h · å ¾wÞÃç f Íqu Â...y å s [ å Óx Åx Ê ± ¢ Ø£ pk zå w¯ Ê~ m `om t~ÓxÌw È w...
TRANSCRIPT
第3章ケアラー手帳のモデル頒布と検証
1.はじめに〜ケアラー手帳開発の経緯〜… ……………………………………………………………422.ケアラー手帳モデル頒布・検証事業の概要……………………………………………………………423.ケアラー手帳・ケアラー緊急カードのモデル頒布と検証方法………………………………………444.ケアラー手帳・ケアラー緊急カードの検証の結果……………………………………………………455.ケアラー手帳・ケアラー緊急カードの評価……………………………………………………………546.今回の事業の検証の限界と今後の課題〜これからのケアラー手帳とケアラーカード〜… ……58
42
わが国では5世帯に1世帯の割合で家族をケアする無償のケアラーが存在している。それらのケアラーの5人に1人が孤立感を感じ、4人に1人がこころの不調を感じている。そしてこころや身体の不良を感じながらも健康診断を受診できていない等の健康上の問題を抱えている(介護者サポートネットワークセンター・アラジン 2011)。 2011年度にわれわれはケアラー支援の先進国である英国・ロンドン市のケアラーセンターを訪問し、ヒアリング調査を実施した。そこで多様なケアラーを直接的かつ具体的に支援する種々の戦略的な方策を学ぶことが
できた(介護者サポートネットワークセンター・アラジン 2012)。 わが国のケアラーの置かれている深刻な現状や地域におけるケアラー支援の必要性が明らかになるなか、次の課題はこれらのケアラーの実態に即したより直接的かつ具体的なケアラー支援の方策の提示である。そこで今年度、本事業ではケアラー支援のためのツールとして、ケアラー手帳およびケアラー緊急カードを開発し、実際にケアラーへ導入を行った。そして、その効果について検証したのでここに報告する。
第3章 ケアラー手帳のモデル頒布と検証
1.はじめに〜ケアラー手帳開発の経緯〜
ケアラー手帳とは、在宅で病気や障害をもった家族などを無償でケアしている“ケアラー ”を支援するためのツールである。 その目的としてはケアラーとしてのシンボル的意義をも
ち、ケアラーが自分自身がケアラーであるという意識をもつこと、ケアラー本人と地域社会を結ぶことでケアラーの孤立化を防ぐこと、ケアラーとサービスやサポートをつなぎ、これによってケアラーを取り巻くネットワークが構築
本事業の手順は、下記のとおりである。1.2011年度に日本ケアラー連盟も協力し、作成した「ケ
アラー手帳(北海道栗山町)」に各調査地域の地域性を踏まえて「ケアラー手帳(地域版)」(3種類)を作成する。
2.調査地域の調査対象者(50名)を選定し、選定したケ
アラーに「ケアラー手帳(地域版)」について説明し頒布する。
3.ケアラーがケアラー手帳を活用した後に、手帳の内容等についての質問紙調査(「ケアラー手帳・カードの評価のための調査」)を実施する。
ケアラー手帳の開発にあたっては、調査地域3地域のメンバーを含む「ケアラー手帳部会」を組織し、ケアラー手帳の内容・頒布方法等を検討した。ケアラー手帳作成にあたっては、調査実施地域に即した内容となるように、共通部分と地域別部分の2部構成とした。そして共通部分については、2011年度に日本ケアラー連盟も協力し、
わが国で初めて作成された北海道栗山町のケアラー手帳の内容を基本的に踏襲した。また地域別の部分は、必要な内容の基本的枠組みはケアラー手帳部会で検討し、その内容を各調査地域3地域へ提示した。そしてそれに基づいて各地域のメンバーで掲載する内容について検討し、作成していただいた。
2.ケアラー手帳モデル頒布・検証事業の概要(1)本事業の概要
(2)ケアラー手帳・ケアラー緊急カードの開発のプロセス
(3)ケアラー手帳の概要1)ケアラー手帳とは何か
43
されること等を期待している。またケアラーへの情報提供やケアラー本人の心と体の健康を守るための健康管理のための手帳の役割も果たす。また内容によっては、上述した内容の他の機能・役割をもたせることも可能となる。 わが国には種 の々手帳が存在しているが、ケアラー手帳はいうなれば、ケアラー版母子健康手帳である。ケアす
ることは人間の生活の中で普遍的かつ誰もが当たり前のように経験することでありながら、それ自体にリスクが存在している場合がある。そのケアに伴うリスクをできる限り回避するために機能するツールの1つということができる。
2012年度版ケアラー手帳の内容は下記のとおりである。
ケアラー手帳は上述したように、複数の内容から構成され、情報提供のページ、書き込みながら使用するページなど、ページごとの目的と使用方法がある。しかしなが
ら、基本的には手にしたケアラーが自分自身が必要とするページを選択し、使用してよいと考える。
2)ケアラー手帳の内容(資料編参照)
<共通部分>・ケアラーのみなさんへ・気持ちが沈む日に ケアラーのあなたへ・介護体験事例集・健康メモ
‐体からの声にあなた自身の耳を傾けてみましょう‐最近、自分の体と心をいたわっていますか‐あなた自身の健康の状態について定期的に確認をしましょう
・知っておきたい介護技術・介護便利グッズ・あなたのつぶやき・あなたを訪ねた方のメモ<地域別部分>・地域における相談窓口・地域のサービスに関する情報・もしもに備えて・あなたを支える地域ネットワーク
3)ケアラー手帳の利用方法(資料編参照)
ケアラー緊急カードとは、ケアラー手帳同様、“ケアラー ”のための支援ツールであり、ケアラー自身に緊急事態が起きた際、周囲の人に自分がケアラーであること、ケアを必要とする人がいること、緊急時にはどこに連絡してほしいかを第三者に明確に伝達することが可能であ
る。上述したように、諸外国では既にケアラー緊急カード(Carer Emergency Card)やケアラーカード(Carer Card)が存在し、カードにさまざまな機能が付加され、運用されている。
(4)ケアラー緊急カードの概要1)ケアラー緊急カードとは何か(資料編参照)
44
2012年度版ケアラー緊急カードは名刺サイズ(両面)であり、ケアラーの氏名・誰をケアしているか・緊急時の連絡先などの必要事項の記入欄が設けられている。今
年度は予算の関係上、素材は紙製である。 財布に入れるなどして携帯し、外に出る際に必ず身につけるようにする。
2012年7月9日から2013年3月31日。
2)ケアラー緊急カードの内容と利用方法
3.ケアラー手帳・ケアラー緊急カードのモデル頒布と検証方法(1)調査対象者
調査対象は3カ所の調査実施地域(北海道栗山町、埼玉県さいたま市、東京都杉並区)において、ケアラー手帳の頒布と検証事業のモニター協力を得られたケアラー
(無償の介護者;認知症、知的・精神・身体障がい等のケアラー各地域50名、計150名)である。 ケアラーの定義については、下記の通りである。 介護者(ケアラー)とは身体的あるいは精神的な疾患や障がいないし高齢に由来する諸問題を抱える家族、親戚、友人、隣人に対し、同居、別居を問わず、常時または随時、職業(ケアワーカー)としてではなく、無報酬で介護
をする人である。ここでいう介護には看護や身体介護、家事や身の回りの世話、そのお手伝いのほか、お金の管理や定期的に様子を見ることなどを含むと定義している。 ただし、上述したように、誰をケアしているケアラーであってもケアラー手帳の頒布の対象ではあるが、今年度は手帳の内容の関係上、高齢者をケアしているケアラー中心に頒布を行った。使用にあたっては、スタッフ等からツールの目的・利用方法等について、使用ガイドを渡すとともに口頭にて説明をした。
(2)調査方法
調査方法は、無記名自記式質問紙調査である。 調査は、調査地域にあるケアラーズカフェに来訪したケアラーに対して、ケアラー手帳のモニターを依頼した。そして同意を得られたケアラーに対してツールを配布のうえ、一定の使用期間を経て、スタッフもしくは日本ケアラー連盟主催のケアラーサポーター人材養成研修プロ
グラムに参加したケアラーサポーターが質問紙調査票に基づき、聞き取り調査を実施した。また一部の地域では、ケアラーサポーター人材養成研修プログラムに参加したケアラーサポーターが知人のケアラー等へケアラー手帳のモニターを依頼し、一定の使用期間を経て、質問紙調査票を郵送にて返送するように依頼した。
ケアラー手帳の評価にあたっては、次の5つの評価指標を設定した。①ケアラー手帳を利用しての生活・自分自身の変化とそ
の内容②ケアラー手帳は全体として役立ったかどうか また、ケ
アラー手帳のどのページが役立ったか③ケアラー手帳の中でよく利用したページ
④ケアラー手帳の中で利用しにくかったページ⑤ケアラー手帳の中にさらに欲しい情報・機能
さらにケアラー緊急カードの評価にあたっては、次の3つを評価指標とした。①ケアラー緊急カードを使用しての安心感②ケアラー緊急カードを有用と思うか
(3)調査時期
(4)調査内容
45
③ケアラー緊急カードに必要な機能
これらを踏まえて、下記の内容で質問紙調査票を作成した(資料編参照)。・ケアラーの基本属性(性別・年齢)・職業の有 無・健
康状態・孤立感の有無・程度・要介護者の属性(性別・年齢)・続柄・要介護度・人数・同居・別居の別・家族人数・介護期間・サポートの有無・サービスの利用の有無・ケアラー手帳の中でよく利用したページ・ケアラー手帳の中で利用しにくかったページとその理由
・ケアラー手帳全体および各内容が役立ったか・ケアラー手帳を利用して利用者自身や利用者の生活が変化したかどうかとその内容
・現行のケアラー手帳の内容の他に希望する内容・ケアラー緊急カードを利用して安心感が得られたか・ケアラー緊急カードは有用と思うかどうか・ケアラー緊急カードにさらに機能・役割をもたせたほう
がよいか・ケアラー緊急カードに掲載されているとよい情報の有無とその内容
・その他、ケアラー手帳・カードに対する意見・要望
質問紙調査票において収集した各データについては、単純集計の上、記述した。また自由記述欄については、記
述されている内容をよく読み、意味内容ごとにまとめ、記述した。
ケアラー手帳のモニターとして協力いただいたケアラーの総数は148人であり、地域別でみると、北海道栗山町52人、埼玉県さいたま市34人、東京都杉並区62人であった。 全体でみると、ケアラーの性別は男性21.3%、女性78.8%、年代で最も多かった年代は、60代38.8%、次いで50代23.8%、40代15.6%であった。またケアラー
とケアを受けている人の関係では、実母40.8%、配偶者19.7%、実父12.7%、年齢では80代以上の人をケアしているケアラーが最も多く、6割を超えていた。またケアラーがケアしている人数では、ケアしている人が1人と回答したのは76.3%であったが、2人と回答した人が20.0%、3人と回答した人も3.8%みられた。
(5)分析方法
調査の実施にあたっては、研究への参加を呼び掛ける際、研究対象となる個人に理解を求め、同意を得るために下記の点について依頼文書に基づき、説明を実施した上で研究への参加をお願いした(資料編参照)。・本研究の目的および本研究が厚生労働省平成24年度
老人保健健康増進等事業の助成に基づく調査研究であること
・本調査の趣旨、プライバシーの保護、本研究への参加・不参加によって何ら不利益はないこと
・個人情報(地域、住居、氏名など)が特定できないように配慮し、徹底して個人情報管理に努めること
・本調査研究への参加は任意であり、この調査に未回答でも社会的不利益は一切生じず、本研究への協力に同意していただいた後でも、いつでも撤回することが可能であること
また、調査実施にあたっては大学倫理審査委員会の承認を経た。
(6)倫理的配慮
4.ケアラー手帳・ケアラー緊急カードの検証の結果(1)調査対象者の基本属性(図1・2・3)
46
図1 ケアラーの基本属性(性別・年齢)
図2 地域別・ケアラーの年齢
47
図3 地域別・ケアラーとケアしている人の関係
48
図4 ケアラー手帳利用後の変化
「ケアラー手帳を利用して、あなた自身やあなたの生活で変化したことはありましたか?」の設問に対しては「とても変化した」10.0%、「まあまあ変化した」45.0%、「変化なし」45.0%であった。 さらにケアラー手帳を使用し、生活および自分自身が変化したと回答した人に対し、変化した内容について自由記述を求めた。記述された内容についてよく読み、意味内容ごとにまとめた結果、【ケアラーとしての意識】、【自分自身の健康】、【気持ちが前向き・楽になった】、【社会・人とのつながり】、【情報の獲得】の5つの内容が挙げられた。 【ケアラーとしての意識】では、「介護者であることを認識した」や「自分自身のことも考えるようになった」などの
記述がみられた。また【自分自身の健康】では、「自分自身の健康にも気を使うようになった」や「自分は睡眠不足があるんだと気づき、家族で共有できた」などの記述があった。【気持ちが前向き・楽になった】では、ケアラー手帳を手にしたことで、「気持ちが楽になった」、「気持ちが前向きになった」との記述が複数みられた。【社会・人とのつながり】では「ひとりじゃないと感じた」や「自分だけが大変なのではないと思え、楽になった」などの記述があった。
【情報の獲得】では、「もしもの時の窓口がわかるので安心感がある」や「情報を見たことで安心感が高まった」などの記述がみられた。
(2)ケアラー手帳の効果1)ケアラー手帳を利用しての変化(図4・表1)
49
ケアラーとしての意識 自分自身が介護者であることをあらためて認識した。
自分自身のことも考えるようになった。
自分自身と向き合えるようになった。
自分のことは二の次なので、あまり気にしなさすぎていたことに気づけた。
自分の時間をもつことは悪いことではないことを確認でき、安心して休息をとれるようになった。
自分の心のつぶやきや自分の体のことをもっと大切にしていいんだ。要介護者の犠牲にばかりならなくていいんだと思うようになりました。
自分がケアラーであると実感できた。
ケアラーと意識することで自分自身の健康に気をつけたり、工夫して介護しようとするきっかけになる。
あなたも大切な1人という一文に、はっとしました。いたわられている、自分自身も大切な1人なのだと。「あなたも大切な1人」は、私にとって魔法の言葉のようです。
今のつぶやきを書くと、要介護者に振り回されている自分に気付く。相手の話にあいずち打って、知らんぷりする術も少し身につけようと思った。いちいち希望をかなえてあげる必要はないと…。
自分自身の健康 自分は睡眠不足があるんだと気づき、家族で共有できた(娘といっしょに手帳をみることで)。
自分自身の健康について意識するようになった。
自分自身にもケアが必要なことを改めて認識できた。
自分の健康診断が忙しくて受けておりませんでしたが、今年は時間をつくって、私自身も大切にしようと思い、受けに行こうと思うようになりました。
気持ちが前向き・楽になった
体験を読み、自分だけが大変だ~!!との思いは薄れました。前向きに介護できますし、楽しもうと思います。
がんばろうと前向きに生活つづけることができる気がする。
気持ちが前向きになった。
気持ちがすごく楽になりました。
介護体験を読んでとても感動して自分もがんばろうと思った。
以前ほどイライラした気持ちになっていない自分に気がついた。
介護体験事例集を読んで気持ちが少し楽になりました。
安心する気持ち、気分が沈んだときの助け、気分が沈んでもいいのだという支えがある。体調管理に気をつける、気がつく。
最初のページのケアラーさんへや気持ちが…等の言葉は、誰かに言ってもらえるだけで、気持ちが少しホッとする。
表1 ケアラー手帳を利用しての生活・自分自身の変化
50
社会・人とのつながり「気持ちが沈む日にケアラーのあなたへ」を読んで、他の人もそうかと思えて、心の整理ができたこと。それによって、少し気楽に生活ができるようになりました。
自分だけが大変なのではないと思え楽になった。がんばらないとと思えた。気持にゆとりが出て、優しくなれ、安らいだ。
気分が沈んでもいいのだという安心感や仲間がいるなど、手帳を通して安心感が得られた。
介護者体験を読み、1人じゃないと知り、仲間と共にいる感覚を得られた。それにより元気になった。
経験説を読んで「同じ気持ちの人がいる」と慰めになった。
相談できる人を見つけ、人との繋がりが広がった。
色々な方が訪問してくれるようになり元気が出てきた。
頼れる所があることを知り、安心感。
私だけではなく、世の中には様々なことを抱えている人がいるということが感じられ気持ちが楽になった。
介護体験事例集では他の人も自分だけではなく同じような体験をしていることがわかりました。声に出してもよいのだと思いました。
1人で背負い込まないでいいのだと先が明るくなりました。
1人ではないということを改めて実感できた。
困った時に支えてくれる人がいると思うだけでとても気持が楽になり、安心感がある。
1人ではなく、いろいろな方が手助けをしてくれるので、時間のやりくりができるようになりました。
いっぱい介護をしている方がいるのを感じられた。自分では気づきにくい部分に気がつけた。避難場所の確認やケアラーカードなど、自分からはなかなかできないことを、しなくちゃ!と思わせていただいた。
頼りにするものがあるという心強さ。困った時に開いてどこに連絡しようか…ありがたい。
介護体験事例集を読んで世間には色々なケアラーの人がいるんだと感じ自分1人だけでないと思った。
介護体験事例集を読んで、私より大変な人がたくさん居られて、皆がんばってるなーと思います。
すこし心が軽くなります。同じように程度の差こそあれ、がんばっている人がいるのを感じられるし、それによりすこし自分を客観的に見れるようになると思う。
情報の獲得 相談窓口がすぐに分かり助かりました。
ケアのスタート時にどのようにしていいかわからなかった。区役所の窓口で最初にケアラー手帳を渡してもらえるといい。
介助の仕方が解り身体的に楽になった。(1人じゃないと強く思い、元気をもらった。)
利用できる福祉サービスを利用し、時間的余裕を持てるよう努力した。
介護に関しての情報が一元管理できるので大変役に立つと思います。長い間使う間に色々な改善点ができてくると思います。
お助けサービスがあることなど情報がのっていて安心する。
もしもの時の窓口がわかるので、安心感がある。
改めて、勉強になりました。病気に対する理解が増しました。
情報を見たことで安心感が高まった。介護事例集を読んで力づけられた。
何かの時の心の支えにしている。
自分に何かあった時に、この手帳で家族に連絡してもらえれば…と少し気が楽になった。
表1 ケアラー手帳を利用しての生活・自分自身の変化(つづき)
51
2)ケアラー手帳は役に立ったか(図5・表2)
「ケアラー手帳は全体としてあなたにとって役に立ちましたか?」の設問に対しては、全体でみると、「とても役立った」36.6%、「まあまあ役立った」50.0%、「あまり役立っていない」11.0%、「全く役だっていない」2.4%であり、8割以上のケアラーがケアラー手帳は役に立ったと感じたことが明らかになった。 さらに、ケアラー手帳の中でどのページが役立ったか
どうかを内容別に聞いたところ、「とても役に立った」が最も多かったのは「ケアラーのみなさんへ」44.8%、次いで
「地域における相談窓口」44.2%、「介護体験事例集」40.7%であった。「全く役に立っていない」との回答が多かったのは「あなたを訪ねた方のメモ」17.9%、次いで「あなたのつぶやき」11.7%であった。
図5 ケアラー手帳は役に立ったか?
52
項目
ケアラーのみなさんへ 1 1.3% 5 8.6% 26 44.8% 26 44.8%
気持ちが沈む日に 1 1.3% 10 12.7% 37 46.8% 31 39.2%
介護体験事例集 3 3.7% 9 11.1% 36 44.4% 33 40.7%
健康メモ 体からの声にあなた自身の耳を傾けてみましょう
7 8.9% 27 34.2% 28 35.4% 17 21.5%
健康メモ 最近、自分の心と体をいたわってますか
5 6.3% 30 37.5% 26 32.5% 19 23.8%
健康メモ あなた自身の健康状態について定期的に確認をしましょう
4 5.1% 34 43.0% 27 34.2% 14 17.7%
知っておきたい介護技術 1 1.3% 14 17.7% 42 53.2% 22 27.8%
介護便利グッズ 3 3.8% 19 23.8% 44 55.0% 14 17.5%
あなたのつぶやき 9 11.7% 22 28.6% 32 41.6% 14 18.2%
あなたを訪ねた方のメモ 14 17.9% 31 39.7% 21 26.9% 12 15.4%
地域における相談窓口 2 2.6% 9 11.7% 32 41.6% 34 44.2%
地域のサービスに関する情報 3 3.7% 11 13.6% 36 44.4% 31 38.3%
もしもに備えて 0 0% 12 15.6% 36 46.8% 29 37.7%
あなたを支える地域ネットワーク 1 1.3% 11 14.3% 35 45.5% 30 39.0%
とても役に立った
全く役に立っていない
あまり役に立っていない
まあまあ役に立った
表2 ケアラー手帳のどのページが役に立ったか?(複数回答)
3)ケアラー手帳で最もよく利用したページ(図6)
「ケアラー手帳の中で最もよく利用したページ(またはよくみたページ)は次のうちどれですか」の設問に対して、最もよく利用したとケアラーが回答したページは「介護体
験事例集」32.1%、次いで「気持ちが沈む日に」19.2%であった。
53
図6 ケアラー手帳の中で最もよく利用したページ
4)ケアラーが利用しにくかったページ(表3)
「ケアラー手帳の中で利用しにくかったページは次のうちどれですか」の設問に対し、最も回答が多かったのは「地域における相談窓口」・「あなたを支える地域ネッ
トワーク」各44.3%、次いで「地域のサービスに関する情報」43.0%であった。
ケアラー手帳の各内容 n %
ケアラーのみなさんへ 26 32.9%
気持ちが沈む日に 29 36.7%
介護体験事例集 28 35.4%健康メモ 体からの声にあなた自身の耳を傾けてみましょう
22 27.8%
健康メモ 最近、自分の心と体をいたわってますか 25 31.6%
健康メモ あなた自身の健康状態について定期的に確認をしましょう
20 25.3%
知っておきたい介護技術 33 41.8%
介護便利グッズ 20 25.3%
あなたのつぶやき 18 22.8%
あなたを訪ねた方のメモ 13 16.5%
地域における相談窓口 35 44.3%
地域のサービスに関する情報 34 43.0%
もしもに備えて 29 36.7%
あなたを支える地域ネットワーク 35 44.3%
表3 ケアラー手帳の中で利用しにくかったページ(複数回答)
54
今回の調査では、ケアラー手帳を利用した半数強のケアラーが利用によって生活や自分自身の変化があったと回答した。またどのような変化があったかでは、ケアラー手帳を読むことによって情報が得られた、気持ちが前向きになった・楽になったという回答のみならず、自分自身にも目が向けられるようになったやケアラーであることを認識したなど、ケアラーとしての意識の変化があったことが明らかになった。さらに1人ではないと感じた等、社会や人とのつながりを実感できたと回答したケアラーも多く
みられた。 ケアラー手帳はケアラーとしてのシンボルであり、ケアラーとしての意識をもつこと、ケアラーと地域社会をつなぎ、ケアラーの孤立化を防ぐ目的がある。今回、手帳を利用したケアラーの一部は、ケアラー手帳を手にすることで自分がケアラーであるという認識をもち、そのことで自分自身にも目を向けること、客観的に自分をみることができるようになったと回答していた。このことはケアラーの生活や心理全般へ影響を与える大きな効果と考えられる。
5)ケアラー手帳への希望(表4)
「ケアラー手帳にこんな内容があったらいいのにと思うことがありますか? あるとすると、それはどのような内容ですか?」として、自由な記述を求めた。記述された内容についてよく読み、意味内容ごとにまとめた結果、【追加して欲しい情報】、【追加して欲しい記入欄】、【手帳の形式】、【ケアラーのケア期間への配慮】、【手帳の利用方法】の5つの内容に分類できた。 【追加して欲しい情報】では「介護便利グッズに関する情報」、「自分の住んでいる地域に関する情報」、「介護体験事例集の追加」などが挙げられていた。【追加して欲し
い記入欄】では、「つぶやきコーナーのページの追加」の希望が多く挙げられた。【手帳の形式】では「手帳はもう少し小さい方がよい」、「文字、文章を減らして、簡単にできるとよいと思う」などの意見が挙げられた。【ケアラーのケア期間への配慮】では、「手帳のターゲットを段階ごとに定めて欲しい」や介護経験のあるケアラーからは「何か物足りなさを感じる」などの意見が挙げられた。【手帳の利用方法】では、「企業に配布してほしい」や「月に1度、医療関係者がチェック」するなどのシステムに関する意見が挙げられた。
(3)ケアラー緊急カードの効果1)ケアラー緊急カードを利用して安心感が得られたか?(図7)
「ケアラー緊急カードを利用して安心感を得ることができましたか」という設問に対しては、「とてもできた」17.5%、「まあまあできた」40.4%、「あまりできなかった」
31.6%、「全くできなかった」10.5%であり、7割以上の人が利用することで安心感が得られたと回答していた。
2)ケアラー緊急カードは有用と思うか?(図8)
「ケアラー緊急カードを利用して、このカードは有用だと思いますか?」という設問に対しては、「とても思う」28.0%、「まあまあ思う」44.1%、「あまり思わない」
22.0%、「全く思わない」5.6%であり、半数強の人がケアラー緊急カードは有用と思うと回答していた。
3)ケアラー緊急カードに必要な機能・役割(図9)
「ケアラー緊急カードにさらに機能・役割をもたせた方がよいと思いますか?」という設問に対しては、「とても思う」24.2%、「まあまあ思う」17.2%、「あまり思わない」
47.5%、「全く思わない」11.1%であり、半数強の人がケアラー緊急カードとしてはさらに必要な機能・役割はないと回答していた。
5.ケアラー手帳・ケアラー緊急カードの評価(1)ケアラー手帳の効果
55
追加してほしい情報 便利グッズの販売先、車イスを借りる時などの情報が詳しくあるといい。
介護用品の紹介を詳しくのせてほしい。
介護の仕方を、もう少し、具体的に知りたいです。例えば、寝たきりの親のおむつ替え、着替え、お下の世話など自分の力を使わないでやる方法があるそうですが、よくわからなくて、腰を痛めてしまいました。
住んでいる地域の情報。
ケアラー=介護の要素が強いので、障がい、他の病気の知識なども盛りこんでもらいたい。
体験事例をもっと聞いてみたい。特に自分と同じ状況にある人の話。
介護の体験とともに、どのようにして介護の孤立から、まわりの支援や自分自身をケアできるようになったかなどの体験記をたくさんのせていただいたら、参考にしたい。
介護事例がもっと知りたいなと思います。たまに差しかえでくるといいなと思います。
事例にしても、だからどうしたがあればいいと思う。
介護申請の仕方など手続きの方法。
自宅に往診をしてくれる医師、歯科医などの情報があると助かります。
ケアラーが“集れて”ひととき情報交換したりお茶をのんだりできる場所の紹介。
介護者のネットワーク機関やインターネットでつながることができるサービスの紹介。
自立、所得、入院時の保障について。
行政サービスの用語集を入れてほしい。
気持ちがしずむ日にのような内容をもっと深めたものがほしい。その部分の頁数をふやすなど。
追加してほしい記入欄 あなたのつぶやきのページ数を増やしてほしいです。書くことで気持ちが落ち着きます。
「つぶやきコーナー」を、逆に「ファイトコーナー」として気分のよい時にメモをして、落ち込んだ時にそれを見て元気を出すようにしてはどうか。
自分の病歴(記録)を書く所があってもよいか?
既に介護されている本人の情報(病気、住所、名前等)を追記することで、何か緊急時に有効。
ケアーされる人の発症から現在に至るまでの症状とケアラーとしてその間気づいたことケアの内容など書き込める欄がほしい。五行日記など書きとめるもの。
身体的健康のサポート:検診時の医師のコメント、医療従事者の方のコメント。
手帳の形式 手帳はもう少し小さいほうがよい(点線の中くらい)。自分の住所など記入できるとよい。
文字、文章をへらして、簡単にできるとよいと思います。
地域の避難所が、町別にわかる表だとよかった。
目次下の私の記録項目をケアラー緊急カードに追加してほしい。
ケアラーのケア期間への配慮
ケアラー手帳は介護初心者にはとてもいい内容だと思いますが5年以上認知症の母を介護している私には何かもの足りなさを感じます。ケアラー手帳がもっと心強い存在だったらよいと思います。
手帳のターゲットを段階ごとに定めてほしい。
介護入門編~上級編作成(対策方法等)。
手帳の利用方法 企業に配布してほしい。
メンタル健康のサポート: 介護認定の面談員さん、ケアマネさんが家族(ケアラー)の状態を報告するようなシステムがあるとよいと思います。
月に1度の、医療関係者が、手帳のチェック。それに応じての休息のアドバイスをするなど。疲労がひどい時には医者の判断で強制的にケアラーを休ませるなど。
自分が介護をしていることをかくす人も多いので、そうした人たちに手帳の存在を知ってもらいたい。
表4 ケアラー手帳への希望
56
図7 ケアラー緊急カードを利用して安心感が得られたか?
図8 ケアラー緊急カードは有用と思うか?
57
またケアラーはケアラーへのメッセージや介護体験事例集を読み、自分1人ではないこと、同じようにがんばっているケアラーが大勢いることを感じ、安心感を得ていた。このことはケアラーの孤立化を予防するという意味において、非常に大きな手帳の効果と考えられる。 またケアラー手帳が役に立ったかどうかでは、8割以上のケアラーが役に立ったと回答しており、「とても役に立った」が最も多かったのは「ケアラーのみなさんへ」、次いで「地域における相談窓口」、「介護体験事例集」であった。また、ケアラー手帳の中で最もどのページを利用したかでは「介護体験事例集」、次いで「気持ちが沈む日に」であった。「ケアラーのみなさんへ」、「気持ちが沈む日に」や「介護体験事例集」は上述したように、ケアラーへの心理面に直接働きかける内容と考えられる。またケア
ラー手帳は情報提供としての機能をもつが、地域の相談窓口やサービス利用情報の掲載は、新たな情報入手による生活の変化や何かあった際の連絡先が得られることはケアラーの安心感へつながったと考えられる。 またケアラー手帳の中で「全く役にたっていない」との回答が多かったのは「あなたを訪ねた方のメモ」、次いで
「あなたのつぶやき」であった。「あなたを訪ねた方のメモ」は、ケアラー自身ではなく、ケアラーへの周囲の働きかけが必要である。そのため、ケアラー手帳が地域の保健医療福祉専門職等に周知され、ケアラーを見守る仕組みがなければ意味をなさない。また今回のような短い使用期間では、本来の効果を発揮することも難しかったと考えられる。
図9 ケアラー緊急カードにさらに機能・役割りが必要か?
(2)ケアラー手帳の配布対象と時期
ケアラー手帳への希望の意見では、ケアラー手帳はケアラー初心者にはいい内容であるが、経験のあるケアラーには物足りないという意見があった。ケアラー手帳は多様な内容を掲載しているものの、情報の内容から考えると、早期のケアラーに対して導入されるほうがより効
果的と考えられる。そのため、早期のケアラーに対して手帳等が導入できる仕組みづくりが必要であるとともに、ケア期間を経たケアラーに対しての有用なツール作成も必要であろう。
58
ケアラー緊急カードを利用して安心感が得られたかどうかでは、半数強のケアラーは安心感が得られたと回答した。しかし、ケアラー緊急カードとしての本来の効果は、ケアラーを取り巻く周囲の人間がケアラー緊急カードの存在を知っていることが重要である。その点からいえば、今回の事業では効果の検証は充分とは言い難いと考える。 また、ケアラー緊急カードに対する機能・役割の追加
については7割強があまり必要ないと回答していた。しかし、類似のツールを利用している英国のケアラーカードは、自治体によっては緊急時の支援としての機能のみならず、生活全般に関する費用のディスカウントなどの多様な機能を併せもっている。ケアラーカードに対して、このようなケアラー支援策を付与することもわが国の今後のケアラー支援の課題であろう。
今回の検証の限界として、今回のケアラー手帳の内容・配布対象が概ね高齢者のケアラーに限定された点がある。多様なケアラーへの支援に向けては、高齢者以外の障がい児・者や精神疾患をもつ家族をケアするケアラー、そしてヤングケアラーや看取り終えたケアラーなど、それぞれのケアラーのニーズを踏まえたツール開発とさらなる検証が必要であり、今後の重要な課題である。 最後に強調しておきたいのは、ケアラー手帳・ケアラー緊急カードは、ともにあくまでもケアラーの支援ツールの
1つに過ぎないということである。親しみやすい実現可能性の高いツールとして脚光を浴びても、ツールのみではなく、ツールをより効果的に機能させ得る地域社会の仕組みがより重要である。今後はケアラー手帳・ケアラーカードが自治体などの地域の仕組みの中でより効果的に利用されるとともに、そのツール自体の内容に関しても地域・対象・時期に応じた介入ツールとして、質を向上させていくことが課題であろう。
(3)ケアラー緊急カードの効果
6.今回の事業の検証の限界と今後の課題 〜これからのケアラー手帳とケアラーカード〜
参考文献・特定非営利活動法人介護者サポートネットワークセン
ター・アラジン:『ケアラーを支えるために-家族(世帯)を中心とした多様な介護者の実態と必要な支援に関する調査研究事業報告書』,2011.3
・特定非営利活動法人介護者サポートネットワークセンター・アラジン:『被災地のケアラーとこれからのケアラー支援-東日本大震災地のケアラー(家族などの無償の介護者)の実態と今後のケアラー支援に関する調査研究事業報告書』,2012.3