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HEM - Net 対談 地域医療向上 ドクターヘリ 36 GRAPHIC MAGAZINE OF EMERGENCY MEDICAL NETWORK OF HELICOPTER AND HOSPITAL SUMMER 2015 HEM - Net グラフ 季刊誌 救急ヘリ病院ネットワーク 2015 夏号

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Page 1: SUMMER 2015 - 認定NPO法人 救急ヘリ病院ネット …地域医療の質の向上とドクターヘリ ドクターヘリの草分け的な存在の聖隷三方原病院の活動を間近に見てきた

HEM-Net対談地域医療の質の向上とドクターヘリ

36GRAPHIC MAGAZINE OF EMERGENCY MEDICAL NETWORK OF HELICOPTER AND HOSPITAL

SUMMER 2015HEM-Net グラフ季刊誌 救急ヘリ病院ネットワーク 2015年 夏号

Page 2: SUMMER 2015 - 認定NPO法人 救急ヘリ病院ネット …地域医療の質の向上とドクターヘリ ドクターヘリの草分け的な存在の聖隷三方原病院の活動を間近に見てきた

地域医療の質の向上とドクターヘリドクターヘリの草分け的な存在の聖隷三方原病院の活動を間近に見てきた堺常雄日本病院会会長に医療の課題やドクターヘリの役割について伺った。

聞き手:國松孝次 認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク会長

國松 先生のご専門は、脳神経外科と

伺っていますが、これまで、救急医療

部門とは、どのように係わったご経験

をお持ちでしょうか。

堺 私は1970年に医学部を卒業し

ましたが、大学紛争のピークの時期で、

大学に行っても授業がなく、勉強がで

きないという時代でした。卒業する1

年くらい前から脳外科をやってみたい

と思っていましたが、当時は日本の大

学には脳外科の講座がありませんでし

た。それでアメリカで脳外科が進んで

いましたのでアメリカに行って勉強し

たいと思い、まず、キャンプ座間にあっ

た米国陸軍病院でインターンとして1

年間勤務し、経験を積みました。当時

は、ベトナム戦争の真っただ中で、戦

地から送還されてくる傷病兵の治療に

追われました。

 

その後、1971年から8年間米

国で脳神経外科の研修を受けました。

ニューヨーク州のシラキュースという

ところですが、ニューヨーク州立大学

の大学病院で色々な経験をすることが

できました。専門は脳外科ですが、週

に3日は当直がありますので、たくさ

んの救急の患者さんをERの救急専門

の医師と一緒に診ることができまし

た。意識障害があると、まず脳外科医

も呼ばれますが、糖尿病等の疾患によ

る場合もあり、内科疾患が分からない

と適切な対応ができない。手術の術後

管理もしなければならない。とにかく

色々な経験ができました。

 

また、当時は、銃傷を含め外傷によ

る患者が多く、外科手術や脳血管障害

等の手術をかなりさせてもらうことが

できました。

米国のERで脳血管障害等を手術

聖隷三方原病院で

 ドクターヘリ運航開始

堺さかい

常つ ね お

雄 氏聖隷浜松病院 総長一般社団法人日本病院会 会長山形県出身。1970年千葉大学医学部卒業後、キャンプ座間の米国陸軍病院でインターン、1971年から8年間米国で脳神経外科研修。1979年から浜松医科大学医学部附属病院勤務、1981年から聖隷三方原病院勤務。1992年に聖隷浜松病院に移り1996年院長、2011年10月総長就任、現在に至る。2010年4月より日本病院会会長。

HEM-Net対談國松 先生は、聖隷浜松病院の総長を

お勤めですが、同じ聖隷福祉事業団の

運営する聖隷三方原病院は、ドクター

ヘリの運航病院の草分けです。川崎医

科大学附属病院に次いで、2001年

10月に聖隷三方原病院でドクターヘリ

の運航が始まりましたが、どのように

ご覧になっていたでしょうか。

堺 1979年に米国から帰り浜松医

科大学医学部附属病院で勤務し、その

後、聖隷三方原病院の脳外科ができま

したので、81年から同病院で働き始め

ました。そこで小児救急に熱い思いを

お持ちの岡田眞人先生とも一緒になっ

たわけです。岡田先生は、聖隷三方原

病院へのドクターヘリ導入の立役者で

す。

 

1992年に聖隷浜松病院に移り、

96年から同病院の院長になりましたの

で、ドクターヘリの運航開始に直接関

わってはいませんでしたが、自分なり

にドクターヘリの必要性について応援

して働きかけをしていました。正直な

ところ、病院全体の雰囲気はまだまだ

という感じでしたし、聖隷三方原病院

を救命救急センターにすることについ

て地元医療関係者の賛同が得られず、

苦労していました。その中で、当時、

浜松市医師会の会長であり静岡県医師

会の副会長であった大久保忠訓先生が

とてもご熱心で理解があり、研究会を

立ち上げてくださり、医療関係者の意

見をまとめてくださったのが大きな力

になったと思います。

國松 岡田先生のご熱意や当時の石川

嘉延知事の力が大きかったと承知して

いましたが、地元の医師会の中にそう

いう方がいてくださったのですね。

堺 単に一つの病院が頑張るだけでは

とてもできなかったと思います。

國松 地域のチーム力、総合力、タイ

ミング……こういったものが揃わない

となかなか難しいですね。

堺 最近は、よくステークホルダーと

いうことが言われますが、何事も関係

者のチーム力、総合力が大事だと思い

ます。

國松 先生のところとも連携して運航

されているのでしょうか。

堺 聖隷三方原病院では、2008年

に屋上ヘリポートができましたので、

ヘリコプター搬送による患者の受け

入れの連携が非常によくなりました。

2013年度は、ドクターヘリが出動

し、病院に搬送された患者さん420

名のうち22名を浜松病院で受け入れて

います。

広域連携の取り組み

國松 聖隷三方原病院では、早くか

ら広域連携に目を向けてこられまし

た。ドクターヘリによる救命好事例と

して私の念頭に真っ先に浮かぶのは、

2008年に愛知県の北設楽郡の池で

おぼれて心肺停止状態になった男の子

を救うために、県境を越えて聖隷三方

原病院のドクターヘリが出動し、静岡

県立こども病院に搬送し、先進的な治

療を受けて元気になったという事例で

す。県境に関わりなく、最も近いドク

ターヘリが出動し、最も適した病院に

搬送する、これが当たり前に行われて

いるということが凄いですね。

堺 ドクターヘリの運航前には、北設

楽郡東栄町のくも膜下の患者さんが救

急車で運ばれてきたことがありました

が、1時間たっても到着しない。病院

に着いた時にはさらに深刻な状態に

なっていたということもありました。

 

もともと愛知県の三河地方の東部と

は歴史的にみても、土地柄が近いです

から、名古屋に向かうよりも距離感が

近いのではないでしょうか。

國松 聖隷三方原病院では、今お話が

でましたように早くから実質的に県境

HEM-Netグラフ 第36号発行日/2015年7月10日 発行者/認定NPO法人

救急ヘリ病院ネットワーク東京都千代田区一番町25番全国町村議員会館内 TEL: 03-3264-1190FAX: 03-3264-1431E-mail: hemnetda

@topaz.plala.or.jp

制作者/クリエイト21

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20

15

01HEM-Net対談堺 常雄氏國松 孝次氏

05ドクターヘリ最前線山形県立中央病院

09先進事故通報システム(AACN)実働訓練

122014年度ドクターヘリ出動実績

13第5回ドクターヘリ普及促進懇談会の開催兵庫県ドクターヘリ安全研修会

14HEM-Net Up To DateHEM-Net安全シンポジウムのお知らせ

CONTENTS

この雑誌は、全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)および社団法人日本損害保険協会のご協力により発行しています。

救急ヘリ病院ネットワークHEM-Netグラフ 2015年 夏号

02 01

Page 3: SUMMER 2015 - 認定NPO法人 救急ヘリ病院ネット …地域医療の質の向上とドクターヘリ ドクターヘリの草分け的な存在の聖隷三方原病院の活動を間近に見てきた

ドクターヘリと地域医療の役割

ドクターヘリに期待するもの

病院医療の質の向上を目指して

國松 日本病院会は、「医の倫理の確

立」と「病院医療の質の向上」を目指

して活動していらっしゃいますが、先

生は、この点についてどのようにお考

えですか。

堺 日本病院会の会員は2420病院

にのぼりますので、医療のスタンダー

ドを確立し、それを普及することに

よって、診療の質と経営の質を高めて

いきたいと考えています。

國松 具体的にはどんなことをされて

いるのでしょうか。

堺 

診療の質については、QI

(quality indicator

)を用いた質の評価

の見える化に取り組んでいます。QI

プロジェクトに参加している病院は

300ほどあるのですが、例えば「尿

道留置カテーテル使用率」という項目

を設けて、カテーテルを長く留置し

すぎていることはないかを点検する、

「糖尿病患者の血糖コントロール」と

いう項目では、担当医ごとに血糖コン

トロールの具合を比較する、といった

ことをそれぞれの病院でQIの数値で

表し、成果を公表することにより、目

に見えて病院が変わってくるのです。

國松 救急の分野もあるのですか。

堺 救急車・ホットライン応需率と

いった項目があります。

 

また、脳卒中の患者さんを救急で受

けてから、診断・治療までどれくらい

の時間を要するのか等をチェックして

います。

國松 日本の救急医療の課題はどのあ

たりにあるのでしょうか。

堺 日本の医学界は大学中心に運営さ

國松 ドクターヘリは、救命救急の患

者さんの搬送のほか、医療の過疎化が

進む地域において地域医療を支える役

割もあると思います。私は、基幹病院

に医療資源を集中してドクターヘリで

つなぐという方法もあるのではないか

とも思いますが、地域医療については、

どのようにお考えですか。

堺 地域の特徴を踏まえた地域医療構

想を策定する必要があると思います。

私は、病院の中では、三階建て構想と

認定 NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク 会長

國松 孝次

言っているのですが、1階部分は救急

と総合的な診療、まずはここでどこが

悪いのかを総合的に診る。現在は、専

門の細分化が進み過ぎていますが、総

合的に必要な判断・処置ができるよう

にしていく。2階は救命救急と専門科、

救急の中でも命にかかわるようなも

の、病気によってはさらに専門的な治

療が必要なものに対する治療を行う、

3階は高度救命救急センターも含めた

超専門的な治療を行うという整理で

す。これに患者さんをきちんと振り分

け、適切な治療を受けられるようにし

ていくことが重要だと思っています。

地域の中では、基幹病院を中心とした

連携が大切になってきます。全ての病

院が重装備というのは非効率的と思い

ます。

國松 宮崎県のドクターヘリは、地域

の1階部分を担う方々に何かあった

國松 ドクターヘリは、今年の4月で

全国に45機配備され、救急医療の大き

な財産に成長しています。ドクターヘ

リが救急医療の質の向上に関し果たす

べき役割について、どのようなことを

期待されますか。

堺 まず、患者さんと医療のアクセス

が良くなり、救命効果が上がったと思

います。今後は救命効果の質と量の

データを蓄積して、質の部分を明らか

にしていってほしいですね。現場の医

師は、自分の扱ってきた患者さんの症

例をもとにした後ろ向きな研究に留ま

りがちですが、医療政策学者や医療経

営学者等医療研究者も協力して前向き

な研究をしていただきたいと思いま

す。

國松 現場の先生方は使命感に溢れ

て、助かる命が助からないことがない

ようにと懸命に立ち向かっている。そ

の使命感によりかかって、ドクターヘ

リをもっと円滑に運航できるようにす

る仕組みづくりが遅れている面もある

のではないかと懸念しています。

堺 

おっしゃるとおりで、OECD

の日本の医療に対する評価において

も、医療従事者の熱意と犠牲に支えら

れて成り立っていると指摘されていま

す。もっと仕組みづくりの面で努力す

る必要があります。

 

日本ではドクターフィーという考え

方がほとんどありませんので、診療報

酬に成果を入れて頑張っているところ

を評価してほしいと言っているのです

が、難しいですね。グループ診療の場

合の評価をどうするのかといった問題

もありますし。

 

何事かを進めるためには、人、もの、

カネといいますが、皆さんの理解を得

るためには、様々なデータを蓄積して、

正しいデータ分析に基づき、例えば、

ドクターヘリを活用すればこれだけ救

命率があがるという情報の提供を積極

的に行なってゆくのが最後に一番大事

だと思います。

國松 現場の方々が活動しやすくなる

ように、我々も手助けしていかなけれ

ばならないと考えて色々と研究をして

いるところですが、そのためには、先

生がおっしゃるように救命効果をきち

んと示していくことが、重要だと思っ

ています。

 

今日は貴重なお話をありがとうござ

いました。

ら、ドクターヘリがすぐにサポートし

ますという考え方で、地域の医師の

方々にも安心して治療に専心していた

だき、大学病院は本当に救命救急の対

応が必要な患者さんを受け入れるとい

う棲み分けをしていて地域の医療機関

ともうまく連携をしています。

堺 そういう宮崎のケースはすばらし

いことだと思います。特に、2025

年に向けて、地域医療をどうするのか

というのは大きな課題ですね。年齢構

成と疾病の発症率を掛け合わせれば、

医療に対するニーズは分かるわけです

から、それを想定して対応を検討して

いけばいいのです。但し、高齢者の肺

炎と若い人の肺炎では症状も治療方法

も違うように、同じ病名でも病状や対

応が違います。在宅で治療中の方の急

変の情報をどうやってキャッチするか

という問題もあります。

國松 高齢者の場合、救急車でかけつ

けてみても実は救急事案ではなかった

ということもある。しかし自力で病院

にはいけないのですから、なんとかし

なければならない。

堺 高齢化社会への対応は、世界が関

心を持っています。それへの対応を示

していく責務があると思っています。

れてきましたから、ER的な救急がな

かなか無かったということがまず挙げ

られます。

 

救急医療といってもトリアージ的な

ER方式なのか、あるいは一次・二

次・三次方式なのかが明確になってい

ない点と、更には、救急と集中治療と

の関係がどうなのかという問題もあり

ます。専門分野の細分化が進み過ぎて

いるので、総合的に必要な判断、処置

ができるように、総合診療科が望まれ

ます。これからは救急専門医と総合診

療専門医、それに集中治療専門医の連

携が重要になってきます。

を越えた救急医療に取り組んでこられ

ましたが、ドクターヘリについては、

関西広域連合による広域運用、茨城・

栃木・群馬3県による北関東の連携、

中国5県による連携等が行われてお

り、都道府県境を越えた広域救急医療

提供体制を確立する必要性を説く方々

が増えています。先生は、どのように

お考えですか。

堺 経費の面からも、マンパワーの面

からも、複数県で連携して取り組めば

いいと思います。

 

私も、東日本大震災の折に、厚生労

働省に広域的な医療提供について働き

かけましたが、本省から指示をしても

都道府県単位では対応が難しく、うま

くいきませんでした。今、全国に7か

所ある地方厚生局がその管轄地域をと

りまとめてカバーしてはどうかと提案

しているのですが、地方厚生局の役割

が保険医療機関の「指導・監査」とい

うところにありますので、「指導・監

査される」という意識がまず働いてし

まうのでしょうか、都道府県によって、

関心に温度差がありますね。

 

東日本大震災の際に、石巻赤十字病

院で災害医療の指揮に当たられた石井

正先生が、東北大学病院の総合地域医

療教育支援部の教授になられました

が、「医療圏に県境はない」と言ってい

らっしゃいます。例えば、四国、九州

等と大きなまとまりごとに助けあえば

いいのではないでしょうか。

04 03

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飛行には不利な山岳地形

ランデブーポイントをランク付け

独自のドクターヘリ・サポートカー

――山形県ドクターヘリの運用

は、いつからでしょうか。

森野 運航開始は2012年11

月です。始まる前に予測してい

た出動件数は、救急車の搬送

実績から概算し、年間330

件程度と考えていました。実

際に2013年度は262件、

2014年度は335件。2年

半で予想通りのラインに到達し

ました。

――山形県は山が多くて、飛ぶ

のも大変ですね。

森野 基地病院のある山形市は

山形盆地の中にあります。その

東側には奥羽山脈、西側には朝

日山地と出羽山地があり、北の

方から鳥海山、月山、朝日連峰

が連なり、それが日本海側の庄

内平野と内陸を分け、一昔前ま

では文化も異なりました。庄内

の海運の中心は酒田で、北前船

が京都との間を往来し、そこか

ら最上川を尾花沢まで船が上

がってきました。

 

その尾花沢から南へ村山、天

童、山形と下ってくるわけです

――要請基準はキーワード方式ですか。

森野 はい。キーワードに該当するとドクターヘリ

を要請します。しかしながら、真正直に拾うと大変

な出動件数になるので、運航調整委員会の中に消防

通信司令の皆さんも入ったワーキング・グループを

設け、キーワードについて、どこまで拾うかを議論

する場を設けています。

――キーワードに関連して重要なのは時間ですね。

患者さんをより早く近くの病院に搬送できるなら

ば、キーワードが合致してもヘリコプターを要請す

べき事例は限られてきます。

森野 そのようなことも含め、最終判断は消防にお

まかせしています。ところが実際は、通信司令室で

判断するのはなかなか難しい。救急要請の電話を受

――フライト・ドクターとナースの人数をお聞かせ

ください。

森野 ドクターは救急科の医師のみで現在8人。そ

のうち若い医師2人がトレーニング中です。不思議

森野 山形市の西にある山辺町、中山町という二つ

の町は消防本部がなく、消防業務は山形市に委託し

ている。このうち山辺町は「ドクターヘリ・サポー

トカー」という車を導入、地元の消防団や役場の方

が運転し、ランデブーポイントの安全管理はもとよ

り、ヘリコプターから降りてきたドクターやナース

を傷病者のところまで乗せていってくれる。高速ド

クターカーみたいな役割を果たしています。

 

この町には消防署がなく、消防車や救急車でドク

ターヘリの支援をすることができない。そこで消防

団が自発的に車を買った。普通のワゴン車ですが、

県も少し支援してくれた。車の塗装もドクターヘリ

に似たカラーリングで、美しい。皆さん協力的で、

とても助かっています。

――いいお話ですね。海外では、救急ヘリコプター

で飛んできた医療スタッフを警察のパトカーで患者

のそばへ連れてゆく話がありますが、日本でも消防

署ばかりでなく、消防団でも警察でも協力し合う体

制が必要でしょうね。

森野 そう思います。こういう支援車があれば、消

防も助かります。他の町村でも是非やっていただき

たい。県が半額補助を出すということで呼びかけて

います。ドクターヘリが消防より先に現場に早く着

くことも少なくありません。そんなときはランデ

第36回ドクターヘリ最前線 山形県立中央病院

が、この辺りを村山地方といって人口56万人くらい。

山形県の人口が112万余りなので、その半分が村

山地方に住んでいることになります。そして、この

地域からの出動要請が全体の半分以上を占める。つ

まり比較的近いところからの要請が多いわけです。

 

逆に遠いところは時間を要するので、救急車で運

んだ方が早いという見方もあるようです。特に月山

は2000メートル級の山で、そこを直接越える場

合、天候に左右されます。所要時間は鶴岡・酒田ま

で約二十数分、天候が怪しいと北側を流れる最上川

沿いに、迂回します。それでも最近は庄内からもだ

いぶ要請をいただくようになりました。

けながら咄嗟に判断しなければならない。救急隊も

一刻を争う事態の中で判断を求められる。したがっ

て消防司令室には救急救命士が入ってもらった方が

よいと思います。この点に関し、国の制度作りは遅

れてしまいました。各消防に任されてきた分野です

が、症例検討会を行いながら、呼ぶべきか不要なの

かといった事例を挙げ、いろいろ議論しております。

と他科のドクターでヘリコプターに乗りたいと手を

挙げる人はいません。ところが、県内の他の病院か

らドクターヘリに乗りたいという人が3人、さらに

宮城県から東北大の救急の先生方が2人、合わせて

5人の応援をいただき、トレーニング中の2人を除

いても総勢11人になります。

 

一方、フライトナースは9人です。救急部門3年

以上の経験者です。

――ヘリコプターの運航会社はどちらですか。

森野 東邦航空です。この会社としては初めてのド

クターヘリ運航だそうですが、飛行の安全について

は全信頼をおいています。

――東邦航空は1993年以来20年以上にわたっ

て、東京都の伊豆6島を結ぶヘリコプター旅客定期

便を運航していますから、安全についてはしっかり

していると思います。

 ところで、病院正面のヘリポートと格納庫が立派

ですね。

森野 格納庫はヘリコプター2機を格納できる大き

さがあります。ヘリポートは3機が駐機できます。

この場所は昔から防災ヘリコプター用のヘリポート

でしたが、さらに広げてドクターヘリ用につくりな

おし、格納庫も新しく建てました。

――ランデブーポイントはどのくらいありますか。

森野 登録は現在762ヵ所です。けれども使いや

すいところと使いにくいところがあり、それらをA、

B、Cとランクづけし、散水不要で、なるべく使い

やすいところが使われることが多いです。冬季は積

雪のため、除雪が難しいランデブーポイントは使え

ません。使えるのは762ヵ所のうち97ヵ所に減っ

てしまいます。

山形県立中央病院救命救急センター 副所長

森野 一真医師

呼ぶべきか呼ばざるべきか

06 05

山形県立中央病院山形は、サクランボの実が甘くなる時期を迎えていた。5月下旬のことである。東京から山形新幹線「つばさ」で3時間弱。山形駅で奥羽本線下りに乗り換え、3つ目の南出羽駅で降りると、改札口の向こうに大きな建物が見える。それが15年前、山形市内から移転してきた山形県立中央病院であった。当時、この付近は田んぼが広がるばかりだったという。そこに広大な敷地を確保して660床の総合病院を新設。その立派な応接室で救命救急センター副所長の森野一真先生のお話をうかがった。

(聞き手:西川 渉 HEM-Net理事)

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08 07

不意の心肺停止から 二重の幸運で命拾い

――安全に関して、何か注意しておられることはあ

りますか。

森野 基本的なことは他の施設と同じように、運航

会社の協力も得ながら安全講習会などを開いており

ます。特にランデブーポイントは、最初の頃は地面

に異物があったりして問題になりました。そこで消

 「気がついたのは3日後でした。病院のベッドの

上です。まだ頭がぼんやりしていて、誰かと話をし

たようですが、よく覚えていません。記憶が戻った

のは1週間も経ってからです」

 

伊藤成賢さんは山形市立第二中学校の理科の先生

である。かたわらサッカー部の顧問をしていて、そ

の日、2014年4月15日、他校との対抗試合で審

判を務めた。そのため公民館のグラウンドを走り

回ったが、さほど激しい運動ではない。試合が終

わって着替えるために自分の車のところへ戻り、乗

りこもうとして倒れた。

 

心肺停止だったらしい。それを見つけた人がすぐ

に人工呼吸をしてくれた。さらに誰かが公民館から

AEDを持ってきて、除細動の処置をしてくれた。

 

先ほどまでインタビューに応じていただいたフラ

イト・ドクターの森野一真先生によれば、除細動の

処置は2度おこなわれた。倒れてから10分後くらい

のことで、時間的にはかなり早い。現場にいたバイ

スタンダーの方たちのお手柄といってよいだろう。

 

それから、おそらく5分くらいで心拍が再開し、

間もなく駆けつけた救急隊が拍動を確認している。

そこから救急車で近くのランデブーポイントに搬送

され、ドクターヘリに引き継がれた。飛来した医師

は静脈の確保と気管挿管をして伊藤さんをヘリコプ

ターに乗せ、県立中央病院へ搬送、心臓カテーテル

検査をして脳低温療法をおこなった。

防や市町村にお願いし、気をつけてもらっています。

 

またヘリコプターから降りたドクターやナースは

走っていくことが多いので、転んだりしないよう注

意しています。

――いつぞや、どこかでストレッチャーをヘリコプ

ターに乗せるとき患者さんを落としたことがあると

いう話を聞きましたが。

森野 今のところうちではありませんが、OJT中

の整備士がストレッチャーを機体に乗せるとき、フ

レームに指を挟み骨折してしまいました。このスト

レッチャーはファーノ(FERN

O

)という海外メー

カー製ですが、ストレッチャーを手で支える構造に

問題があります。手を添えてはいけない、折りたた

まれる部位に手を添えたくなる構造により、誤って

指が挟まれてしまったのです。

 

事故後、その部分に「ここもつな!危険!」と注

意を促す表示を施し、毎朝ドクター、ナース、フラ

イトクルーが立ち位置、搬入動作を確認しています。

このメーカーは救急車のストレッチャーを作ってい

る大きな会社で、製品は広く流通していますが、イ

ンシデント報告をしたはずです。

――本日はお忙しいところ、興味深いお話を聞かせ

ていただき有難うございました。また沢山の資料を

取りそろえていただいた総務課課長補佐の森居俊明

さんにも厚くお礼申し上げます。

 山形県ドクターヘリが今後ますます活躍し、県民

の救護に貢献できることを願っております。

第36回ドクターヘリ最前線 山形県立中央病院

ブーポイントの上空を旋回

しながら、待っているわけ

です。そこでサポートカー

があれば、ドクターと患者

さんとの接触も早くなりま

す。

――サポートカーのないと

ころでは、警察のパトカー

も支援して貰えるといいで

すね。消防との関係はいか

がですか。

森野 ドクターヘリ症例検

証会には病院、医師会、消

防、行政の方にも来ても

らっています。警察は必要

に応じてお願いします。当初、検証会は毎月開催し

ておりましたが、1年間経過の後に2ヵ月に1回に

なりました。

――近隣各県との関係はどうですか。

森野 新潟県、福島県、秋田県と「隣県協定」を結

んでいます。向こうが飛べないときは、いつでもこ

ちらから飛んで行きます。昨年度は、福島県に飛ん

だのが2件、福島県から来てもらったのが4件でし

た。隣県への転院搬送もあります。山形県から新潟

県と宮城県へそれぞれ5件ずつ搬送しております。

 

このとき、ヘリコプターがなければ、これだけの

処置ができる病院までは救急車で30~40分はかかっ

たはず。そうなると命の保証はできない。ドクター

ヘリは10分で病院に着いたから今があるのだ。

 

伊藤さんには持病がない。「心臓が悪いといわれ

たこともありません。その日の朝も、気分が悪かっ

たわけではないのに、全くいきなりでした……意識

を失った自分を同僚の先生が車の中から引っ張り出

して、生徒の保護者の方がAEDの操作をしてくれ

たみたいです。本当に助かりました」

 

そのこととドクターヘリと、二重の幸運によって

伊藤さんは救われたのだった。�

(東山��

翔)

伊藤 成まさ

賢よし

さん(53歳)山形市在住

14:44 消防覚知

14:49 ドクターヘリ出動要請

14:52 救急隊患者接触

14:53 ヘリポート離陸(山形県立中央病院)

15:07 ランデブーポイント着陸

15:09 医師患者接触

15:33 ランデブーポイント離陸

15:43 山形県立中央病院へリポート着

ドクターヘリ搬送の経緯

――山形県特有の救急事案というと、どんなものが

ドクターヘリ・サポートカー

ストレッチャーで指を骨折

サクランボ外傷と山菜採り

もしドクターヘリがなければ

ありますか。

森野 山形県は脳卒中が多く、特にくも膜下出血で

す。交通事故は意外に少ない。安全運転をする人が

多いのでしょう。土地柄、冬期は雪下ろし中に高い

屋根から転落したり、落下してきた雪に埋もれてし

まう事故が多いです。

 

6月下旬から山形は真っ赤な宝石、サクランボが

出回ります。今の季節、サクランボの樹を保護する

ため、パイプでハウスを組み立て、網を張ります。

その作業中に高いところから落ちて大けがを負いま

す。もちろん剪定中などにも発生します。我々は

「サクランボ外傷」と呼んでいます。

 

また、山菜採りの事故もあります。山菜採りは、

私の年中行事の一つですが、非常に気持ちが良い。

人工的な音の聞こえない静かな山の中で、自然の大

気に触れながら山菜を採り、その日のうちに食す。

格別です。だから、よくお年寄が山菜採りのために

山に奥深く入り、迷子になって遭難するわけです。

熊も山菜を食べますので、運が悪いと鉢合わせとな

り、大けがを負うこともあります。

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10 09

 

認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク(HE

Net)は、先進事故自動通報システム(AA

CN:A

dvanced Autom

atic Collision Notification

を活用して交通事故負傷者の救命と後遺症軽減を図

ることを目的に、AACNが起動するドクターヘリ

システムを全国的に構築する取り組みを行っていま

す。このシステムは、交通事故時に車両から自動発

信される情報、いわゆるテレマティクス情報から乗

員の被害程度を予測し、一定以上の傷害が予想され

る場合には、救命救急に係わる関係機関の救助活動

を早期に起動させることが可能であり、今秋から試

験運用が開始される予定です。

 

HEM

Netは、AACNに関する調査研究

を2010年度から開始しています。タカタ財団

の助成研究事業(2010~2011年度)では、

2011年8月に東京国際フォーラムにおいてシ

ンポジウム「ACNと傷害予測の最前線」(HEM

Netグラフ22号参照)を開催するとともに、

2011年12月には茨城県つくば市の日本自動車研

究所(JARI)においてトヨタ自動車株式会社と

共同でAACN実証実験(HEM

Netグラフ24

号参照)を実施し、AACNと直結したドクターヘ

リシステムが医師の現場診療開始を大幅に早めるこ

とを実証しました。

先進事故自動通報システム(AACN)実働訓練A

ACN試験運用に向けた通報訓練と

実働訓練

AACN通報訓練

AACN実働訓練

 

AACN通報訓練は、千葉県医療整備課、千葉県

内のドクターヘリ基地病院、消防および警察に本シ

ステムの概要を周知した後、日本医科大学千葉北総

病院救命救急センターに関係者が集まり、2015

年3月3日(火)と4日(水)の二日間にわたり行わ

れました。想定した交通事故の現場は、北西指令

センター管轄の市川市(3日)とちば共同指令セン

ター管轄の佐倉市(4日)の二か所としました。

 

AACN機能搭載車両を両市内の所定の場所に配

置した後、同車両から仮想の事故情報をHELPN

ETに送信すると、HELPNETは、AACNサー

バーを介して事故発生場所の緯度経度や乗員の死亡

重傷確率を含む各種情報を、千葉県内の消防指令セ

ンター(6ヵ所)とドクターヘリ基地病院(2ヵ所)

に配備した受信用電子端末(タブレット)に自動送

信することを確認しました。

 

HELPNETコールセンター、消防指令セン

ターおよび千葉北総病院では、受信した事故情報を

もとに、ランデブーポイント、出動救急車、支援車

両など、覚知出動からドクターヘリ着陸に係わる各

種調整と情報共有のための通信訓練を行いました。

この訓練は、両日とも、仮想の事故情報を変化させ

つつ3回ずつ行い、いずれも、事故発生から3分以

内に消防およびドクターヘリ基地病院のタブレッ

トにおいて事故情報を覚知することができ、7分以

内にドクターヘリが離陸できることが予想されまし

た。

 

今秋から開始される予定のAACN試験運用の前

段階として、2015年3月から、AACN機能搭

載車両を用いて、交通事故を想定した、実働を伴わ

ない通報のみの訓練(以下、「AACN通報訓練」と

いう)と、実際にドクターヘリを起動させる実働訓

練(以下、「AACN実働訓練」という)を各地のド

 

AACN通報訓練終了後の2015年3月28日

(土)には、日本医科大学千葉北総病院救命救急セ

ンター、日本大学、KDDI株式会社、株式会社日

本緊急通報サービス(HELPNET)、トヨタ自

動車株式会社およびHE

M-

Netの6団体の協

働のもと、君津中央病院、

千葉県内の医療関係者や

消防関係者、警察関係者

の協力を得て、実際にA

ACNからドクターヘリ

を起動させるための実働

訓練を行いました。

 

AACN実働訓練で

は、以下のシナリオを設

定しました。

① 

40歳男性が運転する

AACN搭載車両がエ

アバッグ展開を伴う単

独交通事故を起こし、

事故情報(発生場所の

緯度経度、衝突方向、シートベルト着用有無、衝

撃程度(デルタV)、他)がHELPNETコール

センターへ自動送信される。

② 

HELPNETは、この事故情報を取得すると、

事故車両の乗員が死亡重傷となる確率を自動計算

し、この計算結果を消防指令センターおよびドク

ターヘリ基地病院に設置されたタブレットに送信

する。

③ 

死亡重傷確率が閾値以上であった場合には、ド

クターヘリは事故発生現場に向けて基地病院を離

陸し、救急隊とドクターヘリ支援車両も出動する。

 

AACNが起動するドクターヘリシステムを早期

に実現すべく、2012年6月には、関係省庁や企

業、医療関係者などで作る「AACN救急医療支援

サービス研究会(AACN研究会)を立ち上げまし

た。2013年10月には、東京ビッグサイトで開催

されたITS世界会議東京2013において、AA

CN研究会の主催のもと、「先進的ITS救急医療

支援システム」のショーケースを行い、自動車メー

カー3社のAACN搭載車両を用いて、AACNが

起動するドクターヘリシステムを含む近未来の救命

救急システムを紹介しました。

 

これまでに計11回開催されたAACN研究会で

は、AACNによって車両から自動発信されるテレ

マティクス情報を用いて乗員の傷害程度を予測する

モデルの構築、同モデルを交通事故に適用したとき

のオーバートリアージとアンダートリアージの最適

化方法及びその検証方法、AACNによる救命率向

上の効果とその検証、等々について検討してきまし

た。

クターヘリ基地病院で実施しています。本稿では、

AACN研究会が2015年3月に千葉県で実施し

たAACN通報訓練とAACN実働訓練について、

その概要を報告します。

AACNが起動するドクターヘリシステム

AACN研究会

AACN概要図

タブレット画面

訓練概要説明

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●2014年度 ドクターヘリ出動実績 (2014年4月1日~2015年3月31日)

〔資料〕日本航空医療学会

 

AACNが起動するドクターヘリシステムでは、

全ての交通事故にドクターヘリが対応するわけでは

ないので、ドクターヘリを要請するための適切な閾

値を設定することが重要となります。また、自転車

や歩行者といった、交通弱者への対応も今後の課題

です。

 

AACNは、交通事故に関する情報伝達を迅速化

し、救助・救急医療を迅速に起動させることが可能

であり、交通事故負傷者の救命と後遺症軽減に寄与

することが期待されます。しかしながら、AACN

の普及はこれからであり、AACN研究会は、一日

も早いAACNが起動するドクターヘリシステムの

全国展開の実現に向けて、今後も活動を継続する予

定です。

 

今回の実働訓練には、北海道を代表して医療法人

渓仁会手稲渓仁会病院、東北地方を代表して福島県

立医科大学附属病院、関東地方を代表して前橋赤十

字病院、近畿地方を代表して公立豊岡病院組合立豊

岡病院から、計4名のドクターヘリ基地病院の先生

が参加されました。

 

今後、今回の千葉県での実働訓練から得られた知

見をもとに、全国のドクターヘリ基地病院と打合せ

を行い、同様の実働訓練を継続します。

AACN実働訓練における時間経過時系列 佐倉救急2 角来水槽1 北総ドクターヘリ14:00 事故発生

14:01

タブレットに事故状況表示

( 消防司令 センター )タブレットに事故状況表示

14:02 出動決心14:03 出動14:04 北総病院を離陸14:06 現着 出動14:08 RP 上空待機14:10 RP 到着14:11 現発14:14 RP 着陸14:15 RP 到着14:23 RP 離陸14:27 北総病院に着陸14:31 ER 到着

 

AACN実働訓練における時間経過をみると、消

防およびドクターヘリ基地病院では、事故発生の1

分後にはAACNから発信された事故情報を受信す

ることができました。ドクターヘリ基地病院は事故

発生の2分後には出動を決心し、ドクターヘリは、

4分後に離陸し、8分後にはランデブーポイント上

空に到着しましたが、着陸して医師が患者に接触し

たのは事故発生から14分後であり、23分後には現場

を離陸し、31分後に患者を病院へ搬入しました。

 

AACNが無い場合、同様の交通事故事案におけ

る時間経過を想定すると、事故から3分で消防覚知

(119番通報)、6分で救急隊患者接触、21分でド

クターヘリ要請、25分でドクターヘリ離陸、27分で

ドクターヘリのランデブーポイント上空到着となる

ことから、AACNがある場合、上空へドクターヘ

リが飛来する時間は従来と比べて19分短縮したこと

になります。

 

しかしながら、ドクターヘリが着陸する際には、

消防支援隊による地上からの安全確保が必要であ

り、着陸および医師の患者接触には、ランデブーポ

イント上空到着からさらに6分を要しました。ドク

④ 

ドクターヘリ医師が事故現場近隣のランデブー

ポイントで診療を開始する。

ターヘリ要請から医師の患者接触までの時間短縮を

考えると、ドクターヘリの迅速で安全な着陸をどう

工夫していくかも重要であることがわかりました。

AACN実働訓練における時間経過

今後の課題

地 域 拠点病院 運航開始日 出動件数

前年度出動件数

現場出動

診療人数(交通事故)

拠点病院以外への搬送人数(%)

北海道道央 医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院 2005年 4月 407 387 250 334(74) 167(50.0)北海道道北 旭川赤十字病院 2009年10月 541 507 338 538(139) 290(53.9)北海道道東 市立釧路総合病院 ・ 釧路孝仁会記念病院 2009年10月 451 380 287 402(50) 204(50.7)北海道道南 市立函館病院 2015年 2月 24 — 13 23(1) 12(52.2)青森県北部 青森県立中央病院 2012年10月 367 312 258 338(60) 112(33.1)青森県東部 八戸市立市民病院 2009年 3月 471 378 349 441(56) 57(12.9)秋田県 秋田赤十字病院 2012年 1月 319 247 172 306(37) 181(59.2)岩手県 岩手医科大学附属病院 2012年 5月 423 373 285 342(80) 164(48.0)山形県 山形県立中央病院 2012年11月 335 262 252 291(58) 158(54.3)福島県 公立大学法人 福島県立医科大学附属病院 2008年 1月 426 392 338 389(99) 254(65.3)新潟県 新潟大学医歯学総合病院 2012年10月 450 350 291 360(69) 272(75.6)茨城県 水戸済生会総合病院 ・ 国立病院機構 水戸医療センター 2010年 7月 667 722 492 600(158) 291(48.5)群馬県 前橋赤十字病院 2009年 2月 881 843 648 760(189) 438(57.6)栃木県 獨協医科大学病院 2010年 1月 751 719 639 730(132) 278(38.1)埼玉県 埼玉医科大学総合医療センター 2007年10月 370 361 331 360(124) 139(38.6)千葉県北部 日本医科大学千葉北総病院 2001年10月 1085 1053 889 1026(331) 508(49.5)千葉県南部 君津中央病院 2009年 1月 557 581 476 529(110) 354(66.9)神奈川県 東海大学医学部付属病院 2002年 7月 253 268 223 251(41) 32(12.7)山梨県 山梨県立中央病院 2012年 4月 420 502 352 403(138) 103(25.6)静岡県東部 順天堂大学医学部附属静岡病院 2004年 3月 891 758 612 907(169) 272(30.0)静岡県西部 聖隷三方原病院 2001年10月 575 533 434 509(134) 320(62.9)長野県東部 長野県厚生農業協同組合連合会 佐久総合病院 2005年 7月 462 442 389 438(80) 195(44.5)長野県西部 信州大学医学部附属病院 2011年10月 483 544 351 462(54) 180(39.0)岐阜県 岐阜大学医学部附属病院 2011年 2月 451 406 213 410(65) 270(65.9)愛知県 愛知医科大学病院 2002年 1月 377 343 257 293(66) 230(78.5)三重県 三重大学医学部附属病院・伊勢赤十字病院 2012年 2月 408 253 287 386(72) 175(45.3)大阪府 国立大学法人 大阪大学医学部附属病院 2008年 1月 142 158 107 133(45) 91(68.4)和歌山県 和歌山県立医科大学附属病院 2003年 1月 367 349 292 362(97) 102(28.2)兵庫県北部 公立豊岡病院組合立豊岡病院 2010年 4月 1570 1422 1106 1192(206) 225(18.9)兵庫県南部 兵庫県立加古川医療センター・製鉄記念広畑病院 2013年11月 486 109 379 456(151) 252(55.3)岡山県 川崎医科大学附属病院 2001年 4月 366 376 273 368(124) 168(45.7)島根県 島根県立中央病院 2011年 6月 737 725 401 696(69) 347(49.9)広島県 広島大学病院・県立広島病院 2013年 5月 438 372 297 391(81) 290(74.2)山口県 山口大学医学部附属病院 2011年 1月 267 226 86 252(26) 126(50.0)徳島県 徳島県立中央病院 2012年10月 414 376 236 409(34) 234(57.2)高知県 高知県・高知市病院企業団立 高知医療センター 2011年 3月 550 524 328 529(58) 145(27.4)福岡県 久留米大学病院 2002年 2月 411 429 311 389(106) 143(36.8)大分県 大分大学医学部附属病院 2012年10月 483 457 327 462(95) 223(48.3)佐賀県 佐賀大学医学部附属病院・佐賀県医療センター好生館 2014年 1月 366 57 273 360(86) 210(58.3)宮崎県 宮崎大学医学部附属病院 2012年 4月 470 458 267 477(109) 137(28.8)長崎県 国立病院機構長崎医療センター 2006年 6月 819 722 484 756(135) 492(65.1)熊本県 熊本赤十字病院 2012年 1月 627 546 482 613(115) 363(59.2)鹿児島県 鹿児島市立病院 2011年12月 836 835 503 712(136) 452(63.5)沖縄県 浦添総合病院 2008年12月 449 458 71 422(22) 276(65.4)

合  計 22,643 20,515 15,649 20,807(4,281) 9,932(47.7)

訓練の様子

12 11

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テーマ:ドクターヘリの安全運航をめぐる諸問題 ドクターヘリの配備は今や37道府県となり、全国の4分の3を超えました。配備数にすれば45機。年間2万件以上の出動をしています。 こうなると、私たちの最も留意すべきは飛行の安全にほかなりません。いうまでもなく、ドクターヘリは人命救護が目的です。万が一にも逆の結果に終わってはなりません。それには如何なる配慮と方策が必要でしょうか。 ここに多数の知見を集めて、安全確保のための検証と討議をおこない、将来に備えることとします。 日時等は以下のとおりですが、詳しくはホームページをご覧ください。

   開催日時:2015年7月29日(水) 13:00~17:30   開催場所:全国町村議員会館内 2階会議室

HEM-Net安全シンポジウムのお知らせ

兵庫県ドクターヘリ安全研修会

14 13

 HEM-Netの活動支援のため、日本経団連の関連組織として設立されたドクターヘリ普及促進懇談会の第5回会合が3月24日開催され、会長の張富士夫トヨタ自動車名誉会長を始め9名の会員が出席されました。 また各社のスタッフ20名がオブザーバーとして出席しました。 先ず、張会長から、各社の日頃の協力への御礼と設立から丸5年を経過した本懇談会は今回で最終回とする旨

の説明があった後、新会員の相亰重信SMBC日興証券会長のご紹介がありました。 続いて、國松孝次 HEM -Net会長から、これ迄のご支援に対する御礼と篠田伸夫理事長から、HEM-Net活動状況等の報告がありました。 更に、南多摩病院の益子邦洋院長から、「ドクターヘリの医学的効果と将来展望」と題する特別講演が行われ、その後に活発な質疑応答がなされました。 最後に、張会長から「今後も有志メンバーによりドクターヘリをバックアップしていきたい」との提案がなされ、会員の皆様から拍手による賛同が得られました。

 3月20日(金)15時から、公立豊岡病院講堂において、ドクターヘリ安全研修会が開催されました。 まず、関西大学社会安全学部・社会安全研究科 中村隆宏教授による「新しい視点からのヒューマンエラー対応」と題する基調講演が行われ、ヒューマンエラーに対する参加者の共通認識を深めることができたと好評を得ました。また、その後、「早期医療介入とランデブーポイント

選定の現状」をテーマにパネルディスカッションが行われ、豊岡病院の医師、運航会社であるヒラタ学園のパイロット、3消防本部からランデブーポイント新設の取組や具体的な事例を通しての選定の状況と課題等が発表され、活発に意見が交わされました。同病院では、2012年以来毎年安全研修会が開催されており、今回で4回目となりました。

第5回ドクターヘリ普及促進懇談会の開催

ドクターヘリの運用基準明示を全国知事会 防災相に提言 泉田裕彦知事は20日、大規模災害時に全国から集まるドクターヘリが被災地で円滑に活動できるようにするため、指揮命令系統などの運用基準を国の防災基本計画で明示するよう求める全国知事会の提言を、山谷えり子防災担当相に提出した。 山谷氏は「被災地で機動的に動ける体制を、できる限り速やかに考えていきたい」と述べた。 知事会によると、東日本大震災では全国から18機のドクターヘリが出動したが、指揮命令の統制が乱れ、待機を余儀なくされるケースもあった。 提言では、発生が懸念される南海トラフ巨大地震や首都直下地震に備え、統一的な運用基準を示す必要があるとしている。 泉田知事は「受け入れ側が十分にドクターヘリを活用できるようにしてもらいたい」と訴えた。

新潟日報(2015年5月21日)

ドクターヘリ運航を開始 KANSAI・ゆりかもめ 滋賀県栗東市の済生会県病院を拠点にするドクターヘリ「KANSAI・ゆりかもめ」が28日、運航を始めた。救命効果が高いとされる30分以内で県全域へ到着できるようになる。京都府南部も対応範囲となり、府内で運航されるヘリは計3機に増えた。 京都、滋賀、鳥取、徳島などの7府県などでつくる関西広域連合が導入した。滋賀県健康医療課によると、県はこれまで大阪府吹田市の大阪大学附属病院拠点のドクターヘリが担当してきたが、長浜市や米原市の一部で30分以上かかっていた。すでに運航している5機と合わせ7府県全域が30分以内に到着できる範囲になる。昨年度は5機合わせて計2982回出動した。 ゆりかもめは全長13メートルで患者も含め定員6人。時速220キロで飛行でき、除細動器や人工呼吸器などを装備している。各地の消防本部などから要請を受けて、県内182カ所、京都府南部の262カ所にある離着陸場所に医師や看護師を乗せて飛び、初期治療にあたった後、医療機関に運ぶ。 ゆりかもめは午前8時半から日没まで、委託された民間会社が運航。年間事業費は約2億円。出動実績に応じ、7府県で負担する。

朝日新聞(2015年4月29日)

14 13

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HEM-Netへの寄付等は税の優遇措置が認められますHEM-Netは、東京都から、運営組織や事業活動が適正であり、かつ公益の増進に資すると認められた「認定NPO法人」です。HEM-Netは、一層充実した活動を行うため、その活動の趣旨に賛同する方々からの寄付を募り、賛助会員を募集しております。「認定NPO法人」への寄付には、下記のとおり、税法上の優遇措置が認められます。

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HEM-Netは、2010年4月から、ドクターヘリ特別措置法にいう「助成金交付事業」として、「ドクターヘリ支援事業」と呼称する事業を開始し、その事業に充てることを目的に、「ドクターヘリ支援基金」を開設しました。「ドクターヘリ支援基金」への寄付は、法人・団体は一口500,000円、個人は一口3,000円です。現在、行われているドクターヘリ支援事業は、ドクターヘリ運航基地病院における安全研修会開催の助成事業とドクターヘリ搭乗医師・看護師等研修助成事業です。

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15

季刊誌

救急ヘリ病院ネットワーク

2015

年 夏号

発行日/

2015 年7 月

10 日 発行者/認定

NP

O法人 救急ヘリ病院ネットワーク

東京都千代田区一番町

25番 全国町村議員会館内 

TEL

:03-3264-1190  E

-mail: hem

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