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PDCAサイクルという「鉄の檻」 古川 雄嗣 北海道教育大学旭川校

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Page 1: PDCAサイクルという「鉄の檻」...PDCAサイクルとは • Plan-Do-Check-Action(Act)の4段階をサイクル状に回転させ続け るマネジメントシステム。

PDCAサイクルという「鉄の檻」

古川 雄嗣北海道教育大学旭川校

Page 2: PDCAサイクルという「鉄の檻」...PDCAサイクルとは • Plan-Do-Check-Action(Act)の4段階をサイクル状に回転させ続け るマネジメントシステム。

PDCAサイクルとは

• Plan-Do-Check-Action(Act)の4段階をサイクル状に回転させ続けるマネジメントシステム。

Page 3: PDCAサイクルという「鉄の檻」...PDCAサイクルとは • Plan-Do-Check-Action(Act)の4段階をサイクル状に回転させ続け るマネジメントシステム。

•  「PDCAサイクルとは、目標・計画を立て(Plan)、実行し(Do)、結果を点検・評価し(Check)、改善・見直しを行う(Action)といったプロセスを意味しています」(大学基準協会 2009b、3頁)

 →A(改善・見直し)は、「目標」と「計画」の両方に向けられる。

                              

 (出所)大学基準協会(2009a)18頁。

→A(改善・見直し)は、「計画」だけに向けられる(「目標」そのものの見直し・改善はできない)。

「PDCAサイクルは、軌道修正を繰り返しながら到達目標を達成するところに特質があり、……」(大学基準協会 2009a、18頁)

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PDCAサイクルでは目標は外部から与えられる。〔……〕マネジメントサイクルに組み込まれるとき、目標は上からミッションとして課される。改革はつねに上から提起され、教師と学校はその忠実かつ効率的な実践者となることを求められる。〔……〕PDCAのサイクルは次のような要素で構成されている。

1 学校や教師が実現すべき目標(mission)については上から伝達されて勝手な改変は許されず、

2 その目標の達成に向けて日常的に自己の活動を計画(plan)し(させられ)、

3 その目標の達成を絶対目標として実践(do)することを求められ、

4 その結果については計画に照らして評価(check)を求められ、

5 その目標が達成できない場合、自己責任として常に反省(check)を強要され、

6 当初の計画目標を実現する新たな改善(action)を絶えず求められる。

すなわち、P(計画)、D(実践)、C(反省、評価)、A(改善)というサイクルを通して、いかにその目標を達成するかという視点から実践が点検、見直しされ、次の実践に向けての「改善」策が探究される。したがってそれは工場の生産目標の達成にたいする「改善運動」の如くに、提示された目標にたいする忠誠のみが求められることとなる。

教育現場からのPDCAサイクル批判(佐貫 2012,136-137頁)

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到達目標(Mission)

計画(Plan)

(出所)大学基準協会(2009a)18頁。

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         (出所)大学基準協会(2009b)4頁。

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• 決定的な問題は、PDCAのPは、「目標と計画」の両方を指すのか、それとも「計画」だけを指すのか。

  →それによって、PDCAサイクルが持つ意味はまったく異なったものになる。

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P

D

C

A

P’

P”

P’’’ P

D

C

A

P’

P”

P’’’

M

M:Mission

Pが「計画」だけの場合(現行のPDCAサイクル)

Pが「目標と計画」の場合(本来のPDCAサイクル)

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• 本来のPDCAサイクルは、自己支配に基づく自己管理型のマネジメントシステム(cf. シリーズ「大学評価を考える」第4巻編集委員会編 2011)。

• 現行のPDCAサイクルは、それとは正反対の徹底的なトップダウン型のマネジメントシステム。支配のツールとして、PDCAという言葉だけが用いられている。

• ここに、運営費交付金の問題が絡むことによって、PDCAサイクルは「大学改革」推進のための、いわば切り札的なツールとなっている。

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中央教育審議会会長・北山禎介氏の発言

• PDCAサイクルは「目指すべきゴールと現実の間をつなぐプロセス」(北山 2014,13頁)。

• したがって、「大学改革の成否は、改革サイクル(PDCA)をいかに有効に機能させることができるかにかかっています」(同上、10頁)。

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参考文献①(本報告で言及したもの)

•  北山禎介(2014)「『まったなし』の大学改革―PDCAサイクルを回すために」『文部科学教育通信』第331号、ジアース教育新社。

•  佐貫浩(2012)『危機のなかの教育―新自由主義をこえる』新日本出版社

•  シリーズ「大学評価を考える」第4巻編集委員会編(2011)『PDCAサイクル、3つの誤読―サイクル過程でないコミュニケーション過程による評価活動の提案に向けて』晃洋書房。

•  大学基準協会(2009a)『「大学評価」ハンドブック 2009(平成21)年度評価者用・2010(平成22)年度申請大学用』http://www.juaa.or.jp/images/accreditation/pdf/handbook/university/2009/handbook_all.pdf

•  大学基準協会(2009b)『新大学評価システム ガイドブック―平成23年度以降の大学評価システムの概要』http://www.juaa.or.jp/images/accreditation/pdf/explanation/university/2009_10/documents_01.pdf

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参考文献②(本報告に関連するもの)

•  古川雄嗣(2017a)「PDCAサイクルは「合理的」であるか」、藤本夕衣・古川雄嗣・渡邉浩一編『反「大学改革」論―若手からの問題提起』ナカニシヤ出版、第1章。

•  古川雄嗣(2017b)「「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察(1)―導入過程の整理・検討」『北海道教育大学紀要(教育科学編)』第67巻第2号。

•  古川雄嗣(2017c)「「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察(2)(続)―三つの批判類型とその本質」『北海道教育大学紀要(教育科学編)』第68巻第1号。

•  古川雄嗣(2018)「PDCAサイクルと偶然性の問題」『IDE 現代の高等教育』第603号。

•  古川雄嗣(2019)「「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察(3)(完)―偶然性を生かすマネジメントサイクルの構築に向けて」『北海道教育大学紀要(教育科学編)』第69巻第2号。