enjin strategies during competitive sport matches: a case

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競技スポーツの試合場面における円陣行動に対する実践者の認識 -大学女子バスケットボールチームを事例として- 日 比 千 里 *     青 柳 健 隆 **,*** 荒 井 弘 和 **** 守 屋 志 保 ***** 岡   浩一朗 ****** Practitioners’ Perceptions of Enjin Strategies during Competitive Sport Matches: A Case Study of a Women’s Collegiate Basketball Team Chisato HIBI , Kenryu AOYAGI **,*** Hirokazu ARAI **** Shiho MORIYA ***** and Koichiro OKA ****** Abstract In competitive sports, the enhancing of physical abilities, technical skills, and psycholog- ical states is vital for excelling in competition. A team’s psychological wellbeing is often the deciding factor in team sport success. Nevertheless, few efficient strategies have been made for boosting teams’ psychological states, particularly during matches. Therefore, the aim of this study was to investigate practitioners’ perceptions of Enjin forming a circlestrategies used to enhance a team’s psychological acuity during matches. In addition, motivations to ini- tiate Enjin strategies, content, and changes observed after implementing these strategies were emphasized. The study was conducted following three steps. First, a women’s collegiate bas- ketball team’s Enjin strategies were observed and recorded during an official match. Second, a team coach and four players were interviewed concerning these strategies, after viewing a recording of the match. The participants were requested to provide 1motivations to imple- ment Enjin strategies; 2Enjin content; and 3changes experienced after implementing Enjin strategies. Third, the study results were analyzed following the KJ method. The analysis revealed seven motivations, including “routine,” “desire to enhance team cohesion,” and “foul play.” In addition, four types of Enjin content were identified, including “encouragement,” “information on tactics,” “apologizing,” and “battle cries.” Subsequently, eleven changes, in- cluding “enhanced team cohesion”, “shared perspectives among team members,” and “improved excitement levels,” were identified. It was inferred that Enjin strategies enhanced the teams’ スポーツ産業学研究,Vol.25,No.1(2015),11~24. 原稿受付 2014年5月19日  原稿受諾 2014年10月14日 株式会社チームビルディングジャパン 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-11-16 さいかち坂ビル403 ** 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 〒359-1192 埼玉県所沢市三ケ島2-579-15 *** 日本学術振興会 〒102-0083 東京都千代田区麹町5-3-1 麹町ビジネスセンター **** 法政大学文学部 〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1 ***** 江戸川大学社会学部 〒270-0198 千葉県流山市駒木474 ****** 早稲田大学スポーツ科学学術院 〒359-1192 埼玉県所沢市三ケ島2-579-15 Team Building Japan Co., Ltd., Saikachizaka Building 403, 2-11-16, Kandasurugadai, Chiyoda-ku, Tokyo, Japan (101-0062) ** Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, 2-579-15, Mikajima, Tokorozawa, Saitama, Japan (359-1192) *** Japan Society for the Promotion of Science, Koujimachi Business Center, 5-3-1, Koujimachi, Chiyoda-ku, Tokyo, Japan (102-0083) **** Faculty of Letters, Hosei University, 2-17-1, Fujimi, Chiyoda-ku, Tokyo, Japan (102-8160) ***** College of Sociology, Edogawa University, 474, Komagi, Nagareyama, Chiba, Japan (270-0198) ****** Faculty of Sport Sciences, Waseda University, 2-579-15, Mikajima, Tokorozawa, Saitama, Japan (359-1192) 11

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競技スポーツの試合場面における円陣行動に対する実践者の認識-大学女子バスケットボールチームを事例として-†

日 比 千 里*      青 柳 健 隆**,***  荒 井 弘 和****

守 屋 志 保*****  岡   浩一朗******             

Practitioners’ Perceptions of Enjin Strategies during Competitive

Sport Matches: A Case Study of a Women’s Collegiate Basketball Team†

Chisato HIBI*, Kenryu AOYAGI**,***, Hirokazu ARAI****

Shiho MORIYA***** and Koichiro OKA******

Abstract  In competitive sports, the enhancing of physical abilities, technical skills, and psycholog-ical states is vital for excelling in competition. A team’s psychological wellbeing is often the deciding factor in team sport success. Nevertheless, few efficient strategies have been made for boosting teams’ psychological states, particularly during matches. Therefore, the aim of this study was to investigate practitioners’ perceptions of Enjin (forming a circle) strategies used to enhance a team’s psychological acuity during matches. In addition, motivations to ini-tiate Enjin strategies, content, and changes observed after implementing these strategies were emphasized. The study was conducted following three steps. First, a women’s collegiate bas-ketball team’s Enjin strategies were observed and recorded during an official match. Second, a team coach and four players were interviewed concerning these strategies, after viewing a recording of the match. The participants were requested to provide (1) motivations to imple-ment Enjin strategies; (2) Enjin content; and (3) changes experienced after implementing Enjin strategies. Third, the study results were analyzed following the KJ method. The analysis revealed seven motivations, including “routine,” “desire to enhance team cohesion,” and “foul play.” In addition, four types of Enjin content were identified, including “encouragement,” “information on tactics,” “apologizing,” and “battle cries.” Subsequently, eleven changes, in-cluding “enhanced team cohesion”, “shared perspectives among team members,” and “improved excitement levels,” were identified. It was inferred that Enjin strategies enhanced the teams’

スポーツ産業学研究,Vol.25,No.1(2015),11 ~ 24.

     †原稿受付 2014年5月19日  原稿受諾 2014年10月14日     *株式会社チームビルディングジャパン 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-11-16 さいかち坂ビル403    **早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 〒359-1192 埼玉県所沢市三ケ島2-579-15   ***日本学術振興会 〒102-0083 東京都千代田区麹町5-3-1 麹町ビジネスセンター  ****法政大学文学部 〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1 *****江戸川大学社会学部 〒270-0198 千葉県流山市駒木474******早稲田大学スポーツ科学学術院 〒359-1192 埼玉県所沢市三ケ島2-579-15     *Team Building Japan Co., Ltd., Saikachizaka Building 403, 2-11-16, Kandasurugadai, Chiyoda-ku, Tokyo, Japan (101-0062)    **Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, 2-579-15, Mikajima, Tokorozawa, Saitama, Japan (359-1192)   ***Japan Society for the Promotion of Science, Koujimachi Business Center, 5-3-1, Koujimachi, Chiyoda-ku, Tokyo, Japan (102-0083)  ****Faculty of Letters, Hosei University, 2-17-1, Fujimi, Chiyoda-ku, Tokyo, Japan (102-8160) *****College of Sociology, Edogawa University, 474, Komagi, Nagareyama, Chiba, Japan (270-0198)******Faculty of Sport Sciences, Waseda University, 2-579-15, Mikajima, Tokorozawa, Saitama, Japan (359-1192)

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行動に着目した.大学サッカーチームがチームワークを高める取り組みとして,試合前に円陣行動を行った事例4)や,オリンピックのスピードスケート女子団体追い抜きにおいて,競技者が試合前に円陣行動を行って気持ちを1つにまとめたという報告5)があることなどから,円陣行動は,集団の心理面を向上させる有効な方略であると推察される.また堀ら6)は,人々が円形の配置になることの効果として,⑴全員が対等な立場で発言できること,⑵全員とアイコンタクトを取ることが可能で,コミュニケーションが活発になること,⑶メンバーのエネルギーが中心に集まりやすく,皆で何かをつくりあげていくという一体感が醸成されやすいことを指摘している.このことから円形の配置となる円陣行動も,メンバー同士の発言およびコミュニケーションの活性化や,一体感の醸成を促す機能を持つ可能性がある. しかし,競技スポーツで行われる円陣行動についての研究は,これまでに行われていないため,学術的な根拠に基づく円陣行動の機能は明らかになっていない.その機能の一端や今後の研究の方向性を見出すためには,まず実践者である競技者や指導者の認識を調査することが必要であると考えた.そこで本研究では,円陣行動が持つ機能を明らかにするための第1段階として,円陣行動を行う実践者が,それを行う際にどのような認識を持っているのかを明らかにすることを目的とした.

2.方     法

 まず試合の撮影と観察を行い,次に実践者へのインタビューを実施した.また本研究では,実践者の認識として,試合場面で円陣行動を行う理由,行った円陣行動の内容,そして円陣行動後の変化について調査した.調査にあたって

1.緒     言

 競技スポーツにおいて,高い競技成績を出すためには体力や技術の向上が不可欠である.それと同様に,心を強化したり整えたりすることも重要である1).中込2)によれば,わが国では1980年代からスポーツ競技者の心理サポートが実践されるようになり,心理スキルの指導や心理的問題の解決,競技生活の支援,競技現場での助言が行われている.その中でも,心理スキルの指導に用いられるメンタルトレーニングには,様々な技法が存在し,特に競技者に普及していることが指摘されている.そしてこれらは,主に競技者自身が個人として取り組む心理面への対処法として活用されている. ところで集団(チーム)スポーツにおいては,競技者個人の心理面だけではなく,集団全体としてのチームワークにも注目する必要がある.石井3)によれば,チームワークとは,メンバーが協同する動作のことを指し,スポーツにおけるチームワークは,技術的側面とメンバーの心理的側面の2つの側面からなるという.さらにその心理的側面には,凝集性すなわち団結心,まとまり,雰囲気および集団の士気,やる気などの側面が重要であることが指摘されている.現在では,上述のような集団の心理面を向上させるためにチームビルディングなどの手法が用いられている. しかし,競技者が個人の心理面に活用可能な方略の数に比べ,集団の心理面に活用できる方略は少ない.特に試合場面で競技者自らが用いることのできる方略は,ほとんど明らかにされておらず,その方略が明らかになることは,競技者に対して有益な情報提供となることが考えられる.そこで本研究は,集団の心理面を向上させ,試合場面で活用できる方略として,円陣

psychological states, based on these results. However, additional studies involving several teams, games, events, and genders are required to complement these results.

Key words : �Group, Mental Training, Psychological State, Team Building, KJ Method

試合場面における円陣行動に対する実践者の認識12

2.2 対象者 本研究では,女子バスケットボールを対象とした.バスケットボールは,集団スポーツである上,タイムアウトやフリースロー時などにプレー時間が止まることも多く,円陣行動が行われやすい種目である.さらに調査研究者が,女子バスケットボール競技を10年経験しており,実践者の認識を深く考察することができると考えたため,本研究の対象とした. 対象者は,関東圏にある大学体育会女子バスケットボール部のうち,高い競技力を有していると考えられる1チーム(関東大学女子バスケットボール選手権大会前年度ベスト8進出)であった.インタビューでは,対象チームの競技者のうち「役職の有無」,「スターティングメンバーとベンチメンバー」,「ポジション」および「学年」にばらつきが出るよう考慮し,属性の異なる者を選定した.さらに,試合中の円陣行動には,指導者やスタッフが参加する場合もあるため,今回は指導者も対象者として選定した.その結果,インタビュー対象者として,監督,キャプテンかつスターティングメンバーで試合に出場したフォワードポジションの4年生(競技者A),スターティングメンバーで試合に出場したガードポジションの3年生(競技者B),ベンチメンバーで試合に出場したガードポジションの3年生(競技者C),ベンチメンバーで試合に出場したセンターポジションの2年生(競技者D)の計5名が選定された.1年生は,調査対象とした公式試合の実施時点で

本研究で採択した円陣行動の基準,対象者,手続き,インタビュー内容,分析方法は以下の通りである.

2.1 円陣行動の基準 スポーツ科学を専攻している修士課程の大学院生1名(バスケットボール競技経験10年),博士課程の大学院生1名,スポーツ心理学を専門とする大学教員(上級スポーツメンタルトレーニング指導士)1名の合計3名で合議し,以下のような円陣行動の基準を作成した.以後の円陣行動は,この基準に基づいてデータ収集および分析を行った.⑴円陣行動の人数 3人以上で行っているもの.⑵円陣行動の形状 メンバーが円状に配列しているもの.⑶円陣行動の範囲(図1) 円陣行動を行うメンバーが,決められた一定の型に入るところ(段階1)から,メンバーが一斉に声を出すまたは一斉に動作を行うまで(段階2)を円陣行動の範囲とした.型とは,円陣行動を行うメンバーの間で共通認識された隊形やポーズのことを指す.本研究では,段階1を「編成」,段階2を「同期」と名付けた.なお,一定の型に入る前の作戦会議や,解散後の声かけなどは,円陣行動には含まないものとした.

スポーツ産業学研究,Vol.25,No.1(2015),11 ~ 24.13

段階1:決められた一定の型に入る

<編成>

段階3:解散する段階2:一斉に声を出す

(一斉に動作をする)

<円陣行動>

<同期>

図1 円陣行動の範囲

図1 円陣行動の範囲

象者に対してインタビューを行った.インタビューでは,Martinent�et�al. 9)の手法をもとに,撮影した試合映像をポータブルDVDプレーヤー(BLUEDOT製�BDP-1030K)で提示しながら,1人あたり60-80分程度の半構造化インタビューを行った.その内容は全て録音した.インタビュー対象とした試合は,対象チームが参加した5試合目の7-8位決定戦1試合分であった.この試合を選定した理由は,インタビュー実施期間に最も近い日程で開催され,記憶が鮮明であると予想されたため,全5試合のうちでも,円陣行動の回数が比較的多かった(5試合中2番目)ためである.なお,インタビュー時には対象者の負担を軽減させるため,試合映像を1.5倍速で再生した.しかし,円陣行動が行われる前後や対象者が重要と思う場面では,標準速度での再生および映像の停止を行い,情報に漏れのないよう対応した.インタビュー時期は,2012年6月13日-8月11日であった.

2.4 インタビュー内容 質問項目については,Martinent�et�al.9)を参考にインタビューガイドを作成し,対象者に対してそれぞれの円陣行動ごとに以下の5つの質問を行った.⑴チームの雰囲気:映像に映っている場面でのチームの雰囲気について. 質問:「このときのチームの雰囲気はどうでしたか?」⑵試合の戦況:映像に映っている場面での試合の戦況について. 質問:「このときの試合の流れはどうでしたか?」⑶円陣行動を行う理由:円陣行動が行われた際,そのきっかけとなった理由について. 質問:「このときは,どうして円陣を組もうと思ったのですか?」⑷円陣行動の内容:円陣行動中に話した内容について. 質問:「このときは,どんな内容を話していましたか?」

チームに1ヵ月程度しか所属していなかったことから,公式試合における自分自身やチームメイトの状態を明瞭に観察・分析し,言語化することは難しいと考え,対象者から除外した.

2.3 手続き⑴試合の撮影と観察 2012年5月15-19日に行われた公式大会を撮影および観察した.大会は,関東圏にある大学体育会女子バスケットボール部88校が出場するものであった.シード校16チーム以外,グループによるリーグ戦を行い,トーナメント方式でベスト4まで決定した後,ベスト4による決勝リーグおよび5-8位決定戦を実施して,順位を決定する大会であった.対象チームは,シード校16チームに含まれており,今大会のベスト32位以上を決定するトーナメントから試合に参加して,順位決定戦までの全5試合に出場した. 試合当日は,ビデオカメラ(Panasonic製HDC-TM45・60)を2台用いて,試合開始3分前から第2ピリオド終了時まで,第3ピリオド開始3分前から試合終了までを撮影した.1台はコート上の競技者,残り1台は,円陣行動が頻繁に行われる場所であるベンチの様子を撮影した.同時に観察者1名(バスケットボール競技経験10年,スポーツ科学を専攻する修士課程の大学院生)が,円陣行動の行われるタイミングや回数,試合の流れ(タイムアウトや得点など)を記録した.その後,ビデオカメラで撮影した映像を見ながら,円陣行動の行われるタイミングや回数などを再確認した.⑵インタビュー インタビューは全て,試合の観察者と同一のバスケットボール競技経験10年,スポーツ科学を専攻する修士課程の大学院生1名が行った.まず,原7)および河西8)を参考にインタビューの流れや要点を確認した後,バスケットボールのクラブチームに所属し,スポーツ科学を専攻する修士課程の大学院生1名(女性)に対して,模擬インタビューを実施した.それに対するフィードバックを受けた後,実際の対

試合場面における円陣行動に対する実践者の認識14

3.結     果

3.1 試合と円陣行動の概要 調査対象とした試合において,対象チームは103対72で敗北した.観察から得られた試合の流れ,インタビューから得られたチームの雰囲気および試合の戦況を表1に示す.得られたカテゴリは,「P:ポジティブな状態」,「N:ネガティブな状態」,「PN:中立な状態」を表す報告としてそれぞれまとめられた.また,対象チームが試合場面で行った円陣行動の概要(場面,タイミング,場所,メンバー,型)を表2に示す.試合前では2回,試合中・コート外では13回,試合中・コート内では2回,合計17回の円陣行動が観察された.

3.2 円陣行動を行う理由 円陣行動を行う理由について,KJ法を行った結果を表3に示した.なお本研究では,場面を≪ ≫内,実際に報告された回答を「 」内,サブカテゴリを『 』内,カテゴリを【 】内に示している. ≪試合前≫では『決まりごと』,≪試合中・コート外≫では『決まりごと』と『盛り上げたい気持ち』,≪試合中・コート内≫では,『発案する競技者の存在』,『試合の流れが悪いこと』,『落ち着かせたい気持ち』,『一体感を高めたい気持ち』,『ファール』というサブカテゴリが得られた.

3.3 円陣行動の内容 KJ法によって得られた円陣行動の内容について,結果を表4に示した.≪試合前≫では,『激励する言葉がけ』というサブカテゴリが得られ,それが【編成】というカテゴリに分類された.また『かけ声』は,【同期】に分類された.�≪試合中・コート外≫では,『激励する言葉がけ』,『戦術の確認』というサブカテゴリが【編成】へ,『かけ声』が【同期】へ集約された.≪試合中・コート内≫では,『戦術の確認』,『激励する言葉がけ』,『謝罪』が【編成】に,『かけ声』が【同期】に分類された.

⑸円陣行動後の変化:円陣行動が終了した後の変化について. 質問:「この円陣を組んだ後はどのような気持ちでしたか?何か変化はありましたか?」

2.5 分析方法 まず,インタビューで録音した音声から逐語録を作成した(75,419字).次に,報告された⑴チームの雰囲気,⑵試合の戦況,⑶円陣行動を行う理由,⑷円陣行動の内容,⑸円陣行動後の変化それぞれに分けて回答をまとめた.その後の分析にはKJ法10)を用いた.⑴チームの雰囲気,⑵試合の戦況は,試合の流れに沿ってピリオドごとに分析を行った.⑶-⑸の円陣行動に関する回答は,バスケットボールで円陣行動が頻繁に行われる次の3場面ごとに分けて分析を行った.場面1は試合前,場面2は試合中のコート外で行われたもの(タイムアウト時や各ピリオド間のインターバル時),場面3は試合中のコート内で行われたものであった. 回答内容の整理・集約は,KJ法の4つのステップのうち,1つ目の「紙切れづくり」および2つ目の「グループ編成」に基づいて行った.報告された回答を改変することなく1つずつカードにした上で,作業者間で議論を行い,研究目的に鑑みて同意にいたるまで吟味・検討して,それらのカードをカテゴリに整理・集約した.集約が困難な回答があった場合は,無理に他の回答群に集約せず,そのまま独立して扱った.また,内容があいまいな回答および意味が不明瞭な回答は,分析の過程で除外した.なお分析作業は,円陣行動の基準を作成した者と同様の3名で実施した.

2.6 倫理的配慮 調査実施にあたっては,早稲田大学に設置された人を対象とする研究に関する倫理審査委員会において審査を受け,承認を得た(申請番号2012-100).調査対象者および公式大会の主催者にも事前に研究内容を説明し,協力の承認を得てから調査を実施した.

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試合場面における円陣行動に対する実践者の認識16

表1 試合の流れとチームの雰囲気および試合の戦況

【試合前】 円陣①② <チームの雰囲気> <試合の戦況>P 一体感がある⑷やる気がある⑷緊張感がある⑵

N 不安がある⑶前回の敗戦を引きずっている⑵一部の選手への不信感⑵

【第1P】 <チームの雰囲気> <試合の戦況>9:27 ○ファール N 暗い⑹ N 良くない⑹8:40 ○ファール 前回の敗戦を引きずっている⑵ 勢いに乗れなかった⑷8:28 ○ファール 途中から悪化した⑵ 途中から悪化した⑷7:26 ●ファール 一体感がない⑴ 自分たちのプレーが出せない⑵6:47 ○ファール

●交替○交替

5:39 ○ファール●交替

4:40 ○ファール○交替

4:23 ●ファール3:22 ●タイムアウト2:14 円陣③④0:27 ●交替0:05 ●ファール

○交替

○32vs●17

【第2P】 円陣⑤⑥ <チームの雰囲気> <試合の戦況>9:16 ●ファール P 雰囲気が改善される兆し⑴ N 良くない⑺7:29 ●ファール 得点が取れない⑷

●交替 N 暗い⑻ 相手が得点を取る⑶6:34 ●交替 不安がある⑴ 自分たちのプレーが出せない⑴5:28 ●ファール 疲労感の漂い⑴ 流れを改善できない⑴4:40 ●ファール3:51 ●ファール

○交替●交替

2:16 ○ファール○交替

1:45 ●ファール円陣⑦

○53vs●30

注)カッコ内は報告された回答の数を示す.○:相手チーム,●:対象チーム,P:ポジティブ,N:ネガティブ,PN:中立を示す.

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表1 試合の流れとチームの雰囲気および試合の戦況(続き)

【第3P】 円陣⑧⑨⑩ <チームの雰囲気> <試合の戦況>9:53 ○ファール P 雰囲気の改善⑸ P 流れが改善される⑶9:36 ●ファール 開き直り⑶ ディフェンスが良くなった⑶9:25 ○ファール 1人1人に主体性がある⑶ 自分たちのプレーが出てきた⑴9:08 ●ファール 切り替わる⑵

●交替 粘り強い⑴ N 一部の選手の不調⑶8:21 トラブルによる中断

円陣⑪⑫ N 暗い⑵ PN 良くも悪くもない⑵5:29 ●ファール 危機感がある⑵4:30 ○タイムアウト

円陣⑬⑭4:18 ●ファール

○交替3:07 ●ファール1:51 ●ファール

○交替1:29 ●ファール

○交替●交替

1:19 ○ファール

○84vs●53

【第4P】 円陣⑮⑯ <チームの雰囲気> <試合の戦況>9:46 ○ファール P 諦めない⑷ P 流れが改善される⑶9:14 ●ファール 自分のプレーをしている⑶ 自分たちのプレーが出てきた⑴9:10 ○ファール 最後までしっかりプレーする⑶7:12 ●ファール 開き直り⑵ N 勝負としては成立していない⑵

○交替 雰囲気の改善⑴7:00 ○ファール6:22 ○ファール N 疲労感の漂い⑴5:58 ●ファール5:04 ○交替4:39 ○交替3:07 ○交替2:57 ○ファール2:47 ○ファール

円陣⑰2:23 ○ファール2:04 ●ファール1:25 ●ファール

●交替0:04 ●ファール

○103vs●72

注)カッコ内は報告された回答の数を示す.○:相手チーム,●:対象チーム,P:ポジティブ,N:ネガティブ,PN:中立を示す.

試合場面における円陣行動に対する実践者の認識18

表2 試合場面で行われた円陣行動の概要

場面 タイミング 場所 メンバー 型① 試合前 第1P�開始前 ベンチ 選手全員・スタッフ・監督 手を中心に掲げる② 試合前 第1P�開始前 ベンチ スターティングメンバー 下で手をつなぐ③ 試合中・コート外 第1P�タイムアウト ベンチ 選手全員・スタッフ・監督 手を中心に掲げる④ 試合中・コート外 第1P�タイムアウト ベンチ スターティングメンバー 下で手をつなぐ⑤ 試合中・コート外 第2P�開始前 ベンチ 選手全員・スタッフ・監督 手を中心に掲げる⑥ 試合中・コート外 第2P�開始前 ベンチ スターティングメンバー 下で手をつなぐ⑦ 試合中・コート内 第2P�残り1分45秒 コート内 出場メンバー 下で手をつなぐ⑧ 試合中・コート外 第3P�開始前 ベンチ 選手全員・スタッフ・監督 手を中心に掲げる⑨ 試合中・コート外 第3P�開始前 ベンチ スターティングメンバー 下で手をつなぐ⑩ 試合中・コート外 第3P�開始前 ベンチ ベンチメンバー 手を中心に掲げる⑪ 試合中・コート外 第3P�試合の中断 ベンチ 選手全員・スタッフ・監督 手を中心に掲げる⑫ 試合中・コート外 第3P�試合の中断 ベンチ スターティングメンバー 下で手をつなぐ⑬ 試合中・コート外 第3P�タイムアウト ベンチ 選手全員・スタッフ・監督 手を中心に掲げる⑭ 試合中・コート外 第3P�タイムアウト ベンチ スターティングメンバー 下で手をつなぐ⑮ 試合中・コート外 第4P�開始前 ベンチ 選手全員・スタッフ・監督 手を中心に掲げる⑯ 試合中・コート外 第4P�開始前 ベンチ スターティングメンバー 下で手をつなぐ⑰ 試合中・コート内 第4P�残り2分47秒 コート内 出場メンバー 下で手をつなぐ

表3 円陣行動を行う理由のKJ法の結果

場面 カテゴリ サブカテゴリ 実際に報告された回答例試合前 決まりごと⑽ ・決まってました.

・ルーティン.試合中・コート外

決まりごと⑹ ・決まりです.・試合のピリオドのスタートとタイムアウトのスタートはルーティン.

盛り上げたい気持ち⑵ ・「ピリオドの最初に盛り上げよう」みたいな.・ベンチがやっぱ沈んじゃあ.出てる5人を押してあげる感じ.

試合中・コート内

発案する競技者の存在⑻ ・これ自分が言い出してます.・このときは,Cさん.

試合の流れが悪いこと⑶ ・流れが悪くなったりとか.・前半最後を少しでもよく終わろうと.

落ち着かせたい気持ち⑴ ・ガチャガチャした時とかに集まるようにして,皆を落ち着かせたりした.

一体感を高めたい気持ち⑴ ・少しでもまとまろうみたいな.

ファール⑴ ・アンスポとかのときは,自分はなるべく組むようにしてて.プレー面で確認できることはあるので,そこはタイムアウトみたいに使う感じです.

注)カッコ内は報告された回答の数を示す.

団・個人】に集約されるサブカテゴリは報告されなかった.

4.考     察

4.1 試合と円陣行動の概要 本研究が対象とした試合では,対象チームが第1ピリオドから第4ピリオドまで始終負けている状態であった.チームの雰囲気,試合の戦況にもネガティブなカテゴリが散見され,全体を通して思い通りに展開しない試合だったことがわかる.そして本試合では,円陣行動が17回行われた.各インターバルやタイムアウトが明ける前には必ず円陣行動が行われており,ルーティンとして活用されていることが示唆された.一方,試合中・コート内で行われた2回の円陣行動は,ルーティンではなく試合の戦況に応じて実践者が自発的に行ったものと考えられる.本試合では,始終思い通りに展開しない試

3.4 円陣行動後の変化 円陣行動後の変化については,表5に示す通り,≪試合前≫において『一体感が得られる』というサブカテゴリが抽出され,それが【集団】へまとめられた.『気持ちが高まる』,『集中力が高まる』は【個人】に集約された.『変化なし』というサブカテゴリもあげられ,【集団・個人】へまとめられた.≪試合中・コート外≫では,『盛り上がる』が【集団】へ,『次のプレーへの意識が高まる』,『気が引き締まる』,『気持ちに区切りがつく』,『責任感を感じる』が【個人】に対する変化にまとめられた.『変化なし』というサブカテゴリは【集団・個人】に集約された.≪試合中・コート内≫では,『認識が共有される』,『一体感が得られる』というサブカテゴリが【集団】に,『落ち着く』,『気が引き締まる』,『次のプレーへの意識が高まる』,『責任感を感じる』が【個人】に対する変化としてまとめられた.【集

スポーツ産業学研究,Vol.25,No.1(2015),11 ~ 24.19

表4 円陣行動の内容のKJ法の結果

場面 カテゴリ サブカテゴリ 実際に報告された回答例試合前 編成 激励する言葉がけ⑶ ・「よし,自分たちのバスケしよう」みたいに言う.

・「もう盛り上げていきましょう」とか「勝ちにいきましょう」って言って始まります.

同期 かけ声⑴ ・「レッツゴーNo.1」って言います.試合中・コート外

編成 激励する言葉がけ⑷ ・「ここから,ここから」みたいなのは言います.「1本,1本」とか.・「まだいける」みたいな感じで言ってくれたり.

戦術の確認⑶ ・戦術的なことを言う.・「皆でディフェンス頑張ろう」とか.

同期 かけ声⑴ ・「いくぞ」という感じ.試合中・コート内

編成 戦術の確認⑹ ・このときはディフェンスでミスってたんで,もっと声掛け合おうって.

・「ディフェンスはダブルいけるところ」とか細かい指示をした.

激励する言葉がけ⑷ ・「最後だから終わりしっかりしよう」みたいな感じでした.

・「1点決めて頑張ろう」みたいなのを言った気がします.

謝罪⑴ ・「シュートごめん」とか言ってると思います.同期 かけ声⑴ ・「せーの」ってやりました.

注)カッコ内は報告された回答の数を示す.

試合場面における円陣行動に対する実践者の認識20

表5 円陣行動後の変化のKJ法の結果

場面 カテゴリ サブカテゴリ 実際に報告された回答例試合前 集団 一体感が得られる⑶ ・円陣組むと1つになってる気がする.

・1回そこでまとまってる.個人 気持ちが高まる⑷ ・ヨッシャーってなります.高まる.

・集合して落ち着いてるから,もう1回士気を高め直すっていうか.

集中力が高まる⑵ ・もう1回集中し直すみたいな.・集中力高まるっていうか.

集団・個人

変化なし⑵ ・特に変わらず.・私はそんな変わらない.いつもそのように入ってるから.

試合中・コート外

集団 盛り上がる⑴ ・ベンチとかも盛り上がってる.個人 次のプレーへの意識が高ま

る⑸・もう1回ディフェンスから立て直そうという気持ちにはなりました.

・気持ち的には,もう1回追い上げようみたいな.

気が引き締まる⑶ ・締まるっていうか,ピリってする.・今ここで指示が出たことを確認してから入っているので,やらなかったら締まりは多少なくなるかと.

気持ちに区切りがつく⑴ ・気持ちを整理できる,区切りをつけられる感じ.

責任感を感じる⑴ ・責任感がやっぱ.集団・個人

変化なし⑹ ・特にないです.・そんなに変化はない.

試合中・コート内

集団 認識が共有される⑶ ・やらなきゃいけないことを確認できるので,全員で認識ができる.

・そこでもう1回確認もできる.

一体感が得られる⑵ ・皆の気持ちが1つにまとまる.・円陣組んだほうが協力できる.

個人 落ち着く⑷ ・楽になりますね.・安心できるっていうか,落ち着く.

気が引き締まる⑶ ・引き締めるっていうか.・多分これでやらないでやったら,もうダラダラいって.

次のプレーへの意識が高まる⑴

・やろうっていう気持ちになるし.

責任感を感じる⑴ ・ちょっと上級生の自分たちが引っ張らないとなって思いました.

注)カッコ内は報告された回答の数を示す.

が得られた.円陣行動は,本試合のように苦戦している戦況で,実践者が試合の流れの悪さを断ち切りたいと認識した際に行われる側面があると推察される.� また,『ファール』も理由として報告された.競技者Bはこの場面での円陣行動について,「プレー面で確認できることはあるので,そこはタイムアウトみたいに使う感じです.」と述べた.この報告から,実践者が集団の情報や個々人の認識共有を意図して,円陣行動を行っていることも示唆された.

4.3 円陣行動の内容 円陣行動の内容として,どの場面においても【編成】では『激励する言葉がけ』が,【同期】では『かけ声』が行われると判明した.さらに試合が展開し,≪試合中・コート外≫や≪試合中・コート内≫になると,【編成】で『戦術の確認』や『謝罪』といったプレー面に関するコミュニケーションが起こると示された. 「まだいける」や「1点決めて頑張ろう」といった『激励する言葉がけ』は,ペップトーク12)の役割を果たしていると言える.これらは,個々人そして集団全体の気持ちを高めることに役立っていると考えられる.また「よし,自分たちのバスケしよう.」といった言葉がけは,立谷ら13)の研究において報告されている「自分の泳ぎをすること.」といったセルフトークに類似しており,言葉がけを発する実践者にとっては,自身の心理面向上にも役立っていると考えられる. また竹田14)は,試合中に声を出すことはサイキングアップの重要なテクニックであることを指摘している.【同期】の『かけ声』では,個人や集団全体に対してサイキングアップの役割を果たしていると考えられる.インタビュー中にも競技者Aから,「レッツゴーっていう言葉とかは,なるべく大きい声で言うようにはしてます.」という話題があがった.実践者自身も『かけ声』で大きな声を出すことを心がけており,円陣行動をサイキングアップとして役立ててい

合だったことから,負けている,苦戦しているという戦況がこれらの円陣行動と関連していると推察される. また円陣行動の型は,2種類観察された.円陣行動を全員で行う場合と,5名のメンバーのみで行う場合は型が異なり,対象チームでは,メンバーと型に関連性があることが推察された.しかしどちらにも共通している点は,手を掲げる,手をつなぐといったメンバー同士の身体接触(タッチング)が行われている点である.杉山11)は,身体接触が非言語的コミュニケーションの道具として用いられ,特にスポーツ場面では,日常以上に重要な意味を持つと述べている.本試合で行われた身体接触を伴う円陣行動も,メンバー間の非言語的なコミュニケーションを取る場となっている可能性が示唆された.

4.2 円陣行動を行う理由 円陣行動を行う理由として,≪試合前≫および≪試合中・コート外≫では,『決まりごと』という同様のサブカテゴリが示された.これらの場面で円陣行動が行われる理由の1つは,集団としての『決まりごと』つまりチームルーティンとなっているためであることが明らかになった.さらに,試合が展開した後の≪試合中・コート外≫では,『盛り上げたい気持ち』というサブカテゴリがあげられており,チームルーティンであることに加え,実践者が集団を盛り上げ,士気を高めることを意図して円陣行動を行っていることも考えられる. 一方≪試合中・コート内≫では,『試合の流れが悪いこと』から『一体感が欲しい気持ち』や『落ち着かせたい気持ち』を抱いた『発案する競技者の存在』があり,その競技者を中心に円陣行動が行われたものと考えられる.インタビュー中に円陣行動全般について話題が上った際,「(円陣行動は)どっちかって言ったら悪いときにやりたくなる.チームが乗ってる時とかは放っておいても皆シュートが入ったりするので,そういう時は別に.」という報告(競技者B)

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タイムアウトやインターバルが明けて再度試合に向かう際の円陣行動には,特に『盛り上がる』という要素が重要視されるのかもしれない. さらに≪試合中・コート内≫では,『一体感が得られる』に加えて『認識が共有される』という報告が【集団】へまとめられた.この場面では特に,試合の流れの悪さを断ち切ることや,集団の情報・認識共有を意図して円陣行動が行われていた.その目的意識を持った実践者が,実際に円陣行動で情報・認識共有を行ったため,得られた変化であると考えられる. またどの場面においても,集団全体だけでなく個人の心理面に対する認識も報告された.『気持ちが高まる』,『集中力が高まる』は,主にペップトーク,セルフトーク,サイキングアップの要素から,『次のプレーへの意識が高まる』,『気が引き締まる』,『気持ちに区切りがつく』,『責任感を感じる』は,主に集団の情報・認識共有から,『落ち着く』は,主に身体接触の要素によって認識された変化であると推察される.しかしこれらの点については,関連する要因などを個別に調査し,さらなる検討を重ねていく必要がある. そして≪試合前≫と≪試合中・コート外≫の2つの場面では,『変化なし』という報告が【集団・個人】の変化としてまとめられた.対象チームでは,この2つの場面のみ円陣行動が『決まりごと』として行われる側面があると明らかになっている.このことから,円陣行動が実践者の中で単なる『決まりごと』として形骸化している場合に,その変化は認識されにくい可能性があると推察される.この点は,ルーティンとしての円陣行動とルーティンではない円陣行動の比較や,実践者ごとの円陣行動に対する目的意識の違いを調査することなどを通して,新たに検討していく必要があると考えられる.

4.5 まとめ 本研究では,円陣行動を行う実践者の認識について調査した.その結果,ルーティン,盛り上げる,流れの悪さを断ち切る,集団の情報・

ると推察される. さらに試合が展開した後は,プレー面での『戦術の確認』や,自己のプレーに関する『謝罪』が行われていた.動きやその場の事実に関するコミュニケーションは,競技者間の知識の共有や問題解決につながることが指摘されている15).円陣行動を行う理由でも推察された通り,試合が進行していく中で,円陣行動が集団の情報・認識共有を行う場となっていることが考えられる.

4.4 円陣行動後の変化 ≪試合前≫では,『一体感が得られる』が【集団】の変化としてあげられた.実践者が報告する一体感とは,集団凝集性を指すと考えられる.集団凝集性とは,集団のメンバー間が引きあう魅力を維持する社会的な力,集団を分裂させる力に抵抗する力であり16),集団のチームワークを理解する上でも必要不可欠な概念とされている17).円陣行動を行うことで集団凝集性が高まるとすれば,それは実践者にとって非常に有益なことである.Hertensteinら18)は,身体接触によって感謝や共感が伝わることを明らかにしており,さらにそれが協力を促進させる可能性について言及している.また,競技者間で次の動きに関する情報を共有することは,協同を促進させることが示されている19).これらの要素を含む円陣行動は,集団凝集性の中でも特に,対人関係に対しての統合(GI-S)や集団の課題に対しての統合(GI-T)20)を高めることに寄与していると考えられる.集団凝集性と円陣行動との関連については,今後,客観的な指標を用いてより詳細な調査を行う必要があると言える. 一方≪試合中・コート外≫では,【集団】の変化として『盛り上がる』が報告された.これは主に円陣行動の内容で推察されたペップトーク,セルフトーク,サイキングアップなどの要素によって認識されたものと考えられる.≪試合中・コート外≫では,円陣行動を行う理由でも『盛り上げたい気持ち』があげられており,

試合場面における円陣行動に対する実践者の認識22

様々な役割や機能,関連する心理面が一部見出された.今後は本研究をもとに,対象者を拡大した調査や,客観的な指標を用いた測定などを行い,より詳細な円陣行動についての研究を進める必要がある.そしてこのような知見の蓄積が,今後の円陣行動の機能解明に役立つと考えられる.

付     記

 本研究は,平成21-23年度文部科学省科学研究費若手研究B「競技者を対象としたコレクティブ・エフィカシー増強プログラムの開発」および平成24年度文部科学省科学研究費若手研究B「競技者を対象としたスポーツチームに対する結果予期の実態と関連要因の明確化」,平成26年度科学研究費補助金基盤研究C「大学生競技者の生活支援マニュアルの開発:スポーツ・ライフ・バランスの実現に向けて」から援助を受けました.また,本研究を行うにあたり,多くの方々にご協力をいただきました.皆様に記して感謝の意を表します.

参 考 文 献

1)土屋裕睦;アスリートへのメンタルサポートの最前線,�体育の科学,�Vol.61,�pp.912-917,�2011.

2)中込四郎;アスリートのメンタルサポートとは,�臨床スポーツ医学,�Vol.26,�pp.621-625,�2009.

3)石井源信;スポーツと集団力学,�杉原 隆,�他編;スポーツ心理学の世界,�福村出版,�pp.165-181,�2000.

4)高妻容一;大学サッカーチームへのメンタルトレーニング,�日本スポーツ心理学会資格認定委員会,�日本スポーツメンタルトレーニング指導士会編;スポーツメンタルトレーニング指導士活用ガイドブック,�ベースボール・マガジン社,�pp.86-89,�2010.

5)畔川吉永;バンクーバー五輪スピードスケート女子追い抜き「銀」金と0秒02差,�読売新聞(東京朝刊1面),�2010年3月1日.

6)堀 公俊,�他;チームビルディング:人と人を「つなぐ」技法,�日本経済新聞社,�pp.60,�2007.

7)原 正紀;インタビューの教科書,� 同友館,�

認識共有を行うことを理由に円陣行動が行われ,その中で激励する言葉やかけ声をかけること,戦術の確認などが起こることがわかった.またそれによって,一体感が得られるなどの集団へ及ぼす変化と,気持ちが高まるなどの個人へ及ぼす変化が認識されることが明らかとなった.

4.6 研究の限界点と今後の展望 本研究の限界点として,まず調査対象を大学女子バスケットボール部1チームの苦戦・敗北した1試合のみとしている点があげられる.本研究では,実践者の認識について調査を行ったが,他の明らかにされていない認識が多く存在することが考えられる.試合が思い通りに展開して大差で勝利する試合や,僅差で競り合う試合などでは,円陣行動の回数自体や実践者の認識が大きく異なる可能性もある.よって今後は,多チーム,多試合を対象とした研究が必要である. また円陣行動は,種目の影響を大きく受けることが予測される.バスケットボールは,プレー時間が止まることも多く,プレーエリアも比較的狭いため,円陣行動を容易に行うことができる.しかし,プレー時間が止まらない種目や,プレーエリアが広範でメンバーが容易に集まることのできない種目では,バスケットボールほど頻繁に円陣行動を行わない.このような種目の違いによって,実践者の認識も異なると考えられる.しかしバスケットボールと同じく,試合前やインターバル明け前には,多くの種目で円陣行動が行われる.よって,本研究で得られた知見と共通する点も多く存在することが推察され,今後はその共通点や相違点を探索していくことで,より有益な知見が得られると考えられる.さらに,実践者の性によっても認識が異なると予測される.円陣行動の認識や普遍的な機能を明らかにするには,他種目や男性を対象とした調査を行い,本研究から明らかになった知見との比較検討を重ねていくべきである. 本研究では,実践者の認識から,円陣行動の

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Exerc.�Sport,�Vol.80,�pp.281-290,�2009.16)ハガー・ハヅィザランティス:大石千歳他監訳;スポーツ社会心理学:エクササイズとスポーツへの社会心理学的アプローチ,�北大路書房,�pp.173-209,�2007.

17)永尾雄一,�他;スポーツチームにおける集団効力感の資源とその有用性,�健康科学,�Vol.32,�pp.11-19,�2010.

18)Hertenstein,� J.M.,� and�Keltner,�D.;Touch�communicates� distinct� emotions,�Emotion,�Vol.6,�pp.528-533,�2006.

19)Eccles,�W.D.,� and�Tenenbaum,�G.;Why�an�expert�team�is�more�than�a�team�of�experts:�A�social-cognitive�conceptualization�of� team�coordination� and� communication� in� sport,�J.�Sport�Exerc.�Psychol.,�Vol.26,�pp.542-560,�2004.

20)Carron,�A.� et� al.;The�development� of� an�instrument�to�assess�cohesion�in�sport�teams:�The�Group�Environment�Questionnaire,� J.�Sport�Psychol,�Vol.7,�pp.244-266,�1985.

2010.8)河西宏祐;インタビュー調査への招待,�世界思想社,�2005.

9)Martinent,�G.�et�al.;A�descriptive�study�of�emotional�process�during�competition:Na-ture,�frequency,�direction,�duration�and�co-oc-currence�of�discrete�emotions,�Psychol.�Sport�Exerc.,�Vol.13,�pp.142-151,�2012.

10)川喜田二郎;続・発想法,�中公新書,�1970.11)杉山佳生;空間行動とタッチング,�体育の科学,�Vol.60,�pp.609-612,�2010.

12)岩崎由純;心に響くコミュニケーション�ペップトーク,�中央経済社,�p.2,�2010.

13)立谷泰久,�他;試合中の「セルフトーク・暗示」の心身への影響に関する実験的研究,�スポーツ心理学研究,�Vol.35,�pp.15-25,�2008.

14)竹田唯史;リラクセーションとサイキングアップ,�蓑内 豊,�他著;基礎から学ぶスポーツ心理学新版,�中西出版,�pp.36-46,�2012.

15)Lausic,�D.� et� al.;Intrateam�communication�and�performance� in�doubles� tennis,�Res.�Q.�

試合場面における円陣行動に対する実践者の認識24