jpn. j. personality 20(3): 155-166 (2012)

12
問題と目的 身体不満足感は,自己の身体に関する否定的な 思考や感情であり (Cash, 1990),日常的に多くの 者が経験している(江田,2006)。しかしながら, 健常の大学生を対象とした研究では,身体不満足 感は,食行動異常(田崎,2007)や抑うつの高さ (McCaulay, Mintz, & Glenn, 1988),自尊感情や自 信の低さ (McCaulay et al., 1988; Nezlek, 1999),親 密な関係の築きにくさ (Nezlek, 1999) と関連があ ることが示されている。 身体不満足感を抱く者の割合および不満の対象 となる身体的特徴は,男女で異なる(Cash, Win- stead, & Janda, 1986; van Hoeken, Lucas, & Hoek, 1998 ;上長, 2007; Silberstein, Striegel-Moore, Timko, & Rodin, 1988)。首都圏の高校 1 年生から 2 年生の男女を対象とした調査においては,自分 自身の体型に満足していないと答えた者の割合は, 女子では 92.6% であったのに対し,男子では 67.2% であった(植竹・松山,1994)。さらに,Sil- berstein et al. (1988) の研究によると,大学生男女 を対象として,体重に関する不満足感を検討した ところ,女性においては 87% の者が体重の減少を 望んでいたのに対し,男性においては 46.8% の者 が体重の増加を望んでいたことが示された。この ような男性における体重増加志向の背景には,男 性は女性よりも,筋肉質な身体を理想的な体型と する社会的風潮がある (Pope, Phillips, & Oliverdia, 2000)。これらのことから,身体不満足感への介入 研究においても,性差を考慮に入れたアプローチ が必要であると考えられる。 男女を比較すると,身体不満足感を抱く者の割 合は,男性よりも女性の方が多く(江田,2006), 身体不満足感と関係の深い摂食障害は,女性の発 症率は男性の 10 倍以上である (Hoek & van Hoeken, 2003)。とりわけ青年期は,身体不満足感 が高まりやすいことから(江田,2006),青年期 女性を対象とした身体不満足感への有効な心理的 外見スキーマを測定する尺度の開発および外見スキーマ とボディチェッキング認知の関連性の検討 安保恵理子 須 賀 千 奈 根 建 金 男 早稲田大学大学院人間科学研究科 早稲田大学大学院人間科学研究科 早稲田大学人間科学学術院 日本学術振興会特別研究員 本論文における研究では,the Revision of Appearance Schemas Inventory (ASI-R; Cash, Melnyk, & Hrabosky, 2004) の日本語版 (the Japanese Version of the ASI-R: JASI-R) を開発し,外見スキーマとボディチェッキング 認知の各因子間における関連性を検討した。その結果,JASI-R は,「自己評価の特徴」と「動機づけの特徴」 2 因子から構成され,その信頼性と併存的妥当性は,許容範囲内であった。性差を検討した結果,女性は 男性よりも,両因子において得点が有意に高いことが示された。外見スキーマの両因子とボディチェッキン グ認知の各因子の相関を検討した結果,有意な中程度から弱い相関が認められたことから,これらは比較的 異なる概念であることが示された。 キーワード:外見スキーマ,ボディチェッキング認知,身体不満足感 © 日本パーソナリティ心理学会 2012 パーソナリティ研究 2012 20 巻 第 3 号 155–166

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Page 1: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

問題と目的

身体不満足感は,自己の身体に関する否定的な

思考や感情であり (Cash, 1990),日常的に多くの

者が経験している(江田,2006)。しかしながら,

健常の大学生を対象とした研究では,身体不満足

感は,食行動異常(田崎,2007)や抑うつの高さ

(McCaulay, Mintz, & Glenn, 1988),自尊感情や自

信の低さ (McCaulay et al., 1988; Nezlek, 1999),親

密な関係の築きにくさ (Nezlek, 1999) と関連があ

ることが示されている。

身体不満足感を抱く者の割合および不満の対象

となる身体的特徴は,男女で異なる(Cash, Win-

stead, & Janda, 1986; van Hoeken, Lucas, & Hoek,

1998; 上 長 , 2007; Silberstein, Striegel-Moore,

Timko, & Rodin, 1988)。首都圏の高校 1年生から

2年生の男女を対象とした調査においては,自分

自身の体型に満足していないと答えた者の割合は,

女子では 92.6% であったのに対し,男子では

67.2%であった(植竹・松山,1994)。さらに,Sil-

berstein et al. (1988) の研究によると,大学生男女

を対象として,体重に関する不満足感を検討した

ところ,女性においては 87%の者が体重の減少を

望んでいたのに対し,男性においては 46.8%の者

が体重の増加を望んでいたことが示された。この

ような男性における体重増加志向の背景には,男

性は女性よりも,筋肉質な身体を理想的な体型と

する社会的風潮がある (Pope, Phillips, & Oliverdia,

2000)。これらのことから,身体不満足感への介入

研究においても,性差を考慮に入れたアプローチ

が必要であると考えられる。

男女を比較すると,身体不満足感を抱く者の割

合は,男性よりも女性の方が多く(江田,2006),

身体不満足感と関係の深い摂食障害は,女性の発

症率は男性の 10倍以上である (Hoek & van

Hoeken, 2003)。とりわけ青年期は,身体不満足感

が高まりやすいことから(江田,2006),青年期

女性を対象とした身体不満足感への有効な心理的

外見スキーマを測定する尺度の開発および外見スキーマとボディチェッキング認知の関連性の検討

安 保 恵 理 子 須 賀 千 奈 根 建 金 男早稲田大学大学院人間科学研究科 早稲田大学大学院人間科学研究科 早稲田大学人間科学学術院日本学術振興会特別研究員

本論文における研究では,the Revision of Appearance Schemas Inventory (ASI-R; Cash, Melnyk, & Hrabosky,

2004) の日本語版 (the Japanese Version of the ASI-R: JASI-R) を開発し,外見スキーマとボディチェッキング

認知の各因子間における関連性を検討した。その結果,JASI-Rは,「自己評価の特徴」と「動機づけの特徴」

の 2因子から構成され,その信頼性と併存的妥当性は,許容範囲内であった。性差を検討した結果,女性は

男性よりも,両因子において得点が有意に高いことが示された。外見スキーマの両因子とボディチェッキン

グ認知の各因子の相関を検討した結果,有意な中程度から弱い相関が認められたことから,これらは比較的

異なる概念であることが示された。

キーワード:外見スキーマ,ボディチェッキング認知,身体不満足感

© 日本パーソナリティ心理学会 2012

パーソナリティ研究

2012 第 20巻 第 3号 155–166原 著

Page 2: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

アプローチの考案は,重要であるといえる。

青年期女性の身体不満足感の発生および維持に

かかわる要因の 1つに,外見スキーマがあげられ

る (Clark & Tiggemann, 2007; Hargreaves & Tigge-

mann, 2002)。外見スキーマとは,外見が自己の

人生にとって重要な意味をもち,生活の様々な側

面に影響を及ぼしていると考える信念のことをい

う (Cash, Melnyk, & Hrabosky, 2004)。外見スキー

マの測定尺度として,the Revision of Appearance

Schemas Inventory (ASI-R; Cash et al., 2004) があ

る。 ASI-Rは,自己記入式質問紙であり,2つの

下位尺度がある。「自己評価の特徴 (Self-Evaluative

Salience: SES)」因子は,自己評価が外見に基づい

ている程度や社会的,情緒的経験が外見によって

左右されている程度を測定する(e.g., これまで,

自分の身に起きたことのほとんどは,自分の見た

目に原因がある)。一方で,「動機づけの特徴 (Mo-

tivational Salience: MS)」因子は,自己の外見的魅

力の改善および維持のために,心理的,行動的に

労力を費やしている程度を測定する(e.g., 私は,

外出する前に,できるだけ良く見えているかどう

か確認する)。

SESと MSは,両方ともマスメディアによって

伝えられる理想的身体像を内在化しやすい傾向を

表し,他者に完全主義的な自己呈示をする傾向や

身体不満足感と関連があることが示されているこ

とから (Cash et al., 2004),不適応的な側面をもち

あわせているといえる。しかしながら,MSは SES

よりも,食行動異常や身体不満足感との関連が弱

く,自尊感情ならびにボディイメージに関する生

活の質とは有意な相関が認められなかった (Cash

et al., 2004)。このことから,MSは SESに比べる

と,不適応の程度が低いと考えられる。

外見スキーマと同様に,青年期女性の身体不満

足感と密接な関係をもつ信念に,ボディチェッキ

ング認知 (body checking cognitions: BCC) がある。

BCCは,様々な方法で繰り返し自己の身体の様子

を確認するボディチェッキング行動の根底にある

信念である (Mountford, Haase, & Waller, 2006)。す

なわち,BCCは,ボディチェッキング行動に従事

する際に,動機づけとなる信念であり,体型およ

び体重,食事への過剰なとらわれを反映する。ボ

ディチェッキング行動に従事することにより,自

己の外見的な欠点や完璧ではない側面に注意が向

き,身体の確認行動や外見へのとらわれを助長す

ることが指摘されている (Reas, Whisenhunt, Nete-

meyer, & Williamson, 2002)。また,女性の摂食障

害患者は,健常女性よりもボディチェッキング行

動に関する歪んだ信念を有することが示されてお

り,BCCが摂食障害の病理に関連していることが

示唆されている (Mountford et al., 2006)。

BCCの活性化されやすさを測定するために,

Mountford et al. (2006) は, the Body Checking

Cognitions Scale (BCCS) を開発した。BCCSは,

法田・谷澤・根建 (2007) により,日本語版が作

成されている。日本語版 BCCSは,精神的な安心

感を得るために,ボディチェッキング行動は重要

であると考える信念を表す「安全希求」因子

(e.g., 外出前には自分の身体が思うように隠れて

いることをチェックしなければならない),自身の

外見をコントロールするために,ボディチェッキ

ング行動は有効であると考える信念を表す「体

重・身体コントロール」因子(e.g., ボディチェッ

キングは,自分の体重のコントロールに役立つ),

自身の感情をコントロールするために,ボディ

チェッキング行動は役立つと考える信念を表す

「気分調整」因子(e.g., ボディチェッキングは,

私の気分をより良くしてくれる)からなる。日本

語版 BCCSは,法田他 (2007) により,信頼性と妥

当性がおおむね確認されている。

以上のことから,外見スキーマと BCCは,両方

とも,外見に関する不適応的な信念であり,身体

不満足感と密接な関係があると考えられる。

このように,外見スキーマと BCCは,両方とも

ボディイメージの認知的側面であり,身体不満足

感ならびに食行動異常との関連が示されているこ

156 パーソナリティ研究 第 20巻 第 3号

Page 3: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

とから (Cash et al., 2004; Mountford et al., 2006),

互いに共通した概念であると考えられる。しかし

ながら,両概念は,異なる研究者によって,それ

ぞれ独立して研究が行われてきており,異なる点

も認められる。外見スキーマおよび BCCがどのよ

うな身体的特徴に対する不満足感と関連があるの

か検討した研究では,外見スキーマは,外見全般

に対する不満と関連がある一方で,BCCは,体重

および体型に関する不満とより関連があることが

示された(安保・須賀・根建,2010)。食行動異

常との関連においては,BCCの方が外見スキーマ

よりも関連性が強いことが示唆されている (Cash

et al., 2004; Mountford et al., 2006)。

外見スキーマと BCCそれぞれの因子間の異同に

言及すると,外見スキーマの MS因子と BCCの体

重・身体コントロール因子ならびに安全希求因子

は,いずれも外見の管理と確認を重視する信念で

あるという点では共通している。しかしながら,

MS因子は,他者にもっと良い印象を与えるため

に,外見を磨く努力をするといったように,自己

を高めるための肯定的な動機づけを含んでいる可

能性が考えられる。ところが,体重・身体コント

ロール因子ならびに安全希求因子は,自己の外見

を繰り返し確認しなければ,太るような気がして

落ち着かないといったように,悪い結果を回避し

ようとする動機づけを表している可能性がある。

以上のように,外見スキーマと BCCは,一見類似

した概念のように思われるが,これらが影響を及

ぼす心理的側面や否定的な影響の程度,動機づけ

の方向性といった点から,異なる可能性が考えら

れる。外見スキーマと BCCが,青年期女性の外見

に関する信念の中でも,互いにどのような関係に

あるのか検討することにより,身体不満足感の発

生および維持にかかわる信念をより多面的に理解

することができると考えられる。これによって,

身体不満足感のメカニズムに関するモデルの精緻

化や,介入のターゲットとなり得る信念への理解

を深めることにもつながるものと思われる。

そこで,本研究では,外見スキーマと BCCの関

連性について検討することを目的とした。本邦で

は,外見スキーマを測定する尺度が未だ開発され

ていないため,まずは,これを測定する ASI-R

(Cash et al., 2004)の日本語版 (the Japanese Ver-

sion of the ASI-R: JASI-R) を開発し,その後,外見

スキーマと BCCの関連性を検討することとした。

研 究 1

目 的

研究 1では,JASI-Rを作成し,その因子構造お

よび内的整合性について検討を行った。

方 法

調査対象者 首都圏の大学の大学生男女 294名

を対象とした。欠損値を除外した有効回答者数

は,258名(男性 112名,女性 146名;平均年齢

19.8歳,SD�1.56,年齢不明 1名;有効回答率

87.76%)であった。

測度 外見スキーマを有している程度を測定す

る ASI-R (Cash et al., 2004) を日本語に翻訳したも

のを使用した(ASI-R日本語訳)。自己評価が外見

的魅力に基づいている程度を測定する SES因子と

外見的魅力を改善および維持するために心理的・

行動的に労力を費やしている程度を測定する MS

因子がある。全 20項目からなり,「1:まったく

あてはまらない」から「5:非常にあてはまる」の

5件法で回答を求めた。

手続き ASI-Rの原著者に日本語版作成の許可

を得た後,邦訳を行った。日本語と英語の両言語

に堪能な米国人大学院生により,バックトランス

レーションが行われた。その後,原著者に各項目

の意味や表現が一致していることを確認しても

らった。この ASI-R日本語訳を用いて,2009年 4

月下旬から 5月中旬にかけて,一斉法による教場

調査を実施した。

倫理的配慮 調査実施に際しては,口頭および

書面にて,調査への協力は任意であること,回答

内容はすべて統計的に処理され,プライバシーは

157外見スキーマを測定する尺度の開発および外見スキーマとボディチェッキング認知の関連性の検討

Page 4: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

保護されること,回答はいつでも中断可能である

ことを説明し,承諾が得られた学生のみに協力を

依頼した。

結 果

ASI-R日本語訳の因子構造を検討した結果,固

有値の変化は,36.80, 13.90, 8.06, 6.98 · · · であった。

固有値の落差と原尺度の結果に基づき,2因子解

を採択した。Table 1に,ASI-R日本語訳に対して,

最尤法プロマックス回転による因子分析を行った

結果を示した。第 1因子は,外見が自己評価に影

響を与える程度を測定する項目により構成されて

いたことから(e.g., もし,自分の見た目を好きに

なれれば,他のいろいろなことにも満足しやすい

と思う),原尺度にならい,「自己評価の特徴 (Self-

Evaluative Salience: SES)」とした。また,第 2因

子は,外見の管理および改善に対する動機づけの

高さを測定する項目により構成されていたことか

ら(e.g., 私は,できるだけ自分の外見を魅力的に

しようと努力している),同じく原尺度に基づき,

「動機づけの特徴 (Motivational Salience: MS)」と

した。SES因子と MS因子の因子間相関は .55で

あった。両方の因子に対して,因子負荷が .40未

満の 5項目(項目 5, 6, 9, 11, 19)と,原尺度とは

異なる因子に高い因子負荷を示した 2項目(項目

158 パーソナリティ研究 第 20巻 第 3号

Table 1 ASI-R日本語訳の項目と最尤法プロマックス回転の結果 (N�258)

項 目 項目内容 I II

因子 I: 自己評価の特徴 (Self-Evaluative Salience: SES)

14. 普段の生活の中で,自分がどのように見えているかということについて,考えさせられることが .711 �.101

多い。

16. 私は,今よりもっと見た目が良くなれば,どうなるだろうと空想にふける方だ。 .702 �.050

7. なんとなく自分の見た目を気に入ったり,気に入らなかったりするときは,そのことについて考 .653 .091

え続ける方だ。

13. 初対面の人に会うとき,自分の見た目について,どう思われるか気になる。 .637 �.062

2. 私は,外見が魅力的な人に会うと,自分の見た目はどの程度なのか気になる。 .599 .024

15. もし,自分の見た目が嫌いになったら,他のいろいろなことについても満足しにくいと思う。 .595 .022

削除 18. 私がどんなふうに見えるかということは,私がどういう人間かということの重要な一部だ。 .578 �.002

8. もし,自分の見た目が好きになれれば,他のいろいろなことについても満足しやすいと思う。 .540 .083

削除 10. 私は,自分の外見のことになると,高い基準を設ける。 .487 .050

20. これまで,自分の身に起きたことのほとんどは,自分の見た目に原因がある。 .444 �.086

19. 自分の外見をコントロールすることによって,人生におけるたくさんの社会的状況や,自分の .394 .138

感情に関することを,コントロールできると思う。∗9. もし,誰かが私の見た目に対して,否定的な反応をしても,私は気にならない。 �.368 �.019

因子 II: 動機づけの特徴 (Motivational Salience: MS)∗4. 私は,これまで,自分の外見にあまり注意を払ったことがない。 .225 �.864∗1. 自分の外見には,あまり時間をかけない方だ。 .150 �.789

3. 私は,できるだけ自分の外見を魅力的にしようと努力している。 .048 .748∗12. うまく洋服を着こなすことは,私にとっては,さほど重要ではない。 �.098 �.523

17. 私は,外出する前に,できるだけ良く見えているかどうか確認する。 .312 .450∗5. 私は,自分の外見を,他の人の外見と比べることはめったにない。 �.189 �.393

6. 私は,自分がどう見えているか確認するために,よく鏡を見る。 .272 .367∗11. 私の外見は,私の人生にほとんど影響していない。 �.254 �.268

因子間相関 Ⅰ Ⅱ

Ⅰ 1.00

Ⅱ .55 1.00

注.∗逆転項目。

Page 5: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

10, 18)は,原尺度の因子構造ならびに内容的妥

当性を保つために削除した。残った 13項目(SES

因子 8項目,MS因子 5項目)に対して,確証的

因子分析を実施した結果,GFIは .896, AGFI

は .852, RMSEAは .088であった。なお,男女別に

因子分析を行ったところ,男女の両方において

SESと MSからなる 2因子構造が確認され,各因

子には,ほぼ同様の項目が含まれていた。

次に,各因子の内的整合性を検討するために,

Cronbachの a 係数を算出した結果,SES因子お

よび MS因子の a 係数は,それぞれ .82と .81で

あった。また,SES因子の平均得点は 25.6 (SD�

5.52),MS因子は 17.05 (SD�3.75) であった。

考 察

研究 1の目的は,JASI-Rを作成し,因子構造と

内的整合性について検討することであった。

ASI-R日本語訳の因子構造を検討した結果,原

尺度と同様に,自己評価において外見的魅力を重

視する傾向 (SES) と外見的魅力の改善および維持

のために労力を費やす傾向 (MS) の 2因子構造が

確認された。これら 2つの因子間には,正の相関

が示された。原尺度においても,両因子間には,

正の相関が示されている (r�.48; Cash et al., 2004)。

外見的な魅力の程度によって,自己評価が左右さ

れる傾向にある者は,自己の外見的魅力を改善お

よび維持するために,多くの労力を費やす傾向に

あると考えられることから (Ip & Jarry, 2008),本

研究の結果は妥当であるといえる。探索的因子分

析の結果,SES因子は 8項目,MS因子は 5項目

からなる全 13項目が抽出された。確証的因子分

析の結果より,モデルの適合度はおおよそ許容範

囲であると考えられる。さらに,男女別に因子分

析を行った結果より,外見スキーマの質的な性差

はないことがわかった。

続いて,ASI-R日本語訳の内的整合性を検討す

るために,因子ごとに Cronbachの a 係数を算出

した結果,SES因子(8項目),MS因子(5項目)

ともに十分な値が得られた。このことから,SES

因子と MS因子の十分な内的整合性が示された。

以上の過程を経て,JASI-Rが作成された。

研 究 2

目 的

外見スキーマは,自己スキーマの下位概念であ

り (Cash et al., 2004),自己の身体的側面に関する

認知的表象であることから,個人の中で,比較的

長期間,安定して認められる概念であることが想

定される (Markus, 1977)。また,JASI-Rが外見ス

キーマの個人差を測定する尺度として,十分な妥

当性を備えているかについては,未だ不明である。

そこで,研究 2では,JASI-Rの各因子における再

検査信頼性と併存的妥当性を検討することを目的

とした。加えて,JASI-Rの得点の性差を検討した。

仮 説

外見スキーマは,自己の外見を重視する傾向を

表すことから,自己の外面的側面への注意の向き

やすさを表す公的自意識との関連が想定される。

実際に,公的自意識と外見スキーマの関連を検討

した研究では,中程度の正の相関が示されている

(Cash & Labarge, 1996)。したがって,JASI-Rの

SES因子と MS因子の得点は,公的自意識の得点

との間に,有意な中程度の正の相関があると考え

られる(仮説 1)。また,外見スキーマは,自身が

どう見えているかを過度に気にする傾向を表して

いることから,他者からの否定的な評価に対する

懸念と関連があると考えられる。他者評価懸念と

外見スキーマとの間には,中程度の正の相関が報

告されていることから (Cash & Labarge, 1996),

JASI-Rの SES因子ならびに MS因子の得点と他者

評価懸念の得点との間には,有意な中程度の正の

相関があるだろう(仮説 2)。さらに,外見的魅力

によって自己評価が過度に影響を受ける傾向は,

ありのままの自分を受け入れることのできない状

態を表していると考えられることから,自尊感情

の低さとの関連が想定される。Cash et al. (2004)

の研究によると,ASI-RのMS因子は自尊感情と関

159外見スキーマを測定する尺度の開発および外見スキーマとボディチェッキング認知の関連性の検討

Page 6: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

連がないことが示されたが,SES因子は弱い負の

相関があることが示されている (Cash & Labarge,

1996)。したがって,JASI-Rの MS因子と自尊感情

の得点間には有意な相関が認められないが,SES

因子と自尊感情の得点間には,有意な弱い負の相

関があると考えられる(仮説 3)。加えて,自己評

価において身体的魅力を重視する SES傾向の高い

者の一部は,痩せて引き締まった体型を手に入れ

るために,過剰な食事制限をする傾向にある

(Cash et al., 2004)。一方で,身体的魅力の改善や

維持に労力を費やすことを重視する MS傾向は,

SES因子に比べると,食行動異常との関連が弱い

ことが示されている (Cash et al., 2004)。したがっ

て,JASI-Rの SES因子と食行動異常の得点間に

は,有意な弱い正の相関が示されるが,MS因子

と食行動異常の得点間には,ほとんど相関がみら

れないと考えられる(仮説 4)。

方 法

調査対象者 併存的妥当性および性差の検討に

は,首都圏の大学における大学生男女 271名を対

象とした。欠損値を除外した有効回答者数は 268

名(男性 170名,女性 98名; 平均年齢 20.17歳,

SD�2.00,年齢不明 1名; 有効回答率 98.89%)で

あった。本調査への協力が得られた男女の body

mass index (BMI) を算出した。なお,BMIとは,

体重 (kg) を身長 (m) の 2乗で除した値である。

本研究における女性の平均 B M I は 1 9 . 8 8

(SD�2.03) であり,BMIが不明の者は 19名であっ

た。男性の平均 BMIは 21.50 (SD�2.45) であり,

BMIが不明の者は 3名であった。成人の男女にお

いては,BMIが 18.5以上 25未満は,普通体重と

されていることから(松澤・井上・池田・坂田・

齋藤・佐藤・白井・大野・宮崎・徳永・深川・山

之内・中村,2000),本研究の対象者は,男女と

もに,平均的には標準の範囲内であったといえる。

再検査は,再検査実施の許可が得られた授業を受

講する大学生に実施した。調査対象者は,大学生

男女 98名であった。同一回答者であると判断で

きた者は,50名(男性 19名,女性 31名;平均年

齢 20.34歳,SD�2.27)であった。

測度 ①外見スキーマ:研究 1にて作成された

JASI-Rを用いた。SES因子と MS因子から構成さ

れる。全 13項目に対して,5件法で回答を求め

た。

②公的自意識:自意識尺度日本版(菅原,1984)

の「公的自意識」因子を使用した。公的自意識因

子は,自身の服装や他者に対する言動など,他者

から観察できる自己の側面に注意を向けやすい傾

向を測定する。全 11項目から成り,「1:まった

くあてはまらない」から「7:非常にあてはまる」

の 7件法で回答を求めた。菅原 (1984)により,十

分な信頼性と妥当性が確認されている。

③他者評価懸念:短縮版 Fear of Negative Evalu-

ation Scale(SFNE;笹川・金井・村中・鈴木・嶋

田・坂野,2004)を用いた。SFNEは,他者から

の否定的な評価に対する懸念の程度を測定する尺

度である。全 12項目から成り,「1:まったくあ

てはまらない」から「5:非常にあてはまる」の 5

件法で回答を求めた。十分な信頼性と妥当性が確

認されている(笹川他,2004)。

④自尊感情:日本語版ローゼンバーグ自尊感情

尺度(the Rosenberg Self-Esteem Scale: RSES;山

本・松井・山成,1982)を使用した。RSESは,

自己の価値に対する全般的な感情を測定する。全

10項目あり,「1:あてはまらない」から「5:あ

てはまる」の 5件法で回答を求めた。十分な信頼

性と因子的妥当性を有する尺度であることが確認

されている(山本他,1982)。

⑤食行動異常:日本語版 Eating Attitudes Test

(EAT-26; Mukai, Crago, & Shisslak, 1994) を用いた。

EAT-26は,摂食障害に特徴的な摂食態度や食行動

を測定する尺度である。全 26項目あり,「1:い

つも」から「6:まったくない」の 6件法で回答

を求めた。下位尺度には,「摂食制限」因子,「大

食と食事支配」因子,「肥満恐怖」因子がある。

Mukai et al. (1994) により,十分な信頼性と妥当

160 パーソナリティ研究 第 20巻 第 3号

Page 7: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

性が示されている。

手続き 首都圏の大学にて,授業を担当する複

数の大学教員に調査実施の協力を依頼した。承諾

が得られた授業において,2009年 6月初旬から 7

月初旬にかけて,一斉法による調査を実施した。

調査を実施した授業のうち,さらに再検査実施の

許可が得られた授業においてのみ,1ヶ月の期間

を空けて再検査を実施した。

倫理的配慮 調査実施に際しては,口頭および

書面にて,調査への協力は調査対象者の自由な意

思が尊重されること,回答内容はすべて統計的に

処理され,個人のプライバシーは保護されること,

身長および体重といった個人の属性に関する質問

への回答は任意であること,回答はいつでも中断

できることを説明し,承諾が得られた学生のみに

協力を依頼した。再検査を実施する際は,回答用

紙を照合するため,1回目の調査時に 4桁の想起

しやすい数字を記入してもらい,2回目の調査時

に同一の 4桁の数字を再記入してもらった。これ

により,調査協力者の匿名性は保障された。

結 果

再検査信頼性について検討した結果,SES因子

と MS因子の再検査信頼性係数は,両方とも.75

(p�.01) であった。

次に,JASI-Rの各因子と関連が想定された各尺

度との相関係数を算出した。この結果を Table 2に

示した。第 1因子である SES因子と公的自意識

(r�.67, p�.01) および他者評価懸念 (r�.59, p�.01)

との間に,有意な中程度の正の相関が示された。

自尊感情との間には,有意な弱い負の相関が認め

られた (r��.25, p�.01)。さらに,食行動異常と

の間には,有意な弱い正の相関が示された (r�.34,

p�.01)。一方で,第 2因子である MS因子と公的

自意識との間には,有意な中程度の正の相関が認

められた (r�.46, p�.01)。また,他者評価懸念と

の間には,有意な弱い正の相関がみられた (r�.26,

p�.01)。しかしながら,自尊感情との間には,有

意な相関が得られず (r�.04, n.s.),食行動異常と

の間には,ほとんど相関は認められなかった

(r�.11, p�.10)。

続いて,JASI-Rの各因子における得点の性差を

検討した。SES因子の平均得点は,女性において

は 27.04 (SD�5.84), 男 性 に お い て は 25.12

(SD�6.16) であった。MS因子に関しては,女性は

18.45 (SD�3.25),男性は 16.05 (SD�4.3) であっ

た。性別を独立変数に,各因子得点を従属変数と

して,t検定を実施した結果,両因子において,女

性の方が男性よりも得点が有意に高かった(SES

因子: t(259)�2.472, p�.05; MS因子: t(259)�

5.121, p�.01)。

考 察

研究 2では,JASI-Rの各因子における再検査信

頼性,併存的妥当性,性差の検討を行った。

再検査信頼性を検討した結果,各因子における

再検査信頼性係数は,許容範囲の値が得られた。

このことから,JASI-Rが比較的長期間にわたって,

おおよそ得点が安定していることが示された。し

かしながら,本研究では,対象者が 50名であっ

たことから,今後は対象者を増やして,再度検討

を行うことが望まれる。

JASI-Rの各因子における併存的妥当性について

検討した結果,SES因子の得点は,公的自意識,

他者評価懸念の得点と有意な中程度の正の相関を

示した。食行動異常の得点とは,有意な弱い正の

相関を示し,自尊感情の得点とは,有意な負の相

関を示した。これらの相関係数の値は,すべて仮

説を支持する結果であった。したがって,SES因

161外見スキーマを測定する尺度の開発および外見スキーマとボディチェッキング認知の関連性の検討

Table 2 JASI-Rの各因子と各尺度間における相関係数(N�268)

SES MS

公的自意識 .67∗∗ .46∗∗

他者評価懸念 .59∗∗ .26∗∗

自尊感情 -.25∗∗ .04

食行動異常 .34∗∗ .11†

注. SES� 自己評価の特徴; MS� 動機づけの特徴。† p�.10; ∗∗ p�.01

Page 8: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

子の十分な併存的妥当性が示されたといえる。一

方で,MS因子の得点と,公的自意識の得点との

間には,有意な中程度の正の相関が認められ,自

尊感情および食行動異常の得点との間には,ほと

んど相関がみられなかった。これらは,仮説を支

持する結果であった。しかしながら,MS因子と

他者評価懸念の得点間には,有意な弱い正の相関

が示されるにとどまった。したがって,他者から

身体的に魅力的であると認められるために,ある

いは外見に対する自己満足感を高めるために外見

の管理・改善に労力を費やす MS傾向は,身体的

魅力の程度によって自己の価値が影響を受ける

SES傾向よりも,他者評価懸念との関連が弱いと

考えられる。仮説 2では,SES因子と MS因子の

両方において,他者評価懸念との間に中程度の正

の相関が認められることを想定していた。しかし

ながら,MS因子は SES因子よりも,不適応の程

度が低いという知見に基づくと (Cash et al., 2004),

本研究において,MS因子と他者評価懸念の相関

が,想定していたよりも低かったことも理解でき

ると考えられる。これらのことから,JASI-Rの SES

因子ならびに MS因子は,外見スキーマの個人差

を測定する尺度として,許容範囲の再検査信頼

性,併存的妥当性を備えていることが示された。

さらに,JASI-Rの性差について検討を行った結

果,SES因子および MS因子の両方において,女

性の方が男性よりも,得点が有意に高かった。以

上のことから,女性の方が男性よりも,自己評価

と動機づけの両方において,身体的魅力を重視し

ていることが示された。これは,原尺度の結果と

一致している (Cash et al., 2004)。このことから,

今後の研究において JASI-Rを使用する際には,男

女異なる平均値と標準偏差を用いる必要があると

考えられる。

研 究 3

目 的

本研究では,研究 1および研究 2で開発した

JASI-Rを用いて,外見スキーマの SESおよび MS

因子と BCCの「安全希求」「体重・身体コント

ロール」「気分調整」因子の関連性を検討するこ

とを目的とした。

方 法

調査対象者 首都圏の大学の大学生女性 264名

を対象とした。欠損値を除外した有効回答者数は

255名(平均年齢 20.13歳,SD�1.36,年齢不明 1

名;有効回答率 96.59%)であった。本調査への協

力が得られた者の平均 BMIは,19.88 (SD�2.00)

であり,BMIが不明の者は 52名であった。本研究

においても,調査対象者の BMIは,平均的には標

準の範囲内であった(松澤他,2000)。

測度 ①外見スキーマ:研究 1ならびに研究 2

で開発した JASI-Rを用いた。 SES因子と MS因子

の 2因子 13項目からなる。5件法で回答を求め

た。

② BCC:日本語版 BCCS(法田他,2007)を用

いた。日本語版 BCCSは,繰り返し鏡を見る,頻

繁に体重を測るなどのボディチェッキング行動に

対する動機づけや信念の内容を測定する尺度であ

る。安全希求因子(8項目),体重・身体コント

ロール因子(7項目),気分調整因子(3項目)の

3因子からなる。各項目に対して「1:全くない」

から「5:非常にしばしば」の 5件法で回答を求

めた。法田他 (2007) により,信頼性と妥当性が

おおむね示されている。

手続き 複数の大学教員に調査協力の依頼を行

い,承諾が得られた授業において,2009年 9月中

旬から 11月下旬にかけて,一斉法による教場調

査を実施した。

倫理的配慮 調査に際して,本調査への協力は

調査対象者の自由な意思が尊重されること,回答

内容はすべて統計的に処理され,個人のプライバ

シーは保護されること,身長および体重といった

個人の属性に関する質問への回答は任意であるこ

と,回答はいつでも中断可能であることを口頭お

よび書面にて説明し,承諾が得られた学生のみに

162 パーソナリティ研究 第 20巻 第 3号

Page 9: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

協力を依頼した。

なお,本研究は,早稲田大学「人を対象とする

研究等倫理委員会」の承認を得て行われた(承認

番号: 2009-066)。

結 果

外見スキーマの各因子における平均得点を検討

した結果,SES因子は 26.8 (SD�5.76),MS因子は

18.15 (SD�3.7) であった。BCCの各因子について

は,安全希求因子は 17.44 (SD�6.72),体重・身

体コントロール因子は 20.37 (SD�6.65),気分調整

因子は 6.6 (SD�2.7) であった。各因子における

Cronbachの a 係数を確認した結果,SES因子

は .82,MS因子は .84であった。BCCに関しては,

安全希求因子は .88,体重・身体コントロール因

子は.89,気分調整因子は .82であった。

外見スキーマの SES・ MS因子と BCCの各因子

間の関連を検討した結果を Table 3に示した。SES

因子の得点と安全希求因子の得点との間には,有

意な中程度の正の相関が認められたが,体重・身

体コントロール因子,気分調整因子の得点間には,

弱い相関しか認められなかった。同様に,MS因

子の得点と安全希求因子,体重・身体コントロー

ル因子,気分調整因子の得点間にも,弱い相関が

示されるにとどまった。

考 察

本研究の目的は,外見スキーマの下位因子であ

る SESおよび MS因子の得点と,BCCの下位因子

である安全希求因子,体重・身体コントロール因

子,気分調整因子の得点間における関連を検討す

ることであった。

SES因子と安全希求因子の相関を検討した結果,

これらの間には,有意な中程度の正の相関が認め

られた。このことから,自己評価において身体的

魅力を重視する傾向と,自身の外見に対する不快

な感情を鎮めるために,繰り返し外見を確認する

ことを重視する安全希求は,ある程度共通する側

面をもちあわせていることが示唆された。身体的

魅力によって自己の価値が定まると考える傾向に

ある者ほど,外見に関する不安や不満を抱きやす

いことが示されている (Cash et al., 2004)。した

がって,SES傾向が高い者の中には,外見に関す

る不快な感情への対処方法として,繰り返し外見

の確認を行うことを重視する者がいると考えられ

る。一方で,SES因子の得点と体重・身体コント

ロール因子および気分調整因子との得点間には,

有意な弱い正の相関しか認められなかった。この

ことから,自己評価において身体的魅力を重視す

る傾向は,体重・身体サイズのコントロールなら

びに気分を高揚させるために繰り返し外見を確認

することを重視する傾向と,若干の相関はあるも

のの,これらの概念は比較的異なることが示唆さ

れた。

また,MSと BCCは,両方とも外見の管理と確

認を重視する信念であることから,両者は類似し

た概念であろうと考えられた。しかしながら,MS

因子の得点と BCCにおけるすべての因子の得点間

において,有意な弱い正の相関が示されるにとど

まった。この理由として,BCCは,精神的安定お

よび否定的な気分の回避,体型のコントロールの

ために,外見を管理することを重視する信念を表

しているのに対し (Mountford et al., 2006),MSは,

他者に良い印象を与えるために身だしなみを整え

るなど,より肯定的で適応的な動機づけを含むこ

とが関係していると考えられる (Cash et al., 2004)。

本研究により,外見スキーマと BCCの間には,

1つの因子間を除いて,弱い関連しか認められな

かったことから,これらの概念は,重なり合う部

163外見スキーマを測定する尺度の開発および外見スキーマとボディチェッキング認知の関連性の検討

Table 3 外見スキーマおよび BCCの関連 (N�255)

BCCS

安全希求体重・身体

コントロール気分調整

JASI-R

SES .46∗∗ .24∗∗ .20∗∗

MS .32∗∗ .25∗∗ .20∗∗

注.BCCS�the Body Checking Cognitions Scale; SES�自己

評価の特徴; MS�動機づけの特徴。∗∗ p�.01

Page 10: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

分をもちながらも,おおむね独立した概念である

ことが示唆された。

総括的考察

本研究における研究では,外見スキーマと BCC

の関係を明らかにするために,まずは,外見ス

キーマを測定する尺度の開発を行い,その後,外

見スキーマと BCCの相関関係を検討した。

研究 1では,ASI-R日本語訳の因子構造と内的

整合性を検討し,JASI-Rを作成した。研究 2では,

JASI-Rの再検査信頼性,併存的妥当性,性差の検

討を行った。これらのことより,JASI-Rの各因子

における信頼性と併存的妥当性は,許容範囲であ

ることが示された。研究 3では,研究 1と研究 2

で開発された尺度を用いて,外見スキーマならび

に BCCの関連を検討した。この結果,外見スキー

マと BCCは,互いに身体的魅力を重視する信念と

して,ある程度は共通する側面をもちあわせてい

るものの,両者は比較的独立した概念として扱う

必要があることが示唆された。

本研究により,本邦の青年期男女を対象とし

て,自己の外見全般に関する魅力を重視する傾向

を測定することが可能となった。外見スキーマは,

身体不満足感の発生と維持に重要な役割を果たし

ており (Clark & Tiggemann, 2007),ボディイメー

ジに関する認知行動モデルにおいても,中心的な

役割を担っている (Cash, 2002)。本研究において

開発された外見スキーマを測定する JASI-Rは,身

体不満足感の問題を抱えるリスクの高い者を発見

することを目的としたスクリーニング調査やボ

ディイメージの障害に対する認知行動的介入の効

果指標として有用であると考えられる。

また,外見スキーマと BCCは,両方とも外見の

管理および確認にとらわれ,多くの労力を費やす

傾向を表していることから,一見類似した概念で

あるように思われた。しかしながら,両概念の関

連性を検討した結果より,これらは,少なからず

異なる側面をもつ概念である可能性が示唆された。

このことから,今後の研究において,青年期女性

を対象とした身体不満足感のメカニズムに関する

モデルを構築する際には,身体不満足感の発生と

維持にかかわる認知的要因として,外見スキーマ

と BCCという比較的独立した概念をそれぞれ含め

る必要があるかもしれない。

さらに,このようなモデルを構築した後,モデ

ルの実証性に関する知見を積み重ねていくことが

求められる。本研究により,外見スキーマの SES

および MS因子と BCCの「安全希求」「体重・身

体コントロール」「気分調整」因子との間には,多

くの場合において弱い相関しか認められなかった

ことから,実験において,これらの信念を別々に

活性化し,その影響を検討することは可能である

と考えられる。今後は,これらの信念の活性化が

身体不満足感や食行動に及ぼす影響を比較検討す

ることにより,ボディイメージの改善を目的とし

た介入で,ターゲットとすべき信念をさらに絞る

ことができると考えられる。

最後に,本研究の問題点と今後の展望を述べ

る。本研究では,パラメトリックな検定法を用い

て,大学生の一般的な傾向を検討したことから,

BMIの平均値を算出した。しかしながら,量的な

検討だけでは,対象者の特徴を十分に抽出できな

い可能性があるため,今後の研究では,BMIの個

別の数値にも配慮する必要があると考えられる。

また,本研究では,普通体重の者に比べて,低体

重ならびに肥満体重の者における外見スキーマが

量的および質的にどう異なるか検討を行っていな

い。今後の研究では,対象者を低体重,普通体

重,肥満体重に分け,外見スキーマと BCC,公的

自意識,他者評価懸念,自尊感情,食行動異常と

の関連が量的・質的にどのように異なるか検討を

行う必要がある。

加えて,本研究では,外見スキーマと BCCの関

連性を検討したが,相関関係だけでは,両概念が

どのような点において異同があるのか明確に示す

ためには不十分であるといえる。今後の研究では,

164 パーソナリティ研究 第 20巻 第 3号

Page 11: Jpn. J. Personality 20(3): 155-166 (2012)

165外見スキーマを測定する尺度の開発および外見スキーマとボディチェッキング認知の関連性の検討

適応の程度や自己の外見に労力を費やす動機づけ

の方向性を測定し,これらと外見スキーマ,BCC

の関連性を検討することによって,両概念の異同

を実証的に明らかにすることができるだろう。適

応の程度を表す指標としては,たとえば,主観的

幸福感が考えられる。また,動機づけの方向性の

指標としては,たとえば,完全主義認知(小堀・

丹野,2004)の「高目標設置」と「ミスへのとら

われ」があげられる。このような指標との関連に

おいて,外見スキーマと BCCを比較検討すること

により,両概念がどのような点において異なって

いるか理解を深めることができるだろう。

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― 2010.5.27受稿,2011.10.16受理―

166 パーソナリティ研究 第 20巻 第 3号

Development of a Japanese Version of the Appearance Schemas

Inventory: Relationship between Appearance Schemas

and Body Checking Cognitions

Eriko AMBO1,2, Tina SUGA1 and Kaneo NEDATE3

1 Graduate School of Human Sciences, Waseda University2 Research Fellow of the Japan Society for the Promotion of Science

3 Faculty of Human Sciences, Waseda University

THE JAPANESE JOURNAL OF PERSONALITY 2012, Vol. 20 No, 3, 155–166

The present research developed a Japanese version of the Appearance Schemas Inventory-Revised (ASI-R;

Cash, Melnyk, & Hrabosky, 2004) and investigated the relationships among subordinate factors of appearance

schemas and body checking cognitions. The results showed that the Japanese version of the ASI-R (JASI-R) con-

sists of two factors: Self-Evaluative Salience (SES) and Motivational Salience (MS). The reliability and concurrent

validity of the JASI-R were demonstrated. An analysis of gender differences revealed that women reported more

self-evaluative and motivational investment in their appearance than men. The SES and MS factors had moder-

ate to weak positive relationships with the subscales of body checking cognitions. The findings suggest that ap-

pearance schemas and body checking cognitions are relatively distinct concepts.

Key words: appearance schemas, body checking cognitions, body dissatisfaction