320Kにはそれぞれソフトセグメント(ア

    ジピン酸-エチレングリコールエステルセグメント)の乱れた結晶部分の融解及

    びソフトセグメントの結晶部分の融解に対応する変化が見られた.さらに, 358K

    にtan8のピークが見られたがこれは高温域において誘電測定で見られた誘電異常

    と良い一致を示している。

    図4. 22にDHQ2のG'及びtan8の温度依存性を示す. DHQlと同様に230KにTgに対応

    する変化が見られ、 275及び320Kにはそれぞれソフトセグメントのクオーターフェ

    ニルにより乱れた結晶部分の融解及びソフトセグメントの乱れていない結晶部分

    の融解に対応するショルダーが見られた.さらに390K付近にtan8のピークが見ら

    れたがこれは誘電測定おいて見られた誘電異常と対応している。

    図4. 23にDHQ3のG'及びtan8の温度依存性を示す。 Tgは230Kに見られ、 280Kには

    ソフトセグメントの乱れた結晶部分の融解に対応するショルダーが見られた。

    320KにG'の折れ点が見られ,さらに365K付近にtan8のピークが見られるo

    図4. 24にDHQ4のG'及びtan8の温度依存性を示す。 Tgは240Kに見られ、 DHQl-3に

    比べて高温側に観察された。そして280Kに見られていたショルダーははとんど消

    失し、 Tg以上の温度域でいわゆるプラトー領域が見られる。さらに390K付近に

    tan8のピークが観察され,誘電測定及び電気伝導度測定の結果と良い一致を示し

    ており、これはハードセグメントの分子運動に関係していると考えられる。

    図4. 25にDHQ5のG'及びtan8の温度依存性を示す。 TgはDHQ4と同様に240Kに見ら

    れ、 DHQl-3に比べて少し高温側に観察された。 410K付近にtan8のピークが観察さ

    れ, DHQ4と同様に誘電測定及び電気伝導度測定の結果と良い一致を示しており、

    ハードセグメントの分子運動に関係していることが推察される.

    図4. 26(a)及び(b)にそれぞれDHQポリマーのG'及びtan8の温度特性の比較図を示

    した。 DHQポリマ-のG'及びtan8の温度特性は誘電測定及び直流電気伝導度測定の

    結果と対応して, 230K付近にTgに対応するβ緩和のtan8ピ-クとG'における急激な

    低下が見られる.さらにクオーターフェニルが低濃度のD:Ql-3では280K付近にG'

    及びtan8の変化が見られる。また320K付近にアジピン酸-エチレングリコールエ

    94

  • ステル鎖の結晶領域の融点に対応する変化が見られた。注目すべき点は320K転移

    より高温域に幅広い1つの大きな緩和が見られ,このピーク温度がクオーターフェ

    ニルの低濃度のDHQl -3では360K付近、高濃度のDHQ4及び5ではそれぞれ390及び

    410K付近にあることである。これは結晶化したクオーターフェニルセグメントの

    ソフト化による緩和と考えられる。

    95

  • 1010

    国頭

    >

    ○く J o

    ヽ㌔

    2.50 mol%

    T/K

    図4.21 DHQlの貯蔵弾性率(G')及び損失係数(tan ♂)の温度依存性

    96

  • 300

    丁/K

    400

    1 0-1

    6Q

    a

    図4.22 DHQ2の貯蔵弾性率(G')及び損失係数(tan ♂)の温度依存性

  • 300 400

    r/K

    図4.23 DHQ3の貯蔵弾性率(G')及び損失係数(tan ∂)の温度依存性

    98

  • 図4.24 DHQ4の貯蔵弾性率(G')及び損失係数(tan ∂)の温度依存性

  • 図4・25 DHQ5の貯蔵弾性率(G')及び損失係数(tan ∂)の温度依存性

    loo

  • 400

    丁/K

    図4.26(a) DHQポリマーの貯蔵弾性率(G')の温度依存性

    10l

  • 400

    丁/K

    図4.26(b) DHQポリマーの損失係数(tan合)の温度依存性

    102

    占Q

    ._fq

  • 4.4 DHQポリマーの分子運動に関する考察と結論

    筆者はDHQポリマーのDSC、誘電,直流電気伝導度及び動的力学測定を行ってき

    た。その結果、 DⅢQポリマーはかたいセグメントであろクォーターフェニルが凝集

    した領域と柔らかいセグメントであるアジピン酸-エチレングリコール鎖が凝集

    した領域とに相分離していることを結論した。このことは仁木及び橋本らによるⅠ

    繰回折及び‡線小角散乱の研究32・34)によっても支持される。

    DHQポリマーのTgはクオ-ターフェニル含量に依存せず, 230K付近にあるoこの

    ことはクォーターフェニル領域とアジピシ酸-エチレングリコール領域とははっ

    きり相分離していることを示している。興味あることにDHQポリマーは230及び

    320K付近に一次転移をもつ。これはそれぞれクォーターフェニルが関与したアジ

    ピン酸-エチレングリコール領域の比較的乱れた結晶の融点とアジピン酸-エチ

    レングリコール領域の結晶部分の融点に対応すると考えられる。 320Kの転移より

    高温域にクォーターフェニル領域のソフト化に基づく緩和が見出された。

    以上のようにDⅢQポリマーは従来に見られない熱可塑性エラストマーであり、そ

    の特性は学問的にもまた機能性ポリマーとしても興味あるものである.今後、

    種々のDHQポリマーを開発することにより新しい熱可塑性エラストマーへの展開が

    期待される。

    103

  • 第5章 総括

    クオーターフェニルは剛直な長い形状の化合物である。それを中央core部にも

    つ液晶化合物は液晶の熱安定性の良い新しい液晶化合物の開発に魅力あるものと

    考えられる。本研究は第2章で中央core部にクォーターフェニル基をもつ一連の4,

    4‥'-ジアルキルオキシクォーターフェニル(DAQP),さらに第3章でジアルキル

    クォーターフェニルー4, 4‥'-ジカルポキシレート(DCQP)の液晶相転移挙動を検討

    している。その結果DAQP及びDCQPはともに,熱安定性の高い液晶相を示すことを

    見出した。 DAQPではアルキルオキシ鎖の炭素数(n)がl-9ではSA相を示し, nが9-

    18ではSc相を示すことが見出された。 DCQPではnが3-5ではSA相を示し、 nが8-12

    ではSA及びSc相を示すことが見出された。また,直鎖アルキルをもつDCQPがSA相を

    発現しやすいのに対して,分岐アルキルをもつ場合にはSc相を発現しやすいことを

    見出した。

    次に剛直な棒状のクオーターフェニル基を主鎖にもつ共重合ポリマーは新しい

    エラストマーなどの機能性高分子の開発という点で興味あるものである。第4章で

    は4, 4'‥-ジヒドロキシクオーターフェニルーエチレングリコールーアジピン酸

    共重合体(DHQポリマー,クオーターフェニル含量:2.50-10.Omol%)の相分離構

    造、分子運動を示差走査熱量,誘電,直流電気伝導度及び動的力学測定により検

    討した。その結果DHQポリマーは、ガラス転移温度(Tg)以上の温度でクオーター

    フェニルからなるハードセグメントとアジピン酸-エチレングリコールエステル

    からなるソフトセグメントが相分離構造を取ることを見出した。 DHQポリマーのTg

    は,クォーターフェニル含量に依存せず230K付近に存在したo このことはクオー

    ターフェニル領域とアジピン酸-エチレングリコールエステル領域の相分離がか

    なり明瞭に起きていることを示しているo 280K付近にクォーターフェニルにより

    乱されたアジピン酸-エチレングリコ-ルエステル領域の結晶部分の融解が見ら

    れ,また320K付近にアジピン酸-エチレングリコールエステル領域の結晶の融解

    が見られたo 320K以上の高温域においてハードセグメントの分子運動に起因する

    変化が見出された。本研究は各種のクオーターフェニル基をもつ共重合体ポリマ

    ーが熱可塑性エラストマーなどの新しい横能性高分子材料として有望であること

    を示している。

    104

  • 参考文献

    1) F. Reinitzer: Wiener Monatsch. Chem.. 9(1888)421: Ann. Physik. 27

    (1908) 213.

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    3) D. Vorlander・: "Kristallinisch f川ssigen Substanzen'', Enke, Stuttgart

    (1908).

    4) D. Vorl'ander: Zeit. physik. Chem., 105(1923)211.