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図-1 計測現場 留萌 鹿追 北見 夏期施工 冬期施工 図-2 仮想壁高 施工時期の違いが帯鋼補強土壁の引抜き抵抗に及ぼす影響について 土木研究所 寒地土木研究所 正会員 ○橋本 聖 同上 国際会員 西本 聡 同上 国際会員 林 宏親 同上 正会員 梶取真一 1.はじめに 北海道内で施工された既設補強土壁の変状事例が報告されている 1) .変状の要因は集中豪雨や大規模な地 震などの外的要因のほかに,施工時期や盛土材料,施工方法の不備が推測されているが,特に冬期に盛土を 実施したことによって雪や凍結土が盛土に混入し,融雪期にこれらが融解することで局所的に盛土は圧縮沈 下して,それに伴って壁面に大きな変状が生じる,と指摘されている. 昨年度,筆者らは北海道開発局が施工した 28 箇所の既設補強土壁を対象に実態調査を実施した 2) .そ の 結 果,調査箇所の 7 割が冬期施工(11 月~3 月に工事を実施,冬期施工の定義は文献 3を参照)であったにも 拘わらず,雪や凍結土が混入したとされるような壁面の変状は確認されなかった.この理由として,①凍結 土が盛土に混入しないよう土取り場における表土(凍結土)除去の徹底,②天候条件(降雪など)に応じた 施工管理の徹底が,発注機関の担当者や施工会社の現場代理人の判断で実施されたと考えられる.しかし, 冬期に施工された補強土壁が夏期施工のそれと同じ設計値を満足しているかは検証されていない. 本報告は,昨年度の既設補強土壁の実態調査箇所から,全国的に最も普及している補強土壁である帯鋼補 強土壁(テールアルメ工法)のうち,夏期施工(鹿追)と冬期施工(北見,留萌)を対象として補強材(以 降,ストリップとする)の現場引抜き試験を実施した.施工時期の違いが補強土壁の引抜き抵抗へ与える影 響を確認するとともに,壁面材と補強材を接続する部材(以降,コネクティブとする)の変形状態などを踏 まえ,これらの既設補強土壁の健全度を総合的に評価した. 2.現場概要 2.1 試験箇所 試験箇所は過年度,北海道開発局が鹿追,留萌,北見の 3 箇所で施工 した帯鋼補強土壁である(図-1).試 験 箇 所 は ,主 に 冬 期 間(11 月~3 月)で施工された箇所の中で,最も壁面変位が大きい(最大変位量: 12cmい箇所(北見)ならびに,施工期間中の積雪量が最も多かった(積雪量: 120cm)箇所(留萌)を選定した.なお,鹿追は夏期施工であるが,北 見や留萌で施工された盛土材料と土質区分や細粒分含有率が近しく,盛 土の施工管理が適切に実施された記録が残っていたために,冬期施工と の比較という位置づけで選定した. 2.2 補強土壁の諸元 表-1に各現場の設計時の諸元を示す.各現場の補強土壁の壁面積, 延長,壁高は異なるが,いずれも壁上に上載盛土が存在しない構造であ った.各設計定数は補強土壁工法設計・施工マニュアル 4) (以降,マニ ュアルとする)に従って決定されており,ストリップは鹿追では防錆処 理した 2 種類の材料(SM490, SS400)、北 見と留 萌は同 じく 1 種類(SM490使用された. 表-2に試験箇所の帯鋼補強土壁の展開図・断面図を示す. Influence of construction periods on the pull-out resistance of the reinforced soil wall: Hijiri HASHIMOTO (Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI), Satoshi NISHIMOTO, Hirochika HAYASHI and Shin’ichi KAJITORI 217

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Page 1: d ì b4*8@ 5ð/õ I u hb , ¤A ¬ lpM s8j X8Z · W>+ 0£ #' $- ;µ3ã í0b d ä d W>+>0 ì h9× d ì b4*8@ 5ð/õ I u hb , ¤A ¬ _ lpM s8j_X8Z u %Ê'2 d . u %Ê'2 d G

図-1 計測現場

留萌

鹿追

北見

夏期施工

冬期施工

図-2 仮想壁高

施工時期の違いが帯鋼補強土壁の引抜き抵抗に及ぼす影響について

土木研究所 寒地土木研究所 正会員 ○橋本 聖

同上 国際会員 西本 聡

同上 国際会員 林 宏親

同上 正会員 梶取真一

1.はじめに

北海道内で施工された既設補強土壁の変状事例が報告されている 1) .変状の要因は集中豪雨や大規模な地

震などの外的要因のほかに,施工時期や盛土材料,施工方法の不備が推測されているが,特に冬期に盛土を

実施したことによって雪や凍結土が盛土に混入し,融雪期にこれらが融解することで局所的に盛土は圧縮沈

下して,それに伴って壁面に大きな変状が生じる,と指摘されている.

昨年度,筆者らは北海道開発局が施工した 28 箇所の既設補強土壁を対象に実態調査を実施した 2).その結

果,調査箇所の 7 割が冬期施工(11 月~3 月に工事を実施,冬期施工の定義は文献 3)を参照)であったにも

拘わらず,雪や凍結土が混入したとされるような壁面の変状は確認されなかった.この理由として,①凍結

土が盛土に混入しないよう土取り場における表土(凍結土)除去の徹底,②天候条件(降雪など)に応じた

施工管理の徹底が,発注機関の担当者や施工会社の現場代理人の判断で実施されたと考えられる.しかし,

冬期に施工された補強土壁が夏期施工のそれと同じ設計値を満足しているかは検証されていない.

本報告は,昨年度の既設補強土壁の実態調査箇所から,全国的に最も普及している補強土壁である帯鋼補

強土壁(テールアルメ工法)のうち,夏期施工(鹿追)と冬期施工(北見,留萌)を対象として補強材(以

降,ストリップとする)の現場引抜き試験を実施した.施工時期の違いが補強土壁の引抜き抵抗へ与える影

響を確認するとともに,壁面材と補強材を接続する部材(以降,コネクティブとする)の変形状態などを踏

まえ,これらの既設補強土壁の健全度を総合的に評価した.

2.現場概要

2.1 試験箇所

試験箇所は過年度,北海道開発局が鹿追,留萌,北見の 3 箇所で施工

した帯鋼補強土壁である(図-1).試験箇所は,主に冬期間(11 月~3

月)で施工された箇所の中で,最も壁面変位が大きい(最大変位量 : 12cm)

い箇所(北見)ならびに,施工期間中の積雪量が最も多かった(積雪量 :

120cm)箇所(留萌)を選定した.なお,鹿追は夏期施工であるが,北

見や留萌で施工された盛土材料と土質区分や細粒分含有率が近しく,盛

土の施工管理が適切に実施された記録が残っていたために,冬期施工と

の比較という位置づけで選定した.

2.2 補強土壁の諸元

表-1に各現場の設計時の諸元を示す.各現場の補強土壁の壁面積,

延長,壁高は異なるが,いずれも壁上に上載盛土が存在しない構造であ

った.各設計定数は補強土壁工法設計・施工マニュアル 4)(以降,マニ

ュアルとする)に従って決定されており,ストリップは鹿追では防錆処

理した 2 種類の材料(SM490, SS400)、北見と留萌は同じく 1 種類(SM490)

使用された.表-2に試験箇所の帯鋼補強土壁の展開図・断面図を示す.

Influence of construction periods on the pull-out resistance of the reinforced soil wall:

Hijiri HASHIMOTO (Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI), Satoshi NISHIMOTO,

Hirochika HAYASHI and Shin’ichi KAJITORI

217

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表-3 盛土材料の物性

表-1 補強土壁の設計時諸元

鹿追 北見 留萌

227.8m2 129.3m2 433.9m2

延長 L 27.15m 16.24m 73.00m

Hmax 13.2m 13.48m 12.73m

Hmin 3.0m 1.48m 5.98m

盛土材の内部摩擦角 φ 30° 30° 30°

盛土材の単位体積重量 γ 19kN/m3 19kN/m3 19kN/m3

ストリップと盛土材の摩擦係数 f* 1.5~0.726 1.5~0.726 1.5~0.726

SM490 幅60mm×厚さ4mm 幅60mm×厚さ4mm 幅60mm×厚さ4mm

SS400 幅80mm×厚さ4mm - -

350kg/m2(片面あたり) 350kg/m2(片面あたり) 350kg/m2(片面あたり)

1mm(両面) 1mm(両面) 1mm(両面)

SM490 325N/mm2 325N/mm2 325N/mm2

SS400 245N/mm2 - -引張応力度(降伏点)

ストリ

ップ

規模

現場名

亜鉛メッキ

腐食しろ

壁面積

設計条件

壁高

リブ付きストリップ

表-2 帯鋼補強土壁の展開図および断面図

鹿 追(SK) 北 見(KT) 留 萌(RM)

展開図に示す黒丸は引抜き試験箇所を示

しており,略字(鹿追:SK,北見:KT,

留萌:RM)と番号(1,2,3)で表記した.

番号はストリップ埋設深さ z(仮想壁高

上端よりストリップの埋設位置までの深

さ)を示しており,ストリップ埋設深さ

z =3,5,8m が番号(1,2,3)と対応する.な

お,仮想壁高とは図-2に示す壁下端部

の 0 点から,壁面に対して tan-10.3 の勾

配を持った直線が路面または地表面と交

わる位置までの鉛直高さ(Ha)である.

これは,帯鋼補強土壁の頂部に小段や上

載盛土の有無によって,ストリップに作用する鉛直荷重が変化することを考慮した考え方である 4).

※L:ストリップ長さ

2.3 盛土材料

表-3に各現場の盛土材料の物性を示す.マニュ

アル 4) では,盛土材を[A][B][C]材料の三つに区分し

ている.このうち,細粒分含有率 Fc が 25%以下の土

を[A1]材料,岩石材料の寸法が 250mm より大きい寸

法のものを含まない硬岩ずりで,75mm ふるい通過

分中の細粒分含有量が 25%以下,かつ大小の寸法の

ものが適度に混合して締固めしやすい土を[A2]材料

に細分類されている.また,[B]材料は細粒分含有率

Fc が 25%を超え,かつ 35%以下の土質材料,[C]材

料は 300mm より大きい寸法のものを含まない岩石

材料で,75mm ふるい通過分中の細粒分含有率 Fc が

25%以下の材料,である.なお,[B][C]材料を適用す

る場合,降雨などへの対処に格段の注意が必要,と

している.各現場の土質分類をみると,鹿追と北見は粒径幅の広い砂混じり礫(Fc=16.6%,22.4%),留萌は

分級された礫(Fc=8.0%)と細粒分含有率 Fc は 25%以下であることから,いずれも[A]材料([A1]材料)の盛

土材が使用されていた.

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-30

-20

-10

0

10

20

30

11/9

11/

16

11/

23

11/

30

12/7

12/

14

12/

21

12/

28

1/4

1/11

1/18

留萌 施工期間(2008/11/9-2009/1/23)

気温

(℃)

0

20

40

60

80

100

120

140

降水

量(m

m)・降

雪量

・積

雪深

(cm

積雪深

日降水量

日降雪量

日平均気温

日最高気温

日最低気温

-30

-20

-10

0

10

20

30

1/17

1/19

1/21

1/23

1/25

1/27

1/29

1/31

2/2

2/4

北見 施工期間(2006/1/17-2006/2/4)

気温

(℃

0

20

40

60

80

100

120

140

降雪

量・積

雪深

(cm

積雪深

日降雪量

日平均気温

日最高気温

日最低気温

-30

-20

-10

0

10

20

30

9/2

7

10/

4

10/1

1

10/1

8

10/2

5

11/

1

11/

8

11/1

5

11/2

2

11/2

9鹿追 施工期間(2009/9/27-2009/11/30)

気温

(℃

0

20

40

60

80

100

120

140

降水

量(m

m)

日降水量

日平均気温

日最高気温

日最低気温

北見

鹿追

留萌

2.4 施工時の気象条件

各現場の施工時の気象条件は,施工現場近傍の気象庁の地域気象観測システム(AMeDAS)より,気温(日

平均、日最高、日最低)、日降水量、日降雪量、積雪深、について整理した(図-3).夏期に施工が行われ

た鹿追では,補強土壁の施工を終える 11 月 30 日までに日平均気温が氷点下となる日が見られるが,最高気

温は概ねプラスであった.日降水量 20mm/h 程度(気象庁予報用語:強い雨)の日が見受けられるが降雪は

確認されておらず,低温条件で時折,降雨の施工であったと思われる.北見は施工期間の 1 月 17 日から 2

月 4 日までの 19 日間,最高気温は氷点下で,施工期間中の降雪は 5 日間,日あたり積雪量は最大 4cm であ

った.これらから,施工期間中は降雪の影響は少なかったものの,施工は氷点下で実施されたと推測される.

留萌は最高気温が 1 月に入っても 0℃以上の日が確認され,施工期間を通して凍結・融解を繰り返すような

温度条件であった.一方,降雪は施工開始から 11 日目の 11 月 19 日から始まり,この日を境に工事が終わる

1 月 23 日までの 66 日間で降雪の無い日は 11 日間,最大積雪深は 120cm であった.留萌での施工は,時間の

経過に伴って日中の気温がプラスから氷点下へ移行し,降雨や降雪に晒される日で,かつ積雪深が多い,非

常に厳しい気象条件であったことが読み取れる.

図-3 各現場の施工期間における気温および日降雨量・日降雪量・積雪深

219

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図-4 引抜き試験装置

a)

図-6 主働領域と抵抗領域の関係 4)

図-5 現場引抜き試験前の作業内容

センターホールジャッキ

油圧ポンプ ガセットプレート

ストリップ

硬質塩ビパイプ(φ=200mm)

b) c)a)

コンクリートコアカッター

図-7 ストリップの形状寸法 4)

3.試験概要および結果

3.1 引抜き試験方法

図-4に現場で使用した引抜き試験装置を示す.

コンクリートコアカッターにより壁面材に孔(φ

=250mm)を開けた後(図-5 a))にストリップ

を露出させ,壁背面の凍上抑制層と盛土材を撤去

してから,孔壁が崩壊しないよう硬質塩ビパイプ

を設置した.その後,コネクティブと接続ボルト

を慎重に取り外し,壁面材に H 鋼を 2 本設置した

あと,ストリップとガセットプレート,さらにこ

れらとセンターホールジャッキを接続させた(図

-5 b),c)).引抜き試験は試験前にイニシャル値

(油圧ポンプ圧力計,ストリップ引抜き量)を確認したあと開始し,引抜き試験開始から 30 秒に 1 回ごと,

油圧ポンプ圧力計とストリップ引抜き量の定規で読み取り記録した.なお,引抜き荷重 P が極限引抜き抵抗

力 Sf,あるいは降伏点引張り力 Sp のいずれかに達したあと 3 分間荷重を保持して試験を終了とした.

3.2 引抜き試験結果

引抜き試験では引抜き荷重 P が,設計引抜き抵抗力 Sd を満足

するかどうかを確認した.設計引抜き抵抗力 Sd とは,抵抗領域

中にあるストリップ上下面に作用するストリップ埋設深さ z の

摩擦抵抗力であり,いわゆる設計値である(図-6).引抜き試

験を終了する目安は,引抜き荷重 P が極限引抜き抵抗力 Sf,あ

るいは降伏点引張り力 Sp のいずれかに達した段階とした.これ

は,既設の帯鋼補強土壁(供用中あるいは供用予定)を使用し

た引抜き試験のため,ストリップの引抜けや破断による壁全体

への影響を考慮したものである.なお,極限引抜き抵抗力 Sf と

は,設計引抜き抵抗力 Sd と同様の考え方であるが,施工

済みのストリップを引抜くためにストリップと盛土の接

する面(2b・Li)はすべて抵抗と見なす考えである.降

伏点引張り力 Sp は,補強材の降伏点引張り強さに補強材

断面積を乗じた値である(図-7).

Sd = f(i)・σv・2b・Le (1)

Sf = f(i)・σv・2b・Li (2)

Sp = σt・t (3)

ここに, f(i):土とストリップの見かけの摩擦係数(マニュアル 4)より算出),σv:ストリップ上の鉛直応

力(kN/m2),b:ストリップ幅(m),t:ストリップの厚さ(m), Le:抵抗領域内のストリップ長(m),Li:

ストリップ全長(m),σt:ストリップの降伏点引張り強さ(kN/m2)

220

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図-8 引抜き荷重 ~ 引抜き量

鹿追

北見

図-9 測定摩擦係数 ~ ストリップ埋設深さ

0

2

4

6

8

10

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

鹿追

北見

留萌

測定摩擦係数 f = τmax / σv

スト

リッ

プ埋

設深

さz

(m) 設

計摩

擦係

数f

*

f * =1.5~tan36°([A]材料)

tan36°

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20 25 30

SK-1

SK-2

SK-3

引抜

き荷

重 P

(kN

)

:設計引抜き抵抗力   S d

:極限引抜き抵抗力  S f

:降伏点引張り力    S p

引抜き量 δ(mm)

S f-3

S f-2

S f-1

S d-2S d-3

S d-1

S p

鹿追

0

20

40

60

80

100

120

0 5 10 15 20 25 30

KT-1KT-2KT-3

引抜

き荷

重 P

(kN

)

引抜き量 δ(mm)

S f-3

S f-2

S f-1S d-2

S d-3

S d-1

S p

:設計引抜き抵抗力   S d

:極限引抜き抵抗力  S f

:降伏点引張り力    S p

北見

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20 25 30

RM-1RM-2RM-3

引抜

き荷

重 P

(kN

)

引抜き量 δ(mm)

S f-3

S f-2

S f-1

S d-2

S d-3

S d-1

S p

:設計引抜き抵抗力  S d

:極限引抜き抵抗力  S f

:降伏点引張り力   S p

留萌

各現場の引抜き荷重 P と引抜き量 δ の関係を図

-8に示す.鹿追(SK)の引抜き荷重 P はすべて

設計引抜き抵抗力 Sd を満足し,SK-3 を除く SK-1,

SK-2 は極限引抜き抵抗力 Sf(Sf-1, Sf-2)まで引抜

き試験を継続しこれを満足した.なお,同じ引抜

き荷重 P でも引抜き量 δ に違いが生じたのは,

SK-1 と SK-3 は盛土の圧縮等によってストリップ

が下側に変形していたため(次項,表-4参照)

に,引抜き荷重 P を作用させた当初は,ストリッ

プと盛土の噛み合わせ(拘束効果)が小さかった

と考えられる.北見(KT)の引抜き荷重 P は鹿追

(SK)と同様にすべて設計引抜き抵抗力 Sd を満

足した.なお,KT-1 では極限引抜き抵抗力 Sf=42kN

をやや上回る引抜き荷重 P=43kN で引抜き量が

徐々に増加した.留萌(RM)の引抜き荷重 P も

鹿追(SK)や北見(KT)と同様にすべて設計引

抜き抵抗力 Sd を満足した.なお,ストリップの

剛性を確認するために RM-2 では,降伏点引張り

力 Sp まで試行的に引抜き試験を継続させたとこ

ろ,ストリップのボルト穴が塑性変形したことを

確認した.以上の結果から,施工時期が異なって

も,ストリップの設計引抜き抵抗力は確保される

ことが確認された.この要因として,冬期施工に

おいて,外気温が常時,氷点下にあったこと,あ

るいは降雪の日が多かったにも拘わらず,これら

への対応が日々の施工管理で徹底されていた,と

考えられる.

3.3 ストリップの摩擦係数と壁面勾配の関係

図-9に引抜き試験による最大せん断応力 τmax(= Pmax/2・

b・Li)とストリップ上の鉛直応力 σv(= γ・z)から求めた測

定摩擦係数 f(= τmax/σv)とストリップ埋設深さ z の関係を示

す.なお,γ は単位体積重量(=19kN/m3),Pmax は現場引抜き

試験の最大引抜き荷重とした.各現場の測定摩擦係数は,マ

ニュアル 4) で定められている設計摩擦係数(1.5~0.726)を

ストリップ埋設深さ z =8m を除き上回っていた.

若槻ら 5) は,リブ付きストリップの埋設深さが 7m より深

くなれば規定値を下回るものが見られたが,壁全体の安定性

に問題がなかった,と報告している.これは,ストリップ

埋設深さ z が深くなることで,極限引抜き抵抗力 Sf が降伏

点引張り力 Sp を大きく上回るものの,現実的には,極限引抜き抵抗力 Sf まで引抜くことができないため,最

大せん断応力 τmax(= Pmax/2・b・Li)が小さくなる,と考えられるが,本試験でも同様の傾向が確認された.

図-10は小川の報告 6) に今回得られた測定摩擦係数と壁面勾配の関係を重ね合わせた.壁面勾配とは壁

頂部の壁面変位量を壁高で除したものであり,プラスは壁が前傾,マイナスは壁が後傾することと表してい

る.小川は測定摩擦係数と壁面勾配の間には明瞭な関係を見いだせない,としているが,今回の調査でも小

221

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図-10 測定摩擦係数と壁面勾配 6)に加筆

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

軽量盛土材

しらす

まさ土

細粒分質礫

改良土

鹿追

北見

留萌

壁面勾配(%)

測定

摩擦

係数

(f)

表-4 コネクティブの状況

壁面材 鹿 追(H21施工) 北 見(H17施工) 留 萌(H20施工)

断面

下面

θ=17°θ=2° θ=0°

SK-2 KT-2 RM-2壁内部 壁内部 壁内部

下面観察方向

壁面材 鹿 追(H21施工) 北 見(H17施工) 留 萌(H20施工)

断面

下面

θ=17°θ=2° θ=0°

SK-2 KT-2 RM-2壁内部 壁内部 壁内部

下面観察方向

川の調査結果と同様,両者に明瞭な関係は確認されなかった.

ただし,北見の壁面勾配は最大-1.4%にも係わらず,壁全体

の安定性が確保されていた 2)が,帯鋼補強土壁は多少の壁面

変位を伴って壁全体の安定を図る特長を有することや,壁面

勾配が管理基準値 4) の 3%を超えるものが存在しないこと,

を踏まえると,測定摩擦係数が所定の摩擦係数を満足した上

で壁面勾配が図-10の値程度であれば,補強土壁の安定性

に影響を及ぼさないと考えられる.

3.4 コネクティブの状況

表-4は各現場のストリップ埋設深さ 5m におけるコネクテ

ィブの状態を示す.コネクティブを水洗いして

下面から観察したところ,赤錆や

白錆などは確認されず健全な状態

にあった.断面方向からコネクテ

ィブをみると,鹿追(θ=2°)や留

萌(θ=0°)と比較して北見(θ=17°)

の折れ曲がりが卓越していた.高

木ら 7) はコネクティブの折れ曲

がりは,盛土の圧縮によってスト

リップが下方に下がることで生じるとして,壁背面の盛土の転圧不足や降雨による水分供給によって,盛土

が圧縮されたことを要因としている.鹿追,留萌と比較して北見の壁面勾配は最大-1.5%であることから,

当該箇所のコネクティブが下方へ変形した要因が,仮に盛土の圧縮および基礎地盤の沈下に伴うものであれ

ば,コネクティブの変形角度と壁面勾配の大きさは密接な関係にあると考えられる.

4.まとめ

ストリップの引抜き試験,壁面計測,コネクティブの変形状況から以下の知見を得た.

1)施工時期の異なったとしても,ストリップの設計引抜き抵抗力は確保されていた.

2)測定摩擦係数が所定の摩擦係数を満足した上で壁面勾配が-1.5~2%程度であれば,補強土壁の安定

性に影響を及ぼさないと考えられる.

3)コネクティブの変形角度と壁面勾配の大きさは,密接な関係にあると考えられる.

現在,温度条件(常温,低温,凍結融解)に応じたストリップの引抜き特性に関する室内試験を実施して

おり,帯鋼補強土壁の冬期施工の可能性についてさらに具体的な検証を行う予定である.本論文を整理する

にあたり,北海道開発局道路建設課をはじめ各開発建設部,道路事務所の関係者にお礼を申し上げる.

【参考文献】

1) 木幡行宏:寒冷地における補強土壁工法の信頼性,基礎工/2010.2,pp.42-45,2010.

2) 橋本聖,西本聡,林宏親,梶取真一:北海道で構築された補強土壁の実態調査結果:地盤工学会北海道支

部技術報告集第 52 号,pp.49-54,2012.

3) 通年施工推進協議会:冬期土工設計施工要領,pp.1-3,1999.

4) (財)土木研究センター:補強土(テールアルメ)壁工法 設計・施工マニュアル 第 3 回改訂版,2003.

5) 若槻良行,瓦川善三,奥田和浩:補強土(テールアルメ)壁工法の現地引抜き試験,日本道路公団試験所

報告,vol.26,pp.13-20, 1989.

6) 小川憲保:テールアルメ工法における盛土材と壁面変位の関係,土木学会論文集 No.493,pp.119-125,1994.

7) 高木宗男,細江健,木村隆志,高尾浩一郎,帯鋼補強土壁の健全度評価のための引抜き試験の有効性につ

いて:第 45 回地盤工学研究発表会,pp.525-526,2010.

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