脳梗塞の超急性期治療Update
2019/7/30 慈恵ICU勉強会
レジデント1年 髙橋真悠子
1
急性期脳梗塞の治療
閉塞している領域の再開通
↓
細胞死には至っていない神経細胞領域に血流を与える
↓
予後が改善する
参考:慈恵ICU勉強会 脳梗塞ガイドラインpart1から抜粋
2
急性期脳梗塞の治療
Ø脳梗塞の発症→脳細胞が虚血へ
Ø一度虚血になった脳細胞は回復しない
Ø脳細胞の壊死が完成する前に再灌流を得る必要がある
脳卒中ガイドライン2015(2017年追補対応)より抜粋
急性期再灌流療法が発展
“Time is brain”3
急性期脳梗塞の治療
Øt‐PA(tissue plasminogen activator):血栓溶解療法
ØEVT(endovascular treatment):血管内治療
脳卒中ガイドライン2015(2017年追補対応)より抜粋
4
急性期脳梗塞の治療
Ø脳梗塞の発症→脳細胞が虚血へ
Ø一度虚血になった脳細胞は回復しない
Ø脳細胞の壊死が完成する前に再灌流を得る必要がある
Ø現在の脳梗塞治療は発症≦4.5hのt-PAの静脈内投与である
Ø近位主幹動脈閉塞症例:発症≦6h以内の血栓回収術との組み合わせが一般的
5
日本におけるt-PAと血栓回収について近年新しい指針が相次いで発表された
最大の変更点は治療適応拡大について6
そこで今回は・・・
超急性期治療の
「治療適応の拡大について」
Up-to-dateする
7
本日のテーマ
・超急性期治療 適応時間の歴史おさらいt-PA:4.5hr
EVT:6hr
・最近までの流れ:画像を元にした適応拡大EVT: 〜24hrまでいけるかも?
t-PA: “Wake-up stroke”もいけるかも?
・さらに最近の流れ(ガイドライン未記載)・t-PA:9時間までいけるかも!?
8
・超急性期治療 適応時間の歴史おさらいt-PA:4.5hr
EVT:6hr
・最近までの流れ:画像を元にした適応拡大EVT: 〜24hrまでいけるかも?
t-PA: “Wake-up stroke”もいけるかも?
・さらに最近の流れ(ガイドライン未記載)・t-PA:9時間までいけるかも!?
本日のテーマ
9
t-PAとは?
Ø t-PA(tissue-type plasminogen activator):
遺伝子組換組織型プラスミノーゲン活性因子
Ø プラスミノーゲンの作用を増強→血栓溶解
Ø 従来の血栓溶解では多量薬剤が必要
↓
容易に出血を起こす可能性が高い
↓
遺伝子組み換えにより製作
脳卒中ガイドライン2015(2017年追補対応)より抜粋
10
日本のガイドライン
Øt-PA投与は発症≦4.5hに強く推奨(グレードA)
Ø日本ではt-PA 0.6㎎/kgが保険適応(海外0.9mg/kg)
Ø発症≦4.5hで早期治療介入がbetter
早急にt-PAを開始することが強く推奨(グレードA)
脳卒中ガイドライン2015(2017年追補対応)より抜粋11
Ø発症時間が不明な時は最終健常確認時刻を
発症時刻とする。
Ø発症時刻が不明な時は、、、?
頭部MRIで拡散強調画像の虚血性変化がFLAIR画像で明瞭でない場合は、発症≦4.5hの可能性が高い
静注血栓溶解療法を考慮してもよい(グレードC1)
12
N Engl J Med. 1995 Dec 14;333(24):1581-7.
1996年に米国で初めて認可される根拠となった文献
NINDS rt-PA study
発症後3時間以内の脳梗塞患者624人t-PA群とプラセボで比較
(アルテプラーぜは0.9mg/kg)
<除外項目>発症時間不明, 脳出血症例, sBP≧185mmHg, dBP≧110mmHg症状の急速改善または軽微の症状
13
3ヶ月後の神経学的予後を有意に改善後遺症が軽度もしくは全くない予後良好例が30%↑
N Engl J Med. 1995 Dec 14;333(24):1581-7.14
36時間後の脳出血はt-PA群で多い(6.4% vs. 0.6%, p<0.001)
90日死亡率は有意差なし(17% vs. 21%, p=0.30)
N Engl J Med. 1995 Dec 14;333(24):1581-7.15
2005年に日本における認可の元になった文献
J-ACT study
日本の脳梗塞患者103人を対象としたSingle-arm study
NINDSと比較して遜色ない結果(ただし, 用量は0.6mg/kgと少なく設定)
Stroke. 2006 Jul;37(7):1810-5.
2005年に厚生労働省より認可
16
NINDS rt-PA study (1995)
J-ACT study (2006)NINDS rt-PA study (1995)
発症3時間以内のアルテプラーゼ 0.9mg/kg 承認
発症3時間以内のアルテプラーゼ 0.6mg/kg 承認
3時間以内のrt-PA療法が確立(ただし欧米と日本で用量が異なることに注意)
しかし3時間以内だと, 適応となる患者がかなり限られる・・17
ECASS-Ⅲ trial(2008)
IST-3 trial(2012)
EPITHET trial(2008)
ATLANTIS trial(1999)
ECASS trial(1995)
ECASS-Ⅱ trial(1998)
≦6hr
≦6hr
3-5hr
3-4.5hr
3-6hr
≦6hr
その後複数のRCTが行われ・・
3時間を超えても効果がある可能性が出てきた18
Lancet.2014;384: 1929-35.
ECASS-Ⅲ trial(2008)
IST-3 trial(2012)
EPITHET trial(2008)
ATLANTIS trial(1999)
ECASS trial(1995)
ECASS-Ⅱ trial(1998)
≦6hr
≦6hr
3-5hr
3-4.5hr
3-6hr
≦6hr
NINDS rt-PA study (1995)
全部あわせてmeta-analysis
→何時間まで有効か?19
Result
治療開始時期👉P<0.0001👉P=0.0132👉P=0.15
年齢 👉P=0.08で有意差なし
NIHSS 👉P=0.06有意差なし
4.5時間以内なら神経学的予後良好↑早ければ早いほど良い
有意差あり
神経学的予後良好(mRS 0-1)
Lancet.2014;384: 1929-35.20
90日死亡率は有意差なし
ただし4.5hr超えると死亡リスク↑
7日目での頭蓋内出血↑
初期のNIHSSが高いほどリスク↑の傾向
つまり, 4.5時間以内なら益が害を上回るこれらの結果を経て, t-PA治療適応は
4.5時間まで延長Lancet.2014;384: 1929-35.
21
最新の指針でも同様に記載されている(7.の項目については後ほど)
22
・超急性期治療 適応時間の歴史おさらいt-PA:4.5hr
EVT:6hr
・最近までの流れ:画像を元にした適応拡大EVT: 〜24hrまでいけるかも?
t-PA: “Wake-up stroke”もいけるかも?
・さらに最近の流れ(ガイドライン未記載)・t-PA:9時間までいけるかも!?
本日のテーマ
23
血管内治療
1. t-PAのみでは治療効果不十分な場合(例えば、内頚動脈閉塞や中大脳動脈近位部閉塞)
2. 時間的制限によりt-PAが投与できない場合
3. 投与しても無効だった場合
⇒血管内治療の適応となる可能性
24
Ø内頸動脈or中大脳動脈の閉塞と診断されたら?
アルテプラーゼ静注療法を含む内科的治療
+
発症≦6h以内に血管内治療を開始
↓
グレードAで推奨
Øアルテプラーゼ以外のt-PAの静脈内投与
十分な科学的根拠がない
↓
未承認(グレードC2)
脳卒中ガイドライン2015(2017年追補対応)より抜粋25
Ø2004年 初めて血栓回収デバイスが使用
Ø2008年
発症≦8hの主幹動脈閉塞の再開通率と転帰の改善
(Stroke 2009 Aug;40(8):2761-8.)
Ø2009年以降
ステントリトリーバーが主流となり、現在に至る(Stroke 2010 Aug;41(8):1836-40.)
26
Ø2013年
血栓回収術の有効性を否定する研究が相次いで発表
27
発表された国際脳卒中学会(2013年)の開催地にちなんで“Honolulu shock”と呼ばれたりするらしい
(命名者は日本人らしい)
J Stroke Cerebrovasc Dis 2014; 23: e295-298.
IMSⅢ trial
DEFUSE3 trial
MR RESCUE trial
しかし・・・
28
“Honolulu shock”の要因としては、・閉塞血管評価によらない症例選択・旧来デバイス使用による低い再開通率・治療開始や再開通の遅延
が指摘されているStroke 2014; 45: 3116-3122.
リベンジRCT×5(2014〜2015年)
EXTEND-IA (N Engl J Med 2015;372:1009-18.)
SWIFT PRIME (N Engl J Med 2015;372:2285-95.)
29
EVT + 標準治療 MR CLEAN
ESCAPE
REVASCAT
EVT + t-PAEXTEND-IA SWIFT PRIME
標準治療のみ
t-PAのみ
MR CLEAN (N Engl J Med 2015;372:11-20.)
REVASCAT (N Engl J Med 2015;372:2296-2306.)
ESCAPE (N Engl J Med 2015;372:1019-30.)
(注:t-PAは必須ではない)
(≦ 6hr)
(≦ 12hr)
(≦ 8hr)
(≦ 6hr) (≦ 6hr)
Lancet 2016; 387: 1723–31
HERMES trial
MR CLEAN ESCAPE EXTEND-IA SWIFT PRIME REVASCAT
5つのRCTを統合したmeta-analysis
神経学的予後が改善 30
Lancet 2016; 387: 1723–31
頭蓋内出血も死亡率も増えない
31
メリットの方が大きそう
HERMES trialでの追加解析
JAMA 2016; 316: 1279-1288.
90日後のmRSスコアが内科治療よりも改善するオッズ比は
3時間後:2.79(95%CI 1.96-3.98)6時間後:1.98(95%CI 1.30-3.00)8時間後:1.57(95%CI 0.86-2.88)
遅くなるほど有効性が減少6時間までで有効, 8時間で有意差なし
32
6時間までならメリットが上回るという結果
時間をさらに区分してみて検討
5つのRCTから言えたこと
発症前mRS 0〜1NIHSS≧6ICAもしくはMCAのM1閉塞ASPECTS≧6≦6hr以内に血管内治療が可能
≦4.5時間以内だったらt-PAも併用
という条件でステントリトリーバーで血栓回収をすれば内科治療単独に優る有効性が得られる
33
34
ASPECTとは?Alberta Stroke Program Early CT Score
MCA領域の大脳皮質を10の範囲に分類早期虚血像がある場所の範囲数分を減点
点数が低いほど虚血範囲が大きい
7点以下では神経学的予後悪化, 頭蓋内出血リスク↑
35
最新の指針にも組み込まれた
・超急性期治療 適応時間の歴史おさらいt-PA:4.5hr
EVT:6hr
・最近までの流れ:画像を元にした適応拡大EVT: 〜24hrまでいけるかも?
t-PA: “Wake-up stroke”もいけるかも?
・さらに最近の流れ(ガイドライン未記載)・t-PA:9時間までいけるかも!?
本日のテーマ
36
血栓回収療法の適応時間延長を検討したRCT×2
DAWN試験(2017-2018)
DEFUSE3 試験(2017-2018)
37
• DAWN試験 (N Engl J Med 2018;378:11-21)
ü最終無事確認時刻より6~24時間で内頸静脈終末部あるいは
中大脳動脈(M1)閉塞例
ü神経症候と虚血コア体積のミスマッチによって選択
→画像はRAPID automated software を使用し作成(日本で未使用)
ü内科治療と血栓回収療法を比較
ü対象:血栓回収療法群(107例) vs 内科治療群(99例)
ü90日後のmRS:内科治療群≧血栓回収療法群
ü死亡率:差はなし(血栓回収:19% vs 内科的治療18%)
38
• DEFUSE3 試験 (N Engl J Med 2018;378:708-718.)
ü最終無事確認時刻より6~16時間の内頚静脈あるいは中大脳動脈閉塞を認める症例
①虚血コア体積が70ml以下である
②ミスマッチ比(灌流遅延領域と虚血コアの体積比が6秒以上)が1.8以上
③ペナンブラ体積(灌流遅延領域と虚血コアの体積差)が15 ml以上
→画像はRAPID automated software を使用し作成(日本で未使用)
ü内科治療と血栓回収療法を比較
ü対象:血栓回収療法群(92例)vs 内科治療群(90例)
ü90 日後mRS:血栓回収群で有意に低い
ü死亡率:血栓回収療法群(14%) vs 内科治療群(26%)
39
血栓回収術は適応時間延長を検討されているが、
一方で血栓溶解についてはどうだろうか?
40
本日のテーマ
・超急性期治療 適応時間の歴史おさらいt-PA:4.5hr
EVT:6hr
・最近までの流れ:画像を元にした適応拡大EVT: 〜24hrまでいけるかも?
t-PA: “Wake-up stroke”もいけるかも?
・さらに最近の流れ(ガイドライン未記載)・t-PA:9時間までいけるかも!?
41
WAKE-UP trial
42
“Wake-up stroke?”
起床時に気づく脳梗塞=発症時間がわからない
脳梗塞患者の14〜27%がwake-up strokeと言われている
Wake-up strokeは重症度が高く, 機能予後不良という報告もある
Stroke 2002; 33: 988-93.Neurology 2011; 76: 1662-7.
J Neurol 2007; 254: 782.Can J Neurol Sci 2005; 32: 232.
これまで治療適応にならなかったWake-up strokeをなんとかしたい
DWI-FLAIR mismatch
DWI高信号(+)かつ
FLAIR高信号(-)
☞発症4.5時間以内の可能性が高い
43
44
PRE-FLAIR study多施設観察研究
543名を解析
DWI-FLAIR mismatchが≦4.5hrであることを同定
by 神経内科医
感度 62%、特異度 78%、PPV 83%
DWI-FLAIR mismatchを使えばt-PA適応症例をチョイスできるのでは!?
Lancet Neurol 2011; 10: 978.
DWI-FLAIR mismatchを用いた方法により発症時期不明の脳梗塞に対して
アルテプラーゼ投与で機能的予後が改善するか
45
WAKE-UP trial
ヨーロッパ8か国 70施設
ランダム化、二重盲検化、プラセボ対象試験
2012年9月~2017年6月
Ø導入基準
18~80歳
発症前mRS 0-1
起床時発症 or 発症時間不明(失語や混乱などで)で、かつDWI-FLAIRミスマッチのある患者
46
Ø除外項目:
üMRIで出血性病変がある
ü病変の大きさが中大脳動脈領域の1/3を超えるü機械的血栓回収術が予定された
üNIHSS 25を超える
üt-PAが禁忌
47
ØPrimary efficacy end point
üランダム化後90日でmRSが0あるいは1
ØSecondary efficacy end point
ü90日後のmRSの平均値
ü90日後に治療効果のあった患者比率
ü90日後の包括的な成績ü90日後のベックのうつ病検査表点数
üランダム化22-36時間後のMRI上の脳梗塞巣の体積
48
ØPrimary Safety end pointü90日後のmRSが4~6点
ØSecomdary safety end point
ランダム化後22~36時間後のMRIにおいて
ü神経症状を起こしている症候性頭蓋内出血ü脳梗塞巣の30%を超える出血性病変の発症
49
サンプルサイズの計算
先行研究に基づいて、Primary efficacy end pointを有する患者の割合で10%の差がつくと予想
(Lancet 2010; 375: 1695-703. )
検出率80%、αエラー5%で計算
→1trial group 370人の患者が必要と算出
→除外される患者を考慮して800人と設定
(400人/1trial group)
50
1362例が対象として抽出
ü503例がランダム化試験に参加ü800人を想定していたが、資金不足により中止された
859例が除外
【除外された患者】üDWI-mismatchがない人:53%ü虚血病巣不明:16%ü頭蓋内出血:10%
【対象:503例 (約37%が抽出)】ü発症前は日常生活可能ü目覚めたときに症状ありü発症時期不明üDWI異常+、FLAIR高信号域-
(=脳梗塞発症から4.5時間以内)
51
プラセボ群:249例アルテプラーゼ群:254例
52
60歳台、男性が60%
夜間睡眠中の発症が89%で最多
高血圧症の既往が多い
ü症状に気が付き投薬されるまでの時間は約3.1時間
ü最終無事確認時間から治療開始までの時間は
約10.3時間ü ICA閉塞がアルテプラー
ゼ群に多い。それ以外に両群に有意差なし
üNIHSSの平均は6点
53
ØPrimary efficacy end point:アルテプラーゼ群で90日後のmRS0-1点の割合が有意に高い
54
Result
ØSecondary efficacy end point:ü90日後のmRS平均値はアルテプラーゼ群で有意に低い
ü90日後に治療効果のあった患者はアルテプラーゼ群で高い55
Secondary efficacy end point
56
P=0.003
mRSのスコア分布はアルテプラーゼ群でより良い(有意差あり)
ØPrimary safety end point:
ü90日後の死亡、mRS4~6点では明らかな差を認めない
57
ØSecondary Safety end point:
脳内出血はアルテプラーゼ群に有意に多い
58
Result
ØSecondary Safety end point:ü 症候性脳梗塞再発と占拠性脳梗塞で2群間に有意差なし
59
この文献をまとめると、、、
Ø90日後の機能予後はアルテプラーゼ群で良好
Ø90日後に治療効果のあった患者はアルテプラーゼ群で高い
Ø今回の研究では2/3の患者にDWI-FLAIRミスマッチがなく、無作為化を受けなかった
Ø約20%の患者に主要な頭蓋内動脈に閉塞を認めた
→血栓回収術の適応となる可能性があった
60
ü資金不足で早期で研究が打ち切りへ
ü安全性の評価が不十分な可能性がある
ü早期試験中止に伴い治療効果を過大評価している可能性がある
üαエラーの可能性(擬陽性)
α
61
予定された患者数を大幅に下回る
62
血栓回収では治療適応の時間が長くなっているが、血栓溶解療法はどうだろうか??
最近はアルテプラーゼの投与開始時間を
さらに延長させる検討がされている
63
・超急性期治療 適応時間の歴史おさらいt-PA:4.5hr
EVT:6hr
・最近までの流れ:画像を元にした適応拡大t-PA: “Wake-up stroke”もいけるかも?
EVT: 〜24hrまでいけるかも?
・さらに最近の流れ(ガイドライン未記載)・t-PA:9時間までいけるかも!?
本日のテーマ
64
EXTEND trial
脳梗塞発症後9時間以内の灌流画像に基づく
血栓溶解療法
65
EXTEND trial
多施設共同無作為化、プラセボ対照試験
2010年8月~2018年6月
Ø導入基準
ü脳梗塞発症から4.5~9時間以内
ü起床時発症(入眠~起床までの時間の中間を発症時刻とする)
ü画像で脳に低灌流であるが救済可能な領域を認めた患者(=ペナンブラ領域をもつ患者)
üNIHSS 4-26
ü発症前mRS 0-1
66
この文献のペナンブラ
Ø有意なペナンブラ領域:ü低灌流領域と虚血領域に差があるものを対象
ü低灌流/虚血の体積の割合が1.2以上ある
ü虚血体積が70ml未満
ü低灌流領域と虚血領域の体積の差が10ml以上ある
低灌流領域
虚血領域
67
Ø虚血領域(救済不可能):
正常領域と比較して30%血流が低下している領域、
あるいは拡散強調画像で高信号領域を認める領域
Ø低灌流領域:
MRI灌流画像やCT灌流画像でトレーサーを入れてから最大停滞時間が6秒を超えている領域とした
画像はRAPID automated software を使用し作成
(日本では使用されていないsoftware である)
68
1. CTとMRIで頭蓋内血種があると診断された
2. NIHSS<4点3. 血管内治療(血栓回収療法)の対象と
なりうる
4. 脳梗塞発症前のmRSが2以上5. 禁忌となる対象6. 中大脳動脈領域に1/3以上の虚血範
囲がある7. 30日以内に研究に参加した患者
8. 余命が1年以内と診断されている末期患者
9. 溶血性尿毒症症候群または血栓性血小板減少性紫斑病などの重症の微小血管症に罹患している患者
10.妊娠している患者
69
11.過去3か月以内に脳梗塞を引き起こした患者12.直近でクモ膜下出血、脳動静脈奇形、動脈瘤、
脳腫瘍の既往がある場合13.抗凝固薬を内服している、INR>1.714.ヘパリンを使用している患者15.72時間以内にⅡb-Ⅲ剤を使用している場合16.低血糖17.高血圧がコントロールされていない患者18.出血素因のある患者19.21日以内に消化管出血、尿路出血があった患者20.14日以内に外科的処置を先行する場合21.72時間以内に血栓溶解薬を投与している場合
70
ØPrimary endopoint:
ü3か月後mRSが0-1の割合
ØSecondary endopoint:
ü3か月後のmRSにばらつきがあるか
ümRSが0-2の割合
üt‐PAを投与して24時間後の再灌流した体積の割合• 50%以上回復した群の割合
• 90%以上回復した群の割合
71
ØThird endopoint:
ü主要血管が閉塞している患者において24時間後に再開通が得られたかどうか
(再開通の定義はArterial スケールで2-3であること)
ü神経学的症状の改善を評価
⇒NIHSSが8点以上回復した
1日後、3日後のNIHSSが0-1点である
72
ØSafety outcome
ü脳梗塞発症後の90日以内の死亡率
ü治療介入36時後の症候性頭蓋内出血の割合
※症候性頭蓋内出血:
→症候性:NIHSSが4点以上増加
→頭蓋内出血:ECASS分類PH2 実質性出血タイプ
実質的な空間占拠性効果を伴う梗塞領域の30%を超える血腫をいう
73
サンプルサイズの計算
先行研究に基づいて、Primary efficacy end pointを有する患者の割合で15%の差がつくと予想
( Lancet Neurol 2008; 7: 299-309. )
検出率80%、αエラー5%で計算
→1trial group 400人の患者が必要と算出
→最初の200人の時点でフォローアップ不能の患者が多いことが判明し310名に修正された
74
Method –統計学的分析-
Øロジスティック解析分析
ØPrimary endpoint:
→年齢とNIHSSスコアで多変量解析、調整済
ØSecondary・Third endpoint:
→95%信頼区間で点推定値として報告、未調整
Ø統計:Stata software, version 13 (StataCorp)
ØOddz検定:ブラント検定、近似尤度比検定
75
Ø年齢:ü75歳未満
ü75歳以上80歳未満
ü80歳以上
ØNIHSSスコア:ü10点未満、
ü10点以上
Ø治療介入するまでの時間:ü4.5h~6h未満
ü6h~9h
ü起床時発症
Ø地域:üオーストラリア(16施設)
ニュージーランド(1施設)
フィンランド(1施設)
ü台湾(10施設)
サブグループ解析
76
Results
77
78
2018年WAKE-UP試験がで血栓溶解療法の安全性と有効性が発表
→試験は中止となった
患者背景 有意差なし70歳台、男性<女性
起床時発症が多い
NIHSSスコアの平均有意な差なし
ØPrimary outcome:ü 補正をすればアルテプラーゼ群で90日後のmRS0-1点の割合
が有意に高いü 補正しないと有意差なし
80
補正無し補正あり
ØSecondary outcome:各mRSのばらつきに
差を認めない
81
ØSecondary outcome:機能的自立・改善、24時間後の再灌流体積に有意差あり
補正すると有意差あり
有意差あり
82
補正無し補正あり
ØTertiary outcome:ü24時間後の再開通率に有意差ありü24時間後の神経学的所見に有意差ありü72時間後、90日後の神経学的所見に有意差なし
アルテプラーゼ群で再開通率は良好
24時間後の神経学的所見に有意差あり
83
補正無し補正あり
ØSafety outcome:ü90日後の死亡率に有意差を認めないüアルテプラーゼ群で症候性の頭蓋内出血が
多い傾向にある(有意差は示されず)
84
補正無し補正あり
この文献をまとめるとØアルテプラーゼ投与群
→90日後のmRS、機能的自立・改善度・24時間後の再灌流体積は有意差をもって良好
Ø72時間以降の神経学的所見、90日後の死亡率には有意差を認めない
ØWake-up 試験と対象患者が異なるため、早期中断には無理がありそう。
Ø早期に試験が中断されたのでαエラーの可能性、安全性の評価が不十分
85
86
ü脳梗塞発症後4.5-9時間の間にアルテプラーゼを投与
アルテプラーゼ群のほうがmRS(0-1点)が44%高かった。
(P値=0.04)
ü血栓溶解療法は4.5h以内という限りがあるのに対し、
血栓回収療法は6・16・24hでも良い結果をもたらした。
ペナンブラ領域からの側副血行路が発達
87
(Int J Stroke 2015; 10: 723-9)
Ø急性脳梗塞を発症した患者で、発症後≦4.5-9hに
アルテプラーゼを投与すると治療効果が高い
Øしかし・・・・
ü脳梗塞発症時期が不明の患者も多い
ü病院設備によりMRI、CTなど診断に使用する機械が異なる
88
üアメリカでは急性脳梗塞で入院した患者のうち、
わずか6.5%しか血栓溶解療法が施行されていない
(Stroke Vasc Neurol 2016; 1: 8-15.)
ü治療適応可能な時間を拡大することで、より多くの患者に対して治療が可能
üさらに正確な画像評価(虚血コアとペナンブラ領域)が可能な施設があれば、
→治療介入できる可能性が高まる(N Engl J Med 2018; 379: 611-22.)
89
日米ガイドライン カバー範囲
・超急性期治療 適応時間の歴史おさらいt-PA:4.5hr
EVT:6hr
・最近までの流れ:画像を元にした適応拡大EVT: 〜24hrまでいけるかも?
t-PA: “Wake-up stroke”もいけるかも?
・さらに最近の流れ(ガイドライン未記載)・t-PA:9時間までいけるかも!?
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?
私見
ü現状、血栓回収と血栓溶解の線引きは不透明な部分も多く、慎重な判断が必要である。
üアメリカではソフトウェアで解析がされているのに対して日本では未使用であるため、そのまま応用可能かは不明。
ü実臨床では、臨床症状と梗塞領域の解離からペナンブラ領域を推定するしか方法がない。
üペナンブラを正確に評価できる人材が少なく、臨床で応用しにくい。
ü研究が早期に中断されていることを踏まえると、特に安全面に関して研究が必要。
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<今後の展望>
・Time is BRAIN !
・ Mechanical>Chemical thrombolysis
(※SKIP STUDY:超急性期の血管内治療単独療法)
・THAWS試験も解析中(Wake-up 試験の条件で日本の投与量で行うとどうなるか)
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