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千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」 51 オンライン衝動購買の規定要因 森岡耕作ゼミナール 第 2 期生 千葉 健登 <要旨> オンラインストアにおいて、多くの消費者は衝動購買を行っている。近年のオンラ インストアのデザインは楽天や Amazon.co.jp が代表するように一様ではなくなって いる。そのような状況で、消費者はどのようなオンラインストアで衝動購買を行うの であろうか。本論では、多様なオンラインストアの特徴がオンライン衝動購買プロセ スに及ぼす影響の特定を試みる。 <キーワード> 衝動購買/オンライン衝動購買/Web サイトデザイン/S-O-R モデル Technology Acceptance Model/消費者行動 1 章 はじめに 1 節 本論の問題意識 ICT 技術の急速な成長によって、小売業の活動の場は実際の店舗のみならず、オンライン 市場にまで広がっている。楽天市場や Amazon.co.jp などがその典型的な例である。これらの オンライン市場は、5000 万種から 1 億種の製品を取り扱っており、実際の店舗とは比較に ならない品揃えを実現している。現代の消費者は、実際に様々な店舗に足を運ばなくても、 インターネットを介して数多くの選択肢から製品を購買することができるのである。そのよ うな状況で消費者は、従来、店舗内の中で行っていた衝動購買をインターネット・ショッピ ングにおいても同様に行うようになっている。朝日大学マーケティング研究所による調査 2005)では、インターネット・ショッピング利用者のうち約 65%の消費者が衝動購買を 経験している(図表 1)。 もともと店舗内での衝動購買に関する研究は、古くからその重要性が指摘されている Stern, 1962)。それと同様に、インターネットでの衝動購買に関する研究も、1999 年には すでに、Donthu and Garcia1999)によって、その重要性が指摘されており、消費者はイン ターネットにおいて店舗での場合に比して、より衝動的な購買を行うと主張されている。ま た、衝動購買はオンラインの文脈において蔓延しているという主張もある(Greenfield, 1999;

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千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

51

オンライン衝動購買の規定要因

森岡耕作ゼミナール 第 2期生

千葉 健登

<要旨>

オンラインストアにおいて、多くの消費者は衝動購買を行っている。近年のオンラ

インストアのデザインは楽天や Amazon.co.jp が代表するように一様ではなくなって

いる。そのような状況で、消費者はどのようなオンラインストアで衝動購買を行うの

であろうか。本論では、多様なオンラインストアの特徴がオンライン衝動購買プロセ

スに及ぼす影響の特定を試みる。

<キーワード>

衝動購買/オンライン衝動購買/Web サイトデザイン/S-O-R モデル

Technology Acceptance Model/消費者行動

第 1章 はじめに

第 1節 本論の問題意識

ICT 技術の急速な成長によって、小売業の活動の場は実際の店舗のみならず、オンライン

市場にまで広がっている。楽天市場や Amazon.co.jp などがその典型的な例である。これらの

オンライン市場は、5000 万種から 1 億種の製品を取り扱っており、実際の店舗とは比較に

ならない品揃えを実現している。現代の消費者は、実際に様々な店舗に足を運ばなくても、

インターネットを介して数多くの選択肢から製品を購買することができるのである。そのよ

うな状況で消費者は、従来、店舗内の中で行っていた衝動購買をインターネット・ショッピ

ングにおいても同様に行うようになっている。朝日大学マーケティング研究所による調査

(2005)では、インターネット・ショッピング利用者のうち約 65%の消費者が衝動購買を

経験している(図表 1)。

もともと店舗内での衝動購買に関する研究は、古くからその重要性が指摘されている

(Stern, 1962)。それと同様に、インターネットでの衝動購買に関する研究も、1999 年には

すでに、Donthu and Garcia(1999)によって、その重要性が指摘されており、消費者はイン

ターネットにおいて店舗での場合に比して、より衝動的な購買を行うと主張されている。ま

た、衝動購買はオンラインの文脈において蔓延しているという主張もある(Greenfield, 1999;

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Lie, Kuo, and Russell, 2000)。

図表 1 オンラインストアでの衝動購買経験率

出所)朝日大学マーケティング研究所ネットショッピングでの衝動買いに関するマーケティング

データ(2005,http://www.asahi-bplan.com/marketing/data/0511.pdf)を元に筆者が作成。

このように、インターネットにおける衝動購買、つまりオンライン衝動購買に関する研究

は、インターネットの発達とともに知識の蓄積がなされている。しかしながら、それらの研

究は、現代のインターネット市場の急速な変化を捉えられていない可能性がある。実際に、

近年のオンライン衝動購買に関する研究(Wells, Parboteeah, and Valacich, 2011; Shen and

Khalifa, 2012; Liu, Li, and Hu, 2013)を概観すると、その多くが、Web サイトの「抽象的な特

徴」とオンライン衝動購買との間の間接的な因果関係を明らかにしている研究である。抽象

的な特徴というのは、鮮明さ(vividness)や、インタラクティブ性(interactivity)、視覚的訴

求(visual appeal)、Web サイトの品質(website quality)など、直接的に Web サイトの特徴を

表さないような要因である。これらの抽象的な要因だけでは、実際のオンライン衝動購買に

ついて説明することができないため、より具体的な Web サイトの特徴とオンライン衝動購

買との因果関係を探る必要があるかもしれない。

近年のオンライン衝動購買に関する研究では、実店舗の衝動購買に関する既存研究と同様

に S-O-R モデルを採用している研究(Parboteeah, 2005; Liu, et al. 2013)が多々存在する。こ

れらの研究に注目すると、刺激(stimulus)レベルの要因と生体(organism)レベルの要因を

一緒くたにしている場合がある。そのため、オンライン衝動購買の実態について、正しい因

果関係を測定できていない可能性が考えられる。

これらの既存研究における問題点や解明されていない点を踏まえ、本論は「どのような具

体的な Web サイト属性が、どのようなプロセスを経て衝動購買に影響を及ぼすのか」とい

う研究課題を設定し、因果関係を総合するモデルを構築することによって、その解明を試み

衝動購買

経験あり

65%

衝動購買

経験なし

35%

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

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る。

このようにして、本論は、消費者のオンライン衝動購買に関する研究課題に解答し、学術

的かつ実務的な示唆を与えることが期待される。

第 2節 本論の構成

本論は「どのような Web サイト属性が、消費者のオンライン衝動購買の規定要因になるのか」

という研究課題に沿って次のように展開される。第 2 章では、オンライン衝動購買に関する基礎

的な研究と Web サイト属性に関する研究についてレビューすることで、既存研究の問題点や不

足している点を明らかにする。また、Web サイト属性に関する研究をレビューすることで、新

たに分析に加えるべき Web サイト属性を明らかにする。第 3 章では、そのレビューに基づき、

本論独自の仮説を提唱する。そして第 4 章で、本論の仮説の経験的妥当性を吟味する。最後に、

第 5 章で、それまでの議論から導出される学術的・実務的インプリケーションを述べる。

第 2章 既存研究のレビュー

第 1節 オンライン衝動購買の定義に関するレビュー

オンライン衝動購買の研究を進めるにあたり、まずはオンライン衝動購買の定義について確認

する必要があるであろう。

実店舗での衝動購買に関する研究において、Stern(1962)は最も引用されている研究の1つで

ある(石井・岩浪・増野・森谷,2011)。それによれば、衝動購買は、純粋衝動購買、想起衝動

購買、提案受容型衝動購買、そして計画的衝動購買の4つに分類することができる。これはオン

ラインの文脈においても、同様であり、既存研究においてもオンライン衝動購買の定義として用

いられている。例えば、Wells, et al.(2011)は、オンラインストアでの状況に、4つの種類の衝

動購買を当てはめることができると主張している。

第1の純粋衝動購買(pure impulse buying)は、普段の購買パターンと異なり、逃避的であった

り、新奇性を求めたりする衝動買いである。これをオンラインストアでの状況に置き換えると、

事前の購買目的もなく、例えばぼんやりとiTunes Storeで時間をつぶしているときに、音楽を購

買するような場合である(Wells, et al. 2011)。第2の想起衝動購買(reminder impulse buying)は、

消費者が、ある製品を見たときに、その製品に対するニーズを思い出して購買を決めることであ

る。例えば、消費者がwww.macys.comで香水を見て、それを買わなければならないことを思い出

して購買するような場合が考えられる(Wells, et al. 2011)。第3の提案受容型衝動購買(suggestion

impulse buying)とは、事前知識のなかった製品を見て購買を行うことである。例えば、新しい

製品を買う予定がなかったのに、www.amazon.comの「オススメ商品」の欄でその製品を見つけ

て購買するような場合がそれに当たるだろう(Wells, et al. 2011)。そして第4の計画的衝動購買と

は、消費者が製品レベルでの購買意図を持っているものの、ブランドレベルの購買意図を持って

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

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いないときに、市場内での探索や広告を目にして購買を決めることである。例えば、消費者がコ

ートを探すためにwww.zozotown.jpで関連ワードを検索しているときに、好きなブランドのコー

トを見つけ、購買するような場合が挙げられる(Wells, et al. 2011)。

このように、Stern(1962)の実店舗における衝動購買の定義は、オンラインの文脈において

も援用することが可能である。実際、オンライン衝動購買に関するいくつかの研究(Parboteeah,

2005; Wells, et al. 2011)においても、Stern(1962)の衝動購買の4分類を用いている。従来の実

店舗における衝動購買研究者や、近年のオンライン衝動購買研究者に倣い、本論においても、オ

ンラインストアにおける衝動購買の定義としてStern(1962)の定義を用いる。

第 2節 S-O-Rモデルに関するレビュー

商業空間デザインは、買い手への影響を作るための空間の意識的なデザインと定義されて

いる(Kotler, 1973, p. 50)。これは消費者の購買行動を誘うための、店舗内のデザインに関する

研究分野である。実際の店舗では、売り手は消費者の衝動購買を促すために、店舗の空間デ

ザインを操作していた(Rock and Fisher, 1995)。これによって作られた刺激は消費者にとっ

て魅力的な方法で提供され、衝動購買のプロセスのきっかけとなっていた。この結果から、

環境心理学は実店舗、オンラインでの衝動購買研究に用いられるようになったのである。実

際に、既存のオンライン衝動購買に関する研究(Koufaris and Hampton-Sosa, 2002; Parboteeah

2005; Liu, et al. 2013)においても、環境心理学の 1 つである S-O-R モデルが用いられている。

そのため、このモデルを用いることはオンライン衝動購買のモデルをより発展させるために

必要であろう。

Eroglu, Machleit, and Davis(2001)はオンラインストアの研究に商業空間デザインを取り

入れるための研究をしている。彼らは、消費者のオンラインストアに対する反応のモデルが

開発した。このモデルによれば、オンライン環境の手がかり(刺激)は情緒と認識(生体)

を導く。そして情緒と認識(生体)は消費者が購買するか否か(反応)を導くとしている。

Parboteeah(2005)はオンライン環境の手がかりを、基盤的要素と機能的要素、視覚的要

素の 3 つに分類している。また、情緒と認識に関しては、技術受容モデル(technology

acceptance model, 以下 TAM)内の類似した概念を用いて、楽しさと有用性に置き換えてい

る。Parboteeah(2005)によって改良されたこのモデルは、図表 2 である。本論はこのモデ

ルを基本モデルとして研究を進めていく。

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

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図表 2 Parboteeah(2005)の衝動購買モデル

出所)Parboteeah(2005),p. 162 を元に筆者が作成。

第 3節 オンライン衝動購買に関する研究

第 1項 Parboteeah(2005)のオンライン衝動購買に関する包括的な研究

Web サイトの特性を 3 つの視点から捉え、S-O-R(刺激-生体-反応)モデルを用いて、

包括的にオンライン衝動購買の規定要因の解明を試みている Parboteeah(2005)は、本論の

研究課題に対して多くの示唆を与えるだろう。

彼の研究は Web サイトの特性と衝動購買との間接的な因果関係を明らかにするモデルを

構築している。そのため、S-O-R モデルのおける刺激(S)には Web サイトの特性を採用し

ている。Web サイトの特性は、基盤的要因・機能的要因・視覚的要因の 3 つの視点から構成

されており、多様な視点から Web サイトの特徴を捉える試みがなされている。次に S-O-R

モデルにおける反応(R)レベルには純粋衝動購買を設定している。これは純粋衝動購買が、

他の衝動購買に比して最も情緒的訴求の影響を受けやすいためであるとしている。

最後に S-O-R モデルにおける、生体レベルには、TAM より、消費者が知覚する有用性と

楽しさを用いている。TAM とは、Fishbein and Ajzen(1975)の合理的行為理論(theory of

reasoned action)に基づき、テクノロジーやシステムなどを利用が、仕事等のパフォーマン

ス向上に繋がるか否かを予測するものである。近年では、TAM におけるシステム利用者を

オンラインストアの消費者に置き換え、TAM における Web のインターフェースやオンライ

ンストアをテクノロジーやシステムに置き換えて eコマースに関する研究に取り入れている

こと(Koufaris and Hampton-Sosa, 2002; Parboteeah, 2005)がある。そして、その結果からオ

ンラインストアでの消費者の行動について、TAM でそのシステムを説明することができる

とされている。

Parboteeah(2005)で、生体-反応間で明らかになったことは、「消費者が知覚する楽しさ」

が純粋衝動購買に正の影響を及ぼすということである。また、「消費者が知覚する有用性」

についても、「消費者が知覚する楽しさ」を介して純粋衝動購買に正の影響を及ぼすという

ことが明らかにされている。

次に Parboteeah(2005)は刺激-生体間の因果関係を明らかにするために、刺激としてウ

基盤的強固さ 消費者が知覚する

有用性

視覚的訴求 消費者が知覚する

楽しさ

接近/逃避

行動 衝動購買行動

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ェブサイトの特性を設定し、分析を行った。Web サイトの特性には、サイト基盤的要素・機

能的要素・表現的要因の 3 つの枠組みをもとに、要因を挙げている。

第 1 にサイト基盤的要素とは、システムがどの程度、脅威に対抗できるかである(Kim, Lee,

Han, and Lee, 2002)。これは、Web サイトのサーバーシステムのセキュリティや安定性のこ

とである。サイト基盤的要素は、消費者の Web サイト利用にどのような影響を及ぼすので

あろうか。Pavlou(2001)は、e コマース上での消費者のセキュリティに関する知覚は、購

買意図形成の重要な決定要素であるとしている。Salisbury, et al.(2001)は、「消費者が知覚

する有用性」と消費者が知覚する「Web サイトの安全性」との間の関係を分析で明らかにし

ている。その結果によれば、オンライン上での消費者は、彼らのクレジットカードや重要な

情報の安全が確保されていることを感じるときのみ、その Web サイトを利用するというこ

とを意味している。以上のことから、サイト基盤的要素は、オンライン衝動購買の規定要因

を探るためには重要な枠組みであると考えられる。

第 2 に「機能的要素」に関する既存研究をレビューする。Parboteeah(2005)は、機能的

要素を Web サイトの使いやすさ(ease of use)と置き換えている。そして Web サイトの使い

やすさは、「消費者が知覚する有用性」に強い影響を及ぼす重要な要因であるとしている。

彼を含め、多くの研究者(Koufaris and Hampton-Sosa, 2002; Pavlou, 2001; Van der Heijden, 2003;

Vijayasarathy, 2004)が「Web サイトの使いやすさ」と「消費者が知覚する有用性」との因果

関係について、その重要性を指摘している。「Web サイトの使いやすさ」要因は、2 つの媒

介要因を介してオンライン衝動購買に影響を及ぼすため、本論においても重要な要因となる

だろう。その一方で、Parboteeah(2005)では、「Web サイトの使いやすさ」を S-O-R モデル

のうち、刺激(S)として扱っている点に注意しなければならない。なぜなら、「Web サイト

の使いやすさ」とは、消費者が Web サイトを利用中に何らかの刺激を受けて、初めて生体

レベルで「使いやすい」と知覚するものであるからである。つまり、「Web サイトの使いや

すさ」とは、刺激レベルで存在するものではなく、消費者の生体レベルで知覚される物なの

である。Parboteeah(2005)や Liu, et al.(2013)のように「Web サイトの使いやすさ」とい

う要因を刺激として捉えてしまうと、どのような Web サイト属性が、消費者が知覚する「Web

サイトの使いやすさ」を規定するのか、ということを明らかにすることができない。さらに、

生体要因を刺激要因として扱っていることから、正しい因果関係を測定できていない可能性

も考えられる。以上より、Web サイト特性の枠組みとしては、Parboteeah(2005)に依拠し

て機能的要因を採用する。その一方でその枠組みの中で扱う要因については、彼の研究の問

題点を踏まえ、「Web サイトの使いやすさ」を規定する要因を新たに探る必要がある。これ

により、消費者が Web サイトのどのような要因によって、「Web サイトの使いやすさ」を知

覚するのかを明らかにする。

第 3 に、「視覚的要素」とは、購買の手続きそのものには、何ら影響を及ぼさない要因で

ある(Eroglu, et al. 2001)。Parboteeah(2005)は、視覚的訴求が、「消費者が知覚する楽しさ」

に正の影響を及ぼすとしていた。しかし、彼の研究において視覚的な要因の変数は、視覚的

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訴求の度合と、ウェブサイトの見た目に対する満足の度合のみであった。これらのみでは、

実際の Web サイトの多様な特徴を捉えきれていない可能性がある。この点において、彼の

研究は限界を抱えているだろう。そのため本論では、視覚的要素として、より多様な Web

サイトの特徴を考慮しモデルを構築する。

オンラインストアにおいて、消費者が Web サイトに求めるものは、第 1 に視覚的要因、

第 2 に機能的要因、第 3 に基盤的要因である(Parboteeah, 2005)。これを踏まえ、本論では

消費者がより重要視している視覚的要因と機能的要因について、より具体的な変数を導き出

すために、それぞれの要因に関連する研究をレビューする必要がある。

第 2項 Webサイトの視覚的要素に関する研究

Parboteeah(2005)の研究で述べられていたように視覚的要因は、オンライン衝動購買を

促すための Web サイト特性として最も重要な要因である。そこで、Web サイトにおける視

覚的要因で重要とされている要因について既存研究を見てみる。Eroglu, et al.(2001)によ

ると、視覚的要因にはサイトの色や字体、フォント、アニメーション、音楽が含まれる。こ

れらは消費者のオンラインストアでの体験をより満足なものにするとされている。また、

Parboteeah, Valacich, and Wells(2009)によれば、視覚的要因はフォントや画像など、Web サ

イト内の表示全体をより向上させるような要素であるとしている。これらの視覚的要因は、

既存文献が指摘するようにオンライン衝動購買を促すような Web サイト特性であるとされ

ている。それにも関わらず、フォントや画像の特徴が衝動購買に直接的、または間接的にオ

ンライン衝動購買に及ぼす影響について実証分析を行っている研究は存在しない。そのため、

本論ではこれらの重要な要因をモデルに組み込む。

第 3項 Webサイトの機能的特性に関する研究

本節では、3 つの Web サイトの機能的特性に関する研究をレビューする。第 1 に、Web

サイトの「温かみ」を演出するような機能的要素についてレビューする。第 2 に Web サイ

トのナビゲーションのしやすさに関する研究について触れる。そして第 3 に、Web サイトの

情報伝達の手段としての機能に関する研究に関するレビューを行う。

Web サイトの機能的要素の 1 つとして、オンラインストアに対して消費者が感じる「温か

み」に焦点を合わせている研究が存在する。オンラインストアの Web サイトが、実店舗に

おける店員との接触や社会性を提供できるということを示しているのである(Hassanein and

Head, 2005; Wang, Baker, Wagner and Wakefield, 2007)。そして、その「温かみ」を消費者に感

じさせるためには、Web サイトの臨場感が必要である。消費者に臨場感を感じさせるための

機能の 1 つにインタラクティブ性がある。インタラクティブ性が高いとは、消費者が思った

通りに Web サイトが反応してくれたり、そのために多機能であることを意味する。コミュ

ニケーションの手段としての Web は、インタラクティブ性が高いことから、他のメディア

(テレビ・ラジオ)と比較しても独特である(Coviello, Milley and Marcolin, 2001)。そのた

め、インタラクティブ性はインターネットという新しいメディアの 1 つの重要な機能として

捉えられている(Rafaeli, 1989)。実際に、Shen and Khaifa(2012)はインタラクティブ性と

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

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オンライン衝動購買との間接的な因果関係を実証分析によって明らかにしている。しかし、

彼らの研究では、インタラクティブ性とオンライン衝動購買との間に 3 つもの要因を間に媒

介させていたり、従属変数をインタラクティブ性と Web サイトの鮮明さ(vividness)のみに

してしまっている点で限界を抱えている。

次に、Web サイトの機能的要素としてナビゲーションのしやすさに焦点を合わせた研究に

注目してみよう。ナビゲーションのしやすさとは、ページの配列や、ページ内レイアウトの

一貫性、操作の一貫性である(Palmer, 2002)。また、Chakraborty, Lala, and Warren(2003)は、

Web サイトがよく整理されていて、操作がしやすいとき、価値を感じると主張している。本

論はこれらのナビゲーションのしやすさに関連する要因に着目し、Web サイトの整然性と

Web サイトデザインの統一性の 2 つの要因として扱うことにする。Web サイトの整然性が高

いとは、Web サイト内の配列が整理されているような状況である。また、Web サイトデザイ

ンの統一性が高いとは、ページ内レイアウトや操作に一貫性があるような場合である。本論

で定義する整然性と統一性との違いは、次のようなものである。第 1 に整然性は、統一性と

比してより視覚的な要素の強い属性である。視覚的に情報が見やすくなっていて、Web ペー

ジ内から必要な情報を手に入れ易いような状況がこれに当てはまる。第 2 に統一性は、整然

性と比してより機能的側面の強い属性である。一見、Web サイト内が情報であふれかえって

いるような場合でも、Web サイト内の操作やレイアウトが一貫的であれば、消費者は使いこ

なすことができるというようなものである。

第 3 に、Web サイトの情報伝達の手段としての機能に関する研究をレビューする。オンラ

インストアにおいて消費者は、実店舗のように製品に関する情報を思い通りに知ったり体験

することはできない(Parboteeah, 2005)。その問題を緩和するために、売り手は徹底的に製

品に関する情報を提供する必要がある。これは、消費者が購買意思決定をするのに十分な高

品質な情報を提供する必要があるということである(Palmaer, 2002)。また、Shapiro and Varian

(1999)は、情報が包括的で、品質が高く、完全であれば、消費者は簡単に購買を行うこと

ができると主張している。つまりオンラインストアにおいて、情報品質を向上させることに

よって、消費者は購買を行いやすくなる可能性があるということである。そして消費者が購

買を行いやすくなれば、購買数の増加につれてオンライン衝動購買を行う可能性も増加する

かもしれない。このことから、消費者がその Web サイトで、必要なだけの情報を得られれ

ば、オンライン衝動購買が増加することが考えられる。Kim and Stole(2004)は、オンライ

ンの文脈における、「消費者が知覚する有用性」の構成要素を分析によって明らかにしてい

る。それによれば、「消費者が知覚する有用性」を構成する要素の 1 つは、「情報量(information

fit-to-task)」である。情報量とは、Web サイトが、消費者が購買を行うのに十分な情報をど

の程度提供したかである。しかしながらこれらの既存研究には、Parboteeah(2005)以降の

オンライン衝動購買に関する研究において、「消費者が知覚する使いやすさ」を刺激要因と

して捉えているがために、実際の現象を捉えきれていない可能性がある。実際に消費者が

Web サイトで十分な量の情報に触れたときになぜ有用性を知覚するのかを改めて考えてみ

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

59

ると次のようなことが考えられる。情報が包括的で、品質が高く、完全であれば、消費者は

簡単に購買を行うことができる(Shapiro, et al. 1999)、消費者が簡単に購買できれば、時間

的コストや心理的コストが少なくてすむため、生産性の向上(有用性)を知覚している。そ

のため、情報量は既存研究が指摘する「消費者が知覚する有用性」に影響を及ぼすというよ

りも、むしろ消費者が「知覚する使いやすさ」に影響を及ぼす要因であることが考えられる。

第 3章 仮説の設定

第 1節 オンライン衝動購買の因果プロセス・モデル

前章において議論したように、Parboteeah(2005)は、既存研究をもとに、S-O-R モデル

に基づくオンラインストアでの消費者行動の枠組みを構築している。さらに彼は、その枠組

みに基づいて、刺激である Web サイト属性が消費者の知覚する有用性、楽しさを介して、

純粋衝動購買へと至る因果ルートを実証分析によって明らかにしている。本論では、彼の研

究における、Web サイト属性として扱われている変数が少なく具体的でないことに加え、本

来、生体レベルとして扱われるべき要因(消費者が知覚する使いやすさ)が、刺激レベルの

要因として捉えられているという限界点および問題点を指摘した。そこで、より具体的な

Web サイト属性を検討するために、Web サイト属性に関する研究を前章でレビューした。さ

らに、消費者が「知覚する使いやすさ」について、Parboteeah(2005)や Liu, et al.(2013)

で刺激として捉えられていたことにより、消費者がどのような Web サイト属性の刺激を受

けたときに「使いやすさ」を知覚するのかが明らかにできなかったという問題点を踏まえ、

本論では、消費者が「知覚する使いやすさ」についても、消費者が知覚する楽しさ、有用性

と同様に生体レベルの要因とする。このようにして、明らかにされた各概念について、それ

らの間の因果的関係を吟味していく。

第 1項 「消費者が知覚する楽しさ」とオンライン衝動購買の仮説

S-O-R モデルによれば、感情的な知覚は、消費者の積極的な行動を引き起こさせる。オン

ラインの文脈における積極的な行動とは、再来店やオンラインストアでたくさんのお金や時

間を使うような行動である(Eroglu, et al. 2001)。消費者がオンラインストアの刺激を受けて、

楽しさを知覚し、その店を長い時間を使うようになると、オンライン衝動購買の可能性は高

くなる。例えば、実店舗の場合、消費者の店舗内探索という概念は、衝動購買プロセスの中

心的な構成要素である(Beatty and Ferrell, 1998)。これと似たようにオンラインストアにおい

ても、Web サイトの閲覧時間が増えればオンライン衝動購買は起きやすくなるであろう。つ

まり、消費者がオンラインストアからの刺激を受けて楽しさを知覚すると、そのオンライン

ストアに対して長い時間やお金を使うようになり、その結果、オンライン衝動購買を行う可

能性が高くなるということである。したがって以下の仮説を提唱する。

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

60

仮説 1:消費者が知覚する楽しさは、オンライン衝動購買に正の影響を及ぼす。

第 2項 「消費者が知覚する楽しさ」の規定要因

消費者が知覚する楽しさを規定する要因は、生体レベルの要因のうち、「消費者が知覚す

る有用性」と「消費者が知覚する使いやすさ」が挙げられよう。これは以下のことが考えら

れるからである。

第 1 に「消費者が知覚する有用性」は、消費者がその Web サイトに対して個人情報の安

全さや基盤的な強固さを感じるときに知覚する(Parboteeah, 2005)。これは、直接的にオン

ライン衝動購買に影響を及ぼすものではないが、「消費者の知覚する楽しさ」を介してオン

ライン衝動購買に影響を及ぼしている可能性が考えられる。なぜなら、Herzberg, Mausner

and Snyderman(1959)が述べるように、人間の満足は 2 つの要因から構成されているから

である。その 1 つは人間の満足をより増加させる要因である。そして 2 つ目は人間の満足の

減少を予防する要因である。第 1 の要因は Web サイトの属性としては視覚的訴求が挙げら

れる。例えば、視覚的訴求が楽しいものになればなるほど消費者も楽しさを知覚し、満足し

やすくなるだろう。第 2 の要因の満足が減少しないようにする要因とは、安全・安定欲求で

ある(Herzberg et al. 1959)。Web サイト属性における情報の安全やサーバーの強固さなどの

基盤的側面がこれにあたる。彼らによれば、これが不足すると人間の満足は減少するという。

例えば、購買を行う際に、情報流出の心配やサーバーが不安定で買い物をスムーズに行うこ

とができなければ、消費者は満足を感じることができないだろう。これらのことから、Web

サイトの基盤的要因によって生じる「消費者が知覚する有用性」は「消費者が知覚する楽し

さ」の減少を予防するような要因であることが考えられる。

第 2 に「消費者が知覚する使いやすさ」は、「消費者が知覚する楽しさ」に影響を及ぼす

可能性が考えられる。実際に、Van der Heijden(2003)は、実証分析によってこれらの間に

正の因果関係があることを明らかにしている。彼は、消費者が Web サイトを簡単に使える

ことで、消費者の刺激の受容に良いフィードバックを提供し、その結果として、楽しさの増

加を引き起こすと主張している。

これらのことから以下の仮説を提唱する。

仮説 2:消費者が知覚する有用性は、消費者が知覚する楽しさに正の影響を及ぼす。

仮説 3:消費者が知覚する使いやすさは、消費者が知覚する楽しさに正の影響を及ぼす。

消費者が知覚する楽しさを規定する要因は、Web サイトの構成要素のうち、製品使用イメ

ージの良さ、インタラクティブ性、Web サイトデザインの統一性が挙げられよう。具体的に

以下のようなことが考えられるからである。

第 1 に、製品イメージの良さについて、消費者は製品イメージに対して楽しさや幸福感な

どの肯定的なイメージを持てば、その Web サイトに対して楽しさを知覚するだろう。

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

61

Parboteeah, et al.(2009)によれば、視覚的要因である画像は、Web サイト内の表示全体をよ

り向上させ、消費者の衝動購買を促すと主張している。また、Parboteeah(2005)によれば、

Web サイトの視覚的な楽しさは「消費者の知覚する楽しさに」正の影響を及ぼすことを明ら

かにしている。そのため、製品イメージという視覚的情報が楽しげであれば、消費者は楽し

いと感じる可能性が考えられる。

第 2にWebサイトデザインの統一性について、Webサイトデザインの統一性が高いとき、

消費者は Web サイトに対して、ナビゲーションのしやすさを感じる(Palmer, 2002;

Chakraborty, et al. 2003)。これは、Web サイトのメニューや情報が書かれている場所が統一

されていると、消費者がより簡単に操作したり、情報を得ることができるということである。

消費者はナビゲーションがしやすければ、インタラクティブ性が高いときと同様に、より彼

らの購買に没頭することができ、購買プロセスそのものの楽しさを知覚しやすくなることが

考えられる。

第 3 に、インタラクティブ性が高いとは、消費者が思った通りに Web サイトが反応した

り、そのために多機能であることを意味する。消費者は、彼らが思った通りに Web サイト

が反応すれば、より彼らの購買に没頭することができる。つまり、インタラクティブ性が高

ければ、消費者は購買に集中することができ、購買プロセスそのものの楽しさを感じやすく

なるだろう。

これらのことから以下の仮説を提唱する。

仮説 4:Web サイトの製品使用イメージの良さは、消費者が知覚する楽しさに正の影響を

及ぼす。

仮説 5:Web サイトデザインの統一性は、消費者が知覚する楽しさに正の影響を及ぼす。

仮説 6:Web サイトのインタラクティブ性は、消費者が知覚する楽しさに正の影響を及ぼ

す。

第 3項 「消費者が知覚する有用性」の規定要因

消費者が知覚する有用性とは、消費者が特定の Web サイトを使うことでその購買の生産

性が増加すると信じることである(Koufaris and Hampton-Sosa, 2002)。これを規定する要因

は Web サイトの構成要素のうち、基盤の強さ、整然性、インタラクティブ性、フォントの

読みやすさ、製品在庫数のわかりやすさが挙げられよう。具体的に以下のようなことが考え

られるからである。

第 1 に、基盤の強さについて、これは、システムがどの程度、脅威に対抗できるかである

(Kim, et al. 2002)。Salisbury, et al.(2001)は、オンライン上での消費者は、彼らのクレジ

ットカードや重要な情報の安全が確保されていることを感じるときのみ、その Web サイト

を利用するということを分析結果から示唆している。また、Parboteeah(2005)においても、

サイト基盤的要素は、「消費者が知覚する有用性」に正の影響を及ぼすということを実証分

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

62

析により明らかにしている。つまり、消費者は彼らの個人情報が流出しないような Web サ

イトに対して生産性を感じている可能性がある。

第 2 に、整然性について、Chakraborty, et al.(2003)は、Web サイトがよく整理されてい

て、操作がしやすいとき、消費者はその Web サイトに対して価値を感じるとしている。具

体的には Web サイトのメニューや表示が整理されていて、操作がしやすければ、消費者は

目的の製品や情報を簡単に入手できることが考えられる。消費者が製品や情報を簡単に手に

入れることができれば、よりスムーズに購買を行うことができるため、整然性の低い Web

サイトに比して、消費者は生産性の高さを感じるだろう。

第 3 に、インタラクティブ性が高いと、消費者は、思った通りに Web サイトを動かすこ

とができる。そのため、購買をする際に、操作に慣れることに時間を費やさなくて済むだろ

う。そうすれば、消費者はインタラクティブ性が低い場合に比して、生産性が高いと感じる

だろう。

第 4 に、フォントの読みやすさについて、これが読みづらい Web サイトで、消費者は必

要な情報を見つけ出すのが困難になるだろう。反対に、Web サイト内のフォントが読み易け

れば、読みにくい場合に比して、より簡単に必要な情報を手に入れることができるだろう。

そうすれば読みづらい文字を読まなくて良いため、心理的コストや時間的コストを削減する

ことができる。そのため、消費者は Web サイト内のフォントが読み易ければ諸コストを必

要としないため、有用性を知覚するだろう。

第 5 に、Web サイトの在庫数のわかりやすさについて、消費者は Web サイトにおいて、

製品の在庫の有無について知るためには、Web サイト内の表示を頼りにする他ない。そのよ

うな状況で、在庫表示がわかりやすく表示されている Web サイトは、そうでない Web サイ

トに比して消費者に素早く在庫情報を知ってもらうことができる。そのため、そのような

Web サイトは消費者に有用性を知覚させるだろう。

これらのことから以下の仮説を提唱する。

仮説 7:Web サイトの基盤の強さは、消費者が知覚する有用性に正の影響を及ぼす。

仮説 8:Web サイトの整然性は、消費者が知覚する有用性に正の影響を及ぼす。

仮説 9:Web サイトのインタラクティブ性は、消費者が知覚する有用性に正の影響を及ぼ

す。

仮説 10:Web サイトのフォントの読みやすさは、消費者が知覚する有用性に正の影響を

及ぼす。

仮説 11:Web サイトの在庫数のわかりやすさは、消費者が知覚する有用性に正の影響を

及ぼす。

第 4項 「消費者が知覚する使いやすさ」の規定要因

消費者が知覚する使いやすさを規定する要因は、Web サイトの構成要素のうち、デザイン

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

63

の統一性、整然性、インタラクティブ性、情報量が挙げられよう。具体的に以下のようなこ

とが考えられるからである。

第 1 にデザインの統一性と整然性について、消費者はこれらが高い Webサイトに対して、

ナビゲーションのしやすさを感じる(Palmer, 2002; Chakraborty, et al. 2003)、ナビゲーション

がしやすい Web サイトを利用するとき、消費者は使いやすさを知覚するだろう。具体的に

は、消費者はデザインの統一性が高いとき、一定の操作を覚えるだけでその Web サイト全

体の操作を行うことができるようになるため、使いやすさを知覚するだろう。また、Web サ

イトがよく整理されていて整然としているとき、消費者は目的のメニューや情報をいち早く

見つけることができる。そのような Web サイトで消費者は整然性が低い Web サイトに比し

て、使いやすさを知覚する可能性が高い。

第 2 にインタラクティブ性について、インタラクティブ性が高い Web サイトにおいて消

費者は、思った通りに Web サイトを動かすことができる。反対にインタラクティブ性が低

い Web サイトにおいて消費者は Web サイトを思った通りに動かすことができない。Web サ

イトを思った通りに動かすことができなければ、消費者は使いづらさを知覚するだろう。一

方で、インタラクティブ性が高く、消費者が思った通りに Web サイトを動かすことができ

れば、消費者は使いやすさを知覚するだろう。

第 3 に情報量について、これは消費者が購買を行うのに十分な情報を Web サイトがどの

程度提供したかである。Shapiro, et al.(1999)らが主張するように、情報が包括的で、品質

が高く、完全であれば、消費者は簡単に購買を行うことができる。そのため、Web サイトの

情報量が消費者のニーズにフィットしていれば、「消費者の知覚する使いやすさ」に影響を

及ぼすであろう。具体的には、消費者が Web サイトで購買中に、必要とする製品情報をそ

の Web サイト内で手に入れることができれば、情報を十分に手に入れられない場合に比し

て、使いやすさを知覚することが考えられるからである。

仮説 12:Web サイトデザインの統一性は、消費者が知覚する使いやすさに正の影響を及

ぼす。

仮説 13:Web サイトの整然性は、消費者が知覚する使いやすさに正の影響を及ぼす。

仮説 14:Web サイトのインタラクティブ性は、消費者が知覚する使いやすさに正の影響

を及ぼす。

仮説 15:Web サイトの情報量は、消費者が知覚する使いやすさに正の影響を及ぼす。

また、上記の仮説は、図表 3 のようにオンライン衝動購買の因果プロセス・モデルとして表

現することができる。

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

64

図表 3 オンライン衝動購買の因果プロセス・モデル

第 4章 実証分析

第 1節 オンライン衝動購買のプロセスに関する実証分析

第 1項 分析方法の検討・決定

本論は、各 Web サイト属性(刺激)から消費者の知覚(生体)を介して衝動購買に至る

消費者の衝動購買因果プロセス・モデルを検証するにあたり共分散構造分析を用いた。この

分析技法は、直接観測できないような複数の概念について、概念と各観測変数との関係を表

フォントの

工夫

衝動購買率

在庫表示の

わかりやすさ

ウェブサイトの 基盤の強さ

正の影響

整然性

インタ

ラクティブ性

使用イメージの

良さ

消費者が知覚する

楽しさ

デザインの

統一性

消費者が知覚する

使いやすさ

情報の質

消費者が知覚する

有用性

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

65

す多重の測定方程式と、概念間の関係性を表す多重の構造方程式とを収集されたデータをも

とに最尤推定するものである。測定方程式は因子分析に、構造方程式は回帰分析にそれぞれ

対応している。そのため、多重の因子分析と多重の回帰分析を同時に実行していると見なせ

るような分析技法である(Hair, Anderson, Tatham and Black, 1995)。本論のモデルは、直接的

には観測できないような構成概念を内包しており、かつそれらの間の多重の因果関的関係を

想定しているため、上記のような特徴を有する共分散構造分析を用いることは妥当であると

考えられる。

第 2項 観測変数の設定

分析に際して、既存研究が存在する概念については、その測定尺度を採用し、既存研究が

存在しない概念に関しては本論で独自の測定尺度を用いて、各構成概念に対する複数の観測

変数を設定した。すなわち、「基盤の強さ」、「情報量」は Loiacono, Watson and Goodhue(2002)

および Parboteeah(2005)から、「インタラクティブ性」は、Liu(2003)および McMillan and

Huang(2002)から、それぞれ測定尺度を採用した。一方で、「使用イメージの良さ」、「フォ

ントの良さ」、「レビューの量」、「整然性」、「デザインの統一性」、「在庫表示のわかりやすさ」

については既存研究が存在しなかったため、本論独自で測定尺度を設定した。また、消費者

が知覚する楽しさ、有用性、使いやすさはすべて、Van der Heijden(2003)の測定尺度を用

いた。さらに、消費者のオンライン衝動購買は(Stern, 1962)の定義に基づいて、(純粋衝動

購買した商品の金額+想起衝動購買した商品の金額+提案受容型衝動購買した商品の金額

+計画衝動購買した商品の金額)を購買した全商品の金額で除した「金額ベースの衝動購買

率」を用いた。

第 3項 調査の概要

調査協力者は、アンケート投稿サイトである未来検索ブラジル実施の「コッソリアンケー

ト」のユーザー400 人である。そのうち有効回答者数は 353 人、有効回答率は 88.35%であっ

た。39 の都道府県在住者からの回答があり、年齢の内訳は図表 4 の通りである。回答者に

は、直近一回のネットでの購買を思い出してもらいながら、質問群に解答するように求めた。

「コッソリアンケート」では、事前調査として卒業研究調査に有償で協力できる人がいるか

どうか質問した。調査結果は 1000 人中 707 人が調査協力可能と答え、その後の本調査で 400

名は執筆者が作成した Google ドライブ上の調査票に回答を行った。アンケート投稿サイト

での調査を行った理由は、サンプルを幅広い年代と地域からランダムに集め、年齢や地域限

定的でない分析結果を得るためである

調査に採用された尺度法は 7 点リカート尺度であり、回答者は 7 段階の度合によって示さ

れた「まったくそう思わない」から「かなりそう思う」までの中から 1 つ選択するよう求め

られた。なお共分散構造分析の実行に際しては、IBM SPSS Amos ver. 22 を使用した。

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

66

図表 4 回答者の年齢の内訳

第 2節 分析結果

第 1項 モデルの全体的妥当性

本項において、モデルの全体的妥当性評価を行う。パス係数の推定には最尤推定法が用い

られている。最適化計算は正常に終了し、各モデルの全体的妥当性に関しては、図表 5 に要

約されるような結果が得られた。

図表 5 モデル全体の評価指標

χ2値(p 値) 323.25(0.00) CFI 0.97

χ2値/d.f. 1.79 RMSEA 0.05

GFI 0.93 AIC 499.24

まず、χ2値は、323.25 であった。また、χ

2値/d.f.は、1.79 という数値が出力され、既存研究

(Hair, et al. 1995)が推奨する 3.00 以下という基準を満たしていた。続いて、モデルの説明力を

示す GFI は 0.927 という結果が得られた。これは、既存研究(Bagozzi and Yi, 1988)が推奨する

0.900 以上という基準を満たす数値であり、本論のモデルの説明力が高いことを表している。

自由度の増減に伴うべき見せかけ上の適合度拡大を算出して考慮に入れた尺度である平均二

乗誤差平方根(RMSEA)についても、0.05 であり、既存研究(小塩,2010)の推奨する 0.05 と

いう基準値以下であるため、収集データは、それぞれに正しく適合していると判断できる。以上

より、これらのデータは本論のモデルに正しく適合していると判断できるだろう。

第 2項 モデルの部分的妥当性

本論のモデルについて、設定したパス係数の標準化係数推定値と t 値は、図表 6 に要約さ

れるとおりである。すべてのパス係数は、少なくとも 10%水準で有意であった。

40代

33%

30代

32%

20代

22%

50代

8%

10代

4% 60代

1%

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

67

図表 6 各モデルにおけるパス係数

仮説(予測された符号) 標準化推定値

(t 値)

仮説 1:消費者が知覚する楽しさ → オンライン衝動購買率 (+) 0.21 (3.76) ***

仮説 2:消費者が知覚する有用性 → 消費者が知覚する楽しさ (+) 0.21 (3.28) ***

仮説 3:消費者が知覚する使いやすさ → 消費者が知覚する楽しさ (+) 0.43 (4.24) ***

仮説 4:製品使用イメージの良さ → 消費者が知覚する楽しさ (+) 0.36 (6.24) ***

仮説 5:デザインの統一性 → 消費者が知覚する楽しさ (+) -0.21 (-3.56) ***

仮説 6:インタラクティブ性 → 消費者が知覚する楽しさ (+) -0.20 (-2.05) **

仮説 7:基盤の強さ → 消費者が知覚する有用性 (+) 0.15 (1.91) *

仮説 8:整然性 → 消費者が知覚する有用性 (+) 0.45 (3.99) ***

仮説 9:インタラクティブ性 → 消費者が知覚する有用性 (+) 0.18 (2.32) **

仮説 10:フォントの読みやすさ → 消費者が知覚する有用性 (+) 0.40 (2.72) ***

仮説 11:在庫数のわかりやすさ → 消費者が知覚する有用性 (+) -0.16 (-2.72) ***

仮説 12:デザインの統一性 → 消費者が知覚する使いやすさ (+) 0.12 (2.37) ***

仮説 13:整然性 → 消費者が知覚する使いやすさ (+) 0.30 (5.14) ***

仮説 14:インタラクティブ性 → 消費者が知覚する使いやすさ (+) 0.47 (5.77) ***

仮説 15:情報量 → 消費者が知覚する使いやすさ (+) 0.15 (2.84) ***

ただし、***、**、*はそれぞれ 1%、5%、10%水準で有意。

第 3節 分析結果の考察

第 1項 生体レベルの要因がオンライン衝動購買に及ぼす影響についての考察

生体レベルの要因からオンライン衝動購買への因果的関係について、「消費者が知覚する

楽しさ」からオンライン衝動購買率へのパス係数は、0.21 であり、1%水準で有意であった

(t=3.76)。これは、仮説 1 を経験的に支持している。つまり、消費者は Web 上での購買プ

ロセスにおいて、楽しさを知覚すると、購買行動に長い時間を費やしてしまい、その結果と

して購買を起こしてしまうということが考えられる。

第 2項 消費者の知覚(楽しさ、有用性、使いやすさ)に及ぼす影響についての考察

生体レベルの要因から「消費者が知覚する楽しさ」への因果的関係のうち、第 1 に、「消

費者が知覚する有用性」から「消費者が知覚する楽しさ」へのパス係数は、0.21 であり、1%

水準で有意であった(t=3.28)。これは仮説 2 を経験的に支持している。つまり「消費者の知

覚する楽しさ」は、安全・安定欲求を満たしたときにより増加することが考えられる。第 2

に、「消費者が知覚する使いやすさ」から「消費者が知覚する楽しさ」へのパス係数は、0.43

であり、1%水準で有意であった(t=4.24)。これは仮説 3 を経験的に支持している。つまり、

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

68

消費者は使いやすい Web サイトでの買い物に楽しさを感じるということが考えられる。

Web サイト属性から消費者の知覚(楽しさ、有用性、使いやすさ)への因果的関係のうち、

「消費者が知覚する楽しさ」の規定要因について、第 1 に、製品使用イメージの良さから「消

費者が知覚する楽しさ」へのパス係数は、0.36 であり、1%水準で有意であった(t=6.24)。

これは仮説 4 を経験的に支持している。つまり製品イメージが良く、楽しげであれば、消費

者はその Web サイトに対して楽しさを知覚することが考えられる。第 2 に、デザインの統

一性から「消費者が知覚する楽しさ」へのパス係数は、-0.21 であり、1%水準で有意であっ

た(t=-3.56)。このことは仮説 5 が経験的に支持されなかったことを意味している。つまり、

消費者は、デザインが統一されている Web サイトに対して単調さを感じるため、楽しさを

知覚しないのかもしれない。第 3 に、インタラクティブ性から「消費者が知覚する楽しさ」

へのパス係数は、-0.20 であり、5%水準で有意であった(t=-2.05)。このことは仮説 6 が経験

的に支持されなかったことを意味している。つまり、消費者はあまりに多機能で、簡単に目

的の商品にたどり着いてしまうと、購買プロセスそのものの楽しみを感じる時間が短いため、

楽しさを知覚しなくなるのかもしれない。

次に、消費者が知覚する有用性の規定要因について、第 1 に、基盤の強さから「消費者が

知覚する有用性」へのパス係数は、0.15 であり、10%水準で有意であった(t=1.91)。これは

仮説 7 を経験的に支持している。つまり消費者は Web サイトに対して安全性を感じるとき

のほうが、生産性の向上につながると知覚していることが考えられる。第 2 に、整然性から

「消費者が知覚する有用性」へのパス係数は、0.45 であり、1%水準で有意であった(t=3.99)。

これは仮説 8 を経験的に支持している。つまり、消費者は視覚的に見やすい Web サイトで

は、より素早く目的の製品や情報を見つけられるため、消費者が生産性の向上を知覚してい

ることが考えられる。第 3 に、インタラクティブ性から「消費者が知覚する有用性」へのパ

ス係数は、0.18 であり、5%水準で有意であった(t=2.32)。これは仮説 9 を経験的に支持し

ている。つまり、消費者が思っている通りに Web サイトが反応したり、目的の製品を見つ

けるために多機能であれば、簡単に購買を進めることができるため、生産性の向上を知覚し

ていることが考えられる。第 4 に、フォントの読みやすさから「消費者が知覚する有用性」

へのパス係数は、0.40 であり、1%水準で有意であった(t=2.72)。これは仮説 10 を経験的に

支持している。つまり、消費者は、フォントの読みやすい Web サイトにおいて、より労力

を使わずに目的の情報を探し出すことができるため、消費者は生産性の向上を知覚している

ことが考えられる。第 5 に、在庫数のわかりやすさから「消費者が知覚する有用性」へのパ

ス係数は、-0.16 であり、1%水準で有意であった(t=-2.72)。これは仮説 11 が経験的に支持

されなかったことを意味している。つまり、在庫数の表示がわかりやすいと、残り数が少な

いときに心理的負担が増加し、合理的な判断を下すのが難しくなるため、消費者は生産性を

感じないのかもしれない。

最後に、消費者が知覚する使いやすさの規定要因として、第 1 に、デザインの統一性から

「消費者が知覚する使いやすさ」へのパス係数は、0.12 であり、1%水準で有意であった

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

69

(t=2.37)。これは仮説 12 を経験的に支持している。つまり、消費者は、Web サイトデザイ

ンが統一化されているとき、その Web サイトの操作方法を簡単に把握することができるた

め、使いやすいと知覚することが考えられる。第 2 に、整然性から「消費者が知覚する使い

やすさ」へのパス係数は、0.30 であり、1%水準で有意であった(t=5.14)。これは仮説 13 を

経験的に支持している。つまり、消費者は、視覚的に整然としていて、目的の情報をより簡

単に見つけられるときに、使いやすさを知覚することが考えられる。第 3 に、インタラクテ

ィブ性から「消費者が知覚する使いやすさ」へのパス係数は、0.47 であり、1%水準で有意

であった(t=5.77)。これは仮説 14 を経験的に支持している。つまりと消費者は、意のまま

に Web サイトを閲覧できたり、検索機能やソート機能が高機能であるときに、使いやすさ

を知覚していることが考えられる。第 4 に、情報量から「消費者が知覚する使いやすさ」へ

のパス係数は、0.15 であり、1%水準で有意であった(t=2.84)。これは仮説 15 を経験的に支

持している。つまり、消費者が購買を決めるのに十分な情報をその Web サイトで入手でき

れば、その他のサイトで情報収集しなければならない手間が省けるため、消費者が使いやす

いと知覚していることが考えられる。

第 5章 おわりに-インプリケーション、本論の限界および今後の課題

第 1節 学術的インプリケーション

本論は、Parboteeah(2005)が提唱するオンライン衝動購買のプロセスに関するモデルに

基づきつつ、刺激要因である Web サイト属性が、生体内の消費者の知覚を介して、オンラ

イン衝動購買に及ぼす影響を理論的かつ実証的に明らかにした。このような本論は、いくつ

かの学術上の貢献をなしている。

第 1 に、オンライン衝動購買プロセスについて Parboteeah(2005)は刺激要因について基

盤的強固さと視覚的訴求の 2 つ概念についてのみ実証分析を行っていただけであった。本論

では、これらをより細分化したものにするために、8 つの Web サイト属性を用いて仮説を構

築し、さらに実証分析を行った。そしてその結果が理論的にも、経験的にも妥当なものであ

った。Parboteeah(2005)のモデルを拡張し、様々な Web サイト属性が消費者の生体にどの

ような影響を及ぼすのかを明らかにした点で、本論はオンラインにおける消費者行動研究の

発展に貢献した。

第 2 に、既存研究において、刺激要因は Web サイトの品質や鮮明さなど、抽象的なもの

についてばかり実証分析が行われていた。本論では、より具体的な Web サイト属性を 8 つ

設定し、それが消費者の生体にどのような影響を及ぼすのか、仮説を構築し、実証分析を行

った。そしてその結果が理論的にも、経験的にも妥当なものであった。本論は既存研究で実

証分析が行われていない多くの刺激要因について、それらの生体への影響を実証分析で明ら

かにしたため、多くの新たな発見をすることができた。

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

70

第 3 に、Parboteeah(2005)や Liu, et al.(2013)らは、「消費者が知覚する使いやすさ」を

生体レベルではなく刺激レベルで取り扱っており、「消費者が知覚する使いやすさ」を規定

する要因が明らかになっていないという問題点について、本論では、それを生体レベルに設

定し、モデルを構築することによって、従来明らかにされていなかった「消費者が知覚する

使いやすさ」を規定する要因を明らかにすることに成功した。また、そのことによって、従

来、「消費者が知覚する有用性」に影響を及ぼすと考えられていた要因について、実際には

「消費者が知覚する使いやすさ」に影響を及ぼしているということも本論によって明らかに

した。

このように、本論は、オンラインにおける消費者行動研究にいくつかの学術的貢献をなし

ていると言えるであろう。

第 2節 実務的インプリケーション

第 3章において提唱した仮説と第 4章におけるそれらの仮説に関する実証分析の結果を統

合すると、今後、オンラインストア内における消費者の衝動購買を促進することによって、

オンラインストアの売り上げが向上するような様々な方法を示唆することができるだろう。

まず、基盤的側面に関して、Web サイトのセキュリティやサーバーの強固さは必須事項で

あろう。これは消費者がそのオンラインストアを利用するか否かがかかっている重要な要因

である。

次に機能的側面に関して、操作性や検索機能の強化は消費者が有用性や使いやすさを知覚

する重要な機能であると言えよう。他方で、これらの機能は、消費者の楽しさの知覚を弱め

る要因でもあるので、楽しげなオンラインストアを作成したい販売者にとっては注意が必要

である。

最後に、視覚的側面に関して、フォントの工夫は必ず行うべきだろう。消費者はフォント

の見やすい Web サイトに対して、有用性を感じる傾向にあるからである。また、Web サイ

トデザインをすっきりとさせて、見やすい Web サイトを作成することも有用性を感じさせ

る重要な要因である。フォントの見やすさの向上と Web サイトデザインをシンプルにする

ことによって消費者は有用性を知覚し、有用性は「消費者が知覚する楽しさ」を介して、オ

ンライン衝動購買のきっかけとなる。また、Web サイトデザインをシンプルに見やすくする

ことによって、消費者は使いやすさも感じさせることができる。その他にも、インタラクテ

ィブ性や Web サイトデザインの統一感、情報の質は、消費者に使いやすさを知覚させる。

消費者は使いやすさを知覚すれば、楽しさを感じ、それがオンライン衝動購買のきっかけと

なる。そのため、Web サイトデザインのシンプルさ、インタラクティブ性、Web サイトデザ

インの統一感、情報の質を高めることは重要である。一方で、消費者に購買プロセスの楽し

さを感じさせるために、製品の使用イメージの雰囲気を楽しいものにすることが求められる。

製品の使用イメージは消費者に楽しさを感じさせる重要な要因だからである。そして消費者

は楽しさを知覚すると、それが衝動購買のきっかけとなる。そのため、使用イメージの良さ

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

71

を高めることは重要であろう。

第 3節 本論の限界

本論にはいくつかの限界が挙げられる。第 1 に、Web 上での調査であったことで、回答者

の PC や携帯電話の使用スキルによって、回答時の気分が変わってしまう可能性が考えられ

る。第 2 に、調査対象を「製品の吟味から購買までのプロセスを 1 つの Web サイト上で行

っている場合」のみに、限定してしまっていた。オンラインの文脈では、実際の店舗の場合

と異なり、店舗間の移動コストがほとんど 0 に等しい。そのような状況では、実際に製品に

ついて情報収集するサイト(例えば、「価格.com」など)と、実際に製品を購買するサイト

が異なっている可能性がある。

第 4節 今後の課題

いくつかの限界が指摘されるものの、本論の成果に基づいて今後、次のような研究の展開

が期待される。まず、楽しさを規定する要因を 1 つしか特定化することができなかったため、

楽しさを規定するより多くの要因を特定化することが今後の研究には求められるだろう。本

論は、1 店舗での衝動購買プロセスにのみ焦点を合わせている研究であった。今後の研究で

は、次の 2 種類の研究に展開することができるだろう。第 1 に購買意欲を促す要因を持って

おり、製品に関する情報収集に適した Web サイトに関する研究。第 2 に購買意図を促す要

因を持っており、購買に直接的につながる Web サイトに関する研究である。それぞれの Web

サイトは、収益構造も違うため、異なる特徴が存在しているはずである。

追記:本研究を進めるにあたり、ご指導を頂いた卒業論文指導教員の森岡耕作専任講師に感

謝致します。また、日常の議論を通じて多くの知識や示唆を頂いた東京経済大学経営学部森

岡耕作ゼミナールの皆様に感謝します。

参考文献

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未来検索ブラジル-コッソリアンケート(β)

(http://find.2ch.net/enq/result.php/74431/l50, 2014 年 1 月 16 日アクセス)

千葉健登「オンライン衝動購買の規定要因」

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補録 1 各構成概念とその観測変数

構成概念 観測変数 α

係数 引用元

消費者が知覚する

楽しさ

・私はそのウェブサイトを楽しむために見た。

・そのウェブサイトをみることは、時間をつぶすのに良い 0.759

Van der

Heijden(2003)

消費者が知覚する

有用性

・そのウェブサイトは、私にとって役に立つサイトだと思う。

・そのウェブサイトは、私にとって価値がある。 0.727

Van der

Heijden(2003)

消費者が知覚する

使いやすさ

・そのウェブサイトで、あちこち検索することは簡単だった。

・私が知りたい情報をすぐに見つけることができた。 0.728

Van der

Heijden(2004)

製品使用イメージ

の良さ

・そのウェブサイトの製品の使用イメージは、楽しげであった。

・そのウェブサイトの製品の使用イメージに、

幸福感を得られそうだった。

0.760 本論独自に

作成

デザインの統一性

・そのウェブサイトは、どの製品ページも構造的に似ていた。

・そのウェブサイトは多くの製品ページで、

同一のページレイアウトが使われていた。

0.761 本論独自に

作成

インタラクティブ

・そのウェブサイトで、私は検索エンジンや

カテゴリ分けなどの機能を活用した。

・私はそのウェブサイトを、意のままに閲覧することができた。

0.737 Liu(2003)

基盤の強さ ・そのウェブサイトで、私は買い物の手続きに安全さを感じた。

・そのウェブサイトでは、私は個人情報の安全が信じられる。 0.735

Loiacono, et al.

(2002)

整然性 ・そのウェブサイトは視覚的にシンプルであった。

・そのウェブサイトは見やすい工夫がなされていた。 0.745

本論独自に

作成

フォントの

読みやすさ

・そのウェブサイトのフォントは色や大きさに違いがあった。

・そのウェブサイトのフォントには読みやすい工夫が

なされていなかった。

0.808 本論独自に

作成

在庫数の

わかりやすさ

・そのウェブサイトは、製品の在庫がリアルタイムに

表示されていた。

・そのウェブサイトでは、製品の残り数がわからなかった。

0.763 本論独自に

作成

情報量

・そのウェブサイトの情報は、私が必要な情報を得るのに

十分であった。

・そのウェブサイトは、私に必要な情報を十分に提供した。

0.742 Loiacono, et al.

(2002)

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補録 2 調査票

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