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FUJITSU. 62, 4, p. 394-399 07, 2011394 あらまし 富士通は,3GPP標準仕様に基づき,屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)を開発した。 本装置は,高効率・高集積化デバイス,柔軟なソフトウェア構成,およびシンプルなアー キテクチャの採用などにより,小型,軽量,低消費電力化を実現している。これによって, 移動通信ネットワークのトラフィック増大に向けた効率的な配備が可能であり,お客様 の設備投資,運用コスト低減に貢献できる。また,環境にも配慮したプロダクトとなっ ている。 本稿では,屋外型LTE無線基地局装置について,その概要や特長を紹介する。 Abstract Fujitsu has developed outdoor LTE infrastructure equipment (eNodeB) based on the specifications in the 3rd Generation Partnership Project (3GPP). Thanks to the use of highly efficient and highly integrated devices, flexible software configuration technology and simple hardware architecture, this LTE infrastructure equipment is small, lightweight and has a low power consumption. This means it can be deployed easily and efficiently when a number of base stations are installed to cope with heavy traffic load in a mobile network. As a result, this equipment helps reduce capital investment and operating costs in our customersnetworks and it also contributes to the environment. This paper describes an outline of this LTE infrastructure equipment and its features. 渡辺君夫   町田 守 屋外型 LTE 無線基地局装置( eNodeB Outdoor LTE Infrastructure Equipment (eNodeB)

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Page 1: LTE eNodeB...FUJITSU. 62, 4( 07, 2011) 395 屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB) LTEは,パケットサービス向けに最適化した無 線通信システムであり,高スループット,低遅延,高い周波数利用効率を実現する。(1)

FUJITSU. 62, 4, p. 394-399 (07, 2011)394

あ ら ま し

富士通は,3GPP標準仕様に基づき,屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)を開発した。本装置は,高効率・高集積化デバイス,柔軟なソフトウェア構成,およびシンプルなアー

キテクチャの採用などにより,小型,軽量,低消費電力化を実現している。これによって,

移動通信ネットワークのトラフィック増大に向けた効率的な配備が可能であり,お客様

の設備投資,運用コスト低減に貢献できる。また,環境にも配慮したプロダクトとなっ

ている。

本稿では,屋外型LTE無線基地局装置について,その概要や特長を紹介する。

Abstract

Fujitsu has developed outdoor LTE infrastructure equipment (eNodeB) based on the specifications in the 3rd Generation Partnership Project (3GPP). Thanks to the use of highly efficient and highly integrated devices, flexible software configuration technology and simple hardware architecture, this LTE infrastructure equipment is small, lightweight and has a low power consumption. This means it can be deployed easily and efficiently when a number of base stations are installed to cope with heavy traffic load in a mobile network. As a result, this equipment helps reduce capital investment and operating costs in our customers’ networks and it also contributes to the environment. This paper describes an outline of this LTE infrastructure equipment and its features.

● 渡辺君夫   ● 町田 守

屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)

Outdoor LTE Infrastructure Equipment (eNodeB)

Page 2: LTE eNodeB...FUJITSU. 62, 4( 07, 2011) 395 屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB) LTEは,パケットサービス向けに最適化した無 線通信システムであり,高スループット,低遅延,高い周波数利用効率を実現する。(1)

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屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)

LTEは,パケットサービス向けに最適化した無線通信システムであり,高スループット,低遅延,高い周波数利用効率を実現する。(1) パケットサービスに最適化されたシステム

LTEは,インターネット/メールに加え,リアルタイムな処理が必要な音声通話もIPパケットデータ(Voice over IP)として取り扱う無線通信方式である。(2) ネットワークアーキテクチャのシンプル化

LTEでは,eNodeBが無線アクセス制御機能を具備し直接コアネットワークに接続される。従来の第3世代移動通信システムと比較して,無線アクセスネットワークを構成する装置の階層が減り,シンプルになっている。これにより,データ転送およびハンドオーバの低遅延化が可能である。(3) マルチパス環境に強い無線アクセス技術

LTEは,無線アクセス方式として,下りリンクでは,OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access),上りリンクでは,SC-FDMA(Single Carrier-Frequency Division Multiple

ま え が き

近年,モバイルネットワークにおいては,スマートフォンの普及により,トラフィックが急増している。多くの国内外の通信事業者は,周波数利用効率の高いLTE無線基地局装置を多数配備し,トラフィックの急増に対応予定である。基地局の設置場所についても,図-1に示すような様々な場所でスペースを取らず簡単に設置できる装置が望まれている。富士通は,NTTドコモ様など通信事業者向けのW-CDMA開発,LTE開発で培った資産を有効活用し,早期に小型,軽量で設置場所の自由度の高い屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)を開発した。本稿では,eNodeBの概要について紹介する。

LTEを支える主要技術

LTEは,標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)で,3GPP Release.8(1)として仕様化された無線通信方式の規格である。

ま え が き

LTEを支える主要技術

MME

IPネットワーク

S-GWP-GW

eNodeB

eNodeB

コアネットワーク

eNodeB

地下

山間部

eNodeB

住宅地

都市部

eNodeB

都市間

eNodeB

S1回線

UE

S1回線

UE

X2回線

eNodeB: evolved Node B UE: User Equipment MME: Mobility Management Entity S-GW: Serving Gateway P-GW: PDN Gateway

図-1 LTEシステムの構成Fig.1-LTE system.

Page 3: LTE eNodeB...FUJITSU. 62, 4( 07, 2011) 395 屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB) LTEは,パケットサービス向けに最適化した無 線通信システムであり,高スループット,低遅延,高い周波数利用効率を実現する。(1)

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屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)

(4) 保守容易性遠隔からのソフトウェア更新により,機能追加,変更が容易に行える。また,自律の保守診断機能を備え,故障部位を早期に特定することが可能である。さらに,装置故障発生時には,一部機能を縮退し,システムの動作を継続することでダウン時間を最小化することが可能である。(5) 環境対策環境対策への取組みとして,装置の低消費電力以外に,SON(Self-Organizing Network)の一つとして導入が期待されているEnergy Savingsなどを実現する。

eNodeB装置構成

eNodeBは,1台のBBUと,最大3台まで接続可能なRRHにより構成される。BBUと各RRH間は,標準仕様であるCPRI(Common Public Radio Interface)(2)に準拠した光インタフェースで接続される。eNodeBの諸元を表-1に,構成を図-2に示す。(1) BBU

BBUは,デジタルベースバンド信号処理,コアネットワークとの接続に使用されるS1回線の終端処理,隣接eNodeBとの接続に使用されるX2回線の終端処理,呼処理,そして監視制御処理を行う。コアネットワークから受信するIPパケットをデジタルベースバンド信号に変調しRRHへ送信する。また,RRHから受信したデジタルベースバンド信号を復調し,コアネットワークへIPパケットを送信する。

eNodeB装置構成

Access)を採用する。OFDMAは,伝送信号フォーマットにCP(Cycle Prefi x)を用いて遅延波の干渉を軽減させる仕組みを取り入れており,マルチパス環境に強い。また,SC-FDMAも,OFDMAと同様にCPを用いているためマルチパス環境に強く,さらに,PAPR(Peak to Average Power Ratio)低減により,端末の低消費電力化に効果がある。(4) 通信品質に応じた適用変調技術

LTEは,変調方式にQPSK(Quadrature Phase Shift Keying),16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation), お よ び64QAM(64 Quadrature Amplitude Modulation)を採用し,複数ある誤り訂正の符号化率と組み合わせてAMC(Adaptive Modulation and Coding)を実現する。AMCを用いてeNodeB-UE間の通信品質に応じて変調方式を動的に切り替え,伝送容量の最適化を図ることが可能である。(5) 高スループットを実現するアンテナ技術

LTEは,アンテナ技術にMIMO(Multiple Input Multiple Output)を採用する。MIMOは,複数アンテナを用いて異なるデータを送受信する空間多重伝送技術であり,2×2MIMOの場合には,約2倍のスループットで伝送が可能である。

eNodeBの特長

eNodeBの主な特長を以下に述べる。(1) 小型,軽量,低消費電力歪補償技術であるDPD(Digital Pre-Distortion)をベースにした高効率アンプや高集積化デバイスを採用し,さらにアーキテクチャの見直しによる部品点数の削減などにより,装置の小型,軽量,低消費電力,自然空冷を実現している。(2) 設置の自由度屋外向けに開発したBBU(Base Band Unit)と

RRH(Remote Radio Head)は,電柱,壁面に容易に取り付けられる。また,それぞれを別々の場所に,分離して設置することも可能である。(3) 柔軟な装置構成お客様の要望するシステム要件(帯域幅とセクタ数)に合わせ,最適なハードウェア・ソフトウェアによる柔軟な装置構成が可能である。

eNodeBの特長

表-1 eNodeB装置諸元項 目 仕 様

無線周波数帯 Band4,Band9,Band17帯域幅 5 MHz,10 MHz,15 MHz,20 MHzアクセス方式 下り:OFDMA 上り:SC-FDMA

アンテナ技術 下り:2×2MIMOに対応上り:1×2SIMOに対応

セクタ数 最大6セクタ最大送信電力 60 W(30 W+30 W)最大伝送速度(セクタあたり)

下り:150 Mbps上り:50 Mbps

S1/X2回線インタフェース

1000Base-SX,1000Base-T

移動環境 ~ 350 km/h装置サイズ BBU:20ℓ以下 RRH:20ℓ以下

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屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)

(2) RRHRRHは無線信号の送受信をする装置である。BBUからの各プロトコル処理されたデジタルベースバンド信号をRF(Radio Frequency)信号に変換,電力増幅しUEに送信する。また,UEから受信するRF信号を増幅し,デジタルベースバンド信号に変換しBBUに送信する。

BBUおよびRRHの外観を図-3に示す。

eNodeBアーキテクチャ

eNodeBは,小型,軽量,低消費電力を目指し,従来複数枚で構成していたカードの集約を図り,

eNodeBアーキテクチャ

シンプルなアーキテクチャを指向して設計されている。その結果,部品点数,カード間インタフェースの信号線数を大幅に削減している。図-2に示すeNodeBの各機能部の概要を以下に述べる。(1) CNT

CNT部は,IPレイヤのプロトコル処理,呼制御処理,OAM(Operations, Administration and Maintenance)処理,S1/X2回線終端処理,NAT(Network Address Translation)処理,帯域制御処理,加えて,各機能部からの障害情報の収集,装置障害監視処理などを行う機能部である。本機

RRH

BBU

CPRI

APL

BB

TRXAMP

CNT

RRH

RRH

eNodeB

図-2 eNodeBの構成Fig.2-eNodeB hardware architecture.

(a)BBU (b)RRH

図-3 eNodeBの外観Fig.3-eNodeB equipment.

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屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)

る。本機能部は,MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)などのRFデバイスで実現している。

干渉制御とグリーン技術

LTE無線基地局は,高いスループット性能と低消費電力化が求められる。そのため,eNodeBには,干渉制御機能とグリーン対応機能を実装した。以下に概要を述べる。(1) セル間干渉制御(ICIC:Inter-Cell Interference

Coordination)機能ICICは,隣接セルとの境界で,同一周波数の無線信号が使用された場合に発生する電波干渉を避けるために,隣接するeNodeBが自律的に異なる周波数の無線リソースを割り当てる機能であり,セル境界に位置する端末のスループット向上を実現する。ICICの概略を図-4に示す。なお,ICICの詳細は,本誌掲載の「セル間干渉制御(ICIC)技術」を参照いただきたい。(2) グリーン対応機能

eNodeBは,以下のグリーン対応機能を有する。・消費電力/温度モニタリング機能装置の消費電力/温度のモニタリング機能を有する。モニタリングした情報は,ネットワーク機器全体の消費電力,CO2排出量の一括集中管理(見える化)のために活用される。・遠隔電源ON/OFF機能(Energy Savings)動的に変化するトラフィック状況に応じて,遠

干渉制御とグリーン技術

能部は高性能CPU,通信プロセッサ,FPGA(Field Programmable Gate Array)などのデバイスで実現している。また,CNT部に実装されるAPL(アプリケーションソフトウェア)は,3GPP Release.8で制定された標準仕様に準拠しており,Cell lock,Radio admission controlなど呼制御処理,Performance Management,Cell Supervision,Call TraceなどOAM処理を行う。また,eNodeBの設定・運用の自動化などを行うSONなど将来の拡張を見据えたインタフェースを有する。(2) BB

RLC/PDCP/MAC/PHYの各レイヤのプロコトル処理を行う。LTEの特徴であるMIMO処理,多値変調処理,OFDMA処理,SC-FDMA処理,AMC処理,H-ARQ処理,電力制御処理,セル間干渉制御処理などのデジタルベースバンド処理を行う機能部である。本機能部は高性能DSP(Digital Signal Processor)やFPGAなどで実現しており,今後の3GPP標準化仕様のリリースに合わせ,ソフトウェアのダウンロードで機能拡張を行うことが可能である。(3) TRX送信信号の歪補償処理,D/A変換処理,A/D変換などの無線信号処理を行う機能部である。本機能部は高性能CPU,FPGAなどで実現している。(4) AMP無線信号の送信電力増幅を行う機能部であ

セル端

eNodeB

セル端

干渉・スループットの低下

電力

周波数

電力

周波数

セル#0

セル#1

セル#0 セル#1

セル中心セル中心 eNodeB間通信

図-4 ICICの概略Fig.4-ICIC.

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屋外型LTE無線基地局装置(eNodeB)

渡辺君夫(わたなべ きみお)

アクセスネットワーク事業本部モバイルプロダクト開発センター 所属現在,LTE無線基地局装置の開発に従事。

町田 守(まちだ まもる)

アクセスネットワーク事業本部モバイルプロダクト開発センター 所属現在,LTE無線基地局装置の開発に従事。

著 者 紹 介

隔から装置の電源をOFF/ONする機能を有する。これにより,トラフィックが減少する夜間の消費電力低減が期待される。

Energy Savingsの概略を図-5に示す。

む  す  び

富士通独自の高効率アンプ技術や高集積デバイスの活用,ソフトウェアによる柔軟な装置構成の採用,加えて,ハードウェア規模を削減可能なシンプルなアーキテクチャの採用などにより,小型,軽量,低消費電力の屋外型LTE無線基地局装置を実現した。また,装置にはグリーン対応機能や干渉制御機能を実装した。

む  す  び

本装置の特長や機能は,今後の移動無線のトラフィック増大に向けて効率的に配備可能であり,お客様の設備投資,運用コスト低減に貢献するものである。今後もお客様や社会からの要請を早期に実現し,価値の高い製品の実現を目指す。

参 考 文 献

(1) 3GPP TS36.300 V8.12.0. http://www.3gpp.org/ftp/Specs/html-info/36300.htm(2) CPRI Specifi cation V4.2. http://www.cpri.info/downloads/ CPRI_v_4_2_2010-09-29.pdf

オンピーク

オフピーク

電源オフ

電源オフ

図-5 Energy Savingsの概略Fig.5-Energy Savings.