高知県経済の現状と課題 - bank of japan2020/01/28  · Ⅰ.高知県経済の現状...

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高知県経済の現状と課題 20201日本銀行高知支店 奥野 聡雄

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  • 高知県経済の現状と課題

    2020年1月日本銀行高知支店

    奥野 聡雄

  • Ⅰ.高知県経済の現状

    高知県の景気は、一部に弱めの動きがみられるものの、回復している。

  • (注)シャドーは景気後退期(内閣府調べ)。(出所)日本銀行高知支店

    1.企業の業況感

    2

    <業況判断D.I.(全産業、「良い」-「悪い」)> <業況判断D.I. の内訳>

    (「良い」-「悪い」社数の構成比・%ポイント)

    90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19-60

    -50

    -40

    -30

    -20

    -10

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    (%ポイント)

    高知

    全国

    「良い」超

    「悪い」超

    予測

    20

    12月 2020/3月

    最近 変化幅 先行き 変化幅

    全産業 10 6 ▲ 4 2 ▲ 4

    製造業 23 10 ▲ 13 10 0

    食料品 13 13 0 0 ▲ 13

    はん用・生産用・業務用機械 67 33 ▲ 34 16 ▲ 17

    非製造業 5 4 ▲ 1 ▲ 1 ▲ 5

    建設 9 27 18 9 ▲ 18

    卸売 0 ▲ 14 ▲ 14 ▲ 14 0

    小売 13 0 ▲ 13 9 9

    宿泊・飲食サービス 0 14 14 14 0

    全産業 8 4 ▲ 4 0 ▲ 4

    製造業 ▲ 1 ▲ 4 ▲ 3 ▲ 7 ▲ 3

    非製造業 14 11 ▲ 3 5 ▲ 6

    全国(全規模合計)

    2019/9月

    日銀のアンケート調査(12月短観)で企業の業況感をみると、製造業が、海外経済減速による受

    注の下振れなどを背景に悪化した一方、非製造業は、堅調な公共投資を背景に建設が改善したことなどから、9月調査対比、横ばいとなった。

    先行きは、製造業が横ばいを予想する一方で、非製造業は、消費税率引き上げに伴う消費者マインドの悪化などを懸念し、悪化を見込んでいる。

  • 2.企業の売上・収益計画

    3

    <売上・収益計画> <売上高経常利益率(全産業)>

    (注)前年度比や修正率の「0.0」は正・負を区分していない(集計上、「+0.0」と「▲0.0」を纏めて「0.0」と表記)。(出所)日本銀行高知支店

    ▼売上高計画

    ▼収益(経常利益)計画

    2018年度 2019年度

    実績 計画 (修正率)

    全産業 + 1.8 + 2.2 (0.0)

    製造業 + 4.4 + 0.7 (▲ 1.2)

    非製造業 + 1.2 + 2.6 (+ 0.3)

    2018年度 2019年度

    実績 計画 (修正率)

    全産業 ▲ 2.7 ▲ 15.1 (▲ 1.3)

    製造業 + 7.8 ▲ 21.3 (▲ 6.3)

    非製造業 ▲ 15.9 ▲ 5.2 (+ 6.2) 0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

    (%)

    年度

    計画

    2019年度の売上高は、製造業では、国内のインフラ関連受注の増加などから増収となるほか、非製造業でも、県外への販路拡大や新規出店効果により増収となる見込み。

    経常利益は、製造業では、原材料価格の上昇や設備の償却負担の増加により減益。非製造業も、人件費や物流費の増加などから減益となる見込み。

    ⇒ もっとも、売上高経常利益率は、なおバブル期後半並みの高い水準を維持しており、県内企業の収益環境は総じて良好な状況にある。

    (前年度比・%)

    (前年度比・%)

  • 3.設備投資

    4

    (年度初来累計、民間非居住用)

    <設備投資計画> <着工建築物工事費予定額>

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    400

    450

    500

    4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

    15年度

    16年度

    17年度

    18年度

    19年度

    (億円)

    (月)

    238億円(前年比 +54.9%)

    (注)民間非居住用着工建築物工事費予定額は、建築主が「会社」、「会社でない団体」、「個人」である着工建築物のうち、用途が「居住専用住宅」、「居住専用準住宅」、「居住産業併用建築物」であるものを除いた合計額。

    (出所)日本銀行高知支店、国土交通省

    設備投資は、高めの水準ながら、足もとにかけては弱めの動きがみられている。

    ⇒ 2019年度の設備投資計画をみると、製造業で過年度の大型投資の反動が見込まれるほか、非製造業で新規出店の抑制が続いている。

    ⇒ 建築物の着工額(企業等の上モノ投資)は、年度初来、高めの水準を維持。

    (前年度比・%)

  • 4.公共投資

    (出所)西日本建設業保証株式会社 5

    <公共工事請負金額(年度初来累計)>

    公共投資は増加している。

    ⇒ 災害復旧工事や国土強靭化投資を中心に、2019年度入り後の公共工事請負金額は、4月以降の累計で、17年ぶりの高水準。昨年度と比べても、3割近く上回って推移している。

    ⇒ 工事現場における人手不足には注意が必要であるが、新たな経済対策が加わるこの先も、さらなる需要の増加が見込まれる。

  • 5.個人消費・住宅投資

    6

    <小売売上高> <新設住宅着工総戸数>

    (出所)経済産業省、国土交通省

    (注)1.左図は、全店ベース。2019/11月は速報値。2.右図の2019/4Qは、10~11月の前年同期比。

    個人消費は、基調としては持ち直している。

    ⇒ 気温の高さが季節商品の販売下押しに繋がっているが、消費税率引き上げの影響は和らいできている。特にキャッシュレスポイント還元制度は、スーパーを中心にプラスの効果を発揮。

    住宅投資は、基調としては増加している。高知市周辺では、ファミリー層や高齢者層の住み替え需要を背景に、分譲マンションの着工が堅調に推移している。

  • 6.観光

    7

    <主要観光施設入込客数> <主要旅館・ホテル宿泊客数>

    (出所)高知県、日本銀行高知支店

    (注)集計対象先について随時見直しを行っているため、計数は必ずしも連続しない。2018年以降は速報値。

    (注)1. 集計対象先について随時見直しを行っているため、計数は必ずしも連続しない。直近見直し後は高知県内40先ベース。

    2. 前年同月比は、既存先ベースの値。

    観光は、横ばい圏内で推移している。

    ⇒ 足もとの観光客数は、前年の大型イベントの反動等から、中部を中心に前年比減少。

    ⇒ ホテルや旅館では、旅行マインドそのものは崩れていないとする先が多い。足もとの宿泊客数は、学会やスポーツ大会の開催も下支えとなり、前年比プラスで推移。

  • ▼総合

    7.生産

    8

    ▼業種別、季節調整値、6か月移動平均

    <鉱工業生産指数>

    (出所)高知県

    80

    85

    90

    95

    100

    105

    110

    115

    120

    125

    130

    ┗ 1 3 ┛┗ 1 4 ┛┗ 1 5 ┛┗ 1 6 ┛┗ 1 7 ┛┗ 1 8 ┛┗ 1 9

    季節調整値

    6か月移動平均

    (年)

    (2015年=100)

    80

    85

    90

    95

    100

    105

    110

    115

    120

    125

    130

    ┗ 1 3 ┛┗ 1 4 ┛┗ 1 5 ┛┗ 1 6 ┛┗ 1 7 ┛┗ 1 8 ┛┗ 1 9

    機械(21)

    食料品(19)

    窯業・土石製品(11)

    パルプ・紙・紙加工品(10)

    鉄鋼(4)

    (年)

    (2015年=100)

    (注)( )内は、鉱工業生産指数全体に占める各業種のウェイト。単位は%。

    製造業の生産は、横ばい圏内の動きとなっている。

    ⇒ 機械は、一部に弱めの動きがみられるものの、国土強靭化、復興関連需要に支えられ、全体としては増加傾向にある。食料品は横ばい圏内で推移し、窯業・土石は下げ止まっている。

    ⇒ 一方で、製紙・パルプや鉄鋼では、中国向け、自動車向けを中心に受注の減少が続いている。

  • 8.企業金融

    (出所)日本銀行高知支店 9

    <企業からみた金融機関の貸出態度> <企業の資金繰り>

    ▲ 40

    ▲ 30

    ▲ 20

    ▲ 10

    0

    10

    20

    30

    90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18

    全産業

    製造業

    非製造業

    (「楽である」-「苦しい」、%ポイント)

    (年)

    ▲ 40

    ▲ 30

    ▲ 20

    ▲ 10

    0

    10

    20

    30

    40

    90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18

    全産業

    製造業

    非製造業

    (「緩い」-「厳しい」、%ポイント)

    (年)

    製造業、非製造業ともに、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰りは、バブル期並みの良好な水準で推移。

    ⇒ 高知県内では、きわめて緩和的な金融環境が継続している。

  • Ⅱ.高知県経済の先行き

  • 1.中心的な見通しとリスク要因

    11

    (中心的な見通し)

    ■ 高知県の景気の先行きについては、企業・家計の両部門において、所得から支出への

    前向きの循環が続くもとで、回復が続くと考えられる。

    ⇒ (企業部門)高水準の企業収益 → 設備投資や雇用者所得の増加

    ⇒ (家計部門)雇用者所得の増加 → 個人消費や住宅投資の増加

    (主なリスク要因)

    ① 海外経済を起点とした県外需要の動向

    ⇒ 海外経済の減速が長引いたり、それが日本経済の下振れに繋がれば、製造業を中心に、関連企業の業況が悪化するリスクがある。

    ⇒ それが、雇用・所得環境の悪化を通じて、地元の小売・サービス・建設等の売上・収益に波及する可能性も。

    ② 人手不足の影響

    ⇒ 人手不足に伴う人件費の上昇が、企業収益を圧迫し、業況の悪化に繋がる可能性。

    ⇒ 若手・中堅経営者の人材難が、投資の抑制や事業承継難に繋がるおそれ。

    ⇒ 企業の供給能力(生産する力、販売する力)が低下すれば、県内外の需要が維持・回復しても、それに対応できなくなるリスクがある。

  • 2.県外需要の動向①:海外経済の中心的な見通し

    12

    -0.5

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    3.5

    4.0

    4.5

    5.0

    5.5

    6.0

    00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 20

    (前年比、%)

    1980~2018年

    平均:+3.5%

    2019年:

    +3.0%

    2020年:

    +3.4%

    <世界経済の成長率> <世界半導体出荷額>

    -10

    -5

    0

    5

    10

    10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

    (季節調整済前期比、%)

    (注)1. 左図の2019年以降は、2019/10月時点のIMF見通し。2. 右図は、WSTSデータを用いて日本銀行スタッフが算出。

    (出所)黒田東彦「好循環の持続に向けて── 日本経済団体連合会審議員会における講演 ──」(2019年12月26日)

    引き続き不確実性は大きいものの、世界経済は、①米中貿易協議の進展、②グローバルのIT

    サイクルの持ち直し、③各国のマクロ経済政策の効果発現などから、本年半ばにかけて緩やかに成長率を高めていくと考えられる。

  • 3.県外需要の動向②:海外経済に関する当面のポイント

    (注)1.スイングステートは、National Constitution Centerが定めるコロラド、フロリダ、アイオワ、ミシガン、ミネソタ、ネバダ、ニューハンプシャー、ノースカロライナ、オハイオ、ペンシルベニア、バージニアの11州。共和党(民主党)支持州は、16年大統領選挙において共和党(民主党)を支持した州。農家破産件数は連邦破産法第12条の申請件数(18/10~19/9月)。

    2.主要国・地域の消費者コンフィデンスを、05~18年平均と同期間の標準偏差で標準化し、PPPウエイトで加重平均して算出。直近は4Q(10-11月)。公表の遅い一部の国は前月から横置き。

    (出所)Fajgelbaum et al., 2019, “The Return to Protectionism.”、U.S.Courts、BLS、S&P Global Market Intelligence、HAVER、Dealogic、ICE data indices、Bloomberg 13

    <米国農家破産件数> <消費者コンフィデンス> <米国企業債務>

    トランプ政権の動向 ⇒ 中国の報復関税は、「共和党支持州」や「スイングステート」の経済にダメージ。11月の大統領選に向けて対中強固姿勢を更に緩和させるか? イランとの対立激化が原油価格等に及ぼす影響にも注意。

    製造業の弱さが非製造業部門に波及することはないか? ⇒ 雇用・所得環境の悪化が、消費者マインドの悪化に繋がらないかどうかがポイント。

    企業債務の積み上がりに注意 ⇒ 仮に大きな金融ショックが生じた場合、財務面で脆弱な企業の雇用削減等につながる可能性。

  • 4.県外需要の動向③:わが国の輸出と国内需要

    14

    96

    98

    100

    102

    104

    106

    -18 -12 -6 0 +6 +12 +18

    前回

    今回

    (季節調整済、消費税率引き上げ月の18~16か月前=100)

    (注)1.左図の国内需要は、民間最終消費支出、民間住宅、民間企業投資、公的支出(政府最終消費支出、公的固定資本形成)の合計。2.中央図の公的支出は、政府最終消費支出と公的固定資本形成の合計。3.右図の0月は、消費税率引き上げ月(前回:2014/4月、今回:2019/10月)。消費活動指数(実質、旅行収支調整済)。

    (出所)雨宮正佳「最近の金融経済情勢と金融政策運営── 岡山県金融経済懇談会における挨拶 ──」(2019年12月12日)黒田東彦「好循環の持続に向けて── 日本経済団体連合会審議員会における講演 ──」(2019年12月26日)

    <輸出と国内需要> <国内需要の内訳> <消費増税の影響>

    海外経済の減速を背景に、輸出は弱めの動きを継続。一方で、国内需要は企業、家計、公的部門ともに増加しており、海外経済減速の影響は限定的なものにとどまっている。

    ⇒ 10月以降の個人消費は、自然災害の影響もあってやや大きめに減少したが、それを除けば、2014年の消費増税時と比べて、税率引き上げ後の反動減は小幅。

  • 5.県外需要の動向④:日本経済の見通しとリスク要因

    15

    <実質GDP(10月展望レポート)> <経済のリスク要因>

    490

    500

    510

    520

    530

    540

    550

    560

    12 13 14 15 16 17 18 19 20 21年度

    (季節調整済年率換算、兆円)

    2019年度

    +0.6%

    2020年度

    +0.7%

    2021年度

    +1.0%

    (注)見通しは、日本銀行政策委員の見通しの中央値。(出所)黒田東彦「最近の金融経済情勢と金融政策運営-名古屋での経済界代表者との懇談における挨拶-」(2019年11月5日)

    ✔ 海外経済の動向

    ・ 米中貿易摩擦

    ・ 中国などの新興国・資源国経済

    ・ IT関連財のグローバルな調整の進捗状況

    ・ 英国のEU離脱問題の展開

    ・ 地政学的リスク(中東、朝鮮半島、ラ米等)

    ✔ 消費税率引き上げの影響

    ✔ 企業や家計の中長期的な成長期待

    ✔ 財政の中長期的な持続可能性

    日本経済は、当面、海外経済減速の影響が続くものの、基調としては緩やかな拡大を続けると考えられる。内需は、これまでの海外経済減速や消費税率引き上げ、自然災害の影響から、増勢はいったん鈍化するものの、大きな落ち込みは回避される見込み。

    もっとも、海外経済の動向を中心に、下振れリスクに注意が必要な情勢は続いている。

  • 6.人手不足の影響①:全国的にも最大の経営課題

    16

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    90

    100

    90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18

    その他 求人難

    人件費、支払利息等の増加 製品安や値下げ要請

    原材料高 売上・受注の停滞、減少

    構成比、%

    (出所)日本政策金融公庫

    ▽企業が直面する経営上の課題(中小企業)

    全国の中小企業の「経営課題」をみると、リーマンショック直後は、「売上・受注の停滞・減少」を指摘する先が圧倒的多数であったが、ここ数年は、「求人難」が最大の課題となっている。

  • 7.人手不足の影響②:高知県の労働需給

    (注)直近は、19年11月。(出所)厚生労働省、高知労働局

    17

    <有効求人倍率> <業種別新規求人数>

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    1.2

    1.4

    1.6

    1.8

    07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

    全国

    四国

    高知県

    (年)

    (倍)

    全国:1.57

    四国:1.55

    高知:1.27

    高知県の有効求人倍率は、2015年に史上初めて1倍を超えた後も上昇を続け、現在は、高原状態にある。

    製造業については、省力化投資の進展や稼働率の低下により、このところ求人数が減少傾向。一方、非製造業では、建設、小売、医療・福祉などで人手不足が続いている。

    (月)▲ 40

    ▲ 30

    ▲ 20

    ▲ 10

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    18/4 6 8 10 12 19/2 4 6 8 10

    製造業建設業卸売業,小売業医療,福祉

    (前年比%)

  • 8.人手不足の影響③:所定内・所定外給与

    (注)左図の所定内給与は、30人以上事業所。サンプル替え調整後は、サンプル替え前後(17/12月と18/1月、18/12月と19/1月)の水準の差分を「サンプル替えに伴う段差」と看做し、当該差分をその後の通年データに加減算する補正を実施したもの。

    (出所)高知県

    18

    <所定内給与> <所定外給与と所定外労働時間>

    良好な収益環境や人手不足を反映して、所定内給与は、総じて堅調な伸びを続けている。もっとも、史上最高の求人倍率の割には、落ち着いているともいえる。

    一部製造業の稼働率低下や「働き方改革」を背景に、残業時間や残業代は、このところ減少傾向にある。

    -40

    -30

    -20

    -10

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    17/1 7 18/1 7 19/1 7

    所定外労働時間

    所定外給与

    (全産業、前年比、%)

    (月)

    -10

    -8

    -6

    -4

    -2

    0

    2

    4

    6

    8

    15 16 17 18 19

    原系列

    サンプル替え調整後

    (全産業前年比、%)

    ▲6.2%

    +0.9%

    ▲0.4%

    ▲0.1%

    +1.4% +4.7%

    +0.9%

    (年)

  • ▽会社役員の年代別構成比

    19

    9.人手不足の影響④:経営者の人材難

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    16

    18

    20

    20

    ~24

    25

    ~29

    歳30

    ~34

    35

    ~39

    40

    ~44

    45

    ~49

    50

    ~54

    55

    ~59

    60

    ~64

    65

    ~69

    70

    ~74

    75

    歳以上

    全国 高知

    (構成比、%)

    (出所)総務省「就業構造基本調査」

    高知県では、全国に比べて、60歳以上の経営者(会社役員)の割合が高く、逆に、50歳前後の経営者の割合が低い。 2000年代の景気低迷(Uターンの減少)を含め、長期にわたる人材流出の影響が、ここにきて、中核的な経営者層の不足をもたらしている可能性。

    ⇒ こうした状況が、大型投資の抑制や事業承継の困難化に繋がることを防ぐ必要。

  • Ⅲ.高知県経済の中長期的な成長力

  • 1.高知県経済の立ち位置(他県との比較)

    (注)県内総生産(名目)は、2005年度(2005年基準<93SNA>)から2015年度(2011年基準<2008SNA>)の変化。人口増減率は2006年3月31日と2016年1月1日の住民基本台帳人口の変化。

    (出所)内閣府「県民経済計算」、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」

    21

    <名目GDPの成長率と人口増減率>

    2005~2015年の10年間は、リーマン・ショックに加え、地方部の多くの県で、人口の大幅減少が経済の下押し要因となった。

    そうした中にあっても、震災復興需要やインバウンドの拡大などから、経済が明確に成長した県がある。一方で、人口の減少とパラレルに、マイナス成長となった県もある。

    高知県は、この時期、経済規模が維持され、その後も拡大が続くなど、人口減少県の中では健闘している。

  • 2.中長期的な経済成長率(潜在成長率)

    (注)フィルタリングアプローチ(実質GDP 成長率の原データからHodrick–Prescott フィルターによってトレンド成分を抽出する手法)によって当店算出。直近は2016 年度。

    (出所)日本銀行高知支店「高知県経済の成長力と課題」(2019年12月20日)22

    <潜在成長率(長期時系列)>

    短期的な景気変動の影響を取り除いた経済の趨勢的な成長率を「潜在成長率」という。

    ⇒ 長い目でみて、経済の成長力はその供給能力によって規定されるため、潜在成長率とは、供給能力の成長率とほぼ同じ意味となる。

    1980年代や2000年代は、高知県の成長率は、全国の成長率をはっきりと下回っていたが、この10年間は、当県の潜在成長率は持ち直しており、全国との差も縮まってきている。

  • 3.潜在成長率とは

    23

    経済の成長力(供給能力)は、生産や販売に投入される①労働力の量、②資本(設備)の量、③こうした生産要素を利用する際の能率(全要素生産性)、の3つに分解できる。

    (潜在)成長率

    = ①労働投入量の伸び率

    + ②資本投入量の伸び率

    + ③全要素生産性の伸び率

    「全要素生産性」(TFP: Total Factor Productivity)

    とは、労働や資本といった生産要素を利用する際の能率、生産性のこと。

    ⇒ 同じ量の労働と資本でどれだけの付加価値を生み出すことできるか、を表したもの。

    経済の供給能力が低下すれば、目の前に需要が存在しても、稼ぐことができない。

    ⇒ 必要な人手が確保できなければ、工事を受注できない。

    ⇒ 店員や店舗・設備が不足すれば、モノやサービスを売ることができない(Eコマース等を通じて県外に逸出していく可能性)。

    ⇒ 県外から高知県の食材や製商品に対する注文がきても、生産・販売するための人材やノウハウが足りなければ、折角の注文を他県に奪われてしまう。

    経済の供給能力を高めることができれば、新たな需要を創り出すこともできる。

    ⇒ 技術革新やマーケティングの充実により、新たな製商品の開発・販売に成功すれば、埋もれていた潜在的な需要を現実の需要として掘り起こし、売上や収益の増加に繋げることができる。

  • 4.潜在成長率の変動要因

    (出所)日本銀行高知支店「高知県経済の成長力と課題」(2019年12月20日)24

    <潜在成長率(要因分解)>

    高知県経済の潜在成長率が2010年頃から上昇している要因をみると、①労働投入量のマイナス幅が次第に小さくなってきたことや、②資本投入量が大きく伸びていることが、影響している。

  • 5.労働投入量:就業者数の推移

    25(注)計数は季節調整済。季節調整値はX-12-ARIMAを用いて当店算出。(出所)総務省「労働力調査」(2019年8月30日公表時点)

    <15歳以上人口、労働力人口、就業者数>

    ここ数年は、女性や高齢者の労働参加が進んでいることなどを背景に、人口減少が続く中にあっても、就業者数は横ばい圏内で踏みとどまっている。

    ⇒ もっとも、人口そのものが減少しているインパクトは大きい。長期的には、出生率の引き上げや県外からの移住促進といった抜本的な対策が必要であるが、少なくとも当面は、労働投入要因の伸びが経済成長を牽引していくことは期待しにくい。

    600

    630

    660

    690

    720

    750

    300

    330

    360

    390

    420

    450

    97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

    労働力人口

    就業者数

    15歳以上人口(右目盛)

    (千人)

    (年)

    (千人)

  • 26

    <資本ストックの推移> <生産・営業用設備判断D.I.の推移>

    (出所)内閣府「都道府県別民間資本ストック」、高知県「県民経済計算」、政策投資銀行「高知県設備投資計画調査」、日本銀行高知支店「短観(高知県分)」

    (注)2010年以降は、当店による推計値。

    0.08

    0.09

    0.10

    0.11

    0.7

    0.8

    0.9

    1.0

    1.1

    97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 19

    全産業

    製造業

    非製造業(右目盛)

    (兆円)

    (年度)

    (兆円)

    6.資本投入量:資本ストックと稼働率

    就業者数が横ばい圏内で推移するなか、ここ数年、高知県経済は、資本設備の増強と設備稼働率の引き上げを通じて、成長力を維持している。

    ⇒ ただし、単に人を機械に置き換えるだけでは、いずれ過剰設備に陥り、企業の設備投資スタンスは消極化する。実際、このところ、資本投入量の成長率は伸び悩んでいる。

    ▲ 20

    ▲ 10

    0

    10

    20

    30

    4097 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 19

    製造業

    非製造業

    (「過剰」-「不足」、%ポイント、逆目盛)

    (年)

    稼働率低い

    稼働率高い

  • 7.生産性引き上げの必要性

    (注)全国のTFPと当県のTFPは、資本稼働率など、推計過程の一部で異なる統計を用いているため、幅を持って比較する必要がある。(出所)日本銀行高知支店「高知県経済の成長力と課題」(2019年12月20日)

    27

    <TFP成長率(高知県と全国)>

    上述のとおり、先行き、資本投入量の伸びは鈍化していくと見込まれるほか、当面、労働投入量が大きく改善する可能性も小さい。

    そうだとすれば、今後、高知県経済の潜在成長率を引き上げていくためには、資本投入量でも労働投入量でもない、全要素生産性の伸びが不可欠となる。

    当県の全要素生産性の伸びは、2014年度にプラスに転じたが、全国平均を大きく下回っている。

  • 8.生産性の引き上げ①:個別企業に求められる取り組み

    28

    生産性向上の原動力は、常に、個別企業の前向きな取り組み。

    具体的な手法は企業によって様々であるが、例えば、以下のような取り組みは、企業の生産性(TFP)を引き上げる有力な手法とされている。

    ①技術・知識の維持

    熟練技術を持った職人や経営陣が高齢化するなかで、企業に蓄積された技術・知識が継承されずに失われてしまう可能性がある。

    OJTを通じて次の世代に技術を継承したり、職人の技術を代替する性能の高い機械を導入するなどして、現在の技術知識ストックを維持することが必要。

    ②技術・知識の吸収

    企業は、自前で研究開発等を行わなくても、社外の技術進歩を取り込むことで、自らの生産性を高めることができる。

    県外の大企業で経験を積んだIターン・Uターン希望者を採用することや、業界

    団体などが都市部で開催する講習等に従業員を参加させることも、最先端のイノベーションにキャッチアップする有効な手法。

    ③研究開発投資・ICT投資の積極化

    研究開発投資やICT投資(情報技術などの無形資産に対する投資)を積極的に行うことで技術知識ストックをさらに積み増すことが重要。

    ただし、当県は全国的にみてかなり低い水準にある(次頁グラフ参照)。

    行政や金融機関による制度・資金面からのサポートも重要。業界団体が共同で投資プロジェクトを推進したり、大学や研究機関と連携して新たな事業に取り組むなど、投資の進め方にも工夫の余地がある。

  • (注)左図は、2015年度~2017年度の3年間の平均値。(出所)日本銀行高知支店「高知県経済の成長力と課題」(2019年12月20日)

    29

    <一事業所当たりの研究開発投資額> <労働分配率>

    ④労働力の質の改善

    従業員の個々のスキルが向上すれば、同じ人数でより多くの付加価値を生み出せる。

    優秀な学生の流出を防ぎ、県内企業への就職を増やすためには、労働分配率の引き上げを含め、県内の企業が自らの魅力をアピールしていく必要(下記グラフ参照)。企業内OJT等を通じた継続的な社員教育も重要。

  • 9.生産性の引き上げ②:県全体で対応すべき課題

    30

    高知県経済の成長力を高めるためには、個別企業の取り組みに加えて、県全体として、どのように生産性(TFP)を引き上げていくのか、という議論も欠かせない。

    例えば、関係者による以下のような取り組みは、課題解決の方策となりうる。

    ①起業しやすい環境の整備

    起業によって新たな製品や革新的な生産技術が生み出されれば、企業間の競争意識の高まりと合わせ、経済全体の生産性が向上すると考えられる。

    この点、当県の開業率は、他の都道府県に比べてかなり低い(次頁グラフ参照)。

    県は起業人材の育成や事業化を積極的にサポートしているが、こうした施策が民間の前向きなリスクテイクを後押しし、起業件数が増加していけば、県内経済の新陳代謝の活性化に繋がると期待される。

    ②県外資本の活用

    高知県では、県外資本による企業進出が他県ほど進んでいない(次頁グラフ参照)。これは、当地企業の経営の安定に繋がっている面があるが、競争意識が高まらず、その分、生産性向上に向けた取り組みが遅れる可能性もある。

    例えば、最先端の技術を有する県外企業を誘致し、県全体で「技術吸収」を進めていけば、県内・県外企業のWIN-WINな関係を構築することが可能。

  • (注)1.左図は、2018年度。開業率は、2018年度に雇用関係が新規に成立した事業所数/2017年度末の適用事業所数。廃業率は、2018年度に雇用関係が消滅した事業所数/2017年度末の適用事業所数。

    2.右図は、2016年。全産業(公務を除く)のうち、県内総事業所数に占める県外資本企業の事業所数の比率。(出所)日本銀行高知支店「高知県経済の成長力と課題」(2019年12月20日)

    31

    <企業の開廃業率> <県外企業の県内進出状況>

    ③生産資源の最適な配分

    一般に、相対的に生産性の高い企業により多くの資本や労働力を投入すれば、経済全体の生産性は向上する。

    当地の金融機関が将来の収益性をしっかりと評価して適切に資金を供給すれば、県内の生産資源の最適な配分に寄与する。同様に、行政が経済政策を策定する際には、各種の生産資源がよりニーズの高い企業や産業に重点的に活用されるような工夫を講じることが期待される。

  • 10.生産性引き上げに向けた高知県の「強み」

    32

    高知県には、「地産外商」戦略のもとで、県外・海外から外貨を稼ぎ、これまで以上に生産性を高めることができる有力分野がたくさん存在する。

    ①競争力のある農林水産業

    高知県の産業で外貨を稼げているのは、第1次産業のみ(県際収支がプラス)。

    当地の「比較優位」を活かすためには、「6次産業化」を大規模に進めて、生産者1人当たりの付加価値をさらに高める必要。

    ②技術力に長けたインフラ関連事業

    土木・建築、建設機械などの事業分野では、災害多発県として高度な技術・ノウハウを蓄積している。

    全国的に、インフラ投資や都市再開発投資は高めの水準を継続。災害・環境対策など、海外の需要も想定される。

    ③ニッチ・トップ製造業の存在

    県内には、製紙関連など、伝統技術を活かして世界と戦える「ニッチ・トップ企業」が少なからず存在。

    近年は、国際的な分業の細分化が進行。高い技術力とマーケティング力をもてば、小さい市場でも、高いシェアを確保し、価格支配力を持つことができる。

    ④豊かな観光資源 高知県は、食べ物、自然、歴史、イベントなど、豊かな観光資源に恵まれている。

    ターゲット(年齢、国籍等)ごとの需要獲得戦略を立案する必要。一次・二次交通の整備、スマホアプリ・SNSの活用、DMOとの連携強化等が有効。

    ⑤ヘルスケア産業の集積

    県内最大の産業は「医療・介護サービス」。病院や医師の集積度は全国一。

    豊かな自然や温暖な気候と組み合わせれば、都市圏のシニア層の移住・療養需要を喚起し、この分野の生産性(稼ぐ力)を大きく高める可能性がある。

  • 11.高知県経済の中長期的な成長に向けて

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    海外経済の拡大 日本経済の拡大

    ニッチ・トップ製造業

    インフラ関連 観 光

    小売・サービス業への波及

    農林水産 ヘルスケア県内所得の増加

    「地産外商」により、関連企業の収益が増加すれば、それが県内の家計所得の増加を通じて、地元の小売、サービス業の業績改善にも波及していく。

    しかし、企業の生産性を高め、人手不足の問題を克服していかないと、高知県経済の供給能力が上がらず、せっかくの「地産外商」戦略は立ち行かなくなる。

    ⇒ 県外の景気改善に対応できずに、みすみす需要を取り逃がすことがあってはならない。

  • 経済をみるときには、①短期的な需要の変動(景気サイクル)と

    ②中長期的な供給能力を区別することが重要

    モノが売れないとすれば、①供給能力はあるが、需要が不足しているのか、

    それとも②需要はあるが、供給能力が不足しているのか、

    を分析する必要

    ②であれば、生産性を引き上げる方策が必要

    経済成長の原動力は、いつの時代も、民間企業の前向きな取り組み。やるか、やらないか。

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  • ご清聴ありがとうございました