部落問題の今日的課題と部落問題学習のポイント...2...

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1 2021/6/4 2021 年度 春期新任教員人権教育研修会 (大阪私学会館 4 階講堂) 部落問題の今日的課題と部落問題学習のポイント 関西大学 社会学部 内田龍史 [email protected] 0 はじめに——自己紹介 ・大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程修了、博士(文学)。尚絅学院大学講師・准教授・教授を経て、現在、関西大学 社会学部教授。 ・専門は、差別と共生の社会学。現代の部落問題を中心に、マイノリティ(少数派)であるがゆえにマジョリティ(多数派)から見 過ごされがちな差別・排除などの社会問題について研究しています。 1 本研修会のねらいと前提 ①部落問題とは何か? ②部落問題の現状は? ③部落問題学習のポイント → AbemaTV「W の悲喜劇」#58「“部落”ってナニ?」(2018 年 11 月 24 日放送、53 分、監修:内田) 前半鑑賞 ・被差別部落とは、江戸時代以前の身分制度のもと、「穢多(えた)」等と呼ばれ、穢れているなどとされてきた人々が居住して いる場所(部落)であるために、差別の対象となってきた地域のことです。 ・同和地区とは、おおむね被差別部落のうち、部落外との格差や不平等を是正し、差別を撤廃するために、行政施策の対象と して指定されてきた地区のことです。 ・地域性によるちがい(部落解放研究所, 1997=1993 年、総務庁調査) ・同和地区:4442 地区 ・同和関係人口:892, 751 人 298, 385 世帯 ・同和地区人口:2, 158, 789 人 737, 198 世帯 ・西日本近畿以西で地区・人口が多い (地区 75。人口 70・地区・人口が多い地域では課題が認識され やす、社会運動、行政施策、同和教・部落差別とは、部落に居住する人々、こにルーツつ人々、部落と見なされた人々に対して、日や、結婚就職どの場において、遠ざけられ、見され、仲間れにする行、あるいはれをえる社会のしくみのことです。 ・部落問題とは、部落差別によって、人として当然保障される基本的幸せに生きられる、平等な待遇受ける、奪われない、など)を奪われてきたという社会問題のことです。 ・部落差別・部落問題の不当性 選んで生まれてきた人は、誰一人としていません。被差別部落に生まれった人も、たまたまこに生まれったにす せん。にもかか定の地域に生まれったというだけで、差別の対象となってきました。

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Page 1: 部落問題の今日的課題と部落問題学習のポイント...2 ・部落差別の撤廃、部落問題の解消に向けて 個々人に対する自由と平等が、人権として保障されることが前提となっている近代社会において、差別はなくしていくべき

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2021/6/4 2021 年度 春期新任教員人権教育研修会

(大阪私学会館4 階講堂)

部落問題の今日的課題と部落問題学習のポイント

関西大学 社会学部 内田龍史

[email protected]

0 はじめに——自己紹介

・大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程修了、博士(文学)。尚絅学院大学講師・准教授・教授を経て、現在、関西大学

社会学部教授。

・専門は、差別と共生の社会学。現代の部落問題を中心に、マイノリティ(少数派)であるがゆえにマジョリティ(多数派)から見

過ごされがちな差別・排除などの社会問題について研究しています。

1 本研修会のねらいと前提

①部落問題とは何か?

②部落問題の現状は?

③部落問題学習のポイント

→ AbemaTV「W の悲喜劇」#58「“部落”ってナニ?」(2018 年11 月24 日放送、53 分、監修:内田) 前半鑑賞

・被差別部落とは、江戸時代以前の身分制度のもと、「穢多(えた)」等と呼ばれ、穢れているなどとされてきた人々が居住して

いる場所(部落)であるために、差別の対象となってきた地域のことです。

・同和地区とは、おおむね被差別部落のうち、部落外との格差や不平等を是正し、差別を撤廃するために、行政施策の対象と

して指定されてきた地区のことです。

・地域性によるちがい(部落解放研究所,

1997=1993 年、総務庁調査)

・同和地区:4442 地区

・同和関係人口:892,751 人

298,385世帯

・同和地区人口:2,158,789 人

737,198世帯

・西日本近畿以西で地区・人口が多い

(地区75%。人口70%)

・地区・人口が多い地域では課題が認識され

やすく、社会運動、行政施策、同和教育が進

・部落差別とは、部落に居住する人々、そこにルーツを持つ人々、部落と見なされた人々に対して、日常生活や、結婚・就職な

どの場面において、遠ざけられ、見下され、仲間はずれにする行為、あるいはそれを支える社会のしくみのことです。

・部落問題とは、部落差別によって、人間として当然保障されるべき基本的人権(幸せに生きられる、平等な待遇を受ける、自

由を奪われない、など)を奪われてきたという社会問題のことです。

・部落差別・部落問題の不当性

親を選んで生まれてきた人は、誰一人としていません。被差別部落に生まれ育った人も、たまたまそこに生まれ育ったにす

ぎません。にもかかわらず、特定の地域に生まれ育ったというだけで、差別の対象となってきました。

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・部落差別の撤廃、部落問題の解消に向けて

個々人に対する自由と平等が、人権として保障されることが前提となっている近代社会において、差別はなくしていくべき

ものです。そのため、部落差別を生み出す社会を変革しようと、被差別部落出身の人のみならず、国・自治体行政・教員・企

業・宗教団体などを含め、これまで多くの人たちが努力を重ねてきました。

その結果、差別と貧困に苦しんできた部落(「同和地区」)の住環境は大きく改善し、学校教育(同和教育)や市民啓発によっ

て部落問題について学習した人の多くは、部落差別は不当な差別であると認識し、なくしていくべきものだという理解が広が

ってきました、が…

2 概説 部落史——政策・運動史を中心に

2-1 前史

・延喜式(967 年施行)

穢れはうつる(直接or空間内での着座・飲食)ものであり、穢れに触れた人は、内裏や神社に参拝できない(触穢思想)

死穢(30 日)・産穢(7 日)・六畜(馬・羊・牛・犬・猪・鶏)の死穢(5日)・六畜の産穢(3 日)・失火穢(7 日)

2-2 近世の部落問題?

・封建制・身分制社会:生まれ・居住地・職業の三位一体

・かわた・長吏(「穢多」とされた)身分への穢れ意識:最下層ではなく、平人の外・別に置かれた存在

ex.穢多頭 弾左衛門:履物製造・弊牛馬処理・皮革業等

非人頭 車善七 :行刑・番人・掃除

2-3 近代の部落問題

・太政官布告(1871):「穢多・非人等の称廃せられ候条、自今身分・職業共同様たるべき事」:いわゆる「解放令」

・解放令反対一揆という経験 → 以降も差別は引き続く

・近世の穢れ意識から生業を失ったための貧困

・さらには「人種」問題(レイシズム)へ → 異種認識の広がり:「新平民」 → 「特種部落」 → 「特殊部落」

・当事者運動の立ち上がり:全国水平社結成(1922.3.3、京都岡崎公会堂) → 「糾弾」という差別撤廃のための戦術

・15 年戦争下の大政翼賛体制:水平社も「差別ヲ無クシテ戦争ニ勝テ!」(1938 年第16回大会) → 1942 年自然消滅

2-4 戦後の部落問題

・日本国憲法施行(1947.5.3):「法の下に平等」

「全て国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係にお

いて差別されない」(憲法第14条)

・部落解放運動の再出発:部落解放全国委員会(1946) → 部落解放同盟(1955)

・「オールロマンス事件」(1951)、「差別行政」を糾す運動、国策樹立請願運動へ

・同和教育運動:経済的貧困・長欠不就学・低学力・進学率の低さ・就職差別への取り組み

2-5 特措法時代の部落問題

・同和対策審議会答申(1965):「基本的人権」の問題として

「同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権に

かかわる問題である。」

「その早急な解決こそ国の責務であり,同時に国民的課題であるとの認識に立って対策の探求に努力した。」

「実態的差別」と「心理的差別」の悪循環

・同和対策事業特別措置法(1969)・地域改善対策特別措置法(1982)・地域改善対策特定事業に係わる国の財政上の特別

措置に関する法律(1987)〜2002 年3月に失効

→ 住環境整備(改良住宅・同和向け公営住宅・道路・上下水道等のインフラ)

→ 学力保障・進路保障:奨学金制度 → 学校での同和教育

→ 共同作業所などによる仕事の確保

→ 企業に対する税の減免措置

→ 市民啓発

※弊害としての「逆差別」と「同和利権」バッシング

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2-6 現代の部落問題

・部落解放基本法制定要求(1985 年〜)

・人権擁護施策推進法(1996年から5年)

・人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(2000 年)

・部落差別の解消の推進に関する法律(2016年)

3 部落差別の現在

3-1 部落差別の現在(内田・妻木・齋藤,2017)

・100 年前から比べると、大きく改善したものの…

・結婚差別(内田編,2014、齋藤,2017)

・差別発言

・差別落書き・書き込み

・身元調べ(戸籍不正入手・問い合わせ)

3-2 情報化社会による拡散・拡大

・部落(人・土地・運動・団体・関係者)へのマイナスイメージの流布、ヘイト・スピーチの蔓延、差別扇動、身元暴きなど

・ネット上の部落問題言説(内田,2019) ← 部落問題に見られる典型的な表象

①「えせ同和行為・ヤクザ」 → こわい

②「逆差別」 → ずるい

③「寝た子を起こすな」 → だまっとけ

3-3 部落差別解消推進法における実態調査・教育及び啓発

・部落差別の解消の推進に関する法律(2016年法律第109号) 2016年12月16日施行

①部落差別の存在を認識したうえで、部落差別は許されないことを明記

②部落差別解消の必要性に対する国民一人一人の理解が必要

③国及び地方公共団体の責務を明記

④相談活動の充実が必要

⑤教育啓発が必要

⑥実態調査が必要

→ 法務省人権擁護局『部落差別の実態に係る調査結果報告書』(2020 年6月)

3-4 部落問題意識の現状(内田,2016=2020、法務省,2020)

①同和問題の認知度 → 地域による大きなばらつきと若年層での低下

図1 部落差別(同和問題)の認知度(N=6,216)(法務省,2020:108)

・あなたは、「部落差別」又は「同和問題」という言葉を聞いたことがありますか。

イ 部落差別(同和問題)の認知度,認知の時期及び理解度(問6ないし問6-2)

(ア) 「部落差別」又は「同和問題」という言葉を聞いたことがあるか(問6)につ

いては,「聞いたことがある」の割合が77.7%である。 「聞いたことがある」と答えた人の割合は,地域別では近畿,中国,四国で9

0%を超える一方,北海道,東北では60%を下回るなど,西日本において高い

傾向があり,年齢別では,50歳代から70歳代でいずれも80%を超えるなど

中・高年齢層でやや高くなっている(図8,表4-8)。

図8 部落差別(同和問題)の認知度

いずれも聞いたことがない

聞いたことがある 無回答

n

総 数 (6,216人)

男 性 (3,023人)

女 性 (3,187人)

そ の 他 (6人)

18 ~ 29 歳 (653人)

30 ~ 39 歳 (814人)

40 ~ 49 歳 (1,153人)

50 ~ 59 歳 (1,127人)

60 ~ 69 歳 (1,184人)

70 ~ 79 歳 (987人)

80 歳 以 上 (298人)

[ 年 齢 別 ]

[ 性 別 ]

77.7 22.1 0.2

78.3

77.2

66.7

21.6

22.6

33.3

0.1

0.2

-

65.8

71.0

77.0

82.3

81.4

82.5

76.8

34.0

29.0

22.7

17.6

18.4

17.2

22.8

0.2

-

0.3

0.1

0.2

0.3

0.3

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%)

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図2 部落差別(同和問題)の理解度(N=4,831)(法務省,2020:111)

・あなたは、部落差別又は同和問題といわれているものがどういう内容のものか知っていますか。

図3 部落差別(同和問題)の捉え方(N=4,157)(法務省,2020:114)

・あなたは、部落差別が不当な差別であるのを知っていますか。

・「部落差別が不当な差別であるのを知っている」=認知度(聞いたことがある)×理解度(知っている)×捉え方(知っている)

試算として、全体では、 77.7%×86.0%×85.8% = 57.3%

若者(18〜29歳)では、 65.8%×76.0%×92.0% = 46.0%

②同和問題の関心度 → 高くなく、比較的関心が高い地域でも低下傾向、18〜29歳で 17.0%

(ウ) 問6で,部落差別又は同和問題という言葉を聞いたことがあると答えた4,8

31人が,それがどういう内容のものか知っているか(問6-2)については,

「知っている(計)*70」の割合が86.0%であり,「知らない」の割合は,1

3.9%である。

地域別では,近畿,四国で「知っている(計)」の割合が90%を超えるなど,

西日本でやや高くなっているものの,北海道,東北でも「知っている(計)」が

80%弱となっている(ただし,本問は,部落差別又は同和問題という言葉を「聞

いたことがある」と答えた人のみを対象としていることに留意が必要である。)

(図10,表4-10)。

図10 部落差別(同和問題)の理解度

*70 「知っている」+「何となく知っている」の合計。

知っている(計) 無回答

何となく知っている 知らない

n

該 当 数 (4,831人) 86.0

男 性 (2,367人) 86.9

女 性 (2,460人) 85.2

そ の 他 (4人) 50.0

18 ~ 29 歳 (430人) 76.0

30 ~ 39 歳 (578人) 85.3

40 ~ 49 歳 (888人) 85.4

50 ~ 59 歳 (928人) 88.6

60 ~ 69 歳 (964人) 88.7

70 ~ 79 歳 (814人) 86.6

80 歳 以 上 (229人) 86.0

[ 年 齢 別 ]

[ 性 別 ]

知っている

知っている(計)

27.0 59.1 13.9 0.1

30.1

23.9

50.0

56.8

61.4

-

13.0

14.7

50.0

0.1

-

-

18.6

21.8

24.1

32.3

30.5

27.6

27.5

57.4

63.5

61.3

56.3

58.2

59.0

58.5

24.0

14.7

14.6

11.2

11.3

13.3

14.0

-

-

-

0.2

-

0.1

-

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%)

以下,問7ないし問17は,部落差別又は同和問題といわれているものがどうい

う内容のものか(問6-2)「知っている」又は「何となく知っている」と答えた

4,157人に対する質問である。

ウ 部落差別(同和問題)の捉え方(問7)

部落差別が不当な差別であるのを知っているか(問7)については,「知ってい

る」(85.8%),「知らない」(10.8%),「部落差別は不当な差別ではな

い」(2.2%)などの順となっている。

年齢別では,20歳代以下で「知っている」の割合が90%を超えている一方,

70歳代以上では「知らない」の割合が他の年代よりも高くなっている(図11,

表4-11)。

図11 部落差別(同和問題)の捉え方

知らない

知っている 無回答

n

該 当 数 (4,157人)

男 性 (2,058人)

女 性 (2,097人)

そ の 他 (2人)

18 ~ 29 歳 (327人)

30 ~ 39 歳 (493人)

40 ~ 49 歳 (758人)

50 ~ 59 歳 (822人)

60 ~ 69 歳 (855人)

70 ~ 79 歳 (705人)

80 歳 以 上 (197人)

[ 年 齢 別 ]

[ 性 別 ]

部落差別は不当な差別ではない

85.8 10.82.2

1.3

85.6

86.0

100.0

10.3

11.2

0.0

3.1

1.3

0.0

1.0

1.5

-

92.0

88.2

86.7

88.9

85.5

79.6

76.1

7.0

9.7

11.1

8.2

11.5

13.5

16.2

0.6

1.6

1.7

1.7

1.8

4.4

4.1

0.3

0.4

0.5

1.2

1.3

2.6

3.6

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%)

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図4 人権課題に関する関心(N=6,216)(法務省,2020:103)

③忌避的態度 → 停滞傾向・本人において周りの反対があれば結婚しない傾向が強まる

・差別したい人は、全体として見ると既に少数派であることには注意

・ただし、差別(介入)があればその人にとってはそれがすべて

図5 旧同和地区出身を気にするかどうか(交際相手・結婚相手)(N=4,157)(法務省,2020:135)

エ 人権課題に対する関心(問4)

(ア) 人権課題について関心があるもの(問4,複数回答)については,「障害者」

(52.7%),「インターネット上の人権侵害」(42.7%),「子ども」

(39.8%),「女性」(38.0%)などの順となっており,「何かしら関

心がある(計)」の割合は90.0%となっている。

(イ) 「部落差別(同和問題)」に関心があると答えた人の割合は21.3%であり,

地域別では,近畿,中国,四国でいずれも30%前後,九州でも24.4%とな

る一方,北海道,東北,関東,中部ではいずれも20%に満たないなど,西日本

において関心が高いことがうかがえる。

また,年齢別では,40歳代までと比べて,60歳代以上の関心がやや高く

なっている(図6,表4-6)。

図6 人権課題に対する関心

(複数回答)

障 害 者

インターネット上の人権侵害

子 ど も

女 性

高 齢 者

犯 罪 被 害 者 等

部 落 差 別 ( 同 和 問 題 )

北 朝 鮮 当 局 に よ っ て拉 致 さ れ た 被 害 者 等

東日本大震災に伴う人権問題

性 的 指 向 ・ 性 自 認( L G B T )

刑 を 終 え て 出 所 し た 人

外 国 人

ハ ン セン 病患 者・ 回復 者等

人身取引(性的搾取,強制労働等 を 目的 とし た人 身取 引)

H I V 感 染 者 等

ア イ ヌ の 人 々

ホ ー ム レ ス

そ の 他

関 心 が な い

無 回 答

 関心がある(計)90.0

52.7

42.7

39.8

38.0

30.0

26.5

21.3

20.2

18.0

17.2

13.8

13.5

13.2

11.4

9.8

9.6

8.1

2.1

8.6

1.4

0 10 20 30 40 50 60(%)

総 数 (N=6,216人、M.T.=487.9%)

(イ) 交際相手や結婚相手(問13)については,「気にならない」(57.7%),

「わからない」(25.4%),「気になる」(15.8%)などの順となって

おり,近隣住民(問12)や後述の求人に対する応募者,職場の同僚(問14)

についての質問と比較して「気になる」と答えた人の割合が高くなっている。

「気になる」の割合は近畿,中国,四国で20%を超えるなど高くなってい

る一方,北海道,東北では10%を下回っている。 また,年齢別では,30歳代以下では「気にならない」の割合が70%以上

であるのに対し,60歳代以上ではその割合が40%から50%程度にとどま

るなど,年代によって認識に相当の差異が見られる(図20,表4-20)。

図20 旧同和地区出身を気にするかどうか(交際相手・結婚相手)

わからない

気になる 気にならない 無回答

n

該 当 数 (4,157人)

男 性 (2,058人)

女 性 (2,097人)

そ の 他 (2人)

18 ~ 29 歳 (327人)

30 ~ 39 歳 (493人)

40 ~ 49 歳 (758人)

50 ~ 59 歳 (822人)

60 ~ 69 歳 (855人)

70 ~ 79 歳 (705人)

80 歳 以 上 (197人)

[ 年 齢 別 ]

[ 性 別 ]

15.8 57.7 25.4 1.1

13.6

18.0

50.0

65.1

50.5

50.0

20.6

30.1

0.0

0.8

1.4

-

8.3

10.8

13.5

18.0

18.2

17.7

23.9

77.4

70.0

61.1

56.8

52.3

48.7

41.6

13.8

18.9

24.5

24.8

28.3

31.5

31.5

0.6

0.4

0.9

0.4

1.2

2.1

3.0

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%)

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④解決方法 → 一定層での「寝た子を起こすな」の支持

図6 部落差別解消のための効果的な対策(N=4,157)(法務省,2020:151)

4 部落問題学習のポイント

4-1 目指されるべき部落解放像

・「部落解放・人権啓発基本方針(第3次)」(部落解放・人権研究所啓発部会,2013)を手がかりにすると、

・「部落解放が実現された状態とは、部落民であることを明らかにしたり、歴史的に部落差別を受けた地域が存在していても、

何らの差別的取り扱いや排除・忌避を受けることなく人間としての尊厳と権利を享受し、支障なく自己実現ができる社会環境

になることである。

・その目指すところは大きくは、多様性の尊重(部落差別の撤廃と当事者のエンパワメント)

①部落差別の撤廃

部落差別・部落問題について学ぶ

「差別の現実から学ぶ」ことが大前提(だが、あまり知られていない)

そのうえで、何ができるかを考える

②当事者のエンパワメント

部落出身者の肯定的なアイデンティティ形成のために(内田,2006)

①部落問題に関する知識の多さ

②運動への多数の参加

③部落解放運動への肯定的なイメージ

④部落問題について語り合える人の存在

⑤部落という地域に対するコミュニティ意識の高さ

・ところが、(当事者も含め)「寝た子を起こすな」という意識は根強い

4-2 「寝た子を起こすな」の背景

①部落の当事者にとって、

部落であることを伝えたくない

否定的アイデンティティ形成/差別への不安/パッシングの可能性

→ 伝えるべきか/伝えないべきかの葛藤

②大多数のマジョリティの子ども・若者にとって、

部落の人に会ったことがない/どこが部落かもわからない

部落差別を過去の話だと思っている/部落差別にリアリティがない

→ 適切な情報がなければ、容易に「寝た子を起こすな」になる

※適切でない情報源としてのインターネット

悪意に満ちた情報の流布 → 偏見情報とその内面化

図7 差別を知ること/差別をすること

(カ) いずれの啓発についても,それぞれ接した経験がないと答えた人の割合が半数

以上を占めている。 啓発を受けた経験があると答えた人の割合は,イベント等や広報誌・パンフ

レット等及びテレビ・ラジオ等ではおおむね近畿,中国,四国,九州の西日本の

方が他の地域よりも高い傾向があるが,新聞・書籍・雑誌とインターネットにつ

いてはそのような地域差は見られない。 また,年齢別では,おおむね50歳代以上の方が若年層よりも経験があると答

えた人の割合が高い傾向がある(ただし,インターネットについては,30歳代

以下の方が,60歳代以上よりも経験があると答えた人の割合が高い。)。

イ 部落差別解消のための効果的な対策(問16)

部落差別に関する問題を解消するために効果的と思われること(問16,複数回

答)については,「教育・啓発,相談体制の充実などの施策を推進する」(49.

1%),「マスメディア(テレビや新聞など)がもっと問題を取り上げる」(31.

0%),「職場や地域社会でみんなが話し合えるような環境を作っていく」(25.

3%)などの順となっている(図27)。

図27 部落差別解消のための効果的な対策

(複数回答)

教育・啓発,相談体制の充実などの施策を推進する

マスメディア(テレビや新聞など)がもっと問題を取り上げる

職場や地域社会でみんなが話し合えるような環境を作っていく

自 然 に な く な る の を 待 つ

被 害 者 の 救 済 を 図 る

部落差別に関する差別意識を解消する必要はない

そ の 他

どのようにしても差別はなくならない

効 果 的 な も の は な い

わ か ら な い

無 回 答

49.1

31.0

25.3

19.7

15.2

1.4

4.4

13.9

8.8

13.2

0.6

0 10 20 30 40 50 60 (%)

該 当 数 (N=4,157人、M.T.=182.5%)

差別を知る

差別を知らない

差別をする差別をしない

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4-3 差別を知ること/差別をすること

差別を知って差別をする

差別を知らないで差別をしない

差別を知って差別をしない

差別を知らないで差別をする

4-4 差別解消の方向性

・突破口としての「接触理論」 → 「接触理論」の実践 = 友だちは差別しない(可能性が高い)

※部落出身の知り合いがいる人の方が忌避しない傾向・偏見情報のストッパー

・出会いの重要性 → 偏見を鵜呑みにしない

マジョリティにとって → 偏見の解消傾向に

マイノリティにとって → 肯定的なアイデンティティ形成に

・前提となるカムアウト:ただし、差別への不安と圧倒的な無理解 ← 「寝た子を起こすな」と被害者非難

ex.「何それ?」「気にするな」「部落に何か問題がある?」 → 『部落問題と向きあう若者たち』

・「拡張接触仮説」(北村・唐沢編,2018)の実践 = 友だちの友だちも差別しない(可能性が高い)

直接の接触がなくとも、同じ集団に属している人が、異なる集団の人とうまくやっているという情報を持っているだけでも、

偏見は解消する傾向がある

→ 皆さんしだいでの偏見解消の可能性 → 出会いとクチコミの力

・部落・部落問題との肯定的(ポジティブ)な出会い(出会わせ方)

「過度の一般化」は避けるべき(ひとりひとりみんな違う)だが…

ex.差別に苦しんでいた人々 → 差別をなくそう願ってきた人、闘ってきた人々

4-5 子どもたちに寄り添うために

・教員が学び続ける姿勢

→ 頼りにされる存在へ

・どれだけ、多様な人々との出会いを紡ぐことができるか(偏見の解消・差別の軽減)

→ 仲間づくりの大切さ

・どれだけ、部落問題について語り合える人々を増やすことができるか(当事者のエンパワー)

→ 部落問題学習の機会を増やす/差別は自己責任ではなく社会責任であることの徹底

(・どれだけ、貧困や不平等をなくせるか)

“ふるさとをかくす”ことを/父は/けもののような鋭さで覚えた/ふるさとをあばかれ/縊死した友がいた/ふるさとを告白

し/許婚者に去られた友がいた/吾子よ/お前には/胸張ってふるさとを名のらせたい/瞳をあげ/何のためらいもなく/

“これがわたしのふるさとです”と名のらせたい(丸岡・真原,1969)

文献

部落解放研究所編,1997『図説今日の部落差別第3版――各地の実態調査結果より』解放出版社.

北村英哉・唐沢穣編,2018『偏見や差別はなぜ起こる?――心理メカニズムの解明と現象の分析』ちとせプレス.

丸岡忠雄・真原牧,1969『部落──五本目の指を』駱駝詩社.

内閣府,2017「人権擁護に関する世論調査」.

内田龍史,2004「部落マイノリティに対する忌避・差別軽減に向けて――『接触仮説』を手がかりに」『部落解放研究』第 156 号:31-

47.

内田龍史,2006「部落出身青年のアイデンティティと社会関係――奈良県連青年部調査結果から」『奈良人権・部落解放研究所紀

要』第24 号:81-100.

内田龍史編著,2014『部落問題と向きあう若者たち』解放出版社.

内田龍史,2016「近年の部落問題意識の現状と人権教育・啓発への示唆――「人権(問題)に関する意識調査」結果を手がかりに」

『人権教育研究』16 号.

内田龍史・妻木進吾・齋藤直子,2017「部落問題のいま」部落解放・人権研究所編『被差別マイノリティのいま——差別禁止法制定を

求める当事者の声』200-244.

内田龍史,2018「「被差別部落」という多様性と向き合う」『尚絅学院大学紀要』75 号:(19)-(22).

内田龍史,2019「部落差別の生成と変容——「逆差別」意識に着目して」『社会学年報』(東北社会学会)48 号: 31-43.

内田龍史,2020『被差別部落マイノリティのアイデンティティと社会関係』解放出版社.

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さらに学びを深めたい人のために

映像作品

◎AbemaTV「W の悲喜劇」#58「“部落”ってナニ?」(2018 年11 月24 日放送、54 分、監修:内田)

・NHK 総合 目撃!にっぽん「私たちのものがたり~いま被差別部落を生きる~」(2019 年9 月22 日放送、34 分)

・NHKE テレ ハートネット TV「この町が好きだから——京都・崇仁(すうじん)地区」(2017 年5 月10 日放送、29 分)

・NHK E テレ バリバラ「BLACK IN BURAKU ~アフリカンアメリカン、被差別部落をゆく~ 前編」(2020 年2 月6 日

放送、29 分)

・NHK E テレ バリバラ「BLACK IN BURAKU ~アフリカンアメリカン、被差別部落をゆく~ 後編」(2020 年2 月3 日

放送、29 分)

・NHK E テレ バリバラ「Baribara × BURAKU 「ブラクとの出会い方」」(2020 年12 月10 日放送、29 分)

・NHK E テレ バリバラ「Baribara × BURAKU 「人の世に熱あれ」」(2020 年12 月17 日放送、29 分)

概説書

◎内田龍史・妻木進吾・齋藤直子、2017「部落問題のいま」部落解放・人権研究所編『被差別マイノリティのいま——差別禁止

法制定を求める当事者の声』200-244

・奥田均、2013『知っていますか? 部落問題一問一答 第3版』解放出版社

・寺木伸明・野口道彦、2006『部落問題論への招待 第2版 資料と解説』解放出版社

・角岡伸彦、2005『はじめての部落問題』文春新書

歴史

◎寺木伸明・黒川みどり、2016『入門被差別部落の歴史』解放出版社

・黒川みどり・藤野豊、2015『差別の日本近現代史——包摂と排除のはざまで』岩波書店

・藤沢靖介、2013『部落・差別の歴史——職能・分業、社会的位置、歴史的性格』解放出版社

・宮武利正、2006『部落史ゆかりの地』解放出版社

・高山文彦、2005『水平記——松本治一郎と部落解放運動の一〇〇年』新潮社

教育

◎神村早織・森実編著,2019『人権教育への招待——ダイバーシティの未来をひらく』解放出版社

・中野陸夫 ・中尾健次・池田寛・森実,2000『同和教育への招待——人権教育をひらく』解放出版社

・ひょうご部落解放・人権研究所編,2017『はじめてみよう!これからの部落問題学習: 小学校、中学校、高校のプログラム』

解放出版社

小説

・住井すゑ『橋のない川』

・島崎藤村『破戒』

◎熊谷達也『七夕しぐれ』

現状・ルポ

・山本栄子・山本崇記、2019『いま、部落問題を語る――新たな出会いを求めて』生活書院

◎齋藤直子、2017『結婚差別の社会学』勁草書房

・鎌田慧、2016『ドキュメント水平をもとめて: 皮革の仕事と被差別部落』解放出版社

◎内田龍史編著、2014『部落問題と向きあう若者たち』解放出版社

・宮崎学・小林健治、2012『橋下徹現象と部落差別』モナド新書

・浦本誉至史、2011『連続大量差別はがき事件——被害者としての誇りをかけた闘い』解放出版社

・臼井敏男、2010『部落差別をこえて』朝日新書

・上原善広、2009『日本の路地を旅する』文藝春秋

その他

・朝治武・谷元昭信・寺木伸明・友永健三編著,2018『部落解放論の最前線——多角的な視点からの展開』解放出版社

・谷元昭信、2017『冬枯れの光景——部落解放運動への黙示的考察』解放出版社

・角岡伸彦、2017『ピストルと荊冠——〈被差別〉と〈暴力〉で大阪を背負った男・小西邦彦』講談社+α文庫

・筆坂秀世・宮崎学、2010『日本共産党vs.部落解放同盟』にんげん出版