mizuho china monthly · 2018-12-05 · 中国経済 2 mizuho china monthly 2018年12 月号...

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MIZUHO CHINA MONTHLY みずほ チャイナ マンスリー 2018 12 月号 今月号の記事サマリーはこちら 中国経済 1 停滞局面入りした中国経済 ~政府の下支えが緩衝剤となるも、米中摩擦の動向次第では調整が長期化する 恐れ~ 産業・地域政策 5 「一帯一路」構想下の中国対外直接投資の拡大動向と将来展望 ㊦[産業編] 中国アドバイザリーの現場から 12 中国の金融政策について~足許の金利動向と先行き~ 中国戦略 16 カスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス ~KPMG 中国の顧客経験調査の結果から~(1) 法務 25 2018 年の重要立法を振り返る(上) 税務会計 40 増値税の輸出税金還付(免税)政策 税務会計 46 中国国外で所得のある海外駐在員の中国個人所得税申告について 人事労務 52 新個人所得税の改正について― 給与計算管理で注意する点 ― みずほ銀行 中国営業推進部 みずほ銀行(中国)有限公司 中国アドバイザリー部 みずほ銀行の中国情報ホームページ ~中国の経済、市場動向、規制と人民元取引に関する最新情報~ http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/cndb/index.html

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Page 1: MIZUHO CHINA MONTHLY · 2018-12-05 · 中国経済 2 mizuho china monthly 2018年12 月号 みると、2017年初に減速局面に、2018年8月には停滞局面に入ったことがわかる(図表1)。2017

MIZUHO CHINA MONTHLY

みずほ チャイナ マンスリー

2018 年 12 月号

今月号の記事サマリーはこちら

中国経済 1

停滞局面入りした中国経済

~政府の下支えが緩衝剤となるも、米中摩擦の動向次第では調整が長期化する

恐れ~

産業・地域政策 5

「一帯一路」構想下の中国対外直接投資の拡大動向と将来展望 ㊦[産業編]

中国アドバイザリーの現場から 12

中国の金融政策について~足許の金利動向と先行き~

発展促進への展望―

中国戦略 16

カスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス

~KPMG 中国の顧客経験調査の結果から~(1)

法務 25

2018年の重要立法を振り返る(上)

税務会計 40

増値税の輸出税金還付(免税)政策

税務会計 46

中国国外で所得のある海外駐在員の中国個人所得税申告について

人事労務 52

新個人所得税の改正について― 給与計算管理で注意する点 ―

みずほ銀 行 中国営業推進部

みずほ銀行(中国)有限公司 中国アドバイザリー部

みずほ銀行の中国情報ホームページ

~中国の経済、市場動向、規制と人民元取引に関する最新情報~

http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/cndb/index.html

Page 2: MIZUHO CHINA MONTHLY · 2018-12-05 · 中国経済 2 mizuho china monthly 2018年12 月号 みると、2017年初に減速局面に、2018年8月には停滞局面に入ったことがわかる(図表1)。2017

- Executive Summary - 中国経済 停滞局面入りした中国経済

中国の景気サイクルを示すビジネスサイクルクロックは、2018 年 8 月に停滞局面入りした。背景には自動車販

売やインフラ投資の低迷に伴う小売、企業収益の下押しがある。自動車販売は小型車減税廃止の影響のほ

か、住宅ローン負担の増大により下押しが強まっている可能性が考えられる。インフラ投資は政府の景気テコ入

れにより早くも持ち直しを見せているが、今後は米中貿易摩擦の激化に伴う輸出下振れが顕在化することで、中

国の景気は停滞局面が続く可能性が高い。

産業・地域政策 「一帯一路」構想下の中国対外直接投資の拡大動向と将来展望 ㊦

[産業編]

世界第 2 の外国直接投資の受け入れ国として大量の外資導入を行ってきた中国は、対外直接投資も急成長を

続け、2015 年にも世界第 2 位の座に着いた。2017 年には 3 位に下がったが、投資残高では世界 6 位から 2 位

に躍進、対外投資額は 3 年連続で対内投資額を上回った(いずれも中国政府統計)。本稿は、「一帯一路」構想

の推進と米中貿易摩擦拡大の環境変化を念頭に、中国の対外直接投資の拡大傾向を概観し、中国企業の世

界主要地域における投資動向を取り上げ、その背景要因と戦略志向を考察し、成果と課題を明らかにしたうえ、

転換期を迎えた対外直接投資の戦略調整とその行方を展望する。

中国アドバイザリーの現場から 中国の金融政策について

中国政府は金融政策方針を穏健中立から穏健へと緩和方向に転換し、中国人民銀行は 2018 年になって 4 回

の預金準備率引き下げを実施。銀行間資金市場金利は低下し、足許では人民銀行による資金供給オペレーシ

ョンの金利と同水準に収斂している。米中貿易紛争の先行きと実体経済への影響が懸念される中、更なる景気

刺激策や、企業向け貸出金利の低下を企図した金利引き下げの可能性も残る。

中国戦略 カスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス(1)

テクノロジーの進展とモバイルデバイスの普及により、優れた顧客経験、いわゆるカスタマー・エクスペ

リエンス・エクセレンス(以下 CEE)の提供が中国の様々な B2C企業の重要課題となっている。本稿では

KPMG が実施した顧客経験調査の結果から、CEE の提供・実現のための重要ポイント、業界別の CEE の動

向、および先進事例などを紹介する。

法務 2018 年の重要立法を振り返る(上)

本稿では、2018 年に公布又は施行された主な法令をピックアップし、その内容を解説する。今月とりあげる法令

は、投資関連、民商事法、インターネット関連の各分野。

税務会計 増値税の輸出税金還付(免税)政策

米中貿易摩擦を背景に、中国政府は従来から推進してきた増値税の輸出税金還付(免税)政策の改正を加速し

ている。今回は 2018 年 10 月の国務院常務会議によって決定された諸施策のうち、輸出企業分類管理弁法の

改正、税金還付申告のペーパーレス化、外国貿易総合サービス企業の改善、輸出税金還付率の引き上げを紹

介する。

税務会計 中国国外で所得のある海外駐在員の中国個人所得税申告について

国際的租税回避への対応として、非居住者にかかわる金融口座情報の交換が開始されている。本稿では

その動向及び日本並び中国における現状をまとめ、駐在地国における税務コンプライアンス遵守の為の

注意喚起とともにその解説を行う。

人事労務 新個人所得税の改正について

個人所得税法が改正された。法律の施行は来年の 1 月 1 日からだが、賃金給与や個人事業主の所得などの

一部は今年の 10 月 1 日より先行して適用された。日系企業が特に注意すべきポイントを紹介する。

Page 3: MIZUHO CHINA MONTHLY · 2018-12-05 · 中国経済 2 mizuho china monthly 2018年12 月号 みると、2017年初に減速局面に、2018年8月には停滞局面に入ったことがわかる(図表1)。2017

中国経済

1 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

停滞局面入りした中国経済 ~政府の下支えが緩衝剤となるも、米中摩擦

の動向次第では調整が長期化する恐れ~

1.中国の成長率は 2 四半期連続で減速。ビジネスサイクルクロックでみると停滞局面入り

2018 年 7~9 月期の実質 GDP 成長率は前年比+6.5%と 2 四半期連続で減速した。需要項目別に

実質伸び率をみると、インフラ投資の低迷により固定資産投資がマイナス圏に落ち込んだほか、

小売の鈍化が押し下げに寄与した。一方、輸出の伸び拡大が輸入の伸び拡大を上回ったことから、

外需寄与度のマイナス幅はやや縮小した。

成長率が低下したとはいえ、緩やかな低下テンポの中で 6%台の成長率が続いていることから、

それをもって中国の景気状況を判断するのはやや難しい。そこで、オランダ統計局等の手法を参

考に、中国経済の景気循環を表す「ビジネスサイクルクロック(BCC)」を作成した。BCC は、経

済指標を長期的な傾向を示すトレンド成分と、短期的な動きであるサイクル成分に分離し、後者

のサイクル成分についてトレンドからのかい離(景気の水準感)を縦軸、前月比変化幅(景気の

方向感)を横軸にとったものである。BCC は通常、①景気の水準感がトレンド比良好で上向きの方

向にある「拡張局面」、②景気が良好な(トレンド比上振れる)状態を維持しつつも方向感が下

向きとなる「減速局面」、③景気が下向きかつ水準感がトレンド比悪化する「停滞局面」、④景

気の悪い状態(トレンド比下振れ)が続くものの、方向感が上向く「回復局面」へと順に移行し、

再び「拡張局面」へと反時計回りに推移する。

BCC を適用する指標としては、6 つの主要指標を合成した景気動向指数(生産・投資・小売・輸

入・求人倍率・企業収益を合成、みずほ総合研究所推計)を用いる。この景気動向指数の BCC を

図表 1 ビジネスサイクルクロック(2018 年 9 月まで)

<景気動向指数(推計)> <主要指標>

▲ 0.10

▲ 0.05

0.00

0.05

0.10

0.15

▲ 0.02 ▲ 0.01 ▲ 0.01 0.00 0.01 0.01 0.02

2012/1

2013/1

2014/1

2015/1

2016/1

2017/1

2018/1

拡張減速

停滞 回復

2018/9

(景気の水準感)

良い

悪い

(景気の方向感)上向き下向き

-0.10

0.10

12 13 14 15 16 17 18

輸出トレンド

-0.20

-0.10

0.00

0.10

12 13 14 15 16 17 18

小売 トレンド

-0.20

-0.10

0.00

0.10

12 13 14 15 16 17 18

投資トレンド

-0.50

0.00

0.50

12 13 14 15 16 17 18

企業収益

トレンド

(年)

(注) 景気動向指数は、工業付加価値生産、社会消費品小売総額(実質)、固定資産投資、輸出、求人倍率、企業収益の6指標についてそれぞれ基準化・トレンド除去・

外れ値処理などを実施後、同一ウェイトで合成。Y軸はトレンドからの上振れ・下振れ、X軸は循環成分の時系列変化(前月差)。

(資料) 中国国家統計局、中国海関総署等より、みずほ総合研究所作成

みずほ総合研究所

アジア調査部中国室

主任エコノミスト 大和 香織

[email protected]

Page 4: MIZUHO CHINA MONTHLY · 2018-12-05 · 中国経済 2 mizuho china monthly 2018年12 月号 みると、2017年初に減速局面に、2018年8月には停滞局面に入ったことがわかる(図表1)。2017

中国経済

2 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

みると、2017 年初に減速局面に、2018 年 8 月には停滞局面に入ったことがわかる(図表 1)。2017

年は減速局面入りしたとはいえ、前回の減速局面に比べてトレンド比上振れ幅が大きかったため、

企業景況感や消費者マインドが良好な状態が続いていた。しかし 2018 年半ば以降、民営企業を中

心とする資金繰り難といった金融規制の強化に伴う副作用や、投資や消費の鈍化、そして米中貿

易摩擦の激化に伴う先行き不透明感の強まりなどが相まって、内外で中国景気の変調が意識され

るようになっており、こうした中国の実体経済の局面変化が BCC でも改めて確認された。

2.景気停滞の背景

BCC が停滞局面入りした要因について、景気動向指数の各構成指標のトレンド成分を除いたサ

イクル成分の動きを確認すると、輸出は堅調を維持し、投資は足元で上向きつつある一方で、小

売や企業収益が下振れをもたらしたことがわかる(図表 1 右)。以下ではこうした景気停滞をも

たらした要因について詳しく見ていく。

(1)小売を押し下げた主因は自動車販売の低迷

小売鈍化の主因は、自動車販売の弱含みである。自動車販売台数は 2018 年 7 月に前年割れを示

して以降、9~10 月には前年比 2 ケタ減まで落ち込んだ(図表 2)。景気動向指数と同様に自動車

販売についてもトレンド成分を除いたサイクル成分をみると、2017 年末より下降が始まり、2018

年 5 月にはトレンド比マイナス圏に入り、足元では 2008 年のリーマンショック後の落ち込みを下

回るまで低下した(図表 3)。

この背景として、まずは 2015 年 10 月に導入された小型車減税が 2017 年末に終了し、減税期間

中の需要先食いの反動減が生じていることが挙げられよう。減税の反動減がいつまで・どの程度

生じるのかについては様々な見方があるが、前回の小型車減税(2009 年 1 月~2010 年 12 月)終

了後を参考にすると、トレンドを下回る調整期間が 2 年程度続いていたことから、今回も同様と

なれば 2019 年まで調整が続く可能性があるといえる。

一方、今回のサイクルの落ち込みは前回と比べて大きいことから、減税終了以外の要因も下押

しとなっていることが推察される。中国では 2016 年以降の住宅価格の伸び加速に伴い家計の住宅

ローンの負担感(対 GDP 比)が高まっており(図表 4)、それが消費の重しとなりつつある可能性

がある。従来中国の消費に対する資産効果はあまり大きくないとの見方もあったが、成長率の鈍

図表 2 自動車販売台数 図表 3 自動車販売のサイクル成分

(資料)中国自動車工業協会より、みずほ総合研究所作成 (注)HPフィルタによりトレンド・サイクルを抽出。 (資料)中国自動車工業協会より、みずほ総合研究所作成

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

25

30

14 15 16 17 18

2015/10~

減税▲5%(前年比、%) 2017/1~

減税幅縮小▲2.5%

2018/1~

減税終了

(年)

-2.50

-2.00

-1.50

-1.00

-0.50

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18(年)

(水準感)

良い

悪い

トレンド(=0)

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中国経済

3 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

化に伴い将来的な所得の伸びの高まりが期待しにくい中で住宅ローン負担が高まったことから、

それが消費へ悪影響を及ぼし始めた可能性がある。実際、10 月には自動車を除く小売販売も伸び

率が大きく鈍化しており、自動車への影響にとどまらない消費の下押しが示唆される。

(2)自動車販売の弱含みの他、インフラ投資の低迷が企業収益を押し下げ

中国の景気停滞局面入りをもたらしたもう一つの要因である企業収益については、先の自動車

販売の落ち込みに加えて、インフラ投資の低迷が影響したとみられる。2018 年 7~9 月期の企業

収益(工業)の業種別寄与をみると、2018 年前半と比べて、自動車製造業が減益に陥ったほか、

インフラ向け投入比率が高い非金属鉱物製品(セメント等)、鉄鋼、非鉄金属を中心に素材業種

の収益の伸びが鈍化したことが、収益全体の押し下げにつながっていた(図表 5)。

インフラ投資の低迷は、理財商品等シャドーバンキング規制の強化や、金利上昇を背景とする

債券発行環境の悪化に伴い地方政府の資金調達が困難となったこと、PPP プロジェクトの見直し

を進める中で投資の進捗が滞っていたことなどによるとみられる。もっとも、政府がすでに景気

下支えを強める姿勢に転換していることから、インフラ関連業種の収益鈍化は徐々に緩和すると

みられる。5 月以降前年割れが続いていたインフラ投資は 9 月にマイナス幅が縮小し、10 月には

6 か月ぶりにプラス転化した。BCC 上で中国景気が停滞局面入りする中、インフラ投資は景気悪化

を緩和する方向に作用し始めている。

(3)米中貿易摩擦の輸出への影響は徐々に顕在化

米国による中国製品への高関税賦課にもかかわらず、中国の輸出全体は高めの伸びを維持して

いる。しかし、米国により高関税が付加された対象に限定して対米輸出をみると、着実に下押し

が強まっていることがみてとれる。中国側の統計では対米輸出の詳細が公表されていないことか

ら、米国側の統計を用い、米通商法 301 条に基づき 7 月 6 日に発動された制裁関税措置の対象品

目(総額 340 億ドル/年)の対米輸出金額(米国の中国からの輸入)の伸び率をみると、3 月から

既に縮小しつつあったが、7 月以降縮小幅が拡大し、8 月には同+0.9%とゼロ近傍まで低下した

図表 4 住宅ローン残高の対 GDP 比 図表 5 企業収益の業種別寄与

0

5

10

15

20

25

30

35

06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18

(%)

(年)

(資料)中国国家統計局、中国人民銀行より、みずほ総合研究所作成

▲ 5

0

5

10

15

20

25

16 17 18

鉱業 素材

自動車 機械・電気電子

その他 鉱工業

(前年比、%)

(年)

7~9月期

(注)直近は2018年7~9月期の前年同期比寄与度。

(資料)中国国家統計局より、みずほ総合研究所作成

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中国経済

4 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

(図表 6)。製造業 PMI の新規輸出受注は 6 月以降、判断の分かれ目となる 50 を下回っており、

対米輸出 2,000 億ドルに追加関税が付加された 9 月以降は低下テンポが加速している(図表 7)。

輸出受注指数の低下に鑑みても、今後は輸出全体でも下押しが顕在化する可能性がある。

3.政府による下支え強化が景気悪化を緩和するも、貿易摩擦の動向次第では調整が長期化

内外需の下振れ懸念が強まる中、政府は 7 月の国務院常務会議や中央政治局会議で財政・金融

による景気下支えを強める方針を明らかとしており、先にみたとおりインフラ投資に関してはす

でに上向き始めている。また、2018 年には中小企業への資金繰り難等への対応のため、すでに預

金準備率が 3 回(対象限定を含めば 4 回)引き下げられた。それでも 10 月も社会融資総量残高の

伸びの縮小が続くなど、中小企業の多い民営企業の資金繰りに改善が見られないことから、金融

当局は 10 月中旬以降、民営企業の資金調達支援のための追加対策を相次いで公表した。金融機関

を総動員し、様々な手法を用いることで、今後は民営企業への資金供給の改善が見込まれる。

自動車販売やインフラ投資の低迷を契機に景気停滞局面入りした中国経済だが、今後は輸出の

弱含みが主因となり、停滞局面が続くと予想される。政府による景気下支えがある程度の緩衝材

となるものの、実質 GDP 成長率は 2018 年の前年比+6.5%から、2019 年には同+6.2%に減速す

ると見込まれる。緩やかな減速が続く下でも 2020 年の 2010 年比 GDP 倍増目標は達成可能とみら

れるが、米中摩擦の激化が輸出にとどまらず投資・消費まで幅広く押し下げる事態となれば、調

整の長期化を避けるため、政府は目標達成に向けて一層の景気対策を講じざるを得ないだろう。

その場合、デレバレッジなどの構造改革が滞る恐れもある。米中摩擦の動向とともに、政府の政

策運営にもこれまで以上に留意する必要がある。

以上

図表 6 米制裁対象の対米輸出金額 図表 7 製造業 PMI の推移

▲ 30

▲ 20

▲ 10

0

10

20

30

17/1 17/3 17/5 17/7 17/9 17/11 18/1 18/3 18/5 18/7

(前年比、%)

(年/月)

8/23米制裁対象

7/6米制裁対象

42

44

46

48

50

52

54

56

2016/01 2017/01 2018/01

製造業PMI

新規受注

新規輸出受注

(年/月)

(資料)中国国家統計局より、みずほ総合研究所作成

(注)米制裁対象についてHS6ケタレベルで集計。(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成

Page 7: MIZUHO CHINA MONTHLY · 2018-12-05 · 中国経済 2 mizuho china monthly 2018年12 月号 みると、2017年初に減速局面に、2018年8月には停滞局面に入ったことがわかる(図表1)。2017

産業・地域政策

5 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

「一帯一路」構想下の中国対外直接投資 の拡大動向と将来展望 ㊦[産業編]

1.主要産業分野への中国対外直接投資の概観

これまで 2回にわたり中国対外直接投資の状況を見てきたが、今回は最終編として産業分布と

企業動向を可能な限り浮き彫りにし、今後の産業展開の方向性と戦略転換の可能性を展望する。

まず今年 10月末に公表された「2017年度中国対外直接投資統計公報」1から、中国の対外直

接投資のストック(累計額)とフロー両ベースの動向を捉えてみよう。

2017 年末までの対外直接

投資の総額は 18,090.4 億ド

ルに達している。そのうち

34%の(6,157.7億ドル)を

リース・ビジネスサービス分

野が占める。その次は卸売・

小売業、情報伝送・ソフトウ

ェアと情報技術サービス及

び金融業(これらの 3産業は

いずれも 10%以上のシェア

を占める)が続いており、5

番 目 に 多 い の が 採 鉱 業

(8.7%)、6 番目が製造業

(7.8%)となっている。た

だ、2017年のフローベースで

見る(図 1 の「付表」)と、

リース・ビジネスサービス業

への投資額は変わらずトップにあるが、

製造業への投資が 2 番目に大きく順位

を上げており、全体の 18.6%を占める

ようになっていることが注目に値する。

またストックベースでかなり下位にあ

った農林牧漁業や科学研究と技術サー

ビス業もかなり順位を高めたことも見

て取れる。以下では産業の重要性と投資

額のウェートにより 2 組に分けて時系

列的に投資産業の特徴を見てみる。

各産業への投資展開を見ると、主に上

位 5産業と中位 5産業 2という 2組で時

1 本特集㊥で触れた「2017年度中国対外直接投資統計公報」がプレスリリースから約 1ヵ月後の 10月 29日に商務部 WEBサイ

トから閲覧利用できるようになったので、今回は産業関連を中心に最新のデータに基づきながら中国直接投資の産業及び地域

展開の動向を補足する。ただ、同公報でも製造業各分野の時系列対外投資金額など網羅されていない限界がある。 2 上位 5産業と中位 5産業という分類は本稿での便宜的な分類で、前者(上位 5産業)とはその投資額が年次別で全体の 10%

前後を占める(または占めた)産業を対象とし、後者(中位 5産業)とは年次別の投資額が全体の 5%前後を占めている産業

を対象にした。それ以外は全体に占める割合が僅少で下位水準にあると見なして本稿での分析に取り上げないこととする。

みずほ銀行

中国営業推進部

研究員 邵 永裕 Ph.D.

[email protected]

図2 上位5産業分野への中国対外直接投資の推移

-500,000

500,000

1,500,000

2,500,000

3,500,000

4,500,000

5,500,000

6,500,000

7,500,000

2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

投資

額(万

ドル

-15%

-5%

5%

15%

25%

35%

45%

55%

同年の中国対外直接投資に占めるシ

ェア

採鉱業 製造業 卸売・小売業②金融業 リース・ビジネスサービス業 採鉱業のシェア製造業のシェア 卸売・小売業のシェア 金融業のシェアリース・ビジネスサービス業のシェア

資料)中国商務部、国家統計局、外貨管理局「中国対外直接投資投資統計公報」各年版より作成。シェアは計算値。

図1 2017年末の累計額で見る中国対外直接投資の業種分布

(3.0%)

(3.0%)

(34%)

(12.5%)

(12.1%)

(11.2%)

(8.7%)

(7.8%)

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000

リース・ビジネスサービス業

卸売・小売業

情報伝送・ソフトウェアと情報技術サービス業

金融業

採鉱業

製造業

交通運輸、倉庫及び郵政業

不動産業

建設業

電力、熱力、ガス及び水の生産と供給業

科学研究と技術サービス業

住民サービス、修理及びその他サービス業

農林牧漁業

文化、体育と娯楽業

宿泊と飲食業

教育

水利、環境と公共施設管理業

衛生と社会事業 累計投資額(億ドル)

資料)「付表」を含め 「2017年度中国対外直接投資統計公報」より作成。カッコ内の数字は累計投資総額に占める割合。

投資対象業種 投資額(億ドル) 構成比リース・ビジネスサービス業 542.7 34.3%製造業 295.1 18.6%卸売・小売業 263.1 16.6%金融業 187.9 11.9%不動産業 68 4.3%建設業 65.3 4.1%交通運輸、倉庫及び郵政業 54.7 3.5%情報伝送・ソフトウェアと情報技術サービス業

44.3 2.8%

農林牧漁業 25.1 1.6%科学研究と技術サービス業 23.9 1.5%電力、熱力、ガス及び水の生産 23.4 1.5%住民サービス、修理及びその他 18.7 1.2%衛生と社会事業 3.5 0.2%文化、体育と娯楽業 2.6 0.2%水利、環境と公共施設管理業 2.2 0.1%教育 1.3 0.1%宿泊と飲食業 -1.9 -0.1%採鉱業 -37 -2.3%合 計 1582.9 100.0%

【付表】2017年中国対外直接投資の業界分布

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産業・地域政策

6 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

系列的に産業分布を捉えることができる。

図 2 は上位 5 産業(採鉱、製造、卸売・小

売、金融、リース・ビジネスサービス)の 2007

年以降の推移をプロットしている。全般的に

製造業よりも卸売・小売、金融、不動産などの

第 3 次産業への投資が主流になっているが、

近年製造業への投資が拡大してきた。また従

来大きな投資シェアを占めてきた採鉱業への

投資は 2017年にはマイナス増になっており、

情報伝送・ソフトウェアと情報サービス業へ

の投資急拡大が明らかである。また、図 3は中

位 5産業(建設、交通運輸・物流、情報伝送・

ソフトウェアと情報技術サービス、不動産、科

学研究と技術サービス)の同期間の推移を見た

ものである。

特に重要な意味を持つ製造業への直接投資

に関して、図 4 でフローとストック両面の年度

別投資額を示す。2015年から大きく投資が拡大

していることが分かる。

対外直接投資の大きな割合を占める M&A 投資

において 2017年には製造業が件数・金額とも最

多で(表 1)、また M&A投資の向かう 3大地域は

主要技術国のスイス、米国、ドイツとなってい

る(図 5)のが印象的である。尚、図 6は 2017年の製造

業への投資額における産業別の内訳を見たもので、化学

産業が最大(プッシュ要因は産業発展の規模・水準、中

国内の環境規制強化など複数)となっており、自動車、

計算機、通信電子設備、医薬品などが続いている。

中国企業の対外投資はリース・ビジネスサービス分野

への展開が最大であり続ける中で、製造業、卸売・小売

業、金融業で増加がみられ、中でも製造業の増加が特に

顕著(金額シェアが2010年の6.8%から2017年の18.6%

へ伸び、海外設立企業数も最多業種)である。過去に多

かった採鉱業への投資は 2015 年を境に縮小し、2017 年

にマイナス増に転落したことは大きな変化と言える。ま

た現代的新興産業を主としたサービス業分野への投資も着実に増えている。これらの背景には、中

国における製造業の構造転換と新興産業の発展促進策及び中国の新興または後発の多国籍企業の成

長と市場戦略があり、次節から主要な産業を中心にその投資動向と戦略展開を検討する。

2.伝統・基幹産業における中国対外直接投資の動向(自動車、産業機械及び紡績・鉄鋼産業を中心に)

統計データの制約により、製造業内各業種への投資動向を時系列で取り上げることができない

図3 中位5産業への中国直接投資額の推移

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

投資

額(万

ドル

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%(シ

ェア

建設業 交通運輸・物流業情報伝送・ソフトウェアと情報技術サービス業 不動産業科学研究と技術サービス業 建設業のシェア交通運輸・物流業のシェア 情報伝送・ソフトウェアと情報技術サービス業のシェア不動産業のシェア 科学研究と技術サービス業のシェア

資料)中国商務部、国家統計局、外貨管理局「中国対外直接投資投資統計公報」各年版より作成。シェアは計算値。

図4 フローとストック別にみる製造業への中国対外直接投資の推移

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

3,000,000

3,500,000

2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

フロ

ーベ

ース

(万

ドル

0

2,000,000

4,000,000

6,000,000

8,000,000

10,000,000

12,000,000

14,000,000

16,000,000

スト

ックベー

(万ドル

ストック フロー

資料)図1に同じ。

産業区分 件数(件) 金額(億ドル) 金額構成比(%)製造業 163 607.2 50.8採鉱業 22 114.1 9.5電力、熱力、ガス及び水の生産・供給業

30 101.9 8.5

宿泊・飲食業 1 65 5.4

リース・ビジネスサービス業 38 63.1 5.3

情報伝送・ソフトウェと情報技術サービス業

42 61.2 5.1

交通輸送、倉庫及び郵便業 13 55.8 4.7

金融業 4 34.2 2.9卸売・小売業 45 31.2 2.6不動産業 9 25.2 2.1衛生と社会事業 5 11.7 1

科学研究と技術サービス業 28 11.2 0.9

農林牧畜業 13 8.1 0.7文化、体育と娯楽業 5 5.8 0.5水利、環境及び公共施設管理業

3 0.3 -

建設業 3 0.2 -住民サービス、修理及び他のサービス業

4 0.1 -

教育 3 0.1 -合計 431 1196.2 100

表1 2017年中国対外M&A直接投資の業界分布

資料) 「2017年度中国対外直接投資統計公報」より加工・引用。

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産業・地域政策

7 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

が、以下では主に中国商務部公表の「2017年中

国対外投資合作発展報告」を中心に投資のを概

観し、その成果と課題を捕捉する。

まず自動車分野において、中国政府のレポー

トではその海外への展開成果が非常に大きい

と評価されている。商務部の 2017 年のレポー

トによると、2016年の自動車及び自動車部品産

業の対外投資は 69 件を数え、直近 4 年の最高

記録を更新。買収(2016年計 18件、30.3億ド

ル)よりもグリーンフィールド投資が

拡大傾向に転じており、特に「一帯一

路」関連地域への増加が目立ってき

た。ただ、買収案件にみる企業の投資

戦略は、対米においては将来性のある

技術の獲得が主流で、対ドイツの買収

は自動車部品企業によるものが多く

見られ、また民営企業による買収が主

体になってくるなどの特徴が現れた。

また買収の基本的な目的は優れた海

外の経営資産(製品、技術、特許、ブ

ランド、販売ネットワーク及び人材資

源など)の獲得にあるとされている。

表 2 に自動車業界に関する中国企

業のクロスボーダーM&A の実施事例をまとめた。

驚いたことに、買収主体はすべて民営企業であ

る。世界のビッグメーカーと合弁などで提携して

いる国有企業の自動車メーカーに比べて、民営企

業は技術力をはじめとする経営資源の不足が課

題であり、手っ取り早い買収戦略で能力増強を図

っていると見受けられる。今後、自動車の EV化や

IT 化(コネクテッド・カー)により競争優位に立

った中国企業の世界自動車業界への投資拡大が

予想される。

自動車産業と並び、同じ機械分野に属する産業

機械産業への投資も非常に活発である。産業機械

産業は、中国の産業技術の進歩と発展を示す重要

な産業として非常に注目されてきたが、図 7 に見られるように 2005 年に産業機械の輸出と輸入

(いずれも 30億ドル程度)が均衡するようになったのを境目に、同産業の対外輸出額が急増し中

国の貿易黒字産業となった(「外貨獲得産業」に変身、うち 17機種が主力輸出品に)。近年は、黒

字幅が同水準で安定(2016年はかなり減少)している。2016年、中国産業機械の「一帯一路」地

図5 2017年中国M&A直接投資の10大目的国・地域

スイ

アメ

リカ

ドイ

ブラ

ジル

イギ

リス

イン

ドネ

シア

香港

オー

スト

ラリ

アラ

ブ首

長国

連邦

シン

ガポ

ール

金額(億ドル)=左軸

件数(件)=右軸

資料) 「2017年度中国対外直接投資統計公報」より加工・引用。

図6 2017年製造業への中国対外直接投資額の業種分布

81.6

36.1

36

28.5

20.6

14.3

11.6

11.6

10

10

8.3

6.1

5.1

3.7

3.4

3.1

2.7

2.4

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

化学原料と化学製品製造業

自動車製造業

その他製造

計算機、通信及び電子設備製造業

医薬品製造業

鉄道、船舶、航空宇宙及びその他運輸設備製造業

専門機械製造業

非金属鉱物製品業

ゴムとプラスチック製品業

金属製品業

紡績業

非鉄金属精錬・圧延加工業

汎用設備製造業

電気機械・機材製造業

食品製造業

紡績服装、服飾業

農副食品加工業

黒色金属精錬・圧延加工業

資料) 「2017年度中国対外直接投資統計公報」より作成。

買収側企業 形 態 被買収企業 所在国買収額

(百万ドル)所属分野

寧波均勝 民営Key SafetySystems,Inc.

アメリカ 1444.8自動車安全システム

万豊奥特 民営The PaslinCompany

アメリカ 302.0 溶接ロボット

寧波均勝 民営TechniSatAutomotive

ドイツ 236.5車載情報システム、カーナビシステム、IoV

安徽中鼎 民営TristoneFlowtech

ドイツ 180.2エンジン冷却システム、カーナビシステム

安徽中鼎 民営AMK HoldingGmbH & Co.KG

ドイツ 146.8モーター電池制御システム、運転補助、シャシ電子制御

徳爾集団 民営CarcousticsInternationalGmbH

ドイツ 122.9 車内インテリア

中集 民営RetlanManufacturingLtd.

イギリス 122.0 トレーラーメーカー

中原内配 民営Incodel HoldingLLC

アメリカ 101.2 動力システム

無錫吉興 民営ConformAutomotive

アメリカ 100.0 車内インテリア

重慶小康 民営AC PropulsionInc.

アメリカ 95.0電動自動車動力システム

表2 2016年中国自動車関連企業のクロスボーダーM&Aの事例

資料)中国商務部「中国対外直接投資合作発展報告2017」ほかより作成。

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産業・地域政策

8 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

域への輸出額は 74.1 億ドルで、全体の 43.7%を占

めた。輸出拡大の中で海外展開が活発になり、技術

力や企業の実力も高まってきた。現在、中国の産業

機械メーカーの 11 社ほどが世界上位 50 社の仲間

入りを果たし、その多くが活発な対外投資も行っ

ている。

中国の産業機械各社の事業展開先は世界 170 カ

国に及び、製品は 200 カ国・地域に輸出され、海

外事業の営業収入と輸出収入が全体の約 25%を占

める。対外投資を行っている主な企業としては、徐

工集団、中聯重科、広西柳工、山推股份、安叉集団、

国機重工、中鉄装備などの大手企業が挙げられ、欧州、北米、南米、ロシア、アセアン、中東など

へ積極的な事業展開が行われており、地域本社や R&D センター、海外の同業他社の買収、海外営

業・販売ネットワークの構築関連の投資が進められている。例えば、徐工集団は 8 の海外生産基

地、10 の部品供給センター、5 の海外 R&D センターを擁し、世界 176 カ国・地域をカバーした事

業ネットワークを持つ。三一重工も 2009年に CIFA社を買収し、2011年にドイツのプツマイスタ

ーの技術を買収、業容拡大とグローバル事業の拡大を図っている。

広西柳工の海外展開も大きく、2016年の海外売上高は業務収益の 30%を占めた。これらの対外投

資の拡大は、同産業における技術力の比較優位性と関連産業の海外需要の拡大及び同産業企業の積

極的な海外展開戦略の強化によるものと考えられる。

一方、製造業の伝統産業でもあり、また基幹産業

の代表格である鉄鋼産業と繊維服装産業は少し様相

が異なる。中国の鉄鋼産業の対外直接投資はかなり

遅れており、繊維服装産業ほど進んでいない。2017

年の投資額は、製造業の最下位に並んでいた(前出

図 6)のも象徴的である。

中国の鉄鋼産業は、最も高い国内自給率と産業技

術力(図 8)を持ちながら、設備能力削減という大き

な課題も抱えており、海外展開の能力と内部的要因

を強く持っている産業であるといえる。今のところ

輸出先は韓国、ベトナム、インドネシア、タイなど

アジア諸国に集中し、対外直接投資はそれほど大き

な規模になっていないが、特に貿易摩擦への対応か

ら今後の拡大が考えられる。中国政府のレポートで

も、同業界の海外展開には様々な課題が指摘されて

いる 3。今後、鉄鋼分野の海外投資は大きな潜在性が

あると共に、中国政府としても同産業の余剰設備の

海外移転を検討することが考えられる。

3 例えば、鉄鋼企業の対外投資の体制整備不足や関連企業の連携不足及び人材不足などが指摘されている。

図9 中国紡績服装産業の対外直接投資と輸出動向

0

5

10

15

20

25

30

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

紡績服装産業の対外投資額

(億ド

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%製造

業対

外投

資額

に占

める

シェ

アと

世界

紡績

服装

輸出

額に

占め

る割

投資額

製造業に占めるシェア

世界の輸出シェア

資料)中国紡績工業連合会社会責任弁公室「中国海外投資紡績服装企業的社会責任現状和風険」より作成。

図8 中国の鉄鋼生産量と自給率の推移 (2005~2015)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

粗鋼

生産

及び

輸出

入相

当量

(百

万ト

ン)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

120%

140%

生産量の世界シ

ェアと自給率

世界生産量 中国生産量

粗鋼輸入相当量 粗鋼輸出相当量生産量世界シェア 国内自給率

資料)劉海民、宋立剛「中国鉄鋼産業重整中的問題与前景」

http://press-files.anu.edu.au/downloads/press/n4153/pdf/ch14.pdfより

作成。「粗鋼輸入・輸出相当量」は輸出・輸入鋼材量に基づいた換算値。

図7 中国産業機械産業の輸出入額の推移(2000~2017)

-50

0

50

100

150

200

250

2000年

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

(単位:億ドル

輸入 輸出 バランス資料)中国商務部「中国対外直接投資合作発展報告2017」ほかより作成。

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産業・地域政策

9 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

一方、鉄鋼産業と対照的に、労働集約型で設備の建設導入も相対的に容易な繊維服装産業は、

海外展開が直実に進んでいることが図 9 から見て取れる。特に、中国対外直接投資が最高記録を

見せた 2016年には前年の約 2倍の投資が見られ、中国内における労働コスト増への対応と現地市

場開拓の目的で海外進出が進んでいるものと思われる。

こうした伝統的な基幹産業の海外投資は、投資先国の雇用拡大と産業技術の育成発展のために

も有利であり、鉄鋼産業を含めて「一帯一路」地域にある途上国への伝統製造業への着実な投資

拡大と技術移転を進めることが求められている。

3.現代的新興産業の対外直接投資の動向(情報通信、科学技術サービス分野を中心に)

前節で取り上げた伝統的製造業に加え、現代的新興産業または「戦略的新興産業」4に属する 2

大産業である情報通信(統計上「情報伝送・ソフトウ

ェと情報サービス業」)と「科学研究と技術サービス

業」への投資が非常に活発化しており、注目に値する。

図 10は、これらの産業分野への対外直接投資のス

トック額をプロットしたもので、近年(「中国製造

2025」戦略公布の 2015 年以降)の拡大が目立つ。第

4 次産業革命の潮流に即した、中国の情報産業の国際

戦略が着実に企業の海外事業展開に反映されている。

これらの分野には世界的著名企業が多く含まれ、中

国の対外直接投資の新潮流となっている。表 3 は中

国の通信関連企業の国際化レベルを海外業務収入のシェア、

から見たものである。2016年に聯想集団が最高水準の 72%、

新興企業の猎豹移動が 58.7%で、華為技術(ファーウェイ)

が 54.2%、中興通信(ZTE。同 42.2%)と小米(シャオミ、

21.1%)なども 20%以上の国際化水準にあるが、まだ数パ

ーセントにとどまっている企業も多く、今後同分野の企業の

海外展開が更に拡大すると見込まれる。

図 11 に示す中国のソフトウェアと情報技術サービス業の

国内市場の拡大と対外輸出シェアの伸び悩みの動向から

見ても、同産業関連の対外直接投資には拡大余地がある

と言えよう。同分野では、日本をはじめとする各国企業と

の連携による投資活動が有利になることが考えられ、今

後日中両国による第 3国(「一帯一路」関連国主体に)で

の新興的戦略産業の拡大も増加が見込まれる。

表 4 は、中国商務部所属の機関による研究レポートに

掲載された現在と将来(2015 年をベースに)の中国の対

外直接投資及び対外建設工事請負の対象業種を地域別に

4 中国政府による「戦略的新興産業」促進策(国務院 2016年 12月 19日公布「“13・5”国家戦略性新興産業発展計画」など)

で提起された「次世代情報技術」(次世代通信ネットワーク、IoT、3G、高性能 IC、ハイエンドソフトウェア、AIなど)産業が

この 2産業(「情報伝送・ソフトウェと情報サービス業」)と「科学研究と技術サービス業」)に最も近いが、完全にあてはまる

ものではないので、ここでは仮名称として「現代的新興産業」を使用する。

No. 企業名称(中文ベース)海外営業収入

(億元)営業総収入(億

元)海外収入

シェア

1 華為技術有限公司 2,851 5,261 54.2%

2 聯想集団有限公司 2,149 2,985 72.0%

3 中興通訊股份有限公司 427 1,012 42.2%

4広東欧珀移動通信有限公司(OPPO)

189 895 21.1%

5 北京小米科技有限責任公司 148 700 21.1%

6 中国移動通信集団公司 134 7,084 1.9%

7 阿里巴巴網絡技術有限公司 133 1,583 8.4%

8 中国電信集団公司 90 3,523 2.6%

9維沃移動通信有限公司(vivo)

80 696 11.5%

10深圳市騰訊計算機系統有限公司

76 1,519 5.0%

11中国聨合網絡通信集団有限公司

30 2,410 1.2%

12 猎豹移動公司 27 46 58.7%

  表3 中国通信技術関連企業の国際化レベル(2016)

資料)億欧智庫、中国企業連合会、中国企業家協会ほかより作成。社名は中文表記による。

図11 中国ソフトウェアと情報技術サービス業の市場動向

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年

国内販売と輸出額

(億元

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

国内販売額と輸出額の構成比

(%

国内市場売上高 輸出額

国内市場シェア 輸出シェア

資料)中国商務部「中国対外直接投資合作発展報告2017」より作成。

図10 中国の情報通信と科学技術サービス業の対外投資の動向

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

情報

伝送

・ソ

フト

ウェ

アと

情報

技術

サー

ビス

業の

投資

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

科学研究と技術サー

ビス業の対外投資額

情報伝送・ソフトウェアと情報技術サービス業 科学研究と技術サービス業

資料) 「2017年度中国対外直接投資統計公報」より作成。データはストックベースのもの。単位はいずれも万ドル。

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産業・地域政策

10 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

まとめた一覧表である。現在・将来とも、アジアとア

フリカ及び北米、中南米、欧州及び豪州の各地域が重

要地域とされているが、経済と産業発展の水準や、特

に地理的距離などから見て「一帯一路」関連地域が中

国の対外直接投資の重点地域であることは間違いな

い。同レポートの整理・分析によると、2015 年 10 月

に中国政府が打ち出した「国際産能と装備製造におけ

る協力推進に関する指導意見」とグローバルバリュー

チェーンと国際産業協力体制の構築を目指す「一帯一

路」構想によって導き出された今後の国際産能協力の

関連業界は、図 12の通り(鉄鋼、非鉄金属、建材、鉄

道、電力、化工、軽工業、紡績業、自動車、通信、工

作機械、航空宇宙、造船及び海洋エンジニアリング)。

「一帯一路」における対外投資協力産業も、同図の下

部の産業類型と業種が選定されている。これらを見

ても、中国は今後も多数の産業分野で世界各地へ進

出拡大を目指していることが明らかである。

4.貿易摩擦の激化に伴う中国対外直接投資の課題と

将来展望(結びに代えて)

本稿で㊤㊥㊦の 3 回を通じて中国の対外直接投資

の現状を見てきた。統計資料の限界や紙幅の制限上、

考察が十分にできず、特に中国企業の国際経営の情

況と M&A 投資の実施効果などには触れることができ

なかった。しかし本稿での検討と分析ではっきりし

たことは、中国の対外直接投資は非常に急速にまた

幅広に世界各地域と諸産業分野にわたって展開され

ていることである。中国企業の多国籍化や中国資本による M&A 活動も非常に活発で、今後も国際

産能協力と「一帯一路」構想の推進(図 13)により更に進展すると予想される。また、現在の中

国の産業高度化とサービス化及び戦略的新興産

業の発展重視の情勢下、伝統的製造業と新興産業

(製造業とサービス業を含む)の対外直接投資が

今後も長く拡大が続くことが考えられ、中国企業

の多国籍化が一段と進み、中国企業と他国企業と

の協業の可能性と必要性が共に拡大するであろ

う。換言すれば、中国の対外直接投資が中国と世

界の経済・産業発展に伴って非常に長い勢いと大

きな潜在力を持ち、中国の資本と技術が世界経

済、特に途上国、新興国経済と産業の発展に重要

な促進効果を与えていくもことが期待される。

対外直接投資 対外建設工事請負 将来潜在性ある領域

アジア

リース・ビジネスサービス、卸売・小売、金融、採鉱、交通運輸、倉庫・郵便

石油化学、交通輸送、建設、電力工事建設、住宅建設

道路、鉄道、港湾、石油パイプライン、橋梁、輸送電網、光ケーブル伝送などの社会インフラの整備建設と石油・天然ガス、海底石油などの領域

アフリカ建設、採鉱、金融、製造業、科学研究と技術サービス

交通運輸建設、住宅建設電力工事建設

航空、金融、観光、海洋経済、グリーン経済

中南米

リース・ビジネスサービス、卸売・小売、金融、採鉱、交通運輸、倉庫・郵便

電力工事建設、交通運輸建設、通信工事建設、石油化学、住宅建設

エネルギー資源、基礎インフラ建設、農業、製造業、技術革新ト情報技術

北 米

金融、採鉱、製造、リース・ビジネスサービス、不動産

住宅建設、交通運輸建設、通信工事建設、製造加工施設建設、石油加工

自然資源類、ハイエンド製造、不動産、ハイテク、社会インフラとバイオ製薬、インタネット産業

欧 州

リースビジネスサービス、金融、製造、採鉱、小売・卸売

通信工事建設、交通運輸建設、電力工事建設、住宅建設

新エネ、新素材、情報技術、バイオテク、航空宇宙

豪 州採鉱、金融、不動産、農林牧漁、製造

住宅建設、交通運輸建設、通信工事建設

港湾、電力、通信、交通などの社会インフラ整備、農業と食料品分野、観光開発によるインフラ建設とハイエンドサービス業

表4 地域別にみる中国対外投資協力の対象業界・業種方式別の対外投資協力事業関連分野

資料)中国商務部投資促進局、中国サービスアウトソーシング研究センター「“一帯一路”戦略下の投資促進研究」(2017年)より作成。資料は2015年をベースにしている。

 区分

 地域

 図12  国際産能と設備製造協力の指導意見と「一帯一路」

 資料)商務部投資促進事務局、中国服務外包研究中心「“一帯一路”戦略下的投資促進研究」 (2017年)より作成。

    構想下の国際協力の対象関連産業の展望

「国際産能と設備製造における協力推進に関する指導意見」

グローバルバリューチェーンと国際産業協力体制の構築を目指す「一帯一路」構想

<産能協力関連業界>

鉄鋼、非鉄金属、建材、鉄道、電力、化工、軽工業、紡績業、自動車、通信、工作機械、航空宇宙、造船及び海洋エンジニアリング

産業類型

新興的優位産業

交通基礎インフラ

電力工事建設

情報通工事とサービス

現代農業ハイテク・イノベーション

余剰設備産業

鉄鋼 建材 住宅建設鉱物資源開発

石油化工・天然ガス資源

付帯性支援産業

金融ビジネスサービス

関連業種

交通運輸ネットワークと商業・貿易物流センター

【「一帯一路」における対外投資協力産業の選定】

図13 中国における「一帯一路」構想の建設計画図

資料)商務部投資促進事務局、中国服務外包研究中心「“一帯一路”戦略下的投資促進研究」2017年より加工・引用。①は中国とパキスタン、②バングラディッシュ、中国、インド及びミャンマー。

シルクロード経済ベルト(「一帯」)

21世紀海上シルクロード(「一路」)

海路では重点港湾をハブに共同で開放・安全・高効率な輸送大通路を建設する

新ユーラシアランドブリッジ  中蒙露経済協力回廊

中印半島経済合作回廊

「一帯一路」の建設と密接な関連を持つ中パ①、バン中印ミャン②の2大経済回廊

中国-中央アジア―西アジア経済協力回廊

南太平洋

中央アジア

南シナ海

ロシア

地中海

欧州

欧州

東南アジア

西アジア

ペルシャ湾

南アジア

インド洋

シルクロード経済ベルト

21世紀海上シルクロード

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産業・地域政策

11 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

とは言え、今年になって米中貿易摩擦が

激化してきたことに象徴されるように、中

国の対外直接投資も対米貿易と同様、厳し

い風向きに直面するようになってきた。中

国政府(務院新聞弁公室)が今年 9月に出

した「中米経済貿易摩擦に関する事実と中

国の立場」という白書でも触れたように、

米国政府は近年外国投資審査に対する特別

調査実施の比率を高めており(図 14)、

直近 2年(2016~17 年)における外国企

業による米国企業買収案件が却下された

件数が最も多いのも中国企業の関連案件

である。今後もこの傾向は続くとみら

れ、対米、場合によって対欧などの先進

国への直接投資の推進戦略に影響を及ぼ

す恐れがあろう。

今後、これまでの先進国への M&A方式

主体の投資戦略が転換を余儀なくされる

と、グリーンフィールド投資に更に注力

する必要があり、米欧への投資より、本

格的な「一帯一路」地域への投資が求め

られる。投資戦略転換のための条件は整

いつつあり、中国の国内外における地域

協力と開発戦略があり、また「一帯一

路」地域を中心に経済貿易合作区が多く

設立されており(表 5)、外国からの対

中直接投資に大きな役割を果たした中国

内の開発区や工業団地としての効果が期

待される。

また、日本など他の国・地域との国際

的事業の更なる推進により、中国の対外

直接投資の透明性と信頼度の向上効果が見込まれる。中国の各地域による「一帯一路」関連諸国

へのアプローチも、投資先地域・都市の実情と需要によりマッチした投資事業が行われれば、投

資先の経済発展に寄与することとなり、今後地域・都市レベルによる対外直接投資と国際協力事

業の促進が重要であり、貿易摩擦への対応と「一帯一路」建設の推進にも効果的であろう。

企業の国際化と産業のグローバル化が第 4次産業革命の流れによって更に加速され、国際貿易

摩擦対応の必要からも国際投資と企業提携による動きが活発化している現状を踏まえて見れば、

中国の対外直接投資はその産業の多様性と地域の広がりを持って更に大きく発展し、国内消費市

場と共に世界経済発展の重要な役割を果し、中国の国内市場の更なる開放と経済のグローバル化

をもたらすであろう。 以 上

No. 設立年 所在国

1 1996年 エジプト

2 2004年 ロシア

3 2005年 タイ

4 2006年 カンボジア

5 2006年 パキスタン

6 2006年 ナイジェリア

7 2006年 ロシア

8 2006年 インドネシア

9 2007年 ベトナム

10 2007年 ザンビア

11 2007年 インドネシア

12 2008年 ロシア

13 2008年 エチオピア

14 2009年ウズベキスタン

15 2010年 ラオス

16 2011年 ハンガリー

17 2011年 キルギス

18 2011年 ハンガリー

19 2013年 ロシア

20 2013年 インドネシア

中露(沿海辺境区)農業産業合作区

タイ中羅勇工業園

シハヌーク港経済特区

海爾・RUBA経済区

合作園区の名称

スエズ経済貿易合作区新型建材、紡績・服装、電気設備、石油設備

LEKKI自由貿易区(中ナイ経済貿易区)

中国側の開発業者 主導産業

表5 中国の「一帯一路」沿線国における海外経済貿易合作区の設立情況

中非泰達投資股份有限公司黒龍江東寧華信経済済貿易有限責任公司華立産業集団有限公司江蘇太湖カンボジア国際経済合作区投資有限公司海爾集団電器産業有限公司雲南省海外投資有限公司康吉国際投資有限公司

天津聚龍集団

前江投資管理有限責任公司中国有色鉱業集団有限公司広西農墾集団有限責任公司

中航林業有限公司

江蘇永元投資有限公司

温州市金盛貿易有限公司

雲南省海外投資有限公司

ウスリースク経済貿易合作区

中国・インドネシア聚龍農業産業合作区

ベトナム龍江工業園(LJIP)

ザンビア中国経済貿易区

中国・インドネシア経済貿易合作区中露トムスク木材工業貿易合作区

エチオピア東方工業園

ウズベキスタン“鵬盛”工業園

ビエンチャンSaysetha総合開発区

中国インドネシア総合産業園区青山園区

山東帝豪国際投資有限公司商丘貴友食品有限公司煙台新益投資有限公司黒龍江省牡丹江龍躍経貿有限公司上海鼎信投資(集団)有限公司

ハンガリー中欧商貿物流園

キルギスアジアの星農業産業合作区中国ハンガリーBorsodChem経済貿易合作区ロシア龍躍林業経済貿易合作区

家電、自動車、紡績、建材、化工製造業、倉庫物流、都市サービス、不動産紡績・服装、金属加工機械、軽工業、家電主導産軽工業、家電、電子、木材加工

建築材料、照明器具、電機電器、農業機械、軽工業、紡績エネルギー、化工、農畜産加工、電力器材製造、飼料加工、建材、物流倉庫

アブラヤシ栽培開発、精密加工、買付、倉庫物流貿易、軽工業、機械電子、建材、化工非鉄金属、現代物流、ビジネスサービス、不動産など自動車組立、機械製造、家電、ファインケミカルなど

紡績・服装、金属加工機械、軽工業、家電

自動車整備、機械、家電

栽培、養殖、農産物加工

ニッケル鉄、ステンレス

商品展示、運輸、倉庫、集配、情報処理、流通加工栽培、養殖、食肉加工、食品深加工化学工業、生物化学工業

林木伐採、粗加工と精密加工、育林、林産物展示、国

森林育成伐採、木材加工、商業貿易、物流

資料)中国科学院院刊掲載(2018.8.21)「我国“一帯一路”沿線海外園区建設模式研究」(作者::叶尔肯·吾扎提等)http://www.bulletin.cas.cn/zgkxyyk/ch/reader/view_news.aspx?id=20180821042424185より転載引用。

図14 米政府による外国投資案件の審査数と調査実施数の推移

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

審査数と調査開始数

(件

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

調査実施件数の比率

審査件数 調査実施件数 調査実施件数の比率

資料)中華人民共和国国務院新聞弁公室「中米経済貿易摩擦に関する事実と中国の立場」白書(2018年9月)より引用。原資料は対米外国投資委員会(CFIUS)による暦年外資安全審査報告書に基づく。

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中国アドバイザリーの現場から

12 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

中国の金融政策について

~足許の金利動向と先行き~

1.はじめに

2017年、中国政府と中国人民銀行は、それまで「穏健」としていた金融政策を「穏健中立」へと

引締め方向に舵を切り、企業の過剰債務の解消(デレバレッジ)と金融システムの構造的リスクの

解消を企図した規制強化の流れの中、市場金利は上昇、経済成長にはストレスがかかる状態にあっ

た。政府は成長率目標を小幅引き下げつつも、実体経済の下支え策を講じてきたが、米中貿易紛争

という中国にとっては予期せぬ事態に直面したことで、足許では景気に対する下振れ圧力が高まっ

てきている状況である。

2018年 7~9月の実質 GDP伸び率(前年比)(図

表①)は 6.5%と、政府が年間目標として掲げる

6.5%前後を維持しているものの、景気の先行指

数である製造業 PMI(図表②)は 50.2(2018年 10

月)と約 2年ぶり低水準をつけ、業況改善・悪化

の節目となる 50 に肉薄した。今後米中貿易紛争

の影響が強まると、節目の 50 を割り込む可能性

もある。また、その他の主要経済指標(図表③)

についても落ち込みが見られている。

かかる中、中国政府は米国の対中関税措置の影

響を緩和する減税策等の景気刺激策を矢継ぎ早

に表明し、各種会議体においてもその意図を明確

に発信している。金融政策についても、7 月の中

央政治局会議では 2017年以降「穏健中立」として

きた政策方針から中立の文字を削除し、「穏健」

へと緩和方向に転じた。また、人民銀行は今年に

入って 4回の預金準備率引き下げを実施し、流動

性供給による金融市場の安定及び企業の調達コ

ストの軽減を図っている。

今回は、金融政策の変化と当局のオペレーショ

ン動向に注目し、足許の人民元金利水準と今後の

展望について考察して参りたい。なお記載内容に

ついては筆者の個人的な見解が多分に含まれる

点、ご容赦いただきたい。

みずほ銀行(中国)有限公司

中国為替資金部

河村 佳

[email protected]

【図表①実質 GDP伸び率(前年比)】

【出所:Bloomberg】

6

6.2

6.4

6.6

6.8

7

7.2

7.4

7.6

2014 2015 2016 2017 2018

【出所:Bloomberg】

【図表②購買担当者景気指数(PMI)】

44

46

48

50

52

54

56

58

2014 2015 2016 2017 2018

製造業PMI(季調済)

非製造業PMI(季調済)

【図表③その他主要経済指標)】

【出所:Bloomberg】

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

2014 2015 2016 2017 2018

鉱工業生産前年比

小売売上高総額前年比

固定資産投資(除く農村家計)

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中国アドバイザリーの現場から

13 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

2.政府と中央銀行の金融政策

(1)主な金融政策方針の変化

【図表④】は、それぞれ

四半期に一度発表される、

中央政治局会議(政府)と

中国貨幣政策執行報告(中

国人民銀行)を中心に、政

策スタンスの変化を抜粋し

たもの。

政府は内需拡大を推進す

ると共に、米中貿易紛争に

よる国内経済への下押し圧

力の増大といった経済環境

の変化に言及し、7 月には金融政策の方針を「穏健」へと緩和方向に転換している。一方、人民銀

行は経済認識を政府と共有しつつも、政策方針は「穏健中立」のまま据え置いたが、預金準備率の

引き下げ等の流動性供給を通じて、金融市場の安定化を図っている。

いずれも緩和方向に舵を切っていることは疑う余地がないが、この微妙なズレは、極端な金融緩

和を示唆することで過度な人民元安懸念とそれに伴う資本流出を誘発することを避けたい当局の

意向の表れともとれる。

(2)預金準備率の引き下げ効果

【図表⑤】は、預金準備率引き下げを中心とした人

民銀行の流動性供給の実施状況である。人民銀行によ

る通常時の流動性供給ツールには、リバースレポを用

いた公開市場操作(OMO)や、中期貸出制度(MLF)等

が挙げられるが、それらに比べても預金準備率引き下

げによる流動性への寄与は大きく、一度の OMO による

資金供給額が 100~2,000 億元程度、MLFでは 3,000~

5,000億元程度であるのに対して、1%の預金準備率引

き下げによる流動性の増加は、対象となる金融機関や

その預金保有状況にもよるが、約 1 兆 3,000 億元とな

る(2018年 4月引き下げ時)(出所:中国人民银行ホームページ)。

また、2017 年 9 月に発表された預金準備率の引き下げ(2018 年 1 月実施)時のように、中小企

業等への融資残高(または増加額)を条件とすることで、市場金利への低下圧力だけでなく、直接

的な実体経済支援を行う姿勢が示された。

2018 年 4 月に実施された今年二度目の引き下げ時には、引き下げ効果で余剰となる準備金の一

部を、既往の MLFの返済に充てることが義務付けられていた。創出された約 1兆 3,000億元の余剰

【図表⑤人民銀行による流動性供給】

    <預金準備率の引き下げ方針等>

①2017年9月30日中小零細企業等への貸出残高を条件に、0.5%または1.5%優遇(2018年1月実施)

※2017年12月29日2018年春節期間の資金需要に対応した預金準備率の一時的な実質2.0%引き下げ

②2018年4月17日既往中期貸出制度(MLF)の一部返済を条件に、1.0%引き下げ(4月25日実施)

③2018年6月24日0.5%引き下げ(7月5日実施)

※2018年7月23日中小企業融資支援を企図した、単発では過去最大規模となる中期貸出制度(MLF)による資金供給5,020億元を実施

④2018年10月7日1.0%引き下げ(10月15日実施)

【図表④政策方針の変化】

     <政府の主な政策方針>

2018年4月23日(中央政治局会議)・穏健中立な金融政策を維持・デレバレッジへの言及を削除・内需拡大を推進

2018年7月23日(国務院常務会議)・内需拡大に向け、企業の減税や、地方政府・銀行による債券発行の支援等の政策パッケージを発表

2018年7月31日(中央政治局会議)・金融政策を「穏健中立」から「穏健」に・デレバレッジへの取り組みを堅持

2018年10月31日(中央政治局会議)・国内経済への下押し圧力が強まっている・一部企業では経営が一段と厳しくなっている・長期にわたり蓄積されたリスクが表面化している・積極的な財政政策と穏健な金融政策を実施する・デレバレッジへの言及を削除

    <人民銀行の主な政策方針>

2018年5月11日(中国貨幣政策執行報告)・穏健中立な金融政策を維持・貿易摩擦等による不確実性の増大・デレバレッジと金融リスク解消に取り組む・十分な流動性を維持する・金融政策の調整を強化する

2018年8月10日(中国貨幣政策執行報告)・穏健中立な金融政策を維持・デレバレッジへの取り組みを堅持

2018年11月9日(中国貨幣政策執行報告)・穏健中立な金融政策を維持・デレバレッジへの言及を削除・国内経済への下押し圧力が強まっている

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中国アドバイザリーの現場から

14 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

金のうち、MLF の返済に充てられる 9,000 億元については、市場の流動性には寄与しないものの、

これは従来金融機関が 3.30%(一年物 MLF金利)で人民銀行から借入れをした上で準備預金として

1.62%(所要準備金付利金利)の利息を受け取っていた部分であり、対象金融機関にとっては 1.68%

(3.30%-1.62%)のコスト軽減に繋がった。このコスト軽減は、人民銀行が金融機関の体質改善と

積極的な融資を企図したものと思われる。

3.人民元金利動向と先行き

これらの施策をうけて、資金市場の流動性は

潤沢な状況が継続し、マネー金利は 2018 年に

入ってから徐々に低下。銀行間資金市場金利の

指標である Shibor は、人民銀行による各種資

金供給オペの金利(※1)に近い水準まで低下

し、その後は同水準で安定的に推移している。

(図表⑥、図表⑦)

人民銀行の資金供給オペは市場の流動性を

コントロールするツールであることから、仮に

マネー金利がオペ金利を下回る状況が継続す

ると、参加者は調達コストが割高となる資金供

給オペを利用しなくなり、流動性コントロール

ツールとしての機能が損なわれる、或いは参加

者は自身の流動性指標悪化を防ぐために資金

供給オペを利用しても、市場で運用する際に逆

鞘となり、大幅なコスト増に繋がってしまう。

これが現状の Shibor がオペ金利水準に収斂し

ている要因であり、逆に言えばオペ金利の引き

下げ(※2)が実施されないうちは、Shiborの

水準は現状のまま大きく変わらないと予想す

る。

※1 OMO(7日物:2.55%、14日物:2.70%、28 日物:2.85%)、MLF(3ヶ月物:3.05%、6ヶ月

物:3.15%、1 年物:3.30%)。但し MLF の 3 ヶ月物は 2016 年 8 月以降、6 ヶ月物は 2017 年 6 月

以降実績なく、現行水準推定。

※2 オペ金利の引き下げを実施しづらい理由として、過度な人民元安とそれに伴う資本流出を誘

発する懸念があり、実際、2018 年 3 月までは米利上げの直後に資金供給オペの金利を 0.05%引き

上げることで、米ドルと人民元の金利差拡大を防止、或いは防止する意向を示している。(但しそ

れも 6月以降は実施せず、国内の低金利政策に重点をおいている状況である)

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

O/N 1W 2W 1M 3M 6M 1Y

資金供給オペ金利

Shibor(11/16時点)

【図表⑦Shiborの金利カーブ】

【出所:Bloomberg、筆者推計】

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

Jan

-18

Feb

-18

Mar

-18

Ap

r-1

8

May

-18

Jun

-18

Jul-

18

Au

g-1

8

Sep

-18

Oct

-18

No

v-1

8

Shibor(O/N物)

Shibor(3ヶ月物)

Shibor(1年物)

【図表⑥Shibor推移】

【出所:Bloomberg】

3.553%

3.023%

2.345%

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中国アドバイザリーの現場から

15 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

大規模な流動性供給を受けて Shiborが低下することにより、金融機関はより高い利鞘を求めて、

非金融機関向け貸出に積極的になり、結果として金

融機関全体で貸出金利の目線が引き下げられる。【図

表⑧】の通り、過去においても Shiborの変動にやや

遅れる形で、非金融機関向け貸出金利も同方向に動

いている。但し、貸出基準金利については 2015年 10

月以降変更されておらず、金利政策上の意義も薄れ

ていることから、今後、貸出金利に対する更なる低

下圧力が必要と判断されれば、資金供給オペ金利の

引き下げを実施する可能性が高いと思われる。

4.おわりに

11月 6日に実施された米中間選挙では、上院でトランプ政権が過半数の議席を維持した一方、下

院では民主党が過半数をとる、いわゆる「ねじれ国会」となったが、貿易摩擦に関する対中スタン

スは民主党も同じであることや、依然としてトランプ氏が持つ外交上の権限は大きいことを踏まえ

ると、米中貿易紛争の先行きに大きな影響は無いだろう。

中国としては既発の政策の効果を見極めるだけの時間的余裕がなければ、市場に安心感を与える

ためにも景気刺激策を断続的に打ち続ける可能性があり、その場合、減税やインフラ投資の増加等

の的を絞った財政政策に重点を置きつつも、必要に応じて資金供給オペ金利の引き下げ、預金準備

率の更なる引き下げといった金融緩和策を実施する可能性は残る。

以 上

【図表⑧非金融機関向け貸出金利等】

【出所:Bloomberg】

2

3

4

5

6

7

8

2014 2015 2016 2017 2018

非金融機関向け貸出金利 Shibor(3ヶ月物)

中国基準貸出金利(1年物) 人民銀行資金供給金利

(OMO:7日物)

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中国戦略

16 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

カスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス ~KPMG 中国の顧客経験調査の結果から~(1)

本稿のキーポイント

トップ企業が顧客を中心とするビジネスモデルにシフトし、顧客重視の戦略を導入するよう

になったことに伴い、顧客が体感する経験、いわゆるカスタマー・エクスペリエンスが企業の成

功を示す重要な指標になりました。競合他社と比較して顕著に優れたカスタマー・エクスペリエ

ンスの提供はブランドロイヤリティとブランド訴求力を高め、結果として収益と成長を促進す

ることがわかっています。

KPMG の調査では、あらゆる業界において、テクノロジーをうまく活用して顧客との意思の疎

通を円滑化し、業務効率を高めて顧客へのサービス提供の改善に成功した企業が中国本土でカ

スタマー・エクスペリエンスのリーダーになっているという結果が出ています。中国のインター

ネットユーザーの 95%以上がモバイルデバイスを使ってウェブにアクセスしていることから、

中国本土のブランドにとって、モバイルテクノロジーの導入が特に重要であることもわかって

います1。実際に今年の調査では、トップブランドの多くが Alipay(アリペイ/支付宝)や WeChat

Pay(ウィーチャットペイ/微信支付)などの優れたモバイル決済を取り入れていることが明ら

かにました。

中国本土の消費者と比べると香港の消費者は現在のところ、人同士のやり取りに重きを置い

ており、オンラインよりもオフラインでブランドとやり取りすることに慣れています。物流大手

の SFエクスプレスやコーヒーチェーンのスターバックスのように香港でカスタマー・エクスペ

リエンスを成功させている企業は、オムニチャネル戦略を実行することで多様かつ総合的なア

プローチを採用しています。デジタルテクノロジーを使ってエクスペリエンスを個々の顧客に

カスタマイズし、顧客の時間と労力の節約を可能にするという戦略です。

世界的な勝ち組ブランドは、カスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス(Customer

Experience Excellence; CEE)を支える 6つの重要な柱(“シックス・ピラー”)において先進的

であり、これらの柱がカスタマー・エクスペリエンス・エクセレンスの根幹となっています。理

想のエクスペリエンスに共通する 6つの独立した基本要素とは、パーソナライズ、誠実性、期待

の充足、問題解決力、利便性、親密性です。中国本土と香港では、誠実性がカスタマー・エクス

ペリエンス・エクセレンスの最も重要な柱であり、顧客との関係を確立し、維持するための鍵を

握ります。誠実性が信頼より優先され、信頼は顧客へのコミットメントより優先されます。それ

を示すように、KPMG 中国の「2018年中国 CEO調査(2018 China CEO Survey)」でも、中国の CEO

はブランドの評判をビジネス成長と顧客数増加の重要な要因と捉えています2。したがって、KPMG

の CEE調査で、誠実性がカスタマー・エクスペリエンスのリーダー企業の最も重要な強みとして

認識されているのは当然です。

特に中国本土市場では、顧客も同様に現地化された製品・サービスを強く望んでいます。結果

1 「The 41st China Statistical Report on Internet Development(第 41回中国インターネット発展状況統計報告)」中国

互聯網信息中心(CNNIC)(2018年 1月)http://www.cac.gov.cn/2018-01/31/c_1122347026.htm 2 「Collaborating and innovating for growth: 2018 China CEO Survey(成長のための協力とイノベーション:2018年中

国 CEO調査)」KPMG中国(2018年 6月) https://home.kpmg.com/cn/en/home/insights/2018/05/china-ceo-outlook.html

KPMG Advisory(China)編

厚谷 禎一 監訳

http://kpmg.com/cn/gjp

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中国戦略

17 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

として、「グローカル化」(現地の文化とブランドの国際的アイデンティティの両方が反映される

ように製品やサービスを設計・改良すること)が、中国本土と香港で顧客を満足させるための、

成功率の高い一般的な戦術であることがわかりました。

カスタマー・エクスペリエンス・エクセレンスの 6つの柱(The Six Pillars)

カスタマー・エクスペリエンスの「シックス・ピラー」モデルは、優れたエクスペリエンスが

実現しなければならない感情的な成果を正確かつ実践的に定義するために考案されました。従

来のカスタマー・エクスペリエンスの説明方法での定義も関連する手段も(NPS や CSAT など)、

優れたカスタマー・エクスペリエンスのあり方を定義するには不十分でした。根拠の大半は、デ

ータ主体というよりは概してエピソード的なものであったため裏付けに欠けていました。

8 年がかりの調査と多数の市場での 200 万件以上の評価に基づき、KPMG のカスタマー・エク

スペリエンス・エクセレンス・センターは、優れたカスタマー・エクスペリエンスに共通する 6

つの基本要素を明らかにし、定義・検証しました。それがカスタマー・エクスペリエンス・エク

セレンスの「シックス・ピラー」です。6つの要素は互いに密接に関連しており、これらを合わ

せてみること

で、いくつも

の チ ャ ン ネ

ル、業界、組織

にまたがるカ

スタマー・エ

クスペリエン

スがどの程度

うまくいって

いるのかを示

すための強力

なメカニズムが明らかになります。

ロイヤリティとブランド訴求力を高める上でシックス・ピラーが持つ重要性

シックス・ピラーはカスタマー・エクスペリエンス・エクセレンスを明確にするだけではなく、

商業的成功を予測するための判断材料でもあります。このシックス・ピラーの全分野で好成績が

得られれば、ロイヤリティとブランド訴求力が強化されるからです。

他のいくつかの市場とは異なり、中国本土ではシックス・ピラーがロイヤリティとブランド訴

求力の強化に与える影響が均等に分散しています。その中でもブランド訴求力を高める上でパ

ーソナライズが最も重要な柱であることがわかりました。一方、ロイヤリティの構築に関して相

対的に重要度が高いのは誠実性でした。これらの柱に関して高評価を受けたブランドは、顧客の

信頼を勝ち取り、個々の顧客の独自のニーズに沿ってサービスを提供できることが解りました。

出所: KPMGの中国カスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス調査 2017年 12月

誠実性

誠実に対応し、信頼関係を構

築する

問題解決力

不快な体験を優れた経験に

変える

親密性

顧客の状況を理解して、親密

さを高める

パーソナライズ

顧客一人ひとりに気を配り、感

情的なつながりを深める

期待の充足

顧客の期待に対応し、期待を満

たし、期待以上のサービスを提

供する

利便性

顧客の労力を最小限に抑え、ス

ムーズなプロセスを創出する

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中国戦略

18 MIZUHO CHINA MONTHLY

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カスタマー・エクスペリエンスを業績に結び付ける

とりわけ優れたカスタマー・エクスペリエンスの提供に成功した企業は、忠誠心の強い顧客基

盤を構築するための土台を持っています。これらの顧客は再購入の可能性がより高く、価格への

こだわりがあまりなく、クロスセ

ルに対しても高い受容性を持って

います。彼らはブランドの橋渡し

役となり、口コミを通じて新しい

顧客を呼び込みます。これにより、

長期的に顧客リテンションと顧客

獲得のためのコストが低減され、

ブランド価値が高まり、売上が伸

びて、最終的にはビジネスの業績

が向上します。

右の概念モデルは、KPMGのカス

タマー・エクスペリエンス・エク

セレンス・センターの調査をもと

に、カスタマー・エクセレンスが

利益をもたらす仕組みを図で表わ

したものです。

株主価値の向上

一次的な 成果

再購入を生むロイヤリティ

クロスセル 価格へのこだわりの低下

肯定的な口コミ

二次的な

成果

顧客獲得コス

トの低減 サービス提供コストの低減

安定した顧客基盤

価格の上昇

売上の拡大 肯定的な評判

株主価値 の実現

キャッシュ フローの加速

キャッシュ フローの増加

不安定さ/

脆弱性の低減 事業価値の 拡大

出所: KPMGのカスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス・センター

パーソナライズ

ロイヤ

リティ ブランド訴求力

誠実性 期待の充足 問題解決力 利便性 親密性

出所: KPMGの中国カスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス調査 2017年 12月

ロイヤリティとブランド訴求力を高める上でシックス・ピラーが持つ重要性

(中国本土)

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中国戦略

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2018年12月号

中国本土に関するインサイト

中国本土の業界概観

中国市場は世界で最も成長著しい市場の 1つです。中国本土の住民の可処分所得が上昇する

につれ、消費者が所得の中から旅行や高級品、金融商品に充てる金額が増えました。ブランド

が中国の消費者の財布を奪い合うことで、競争は激化しブランドを吟味する目も厳しくなって

います。

消費者のライフスタイルに現れたもう 1つの顕著な変化は、日々の生活ややり取りのかなり

の部分がオンラインに移行したことです。ウィーチャット、アリペイ、タオバオといった人気

のあるプラットフォームが、ブランドと中国の消費者のかかわり方に革命を起こしました。ウ

ィーチャットのアクティブユーザーが月間 10億人に達していることからもわかるように、こ

れらのプラットフォームがとるユーザー中心のアプローチは大変好評です3。これらの成功が、

中国の消費者が期待するブランドとのかかわり方を形成し、現地のみならず世界中で優れたカ

スタマー・エクスペリエンスの水準を引き上げました。

最も評価の高い業界は、こうした顧客行動の変化をつぶさに観察し、機敏に対応して必要な

変更を加えることで成功を収めていることが KPMGの調査結果にも現れています。中国本土で

最も高い実績を上げている業界は、ホテルと航空会社を中心とする旅行・ホテル業界です。調

査対象の消費者は、ホテル業界のパーソナライズ力と、中国ならではの体験を世界的に提供す

る力が特に魅力的だと考えています。

ランキングの 2位には、食料雑貨を除く小売業界が入りました。高級ブランドが、高級志向

の顧客のために完璧なカスタマー・エクスペリエンスの提供に努めているからです。モバイル

決済の好調に後押しされた金融サービス業界は 3位に入りました。調査対象の全業界の中で最

下位にランクされたのは物流業界でした。オンライン小売と Eコマースの活発化に伴う配達量

の急増に対応しつつ、顧客への質の高いタイムリーなサービス提供を維持しようとしています

が苦戦しています。

シックス・ピラーに関する KPMGの調査結果によれば、中国の消費者が一番優先するのは

「パーソナライズ」と「誠実性」です。調査結果を見ると、中国のトップブランドが誠実性の

重視を打ち出していることがわかりますが、「パーソナライズ」の柱についてはまだまだ大き

な改善の余地がありそうです。香港・広東地域再開発計画、いわゆるグレーター・ベイ・エリ

ア(“GBA”)イニシアチブやスマートシティなど、これから中国で展開される巨大プロジェク

トを考えると、中国の消費者はますますデジタルでつながるようになるでしょう。企業は今後

も最新テクノロジーを活用し、オンラインでもオフラインでも、パーソナライズされたエクス

ペリエンスに対する顧客の欲求を満たす、一元化されたオムニチャネル型アプローチを提供す

べきです。

「カスタマー・エクスペリエンスのトップ企業は、中国のブランドが進化するために集中すべ

き 3つの重要な分野を示している。それは、イノベーションを推進し、デジタルテクノロジー

とモバイルテクノロジーの活用を継続したいという欲求、誠実性の重視、ますます高まる顧客

3 「Tencent Holdings Limited 2017 annual report(テンセント(騰訊)2017年度年次報告書)」Tencent Holdings

Limited(2018年 3月 31日)https://www.tencent.com/en-us/articles/17000391523362601.pdf

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の期待に応えられるハイレベルなエクスペリエンスを提供する能力だ」

KPMG中国 マネジメント・コンサルティング責任者 Reynold Liu

中国本土各業界の重点分野

金融サービス

中国本土の金融サービス業界では、モバイル決済が最も優れたカスタマー・エクスペリエンス

を提供しています。これらフィンテック企業の成績が、金融サービス業界の他の企業の水準を押

し上げています。中国本土の消費者目線で見ると、2位の銀行はカスタマー・エクスペリエンス

の面で大きく水を開けられ、保険会社がこれに続きます。

この業界のランキングに大きな開きができた原因の 1 つが各社の起源であることはほぼ間違

いないでしょう。アリペイ、ウィーチャットペイその他のフィンテック企業は比較優位性を持っ

ています。従来型の銀行や保険会社が、組織のニーズへの対応を目的とした昔ながらのプロセス

にこだわりがちなのに対し、これらのフィンテック企業は、顧客を中心にサービスを構築した新

参のテクノロジー企業だからです。そのような原因で、金融サービス業界も次第にテクノロジー

を活用による顧客中心モデルに移行していくと考えられます。各社とも、よりカスタマイズされ

た金融商品とともに、より効率的でパーソナライズされた顧客サービスを提供するようになる

でしょう。

銀行業と決済:進むキャッシュレス化とデジタル化

決済業は、金融サービスの中だけでなく、より幅広い市場においてもカスタマー・エクスペリ

エンスの水準を高めました。オンライン決済サービス、モバイル決済サービスはユーザーに優し

く、便利で利用しやすいだけでなく、大規模な消費者基盤にアピールするオファーやプロモーシ

ョンを定期的に提供しています。特にキャッシュレスでのライフスタイルに慣れているミレニ

中国本土各部門の成績

CEEスコア

旅行・ホテル

小売(食料雑貨を除く)

金融サービス

食料雑貨小売

レストラン・ファストフード

物流

注: CEEスコアはシックス・ピラーの各項目に関するブランドの加重平均スコアをもとにしている。

出所:KPMGのカスタマー・エクスペリエンス・エクセレンス・センター

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中国戦略

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アル世代は、モバイル・ペイメント・プラットフォームを多くの場面で利用しています4。KPMG

の調査によれば、中国の消費者の 88%が商品やサービスの支払いにウィーチャットペイまたは

アリペイを利用しています5。最終的にはモバイル決済の普及によって、現金引出/預金といっ

た従来型バンキングサービスや、クレジットカード、デビットカード、小切手などの商品の必要

性は薄れるでしょう。

中国本土最大級の企業が出資する MyBank(網商銀行、アリババ系)や aiBank(百信銀行、バ

イドゥ系)などのバーチャルバンク、ダイレクトバンクも、この分野の破壊的パイオニア企業に

なる可能性があります。これらのバーチャルバンクやダイレクトバンクはオンラインバンキン

グでサービスを提供し、実店舗とは一切関係を持たないので、顧客はあらゆるバンキング取引を

インターネットで行います。こうしたサービスは利用しやすく便利であることから、テクノロジ

ーに精通し、デジタルで接続された顧客基盤にとって大変有用です。

先端技術の活用

モバイル決済企業やバーチャルバンクとの熾烈な競争で遅れをとらないために、ますます多

くの従来型銀行がテクノロジーに投資し、カスタマー・エクスペリエンスの効率化を図っていま

す。金融サービス業界の最優秀企業としては、招商銀行(China Merchants Bank/CMB)と交通

銀行(Bank of Communications/BOCOM)が挙げられます。招商銀行もその他の銀行も、ATMで

の顔認識技術の導入、待ち時間の短縮、キャッシュカードなしの現金引出しによって、顧客の時

間と労力を省くための対策を講じています。招商銀行は同時に、なるべく来店して対面でアドバ

イスを受けなくて済むように、オンライン資産管理プラットフォームにロボアドバイザーを取

り入れました。さらに交通銀行は、320以上のバンキング機能を処理できるモバイルアプリケー

ションの双方向でのエクスペリエンスを改善し、使い勝手を良くすることによって顧客の時間

と労力を省こうと努めています6

人とのつながり

それでも、ターゲットを定めた人間同士のやり取りは、顧客との信頼を築き、感情に大きく訴

えるカスタマー・エクスペリエンスを創出する上で重要な決め手であり、オンライン決済企業に

対抗して従来型の銀行が提供できる競争上の強みになります7。バンキングの世界では、ベテラ

ンの取引先担当者を通じてパーソナルサービスを提供し、顧客との関係を深める機会が存在し

ます。取引先担当者の重要な役割に気付いた交通銀行は、研修による取引担当者チームの強化に

投資しました8。

4 「2017 Mobile payment usage in China report(2017年中国におけるモバイル決済の利用報告書)」China Tech Insights

(2017年 8月)https://www.ipsos.com/sites/default/files/ct/publication/documents/2017-

08/Mobile_payments_in_China-2017.pdf 5 「Me, my life, my wallet(進化する消費者の先を読む)」KPMG International(2018年 2月)

https://home.kpmg.com/xx/en/home/campaigns/2017/11/me-my-life-my-wallet.html 6 「Bank of Communications: 2017 Interim Report(交通銀行:2017年中間報告書)」Bank of Communications Co., Ltd.

(2017年 9月)

http://www.bankcomm.com/BankCommSite/shtml/zonghang/en/3182/3195/3197/85283.shtml?channelId=3182 7 「Mainland China Banking Survey 2017(中国本土バンキング調査 2017年)」KPMG中国(2017 年 7月)

https://home.kpmg.com/cn/en/home/insights/2017/07/2017-mainland-china-banking-survey.html 8 「Bank of Communications: 2017 Interim Report(交通銀行:2017年中間報告書)」Bank of Communications Co., Ltd.

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中国戦略

22 MIZUHO CHINA MONTHLY

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プロセスのデジタル化がますます進む一方で、住宅ローン、融資、資産管理といった一部の口

座管理業務に関して、顧客は銀行に対して何らかの対面によるカスタマイズされたサービスを

今でも期待しています。とは言いながら、送金などの日常的な取引で銀行の支店に出向きたいと

いう顧客はもはや少なくなっています。銀行はデジタル化計画を進めるだけでなく、顧客が人と

人とのやり取りを重んじるタッチポイントを特定し、優先すべきです。

保険

中国本土の銀行業界、決済業界と比べ、保険業界は優れたカスタマー・エクスペリエンスの提

供という面で有力企業から学ぶべきことが多くあります。KPMG の調査対象に含まれる多くの保

険会社は、「誠実性」と「利便性」の柱に関する評価が調査の平均を下回っており、トップ 50に

入った保険会社は 1社のみでした。

顧客重視のアプローチ

しかし、保険会社は顧客重視の変革の時代に突入しました。唯一、保険会社でトップ 50に入っ

た中国人民財産保険(PICC)は、顧客中心モデルへの転換に関して大きな進展を見ました。PICC

のデジタル化戦略の目標は、顧客が同社のサービスに簡単にアクセスできる、集中型のオンライ

ン/モバイル・セルフサービス・プラットフォームを開発することによって顧客の時間と労力を

省くことです。PICCは、「親密性」と「問題解決力」の柱についても高い評価を受けました。PICC

は、旧正月の旅行急増期の重大事故発生時に無償でヘリコプターによる救命サービスを提供す

るとともに、ロードサービスが必要な旅行者のために路上無料緊急休憩所を設けました9。PICC

の顧客中心の理念は功を奏し、グループの昨年の利益は二桁成長を記録しました10。

保険業界のイノベーション

保険業界で起きているイノベーションの中で最も目を引く事例の 1つとしては、テンセント

(騰訊)が出資する衆安保険(ZhongAn Insurance)が挙げられます。衆安保険は中国初となる

オンライン専門の保険会社です。テクノロジーを強化し、人工知能(AI)を導入することにより、

それぞれの顧客に合わせてカスタマイズされた保険料の提示を可能にしました。さらに、上海に

本社を置く同社は画期的な保険契約のパイオニアでもあります。衆安保険は単一の自社専用の

プラットフォームに依存するのではなく、さまざまな消費者セグメントに保険商品を提供でき

る多様なオンラインエコシステムを構築するために、中国最大手のテクノロジー企業数社を含

む約 200社と提携しました11。例えば同社は、ベストセラーの返品送料補償保険をアリババのタ

オバオネット(淘宝網)で直接提供しています。これは、中国本土以外ではほとんど耳にしない

(2017年 9月)

http://www.bankcomm.com/BankCommSite/shtml/zonghang/en/3182/3195/3197/85283.shtml?channelId=3182 9 「PICC launches “land and air escort service” during the Lunar New Year travel rush(PICCが旧正月の旅行急増

期に『空陸エスコートサービス』をスタート)」人民日報(2018年 2月 6日)

http://gx.people.com.cn/n2/2018/0206/c179430-31227501.html 10 「PICC: Annual Report 2017(PICC:年次報告書 2017年)」The People’s Insurance Company (Group) of China

Limited(2018年) http://www.picc.com.cn/res/PICCCMS/structure/079a2e300e5ad34beecbd5ca7c2d0b76.pdf 11 「Post hearing information pack of Zhongan Online P&C Insurance Co., Ltd.(Zhongan Online P&C Insurance Co.,

Ltdのヒアリング後情報パッケージ)」The Stock Exchange of Hong Kong Limited(2017年)

http://www.hkexnews.hk/listedco/listconews/SEHK/2017/0928/LTN20170928047.pdf

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中国戦略

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2018年12月号

商品です。

ケーススタディ

アリペイ(Alipay/支付宝)

今年の中国本土分析でずばぬけた成績を上げた企業はアリペイです。同社は「シックス・ピラ

ー」のすべてにおいて非常に高い評価を受けました。2004 年にタオバオ(中国本土の支配的な

オンラインマーケットプレイス)のモバイル/オンライン決済子会社として設立されたアリペ

イはその後、金融サービス以外にも事業を発展させ、5億 2,000万のユーザーに、旅行・ホテル

の予約、ライドシェア、フードデリバリー、診察予約など、多数の日常活動を行うための信頼で

きるプラットフォームを提供しています12。アリペイの「利便性」のスコアは調査の平均を大き

く上回っています。顧客に提供されるこうした利便性がスコアに表れた形です。

オンライン取引のための信頼できるプラットフォーム

アリペイの成功をもたらした重要な貢献要因は、ブランドの信頼と誠実性の構築を重視する

姿勢です。アリペイは、創業当初から顧客満足を念頭に置いて設計されました。オンラインショ

ッピングの課題の 1 つは、直接商品を見ずに商品の品質と真贋をどうやって判断するかです。

アリペイは、買い手が記載どおりの状態で商品を受け取るまで、売り手への支払いを保留する、

いわゆるエスクローサービスを導入することによって顧客の不安を軽減しました。

「皆様のセキュリティは私たちの責任」

毎日夥しい数の取引を処理するアリペイは、業界

最高水準のサイバーセキュリティ・テクノロジーを

導入し、「皆様のセキュリティは私たちの責任」とい

うブランドとしての誓約を実現しています。 アリ

ペイは、リアルタイムでビッグデータ解析を実行

し、疑わしい取引とユーザーを発見するためのリス

クモニタリング/マネジメントシステムを開発し

ました。これにより、アリペイは不正行為を防止し、

顧客が気付く前に問題を是正することができます。

途切れることのないつながり

中国本土は世界最大のモバイル決済市場であり

13、2017年の時点で約 7億 5,300万人がモバイルで

インターネットにアクセスしています14。中国の消

12 「Alipay homepage(アリペイ・ホームページ)」 AliPay(2018年 6月 15日アクセス)https://intl.alipay.com/ 13 「eMarketer releases new global proximity mobile payment figures(eMarketerが最新のグローバル・プロキシミテ

ィ決済データを発表)」eMarketer(2018年 2月 12日)

https://retail.emarketer.com/article/emarketer-releases-new-global-proximity-mobile-payment-

figures/5a821109ebd4000744ae4118/ 14 「Five surprising facts about China’s internet users(中国インターネットユーザーの驚くべき 5つの事実)」Man-

アリペイ

中国本土の CEE

シックス・ピラーにおける

業界平均とのスコア比較

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中国戦略

24 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

費者はますますモバイルデバイスに依存するようになりました(携帯電話をなくすぐらいなら

財布をなくしたほうがいいと 71%の消費者が考えています)。これに伴い、アリペイに代表され

るカスタマー・エクスペリエンスの有力企業は、顧客が取引を実行する場所で常に利用できるよ

うにしました15。機内販売であっても、欧州の高級ブティックでのショッピングであっても、空

港での租税還付請求であっても、アリペイは海外でのサービス提供を拡大し、ますます多くの中

国人旅行客に親しみやすく、信頼できるプラットフォームを提供することによって顧客の期待

を超えていきます。

「アリペイには多彩な機能がある。割引もあるし、決済するとポイントも集められる。そのほか

に請求書の支払いや自転車シェアリング・サービスもある。私が参加できるチャリティ活動もあ

る」

中国本土の回答者

来月号では、引き続き中国本土各業界の重点分野におけるカストマー・エクスペリエンス・エ

クセレンスのポイントと事例を紹介します。

Chung Cheung、eMarketer(2018年 2月 26日)

https://www.emarketer.com/content/five-insights-on-how-china-s-internet-have-grown-in-the-past-year 15 「Me, my life, my wallet(進化する消費者の先を読む)」KPMG International(2018年 2月)

https://home.kpmg.com/xx/en/home/campaigns/2017/11/me-my-life-my-wallet.html

厚谷 禎一 KPMG Advisory (China) Limited パートナー

東京工業大学理学部卒業・同大学理工学部修士課程修了(情報科学専攻)

米国ペンシルバニア大学ウォートン校経営学修士(財務専攻)

これまで 30 年にわたり、日本、米国、カナダ、英国、韓国にて経営コンサルティ

ング会社及び会計事務所に勤務、各国企業顧客に戦略・M&A・オペレーション等の

分野でのアドバイザリー・サービスを提供。

2003年より KPMG LLP(米国)ニューヨーク事務所に勤務、事業デュー・ディリジ

ェンスを中心とした M&A支援サービスを提供。

2008年より KPMG中国の上海事務所、2012 年より北京事務所にて勤務、主に日本企

業顧客に対してアドバイザリー・サービスを提供。

専門は市場評価、事業計画の精査、M&A 実施後の統合支援等を含む事業デュー・

ディリジェンスだが、日本企業顧客に対しては広く、事業戦略立案、財務・税務デ

ュー・ディリジェンス、企業価値評価、不正調査、リストラクチャリング支援等を

含む、コンサルティングサービス全般のプロジェクト・マネジメント・サービスを

提供する。

KPMG(中国)のみずほチャイナマンスリーへの寄稿記事のバックナンバーは、下記ウ

ェブサイトでも閲覧可能。

https://home.kpmg.com/cn/zh/home/services/special-focus-groups/global-

japanese-practice/newsletter/others/mizuho.html

+86 10 8508 7111

[email protected]

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法務

25 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

2018 年の重要立法を振り返る(上)

1. 2018 年を振り返って

2018 年も、昨年に引き続き、中国国外投資の規制緩和、「電子商務法」の制定その他の民商事法

分野における実務的な内容の改正が幾つもなされました。2018 年における重要な法令を 2 回に分

けて解説します。今回は、投資関連、民商事法、インターネット関連の重要立法等を取り上げます。

2.投資関連

① 企業国外投資管理弁法(国家発展改革委員会、2017 年 12 月 26日公布、2018 年 3月 1日

施行)

2017年 12月 26日「企業国外投資管理弁法」1(以下「本弁法」といいます。)が公布され、2018

年 3月 1日から施行されました。本弁法の施行に伴い、2014年 5月 8日から施行されている「国外

投資プロジェクトの確認審査及び届出管理弁法」2(以下「旧弁法」といいます。)は廃止されまし

た。

中国企業による国外投資が益々増加する中、中国企業による日本への投資も増加しており、当該

案件に関与している日本企業も増加しているものと思われます。中国からの国外投資プロジェクト

における事前手続の内容は、当該プロジェクトの全体スケジュールにも影響を与え得る重要な点と

思われますので、以下では旧弁法からの改正点にも触れつつ、本弁法が定める事前手続の内容につ

いて紹介します。

(1)概要

本弁法は、(i)中国国内企業が直接国外投資を行う場合3、(ii)中国国内企業又は自然人がその

支配する国外企業を通じて国外投資を行う場合に、投資対象の国・地域及び業界等に応じて許認可

や届出等の手続を義務付けています。

国外投資の具体例として、国外企業の新設や既存国外企業への増資のほか、国外の土地所有権・

使用権の獲得、国外企業の経営管理権の獲得、国外資産の所有権の獲得、国外固定資産の新設・増

改築等が挙げられます(本弁法第 2条第 2項)。

本弁法を公布する趣旨は、国家発展改革委員会による国外投資へのマクロ的な指導及び監督管理

1 《企业境外投资管理办法》 2 《境外投资项目核准和备案管理办法》 3 国外投資は「中国国内における企業が直接若しくは支配する国外企業を通じて、資産、権益の投入若しくは融資、担保の提供

等の方式で、国外所有権、支配権、経営管理権及びその他の関連権益を獲得する投資活動」と定義されています(本弁法第 2条

第 1項)。

西村あさひ法律事務所

弁護士 野村 高志

弁護士 志賀 正帥

弁護士 早川 一平

弁護士 木下 清太

弁護士 福王 広貴

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法務

26 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

の強化、国外投資の総合的なサービスの最適化、国外投資の健全な発展の促進、並びに国家の利益

及び安全の保障を図ることにあると規定されています(本弁法第 1条)4。

(2)認可・届出が必要になるプロジェクト

(i)直接投資

国外投資が、センシティブな国・地域5又はセンシティブな業界6に係るプロジェクト(以下「敏

感類プロジェクト」といいます。)に該当するか否かで、認可が必要か、又は届出で足りるかが異な

ります7。

敏感類プロジェクトに該当する場合、国家発展改革委員会による審査認可を受ける必要がありま

す(本弁法第 13条第 1項、第 2項)。

他方、敏感類プロジェクトに該当しない場合は、認可ではなく、届出で足ります(本弁法第 14条

第 1 項)。届出機関は、投資主体及び中国側の投資額8に応じて異なり、投資主体が①中央管理企業

である場合、又は②地方企業であり、かつ中国側の投資額が 3億米ドル以上である場合、届出機関

は国家発展改革委員会になります。他方、投資主体が③地方企業であり、かつ中国側の投資額が 3

億米ドル未満である場合、届出機関は投資主体登録地の省レベル政府の発展改革部門になります

(本弁法第 14条第 2項)。

(ii)支配する国外企業による投資

本弁法は、中国国内企業又は自然人が、その支配する国外企業を通じて国外投資を行う場合も、

事前手続等の規定が適用されることを明記しています。

直接投資の場合と同様、国外投資が敏感類プロジェクトに該当する場合、国家発展改革委員会に

よる審査認可を受ける必要があります(本弁法第 13 条第 1 項、第 63 条第 1 項)。他方、敏感類プ

ロジェクトに該当しない場合、認可及び届出は不要です。但し、敏感類プロジェクトに該当しない

場合でも、中国側投資額が 3億米ドル以上の場合は、国家発展改革委員会に「大口の非敏感類プロ

ジェクト状況報告表」を提出する必要があります(本弁法第 42条)。

4 (2)以下で述べる通り、旧弁法と比較して、本弁法では、プロジェクト情報報告制度の廃止、認可・届出手続期限の緩和や

オンライン申請手続の推進により、企業に対し国外投資の利便性向上を図る一方、国内企業及び国内自然人が支配する国外企業

による国外投資も管理の範囲に組み入れること等で企業の国外投資の監督管理を強化しています。 5 「中国と外交関係のない国又は地域、戦争や内乱が発生している国又は地域、中国が締結し又は参加する国際条約や協定等に

よって中国企業の投資が制限される国又は地域、並びにその他センシティブな国及び地域」を指します(本弁法第 13条第 3項)。 6 「武器設備の研究開発、生産及び修理、国を跨る水資源の開発及び利用、新聞マスコミ並びに中国の法律法規及び関連する調

整制御政策によって、中国企業の投資を制限する必要がある業界」を指します(本弁法第 13条第 4項)。 7 旧弁法は、認可・届出手続とは別に、中国側投資額が 3億米ドル以上の国外買収プロジェクト、国外入札プロジェクトについ

て、企業が実質的な業務を対外展開する前に国家発展改革委員会へ「プロジェクト情報報告」 を送付することを求めていまし

たが(旧弁法第 10条)、本弁法はこれらの条文を削除し、プロジェクト情報報告制度を廃止して事前管理プロセスを簡素化して

います。 8 中国側の投資額とは「投資主体が直接及びその支配する国外企業を通じてプロジェクトのために投入する通貨、証券、現物、

技術、知的財産権、持分、債権等の資産、権益及び提供する融資、担保の総額」を指します(本弁法第 14条第 4項)。

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2018年12月号

上記(i)及び(ii)の内容を纏めたのが下記表です。

プロジェクト種類 投資方式 投資主体 手続分類 認可・届出・報告機関

敏感類プロジェクト

(センシティブな

国・地域、センシテ

ィブな業界)

直接 中央管理企業

地方企業 認可 国家発展改革委員会

支配する国外

企業経由 自然人・企業

その他

直接

中央管理企業

地方企業(3億米ド

ル以上) 届出

国家発展改革委員会

地方企業(3億米ド

ル未満)

省レベル政府の発展改革

部門

支配する国外

企業経由

自然人・企業(3億

米ドル以上) 報告 国家発展改革委員会

自然人・企業(3億

米ドル未満) 不要 -

(3)認可・届出申請のタイミング

旧弁法では、投資主体が対外に法的拘束力を有する最終的な書類を締結するまでに、国家発展改

革委員会が発行する認可文書若しくは届出通知書を取得し、又は締結する書類において国家発展改

革委員会が発行する認可文書若しくは届出通知書を取得することを発効条件として明記する必要

があると定められていました(旧弁法第 25条)。

これに対し、本弁法では、プロジェクトの実施までに、すなわちプロジェクトのために資産若し

くは権益を投入、又は融資若しくは担保を提供するまでに、認可文書又は届出通知を取得すれば足

りるものとされています(本弁法第 32条)。かかる改正により、例えば中国企業による日本企業へ

の出資案件においては、本弁法上の必要な手続の完了を取引実行の前提条件として規定しつつ、当

事者間で法的拘束力を有する最終契約を締結することも可能になると考えられます。

(4)認可・届出申請の手続及び所要期間

認可及び届出は、いずれもオンラインシステムにより申請手続を行うことになります(本弁法第

18条及び第 29条第 1項)。

認可制が適用される場合、認可機関は、申請報告を受理してから原則として 20 営業日以内に認

可結果を決定し(本弁法第 25条第 1項)9、届出制が適用される場合、届出機関は、申請報告を受

理してから 7営業日以内に届出通知書を発行するものと規定されています(本弁法第 31条第 1項)

10。

9 認可条件は「①中国の法律・法規に違反しないこと、②中国の関連発展計画、マクロコントロール政策、産業政策、対外開放

政策に違反しないこと、③中国が締結若しくは参加している国際条約、協定に違反しないこと及び④中国の国家利益、国家安全

を脅かさず、損なわないこと」と規定されています(本弁法第 26条)。 10 届出機関が「①プロジェクトが関連法律・法規に違反すること、②関連計画若しくは政策に違反すること、③関連国際条約若

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3.民商事法

①「中華人民共和国会社法」の改正に関する決定(全国人民代表大会常務委員会、2018年 10月 26

日公布、同日施行)

(1)背景

旧「会社法」第 142条(以下「旧規定」といいます。)は、会社が自己株式を購入することを原

則禁止とし、4 つの法定事由に該当する場合に限り、自己株式の購入を認めてきました。しかし、

上記法定事由は非常に限定されており、現在増加する会社による従業員等に対するストックオプシ

ョンの付与や、転換社債の活用に関するニーズに対応できていませんでした。また、旧規定におい

ては、自己株式購入は必ず株主総会の決議を必要としており、それが自己株式購入を行う際の 1つ

の障害となっていました。

そこで、2018年 10月 26 日付に「『中華人民共和国会社法』の改正に関する決定」が採択され、

新「会社法」が同日付で公布・施行されました。新「会社法」では、上記のストックオプションや

転換社債のニーズに対応するために、これらを自己株式購入の法定事由として明記したことに加え、

自己株式を取得した場合には、保有期間についても、1年から 3年に緩和されました。

また、一定の目的下においては、自己株式購入を行う際には、株主総会決議ではなく、董事会決

議で足りるとされています。一方で、上場企業による自己株式購入を用いた市場操作を防止する観

点から、自己株式購入の開示について新たに規定を置いていることも今回の改正のポイントの一つ

となります。改正内容は以下の通りとなります。

(2)改正内容

旧規定と改正後第 142条の比較表

旧第 142条 改正後第 142 条

第 142条 会社は自己株式を購入してはならない。

但し、次の各号のいずれかに該当する場合はこの限

りではない。

第 142条 会社は、次の各号のいずれかに該当す

る場合、自己株式を購入することができる。

(1)会社の登録資本を減少する場合 (1)会社の登録資本を減少する場合

(2) 自社株式を保有するその他の会社と合併する場

(2) 自社株式を保有するその他の会社と合併す

る場合

(3) 株式を褒賞として自社の従業員に給付すると

き。

(3) 従業員による株式所有計画又はストックオ

プションに用いる場合

(4) 株主が株主総会で行った会社合併又は分割の決

議に異議を有し、会社にその株式の買取を求め

るとき。

(4) 株主が株主総会で行った会社合併又は分割

の決議に異議を有し、会社にその株式の買

取を求めるとき。

(5) 株式を上場会社の発行した株券に転換可能

な会社債券の転換に用いること。

しくは協定に違反すること、又は④わが国の国家利益及び国家安全を脅かす若しくは損なうことを発見した場合」、投資主体に

届出を認めない旨の書面通知を発行するものと規定されています(本弁法第 31条第 2項)。

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(6) 上場会社が会社の価値及び株主の権益を守

る必要がある場合

会社は、前項第 1号から第 3号までの原因により自

己株式を購入する場合、株主総会の決議を経なけれ

ばならない。

会社が前項の規定に従い自己株式を購入した場合

で、第 1号に該当するときは、購入から 10日以内に

消却しなければならない。第 2号、第 4号に該当す

るときは、6か月以内に譲渡又は消却しなければなら

ない。

会社は、前項第 1号、第 2号の規定する事情によ

り自己株式を購入する場合、株主総会の決議を経

なければならない。会社が前項第 3号、第 5号、

第 6号の規定する事情により自己株式を購入する

場合、会社定款の規定又は株主総会の授権に基づ

き、3分の 2以上の董事が出席する董事会会議の

決議を経ることができる。

会社が第 1項の規定に従い自己株式を購入した場

合で、第 1号に該当するときは、購入から 10日

以内に消却しなければならない。第 2号、第 4号

に該当するときは、6か月以内に譲渡又は消却し

なければならない。

会社が第 1項第 3号の規定により購入する自己株式

は、当該会社の発行済株式総額の 5%を超えてはなら

ない。購入に用いる資金は、会社の税引き後利益か

ら支出しなければならず、購入した株式は 1年以内

に従業員に譲渡しなければならない。

第 3号、第 5号、第 6号の事情に該当する場合、

会社が合計で保有する自己株式数は当該会社の発

行済株式総額の 10%を超えてはならず、3年以内

に譲渡又は抹消しなければならない。

上場会社は、自己株式を購入する場合、「中華人

民共和国証券法」の規定に従い情報開示義務を履

行しなければならない。上場会社は、本条第 1項

第 3号、第 5号、第 6号の規定により自己株式を

購入する場合、取引を証券取引所に集中させ、公

開的に実施しなければならない。

会社は、自己株式を質権の目的物として受け入れて

はならない。

会社は、自己株式を質権の目的物として受け入れ

てはならない。

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2018年12月号

②全国市場監督管理動産抵当登記業務システム応用テスト業務の展開に関する通知(国家市場監督

管理総局(旧「工商行政管理総局」)、2018年 7月 25日発布)

国家市場監督管理総局は、商事制度改革の一環として、動産抵当登記の情報化、規範化、便利化

の更なる推進を目的として、2018 年 5 月 22 日に「全国市場監督管理動産抵当登記業務システム応

用テスト業務の展開に関する通知」を発布しました。一部の地区11(以下「テスト地区」といいま

す。)において、企業又は個人経営者が動産抵当についてインターネット上で登記を行うことがで

き、国家市場監督管理総局での窓口登記手続を行う必要がありません。当該通知の要点は以下の通

りとなります。

(1) 「インターネット+政務サービス」を推進し、全国市場監督管理動産抵当登記業務システ

ム(以下「システム」という。)を通じて動産抵当登記のオンライン申請、オンライン審

査、オンライン公示、オンライン検索の全プロセスをウェブサイト 1つで実現する。テス

ト地区における運用を通じて、システムの応用を強化し、操作フローを完備させ、実務経

験を豊かにすると共に、システム機能を最適化し、高効率かつ利便性の高い動産抵当登記

を行う方法を検討し、全国において応用システムを普及するための基礎を築く。

(2) 応用システムを通じて動産抵当登記を行う場合、「物権法」の規定を厳格に遵守し、「動産

抵当登記弁法」の要求に基づき、抵当者の住所地管轄の工商、市場監督管理部門が当事者

の提出すべき書類に対して審査、登記、公示を行う。システムを使用して登記を行うこと

は、より便利な方法であり、システムが審査して承認した「動産抵当登記書」等の文書は、

窓口において受理された文書と同等の効力を有する。

(3) システムを全面的に応用し、申請者又はその委託した代理人は、オンライン記入→登記機

関の受理・審査→審査通過で登記(審査不通過で却下)→関連情報の公示というフローに

基づく動産抵当登記業務を行う。

③民法総則の訴訟時効の適用に係る若干の問題に関する司法解釈(最高人民法院、2018 年 7 月 18

日公布、2018年 7月 23 日施行)

最高人民法院は 2018 年 7 月 18 日に「『中華人民共和国民法総則』の訴訟時効の適用に係る若干

の問題に関する司法解釈」(以下「本解釈」といいます。)を公布しました(同月 23日施行)。本解

釈は、2017年 10月 1日に施行された中華人民共和国民法総則(以下「民法総則」といいます。)に

おいて、訴訟時効が 3年間に延長されたものの、中華人民共和国民法通則(以下「民法通則」とい

います。)において依然として訴訟時効を 2 年間とする規定が廃止されていないことを受け、これ

らの間の適用関係を明確にするために公布されたものとなります。民法総則の施行時点を基準に判

断を行うと同時に、当事者間の意思の尊重や訴訟時効の満了に対する期待の保護を明確にすること

11 北京市、上海市、遼寧省、江蘇省、浙江省、広西チワン族自治区、陝西省及び武漢市となります。

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法務

31 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

により、「民法総則」及び「民法通則」の間の適用関係を明確にしています。具体的な規定は、以下

の通りとなります。

(1) 民法総則が施行された後に訴訟時効の計算が開始される場合、民法総則第 188 条の 3 年

間の訴訟時効期間の規定を適用しなければならない。当事者が民法通則の 2年間又は 1年

間の訴訟時効期間の規定の適用を主張する場合、人民法院はこれを支持しない。

(2) 民法総則の施行日までに、訴訟時効期間(民法通則の規定する 2年間又は 1年間)が満了

せず、当事者が民法総則の 3年間の訴訟時効期間の適用を主張する場合、人民法院はこれ

を支持する。

(3) 民法総則が施行される前に、民法通則の規定する 2 年間又は 1 年間の訴訟時効期間が既

に満了し、当事者が民法総則の 3年間の訴訟時効期間の規定の適用を主張する場合、人民

法院はこれを支持しない。

なお、民法総則の施行日までに時効中止の原因がなお解消されない場合、民法総則の訴訟時効の

中止に関する規定を適用しなければならないとされています。また、本解釈の施行後、事件がなお

第一審又は第二審にある場合には本解釈を適用するが、本解釈の施行前に既に結審した場合には、

再審に付されても本解釈を適用しないとされています。

4.インターネット関連

①「電子商務法」(中華人民共和国主席令第 7 号、2018 年 8 月 31 日公布、2019 年 1 月 1 日施行)

2018年 8月 31 日、審議を重ねてきた「電子商務法」は、その 4つ目の草案をもって、中華人民

共和国第十三回全国人民代表大会常務委員会第五次会議において可決かつ公布されました。2019年

1月 1日の施行を目前に控え、同法は、中国における初めての電子商取引(中国語では「電子商務」)

に関する一般法としてだけではなく、多角化する中国における電子商取引の現状を意識した法令と

して注目されています。

電子商務法は、「総則」、「電子商取引経営者」、「電子商取引契約の締結及び履行」、「電子商取引の

紛争解決」、「電子商取引の促進」、「法的責任」及び「附則」の 7 つの章、合計 89 か条から構成さ

れています。本稿では、主に同法の適用範囲・対象や電子商取引経営者の義務等について概説しま

す。

(1)適用範囲・対象

電子商務法は、中国国内における電子商取引(インターネット等の情報ネットワークを通じて商

品を販売し、又はサービスを提供する経営活動)に適用されると定められています(電子商務法第

2条第 1項、第 2項)。

電子商務法の規制対象は、インターネット等の情報ネットワークを通じて商品販売又はサービス

提供に係る経営活動に従事する自然人、法人及び非法人組織であり、具体的には下表の①~③を指

すとされています(同法第 9条)。

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法務

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2018年12月号

電子商取引

インターネット等の情報ネットワークを通じて、商品を販売し、又はサービスを提供す

る経営活動

但し、金融商品・サービス、コンテンツサービス(情報ネットワークを利用してニ

ュース情報、音声・映像番組、出版、文化作品等を提供するサービス)を除く

電子商取引経営者

① 電子商取引プラットフォーム経営者(例:amazon、天猫(Tmall)、京東商城、淘宝

網)

② プラットフォーム内経営者

③ 自前のウェブサイトやその他のネットワークサービスを通じて商品を販売し、又は

サービスを提供する電子商取引経営者(例:自社ウェブサイトでの販売を行う企業、

ソーシャル・ネットワークを通じて販売を行う個人)

(2)電子商取引経営者の義務

電子商取引経営者は必要な行政認可を取得すると共に、市場主体登記12(法人であれば営業許可

証)を行い(電子商務法第 10条、第 12条)、そのホームページの目立つ場所にこれらの情報を表

示しなければならないとされています(同法第 15 条第 1 項)。また、電子商取引経営者のうち、

電子商取引プラットフォーム経営者は、当該プラットフォームに出店するプラットフォーム内経営

者に個人・企業情報等を提出させるのみならず、これを記録し、かつ、当局に届け出なければなら

ないとされています(同法第 27条第 1項、第 28条第 1項)。

現在中国では、ソーシャル・ネットワーク(例:微信(WeChat))、ライブ放送(例:優酷(Youku)、

微博(weibo))、C to C 電子商取引プラットフォーム(例:淘宝網)等様々なプラットフォーム

を通じて電子商取引に従事している個人が非常に多く存在していますが、個人に対しては登記が義

務付けられていないため、当局による監督管理や税務当局による捕捉が難しい状況にあります。し

かし、電子商取引に従事する個人も「電子商取引経営者」として同法の規制対象となるため、これ

らの個人も原則として市場主体登記を義務付けられることになります13。

その他電子商取引経営者が負うべき主な義務は、下表の通りです。

消費者保護

<正確な情報の提供及び虚偽宣伝の禁止>

商品・サービスの情報を全面的に、ありのまま、正確に、遅滞なく開示しなければなら

ない(第 17条)。

虚偽の取引、ユーザーレビューの偽造等の方法による虚偽の、又は誤解を惹起する宣伝

の禁止(同条)14。

<価格差別の防止>

消費者の趣味愛好、消費習慣等の特徴に基づき商品販売・サービス提供を行う場合、当

該消費者の特徴と関係ない選択肢も同時に提供しなければならない(第 18条第 1項)15。

12 但し、個人が自家製の農産物及びその副産物や家内工業製品を販売する場合、個人が自己の技能を利用して許可を取得する

必要のない他人のための労務活動や零細少額取引活動に従事する場合等には、主体資格登記が不要とされています(電子商務法

第 10条)。 13 電子商取引経営者は、納税義務を履行しなければならないことも、電子商務法において明確にされています(同法第 11条)。 14 2018年 1月 1日に施行された新「不正競争防止法」にもかかる宣伝行為を禁じる規定が置かれています(同法第 8条)。 15 ビッグデータを利用した価格差別行為を防止するための規定と考えられます。

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法務

33 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

<抱き合わせ販売に関する注意喚起>

抱き合わせ販売を行う場合には、目立つ方法により消費者の注意を喚起し、抱き合わせ

販売を黙示的に同意されるものとしてはならない(第 19条)。

競争法関連 市場支配的地位16を有する電子商取引経営者は、当該地位を濫用し、競争を排除・制限し

てはならない(第 22条)。

個人情報保護

ユーザー情報の照会、修正及び削除並びにユーザーアカウントの削除に関する方法・手

続について不合理な条件を設けてはならない(第 24条第 1項)。

上記照会、修正及び削除の申請を受けた場合、本人確認後遅滞なく対応しなければなら

ず、ユーザーアカウントの削除の申請については直ちに対応しなければならない(同条

第 2項)。

(3)電子商取引プラットフォーム経営者の義務

電子商取引は、一般的に電子商取引プラットフォーム経営者を中心に展開されるため、電子商取

引におけるその役割は非常に重要といえます。電子商務法は、電子商取引プラットフォーム経営者

が電子商取引に及ぼす影響の重大さに鑑みて、(2)で述べた電子商取引経営者の義務のほか、電子

商取引プラットフォーム経営者に対して更に様々な義務を課しています。

主なものは下表の通りです。

プラットフォーム内

経営者に対する監督

義務

プラットフォーム内経営者に関する情報等の確認・届出(第 27条第 1項、第 28条

第 1項。(2)参照)

プラットフォーム内経営者による無許可経営及び違法商品販売・サービス提供の通

報等(第 29条)

ネットワーク安全保

護義務17

ネットワークの安全及び安定的な稼働を保証し、ネットワーク違法犯罪活動を防止

し、ネットワーク安全事件に有効に対応し、電子商取引の安全を保障しなければな

らない(第 30条第 1項)。

ネットワーク安全事件に対する緊急時対応策を作成し、ネットワーク安全事件発生

時には直ちに当該対応策を実施し、救済措置を採ると共に、当局に報告しなければ

ならない(同条第 2項)。

情報保存義務

プラットフォームにおける商品・サービスの情報、取引情報を、情報の完全性、秘

密保持性及び利用可能性を維持し、3年以上保存しなければならない(第 31条)。

プラットフォーム内経営者が販売する商品又は提供するサービスに対する消費者の

評価を削除してはならない(第 39条第 2項)。

競争法関連

(市場支配的地位の有無にかかわらず)サービス合意、取引規則、技術等の手段に

より、プラットフォーム内経営者のプラットフォーム内での取引、取引価格等に対

し不合理な制限を加え、不合理な条件を付加し、又は不合理な費用を徴収してはな

らない(第 35条)。

16 「市場支配的地位」の判断要素として、「技術的優位、ユーザーの数量、関連業種に対する支配力その他電子商取引経営者に

対する他の経営者の取引上の依頼程度」と定められています。 17 「インターネット安全法」においても、同様の規定が置かれています(第 10条、第 25条)。

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法務

34 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

消費者保護

プラットフォーム内経営者が販売する商品又は提供するサービスが身体・財産の安

全を保障するための要請に適合していないこと及びその他の消費者の適法な権益を

侵害する行為があることを知り、又は知りうべき場合において、必要な措置を講じ

なかったときは、法によりプラットフォーム内経営者と連帯して責任を負う(第 38

条第 1項)。

消費者の生命・健康に関する商品・サービスについて、プラットフォーム内経営者

の資格に対する審査義務を尽くしておらず、又は消費者に対する安全保障義務を尽

くしていない場合、消費者に生じた損害について法的責任を負う(同条第 2項)。

いわゆるリスティング広告については、「広告」である旨明示しなければならない

(第 40条)。

(4)知的財産侵害に関するセーフハーバー

権利侵害に関する免責を定めた措置(いわゆるセーフハーバー)について、「権利侵害法」(2010

年 7 月 1 日施行)第 36 条第 2 項及び「情報ネットワーク伝達権18保護条例」(2013 年 3 月 1 日改

正施行)第 14 条等にも類似の規定が置かれていますが、前者は権利侵害一般に関するもの、後者

は公衆送信権に関するものとなっています。電子商務法では、知的財産権全般に対する侵害に関す

るセーフハーバーに係る規定が置かれており、電子商取引プラットフォーム経営者は、次の手順を

経ることで、知的財産権の侵害行為がある旨指摘されているプラットフォーム内経営者に対する必

要な措置(後述)を講じなくても責任を免れることができます。

① 知的財産権の侵害の存在を判断した権利者(以下「権利者」という。)は、電子商取引プラットフォーム経営者に対し、

必要な措置(削除、ブロック、リンク切断、取引・サービスの終了等)を講じるよう通知することができる(電子商務法

第 42条第 1項)19。

② 上記通知を受領した電子商取引プラットフォーム経営者は、遅滞なく必要な措置を講じ、かつ、当該通知をプラットフ

ォーム内経営者20に転送しなければならない(同条第 2項)。

(遅滞なく必要な措置を講じなかった場合、損害の拡大部分につきプラットフォーム内経営者と連帯して責任を負う。)

③ 上記通知を受領したプラットフォーム内経営者は、権利侵害行為不存在の表明を提出することができる(同法第 43条第

1項)21。

④ 上記表明を受領した電子商取引プラットフォーム経営者は、当該表明を権利者に転送し、かつ、関係主管部門に申し立

て、又は人民法院に提訴することができる旨を権利者に知らせなければならない(同条第 2項)。

18 日本の著作権法における「公衆送信権」に相当します。 19 但し、当該通知には、権利侵害を構成する初歩的な証拠が含まれていなければならないとされています。 20 条文上明らかではありませんが、権利者が①の通知において権利侵害者として指摘しているプラットフォーム内経営者を指

すと思われます。 21 但し、当該表明には、権利侵害行為不存在に関する初歩的な証拠が含まれていなければならないとされています。

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法務

35 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

⑤ 上記表明が権利者に到達してから 15日以内に、権利者から申立済み又は提訴済みの通知を受領しなかった場合には、電

子商取引プラットフォーム経営者は、必要な措置を遅滞なく終了させなければならない(同条項)。

但し、安易な通知によりプラットフォーム内経営者の利益が損なわれることを防ぐため、通知の

誤りによりプラットフォーム内経営者に損害を与えた場合には、権利者は、民事責任を負うとされ

ています(電子商務法第 42 条第 3 項)。また、悪意をもって誤った通知を発送した場合には、権

利者は、発生したプラットフォーム内経営者の損害について、倍の賠償責任を負うとされています

(同条項)。

②「情報安全技術 個人情報安全規範」(中国国家品質監督検験検疫総局・国家標準化管理委員会、

2017年 12月 29日発布、2018 年 5月 1日施行)

個人情報に関する国家標準として、「情報安全技術 個人情報安全規範」(以下「個人情報安全

規範」といいます。)が 2017年 12月 29日に発布され、2018年 5月 1日から施行されました。「ネ

ットワーク安全法」(全国人民代表大会常務委員会、2016 年 11 月 7 日公布、2017 年 6 月 1 日施

行。以下「ネット安全法」といいます。)に関連する法令・ガイドライン等の大半は草稿段階であ

るため、ネット安全法と関連のある個人情報について規定した個人情報安全規範は実務上重要な国

家標準として注目されています。以下では、個人情報安全規範のポイントについて紹介します。

(1)個人情報安全規範の法的位置付け

個人情報安全規範は強制的な国家標準22ではなく非強制的な国家標準であるため、法的拘束力は

ありません。しかし、今後中国当局が個人情報安全規範に従い運用していくことが予想され、個人

情報安全規範は実務上の重要な指針となると考えられています。

(2)個人情報安全規範の適用対象

主な適用対象は個人情報管理者であり、個人情報管理者とは個人情報の処理の目的、方式等の決

定権を有する組織又は個人とされていることから、個人情報を取り扱う中国国内の全ての企業が個

人情報安全規範を検討する必要があると思われます。

(3)個人情報の定義23

個人情報について、個人情報安全規範は付録 A に下表の通り個人情報の類型を規定しています。

個人基本情報 個人の氏名、生年月日、性別、民族、国籍、家族構成、住所、個人電話番号、電子メールアドレ

ス等

22 国家標準とは、国務院の標準化行政主管部門が承認・公布し、全国で統一的に適用する標準を意味します。国家標準には強制

的な国家標準(強制国家標準)と非強制的な国家標準(推奨国家標準)の 2種類があります。 23 ネット安全法第 76 条第 5 号には、「個人情報とは、電子的方式又はその他の方式により記録した、単独又はその他の情報と

結びついて自然人個人の身分を識別し得る各種情報をいう。これには自然人の氏名、生年月日、身分証明書番号、個人の生体認

証情報、住所、電話番号等が含まれるがこれらに限らない」と規定されていますが、個人情報安全規範においては更に詳細に規

定されています。

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法務

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2018年12月号

個人身分情報 身分証明書、軍人証、パスポート、運転免許証、職員証出入許可証、社会保険カード、居住証等

個人生物識別情報 遺伝子、指紋、声紋、掌紋、耳介、虹彩、顔の特徴等

ネット上の身分識別

情報

システムアカウント、IPアドレス、メールアドレス及び関連パスワード、合言葉、合言葉管理用

回答、デジタル証明書等

個人健康情報

個人の疾病診療記録及び関連情報(例えば、疾病、入院記録、医師指示票、検査報告、手術及び

麻酔記録、看護記録、投薬記録、薬品食品アレルギー情報、出産情報、既往歴、治療状況、家族

の病歴、現在の病歴、伝染病歴等)、個人健康状況の関連情報、及び体重、身長、肺活量等

個人教育・就職情報 個人の職業、職位、勤務先、学歴、学位、教育を受けた経歴、職歴、育成訓練記録、成績報告書

個人財産情報

個人の銀行口座番号、識別情報(パスワード)、貯金情報(資金額、金銭支払受取記録等を含む。)、

不動産に関する情報、貸付記録、信用情報、消費記録、出納記録等及び仮想通貨、仮想取引、ゲ

ーム類の両替コード等の仮想財産に関する情報

個人通信情報 通信記録及びその内容、ショートメッセージ、マルチメディアメッセージ、メール、及びメタデ

ータ等

連絡者情報 通信連絡者リスト、友人リスト、メールアドレスリスト、グループチャットリスト等

ネット接続情報 サイトアクセス記録、ソフトウェア使用記録、クリック等のログに記録されたユーザーの操作記

常用装置情報

ハードウェアのシリアル番号、装置の MACアドレス、ソフトウェアリスト、装置識別コード等(例

えば、IMEI/androidID/IDFA/OPENUDID/GUID、SIM カード IMSI 情報等)等を含めた、個人が常用

する装置の基本的状況を記述した情報

個人位置情報 行動の軌跡、位置情報、宿泊情報、緯度経度等

その他の情報 婚姻歴、宗教、性的志向、未公開の犯罪記録等

(4)個人センシティブ情報

個人情報安全規範では、「漏洩・違法提供・濫用されると個人の人身又は財産の安全を害するお

それがあり、個人の名誉・健康の侵害又は差別待遇を生じさせ得る個人情報」を個人センシティブ

情報としています。

個人センシティブ情報については、当該情報の取得の前に、拒絶の可否・影響を告知の上、明示

的同意の取得が必要等、慎重な取り扱いが要求されています。

個人センシティブ情報には、身分証明書番号、個人生物識別情報、銀行口座番号、通信記録及び

内容、財産情報、信用情報、行動履歴、位置情報、健康情報、14歳以下の児童の個人情報等が含ま

れるとされ、個人情報安全規範の付録 Bに詳細に規定されています。

(5)個人情報の取得・収集

個人情報安全規範において、個人情報の取得前に、個人情報主体に対し、取得する個人情報の類

型、個人情報の取得、使用に関する規則を告知し、かつ個人情報主体から授権の同意を得なければ

ならないと規定されています。対応としては、プライバシーポリシーの公開、各個人からの同意取

得が考えられます。

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法務

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2018年12月号

プライバシーポリシーに関しては、個人情報安全規範の付録 D にプライバシーポリシーの雛形

(解説付)が記載されており、参考になります。プライバシーポリシーの規定内容としては、下表

の項目が例として記載されています。

適用範囲・概要

① 適用範囲:プライバシーポリシーの適用製品・サービスの範囲、適用対象(使用者)、プライバシーポリシーの発

効・更新時期等

② 概要:対象者がプライバシーポリシーの内容を把握するためのプライバシーポリシーの概要

個人情報の収集類型・範囲・使用目的

① 収集・使用の目的及びその目的に応じて収集される個人情報の類型

② 収集する必要がある情報の範囲

③ 個人情報を他の用途、又は他の目的に用いる場合、対象者の同意を取得する旨等

Cookie及び類似技術の使用方式

① 個人情報の収集・使用のために利用される関連技術の動作

② 自動データ収集装置を利用する目的、及びそれを制限する方法等

個人情報の第三者への共有・譲渡・開示

① 個人情報を第三者へ共有・譲渡するか否か、及び共有・譲渡される個人情報の類型、目的、受領者側の情報、共

有・譲渡に関する安全措置、リスク

② 個人情報を第三者へ開示するか否か、及び開示される個人情報の類型、目的、リスク

③ 対象者の同意を得ずに個人情報を第三者へ共有・譲渡・開示する場合(例えば、政府部門からの要求がある場合

等)

個人情報の保護

① 個人情報保護の安全措置、個人情報の安全協議及び取得した認証について

② 対象者(使用者)に対して、個人情報を保護する方法、個人情報提供に関する安全リスク

③ 個人情報安全事件が発生した場合に対象者への告知、当該事件に関する責任

対象者の自己の個人情報に対する権利

① 個人情報へのアクセス、個人情報の修正、個人情報の削除、個人情報の使用可能範囲の変更、アカウントの削除、

個人情報のコピーの取得等

② 前記の項目について費用が発生する場合にその理由

③ 対象者(使用者)の自己の個人情報への権利行使が拒否される場合、その状況及び理由

児童の個人情報

保護者の同意を得ずに児童の個人情報を収集・使用してはならない

個人情報の国外移転

国外移転する個人情報について、その情報類型、遵守規則、協議、契約等

プライバシーポリシーの変更

変更理由、変更の通知義務等

個人情報管理者への問合せ・要求等の方法、紛争解決方法等

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法務

38 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

また、センシティブ情報の同意取得の具体的な方法(同意取得画面のサンプル)につき、個人情

報安全規範の付録 Cに記載されており、参考になります。

5.終わりに

次回(2019 年 2 月号)は、訴訟・仲裁(保全・執行)、労働、知的財産、ファイナンス、環境等

に関連する重要立法を取り上げる予定です。どうか良いお年をお過ごしください。

野村 高志 パートナー 弁護士 西村あさひ法律事務所 上海事務所代表

早稲田大学法学部卒業、1998年弁護士登録。2001年より西村総合法律事務所に勤務。2004年

より北京の対外経済貿易大学に留学。2005 年よりフレッシュフィールズ法律事務所(上海)

に勤務。2010 年に現事務所復帰、2014年より現職。中国滞在は 8年以上に及ぶ。

専門は中国内外の M&A、契約交渉、知的財産権、訴訟・紛争、独占禁止法等。ネイティブレベ

ルの中国語で、多国籍クロスボーダー型案件を多数手掛ける。

2012-2014年 東京理科大学大学院客員教授(中国知財戦略担当)。

主要著作に「中国での M&Aをいかに成功させるか」(M&A Review 2011 年 1月)、「模倣対策マニ

ュアル(中国編)」(JETRO 2012 年 3月)、「中国現地法人の再編・撤退に関する最新実務」(「ジ

ュリスト」(有斐閣)2016年 6月号(No.1494))、「アジア進出・撤退の労務」(中央経済社 2017

年 6月)等多数。

Tel:+86-21-6178-3748

Email:[email protected]

志賀 正帥 西村あさひ法律事務所 アソシエイト 弁護士

1982年上海市生まれ。2006年中央大学法学部卒業、2008年中央大学法科大学院修了、2009年

弁護士登録。2012-2016年弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所に勤務、2013-2016年北京代表処

一般代表に就任(うち、2015-2016 年上海駐在)。三井住友銀行総務部での勤務を経て、2017

年西村あさひ法律事務所に参画。

専門は日本国内の会社法務全般、中国内外の M&A、中国現地法人の会社法務等。

Tel:+81-3-6250-6853

Email:[email protected]

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法務

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2018年12月号

早川 一平 西村あさひ法律事務所 アソシエイト 弁護士

2008年慶應義塾大学法学部卒業、2010年慶應義塾大学法科大学院修了。2011年弁護士登録、

西村あさひ法律事務所に勤務。2013 年西村あさひ法律事務所の北京オフィスにて 6 か月間

勤務。

専門は日本国内の会社法務全般、中国内外の M&A、中国現地法人の会社法務等。

Tel:+81-3-6250-6656

Email:[email protected]

木下 清太 西村あさひ法律事務所 アソシエイト 弁護士

2010年慶應義塾大学法学部卒業。2012年慶應義塾大学法科大学院修了。2013年第二東京弁

護士会登録。西村あさひ法律事務所に勤務。

専門は日本国内の会社法務全般、中国内外の M&A、独占禁止法等。

Tel:+81-3-6250-6200

Email:[email protected]

福王 広貴 西村あさひ法律事務所 アソシエイト 弁護士

2012年慶應義塾大学法学部卒業。2014年早稲田大学法科大学院修了。2015年第二東京弁護

士会登録。西村あさひ法律事務所に勤務。

専門はプロジェクトファイナンス、日本法における金融規制、中国法におけるジェネラルコ

ーポレート等。

Tel:+81-3-6250-6200

Email:[email protected]

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税務会計

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2018年12月号

増値税の輸出税金還付(免税)政策

1. 2018年 10月の国務院常務会議

2018年 10月 8日に国務院常務会議が開催され、増値税の輸出税金還付(免税)政策について次

のような政策決定が行われました。

(1) 輸出税金還付率の引き上げ

輸出税金還付率の引き上げを 2018年 11月 1日から実施する。

① 15%と 13%の一部を 16%に引き上げ

② 9%は 10%と 13%(9%の一部)に引き上げ

③ 5%は 6%と 10%(5%の一部)に引き上げ

高度に消耗する製品、高度に汚染する製品、資源性の製品および生産能力を引き下げる任務に

直面している製品等の輸出税金還付率は不変を維持する。

税制を簡素化し、還付率は現行の 7つの税率から 5つの税率に減少させる。

(2) 税金還付手続の進捗の更なる加速

税金還付手続の進捗を更に加速するため、次の政策を実施する。

① 信用評価等級が高く納税記録が良好な輸出企業に対して手続を簡素化して税金還付時間を短

縮する。

② 税金還付申告のペーパーレス化を全面的に推進する。

③ 税金還付の審査効率を引き上げる。

④ 税金還付サービスを向上させる。

⑤ 企業が速やかに証票を収集して税金還付を申告させる。

⑥ 電子による税金還付の全国ネットワークの早期実現

(3) 外国貿易総合サービス企業の中小企業のための税金還付サービスの奨励

(4) 輸出税金還付の詐取行為に対する断固たる打撃

上述の政策措置を通して、2018年末までに税金還付平均時間を現在の 13営業日から 10営業日

に短縮する。

これらの政策措置を実行した趣旨について、中国政府網は次のように述べています。

「輸出税金還付の実行は WTOルールに適合する。輸出税金還付政策の更なる改善は、輸出税金

還付の進捗を加速させるものであり、サプライサイドの構造改革を深化させるのに有益であり、

実体経済のコスト引下げを推進し、当面の複雑な国際情勢にも有利に対応し、外国貿易の安定的

な成長を保持する。」

本稿では、上記のうちのいくつかのポイントについて具体的に解説します。

近藤公認会計士事務所

公認会計士 近藤 義雄

[email protected]

http://kondo.la.coocan.jp/

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税務会計

41 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

2. 中国の輸出税金還付(免税)政策

中国では、輸出企業が中国国内で支払った仕入(輸入)増値税額のうち国内の売上増値税額か

ら控除できなかった増値税額は必ずしも還付されるわけではなく、企業のコストとして負担する

輸出税金還付(免税)政策が実施されています。

中国の輸出税金還付(免税)政策には、免税控除還付方法、免税還付方法、免税政策がありま

す。免税控除還付方法とは、輸出増値税を免除し、これに対応する仕入税額を控除し、控除しき

れない部分を還付する方法です。免税還付方法とは、輸出増値税を免税し、これに対応する仕入

税額は還付する方法です。免税政策とは、輸出増値税は免税としますが、その仕入税は税額控除

も還付もしないでコストに負担させる方法です。

中国の輸出税金還付(免税)政策

輸出税金還付(免税)政策 適用企業

還付免税政策 免税控除還付方法 生産企業、サービス企業(注 1)

免税還付方法 外国貿易企業、サービス企業(注 1)

免税政策 小規模納税者、来料加工業者等

サービス企業(注 2)

(注 1) 研究開発サービス、設計サービス、オフショア・アウト・ソーシング・サービス、技術

譲渡サービス等を提供する企業

(注 2) 在庫場所が国外に所在する倉庫サービス、国外における有形動産リースサービス等を提

供するサービス企業

例えば、生産企業の免税控除還付方法による増値税納税額の計算式を簡略化すれば、次のよう

になります。

増値税納税額=売上税額-仕入税額+輸出貨物価格×(適用税率-還付税率)

この税額計算式で分かるように、輸出貨物に適用される増値税税率と輸出税金還付税率との差

額の増値税額が納税額となり企業のコスト負担となります。免税還付方法も還付税額の計算に輸

出税金還付率が適用されますので、これら 2つの方法では、輸出価格の適用税率と還付税率との

差額の増値税は企業のコスト負担となります。

本来であれば、輸出企業が支払った仕入(輸入)増値税で売上増値税から控除できなかった税

額については納税者に全額が還付されるべきものですので、今回の改正のように税金還付率を引

き上げる政策は、当然のことながら WTOルールに違反するものではありません。

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税務会計

42 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

3. 輸出企業の分類管理

(1) 輸出還付(免税)企業分類管理弁法

国家税務総局は 2015 年 1月 7日付で「輸出還付免税企業分類管理弁法」(国家税務総局公告

2015年第 2号)を発布して還付免税申告企業の分類管理を 2015年 3月 1日から開始しましたが、

2016年 7月 13日付で「輸出還付免税企業分類管理弁法」(国家税務総局公告 2016年第 46号)を

改正し、2016年 9月 1日から改正後の管理弁法を実施しています。

この管理弁法によれば輸出企業は、1類企業、2類企業、3類企業、4類企業に分類されます。

これらの企業分類の類型別に増値税の還付免税申告手続が異なったものとなっています。

1 類企業は、申告した電子データが税関の輸出貨物通関申告書の通関情報、増値税専用発票情報

と比較して誤謬がなく、輸出還付免税の税額計算が正確で誤謬がなく、国家税務総局と省税務局

のリスク警告情報に関係しない等の場合に、企業の申告を受理した日から 5 営業日以内に輸出還

付免税手続が完了します。

2 類企業は、企業が申告した輸出還付免税は税務機関の審査を受けなければなりません。申告内

容が輸出還付免税関連規定に適合し、申告した電子データが税関の輸出貨物通関申告書の通関情

報、増値税専用発票情報と比較して誤謬がなく、審査上の疑問がないかまたは疑問が完全に排除

された場合に、企業の申告を受理した日から 10営業日以内に輸出還付免税手続が完了します。

3 類企業は 2類企業と同じ取り扱いになりますが、企業の申告を受理した日から 15営業日以内

に輸出還付免税手続が完了します。

4 類企業の申告内容は、税務機関が電子データと相互に相当しかつ論理的に適合していること、

申告した電子データが税関の輸出貨物通関申告書の通関情報と比較して誤謬がないこと、外部か

ら購入した輸出貨物等の供給企業の増値税発票のサンプルを抽出して確認状による調査を行いま

す。審査を完了しすべての疑問が完全に排除された後に、企業の申告を受理した日から 20営業日

以内に輸出還付免税手続が完了します。

(2) 国家税務総局公告 2018年第 48号

国家税総局は、国務院常務会議の決定を受けて、2018年 10月 15日付で「輸出税金還付の進捗

を加速する関連事項に関する公告」(国家税務総局公告 2018年第 48号)を発布しました。この公

告は発布日から施行されています。

2018年第 48号公告では、輸出企業分類管理の種類別評定基準の修正、税金還付申告のペーパー

レス化、外国貿易総合サービス企業へのサポート等が規定されました。

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税務会計

43 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

1) 輸出企業分類管理の種類別評定基準

「輸出還付免税企業分類管理弁法」(国家税務総局公告 2016年第 46号)では、上述した輸出企

業分類の評定基準が次のように規定されていました。

1類企業

1 類輸出企業の評定基準には、生産企業、外国貿易企業、外国貿易総合サービス企業の評定基準

がありますが、ここでは生産企業の評定基準を紹介します。生産企業は下記の要件を同時に満た

す必要があります。

1 企業の生産能力が前年度に申告した輸出還付免税規模に匹敵していること

2 評定年度を含む直近 3年間に増値税専用発票またはその他の増値税税額控除証憑を虚偽

発行し、輸出還付税金の詐取行為が発生していないこと

3 前年度の年末純資産が前年度に当該企業が処理した輸出還付税額(免税控除税額を含ま

ない)より大きいこと

4 評定時の納税信用等級が A級または B級であること

5 企業内部に比較的改善された輸出還付免税のリスク統制制度を確立していること

2018年第 48号公告では、1類生産企業の上記の第 3要件を「前年度の年末純資産が前年度に当

該企業が処理した輸出還付税額(免税控除税額を含まない)の 60%より大きいこと」に修正しま

した。要件が輸出還付税額から輸出還付税額の 60%に緩和されました。

3類企業

下記の要件のいずれか 1つを有する輸出企業は、3類企業に評定しなければなりません。

1 輸出還付免税を初回申告した日から評定時まで 12ヵ月未満である場合

2 評定時の納税信用等級が C級である場合または納税信用等級が評価されていない場合

3 前年度内で累計して 6ヶ月以上輸出還付免税を申告していない場合(対外援助、対外請

負、国外投資業務に従事していた場合、および輸出季節性商品または生産周期が比較的

長期の大型設備を輸出する企業は除く)

4 前年度に輸出還付免税の関係規定に違反する状況が発生していたが、税務機関の行政処

罰基準または司法機関が行う基準に達していない場合

5 省税務局の定めるその他の信用失墜またはリスク状況が存在する場合

2018年第 48号公告では、3類輸出企業の上記の第 3要件を取り消しました。

4類企業

下記の要件のいずれか 1つを有する輸出企業は、4類企業に評定しなければなりません。

1 評定時の納税信用等級が D級である場合

2 前年度に税務機関に輸出還付免税に関係する帳簿、原始証憑、申告資料,届出等の提供

を拒絶する状況が発生する場合

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税務会計

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2018年12月号

3 前年度に輸出還付免税の関係規定に違反することにより、税務機関の行政処罰または司

法機関の処分を受けた場合

4 評定時に企業が輸出還付税金を詐取したことにより輸出税金還付権が停止された場合ま

たは輸出税金還付権の停止満了期間から 2 年未満である場合

5 4類輸出企業の法定代表者が新たに設立した輸出企業

6 国家連合懲戒対象にリストアップされた信用失墜企業

7 税関の企業信用管理類型で信用失墜企業として認定した場合

8 外貨管理の分類管理等級が C級である場合

9 省税務局の定めるその他の深刻な信用失墜またはリスク状況が存在する場合

2類企業

1 類、3類、4類輸出企業以外の管理類型は、2類と評定されます。

「輸出還付免税企業分類管理弁法」(国家税務総局公告 2016年第 46号)では、種類別の年度の

評定回数が制限されていましたが、2018年第 48号公告では、輸出企業に関係する状況に変化が発

生しかつ管理種類の調整を申請した場合は、主管税務機関は関係規定に従って速やかに評定業務

を行うことができるようになりました。

2) 税金還付申告のペーパーレス化

2018年第 48号公告では、2018年 12月 31日までに税金還付申告のペーパーレス化をすべての

地域で実現することが明記され、各地の税務機関は申告・証明処理・審査批准・国庫の還付等の

税金輸出還付(免税)業務の「ネット処理」を実現し、特に、1類企業、2類企業のすべての企業

のペーパーレス化を推進することになりました。

3) 外国貿易総合サービス企業

外国貿易総合サービス企業は中小企業のために税金還付を代行する企業ですが、各地の税務機

関は外国貿易総合サービス企業と中小生産企業の届出受理、実地照合審査、税金還付発票発行の

代行、税金還付情報の伝達等の業務を円滑に行い、この新しいビジネスをサポートすることにな

りました。

また、外国貿易総合サービス企業の主管税務機関は、企業の内部リスク管理制度の確立、内部

リスク統制情報システムの建設、税金還付業務を代行するリスク防止を指導することとなりまし

た。

4. 輸出税金還付率の引き上げ

(1) 2018年 9月の引き上げ

輸出税金還付率については、2018年 9月 5日付で財政部、国家税務総局から「機電製品、文化

製品等の製品輸出税金還付率の引き上げに関する通知」(財税[2018]93号)が発布されています。

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税務会計

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2018年12月号

この通知では、「輸出税金還付率引上製品リスト」が添付されており、全部で 397項目がリスト

アップされており、輸出税金還付率は 9%、13%、16%に引き上げられています。この還付率は

2018年 9月 15日から適用されました。

(2) 2018年 10月の引き上げ

2018年 10月 5日の国務院常務会議の決定を受けて、財政部、国家税務総局は、2018年 10月 22

日付で「一部製品輸出税金還付率の調整に関する通知」(財税[2018]123号)を発布しました。

この通知に添付された「輸出税金還付率引上製品リスト」では 1,172項目がリストアップさ

れ、輸出税金還付率は 10%、13%、16%に引き上げられています。

この 2018年 10月の「輸出税金還付率引上製品リスト」以外の輸出製品については、次のよう

に還付率が引き上げられました。

① 還付率が 15%の輸出製品は 16%に引き上げ

② 還付率が 9%の輸出製品は 10%に引き上げ

③ 還付率が 5%の輸出製品は 6%に引き上げ

財税[2018]123号の輸出税金還付率は 2018年 11 月 1日からの適用ですので、2018年 11月 1日

以後の輸出税金還付率は、6%、10%、13%、16%、高度消耗製品・高度汚染製品・資源性製品の

調整対象外の還付率の 5つの輸出税金還付率となっています。

近藤 義雄 近藤公認会計士事務所 所長 公認会計士

早稲田大学大学院商学研究科の修士課程を卒業後、監査法人に勤務して公認会計士として登録、

上場会社等の監査業務に 23年ほど従事した。1986 年から 2年ほど北京の国際会計事務所に日本

人初の駐在員として勤務し、日系企業に幅広いコンサルティング業務を提供。帰国後に「中国投

資の実務」(東洋経済新報社 1990年)を出版し、現在まで中国の投資、会計、税務分野の専門

書を 25冊ほど出版。2001年に近藤公認会計士事務所を開設して中国専門のコンサルティング業

務を提供している。

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税務会計

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中国国外で所得のある海外駐在員の 中国個人所得税申告について

“Where there is an income tax, the just man will pay more and the unjust less on the

same amount of income.(所得税というものがこの世にある限り、同じ所得に対して、正義の者は

多くを払い、正義のない者は少なくを払う。)”

これは、今から約 2,400年前にソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる古代ギリ

シアを代表する哲学者であるプラトン(英語名: Plato)が述べた言葉です。

このように所得税に対する公平性の担保は都市国家であったギリシャ時代から高度に経済がグ

ローバライズされた現在に至るまで大きな問題を抱えてきたといえるでしょう。

しかし、今まさに現代社会は情報技術を駆使し、この哲学的命題ともいえる問題に挑もうとして

いるといえるでしょう。

国際的租税回避への対応

今年 9 月に日本及び中国を含む約 50の国・地域において、AEOI による非居住者にかかわる金融

口座情報の交換が開始されており、少なくとも、国際間の情報の壁を利用した租税回避行為につい

ては、今後急速にその把握がなされていくものと予想されています。

日本においては、11月 1日付の日本経済新聞の報道にあったように、国税庁は世界各国 64か国・

地域より現地での金融機関口座情報 55万件を入手し、同時に 58か国・地域に対して日本における

9万件の金融機関口座情報を提供したものとされています。

また、中国においても同様に今年 2018年 9月から AEOIが実施されており、既に昨年 7月より中

国金融機関は新規口座について調査を開始し、今年 5月末までに課税当局に対して情報を送付する

ように要請しており、これらの情報を受け中国課税当局は 9 月に 57 か国・地域との間で情報交換

を実施したものとされています。

これらの情報交換により、世界各国における課税情報は居住地国課税当局に提供されるものとな

りつつあり、これにより、正義であるものも正義でないものも区別なく同額を支払うことが保証さ

れようとしているといえるでしょう。

それでは、ここでいわれる AEOIとは一体どのようなものなのでしょうか?

AEOI

AEOI(Automatic Exchange of Information:非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のため

の報告制度)とは、各国課税当局間の自動的情報交換にかかわる基準であり、米国における FATCA

(Foreign Account Tax Compliance Act)と同様の仕組みを多国間協定の枠組みとして導入するこ

MAZARS Mochizuki

パートナー 公認会計士 望月一央

http://www.mazars.com

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税務会計

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2018年12月号

とを目的としたものです。

これらの制度を理解するためには、次のような、近年における税務目的を含む国際的な情報の透

明性及び交換性に対する要請の著しい高まりについての理解が必要です。

これらには、大きく分けて BEPS の流れと、銀行情報開示の流れがあるものといえ、また、これ

らは相互に密接に絡み合い、一つの大きな政治的な情勢を形成しているものともいえます。

それぞれの流れはともに、各国政府及び EU、OECD、国連等の国際組織が協力し、企業及び個人の

経済的活動にかかわる仕組みである点において共通している一方で、前者は各国間の課税権の調整

を主要な目的とするものであるのに対して、後者は、情報について各国で交換し、その透明性を高

めることにより、税制だけでなく、それ以外の不正、テロ資金、マネーロンダリング等の防止にも

間接的に関連するものである点において相違しているものともいえます。

銀行情報開示の流れについては、以上のような枠組みによりその推進がなされているが、そもそ

もの大きな発端は、2008 年に米国と欧州各国を巻き込む一大スキャンダルとなった UBS 事件であ

り、これを契機として、銀行情報の機密性が脱税の温床として使用されることに対する国際的な批

判が巻き起こり、翌 2010 年には、米国は独自に FATCA を打ち出し、各国の金融機関に対して対応

を迫るようになりました。

その後、各国が FATCA への対応について米国と合意したことを背景として、2012年 OECD は、多

国間及び二国間の自動的情報交換に関する国際基準の策定に着手し、2013 年 9 月 G20 首脳会議に

おいて、OECD による国際基準の策定を支持するとともに、2014 年中ごろまでに自動的情報交換の

技術的様式を完成させることとし、また、グローバル・フォーラムに自動的情報交換の新国際基準

の実施の監視及びレビューにかかわるメカニズムの確立を要請することとなりました。

これを受け、2013 年 11 月グローバル・フォーラムは、国際基準による自動的情報交換に関する

相互審査を実施することについて合意し、2014年 1月には OECD租税委員会がCRS(Common Reporting

Standard)を承認し、同年 2月に OECDから公表されたものについて、G20財務大臣・中央銀行総裁

会議が支持するものとなりました。

以上のように、銀行情報の秘匿性を有する地域に対する世界各国からの情報開示の圧力は近年著

しく高まっており、これを受けて、タックスヘイブンと呼ばれる法域についても、租税情報交換協

定の締結数は格段に増加することになっています。

ここでは、各国が国内法を整備し相手国の請求がなくても自動的に報告できるようにすることが

想定されており、納税者本人の属性や納税者番号、口座残高や年間受取総額などの報告が必要なた

め、番号を含めた本人確認手法を確立すると同時に、各国の国内法の整備なども必要となっていま

す。

また、AEOI 以外にも、当事国の要請に基づき行われる情報交換として、EOIR というものもあり

ます。

EOIR(Exchange of Information on Request)とは、要請に基づく情報交換にかかわる基準であ

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税務会計

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2018年12月号

り、基本的に TIEAs(情報交換協定)及び二国間モデル租税条約第 26条に基づく情報交換について

の基準であり、G20 及び OECD により進められており、AEOI の枠組みだけでは対応できない個別の

事象についての情報交換についても進められるようになっています。

日本において求められる金融口座情報の取得

上述の通り、既に日本課税当局は自国の金融機関に対して、当該情報交換を実施するために、新

規口座については口座開設者からの自己宣誓書により居住地国を特定し、既存口座については、以

下の手続きを実施することにより居住地国を特定することを要求していました。

【低額口座(残高 100 万ドル以下)】

以下のいずれかの方法を実施して居住地国を特定

・ 公的証明書等により確認された現住所の記録による特定

・ 金融機関が管理する顧客情報の電子的記録検索

【高額口座(残高 100 万ドル超)】

以下の全ての方法を実施して居住地国を特定

・ 金融機関が管理する顧客情報の電子的記録検索

・ 金融機関が管理する紙媒体の顧客情報の検索

・ リレーションシップマネージャーからの聴取

中国において求められる金融口座情報の取得

中国においても、2017年 5月に財政部、国家税務総局、中国人民銀行、保険監督管理委員会、銀

行業監督管理委員会、証券監督管理委員会の共同名義で、「非居住者金融口座税関連情報のデュー

デリジェンス管理弁法」が公布され、この中で金融機関は 2017年 6月 30日時点の既存口座を特定

し、デューデリジェンスを実施して情報收集を行わなければならないものとされ、その後、金融機

関は 2017 年 7 月 1 日から、新規開設した口座に対するデューデリジェンスをスタートするととも

に、新規口座開設に必須の条件の一として中国における税法上の居住者身分についての声明文書を

入手するものとされました。

また、2017 年 12 月 31 日まで 金融機関は既存の高額個人金融口座(2017 年 6 月 30 日時点の口

座残高合計額が 100万ドルを超える口座)に対し、デューデリジェンスを実施し、情報收集を終え

なければならず、 2018年 5月 31までに報告対象の金融口座情報を規制当局に提出し、 2018年 9

月に国家税務局は、AEOI 制度を導入かつ情報交換に合意した国または地域との間で初回の情報交

換を実施しました。

また、今後も、その他既存の低額個人金融口座及びその他既存の法人金融口座に対し、デューデ

リジェンス及び情報收集を実施し、2019 年 9 月に第 2 回目の情報交換を実施する予定となってい

ます。

それでは中国における税法上の居住者とはどのようなものなのでしょうか?

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税務会計

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2018年12月号

中国における税法上の居住者

中国における居住者とは、以下のいずれかに該当する者をいいます。

①中国国内において住所を有している個人

②中国国内に満 1年居住した個人

(注:2019年から施行される個人所得税法の改正により、一納税年度に中国国内に満 183日居住

する個人を居住者というものとされます。)

従って、非居住者とは以下の条件をともに満たす者をいいます。

①中国国内に住所を有さない個人

②居住していないか、または、国内に居住して 1年に満たない個人

①住所を有する個人

ここで、中国国内に住所を有する個人とは、戸籍、家庭、経済利益関係により中国国内に習慣

的に居住する個人をいうものとされています。

②国内に満 1年居住する個人

また、国内に満 1年居住するとは、一納税年度(1月 1日から 12月 31日)に中国国内に 365日

居住することをいい、一時的に出国する場合には、その日数を控除しないものとされています。

さらに、一時的出国とは、一納税年度において 1回に 30日を超えないか、または何回かを累計

して 90日を超えない出国をいいます。

参考:日本における税法上の居住者概念

日本における居住者とは以下のいずれかに該当する者をいいます。

①日本国内に住所を有する個人

②日本国内に現在まで引き続き 1年以上の居所を有する個人

非居住者とは以下の条件を満たす者をいいます。

①日本国内に住所を有さない個人

②日本国内に現在まで引き続き 1年以上の居所を有さない個人

①住所については、所得税法上の定義は特におかれておらず、民法上の規定及び解釈と同様、

各人の生活の本拠となる場所をいうものとされ、生活の本拠となる場所であるかどうかは客観

的事実により判定することとされています。

ここでは、国籍、住民票の有無、入国査証の「在留資格」、「在留期間」等は直接的な判断基

準とはならないものとされています。

②居所とは、生活の本拠にまではいたらないが、相当の期間継続して現実に居住する場所をい

うものとされています。

②の条件は基幹的、物理的な意味で客観的判断を行うことが可能といえますが、②の住所の有

無については、その客観的判断が難しいことから、客観的条件に基づく判断が可能となるよう

以下のような推定規定が設けられています。

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税務会計

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2018年12月号

【住所の有無の推定規定】

日本国外に居住することとなった個人が、以下のいずれかに該当する場合には、その者は、

日本国内に住所を有しない者と推定するものとされています。

- その者が国外において、継続して 1年以上居住することを通常必要とする職業を有するこ

と。

- その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、か

つ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内にお

けるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内

に居住するものと推測するに足りる事実がないこと。

従って、中国の駐在員の方々の多くは中国における居住者とされるといえ、同時に日本におけ

る非居住者とされることから、日本側は AEOI制度に従い該当する情報を中国側に提供しているも

のといえます。

逆に、日本帰国後も中国において比較的多額の金融口座を持たれている元駐在員の方について

は、中国側から日本側に情報の提供がなされているものといえます。

2018 年度の申告について

このように AEOIの根拠となる「MULTILATERAL COMPETENT AUTHORITY AGREEMENT ON AUTOMATIC

EXCHANGE OF FINANCIAL ACCOUNT INFORMATION」については、「税務行政執行共助条約(The

Multilateral Convention on Mutual Administrative Assistance in Tax Matters)」批准国であ

る日本及び中国間でも実施されており、今後、国際的な所得を有する中国駐在員の方または帰国後

も何らかの中国における所得を有する元駐在員の方については、とりわけ今年度以降の申告からは

十分な注意が必要となるといえるでしょう。

ここで、居住者については、原則として、全ての所得(全世界所得)について中国における納税

義務が発生することとなることから、中国国外において税金を納付した場合には、原則として、中

国において申告を行うとともに外国税額控除を行うことになります。

また、非居住者については、中国にその源泉を有する所得についてのみ納税義務が発生すること

となっており、国外所得について納税を行う必要はありません。

【中国における申告手続き】

①国外所得申告(国外所得自己納税申告書(B表))

国外所得については、年度終了後 30 日以内に、納付すべき税額を国庫に納入し、かつ税務機関

に納税申告書を提出しなければならないとされています。

ここでの申告には、国外所得自己納税申告書(B表)が用いられます。

また、初回の申告に際しては、個人所得税基礎情報表(B 表)への提出が求められ、以降は情報

の内容に変化があった場合にのみ提出が求められます。

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税務会計

51 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

②年度申告(年度申告書)

以下のいずれかの条件を有する者については、納税年度(暦年)終了後 3 か月以内に税務局にお

いて年度申告を行う必要があります。

(1)年所得 12万元以上の所得を得ている者

(2)中国国内 2箇所以上において給料賃金所得を得ている者

(3)中国国外より所得を得ている者

(4)源泉徴収義務者のない課税所得を得ている者

(5)その他国務院の規定する者

このように、国際税務をめぐる状況はめまぐるしく変化してきています。同時に、日本企業にお

けるコンプライアンス重視の姿勢は、企業全体だけでなくそこに勤務する役員及び従業員について

も強く求められるようになりつつあり、これまで以上に駐在員の方々は駐在地国における税法コン

プライアンスにも注意を払わなければならないといえるでしょう。

従って、金額の多寡の問題ではなく、国外所得がある限り、法令に従った申告をするべきという

ことを意味するものといえるでしょう。

一方で、個人情報、人事面、税金負担計算等との関係で、国外所得の内容を雇用者に開示するこ

とは多くの問題をはらむものともいえ、可能な限り個人レベルでの給与以外の所得については、個

人的な税務処理が求められることがほとんどともいえるのではないでしょうか。

しかしながら、現実問題として、そもそもが専門分野である税法について、日本でならまだしも、

現地法令で、かつ、国際税務の考え方をも踏まえながら、申告書等の手続きを全て自らが実施する

ということは、逆にリスクを高めてしまう可能性があるともいえ、今後は、これらのコンプライア

ンスに従おうとする駐在員の方々の問題を総合的に解決していくということが求められるでしょ

う。

最後に、既に迫りつつある国際的情報交換という大きな変化に備えるに際して、このコーナーが

多少なりとも皆さんのお役に立てることができれば幸甚と考えております。

望月一央(公認会計士) MAZARS JAPAN/CHINA パートナー 東京公認会計士協会租税委員会委員

IBFD Japan Chapter Author(Transfer Pricing,

Investment Funds)

MAZARSは世界 86カ国に 20,000 名のスタッフ(2018年 1月 1 日時点)を有する、監査、会計、

税務およびアドバイザリーサービスに特化したワンファーム型国際会計事務所です。今般、

MAZARS 中国は、100 社にのぼる中国国有及び上場企業をクライアントに有する中審衆環会計師

事務所と統合することにより、MAZARS 中審衆環となりました。現在、MAZARS 中審衆環は中国拠

点 28カ所、総勢約 3,500名を擁し、日本企業にとってもますます重要となる中国企業関連分野

において最先端の業務を提供させていただくとともに、中国以外のインド、シンガポール、マレ

ーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、ミャンマー等のアジア地域においても、

ワンファームならではの緊密な連携により複合的なサービスを提供させていただきます。

MAZARS – Homepage http://www.mazars.com

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人事労務

52 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

新個人所得税の改正について ― 給与計算管理で注意する点 ―

2018年 8月 31日付で個人所得税法が改正されました。法律の施行は来年の 1月 1日からです

が、賃金給与や個人事業主の所得などの一部は今年の 10月 1日より先行して適用されました。日

系企業が特に注意すべきポイントをご紹介します。

改正後の新個人所得税法では、個人所得税の課税所得構成がこれまでの 11項目から 9項目にな

っており、労働制所得の「給与賃金所得」「労務報酬所得」「原稿報酬所得」「特許権使用料所

得」の 4項目の所得が総合所得として一括で課税されることになりました。これにより、3%から

45%超過累進税率の適用が施されます。また、経営性所得の超過累進税率は 5%から 35%と従来

と変更はありませんが、総合所得、経営性所得ともに、税率の適用範囲は調整されました。

これまでの中国籍人材の基礎控除は月額 3,500 元、外国籍人材は同 4,800元から同 5,000元に

引き上げられます。そのほかの、利息・配当所得、資産賃貸所得、資産譲渡所得、一時所得はこ

れまでと同様の納税額計算を行えば問題ありません。

また、基礎控除のほか特別付加控除項目が拡大します。これまでの養老保険、医療保険、失業

保険、住宅積立金等の三険一金は特別控除項目に維持しながら、子女教育費、継続教育費、高額

医療費、住宅ローン利息や住宅賃料といった生活に密接に関連する支出が新たに控除項目として

新設されます。

注意点として、2018年 10月 1日から先行してスタートしていますが、2018 年 10月 1日から 12

月 31日の間も、賃金給与所得については、5,000元の基礎控除で計算するということが挙げられ

ます。そして、社会保険等も変わらず控除する必要があります。給与計算そのものは 10月支給分

から変更する必要があるため、今一度社内での処理についてご確認ください。

保聖那人才服務(上海)有限公司

副総経理兼上海支店長 甲賀 孝

[email protected]

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人事労務

53 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

▼個人所得税法改正による対応策

個人所得税法実施条例と個人所得税特別付加控除暫定弁法の草案

10 月 20 日に公開された個人所得税法実施条例と個人所得税特別付加控除暫定弁法の草案のポイ

ントは主に以下 2点です。

1.各付加控除項目取り扱いについて

新個人所得税法では子女教育費、継続教育費、大病医療費、住宅ローンの利息や住宅家賃、老人

扶養支出といった生活に密接に関連する支出が新たに控除項目として新設されました。また家賃支

出に関しては、夫婦の勤務地が同じ都市にある場合は、夫婦のどちらか 1名を選択し、控除されま

す。また、夫婦が異なる都市で勤務、かつ主要勤務地において住宅を保持していない場合は、それ

ぞれ家賃支出の控除が可能となります。控除額は都市の規模に応じて月 800 元から 1,200元まで適

用されます。

大病医療費用以外の特別付加控除項目は比較的簡単な定額控除になりました。子女教育費や老人

扶養支出などについては別途証明資料が不要となり、申告のみで控除が認められるようになりまし

た。大病医療支出以外の控除項目について定額控除を実施したことと、付加控除証明資料を最大限

に減少させることによって企業の人事担当者の業務負担を減少させることに繋げられると考えら

れます。

また、個人が控除項目関連情報を源泉徴収義務者に申告を行い、源泉徴収義務者が月次個人所得

税の計算時に控除する方法を採用しました。控除漏れあるいは超過控除した場合は、翌年の確定申

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人事労務

54 MIZUHO CHINA MONTHLY

2018年12月号

告時に税金の追徴、もしくは還付を申請することができます。これらの付加控除項目については初

回実施時と変更時納税人が関連情報を源泉徴収義務者あるいは税務局に提出して控除を受けるこ

とが可能となります。

2.付加控除関連情報提供に関する納税人の責任について

企業は源泉徴収義務者として納税人が提供した付加控除関連情報の真実性について、検証責任が

あるか否かが懸念点として挙がっていました。今回の弁法草案では源泉徴収義務者は納税人が提供

した情報に基づいて控除を行い、申告した情報の真実性については納税人が責任を負う、と規定さ

れています。

また、徴収管理を強化するために、税務部門は公安・衛生・民生・教育・銀行・医療保障などの

各部門との情報共有を強化して、一定の比率で納税人が提供した控除情報について検査を行い、個

人による控除申告情報の真実性について検証を行うことになります。税務局は税務検査で納税人が

虚偽な証憑を提出したことが発覚した場合、源泉徴収義務者と個人に通報し、5 年以内にまた上述

状況が発生した場合、納税人信用記録に記入し、関連部門と共同で懲戒します。

まとめ

日系企業は、ローカル企業に比べ、多くの外国籍人材を登用しています。よって、日系企業にお

ける外国籍人材の駐在員給与管理に関しては、より注意が必要です。

今回の個人所得税改正では、従来外国籍人材に対して控除していた月々1,300 元の付加基礎控除

費用の優遇措置を廃止し、ローカル人材と外国籍人材の控除額を統一し、月々5,000 元の基礎控除

費用が適用されるようになりました。したがって外国籍人材に適用された家賃、子女教育費などの

免税優遇及び居住者の定義が満一年滞在から 183 日滞在に変更になることによって、これまでの 5

年ルール(居住期間が満 5年を超えなければ国外源泉の国外支給分について課税が免除)が今後も

適用するか注目されていましたが、今回の草案において改めて保留することとなりました。

暫定弁法草案では外国籍人材個人の子女教育、継続教育、住宅ローンの利息あるいは住宅家賃の

特別付加控除の条件を満たす場合、上述規定により控除をすることができる上、現行の規定により

子女教育費、言語訓練費、住宅手当の免税優遇を適用することもできます。しかし、同一の支出は

同時に免税優遇と特別付加控除を適用できません。

また、実施条例草案では中国国内において、累計居住期間が 183日を超える年度が連続 5年未満

の場合、国外源泉については税務局に登記をしたうえで、国内支払いの部分のみ課税すると明記さ

れています。また、第 6 年目から一納税年度において、183 日以上滞在する、かつ一回の出国日数

が 30 日を超えない場合は、全世界所得に対して課税されます。言い換えると、30 日超の一時出国

により 5年ルールの連続計算はリセットされて、引き続き国外源泉の国外支払分に対する課税を回

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人事労務

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2018年12月号

避することができます。

今回の個人所得税改正を機に今一度、駐在員の給与計算管理を見直すことをお勧めします。中

国における税金の徴収管理の強化の動きは明白です。駐在員の福利厚生費用の課税・非課税の

処理の仕方を含めて、正しい給与計算管理が実施されているかを見直す良い機会と考えます。

甲賀 孝

Pasona Human Resources(Shanghai)Co., Ltd.

保聖那人才服務(上海)有限公司

副総経理兼上海支店長

1999年早稲田大学卒業後、株式会社パソナに入社。2013年より関東営業本部 第 1

営業部長として首都圏エリアにて人材派遣・業務委託等、大手企業の管理部門を中

心に幅広いサービスを提供。2016 年 6 月に執行役員 関東営業本部長に就任し、5

つの営業部門を管掌。2018年 4月より現職。

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