naosite: nagasaki university's academic output site16 号外第108号) 長崎大学学報...
TRANSCRIPT
This document is downloaded at: 2017-12-21T21:34:22Z
TitleAmplification of HTLV-1-related Sequences among Patients withNeurological Disorders in Highly Endemic Nagasaki: Lack of Evidence forAssociation of HTLV-1 with Multiple Sclerosis
Author(s) 中山, 大介
Citation (1990-03-31)
Issue Date 1990-03-31
URL http://hdl.handle.net/10069/29347
Right
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
16 号外第108号) 長崎大学学報 平成 2年 7月31日
中山大介(長崎県)昭和35年 7月14日生
授与年月日 平成 2年 3月31日
主論文 Amplification of HTLV -l-related
Sequences among Patients with N eu-
rological Disorders in Highly Endemic
N agasaki: Lack of Evidence for Asso-
ciation of HTL V -1 with Mu1tiple Scle-
rOSlS
論文内容の要旨
緒言
ヒト 、レトロウイルスの一つであるhuman T-
lymphotropic virus typel (HTLV-1)はadultT cell
leukemia (A TL)の原因ウイルスであると共に,
HTLV-lで流行地で多発する脊髄の炎症性疾患, trop-
ical spastic paraparesis/HTL V -1 associated
myelopathy (TSP /HAM)とも密接に関連している。
一方, Koprowskiらは脱髄疾患である多発性硬化症
(MS)患者血清中にHTLV-1と交差反応する抗体が
存在することにもとづき, HTLV-lと近縁のレトロウ
イルスがMSに関与していることを提唱した。しかし
これを否定する報告もある。最近, PCR (polymerase
chain reaction)を用いてReddyら, Greenbergらが独
立にMS患者末梢血単核球(PBMC)からHTLV-1の一
部と相同なDNAを検出し, HTLV-1そのもの或いは
近縁のレトロウイルスがMSに関与していることを示
唆した。しかし疫学的にみるとHTLV-l流行地とMS
多発地は一致せず,またHTLV-l流行地におけるMS
とHTLV-1の関連を論じた報告はない。本研究では
HTLV-1流行地である長崎県から発症してくるMS,
及び類縁の神経疾患とHTLV-1との関連を検討した。
すなわち,対象患者PBMC中にHTLV-1関連DNA配
列が存在するか否かをHTLV-lゲノム上の 6領域を
標的とするPCRを用いて検索した。
材料と方法
皇墾:国立療養所川棚病院を受診した九州、|出身の神経
疾患患者30症例。対照としてATL患者 2例, HTLV-
1キャリア30例および健常者70例。抗HTLV-l抗体検
査:ゼラチン凝集法,間接蛍光抗体法を併用し,一致
しないものはwesternblot法で確認した。 DNA抽出:
末梢血からficoll-conray法でPBMCを分離しpro-
平成 2年 7月31日 長崎大学学報 (号外第108号) 17
teinase K/SDS法で細胞DNAを抽出した。 PCR:細
胞DNA1J1gを鋳型として940C1分(1回目のみ 3分),
600C 2分, 720C2分のサイクルで25回増幅させた。反
応液組成は50mMKCl, 10mM Tris -HCl pH8 _ 3,
1.5mM MgC12, 0.01%ゼラチン, dNTP各200mM,
プライマー各100pmol,Taq DNA po1ymerase 2. 5unit,
計100μ10PCR産物のサザン分析:PCR産物を 2%ア
ガロースゲルで分画しナイロン膜に移し取った後ハイ
ストリンジェントな条件でハイプリダイゼーションを
行った。クローン化HTLV-1プロウイルス由来の
DNA断片を32p標識したものをプロープとした。
結果
(l)PCRプライマーの選択:HTLV-1と部分的なホモ
ロジーを持つ未知のウイルスをも検出できるように
HTLV-1プロウイルスゲノム上の 6領域すなわちU3,
U5,星空豆, po1,旦主および息茎に相当する 6組のプライ
マーを合成した。
(2)PCRの特異性:HTLV-1感染細胞株 (MT-2,TL-
Su)およびATL細胞のDNAを鋳型にすると 6領域全
てについて予想されるサイズのシグナルが検出された。
これに対し非感染細胞株(Jurkat,CEM)のDNAでは
何も検出されなかった。 HTLV-1キャリアは少なくと
もU5,豆笠, po1,Q互の 4領域で全例陽性であった。健
常者の一部がU3領域のみ弱いシグナルを生じたが他
の5領域は全例陰性であった。
(3)PCRの感度:細胞あたり 1コピーのHTLV-1プロ
ウイルスを有するATL細胞のDNAを10倍段階希釈し
たものを鋳型としてPCRの感度を検定した。 env領域
は3ng(103コピー),その他の 5領域は0.3ng(102コピ
ー)が検出可能であった。
(4)神経疾患30症例のPCR解析:症例の内訳はMS8例,
脊髄進行性筋萎縮症 2例, TSP/HAM4例,脊髄小脳
変性症7例,重症筋無力症 (MG)7例,慢性炎症性脱
髄性ポリニューロパチー 1例およびSLE1例。このう
ちPCRでHTLV-l関連DNA配列が検出されたのは
MS1例, TSP/HAM4例およびMG1例の計 6例で
あった。この 6例は抗HTLV-1抗体も陽性であった。
残る24例はPCR,抗HTLV-1抗体共に陰性であった。
考案
TSP/HAM患者では 4例中 4例からHTLV-1関連
DNA配列が検出されたのに対し, MSでは 8例中 1例
に過ぎなかった。TSP/HAMを除いた26例中, PCR陽
性となったのは 2例 (MS1例, MG1例)すなわち約
8%で長崎県における成人のHTLV-1キャリア率と
差がない。陽性となったMS1例およびMG1例は偶発
的なキャリアであったと考えられる。我々のPCRの感
度は他報告に比べて低いが健康HTLV-1キャリアは
全例陽性となる。この系で検出できないような少数の
ウイルス感染細胞が病気を起こすとは考えにくい。ま
た, HTLV-1と部分的なホモロジーを持つ末知のウイ
ルスの存在を示唆するようなシグナノレは得られなかっ
た。我々の結果は, HTLV-1はTSP/HAMとは密接に
関連しているがMSをはじめ今回調べたその他の神経
疾患とは特に関連がない事を示すものと考えられる。
論文審査の結果の要旨
中山大介は昭和61年 3月長崎大学医学部を卒業,同
年 5月医師国家試験に合格し,同年 4月に長崎大学大
学院医学研究科に入学した。大学院では病理系を専攻
し,細菌学(指導教官・長崎大学医学部細菌学教室・
宮本勉教授)を主科目としてウイルス学,特に成人T
細胞白血病ウイルス (HTLV-l)に関する研究を行っ
た。この間,学位論文 (Amplificationof HTL V -1-
re1ated Sequences among Patients with Neurologi-
ca1 Disorders in Highly Endemic N agasaki:Lack of
Evid.ence for Association of HTL V -1 with Mu1tip1e
Sc1erosis) を完成, Japanese Journa1 of Cancer
Research (Vol. 81, pp238--:246, 1990) に発表してこ
れを主論文とし,参考論文一編を附して,長崎大学大
学院医学研究科委員会に審査を申請した。
同委員会は,これを平成 2年 3月7日の定例委員会
に附議し,論文内容の要旨を検討し,研究経歴等を審
査した結果,受理して差し支えないものと認めたので,
上記の通り 3名の審査委員を選定した。学位申請者は
大学院医学研究科長,審査委員を含む研究科委員出席
のもとに平成 2年 4月25日開催された大学院研究発表
会において主論文の内容について研究発表を行ない,
質疑及討議に応答した。委員は主査を中心として慎重
に審議の上,同日の定例委員会でその結論を報告した。
主論文は成人T細胞白血病ウイルス (HTLV-l)と
多発性硬化症 (MS)の関連を検討したものである。原
因不明の脱髄疾患MSにHTLV-1の関与を示唆する
報告がある。即ちKoprowkiらはMS患者血清中に
HTLV-1と反応する抗体を検出し, Reddyら, Green-
bergらはMS患者末梢血単核球中にHTLV-1と相同な
DNAを検出した。しかしHTLV-1流行地とMS多発地
は一致しないことなどから議論となったが,一定の結
論は出ていない。またHTLV-1流行地におけるMSと
HTLV-1の関連を論じた報告はない。そこで本研究で
はHTLV-1流行地である長崎県から発症したMSを含
む各種神経疾患30症例(MS8例,脊髄進行性筋萎縮症
2例,熱帯性産性脊髄麻庫/HTLV -1 associated
mye10pathy [TSP /HAM] 4例,脊髄小脳変'性症7
例,重症筋無力症 [MG]7例,、慢性炎症性脱髄性ポリ
ニューロパチー 1例, SLE1例)を対象として患者末
梢血単核球中にHTLV-1と相同なDNAが存在するか
否かをHTLV-1プロウイルスゲノム上の 6領域(U3,
18 号外第108号) 長崎大学学報、
U5,皇室皇,.2旦1,竺~, .2茎)を標的とする遺伝子増幅法
(Polymerase chain reaction : PCR)を用いて検索
している。その結果,TSP/HAM患者では 4例中 4例
からHTLV-l関連DNAが検出されたのに対し, MS
では 8例中 1例に過ぎなかった。 TSP/HAMを除い
た26例中PCR陽性になったのは 2例(MSl例, MGl
例)でいずれも抗HTLV-l抗体陽性即ちキャリアであ
った。対象26例中 2例 (8%)のキャリア率は長崎県
における成人のHTLV-lキャリア率と差がない。従っ
て陽性となったMS及びMGは偶発的なキャリアであ
ったと考えられる。
以上の結果は, HTLV-lはTSP/HAMとは密接に
関連しているがMSをはじめ今回調べたその他の神経
疾患とは特に関連がないことを示すもの正考えられ,
前記の論議に一定の結論を得たものと云える。
医学研究科委員会は審査委員の報告に基づいて,こ
れを討論に附して審議した結果,本研究論文は医学特
に腫虜ウイルス学,神経内科学の分野に胎いて貢献す
るところ大であり,学位に値するものとして合格と判
定した。
審査担当者 主査 教授 五十嵐 章
副査教授珠玖 洋
副査教授長瀧重信
平成 2年 7月31日