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はじめに 乾癬患者血清中のバイオマーカーの候補として,現在 までにC反応性蛋白(c-reactive protein:CRP)などの非 特異的な炎症マーカーやTNF-α,IFN-γ,IL-6,IL-8, IL-12,IL-18などの炎症性サイトカイン 1) がある。しか しながらこれらのマーカーは,疾患活動性の変化を鋭敏 に反映して病勢の進行を客観的に評価し,治療薬の増減 や変更の判断を可能にするものではない。今回,最新の 乾癬のバイオマーカー研究をレビューするとともに,わ れわれが2017年に乾癬の重症度を反映する血清マーカー として報告したロイシンリッチα-2グリコプロテイン (LRG) 2)3) について述べる。 サイトカイン 63本の研究論文からのメタアナリシスによると,乾癬 患者血清中ではTNF-α,IFN-γ,IL-2,IL-6,IL-8,IL- 22,ケマリン,リポカリン-2 ,レジスチン,可溶性E-セ レクチン,フィブリノーゲン,C3が健常人よりも有意 に高値であった 4) 。これらとは対照的に,アディポネク チンは乾癬患者血清中で有意に低値であった 4) 。乾癬患 者血清中のIL-1β,IL-4,IL-10,IL-12,IL-17,IL-21, IL-23,ビスファチン,オメンチンは,健常人と比較して 有意な差は認められなかった 4) 。生物学的製剤を投与さ れた乾癬患者における血清サイトカインの動態において, 皮疹の重症度とDermatology Life Quality Index(DLQI) の両者における改善と関連するものはIL-2のフォールド 変化であり,Psoriasis Area and Severity Index(PASI) 90改善の達成を減少させるものとしては投与後のIL-12, IL-5,GM-CSF,IL-22の減少であった 4) 。さらに血清IL- 17Aが 1pg/mL上昇することにより,PASIが10を超え るリスクが 4 倍となることが明らかになった 5) 。最近, IL-19は乾癬患者血清中において健常人よりも有意に高 値であり,PASIと高い相関を示すことが報告された 6) 血清IL-19はイクセキズマブ投与により速やかに低下し, 投与中止に伴い上昇を示したことから,乾癬治療のバイ オマーカーとして有望であることが示唆されている 6) IL-19は骨髄系細胞と表皮細胞から産生され,表皮細胞に おけるIL-19の遺伝子発現はIL-17,TNF-α,IL-4,IL-13に より増加することから,乾癬のみではなくアトピー性皮 膚炎においてもIL-19が病態に関与していると考えられ 6) S100蛋白質 S100蛋白質ファミリーでは,S100A7,S100A8, S100A9 およびS100A12のすべての遺伝子発現が乾癬病 変部において上昇していたが,血清S100A8 /A9 とPASI の有意な相関は認められなかった 7) 。これに対して血清 S100A7 とS100A12は,PASIと高い相関性を示し,その うちS100A12が乾癬の重症度と治療効果を最も強く反映 乾癬のバイオマーカー研究最前線 高知大学医学部皮膚科学講座 中島 英貴  Hideki Nakajima (講師) ◦ ABSTRACT ◦ 乾癬のバイオマーカーとして日常臨床でCRPが使用されているが,疾患活動性を正確に反映せず治療薬の有効性 を判断する根拠にはならない。ロイシンリッチα-2グリコプロテイン(LRG)は主に肝臓から産生されるが,IL-6, TNF-α,IL-22などの炎症性サイトカインによって局所においても発現が誘導される急性期蛋白質である。乾癬に おいてLRGはPASIスコアと強い相関を示し,重症度に従い上昇する。さらに生物学的製剤投与後の血清LRG値は 臨床スコアと連動して推移することから,血清LRGのモニターにより治療薬の増量,変更もしくは投与間隔の延長 の判断と生物学的製剤中止後の再燃予測が可能である。 P harma M edica Vol.38 No.6 2020 57 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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Page 1: SAMPLE · 2020-06-18 · xa t yá ñ B Z ¤wÌ ¦Ú § w© 4q`o|qO pt$ S Q (¢D SFBDUJWFQSPUFJO $31s£rw $s ±Ú § 5/' |*'/ |*- |*- | *- øù|*- øÿsrw ± Q± ħ ï ø £ UK {`T

はじめに 乾癬患者血清中のバイオマーカーの候補として,現在までにC反応性蛋白(c-reactive protein:CRP)などの非特異的な炎症マーカーやTNF-α,IFN-γ,IL- 6,IL- 8,IL-12,IL-18などの炎症性サイトカイン 1 )がある。しかしながらこれらのマーカーは,疾患活動性の変化を鋭敏に反映して病勢の進行を客観的に評価し,治療薬の増減や変更の判断を可能にするものではない。今回,最新の乾癬のバイオマーカー研究をレビューするとともに,われわれが2017年に乾癬の重症度を反映する血清マーカーとして報告したロイシンリッチα- 2グリコプロテイン

(LRG)2 )3 )について述べる。

サイトカイン 63本の研究論文からのメタアナリシスによると,乾癬患者血清中ではTNF-α,IFN-γ,IL-2,IL-6,IL-8,IL- 22,ケマリン,リポカリン-2,レジスチン,可溶性E-セレクチン,フィブリノーゲン,C3が健常人よりも有意に高値であった 4 )。これらとは対照的に,アディポネクチンは乾癬患者血清中で有意に低値であった 4 )。乾癬患者血清中のIL-1β,IL-4,IL-10,IL-12,IL-17,IL-21,IL-23,ビスファチン,オメンチンは,健常人と比較して有意な差は認められなかった 4 )。生物学的製剤を投与された乾癬患者における血清サイトカインの動態において,

皮疹の重症度とDermatology Life Quality Index(DLQI)の両者における改善と関連するものはIL-2のフォールド変化であり,Psoriasis Area and Severity Index(PASI)90改善の達成を減少させるものとしては投与後のIL-12,IL-5,GM-CSF,IL-22の減少であった 4 )。さらに血清IL-17Aが 1 pg/mL上昇することにより,PASIが10を超えるリスクが 4 倍となることが明らかになった 5 )。最近,IL-19は乾癬患者血清中において健常人よりも有意に高値であり,PASIと高い相関を示すことが報告された 6 )。血清IL-19はイクセキズマブ投与により速やかに低下し,投与中止に伴い上昇を示したことから,乾癬治療のバイオマーカーとして有望であることが示唆されている 6 )。IL-19は骨髄系細胞と表皮細胞から産生され,表皮細胞におけるIL-19の遺伝子発現はIL-17,TNF-α,IL-4,IL-13により増加することから,乾癬のみではなくアトピー性皮膚炎においてもIL-19が病態に関与していると考えられる 6 )。

S100蛋白質 S100蛋白質ファミリーでは,S100A7,S100A8,S100A9およびS100A12のすべての遺伝子発現が乾癬病変部において上昇していたが,血清S100A8/A9とPASI の有意な相関は認められなかった 7 )。これに対して血清S100A7とS100A12は,PASIと高い相関性を示し,そのうちS100A12が乾癬の重症度と治療効果を最も強く反映

乾癬のバイオマーカー研究最前線

高知大学医学部皮膚科学講座

中島 英貴 Hideki Nakajima(講師)

◦ ABSTRACT ◦

 乾癬のバイオマーカーとして日常臨床でCRPが使用されているが,疾患活動性を正確に反映せず治療薬の有効性を判断する根拠にはならない。ロイシンリッチα-2グリコプロテイン(LRG)は主に肝臓から産生されるが,IL-6,TNF-α,IL-22などの炎症性サイトカインによって局所においても発現が誘導される急性期蛋白質である。乾癬においてLRGはPASIスコアと強い相関を示し,重症度に従い上昇する。さらに生物学的製剤投与後の血清LRG値は臨床スコアと連動して推移することから,血清LRGのモニターにより治療薬の増量,変更もしくは投与間隔の延長の判断と生物学的製剤中止後の再燃予測が可能である。

Pharma Medica Vol.38 No.6 2020  57

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