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緩和ケアを主体とする時期の 作業療法 公立みつぎ総合病院 作業療法士 美穂 H30年3月11日

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緩和ケアを主体とする時期の作業療法

公立みつぎ総合病院作業療法士 臂 美穂

H30年3月11日

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緩和ケアの定義 (WHO 2002年)

緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に対してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることでQOL(生活の質、生命の質)を向上させるためのアプローチである

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痛み呼吸困難、全身倦怠感治療の副作用食欲不振など

痛みの恐怖死の恐怖絶望感不安感、不眠効果のない治療への怒り容姿の変化

家族と家計についての悩み職業上の信望と収入の喪失社会的地位の喪失疎外感、孤独感

なぜこの私に起こったのかなぜこんなに苦しめるのかいったい何のためなのだこれでも生きる意味があるのかどうすればこれまでの過ちが許されるのか

スピリチュアル面

身体面

心理面 社会面トータルペイン

(全人的な痛み)

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疾 病 と 死 の 軌 跡

Field MJ & Cassel CK,1997; Lunney JR et al.,2003を一部改変

突然死・予期せぬ原因

着実に向かう短いターミナル期緩慢な悪化、危機の繰り返し

衰弱・予期した死

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がん患者が自覚症状として訴えることの多い苦痛症状

• 疼痛

• 呼吸困難感

• 倦怠感

• 掻痒感

• 吃逆

• 入眠困難

• 傾眠

• 不安抑うつ

• 便秘

• 下痢

• 排尿困難

• 浮腫

• 腹部膨満感

• せん妄

• 食欲不振

• 悪心嘔吐 など

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疼 痛

•痛みの閾値を上昇させる

例)物理療法:温熱療法、TENS

マッサージ、タッチング

ポジショニング

・ 痛みの出にくい動作の習得

・ 痛みの原因を確認しておくこと

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痛みの閾値に影響する因子

【低下させる因子】

・不快感 ・不眠

・疲労 ・恐怖

・怒り ・悲しみ

・鬱状態 ・倦怠

・内向的心理状態

・孤独感

・社会的地位

【上昇させる因子】

・睡眠 ・休息

・周囲の人々の共感

・理解 ・人とのふれあい

・気晴らしとなる行為

・不安の減退

・気分の高揚

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呼 吸 困 難 感

• 酸素療法中の場合は、主治医・看護師に酸素流量の上限を確認しておく

• 酸素ボンベの残量確認

• 環境調整(ギャッジアップ座位→座骨周囲の皮膚の確認、ベッドの高さ調整、立ち上がり時に手すりなど持ち上肢も使う)

• 日常生活動作の際の注意を促す(息を止めない、前屈みにならない、休憩しながら)

• 涼しいくらいの方が息がラク ・ 顔に扇風機を当てる

• メンソール嗅覚刺激 ・ 聴覚刺激:音楽に注意を引く

• リラクセーション

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顔面へのhandheld fan(HF) による呼吸困難への効果

・Galbraithらは、50名に緩和ケアを必要とするCOPDや心疾患などに対して、脚もしくは顔面へのHFによる送風を行ったその結果、顔面へのHFによる送風では脚のものと比べ5分後の呼吸困難が低値を示した

・Worgらは末期がん患者に対して、fanによる送風後に呼吸数やSpO₂は変化がなく、Numerical RathingScale(NRS)で評価した呼吸困難が有意に減少した

・米国胸部疾患学会の呼吸困難の評価と緩和的管理のワークショップレポートで、呼吸困難の増悪を管理するためにHFの使用が推奨されている

【使用における注意点】

☆三叉神経領域の顔面皮膚や鼻腔への冷風や送風が呼吸困難の緩和に重要なため

マスクや化粧がその効果を減らす

☆リハビリテーションでのトレッドミルやエルゴメーター使用時も顔面に当たるよう設置

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倦 怠 感

• 評価:患者の主体的評価

• 一日の活動の中で、一番動ける時間帯を調べる

• 活動の優先順位を決めてもらう

• エネルギー消費量の少ない動作の練習や、環境調整(ベッド・トイレの位置など)

• 気晴らし活動の提案

• 動けているときは、軽運動

• 臥床傾向の場合は、マッサージや関節運動

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浮 腫

• 皮膚の観察(リンパ漏や蜂窩織炎)

• スキンケア(保湿ケアが多い)

• MLD(用手的リンパドレナージ)、圧迫療法、運動療法、関節運動

• ポジショニング

• タッチング

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第50回(2016年)日本作業療法学会 発表から

終末期がん患者の浮腫に対するチューブ包帯を用いた圧迫療法の効果

Effects of compression therapy using tubular bandages on edema in terminal cancer patients

公立みつぎ総合病院

臂 美穂

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チューブ包帯を使用するほとんどの患者は、ある程度自力で動くことが可能だが、浮腫の出現により苦痛を抱え対応を望んでいた

チューブ包帯使用の効果(身体的)

①軽い圧迫による心地よさや

身体の動かしやすさ

②浮腫の軽減

③冷感に対する保温機能

④倦怠感の軽減 等

患者が「良くなった」と

思える心理的効果も大きく、

家族ケアの一助にもなる

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使用中断の症例の多くは、終末期による病状の変化が影響

→全身状態を含め継続した評価が重要

その他の効果

・移乗介助中のけが(皮膚剥離等)の予防

・自分で着脱できるので、負担が少なく受け入れやすい

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臨 死 期 の 症 状

がん患者では原発巣にかかわらず共通の症状が出現する。

死亡前の数日には約半数の患者に、

5 2 %

4 9 %

1 7 %

嘔 吐 8 %

症状の数 出現率

1つ 75%

2つ 24%

3つ 2%

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終末期がん患者が亡くなる直前の徴候に関する研究

出 現 率 出現してからの

平均予後

死 前 喘 鳴 35% 57時間

95% 7.6時間

80% 5.1時間

動脈拍動不触 100% 2.6時間

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OT介入の主な目的

① 安楽な休息への援助

② 適度な活動のための援助

③ ADL向上のための援助

④ 身体機能の維持と向上

⑤ 精神機能の安定

⑥ 外出のための支援

⑦ 家族や介護者への支援

⑧ 復職の準備となる活動の支援

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終末期がん患者が経験する様々な喪失

身体的機能 疼痛・全身倦怠感などの症状や体力低下などにより、身体が思うようにならない

社会的役割 仕事や家庭における(罹患以前の)役割が担えない

自立・自律 自分で自分のことができない、周囲に頼らなければならない

尊厳 外見の変容・排泄介助を受けることなど、自己イメージやプライドの傷つき

関係性 愛するものを残して逝かなければならない、つらさを理解されない孤立や孤独、拒否

未完の仕事 やり残した仕事がある、達成できない

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2.5人称の死

• 1人称の死:「私」

• 2人称の死:「あなた」

• 3人称の死:「誰か」

• 2.5人称の死:

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家 族 ケ ア

患者が動ける時期

• 患者の「限られた良い時間」を支援

• 明日の楽しみを提供

• 患者のリハビリテーションを継続

• 家族の思いを傾聴→支持的アプローチ

• 家族の語る「生活」を聞く

患者が動けなくなった時期

• 排泄における患者の自律と患者の介助を支える

• 家族が患者と一緒に作業する時間をつくる

• 「家族ができること」を支援

• 家族が不在の時の患者との関わりについて伝える

• 患者の外出泊・退院を支援

• 家族同士のピアサポートを目指す

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家 族 ケ ア

看取りの時期

• 訪室する

• 臨死期の症状について対応

• 「家族ができること」を一緒に考える

• 家族とのコミュニケーションを図る

• 患者の人生を振り返るお手伝いをする

グリーフケアとリハビリテーション

• エンゼルケアに参加

• お見送りに加わる

• デスカンファレンスに参加

• 遺族会に参加

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患者・家族へのアプローチの際に、大事なこと

• したいことは何か?希望を、思いを、引き出す

• 何かをしながら、が引き出しやすい。例えばマッサージしながら、等も有効

• 患者や家族の思い・希望を支える、というメッセージを伝え続ける

• 達成感を得られるよう、柔軟に配慮(量・内容・手順)

• ( )、( )、(____________)

ホスピスマインド

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自分の死生観は死生観とは、

生きることと死ぬことについて、判断や行為の基盤となる考え方。生と死に対する見方

死をみつめることで、どう生きたいかを考える。(以下、患者さんの言葉の一例)

・枯れるように死を迎えたい

・これからの限られた時間は、お世話になった人たちに御礼をしたい

・死んだらどうなるのか、が知りたい

・家族に自分の気持ちを知らせるのは負担になると思うから、言わないでおきたい

・私がいなくなっても、元気な頃の私だけを覚えていてほしい などなど

年齢や経験で死生観は変化していくもの患者さんの死生観に違和感を感じたとしても受けとめる姿勢

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OTのための緩和ケアのこころ長くよい援助者であるために

終末期緩和ケア作業療法研究会

第6回年次研修会(大阪)より

• 目の前の人はすべて何かを教えてくれています

• 患者とセラピスト:互いが学ぶ関係

~目良OT講演より~

• スタッフ同士が仲良く調和をとることが、最後のプレゼント

• 気づかなければ援助はできない

~チャプレン・カウンセラー 沼野尚美先生講演より~