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2017.4
© 2019 ROHM Co., Ltd. No. 61AN120J Rev.001
2019.3
Application Note
Super Junction MOSFET シリーズ
LLC コンバータの1次側スイッチング素子における
PrestoMOSTMの有用性について
LLC コンバータはインダクタ L と容量 C の共振を利用することによって、トランスの 1 次側のスイッチング素子のターン ON 時にゼロ電圧スイッチン
グ(Zero Voltage Switching 以下 ZVS)動作や 2 次側の Diode のゼロ電流スイッチング(Zero Current Switching 以下 ZCS)を行いま
す。このような共振動作を用いたソフトスイッチング方式を実施することにより、ハードスイッチング方式と比較してスイッチング損失や電圧のリンギング
の低減できるので、高効率かつ低ノイズの特性が必要である薄型 TV や OA 機器などの電源、オンボードチャージャーの電源などに用いられます。し
かしながら、回路の入出力条件によってはハードスイッチング動作になってしまい、Body Diode のリカバリー特性が悪い MOSFET の場合、破壊に
至る恐れがあります。本アプリケーションノートでは LLC コンバータの回路動作、及び LLC コンバータの特有の問題である共振外れに対する
PrestoMOSTM の有用性について説明します。
LLC コンバータの基本構成
Figure 1 に LLC コンバータの基本回路図を示します。Figure 1 を見るとインダクタ Lr と Lm、コンデンサ Cr の直列回路が形成されています。こ
れに由来して LLC コンバータと呼ばれています。Lr と Lm はそれぞれ共振用インダクタンス、トランスの励磁インダクタンスを表しており、Lr は一般的に
トランスの漏れインダクタンスを用いることが多いです。また、2 次側に使用されている Diode に関して、ZCS 動作であるため、リカバリーは発生しま
せん。そのため、順方向電圧 VF の低い Diode を選定すると損失を低減することができます。
Figure 1.LLC コンバータの基本回路図
LLC コンバータの動作に関する特徴
MOSFET の動作という点に着目した際の LLC コンバータのメリットおよびデメリットを Table 1 に記載します。LLC コンバータは励磁電流を用い
て MOSFET の出力容量 Coss の充放電を行う部分共振方式によって ZVS 動作を実現します。これにより、スイッチング損失を低減できるため、素
子のパッケージや放熱用ヒートシンクを小型化することができます。
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有用性について
Table 1.MOSFET の動作に関する LLC コンバータのメリットおよびデメリット
LLC コンバータは MOSFET のスイッチング周波数 fsw を変化させる、いわゆる周波数変調(Pulse Frequency Modulation 以下 PFM)方
式を用いて出力電圧を制御しています。この回路方式では Lr、Lm、Cr を用いて(1)、(2)式で表される 2 つの共振周波数を持っており、スイッチン
グ周波数の設定次第で回路動作が変わります。
𝑓0 =1
2𝜋√𝐿𝑟𝐶𝑟・・・・・・・・・・(1)
𝑓𝑚 =1
2𝜋√(𝐿𝑟 + 𝐿𝑚)𝐶𝑟・・・・・・・・・・(2)
Figure 2 はゲインー周波数特性グラフを表しており、スイッチング周波数と DC ゲインによって 3 つの動作領域に分類されています。
Figure 2.LLC コンバータのゲインー周波数特性グラフ
領域(1)について
誘導性負荷領域で動作します。励磁電流を用いた部分共振を実施することで ZVS 動作を実現します。
領域(2)について
領域(1)と同様にZVS動作を実施します。この領域ではG>1であるので昇圧動作を行います。通常、LLCコンバータではこの領域を使用します。
期間(3)について
容量性負荷領域であるのでZVS 動作ではなくZCS動作となります。つまり、MOSFETのターンOFF時に負方向に電流が流れているため、Body
Diode に電流が流れてしまい、Body Diode の逆回復特性による貫通電流が逆アームに流れ、ターン ON 損失が増大します。
Large
Quality
Factor
メリット デメリット
ハーフブリッジ回路構成なのでMOSFETの
ドレインーソース間電圧VDSが電源電圧でクランプされる。
ターンON時に部分共振によるZVS動作が可能であるの
で損失を低減できる。
損失を低減できるのでパッケージやヒートシンクの小型化
が可能である。
・
・
・
共振外れによってMOSFETに貫通電流が流れ、損失が
増大する。最悪の場合、MOSFETが破壊する。
・
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LLC コンバータの基本動作
一般的に、LLC コンバータは Figure 2 の領域(2)においては Gain が 1 より大きくなり、MOSFET のターン ON 時に ZVS 動作を行うので、こ
の動作範囲で用います[1]。Figure 3 に領域(2)における動作波形を示します。Q1、Q2 のそれぞれのドレイン電流波形を見るとターン ON 時に
ZVS 動作していることがわかります。
Figure 3. 領域(2)における LLC コンバータの動作波形
Figure 3 に示すように、領域(2)における LLC コンバータの回路動作は 12 つの Mode に分類されます。その 12 つの Mode の動作を Figure
4~7 に表します。
Figure 4. Mode(1)~(2)の動作について
Mode (1)
・Q1 が ON 状態、Q2 が OFF 状態です。
・1 次側には負荷電流、励磁電流ともに流れます。
・2 次側には D1 を介して電流 ID1 が流れます。このとき Lr と Cr の共
振による正弦波状の電流が流れます。
・ID1 が 0A になると、次の動作モードに移行します。
Mode (2)
・Mode (1)に引き続き、Q1 が ON 状態、Q2 が OFF 状態です。
・D1 に流れる電流が 0A になると 1 次側の負荷電流も 0A となりま
す。このとき 1 次側には励磁電流が流れている状態であり、この励磁
電流が Cr を充電します。この充電期間が長いと充電電荷が大きくな
り、出力電圧が上がります[1]。
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有用性について
Figure 5. Mode(3)~(6)の動作について
Mode (3)
・Q1 がターン OFF します。
・励磁電流が流れる影響により、Q1 の出力容量 Coss_Q1 を充電し始
め、同時に Q2 の出力容量 Coss_Q2 が放電を始めます。
Mode (4)
・Coss_Q1 の充電、Coss_Q2 の放電が完了した後、励磁電流は Q2 の
Body Diode を介して流れます。
・Body Diode に電流を流すことで VDS_Q2 がほぼ 0V となります。こ
れにより、MOSFET のターン ON 時におけるスイッチング損失が発生し
ません。
Mode (5)
・Q2 がターン ON します。
・励磁電流が Body Diode を流れていた状態なのでターン ON 時は
ZVS 動作を実施します。
・Cr に電荷を充電していたことにより、Cr が電源として機能します。これ
により 1 次側に負荷電流が生じ、D2 を介して 2 次側に負荷電流が
流れます。
・励磁電流は負荷電流と逆方向に流れますが、トランス 1 次側に負
電圧が印加されるので励磁電流は減少していき、負荷電流と同方向
になります。
Mode (6)
・Q1 が OFF 状態、Q2 が ON 状態です。
・1 次側には負荷電流、励磁電流ともに流れます。
・2 次側には D2 を介して電流 ID2 が流れます。このとき Lr と Cr の共
振による正弦波状の電流が流れます。
・ID2 が 0A になると、次の動作モードに移行します。
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有用性について
Figure 6. Mode(7)~(10)の動作について
Mode (7)
・Mode (6)に引き続き、Q1 が OFF 状態、Q2 が ON 状態です。
・D2 に流れる電流が 0A になると 1 次側の負荷電流も 0A となりま
す。このとき 1 次側には励磁電流が流れている状態であり、この励磁
電流が Cr を充電します。この充電期間が長いと充電電荷が大きくな
り、出力電圧が上がります[1]。
Mode (8)
・Q2 がターン OFF します。
・励磁電流が流れる影響により、Q2 の出力容量 Coss_Q2 を充電し始
め、同時に Q1 の出力容量 Coss_Q1 が放電を始めます。
Mode (9)
・Coss_Q2 の充電、Coss_Q1 の放電が完了した後、励磁電流は Q1 の
Body Diode を介して流れます。
・Body Diode に電流を流すことで VDS_Q2 がほぼ 0V となります。こ
れにより、MOSFET のターン ON 時におけるスイッチング損失が発生し
ません。
Mode (10)
・Q1 がターン ON します。
・励磁電流が Body Diode を流れていた状態なのでターン ON 時は
ZVS 動作を実施します。
・Cr に電荷を充電していたことにより、Cr が電源として機能します。これ
により 1 次側に負荷電流が生じ、D1 を介して 2 次側に負荷電流が
流れます。
・励磁電流は負荷電流と逆方向に流れますが、トランス 1 次側に負
電圧が印加されるので励磁電流は減少していき、負荷電流と同方向
になります。
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有用性について
LLC コンバータが共振外れを起こす時に優位性を持つ PrestoMOSTMについて
上記の示しているように、領域(2)における LLC コンバータの波形や電流経路を確認すると Body Diode に電流が流れている期間があります
が、リカバリー電流が流れている期間は確認できません。次に領域(3)における LLC コンバータの動作の一例として、過負荷状態における LLC コン
バータの動作波形を Figure 7 に示します。Figure 7 における Q1、Q2 のドレイン電流波形を見ると、ZVS 動作ではなく ZCS 動作になっている
ことが分かります。これにより、Body Diode のリカバリーによる貫通電流が発生し、MOSFET の損失が増大、最悪の場合 MOSFET が破壊に至
る恐れがあります。
Figure 7.過負荷条件での LLC コンバータの動作波形
このように領域(3)においては、想定していた共振条件から外れることによって貫通電流が発生します。Figure 7 では過負荷状態における波形で
すが、他にも LLC コンバータの入力電圧が低い、負荷条件の変動が急峻[2]、電源起動時[3]などで共振外れが起き、貫通電流が流れます。故
に共振外れによる MOSFET の破壊を防ぐためには、Body Diode のリカバリー特性の優れている MOSFET を選定し、貫通電流値を小さくするこ
とが必要です。
以上から、LLCコンバータにはR60xxJNxシリーズが最適となります。最新世代PrestoMOSTM であるR60xxJNx シリーズは高速リカバリー型
SJMOS の中で業界トップクラスのリカバリー性能を有しているため、貫通電流による損失を低減することができます。
また、VGS(th)が高く設定していることからセルフターンON現象が発生しにくく、ターンOFF動作を早く実施することにより損失が小さくできるなどのメリッ
トがあり、ターンON時にZVS動作を実施するLLCコンバータに最適です。
まとめ
・LLC コンバータは通常ターン ON 時に ZVS 動作を実施しますが、共振外れが発生した場合、リカバリー電流による貫通電流が流れるため損失が
増大、最悪の場合、MOSFET の破壊に至る恐れがあります。
・最新世代 PrestoMOSTM である R60xxJNx シリーズは高速リカバリー型 SJMOS の中で業界トップクラスのリカバリー性能を有しているため、貫
通電流による損失を低減でき、VGS(th)が高く設定していることからターン OFF 動作を早く実施することにより損失が小さくできるなどのメリットがあり、
ターン ON 時に ZVS 動作を実施する LLC コンバータに最適です。
参考文献
[1]森田浩一;LLC 共振コンバータの設計, 電源回路設計 2009, CQ 出版.
[2] W.S Choi, S.M Young, D.W Kim, “Analysis of MOSFET Failure Modes in LLC Resonant Converter,”
INTELEC 2009, October 2009.
[3] W.S Choi, S.M Young, “Improving System Reliability Using FRFET® in LLC Resonant Converters,” PESC 2008,
June 2008.
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