日本の財政の現状と課題 - kobe...
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日本の財政の現状と課題
日本経済研究センター・神戸大学大学院共催特別連続セミナー「日本経済/アジア経済の論点」第3回
平成27(2015)年4月25日(土)
公益社団法人 日本経済研究センター
副主任研究員 松岡秀明2015 2020s
2
今日の話題
1.日本の財政事情2.日本の財政破綻の可能性3.消費税の上げ方について
3
1.日本の財政事情
4
日本の財政事情
5
グロスでもネットでも先進国で最悪の水準
� 【総債務】 � 【純債務】
日本の財政事情
6
我が国政府の金融資産には、①将来の社会保障給付(年金、医療等)に充てられる社会保障基金の資産や、②政策上保有が必要な資産(為替政策上必要な外貨証券や、NTTやJT等の政府に保有義務のある株式等)も含まれており、売却して総債務の圧縮を図ることが困難であることに留意する必要がある。
日本の財政事情
7
財政赤字の影響
【政府の歳出と歳入】
日本の財政事情
(資料)財務省
8
2013年 中福祉低負担
【政府の歳出と歳入】
日本の財政事情
(資料)IMFより作成。
9
【政府の歳出と歳入】
2050年 高福祉中負担or高福祉高負担日本の財政事情
(資料)IMFより作成。
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(兆円)
国の一般会計における歳出歳入
(資料)財務省
日本の財政事情
バブル崩壊後、税収が低迷、ただし歳出は増加。税収の低迷には低成長とデフレの影響がある。
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(資料)財務省
公債残高の増加要因①日本の財政事情
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公債残高の増加要因②
(資料)財務省
日本の財政事情
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社会保障と国民負担率
(資料)財務省
日本の財政事情
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社会保障給付
社会保障給付と社会保険料収入
(資料)財務省
日本の財政事情
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高齢化する団塊の世代①
(資料)財務省
日本の財政事情
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(資料)財務省
日本の財政事情 高齢化する団塊の世代②
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(資料)財務省
日本の財政事情 高齢化する団塊の世代③
18
●小泉内閣時の骨太の方針2006に盛り込まれた歳出・歳入改革
のポイント・・・2011年度に国と地方の基礎的財政収支を黒字化。
●2008年リーマンショックによる改革の頓挫、麻生内閣時の骨太の方針2009で先送り(今後10年以内に国・地方のプライマリー・バランス(PB)黒字化を目指す。)
●安倍内閣時の骨太の方針2013(経済財政運営と改革の基本方針)では国・地方のプライマリー・バランスを2020年度までに黒字化を目指す。
先送りの繰り返し①日本の財政事情
19
● 2014年11月18日、安倍晋三首相は2015年10月に予定されていた消費税の税率10%への引き上げを1年半先送りした。その後の12月1日、米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、日本の長期国債の格付けを「Aa3」から「A1」へ1段階引き下げた。理由は、財政目標の達成と債務抑制に関する不確実性の高まり。ただし、長期金利の上昇など財政リスクプレミアムの上昇は見られなかった。
● 20年度のPB黒字目標は堅持(夏までに達成に向けた具体的な計画を打ち出す予定。)ただし、現実的には再び先送りの可能性大。今回も先送りでも大丈夫なのか?
先送りの繰り返し②Introduction
20
プライマリーバランスとは
(資料)財務省
プライマリー・バランス(PB)とは、その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収等でどれだけ賄えているかを示す指標。我が国の現状は、政策的経費が税収等を上回り、PBは赤字となっている。
PBが均衡したとしても利払費分だけ債務残高の実額は増加する。
日本の財政事情
21
債務残高GDP比①
(資料)財務省
PBが均衡したとしても利払費分だけ債務残高の実額は増加する。
よって、債務残高対GDP比全体の変動は、「金利」と「経済成長率」の水準で左右される。
債務残高/GDP=プライマリーバランス/GDP+利払い/GDP+1期前の債務残高/GDP
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日本の財政事情
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gt は成長率。
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債務残高GDP比②
前頁より、��
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PBが均衡したとしても利払費分だけ債務残高の実額は増加する。
PBが均衡したとしても利払費分だけ債務残高の実額は増加する。
債務残高対GDP比全体の変動は、「金利」と「経済成長率」の水準で左右される。
PBが均衡している状態では、
・金利 > 成長率⇒ 債務残高対GDP比は増加
・金利= 成長率⇒ 債務残高対GDP比は一定
・金利< 成長率⇒ 債務残高対GDP比は減少
日本の財政事情
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マクロ経済に関する異なる2つのシナリオ
(1)経済再生ケース
日本経済再生に向けた、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略(「日本再興戦略」1)の「三本の矢」の効果が着実に発現。中長期的に経済成長率は実質2%以上、名目3%以上となる。消費者物価上昇率(消費税率引上げの影響を除く)は、中長期的に2%近傍で安定的に推移。
(2)ベースラインケース
経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたって推移。この場合には、中長期的に経済成長率は実質1%弱、名目1%半ば程度となる。
中長期の経済財政に関する試算(内閣府)日本の財政事情
24
●財政計画において成長率の「目標」と「前提」の混同。
中長期の経済財政に関する試算(内閣府)日本の財政事情
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●消費者物価指数上昇率2%で推移する経済再生ケース。
ベースラインでは1%強。
中長期の経済財政に関する試算(内閣府)日本の財政事情
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●消費税10%では政府債務残高安定化せず(ベースライン)。
経済再生ケースでは債務残高(対GDP比率)が低下する。
中長期の経済財政に関する試算(内閣府)日本の財政事情
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なぜ債務残高(対GDP比率)が低下するのか?日本の財政事情
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1995 1998 2001 2004 2007 2010 2013 2016 2019 2022
名目長期金利
名目GDP成長率
(%)
(資料)内閣府 (年度)
予測
図 経済再生ケースの成長率と金利
成長率>金利 を前提。
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2.日本の財政破綻の可能性
29
莫大な政府債務と低位安定する長期金利
「財政バランス確保の必要性は一般論としては認識されていますが、長年、財政状況が悪いにもかかわらず、国債は円滑に消化され、長期国債の金利も低位で安定的に推移しているため、財政悪化に伴う危険に警鐘を鳴らす議論は、時として「狼少年」のような扱いを受けることもあります。」
・・白川方明(2011)「通貨、国債、中央銀行 ―信認の相互依存性―」(日本金融学会2011年度春季大会における特別講演資料より)
イソップ童話の「狼少年(羊飼いと狼-The Boy Who Cried Wolf)」・・・羊飼いの少年が、狼が来てもいないのに「狼が来たぞ~」と叫んで大人たちを脅かして面白がっていたが、ある日、本当に狼がやって来る。少年は「狼が来た」と必死で叫ぶが、大人たちは来てくれず、羊が食べられてしまう。
日本の財政破綻の可能性
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増加する政府債務と低下する長期金利
【政府債務と長期金利(日本)】
日本の財政破綻の可能性
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1997:4 2000:4 2003:4 2006:4 2009:4 2012:4
地方債 国債・財融債 国庫短期証券
(GDP比、%)
(資料)日本銀行 (四半期)
<政府債務の推移>
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2000/1/4 2006/1/4 2012/1/4
(%)
(資料)日本経済新聞 (日次)
<10年物国債利回り>
「量的・質的金融緩和」の導入
2015/04/21
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異常値扱いの日本
【政府債務と長期金利-OECD】
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Japan Greece Other countries
Long-term interest rate, %
General government gross financial liabilities, % of GDP
Note:General government gross financial liabilities are 2-year-ahead projections calculated by OECD.Other countries include 24 countries.
Source:OECD"Economic Outlook"
日本の財政破綻の可能性
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金利ボーナスの終了
【政府債務と利払い】
日本の財政破綻の可能性
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�日本は世界一の政府債務を抱えているにもかかわらず、長期金利は低位安定を持続している。日本の財政状況を考えると今後も大量の国債発行が続くと予想されるが、現在のように財政再建の先送りを行っても国債価格の安定が保たれる状況はいつまで続くのであろうか。
�長期金利の決定要因(低成長、低インフレand低リスクプレミアム)
�財政再建を先送りしても将来もリスクプレミアムは低いままか?
財政危機という“オオカミ”はいつ来るのか?日本の財政破綻の可能性
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国内民間金融資産で支える政府債務
【主要部門の資産と負債 2014年9月末】
日本の財政破綻の可能性
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預貸率低下も銀行国債保有の一因【預貸率】
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2000/01 2001/01 2002/01 2003/01 2004/01 2005/01 2006/01 2007/01 2008/01 2009/01 2010/01 2011/01 2012/01 2013/01 2014/01 2015/01
貸出・預金動向 総貸出平残 銀行計
貸出・預金動向 実質預金+CD 平残 3業態計
預貸率(右目盛)
(兆円) (%)
(月次)(資料)日本銀行『貸出・預金動向』
日本の財政破綻の可能性
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日本銀行の国債の保有が著しく増加
� 【長期国債の保有内訳(金融機関等)】
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1998:4 2002:4 2006:4 2010:4 2014:4
預金取扱機関
(銀行等)
保険・年金基金
日本銀行
(兆円)
(四半期/暦年)
「量的・質的金融緩和」の導入
(注)2014年第4四半期のみ営業毎旬報告(資料)日本銀行「資金循環統計」、「営業毎旬報告」
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2007:4 2009:4 2011:4 2013:4その他保険・年金基金日本銀行預金取扱機関(銀行等)一般政府の負債
(%、前年同期比)
(四半期/暦年)
<一般政府の長期国債の債務残高(寄与度分解)><長期国債の保有内訳(金融機関)>
日本の財政破綻の可能性
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財政リスクプレミアムが顕在化しない背景
家計の金融資産と企業部門の現金・預金を合わせた民間部門の金融資産は、2014年9月末で約1800兆円に達しており、これらが金融機関を通じて間接的に日本の政府の債務を支えている。もっとも、金融機関は、家計や企業から預かっている金融資産を企業の設備投資の資金や家計の住宅ローン向けにも貸し出しているため、すべて国債に振り分けているわけではない。しかしながら、民間金融資産が一般政府の負債を大きく上回っていることは、国内で政府債務をファイナンス出来る潜在力を示唆している。この結果、日本の国債は約95%が日本の国民によって保有されており、海外投資家に依存せざるを得なかったギリシャとは大きく異なっている。
日本の財政破綻の可能性
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今はギリシャとは違うが・・・(続く)
【外国人の国債保有率】
(資料)Andritzky, Jochen R.(2012)“Government Bonds and Their Investors: What Are the Facts and Do They Matter? ,” IMF Working Paper , No. 12/158.
日本の財政破綻の可能性
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【一般政府の負債総額と民間部門金融資産】
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19931997200120052009
国内余剰資金
国内民間金融資産
一般政府の総負債
(GDP比、%)
(年)
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1995 2001 2007 2013
(GDP比、%)
(年)
<ギリシャ>
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1995 2001 2007
(GDP比、%)
(年)
<スペイン>
2012
<日本>
(資料)OECD
2013-50
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1995 2001 2007 2013
(GDP比、%)
(年)
<ポルトガル>
今はギリシャとは違うが・・・日本の財政破綻の可能性
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減りつつある国内資金余剰
【一般政府の負債総額と民間部門金融資産】
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国内資金余剰民間部門金融資産家計の金融資産一般政府の負債総額
(%、GDP比)
(四半期/暦年)
(注)民間部門金融資産=家計の金融資産-家計の保有する株式出資金+非金融法人の現金・預金。
国内資金余剰=民間部門金融資産-一般政府の負債総額。(資料)日本銀行『資金循環統計』
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1997:4 2001:4 2005:4 2009:4 2013:4
国内資金余剰
民間部門金融資産(家計の負債除く)
一般政府の負債総額
家計の純金融資産(負債除く)
(%、GDP比)
(四半期/暦年)
<家計金融純資産の場合><家計金融資産の場合>
日本の財政破綻の可能性
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少子高齢化により貯蓄率は低下� 【総貯蓄のGDP比の見通し:Hoshi&Ito(2014)による】
(注)年齢ごとの貯蓄率と各世代の人口動態から予測。
(資料)Hoshi ,T. and Ito,T.,(2014)“Defying gravity: can Japanese sovereign debt continue to increase without a crisis?,”Economic Policy,Volume 29, Issue 77, pp. 5–44.
日本の財政破綻の可能性
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政府債務が民間金融資産を上回るのは時間の問題
【政府債務と国内民間金融資産のシミュレーション:Hoshi&Ito(2014)による】
(資料)Hoshi ,T. and Ito,T.,(2014)“Defying gravity: can Japanese sovereign debt continue to increase without a crisis?,”Economic Policy, Volume 29, Issue 77, pp. 5–44.
伊藤隆敏(政策研究院大学大学院教授)(2014年9月25日)「何もしなければ20-23年ごろにギリシャのような財政危機に見舞われ、国債利回りは急騰する」(Bloomberg)
<シミュレーションの前提>
●2030年まで平均で実質1%成長
●消費税率15年10月に10%に引き上げ
(ケース1)金利1.3%
(ケース2)政府債務(GDP比)1%ポイント上昇により金利が0.02%ポイント上昇
(ケース3)政府債務(GDP比)1%ポイント上昇により金利が0.035%ポイント上昇
2030年
(ケース1)
2025年
(ケース2)2023年
(ケース3)
日本の財政破綻の可能性
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長期国債を海外で引き受けてもらうには?
【国債保有者シェア(14年9月)】
56.8
9
22.9
8.5
1.9 1.4
金融仲介機関 一般政府
中央銀行 海外
家計 その他
(資料)日本銀行『資金循環統計』
<国債保有者シェア(14年9月)>
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海外 国庫短期証券
海外 国債・財融債
<海外保有比率>
ホームバイアスがない海外投資家は政府債務の規模に応じた高い財政リスクプレミアムを要求し、金利が上昇する可能性。
日本の財政破綻の可能性
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対外依存度が大きいほど金利が高い
【ユーロ圏における累積経常収支と国債スプレッド】
(資料)Gros,Daniel(2013)”Foreign debt versus domestic debt in the euro area” Oxford Review of Economic Policy, 29(3),pp.502-517.
Introduction
Literature Review
45
Literature Review
→対外依存度が大きいほどリスクプレミアムが大きいのはなぜか?
①海外投資家はデフォルトによって損失を被ることに対するリスクプレミアム要求。
②一方、国内の銀行が国債を大量に保有する場合は、国内経済への損害が大きいため、政府が財政再建を行いデフォルトを避けようとすると信用しているため、リスクプレミアムが小さい。②が可能な状態は国内の金融資産が豊富な場合。
①と②のバランスでリスクプレミアムが決定されると想定。
対外依存度が大きいほど金利が高い
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政府債務が金利に与える影響(先行研究)Literature Review
ユーロ圏、米国に限ったデータの方が係数が大きい傾向、日本を含むパネルデータだと係数が小さい。
47
財政リスクプレミアムの計測(26カ国のパネルデータ推計)
☆1995年から2013年までの26カ国のパネルデータを用いて政府総債務(GDP比)が長期金利に与える影響を試算。
☆Threshold Regressionにより
政府債務(Debt)と切片にかかるパラメーターが民間金融資産と一般政府総債務の差(国内資金余剰のGDP比:λ )によって変わる閾値γ
(threshold)も同時に推計。
☆一般政府の負債総額と民間部門金融資産の差がどの程度になれば金利が上昇しやすいのかを把握する。
Dynamic Panel Threshold
48
財政リスクプレミアムの計測(26カ国のパネルデータ推計)
☆予想される推計結果:民間金融資産が一般政府の負債を大きく上回っている国(日本など)ほど財政リスクプレミアムが小さく(β2)、一方、一般政府の負債に比べ民間金融資産が少ない国(ギリシャなど)は大きい(β1) 。
L*it ・・・長期金利
L*it-1 ・・・長期金利の1期ラグ(Persistenceを考慮)
Debt*it ・・・政府債務の予測(GDP比)・・・OECD予測
I ・・・ インディケーター関数(0 or 1)δ ・・・ 切片(傾きだけではなく切片にも閾値があると想定)
γ ・・・国内余剰資金(GDP比)=民間部門金融資産(※)-一般政府の負債総額
λ ・・・ Threshold Regression のThreshold Value(閾値)
z*it ・・・ 他のコントロール変数(インフレ予測、成長率予測、短期金利)
*・・・ 固定効果を取り除くためのForward orthogonal deviations (FOD) 変換
� 【推計式】
Dynamic Panel Threshold
(※)民間部門金融資産=家計の金融資産-家計の保有する株式出資金+非金融法人の現金・預金。
49
Threshold Regressionとは?Dynamic Panel
Threshold
ステップ1.
・分割されたサンプル群で異なる係数を推計し、どの時点でサンプルが分割されるのかを合わせて統計的に決定する(推計した式の中で残差平方和を最小化するλ-threshold value を探る)
・ L*it-1 ・・・長期金利の1期ラグの操作変数としてラグ変数と他の
外生変数を用い、2段階最小2乗法(2SLS)を用いる。
ステップ2.
・ステップ1で得られたthreshold valueを用いて、2SLS推計を行う。
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財政リスクプレミアムの計測(26カ国のパネルデータ推計)
Dynamic Panel Threshold
1つ目のthreshold valueより小さいサンプルを除いて、もう一度、threshold regressionを行い、2つ目のthreshold valueがないかどうかを調べる。
ステップ3.
ステップ4.
ステップ1とステップ3で得られた2つのthreshold valuesを用いて2SLSを行う。 推計式は、以下のとおり。
51
Data・・・説明変数に予測値を用いるDynamic Panel
Threshold
52
DataDynamic Panel
Threshold
� 景気後退期では、政府債務/GDP比がGDP成長率低下、税収減、政府支出増加で、財政赤字が拡大、政府債務が増加する。一方、金利も、中央銀行の低金利政策により長期金利も低下する。これは見せかけの政府債務と金利の相関が生じる。そのため、こうした内生性を考慮し、OECDの政府債務(GDP比)の2年先予測を用いる。 他の説明変数であるインフレ率、成長率も予測値を用いる。
� サンプル期間は1995年から2013年の26カ国。
53
Sample PropertiesDynamic Panel
Threshold
54
Likelihood Ratio in Threshold RegressionResult
残差平方和を最小にする国内余剰(1つ目のthreshold value)は38.61%(GDP比)。2つ目のthreshold valueは113.75%(GDP比)。
55
Estimation Result 1Result
56
Result Estimation Result 2
57
Threshold valueが1つの場合
�Threshold regressionとの比較のためにLinear Panelでも推計。Table1 によると政府債務のGDP比が1%上昇した時に長期金利に与えるインパクトは以下のとおり。
1.Linear panelの場合、政府債務のGDP比が1%上昇した時に長期金利は2.8 basis point上昇。
2.国内資金余剰が38.61%(GDP比)より大きい場合に長期金利が2.2basis point上昇。
3.国内資金余剰が38.61%(GDP比)より小さい場合に長期金利が9.0basis point上昇。
Result
58
�Table3によると政府債務のGDP比が1%上昇した時に長期金利に与えるインパクトは以下のとおり。
�国内資金余剰が113.75%(GDP比)より大きい場合に金利が0.8basis point上昇する。
�国内資金余剰が38.61%(GDP比)より大きく、 113.75%(GDP比)より小さい場合に金利が4.5basis point上昇する。
�国内資金余剰が38.61%(GDP比)より小さい場合に金利が9.9basis point上昇する。
Result Threshold valueが2つの場合
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実績と推計値Result
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政府債務が長期金利に与える影響Result
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対外債務と対内債務の違いが金利や財政政策に及ぼす影響
�次ページ図は各国ごとのサンプルをthreshold valueで分けた場合のシェア。黒色が国内資金余剰(GDP比)が38.61%より小さい場合、灰色が38.61%より大きく113.75%より小さい場合、白色が113.75%より大きい場合。
�ユーロ圏は黒色or灰色が多いため、金利が上昇しやすい。
�一方、ドル、ユーロ以外の通貨(円、ポンド、スイスフラン、ウォン、アイスランド・クローナー)を持っている国々ではリスクプレミアムが小さい。これらの国では、国内の自国通貨で政府債務を支えている。
Result
�政府債務と国民負担率の関係を国内余剰資金が少ない国と多い国で分けてみると後者には正の相関が見られるが、後者には相関が見られない。対外的な金利上昇圧力が財政改革を促す傾向。日本の国民負担率はこの20年ほとんど変化せず。
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国内余剰資金の各国別のシェアImplication
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財政改革に対する外からのプレッシャー
【政府債務と国民負担率(税・社会保険料収入)】
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Greece HungaryPoland Slovak RepublicFinland Italy
(Government Revenue to GDP ratio,%)
(Government gross debt to GDP ratio)
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Japan IcelandUnited Kingdom KoreaNetherlands Switzerland
(Government Revenue to GDP ratio)
(Government gross debt to GDP ratio)
<国内資金余剰が多い国々><国内資金余剰が少ない国々>
(資料)IMF"World Economic Outlook"October 2014
Implication
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2020年代初頭に金利が上昇するリスクSimulation�過去のペースで国内資金余剰(GDP比)が減り続けた場合(年平均2.2%ポイント)、2021年に113.75%を下回り、財政リスクプレミアムが大きくなる可能性。政府債務GDP比が230%の場合、金利は約6.8%上昇。
【国内資金余剰が減り続けると2021年にThreshold valueを下回る】
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国内余剰資金
国内民間金融資産
一般政府総負債
Threshold value(113.75%)
(名目GDP比)
(年)
シミュレーション
113.75%
(注)①一般政府の総負債は内閣府『中長期の経済財政に関する試算』の国と地方の公債等残高の見通しを参考に作成。
②国内資金余剰は1996年から2012年の変化幅の平均で延長推計した。
(資料)OECD
65
今はギリシャとは違うが将来は・・
�2004年 アテネオリンピック 6年後の2010年 財政危機。
�2020年 東京オリンピック →?
Conclusion
�現在、日銀の金融緩和で政府債務を支える構図も将来のテーパリング(量的緩和縮小)時に終わる。
�国内貯蓄率が低下する中で、国内民間金融資産も伸び悩む懸念。これまでの国内資金余剰の減少ペースだと政府債務を支えるのには限界が出てくる(2020年代)。さらに団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になるため医療給付などの支出が増える可能性。
�国内で政府債務を支えられなくなった場合、海外へ売るという手段もあるが、海外投資家は政府債務の規模に応じた場合、高い財政リスクプレミアムを要求し、金利が上昇する可能性(分析結果より)。
66
3.消費税の上げ方について
67
14年4月に消費税率を5%から8%に引き上げてから1年が経過した。
増税の反動に加え、賃金を上回る物価上昇から個人消費の回復が予想以上に鈍く、その結果として安倍晋三首相は昨年11月に15年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを先送りした。
消費増税の反動減消費税の上げ方に
ついて
68
他方、欧州諸国では付加価値税(日本における消費税に相当)の引き上げが2000年以降も実施されているが、後述するように駆け込み・反動の大きさは日本よりも小さい。
なぜ他国の駆け込み・反動が小さいのか。
消費増税の反動減消費税の上げ方に
ついて
69
-10.0
-8.0
-6.0
-4.0
-2.0
0.0
2.0
4.0
6.0
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
97/04増税時
14/04増税時
消費税増税前後の家計消費動向
(資料)内閣府『消費総合指数』
(前月比、%)
(月次)90
92
94
96
98
100
102
104
106
108
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
97/04増税時
14/04増税時
(1996/2013=100)
(月次)
消費増税の反動減消費税の上げ方に
ついて
70
【2000年以降の欧州各国の付加価値税率の推移】
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
00:1 02:1 04:1 06:1 08:1 10:1 12:1 14:1
ドイツ フランス イタリア
スペイン 英国
(%)
(資料)European Commission “VAT Rates Applied in the Member States of the European Union”
(四半期)
14:3
ドイツ 2007/01/01 16.0 → 19.0 +3.0
2000/04/01 20.6 → 19.6 -1.0
2014/01/01 19.6 → 20.0 +0.4
2011/09/17 20.0 → 21.0 +1.0
2013/10/01 21.0 → 22.0 +1.0
2010/07/01 16.0 → 18.0 +2.0
2012/09/01 18.0 → 21.0 +3.0
2008/12/01 17.5 → 15.0 -2.5
2010/01/01 15.0 → 17.5 +2.5
2011/01/04 17.5 → 20.0 +2.5
変化幅2000年以降の
変更標準税率国
英国
スペイン
イタリア
フランス
欧州は付加価値税を中心に増税消費税の上げ方について
71
【付加価値税増税前後の家計消費動向(日、独、英、西)】
-6.0
-5.0
-4.0
-3.0
-2.0
-1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
-2 -1 0 1 2
独(07/01、+3.0%) 英(10/01、+2.5%) 西(10/07、+2.0%) 日(97/04、+2.0%) 日(14/04、+3.0%)
(注)実質家計最終消費の推移を示している。(資料)Eurostat
(前期比、%)
(四半期)
96
97
98
99
100
101
102
103
-2 -1 0 1 2
(2四半期前=100)
(四半期)
消費増税時の欧州諸国の駆け込み・反動は日本より小さい消費税の上げ方について
72
①欧州諸国では、増税前の駆け込み、その後の反動のいずれも、日本と比較して小さく抑えられている。
②増税の1四半期前を見ると、日本では14年4月の増税に伴う駆け込みが前期比2.2%、反動が-5.2%である。
③一方、比較的明確に駆け込みと反動が確認できるドイツ(2007年1月)で駆け込みが前期比1.7%、反動が-2.1%と日本に比べて変動が小さい。
④水準で見ると、他国は増税前の消費水準に戻るまでの所要時間が短い(概ね半年で元に戻る)一方で、日本は2014年4月の増税から1年以上経っても依然として増税前の水準に戻っていない。
消費増税時の欧州諸国の駆け込み・反動は日本より小さい
消費税の上げ方について
73
駆け込み・反動の大きさの違いは価格転嫁の違い
①日本と欧州各国の税込みの消費者物価指数(CPI、実線)と増税分を除いた税抜き(点線)を示した。
②日本の税抜きCPIの前年比は、日銀推計による「増税分(※)が価格にフル転嫁された場合のCPI押し上げ効果」を除外したものだ。このグラフからは、実際に増税分が価格にどの程度転嫁されたかは正確には分からないが、それでも税抜きの物価が増税前後でどのような動きをしているのかを見れば、転嫁の状況が想像できる。ここでは、税抜きCPIが増税前後で殆ど変化していない。つまり、日本の企業は増税による価格上昇(97年は約1.5%、14年は約2%)の大半部分を消費者に価格転嫁した可能性が高いと言える。
(※)日本銀行の金融経済月報(2014年3月)によれば、消費税率引き上げの直接的な影響を受ける品目(課税ベース)は消費者物価指数(総合、除く生鮮食品)に対するウエートで約7割(3%の場合、約2%)である。
消費税の上げ方について
74
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
14/04(+3.0%)、税込み 同左、税抜き 97/04(+2.0%)、税込み 同左、税抜き
(前年比、%)
(注)消費者物価指数(総合)の推移。(資料)総務省『消費者物価指数』
(月次)
【日本における消費増税前後の物価動向】
日本には政府による価格転嫁対策が存在消費税の上げ方について
75
日本には政府による価格転嫁対策が存在
1997年 公正取引委員会が「消費税率の引上げ及び地方消費税の導入に伴う転嫁・表示に関する独占禁止法及び関係法令の考え方」を作成、周知徹底等の取り組みを行った。
2014年 「転嫁対策特別措置法(消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法)」 が整備され、消費税の転嫁を阻害した企業を実名で公表する等、厳しい対応がとられた。
以上の対策は、1989年消費税導入時に、中小零細の小売業者やサービス業者が消費税を転嫁出来なかったとの指摘があり、本来は最終消費者に帰着するはずの消費税負担を中小企業が一部被ることとなったことが背景にある。
消費税の上げ方について
76
【欧州における付加価値税増税前後の物価動向】
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
税込み 税抜き
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
税込み 税抜き
(前年比、%)
(月次)
【スペイン 10年7月 +2.0%】
(前年比、%)
(月次)
【ドイツ 07年1月 +3.0%】
(注)各国HICP(全品目)の推移。(資料)Eurostat
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
税込み 税抜き
(前年比、%)
(月次)
【英国 10年1月 +2.5%】
消費税の上げ方について
77
欧州では増税分ほど物価が上昇していない
①一方、欧州における付加価値増税直後の物価動向を見てみると、ドイツ・英国ではそれぞれ、3%、2.5%の増税があったにかかわらず、CPI上昇率は僅かに上昇した程度(0.5%ポイント以下)になっている。
②スペインは2%の増税があった一方で、税込みの物価上昇率は若干低下している。これは、企業が増税分を消費者に転嫁せず自ら負担していることを意味する。
③増税の直接的な影響を除くと3ヵ国ともCPI上昇率は1~2%程下落している(点線の税抜き)。
消費税の上げ方について
78
④増税前の物価動向を見てみると、3ヵ国とも共通して上昇傾向にあった。欧州では税率引き上げが決まると、増税前から徐々に価格を改定していく。
特に、売れ筋商品の価格を高く引き上げ、そうでないものは価格を据え置くなど、一律に価格を引き上げるのではなく、全体として売り上げとマージンを確保できるよう増税分を家計に転嫁していく。
すなわち、欧州では、消費税はコストの一部として認識されており、増税時に一気に転嫁するのではなく、転嫁しやすいものから徐々に価格を引き上げていくといった方法がとられている。
消費税の上げ方について
79
●総務省「消費者物価指数」(CPI=Consumer Price Index)
●「日経・東大日次物価指数」
日本の増税前の物価動向消費税の上げ方に
ついて
80
総務省が公表する「消費者物価指数」(CPI)は各品目の毎月の価格変動を捉える目的で作成されおり、特売価格の情報が反映されない。
調査日が特売日の場合は、調査日に最も近い通常の日の価格が調査される。そのため、増税前の駆け込み需要時には各所でセールが行われていたが、CPIには、こうした動きが反映されない。しかし、消費増税など、一時的なイベント時に家計の消費行動に影響を与えるのは、基調的な物価動向ではなく、実際に商品を購入する際に消費者が直面する物価である。
特売が8日以上続く場合は、特売時の価格を調査することとしている。
日本の増税前の物価動向消費税の上げ方に
ついて
81
【増税前後における日経・東大日次物価指数とCPI】
-5.0
-2.5
0.0
2.5
5.0
95/01 00/01 05/01 10/01 15/01-2.0
-1.0
0.0
1.0
2.0
97/01 97/02 97/03 97/04 97/05
日経・東大日次物価指数
(7日間移動平均)
CPI(日経・東大日次物価指数ベース)
(前年比、%)
月
(日次/月次)-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
14/01 14/02 14/03 14/04 14/05
(前年比、%)
(日次/月次)
月
(前年比、%)
(注)データは15年4月3日まで。97年、14年は消費増税の直接的な影響除く。
(資料)総務省『消費者物価指数』、日本経済新聞社『日経・東大日次物価指数』
(日次/月次)
15/04月
日本の増税前の物価動向消費税の上げ方に
ついて
82
97年と14年の消費増税前の駆け込み需要時の日経・東大日次物価指数を見ると、増税1ヵ月前に大きく下落していることが分かる。さらにCPIから日経・東大日次物価指数が採用している品目を取り出して作成した指数と比べてみるとおおよそ1~1.5%ほど低い。つまり我が国の増税前には、CPIでは捉えられない物価下落が駆け込みを煽っていた可能性がある。
日本の増税前の物価動向消費税の上げ方に
ついて
83
着実な財政再建を行うための増税
我が国と比べて欧州諸国の消費増税時の駆け込みと反動が小さいのは、消費増税前から徐々に価格を引き上げ、増税時には企業が増税分を消費者に転嫁せず負担しているためである。つまり、駆け込み期の需要増に応じて価格を引き上げ、反動期の需要減を防ぐため価格を引き下げるなど、需給に応じた価格設定を行っている。
他方で、日本では「転嫁対策特別措置法」など、政府による転嫁対策が存在するため増税時に短期間で一気に価格転嫁を行う。さらに日次物価が示すように、増税前の駆け込み時にセールなどにより価格を引き下げるため、駆け込みと反動が相対的に大きくなる。
消費税の上げ方について
84
インボイスとは?
「インボイス方式」は、課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみを控除することができる方式。日本では課税事業者が仕入税額控除を行えるための要件として、『請求書等保存方式』が採用されている。
欧州ではインボイスがあるため税の転嫁が容易に。
財務省HPより
消費税の上げ方について
85
転嫁対策特別措置法は、中小事業者が、大規模小売業者からの不当な圧力により、増税分を価格に転嫁できないことを防ぐことが主たる目的だが、欧州ではそうした特別法に依らずとも、インボイス方式により、消費税分が明確に切り分けられることで、事業者間の転嫁は確実にできるようになっている。
インボイス方式は、軽減税率を導入する際には、品目毎に異なる税率を正しく認識するためにどのみち不可欠な枠組み。
次回の増税では、インボイス方式を導入すると同時に、転嫁対策特別措置法を撤回してはどうか。
着実な財政再建を行うための増税消費税の上げ方について