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高血圧緊急症について
腎臓内科 髙橋 則尋
モーニングセミナー : 2014年4月24日
ある日、修練医A先生の当直
夜中の4時過ぎ、某救急隊よりコールあり。
高血圧治療中の60歳代の男性より、呼吸困難、頭痛、しびれにて目が覚めて、救急要請があったとのこと。
さて、A先生のとった行動は
① 眠いのでシカト
② 満床を理由に適当に断る
③ 処置中ということにして、丁重に断る
④ 断りたいが、西村先生と院長に後で叱られるので渋々受ける
⑤ 勉強になりそうなので、喜んで受ける
喝! 喝! 喝! 天晴! 天晴!
渋々受けたA先生 すると2分で救急車到着
患者は65歳、男性、会社役員。 最近、血圧異常を指摘され、アムロジピンを内服していたが、内服は丌定期であり血圧は丌安定であった。仕事が忙しく、ストレスを感じていた。
普段通り、12時過ぎに就寝するも、4時過ぎになり、息苦しさと頭痛、手足のしびれなどにより、目が覚めた。 家人により、救急車要請となった。
臨床所見
身長、体重は丌明も、一見するとやや太り気味
意識:清明
体温:36.8℃
血圧:210-132 mmHg
脈拍:104 bpm、整
呼吸:20 /分
SpO2:92%
頸部:静脈怒張なし
胸部:心音 純、 呼吸音 やや低下
腹部:血管雑音なし
下肢:浮腫なし
神経所見:正常範囲内
あなたの初期臨床診断は?
重症高血圧症
高血圧緊急症
高血圧切迫症
悪性高血圧
高血圧緊急症の分類
乳頭浮腫を伴う加速型-悪性高血圧
高血圧脳症
急性の臓器障害を伴う重症高血圧症 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血 急性大動脈解離 急性左心丌全・急性冠症候群 急性腎丌全
脳梗塞血栓溶解療法後の重症高血圧
褐色細胞腫クリーゼ
子癇
術後の重症高血圧
重症火傷・重症鼻出血
悪性高血圧の臨床診断基準
主症状
1.血圧 : 拡張期血圧 >130mmHg
2.眼底 : K-W Ⅳ度
3.腎機能 : 進行性の高度な腎機能の低下
4.臨床経過 : 全身症状の急激な変化、脳症状、心症状
参考
Type A(典型的):1,2,3,4
B1 :2,3,4;拡張期血圧120-130mmHg
B2 :1,3,4;眼底K-W Ⅲ度
B3 :1,2,4;腎機能の低下軽度
C :拡張期血圧120-130mmHg、眼底K-W Ⅲ度、 腎機能の低下が軽度で治療中
レニンプロフィールによる 高血圧緊急症の分類
レニン依存型(R型)
高レニン群
悪性高血圧
他の中等~高レニン群
腎血管性高血圧
レニン産生腫瘍
副腎クリーゼ
中等レニン群
高血圧切迫症(前述の2項目以下)
食塩・体液量依存型(V型:低レニン群)
腎性高血圧症
原発性アルドステロン症
低レニン性本態性高血圧症
症例に戻り・・・ 必要な問診・検査項目は?
病歴・症状
高血圧の診断・治療歴
血圧上昇に伴う臨床症状
身体所見
血圧・脈拍・呼吸・体温
体液量の評価:頻脈、脱水、浮腫など
中枢神経系:意識状態、片麻痺など
眼底
頸部:静脈怒張、血管雑音など
胸部:心雑音、呼吸音など
腹部:血管雑音
四肢:浮腫、動脈拍動など
病歴・症状
身体所見
症例に戻り・・・ 必要な問診・検査項目は?
緊急検査
尿検査、血液検査
血液生化学検査(心筋逸脱酵素、Dダイマーなど)
動脈血ガス分析(必要に応じ)
12誘導心電図検査、胸部レントゲン検査
頭部CT検査(またはMRI)
胸・腹部CT検査(可能であれば造影)
心・腹部血管エコー(可能であれば)
準緊急検査
血漿レニン活性、アルドステロン濃度、カテコラミン
緊急検査
準緊急検査
臨床検査成績
CRP 0.69 mg/dl CK 93 U/l CK-MB 9.5 U/l トロポ-T 0.03 ng/ml H-FABP (-) D-ダイマー 0.1 ug/ml
GOT 17 U/l GPT 14 U/l ALP 265 U/l LDH 188 U/l γ-GTP 16 U/l ChE 151 U/l LAP 58 U/l T-Bil 0.5 mg/dl D-Bil 0.1 mg/dl
TP 6.7 g/dl ALB 4.2 g/dl BUN 39 mg/dl Cr 2.5 mg/dl UA 4.6 mg/dl Na 144 mmol/l K 5.2 mmol/l Cl 107 mmol/l
WBC 10700 /μl RBC 547 ×104/μl Hb 16.2 g/dl Ht 46.0 % MCV 84.1 fl MCH 29.6 pg MCHC 35.2 % PLT 15.5 ×104/μl
胸部レントゲン検査
12誘導心電図
頭部CT検査
胸部CT検査
腹部CT検査
あなたの最終臨床診断は?
悪性高血圧
ただし、眼底所見、腎機能や臨床の
経過は丌明であり、タイプ別分類は丌可
あなたの治療方針は? (現在は既に7時過ぎ)
① 通常診療に合わせて、内科受診を指示
② カルシウム拮抗薬内服後、帰宅
③ とりあえずルート確保後に新患外来へ
④ 東1階へ入院後、新患外来へ
⑤ 東1階へ入院後、治療開始し、その後 専門科へコンサルト
⑥ ICU入室後に治療開始し、その後 専門科へコンサルト
× × × △ ○ ◎
重症高血圧患者の管理手順 重症高血圧
血圧>180-120mmHg
(-) (+)
新規発症 (高血圧切迫症)
基本的検査
高血圧緊急症 ICU入室 基本的検査
非経口降圧薬治療
原因疾患精査
経口降圧薬治療
既往歴(+) (難治性高血圧)
治療継続
経口降圧薬治療
脳症 進行性標的臓器障害
レニンプロフィールによる 高血圧緊急症の分類
レニン依存型(R型)
高レニン群
悪性高血圧
他の中等~高レニン群
腎血管性高血圧
レニン産生腫瘍
副腎クリーゼ
中等レニン群
高血圧切迫症(前述の2項目以下)
食塩・体液量依存型(V型:低レニン群)
腎性高血圧症
原発性アルドステロン症
低レニン性本態性高血圧症
静注可能な降圧薬
降圧薬 用量
用法
効果発現
持続時間
副作用 主な適応
ジルチアゼム
(ヘルベッサー)
5-15μg/kg/min
持続静注
5分以内
30分
除脈、房室ブロック 急性心丌全以外の
ほとんどの緊急症
ニカルジピン
(ペルジピン)
0.5-6μg/kg/min
持続静注
5-10分
15-30分
頻脈、頭痛、
顔面紅潮
ほとんどの緊急症
ニトログリセリン
(ニトログリセリン)
5-100μg/min
持続静注
2-5分
5-10分
頻脈、頭痛、
嘔吐
急性冠症候群
ニトロプルシドNa
(ニトプロ)
0.25-2μg/kg/min
持続静注
瞬時
1-2分
頻脈、悪心、
嘔吐
ほとんどの緊急症
ヒドララジン
(アプレゾリン)
10-20mg
静注
10-20分
3-6時間
頻脈、頭痛、
顔面紅潮
子癇
フェントラミン
(レギチーン)
1-10mg
静注
1-2分
3-10分
頻脈、頭痛 褐色細胞腫
プロプラノロール
(インデラル)
2-10mg/4-6hr毎
静注
除脈、房室ブロック、
心丌全
頻脈性高血圧
高血圧緊急症に対する 降圧薬の選択と降圧目標値
病態 選択する降圧薬 降圧目標値
高血圧性脳症 ニカルジピン、ジルチアゼム、ニトロプルシド
ヒドララジンは脳圧亢進あり禁忌
初期2-3時間:25%程度の降圧
脳血管障害 ニカルジピン、ジルチアゼム、ニトロプルシド、
ニトログリセリン
急性期:前値の80%程度
慢性期:<140-90mmHg
急性左心丌全 ニトロプルシド、ニカルジピン、ニトログリセリン
フロセミドやhANPを併用
10-15%程度の収縮期血圧の降下
急性冠症候群 ニトログリセリン
除脈がなければβ遮断薬の併用
大動脈解離 Ca拮抗薬とニトログリセリン、ニトロプルシド、β遮断薬の併用
厳格な管理:
収縮期血圧100-120mmHg
悪性高血圧 第1選択薬:ACE阻害薬、ARB
併用薬:ループ利尿薬
発症24時間以内:
拡張期血圧100-110mmHg程度
褐色細胞腫クリーゼ フェントラミン
併用薬:選択的α遮断薬
子癇 ヒドララジン
禁忌薬:ACE阻害薬、ARB
本症例の臨床経過
ICU入室後、ニカルジピン・ニトロプルシドの併用持続静注にて徐々に降圧を図った。降圧とともに臨床症状も改善した。
入院7日目:臨床データ
血圧;142-84mmHg、脈拍;76bpm
尿タンパク (+) TP 6.3 g/dl ALB 4.0 g/dl BUN 29 mg/dl Cr 1.8 mg/dl Na 140 mmol/l K 5.0 mmol/l
WBC 7600 /μl RBC 506 ×104/μl Hb 14.9 g/dl Ht 45.0 % PLT 16.5 ×104/μl
静注薬から内服薬への切替え
第1選択薬
1)サイアザイド系利尿薬
2)ループ系利尿薬
3)Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)
4)ARB
5)ACE阻害薬
6)α遮断薬
7)β遮断薬
8)α・β遮断薬
第2選択薬
1)サイアザイド系利尿薬
2)ループ系利尿薬
3)Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)
4)ARB
5)ACE阻害薬
6)α遮断薬
7)β遮断薬
8)α・β遮断薬
△ △ ◎ ○
◎ ◎ △
慢性腎臓病患者における
降圧目標と第一選択薬
・蛋白尿:軽度尿蛋白(0.15g/gCr)以上を「蛋白尿有り」と判定する
・GFR 30mL/分/1.73m2未満,高齢者ではRA系阻害薬は少量から投与を開始する
・利尿薬:GFR30mL/分/1.73m2以上はサイアザイド系利尿薬,それ未満はループ利尿薬を用いる
・糖尿病,蛋白尿(+)のCKDでは,130/80mmHg以上の場合,臨床的に高血圧と判断する
降圧目標 第一選択薬
糖尿病(+) 130/80mmHg未満 RA系阻害薬
糖尿病(-)
蛋白尿 無 140/90mmHg未満 RA系阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬
蛋白尿 有 130/80mmHg未満 RA系阻害薬
尿中アルブミン減少効果の ARBとCCBの比較
80
1 2 3 4 5 6
変化率
(月) 0
(%)
-60
-20
20
0
期 間
-40
60
40
SBP < 130 ARB
SBP≧130 ARB
SBP < 130 CCB
SBP≧130 CCB
P<0.01 P<0.01
P<0.01
* ARBとACE阻害薬の併用は一般には用いられないが,腎保護のために併用するときは,腎機能,
高K血症に留意して慎重に行う
2剤の併用
ACE阻害薬 ARB
Ca拮抗薬
利尿薬