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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 「異文化理解」授業における学びについての一考察 : アクティブラー ニングの視点から(A Study of "Learning" in "Cross Cultural Understanding" Class : From the Perspective of Active Learning) 著者 Author(s) 奥山, 和子 掲載誌・巻号・ページ Citation 神戸大学留学生センター紀要,22:107-126 刊行日 Issue date 2016-03 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/81009481 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81009481 PDF issue: 2020-06-15

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Page 1: Kobe University Repository : Kernel · による授業を対象とする。こうした授業について末松(2008)は「共修」という用 語を用い、留学生と日本人が共に協力して問題解決を目指した授業実践の報告を

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

「異文化理解」授業における学びについての一考察 : アクティブラーニングの視点から(A Study of "Learning" in "Cross CulturalUnderstanding" Class : From the Perspect ive of Act ive Learning)

著者Author(s) 奥山, 和子

掲載誌・巻号・ページCitat ion 神戸大学留学生センター紀要,22:107-126

刊行日Issue date 2016-03

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/81009481

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81009481

PDF issue: 2020-06-15

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107神戸大学

留学生センター紀要 22:107 〜 126,2016

「異文化理解」授業における学びについての一考察―アクティブラーニングの視点から―

奥山 和子

キーワード:グローバル人材、ジェネリックスキル、アクティブラーニング、深い学び                   

1.はじめに 近年、国境を飛び越え地球規模でさまざまな競争が激しさを増す中、こうした状況下で活躍できる人材、いわゆるグローバル人材(以下、G人材)の育成が求められているのは周知の通りである。1)G人材と見なされるには「Ⅰ語学力・コミュニケーション力、Ⅱ主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感、Ⅲ異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」などを備えておかなければならない。2)その一方で、昨今にわかに耳目を集めているのがジェネリックスキルというものである。ジェネリックスキルは、「学士力」や「汎用能力」、あるいは「社会人基礎力」とも表現され、中央教育審議会によって「知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な能力」と定義されている。3)大学生が就職しても短期間で辞めてしまうという最近の離職率の高さなどを問題視し、大学生の内に社会で広く通用するスキルを身につけるべきだという産業界からの要請に基づく。その能力とは、「コミュニケーション能力」「数学的スキル」「情報リテラシ―」「論理的思考」「問題解決力」といったものであり、さらに「コミュニケーション能力」の説明として、「日本語と特定の外国語を用いて、読み、書き、聞き、話すことができる」ことだと記されている。この外国語が主に英語を指していることは想像に難くない。国境を跨いで競争的な場で活躍できるG人材となるためにも、また国境を跨ぐこともなく国内で職業人として豊かな社会人生活を送るためにも、英語運用能力は有用なスキルということで今後ますます求められるであろう。 本稿は、グローバル専門科目の一環として2013年度より神戸大学発達科学部において後期(10月〜1月)に開講されている授業「異文化理解」(以下、本授業)を取り上げる。本授業は、G人材要素として求められる英語運用能力向上を目指した教室活動を行いながら、同時に「異文化理解」への深い学びにも注力するもので、2015年現在3回目の開講である。根幹となる授業活動は、英語ネイティブの留学生

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や、英語ネイティブではないが英語でのコミュニケーション能力をもつ留学生を毎回ゲストとして2〜5人授業に招き、授業の初めに自由会話時間をもち、その後留学生の国や社会、文化について日本人学生が英語でプレゼンテーション(以下、プレゼン)を行う。次に、それに基づいて英語で質疑応答などの意見交換を行うというもので、初めの自由会話部分とプレゼンおよびそれに続く意見交換の部分が授業活動の2本柱となる。留学生とのコミュニケーションが中心なので、授業の大半は英語で行われることになる。本稿は、制約された教育環境の下で、社会から求められているG人材あるいはジェネリックスキルを身に付けた人材育成を視野に入れつつ、異文化理解と英語運用能力向上を目指した授業の実践報告である。 本稿ではまず初めに、授業形態の面から先行研究を整理することで、本授業の特徴を明確にしたいと思う。異文化理解を目標の一つとして留学生と日本人学生が集うという授業については、さまざま実践が報告されている。本稿ではその中で特に授業や教室内で「主に使われる言語」という観点からそれらを分類、整理する。この使用言語が何かによって、授業の性格がかなりの比重で規定されるからである。次に、学生は、授業の中の活動がほとんど英語で行われる授業というものを必要と感じるか、さらに英語についてはどんなスキルを最も伸ばしたいと思っているのかなど、本授業の活動内容を決める上で参考になる学生の関心やニーズについてアンケート調査を実施したので、その結果を紹介する。そして、授業内容を紹介し、最後に本授業が、英語スキルの向上と異文化理解という点でどのような学びを提供できているか、最近俄かに脚光を浴びているアクティブラーニングの視点から考察したい。アクティブラーニングとは「『教員が何を教えたか』ではなく「学生が何ができるようになったか」を基準として教育を考える」(河合塾編2013, p.6)もので、新しく得た知識や既存知識などをもとに思考を活性化して、新たな知を目指すものといえよう。本授業では、語学のスキルトレーニング的な場も確保する一方、新たな知である「学び」という質も担保したいと考えている。

2.先行研究 筆者が担当している「異文化理解」授業は、日本人学生の授業にゲストとして留学生を招くものだが、「異文化理解」を目標の一つとして、日本人学生と留学生が会して行われる授業形態は数多くの大学で見られる。一見、多種多様に見えるが、授業や教室内で「主に使われる言語」という点から見ると、日本語を使うもの、日本語と英語を使うもの、ほとんど英語だけを使うものの3タイプに大まかに整理で

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きる。ここではそれらをタイプ1、タイプ2、タイプ3と名付けることとする。

2.1.タイプ1:主な使用言語が日本語 このタイプは、ほとんど日本語で授業が行われるもので、留学生の「日本事情」授業に日本人学生が参加する形態がこれに相当する(植木2002,押谷2006,花見2006,原沢2012)。授業形式としては、日本人学生と留学生が時間と空間を共に過ごすことを重視する体験型であり、基本的に、留学生はもとより日本人にも単位が与えられる。日本人学生が留学生の日本語授業に参加する意味について原沢は「多くの国籍の学生と交流することは、自文化を改めて考えなおすきっかけとなる」(原沢2012,p.4)と述べ、留学生と経験を共にすることで日本文化への認識を新たにすることを意義としてあげている。これは日本語教育分野での実践であるが、この取り組みの背景には、コミュニカティブなスキルを重視するようになってきた日本語教育の歴史的流れがある。

2.2.タイプ2:主な使用言語が日本語と英語 次のタイプは、授業や教室内での使用言語が主に日本語と英語で行われているものである。これは、日本人学生の英語クラスと留学生の日本語クラスがクラス間交流するという形態が一般的である(鈴木・島崎2002,野沢・坪田2005,橋本・坂田2014)。その主な目的は、日本人と留学生が交流できる機会を作り、タスク活動を通じて双方の学習言語能力を育成することにある。加えて、日本人と留学生が互いの学習スタイルの違いに気付くことにより異文化理解へのきっかけを与えるというものである。それを実現させるための仕掛けとしてさまざまタスクが用いられるのがこのタイプの特徴である。 近年、日本語教育の領域で、こうした日本語と英語を交えた授業やプログラムの増加が目立つ。その背景の一つとして指摘されるのが、大学のグローバル化に伴いキャンパス内に留学生が増えてきているものの、それが日本人との交流に至っていないという現実がある。そのため教育的介入により、日本人学生と留学生の授業を通してのインターフェイスが設定されたのである。

2.3.タイプ3:主な使用言語が英語 最近はグローバル環境の整備が進んだ先進的大学において、日本語能力を持たない外国人向けに英語で行われる専門プログラムの開発が進んでいる。しかし本稿で

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は、そのような専門プログラムではなく、異文化理解を授業目標の一つとした英語による授業を対象とする。こうした授業について末松(2008)は「共修」という用語を用い、留学生と日本人が共に協力して問題解決を目指した授業実践の報告を行っている。そして課題解決型の異文化間プロジェクトの企画、遂行は日本人学生の、異文化のみならず自文化理解の促進につながるとそのメリットを強調している。しかし一方で、語学上の配慮なく対等に日本人と留学生が英語を使って行われる授業の難しさを指摘する声も出ている。その理由は、主に日本人学生の英語力の低さにあるという。日本人学生と留学生が英語で、与えられた何らかの課題を共働してこなす場合、両者に語学力のギャップがあって理解しあえず、課題解決を困難にしているというのである。(花見2013,p.105)こうした現状に対し、実践経験者の恒松は「英語で行う授業を受講できるレベルに到達するまでの道のりは長い。そのレベルに到達するまでの準備段階として学生の実際の英語力に見合ったレベルの授業を中間点として提供することが必要である」(恒松2006,p.50)と述べ、現実的に海外で学びを得られるレベルに達するために、橋渡しとしてまずは現在の英語力に見合ったレベルの授業の提供を提言している。

2.4.「異文化理解」授業のタイプ分類からみた特徴 授業や教室内で主にどのような言語が使われるかという観点から、日本人学生と留学生との合同授業を3つのタイプに分類した。要点をまとめると、主に日本語が使われるタイプ1では、授業目的は留学生の日本語能力の向上であり、日本語教育の領域で、日本語教育担当教員によって実践されている。日本語と英語が共に使われるタイプ2では、英語を学ぶ日本人クラスと日本語を学ぶ留学生クラスが、共に何らかのタスクに挑むことで各々の学習言語運用能力を高めようとするもので、日本語教育担当教員と英語教育担当教員が連携して、多くの場合単発的に実施されている。そして主に英語が使われるタイプ3では、留学生と日本人学生が全く対等に英語を駆使し、共働して問題解決に取り組むというもので、主に異文化コミュニケーションの領域で異文化コミュニケーションを専門とする教員によって実施されている。 筆者が担当する「異文化理解」授業は、授業・教室内で主に英語を使うという大枠内でタイプ3とは同じである。しかし、参加する留学生ゲストは毎回顔ぶれが異なり、ゲストであるため授業内で彼らに義務付けられる活動はないし、単位は付与されない、さらに担当教員が異文化コミュニケーション専門ではないという点でタ

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イプ3とは異なる。これらをまとめたのが表1である。

表1 主な使用言語による分類と異文化理解授業の関係主な使用言語 日本語 日本語、英語 英 語

タイプ タイプ1 タイプ2 タイプ3 異文化理解授業目標 異文化交流・

理解英語運用能力向上異文化交流・理解

異文化交流・理解 

英語運用能力向上異文化交流・理解

授業形態・特徴

留学生の日本語授業に日本人学生が参加

日本用英語クラスと留学生用日本語クラスの合同授業

日本人学生と留学生が共働して問題を解決

毎回異なる留学生留学生ゲストがコメンテーターとして参加

担当教員の専門分野

日本語教育 日本語教育、英語教育

異文化コミュニケーション

留学生教育

実践の型 体験型 タスク達成型 問題解決型 体験型単位の付与 日本人、留学

生に付与日本人、留学生に付与

日本人、留学生に付与

日本人にのみ付与

3.「異文化理解」授業3.1.ニーズ調査3.1.1.調査概要 昨今、巷間を賑わせている若者の内向き志向や海外に対する関心の低さ、また職業意識の低さといった現状を憂えて、G人材育成やジェネリックスキルの獲得という要請が産業界から出されたのだが、かといって若者を一括りで語ることはあまり意味がない。それぞれの大学や学部において学生の特性は大きく異なるからである。そのため、授業プログラムを開発、改善していくためには、学生の特性や授業に対する関心及びニーズ把握が欠かせない。 筆者は、学生の関心やニーズを把握するためにアンケート調査を実施した。対象は、筆者が前期に担当する1年生向けの「異文化間教育」受講生82名(1年生全体の約30%に相当)で、実施時期は2014年6月である。1年生は、前期にこの「異文化間教育」を受講し、後期に本授業「異文化理解」を受講する傾向が強いため、「異文化間教育」受講生は本授業の将来の受講生と見なすことができる。しかし6月の段階で彼らはまだ「異文化理解」授業の内容を知らない可能性が高いため、質問では「授業中の会話や活動で英語を多用する授業」と表現した。アンケートの質問内

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容は、「英語を多用する授業を必要と思うか」「そういう授業があれば受講を希望するか」という授業ニーズと、「自分の英語スキルの中で何が最も苦手か」、そして「最も今伸ばしたいと思っているスキルは何か」という英語力についてである。

3.1.2.調査結果 ここでは4つの質問内容とその結果について、項目順に提示する。 質問1「英語を多用する授業は必要だと思いますか」  ・「必要だと思う」     21名(25.6%)      ・「どちらかというと必要」 47名(57.3%)  ・「必要だと思わない」    4名(5.1%)  ・「わからない」      10名(1.2%) 「英語を多用する授業」について4人に1人は必要だと感じ、「どちらかというと必要」を合わせると83%に達する。この数値はかなり高いといえよう。

質問2「この授業があれば参加したいですか」  ・「ぜひ参加したい」     25名(30.5名)    ・「参加したい気持ちはある」 34名(41.5%)  ・「参加したくない」     12名(14.6%)  ・「わからない」       11名(13.4%) 学生たちは、まだ本授業の内容を知らない可能性が高いため、「あれば」と仮定表現にした。質問1では83%が授業を必要だと考えていながら、参加意思を持つ学生の数は10%減った。それでも72%、4人に3人は参加意欲を持っている。

表2「英語を多用する授業は必要だと思いますか」(%)

26%

57%

5%12%

表3「この授業があれば参加したいですか」(%)

31%

41%

15%

13%

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「異文化理解」授業における学びについての一考察―アクティブラーニングの視点から― 113奥山和子

質問3「英語力の中であなたが最も苦手なものは何ですか」  ・「話すこと」      53名(65%)  ・「聞くこと」      17名(21%)  ・「書くこと」       7名(8%)  ・「読むこと」       4名(5%)  ・「特になし」       1名(1%) 65%の学生が「話すこと」が最も苦手だと答えている。「聞くこと」を最も苦手と考える学生が21%で、合わせると86%に達する。

質問4「今、最も伸ばしたいと思っているスキルは何ですか」  ・「話すこと」     63名(77%)   ・「聞くこと」     10名(12%)  ・「読むこと」      7名(9%)  ・「書くこと」      1名(1%)  ・「特になし」      1名(1%) 最も苦手なスキルも、最も伸ばしたいスキルも共に「話すこと」をあげた学生が圧倒的に多く、それぞれ65%と77%であった。一般に日本人が最も苦手とするスキルが話すこと、聞くことであることはよく知られているためこの結果は想定できたが、異文化間教育受講生の77%が話す練習をしたいと強く望んでいることが把握できた意味は大きい。 表6は、本授業への参加希望と最も伸ばしたい英語スキルとの関係を表したものである。「英語を多用する授業に「できれば」「ぜひ」参加したい」と回答している学生の圧倒的多数は、「話すこと」を伸ばしたいと回答していることが確認できる。4)

 一般に、学生たちが英語を話す練習をしたくても、これだけは独習は困難である。相手を必要とするものだからである。そのためにこうした場へこそ教育的サポートがなされるべきであろう。その際、前述の恒松が提唱したように「橋渡しとしてまずは現在の英語力に見合ったレベルの授業の提供」が望ましいといえるのではない

表4「英語力のスキルの中であなたが最も苦手なものは何ですか」(%)

5%8%

65%

21%1%

表5「今、最も伸ばしたいと思っているスキルは何ですか」(%)

9% 1%

77%

12%

1%

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だろうか。本授業に参加する留学生ゲストは、英語でのコミュニケーション能力をもつが、彼らの多くは英語ネイティブではないため、発音や語彙、文レベルにおいてネイティブの英語とはやはり異なる。流暢に流れる英語ネイティブの発話に比べると留学生ゲストの英語は、彼らにとっても外国語を話しているためか、日本人学生は英語ネイティブより理解しやすいと述べている。 こうしたアンケート調査の結果を見ると、2013年度より開講されている本授業は

「英語を多用する授業」への関心や、「英語を話す」スキルを伸ばしたいという学生のニーズにかなり応じていると思う。さらに、英語ネイティブではないが、英語コミュニケーション能力を持つ留学生ゲストと交流する本授業の存在は、恒松がその必要性を指摘する「英語で行う授業を受講できるレベルに到達するまでの準備段階として」の授業に近いものとして学生に提供できているのではないだろうか。

表6 授業参加意欲と最も伸ばしたいスキル

, 3 , 1 , 2 , 1, 0 , 1, 4

, 0

, 22

, 32

, 5, 8

05

101520253035

3.2.「異文化理解」授業の概要3.2.1.授業目標 改めて本授業の目標を明記すると、目指すものとして英語に特化した「語学力・コミュニケーション力」の向上に加えて、さらにG人材の要素でもある「異文化に対する理解」という深い学びもある。

3.2.2.受講生と留学生ゲスト 本授業受講生数は、2013年度17名、2014年度7名、2015年度15名の合計39名で、

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「異文化理解」授業における学びについての一考察―アクティブラーニングの視点から― 115奥山和子

この内34名が1年生である。受講へのニーズも関心も高い割に実際の受講生が少ない主な理由は、時間割の影響が大きいと思われる。本授業と同じ時間帯に1年生必修科目が入っており、そちらを優先せざるを得ないという事情もある。 英語力のスキル向上に関してジェネリックスキルに詳しい川嶋は「どのようなスキルも、そのスキルを獲得するためには、実際にそのスキルを活用する体験をしない限り獲得できない。(中略)多くの企業が重視しているコミュニケーション能力も、実際にいろんな人々と言葉を交わしたり、文章を書いたりしないと身につくことはない」(川嶋2012,p.29)と断言している。「実際にいろんな人々と言葉を交したり」という点が、語学運用能力を養う上では絶対的必須要件であろう。 本授業において、留学生ゲストと呼んでいる留学生は、交換留学生、教員研修生、大学院生、研究者など多様で、厳密には留学生のカテゴリーに入らない人もいる。この2年間で約40か国の留学生ゲストを迎え、さまざまなタイプの英語に触れることができた。多くの学生にとって初めてその国の名前を聞くという留学生ゲストも珍しくない。そして、アメリカ人やイギリス人のようなネイティブの英語から、アジア、アフリカ各地の英語にまで触れることができるのは得難い有益な体験でもある。まさにWorld Englishesの世界だが、これこそが本当のグローバル世界なのである。留学生ゲストには、本授業の目標である英語運用能力の向上と異文化理解という趣旨を伝え、ボランティアとして授業参加への理解と了承を得ている。

3.2.3.授業の流れ 時系列に沿って授業の流れを説明すると、まず教室内では予め学生たちが机と椅子を移動させて円形を2つ作り、10人程度が座れる2つのグループを作っておく。それぞれのグループに留学生ゲストが加わり席についた時点で授業は開始する。 各グループでは順番に、ローマ字で書いた名札を指し示しながら自己紹介を始める。それは互いに緊張を解し知り合うアイスブレーキングでもあり、互いの英語力を知る機会でもある。 自己紹介が一巡した後、改めて留学生ゲストにクラス全員に挨拶をしてもらう。 それから、担当学生がパワーポイントを使用して、留学生ゲストの国に関係したプレゼンを英語で20分程度行う。プレゼンが終った後は、留学生ゲストによるコメントや全員での質疑応答や意見交換が続く。そして当日のすべてのプレゼン終了後、学生はフィードバックシートという授業振り返り用の紙に、当日の発表すべての内容について要約し、感想を記入する。これにより、学生たちはその授業で何を知り、

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何を学んだか改めて整理、確認することになる。以上が、一連の授業の流れである。(表7) 1回の授業でプレゼンをする学生は平均2〜3人である。プレゼンの準備をするため、学生には1週間前に留学生ゲストの国を予告し、それに応じて発表者を決めておく。学生はプレゼンのために1週間の準備期間を持つことになる。プレゼンで取り上げる内容は学生の自由意思に任せてあるが、必ず発表に題名を付け、トピックを明確にするように告げてある。焦点のない事典的な紹介は好ましくなく、避けたいからである。さらに、プレゼンスキルとして、発表中に必ず質問やクイズを取り入れ、聞き手とのインターアクションやアイコンタクトを心がけるようにアドバイスしている。 一方、プレゼン担当者以外の学生にも毎回準備をさせておく。前の授業の最後に宿題として予習シートを全員に配り、それに回答・記入して授業に臨ませるのである。予習シートの内容は、次回取り上げる国に関する基礎知識(位置、首都など)の確認やその国について一番知りたいこと(留学生ゲストの好きな家庭料理、大学生の生活、その国の大学生にとって人気のある職業など)の質問文の作成である。このように基礎知識を共有し、興味あるテーマを持って授業に臨まなければならない。これは留学生ゲストとのコミュニケーションにおいて、話題がなくなり話が途切れることへの防止策でもある。 表7は、授業内容を、具体的な活動、それが行われる場所、活動の機能、活動で使用するスキル、そして活動時間をまとめたものである。

表7 授業内容活動 場所 機能 スキル 時間

1 自己紹介・情報交換 グループ アイスブレーキング 話す 15分2 留学生ゲスト挨拶 クラス 情報確認 聞く 数分3 プレゼンテーション クラス 英語によるプレゼン

テーション体験話す聞く 20分×留学

生ゲスト数4 プレゼンテーション後

のコメント・質疑応答クラス コミュニケーション

実践話す聞く 7〜8分

5 フィードバックシート記入/ 留学生ゲストコメント記入

個人 知識のまとめ整理、確認

書く 10分

6 次回プレゼンテーション発表者を決める/予習シート配布

クラス 次回の準備 ― 数分

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「異文化理解」授業における学びについての一考察―アクティブラーニングの視点から― 117奥山和子

3.3.学生による授業に対する自己評価 2013年度17名と2014年度受7名の本授業受講生に対して、授業最終日に授業に対する自己評価アンケートを実施した。過去2回の学生数は合計24名であるため、2回のアンケート結果を平均してパーセンテージで表すことにより学生の意見傾向を把握したい。質問は下記の3項目である。5)

質問1「授業目標は達成できたと思いますか」

  ・「大変できた」       21%  ・「かなりできた」      50%  ・「まあまあできた」     29%  ・「あまりできなかった」   0%  ・「全くできなかった」  0%

質問2「プレゼンテーションはうまくできたと思いますか」

  ・「大変できた」       14%  ・「かなりできた」      21%  ・「まあまあできた」     36%  ・「あまりできなかった」   29%  ・「全くできなかった」     0%

質問3「英語を使ったコミュニケーションは うまくできましたか」

  ・「大変できた」       50%   ・「かなりできた」      22%  ・「まあまあできた」     14%    ・「あまりできなかった」    7%  ・「全くできなかった」     7%

表8「授業目標は達成できたと思いますか」(%)

21%

50%29%

0% 0%

表9「プレゼンテーテョンはうまくできたと思いますか」(%)

14%

21%

36%

29%

0%

表10「英語を使ったコミュニケーションはうまくできましたか」(%)

22%

14%

7% 7%

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 質問1の「授業目標の達成」について全員が「(大変、かなり、まあまあ)できた」と回答している。「(あまり、全然)できなかった」の回答者がゼロだったことは喜ばしいが、これはおそらく全員がプレゼンを2回以上経験したという達成感によるものだろう。次に、質問2のプレゼンに対する自己評価は、「(大変、かなり)できた」は35%であり、「まあまあできた、あまりできなかった」が残りの65%を占めている。パワーポイント作成が不慣れな学生もおり、また英語でのプレゼンは新入生にはかなりハードルが高かったと思われる。プレゼンの発表内容をすべて英語でメモしてきて、それを訥々と読み上げる学生もいた。最も興味深い結果は、英語を使ったコミュニケーションに関する回答結果である。50%が「大変できた」と答えている一方で「(あまり、全く)できなかった」という回答が14%ある。特に「全くできなかった」という感想が7%あるのには意外感がある。英語での発話に困難を感じた時は、ほとんどの学生はそこで話を終わらせることなくジェスチャーなどのパラ言語に切り替えてコミュニケーションを何とか遂行していたからである。しかし、学生はそれでは満足できなかったのであろう。その一方「大変できた」と半数が答えているのは、コミュニケーションの達成感の強さの表われだと思われる。 表11は、質問3項目とその回答結果をまとめたものである。半数の学生が、「授業目標はかなり達成できた」そして「英語を使ったコミュニケーションは大変できた」と回答している。

            表11 授業アンケート結果(%)

4.考察:担当教員による授業評価4.1.橋渡しとしての英語運用能力の訓練 筆者が授業を評価する際、ポイントとするのは授業目標をどの程度達成できたか、

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さらに、それが学生のニーズに応えられるものであったかという点である。前述したように、本授業の目標は、英語に特化した「語学力・コミュニケーション力」の向上に加えて、G人材の要素でもある「異文化に対する理解」を深めることである。 まず、前者に関しては、学生たちのニーズとして高かったのは英語を話すスキルを伸ばしたいということであった。10名弱から成る二つのグループに留学生ゲストがそれぞれ1〜3名加わる。一人一人の自己紹介から始まる自由会話は回を追うごとに活発になり、賑やかになった。少人数のため、すぐにくつろいだ雰囲気になり、日本人学生たちはたとえ時間がかかっても自分が言いたいことをきちんと伝えようと努力し、それを可能にする雰囲気ができている。その過程を通して自分が本当に知りたい、かつ必要な語彙や表現、ストラテジーを得ていったようだ。そのためか、この自由会話が非常に役立ったと自己評価アンケートのコメント欄に記す学生は多い。英語そのものについては、英語のaccuracyよりfluencyを重視するということで文法などにこだわることはせずに、留学生ゲストとのやりとりに注力した。 本授業では、全員が英語のプレゼンを最低2〜4回しなければならない。取り上げる国は留学生ゲストの国についてなので、留学生ゲストも自分の国の紹介をしてくれてうれしいと非常に好意的に発表を聞いている。そしてプレゼン終了後は温かい労いと称賛の言葉が発表者に送られるため、発表者にはそれが何よりの励みと自信につながっていったようだ。秦・住田他は、日本語を学ぶ留学生を調査した結果、日本語の伸びに影響する要因として「日本語使用の必然性、反復性、偶然性、困難の克服を経た成功体験」(秦・住田他2012,p.151)をあげている。これは英語を学ぶ学生にもまさに適用できるものである。この説に即して本授業を分析すると、プレゼンやそれに係わるやりとりという「必然性」、自己紹介などで何度も同じパターンを繰り返す「反復性」、思わぬ質問が飛び出す「偶然性」、そしてプレゼン準備という「困難を克服」を経て、留学生ゲストや仲間から温かい拍手をもらう「成功体験」、こうした一連のすべての要素を本授業は持っているといえる。 以上のように、学生のニーズに合わせた「語学力・コミュニケーション力」の向上と言う観点から見た場合、本授業は一定の成功を収めていると言えるのではないだろうか。

4.2.アクティブラーニングとしての可能性 引き続き、本授業のもう一つの目標である「異文化に対する理解」を深めることがどの程度達成できたかを考察したい。

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 本授業の活動の一つは英語によるプレゼンである。プレゼンを担当する学生は、発表日までの1週間で担当する国について取り上げるトピックを決め、英語でのパワーポイントを完成しなければならない。発表者以外の学生も、宿題としてその国に対する基礎知識を持ち、いくつかの質問を用意して授業に臨まなければならないので、結果的に参加者すべてが共通の基礎知識を持つことになる。こうして行われるプレゼン、質疑応答、意見交換、グループでのやりとりなど一連のアクティブな活動は、文字通りアクティブラーニングと称される。こうした活動は従来から存在し、決して目新しいものではないが、近年そのありかたが改めて注目を集めている。溝上はアクィブラーニングを「一方向的な知識伝達型講義を聴くという学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと」(溝上2015,p.7)と定義している しかし、アクティブラーニング型授業が注目を集めているのは、単にその形式のためではない。それが授業において最も大切な学び、しかも「深い学び」に通じているという点にある。溝上は「深い学び」となるには、新しく学んだ知識がこれまでの「自分の知識世界の中で、今学んでいる課題や知識がいったいどういうものなのかということを、自分の中で組織化していくこと」(河合塾編2013,p.288)だと述べている。そのためには振り返りが必要で、教師はそれを促すような努力をしなければならい。そして、振り返りのために、自分の言葉でどう理解したか、何を感じたかを書きだす作業が有効だと示唆している。溝上の意見に従えば、授業の最後に、全員に課しているフィードバックシート記入がまさにこれに相当している。これは、プレゼン発表やその後の留学生ゲストとのやりとりや質問を経た後で、学びの整理として行うもので、これを行うことで授業の振り返りや新たな気づきに通じる役割をもつ。理想を言うと、この後学生同士の意見交換に発展することで、さらに新たな気づきを得て、弁証法的に思考を再構築できるのかもしれないが、時間の関係で現実にはそこまで至っていない。本授業におけるもう一つの目標である「異文化に対する理解」を深めるという「学びの深さ」に関しては、アクティブラーニングの観点から見ると、振り返りや気づきの掘り下げ方が時間的に不足しているという点で課題が残る。

4.3.教師の役割及び関与度と成績評価 筆者は、毎期第1回目の授業ガイダンスの折、この授業では教員は「教える人」ではなく「ファシリテーター」だと宣言している。筆者と同様に、タイプ3の英語で行われるプログラムを担当した宮本は「教員からの知識伝達が不足し、学生の主

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観的な意見交換に終わったのが課題」(宮本201,3 p.71)だと述べている。筆者も全く同意見であるが、しかしこれは学生主体で活動が行われて行くこの種の授業の宿命だと感じる。こうしたタイプの授業の場合、教師はクラスの進行役であり、グループ間を見回り、会話が途切れている場合は質問をして会話の話題を提供したり、促進したりする役である。しかし、宮本が指摘するように学生からは「教えてほしい」という、教師による知識伝達の要望があるかもしれない。教師の役割、そして授業でどこまで関与するのかは、基本的に教師と学生のラポールに係わるものだと思う。ラポールという信頼関係があれば、学生の理解を得、教師はファシリテーターに集中でき役割が果たしやすくなると実感するからである。 さらに頭を悩ますのが成績評価である。これについてもガイダンス時に説明をしておく。基本的にプレゼンを中心に、その他提出物と授業参加態度を主観的に判断して成績を出すと伝え、学生も納得している。しかし、アイディアを凝らしたプレゼンが多く、評価に関してはGPAに一元化するのは非常に困難であり、本来なら合否判定だけが妥当だと思われる。しかし、GPA評価が避けられないのであれば、最近注目されているルーブリック評価の活用が今後の検討に値するかもしれない。

5.おわりに 最後に、もう一度本授業の要点をまとめておきたい。本授業の教室活動は、主に留学生ゲストと学生の自由会話部分と、英語によるプレゼン及びそれに続く質疑応答の2本柱からなる。前者は、本学部1年生82名に対する英語スキルに関するアンケート調査の結果、英語を話すスキルを伸ばしたいという、77%の学生のニーズに応えたものとなっている。10名程度の小集団で、円形になりface-to-faceで繰り広げられる会話は、学生たちの緊張感を緩和させ、心理的負担を軽減させるようである。こうした教育環境設定は、留学生ゲストとの英語でのコミュニケーションという本来なら高いハードルを、一挙に下げる働きがあると思われる。明らかに学生たちの「話す」回数も量も、回を追う毎に増えているように観察されたからである。また、多くの留学生ゲストは英語ネイティブではないため、彼らにとっても外国語である英語を話しているという点で学生には親近感が湧き、コミットしやすいようである。そうした観点から、この授業は、恒松(2006)が言う「現在の英語力のレベルに見合った橋渡しとしての授業」に非常に近いもので、ネイティブが話す英語世界に移行する前の準備段階、あるいはそうした英語世界への橋渡し的役割を果たしているともいえる。言うまでもなく、語学力向上には慣れ

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が必要なため、英語でコミュニケーションできる時間と空間と英語話者を確保しなければならない。しかし、非漢字圏出身の留学生が3〜4人しかいない本学部の教育・キャンパス環境の現状を顧みると、英語話者の確保は至難の業である。そうした実情からも多くの多様な留学生ゲストを招いてコミュニケーションできる本授業は、教育効果の面から多少でも寄与できているのではないだろうか。 本授業におけるもう一つの柱であるプレゼンは、日本人学生にとって肉体的にも精神的にもかなり苦労を要するものであった。たとえ20分程度の発表であっても、文献を調べ、整理し、英語でパワーポイントを作成し、それをすべて英語で発表できるように準備するのは、1年生にとって決して容易なものではない。それを留学生ゲストや友達の前で発表し、そしてコメントや質疑のやりとりをする。学生たちはプレゼン後、フィードバックシートに学んだことを振り返って記入するという一連の作業をするが、それは、授業の仕上げとしても、学びを深化させるためにも大きな意味を持つ。なぜならば、これは、アクティブラーニングの枠組みに照応させると、新しく得た情報や知識を前知識と関連付け、「外化」する作業であり、そうした振り返りが新たな思考構築の可能性に通じるからである。現在は、ジェネリックスキルでも強調されているように、自分の頭で深く考えて行くという学びが強く求められている。このように、形態のみならず、アクティブラーニングが目指す学びの深さも本授業は目標にしている。しかし、前述したように、このフィードバックの部分には十分な時間がかけられていない。毎回1〜3名の留学生をゲストとして招くため、一人一人の国に対して知識や理解を深めるための十分な時間が取れないからである。前述したように、この時間をどのようにして確保するかが課題である。 最後に、本授業のように、日本人学生クラスに留学生ゲストを招くという授業の情意面での意義を述べておきたい。短時間であっても、世界各地からやってきた留学生ゲストと膝を交えてface-to-faceで語り合うという体験は、まさに五感に訴える体感そのものである。これは、知識による学びとは異なる異質な学びがあるのではないだろうか。時にはそこから何か意外な化学反応がひき起こされるかもしれない。しかし、こうした学びは可視化できるものではないため、言葉で語ることは難しいが、留学生ゲストという異文化との接触が学生にもたらす情意面への影響は、注視に値すると思う。 ゲストとして招いた留学生の数は、今後各大学でますます増えて行くだろうし、一方で、日本人学生の海外留学もさらに加速するだろう。そうした状況において、

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海外に出る前の橋渡し的役割を持ち、同時に異文化への感性を磨ける本授業のような授業が、今後さらに必要となり増えていくだろう。本授業の実践が有益なものになるように、今後も研究を積み重ねたいと思う。

注1)2009年文部科学省、経済産業省による「グローバル人材育成委員会」の立ち上

げ、次いで2010年にはユニクロ、楽天が英語を社内公用語化という社会的状況。2)「グローバル人材育成戦略」(2012)グローバル人材育成推進会議審議まとめよ

り。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/1206011matome.pdf (2014年9月21日閲覧)3)「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)平成20年4月10日 中央教育

審議会大学分科会 http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfi

le/2013/05/13/1212958_001.pdf (2015年9月10日閲覧)4)「できれば」「ぜひ」という表現は曖昧感が強かったかもしれない。5)「まあまあできた」というのは「かなりできた」と「あまりできなかった」の

間に位置するものだが、本稿では「できた」という部分で、肯定的に理解している。

参考資料足立恭則(2008)「留学生・日本人合同の日本事情授業」『人文・社会科学論集』25

 東洋英和女学院大学 p.103-p.114井之川睦美(2003)「体験学習法による日本語と英語を併用した活動」『群馬大学留

学生センター論集3』p.39-p.50植木節子(2002)「留学生教育における新たな授業の視点」『留学生教育』第7号 

留学生教育学会 p.131-p.144大藪加奈(2003)「異文化理解と表現:留学生との合同授業の試み」『言語文化論集』

7 金沢大学 p.47-p.58押谷祐子(2006)「東北大学の多文化クラス」『日本語教育方法研究会誌』vol.13

No.2 p.6-p.7

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河合塾編著(2013)『「深い学び」につながるアクティブラーニング』東信堂川嶋太津夫(2012)「変わる労働市場、変わるべき大学教育」労働政策研究・研修

機構  www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/.../019-030.pdf  (2015年9月10日閲覧)グローバル人材育成推進会議審議「グローバル人材育成戦略」(2012)まとめ  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/1206011matome.pdf  (2014年9月21日閲覧)坂本利子(2013)「異文化交流授業から国内学生は何を学んでいるのか」『立命館言

語文化研究 』24 p.143-p.157秦喜美恵・住田環・清水昭子・坂井芳江(2012)「留学生初年次教育におけるアクティ

ブラーニングの効果」『留学生教育』17号 p.151-p.159末松和子・阿 栄娜(2008)「異文化間協働プロジェクトにみられる教育効果」『異

文化間教育』28 異文化間教育学会 p.114-p.121鈴木庸子・島崎美登里(2002)「JLPとELPによる国際交流授業―討論とグループ・

プロジェクトの試み―」『ICU日本語教育研究センター紀要』11 p.69-p.78近田政博・杉野竜美(2015)「アクティブラーニング型授業に対する大学生の認識」

『大学教育研究 』23 p.1-p.19恒松直美(2006)「短期巷間留学プログラム留学生のための英語で行う授業の日本

人学生への開講ニーズ調査」『広島大学留学生センター紀要』16号 p.31-p.53坪田典子・野沢智子(2004)「クラスを越えた学びあい(1)」『文教大学国際部紀要』

第15巻1号 p.117-p.131東北大学高等教育開発推進センター編(2010)『大学における「学びの転換」と学

士課程教育の将来』東北大学出版会中川かず子(2012)「日本人学生と留学生の異文化交流」ウェブマガジン『留学交流』

vol,13 4月号 p.1-p.10野沢智子・坪田典子(2005)「クラスを越えた学びあい(2)」『文教大学国際学部紀

要』第15号巻2号 p.135-p.150橋本智・坂田浩(2014)「アクティブラーニングを取り入れた授業」『徳島大学国際

センター紀要』p.13-p.18花見槇子(2013)「三重大学におけるグローバル人材養成と英語によるコミュニケー

ション力」『三重大学国際交流センター紀要』8号 p.103-p.109

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花見槇子(2006)「留学生と日本人学生の合同授業の創出」『三重大学国際交流センター紀要1号』p.67-p.81

原沢伊都夫(2012)「合同授業を通した留学生と日本人の異文化交流」ウェブマガジン『留学交流』vol,13 4月号 p.1-p.10

溝上慎一(2015)『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂宮本美能(2013)「バイリンガルの学生が果たす役割:留学生と日本人学生の混合

クラスにおける一考察」『多文化社会と留学生交流』大阪大学国際教育センター研究論集17 p.65-p.71

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A Study of “Learning” in “Cross Cultural Understanding” Class | From the Perspective of Active Learning |

OKUYAMA Kazuko

  The purpose of this study is to evaluate ‘Cross Cultural Understanding’ class from the perspective of active learning, which is placing importance on a deep learning as well as active learning style in classroom. First of all, the goal of this class is both to improve English skill such as speaking and listening, and to deepen understanding about international cultures. Several international students are to be invited to this class as the guests every time. The class starts from the small talk, which working as an icebreaking. The English presentations by the Japanese students will be made, followed by the comments by the guest, or some questions & answers in English. As a final activity, all students are to fill out the feedback sheet in order to review and reflect class., which regarded as most important point by active learning.  As a result, this class will be considered to fairy successful in both improving English skill and deepening understanding of international cultures.

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