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Title 自動車足回り部品軽量化のための熱延高張力鋼板の疲労 強度に関する研究( Dissertation_全文 ) Author(s) 杵渕, 雅男 Citation Kyoto University (京都大学) Issue Date 2015-03-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k18943 Right Type Thesis or Dissertation Textversion ETD Kyoto University

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Title 自動車足回り部品軽量化のための熱延高張力鋼板の疲労強度に関する研究( Dissertation_全文 )

Author(s) 杵渕, 雅男

Citation Kyoto University (京都大学)

Issue Date 2015-03-23

URL https://doi.org/10.14989/doctor.k18943

Right

Type Thesis or Dissertation

Textversion ETD

Kyoto University

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自動車足回り部品軽量化のための

熱延高張力鋼板の疲労強度に関する研究

杵 渕 雅 男

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-I-

目 次

第1章 緒論 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 1

第 1 章 参考文献 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 9

第 2 章 疲労強度に及ぼす各種影響因子の検討

2.1 緒論 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 13

2.2 平滑試験片の疲労強度 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 13

2.2.1 材料および試験片 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 13

2.2.2 疲労試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 15

2.2.3 疲労試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 15

2.3 平均応力の影響 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 15

2.3.1 材料および試験片 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 15

2.3.2 疲労試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 15

2.3.3 疲労試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 18

2.3.4 疲労限度線図 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 18

2.4 応力集中の影響 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 20

2.4.1 材料および試験片 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 20

2.4.2 疲労試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 20

2.4.3 疲労試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 20

2.4.4 考察 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 20

2.5 結言 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 28

付録 A 重ねすみ肉溶接部の応力集中係数 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 30

A1.解析モデル ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 30

A2.解析結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 30

付録 B プレス残留応力の影響検討結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 32

B1.試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 32

B1.1 材料および試験片 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 32

B1.2 疲労試験 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 32

B1.3 残留応力測定 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 32

B2.試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 32

B2.1 初期残留応力 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 32

B2.2 疲労試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 32

B2.3 試験中の残留応力変化 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 35

B3.疲労限度線図 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 37

第 2 章 参考文献 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 38

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-II-

第 3 章 シャー切断部の疲労強度に関する検討 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 39

3.1 緒言 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 39

3.2 切断部の疲労強度支配因子の検討 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 40

3.2.1 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 40

3.2.2 試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 41

3.2.3 切断部の疲労限度に及ぼす残留応力の影響 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 45

3.2.4 切断部の S-N 曲線の簡便予測法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 47

3.3 シェービング加工による疲労強度改善 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 50

3.3.1 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 50

3.3.2 試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 52

3.3.3 考察 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 54

3.4 ショットピーニングによる疲労強度改善 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 58

3.4.1 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 58

3.4.2 試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 59

3.4.3 考察 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 59

3.5 結言 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 62

3.5.1 シャー切断部の疲労強度支配因子 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 62

3.5.2 シェービング加工による疲労強度改善 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 63

3.5.3 ショットピーニングによる疲労強度改善 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 63

付録 A 熱延ハイテン鋼板の疲労き裂進展試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 65

A1. 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 65

A1.1 材料および試験片 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 65

A1.2 疲労き裂進展試験 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 65

A2. 試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 66

A3. 下限界応力拡大係数範囲に及ぼす応力比の影響 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 66

付録 B 熱延ハイテン鋼板の疲労強度に及ぼす表面粗さの影響 ‐‐‐‐‐‐‐ 71

B1. 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 71

B1.1 材料および試験片 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 71

B1.2 疲労試験 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 72

B2. 疲労試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 72

B3. 表面粗さの影響の破壊力学的検討 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 75

B4. まとめ ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 77

第 3 章 参考文献 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 80

第 4 章 溶接部の疲労強度に関する検討 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 81

4.1 緒言 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 81

4.2 重ねすみ肉溶接部の疲労強度 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 82

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4.2.1 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 82

4.2.2 試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 83

4.2.3 疲労限度に及ぼす止端半径の影響 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 83

4.3 MX-MIG 法を用いた重ねすみ肉溶接部の疲労強度改善 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 90

4.3.1 MX-MIG 法の特徴 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 90

4.3.2 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 91

4.3.3 試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 92

4.3.4 考察 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 93

4.4 MX-MIG 法による重ねすみ肉溶接スタート部の疲労強度改善 ‐‐‐‐‐‐‐ 98

4.4.1 重ねすみ肉溶接スタート部の疲労試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 98

4.4.2 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 99

4.4.3 試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 101

4.4.4 考察 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 105

4.5 結言 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 107

4.5.1 重ねすみ肉溶接部の疲労強度 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 108

4.5.2 MX-MIG 法を用いた重ねすみ肉溶接部の疲労強度改善 ‐‐‐‐‐‐‐ 108

4.5.3 MX-MIG 法を用いた重ねすみ肉溶接スタート部の疲労強度改善 ‐‐‐ 108

付録 A 繰返し応力による溶接止端部の残留応力変化 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 110

A1. 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 110

A1.1 材料および試験片 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 110

A1.2 試験方法 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 110

A2. 試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 110

A2.1 疲労試験結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 110

A2.2 残留応力測定結果 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 110

第 4 章 参考文献 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 112

第 5 章 結論 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 113

第 5 章 参考文献 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 116

論文・口頭発表 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 117

謝辞 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 121

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- 1 -

第 1章 緒論

近年,未来に向けた人類の繁栄のために解決すべき問題のひとつとして,地球温暖化が挙げら

れ,COP10 京都会議以降,国際的な議論が活発化している.地球温暖化に関する種々の検討が行

われており,温暖化により 2100 年には現在の海面が 80cm 上昇するといった試算も存在する.も

しこの状況が現実のものとなると,島国である日本は多大な影響を被ることになる.このため,

社会的な要請として温室効果ガス(CO2)削減の要求が高まっており,産業界にとっても大きな課

題の一つとなっている.また,限りある化石燃料を有効に活用するという観点においても,エネ

ルギー効率向上は重要な課題であり,これはすなわち CO2削減に直結する.

この課題に対し,種々の技術が継続的に検討されている.例えば発電分野で用いられるガスタ

ービン発電では,タービン入り口温度を上げることで発電効率が向上する.このため,タービン

ブレード用耐熱材料の開発が継続されており,コーティング材料および運転時のブレード冷却も

組み合わせることで,入り口温度を 1500℃まで向上させたガスタービンが実用化(1)されており,

さらにコンバインドサイクルとすることで,熱効率が 55%以上まで向上したプラントが稼動して

いる.一方,石炭火力発電では,超々臨界圧発電技術や IGCC と呼ばれる石炭ガス化技術による効

率向上の検討,さらに CO2回収技術の検討も行われている.

輸送機の分野でも,あくなき燃費向上の検討がなされている.例えば航空機分野では,機体の

軽量化のため FRP に代表される複合材料の積極的な適用が進められており,2011 年に就航したボ

ーイング 787 は,機体に占める FRP 使用量を約 50%まで高め,かつ他の技術も併用することで,

これまでの航空機に比較して燃料消費量を減らすことを可能とした.造船分野では,エンジンの

小型高出力化がトレンドとなっており,例えばクランクシャフト用鍛鋼の高疲労強度化(2)の検討

が行われている.また,コンテナ船の大型化による輸送効率の向上を図るため,船体構造に対し

高強度厚鋼板の適用が検討されている.さらに,船体の流体抵抗を低減するための技術開発(3)な

ども行われており,これらの技術を組み合わせることで効率化を図っている.これらの取り組み

に加え,環境保全のため,ディーゼル機関の SOX, NOX 排出を低減できる LNG 燃料船の開発なども

進められている.

陸上の輸送機の代表である自動車分野の燃費向上では,エンジンの高効率化が活発に検討され

ている.これには,従来のガソリンエンジンの燃費向上に加え,エンジンとモータを併用したハ

イブリッドシステムや,電気自動車,燃料電池車など新たな動力系が注目されている.一方,自

動車は,安全基準の強化に対応するため,また電子機器等の装備の充実などにより車体重量が増

加する傾向にあり,燃費向上にはよりいっそうの車体軽量化が必要である.このため,高張力鋼

板(ハイテン)の適用(4)や,アルミニウム合金(5)~(7),マグネシウム合金,プラスチック,複合材

料(8)などの適用が検討されている.また,アルミニウム合金と鋼のハイブリッド構造,およびハ

イブリッド構造を実現するための接合技術の開発(9)(10)(11)も行われている.このうち,ばね下重量

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の軽減により燃費改善効果が高いとされているシャシー部品には,軽量化を目的として熱延ハイ

テン鋼板やアルミニウム合金が適用されている.シャシー部品には,タイヤからの入力により繰

返し負荷が作用するため,静的強度と共に疲労信頼性の確保が必須である.

ハイテン鋼板を用いた足回り部品は,鋼板を切断後にプレス成形し,アーク溶接により製造さ

れるため,静的強度,疲労強度に加え,プレス成形性および溶接性も求められる.プレス成形性

を確保するためには,伸びや伸びフランジ性といった延性を確保する必要があり,形状安定性や

プレス時の力の観点で,降伏応力を必要以上に向上させないことも求められる.また溶接性を確

保するためには,炭素当量を抑える必要がある.これらの必要特性を満たすために,軟質のフェ

ライトを母相とし,各種強化機構を活用して静的強度と疲労強度,および延性を両立した複相組

織鋼板が開発されている.

足回り用ハイテン鋼板には,Fig.1-1 に示すような種々の強化機構を用い,静的強度とともに

疲労強度向上が図られてきた.以下,これらを詳細に説明する.

(1) 添加元素を用いる方法(固溶強化および析出強化)

添加元素を用いる強化機構としては,固溶強化と析出強化が挙げられ,それぞれに適した添加

元素が活用されている.フェライト-パーライト鋼について,強化機構ごとに疲労限度向上効果

を定量化した結果,応力σの単位を kgf/mm2で表示するとき,式(1-1)が成り立つことが報告され

ている(12).

disgrprlt

pptssw

23.043.053.0

70.092.04.8

式(1-1)

σss:固溶強化,σppt:析出強化,σprlt:パーライトによる強化

σgr:結晶粒微細化強化,σdis:転位強化

FatigueStrength

Grain Size

SolutionHardening

PrecipitationHardening

Second Phase

Strain Hardening

PearliteMartensite

Bainite

Si, Cu

TiC

Fig.1-1 Method of strengthen mechanism

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この結果によると,固溶強化と析出強化がより効果的に疲労限度を向上できるとされている.

自動車用ハイテン鋼板に用いられる固溶強化元素の代表は Si であるが,疲労強度向上効果が高い

とされている(13)~(16).

また,析出強化元素としては,Ti, Nb などがあるが,特に TiC を析出させることで静的強度と

疲労強度を同時に向上させる効果があることが知られている(14)~(16).また,析出物の分散状態(数

密度および析出物サイズ)は Ti の添加量とともに熱間圧延条件により変化させることができ,析

出物の最適化により高い疲労強度が得られるとの報告(17)がある.

このほかの添加元素として,極低炭素鋼に Cu を添加する(18)~(20),あるいは P と Cu を複合添加

することで効果的に疲労強度を向上させることができる(21)~(24)との報告がある.Cu の固溶強化お

よび析出強化により,繰返し応力が付与された際の転位構造のセル化を抑制する効果が確認され

ている.また,P と Cu の複合添加では,P の固溶強化とε-Cu の析出強化によりフェライトが強

化されることが報告されている.さらに,ボディパネル用の冷延鋼板でよく用いられる,焼付け

塗装時に強度向上する鋼板(Bake Hard(BH)鋼板)では,BH 性を発現させるために Nが用いられ,

170℃程度の焼き付け塗装時にひずみ時効を起こして強度が向上し,部品の耐久性能を向上させる

ことができる(25)とされている.

固溶強化および析出強化は,母相であるフェライトの強度向上効果が高い.複相組織鋼板では,

軟質のフェライトに疲労き裂が発生するため,フェライトの強化は疲労き裂発生を抑制し,疲労

強度の観点でも効果があると考えられる.

(2) 硬質第 2相を活用する方法

プレス成形性を確保しながら強度向上を図るため,足回り用ハイテン鋼板は,フェライトを母

相とし,硬質の第 2 相を分散させた複相組織を有していることが多い.軟鋼における第 2 相はパ

ーライト組織であるが,ハイテン鋼板ではより硬質のマルテンサイトもしくはベイナイト組織を

活用して,延性を確保しながら引張強度を向上させている.一方,疲労に対しては,フェライト

に発生した疲労き裂を硬質第 2 相でブロックする,あるいはき裂進展時に硬質相を迂回してき裂

が進展するといった効果が報告されており(26)~(28),疲労強度向上に寄与すると考えられる.

また,第 2 相として,残留オーステナイトを用いる方法がある.残留オーステナイトは,ひず

み誘起マルテンサイト変態を起こすため,塑性変形が集中したところが先行して変態硬化する.

このため,引張変形時のくびれ発生を抑えることができ,良好な延性を確保できる.一方,同様

の効果が疲労き裂先端近傍でも発現し,疲労特性が優れるという報告がある(26),(29).

硬質第 2 相の導入には,添加元素の調整だけでなく,適切な熱間圧延および冷却条件の選択が

必要であり,国内鉄鋼メーカーが世界の最先端の技術を保有している.

(3) 結晶粒微細化を用いる方法

結晶粒微細化による強化は,一般に Holl-Petch の関係として知られており,結晶粒径の平方根

の逆数に比例して降伏応力が向上するが,この関係は疲労限度に対しても成立する(30).一般的な

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鋼板の結晶粒径は小さくても 5μm 程度であるが,いわゆる超微細粒鋼板の結晶粒径は 1μm 程度

であり,高降伏比および高疲労強度が特長である(31)~(33).また疲労限度だけでなく,疲労き裂の

進展速度が低下するとの報告(34)もある.超微細粒は,特別な添加元素を用いずに実現できるため,

今後の適用が期待されるが,大圧下圧延と強冷却を組み合わせた製造技術が必要(35)であり,特殊

な設備を用いなければ実現が難しいため,大量生産に関してはまだ課題が残っている.

なお,予ひずみなどを用いた加工硬化(転位強化)は,静的強度向上効果があり,疲労強度も

向上する場合があるが,微視組織によってその効果が異なり,疲労限度が低下する場合も報告さ

れている(36).また,繰返し負荷により加工軟化を起こすため,疲労強度向上効果が小さい(37)とい

う報告もある.したがって、加工硬化による疲労強度向上を活用するには注意を要する.

また,これらの強化方法が疲労強度を向上させるメカニズムの基礎検討も実施されている.

固溶強化および析出強化は,き裂発生につながる転位運動の抵抗となると考えられる.疲労特

性と繰返し変形により導入されるフェライト相の転位構造とは密接な関係があり,転位がセル構

造を形成しないほうが高い疲労強度が得られることが報告されている(38).さらに,析出強化に関

しては,2 種類の機構,すなわち転位が析出物を切断して通過する Cutting 機構と,析出物のま

わりに転位ループを残して通過する Orowan 機構が知られており,相対的に小さな析出物では

Cutting 機構が,大きな析出物では Orowan 機構が発現する.どちらの機構が発現するかは析出物

の臨界せん断応力で決まり,その遷移の臨界サイズ d *は式(1-2)で示される(39).

** /6.1 bGd 式(1-2)

G:せん断弾性係数,b:バーガースベクトル

τ*:臨界せん断応力

この式を用いて析出物サイズと疲労限度を比較した結果,Cutting 機構が発現する小さな析出物

では疲労強度向上効果は小さく,TiC では臨界サイズ 6.5nm 以上の析出物で Orowan 機構が発現し

て疲労限度が改善されたと考えられることが報告されている(17).

硬質第 2 相の影響は,実験的に確認されている(26)~(28)が,そのメカニズムとして微小き裂の進

展挙動(40)に着目し,微小き裂の開閉口挙動(41),(42),(43)をレーザ干渉変位計(44),(45)で測定した結果,

硬質第 2 相によりき裂開口応力が低下し,き裂進展速度が小さくなるとの報告(46)がある.また,

連続分布転位論の活用によりミクロ組織を考慮したき裂進展シミュレーションによる検討結果が

報告されている(47)~(50).このシミュレーションは,き裂進展駆動力をき裂先端開口変位(Crack tip

opening displacement:CTOD)とし,連続分布転位論により硬質第 2相を考慮した CTOD を計算し

てフェライトに発生したき裂の進展/停留を予測するものであり,フェライトおよび硬質相の結

晶粒径と強度,および硬質相の体積分率の影響を検討した結果,各相の硬さ,結晶粒径および硬

質相の体積分率の関係が式(1-3)で表される(50).

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3,2

,4,311211 //j

jjjjjw DkkVHVHVDkkHV 式(1-3)

HVi:i 相のビッカース硬さ

Di:i 相の結晶粒径(μm)

Vi:i 相の体積分率

第 1 相:k1=0.600, k2=2.05

第 2 相:k3,2=0, k4,2=1.28

第 3 相:k3,3=0, k4,3=4.92

これらの研究開発を通じて獲得された鋼板の組織設計指針を活用し,590~780MPa 級熱延ハイ

テン鋼板の製品化がなされ,足回り部品への適用(51),(52)が進められている.

一方,熱延ハイテン鋼板を自動車足回り部品に適用するには,鋼板の性能に加え Fig.1-2 に示

すような部品ならではの課題を解決する必要がある.なお,図中には部品の疲労強度に対する課

題とともに,部品への入力に応じた疲労評価も課題として記載しているが,本論文では部品の疲

労強度に関する課題について検討した.

(1) 応力集中

部品には種々の切欠きが存在する.例えば打ち抜き穴やバーリング加工部,溶接組立や補強板

の使用による形状不連続部などが考えられる.一般に,引張強度が大きくなるにつれて切欠き感

受性が高まり,応力集中による疲労強度低下が大きくなる.切欠き部の疲労強度は最大応力,す

なわち応力集中係数と切欠き部近傍の応力勾配によって決まる(53)~(55)とされており,熱延ハイテ

ン鋼板に関しても同様の傾向が推測されるが,その傾向を定量化しておく必要がある.

(2) 残留応力

鋼板を用いた自動車部品は,プレス成形により製作されるため,塑性加工に伴う残留応力が発

生する.一般に,疲労限度に対する残留応力の影響は平均応力の影響と同様と考えられている.

Fatigue Strength

(Chassis Parts)

Stress Concentration

Residual Stress

Surface Condition

Shear CuttingPunching

Welding

Combined Mode StressRandom Loading

・・・

Notch

Fig.1-2 Influence factor against fatigue strength of chassis parts

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平均応力を付与した疲労試験結果は,疲労限度線図によって整理することが一般的(56)であり,鉄

鋼材料の場合は,安全側の予測として修正 Goodman 線図が用いられることが多い.熱延ハイテン

鋼板についても,疲労限度線図により平均応力の影響を評価できることを確認しておく必要があ

る.また,残留応力は繰返し応力の付与により再配分する可能性があるため注意が必要であるが,

実際のプレス残留応力で確認された例は少ない(57).

(3) 表面性状

高強度化に伴い切欠き感受性が高くなると,切欠き部と同様,表面性状の劣化のために疲労強

度が低下する可能性がある.表面性状には,表面と内部との微視組織の差異など,鋼板成分や製

造方法に起因するものと,表面粗さに代表される微視的な切欠きの影響の両方が考えられる.表

面仕上げや表面粗さの影響については,既に検討結果が報告されている(58)が,熱延ハイテン鋼板

についても同様の報告があり(59)~(61),高強度化に伴い表面粗さの劣化による疲労強度の低下は大

きくなる(61).

(4) 切断部,打ち抜き部

鋼板を用いた自動車部品は,鋼板をシャー切断した後にプレス成形を行う.また,穴加工もほ

とんどの場合は打ち抜き加工が行われる.したがって,切断部の疲労強度劣化を把握しておく必

要がある.打ち抜き穴の場合,穴の応力集中に加え打ち抜きによる塑性変形の影響が重畳するた

め,これまでも種々の検討が行われている.その結果,打ち抜き時のクリアランスの増大に伴い

疲労強度が直線的に低下し,また高強度化に伴い疲労限度低下が大きくなるとされている(62)~(64).

また,打ち抜き穴の疲労強度改善方法として,円錐パンチにより打ち抜き穴コーナー部をプレス

するコイニング加工が提案されており,その疲労改善効果(65)~(68)が報告されている.コイニング

加工では,打ち抜き穴部への圧縮残留応力の導入により,疲労強度が改善される.

また,打ち抜き,リーマ切削、レーザ切断による疲労強度の差異を検討したところ,レーザ切

断が最も疲労強度が高かったとの報告がある(69).さらに,種々の切断方法を用いて疲労強度に与

える影響因子を検討した結果(70)では,主要な影響因子は表面粗さと残留応力であるとされている

が,その影響度の定量化には至っていない.

(5) 溶接部

足回り部品ではアーク溶接により部品の組立が行われるため,溶接部の疲労強度は重要である.

鉄骨構造を主な対象とした溶接部の疲労強度については,日本鋼構造協会により疲労設計指針(71)

として取りまとめられているが,鋼板の溶接部の疲労強度は静的強度が向上してもほとんど変化

しないことが知られており,この原因として,止端部の応力集中と溶接により導入される引張残

留応力の影響が大きいとされている.足回り部品では,一般に重ねすみ肉溶接継手が用いられる

が,同様の傾向を示す(72),(73).また,鉄骨構造とは異なり,足回り部品では比較的短い溶接ビー

ドが多用されるため,溶接スタート/ストップ部が多く存在し,この部分からの疲労破壊も危惧

されるため,スタート/ストップ部を設けた試験片での検討が行われ,応力集中の大きいスター

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ト部から疲労き裂が発生する傾向が報告されている(74).ハイテン鋼板を使用するのは板厚減少に

よる部品の軽量化が目的であり,一般には鋼板に作用する応力が大きくなるため,強度向上にも

かかわらず溶接部の疲労強度が向上しなければハイテン鋼板を採用するメリットが小さくなる.

溶接部の疲労強度を改善するには,応力集中と引張残留応力を低減することが効果的である.

応力集中低減策として,造船分野や土木分野では止端部のグラインダ仕上げが用いられており,

重ねすみ肉溶接継手でもその効果が報告されている(72).また,圧縮残留応力を付与する方法とし

て,ショットピーニング(72)や局所加熱(75)に加え,近年,超音波を用いて溶接止端部に塑性変形導

入する超音波ピーニングが提案されている(76)~(79).しかしながら,自動車部品に対してこれらの

処理を採用することは,コストの観点で困難であることが多い.

一方,溶接後の処理なしで疲労強度を改善する方法も検討されている.溶接方法を変化させた

突合せ溶接部の疲労強度の検討例(80)では,アーク溶接よりもレーザ溶接のほうが高い疲労強度が

得られている.また鋼板中の添加元素による止端形状への影響を検討した結果では,Si の添加に

より溶接止端部の曲率半径が大きくなり(81),(82)、疲労限度が向上する(82)との報告がある.さらに,

溶接ワイヤの開発も精力的に行われており,マルテンサイト変態を活用した溶接材料が開発され

ている(83),(84).マルテンサイト変態は体積膨張を伴うため,溶接後に室温近くでマルテンサイト

変態を起こすことで溶接止端部に圧縮残留応力を導入することができ,疲労強度が向上する.こ

のワイヤを用いると,溶接後の処理なしに疲労強度が改善できるが,溶接ワイヤには 10%Cr-10%Ni

が添加されており,一般的な溶接ワイヤに比較してコストが高いため,大量生産品である自動車

部品に採用されるには至っていない.また,MX-MIG 法と呼ばれる新溶接プロセス(85)~(87)が提案さ

れており,止端形状改善効果と引張残留応力の低減効果による疲労強度改善が確認されている.

この方法は,シールドガスに純 Ar を用いることが特徴であり,CO2もしくは Ar-CO2ガスを用いる

自動車用アーク溶接にそのまま適用するには課題があるが,従来提案されている疲労強度改善法

と比較すると,比較的安価に適用できる可能性がある.

以上のような従来知見を踏まえ,本論文では,熱延ハイテン鋼板の部品適用を推進するために

解決すべき課題を取り上げてその解決策の検討を行う.検討に使用した材料は,590MPa 級および

780MPa 級熱延ハイテン鋼板である.

第 2 章では,検討に使用した材料の基本的な疲労特性を把握するために実施した疲労試験結果

をまとめた.平滑材の疲労特性に加え,疲労強度に及ぼす平均応力および応力集中の影響につい

ても,基礎データを取得して従来知見との比較検討を行った.平均応力については,平滑試験片

を用いた検討を行い,正の平均応力だけでなく,薄鋼板では座屈の問題からあまり実施されてい

ない負の平均応力についても評価を行った.応力集中については,溶接止端部への拡張も考慮し,

板厚貫通切欠きだけでなく,止端半径程度の切欠き半径を持つ板厚非貫通切欠きを付与した試験

片を用いて検討を行った.

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第 3 章では,シャー切断部の疲労強度について検討した結果をまとめた.まず,シャー切断部

の疲労強度支配因子について考察を行い,疲労強度の簡便予測法を提案した.次に,疲労強度改

善方法として,シェービングおよびショットピーニングを取り上げ,疲労強度改善効果を確認し,

そのメカニズムについて考察した.

第 4 章では,アーク溶接部の疲労強度について検討した結果をまとめた.まず,これまで実施

してきた重ねすみ肉溶接部の疲労試験結果により,止端形状の影響を検討した.次に,疲労強度

の改善が期待される溶接プロセスである MX-MIG 法を取り上げ,疲労強度改善メカニズムを明確化

した.また,溶接スタート部の疲労強度に着目し,MX-MIG 法を溶接スタート部に適用した際の効

果について検討した.

第 5 章では,本論文で得られた結果と今後の課題についてまとめた.

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第 2章 疲労強度に及ぼす各種影響因子の検討

2.1 緒言

自動車足回り部品の軽量化手法として,ハイテン鋼板を活用して板厚減少を実現する方法が検

討されている.これまで,軟鋼を使用していた部品に対し,590MPa 級鋼板が採用されることが多

くなり,一部では 780MPa 級鋼板が採用された例もある(1),(2).

足回り部品へのハイテン鋼板の適用に対する課題は,第 1 章にまとめたとおりであるが,これ

らの課題を克服するための第一歩として,疲労強度に関する基礎データを取得し,従来知見と比

較しながら各種因子の影響を定量化する必要がある.

ここでは影響因子として,平均応力と応力集中(3)を取り上げる.足回り部品はプレスした鋼板

をアーク溶接により組み立てることから,プレス残留応力や溶接残留応力が存在する.また,部

品の形状に応じた応力集中部が存在する.したがって,平均応力および応力集中の影響を定量的

に把握しておくことは重要である.

本章では,590MPa および 780MPa 級熱延ハイテン鋼板を用い,まず平滑試験片を用いて疲労試

験を実施し,材料の疲労強度を確認した.次に,平滑試験片を用いて応力比を変化させた疲労試

験を実施し,疲労強度に及ぼす平均応力の影響を検討した.続いて,種々の切欠きを有する試験

片を用いて,疲労強度に及ぼす応力集中の影響を検討した.

2.2 平滑試験片の疲労強度

2.2.1 材料および試験片

本研究では,590MPaおよび780MPa級熱延鋼板を用いた.それぞれの代表的な機械的性質をTable

2-1 にまとめる.材料の入手タイミングが異なり,また板厚も 2.9~3.4mmの範囲となっているが,

590MPa 級鋼板(HT-590)はフェライト-ベイナイト組織,780MPa 級鋼板(HT-780)はベイニティ

ックフェライト組織を基本としており,ばらつき範囲内でほぼ同様の特性を有していると考えら

れる.なお,これらの材料は薄鋼板であり,絞りの測定は困難であるが,590MPa 級鋼板では S-S

カーブを用いて真破断力の推定を行った.具体的には,引張試験片のくびれ性状から,局部伸び

を負担する部分の軸方向長さを仮定し,体積一定条件により破断時の断面積を推定した結果,真

破断力として 1245MPa を得た.

MaterialYield stress

σy ,MPa

Tensile strength

σB ,MPaElongation

%

Vickershardness

HV

HT-590 544 616 30 206

HT-780 742 795 21 250

Table 2-1 Mechanical properties

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Fig.2-1 に,用いた試験片形状をまとめる.(a), (b)は軸力疲労試験片であり,(a)は板厚方向

に鈍い切欠きを設け,平行部に電解研磨を施した試験片である.(b)は表面仕上げを行わず熱延表

面のままの試験片であり,エッジ部からのき裂発生を抑制するため,超硬ローラーがけを行った

後,疲労試験を実施した.(c)は平面曲げ疲労試験片であり,熱延表面のままで疲労試験を実施し

たが,780MPa 級鋼板の板厚 t=2.9mm では熱延表面のままの試験片に加え,表面研磨仕上げを行っ

た試験片も用いた.

R42.5

R42.5

30

30

6565

18

18

9090

4-φ74-φ7

t2.9

30

30

15

15

1313 1414

124124

1010

10

10

R25

6-φ6.26-φ6.2

t2.9, 3.2, 3.4

30

30

15

15

1313 1414

124124

1010

10

10

R25

6-φ6.26-φ6.2

R30

R30

2.2

2.2

3.2

3.2

(a) Axial loading specimen (Electro polished)

(b) Axial loading specimen (As rolled)

(c) Plane bending specimen

Fig. 2-1 Test specimen

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- 15 -

2.2.2 疲労試験方法

軸力疲労試験は,電気油圧サーボ式疲労試験機を用い,試験周波数 20Hz で実施した.また平面

曲げ疲労試験は,シェンク式疲労試験機および共振型疲労試験機を用いて実施した.試験周波数

は,シェンク式では 20~25Hz, 共振型では 33.3Hz である.なお,いずれの試験においても応力

比 R=-1(両振り),試験環境は常温大気中である.

2.2.3 疲労試験結果

Fig.2-2 に,疲労試験結果を示す.(a)は 590MPa 級鋼板の結果,(b)は 780MPa 級鋼板の結果で

ある.図中の白印は軸力疲労試験結果,黒印は平面曲げ疲労試験結果である.590MPa 級鋼板では,

疲労限度は引張強度の約 1/2 となっており,静的強度に応じた疲労限度が得られている.また,

疲労限度に対する負荷形式および熱延表面の影響はほとんど認められない.一方,780MPa 級鋼板

では,590MPa 級鋼板と比較して相対的に高い疲労限度が得られ,表面を研磨仕上げした試験片で

は,負荷形式によらず静的強度の 1/2 を上回る疲労限度が得られた.一方,同じ材料でも研磨仕

上げした試験片と熱延表面のままの試験片では差異が認められ,熱延表面のままの疲労限度は研

磨仕上げした試験片の疲労限度よりも小さく,一部では静的強度の 1/2 以下の疲労限度となって

いる.また,熱延表面を持つ試験片同士の結果を比較すると,材料ロット間の差異が認められる.

この原因としては,熱延条件の差により試験片表面の状態が異なり,疲労強度に影響を与えた可

能性が考えられる.780MPa 級ハイテン鋼板のこれら一連の結果については,鋼板の表面状態や微

視組織に着目した詳細な検討が必要である.

以上の結果から,780MPa 級ハイテン鋼板の疲労強度は,静的強度に応じた疲労強度が得られな

い場合があることがわかった.このことから,780 級鋼板に対する各種影響因子の検討に際して

は,試験片の表面状態を同一にすること,また熱延表面のままで試験を行う場合は材料のロット

も同一とする必要がある.

2.3 平均応力の影響

2.3.1 材料および試験片

試験に用いた材料は,板厚 t=3.2mm の 590MPa 級鋼板,および板厚 t=3.4mm の 780MPa 級鋼板で

ある.使用した試験片は,590MPa 級鋼板では Fig.2-1(a)の電解研磨試験片,780MPa 級鋼板では

Fig.2-1(b)の熱延表面を有する試験片である.

2.3.2 疲労試験方法

疲労試験には,電気油圧サーボ式疲労試験機を用い,軸力疲労試験を実施した.応力比 R は,

590MPa 級鋼板では R=-1 および 0,780 級鋼板では R=0,-1,-1.5,-3 である.また,試験周波数

は 20Hz,試験環境は常温大気中である.

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- 16 -

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure Nf, cycles

Str

ess

ampl

itude

σa, M

Pa

Electro polished (t=3.2mm)

As rolled (t=3.2mm)

As rolled (t=2.9mm)

590MPa

Open marks;Axial loadingSolid marks;Plane bending

HT-590

HT-780

(a) HT-590 (Smooth specimen) (4)

(b) HT-780 (Smooth specimen) (5)

Fig. 2-2 S-N curves

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- 17 -

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure N f, cycles

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

R = -1

R = 0590MPa,Electro polishedHT-590, Electro polished

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure N f, cycles

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

R=-1

R=0

R=-1.5

R=-3.0

780MPa,As rolledHT-780, As rolled

(a) HT-590 (Electro polished) (4)

(b) HT-780 (As rolled) (5)

Fig. 2-3 S-N curves (Effect of mean stress)

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- 18 -

2.3.3 疲労試験結果

得られた S-N 曲線を Fig.2-3 に示す.縦軸は応力振幅で示しており,(a)は 590MPa 級鋼板,(b)

は 780MPa 級鋼板の結果である.780MPa 級鋼板では一部で 107サイクル未破断データが得られてい

ないが,Fig.2-2(b)の S-N 曲線を参照し,1~2×106サイクルで折れ曲がり点が生じるとして疲労

限度を推定した.Table 2-2 に,得られた疲労限度をまとめる.

2.3.4 疲労限度線図

Fig.2-4 に,疲労限度線図(6)を示す.(a)は 590MPa 級鋼板の結果,(b)は 780MPa 級鋼板の結果を

示す.590MPa 級鋼板では,推定した真破断力(1245MPa)を横軸にとり,R=-1 の疲労限度と直線

で結んだ.R=0 の結果は直線よりもやや上側となっているが,疲労限度線図により平均応力の影

響を評価可能と考えられる.また,780 級鋼板では真破断力は得られていないため,R=-1 の試験

結果を通るように直線近似した結果を示した.試験結果は十分な精度で直線近似が可能であり,

平均応力の影響を疲労限度線図で評価することが可能であると考えられる.なお,直線近似した

結果を延長して応力振幅が 0 となる点(疲労限度線図の横軸との交点)を求めると 2043MPa であ

った.

以上から,熱延ハイテン鋼板の疲労限度に及ぼす平均応力の影響は,疲労限度線図により評価

可能であることが確認できた.

Mean stress

σm, MPa

Stress amplitude

σa, MPa

-1 0 320

0 275 275

-3 -210 420

-1.5 -78 390

-1 0 380

0 320 320

590MPa(Electro polished)

780MPa(As rolled)

Table 2-2 Fatigue limit

Fatigue limit, σw

MaterialStressratioR

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- 19 -

0

100

200

300

400

500

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

Mean stress σm, MPa

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

HT-590, Electro polished

σT:1245MPa

0

100

200

300

400

500

-500 0 500 1000 1500

Mean stress σm, MPa

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

HT-780, As rolled

(a) HT-590 (Electro polished)

(b) HT-780 (As rolled)

Fig. 2-4 Fatigue limit diagram

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- 20 -

2.4 応力集中の影響

2.4.1 材料および試験片

試験に用いた材料は,板厚 t=3.2mm の 590MPa 級および 780MPa 級鋼板である.この材料を用い,

板厚貫通切欠きを付与した試験片と,溶接止端部の形状を想定した板厚非貫通切欠きを付与した

試験片を製作した.Fig.2-5~7 に試験片形状を示す.Fig.2-5 は,板厚貫通切欠き付きの軸力疲

労試験片であり,応力集中係数αは(a)α=1.5,(b)α=2.3,(c)α=3.1,(d)α=5.0 の 4 種類(7)で

ある.590 級鋼板ではこれら 4種類の試験片すべてを用いた.780MPa 級鋼板では,(a), (c), (d)

の 3 種類を用いた.Fig.2-6 は,重ねすみ肉溶接により試験片を製作し,その止端部を機械加工

により仕上げた平面曲げ疲労試験片であり,590MPa 級鋼板を用いて製作した.止端部の仕上げ形

状(曲率半径ρ)によってαは変化し,付録 Aに示す応力解析により算出したαはρ=0.5でα=1.8,

ρ=0.2 でα=2.3,ρ=0.5 でα=2.9 である(5).本試験片は溶接後に機械加工したため溶接残留応力

が存在する.そこで 107サイクル未破断試験片を用いて X 線により止端部近傍の残留応力の測定

を行った(8).X 線のスポット径はφ1mm とした.Fig.2-7 は止端半径程度の機械切欠きを付与した

平面曲げ疲労試験片であり,780 級鋼板を用いて製作した.αはそれぞれ 1.3,2.0,3.0 である(7).

以後は,Fig.2-6, 2-7 の試験片を板厚非貫通切欠き試験片と総称する.

軸力疲労試験片は,機械加工後に電解研磨を施して疲労試験を実施した.平面曲げ疲労試験片

は,機械加工のままで試験を実施した.これらの試験片はすべて表面仕上げ試験片に分類される

ため,Fig.2-2 で示した平滑材の疲労試験結果のうち,電解研磨試験片の結果と比較した.

2.4.2 疲労試験方法

板厚貫通切欠き試験片では,電気油圧サーボ式疲労試験機を用い,試験周波数 20Hz で実施した.

板厚非貫通切欠き試験片では,共振型平面曲げ疲労試験機を用い,試験周波数 33.3Hz で実施した.

いずれの試験も応力比 R=-1(両振り),試験環境は常温大気中である.

2.4.3 疲労試験結果

Fig.2-8 に,板厚貫通切欠き付き試験片の軸力疲労試験結果を示す.(a)は 590MPa 級鋼板,(b)

は 780MPa 級鋼板の結果である.応力集中係数αが大きくなるにつれて疲労強度は低下しているが,

その低下割合は小さくなっている.

Fig.2-9 に,板厚非貫通切欠き試験片の平面曲げ疲労試験結果を示す.図中の黒印は,Fig.2-8

に示した平滑材の軸力疲労試験片の結果である.αが大きくなるにつれて疲労強度は低下してい

るが,Fig.2-8 と比較するとその低下度合いは小さく,α≧2.0 以上ではほとんど差は認められな

い.

2.4.4 考察

Table 2-3 に,得られた疲労限度σwを,応力集中係数α,切欠き半径ρとともにまとめる.(a)

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- 21 -

30

30

15

15

1313 1414

124124

6-φ6.26-φ6.2

12

12

11

R0.5

R0.5

t3.2

30

30

15

15

1313 1414

124124

6-φ6.26-φ6.2

12

12

R2R2

44

t3.2

30

30

15

15

1313 1414

124124

6-φ6.26-φ6.2

t3.2

φ10φ10

30

30

15

15

1313 1414

124124

6-φ6.26-φ6.2

10

10

(13.4)(13.4)

4040

R5R5

R5R5

R7R7

t3.2

(a) α=1.5

(b) α=2.3

(c) α=3.1

(d) α=5.0

Fig. 2-5 Test specimen (Through thickness notch type)

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- 22 -

4040

9090

6565

18

18

30

30

R10

R10

(22.68)(22.68)4-φ7

A

Detail of "A"

20

20

3.4

3.4

3.4

3.4

3.0

3.0

3.4

3.4

3.0

3.0

R0.2R0.2R1.0R1.0

3.4

3.4

3.0

3.0

R0.1R0.1

18

18

30

30

6565

909020

20

R35

R35

4-φ7

45゚45゚

ρρ

3.2

3.2

3.2

3.2

(18)(18)

ρ, mm α0.1 2.90.2 2.30.5 1.8

Fig. 2-7 Test specimen (Surface notch type)

Fig. 2-6 Test specimen (Lapped joint type)

(a) α=1.3 (b) α=2.0 (c) α=3.0

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0

100

200

300

400

500

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure N f, cycles

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

Smooth

α=1.5

α=2.3

α=3.1

α=5.0

590MPa, Axial loadingHT-590, Axial loading

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure N f, cycles

Str

ess

am

plit

ude

σa, M

Pa

Smooth

α = 1.5

α = 3.1

α = 5.0

780MPa, Axial loadingHT-780, Axial loading

(a) HT-590 (Axial loading) (9)

(b) HT-780 (Axial loading)Fig. 2-8 S-N curves (Effect of stress concentration)

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0

100

200

300

400

500

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure N f, cycles

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

α = 1.8

α = 2.3

α = 2.9

Smooth

590MPa, Plane bending

Solid marks; Axial loading

HT-590, Plane bending

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure N f, cycles

Str

ess

am

plit

ude

σa, M

Pa

α = 1.3

α = 2.0

α = 3.0

Smooth

780MPa, Plane bending

Solid marks; Axial loading

HT-780, Plane bending

(a) HT-590 (Plane bending) (9)

(b) HT-780 (Plane bending) (5)

Fig. 2-9 S-N curves (Effect of stress concentration)

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- 25 -

が 590MPa 級鋼板,(b)が 780MPa 級鋼板の結果である.

この結果を用い,Fig.2-10 にαと切欠き係数βの関係を示す.βは,軸力平滑材の疲労限度を

用いて算出した.(a)は 590MPa 級鋼板の結果である.Fig.2-6 に示した溶接継手から機械加工に

より製作した試験片では,107サイクル未破断試験片の止端部近傍の残留応力を X線により測定(8)

した結果,-198MPa が得られた.そこで,残留応力を平均応力とし,疲労限度線図を用いて応力

比 R=-1 における疲労限度を算出して,Fig.2-10(a)に黒印で示している.

αとβの一般的な関係は,αが大きくなるにつれてβが大きくなるが,αがある一定値を超え

るとβは一定値になることが知られており,石橋の結果(10)では,βが一定になるのはαが 2~3

以上であることが報告されている.今回の結果では,板厚貫通切欠きと非貫通切欠きで傾向が異

なっている.すなわち,板厚貫通切欠きでは,α=5.0 においてもα≒βとなっており,応力集中

係数に応じて疲労強度が低下している.一方,板厚非貫通切欠きでは,α≧2.0 において,疲労

限度はほぼ一定となっている.なお,材料間の差異はほとんどないように見える.

一般に応力集中部の疲労強度は,最大応力だけでなく切欠き近傍の応力勾配の影響があるとさ

れている(10)~(12).応力勾配は切欠き半径ρと密接な関係があり(11),ρが大きいと応力勾配が小さ

く,切欠き近傍で応力の高い領域が大きいため,同じαであっても疲労強度は低くなる.Fig.2-11

にσwと曲率 1/ρの関係を示す.なお,(a)の 590MPa 級鋼板の板厚非貫通切欠きの結果は,残留

応力の補正を行ったデータを示した.1/ρが 2~4mm-1以上では疲労限度が一定となる傾向が認め

られ,板厚貫通切欠きでは,ρが大きいためαに応じてσwが低下したが,板厚非貫通切欠きでは,

ρが小さいためσwが一定値となったと考えられる.西谷は,切欠き底の停留き裂有無が切欠き半

径によって決まり,材料固有の値ρ0 以下になると停留き裂が存在し,疲労限度が一定になる(12)

ことを報告している.本研究では停留き裂の有無は確認していないが,ρが一定値以下になると

疲労限度が一定となっており,同様の傾向を示している.

Specimen

Stressconcentration

factorα

Notchradiusρmm

Fatiguelimit

σw

MPa

Specimen

Stressconcentration

factorα

Notchradiusρmm

Fatiguelimit

σw

MPa

1.0 --- 320 1.0 --- 480

1.5 7.0 215 1.5 7.0 305

2.3 5.0 150 3.1 2.0 150

3.1 2.0 115 5.0 0.5 105

5.0 0.5 75 1.3 1.0 358

2.9 0.1 196 2.0 0.2 252

2.3 0.2 189 3.0 0.1 242

1.8 0.5 235

Planebending

Axialloading

Planebending

Table 2-3 Result of fatigue limit

(a) 590MPa (b) 780MPa

Axialloading

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1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0

Fat

igue s

trengt

h r

edu

ction fac

tor

β

Stress concentration factor α

Through thickness notch

Root notch

Root notch (correction)

590MPaHT-590

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0

Fat

igue s

trengt

h re

duction

facto

r β

Stress concentration factor α

Though thickness notch

Root notch

780MPa780MPaHT-780

(a) HT-590

(b) HT-780Fig. 2-10 Relationship between stress concentration factor

and fatigue strength reduction factor

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0

100

200

300

400

500

600

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0

Fat

igue

lim

it σ

w, M

Pa

Curveture of notch root 1/ρ, mm-1

Through thickness notch

Root notch (correction)

590MPaHT-590

0

100

200

300

400

500

600

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0

Fat

igue

lim

it σ

w, M

Pa

Curveture of notch root 1/ρ, mm-1

Though thickness notch

Root notch

780MPaHT-780

(a) HT-590

(b) HT-780Fig. 2-11 Relationship between fatigue limit and curvature of notch root

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Fig.2-12に,Fig.2-11の縦軸を平滑材の疲労限度σw0で規格化した疲労限度σw/σw0を取って,

材料間の比較を行った結果を示す.590MPa 級鋼板と 780MPa 級鋼板のデータはほぼ同じであり,

疲労限度に及ぼす切欠きの影響は両者で差がないと考えられる.

以上から,熱延ハイテン鋼板の応力集中部の疲労強度は,応力集中係数と切欠き半径(すなわ

ち応力勾配)により決まり,本材料では切欠き部の曲率が 2~4mm-1以下では応力集中係数に応じ

た疲労強度が得られ,曲率がそれ以上では一定値を取ることがわかった.

2.5 結言

本章では,590MPa 級,および 780MPa 級熱延ハイテン鋼板の疲労強度を確認した後,平均応力

および応力集中の影響を検討した結果をまとめた.得られた主な結果を以下にまとめる.

(1) 平滑材の疲労強度に対しては,590MPa 級鋼板では静的強度に応じた疲労限度が得られ,試験

片の表面仕上げによる差異はほとんど認められなかった.一方,780MPa 級鋼板では,研磨仕上げ

した試験片に比較して,熱延表面のままの試験片の疲労限度は小さく,静的強度に応じた疲労限

度が得られない場合があった.このため,各種因子の検討時には試験片の表面状態を同一にして

おく必要がある.

(2) 平均応力の影響を検討した結果,590MPa 級では,推定した真破断力を用いて作成した疲労限

度線図により評価が可能である.一方,780MPa 級鋼板では真破断力は求められていないが,得ら

れたデータはほぼ一直線上となった.これらの結果から,疲労限度に及ぼす平均応力の影響は,

疲労限度線図により評価可能であることが確認できた.

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0

Fat

igue lim

it σ

w/σ

w0

Curveture of notch root 1/ρ, mm-1

HT-590, Through thicknenn notch

HT-590, Root notch (correction)

HT-780, Through thicknenn notch

HT-780, Root notch

Fig. 2-12 Relationship between fatigue limit and curvature of notch root

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(3) 応力集中部の疲労強度は,応力集中係数と応力勾配(切欠き半径)により決まり,本材料で

は切欠き部の曲率が 2~4mm-1以下では応力集中係数に応じた疲労強度が得られ,曲率がそれ以上

では一定値を取ることがわかった.なお,590MPa 級鋼板と 780MPa 級鋼板では,応力集中の影響

に関する材料間の差異はほとんどないことが確認できた.

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付録 A 重ねすみ肉溶接部の応力集中係数

本章において,Fig.2-6 で示した試験片の応力集中係数は,応力解析により算出した.ここで

は,重ねすみ肉溶接部を想定した応力集中係数の解析結果をまとめる.

A1. 解析モデル

応力解析には 2 種類のモデルを用いた.Fig.2A-1 にモデルの概略を示す.(a)は片持ち曲げモ

デルであり,(b)は曲げモーメントモデル(5)である.片持ち曲げモデルでは板厚 3.0mm,止端半径

ρ=0.01~0.3mm,フランク角θ=135°とした.曲げモーメントモデルでは,t=2.9,3.4mm,ρ=0.2

~4.0mm,θ=115,140°とした.(a)は 2 次元平面ひずみモデル,(b)は単位板厚を付与したモデ

ルである.このモデルに対し,単位荷重および単位曲げモーメントを付与した弾性解析を実施し,

止端部応力を公称曲げ応力で除すことにより応力集中係数を算出した.

A2. 解析結果

Fig.2A-2 に,Fig.2A-1(b)のモデルを用いて得られた応力分布をコンター図で示す.ほぼ均等

に曲げられていることが分かる.この例は,板厚 t=3.4mm,ρ=1.0mm,θ=140°であり,応力集

中係数αは 1.32 であった.

Fig.2A-3 に,横軸をρ/t として求められたαを整理した結果を示す.モデルにより若干値は異

なるものの,ほぼ 1本の曲線で近似することができた.

75

100

25

150

3

23

22

t

(11)

(b) Model 2

Fig. 2A-1 FEM model of stress concentration factor

(a) Model 1

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- 31 -

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

0.0 0.5 1.0 1.5

ρ/t

Str

ess

concentr

ation f

acto

r α

Model 1

Model 2

Fig. 2A-2 Example of FEM analysis (Model 2, t=3.4mm, ρ=10mm, θ=140°)

Fig. 2A-3 Relationship between stress concentration factor and ρ/t

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- 32 -

付録 B プレス残留応力の影響検討結果

ここでは,V 型に曲げた試験片を用いて実施した,疲労強度に及ぼすプレス残留応力の検討結

果(13)と,本章で示した平均応力の影響の検討結果との比較を示す.

B1. 試験方法

B1.1 材料および試験片

試験に用いた材料は,780MPa 級鋼板であり,本章の材料とはロットが異なる.板厚は 2.9mm と

3.2mm の 2種類を用いた.代表的な機械的性質を Table 2B-1 に,平面曲げ疲労試験結果を Fig.2B-1

に示す.この材料を用いて,曲げ加工により Fig.2B-2 に示す V型の試験片を製作した.内側曲げ

R10 である。曲げ加工により,曲げ内側に引張の残留応力が導入される.なお,板厚 3.2mm では,

曲げ加工後にショットピーニング処理を施し,残留応力を変化させた.

B1.2 疲労試験

疲労試験は電気油圧サーボ式疲労試験機を用い,試験力制御にて実施した.応力比 R は,ショ

ットピーニングなしでは-1 および 0.1 とし,ショットピーニング試験片では R=-1 とした.試験

周波数は 1~5Hz,試験環境は常温大気中である.打ち切り繰り返し数は,5×106サイクルを目安

とした.この試験片は曲げ R 内側より破断するが,この部分にはゲージ長 3mm のひずみゲージを

貼付し,疲労試験開始前に静的に数回試験力を加えて試験力とひずみの関係も測定した.

B1.3 残留応力測定

試験片表面の残留応力は,X線を用いて側傾法にて測定した(8).X 線のスポット径はφ1.0mm で

ある.また,疲労寿命 3×105サイクル付近の試験条件で,途中で試験を中断して試験中の残留応

力変化と,試験力とひずみの関係を測定した.

B2.試験結果

B2.1 初期残留応力

試験片 R部の初期残留応力測定結果を Table 2B-2 に示す.疲労強度に影響を及ぼすと考えられ

る,R内側の軸方向残留応力は約 300MPa の引張となっている.また,ショットピーニング試験片

では,約-300MPa の圧縮残留応力が導入されている.

B2.2 疲労試験結果

Fig.2B-2 に,曲げ R 内側に貼付したひずみゲージにより測定された,全ひずみ範囲Δεtで整

理した疲労試験結果をまとめる.まず,R=-1 の結果と平面曲げ疲労限度(σw = 380MPa)より計

算される両振り疲労限度に対応するひずみ範囲(3690μstrain)を比較すると,今回の結果の方が

小さくなっており,R内側の引張残留応力の影響が確認できる.ショットピーニングにより,R内

側の残留応力を圧縮に変化させると疲労強度は向上し,平面曲げ疲労限度を上回っている.また,

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- 33 -

MaterialYeild stress

σy, MPa

Tensile strength

σB, MPaElongation

%

HT-780 777 826 20

Table 2B-1 Mechanical properties

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure N f, cycles

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

t=2.9mm

t=3.4mm

Plane bending

R10

(270)

30

25

t=2.9, 3.2

Fig. 2B-2 Test specimen

Fig. 2B-1 S-N curves (As rolled, Plane bending)

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Axialdirection

Perpendiculardirection

Axialdirection

Perpendiculardirection

No.1 310 61 -310 -301

No.2 282 74 -273 -266

Shot peening -327 -470 -550 -494

Outside

Table 2B-2 Residual stress (σR, MPa)

Specimen

Inside

1000

2000

3000

4000

5000

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Number of cycles to failure Nf, cycles

Tota

l st

rain

range

 Δ

εt,

μst

rain

R=-1

R=0.1

R=-1 (Shot peening)

-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06

Number of cycles N, cycles

Resi

dual st

ress

σR, M

Pa

R=-1(ΔP=700N)R=0.1(ΔP=585N)

Shot peening(ΔP=1300N)

Fig. 2B-3 S-N curves

Fig. 2B-4 Change of residual stress

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- 35 -

R=0.1 の結果は時間強度では R=-1 を下回っているが,疲労限度ではほぼ同等であった.

B2.3 試験中の残留応力変化

Fig.2B-4 には,疲労試験中の R内側の軸方向残留応力の変化をまとめる.いずれの条件におい

ても,試験開始直後に残留応力の絶対値が減少し,その後はほとんど変化しない様子が確認でき

る.R=0.1 において,初期の残留応力変化が非常に大きい.

Fig.2B-5 には,試験力とひずみの関係の変化をまとめる.(a)は R=-1, (b)は R=0.1, (c)はシ

ョットピーニング試験片の結果(R=-1)である.いずれの結果も,1 サイクル目に残留ひずみが

発生し,その後は安定した線形の変形挙動を示しているが,R=0.1 の場合,他に比較して 1 サイ

クル目の残留ひずみ量が大きい.したがって,この残留ひずみ量の影響で,大きく残留応力が変

化したと考えられる.本試験では,周辺の形状による拘束がないこともあり,軸荷重により R 部

が塑性変形を起こしたものと推測される.

R=-1ΔP=750N

-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400

-1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500

Strain ε, μstrain

Loa

d

P, N

1cycle

2cycle

10cycle

1000cycle

100000cycle

Forc

e P

, N

(a) Stress ratio R=-1Fig 2B-5 Relationship between Load and strain

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R=0.1ΔP=535N

0

100

200

300

400

500

600

700

0 1000 2000 3000 4000 5000

Strain ε, μstrain

Load

P, N

1cycle

2cycle

10cycle

1000cycle

100000cycle

Forc

e P

, N

R=-1 (Shot peening)ΔP=1300N

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

-3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000

Strain ε, μstrain

Load

P, N

1cycle

2cycle

10cycle

1000cycle

100000cycle

Forc

e P

, N

(b) Stress ratio R=0.1

(c) Shot peening, stress ratio R=-1Fig 2B-5 Relationship between Load and strain

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B3.疲労限度線図

以上の試験結果から,疲労限度線図を用いて残留応力の影響を検討した.Fig.2B-6 に,疲労限

度線図を示す.図中の黒印は初期残留応力を用いて平均応力を算出した結果,白印は初期の残留

応力変化を考慮して平均応力を算出した結果であり,疲労限度はひずみ範囲にヤング率を乗じる

ことで応力に換算した.図中には,平面曲げ疲労限度(σw = 380MPa)を通るように引いた修正

Goodman 線を実線で,材料ロットは異なるが Fig.2-4(b)で示した疲労限度線図を破線で示した.

正の平均応力の結果は,実線と破線の間に位置しており,残留応力変化を考慮すると修正 Goodman

線に近い結果が得られた.したがって,修正 Goodman 線を基に設計すれば,安全側となると考え

られる.一方,負の平均応力の結果は,両方の線の下側にデータが位置しており,いずれの方法

でも危険側となる可能性が否定できない.これらはショットピーニングの結果であり,プレス曲

げと比較して板厚方向の残留応力分布が異なるため,詳細な検討が必要と考えられる.

0

100

200

300

400

500

-500 0 500 1000

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Mean stress σm, MPa

Before fatigue test

After fatigue test

Modified Goodman line

Fatigue limit line

Fig 2B-6 Fatigue limit diagram

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第 2章 参考文献

(1) 岡本 力 麻生敏光 岡田浩幸,まてりあ,Vol.51, No.1 (2012), 28.

(2) 清水哲雄,青柳信男,川崎製鉄技報,第 31 巻,第 3号 (1999), 185.

(3) 日本機械学会編,“金属材料疲労強度の設計資料(Ⅰ)”,(2007).

(4) 杵渕雅男,田中啓介,日本機械学会年次大会講演論文集,Vol.2 (2002), 339.

(5) 杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,自動車技術会論文集,Vol.43, No.2 (2012), 527.

(6) 日本材料学会編,” 疲労設計便覧”,(1995).

(7) 西田正孝,“応力集中”(1973), 森北出版

(8) 日本材料学会,“X線応力測定法標準=鉄鋼編=”(2002).

(9) 杵渕雅男,田村栄一,日本機械学会年次大会講演論文集,Vol.1 (2003), 119.

(10) 石橋 正,”金属の疲労と破壊の防止” (1967), 養賢堂

(11) E. Siebel and M. Stieler, VDI-Z,97-5 (1955), 121.

(12) 西谷弘信,機械学会論文集,Vol.34 (1968), 371.

(13) 杵渕雅男,日本機械学会年次大会講演論文集,Vol.1 (2001), 239.

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第 3章 シャー切断部の疲労強度に関する検討

3.1 緒言

薄鋼板を自動車部品に加工する際には,金型を用いてシャー切断や打ち抜き加工により鋼板を

切断した後,プレス加工により成形し,溶接等により組み立てられる.これら部品の一部では,

鋼板の切断部から疲労き裂が発生する場合がある.Fig.3-1 に,シャー切断加工状況を,Fig.3-2

に切断部の状況を模式的に示す.シャー切断や打ち抜き加工を行うと,切断開始時はせん断変形

により切断が進行し、せん断面とよばれる比較的平滑な面が形成される.さらに切断が進むと,

切断された板が倒れ込むため,せん断変形に加え引張変形も重畳して切断が進行し,せん断面よ

りも表面性状が劣化した破断面と呼ばれる面が形成される.破断面は表面性状が劣化しているこ

とに加え,せん断面よりも大きな塑性変形が導入されることから,高い引張残留応力が発生して

いると考えられ,疲労き裂発生が懸念される. 特に,シャシー部品は路面からの繰返し入力を受

けるため,部品の疲労信頼性確保のためには,切断部の疲労強度に関する検討が必要である.

切欠きによる応力集中と切断の影響が重畳する打ち抜き穴部の疲労強度はこれまでも検討され

ており,高強度化しても疲労強度は向上しない(1)~(3)が,円錐パンチを用いて打ち抜き穴コーナー

部をプレスするコイニング加工(4)~(7)を行うと,圧縮残留応力を付与でき,疲労強度を改善するこ

とができる.また,穴の加工方法の影響についても検討されており、打ち抜きよりもレーザ切断

の方が高い疲労強度が得られる(8)との報告がある.一方、プレス前の形状に鋼板を採取する際に

Steel plate

Die

Punch

Shearingdirection

Shearsurface

Fracturesurface

Fig.3-1 Schematic illustration of shear cutting process

Fig.3-2 Schematic illustration of shearing edge

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用いられるシャー切断について,疲労強度に与える影響因子を検討した結果(9)では,打ち抜き穴

と同様,主要な影響因子は表面粗さと残留応力であると報告されているが,その影響度の定量化

には至っておらず,詳細な検討が必要であると考えられる.

本章では,足回り部品に使用される熱延ハイテン鋼板のシャー切断部の疲労強度に着目し,シ

ャー切断により作成した試験片を用いて疲労試験を実施した.その結果から、切断部の疲労強度

支配因子として抽出した残留応力による疲労限度への影響を定量化し,また切断部の疲労強度の

簡便な予測法について提案した.次に,引張残留応力の低減による切断部の疲労強度の改善策を

検討した.具体的には,金型により施工が可能で自動車部品製造時のコストアップが小さいと考

えられるシェービング加工,さらに圧縮残留応力の付与効果が高いショットピーニングを取り上

げ,その改善効果について検討した.

3.2 切断部の疲労強度支配因子の検討

3.2.1 試験方法

(1) 材料および試験片

試験に用いた材料は,590MPa 級熱延ハイテン鋼板(板厚 3.2mm)である.その機械的性質とビ

ッカース硬さを Table 3-1 に示す.本材料は第 2 章で用いた材料の一つである.なお,引張試験

片のくびれ性状から,局部伸びを負担する部分の軸方向長さを仮定し,体積一定条件により破断

時の断面積を推定して算出した真破断力は 1245MPa である.

MaterialYield stress

σy ,MPa

Tensile strength

σB ,MPaElongation

%

Vickershardness

HV

HT-590 544 616 30 206

Table 3-1 Mechanical properties

Fig.3-3 Test specimen

6565

9090

30

30

R30

15

15 18

18

4-φ74-φ7Shearingedge

(t3.2)

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Fig.3-3 に試験片形状を示す.R30 部分の試験片端面を評価対象とし,鋼板を板幅 30mm の短冊

に加工した後,金型を用いて試験片の両側を同時に三日月状に打ち抜いて,試験片端面に切断部

を配した疲労試験片を製作した.打ち抜きのクリアランスは 0.4mm である.また,打ち抜き加工

を用いず,機械加工により試験片を製作し,端面部分に電解研磨仕上げを施した試験片を比較材

として用いた.

(2) 切断部の表面・断面観察

打ち抜き切断部の表面性状は,走査型電子顕微鏡により観察を行った.また,触針式粗さ計を

用いて切断部の粗さを測定した.さらに,切断部近傍の断面組織を,ナイタールエッチングを施

した後に光学顕微鏡で観察し,打ち抜きに伴う変形状況を確認した.

(3) 残留応力測定

切断部の残留応力は,位置検出型比例計数管 PSPC(Position Sensitive Proportional Counter)

微小部 X 線応力測定装置を用い,側傾法により試験片長手方向の残留応力を測定した(10).X 線の

スポット径はφ0.5mm であり,測定位置は,打ち抜きパンチ側近傍(せん断面),板厚中心部,お

よび打ち抜きダイ側近傍(破断面)である.なお,電解研磨を用いた逐次研磨法により,深さ方

向の残留応力分布を測定した.

(4) 疲労試験

疲労試験は,共振型疲労試験機を用いて,面内曲げにより実施した.Fig.3-3 の太い矢印は,

付与した曲げモーメントの方向を示す.応力比 R=-1,試験周波数は 33.3Hz,試験環境は常温大気

中である.なお,試験片形状から算出される応力集中係数は 1.17 であるが,本研究では,試験開

始前に,機械仕上げした試験片を用い,Fig.3-3 の矢印の位置の試験片端面にひずみゲージを貼

付することにより,曲げモーメントと端面のひずみの関係を測定して校正曲線を作成し,この校

正曲線により応力を算出して試験結果を整理した.また,疲労試験終了後に,走査型電子顕微鏡

により破面観察を行い,疲労き裂発生位置を確認した.

3.2.2 試験結果

(1) 切断部の表面および断面観察結果

Fig.3-4 に,切断部の表面および断面観察結果を示す.(a)は表面,(b)は断面観察結果であり,

切断方向は上から下向きである.今回の切断条件では,板厚に対するせん断面の比率は 20~30%,

破断面の比率は 70~80%である.また,せん断面に比較して,破断面の表面性状が劣化している

ことがわかる.せん断面および破断面の表面粗さは,最大高さ Rzで 5.6 および 10.8μmであった.

一方,電解研磨を施した端面の表面粗さは Rzで 4.0μm であり,せん断面よりもさらに小さな値

となっている.また,Fig.3-4(b)より,特に破断面近傍に大きな塑性流動が認められ,その幅は

約 130μm であった.

(2) 残留応力測定結果

残留応力の測定位置を Fig.3-5 に模式的に示す.今回の試験片では,板厚中央部も破断面とな

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っている.切断部を持つ試験片の測定結果を Fig.3-6(a)および(b)に示す.Fig.3-6(a)は疲労試

験前の試験片の測定結果,(b)は疲労試験後(107 サイクル未破断)の試験片を用いた測定結果で

あり,別々の試験片の結果である.なお,最表面の測定は加工後の端面に対してそのまま行った.

Fig.3-6(a)に示した通り,疲労試験前の切断部の破断面および板厚中心では,降伏応力を超え

るような高い引張残留応力が認められる.これは,切断により生じた塑性流動が原因と考えられ

る.この試験片に繰返し応力を付与すると,残留応力は再配分を起こし(b)のように変化するが,

破断面および板厚中央部の値は依然として高い.

なお,電解研磨を施した試験片では,Fig.3-5 に示した 3 箇所について疲労試験前の表面残留

応力を測定したが,-22~-26MPa であった.したがって,電解研磨試験片では残留応力の影響は

ほとんどないものと考えられる.

(3) 疲労試験結果

疲労試験により得られた S-N 曲線を Fig.3-7 に示す.電解研磨試験片に比較して,切断部を有

する試験片の疲労強度は全体として低下しており,寿命が 105 サイクルで比較すると,切断部の

疲労強度は電解研磨試験片の 75%程度である.また,切断部の疲労限度は 179MPa,電解研磨面の

疲労限度は 290MPa であり,疲労限度は約 60%に低下している.

試験終了後に破面観察を実施した.Fig.3-8 に破面観察方向の概要を,Fig.3-9 には切断部を有

する試験片の観察結果を,Fig.3-10 には電解研磨試験片の観察結果を示す.写真の左側が試験片

の端面であり,切断方向は上から下である.(a)は破面を真上からみたもの,(b)は破面とともに

端面性状も確認できるよう,斜め方向から観察した写真である.写真中の矢印は疲労き裂の発生

位置を示すが,切断部では破断面側からき裂が発生している.一方,電解研磨試験片では,コー

ナーに近い端面からき裂が発生している.

500μm500μm500μm 0.5mm0.5mm

A

A

Shear surface

FracturesurfaceS

hea

ring

dire

ction

130μm

Fig.3-4 Observation of shearing edge (11)

(a) Shearing edge (b) Cross section of A-A

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Shearingdirection

Shearsurface

Fracturesurface

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

0 50 100 150 200 250 300 350

Distance from shearing edge, μm

Resi

dual

str

ess

 σ

R, M

Pa

Shear surface

Center of thickness

Fracture surface

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

0 50 100 150 200 250 300 350

Distance from shearing edge, μm

Resi

dual

str

ess

 σ

R, M

Pa

Shear surfaceCenter of thicknessFracture surface

Fig.3-5 Schematic illustration of measurement point of residual stress

(a) Before fatigue test

(b) After fatigue test

Fig. 3-6 Measurement results of residual stress (11)

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100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plit

ude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

Shearing edge

Electro-polished

Shearing direction

500μm 500μm500μm500μm

Fig.3-7 S-N curves (11)

Fig.3-8 Direction of observation of fracture surface (11)

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-9 Fracture surface of shearing edge (11)

(σa = 242 MPa, Nf = 3.19×105 cycles)

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-10 Fracture surface of

electro-polished edge (11) (σa = 322 MPa, Nf = 1.03×106 cycles)

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3.2.3 切断部の疲労限度に及ぼす残留応力の影響

以上の試験結果を基に,切断部の疲労限度低下の原因を考察する.

まず,切断部,特にき裂発生位置である破断面の粗さの影響であるが,本材料において,試験

片表面に粗さの異なる 3 種類の表面傷を付与して疲労試験を実施した結果(詳細は付録 B にまと

める)では,疲労限度に影響を及ぼす表面傷の粗さは最大高さ Rz>20~30μm であった.一般に,

表面粗さが大きいほど疲労限度が低下することが知られているが,今回の破断面の表面粗さ Rz

=10.8μm であり,表面粗さによる疲労限度低下はほとんどないと考えられる.

次に,残留応力の影響であるが,一般に,引張残留応力は疲労強度を低下させ,圧縮残留応力

は疲労強度を向上させる.切断部には,Fig.3-6 に示したように高い引張残留応力が存在するた

め,疲労強度低下の原因のひとつと考えられる.残留応力は繰返し荷重の付与により再配分する

ため,ここでは疲労試験前と疲労試験後(107サイクル未破断)の試験片の両方の測定結果を用い,

切断部の疲労限度に対する影響を検討した.

Fig.3-6 に示したように,残留応力は板厚方向および深さ方向に分布を持っているため,以下

の 2 種類の方法による残留応力の値を用いた.なお,き裂発生位置は,板厚中央と破断面の残留

応力測定位置の間に位置するため,この 2ヶ所の平均を取った.

(1) 破断面の表面粗さ Rzが 10.8μm であるため,これとほぼ同等の深さである,表面より 10μm

の位置の残留応力を,測定結果の直線近似による外挿から決定した.このようにして求めた残留

応力を,表面残留応力σRS と定義する.なお,今回の測定では,最表面は切断後に研磨なしで測

定を行っており,表面性状などの影響を強く受けて大きくばらつく可能性が考えられるため,直

線近似には用いなかった.

(2) 残留応力発生の主原因と考えられる塑性流動範囲が,端面から約 130μm の範囲であることか

ら,表面から 10~130μm の残留応力を平均することとし,前述の方法と同様,測定結果を直線近

似してそれぞれの位置の残留応力を算出し,平均値を計算した.このようにして求めた残留応力

を,平均残留応力σRMと定義する.なお,疲労試験前の残留応力をσRS,BおよびσRM,B,疲労試験後

の残留応力をσRS,AおよびσRM,Aとしてそれぞれ区別する.

これらの方法により得られた残留応力の値を,Table 3-2 にまとめる.疲労試験前後いずれに

おいても,表面残留応力のほうが平均残留応力よりも大きい.

次に,これらの値を平均応力として,疲労限度線図により疲労限度を推定した.Fig.3-11 に,

電解研磨試験片の疲労限度 290MPa と,引張試験から推定される真破断力 1245MPa を用いて作成し

Surface

σRS,B, MPa

Mean

σRM,B, MPa

Surface

σRS,A, MPa

Mean

σRM,A, MPa

962 852 665 577

Before fatigue test After fatigue test

Table 3-2 Residual stress

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- 46 -

0

50

100

150

200

250

300

350

0 500 1000 1500

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Mean stress σm, MPa

92MPa

65MPa

σRS,B

962MPa

σRM,B

852MPa

σw0:290MPa

σT:1245MPa

Before fatigue test

0

50

100

150

200

250

300

350

0 500 1000 1500

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Mean stress σm, MPa

156MPa

135MPa

σRS,A

665MPa

σRM,A

577MPa

σw0:290MPa

σT:1245MPa

After fatigue test

(b) After fatigue testFig.3-11 Fatigue limit diagram (11)

(a) Before fatigue test

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- 47 -

た疲労限度線図を示す.図中には,表面残留応力および平均残留応力を平均応力とした場合の疲

労限度予測結果も示した.(a)は疲労試験前の測定結果を用いた予測結果,(b)は疲労試験後の測

定結果を用いた予測結果である.

疲労試験前後いずれにおいても,表面残留応力σRS のほうが大きいため,予測される疲労限度

は小さくなる.疲労試験前の残留応力σRS,BおよびσRM,Bを用いた予測結果では,σRS,Bを用いた場

合は 65MPa,σRM,Bを用いた場合は 92MPa であり,疲労試験結果により得られた疲労限度(179MPa)

よりも大幅に小さい.一方,疲労試験後の残留応力σRS,A およびσRM,A を用いた予測結果は,σRS,A

を用いた場合は 135MPa,σRM,Aを用いた場合は 156MPa であり,σRM,Aを用いた結果が最も試験結果

に近く,かつ安全側となる.

これらの結果から,疲労強度は,初期の残留応力よりも,再配分後の残留応力とより強く相関

すると考えられる.また,疲労強度はある点の最大応力で決まるのではなく,ある一定範囲(一

般には数結晶粒程度)の損傷の蓄積で決まるため,残留応力についても表面よりある程度内部ま

での平均値を用いたほうがより試験結果に近い結果を与えたものと考えられる.なお,本材料に

おいては,平均残留応力の値は降伏応力とほぼ一致している.局部的に強変形を受けた部位の残

留応力が降伏応力程度となる可能性は十分に考えられるため,残留応力が推定できない場合の第

一近似として,降伏応力を平均応力として疲労限度を予測できる可能性が考えられる.なお,シ

ャー切断のような強変形を受けた部分に導入される残留応力とその再配分挙動については,今後

さらに詳細な検討が必要である.

3.2.4 切断部の S-N 曲線の簡便予測法

これまでの検討により,切断部の疲労限度は平均残留応力を用いて予測できることが示された.

そこで,本項では切断部の疲労強度(S-N 曲線)の簡便予測法について検討する.ここで予測す

る S-N 曲線は,有限寿命域と疲労限度を 2直線で近似するものとする.S-N 曲線を得るためには,

疲労限度と折れ曲がり点の寿命,および有限寿命域の 1 点が必要である.これらの値を,疲労試

験結果を用いずに予測する方法を検討する.

(1) 切断部の疲労限度

切断部の疲労限度は,疲労限度線図を用いて予測する.Fig.3-12 に,疲労限度予測の概念図を

示す.平滑材の疲労限度σw0 は,これまでの多くの疲労試験結果を比較的良好に整理できるとさ

れている,ビッカース硬さ HV の 1.6 倍とする.切断部の疲労限度σwは,残留応力を平均応力と

し,σw0と引張試験により得られる真破断力σTにより作成した疲労限度線図を用いて予測するが,

疲労試験後の残留応力は予測が困難なため,一次近似として降伏応力σyを用いる.

(2) S-N 曲線の折れ曲がり点

本材料のように,明瞭な疲労限度が認められ,S-N 曲線が 2 直線で近似できる材料では,折れ

曲がり点は疲労寿命で 1~2×106 サイクル付近とされている.折れ曲がり点の寿命を大きく取る

と S-N 曲線の傾きが小さくなり,特に長寿命側でより長寿命の予測を与えるため,場合によって

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は危険側の予測となる危惧がある.そこで,ここでは折れ曲がり点の寿命を 1×106サイクルと仮

定する.

(3) 有限寿命域

有限寿命域の 1 点は,応力振幅として真破断力が作用したときの疲労寿命を 1/4 サイクルと仮

定して決定する.これは,疲労限度線図の横軸上の点を真破断力で与えることと同様の考え方で

ある.

以上を用いた S-N 曲線予測法の概要を,Fig.3-13 に示す.

Fig.3-14 に,試験結果と予測結果の比較を示す.切断部の疲労強度,および電解研磨面の S-N

曲線予測結果は,試験結果に非常に近い.この方法が広く一般的に適用できるかどうかは,さら

に詳細な検討が必要であるが,材料強度および微視組織が同等であれば,同様の傾向を示す可能

性がある.今回の材料はフェライト-ベイナイト組織を有しているため,材料強度が同等で,か

つフェライトを母相とし硬質の第 2 相が分散している微視組織を有している材料では,一次近似

として適用可能ではないかと考えられる.

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Mean stress σm, MPa

σw0 = 1.6×HV

σw

σyσT

Fig.3-12 Prediction method of fatigue limit (11)

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Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

1/4 cycle

Knee point

σw0

σw

1×106cycles

σT

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plit

ude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

Shearing

Electro-polished

Prediction (shearing edge)

Prediction (electro-polished)

Fig.3-14 Prediction of S-N curves (11)

Fig.3-13 Prediction method of S-N curves (11)

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3.3 シェービング加工による疲労強度改善

3.2 項では,シャー切断部の疲労強度支配因子として,残留応力の影響が大きいことを示した.

本項では,この知見を基にシャー切断部の疲労強度を簡便に改善する方法として,プレス機を用

いて施工が可能なシェービング加工を取り上げる.

Fig.3-15 にシェービング加工の模式図を示す.シャー切断部近傍の塑性変形領域を金型により

削り取ることで,切断時に導入された引張残留応力を低減する.シェービング加工の特長は,鋼

板切断工程に組み込めるために部品製作工程の大幅な変更が必要ないことである.一方,切断部

をわずかに削り取るプロセスであるため,加工条件や金型の精度によって表面性状の劣化やばら

つきの発生が懸念される.

本項では,シャー切断を付与した疲労試験片にシェービング加工を施し,加工前後の残留応力

変化を確認した.その後,疲労試験によりシェービング加工による疲労強度改善効果を残留応力

と表面性状の観点で検証した.

3.3.1 試験方法

(1) 材料および試験片

試験に用いた材料は,前項と同様の 590MPa 級熱延ハイテン鋼板(板厚 t=3.2mm)である.試験

片形状は,Fig.3-3 で示した通りであり,鋼板を板幅 30mm の短冊に加工し,プレス機に金型をセ

ットして試験片の両側を三日月状に打ち抜いた後,シェービング加工を施して疲労試験片を製作

した.半径 30mmの曲率を有する打ち抜いた試験片端面が評価対象である.打ち抜きクリアラン

スは 3.2 項の 0.4mm よりも小さい 0.2mm とした.これは,シェービング加工前の試験片の形状ば

らつきを抑えるためであるが,切断部の表面性状はせん断面の割合がやや大きくなった以外はほ

とんど変化しなかった.シェービング加工条件は,シェービング代 0.38mm および 0.75mm の 2 種

類とし,クリアランスは 0.02mm,加工方向は打ち抜き方向と同一とした.なお,打ち抜きおよび

シェービング加工は,試験片の両端面を同時に実施した.また,シェービング代 0.38mm では,金

型のセット状況による加工ばらつきを検討するため,一連の試験片製作後に金型を一旦プレス機

から取り外し,再度セットし直して 2 回目の加工を行った.さらに,3.2 項の打ち抜き切断部を

持つ試験片と機械加工後に端面部分に電解研磨仕上げを施した試験片の結果を,比較として用い

た.

なお,シャー切断部では Fig.3-6 に示すように,表面から深さ 300μm までの残留応力を測定し

た.その結果,表面では約 800MPa, 深さ 300μm では約 400MPa の引張残留応力が測定された.し

たがって,シェービング代 0.38mm は高い引張残留応力の領域を削り取ることが,0.75mm ではシ

ャー切断により導入された引張残留応力の領域のほとんどを削り取ることができると考えられる.

(2) シェービング面の断面観察

シェービング時に金型を適宜停止させて製作した試験片を用い,ナイタールによりエッチング

を施した断面を用いて,シェービング進行状況を観察した.シェービング代 0.38mm, 0.75mm の両

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Steel plate

Die

Punch

Steel plate

Punch

Die

(a) Shear cutting process

(b) Shaving processFig.3-15 Shaving process (12)

(a) 0.38mm

(b) 0.75mmFig.3-16 Observation of shaving process (12)

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方で観察を実施した.

(3) 残留応力測定

残留応力は,PSPC 微小部 X線応力測定装置を用い,側傾法により試験片長手方向の残留応力を

測定した(10).X 線のスポット径はφ0.5mm であり,測定位置は打ち抜きパンチ側近傍(せん断面),

板厚中心部,および打ち抜きダイ側近傍(破断面)である.なお,電解研磨は実施せず,直接シ

ェービングした端面の残留応力を測定した.

(4) 疲労試験

疲労試験は,共振型疲労試験機を用い,面内曲げ疲労試験を実施した.試験周波数は 33.3Hz,

試験環境は常温大気中である.また,疲労試験終了後に走査型電子顕微鏡により破面観察を行い,

疲労き裂発生位置を確認した.

3.3.2 試験結果

(1) シェービング加工時の断面観察結果

Fig.3-16 に断面観察結果を示す.(a)がシェービング代 0.38mm のもの,(b)が 0.75mm のもので

ある.いずれも,切断部の表面を削り取るように加工が進行している.また,0.75mm については,

加工が完了する前にせん断による材料の変形が認められる.

(2) 残留応力測定結果

残留応力の測定位置は Fig.3-5 と同様であり,表面の残留応力を測定した.Fig.3-17 に測定結

果を示す.(a)は疲労試験前の試験片の測定結果,(b)は疲労試験後(107サイクル未破断)の試験

片の測定結果である.疲労試験後の測定は,シェービング代 0.38mm のみ実施した.0.38mm-1 と

0.38mm-2 は,金型の再セット前後の 2種類の試験片を示しているが,同一試験片の疲労試験前後

の測定結果を示している.なお,シェービング加工を施した試験片では各試験片とも試験片の両

側の端面を測定したが,疲労強度に対する影響が大きいと考えられる,大きな引張残留応力が測

定された端面の結果を示した.また,シャー切断部の結果を比較として示しているが,これは 3.2

項で示した結果である.

まず,Fig.3-17(a)に示した疲労試験前の残留応力測定結果であるが,シャー切断部では,せん

断面では圧縮残留応力が認められる.一方,板厚中心部および破断面では高い引張残留応力が認

められる.シェービング代 0.38mm で加工を施すと,板厚中心部は圧縮に変化し,破断面の引張残

留応力は低減する.また,0.38mm-1 と 0.38mm-2 では板厚中央部の圧縮残留応力の絶対値が異な

る.一方,シェービング代 0.75mm では板厚中心部の残留応力は引張のままであり,シェービング

代 0.38mm とは残留応力分布が異なる.なお,同じ試験片でも両側の残留応力分布に差異が認めら

れる場合もあった.この原因として,シェービング代が小さいため,打ち抜き後の試験片形状の

わずかな差異などにより残留応力が変化した可能性が考えられる.

次に,Fig.3-17(b)に示した疲労試験後の試験片の残留応力測定結果であるが,疲労試験により

残留応力は再配分し,符号は変化していないものの,Fig.3-17(a)に比較して引張,圧縮ともその

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-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

Resi

dua

l st

ress

σR, M

Pa

Shear surfaceCenter of thicknessFracture surface

Shearingedge

Shaving edge

0.38mm-1 0.38mm-2 0.75mm

Before fatigue test

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

Resi

dual

str

ess

σR, M

Pa

Shear sufaceCenter of thicknessFracture surface

0.38mm-1 0.38mm-2

After fatigue test

Shearingedge

(a) Before fatigue test

(b) After fatigue testFig.3-17 Measurement results of residual stress (11)

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絶対値は小さくなっている.また,引張の最大値は,0.38mm-1 よりも 0.38mm-2 のほうが小さく,

初期の残留応力と大小関係が逆転している.この原因は明確ではないが,疲労試験前のせん断面

および板厚中心部で測定されている圧縮残留応力は 0.38mm-2 のほうが大きいため,再配分時に破

断面の引張残留応力が圧縮側に変化しやすく,0.38mm-2 の引張残留応力が小さくなった可能性が

考えられる.

(3) 疲労試験結果

Fig.3-18 に疲労試験結果を示す.電解研磨試験片と比較すると,シャー切断部では疲労強度は

低下し,疲労限度は約 60%となった.これに対し,シェービング代 0.38mm 加工は疲労強度を改善

する.また,0.38mm-2 のほうが 0.38-1mm よりも全体的に高い疲労強度が得られ,電解研磨試験

片に近いレベルまで疲労強度が改善した.一方,0.75mm ではほとんど改善が認められなかった.

Fig.3-8 と同様の方向から破面観察を行った結果を Fig.3-19,20 に示す.Fig.3-19 はシェービ

ング代 0.38mm-1,Fig.3-20 はシェービング代 0.75mm の観察結果である.(a)は破面を真上から見

たもの,(b)は破面とともに端面も確認できるように斜め方向から観察したものであり,図中の矢

印はき裂発生位置を示している.なお切断方向およびシェービング方向は上から下である.シャ

ー切断部では,Fig.3-9 に示した通り,き裂は打ち抜きダイ側の破断面より発生したが,シェー

ビング代 0.38mm では,シェービング終了側のわずかに表面性状が劣化した部分からき裂が発生し

ている.シェービング代 0.75mm では,シェービング終了側に切断部およびシェービング代 0.38mm

よりも表面性状が劣化している部分があり,ここからき裂が発生している.

3.3.3 考察

(1) 残留応力の影響

Fig.3-21 には,残留応力を平均応力として作成した疲労限度線図を示す.平均応力としては,

疲労強度に大きな影響を与えると考えられる各試験片における引張残留応力の最大値を用いた.

また,シェービング代 0.75mm の 107サイクル未破断の疲労試験結果は得られていないため,試験

結果を直線で外挿し,106サイクル付近でS-N曲線が折れ曲がるとして疲労限度を推定した.また,

シェービング代 0.38mm では,疲労試験後の試験片の結果を黒印であわせて示した.図中の直線は,

電解研磨試験片の疲労限度と引張試験により推定した真破断力を用いて作成した疲労限度線であ

る.引張残留応力が小さいほど疲労限度は大きい.まずシェービング代 0.38mm の結果であるが,

本整理には残留応力の深さ方向の分布は考慮していないため,疲労試験後の残留応力測定結果を

用いても,疲労限度線図とは完全には一致しない.しかしながら,引張平均応力による疲労限度

低減の傾向は一致している.すなわち,シャー切断部にシェービング加工を施すと切断部の高い

引張残留応力が低減し,疲労限度が改善したと考えられる.また,疲労試験後の残留応力測定結

果を用いたほうがより疲労限度線図に近づくことから,切断部の疲労強度に対しては,再配分後

の残留応力の影響が大きいことが改めて確認できる.

次に,シェービング代 0.75mm の結果であるが,疲労試験前の残留応力測定結果を用いているに

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100

200

300

400

500

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

Electro-polished

Shearing

0.38mm-1

0.38mm-2

0.75mm-1

500μm 500μm500μm 500μm

Fig.3-18 S-N curves (12)

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-19 Fracture surface of shaving edge

(0.38mm-1) (12) (σa = 339 MPa, Nf = 1.76×105 cycles)

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-20 Fracture surface of shaving edge

(0.75mm) (12) (σa = 231 MPa, Nf = 5.65×105 cycles)

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も関わらず,試験結果は疲労限度線図とほぼ一致する.しかしながら,シェービング代 0.75mm の

場合も,シェービング代 0.38mm と同程度の残留応力の再配分が起こると考えられ,引張残留応力

は少なくとも 200MPa 程度に低減するものと予想される.このため,シェービング代 0.75mm の疲

労限度は,残留応力だけでは説明できないと判断される.

(2) 表面性状の影響

シェービング代 0.75mm では,き裂発生位置に明らかに表面性状が劣化した部分が認められた.

そこで,疲労限度に及ぼす表面性状の影響を検討した.

まず,Fig.3-19(a)と Fig.3-20(a)を用いて表面の凹凸の深さを測定した結果,シェービング代

0.38mm では約 19μm,0.75mm では約 75μm であった.Fig.3-22 は試験片表面に異なる 3種類の表

面傷を付与して実施した軸力疲労試験(詳細は付録 B を参照)により表面粗さと疲労限度の関係

を検討した結果と,今回の凹凸と疲労限度の関係を比較したものである.き裂発生部の凹凸の深

さと軸力疲労試験時の表面粗さは必ずしも 1 対 1 に対応するものではないが,軸力疲労試験では

最も深い表面傷からき裂が発生すると考えられることから,軸力疲労試験片における表面傷の最

大高さ Rzを用いた整理は,今回の凹凸の深さを用いた整理と相関すると考えられる.

本材料は,表面粗さ Rz が 20~30μm を超えると疲労限度が低下する.シェービング代 0.38mm

では凹凸は 19μm であり,疲労限度への影響はほとんどないと推測されるため,疲労限度は再配

分後の引張残留応力で説明できると考えられる.一方,シェービング代 0.75mm の凹凸は 75μm で

あり,シェービング表面の凹凸の影響により疲労限度が低下するものと考えられる.シェービン

グ代 0.75mm の疲労試験結果から推測される疲労限度は,軸力疲労試験結果により推定される表面

粗さ 75μm の疲労限度よりも小さいことから,シェービング代 0.75mm では表面性状の劣化に加え

て引張残留応力の影響が重畳して疲労限度が決まるものと考えられる.

以上の結果から,シェービング加工により切断部に発生する引張残留応力が低減し,疲労強度

を改善できること,および疲労試験時の再配分を考慮すると疲労限度の大小関係を説明できるこ

とが示された.しかし,加工条件によっては表面性状が劣化して疲労強度が低下し,残留応力低

減による疲労強度改善効果を相殺してしまう可能性も明らかとなった.シェービング加工は切断

部をわずかに削り取る方法であり,鋼板の保持や金型のセット状況のわずかな差異などにより加

工状況が変化する可能性があることから,実部品への適用時には適切なシェービング代を設定す

ると共に,例えばシャー切断とシェービングを行う金型を一体化して,シャー切断位置に対する

シェービング加工のズレを最小化するなど,安定してシェービング加工できる工法の確立が必要

と考えられる.

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0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 200 400 600 800

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Mean stress σm, MPa

0.38mm-1

0.38mm-2

0.75mm

Fatigue limitdiagramOpen marks:Before fatigue test

Solid marks:After fatigue test

100

1000

1 10 100

Fat

igue lim

it σ

w, M

Pa

Surface roughness Rz, μm

Axial fatigue test

0.35mm-1

0.35mm-2

0.75mm

Fig.3-21 Fatigue limit diagram (12)

Fig.3-22 Relation between surface roughness and fatigue limit (15)

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- 58 -

3.4 ショットピーニングによる疲労強度改善

前項で検討したシェービング加工は,シャー切断部の残留応力低減により疲労強度改善効果が

得られたが,シェービング加工条件によっては改善効果が認められず,また母材の疲労強度まで

の改善は得られなかった.そこで本項では,すでに歯車などへ適用され,安定して圧縮残留応力

が導入できるショットピーニングに着目し,更なる疲労強度改善の可能性について検討した.

3.4.1 試験方法

(1) 材料および試験片

試験に用いた材料は 590MPa 級熱延ハイテン鋼板(板厚 3.2mm)であり,その機械的性質は Table

3-1 に示した通りである.この材料を用い,打ち抜きクリアランス 0.4mm として Fig.3-3 に示す

シャー切断部を有する試験片を製作し,その後切断部にショットピーニングを施した.ショット

ピーニング条件の概要を Table 3-3 に示す.S-1 を標準条件とし,S-2 では投射粒サイズを 1/2,

S-3 は投射密度を 1/2 とした.この 3 種類は,試験片端面に垂直にショットピーニングを施した

が,S-4 では端面から±30 度傾いた 2 方向からショットピーニングを施した.端面以外はガムテ

ープで被覆してある.なお,後述するようにショットピーニングを施すとエッジにバリ状のもの

が発生するため,S-1 条件でショットした後,試験片エッジ部を研磨した試験片も製作した.

(2) 残留応力測定および疲労試験

切断部の残留応力測定,および疲労試験は,3.2 項と同様の方法で実施した.

残留応力は,PSPC 微小部 X線応力測定装置を用い,側傾法により試験片長手方向の残留応力を

測定した(10).X 線のスポット径はφ0.5mm であり,測定位置は板厚中心部とした.なお,測定前

に電解研磨は実施していない.

疲労試験は,共振型疲労試験機を用いて面内曲げ疲労試験を実施した.また,疲労試験終了後

に走査型電子顕微鏡により破面観察を行い,疲労き裂発生位置を確認した.

SpecimenDiameter

mm

Density

kg/m2

S-1 0.6 200

S-2 0.3 200

S-3 0.6 100

S-4 0.6 125×2

Table 3-3 Shot-peening condition

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- 59 -

3.4.2 試験結果

(1) 残留応力測定結果

Fig.3-23 に,疲労試験前の残留応力測定結果を示す.3.2 項で示した通り,シャー切断部では

非常に高い引張残留応力が測定されているが,ショットピーニングを施すと,ショットピーニン

グ条件に関わらず,-450MPa 前後の圧縮残留応力が付与できることがわかる.

(2) 疲労試験結果

Fig.3-24 に,得られた S-N 曲線を示す.ショットピーニングを施した試験片では,シャー切断

部を有する試験片の結果と比較して,すべての条件で疲労強度が改善し,疲労限度は最大 2 倍と

なった.また,電解研磨試験片とほぼ同等もしくはそれ以上の疲労強度が得られた.詳細にみる

と,S-4 が疲労強度は最も高く,次に時間強度ではやや劣るが疲労限度ではほぼ同等の S-1(エッ

ジ研磨),続いて S-1 と S-2 であり,ショットピーニング試験片の中で最も低い疲労強度の S-3 は

電解研磨より若干良い結果となっている.

(3) 破面観察結果

Fig.3-25~29 に破面観察結果を示す.(a)は破面を真上からみた写真,(b)は斜め方向からみた

写真であり,破面とともに試験片端面も確認できる.図中の矢印はき裂発生位置を示す.なお,

切断部を有する試験片および電解研磨試験片の破面観察結果は,既に Fig.3-9, 3-10 に示した.

これらの試験片のき裂発生位置は,ショットピーニングを施した面ではなく,その近傍の鋼板

表面である.S-1, S-2 および S-3 のエッジ部にはショットピーニング時に形成されたと考えられ

るバリ状の張出しが観察され,き裂はこの張出しの近傍から発生している.一方,2 方向からシ

ョットピーニングを施した S-4 では,この張出しほとんど認められず,また S-1(エッジ研磨)

では研磨により張り出しが取り除かれているが,き裂発生位置は変化しなかった.

また,ショットピーニングを施した面には表面のくぼみが認められる. そこで,S-1, S-2, S-4

を用いて触針式粗さ計で表面粗さ(最大高さ)Rz を測定した結果を,切断部(破断面側)の測定

結果とともに Table 3-4 に示す.Rzは 10~30μm であり,Fig.3-22 の結果から疲労強度に与える

影響は小さいと考えられ,さらにこれらは切断部(破断面側)や表面傷のような表面性状とは異

なり凹凸状であるため,その影響はより小さいと推測される.以上から,ショットピーニング時

に生じた凹凸は,疲労強度にはほとんど影響がないと考えられる.

3.4.3 考察

3.2,3.3 項で,シャー切断部の疲労強度には残留応力の影響が大きいことが確認された.そこ

で,本項においても,残留応力の影響を詳細に検討する.なお,表面の残留応力のみ測定を行っ

たため,ショットピーニング条件が近く深さ方向の残留応力分布の差が小さいと考えられる,S-1,

S-1(エッジ研磨), S-4 の結果を用いて検討を行った.

まず,疲労試験前後の残留応力変化を確認するため,疲労試験後(107サイクル未破断)のショ

ットピーニング部,およびき裂発生位置であるショットピーニング部近傍の鋼板表面の残留応力

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- 60 -

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

Resi

dual

str

ess

σR, M

Pa

Shearingedge

S-1 S-2 S-3 S-4

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

Electro polished Shearing surface S-1 S-1(Edge polished) S-2 S-3 S-4

Fig.3-23 Measurement results of residual stress

Fig.3-24 S-N curves (13)

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SpecimenSurface roughness

R z, μm

Shearing edge 10.8

S-1 15.0

S-2 10.6

S-4 28.0

Table 3-4 Surface roughness

500μm 500μm

500μm 500μm500μm 500μm

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-29 Fracture surface of

S-1 (Edge polished) (13) (σa = 360 MPa, Nf = 1.42×106 cycles)

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-25 Fracture surface of S-1 (13)

(σa = 427 MPa, Nf = 2.37×105 cycles)

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-26 Fracture surface of S-2 (13)

(σa = 424 MPa, Nf = 2.66×105 cycles)

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-28 Fracture surface of S-4 (13)

(σa = 434 MPa, Nf = 2.24×105 cycles)

(a) Fracture surface (b) Edge of specimenFig.3-27 Fracture surface of S-3 (13)

(σa = 395 MPa, Nf = 3.21×105 cycles)

500μm 500μm

500μm 500μm

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を測定した.測定結果を疲労試験前の残留応力とともに Fig.3-30 に示す.疲労試験前の残留応力

を測定した試験片と,疲労試験後の残留応力を測定した未破断試験片は同一のものではないため,

単純に比較することはできないが,試験前に-450MPa 前後あった残留応力が-370MPa 前後に低下し

ている.また,き裂発生位置である鋼板表面の,疲労試験後の残留応力は-250MPa 前後であった.

Fig.3-31 には,これらの結果を基に作成した疲労限度線図を示す.疲労限度線は,電解研磨試

験片の疲労限度と,引張試験結果より推定した真破断力(1245MPa)を直線で結んで作成した.ま

た,図中の白印は疲労試験前のショットピーニング部の残留応力,灰色印は疲労試験後のショッ

トピーニング部の残留応力,黒印は疲労試験後のき裂発生部の残留応力を平均応力としてプロッ

トした.なお,図中には S-2, S-3 のデータも参考のために示したが,これらは疲労試験後の残留

応力測定を実施していないため,疲労試験前のショットピーニング部の残留応力と疲労限度の関

係のみをプロットしている.

ショットピーニング部の残留応力を用いると,疲労試験前後の残留応力変化を考慮しても,デ

ータは疲労限度線の下側となっており,疲労限度線図を用いた予測は危険側の結果を与えるが,

き裂発生位置での疲労試験後の残留応力を用いると,ほぼ疲労限度線上の結果となり,疲労限度

線図による予測が可能であると考えられる.

以上の結果から,ショットピーニングによるシャー切断部疲労強度の改善は,ショットピーニ

ングによる圧縮残留応力の付与が主要な原因であり,切断部の疲労強度に対する最も大きな影響

因子は残留応力であることが,改めて確認できた.なお,バリ状の張り出しによる疲労限度への

影響は明確ではないが,張り出しの形成により鋼板表面近傍の残留応力導入状況が変化した可能

性,あるいは張り出しが微視的応力集中源として作用した可能性などが考えられる.

3.5 結言

本章では,自動車足回り部品の製作時に必須の加工プロセスであるシャー切断に着目し,シャ

ー切断部の疲労強度支配因子を検討した.また,切断部の疲労強度改善方法として,プレス加工

工程の中で施工可能なシェービング加工,および疲労強度改善に効果が高いと考えられるショッ

トピーニングを取り上げ,その改善効果を定量的に評価した.得られた主な結果を以下に示す.

3.5.1 シャー切断部の疲労強度支配因子

(1) シャー切断部の疲労強度は,電解研磨を施した試験片に比較して全体的に低下し,疲労限度

は約 60%となった.切断部の疲労限度低下要因として切断時に導入される残留応力に着目し,残

留応力を平均応力として疲労限度線図を用いた検討を行った.その結果,疲労試験後の切断部近

傍の平均残留応力を用いると,試験結果に近い疲労限度が得られ,切断部の疲労強度支配因子と

して残留応力の影響が大きいことを示した.また,本材料においては,平均残留応力の値は降伏

応力に近く,切断部の残留応力が不明な場合の一次近似として,降伏応力を用いて疲労限度を予

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測できる可能性があることがわかった.

(2) 切断部の疲労強度(S-N 曲線)を,疲労試験結果を用いずに予測する方法を検討した.平滑

材の疲労限度をビッカース硬さより算出し,残留応力を降伏応力と仮定して予測した疲労限度を

用い,S-N 曲線の折れ曲がり点の寿命を 1×106サイクルと仮定し,応力振幅として真破断力が付

与された際の疲労寿命を 1/4 サイクルとして作成した S-N 曲線は試験結果とよい一致を示し,本

方法により切断部の S-N 曲線を予測できる可能性を示した.

3.5.2 シェービング加工による疲労強度改善

(1) シャー切断部にシェービング代 0.38mm および 0.75mm のシェービング加工を施し,残留応力

を測定するとともに,疲労試験を実施した.その結果,ばらつきは認められるものの,シェービ

ング加工により,切断部の高い引張残留応力を低減することができた.また,シェービング代

0.38mm では疲労強度が改善されたが,シェービング代 0.75mm では引張残留応力の低減効果は認

められたにも関わらず,疲労強度はほとんど改善されなかった.

(2) シェービング代 0.38mm では,疲労限度の大小は疲労試験時の再配分を考慮した残留応力で説

明できたが,シェービング代 0.75mm では残留応力だけでは説明することができなかった.シェー

ビング代 0.75mm では加工面の表面性状が劣化しており,引張残留応力の低減効果による疲労強度

の改善と表面性状の劣化による疲労強度の低下の両方が重畳した結果,切断部とほとんど同じ疲

労強度が得られたものと推測された.

(3) シェービング加工を用いて疲労強度を改善する場合,引張残留応力の低減と適切な表面性状

を両立する適切なシェービング代を設定すると共に,例えばシャー切断とシェービングを行う金

型を一体化して,シャー切断位置に対するシェービング加工のズレを最小化するなど,安定して

シェービング加工できる工法の確立が必要と考えられる.

3.5.3 ショットピーニングによる疲労強度改善

(1) シャー切断部にショットピーニングを施すと,疲労強度は母材同等もしくはそれ以上に改善

し,切断部に対して最大 2 倍の疲労限度が得られた.ショットピーニング試験片のき裂発生位置

は,ショットピーニングを施した切断部近傍の鋼板表面であり,この位置で疲労試験後に測定し

た残留応力を用いると,疲労限度線図により疲労限度が予測できた.

以上の結果から,シャー切断部の疲労強度には,切断時に導入される引張残留応力の影響が大

きいことが確認できた.したがって,残留応力の導入を最小限にできる切断方法,もしくは低コ

ストで安定して引張残留応力を低減できる工法が開発できれば,ハイテン鋼板母材の持つ疲労強

度を最大限に活用した部品設計が可能であると考えられる.

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-700

-600

-500

-400

-300

-200

-100

0

Resi

dual

str

ess

σR, M

Pa

S-1 S-4S-1(Edge polished)

Before fatigue testAftre fatigue testAfter fatigue test(Crack initiation point)

0

100

200

300

400

500

600

-600 -300 0 300

Str

ess

am

plit

ude

σa, M

Pa

Mean stress σm, MPa

S-1 S-1 (Edge polished) S-2 S-3 S-4

Open marks:Before fatigue test

Gray marks:After fatigue teseSolid marks:After fatigue test

(Crack initiation point)

Fatigue limitdiagram

Fig.3-31 Fatigue limit diagram

Fig.3-30 Residual stress before and after fatigue test

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付録 A 熱延ハイテン鋼板の疲労き裂進展試験結果

ここでは,590MPa級および 780MPa級熱延ハイテン鋼板の疲労き裂進展試験の結果をまとめる.

A1. 試験方法

A1.1 材料および試験片

試験に使用した材料は,590MPa 級および 780MPa 級熱延ハイテン鋼板(いずれも板厚 3.2mm)で

ある.その機械的性質は,Table 3A-1 に示す通りである.590MPa 級鋼板は,第 3章で用いた材料

と同じものであり,780MPa 級鋼板は,第 2章の応力集中の検討で用いた材料と比較して強度がや

や高い材料である.これらの材料を用い,Fig.3A-1 に示した CT 試験片を製作した.なお,熱延

表面をそのままとして試験を実施した.

A1.2 疲労き裂進展試験

疲労き裂進展試験は,電気油圧サーボ式疲労試験機を用い,ASTM-E647 に準拠して荷重漸減試

験および荷重一定試験を実施した.応力比 Rは,590MPa 級鋼板では R=0.1, 0.3, 0.5,780MPa 級

鋼板では R=0.1, 0.5 である.き裂長さの測定は除荷コンプライアンス法を用いた.試験周波数は

MaterialYield stress

σy ,MPa

Tensile strength

σB ,MPaElongation

%

HT-590 544 616 30

HT-780 777 826 20

Table 3A-1 Mechanical properties

15 12.5

62.5

5

2

27.5

60

60°

60°

90°

R0.05

2-φ12.5

(t3.2)

Fig.3A-1 Test specimen

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5~10Hz,試験環境は常温大気中である.なお,き裂進展下限界応力拡大係数範囲ΔKth はき裂進

展速度 da/dN<10-8mm/cycle 到達時とし,下限界到達後に除荷弾性コンプライアンス法によりき裂

開口点を測定し,下限界有効応力拡大係数範囲ΔKeff,thを算出した.

A2. 試験結果

Fig.3A-2 に,590MPa 級鋼板のき裂進展速度 da/dN と応力拡大係数範囲ΔK の関係を示す.(a)

は応力比 R=0.1, (b)は R=0.3, (c)は R=0.5 の結果である.図中には,得られたΔKthとΔKeff,thも

示した.応力比が小さくなるとΔKthは大きくなるが,ΔKeff,thはほぼ一定値となっており,R=0.5

では下限界においてき裂は閉口しなかった.

Fig.3A-3 に,780MPa 級鋼板の da/dN とΔK の関係を示す.(a)は R=0.1, (b)は R=0.5 の結果で

ある.780 級鋼板では,ΔKeff,thはややばらついているが,その他は 590MPa 級鋼板の結果とほぼ

同様の傾向を示しており,R=0.5 では下限界においてき裂は閉口しなかった.また,ΔKth, ΔKeff,th

とも 780 級鋼板のほうが小さくなっている.

A3. 下限界応力拡大係数範囲に及ぼす応力比の影響

Fig.3A-4 に,下限界応力拡大係数範囲ΔKth, ΔKeff,thと応力比 Rの関係(14)を示す.(a)が 590MPa

級鋼板,(b)が 780MPa 級鋼板の結果である.590MPa 級鋼板では,Rが大きくなるとΔKthは小さく

なり,その関係はほぼ直線で近似できることがわかる.また,3点のデータを外挿すると,R=1 に

おいてほぼΔKth=0 となることがわかる.そこで,改めて R=1 の時にΔKth=0 となるように近似直

線を作成し,図中に実線で示した.これにより,任意の応力比におけるΔKthを推定することがで

きる.一方,図中に破線で示した通り,ΔKeff,thはほぼ一定値を取り,応力比依存性は認められな

い.

780MPa 級鋼板では,試験結果が 2点しかないため直線性は完全には保証されていないが,やは

り R=1 に外挿するとΔKth=0 に近い.そこで,590MPa 級鋼板と同様,R=1 の時にΔKth=0 となるよ

うに近似直線を作成し,図中に実線で示した.

以上から,本研究で取り上げた熱延ハイテン鋼板の代表的なき裂進展特性が得られ,また任意

の応力比における下限界応力拡大係数範囲の推定が可能となった.

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1.0E-08

1.0E-07

1.0E-06

1.0E-05

1.0E-04

1 10 100

Cra

ck

propa

gation r

ate d

a/dN

, m

m/cyc

le

Stress intensity raige ΔK, MPa・m1/2

ΔK decreased test

Constant load test

ΔKth:6.31 MPa・m1/2

ΔKeff,th:3.29 MPa・m1/2

HT-590, R = 0.1

ΔKth:6.31 MPa√mΔkeff,th:3.29 MPa√m

1.0E-08

1.0E-07

1.0E-06

1.0E-05

1.0E-04

1 10 100

Cra

ck

propa

gation r

ate d

a/dN

, m

m/cyc

le

Stress intensity range ΔK, MPa・m1/2

HT-590, R = 0.3

ΔK decresed test

ΔKth:4.79 MPa・m1/2

ΔKeff,th:3.14 MPa・m1/2

(b) R = 0.3

Fig.3A-2 Relation between stress intensity range and stress intensity range (HT-590)

(a) R = 0.1

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1.0E-08

1.0E-07

1.0E-06

1.0E-05

1.0E-04

1 10 100

Cra

ck

propa

gation r

ate d

a/dN

, m

m/cyc

le

Stress intensity range ΔK, MPa・m1/2

HT-590, R = 0.5

ΔK decreased test

Constant load test

ΔKth:3.30 MPa・m1/2

ΔKeff,th:3.30 MPa・m1/2

(c) R = 0.5Fig.3A-2 Relation between stress intensity range and crack propagation rate (HT-590)

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1.0E-08

1.0E-07

1.0E-06

1.0E-05

1.0E-04

1 10 100

Cra

ck

propa

gation r

ate d

a/dN

, m

m/cyc

le

Stress intensity range ΔK, MPa・m1/2

HT-780, R = 0.1

ΔK decreased test

ΔKth:5.0 MPa・m1/2

ΔKeff,th:2.1MPa・m1/2

1.0E-08

1.0E-07

1.0E-06

1.0E-05

1.0E-04

1 10 100

Cra

ck

propa

gation r

ate d

a/dN

, m

m/cyc

le

Stress intensity range ΔK, MPa・m1/2

HT-780N, R = 0.5

R=0.5

ΔKth:2.8 MPa・m1/2

ΔKeff,th:2.8MPa・m1/2

(b) R = 0.5Fig.3A-3 Relation between stress intensity range and crack propagation rate (HT-780)

(a) R = 0.1

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0

5

10

15

20

-1 -0.5 0 0.5 1

Thre

shold

str

ess

inte

nsi

ty r

ange

ΔK

th, M

Pa・

m1/2

Stress ratio R

ΔKth = -6.89×R + 6.89

ΔKth(R=-1) = 13.8 MPa・m1/2

ΔKeff,th = 3.24 MPa・m1/2

ΔKth

ΔKeff,th

0

5

10

15

20

-1 -0.5 0 0.5 1

Thre

shold

str

ess

inte

nsi

ty r

ange

ΔK

th, M

Pa・

m1/2

Stress ratio R

ΔKth = -5.56×R + 5.56

ΔKth(R=-1) = 11.1 MPa・m1/2

ΔKeff,th = 2.46 MPa・m1/2

ΔKth

ΔKeff,th

(b) HT-780Fig.3A-4 Relation stress ratio and threshold stress intensity range

(a) HT-590

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付録 B 熱延ハイテン鋼板の疲労強度に及ぼす表面粗さの影響

ここでは,シャー切断部の表面性状劣化の影響を把握するために実施した,疲労強度に及ぼす

表面粗さの影響に関する検討結果をまとめる.

B1. 試験方法

B1.1 材料および試験片

試験に使用した材料は,590MPa 級および 780MPa 級熱延ハイテン鋼板(いずれも板厚 3.2mm)で

ある.その機械的性質は,Table 3B-1 に示す通りで,590MPa 級鋼板は第 3章で用いた材料と同じ

ものであり,また 780MPa 級鋼板は,第 2章の応力集中の検討で用いた材料と同じものである.こ

れらの材料を用い,Fig.3B-1 に示す試験片を製作した.(a)は表面粗さを変化させた試験片であ

り,表面をエメリー紙で研磨した後,砥粒を変更した 2 種類のグラインダを用いて試験片平行部

に表面傷を導入した.表面傷の方向は試験片の軸垂直方向とし,表面傷が試験片のエッジにかか

らないようにした.以後,砥粒の細かいもので表面傷を導入した試験片を Fine-grained, 砥粒の

あらいもので表面傷を導入したものを Heavy-grained と表記する.なお,590MPa 級鋼板では熱延

表面の試験片も用いた.(b)は平行部に鈍い切欠きを導入した後,電解研磨仕上げを行った比較材

である.電解研磨試験片と 590MPa 鋼板の熱延表面の試験片の疲労試験結果は,第 2 章で示した.

触針式の粗さ計を用い,試験片軸方向に走査した場合の粗さを測定した結果を,Table 3B-2 に

まとめる.590MPa 級鋼板と 780MPa 級鋼板で若干の差はあるが,2種類の砥粒を用いたことで粗さ

MaterialYield stress

σy ,MPa

Tensile strength

σB ,MPaElongation

%

Vickershardness

HV

HT-590 544 616 30 206

HT-780 742 795 21 250

Table 3B-1 Mechanical properties

Arithmetic averageraughness

R a, μm

Maximum height

R z, μm

Electro-polished 0.2 3.8

Hot-rolled 1.4 11.9

Fine-grained 2.5 28.5

Heavy-grained 5.3 47.0

Electro-polished 0.1 1.4

Fine-grained 1.4 24.4

Heavy-grained 3.2 56.1

Surface roughness

HT-590

HT-780

MaterialSurfacecondition

Table 3B-2 Sueface roughness

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の異なる表面性状を実現できており,最大高さ Rzは Fine-grained で 20~23μm,Heavy-grained

で 45~60μm である.

疲労試験は,表面傷導入後そのまま実施したため,表面傷導入時に発生する残留応力が影響を

及ぼす可能性がある.そこで,590MPa 級鋼板を用いて表面傷部の X線残留応力測定(スポット径

φ0.5mm)を実施した.各 2 本の試験片で測定した結果,Fine-grained では 0~-15MPa,

Heavy-grained では-50~-200MPa が得られた.この結果から,Heavy-grained では表面傷導入時

の残留応力が影響を及ぼす可能性が考えられるが,本項では残留応力の影響は検討していない.

B1.2 疲労試験

疲労試験は電気油圧サーボ式疲労試験機を用い,軸力疲労試験を実施した.応力比 R=-1 を基本

とし,590MPa 級鋼板では Heavy-grained 試験片を用いて R=0, 0.5 の試験も実施した.試験周波

数は 20Hz, 試験環境は常温大気中である.

B2. 疲労試験結果

Fig.3B-2 に,応力比 R=-1 の疲労試験結果を示す.(a)が 590MPa 級鋼板,(b)が 780MPa 級鋼板

の結果である.表面粗さ Rzが大きくなると,疲労強度が低下する傾向が認められる.

30

15

13 14

124

10

10

6-φ6.2

t3.2

(b) Electro-polished specimenFig.3B-1 Test specimen

(a) Fine and heavy grained specimen

30

30

15

15

1313 1414

124124

1010

10

10

R25

6-φ6.26-φ6.2

R30

R30

2.2

2.2

3.2

3.2

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200

250

300

350

400

450

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

Electro-polished

Hot-rolled

Fine-grained

Heavy-grained

HT-590, R =-1

300

350

400

450

500

550

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

Electro-polished

Fine-grained

Heavy-grained

HT-780, R =-1

(b) HT-780 (17)

Fig.3B-2 S-N curves (R=-1)

(a) HT-590 (15)

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Fig.3B-3 に,590MPa 級鋼板の応力比を変化させた疲労試験結果を示す.縦軸は応力振幅とした.

正の平均応力を付与することで,疲労強度が低下している.

Fig.3B-4 に,得られた疲労限度と表面粗さ Rzの関係を示す.590MPa 級鋼板では,Rzが 30μm

以上で疲労限度が低下している,780MPa 級鋼板では,10μm 前後以上で疲労強度が低下している

ように見える.

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

Electro-polished, R=-1 Electro-polished, R=0 Heavy-grained, R=-1 Heavy-grained, R=0 Heavy-grained, R=0.5

HT-590

100

1000

1 10 100

Fat

igue lim

itσ

w, M

Pa

Surcface roughness Rz μm

HT-590

HT-780

Fig.3B-3 S-N curves (HT-590, effect of mean stress) (16)

Fig.3B-4 Relation between surface roughness and fatigue limit (15)

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B3. 表面粗さの影響の破壊力学的検討

疲労強度に及ぼす表面粗さの影響を検討するため,3 種類の方法を用いて破壊力学的検討を行

った.

(1) 線形破壊力学を用いる方法

線形破壊力学では,き裂進展の下限界応力拡大係数ΔKthを用いて,き裂材の疲労限度を予測す

る.作用する応力をσ,き裂長さをa としたとき,応力拡大係数 Kは式(1)で求められる.

aFK ・・・(1)

:形状補正係数 F

簡便のため,等価き裂長さ ea を式(2)で定義する.

aFa

aaFK

e

e

2

・・・(2)

以上の関係を用いることで,式(3)により欠陥材の疲労限度σwを予測する.

e

thw

ewth

a

K

aK

2

2

・・・(3)

なお,式(3)では ea が小さくなるとσw が無限に大きくなるが,実際には平滑材の疲労限度σw0

を上回ることはないため,σw =σw0で頭打ちとなる.

ΔKth は,本章の付録 A に示したき裂進展試験結果から,応力比 R=-1 の値を推測した値

(Fig.3A-4)を用いた.なお 780MPa 級鋼板では,き裂進展試験を実施した材料と今回の疲労試験

を実施した材料は強度が異なっており同一の材料ではないが,本検討では付録 A の結果を用いて

検討を行った.

(2) Haddad の方法(18)

この方法は、下限界応力拡大係数範囲ΔKthと仮想き裂の概念を用いて、疲労限度を予測する方

法である.式(3)において,σw および ea をそれぞれ無欠陥材の疲労限度σw0 および仮想き裂長さ

0a で置換すると式(4)が得られる.ここで,仮想き裂長さ 0a は式(5)により求められる.Haddad

の方法では,式(6)により疲労限度を予測することができる.

002 aK wth ・・・(4)

2

02

1

w

thKa

0 ・・・(5)

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- 76 -

ew

e

thw

ewth

aa

a

aa

K

aaK

0

00

0

0

2

2

・・・(6)

e

w

w

a

a0

0

(3) 村上の方法(19),(20)

この方法は,初期き裂寸法の代表値としてき裂の面積( area )の平方根 area とビッカース

硬さ HV を用いて疲労限度を予測するもので,式(7)により疲労限度を予測する.なお,村上の式

を適用する際には,それぞれの単位に留意する必要がある.

61

12043.1

area

HVw ・・・(7)

area

HVw

また,村上の方法では,平均応力の影響を表す式(8)が提案されている.

4

maxmin

61

10226.0

2

112043.1

HV

R

R

area

HVw

・・・(8)

これらの方法を適用するためには,表面粗さを初期き裂に置き換えることが必要である。ここ

では、村上の応力拡大係数の解析結果である式(9)を用いた。

areaK 65.0 ・・・(9)

また,表面粗さを area に変換するため,以下の仮定を採用した.疲労き裂は最も条件の厳し

い部位より発生するため,粗さの代表値として最大高さ Rzを用いる.粗さは表面の凹凸の大きさ

を表しているので,Rz はき裂深さに対応する.次に,試験片表面におけるき裂長さはき裂深さに

比較して十分大きいと考えられるので,村上により提案されている十分長く浅い表面き裂の

area の計算式である式(10)を採用する.

zRarea 10 ・・・(10)

これより,等価き裂長さ ea と表面粗さの関係は式(11)のようになる.

:欠陥材の疲労限度

:無欠陥材の疲労限度

:仮想き裂長さ

:等価き裂長さ

:MPa

:kgf/mm2

:μm

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ze

e

Rareaa

aareaK

1065.065.0

65.022

・・・(11)

Fig.3B-5 に,応力比 R=-1(両振り条件)における予測疲労限度と表面粗さの関係を示す.(a)

は 590MPa級鋼板の結果,(b)は 780MPa級鋼板の結果である.590MPa級鋼板では,試験結果とHaddad

の方法はほぼよい一致を示しているが,村上の方法では安全側の結果となった.

一方,780MPa 級鋼板では Haddad の方法,村上の方法とも安全側の結果が得られ,村上の方法

ではその差が大きい.また,Heavy-grained の結果(図中の左側のプロット点)はむしろ線形破

壊力学の予測結果とほぼ一致した.780MPa 級鋼板でこのようなデータが得られた原因は明確では

ないが,780MPa 級鋼板では,疲労試験を実施した材料とき裂進展試験を実施した材料では組織が

異なり,予測に用いた下限界応力拡大係数範囲ΔKthが厳密には異なっていた可能性がある.また,

従来よく用いられるビッカース硬さ HV を用いた平滑試験片の予測疲労限度(σw0=1.6×

HV=400MPa)より高い疲労限度が得られていることから,HV を用いた村上の方法による予測結果

とは差が大きくなった可能性が考えられる.

Fig.3B-6 に,590MPa 級熱延鋼板の応力比の影響を疲労限度線図にまとめた結果を示す.図中に

は,応力比 R=-1 の電解研磨および Heavy-grained の疲労限度と,引張試験結果から推測した真破

断力 1245MPa を用いて作成した疲労限度線を実線および破線で,また降伏線を点線で示した.試

験結果はほぼ疲労限度線上にあり,本材料においては,R=-1 での表面粗さによる疲労限度の低下

を考慮すれば,平均応力の影響は疲労限度線図で整理できる.なお,今回の結果では,高応力比

側で疲労限度がほぼ降伏線と一致しているデータが認められ,高応力比側では材料の降伏によっ

て限界が決まっている可能性も考えられる.

Fig.3B-7 には,Heavy-grained の試験結果と,応力比を考慮した村上の方法による予測結果と

の比較を示す.村上の方法は,表面傷による疲労限度低下の傾向をよく表していると考えられる.

B4. まとめ

本付録では,熱延ハイテン鋼板の疲労強度に及ぼす表面粗さの影響を検討した.その結果,

590MPa 級鋼板では表面粗さ Rzが 30μm 以下,780MPa 級鋼板では 10μm 前後以下では影響を及ぼ

さず,それ以上の表面粗さでは疲労強度が低下することがわかった.

また,表面粗さをき裂とみなし,破壊力学的な取り扱いにより,その影響度を把握できる可能

性を示した.

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100

1000

1 10 100 1000

Fat

igue lim

itσ

w, M

Pa

Surcface roughness Rz, μm

LEFM

Haddad

Murakami

HT-590

100

1000

1 10 100 1000

Fat

igue lim

itσ

w, M

Pa

Surcface roughness Rz, μm

LEFM

Haddad

Murakami

HT-780

(b) HT-780 (17)

Fig.3B-5 Comparison between experimental result and prediction of fatigue limit

(a) HT-590 (15)

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0

100

200

300

400

0 100 200 300 400 500 600 700

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Mean stress σm, MPa

Electro-polishedHeavy-grainedYield line

HT-590

0

100

200

300

400

0 100 200 300 400 500 600 700

Str

ess

am

plitude

σa, M

Pa

Mean stress σm, MPa

Heavy-grained Murakami Yield line

HT-590

Fig.3B-7 Fatigue limit diagram (16)

(Comparison between experimental result and Murakami’s method)

Fig.3B-6 Fatigue limit diagram (16)

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第 3章 参考文献

(1) Yokoi, T., Takahashi, M. and Ikenaga, N., SAE Paper, No.2002-01-0042 (2002).

(2) 吉武明英,塩崎 毅,大村雅妃,自動車技術会論文集,Vol.33, No.4 (2002), 203.

(3) Shirasawa, H., ISIJ Int., Vol.34, No.3 (1994), 285.

(4) 三浦正明,塩釜 徹,中屋道治,十代田哲夫,自動車技術会論文集,Vol.33, No.4 (2002),

209.

(5) 田村栄一,三浦正明,杵渕雅男,自動車技術会論文集,Vol.35, No.2 (2004), 115.

(6) 田村栄一,三浦正明,十代田哲夫,杵渕雅男,自動車技術会論文集,Vol.35, No.2 (2004),

121.

(7) 十代田哲夫,三浦正明,中屋道治,R&D/神戸製鋼技報,Vol.54, No.3 (2004), 29.

(8) 橋本俊一,白沢秀則,三村和弘,郡田和彦,鉄と鋼,Vol.71, No.13 (1985), S1300.

(9) 木本宏信,PK 技報,第 8号 (1997-1), 2.

(10) 日本材料学会,X線応力測定法標準=鉄鋼編=(2002).

(11) 杵渕雅男,北村隆行,材料,Vol.62, No.12 (2013), 764.

(12) 杵渕雅男,北村隆行,日本機械学会論文集(A編),Vol.79, No.808 (2013), 1832.

(13) 杵渕雅男,十代田哲夫,三浦正明,自動車技術会学術講演会前刷集,No.90-03 (2003), 5.

(14) 中井善一,田中啓介,川島理生司,材料,Vol.33 (1984), 371.

(15) 杵渕雅男,田中啓介,日本材料学会学術講演会講演論文集 (2002), 69.

(16) 杵渕雅男,田中啓介,日本機械学会年次大会講演論文集,Vol.2 (2002), 339.

(17) 杵渕雅男,日本機械学会材料力学部門講演会講演論文集 (2003), 755.

(18) M. H. El Haddad, K. N. Smith and T. H. Topper, J. Eng. Mater. Tech., Trans. ASME,

101, 42 (1972).

(19) 村上敬宜、鉄と鋼、75-8 (1989).

(20) 村上敬宜,上村裕二郎,夏目喜孝,宮川 進,日本機械学会論文集 A 編,Vol. 56, No.525

(1990), 1074.

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第 4章 溶接部の疲労強度に関する検討

4.1 緒言

自動車足回り部品では,鋼板をプレス成形した後に,アーク溶接を用いて組み立てを行うのが

一般的であるため,溶接部の疲労強度は重要である.一般に,鋼板の疲労強度は静的強度が向上

すると向上するが,溶接部の疲労強度は静的強度が向上してもほとんど変化しない(1)~(3)ことが知

られており,この原因として,溶接止端部の応力集中と溶接により導入される引張残留応力の影

響が大きいとされている.ハイテン鋼板を使用するのは板厚減少による部品の軽量化が目的であ

り,鋼板に作用する応力が大きくなることが一般的であるため,静的強度の向上にもかかわらず

溶接部の疲労強度が向上しなければ,ハイテン鋼板を採用するメリットが小さくなる.このため,

溶接部の疲労強度を改善する方法が求められており,止端部のグラインダ仕上げ(2),ショットピ

ーニングや超音波ピーニング(4)~(7)といった機械的方法,あるいは溶接金属のマルテンサイト変態

温度を低下させることで,溶接時に導入される引張残留応力を低減できる低温変態溶接材料(8),(9)

のような,新たな溶接材料による改善などが提案されている.しかしながら,自動車足回り部品

には,コストなどの問題で一般的に適用するには至っていない.

また,足回り部品で使用されるのはほとんどが重ねすみ肉溶接継手であり,また鉄骨構造など

と比較して短い溶接ビードが多用されるため,溶接スタート/ストップ部が多く存在するという

特徴も有する.このため,溶接止端部だけでなく溶接スタート/ストップ部からのき裂発生も懸

念される.重ねすみ肉溶接スタート/ストップ部の疲労強度を検討した結果はほとんどないが,

引張応力の方向と溶接線が直交する試験片を用いた検討結果が報告されている(10).

本章では,ハイテン鋼板の重ねすみ肉溶接部の疲労強度について検討した.まず,これまで実

施してきた鋼板強度の異なる重ねすみ肉溶接継手の疲労試験結果を整理し,鋼板強度や止端半径

の影響を把握した.次に,溶接材料と溶接プロセスの新たな組み合わせにより溶接継手の疲労強

度改善として期待される,MX-MIG 法(11)~(13)の効果について検証した.MX-MIG 法とは,専用のメタ

ル系フラックス入りワイヤ(FCW)に,純 Ar シールドガスとパルス溶接機を組み合わせた構成の

新溶接法であり,アークプロセスにより止端形状を改善し,かつ高価な合金元素を用いずに低温

変態機構を実現することができる.この MX-MIG 法を 780MPa 級ハイテン鋼板の重ねすみ肉溶接に

適用した際の疲労強度改善効果を確認し,影響因子について検証した.最後に,溶接スタート/

ストップ部に着目し,MX-MIG 法の効果を検討した.溶接ストップ部は,通常クレーター処理と呼

ばれる処理により溶接ビードの盛り上がりが抑制され,応力集中はスタート部よりも小さいと考

えられる.そこで,本章では溶接スタート部に着目し,引張応力の方向と溶接線方向が一致する,

溶接スタート部が最も厳しくなると考えられる条件について,容易に溶接スタート部の評価が可

能なビードオンプレート疲労試験(14),および実際の足回り部品を想定した重ねすみ肉溶接スター

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ト部の疲労試験(15),(16)を実施し,疲労強度改善の可能性を検討した.

4.2 重ねすみ肉溶接部の疲労強度

4.2.1 試験方法

(1) 材料および試験片

試験に用いた材料は,590MPa 級および 780MPa 級ハイテン鋼板である.成分および組織を変化

させ,590MPa 級鋼板は 4種類,780MPa 級鋼板は 2種類の材料を用いた.Table 4-1 に板厚と機械

的性質をまとめる.なお,一般的な 440MPa 級鋼板の疲労試験データを比較として用いた.

これらの鋼板を用い,重ねすみ肉溶接継手を製作して試験片を採取した.Fig.4-1 に疲労試験

片形状の代表例を示す.図中の薄墨部分が溶接部位である.溶接条件は,溶接速度を 16.7mm/s

(100cm/min)として,溶接材料を 490MPa 級と 590MPa 級の 2種類,シールドガスを CO2および

MaterialThicknesst, mm

Yield stress

σy, MPa

Tensile strength

σB, MPaElongation

%

HT-590-A 2.0 430 666 28

HT-590-B 2.0 465 618 34

HT-590-C 2.9 554 643 24

HT-590-D 2.9 535 600 24

HT-780-A 2.0 576 838 32

HT-780-B 2.6 696 791 23

Table 4-1 Mechanical properties

18

30

65

90

20

4-φ7

(18)

tt

Fig.4-1 Test specimen

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Ar80%-CO220%(以後 Ar-CO2と表記する)として,それぞれ適切な溶接条件を選定して 1 パスの溶

接を実施した.なお,590MPa 級鋼板の溶接継手では,シリコン印象材を用いて型取りを行い,止

端半径を測定した.

(2) 疲労試験

疲労試験はシェンク式疲労試験機を用い,平面曲げ疲労試験を実施した.試験周波数は20~25Hz,

試験環境は常温大気中である.

4.2.2 試験結果

Fig.4-2 に,シールドガスを CO2として製作した溶接継手の疲労試験結果を示す.(a)は 490MPa

級の溶接材料,(b)は 590MPa 級の溶接材料の結果であり,(a)には比較として,440MPa 級鋼板の

結果も示した.これによると,低寿命側では鋼板の静的強度が高いほど疲労強度は高い傾向が認

められるが,疲労寿命が 1×105サイクル以上では静的強度の順にはなっておらず,590MPa 級鋼板

の疲労強度が最も高く,780MPa 級鋼板は 440MPa 級鋼板と同等の疲労強度となっている.また,

溶接材料を変更しても疲労強度はほとんど変化しない.

Fig.4-3 に,シールドガスを Ar-CO2とした場合の疲労試験結果を示す.(a)は 490MPa 級の溶接

材料,(b)は 590MPa 級の溶接材料を用いた結果である.シールドガスが Ar-CO2の場合,590MPa 級

鋼板では疲労強度が高い結果が得られているが,780MPa 級鋼板ではほとんど変化がない.

このように,溶接継手の疲労強度は,鋼板の静的強度の向上に比例して向上しない(1)~(3)ことが,

重ねすみ肉溶接継手においても確認された.

4.2.3 疲労限度におよぼす止端半径の影響

Fig.4-2,4-3 に示した 590MPa 級鋼板の重ねすみ肉溶接継手の疲労試験結果を用い,疲労限度

におよぼす止端半径の影響を検討する.

Fig.4-4 に,材料ごとの S-N 曲線を,母材の S-N 曲線とともにまとめる.(a), (b), (c), (d)

はそれぞれ HT-590-A, B, C, D に対応する.これらの結果から疲労限度を決定し,切欠き係数β

を算出した.また,各溶接継手について,止端半径ρを 3~8点測定してその平均値を用い,第 2

章付録 A に示した重ねすみ肉溶接部の応力集中係数の解析結果から,溶接継手の応力集中係数α

を算出した.これらの結果を Table 4-2 にまとめる.

Fig.4-5 に,応力集中係数αと切欠き係数βの関係を示す.図中には,第 2章 Fig.2-10(a)で示

した 590MPa 級鋼板の応力集中部の疲労試験結果から得られた関係も合わせて示した.今回の溶接

継手では止端部近傍の残留応力は測定していないため,Fig.2-10(a)で示した溶接止端部を機械加

工により仕上げた平面曲げ疲労試験片の結果は,残留応力補正を行っていないものを用いた.溶

接継手の疲労試験結果は,ばらつきは大きいもののα>1.5 でβがほぼ一定となる傾向を示して

おり,止端部を機械加工により仕上げた試験片の結果と比較すると,絶対値はやや異なるものの

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0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

eaa

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

440MPa class

HT-590-A

HT-590-B

HT-590-C

HT-590-D

HT-780-A

HT-780-B

Welding wire:490MPa class

Shield gas:CO2

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

eaa

am

plit

ude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

HT-590-A

HT-590-B

HT-590-C

HT-590-D

HT-780-A

HT-780-B

Welding wire:590MPa class

Shield gas:CO2

(b) Welding wire:590MPa class, Shield gas:CO2

Fig.4-2 S-N curves

(a) Welding wire:490MPa class, Shield gas:CO2

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- 85 -

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

eaa

am

plit

ude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

HT-590-A

HT-590-B

HT-780-A

HT-780-B

Welding wire:490MPa class

Shield gas:Ar-CO2

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

eaa

am

plit

ude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

HT-590-A

HT-590-B

HT-780-A

HT-780-B

Welding wire:590MPa class

Shield gas:Ar-CO2

(a) Welding wire:490MPa class, Shield gas:Ar-CO2

(b) Welding wire:590MPa class, Shield gas:CO2

Fig.4-3 S-N curves

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0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

eaa

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

HT-590-A

Welding wire Shield gas○ 490MPa CO2

△ 590MPa CO2

● 490MPa Ar-CO2

▲ 590MPa Ar-CO2

× Base metal

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

eaa

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

HT-590-B

Welding wire Shield gas○ 490MPa CO2

△ 590MPa CO2

● 490MPa Ar-CO2

▲ 590MPa Ar-CO2

× Base metal

(a) HT-590-A

(b) HT-590-BFig.4-4 S-N curves

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- 87 -

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

eaa

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

HT-590-C

Welding wire Shield gas○ 490MPa CO2

△ 590MPa CO2

× Base metal

0

100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

eaa

am

plitude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

HT-590-D

Welding wire Shield gas○ 490MPa CO2

△ 590MPa CO2

× Base metal

(c) HT-590-C

(d) HT-590-DFig.4-4 S-N curves

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その傾向はほぼ一致している.

Fig.4-6 に,疲労限度σwと止端部の曲率 1/ρの関係をまとめる.図中には第 2章 Fig.2-11(a)

に示した結果も合わせてプロットしている.溶接継手の試験結果は,母材の結果と同様,1/ρが

2~4mm-1以上でσwが一定となる傾向が認められる.

以上の結果から,重ねすみ肉溶接部の疲労強度支配因子として,従来から指摘されている止端

形状,すなわち応力集中の影響が大きいことが確認できた.この結果から,疲労強度を改善する

ためには,曲率半径 1/ρを 2mm-1以下,すなわち止端半径ρを 0.5mm 以上に改善することが必要

であると考えられる.第 2章 Fig.2-12 で示したように,590MPa 級鋼板と 780MPa 級鋼板では疲労

限度と曲率半径の関係はほぼ同様の傾向であるため,780MPa 級鋼板についても 0.5mm 以上の止端

半径が得られれば,疲労強度が改善できるものと考えられる.

Material

Fatigue limit ofsteel plate

σw0, MPa

Weldingwire

Shieldgas

Toe radiusρ, mm

Stressconcentration

factorα

Fatiguelimit

σw, MPa

Fatigue strengthreduction factor

β

490MPa CO2 0.26 1.70 220 1.68

590MPa CO2 0.36 1.49 250 1.48

490MPa Ar-CO2 0.48 1.33 235 1.57

590MPa Ar-CO2 0.54 1.31 240 1.54

490MPa CO2 0.4 1.42 210 1.57

590MPa CO2 0.62 1.33 260 1.27

490MPa Ar-CO2 0.53 1.31 270 1.22

590MPa Ar-CO2 0.64 1.28 270 1.22

490MPa CO2 0.3 1.86 200 1.60

590MPa CO2 0.45 1.55 190 1.68

490MPa CO2 0.15 2.21 180 1.56

590MPa CO2 0.23 1.99 210 1.33

HT-590-C 320

HT-590-D 320

HT-590-A 370

HT-590-B 330

Table 4-2 Fatigue test results of lapped weld joint (HT-590)

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1.0

2.0

3.0

4.0

1.0 2.0 3.0 4.0

Fat

igue s

trengt

h r

edu

ction f

acto

r β

Stress concentoration factor α

Welding joint, plane bending

Root notch, plane bending

Through thickness notch, axial loading

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0

Fat

igue lim

it σ

w, M

Pa

Curveture of welding toe or notch root 1/ρ, mm-1

Welding joint, plane bending

Root notch, plane bending

Though thickness notch, axial loading

Fig.4-5 Relationship between stress concentration factor and fatigue strength reduction factor

Fig.4-6 Relationship between fatigue limit and curvature of welding toe

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4.3 MX-MIG 法を用いた重ねすみ肉溶接部の疲労強度改善

本項では,溶接部の疲労強度改善法として期待される MX-MIG 法を取り上げ,疲労強度改善効果

を確認する.次に,第 2 章に示したハイテン鋼板の疲労強度におよぼす平均応力および応力集中

の影響の検討結果も活用して,疲労強度改善メカニズムについて考察する.

4.3.1 MX-MIG 法の特徴

MX-MIG 法とは,専用のメタル系フラックス入りワイヤ(FCW)に純 Ar シールドガスとパルス溶

接機を組み合わせた構成の新溶接法であり,アークプロセスにより革新的な止端形状改善効果を

発現するとともに,高コスト合金元素を用いずに実用的な範囲で低温変態機構を取り入れること

で,溶接時に導入される引張残留応力低減を狙って開発されたものである(11)~(13).純 Ar シールド

ガスを用いると,アーク範囲が広がり止端形状改善に効果があるが,一般に鋼材のアーク溶接で

は,シールドガス中に多少なりとも CO2や O2といった酸化性ガスを含まなければアークが著しく

不安定で,ビード形成できないのが常識とされていた.この課題を,専用 FCW とパルス溶接機を

組み合わせることで解決したのが MX-MIG 法であり,純 Ar シールドガスによるアーク範囲の拡大

に加え,フラックスから適量の酸素を溶融池に移行させることで表面張力を下げる効果も重畳し

て,止端形状改善効果を得ることができる.Fig.4-7 に,従来法と MX-MIG 法を用いて製作した重

ねすみ肉溶接部の断面例を示す.MX-MIG法を用いると溶接ビードのなじみが改善され,止端半径,

接触角とも大きくなっていることがわかる.

また,これまでの低温変態溶接ワイヤは,高価な添加元素である Ni を大量に添加するため,コ

スト上の問題があった.MX-MIG 法で用いる FCW は,高価な添加元素を用いないで低温変態機構を

加えるため,従来ワイヤよりも炭素量を多くしているが,低温変態機構を実用的な範囲に留める

ことで溶接時の割れなどの問題を解決している.

2mm2mm

2mm2mm

(a) MX-MIG process (b) Conventional process Fig.4-7 Cross section of welding joint (13),(14)

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4.3.2 試験方法

(1) 材料および試験片

試験に用いた材料は,780MPa 級熱延ハイテン鋼板である.板厚 3.4mm および 2.9mm のものを使

用した.代表的な機械的性質をTable 4-3に示す.板厚3.4mmのものは第2章で使用した板厚3.4mm

の材料と同じロットのものである.

Fig.4-8 に,板厚 3.4mm の場合の疲労試験片形状を示す.板厚が 2.9mm の場合も試験片形状は

同じである.なお,本試験では止端部の疲労強度を評価するが,板厚によっては未溶着側からき

裂が発生する場合があるため,評価部と反対側の重ね部も溶接を行った.

溶接継手の疲労強度支配因子としては,止端部の応力集中と溶接残留応力が挙げられる(1).そ

こで MX-MIG 法では,同じ溶接ワイヤを用いて狙い位置を変更することで,残留応力をほぼ一定と

して止端形状を変化させた溶接継手,および溶接ワイヤの成分を調整してマルテンサイト変態温

度を変化させ,止端形状をほぼ一定として溶接残留応力を変化させた溶接継手を製作して,疲労

試験片を採取した.比較のために用いた従来溶接継手は,一般的に用いられているソリッドワイ

ヤを用い,パルス溶接機を使用して溶接継手を製作した.シールドガスは Ar-CO2とした.

なお,いずれの溶接継手も溶接速度を 16.7mm/s(100cm/min)で 1 パスのすみ肉溶接とし,板

厚に応じた適切な溶接条件を選定した.

溶接止端部の形状は,溶接部の断面観察,もしくはシリコン印象材により止端部の型取りを行

い,その断面を観察することにより実施した.

Material σ Y,MPa σ B,MPa EL,%

HT-780 761 807 19

Table 4-3 Mechanical properties

18

18

30

30

6565

20

20

9090

R42.5R42.5

3.4

3.4

4-φ74-φ7

Fig.4-8 Test specimen

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(2) 疲労試験方法

疲労試験はシェンク式平面曲げ疲労試験機を用いて実施した.試験周波数は 20~25Hz,試験環

境は常温大気中である.なお,止端形状および溶接残留応力の影響を検討した疲労試験では,打

ち切り繰返し数を 2×106サイクルとした.

(3) 残留応力測定

溶接止端部近傍の残留応力は,X線を用いて実施した(17).X 線のスポット径はφ1mm とし,試験

片長手方向の残留応力を測定した.なお,測定前には試験片表面を数 10μm 電解研磨した.

4.3.3 試験結果

(1) 疲労試験結果

Fig.4-9 に,MX-MIG 法による疲労強度の向上効果を確認するために実施した,板厚 3.4mm のハ

イテン鋼板を用いた重ねすみ肉溶接部の疲労試験結果を示す.MX-MIG 法を用いると,従来溶接法

と比較して疲労限度で約 1.6 倍,350MPa 負荷時の疲労寿命は約 6倍に改善されている.また,図

中には第 2 章 Fig.2-2 に示した母材の平面曲げ疲労試験結果を合わせてプロットしているが,

MX-MIG 法を用いると疲労限度で母材の 80%程度の値が得られている.

0

100

200

300

400

500

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plutu

de σ

a, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

MX-MIG

Conventional

Base metal

Fig.4-9 S-N curves (14)

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- 93 -

Fig.4-10 には,溶接時の狙い位置により止端半径を変化させた試験片を用いて実施した疲労試

験結果を示す.止端半径ρは 0.65, 2.08 および 2.56mm の 3 種類であり,従来溶接法では 0.14mm

であった.この結果から,MX-MIG 法を用いるとρの改善効果が高いことが改めて確認できた.ま

た,ρが大きくなるに従い疲労強度が向上している.

Fig.4-11 には,溶接ワイヤのマルテンサイト変態温度(MS 点)を 346~540℃とした溶接継手

の疲労試験結果を示す.MS 点が低いほうが,引張残留応力が低減される傾向にあると考えられる

が,MS 点が 540℃でも従来溶接法(MS 点:648℃)と比較して十分に疲労強度が高い.MX-MIG 法

の 4種類の結果にはそれほど大きな差異はないが,MS 点が低いほうが疲労強度は高い傾向が認め

られる.

(2) 残留応力測定結果

Fig.4-12 には,止端部近傍の残留応力分布を測定した例を示す.一般に,溶接部近傍には,熱

収縮による引張残留応力が存在するとされているが,今回の重ねすみ肉溶接部では,止端部近傍

では圧縮残留応力が,少し離れると引張残留応力が測定された.この原因については明確ではな

いが,薄板の場合,厚板と比較して板厚方向の拘束度が小さく,鋼板の面外変形が発生しやすい

などの理由が考えられる.

また,MX-MIG 法のほうが,従来溶接法に比較して,止端部近傍 1mm 程度の範囲で高い圧縮残留

応力が測定されており,低温変態機構の効果が確認できる.

以上の結果から,それぞれの条件での止端半径と残留応力を,疲労限度とともに Table 4-4 に

まとめる.なお,疲労試験は打ち切り繰返し数を 2×106サイクルとして実施したため,破断デー

タを直線近似して算出した 1×106サイクル疲労強度を疲労限度σwと定義した.また,止端半径を

用いて第 2 章付録 A の結果から算出した応力集中係数αと,Fig.4-9 の母材の疲労限度を用いて

算出した切欠き係数βも合わせて示した.

4.3.4 考察

(1) 止端半径の影響

Fig.4-13には,応力集中係数αと切欠き係数βの関係をまとめる.図中には,第2章Fig.2-10(b)

で示した,780MPa 級ハイテン鋼板母材の関係も合わせて示した.なお,残留応力の影響は考慮し

ていない.MX-MIG 法の結果は,αが 1.5 以下でありα≒βとなっている.一方,従来溶接法の結

果は,αが 2 以上であり,α>βとなっている.これらの結果は,応力集中部の曲率半径を止端

半径と同等とした母材の板厚非貫通切欠き試験片の結果とほぼ一致しており,止端半径改善によ

る応力集中の低減が疲労強度改善に大きな影響を与えたと考えられる.なお,MX-MIG 法ではαが

1 に近いデータでβが 1 以下になっているものが存在するが,これは溶接止端部の形状,もしく

は材料の疲労強度のばらつきの影響ではないかと考えられる.

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0

100

200

300

400

500

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

MX-MIG, ρ=2.56mm

MX-MIG, ρ=2.08mm

MX-MIG, ρ=0.65mm

Conventional, ρ=0.14mm

0

100

200

300

400

500

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plit

ude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

MX-MIG, MS:346℃

MX-MIG, MS:419℃

MX-MIG, MS:487℃

MX-MIG, MS:540℃

Conventional, MS:648℃

Fig.4-11 Effect of martensite transformation temperature (13)

Fig.4-10 Effect of toe radius (14)

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300~400MPa

100

0

-100

-200

-300

Resi

dual

str

ess

σR, M

Pa

Distance from border between weld and base metal, mm1.0 2.0 3.0-5.0 0

○ MX-MIG□ ConventionalWelding

toe Base metal

Specimenparameter

Toe radiusρmm

Residualstress

σR

MPa

Fatigue limit

σw

MPa

Stressconcentration

factorα

Fatigue strengthreduction factor

β

2.56 -175 389 1.11 0.94

2.03 -219 306 1.16 1.19

0.65 -114 275 1.38 1.32

2.00 -191 314 1.17 1.16

1.80 -192 348 1.18 1.05

2.23 -216 359 1.13 1.01

2.08 -170 350 1.15 1.04

Conventional 0.14 -90 184 2.32 1.97

Residual stress

Toe radius

Table 4-4 Test results

Fig.4-12 Distribution of residual stress (14)

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Fig.4-14 には,横軸に止端部の曲率を取って疲労限度を整理した結果を,母材の結果とともに

示す.母材では,曲率が 2~4mm-1以上で疲労限度はほぼ一定値となるが,溶接継手も同様の傾向

を示している.

(2) 残留応力の影響

Fig.4-15 には,残留応力を平均応力として作成した疲労限度線図を示す.図中には,第 2 章

Fig.2-4(b)で示した母材の結果も合わせて示した.溶接継手の試験結果には,残留応力だけでな

く応力集中の影響も含まれているが,母材の結果は平滑試験片のものである.そこで,溶接継手

では縦軸の応力振幅に,疲労限度に応力集中係数を乗じた値を用い,残留応力は測定値をそのま

ま用いてプロットした.今回測定された残留応力は-220~-90MPa であり,疲労限度に悪影響を及

ぼすと考えられる引張残留応力ではない.またデータにばらつきも認められ,明瞭な傾向は確認

できなかったが,母材の結果とほぼ同様の位置にプロットされている.今回の検討範囲では,

MX-MIG 法の残留応力低減効果は顕著ではなかったと考えられる.拘束の小さな疲労試験片におい

ては,従来溶接法でも引張残留応力が導入されなかったため,MX-MIG 法の低温変態機構のメリッ

トが小さかった可能性が考えられる.

以上から,今回の検討範囲では,MX-MIG 法の疲労強度改善効果は,止端形状改善による応力集

中係数の低減が主要因であったことが推測される.

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

Fat

igue s

trengt

h r

edu

ction f

acto

Stress concentration factor α

MX-MIG

Conventional

Through thickness notch

Root notch

Fig.4-13 Relationship between stress concentration factor and fatigue strength reduction factor

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なお,実部品では,高い構造拘束により引張残留応力が発生する可能性もあり,残留応力をよ

り圧縮側にできる MX-MIG 法のメリットが発現される可能性が考えられる.ただし,局部的に塑性

変形が発生するような大入力を受け持つ部位では,変形により残留応力の効果が消失する可能性

も考えられ,その活用には注意が必要である.

0

100

200

300

400

500

600

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0

Fat

igue lim

it σ

w, M

Pa

Curveture of toe radius 1/ρ, mm-1

MX-MIG

Conventional

Through thickness notch

Root notch

0

100

200

300

400

500

600

-400 -200 0 200 400 600

Str

ess

am

plitude

σa×

α, M

Pa

Residual stress σR, MPa

MX-MIG

Conventional

Base metal

Fig.4-14 Relationship between fatigue limit and curvature of toe radius

Fig.4-15 Fatigue limit diagram (14)

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4.4 MX-MIG 法による重ねすみ肉溶接スタート部の疲労強度改善

自動車部品では短い溶接ビードが多用される傾向があり,溶接スタート/ストップ部が多く存

在し,疲労き裂発生が問題となる場合がある.溶接ストップ部は,通常クレーター処理と呼ばれ

る処理によりビードの盛り上がりが抑制され,スタート部よりも応力集中は小さいと推測される.

そこで本項では,溶接スタート部に着目し,容易に溶接スタート部の評価が可能なビードオンプ

レート疲労試験,および実際の足回り部品の溶接スタート部を想定した,重ねすみ肉溶接スター

ト部の疲労試験を実施し,MX-MIG 法の効果を検討した.

4.4.1 重ねすみ肉溶接スタート部の疲労試験方法

重ねすみ肉スタート部の疲労試験では,スタート部からき裂が発生すること,および試験片の

板厚が変化した場合に対応できるよう,公称応力振幅がわかることが必要であり,またこれまで

の疲労試験結果との比較検討を容易にするため,両振り条件が実現できることが求められる.ビ

ードオン試験片は,試験片取り付け方法を工夫することで,既存の平面曲げ疲労試験機を用いた

疲労試験が可能である.一方,重ねすみ肉溶接スタート部の試験に平面曲げ疲労試験機を用いよ

うとすると,試験片形状に対する自由度が小さく,また非対称形状となることから試験片にねじ

り変形が発生する可能性があるといった課題が考えられ,適用は容易ではない.油圧サーボ試験

機による軸力を用いた試験では,溶接線方向の加力が可能であるが,溶接金属を含む試験片の断

面形状にばらつきが発生し,偏心による曲げモーメントの排除が困難なことが予想される.また,

3点曲げでは両振りが困難なこと,4点曲げでは両振り曲げは可能であるが,薄鋼板の溶接時には

鋼板に面外変形が生じるため,試験片の取り付けが困難になる,あるいは支点への片あたりが問

題となる可能性がある.そこで,これらの課題を比較的容易に解決できる方法として,軸力を用

いるが,試験片をオフセットして取り付けることで,偏心曲げモーメントを作用させる疲労試験

方法を採用した.Fig.4-16 に試験法の概要および試験状況を示す.オフセット量は約 30mm であ

3030

130, 160

130, 160

(a) Schematic of test method (b) Photograph of fatigue test

Fig.4-16 Fatigue limit diagram (14),(15)

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り,上下にピンを用いることで純曲げに近い条件を実現することができる.Fig.4-17 に,溶接部

のない平板を用いて荷重-長手方向ひずみ関係を測定した結果を示す.(a)はひずみ測定位置を,

(b)は試験片幅方向,(c)は長手方向のひずみ分布の測定結果である.6 枚のひずみゲージを貼付

して検討した結果,軸力-ひずみ関係は線形で,両振り条件(応力比 R=-1)がほぼ実現でき,ひ

ずみ測定位置による差異もほとんど認められず,均一の曲げモーメントを付与できることが確認

できた.

4.4.2 試験方法

(1) 材料および試験片

試験に用いた材料は,板厚 3.4mm の 780MPa 級熱延鋼板である.機械的性質は Table 4-3 に示し

た通りであり,前項の板厚 3.4mm と同一ロットの材料である.

3.4

170

80

20

20 25 25

① ② ③

⑥:Back surfaceof ②

80

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

-2000 -1000 0 1000 2000

Strain ε, μstrain

Load

P, kN

2020

25 25

① ② ③

⑥:Back surfaceof ②

Forc

e P

, kN

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

-2000 -1000 0 1000 2000

Strain ε, μstrain

Load

P, kN

2020 25 25

① ② ③

⑥:Back surfaceof ②

Forc

e P

, kN

Fig.4-17 Strain distribution of test specimen (15)

(a) Test specimen

(b) Relation between load and strain (Strain distribution of specimen width)

(c) Relation between load and strain (Strain distribution of longitudinal direction)

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- 100 -

Fig.4-18 にビードオン試験片形状を,Fig.4-19 に重ねすみ肉溶接スタート部の疲労試験片形状

を示す.重ねすみ肉溶接スタート部は,試験片上下に付加板を配置して,試験片中央部近傍に配

置した.Fig.4-19(a)に示す付加板の端に溶接スタート部を配置した試験片(これを標準試験片と

する)に加え,(b)に示す溶接を鋼板表面からスタートさせた,いわゆる延長ビードを付与した試

験片も使用した.溶接方法は 4.3 項と同様の MX-MIG 法と従来溶接法であり,いずれも 1パスの溶

接を行った.溶接条件は,ビードオン試験片では溶接速度を 16.7mm/s(100cm/min),重ねすみ肉

スタート部の試験片では 15mm/s(90cm/min)とし,適切な条件を選定して実施した.重ねすみ肉

溶接では,板厚 3.4mm 同志の健全なすみ肉溶接継手を得るため,ビードオン試験片より融着量を

多くする必要があり,結果として入熱量も大きくなっている.

R10

R10

4040

6565

9090

20

20 30

30

18

18

(22.68)(22.68) 4-φ74-φ7

(t3.4)

3.4

3.43

.43.4

170

170

8080

4040

65

65

922

922

16-φ9.016-φ9.0

10 20 20 20 1010 20 20 20 10

3.4

3.43

.43.4

8080

4040

65

65

200

200

8585

(20)

(20)

16-φ9.016-φ9.0

922

922

10 20 20 20 1010 20 20 20 10

Fig.4-18 Test specimen (Bead on type, plane bending) (16)

(a) Standard type (b) Extension-bead type Fig.4-19 Test specimen (Offset bending type) (14),(15)

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疲労試験前に,溶接スタート部近傍の残留応力とスタート部の形状を測定した.残留応力測定

は X 線を用いて実施した(17).スポット径はφ1mm である.なお,重ねすみ肉溶接スタート部の残

留応力測定には標準試験片を用い,延長ビードを付与した試験片では残留応力を測定していない.

また,溶接スタート部の形状測定は,シリコン印象材を用いて型取りを行い実施した.

(2) 疲労試験

ビードオン試験片の疲労試験は,共振型平面曲げ疲労試験機を用いて実施した.試験周波数は

33.3Hz,最大繰返し数 1×106サイクルを目安とした.また,重ねすみ肉スタート部の疲労試験は,

前述した通り,電気油圧サーボ式疲労試験機を用いた偏心曲げ疲労試験を実施した.試験周波数

1.5~4.0Hz,最大繰返し数 5×106サイクルを目安とした.いずれの試験においても,溶接スター

ト部近傍にひずみゲージを貼付して試験開始時にひずみ測定を行い,ヤング率を乗じることで応

力振幅を算出した.重ねすみ肉スタート部は試験片に 4 か所のスタート部が存在するが,4 か所

ともひずみ測定を行い,その平均値を用いて応力振幅を算出した.なお,試験環境はいずれも常

温大気中である.

重ねすみ肉スタート部の疲労試験は試験力制御で実施したが,試験片の破断寿命ではなく,試

験開始直後の最大変位が約 1mm 増加した時点を寿命として定義した.この時のき裂長さは全長で

15~20mm である.

4.4.3 試験結果

(1) ビードオン試験片の疲労試験結果

Fig.4-20 に,ビードオン試験片の破断状況を示す.(a)は試験片全体を,(b)は破面の概要であ

る.MX-MIG 法,従来溶接法とも,ビードオン溶接スタート部よりき裂が発生して破断に至った.

Fig.4-21 に,得られた疲労試験結果をまとめる.MX-MIG のほうが長寿命側の結果が得られてお

り,106サイクル疲労強度で 20%強の改善効果が認められる.

Fig.4-22 に,試験片表面近傍のビッカース硬さ測定結果(押し込み力 9.8N)を示す.(a)は測

定位置の概略を,(b)に測定結果を示す.MX-MIG 法のほうが DEPO 部の硬度は高いが,HAZ 部の硬

度には大きな差はなく,今回の溶接条件では HAZ 部の特性にはほとんど差がないと考えられる.

5mm

(a) Schematic of fractured specimenFig.4-20 Fractured specimen (Bead on type) (16) (MX-MIG, σa=384MPa, Nf=6.18×104 cycles)

(b) Schematic of fracture surface

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100

200

300

400

500

600

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

amplit

ude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

MX-MIG

Conventional

1mm

0

100

200

300

400

500

-3 -2 -1 0 1 2 3 4

Vic

kers

har

dness

, Hv

Position, mm

MX-MIG

Conventional

Base metal HAZ DEPO

Crack initiation point

(b) Measurement resultFig.4-22 Distribution of Vickers hardness (16)

(a) Measurement position

Fig.4-21 S-N curves (Bead on type) (16)

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(2) 重ねすみ肉溶接スタート部の疲労試験結果

Fig.4-23 に,重ねすみ肉溶接スタート部のき裂発生状況を示す.ほとんどの試験片では,(a)

のように溶接スタート部にき裂が発生したが,MX-MIG 法で延長ビード付与したもののうち,長寿

命側の結果が得られた試験片では,(b)のように溶接スタート部ではなく,付加板境界にき裂が発

生した.

Fig.4-24 に疲労試験結果を示す.標準試験片の結果を黒印で,延長ビード付き試験片の結果を

白印で示した.*を付した 2点は,き裂が付加板境界に発生したことを示している.延長ビードが

ない場合,MX-MIG 法を用いると長寿命側で若干の寿命改善効果が認められるが,短寿命側では差

がない.また,延長ビードを付与した場合,従来法では長寿命側で若干の寿命改善が認められる.

MX-MIG 法では若干ではあるが,全体として寿命改善効果が認められる.なお,延長ビードを付与

した試験片で付加板境界にき裂が発生した原因は,溶接部ののど厚がやや不足したためであり,

溶接施工条件を改善することで回避できると考えられる.なお,溶接スタート部からき裂を発生

させることができていれば,長寿命側でさらなる疲労強度改善効果が得られる可能性がある.

(3) 残留応力測定結果

Fig.4-25 に,残留応力測定結果を示す.ビードオン試験片は 1か所,重ねすみ肉溶接スタート

部は 2ヶ所の平均値である.Fig.4-12 および Table 4-3 に示した止端部の残留応力測定結果とは

異なり,いずれも引張の残留応力が測定された.また,ビードオン試験片のほうが重ねすみ肉溶

接スタート部に比較して残留応力は小さい.MX-MIG 法と従来溶接法を比較すると,ビードオン試

験片ではMX-MIG法のほうが大きく,重ねすみ肉溶接スタート部ではMX-MIG法のほうが小さいが,

いずれもその差は小さい.これらの結果から,溶接スタート部では MX-MIG 法の残留応力低減効果

がほとんど得られていないと考えられる.

(4) 溶接スタート部の形状測定結果

Fig.4-26 に,溶接スタート部の曲率半径ρsの測定結果をまとめる.いずれも 6 か所の平均値

である.ビードオン試験片では,従来法に比較して MX-MIG 法ではρsが約 2 倍となっており,形

状改善効果が認められる.一方,重ねすみ肉溶接スタート部では,従来法と MX-MIG 法で大きな差

はなく,MX-MIG 法で延長ビードを付与するとρs が大きくなっている.また,ビードオン試験片

に比較して延長ビードのスタート部のρsが小さくなっている.この原因のひとつとして,重ねす

み肉溶接に対して適正な溶接条件とするため,延長ビードスタート部においても相対的に入熱量

が増加していることが影響した可能性が考えられる.

得られた試験結果を Table 4-5 にまとめる.最大繰返し数を 1×106もしくは 5×106サイクルと

したことから,1×106サイクル疲労強度を疲労限度σwと定義した.なお,MX-MIG 法で延長ビード

を付与した試験片では,長寿命側で溶接スタート部からき裂発生しなかったため,溶接スタート

部からき裂が発生した 3点のデータを直線近似して 1×106サイクル疲労強度を算出した(表中に

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20mm

20mm

0

50

100

150

200

250

300

350

400

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plit

ude σ

a, M

Pa

Number of cycles to crack initiation Ni, cycles

MX-MIG

MX-MIG (Extension-bead)

Conventional

Conventional (Extension-bead)

**

○*: Crack initiated at the welding bead

of the end of the additional plate

0

100

200

300

400

Resi

dua

l st

ress

σR, M

Pa

MX-MIG

Conventional

Bead on plate Lapped joint

(a) MX-MIG (Standard) (b) MX-MIG (Extension-bead) σa= 214MPa, Nf =2.3×105cycles σa= 152MPa, Nf =7.2×105 cycles

Fig.4-23 Photograph of fatigue crack at specimen surface (14)

Fig.4-24 S-N curves (Offset bending type) (14)

Fig.4-25 Residual stress (14) Fig.4-26 Measurement result of toe radius (14)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1 2 3

Toe r

adiu

s, m

m

MX-MIG

Conventional

Bead on plate Lapped joint Lapped joint(Extention bead)

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- 105 -

は括弧付きで示した).また,厳密には形状が異なるが,第 2章付録 Aに示した,重ねすみ肉溶接

止端部の応力集中係数の解析結果から,スタート部の曲率半径ρsを用いて推定した応力集中係数

αと,Fig.4-9 の母材の疲労限度を用いて算出した切欠き係数βも合わせて示した.なお,延長

ビード部の残留応力測定は実施していない.

4.4.4 考察

(1) 曲率半径の影響

Fig.4-27 に,溶接スタート部の曲率半径ρs を用いて推定した応力集中係数αと,切欠き係数

βの関係を示す.母材の結果および溶接止端部の結果を示した Fig.4-13 に,溶接スタート部の結

果を追加して示してある.ビードオン試験片の結果はα≒βであるが,重ねすみ肉溶接スタート

部ではα<βとなっており,応力集中以上に疲労限度が低下している.

Fig.4-28 に,溶接スタート部の曲率 1/ρsと疲労限度の関係を,Fig.4-14 に追加して示す.疲

労限度が一定となる曲率が 2~4mm-1以上であり,これまでの傾向と一致することから,応力集中

の影響はこれまでと同様であると考えられる.したがって,応力集中だけでは重ねすみ肉溶接ス

タート部の疲労強度は説明できない.

(2) 残留応力の影響

Fig.4-29 に,残留応力を平均応力として作成した疲労限度線図を,Fig.4-15 に追加して示す.

Fig.4-15 と同様,応力振幅には疲労限度に応力集中係数を乗じた値を,平均応力は残留応力をそ

のままプロットした.引張残留応力が小さいビードオン試験片では母材の結果とほぼ一致してお

り,重ねすみ肉溶接スタート部の結果は,母材の結果を用いて直線近似した線からはやや下側で

はあるが,その傾向は母材の結果とほぼ同様である.したがって,重ねすみ肉溶接スタート部で

は,応力集中に加えて引張残留応力の影響により疲労強度が低下した可能性が考えられる.

Toe radius

ρs

mm

Residualstress

σR

MPa

Fatigue limit

σw

MPa

Stressconcentration

factorα

Fatigue strengthreduction factor

β

Bead on plate 0.66 46 266 1.42 1.37

Lapped joint 0.18 263 135 2.23 2.70

Bead on plate 0.36 22 214 1.86 1.70

Lapped joint 0.19 295 118 2.16 3.08Conventional

2.70

Lapped joint(Extension bead)

Lapped joint(Extension bead)

0.17 --- 135 2.28

--- (152) 1.86 2.390.36

Table 4-5 Test results (Start point of welding)

Specimen

MX-MIG

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0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

Fat

igue s

trengt

h r

edu

ction fac

tor

β

Stress concentration factor α

MX-MIG

Conventional

MX-MIG (Start point)

Conventional (Start point) Through thickness notch

Root notch

0

100

200

300

400

500

600

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0

Fat

igue lim

it σ

w, M

Pa

Curveture of toe radius 1/ρs, mm-1

MX-MIG

Conventional

MX-MIG (Start point)

Conventional (Start point)

Through thickness notch

Root notch

Fig.4-27 Relationship between stress concentration factor and fatigue strength reduction factor

Fig.4-28 Relationship between fatigue limit and curvature of toe radius

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以上の結果から,溶接スタート部の疲労強度には,スタート部の形状と残留応力の影響が重畳

していることが示唆された.溶接スタート部では,ビードオン試験片や延長ビードを付与した重

ねすみ肉試験片のように,MX-MIG 法によりスタート部の形状改善効果が得られれば,従来法に比

較して疲労強度が改善できる.しかしながら,MX-MIG 法を用いても溶接による引張残留応力の改

善は難しく,継手形式や溶接条件によっては高い引張残留応力が導入されて疲労強度に影響を及

ぼす.本項で確認された MX-MIG 法による溶接スタート部の疲労強度改善は,スタート部の形状改

善効果が主要因であり,安定して引張残留応力を低減する方法が確立できれば,さらに大きな疲

労強度改善効果が得られると考えられる.

4.5 結言

本章では,自動車部品で多用される重ねすみ肉溶接部の疲労強度に着目し,まず熱延ハイテン

鋼板溶接部の疲労試験結果を整理することで,溶接部の疲労強度に関する一般的な傾向を確認し

た.次に,溶接材料と溶接プロセスの新たな組み合わせにより溶接継手の疲労強度改善が期待さ

れる,MX-MIG 法の効果について,780MPa 級鋼板を用いて検証した.最後に,自動車部品に多用さ

れる短い溶接ビードを想定し,溶接スタート部の疲労強度改善効果について検討した.得られた

主な結果を以下に示す.

0

100

200

300

400

500

600

-400 -200 0 200 400 600

Str

ess

am

plitude

σa×

α, M

Pa

Residual stress σR, MPa

MX-MIG

Conventional

MX-MIG (Start point)

Conventional (Start point)

Base metal

Fig.4-29 Fatigue limit diagram

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4.5.1 重ねすみ肉溶接部の疲労強度

(1) 数種類の 590MPa 級,および 780MPa 級ハイテン鋼板を用い,溶接継手の疲労試験結果を整理

した.その結果,従来から言われているように,溶接継手の疲労強度は鋼板強度が向上しても向

上しないことを確認した.

(2) 590MPa 級鋼板を用い,溶接継手の疲労限度におよぼす止端半径の影響を検討した結果,溶接

部の疲労限度は止端半径,すなわち応力集中の影響が大きいことが確認でき,止端半径を 0.5mm

以上に改善できれば,疲労限度が改善される可能性が示唆された.

4.5.2 MX-MIG 法を用いた重ねすみ肉溶接部の疲労強度改善

(1) 重ねすみ肉溶接に MX-MIG 法を用いると,従来溶接法と比較して,疲労限度で 1.6 倍,350MPa

負荷時の寿命は約 6倍に改善することができ,母材の疲労限度の 80%程度の疲労限度が得られた.

(2) MX-MIG 法を用いると,止端半径の改善効果が得られ,従来法と比較して 10 倍以上に止端半

径を増加させることができた.その結果,応力集中係数は 1.5 以下となり,高い疲労強度改善効

果が得られた.また,疲労限度に及ぼす止端半径の影響は,切欠き半径を同等とした母材の板厚

非貫通切欠き試験片の結果とほぼ同様であった.

(3) MX-MIG 法を用いると,相対的に圧縮側の残留応力を導入することができる.しかしながら,

今回の検討範囲では,従来溶接法においても圧縮残留応力が測定され,残留応力による疲労限度

の顕著な改善効果は確認できなかった.

(4) 今回の検討範囲では,MX-MIG 法の疲労強度改善効果は,止端形状改善による応力集中係数の

低減が主要因であったと考えられる.実部品は疲労試験片よりも構造拘束が大きく,高い引張残

留応力が発生する可能性もあり,残留応力をより圧縮側にできる MX-MIG 法のメリットが発現され

る可能性がある.しかしながら,部品の使用状況によっては局部的に塑性変形が発生するような

大入力を受け持つ可能性もあり,残留応力の活用には注意が必要である.

4.5.3 MX-MIG 法を用いた重ねすみ肉溶接スタート部の疲労強度改善

(1) ビードオン試験片の疲労試験結果では,MX-MIG 法を用いたほうが従来溶接法と比較して高い

疲労強度が得られた.一方,重ねすみ肉溶接スタート部では両者に大きな差はなく,延長ビード

を付与した場合に若干の改善効果が認められるに留まった.

(2) 溶接スタート部の曲率半径を測定し,疲労強度への影響を検討した.ビードオン試験片では

MX-MIG 法を用いることで曲率半径が大きくなったが,溶接スタート部ではほとんど差異はなく,

延長ビードを付与すると曲率半径がやや大きくなった.これらの結果から疲労限度に及ぼす曲率

半径の影響を検討したところ,ビードオン試験片ではこれまで得られた結果と同様の関係を示し,

曲率半径が大きくなったことによる応力集中改善効果により疲労限度が向上したと考えられる.

しかしながら,重ねすみ肉スタート部では,曲率と疲労限度の関係はこれまでの結果と同様であ

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ったにも関わらず,応力集中だけでは得られた疲労限度を説明することができなった.

(3) 溶接スタート部の残留応力の影響を,疲労限度線図を用いて検討した結果,溶接スタート部

の疲労限度は母材で得られた疲労限度線とほぼ同様の傾向を示した.重ねすみ肉溶接スタート部

では高い引張残留応力が測定されており,この影響により疲労限度が低下したと考えられる.

(4) 溶接スタート部の疲労強度には,スタート部の形状と残留応力の影響が重畳していることが

示唆された.MX-MIG 法により溶接スタート部の形状改善効果が得られれば,従来法に比較して疲

労強度が改善できる.しかしながら,MX-MIG 法を用いても引張残留応力の改善は難しかった.安

定して引張残留応力を低減する方法が確立できれば,さらに大きな疲労強度改善効果が得られる

と考えられる.

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付録 A 繰返し応力による溶接止端部の残留応力変化

ここでは,780MPa 級ハイテン鋼板の重ねすみ肉溶接継手を用いて検討した,繰返し応力による

溶接止端部の残留応力変化についてまとめる.

A1. 試験方法

A1.1 材料および試験片

試験に用いた材料は,板厚 3.4mm の 780MPa 級ハイテン鋼板であり,第 2章および第 4章で用い

た鋼板と同じロットの材料である.その機械的性質は Table 4-3 に示した通りである.

疲労試験片は Fig.4-8 に示した通りであり,MX-MIG 法および従来溶接法を用いて溶接継手を製

作した.溶接速度は 16.7mm/s(100cm/min)とし,適切な溶接条件を選定して実施した.

A1.2 試験方法

疲労試験は共振型の平面曲げ疲労試験機を用い,試験周波数 33.3Hz で実施した.試験環境は常

温大気中である.まず,あらかじめ疲労試験を実施して S-N 曲線を取得し,残留応力変化を測定

する応力振幅を選定し,その後残留応力を測定した試験片に繰返し応力を作用させ,再度残留応

力を測定した.

残留応力測定は,X 線を用いて実施した(17).スポット径はφ1mm とし,試験片表面を数 10μm

電解研磨した後に測定を行った.

A2. 試験結果

A2.1 疲労試験結果

Fig.4A-1 に,疲労試験結果を示す.得られたデータは Fig.4-9 とほぼ同等である.図中には,

破断試験片の結果を用いて作成した近似直線も示している.この結果から,MX-MIG 法および従来

溶接法の双方で疲労寿命が 105 サイクルのオーダーとなる応力振幅として,図中に矢印で示した

323MPa および 325MPa を選定した.

A2.2 残留応力測定結果

応力振幅 323MPa および 325MPa で,S-N 曲線から予測される破断寿命の約 30%の繰返し応力を付

与し,残留応力変化を確認した.Fig.4A-2 に,残留応力測定結果を示す.MX-MIG 法,従来法とも

圧縮残留応力が測定され,MX-MIG 法のほうが大きな圧縮残留応力となっている.また,Table 4-4

と比較すると,繰返し応力付与前の残留応力は,MX-MIG 法では圧縮が大きく,従来溶接法では圧

縮がやや小さいがほぼ同等の結果が得られている.繰返し応力付与後の残留応力は,試験前に比

較して小さくなる傾向にあり,圧縮残留応力が大きいほど変化量は大きいようである.MX-MIG 法

の圧縮残留応力は-200MPa 程度に減少したが,従来溶接法ではほとんど変化がないことから,残

留応力が±200MPa 以下では本試験条件では残留応力がほとんど変化しない可能性が示唆される.

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繰返し応力付与後の残留応力の値は Table 4-4 とほぼ同様であることから,Fig.4-15 の疲労限度

線図による整理は,疲労試験前の残留応力を使用しているが,それなりに妥当な結果であった可

能性が考えられる.

150

200

250

300

350

400

450

1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 1.0E+07

Str

ess

am

plit

ude

σa, M

Pa

Number of cycles to failure Nf, cycles

MX-MIG

Conventional

323MPa325MPa

-400

-300

-200

-100

0

Resi

dual

str

ess

σR, M

Pa

MX-MIG Conventional

Before fatigue test After fatigue test

Fig.4A-2 Residual stress

Fig.4A-1 S-N curves

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第 4章 参考文献

(1) 日本鋼構造協会,“鋼構造物の疲労設計指針・同解説”(2012).

(2) 橋本勝太,小川和洋,中川大隆,吉武明英,樺沢真事,溶接学会全国大会講演概要,Vol.55

(1994), 402.

(3) 樺沢真事,小川和洋,吉武明英,橋本勝太,溶接構造シンポジウム講演論文集 (1995), 75.

(4) Statnikov. E S. , IIW Doc. XIII-1668-97, (1997).

(5) Haagensen. R J, Statnikov. E S. and Martinez. L L, IIW Doc. XIII-1748-98, (1998).

(6) 野瀬哲郎,島貫広志,日本機械学会論文集(A編),Vol.74 No.737 (2008), 166.

(7) 野瀬哲郎,溶接学会誌,Vol.77 No.3 (2008), 210.

(8) 太田明彦,渡辺 修,松岡一祥,志賀千晃,西島 敏,前田芳夫,鈴木直之,久保高宏,

溶接学会論文集,Vol.18 (2000), 141.

(9) 太田昭彦,鈴木直之,前田芳夫,自動車技術会論文集,Vol.33 (2002), 91.

(10) 瀬戸厚司,吉田裕一,アンドレ ガルティエ,自動車技術会論文集,Vol.36, No.2 (2005),

95.

(11) 鈴木励一,梅原悠,河西龍,溶接学会全国大会講演概要,Vol.83 (2008), 146.

(12) Kasai, R., Umehara, Y. and Suzuki, R., IIW2009 Doc.212-1149-09, XⅡ-1970-09, Ⅵ

984-09.

(13) 鈴木励一,河西 龍,杵渕雅男,溶接技術,No.3 (2010), 74.

(14) 杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,自動車技術会論文集,Vol.43, No.2 (2012), 527.

(15) 杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,日本機械学会 M&M 材料力学カンファレンス 2011,

OS2313-1.

(16) 杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,日本材料学会 学術講演会講演論文集 Vol.60 (2011),

129.

(17) 日本材料学会,X線応力測定法標準=鉄鋼編=(2002).

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第 5章 結論

産業界にとって,温室効果ガス,すなわち CO2 削減は重要な課題であり,あらゆる分野でその

取り組みが継続されている.自動車分野では,燃費向上のための努力が行われており,エンジン

の効率化だけでなく,車体の軽量化が重要な課題のひとつであるが,自動車の安全性・信頼性を

確保する必要があることは言うまでもない.これらの課題をできるだけ低コストで実現する手段

として,ハイテン鋼板の自動車部品への適用推進は極めて重要であり,ハイテン鋼板部品の疲労

信頼性確保への取り組みは,ハイテン化を推進するためになくてはならないものである.

本論文では,熱延ハイテン鋼板を自動車足回り部品へ適用した際の,疲労信頼性の確保のため

に解決すべき課題を取り上げ,590MPa 級および 780 級鋼板を用いて検討を行った.ハイテン鋼板

を用いた部品の疲労設計を行うためには,母材の疲労特性に加え,平均応力や応力集中の影響と

いった基礎的な特性を把握する必要がある.また,ハイテン鋼板を自動車部品に適用するには,

自動車部品特有の課題を解決する必要がある.一般的な自動車足回り部品は,まず鋼板をシャー

切断や打ち抜き加工により切断し,次にプレス加工により成形した後,それらを組み合わせてア

ーク溶接により組み立てて塗装するという,一連の工程により製造される.本論文では,部品特

有の課題としてシャー切断部およびアーク溶接部を取り上げ,その疲労強度支配因子を検討する

とともに,疲労強度向上が期待できる方法を取り上げ,その効果を検証した.

第 2 章では,ハイテン鋼板の基本的な疲労特性を把握するために実施した疲労試験結果をまと

めた.まず,平滑試験片の疲労強度については,590MPa 級鋼板では静的強度に応じた疲労限度が

得られたが,780MPa 級鋼板では表面性状の影響が認められ,静的強度に応じた疲労限度が得られ

ない場合があることがわかった.次に,基本的な影響因子として,平均応力と応力集中の影響を

検討した.平均応力の影響は部品に発生する残留応力の影響を検討する上で重要であるが,疲労

限度線図による評価が可能であることが確認できた.また,応力集中部の疲労強度は,応力集中

係数と応力勾配(切欠き半径)により決まり,切欠き部の曲率が 2~4mm-1以下では応力集中係数

に応じた疲労強度が得られ,曲率がそれ以上では一定値を取ることがわかった.また,平均応力

と応力集中の影響は,590MPa 級鋼板と 780MPa 級鋼板でほぼ同様であることがわかった.これら

の基礎データは,部品の疲労設計を行う際に活用が期待できる.

第 3 章では,シャー切断面の疲労強度について検討した.切断部の疲労強度の低下原因は,切

断時に導入される引張残留応力であり,繰返し応力により再配分した切断面近傍の残留応力が,

切断部の疲労強度支配因子であることを示した.また,再配分した残留応力が降伏応力程度であ

ることから,切断部の疲労強度の簡便推定法を提案した.続いて,切断部の疲労強度を改善する

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方法として,プレス金型を用いてシャー切断部を削り取るシェービング加工,および切断部の引

張残留応力に対して圧縮残留応力を付与することができるショットピーニング処理を取り上げ,

その改善効果を検証した.シェービング加工を施すと,切断面の引張残留応力を低減することが

でき,疲労強度を改善することができるが,加工条件によっては表面性状の劣化により疲労強度

が向上しない場合があること,またショットピーニングを施すと,母材と同等まで疲労強度を改

善できることがわかった.

第 4 章では,アーク溶接部の疲労強度について検討した.自動車部品のアーク溶接では,主と

して重ねすみ肉溶接が用いられる.そこで,まず重ねすみ肉溶接部の疲労強度を確認した結果,

これまで厚鋼板の溶接継手で得られている知見と同様,静的強度が向上しても疲労強度は向上し

ないこと,また止端部の応力集中が大きな影響を与えていることを確認した.次に,溶接部の疲

労強度を改善できる可能性がある MX-MIG 法を取り上げ,その改善メカニズムを検討した.MX-MIG

法を適用すると止端形状を大幅に改善でき,応力集中低減効果により疲労強度が向上することが

わかった.一方,低温変態機構による引張残留応力の低減については,疲労試験片では従来溶接

法でも圧縮の残留応力となることから,その効果を明確化することができなかった.最後に,自

動車部品に多用される短い溶接ビードを考慮し,溶接スタート部に対する MX-MIG 法の効果を検討

した.その結果,ビードオンプレート試験片では形状改善効果により疲労強度が向上するが,重

ねすみ肉溶接スタート部では形状改善効果が得られず,疲労強度の向上には至らなかった.溶接

スタート部に延長ビードを採用すると,形状改善効果により疲労強度向上効果が得られるが,溶

接条件によっては引張残留応力が大きくなり,十分な向上効果が得られない場合があることもわ

かった.

第 3 章,第 4 章の検討結果は,ハイテン鋼板を用いた自動車足回り部品の疲労設計では,材料

の疲労強度に対する応力集中と残留応力の影響を正確に評価することが最も重要であることを,

改めて示している.さらに,部品の疲労強度は複数の影響因子が重畳して決まるため,疲労信頼

性の確保のためには,それぞれの部位における主要な影響因子を把握した上で一般化し,適切な

設計方法を確立することが求められる.本論文では,部品の疲労寿命を決めると考えられる,シ

ャー切断部と溶接部を取り上げ,それぞれの部位における主要な影響因子を定量的に把握したこ

とで,ハイテン鋼板を用いた足回り部品の疲労設計指針の明確化に寄与することができた.また,

把握した影響因子に基づく疲労強度向上法を定量化したことで,ハイテン鋼板の特性を最大限に

活用する可能性を提示することができた.

一方,自動車足回り部品に作用する応力は,引張/曲げ/ねじりが重畳した複合応力であるこ

とが多く,また路面からのランダム入力が作用する.複合応力が作用する場合の疲労に関しては,

引張応力とねじり応力が単独に作用する場合の疲労限度を用いて複合時の疲労限度を推定する方

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法(1)~(3)や,内部摩擦説に基づく方法(4)~(6)などが提案されている.また,ランダム入力に対して

は,累積損傷則(マイナー則)(7)をベースとした評価法が一般的である.しかしながら,現在も

まだ不明な点が多く,それぞれのケースに応じてより適切な方法を選択している(8),(9)のが現状で

あり,今後のさらなる検討が待たれる.

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第 5章 参考文献

(1) 西原利夫,河本 實,日本機械学会論文集, Vol.7 (1941), Ⅰ-85

(2) H. J. Gough, Proc. Inst. Mech. Eng., 160 (1949) 417.

(3) W. N. Findley, Trans. ASME, Vol.79 (1957), 1337.

(4) W. N. Findley, Trans. ASME, Vol.81 (1959), 301.

(5) 眞武友一,日本機械学会論文集,Vol.42, No.359 (1976), 1947.

(6) 川田雄一,日本機械学会論文集 A編,Vol.46, No.411 (1980), 1189.

(7) M. A. Miner, J. App. Mech., Vol.12 (1962), A-159.

(8) D. F. Socie and G. B. Marquis,“Multiaxial fatigue”, Society of Automotive

Engineers (2000).

(9) 加藤孝憲, 山本三幸, 山村佳成,材料,Vol.54, No.12 (2005), 1275.

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論文・口頭発表

(特に関連の強い論文・口頭発表には○を付した)

論文発表

○杵渕雅男,北村隆行,

「熱延高張力鋼板におけるシャー切断面の疲労強度に関する研究」

材料,Vol.62, No.12 (2013), 764.

○杵渕雅男,北村隆行,

「熱延高張力鋼板におけるシャー切断面の疲労強度に関する研究(その2 シェービング加工に

よる疲労強度の改善効果)」

日本機械学会論文集(A編),Vol.79, No.808 (2013), 1832.

○杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,

「疲労強度改善溶接法(MX-MIG 法)を用いた重ねすみ肉溶接部の疲労強度に関する研究

自動車技術会論文集,Vol.43, No.2 (2012), 527.

・杵渕雅男,秋庭義明,田中啓介,

「レーザ干渉変位計による微小疲労き裂の開閉口挙動に関する研究」

日本機械学会論文集(A編),Vol.56, No.522 (1990), 61.

・横幕俊典,杵渕雅男,蓑方康郎,

「フェライト鋼における疲労特性におよぼす微視的強化機構の影響」

材料,第 40 巻 第 458 号 (1991),1415.

・杵渕雅男,横幕俊典,蓑方康郎,

「フェライト鋼における疲労特性におよぼす微視的強化機構の影響」

神戸製鋼技報,Vol.44, No.1 (1994), 83.

・横幕俊典,杵渕雅男,中屋道治,

「疲労き裂伝ぱ・停留シミュレーションによる鋼の組織設計」

日本機械学会論文集(A編),第 63 巻 第 614 号 (1997),2114.

・田村栄一,三浦正明,杵渕雅男,

「打抜き穴を有する高強度熱延鋼板のコイニング加工による疲労強度向上(第 2報)

‐コイニング加工による残留応力発生に対する有限要素解析‐」

自動車技術会論文集,Vol.35, No.2 (2004), 115.

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・田村栄一,三浦正明,十代田哲夫,杵渕雅男,

「打抜き穴を有する高強度熱延鋼板のコイニング加工による疲労強度向上(第 3報)

‐圧縮残留応力発生のメカニズムに関する研究‐」

自動車技術会論文集,Vol.35, No.2 (2004), 121.

・村上俊夫,杵渕雅男,野村正裕,向井陽一,

「•Ti添加Dual Phase鋼の疲労限に及ぼす熱間圧延条件の影響」

日本金属学会誌,第 72 巻 第 10 号 (2008),832.

・杵渕雅男,中川知和,橘 美枝,橋村 徹,

「アルミニウム合金/鋼ハイブリッド構造を用いた圧壊部品における軽量化の検討」

自動車技術会論文集,Vol.42, No.2 (2011), 597.

・松本 剛,笹部誠二,岩井正敏,杵渕雅男,

「新開発溶接ワイヤを用いたアルミニウム合金と鋼板の異種金属接合技術の開発」

自動車技術会論文集,Vol.42, No.2 (2011), 591.

国際学会発表

・Yokomaku, T., Kinefuchi, M., Iwai, T.,

「Effect of Microstructure on Fatigue Properties in Low and Ultra-low-Carbon

Steels」

Proceedings of 6th International Conference of Mechanical Behaviour of

Materials, Vol.2 (1991), 525.

・Kinefuchi, M., Yokomaku, T.,

「EFFECT OF MICROSTRUCTURE ON SMALL CRACK-PROPAGATION IN A HOT-ROLLED SHEET STEEL」

Proceedings of FATIGUE 93 (1993).

・Kinefuchi, M. Matsumoto, K., Urushihara, W., Takeda, M, Sasabe, S.

and Matsumoto, T.,

「Invited lecture:Development of Aluminum/Steel Joining Technology for

Application of Aluminum Alloy to Automobile Body」

Proceedings of the 8th International Welding Symposium of Japan Welding Society

(2008), 176.

口頭発表

○杵渕雅男,

「自動車用熱延高張力鋼板の疲労強度におよぼす残留応力の影響」

日本機械学会年次大会講演論文集,Vol.1 (2001), 239.

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○杵渕雅男,田村栄一,

「熱延高張力鋼板の疲労強度におよぼす応力集中の影響」

日本機械学会年次大会講演論文集,Vol.1 (2003), 119.

○杵渕雅男,田中啓介,

「熱延高張力鋼板の疲労強度におよぼす表面あらさの影響」

日本材料学会学術講演会講演論文集 (2002), 69.

○杵渕雅男,田中啓介,

「熱延高張力鋼板の疲労強度におよぼす表面あらさの影響 第 2報 平均応力の影響」

日本機械学会年次大会講演論文集,Vol.2 (2002), 339.

○杵渕雅男,

「熱延高張力鋼板の疲労強度におよぼす表面あらさの影響 第 3報 材料強度の影響」

杵渕雅男,日本機械学会材料力学部門講演会講演論文集 (2003), 755.

○十代田哲夫,杵渕雅男,三浦正明,

「シャー切断面疲労強度におよぼすシェービング加工の影響」

日本機械学会材料力学部門講演会講演論文集 (2005), 187.

○杵渕雅男,十代田哲夫,三浦正明,

「熱延高張力鋼板の切断面疲労強度におよぼすショットピーニングの影響」

自動車技術会学術講演会前刷集,No.90-03 (2003), 5.

○杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,

「疲労改善溶接材料を用いた溶接スタート部の疲労強度に関する研究

(ビードオン試験片による検討)」

日本材料学会学術講演会講演論文集 Vol.60 (2011), 129.

○杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,

「疲労改善溶接材料を用いた重ねすみ肉溶接スタート部の疲労強度に関する研究」

日本機械学会 M&M 材料力学カンファレンス 2011,OS2313-1.

○杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,

「疲労改善溶接材料を用いた重ねすみ肉溶接部の疲労強度に関する研究」

自動車技術会学術講演会前刷集,No.112-11 (2011), 13.

○杵渕雅男,鈴木励一,河西 龍,

「MX-MIG法による重ねすみ肉溶接部の疲労強度改善」

溶接学会第 212 回溶接冶金研究委員会 (2013).

・杵渕雅男,横幕俊典,田中啓介,

「疲労き裂伝ぱシミュレーションによる熱延鋼板の疲労特性評価」

疲労シンポジウム講演論文集 Vol.21 (1992), 167.

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・杵渕雅男,横幕俊典,田中啓介,

「微視組織を考慮した疲労き裂伝ぱの力学と計算機シミュレーション」

破壊力学シンポジウム講演論文集 Vol.7 (1993), 21.

・杵渕雅男,田村栄一,

「コイニングによる残留応力発生と疲労強度向上」

第 9回 機械材料・材料加工技術講演会講演論文集 (2001), 405.

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謝 辞

本研究は,著者が京都大学大学院工学研究科博士課程後期課程在学中に,京都大学工学研究科

教授 北村隆行先生のご指導のもと行ったものです.北村隆行教授には,終始変わらず丁寧なご

教授,ご指導を賜りましたことを,心より深く感謝致します.

本論文の作成に際して,ご多忙中にも関わらず丁寧なご校閲を賜りました,京都大学工学研究

科 星出敏彦教授,北條正樹教授に心より御礼申し上げます.

京都大学 大谷隆一名誉教授,名古屋工業大学 田中啓介教授,横浜国立大学 秋庭義明教授

には,著者の京都大学学士課程,修士課程在学中から現在まで,材料強度研究の基礎から丁寧に

ご指導を賜りました.また,神戸大学 中井善一教授には,本論文に限らず著者の研究に関して

種々のご助言をいただきました.ここに深く感謝いたします.

著者の勤務先である株式会社神戸製鋼所 技術開発本部開発企画部 久本淳部長(前材料研究

所長),畑野等担当部長(前材質制御研究室長),材料研究所 坂本浩一所長,材質制御研究室 梶

原桂室長には,博士後期課程への編入学と本論文の執筆を後押ししていただきました.深く感謝

いたします.

著者が入社後最初に所属した機械研究所構造強度研究室 溝口孝遠室長(現コベルコ建機顧問)

横幕俊典主任研究員(現コベルコ科研),中川知一主任研究員(現機械研究所研究首席)には,現

在に至るも多大なご指導を賜っております.深くお礼を申し上げます.

本研究の多くは,鉄鋼部門技術開発センター 薄板開発室 十代田哲夫主任研究員(現神鋼リ

サーチ),三浦正明室長,溶接事業部門技術開発部 鈴木励一主任研究員,材質制御研究室 田村

栄一主任研究員と協力して実施した疲労試験結果を基に理論的な考察を行ったものです.ここに

深くお礼を申し上げます.

最後に,筆者の現在の所属である材質制御研究室の皆様には,本論文を取りまとめる時間を確

保するため,種々の援助をいただきました.ここに深く感謝申し上げます.