mantiq contents - 楫取和明・青木邦匡mantiq.fish-u.ac.jp/ea/res/ea2020.pdf · 2020. 4....
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基礎解析学
楫取和明・青木邦匡
ii
目次
はじめに iii
第 1章 微分 1
1.1 微分係数と導関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
1.2 導関数とその計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
1.3 微分と関数の増減 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
1.4 高次導関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
第 2章 積分 45
2.1 不定積分と定積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45
2.2 積分の計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55
2.3 定積分のいろいろな解釈 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64
問の略解 75
問の略解 75
文献 87
iii
はじめに
本書は,一変数関数の微積分を勉強するためのテキストである.
本書の特徴を二つ挙げる.一つは,入門書としては他の分野における微積分の
応用例を積極的に取り上げたことである.微積分の創始者の一人ニュートンは,
力学の現象を数式で表すために微積分を発明したのであり,その成功がその後の
物理科学の数学的な発展につながっていったのであるから,物理現象を例に微積
分の概念を説明するのは自然なことである.また,多くの学問分野でデータから
知見を得るのに統計学を必要としている.ここでも,微積分は欠かせない道具と
なっているので,統計学からも確率密度関数を取り上げている.
もう一つの特徴は,定理の厳密な証明は避ける場合でも直観的な理解を助ける
説明をつけたことである.厳密な証明はえてして枝葉が多くなり肝心の幹が見え
なくなりがちである.枝葉の証明テクニックに多くの微積分学習者が習熟する必
要はない.一方,証明を単に省略し定理だけ述べるのでは学習者は今ひとつ納得
できまい.証明を省略する場合,多くの例を挙げて定理成立の感触をつかませる
という方法もあり,本書でも有効な例は迷わず挙げた.本書ではさらに,証明の
幹だけを残すという説明を至る所で試みた.この幹の部分こそ,証明のアイディ
アが露出する部分であり,また定積分の応用におけるようにしばしば応用に直結
するカギとなるのである.
各節は,定義と定理*1,例と問からなる.問の答えはすべて巻末に与えてある.
本書の内容は,大学の入学生向けの授業であれば週一回の授業で半年分に少し余
るといったところである.「ロピタルの定理」「テイラー展開」「曲線の長さ」など
時間によっては省略し,あとで必要になったおりに参照するという使い方ができ
ると思う.
*1 有用な数学的事実を「定理」という.数学的な事実であるとは証明できる事実ということである.
iv はじめに
また,本書では本格的に扱わないような厳密な理論展開に関するコメントを
「コメント」として述べた.ここは読み飛ばしても本書の理解には差し支えない
し,それは微積分を活用する上においても 99% 差し支えないことを意味する.
「コメント」で述べたような事項について知りたいときは,巻末の文献を参照され
たし.連続関数に関する議論も省略して進んで差し支えないと思う.
本書は,著者らの長年の授業における試行錯誤の末たどり着いた結果をつづっ
たものである.そこにいくばくかの成果があらんと念じつつ,ともかくもここに
形を成すまでには先達の業績にお世話になったことは申すに及ばず,数多くの学
生諸君の学習者としての貢献も忘れる訳にはいかない.感謝申し上げる.
著者しるす
(2020年 3月追記)
2020年度版より一部修正を施した.大きな変更点として,数式及び図に通し番号
を振ることにした.また,図を Inkscapeと mathematica を用いて描き直した.
細かな変更点として,コメントに用いられていたマクロの修正,定理環境におけ
るタイトルの付け方の変更,不要な白ページの削除,内容が変わらない範囲で一
部の文の加筆・修正・削除などを行った.
章や定理の番号は変わっていないので,2020年度版よりも古いものであっても
概ね講義の受講には差し支えないが,ページ番号は変更されているのでその点に
留意していただきたい.
(図作成者:田神 慶士)
1
第 1章
微分
1.1 微分係数と導関数
1.1.1 平均変化率
微分は物事の量的変化を扱う概念である.まず変化を数式で表すことを考える
ことにする.具体的には x の関数 f(x) があったとき,関数 f(x) の変化を考え
よう.
変数 xが aから bまで変化するにしたがい,f は f(a)から f(b)まで変化する.
ax7−→ b
f(a)f7−→ f(b)
このときの xの変化が b− aであるのに対して,f の変化は f(b)− f(a)である.
例 1.1 (斜面をころがる球 (1) – 平均速度 –). 斜面を球がスピードを増しつつこ
ろがり落ちていく運動を考える.
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mm
t = 5
t = 2
f(5)− f(2)
ころがり始めてから t秒後までにころがり落ちた距離を f(t) = t2 (m)とする.
するとたとえば,ころがり始めて 2秒後から 5秒後までの 5− 2 = 3秒間で,球
2 第 1章 微分
は f(5)− f(2) = 52 − 22 = 21 (m)ころがり落ちる.
2x7−→ 5
4 = f(2)f7−→ f(5) = 25
もし(事実と違って)球がこの間一定のスピードでころがったと仮定すると,
21/3 = 7 (m/s)のスピードで 3秒間ころがったことになる.この一定のスピード
f(5)− f(2)
5− 2=
21
3= 7 (m/s)
をこの間の平均速度と呼ぼう.
定義 1.1 (平均変化率). 例 1.1のように,関数 f(x)の変化を考えるとき,その
変数 xの変化に対する割合である:
f(b)− f(a)
b− a(1.1)
を問題にすることが多い.これを一般に x = aから x = bまでの f(x)の平均変
化率という.この式は,b− a = hとおけば,
f(a+ h)− f(a)
h(1.2)
と書くこともできる(状況によって使い分ける).
例 1.1の平均速度も平均変化率と解釈できる.
問 1.1. (1) 例 1.1 で,球がころがり始めてから 10 秒後までの 2 秒ごとの平
均速度を求めよ.
(2) 下関から萩まで 90 km の道のりを車で 2 時間半かかった.平均速度は秒
速何 mか.
(3) 関数 f(x) = x3 の x = 3から x = 6までの平均変化率はいくらか.
1.1.2 微分係数
例 1.2 (斜面をころがる球 (2) –速度–). 一般に動く物体の速さは刻々と変わる.
平均速度はそれをある時間帯でならしたものである.刻々と変わる速さそのもの
を表すにはどうしたらよいだろう.
1.1 微分係数と導関数 3
斜面を球がころがり始めてから t秒後までにころがり落ちた距離を f(t) (m)と
して考えよう.ある時刻 t = aから時間 h経ったところまでの平均変化率
f(a+ h)− f(a)
h
は時刻 t = aから時刻 t = a+ hまでの球の平均速度である.これは時間 hが非
常に短かければ時刻 t = a付近での球の平均速度である.すると,hを 0に限り
なく近づけていったとき,平均速度
f(a+ h)− f(a)
h
が近づく値は,時刻 t = aでの ‘瞬間速度’といって差し支えないと考えられる.
この hが 0に限りなく近づくとき平均速度が近づいていく値を
limh→0
f(a+ h)− f(a)
h
と書き,球の時刻 t = aでの(単に)速度ということにする*1.
例 1.1において,時刻 t = aにおける球の速度 v(a)を実際に求めてみよう.
v(a) = limh→0
f(a+ h)− f(a)
h
= limh→0
(a+ h)2 − a2
h
= limh→0
a2 + 2ah+ h2 − a2
h
= limh→0
2ah+ h2
h= lim
h→0(2a+ h)
= 2a
v(a) = 2aであるから,時間 aに比例して速度が速くなることが明瞭に数式とし
て表現される.前節の問 1.1(1)と比べてみよう.
上の速度の概念は ‘時間’tの関数である移動距離 f(t)の ‘瞬間的な’変化率であ
るが,一般の関数についてもその変数に関しての ‘ある一点における’変化率を定
義できる.それをする前に以後使う基本的な概念を二つ定義する.
まず,区間の概念を定義しておく.
*1 lim記号は以下で一般的に導入される ‘極限記号’と呼ばれるものである.
4 第 1章 微分
定義 1.2 (区間). 区間とは,a < bなる a, b の間の数すべての集合であり,端点
を含むかどうかで 4種類がある.
• 開区間 (a, b)は a < x < bなる xすべての集合
• 閉区間 [a, b]は a ≤ x ≤ bなる xすべての集合
• 半開区間 [a, b)は a ≤ x < bなる xすべての集合
• 半開区間 (a, b ]は a < x ≤ bなる xすべての集合
a, bは ±∞(それぞれ正負の無限大という)でもよい.このときの区間の意味は例えば,(−∞, 0 ]は 0以下の数すべての集合である.
上の極限の概念はもっと一般的につぎのように定義しておくといろいろなケー
スに使うことができる.
定義 1.3 (関数の極限). 関数 f(x)と定数 aに対して,xを aに限りなく近づけ
ていったとき,f(x) がどういう値に近づくかを考える.もし,そのような値が
‘ただ一つ’存在すればその値をlimx→a
f(x)
と書き,x → aのときの f(x)の極限という.また,
limx→a
f(x) = b
のとき,x → aのとき f(x)は bに収束する(記号で f(x) −→ bと書く),ある
いは x → aのときの f(x)の極限値は bであるという.
問 1.2. x → aとすると f(x)がいくらでも大きくなるとき,f(x)は無限大に発
散するといい,limx→a
f(x) = ∞
と書く.|x|を使ってこのような f(x)の例を作れ.(なぜ絶対値を使うのか.)
一般の関数について,その変数のある一点における変化率は以下のように定義
される.
定義 1.4 (微分可能性と微分係数). 極限
limh→0
f(a+ h)− f(a)
h
1.1 微分係数と導関数 5
が存在するとき,f は x = aで微分可能*2といい,この極限を f ′(a)またはdf
dx(a)
と書き,f の x = aでの微分係数という.
問 1.3. f(x) = x3 とするとき,例 1.2 における v(a) と同じようにして,f ′(a)
を求めよ.
微分係数は,区間 [a, a+ h](h > 0)あるいは [a+ h, a](h < 0)での平均変
化率において,区間を点に近づけたときの極限であるから,その一点での変化率
であると考えられる.
定義 1.5 (一般的な変化の速さ). f(t)がある時刻から経過した時間 tの関数であ
るとする.f ′(a)は時間 a経過後の f(t)の経過時間に対する瞬間変化率であると
解釈される.すなわち f ′(a)は f(t)の時間 aが経過した後における瞬間的な変化
の速さである.ひとことでいえば,変数が経過時間(あるいは時刻)なら微分係
数は速さを意味するということである.
例 1.1, 例 1.2における物体の運動の速度はむろんこの例である.他にも,放
射性元素の崩壊における元素量の減少の速さを数式で表すことができる(のちの
例 1.6, 例 1.10,例 2.12).実際に測定によって変化の速さを求めるとしたら,
ある時間内にどれだけ変化したかを測りその割合,すなわち平均変化率を求める
ことになる.したがって,ある時刻における変化の速さという概念は ‘理想的’な
ものであって,平均変化率の ‘極限’として定義されるのである.しかし,このあ
る時刻における変化の速さという概念は,いろいろな現象を数学的に記述すると
き大変有用なものとなる.
1.1.3 極限および連続性,微分可能性の概念について
この節で述べる極限の性質と連続性の概念は厳密な微積分学の展開に必要にな
るものであるが,本書における以後の展開においては必要となることは少なく,
そのときに参照してもよいのでこの節は飛ばしても差し支えない.
関数の極限は厳密には以下のように定義される:
limx→a
f(x) = b
*2 極限の存在を含め微分可能性については次節を参照
6 第 1章 微分
とは,次が成立することである.「任意の ε > 0 に対しある δ > 0 があって,
0 < |x− a| < δ なら |f(x)− b| < εとなるようにできる.」
この定義を正式な定義とするのは,このような定義が必要な証明があるからで
ある.しかし本書においてはそのような証明には立ち入らないので,上の定義の
説明は他書 1) にゆずる.
例 1.3 (極限が存在しない例). 注意しておかなければならないのは,極限は一般
に存在するとは限らないことである.たとえば,電気スイッチを表現するのに使
われるヘヴィサイドの関数
H(t) =
{0 (t ≤ 0)1 (t > 0)
を考えよう.tが負の方向から 0に近づいたときは H(t)は 0に近づき,tが正の
方向から 0に近づいたときはH(t)は 1に近づく(図 1.1参照).よって,近づく
値は ‘ただ一つ’ではないから,極限は存在しない.
図 1.1 ヘヴィサイド関数のグラフ
ヘヴィサイドの関数 H(t)は t = 0においてグラフに飛びがある.このような
場合,関数は t = 0において不連続であるという.
定義 1.6 (連続性). 関数の連続性は正式には極限を用いて定義される.すなわ
ち,f(x)が x = aで連続であるとは,
limx→a
f(x) = f(a)
となることである.不連続であるとは連続でないことである.
以下は関数の最大値・最小値の存在に関して重要となる連続関数の性質である.
1.1 微分係数と導関数 7
定理 1.1 (最大・最小の原理). 閉区間の各点において連続な*3 関数はその閉区間
において,最大値および最小値をとる.
(説明)この事実を実感するには,連続関数と閉区間を考えるだけでは不十分で,
不連続関数と非閉区間もからめて考える必要がある.図 1.2は,連続関数と閉区
間の組み合わせ(最大最小有り),不連続関数と閉区間の組み合わせ(最大最小な
し),連続関数と非閉区間の組み合わせ(最大最小なし)の例である.
図 1.2 連続関数と最大・最小の存在
2番目のグラフの関数は,
f(x) =
{1x (x ̸= 0)0 (x = 0)
である(原点において不連続).
微分可能性と連続性には以下の関係がある.
定理 1.2. f(x)が x = aで微分可能なら f(x)は x = aで連続である.
例 1.4 (微分可能でない f(x) の例 (1)). 一般に関数は微分可能とは限らない.
例 1.3のヘヴィサイドの関数H(t)は,a ̸= 0なる aについては,t = aで微分可
能である (微分係数の定義から調べてみよ).しかし,t = 0においては微分可能
ではない.ヘヴィサイド関数は原点で不連続であるからこれは定理 1.2によって
もわかるが,直接確かめることもできる.なぜなら,t = 0のまわりの平均変化率
H(h)−H(0)
h=
{0 (h < 0)1h (h > 0)
*3 ここで,閉区間 [a, b]の各点において連続であるというとき,点 x = aにおいては,xを aより大きい方から a に近づけたとき,f(x) は f(a) に近づくことをいう.点 x = b についても同様.
8 第 1章 微分
は,hが負の方向から 0に近づいたときは 0に近づき,hが正の方向から 0に近
づいたときはいくらでも大きくなってしまう(無限大に発散する).よって,極限
は存在しない.
ヘヴィサイドの関数は,t = 0 を境に 0 から 1 へ一瞬で変わってしまうので
t = 0で変化率を考えるとすれば無限大であり,実際正側からとった平均変化率
は無限大に発散してしまうのである.
例 1.5 (微分可能ではない f(x)の例 (2)). 関数 f(x) = |x|は,a ̸= 0なる aにつ
いては,x = aで微分可能であり,(a, f(a))における接線は y = −x(a < 0の
とき)か y = x(a > 0のとき)である.しかし,x = 0においては連続であるが
微分可能ではない.なぜなら,x = 0の周りの平均変化率は,
f(h)− f(0)
h=
|h|h
=
{−1 (h < 0)1 (h > 0)
であるから,hが負の方向から 0に近づいたときは −1に近づき,xが正の方向
から 0に近づいたときは 1に近づく.よって,近づく値は ‘ただ一つ’ではないか
ら,極限は存在しない.
この例は,連続でも微分可能ではない関数の例となっている.その微分可能で
はない点においては,グラフの形状でいえば尖っていてなめらかでない(図 1.3
参照).これは微分可能性がグラフのなめらかさを意味するという直感的な理解
を示唆する例ともなっている.
図 1.3 y = |x|のグラフ
1.2 導関数とその計算 9
1.2 導関数とその計算
1.2.1 導関数
関数 f(x)が区間 I(の各点)で微分可能であるとき,I の各点 xに対し f ′(x)を
対応させる関数が存在する.これを f(x)の I における導関数といい,f ′(x)また
はdf
dx(x)で表す.f(x)の導関数を求めることを,f(x)の微分を求める,あるい
は f(x)を微分するという.
f ′(x)という記法(ニュートンの記法)が簡便ではあるが,df
dx(x)という記法
(ライプニッツの記法)には平均変化率の極限であることを表しているという利点
がある.すなわち,h = ∆x,f(x+ h)− f(x) = ∆f と書けば,
lim∆x→0
∆f
∆x=
df
dx
例 1.6 (放射性元素の崩壊 (1) –微分方程式–). 放射性元素はその不安定性のた
めに崩壊を起こして他の物質に変化する.物理法則としてその崩壊の速さはその
時点での放射性元素の量に比例することが分かっている.すなわち,時刻 tでの
放射性元素の量を y(t)とすると,比例定数を a > 0として,
y′(t) = −ay(t) ただし,y(t) (1.3)
という関係が成立する.ここで y(t)は時間とともに減っていくのでその変化の速
さは y′(t) < 0となることに注意.
この例では,y(t)の具体的な式があらかじめ分かっていない.そこで,式 (1.3)
を未知の関数 y(t) に関する条件式とみて,この条件式を満たす y(t) を求めるこ
とを考える.式 (1.3) は関数 y(t)とその導関数 y′(t)の条件式でこれを満たす未
知関数を求めるから,微分方程式と呼ばれる.この微分方程式が解ければ,すな
わち式 (1.3) を満たす関数 y(t)が求まれば,放射性元素の崩壊過程という現象を
数式で表すことができる.
このように物理などの分野における基本的な考え方は,現象を分析してまずそ
の現象で成立する微分方程式を書きおろし,それを解くことで現象の記述を得る
というものである.この微分方程式 (1.3) の解法は指数関数の導関数および不定
積分のところで扱う.
10 第 1章 微分
問 1.4. もともと 100g あった放射性元素がその時点での量に比例する速さで崩
壊するとき,崩壊してできる物質の時刻 tでの量 z(t) (g)に関する微分方程式を
求めよ.ただし,崩壊してできる物質の重量 (g)は崩壊した放射性元素の重量 (g)
に等しいとする.
1.2.2 基本的な関数の導関数
以下この節では,いろいろな関数の導関数を求めるにあたって基本的となる関
数の導関数を示そう.これら,定数関数,xn,sinx,cosx,tanx,ex,の導関
数,さらに log x,xa の導関数は覚えておく必要がある.
具体的な関数の微分は,(sinx)′ などと書くことにしよう.最初の関数は,ある
定数しか値として取らない定数関数である.
定理 1.3 (定数関数の微分). cを実数とする.定数関数 f(x) = cは (−∞,∞)に
おいて微分可能(つまり,すべての点で微分可能)であり,その導関数は 0とな
る.すなわち(c)′ = 0,(cは定数)
図 1.4 定数関数 f(x) = cのグラフ
証明. この定数関数を f(x) = cと書くと,
(c)′ = f ′(x) = limh→0
f(x+ h)− f(x)
h= lim
h→0
c− c
h= 0
xn の微分は,n = 2, 3の場合に例 1.2と問 1.3で扱っている.2項定理を使え
ば一般の xn の場合も同様にできる.
1.2 導関数とその計算 11
定理 1.4 (xn の微分). 1以上の自然数 nに対して,xn は (−∞,∞)で微分可能
で,(xn)′ = nxn−1 となる.
証明. (x+ h)n の 2項定理による展開を使う.
(x+ h)n − xn
h=
(xn + nxn−1h+
(n2
)xn−2h2 + · · ·+ hn)− xn
h
= nxn−1 +
(n2
)xn−2h+ · · ·+ hn−1
−→ nxn−1
以下,「∼は (−∞,∞)で微分可能で,」は省略する.
三角関数については,角度の単位をはっきりさせる必要がある.解析学におい
ては,度(◦)よりラジアンという単位を用いる.
円周率の概念を仮定すれば,度(◦)との関係で以下のようにラジアンは説明さ
れる.すなわち,π を円周率として,180◦ = πラジアンとする.すると,あとは
比例で,
θ◦ =πθ
180ラジアン
となるので,
90◦ =π
2
60◦ =π
3
45◦ =π
4
30◦ =π
6
などとなる.以後 sinxは sinxラジアンのことであるとする(他の三角関数につ
いても同様).
コメント:円周率 π とは何だろうか.円周の長さを思い浮かべるように,半径 1 の円周の長さを 2π
として定義できる.ただし,円は座標平面上で x2 + y2 = 1 で決まる点の集合として,円周の長さに
は上限という概念が必要になる.円周率の効率的な計算には後述のテーラー展開が使われる.
12 第 1章 微分
三角関数に関する極限公式で以下のものが基本的で,正弦・余弦関数の導関数
を求めるのにも使われる.
定理 1.5.
limx→0
sinx
x= 1
ここで角度の単位はラジアンであることを確認しておく.角度の単位が度 (◦)で
あると上の極限値は 1にはならない.
この定理の証明は省略するが,次のように ‘実感’することはできる.
sin π6
π6
=3
π≈ 1
また,コンピュータで描いた図 1.5を見れば,原点付近で y = sinxのグラフと
y = xのグラフがほぼ重なっていることで両者の比がほぼ 1であることが分かる.
図 1.5 y = sinxと y = xのグラフの x = 0近くでの様子
定理 1.6 (三角関数の微分). 三角関数の微分に関して次が成り立つ.
(sinx)′ = cosx, (cosx)′ = − sinx
証明. 正弦関数の導関数は正弦関数に関する極限の定理
limx→0
sinx
x= 1
からつぎのように求められる.三角関数の公式:
sin a− sin b = 2 sina− b
2cos
a+ b
2
1.2 導関数とその計算 13
より
(sinx)′ = limh→0
sin(x+ h)− sinx
h= lim
h→0
2
hsin
h
2cos
(x+
h
2
)= lim
h→0
sin h2
h2
cos
(x+
h
2
)= cosx
余弦関数についても同様である.
コメント:少しうるさいことをいえば,上の証明において,
limh→0
cos
(x+
h
2
)= cosx
には,cosx の x = 0 における連続性が使われている.cosx の連続性はそのよく知られているグラ
フに途切れがないことで納得できよう.
問 1.5. cosx の導関数を上の定理と同様に求めよ.(sinx の連続性は仮定して
よい.)
指数関数とは定数 a に対して ax の形のものである.解析学においては,a と
して以下の定数(ネピアの定数)を用いることがしばしばある.
定義 1.7 (ネピアの定数).
limn→∞
(1 +
1
n
)n
なる極限は存在することが証明できる(証明 1) 略).この極限を e(ネピアの定
数)と書く.
実際,(1 +
1
n
)n
を計算してみると,
n = 1で,(1 +
1
n
)n
= 2
n = 2で,(1 +
1
n
)n
= 2.25
n = 3で,(1 +
1
n
)n
= 2.3̇70̇
...
14 第 1章 微分
このように,‘数列’
(1 +
1
n
)n
は増え続け,極限値 e の概算値は 2.7182 . . . で
ある.
以後対数関数については,log xと書いて loge xのこととする.(loge xのこと
を自然対数といい,log10 xのことを常用対数という.)
次の極限公式は基礎的事実として知られている.
定理 1.7.
limx→0
ex − 1
x= 1
(説明)この定理の厳密な証明はしないが,概略以下のように説明できる.ネピア
の定数の定義式において自然数 nを実数 xに置き換えても,同様に
limx→∞
(1 +
1
x
)x
= e
となる.対数関数の連続性から,両辺の対数をとって,
limx→∞
log
(1 +
1
x
)x
= 1
対数法則より,
limx→∞
x log
(1 +
1
x
)= 1
ここで,t =1
xとおけば,
limt→0
1
tlog (1 + t) = 1
さらに log (1 + t) = h とおくと,1 + t = eh より,eh − 1 = tであるから,
limh→0
eh − 1
h= 1
つぎが,ax における定数 aとして eを使う理由である.
定理 1.8. 指数関数の微分(ex)′ = ex
1.2 導関数とその計算 15
証明. 指数関数の導関数は
limx→0
ex − 1
x= 1
からつぎのように求められる.
limh→0
ex+h − ex
h= lim
h→0ex
eh − 1
h= ex
(2x)′= 2x とはならない(どうなるかについては後述).
1.2.3 いろいろな関数の導関数
以下に述べる「四則の微分」「合成関数の微分」「逆関数の微分」の 3 定理は,
証明は飛ばしても差し支えないが,少なくとも「四則の微分」と「合成関数の微
分」の使い方は完全に身につけなければならない.
これらの微分法則は,複雑な関数の微分をより簡単な関数の微分に還元するも
のであることに注目しよう.
四則の微分
定理 1.9 (四則の微分). 関数 f(x), g(x)が x = aにおいて微分可能なとき以下が
成立する.
(1) f(x)± g(x)は x = aで微分可能で,
(f(a)± g(a))′ = f ′(a)± g′(a)
ただし復号同順.
(2) 定数 k に対し kf(x)は x = aで微分可能で,(kf(a))′ = kf ′(a).
(3) f(x)g(x)は x = aで微分可能で,
(f(a)g(a))′ = f ′(a)g(a) + f(a)g′(a)
(4)f(x)
g(x)は x = aで微分可能で,
(f(a)
g(a)
)′
=f ′(a)g(a)− f(a)g′(a)
g(a)2
16 第 1章 微分
証明. (1)
limx→a
f(x) + g(x)− (f(a) + g(a))
x− a= lim
x→a
f(x)− f(a) + g(x)− g(a)
x− a
= limx→a
f(x)− f(a)
x− a+ lim
x→a
g(x)− g(a)
x− a
= f ′(a) + g′(a)
f(x)− g(x)の場合も同様.
(2) 簡単なので省略.
(3)
limx→a
f(x)g(x)− f(a)g(a)
x− a= lim
x→a
f(x)g(x)− f(a)g(x) + f(a)g(x)− f(a)g(a)
x− a
= limx→a
f(x)− f(a)
x− ag(x) + lim
x→af(a)
g(x)− g(a)
x− a
= f ′(a)g(a) + f(a)g′(a)
(4)
limx→a
f(x)g(x) −
f(a)g(a)
x− a= lim
x→a
f(x)g(a)− f(a)g(x)
x− a
1
g(x)g(a)
= limx→a
f(x)g(a)− f(a)g(a)− f(a)g(x) + f(a)g(a)
x− a
1
g(x)g(a)
= limx→a
{f(x)− f(a)
x− ag(a)− f(a)
g(x)− g(a)
x− a
}1
g(x)g(a)
=f ′(a)g(a)− f(a)g′(a)
g(a)2
例 1.7. 四則の微分公式から多項式の微分は以下のようにして求められる.
(3x2 + 4x− 8)′ = (3x2)′ + (4x)′ − (8)′
= 3(x2)′ + 4(x)′ − (8)′
= 3× 2x+ 4× 1− 0
= 6x+ 4
問 1.6. 4x5 − 3x2 + 10の導関数を求めよ.
1.2 導関数とその計算 17
例 1.8. 商の微分公式から正接関数の微分は以下のようにして求められる.
(tanx)′ =
(sinx
cosx
)′
=(sinx)′ cosx− sinx(cosx)′
cos2 x
=cosx cosx− sinx(− sinx)
cos2 x
=1
cos2 x
= sec2 x
ここで,secxは secx =1
cosxで定義される関数で「セカント」とよむ.
問 1.7. (x2 − 2x+ 2)ex の導関数を計算せよ.
問 1.8.sinx
1 + sinxの導関数を計算せよ.
合成関数の微分法
xの関数 sin 2x の導関数がどうなるかを考える.(sinx)′ = cosxであることを
我々はすでに知っているが,
(sin 2x)′ = cos 2x
とはならない.すなわち,2x の部分を変数と見て sin 2x を微分しても (sin 2x)′
は得られない.これはなぜかというと,(sin 2x)′ は変数 xの変化に対する sin 2x
の変化率の極限であって,2xの変化に対するそれではないからである.
具体的に数式で書いてみよう.xの変化を ∆x,2xの変化を ∆(2x) = 2∆xと
書いて,sin 2xの変化を ∆(sin 2x)と書くと,変化率の関係式
∆(sin 2x)
∆x=
∆(sin 2x)
∆(2x)
∆(2x)
∆x
が成立する.すなわち,平均変化率の段階では,sin 2x の x に対する変化率は,
2xに対する変化率に 2xの xに対する変化率 (当然 2である)をかけたものに等
しい.上式の両辺で ∆x → 0とすれば,
d (sin 2x)
d x=
d (sin 2x)
d (2x)
d (2x)
d x
18 第 1章 微分
すなわち,sin 2xを xについて微分するには,まず sin 2xを 2xについて微分し
て,それに 2xの xについての微分をかければよいのである.
この考えを一般的な形にしたものが以下の定理である.
定理 1.10 (合成関数の微分). y = f(x), z = g(y)がそれぞれ x, y について微分
可能なら,z = g(f(x))も微分可能で,
(g(f(x)))′ = g′(f(x))f ′(x)
ライプニッツの記法で書けば,
dz
dx(x) =
dz
dy(f(x))
dy
dx(x)
ちなみに,g(f(x))を g, f の合成関数という.
(説明) この定理の厳密な証明はしないが,そのアイディアは以下で示される.
g(f(x))− g(f(a))
x− a=
g(f(x))− g(f(a))
f(x)− f(a)
f(x)− f(a)
x− a
であるから,ここで x → aとすれば,
limx→a
g(f(x))− g(f(a))
x− a= g′(f(a))f ′(a)
厳密な証明では,f(x)− f(a) = 0となる場合を考慮しなければならない.
上の公式は,dz
dx=
dz
dy
dy
dx
と書いてみれば,左辺を分数と思って約分すれば右辺に等しくなるという解釈が
できる.これは,上で説明したアイディアを反映している.
上の公式を使うときは,
dg(f(x))
dx=
dg(f(x))
df(x)
df(x)
dx
と思って適用するとよい.すなわち,f(x)を一つの変数と思って f(x)について
微分し,それに f(x)の xについての微分をかけるのである.いいかえれば,f(x)
を変数と思って微分したものは xに対する変化率ではないので,補正として f(x)
の xに対する変化率をかけるのである.
1.2 導関数とその計算 19
しかし,f(x)を変数と思ってというのがわずらわしければ,いったん f(x) = u
とおいて g(f(x)) = g(u)を uで微分し,それに f ′(x)をかければよい.つまり,
g′(u)f ′(x)を求めればよい.
例 1.9.
(sin 2x)′ =d sin 2x
d (2x)
d (2x)
d x
= 2 cos 2x
(esin x)′ =d esin x
d (sinx)
d sinx
dx
= esin x cosx
あるいは,sinx = uとおいて,
(esin x)′ =d eu
d u
d u
dx= eu cosx
= esin x cosx
問 1.9. xe−4x の導関数を求めよ.
問 1.10. cos3 2xの導関数を求めよ.
問 1.11.1− e−x
1 + e−xの導関数を求めよ.
問 1.12. 2x = e(log 2)x であることを利用して,2x の導関数を求めよ.
例 1.10 (放射性元素の崩壊 (2) –微分方程式の解 –). 例 1.6で見たように,放射
性元素の崩壊の速さはその時点での放射性元素の量に比例する.すなわち,時刻
tでの放射性元素の量を y(t)とすると,比例定数を a > 0として,
y′(t) = −ay(t) (1.4)
という微分方程式が成立する.ここで,y(t) = e−at としてみよう.すると,
y′(t) = −ae−at = −ay(t)
であるから,y(t) = e−at は式 (1.4)の一つの解である.
20 第 1章 微分
問 1.13. 微分方程式 y′(t) = y(t)の一つの解を見つけよ.
逆関数の微分法
定義 1.8 (逆関数). 関数 f(x)に対して,y = f(x)なら x = g(y)となる関係に
ある関数 g(y)を f(x)の逆関数であるといい,g = f−1 と書く (逆関数 f−1 を逆
数と混同しないでほしい).g が f の逆関数なら f も g の逆関数である.
たとえば,y = ex なら x = log y であるから,log y は ex の逆関数である.こ
のことを,普通は変数を xに統一して log xは ex の逆関数であるという.
定理 1.11 (逆関数の微分). y = f(x) が x について微分可能なら,x = f−1(y)
も y について微分可能で,dx
dy(y) =
1
dy
dx(x)
ここで,右辺は x = f−1(y)の関係の元で y の関数と考えている.
証明. 任意の y, bに対し x = f−1(y), a = f−1(b)とおけば f(x) = y, f(a) = b
である.よって,y → bのとき,
f−1(y)− f−1(b)
y − b=
1
y − b
f−1(y)− f−1(b)
=1
f(x)− f(a)
x− a
−→ 1
f ′(a)
コメント:最後の収束は f−1 の連続性より y → b のとき x → a であるからである.
定義 1.9 (逆三角関数). tanxは同じ値を異なる xに対して取るので,tanxの x
の範囲を (−π
2,π
2) に制限してみると,この範囲でなら −∞ < y < ∞ なるある
y に対し y = tanxとなる xは一つなので逆関数が一つに定まる.この逆関数を
Tan−1(y)あるいは Arctan(y)と書く.
x ∈ (−∞,∞)に対して −π
2< Tan−1(x) <
π
2
1.2 導関数とその計算 21
となる.
sinxも同じ値を異なる xに対して取るので,sinxの逆関数といっても一つに
定まらない.そこで,sinxの xの範囲を [−π
2,π
2]に制限してみると,この範囲
でなら −1 ≤ y ≤ 1なるある y に対し y = sinxとなる xは一つなので逆関数が
一つに定まる.この逆関数を Sin−1(y) あるいは Arcsin(y) と書く.逆関数の変
数も xとしてかまわない.
x ∈ [−1, 1]に対して −π
2≤ Sin−1(x) ≤ π
2
となる.
cosxも同じ値を異なる xに対して取るので,cosxの xの範囲を [0, π]に制限
してみると,この範囲でなら−1 ≤ y ≤ 1なるある yに対し y = cosxとなる xは
一つなので逆関数が一つに定まる.この逆関数を Cos−1(y) あるいは Arccos(y)
と書く.
x ∈ [−1, 1]に対して 0 ≤ Cos−1(x) ≤ π
となる.Tan−1, Sin−1, Cos−1 を逆三角関数という.
例 1.11 (逆三角関数の微分).
(Sin−1x)′ =1√
1− x2, (Cos−1x)′ = − 1√
1− x2(|x| < 1)
(Tan−1x)′ =1
1 + x2
証明. Sin−1 についての結果を示す.まず x = Sin−1(y), (−1 < y < 1) の値域(−π
2 ,π2
)において cosx > 0 であることに注意しておく.x = Sin−1y のとき
y = sinxであるから,
dSin−1(y)
dy=
1
dy
dx
=1
d sinx
dx
=1
cosx
−π
2≤ x ≤ π
2の範囲で考えるから,cosx ≥ 0より,cosx =
√1− sin2 x.した
22 第 1章 微分
がって,
dSin−1(y)
dy=
1√1− sin2 x
=1√
1− y2
Cos−1 についても同様である.
Tan−1 について示す.まず 1 + tan2 x =1
cos2 xがつねに成立することに注意
する.
dTan−1(y)
dy=
1
dy
dx
=1
d tanx
dx
=1
1
cos2 x
=1
1 + tan2 x=
1
1 + y2
例 1.12 (対数関数の微分).
(log x)′ =1
x(x > 0) (log(−x))′ =
1
x(x < 0)
上二つを一つに書けば,
(log |x|)′ = 1
x(x ̸= 0)
証明. 対数関数 log y は y = ex の逆関数であるので,y > 0のときは
(log |y|)′ = (log y)′ =1
ex=
1
y
y < 0のときは,g(y) = −y とおけば,g(y) > 0であるから,
(log |y|)′ = (log(−y))′ = (log g(y))′ =1
g(y)g′(y) =
1
−y(−1) =
1
y
問 1.14. logx− 1
x+ 1の導関数を求めよ.
例 1.13. a乗の微分(xa)′ = axa−1 (x > 0)
証明. y = xa の両辺の対数をとって,
log y = a log x
1.3 微分と関数の増減 23
この両辺を xの関数として微分すれば,
1
yy′ = a
1
x
よって,y′ =
a
xy = axa−1
上記の xa の微分のように y = f(x)の両辺の対数をとり
log y = log f(x)
の両辺を xの関数として微分して
y′
y= (log f(x))′
これからy′ = y(log f(x))′
として右辺の計算により f ′(x)を求める方法を対数微分法という.
問 1.15. (xa)′ の微分公式を使って,(√x)′ を計算せよ.
問 1.16. (xa)′ の微分公式を使って,(
1
x 3√x
)′
を計算せよ.
問 1.17.√1 + x2 の導関数を計算せよ.
問 1.18. log√1 + x2 の導関数を求めよ.
問 1.19. 対数微分法を使って,(xx)′ = xx(1 + log x)を示せ.
1.3 微分と関数の増減
1.3.1 接線と微分係数
平均変化率は,y = f(x)のグラフ上の 2点 (a, f(a)), (b, f(b))を結んだ線分の
傾きでもある(図 1.6参照).微分可能性の定義において平均変化率は弦の傾きと
24 第 1章 微分
図 1.6 グラフ上の二点を結ぶ弦の傾きは平均変化率を与える.図中の l はグ
ラフと接する直線となっている.
解釈できるので,このことは微分可能であれば極限において微分係数を傾きに持
つ直線が ‘弦の極限’として存在することを示唆している.
点 (a, f(a)) を通る直線 l が,点 (a, f(a)) における y = f(x) のグラフへの接
線であるとは,b → a のとき,図 1.6 の角度 θ が 0 に収束することである.こ
の定義は,接線が上の意味で ‘弦の極限’であることを表現しているといえる.接
点 (a, f(a)) の付近では,接線は y = f(x) のグラフにぴったりと引っ付いてい
る(図 1.6参照).すなわち,接点の付近では直線と y = f(x)のグラフとはほぼ
同一視できる.この意味で,点 (a, f(a))における接線を表す一次関数は f(x)の
x = aの近傍での一次近似であるという.
定理 1.12 (接線の方程式). f(x)が x = aで微分可能なとき,y = f(x)のグラ
フには点 (a, f(a))において接線が唯一つ引けて,その方程式は
y = f ′(a)(x− a) + f(a) (1.5)
で与えられる.
証明. 式 (1.5)で表される直線は明らかに点 (a, f(a))を通る.一方,区間 [a, a+h]
(h < 0なら [a+ h, a])での y = f(x) のグラフの弦の傾きは,微分可能性の仮定
から h → 0で f ′(a) に収束する.このことは,弦と式 (1.5)が表す直線のなす角
θ が h → 0で 0に収束することを意味している.また,点 (a, f(a))を通る直線
y = k(x− a) + f(a) (1.6)
が接線なら,グラフの弦とこの直線のなす角 θ が h → 0 で 0 に収束すること
1.3 微分と関数の増減 25
から,弦の傾きの収束値はこの直線の傾きである.よって,k = f ′(a) であり,
式 (1.6)は式 (1.5)と一致する.
例 1.14 (接線の計算). y = sin(x+ π)の点 (π, 0)における接線の式を求めよう.
y′(x) = cos(x+ π)より,y′(π) = cos(2π) = 1.よって接線の傾きは 1で,接線
の式を y = x+ bとおけば,(π, 0)を通ることより,0 = π + b,よって b = −π.
したがって求める式は,y = x− π.(もちろん上の定理の式を使ってもよい.)
問 1.20. y = log(0.5x)への点 (2e, 1)における接線の式を求めよ.
1.3.2 平均値の定理
定義 1.10 (極値). f(a)が f の極大値(極小値)であるとは,aを含むある開区
間 I で,f(x) ≤ f(a) (f(x) ≥ f(a))
となることである.極大値と極小値を合わせて極値という.
すなわち,f(a)が極大値(極小値)であるとは,x = aのまわりで f(a)が最
大値(最小値)であることである(図 1.7参照).
図 1.7 極大値,極小値
以下は,関数が極値をとる点 (a, f(a))においては,接線の傾きが 0になるとい
う直観的な事実を定理(証明できる命題)として述べている.これは関数の極値
を求めるとき基本となるものである.
26 第 1章 微分
定理 1.13 (極値の必要条件). 微分可能な f(x) が x = a で極値をもてば,
f ′(a) = 0である.
証明. f(a) が極小値であるとする.十分 a に近い x > a に対し,x − a >
0, f(x)− f(a) ≥ 0であるから,
f(x)− f(a)
x− a≥ 0
よって,
limx→a+0
f(x)− f(a)
x− a≥ 0
十分 aに近い x < aに対し,x− a < 0, f(x)− f(a) ≥ 0であるから,
f(x)− f(a)
x− a≤ 0
よって,
limx→a−0
f(x)− f(a)
x− a≤ 0
したがって,
limx→a
f(x)− f(a)
x− a= 0
f(a)が極大値の場合も同様.
f ′(a) = 0は,x = aで f(x)が極値をとるための十分条件ではない(このこと
を示す f の例を挙げよ).f ′(a) = 0のとき,x = aで f(x)が極値をとるかどう
かは,以下で述べるように x = aのまわりでの f(x)の増減を調べることで決定
できる.
例 1.15 (価格と費用). ここで,経済学から例をとろう.これは時刻以外の関数
の微分を使う例になっている.
今,ある企業がある製品を作るための費用は C(X)と製品の生産量 X の関数
であるとする.価格(製品単価)が P 一定であり,かつ生産した製品はすべて売
れるとすると,この企業の利潤(もうけ)π(X)は,
π(X) = PX − C(X)
1.3 微分と関数の増減 27
となる.もし,生産量 X のある値で利潤が最大になるとすれば,その最大値
π(X)は π の極大値になると考えられる.よって,
π′(X) = P − C ′(X) = 0
となっていなければならない.すなわち,利潤が最大となる生産量X のときの価
格と費用の関係は,P = C ′(X)
となっているはずである.ミクロ経済学では C ′(X)を(生産量 X に対する)限
界費用と呼ぶ.
つぎの定理は,f(a) = f(b)なら,aと bの間で f は極値をとるという直観的
な事実を述べたものである(図 1.8参照).
図 1.8 f(a) = f(b)となる関数 f(x)のグラフが極値をとる様子
定理 1.14 (ロルの定理). f(x)が [a, b]で連続で (a, b)で微分可能とする.f(a) =
f(b)ならば f ′(c) = 0となる c (a < c < b)が存在する.
証明. 最大・最小の原理より区間 [a, b] での f の最大値,最小値をそれぞれ
f(d), f(e)とする.a < d < bか a < e < bであれば d, eのどちらかで極値をと
るから証明は終りである.よって d, eが端点 a, bであるとする.このときは仮定
f(a) = f(b)より,区間での最大値と最小値が一致することになる.これは区間
内で f が一定値であることを意味するから,区間内で f ′ = 0である.
つぎの平均値の定理は,ロルの定理において f(a) = f(b)の仮定をとると,ど
うなるかを述べたものである.区間 [a, b]間の平均変化率が a < c < bを満たす
28 第 1章 微分
ある cの微分係数(瞬間変化率)f ′(c)で実現されていることを述べている.これ
も直観的には自然なことといえよう(図 1.9).
図 1.9 弦の傾き(平均変化率)と同じ傾きを持つ接線
定理 1.15 (平均値の定理). f(x)が [a, b]で連続で (a, b)で微分可能とすると,
f(b)− f(a)
b− a= f ′(c)
を満たす c (a < c < b)が存在する.
証明.
F (x) =f(b)− f(a)
b− a(x− a) + f(a)− f(x)
とおくと,F (a) = F (b) = 0で
F ′(x) =f(b)− f(a)
b− a− f ′(x)
であるから,ロルの定理より,F ′(c) = 0となる c (a < c < b)が存在する.F ′(x)
の式より f ′(c) =f(b)− f(a)
b− aである.
1.3.3 関数の増減
微分係数 f ′(a)は ‘点’x = aにおける変化率であるが,ある ‘区間’における f
の変化を調べるのに微分を応用しようとするとき,平均値の定理が役に立つ.
定理 1.16 (定数関数の十分条件). f(x) がある区間で微分可能でこの区間で
f ′(x) = 0ならば f(x)はこの区間で定数関数である.
1.3 微分と関数の増減 29
証明. 区間内の任意の2点を d < eとすると,平均値の定理より
f(e)− f(d)
e− d= f ′(c) = 0, d < c < e
なる cがある.よって,f(d) = f(e)である.
f ′ = 0ならば変化率 0なのだから,定数関数になるのは直観的には明白に思え
る.しかしそれでは証明にはなっていない.それでも,数学的事実を直観的にと
らえることは大切である.上の証明はこの直観を形にしたものといえる.
微分係数がある区間で正ならば,その区間で変化率が正なのだから f はその区
間で増加し続けるはずである.この直観を形にしたものが以下の定理である.
定理 1.17 (関数の増減). つぎが成立する.
(1) f(x)がある区間で微分可能で f ′(x) > 0ならば f(x)はこの区間で単調増
大,すなわち区間内の x, y に対し,x < y なら,f(x) < f(y)
(2) f ′(x) < 0 ならば f(x) はこの区間で単調減少である.すなわち区間内の
x, y に対し,x < y なら,f(x) > f(y)
証明. (1) 区間内の任意の2点を d < eとすると,平均値の定理より
f(e)− f(d)
e− d= f ′(c) > 0, d < c < e
なる cがある.よって,f(d) < f(e)である.(2)も同様.
この関数の増減と微分係数の関係は,後述のように関数のグラフの概形を描く
のに使えるが,ここでは不等式の証明に使う例を挙げよう.
例 1.16. 不等式 x ≥ log(x+ 1) (x > −1)の証明
f(x) = x− log(x+ 1)の増減を調べて表にすると,
x −1 0
f ′(x) − 0 +
f(x) ↘ 0 ↗
これより,不等式 x ≥ log(x + 1) (x > −1)が証明された.上のような表を増
減表と呼ぶことがある.
30 第 1章 微分
1.3.4 ロピタルの定理
定理 1.18 (コーシーの平均値の定理). f(x), g(x)が [a, b]で連続で (a, b)で微分
可能とすると,f(b)− f(a)
g(b)− g(a)=
f ′(c)
g′(c)
を満たす c (a < c < b)が存在する.
証明.
F (x) =f(b)− f(a)
g(b)− g(a)(g(x)− g(a)) + f(a)− f(x)
とおくと,F (a) = F (b) = 0で
F ′(x) =f(b)− f(a)
g(b)− g(a)g′(x)− f ′(x)
であるから,ロルの定理より,F ′(c) = 0となる c (a < c < b)が存在する.F ′(x)
の式より f ′(c) =f(b)− f(a)
g(b)− g(a)である.
定理 1.19 (ロピタルの定理). f(x), g(x)は微分可能とするとき,次が成立する.
(1) a有限で,f(a) = g(a) = 0または limx→a
f(x) = limx→a
g(x) = ±∞とする.
limx→a
f ′(x)
g′(x)= lなら,lim
x→a
f(x)
g(x)= lである.
ここで,x → aの代りに x → a + 0または x → a − 0としても定理は成
立する.
(2) limx→∞
f(x) = limx→∞
g(x) = 0または limx→∞
f(x) = limx→∞
g(x) = ±∞とする.
limx→∞
f ′(x)
g′(x)= lなら,lim
x→∞
f(x)
g(x)= lである.
ここで,x → ∞の代りに x → −∞としても定理は成立する.
(1),(2)で,l = ±∞に対してもロピタルの定理は成立する.すなわち,0
0や
±∞±∞
などのいわゆる不定形の極限においては,分母・分子を微分してみて極限が求ま
れば (発散すれば),もとの極限もそれに等しい (発散する)という原理が一般に成
立するのである.
1.3 微分と関数の増減 31
証明. (1)-1. f(a) = g(a) = 0のケースを考える.
limx→a
f(x)
g(x)= lim
x→a
f(x)− f(a)
g(x)− g(a)= lim
x→a
f ′(c)
g′(c)= lim
c→a
f ′(c)
g′(c)= l
他のケースは 1) にゆずる.
例 1.17. limx→0
e2x − cosx
x= 2
例 1.18. limx→∞
ex
x+ 1= ∞
1.3.5 曲線のパラメータ表示
xy 平面上の曲線の多くは y = f(x)のグラフとして表される.しかし円のよう
に,一つの xの値に対し複数の曲線上の点が対応するような場合,曲線は一つの
関数のグラフとしては表されない.このような曲線に対してよく使われるのがパ
ラメータ表示である.
例 1.19. r > 0 とする.方程式 x = r cos θ, y = r sin θ (0 ≤ θ < 2π) を満た
す (x, y) の全体は原点中心,半径 r の円である(図 1.10 参照).この式の x, y
図 1.10 円周のパラメーター表示(極座標表示)
は x2 + y2 = r2 の関係にあることから,上半分は y =√r2 − x2,下半分は
y = −√r2 − x2 の関数のグラフでもある.
例 1.20. a, b > 0とする.方程式 x = a cos t, y = b sin t (0 ≤ t < 2π)を満た
す (x, y)の全体は楕円と呼ばれる曲線である(図 1.11).
この式の x, y はx2
a2+
y2
b2= 1の関係にあることから,この関係を楕円の方程
式と見ることもできる.
32 第 1章 微分
図 1.11 x = a cos t, y = b sin t (0 ≤ t < 2π)によって表示される楕円
x, y 平面上を動く点の時刻 t での位置座標が,t の関数 x(t), y(t) を用いて
(x(t), y(t))と表されるとする.tが変わるにつれて (x(t), y(t))は動点の軌跡(曲
線)を描く.
tが角度とか時刻という意味を持たなくても,一般にある変数 tの関数 x(t), y(t)
に対し,座標点 (x(t), y(t)) は t が変わるにつれてある曲線 C を描くと考えら
れる.
逆に曲線Cが tの適当な範囲に対して (x(t), y(t))あるいは,x = x(t), y = y(t)
を満たす点の全体として表されているとき,この表示形式を曲線 C のパラメータ
(媒介変数)表示といい,tをパラメータ(媒介変数)という.
曲線 C のパラメータ表示が x = x(t), y = y(t)であるとき,x = x(t)の逆関
数 t = x−1(x)の存在を仮定する(これは C1 級の x(t)について仮定できる)と,
y = y(t) = y(x−1(x))となり,x, y の間には tを介した関係がある.よって,t
を媒介変数ともいうのである.
パラメータ表示の曲線の概形を描くときに以下が必要になる.
定理 1.20 (パラメータ表示のdy
dx). 曲線 C のパラメータ表示が C1 級関数 x(t),
y(t)を用いて x = x(t), y = y(t)で与えられるとする(C1 級関数の定義は次節
の定義 1.11を参照).このとき,曲線上の点 (x(a), y(a))における接線の傾きは,
x′(a) ̸= 0ならy′(a)
x′(a)である.すなわち,
dy
dx(x(a)) =
y′(a)
x′(a)
1.4 高次導関数 33
証明. t = a のまわりで,x = x(t) の逆関数 t = x−1(x) が取れることを仮定す
る.点 (x(a), y(a))の周りで曲線上の (x, y)の関係を y = y(t) = y(x−1(x))と表
すと,dy
dx=
dy
dt
dt
dx= y′(t)
1
x′(t)=
y′(t)
x′(t)
だから,点 (x(a), y(a))における接線の傾きは,y′(a)
x′(a)である.
1.4 高次導関数
1.4.1 高次導関数
導関数 f ′(x)は xの関数であり,これをふたたび xで微分することを考えるこ
とができる.そこで以下のような概念を定義する.
定義 1.11 (高次の導関数,Cn 級,C∞ 級の関数). 微分可能な f(x)の導関数 f ′
が微分可能なら,f を2回微分可能であるといい,(f ′)′ を f ′′ と書き f の2次の
導関数,あるいは2階の導関数という.一般に f が n回微分可能なら,f を n回
微分したものを f (n) と書き,f の n次の導関数,あるいは n階の導関数という.
f の n次の導関数をdnf
dxnとも書く.f が n回微分可能で f (n) が連続なら,f を
Cn 級であるという.何回でも微分可能な関数を C∞ 級という.
問 1.21. 微分方程式y′′(t) = −y(t)
の一つの解を見つけよ.
定義 1.12 (加速度,重力加速度). v(t)を時刻 tにおける物体の速度とする.速
度 v(t)を tで微分すれば,v′(t)は速度 v(t)の時間に対する変化率,すなわち速
度が変化する速度である.これを加速度とよぶ.(注意:速度は減ることもある.
このときは加速度が負になる.)
坂道をブレーキをかけずに自転車で降りれば,どんどん加速していくことが実
感できるだろう.これは,一定の重力が自転車に働くことによって斜面を下る速
度が時間とともに増すからである.
物理の法則として一般に物体に働く力が一定の場合,速度の増し方も一定であ
る.斜面をころがる球が t秒後までに転がる距離 f(t)の例 1.1, 例 1.2について,
34 第 1章 微分
これを微分で表現すればどういうことかというと,f ′(t)の増え方が一定,つまり
(f ′(t))′ = f ′′(t) が一定値であるということである.重力の場合,この一定値は
重力の働く方向に(すなわち鉛直下方向に)g = 9.8m/s2 である.g は重力加速
度ともいわれる.
例 1.21 (斜面をころがる球 (3) –加速度の計算–). 再び,斜面を球がころがり落ち
ていく運動を考える.例 1.1と同じように,ころがり始めてから t秒後までにこ
ろがり落ちた距離を f(t) = t2 mとする.球の t秒後の速度は v(t) = f ′(t) = 2t
であった(例 1.2).したがって,球の t 秒後の加速度は f ′′(t) = 2 一定である.
これは,重力加速度が一定であることに見合っていて,実際に起こりうる(例 2.8
参照).
例 1.22 (等速円運動する物体の速度と加速度). ある物体(点とみなす)が,原
点中心半径 1の円周上を等速で反時計回りに動いている.時刻 t = 0における位
置を (1, 0)とし,単位時間あたり角度 1ラジアン円周上を回るとするとき,時刻
tでの点の位置は,tをパラメータとして,
x = cos t, y = sin t
と表せる.x軸方向,y 軸方向の速度は,それぞれ
x′(t) = − sin t, y′(t) = cos t
であり,x軸方向,y 軸方向の加速度は,それぞれ
x′′(t) = − cos t, y′′(t) = − sin t
である.速度を (x′(t), y′(t)) = (− sin t, cos t) なるベクトルとして見ると,そ
の方向は物体から見て円に接する方向を向いており,加速度を (x′′(t), y′′(t)) =
(− cos t,− sin t)なるベクトルとして見ると,その方向は常に原点に向いているこ
とがわかる(図 1.12参照).
問 1.22. ある物体(点とみなす)が,原点中心半径 rの円周上を等速で反時計回
りに動いている.時刻 t = 0における位置を (cos θ0, sin θ0)とし,単位時間あた
り角度 ω ラジアン円周上を回るとするとき,時刻 tでの点の位置を tをパラメー
タとして表示し,加速度ベクトルを求めよ.
1.4 高次導関数 35
図 1.12 等速円運動をする物体の速度(点線)と加速度(実線)
以下のように,具体的な関数の任意の高次導関数を求めることができる.
例 1.23. f(x) = x3 なら,
f ′(x) = 3x2, f ′′(x) = 6x, f ′′′(x) = 6, f (n)(x) = 0 (n ≥ 4)
例 1.24. f(x) = ex なら,すべての自然数 nについて f (n)(x) = ex.
例 1.25. f(x) = sinxなら,m = 0, 1, 2, . . .として,
f (4m)(x) = sinx
f (4m+1)(x) = cosx
f (4m+2)(x) = − sinx
f (4m+3)(x) = − cosx
1.4.2 曲線の凹凸
定義 1.13 (曲線の凹凸,変曲点). 曲線 y = f(x)に対し,(a, f(a))における接線
が aを含むある開区間で曲線より下にあるとき,x = aで曲線は下に凸であると
いい,上にあるとき上に凸であるという.ある開区間 I の各点で下に凸 (上に凸)
のとき,区間 I で下に凸 (上に凸)であるという.また,点 (a, f(a))を境に上に
凸から下に凸 (または下に凸から上に凸に)に移るとき,点 (a, f(a))を曲線の変
曲点という.
この定義は,上に凸なら曲線が ‘上にふくらんでいる’ことを接線との位置関係
で述べたものである(図 1.13)参照.
36 第 1章 微分
図 1.13 上に凸のグラフ(左)と下に凸のグラフ(右)
図 1.13 を見れば,上に凸であれば,その部分の接線の傾きは x が増えるにつ
れ減っていくのがわかる.すなわち,上に凸であれば f ′′ = (f ′)′ の符号は負であ
る.このことを正式に述べたのが以下である.
定理 1.21 (曲線の凹凸). C2級の f(x)に対し,f ′′(a) > 0なら,y = f(x)のグラ
フは x = aで下に凸であり,f ′′(a) < 0なら,x = aで上に凸である.f ′′(a) = 0
で x = aを境に f ′′(x)が符号を変えれば,(a, f(a))は y = f(x)のグラフの変曲
点である.
証明. g(x) = f(x)−f ′(a)(x−a)−f(a)とおく.g′(x) = f ′(x)−f ′(a), g′′(x) =
f ′′(x)より,f ′′(a) > 0なら,f ′′ の連続性より g′′(x)は x = aを含む開区間 I で
正,よって I で g′(x)は単調増加であるが,g′(a) = 0より,g′(x)は x = aを境
に負から正に変わる.すなわち,I において g(x) は x = a を境に単調減少から
単調増加に変わる.g(a) = 0より,I において g(x) ≥ 0である.よって,I にお
いて,y = f(x)のグラフは下に凸である.f ′′(a) < 0なら,上に凸になることも
同様である.また,これらのことから,x = a を境に f ′′(x) が符号を変えれば,
(a, f(a))は y = f(x)のグラフの変曲点である.
定理 1.22 (f ′′ と極値). C2 級の f(x)に対し,f ′(a) = 0, f ′′(a) > 0なら,f(x)
は x = aで極小値をとり,f ′(a) = 0, f ′′(a) < 0なら,極大値をとる.
証明. f ′(a) = 0, f ′′(a) > 0 なら,x = a における接線の傾きは 0 で接線は
y = f(a)となり,f は aを含む開区間 I で下に凸.よって,f(a)は極小値であ
る.
例 1.26. y = log xのグラフの増減と凹凸を調べその概形を描こう.
1.4 高次導関数 37
y = log xは,x > 0でのみ定義されるので,この範囲での振る舞いを調べる.
y′ =1
xy′′ = − 1
x2
より増減表はつぎのようになる.
x 0
y′ +
y′′ −y ↗
上に凸
これに log 1 = 0,limx→0 log x = −∞,limx→∞ log x = ∞であることを考慮して,概形は図 1.14のようになる.
図 1.14 y = log xのグラフ
問 1.23. y = sinx (−2π ≤ x ≤ 2π)のグラフの増減と凹凸を調べ,その概形を
描け.
問 1.24. y = −x4 + 4x3 のグラフの増減と凹凸を調べ,その概形を描け.
問 1.25. y = 3x5 − 5x3 のグラフの増減と凹凸を調べ,その概形を描け.
問 1.26. y =x+ 2
x+ 1のグラフの増減と凹凸を調べ,その概形を描け.
例 1.27. y = e−x2
のグラフ
y(x) = y(−x)よりグラフは y 軸対称である.
y′ = −2xe−x2
y′′ = (4x2 − 2)e−x2
38 第 1章 微分
より増減表はつぎのようになる.
x −∞ − 1√2
0 1√2
∞y′ + + + 0 − − −y′′ + 0 − − − 0 +
y 0 ↗ 1/√e ↗ 1 ↘ 1/
√e ↘ 0
下に凸 上に凸 上に凸 下に凸
± 1√2がグラフの変曲点であり,グラフは y 軸対称で x軸に ±∞で限りなく近
づく (漸近する).概形は図 1.15のようになる.
図 1.15 y = e−x2
のグラフ
問 1.27. y = e−(x−1)2
2 のグラフの増減と凹凸を調べ,その概形を描け.
例 1.28. 曲線 C :
{x = a cos3 t
y = a sin3 t, 0 ≤ t ≤ 2π, a > 0のグラフ
グラフ上の点 (x(t), y(t))に対し,(x(π− t), y(π− t)) = (−x(t), y(t))は y軸対
称点,(x(π+t), y(π+t)) = (−x(t),−y(t))は原点対称点,(x(2π−t), y(2π−t)) =
(x(t),−y(t))は x軸対称点である.よって,0 ≤ t ≤ π/2の範囲で調べればよい.
x′(t) = −3a cos2 t sin t, y′(t) = 3a sin2 t cos tで
y′(x) =y′(t)
x′(t)= − tan t
である.よって,Y = y′(x)のパラメータ表示は,x = a cos3 t, Y = − tan tで
1.4 高次導関数 39
あるから,
y′′(x) =Y ′(t)
x′(t)=
1
3a cos4 t sin t
t 0 π/2
x′(t) 0 − 0
y′(t) 0 + 0
x(t) a ↘ 0
y(t) 0 ↗ a
y′′(x) +
y′(x) 0 − −∞y(x) 0 a
よって,xが [0, a]の範囲で,y(x)は単調減少で下に凸であり,グラフは x軸,y
軸に接する.対称性を考慮して a = 1の場合を描けば図 1.16のようになる.こ
れはアステロイドと呼ばれる.
図 1.16 アステロイド
問 1.28. サイクロイド x = t− sin t, y = 1− cos tの増減と凹凸を調べ,その
概形を描け.これは,半径 1の車輪が転がるとき(最初原点にあった)車輪の一
点が描く曲線である(図 1.17参照).
40 第 1章 微分
図 1.17 原点が車輪の回転に沿って動く様子.その軌跡はサイクロイドと呼ばれる.
1.4.3 テーラー展開
平均値の定理は,
f(b)− f(a)
b− a= f ′(c)となる cが aと bの間に存在する.
という定理であるが,これを書き換えて,
f(b) = f(a) + f ′(c)(b− a)となる cが aと bの間に存在する.
とすれば,これは x = aに近い値 b に対し f(b) を f(a) +誤差という形で表現
する式と見ることができる.f(a) +誤差という表現は,関数値 f(b)を定数 f(a)
との差という形で示すものであり,精密な表現とは言い難いが,平均値の定理は,
高次導関数を用いると任意の次数まで精密化できる.
定理 1.23 (テーラーの定理). f(x)を開区間 I で n回微分可能とし,a, bを I の
任意の異なる数とすれば,
f(b) =n−1∑k=0
f (k)(a)
k!(b− a)k +
f (n)(c)
n!(b− a)n
なる c が a と b の間にある.(テーラーの定理の式の右辺を f(b) の x = a の
周りでのテーラー展開という.展開の最終項f (n)(c)
n!(b− a)n を展開の剰余項と
呼ぶ.)
1.4 高次導関数 41
f(b)の x = aの周りでのテーラー展開を∑を使わずに書けば,
f(b) =f(a)
0!+
f ′(a)
1!(b− a) +
f ′′(a)
2!(b− a)2 + · · ·+ f (n−1)(a)
(n− 1)!(b− a)n−1
+f (n)(c)
n!(b− a)n
証明. f(b)と右辺の剰余項以外の部分との差を A(b− a)n とおく.すなわち,
f(b)−n−1∑k=0
f (k)(a)
k!(b− a)k = A(b− a)n
A =f (n)(c)
n!なる cがあることを示せばよい.
F (x) = f(b)−n−1∑k=0
f (k)(x)
k!(b− x)k −A(b− x)n
とおくと,F (b) = 0で,また Aの定義より,F (a) = 0だから,ロルの定理より
F ′(c) = 0なる cが aと bの間にある.F ′ を計算すると,
F ′(x) = −f ′(x)−n−1∑k=1
{f (k+1)(x)
k!(b− x)k − f (k)(x)
(k − 1)!(b− x)k−1
}+nA(b− x)n−1
= −f ′(x)
−f (2)(x)
1!(b− x) +
f (1)(x)
0!
−f (3)(x)
2!(b− x)2 +
f (2)(x)
1!(b− x)1
...
−f (n−1)(x)
(n− 2)!(b− x)n−2 +
f (n−2)(x)
(n− 3)!(b− x)n−3
− f (n)(x)
(n− 1)!(b− x)n−1 +
f (n−1)(x)
(n− 2)!(b− x)n−2
+nA(b− x)n−1
= − f (n)(x)
(n− 1)!(b− x)n−1 + nA(b− x)n−1
よって,
F ′(c) = − f (n)(x)
(n− 1)!(b− c)n−1 + nA(b− c)n−1 = 0
42 第 1章 微分
b− c ̸= 0より,A =f (n)(c)
n!
テーラーの定理で n = 1の場合は平均値の定理である.
剰余項の θ による書き方
定理における cは a < c < bまたは b < c < aなる数なので,c− a
b− a= θ とお
けば c = a+ (b− a)θ,0 < θ < 1と書ける.
例 1.29. log(x)の x = 1の周りでの展開
(log x)′ =1
x, (log x)′′ = − 1
x2, (log x)′′′ =
2
x3, (log x)(4) = −2 · 3
x4, · · ·
より,
(log x)(k) =(−1)(k−1)(k − 1)!
xk, k = 1, 2, 3, . . .
であるから,
log x = (x− 1)− 1
2(x− 1)2 + · · ·+ (−1)(n−2)
n− 1(x− 1)n−1
+(−1)(n−1)
n(1 + θ(x− 1))n(x− 1)n, 0 < θ < 1
テーラー展開において a = 0とおいたものをマクローリン展開という.
系 1.1 (マクローリン展開). f(x)を 0を含む開区間 I で微分可能とし,xを I の
任意の数とすれば,
f(x) =
n−1∑k=0
f (k)(0)
k!xk +
f (n)(θx)
n!xn
なる θ, 0 < θ < 1 がある.(この式は,剰余項が小さい場合,f(x)の多項式によ
る近似の式と見ることができる.)
f(x)の x = aのマクローリン展開を∑を使わずに書けば,
f(x) =f(0)
0!+
f ′(0)
1!x+
f ′′(0)
2!x2 + · · ·+ f (n−1)(0)
(n− 1)!xn−1 +
f (n)(θx)
n!xn
1.4 高次導関数 43
例 1.30 (f(x) = ex のマクローリン展開). f (n) = ex より,f (n)(0) = 1よって,
ex = 1 + x+x2
2!+
x3
3!+ · · ·+ xn−1
(n− 1)!+
eθxxn
n!
例 1.31 (f(x) = sinxのマクローリン展開).
sin(2m) x = (−1)m sinx, sin(2m+1) x = (−1)m cosx, m = 0, 1, . . .
より,
sinx =m−1∑k=0
(−1)k
(2k + 1)!x2k+1 +
(−1)m sin(θx)
(2m)!x2m
= x− x3
3!+
x5
5!− x7
7!+ · · ·+ (−1)m−1
(2m− 1)!x2m−1 +
(−1)m sin(θx)
(2m)!x2m
問 1.29. f(x) = cosxのマクローリン展開を得よ.
マクローリン級数
極限についての演習から,各 x の値に対し limn→∞
xn
n!= 0 であることがわかっ
ている.念のためここに解を示すと,2x ≤ n0 なる n0 をとれば,
xn
n!=
x
1
x
2
x
3· · · x
n0
x
n0 + 1· · · x
n
≤ xn0
n0!
(1
2
)n−n0
→ 0
すると上の2つの例題における剰余項は各 x の値に対し,eθx ≤ ex (x >
0), eθx < 1 (x < 0), | sin(θx)| ≤ 1より,
limn→∞
eθxxn
n!= 0 lim
m→∞
(−1)m sin(θx)x2m
(2m)!= 0
である.これは
an =
n∑k=0
xk
k!, bm =
m∑k=0
(−1)kx(2k+1)
(2k + 1)!
とおくと,limn→∞
an = ex, limm→∞
bm = sinx
44 第 1章 微分
であることを示している.このことを
ex =∞∑k=0
xk
k!, sinx =
∞∑k=0
(−1)kx(2k + 1)
(2k + 1)!
とも書き,左辺の表現をそれぞれ ex,sinxのマクローリン級数という.ex, sinx
に限らず多項式関数,三角関数,逆三角関数,対数関数などもマクローリン級数
で表現できる.
例 1.32. eの近似値
ex = 1 + x+x2
2!+
x3
3!+ · · ·+ x6
6!+
eθxx7
7!
より,
e = 1 + 1 +1
2+
1
6+
1
24+
1
120+
1
720+
eθ
5040
=1957
720+
eθ
5040
= 2.71805̇ +eθ
5040
eθ < 3より,2.71805̇ < e < 2.71805̇ + 35040 < 2.71805̇ + 0.0006
45
第 2章
積分
2.1 不定積分と定積分
2.1.1 原始関数と不定積分
定義 2.1 (原始関数と不定積分). 与えられた関数 f(x)に対し,F (x)が
dF (x)
dx= f(x)
なる関係にあるとき,F (x)を f(x)の原始関数という.
与えられた f(x) の原始関数は微分の知識からすぐ見つかることもある.たと
えば,cosxの原始関数は sinxである.sinx以外に cosxの原始関数はないので
あろうか.C を任意定数として,
(sinx+ C)′ = (sinx)′ + (C)′ = cosx
であるので,sinx + C も cosx の原始関数である.sinx + C (C は任意定数)
で cosxの原始関数は尽くされているだろうか.実はこれらですべてである.
一般に,F (x)が f(x)の原始関数のとき,F (x)+C(C は任意の定数)も f(x)
の原始関数である.F (x) +C (C は任意定数)の形が f(x)の原始関数を尽くし
ていることを示そう.
今,G(x)を任意の f(x)の原始関数とすると,
(G(x)− F (x))′ = G′(x)− F ′(x) = 0
となる.定理 1.16より,
G(x)− F (x) = C C は定数
46 第 2章 積分
であるから,G(x) = F (x) + C C は定数
よって,f(x)の原始関数の一つを F (x)とするとき,f(x)の原始関数の全体は
F (x) + C(C は任意の定数)と書けることになる.
f(x)の原始関数一般を ∫f(x)dx
と書いて f(x)の不定積分という.f(x)の原始関数の一つを F (x)とすると∫f(x)dx = F (x) + C, C は任意定数
となる.この C を積分定数と呼ぶ.
以下,微分公式から直接導ける不定積分の例を掲げる.これらはすべて覚える
必要がある.
例 2.1.
∫sinxdx = − cosx+ C,
∫cosxdx = sinx+ C
例 2.2.
∫xadx =
1
a+ 1xa+1 + C(a ̸= −1)
例 2.3.
∫1
xdx = log |x|+ C
例 2.4.
∫exdx = ex + C
例 2.5.
∫1√
1− x2dx = Sin−1x+ C = −Cos−1x+ C ′
ここで,Sin−1x = −Cos−1x+π2 に注意.よって,Sin
−1(x)+Cと−Cos−1(x)+C ′
は全く同じ関数群を表している.
このように不定積分を別の方法で計算した場合,積分定数を除いた部分で定数
分の違いが起こり得ることに注意しなければならない.
例 2.6.
∫1
1 + x2dx = Tan−1x+ C
同様に,微分法則はそれに対応した積分法則を導く.以下の法則群(和と定数
倍の積分,置換積分,部分積分)は使い方をよく習得しなければならない.
2.1 不定積分と定積分 47
つぎは和・定数倍の微分法則から導かれる.
定理 2.1. 不定積分について次が成立する.
(1)
∫{f(x)± g(x)} dx =
∫f(x) dx±
∫g(x) dx
(2)
∫kf(x) dx = k
∫f(x) dx
証明. 和の場合だけ示す.(∫f(x) dx+
∫g(x) dx
)′
=
(∫f(x) dx
)′
+
(∫g(x) dx
)′
= f(x) + g(x)
したがって,定理の右辺は f(x) + g(x)の不定積分である.
問 2.1. つぎの不定積分を計算せよ.∫ (x3 − 2 sinx+
1
4x
)dx
例 2.7 (単純な微分方程式の一般解). つぎの式を一つの微分方程式と見て解いて
みよう.
f ′(x) = 2x (2.1)
これを解くということは,言葉でいえば,「微分すると 2xになるような関数 f(x)
を ‘すべて’求める」ことである.これは,「2xの原始関数を ‘すべて’求める」こ
とであり,すなわち,「2xの不定積分を求める」ことである.よって,解は∫2x dx = x2 + C
すなわち,f(x) = x2 + C, C は任意定数
である.これは,式 (2.1)を満たすすべての解であるので,式 (2.1)の一般解とよ
ばれる.
例 2.8 (斜面をころがる球 (4)). 斜面をころがる球はころがり初めてから t秒後
までに f(t)m ころがるとする.例 1.1 などでは f(t) = t2 とした.実際 f(t) は
どんな状況でも tの 2次関数になるのであるが,その理由を述べよう.
48 第 2章 積分
定義 1.12で見た加速度についておさらいをしておく.斜面をころがる球には一
定の重力が働くことによって斜面を下る速度が時間とともに増す.物理の法則と
して一般に,働く力が一定の場合,速度の増し方も一定である.これは微分で表
現すればどういうことかというと,f ′(t)の増え方が一定,つまり (f ′(t))′ = f ′′(t)
が一定値であるということである.重力の場合,この一定値は重力の働く方向に
(すなわち鉛直下方向に)g = 9.8m/s2 である.一般に速度 v(t)に対し v′(t)は
加速度という.g は重力加速度もいわれる.
ところで斜面に沿った方向の加速度は g そのものではない.斜面と水平方向の
なす角度を θ とすると,鉛直下方向の g を斜面に沿った方向と斜面に垂直な方向
に分けると,斜面に沿った成分は g sin θ(定数)となる(図 2.1参照)
図 2.1 重力加速度の分解
さて,以上のことから
f ′′(t) = g sin θ (2.2)
なる微分方程式が得られた.この解を求めよう.式 (2.2) は,f ′(t) = v(t) とお
けば,
v′(t) = g sin θ (2.3)
と書ける.式 (2.3)の両辺の tの関数としての不定積分をとれば,
v(t) = gt sin θ + c1 (2.4)
も解である.すなわち,
f ′(t) = gt sin θ + c1 (2.5)
2.1 不定積分と定積分 49
なる微分方程式が得られる.ふたたびこの式 (2.5)の両辺を tの関数としての不
定積分をとれば,
f(t) =1
2gt2 sin θ + c1t+ c2 c1, c2は任意定数
である.
ここで,f(t)がころがり始めてから t秒後までにころがった距離であることを
考慮すると,f(0) = 0であり,したがって c2 = 0である.よって,
f(t) =1
2gt2 sin θ + c1t c1は任意定数
問 2.2. 水平方向となす角が 30◦ の斜面を初速 2 (m/s) で球がころがるとき,t
秒後までにころがる距離を求めよ.
問 2.3. 水平方向となす角が 30◦ の方向へ球を初速 50 (m/s) で投げ上げた.球
の t秒後の位置を求めよう.水平方向球を投げる側を x軸正方向,鉛直方向球を
投げる側を y 軸正方向とし,球を投げる位置を原点とする(図 2.2参照).
図 2.2 投げ上げ
まず,水平方向には力が働かない,すなわち加速度は 0である.ということは,
水平方向へは初速
50 cos 30◦ =50√3
2= 25
√3 m/s
のまま進むことになる.よって,水平方向(x軸方向)への移動は t秒後には,
x(t) = 25√3t m
である.
50 第 2章 積分
つぎに鉛直方向を考えよう.鉛直方向では,下方向(y 軸負方向)に重力が働
く.よって,重力加速度 g m/s2 を考慮して,
y′′(t) = −g
である.ここに,y(t)は t秒後の球の鉛直方向の位置である.
t秒後の球の位置を (x(t), y(t))の形で表せ.球の描く軌跡は放物線であること
を示せ.
2.1.2 定積分による原始関数の構成
f(x) の微分 f ′(x) は f(x) の平均変化率の極限として f(x) の式として定義さ
れた.一方,f(x)の不定積分 F (x)は F ′(x) = f(x)なるものとして定義された
ので,f(x)の式として与えられたわけではない.いくつかの具体的な関数につい
ては,その不定積分が微分公式の逆として得られたが,一般に f(x)の不定積分を
f(x)の式として定義する式はあるのであろうか.一般に関数 f(x)が与えられた
とき,その原始関数を f(x)から構成することを考えよう.
F (x)が与えられた関数 f(x)の原始関数であるとは,
dF (x)
dx= f(x) (2.6)
であることであるから,言葉で言うと F (x)の xにおける変化率が f(x)であるこ
とである.つまり各点 xでの F (x)の変化率が f(x)とわかっているであるから,
ある区間 [a, b] での F (x) の変化 F (b) − F (a) は区間の各点での変化を集積*1し
たものとなると考えられる.
この考えに沿ってまず各点での変化を考えよう.式 (2.6)の関係を,極限は無
視して(dxを xの極微少変化として),
F (x+ dx)− F (x)
dx= f(x)
と書いてみる.書き直して,
F (x+ dx)− F (x) = f(x) dx
*1 英語で ‘積分する’は ‘integrate’であるが,これは ‘集積する’という意味を持っている.
2.1 不定積分と定積分 51
となる.これは,つぎのように読める.微小区間 [x, x+ dx]における F (x)の変
化は f(x) dxである.そこで,区間 [a, b]で F (b) − F (a)を構成するなら,区間
[a, b]を幅 dxの小さな区間に分け,
F (b)− F (a) = f(a)dx+ f(a+ dx)dx+ · · ·+ f(b− dx) dx
とすればよい.
-a a+ dx a+ 2dx . . . b− dx b
b = xとおけば,
F (x) = F (a) + f(a)dx+ f(a+ dx)dx+ · · ·+ f(x− dx) dx
とある F (a)を基準に F (x)が表されることになる.
以下でこのおおまかな考えを定式化しよう.
定義 2.2 (和の極限としての定積分の定義). 区間 [a, b]をいくつか (n個とする)
の小区間 [xi, xi+1] i = 1, . . . , nに分ける.こうした区間の分けかたを区間の分割という.
-a = x0 x1 x2 . . . xn−1 xn = b
a = x0 < x1 < · · · < xn = b で与えられる分割に P という名前をつけてお
く.各小区間 [xi, xi+1]からとった任意の値を ci とする.P, {ci}i に対し以下の和 (リーマン和という)
S(P, {ci}i; f) =n−1∑i=0
f(ci)(xi+1 − xi)
を考える.
P の小区間の巾の最大値を分割 P の巾といい |P |で表す.|Pk| → 0(k → ∞)なる分割の列 {Pk}k と Pk での各小区間内の点の集合
{ck,i}i をとる.
52 第 2章 積分
上のような {Pk, {ck,i}i}のとりかたは無数にあるが,そのような {Pk, {ck,i}i}のどれに対しても,k → ∞のとき S(Pk, {ck,i}i; f)が {Pk, {ck,i}i}のとりかたにかかわらないある一定値に収束するなら,f は区間 [a, b] で積分可能であると
いう.またその極限を f の区間 [a, b]での定積分といい,∫ b
a
f(x) dx
で表す.シンボリックに書けば,∫ b
a
f(x) dx = lim|P |→0
n−1∑i=0
f(ci)(xi+1 − xi)
そこで,上の f(x)の原始関数の構成の話にもどって,f(x)の原始関数は
F (x) = F (a) +
∫ x
a
f(t) dt
として得られることになる(正式には後述の定理 2.3,定理 2.4で示される).
コメント:連続関数については定積分が存在することを証明できることが知られている 1).
定義 2.3. 便宜上 a > bのときも,∫ b
a
f(x)dx = −∫ a
b
f(x)dx
と定義する.
定理 2.2. 定積分について次が成立する.
(1)
∫ b
a
f(x)dx =
∫ c
a
f(x)dx+
∫ b
c
f(x)dx
(2) 区間 [a, b]で g(x) ≤ f(x)なら,∫ b
a
g(x)dx ≤∫ b
a
f(x)dx
証明. (1)まず a < c < bとする.区間 [a, b]の分割として cを小区間の端点とし
て持つものだけを考えることにする.そうした分割 P:a = x0 < · · · < xn = b
2.1 不定積分と定積分 53
について,xk = cとすると,∫ b
a
f(x) dx = lim|P |→0
n∑i=1
f(ξi)(xi − xi−1)
∫ c
a
f(x) dx = lim|P |→0
k∑i=1
f(ξi)(xi − xi−1)∫ b
c
f(x) dx = lim|P |→0
n∑i=k+1
f(ξi)(xi − xi−1)
である.しかも,
n∑i=1
f(ξi)(xi − xi−1) =k∑
i=1
f(ξi)(xi − xi−1) +n∑
i=k+1
f(ξi)(xi − xi−1)
であるので,∫ b
a
f(x) dx = lim|P |→0
n∑i=1
f(ξi)(xi − xi−1)
= lim|P |→0
(k∑
i=1
f(ξi)(xi − xi−1) +n∑
i=k+1
f(ξi)(xi − xi−1)
)
=
∫ c
a
f(x) dx+
∫ c
a
f(x) dx
つぎに c < a < bとする.上の議論より,∫ b
c
f(x) dx =
∫ a
c
f(x) dx+
∫ b
a
f(x) dx
であるから,∫ b
a
f(x) dx =
∫ b
c
f(x) dx−∫ a
c
f(x) dx =
∫ c
a
f(x) dx+
∫ b
c
f(x) dx
a < b < cのケースも同様である.
(2) 区間 [a, b]の任意の分割 P:a = x0 < · · · < xn = bについて,
n∑i=1
g(ξi)(xi − xi−1) ≤n∑
i=1
f(ξi)(xi − xi−1)
となるから明らかである.
54 第 2章 積分
定理 2.3. 区間 [a, b]で連続な f(x)に対し,
F (x) =
∫ x
a
f(t)dt
とおくとdF (x)
dx= f(x)
である.すなわち,F (x)は f(x)の原始関数の一つである.
証明. 定理 2.2の (1)から,∫ x+h
a
f(t)dt =
∫ x
a
f(t)dt+
∫ x+h
x
f(t)dt
だから,
F (x+ h)− F (x)
h=
1
h
(∫ x+h
a
f(t)dt−∫ x
a
f(t)dt
)
=1
h
∫ x+h
x
f(t)dt
となる.まず h > 0の場合を考える.f(x)は [a, b]で連続であるから,[x, x+ h]
における f(x)の最小値,最大値をm,M とすれば,定理 2.2の (2)から∫ x+h
x
mdt ≤∫ x+h
x
f(t)dt ≤∫ x+h
x
Mdt
なので,第1辺,第3辺はそれぞれ積mh, Mhであることから,
m ≤ 1
h
∫ x+h
x
f(t)dt ≤ M (2.7)
h < 0の場合も, ∫ x
x+h
mdt ≤∫ x
x+h
f(t)dt ≤∫ x
x+h
Mdt
なので,第1辺,第3辺はそれぞれ積 −mh, −Mh であることから,やはり,
式 (2.7) が成立する.式 (2.7) において h → 0 とすれば m,M −→ f(x) である
から,1
h
∫ x+h
x
f(t)dt −→ f(x)
となる.
2.2 積分の計算 55
f(x)の原始関数として,定積分 ∫ x
a
f(t) dt
がとれることから,不定積分 ∫f(x) dx
の dxを xの微少変位と考えてよいことが分かる.
定理 2.4. 区間 [a, b]で連続な f(x)に対し,F (x)を f(x)の不定積分の一つとす
ると, ∫ b
a
f(x)dx = F (b)− F (a)
右辺を [F (x)]ba と書くこともある.
証明. G(x) =
∫ x
a
f(x) dx とおくと,G(x) は f(x) の不定積分であるから,
F (x) = G(x) + C (C はある定数)と書ける.よって,∫ b
a
f(x) dx = G(b) = F (b)− C
ところが,F (a) = G(a) + C = C であるから,定理が示された.
2.2 積分の計算
2.2.1 不定積分の計算
置換積分
つぎは合成関数の微分法則から導かれる.
定理 2.5 (不定積分の置換積分). f(x) = uのとき,∫g(f(x))f ′(x) dx =
∫g(u) du
証明.
∫g(u) du = F (u)とおくと,合成関数の微分と u = f(x)より,
dF (u)
d x= F ′(u)
d u
d x= g(u)f ′(x) = g(f(x))f ′(x)
56 第 2章 積分
よって,証明すべき等式の両辺は,ともに g(f(x))f ′(x)を原始関数として持つの
で,不定積分として等しい.
置換積分の公式は f(x) = uとおき,
g(f(x)) = g(u), f ′(x)dx = du
という対応関係(置き換えルール)を使って,計算すべき xに関する積分を uの
積分に置き換えるという具合に使われる.これは,不定積分においても dx,du
は変数の微少変位と考えてよいことから,xの微少変位と uの微少変位の関係が,
f(x) = uなら,f ′(x)dx = du
であると,考えてよいことを示している.
例 2.9.
∫cos axdx ax = u とおくと,cos ax = cosu, adx = du だから,
dx = 1aduであり,∫
cos axdx =
∫cosu
1
adu =
1
asinu+ C =
1
asin ax+ C
例 2.10.
∫sin2 x cosxdx sinx = uとおくと,cosxdx = duだから,
∫sin2 x cosxdx =
∫u2du =
u3
3+ C =
sin3 x
3+ C
問 2.4. つぎの不定積分を計算せよ.∫xex
2
dx
問 2.5. つぎの不定積分を計算せよ.∫tanx dx
問 2.6. つぎの不定積分を計算せよ.∫1√x− 1
dx
2.2 積分の計算 57
例 2.11. ∫1
x2 − 1dx
を計算する.1
x2 − 1=
1
(x+ 1)(x− 1)
と分母を因数分解しておいて,
1
(x+ 1)(x− 1)=
a
x+ 1+
b
x− 1
となるような定数 a, bを求める.両辺分母払って,
1 = a(x− 1) + b(x+ 1)
= (a+ b)x− a+ b
両辺 xの式として比べて,
a+ b = 0, −a+ b = 1
これを連立一次方程式として解いて,
a = −1
2, b =
1
2
よって, ∫1
x2 − 1dx =
∫ ( − 12
x+ 1+
12
x− 1
)dx
= −1
2
∫1
x+ 1dx+
1
2
∫1
x− 1dx
= −1
2log |x+ 1|+ 1
2log |x− 1|+ C
問 2.7. つぎの不定積分を計算せよ.∫x
4x2 − 1dx
コメント: 後述の部分積分を合わせれば,多項式
多項式の形の関数(有理関数とよばれる)の不定積分が
すべて初等的な関数で表すことができることが知られている 1).
58 第 2章 積分
例 2.12 (放射性元素の崩壊 (3) –変数分離形微分方程式の解法–). 例 1.6 では,
時刻 tにおける放射性元素の量を y(t)とすれば,
y′(t) = −ay(t) ただし,y(t) ≥ 0 (2.8)
が成立することが分かったのであった.この微分方程式の ‘すべて’の解を求めよ
う.まず,y(t) > 0と仮定して,式 (2.8)より,
y′(t)
y(t)= −a
これの両辺の tについての不定積分をとると,
log y(t) = −at+ C
となる(左辺は置換積分と y(t) ≥ 0から).これより,
y(t) = e−at+C
であるから,eC = K とおけば,
y(t) = Ke−at K は正の任意定数 (2.9)
式 (2.9)は式 (2.8)と y(t) > 0を仮定して導かれた.すなわち式 (2.8)と y(t) > 0
を満たす y(t)はすべて式 (2.9)を満たす.また式 (2.9)を満たす y(t)は式 (2.8)
と y(t) > 0 を満たすことは明らかである(式 (2.9) までの議論をさかのぼって
も,式 (2.9)を微分しても).よって,式 (2.9)が式 (2.8)の y(t) > 0なる解のす
べてである.
ここで,y(t) > 0としていたので,K > 0となっているわけであるが,K = 0
としてみると y = 0(一定)となってこれも式 (2.8) の解であることは明白であ
る.よって,K = 0も含めて,
y(t) = Ke−at K は非負の任意定数
が式 (2.8)の解である.
コメント:さて,上の議論で足りないのは,ある t0 で y(t0) = 0になるような解は y = 0(一定)なるものだけかという点である.この点を上の議論を踏まえて以下のように説明しよう.
上の議論の式 (2.9) を見れば eaty(t) = K(一定)になっている.じつはこれは y(t) > 0 の仮
定なしに導くことができる.(eaty(t))′ = aeaty(t) + eaty′(t) となるが,y′(t) = −ay(t) より,
2.2 積分の計算 59
(eaty(t))′ = aeaty(t) − eat(−ay(t)) = 0(一定)である.したがって,eaty(t) = C(一定)とな
るから,y(t) = Ce−at.ここである t0 について y(t0) = 0 とすれば,0 = y(t0) = Ce−at0 より
C = 0 となって y(t) = 0(一定)である.この議論は上の例の議論をすべて含んでいるが,eaty(t)
を導入するところが唐突である.
問 2.8. 時刻 0での放射性元素の量を 100 gとするとき,時刻 tでの放射性元素
の量を求めよ.
上の例での微分方程式の解法は変数分離法と呼ばれる.すなわち,
y′(x) = F (x)G(y(x))
という形の微分方程式(変数分離形という.上の例は F (x) = −a, G(y) = y と
とれば変数分離形)を考える.
y′(x)
G(y(x))= F (x)
と左辺は yの関数,右辺は xの関数になるように変形して(変数分離して),xに
ついて両辺の不定積分をとれば,∫y′(x)
G(y(x))dx =
∫F (x)dx
となる.F,Gが具体的に与えられ,上式の積分が計算できれば,y(x)についての
関係式が得られる.
問 2.9. 微分方程式 y′(x) = xy(x)を変数分離法によって解け.
問 2.10 (–雨粒の落下–). 雨粒が落下し出してから t秒後の位置を求めよう.以
後,数学的な内容に集中するため単位を明示しない.
鉛直方向下側に向かって y 軸正方向をとる.落下し出した位置を y = 0 とし
て,雨粒が落下し出してから t秒後の位置を y(t)とする.落下中の雨粒には空気
抵抗が無視できない.空気抵抗力は雨粒の速度に比例する.抵抗力の向きは y 軸
負方向である.そこで,雨粒に働く抵抗力を
−10y′(t)
60 第 2章 積分
としよう.雨粒に働く重力は重力加速度を g としてmg である.mは雨粒の質量
で,ここではm = 10としよう.したがって,雨粒に働く力は,
10g − 10y′(t)
である.力学の運動方程式によれば,この力は【質量×加速度】my′′(t) = 10y′′(t)
に等しいから,10y′′(t) = 10g − 10y′(t)
10で両辺を割って,
y′′(t) = g − y′(t) (2.10)
微分方程式 (2.10)を解いて,雨粒の t秒後の位置を求めよ.
ヒント:まず,v(t) = y′(t)について,次の微分方程式を解くとよい
v′(t) = g − v(t).
部分積分
つぎは積の微分法則から導かれる.
定理 2.6 (不定積分の部分積分).∫f(x)g′(x)dx = f(x)g(x)−
∫f ′(x)g(x)dx
証明. 積の微分より,(fg)′ = f ′g + fg′ であるから,この両辺の不定積分をと
れば
f(x)g(x) =
∫f ′(x)g(x)dx+
∫f(x)g′(x)dx
であるから,与式が成立する.
部分積分を使って積分を求めるには,被積分関数が f(x)g′(x) の形で∫f ′(x)g(x)dxが既知であることがポイントとなる.
例 2.13. ∫xexdx = xex −
∫x′exdx = xex − ex + C
2.2 積分の計算 61
問 2.11. つぎを部分積分を使って求めよ.∫x log x dx
例 2.14. これはややトリッキーな例.∫log xdx =
∫1 · log xdx = x log x−
∫x · 1
xdx = x log x− x+ C
例 2.15. これは置換積分 (Sin−1x = t)と部分積分を使う.∫Sin−1x dx =
∫t√1− x2 dt
=
∫t cos t dt = t sin t−
∫sin t dt = xSin−1x+
√1− x2 + C
問 2.12. つぎを部分積分を 2回使って求めよ.∫x2 sinx dx
問 2.13. つぎを部分積分を 2回使って求めよ.∫ex cosx dx
積分の漸化式を使って,積分を求める方法がある.
例 2.16. In =
∫cosn x dxとおくと,
In =
∫cosx cosn−1 x dx
= sinx cosn−1 x−∫
sinx · (n− 1) cosn−2 x(− sinx) dx (n ≥ 2)
= sinx cosn−1 x+ (n− 1)
∫cosn−2 x− cosn x dx
より,
In =1
ncosn−1 x sinx+
n− 1
nIn−2 n ≥ 2
62 第 2章 積分
2.2.2 定積分の計算
定理 2.7. 定積分について次が成立する.
(1)
∫ b
a
f(x)± g(x) dx =
∫ b
a
f(x) dx±∫ b
a
g(x) dx
(2)
∫ b
a
kf(x)dx = k
∫ b
a
f(x) dx
証明. たとえば, ∫kf(x) dx = k
∫f(x) dx
であるから,∫ b
a
kf(x) dx =
[∫kf(x) dx
]ba
=
[k
∫f(x) dx
]ba
= k
[∫f(x) dx
]ba
= k
∫ b
a
f(x) dx
定理 2.8 (定積分の置換積分). x = x(t)が tの区間 [α, β]で定義され,
x(α) = a, x(β) = b
であるとすると, ∫ b
a
f(x)dx =
∫ β
α
f(x(t))x′(t)dt
証明. 不定積分の置換積分の公式∫f(x)dx =
∫f(x(t))x′(t)dt
の意味は,左辺の不定積分のひとつを F (x)とおくと,F (x(t))は右辺の不定積分
の一つであるということである.したがって,不定積分の置換積分の公式から明
らかである.∫ b
a
f(x) dx = F (b)− F (a) = F (x(β))− F (x(α)) =
∫ β
α
f(x(t))x′(t)dt
2.2 積分の計算 63
コメント: 定理で x(t) は 1 対 1(x(t1) = x(t2), t1 ̸= t2 のような t1, t2 がないこと)である必
要はなく,また x(t) は [a, b] の外の値をとってもかまわない.ためしに,∫ a/2
0
√a2 − x2dx で
x = a sin t とし,変数の対応を x : 0 → a/2, t : 0 → 56π としてみよ.
例 2.17.
∫ a/2
0
dx√a2 − x2
(a > 0)
x = a sin t とおくと,dx = a cos t dt,x : 0 → a/2 に対し t : 0 → π/6 である
から, ∫ a/2
0
dx√a2 − x2
=
∫ π/6
0
a cos t dt√a2 − a2 sin2 t
=
∫ π/6
0
a cos t dt√a2 cos2 t
=
∫ π/6
0
a cos t dt
a cos t( [0, π/6]で cos t ≥ 0 )
=
∫ π/6
0
dt
=π
6
定理 2.9 (定積分の部分積分).∫ b
a
f(x)g′(x)dx = [f(x)g(x)]ba −
∫ b
a
f ′(x)g(x)dx
証明. 不定積分の部分積分の公式において,左辺の x = b, x = aでの値の差は右
辺でのそれに等しい.
64 第 2章 積分
例 2.18.
∫ 2
0
x2e2x dx
∫ 2
0
x2e2x dx =
[x2 1
2e2x]20
−∫ 2
0
xe2x dx
= 2e4 −
([x1
2e2x]20
−∫ 2
0
1
2e2x dx
)
= 2e4 −(e4 − 1
4
[e2x]20
)=
5
4e4 − 1
4
問 2.14. 例 2.16を参考にして,
In =
∫ 2
0
xne2xdx
を計算するための漸化式をたててみよ.
2.3 定積分のいろいろな解釈
和の極限としての定積分∫ b
a
f(x) dx = lim|P |→0
∑P
f(ci)(xi+1 − xi)
は,積 f(ci)(xi+1 − xi)の解釈により様々な解釈が可能である.面積,曲線の長
さ,密度関数による全体量,力学における仕事などから,次元を上げて線積分,
重積分,面積分になればさらに応用範囲が広がる.
以下の節では,定積分の面積,曲線の長さ,密度関数への応用を扱う.
2.3.1 図形の面積
長方形や三角形の面積を求める式は明確に定義されている.しかし,さまざま
な曲線で囲まれた図形の面積はどのように定義され求めることができるのだろう
か.この点をあきらかにしよう.
長方形の面積は隣り合う辺の長さの積である.このことは,隣り合う各辺の長
さに面積が比例するのであるから,この定義でいいと誰もが納得するであろう.
2.3 定積分のいろいろな解釈 65
一般に曲線で囲まれたある図形に面積があるとすれば,その面積は図形をほぼ
覆うような小さないくつもの長方形の面積の和で近似される.これが以下の定義
の基本的な考え方である.
ある区間 [a, b] において f(x) ≥ 0 とする.区間 [a, b] の分割 a =
x0, x1, . . . , xn = bについてのリーマン和
n−1∑i=0
f(ci)(xi+1 − xi)
は,図 2.3のような分割の各小区間を底辺とし,小区間の一点における f(x)の値
を高さをする長方形の面積の和とみることができる.図 2.3 で,区間 [a, b] の分
図 2.3 リーマン和
割を細かくしていくとグラフと x軸によってはさまれた面積に近づくと考えられ
る.実際は面積の一般的定義より定積分の定義の方が先行するので,面積は以下
のように定積分を用いて定義される.
定義 2.4 (関数のグラフと x軸にはさまれた領域の面積). 区間 [a, b]において非
負の f(x)が積分可能なとき, ∫ b
a
f(x) dx
を y = f(x)のグラフと直線 x = a,x = bおよび x軸で囲まれた領域の面積と
いう.
区間 [a, b] で f(x) ≤ 0 のとき,x 軸と y = f(x) のグラフ及び直線 x = a と
x = bによって囲まれる領域の面積は,[a, b]における f(x)の定積分にマイナス
をつけたものとなる.
66 第 2章 積分
定理 2.10 (グラフではさまれた図形の面積). 連続関数 f(x), g(x)について,区
間 [a, b]において f(x) ≤ g(x)なら,y = f(x)と y = g(x)と x = a, x = bのグ
ラフによって囲まれる図形の面積(図 2.4)は,∫ b
a
{g(x)− f(x)} dx
である.
証明. 区間 [a, b] において f(x), g(x) ≥ 0 としてよい.なぜなら,区間 [a, b] に
おける |f(x)|, |g(x)| の最大値を超える数 M をとれば,f(x), g(x) の代わりに
f(x) +M, g(x) +M を考えればよいからである.求める面積は,y = g(x)グラ
図 2.4 グラフで囲まれた図形
フと x軸にはさまれた領域の面積から y = f(x)のグラフと x軸にはさまれた面
積であるから,定理の式が導かれる.
グラフで囲まれた面積を求める場合,グラフの ‘上下’を確認するため,グラフ
の概形をある程度知る必要がある.
例 2.19. y = sinx, y = cosx, x = 0, x = π のグラフで囲まれる図形の概形は
図 2.5のようである.
したがって,
S =
∫ π4
0
(cosx− sinx) dx+
∫ π
π4
(sinx− cosx) dx = 2√2
問 2.15. y = sinx, y = cosx, (−π
2≤ x ≤ 2π)のグラフではさまれた図形の面
積を求めよ.
2.3 定積分のいろいろな解釈 67
図 2.5 y = sinx, y = cosx, x = 0, x = π のグラフで囲まれる図形
問 2.16. y = − 9
x, y = x− 10のグラフによって囲まれた領域の面積を求めよ.
問 2.17 (サイクロイド).
x = a(θ − sin θ), y = a(1− cos θ), a > 0, 0 ≤ θ ≤ 2π
と x軸に囲まれた図形の面積を求めよう.
サイクロイドにおいては y ≥ 0,0 < θ < 2π において x′(θ) ≥ 0 なので
x(θ1) = x(θ2), 0 < θ1 < θ2 < 2π なる θ1, θ2 はない(平均値の定理).よって
y(x)は一意である.0 ≤ x ≤ 2aπ だから,求める面積 S は
S =
∫ 2aπ
0
y dx =
∫ 2π
0
yd x
d tdt
である.この面積を計算せよ.
問 2.18. 楕円 x = a cos θ, y = b sin θ, 0 ≤ θ ≤ 2π に囲まれた面積を求め
よう. [0,
π
2
],[π2, π],
[π,
3π
2
],
[3π
2, 2π
]という θ の4つの区間に分けて考えれば,各部分の曲線と x軸によって挟まれる
面積は同じである.よって,求める面積は
4
∫ a
0
ydx = 4
∫ 0
π/2
yd x
d θdθ
この面積を計算せよ.
68 第 2章 積分
2.3.2 曲線の長さ
定義 2.5 (曲線の長さの和の極限としての定義). (平面上の) 曲線 C が x =
x(t), y = y(t), a ≤ t ≤ b とパラメータ表示されているとする.[a, b] の分割
Q : a = t0 < t1 < · · · < b = tn に対し C 上の点を Pi = (x(ti), y(ti)), i =
0, 1, . . . , nとする(図 2.6参照).Pi を順番につなげた線分の長さの和を
S(Q) =
n∑i=1
Pi−1Pi
とおく.|Pk| → oなる [a, b]の分割の列 {Qk}k に対し,和 S(Qk)が {Qk}k によらない一定値に収束するなら,その値を曲線 C の長さと言う.(より正確にいう
と,t が [a, b] を a から b まで増えるときにパラメータ表示された点 (x(t), y(t))
がたどる道のりの長さである.)
図 2.6 折れ線で近似された曲線
曲線の長さは定積分として計算できる.
定理 2.11 (パラメータで表された曲線の長さ). x(t), y(t)をその導関数が連続と
するとき(この条件は以下で厳密な証明をするときに必要なもので直観的に理解
するためには気にしなくてよい),x = x(t), y = y(t), a ≤ t ≤ bとパラメータ表
示された曲線の長さは ∫ b
a
√x′(t)2 + y′(t)2dt
である.
2.3 定積分のいろいろな解釈 69
証明. [a, b] の分割 Q を Q : a = t0 < t1 < · · · < tn = b,曲線上の点を
Pi = (x(ti), y(ti)), i = 0, 1, . . . , nとする.
Pi−1Pi =√(x(ti)− x(ti−1))2 + (y(ti)− y(ti−1))2
=
√(x(ti)− x(ti−1)
ti − ti−1
)2
+
(y(ti)− y(ti−1)
ti − ti−1
)2
(ti − ti−1)
であるから,平均値の定理より,各 iに対し ti−1 < ci < ti, ti−1 < di < ti なる
ci, di があって,
Pi−1Pi =√x′(ci)2 + y′(di)2(ti − ti−1)
と書ける.ここで,ci と di の違いは小さく,
n∑i=1
Pi−1Pi
として,n∑
i=1
√x′(ci)2 + y′(ci)2(ti − ti−1)
を考えれば,これは ∫ b
a
√x′(t)2 + y′(t)2dt
に収束する.
例 2.20 (円周の長さ). r > 0として,円 x = r cos t, y = r sin t, 0 ≤ t ≤ 2π の
長さは,∫ 2π
0
√(x′(t))2 + (y′(t))2 dt =
∫ 2π
0
√(−r sin t)2 + (r cos t)2 dt
=
∫ 2π
0
√r2 sin2 t+ r2 cos2 t dt
=
∫ 2π
0
r√sin2 t+ cos2 t dt
= r
∫ 2π
0
dt
= 2πr
70 第 2章 積分
問 2.19. サイクロイド x = a(t− sin t), y = a(1− cos t), a > 0, 0 ≤ t ≤ 2π
の長さを求めよ.cos 2t = 1− 2 sin2 tを使う.
定理 2.12 (y = f(x) のグラフとして表された曲線の長さ). f(x) をその導関数
が連続とするとき,y = f(x) a ≤ x ≤ bのグラフの長さは∫ b
a
√1 + f ′(x)2dx
である.(これは上の定理の特別な場合である.パラメータを xにとればよい.)
例 2.21. 曲線 y =2
3x√x, 0 ≤ x ≤ 1の長さは,y′ =
√xより,
∫ 1
0
√1 + x dx =
∫ 2
1
√u du (1 + x = u)
=
[2
3u3/2
]21
=2
3
(23/2 − 1
)問 2.20. 懸垂線(カテナリ)
y =ex + e−x
2
の 0 ≤ x ≤ 1の部分の長さを求めよ.
問 2.21. 曲線 y = x2, (0 ≤ x ≤ 1)の長さ
L =
∫ 1
0
√1 + (2x)2dx = 2
∫ 1
0
√x2 +
1
4dx
である.この積分の計算には,√x2 +
1
4+ x = t
とおいて置換積分をすればよい.この積分の計算をせよ.
2.3 定積分のいろいろな解釈 71
2.3.3 密度関数
n個の市町村 {xi}の各々の面積をmi,単位面積あたりの人口密度を pi とする
と,全人口はn∑
i=1
mipi
である.
今,区間 [a, b] 上の一点 x における電荷密度を p(x) とする.この直観的意味
は xを含む微小区間内での電荷密度が p(x)であるということであるが,p(x)は
連続的に変化することに注意する.さて,[a, b]における全電荷は,以下で定義さ
れる. ∫ b
a
p(x) dx = lim|P |→0
∑P
p(ci)(xi+1 − xi)
ここで右辺は単に左辺の定積分の定義を書いただけであるが,その p(ci)(xi+1 −xi)の部分が微小区間 [xi, xi+1]内の全電荷であるので,その和(の極限)として
全区間での電荷量とすることの妥当さを示している.
2.3.4 広義積分と確率密度
これまで扱ってきた定積分も前節で厳密に定義された定積分も,閉区間上で定
義された関数の積分であったが,(半)開区間上で定義された関数の積分も考えら
れる.これらの積分を広義積分という.
定義 2.6 (無限開区間上の積分). 関数が実数全体で定義されているようなときは,
実数全体といった区間の定積分を考えたい場合がある.このような場合,いった
ん有限の値までの定積分を考え,その値を大きくして極限を考えることで,定積
分の概念を拡張することにする.
関数 f(x)が半開区間 (−∞, b](または [a,∞))で与えられているとき,∫ b
−∞f(x) dx = lim
c→−∞
∫ b
c
f(x) dx
(∫ ∞
a
f(x) dx = limc→∞
∫ c
a
f(x) dx
)と定義する.また,関数 f(x)が開区間 (−∞,∞)で与えられているとき,∫ ∞
−∞f(x) dx =
∫ c
−∞f(x) dx+
∫ ∞
c
f(x) dx
72 第 2章 積分
と定義する.ここに cは任意の数である.右辺の値は cの取り方によらない.
例 2.22. f(x) = x−a を例に広義積分の計算をしてみよう.
∫x−adx =
x1−a
1− a+ C, (a ̸= 1)
∫x−adx = log x+ C, (a = 1)
だから, ∫ ∞
1
1
xadx =
1
a− 1a > 1
∞ a ≤ 1
例 2.23. f(x) = e−x を例に広義積分の計算をしてみよう.∫ ∞
0
e−xdx = limM→∞
∫ M
0
e−xdx = limM→∞
[−e−x
]M0
= limM→∞
(−e−M + 1)
となって, limM→∞
e−M = 0 であるから,この場合の広義積分の値は 1 となる.
また,∫ 0
−∞e−xdx = lim
M→−∞
∫ 0
M
e−xdx = limM→−∞
[−e−x
]0M
= limM→−∞
(−1 + e−M )
となり, limM→−∞
e−M = limM→∞
eM が収束しないことから,この広義積分は値を持
たない.
広義積分は有界でない範囲の積分だけでなく,関数の値が定義されていない区
間にも適用できる.例えば,a < x < bでは値が定められているが x = aでは未
定義な関数 (y = 1/xの x = 0など)において,∫ b
a
f(x)dxを limM→a+0
∫ b
M
f(x)dx
が収束した場合の収束値とするのである.
問 2.22. 次の広義積分が収束するかどうかを調べ,収束する場合はその値を求
めよ. ∫ ∞
1
1
x2dx(1)
∫ 1
0
13√xdx(2)
例 2.24. 確率の表現と定積分 - 確率密度関数 -
出来事の「起こりやすさ」を表すのに,「確率」が使われることが多い.有限個
の出来事のどれかが起こるというような場合は,総和が 1になるようにそれぞれ
2.3 定積分のいろいろな解釈 73
の出来事に「確率」を割り振ることで起こりやすさを表現できる.しかし,0か
ら 1までの実数からひとつ数が選ばれる,というような場合,数それぞれに「確
率」を割り振るのではうまくいかないことがある.
例えば,全ての数の選ばれやすさが同じ,という割り振り (一様分布という)を
考えると,どんな小さな値を「確率」として与えても,総和が 1にはできず無限
大に発散してしまう.このような場合,各点に値を与えるのではなく,区間に値
を与えることでうまく表現できる.ある数 aが選ばれる確率,ではなく,a以下
の数が選ばれる確率,という具合である.a 以下の数が選ばれる確率を F (a) で
表せば (分布関数という),F (a)の性質を調べることで,その確率の割り振り (分
布という)の特徴を把握できることになる.先ほどの 0から 1までの数が均等に
選ばれる分布を表す分布関数は F (a) = aということになる.
分布関数は確率の値を直接明示しているのでわかりやすい表現ではあるが,各
点の起こりやすさの特徴が見えなくなっている.a以下の数が選ばれる確率では
なく aのところでの確率の変化率,つまり分布関数の微分係数,を考えることで,
有限個に確率を割り振ったときと対照させることができる.分布関数の導関数を
確率密度関数といい,分布を表現するにはこちらを用いるのが一般的である.先
ほどの一様分布の確率密度関数は
f(a) =
{1 0 ≦ a ≦ 10 a < 0, a > 1
である.また,分布関数 F (a)との間には,
F (a) =
∫ a
0
f(x)dx, F ′(a) = f(a)
という関係がある.
前節の密度関数の解釈で言うと,xを含む長さ dxの微小区間内での ‘確率密度’
が f(x)一定とすれば,その区間内の値が実現する確率が f(x)dxである.
確率密度関数 f(x)が確率の分布を表すためには,
• 取りうる値全体にわたっての確率密度関数の定積分(全確率)が 1である
こと
• 負の部分がないこと
という条件が必要となる.総和は,密度関数の定められた区間全体での定積分と
74 第 2章 積分
いうことになるので,一様分布の例では∫ 1
0
1 dx = 1となり,確かにこの関数は
条件を満たしている.
問 2.23. 関数
f(x) =
ax+ a (−1 ≦ x < 0)−ax+ a (0 ≦ x ≦ 1)0 (x < −1, x > 1)
が,確率密度関数となるように aを定めよ.
問 2.24. f(x) = − 34x
2 + 34 (−1 ≦ x ≦ 1) を確率密度関数とする確率分布にし
たがって値をとる変数が,− 12 以上
12 以下の値をとる確率を求めよ.
例 2.25. 正規分布
精度をあげるためなどの理由から,繰り返し実験などでは条件をそろえて何度
か実験・測定を行うことがある.原理的には同じ値になるはずだが,制御できな
い様々な要因によって測定値にはバラツキがでる.本来の値 (人間には未知であ
ることがほとんどであるが)と測定値の差,誤差がどのように散らばるか,分布す
るかは測定値をどのように扱っていったらよいかという点で非常に重要である.
測定値の誤差だけでなく,生物の特徴 (体長や体重など)のちらばりも多くの要
因 (誤差)が重ね合わされてできていると考えれば,この誤差を起因とする分布は
自然科学の分野ではいたるところで現れる分布となる.
ガウスの中心極限定理により,それらの分布は,正規分布 (ガウス分布ともい
う)で近似できると考えられ,標準的な正規分布の確率密度関数は,
f(x) =1√2π
e−x2
2
であることが知られている.係数の√2π は,
∫ ∞
−∞e−x2
dx =√π となることか
ら,全確率を 1にするために必要となってくる.
問 2.25. 標準正規分布の確率密度関数 f(x) =1√2π
e−x2
2 について,次の値を計
算しなさい.ただし, limx→±∞
xne−x2
= 0,
∫ ∞
−∞e−x2
dx =√π を使ってよい.
∫ ∞
−∞f(x)dx(1)
∫ ∞
−∞xf(x)dx(2)
∫ ∞
−∞x2f(x)dx(3)
75
問の略解
問 1.1の略解
(1)0-2 2-4 4-6 6-8 8-10
平均速度 (m/s) 2 6 10 14 18
(2) 10m/s
(3) 63
問 1.2の略解
f(x) =1
|x|問 1.3の略解
f ′(a) = limh→0
(a+ h)3 − a3
h= lim
h→0
3a2h+ 3ah2 + h3
h= 3a2
問 1.4の略解 時刻 tでの放射性元素の量は 100− z(t)であるから,
(100− z(t))′ = −a(100− z(t)), a > 0
が求める微分方程式である.これを,定理 1.9の 1.を使って整理すれば,
z′(t) = a(100− z(t)), a > 0
を得る.
問 1.5の略解 三角関数の公式:
cos a− cos b = −2 sina− b
2sin
a+ b
2
より,
(cosx)′ = limh→0
cos(x+ h)− cosx
h= lim
h→0
−2
hsin
h
2sin
(x+
h
2
)= lim
h→0−sin h
2h2
sin
(x+
h
2
)= − sinx
76 問の略解
問 1.6の略解
(4x5 − 3x2 + 10)′ = 4(x5)′ − 3(x2)′ + (10)′
= 4 · 5x4 − 3 · 2x= 20x4 − 6x
問 1.7の略解
((x2 − 2x+ 2)ex)′ = (2x− 2)ex + (x2 − 2x+ 2)ex
= (2x− 2 + x2 − 2x+ 2)ex
= x2ex
問 1.8の略解 (sinx
1 + sinx
)′
=cosx(1 + sinx)− sinx cosx
(1 + sinx)2=
cosx
(1 + sinx)2
問 1.9 の略解 (xe−4x)′ = e−4x + x(e−4x)′ = e−4x + x(−4)e−4x = (1 −4x)e−4x
問 1.10の略解
(cos3 2x)′ = (u3)′(cos 2x)′ (cos 2x = uとおいた)
= 3u2(cos v)′(2x)′ (2x = v とおいた)
= 3u2(− sin v)2
= −6u2 sin v
= −6 cos2 2x sin 2x
問 1.11の略解 (1− e−x
1 + e−x
)′
=e−x(1 + e−x)− (1− e−x)(−e−x)
(1 + e−x)2=
2e−x
(1 + e−x)2
問 1.12の略解 (2x)′ = (e(log 2)x)′ = (log 2)e(log 2)x = (log 2)2x
問 1.13の略解 y(t) = et
問 1.14の略解 (log
x− 1
x+ 1
)′
= {log(x− 1)− log(x+ 1)}′ = 1
x− 1− 1
x+ 1
77
問 1.15の略解
(√x)′ = (x1/2)′ =
1
2x1/2−1 =
1
2x−1/2
問 1.16の略解(1
x 3√x
)′
=
(1
xx1/3
)′
=
(1
x4/3
)′
=(x−4/3
)′= −4
3x−7/3
問 1.17の略解(√1 + x2
)′=
1
2(1 + x2)−1/2
(1 + x2
)′= x(1 + x2)−1/2 =
x√1 + x2
問 1.18の略解(log√1 + x2
)′=
(1
2log(1 + x2)
)′
=1
2(1 + x2)
(1 + x2
)′=
x
1 + x2
問 1.19の略解 y = xx の両辺の対数をとって,log y = x log x.両辺を xで
微分して,y′
y= log x+ 1
これより,y′ = y + y log x = xx + xx log x.
問 1.20の略解 接線の式は,y = 12ex.
問 1.21の略解 y(t) = sin tあるいは cos tあるいは sin t+ cos tなど
問 1.22 の略解 x(t) = r cos(ωt + θ0), y(t) = r sin(ωt + θ0) で,
(x′′(t), y′′(t)) = (−rω2 cos(ωt+ θ0),−rω2 sin(ωt+ θ0))である.
問 1.23の略解
y = sinxなら,y(−x) = −y(x)であるから,グラフは原点対称である.そこ
で,x ≥ 0でのグラフの振る舞いを調べて x < 0の範囲へは原点対称性によって
延長することにする.y′ = cosx y′′ = − sinx
より増減表はつぎのようになる.また,グラフの概形は図 2.7のようになる.
x 0 π2 π 3π
2 2π
y′ + 0 − − − 0 +
y′′ − − − 0 + + +
y 0 ↗ 1 ↘ 0 ↘ −1 ↗ 0
上に凸 上に凸 下に凸 下に凸
78 問の略解
図 2.7 y = sinxのグラフの概形
問 1.24の略解
y′ = −4x3 + 12x2 y′′ = −12x2 + 24x
より増減表はつぎのようになる.また,グラフの概形は図 2.8のようになる.
x 0 2 3
y′ + 0 + + + 0 −y′′ - 0 + 0 − − −y ↗ 0 ↗ 16 ↗ 27 ↘
上に凸 変曲点 下に凸 変曲点 上に凸 極大 上に凸
図 2.8 y = −x4 + 4x3 のグラフ
問 1.25の略解
y(−x) = −y(x) であるから,グラフは原点対称である.そこで,x ≧ 0 でのグ
79
ラフの振る舞いを調べて x < 0 の範囲へは原点対称性によって延長することに
する.y′ = 15x4 − 15x2 y′′ = 60x3 − 30x
より x ≧ 0の範囲の増減表はつぎのようになる.また,グラフの概形は図 2.9の
ようになる.
x 0√
12 1
y′ 0 − − − 0 +
y′′ 0 − 0 + + +
y 0 ↘ −7√2
8 ↘ −2 ↗変曲点 上に凸 変曲点 下に凸 極小 下に凸
図 2.9 y = 3x5 − 5x3 のグラフ
問 1.26の略解
x+ 2
x+ 1= 1 +
1
x+ 1
とまず変形すれば,
y =1
x+ 1(2.11)
のグラフを y 軸正方向に 1ずらせばよいことがわかる.式 (2.11)のグラフは,
y =1
x(2.12)
のグラフを x 軸負方向に 1 ずらしたものである.よって,求めるグラフは
式 (2.12)のグラフを x軸負方向に 1,y 軸正方向に 1ずらしたものである.従っ
80 問の略解
て,式 (2.12)のグラフを考えるとこれは原点対称であるので,x > 0での振る舞
いを調べれば十分である.式 (2.12)より,
y′ = − 1
x2, y′′ =
2
x3
x > 0で y′ < 0, y′′ > 0,すなわち,y は減少で下に凸である.また,
limx→0
y = ∞, limx→∞
y = 0
であるので,求めるグラフの概形は図 2.10のようになる.
図 2.10 y =x+ 2
x+ 1のグラフ
問 1.27の略解
求めるグラフは,
y = e−x2/2 (2.13)
のグラフを x 軸正方向に 1 ずらしたものである.よって,式 (2.13) のグラフを
考えると,これは y 軸対称であるので,x ≥ 0の範囲で調べれば十分である.
y′ = −xe−x2/2 y′′ = (x2 − 1)e−x2
より増減表はつぎのようになる.また,y = e−(x−1)2
2 のグラフの概形は図 2.11
のようになる.
x 0 1
y′ 0 − − −y′′ −1 − 0 +
y 1 ↘ 1/√e ↘
極大 上に凸 変曲点 下に凸
81
図 2.11 y = e−(x−1)2
2 のグラフ
問 1.28の略解
x′(t) = 1− cos t, y′(t) = sin t
より,
y′(x) =sin t
1− cos t, y′′(t) = − 1
(1− cos t)2
t 0 π 2π
x 0 1
y′ ∞ + 0 − ∞y′′ + + +
y 0 ↗ 2 ↘ 0
上に凸 上に凸
グラフの概形は図 2.12のようになる.
図 2.12 サイクロイド
82 問の略解
問 1.29の略解
cos(2m) x = (−1)m cosx, cos(2m+1) x = (−1)m+1 sinx, m = 0, 1, . . .より,
cosx =m−1∑k=0
(−1)k
(2k)!x2k +
(−1)m+1 cos(θx)
(2m+ 2)!x2m+2
= 1− x2
2!+
x4
4!− x6
6!+ · · ·+ (−1)m
(2m)!x2m +
(−1)m+1 cos(θx)
(2m+ 2)!x2m+2
問 2.1の略解∫x3 − 2 sinx+
1
4xdx =
x4
4+ 2 cosx+
1
4log |x|+ C
問 2.2の略解 例 2.8において,sin θ = sin 30◦ =1
2だから,t秒後までにこ
ろがる距離 f ′(t)は,
f(t) =1
4gt2 + c1t
これより,
f ′(t) =1
2gt+ c1
ここで,f ′(0) = 2であるから,c1 = 2であることがわかる.よって,
f(t) =1
4gt2 + 2t (m)
問 2.3の略解 微分方程式y′′(t) = −g
を解けば,
y(t) = −1
2gt2 + c1t+ c2
これに,初期条件 y(0) = 0, y′(0) = 50 sin 30◦ = 25を適用して,
y(t) = −1
2gt2 + 25t
よって,求める t秒後の位置は,(25√3t, −1
2gt2 + 25t
)
83
単位は m.t = x/25√3を y(t)の式に代入すれば,球の描く軌跡が放物線である
ことが分かる.
問 2.4の略解 ∫xex
2
dx =1
2ex
2
+ C
問 2.5の略解∫tanx dx =
∫sinx
cosxdx = −
∫1
udu (cosx = u) = − log | cosx|+ C
問 2.6の略解 ∫1√x− 1
dx =
∫1
u2√x du (
√x− 1 = u)
= 2
∫ (1 +
1
u
)du
= 2√x+ 2 log |
√x− 1|+ C
問 2.7の略解∫x
4x2 − 1dx =
∫ 14
2x+ 1+
14
2x− 1dx =
1
8log |2x+ 1|+ 1
8log |2x− 1|+ C
問 2.8 の略解 例 2.12 の答え y(t) = Ke−at で t = 0 とおいたときの両辺
の値が 100 であるから,100 = y(0) = K より,K = 100.よって,y(t) =
100e−at (g).
問 2.9の略解 変数分離法により
y′(x)
y(x)= x
と方程式を分離して,両辺の xについての不定積分をとれば,
log |y(x)| = 1
2x2 + C
これより,|y(x)| = e
12x
2+c
y(x) = ±e12x
2+c
84 問の略解
(参考:ここで,y(x)の連続性からすべての xを通じて ±のどちらかであることがいえる.)±ec = K とおけば,K = 0の場合も含めて,
y(x) = Ke12x
2
K は任意定数
問 2.10の略解 (2)は変数分離形なので,
v′(t)
v(t)− g= −1
として,両辺を tで積分すれば,
log |v(t)− g| = −t+ C
よって,|v(t)− g| = e−t+C = eCe−t
となるから,v(t)− g = ±eCe−t
(参考:ここで,v(t)の連続性からすべての tを通じて ±のどちらかであることがいえる.)したがって,
v(t) = g + c1e−t, c1は 0でない任意定数
となる.これは,
y′(t) = g + c1e−t, c1は 0でない任意定数
ということだから,
y(t) = gt− c1e−t + c2, c1, c2は任意定数
問 2.11の略解∫x log x dx =
x2
2log x−
∫x2
2
1
xdx =
x2
2log x− 1
4x2 + C
問 2.12の略解∫x2 sinx dx = −x2 cosx+ 2
∫x cosx dx
= −x2 cosx+ 2
(x sinx−
∫1 sinx dx
)= −x2 cosx+ 2x sinx+ 2 cosx+ C
85
問 2.13の略解∫ex cosx dx = ex sinx−
∫ex sinx dx
= ex sinx−(−ex cosx+
∫ex cosx dx
)= ex sinx+ ex cosx−
∫ex cosx dx
より, ∫ex cosx dx =
1
2(ex sinx+ ex cosx) + C
問 2.14の略解
In =
∫ [1
2xne2x
]20
− n
2
∫xn−1e−2x dx = 2n−1e4 − n
2In−1
問 2.15の略解 答え:4√2 + 2
問 2.16の略解 答え:40− 9 log 9
問 2.17の略解 答え:3πa2
問 2.18の略解 答え:πab
問 2.19の略解 答え:8a
問 2.20の略解 答え:e− e−1
問 2.21の略解 答え:
√5
2+
1
4log(2 +
√5)
問 2.22の略解
(1)
∫ ∞
1
1
x2dx = lim
M→∞
∫ M
1
x−2dx = limM→∞
[−x−1
]M1
= limM→∞
(− 1
M− (−1)
)= 1
(2)
∫ 1
0
13√xdx = lim
M→∞
∫ 1
M
x− 13 dx =
∫ 1
M
[3
2x
23
]1M
= limM→∞
(3
2− 3
2M
23
)=
3
2
問 2.23の略解 f(x) =
∫ 1
−1
f(x)dx = 1 となればよい.
∫ 1
−1
f(x)dx =
∫ 0
−1
(ax+ a)dx+
∫ 1
0
(−ax+ a)dx
=
[1
2ax2 + ax
]0−1
+
[−1
2ax2 + a
]10
= −(1
2a− a) + (−1
2a+ a) = a
86 問の略解
したがって,a = 1であればよい.
問 2.24の略解求める確率は次のようになる.
2
∫ 12
0
(−3
4x2 +
3
4
)dx = 2
[−1
4x3 +
3
4x
] 12
0
=11
16
問 2.25の略解
(1) x =√2uとおき,dx =
√2duを使って変数変換する.∫ ∞
−∞f(x)dx =
∫ ∞
−∞
1√2π
e−x2
2 dx =1√2π
∫ ∞
−∞e−u2√
2du =1√2π
·√2 ·√π = 1
(2)
∫ ∞
−∞xf(x)dx =
∫ 0
−∞xf(x)dx+
∫ ∞
0
xf(x)dx として,まず第 2 項
を計算する.u = −x2
2 とおくと,du
dx= −x, xdx = −du となるので,∫
xe−x2
2 dx =
∫eu · (−du) = −eu + C = −e−
x2
2 + C となることを使う.
∫ ∞
0
x1√2π
e−x2
2 dx = limM→∞
1√2π
∫ M
0
xe−x2
2 dx = limM→∞
1√2π
[−e−
x2
2
]M0
= limM→∞
1√2π
(−e−M2
+ 1)=
1√2π∫ 0
−∞xf(x)dx も同様に − 1√
2πであることがわかるので,
∫ ∞
−∞xf(x)dx = 0
となる.
(3) ∫ ∞
−∞x2f(x)dx =
∫ ∞
−∞x2 1√
2πe−
x2
2 dx
=1√2π
([x · (−e−
x2
2 )]∞−∞
−∫ ∞
−∞(−e
x2
2 )dx
)=
1√2π
∫ ∞
−∞e
x2
2 dx =1√2π
·√2π = 1
87
文献
1) 押川元重, 阪口紘治, 基礎微分積分, 培風館 (1989).