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Q:前回はメタファー、メトニミー、シネクド キについての復習でした。 A:最後に復習テストとしてそれぞれの用例を 文章中から探し出してもらいましたが、メ タファーの例が見つけられませんでしたね。 Q: はい。「時間を無駄にした」がメタファーだ とは気付きませんでした。 A:実は「時間を無駄にした」のような表現が メタファーであることを示したのはジョー ジ・レイコフ(George Lakoff)とマーク・ジョ ンソン(Mark Johnson)という二人の学者 です。彼らは1980年に出版されたMetaphors We Live By(邦訳『レトリックと人生』)とい う本の中で新たなメタファー論を展開しま した。これによりメタファー研究が大きく 変わりました。 Q:どのように変わったのですか? A:それ以前はメタファーというのは文学作品 や詩などで文体を豊かにするために用いら れるレトリックとして扱われてきました。 Q: 高校の頃にそのように教わった気がします。 A:ところがレイコフとジョンソンは先ほどの 本の中で、メタファーは文学作品などで用 いられるレトリックという特殊なものでは なく、日常言語の中にあふれていることを 豊富な例を挙げて証明しました。 Q:今までメタファーだと意識していなかった 表現が実はメタファーだったということで すね。 A:その通りです。このレイコフとジョンソン のメタファー論では我々は社会的あるいは 文化的な経験などを基盤にして、抽象的な 概念をより具体的な概念によって理解して いると考えられています。冒頭の「時間を 無駄にした」という表現ですが、これは TIME IS MONEY(時間はお金である)と いうメタファーが基盤となっています。つ まり我々は「時間」という抽象的概念を「お 金」という別の具体的概念で理解している ことになります。 Q:私たちの社会の中では「時間」も「お金」 と同様に限られた貴重なものだからですね。 A:レイコフとジョンソンは上で挙げた本の中で TIME IS MONEYを基盤としたメタファー の 例 と し て、You’ re wasting my time. ( 君 は ぼ く の 時 間 を 浪 費 し て い る )、This gadget will save you hours.( こ の 機 械 装置を使えば何時間も節約できる)、How do you spend your time these days? (この頃どんなふうに時間を使っているの)、 I’ve invested a lot of time in her.(彼女に は随分時間をさいてやったよ)などを示し ています(日本語訳は渡部他(訳)より引用)。 Q:確かにこうやって改めて例を示されると、 「時間」を「お金」として捉えていることが 分かります。特に最後のinvestを使った例 はそう感じます。 A:そうですね。TIME IS MONEYのようにあ る概念を別の概念を通して理解するメタ ファーは「概念メタファー」と呼ばれます。 概念メタファーの話はまた次回以降にした いと思います。 Q:今回は少し内容が難しい感じがしましたが、 大変興味深い話でした。では参考文献をお 願いします。 A:先ほどお話ししたMetaphors We Live ByGeorge Lakoff and Mark Johnson 著、 The University of Chicago Press (1980 年)とその邦訳『レトリックと人生』、渡部昇 一、楠瀬淳三、下谷和幸訳、大修館書店(1986 年)を挙げておきます。認知言語学における メタファー研究の出発点となった一冊です。 今回の洋書の参考文献(請求記号:401‖Lak 資料 ID:468705 配架場所:本館書庫2F)が出 版されたのは1980年ですので、それほど古い物 ではないと知り、驚いているのは私だけでしょ うか。内容的には専門書ですので、理論的で固 苦しく感じると思いますが、難解な図などは無 く、簡潔に記述されています。一度原書にトラ イしてみてはいかがでしょうか。 その邦訳(請求記号:801.6‖Lak 資料ID: 453239 配架場所:本館第1閲覧室)も挙げて頂 いているので、こちらを先に読んで、その後に 原書に当たるというのも手ではないでしょうか。 メタファー研究が大きく変わるきっかけと なった本書、少しでも気になったら手に取り、 目次や最初の数ページに目を通してみてくださ い。何かが変わるきっかけになるかも知れませ んよ。 にゅうがく なおや (福井工業大学准教授・英語学・英語史) ふじい たつや(司書・課長補佐・アジア関係図書館入学直哉、藤井達也 言語学、はじめの一歩(22) 36

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  • Q:前回はメタファー、メトニミー、シネクドキについての復習でした。

    A:最後に復習テストとしてそれぞれの用例を文章中から探し出してもらいましたが、メタファーの例が見つけられませんでしたね。

    Q: はい。「時間を無駄にした」がメタファーだとは気付きませんでした。

    A:実は「時間を無駄にした」のような表現がメタファーであることを示したのはジョージ・レイコフ(George Lakoff)とマーク・ジョンソン(Mark Johnson)という二人の学者です。彼らは1980年に出版されたMetaphors We Live By(邦訳『レトリックと人生』)という本の中で新たなメタファー論を展開しました。これによりメタファー研究が大きく変わりました。

    Q:どのように変わったのですか?A:それ以前はメタファーというのは文学作品

    や詩などで文体を豊かにするために用いられるレトリックとして扱われてきました。

    Q: 高校の頃にそのように教わった気がします。A:ところがレイコフとジョンソンは先ほどの

    本の中で、メタファーは文学作品などで用いられるレトリックという特殊なものではなく、日常言語の中にあふれていることを豊富な例を挙げて証明しました。

    Q:今までメタファーだと意識していなかった表現が実はメタファーだったということですね。

    A:その通りです。このレイコフとジョンソンのメタファー論では我々は社会的あるいは文化的な経験などを基盤にして、抽象的な概念をより具体的な概念によって理解していると考えられています。冒頭の「時間を無駄にした」という表現ですが、これはTIME IS MONEY(時間はお金である)というメタファーが基盤となっています。つまり我々は「時間」という抽象的概念を「お金」という別の具体的概念で理解していることになります。

    Q:私たちの社会の中では「時間」も「お金」と同様に限られた貴重なものだからですね。

    A:レイコフとジョンソンは上で挙げた本の中でTIME IS MONEYを基盤としたメタファーの 例 と し て、You’re wasting my time.

    (君はぼくの時間を浪費している)、This gadget will save you hours.(この機械

    装置を使えば何時間も節約できる)、How do you spend your time these days?

      (この頃どんなふうに時間を使っているの)、I’ve invested a lot of time in her.(彼女には随分時間をさいてやったよ)などを示しています(日本語訳は渡部他(訳)より引用)。

    Q:確かにこうやって改めて例を示されると、「時間」を「お金」として捉えていることが分かります。特に最後のinvestを使った例はそう感じます。

    A:そうですね。TIME IS MONEYのようにある概念を別の概念を通して理解するメタファーは「概念メタファー」と呼ばれます。概念メタファーの話はまた次回以降にしたいと思います。

    Q:今回は少し内容が難しい感じがしましたが、大変興味深い話でした。では参考文献をお願いします。

    A: 先 ほ ど お 話 し し たMetaphors We Live By、George Lakoff and Mark Johnson著、The University of Chicago Press (1980年)とその邦訳『レトリックと人生』、渡部昇一、楠瀬淳三、下谷和幸訳、大修館書店(1986年)を挙げておきます。認知言語学におけるメタファー研究の出発点となった一冊です。

     今回の洋書の参考文献(請求記号:401‖Lak 資料 ID:468705 配架場所:本館書庫2F)が出版されたのは1980年ですので、それほど古い物ではないと知り、驚いているのは私だけでしょうか。内容的には専門書ですので、理論的で固苦しく感じると思いますが、難解な図などは無く、簡潔に記述されています。一度原書にトライしてみてはいかがでしょうか。 その邦訳(請求記号:801.6‖Lak 資料ID:453239 配架場所:本館第1閲覧室)も挙げて頂いているので、こちらを先に読んで、その後に原書に当たるというのも手ではないでしょうか。 メタファー研究が大きく変わるきっかけとなった本書、少しでも気になったら手に取り、目次や最初の数ページに目を通してみてください。何かが変わるきっかけになるかも知れませんよ。

     にゅうがく なおや(福井工業大学准教授・英語学・英語史)

    ふじい たつや(司書・課長補佐・アジア関係図書館)

    入学直哉、藤井達也

    言語学、はじめの一歩 (22)

    図書館員の文献紹介と資料の活用

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