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更新日:2010/6/22
調査部: 坂本茂樹
Chevron 事業から見るアジア太平洋ガス開発
(各社HP、Platts、Energy Inteligence、IHS、コンサルタント資料)
アジア太平洋の上流事業でChevronの存在感が高まっている。Chevronの上流コア・エリアは米国メ
キシコ湾、西アフリカ、アジア太平洋であるが、中期投資計画の中でアジア太平洋への投資額が拡大し
ている。Chevron は 2005 年の Unocal 買収によって同社の豊富なアジア資産を継承し、アジアの上流事
業を強化した。Chevron本来の資産としては、インドネシア陸上油田、豪州LNG案件等がある。アジア太
平洋資産の中では、ガス資産の比率が高い。
Chevron のアジア太平洋ガス資産は、アジアの国内市場向けガス供給事業と豪州 LNG 案件から成
る。規模と事業ポテンシャルの観点からは、豪州 LNG 案件が際立ち、期待度も高い。アジア国内市場向
けガス供給事業では、タイ市場向け事業の収益性が高い。他のアジア・ガス市場の多くはまだ発展途上
にあり、統制価格が適用され、政府のガス供給方針が定まらないなどの課題を抱えている。ガス事業実
施に際して、中期的にはなお難しさが想定される。
アジア太平洋は市場発展性が高いが、現段階で市場環境が未整備のケースが多いため、リスク存在
の認識が必要となる。
1. Chevron事業特徴と 2010 年の投資
(1) Chevron の東南アジアでの石油ガス上流事業
Chevronがアジア太平洋石油ガス上流事業での存在感を高めている。Chevronは2005年にUnocal
を買収して、後者のアジア生産資産を継承した事がアジア事業拡大の大きな契機になった。IOC が東
南アジアに保有する鉱区面積を 2005 年と 2010 年で比較すると、大きな変化が見られる。2005 年には
Shell が群を抜いて最も広い鉱区面積を保有していた。しかし Shell は東マレーシアの鉱区放棄等を行
って鉱区面積の50%以上を削減した。これに対して、ChevronはUnocal買収を通じて、インドネシア、
ミャンマー、タイ、フィリピン、ベトナムを中心にして東南アジアにおける鉱区面積を倍増させ、Shell に代
わって IOC として東南アジア最大の鉱区面積を保有する企業になった。東南アジアの石油ガス生産量
と埋蔵量は徐々に減少しているものの、メジャーおよび準メジャー級企業にとってなおコア・エリアとして
重要な地域と認識されている。
Chevronの東南アジア石油ガス残存可採埋蔵量(28億boe、うちガスが73%)はShellの約1.5倍で、
- - Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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IOCの中で最大規模である。東南アジアの炭化水素埋蔵量はガス比率が高く、IOCの多くが保有する
炭化水素埋蔵量もガスが石油より多い。主要企業で石油埋蔵量比率がガスより多いのは、東マレーシ
ア・サバ州沖合深海に有望なKikeh油田を持つMurphyのみである。また東南アジアではIOCが広範
に事業活動しているものの、やはり国有石油企業の支配力が強く、主要4社(Petronas, Pertamina,
PTTEP, PetroVietnam)で域内の全IOC埋蔵量に相当する規模の埋蔵量を保有している。
(2) Chevron の上流事業コア・エリア
Chevron の石油ガス生産地域は世界各国に広く分散しており、1 国当たりで全社生産量の 10%を超
える国はない。しかし上流事業コア・エリアは、米国メキシコ湾沖合、西アフリカ深海エリア、アジア太平
洋と認識されている。
Chevron が 2009 年の年次報告に記した事業成果では、生産量増加、埋蔵量補填、発見コスト等主要
な指標がいずれも IOC の中でトップクラスにランクされるとしている。
図 1 Chevron の主要な事業地域 (出所)Chevron 2009 Annual Report
Chevron の 2009 年の主要な探鉱・開発活動の成果は次の通りであった。
(米国案件)
・ 生産開始: メキシコ湾深海 Tahiti プロジェクト原油
・ FEED 作業実施: Jack & St. Malo and Big Foot(メキシコ湾沖合中部)
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(国際案件)
・ 生産開始: アンゴラ(Tombua-Landana, Mafumeira Norte)、ブラジル(Frade 油田)、インドネ
シア(南ナツナ海 B 鉱区)
・ 開発作業: 中国(四川省川東北ガス田)、ナイジェリア(Agbami 油田)
・ FEED の覚書: ベトナム(B 鉱区ガス田開発、パイプライン建設)
・ 試掘成功: 豪州(沖合 Carnarvon ベースン)、アンゴラ(沖合 Greater Vanza Longui 地域)、
コンゴ(Moho-Bilond 探鉱パミット
・ LNG 案件(豪州): Gorgon 最終投資決定、Wheatstone の FEED 移行
(3) Chevron の 2010 年投資計画
Chevronの 2010年アジア太平洋への投資額は60億ドルで、全体の1/3を占めるが、同地域の投資
比率はやがて 50%に拡大すると見込まれる。Chevron 上流開発部門幹部は、同社の主要な開発事業
の進展につれて、アジア太平洋への投資比率が高まっていると認識している。
アジア太平洋における 2010 年の主要な投資対象案件は、重点事業国豪州の新規 LNG 案件
(Gorgon、Wheatstone)、タイ・シャム湾沖合Platong II ガス田開発がある。そのほかに、インドネシア・
カリマンタン島東沖合深海Gendalo-Gehemガス田開発、ベトナムのガス田開発/発電事業(投資額43
億ドル)が挙げられる。
(4) Chevron の生産に貢献する新事業
Chevron が中期に計画する新規案件を表 1 に記す。全生産量に占める原油・液分、ガス比率を見ると、
それぞれ45%、55%となる。ChevronはこれまでIOCの中ではガス比率が最も低く、2009年に初めて
40%に達した。新規案件中ではガス比率が高く、将来の傾向としてはガス比率が上昇していくと見られ
る。
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確認埋蔵量に占めるガス比率
BP
Chevron
ConocoPhillips
ExxonMobil
Shell
Total
20%
30%
40%
50%
60%
70%
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
注)確認埋蔵量にオイルサンド埋蔵量分を含む
注)SEC(米国証券取引委員会)基準の確認埋蔵量を採用
図2 IOC の埋蔵量に占めるガス比率
表 1 Chevron が 2010~15 年に生産開始を計画する開発案件一覧
出所: Chevron, Supplement to 2009 Annual Report
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Chevron の中期的な開発案件(2010~15 年に生産開始予定)は、コア・エリアと見なされる米国メキシ
コ湾沖合、西アフリカ、及びアジア太平洋各地の案件から成る。アジア太平洋の案件は、広く各国に分
散しており相互の関連は薄いものの、新規生産案件の全生産規模の 52%を占める。原油生産事業は、
米国および西アフリカの比率が高い。ガス事業では、アジア太平洋比率が新規生産案件中の 87%と非
常に大きな比率を占める。個別にみると、豪州ガス田開発(Gorgon、North Rankin)とインドネシア・カ
リマンタン沖合深海ガス田開発の規模が大きい。上記リスト以外に計画されている豪州 Wheatstone
LNG 案件(2016 年生産開始を計画)を加えると、新規ガス開発案件に占めるアジア太平洋比率は更に
高まる。新規生産全体から見ても、アジア太平洋ガス案件比率が高まっていく傾向がうかがえる。
2. Chevronのアジア太平洋事業の概要
Chevron が保有する東南アジアの石油ガス資産の中で、もともと同社が保有していたのはインドネシ
ア・スマトラ陸上油田であり、それ以外はほとんど Unocal の買収で取得した資産である。豪州のガス、
LNG 資産は Chevron が保有していた資産である。これらアジア太平洋事業の概要を以下に記す。
(1) 原油・液分生産: インドネシア・スマトラ、タイ・シャム湾沖合
Chevron の原油・液分生産地域は、インドネシアとタイである。かつての有力産油国インドネシアの原
油生産は既に減少段階にあるが、タイの液分生産はまだ増加傾向にある。原油・液分は国際市場価格
で取引され、同生産事業は Chevron 収益に貢献している。
a. インドネシア・スマトラ陸上油田
Chevron はインドネシア最大の原油生産者で、同国原油生産量の約40%を占める。Chevron は同国
の伝統的な原油生産地域、スマトラ島 CPI 地域(GALTEX Petroleum Indonesia)でミナス、デュリー
原油など代表油種を生産し、その多くが輸出される。インドネシアを代表するスマトラ産原油は 2000 年
から生産減退が進んでおり、今後も生産減少が懸念される。
b. タイ・シャム湾沖合
Chevron は 2005 年の Unocal 買収によってタイの Unocal 資産を継承し、同国最大のガス生産者と
なった。タイの液分生産の多くは、ガス田で生産されるコンデンセートである。タイのガス、コンデンセー
ト生産は増加傾向にあり、2010 年代前半にピークを迎えると見られる。シャム湾で生産されるコンデンセ
ートは、1990 年代初期までは主に米国西海岸に輸出されていたが、1992 年公布の法令により、それ以
降は国内製油所で処理されることになった。販売価格は、シンガポール市場で取引される代表的コンデ
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ンセート・バスケット価格が使われ、若干の値引きが適用される。シャム湾のコンデンセート生産は、
Chevron の収益に貢献している。
図 3 Chevron のタイ、ベトナム、ミャンマーの事業地域 (出所)Chevron 2009 Annual Report
(2) ガス生産(市場価格):タイ・シャム湾沖合、ミャンマー沖合(タイ市場向け)
地域商品であるガス事業は、その市場環境によって収益性が大きく異なる。発展途上経済が多いアジ
アのガス市場は統制価格が多く、ガス事業は必ずしも好ましい事業環境にはない。アジアでガスを市場
価格で購入するのはタイおよびシンガポールである(シンガポール市場の石油製品価格準拠)。
Chevron のアジア・ガス事業では、ガス需要の大きいタイ市場に販売するタイおよびミャンマーのガス生
産事業が良好な収益性を持つ。
a. タイ・シャム湾沖合ガス生産
Chevron はシャム湾沖合ガス田群(Unocal-1~3 契約地域、Palin ガス田)でオペレーターとしてガス
を生産し、また有力ガス田Arthitにも事業参加している。Chevronのオペレーター鉱区ガス埋蔵量はタ
イ全量の 60%以上で、同社ネット埋蔵量比率は 40%に達する。また Chevron オペレーター鉱区の
2009 年生産量(約 1,400MMcfd)はタイの全ガス生産量の 50%を超える。Unocal-2(Platong II ガス
田)、Unocal-3 地域、および Palin ガス田の生産余力が大きく、また長期売買契約を締結していることか
ら 2025 年頃まで生産量増加が期待できる。タイのガス生産に占める Chevron の存在感は大きく、また
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Chevron にとってシャム湾のガス資産は優良資産である。
Chevron はシャム湾沖合の生産ガス全量を、1990 年代半ばに前身の Unocal が国営石油会社PTT
と締結した売買契約に基づき、タイ国内需要向けに販売する。ガス価格は、シンガポール市場の石油製
品バスケット価格を基準とし、生産設備コスト等を反映したフォーミュラによって決まる。
b. ミャンマー沖合(タイ市場向け)
Chevron は Yadana ガス田権益 28.26%を保有している。同権益の前身は、Unocal が 1993 年にオ
ペレーターTotal権益にファームインしたものである。同ガス田は1998年に生産開始された。2009年に
は565MMcfdがパイプラインでタイPTT向けに輸出され、約100MMcfdがミャンマー国内需要向けに
販売された。タイ向けガス輸出は 2025 年まで継続する長期契約である。国内需要向け数量は、産業用
需要増加と共に 2011 年から 300 MMcfd へと増加する見通しである。
タイ向けガス輸出価格は、タイ国内生産ガスに準じる条件であり、収益性が高い。
しかしChevronにとってのミャンマーガス事業は、同国政治体制に係るリスクを抱えている。ミャンマー
軍政の民主勢力弾圧を非難する米国政府は 1997年にミャンマー経済制裁を施行して米国企業のミャン
マー新規投資を禁じた。UnocalのYadanaガス田権益は父祖条項(grandfather clause1)による例外
措置を受けていた。 しかし、2007 年半ばに起こったミャンマーの政治・社会混乱に際しては、米国でミ
ャンマー軍政に対する広汎な非難が湧き起こり、ミャンマーでガス事業に参加するChevronも人権擁護
団体、政治家、世論から非難を受けた。同事業オペレーターのTotalは、ミャンマーでの事業実施の意
義を公然と主張したが、石油製品販売大手として米国市場での存在感が大きいChevronはコメントを差
し控えた。ミャンマー軍政が近い将来に大きく変容する事は考え難く、米国政府の対ミャンマー制裁措置
も継続すると見られる。タイ向けに輸出するYadanaガス田事業は優良事業であるが、米国企業
Chevronは米国の対ミャンマー制裁措置動静を常に意識せざるを得ず、同事業運営に影を落としてい
る。
(3) ガス生産(統制価格):インドネシア、ベトナム、
a. インドネシア、東カリマンタン沖深海ガス田開発
Chevron はスマトラ島でミナス、デュリーなど主要原油を生産するインドネシア最大の原油生産者であ
1 特定の活動(事業)を禁止している制定法中の条項で、その法律成立以前に既に行われていた活動(事業)
を、その禁止の適用から除外するもの。
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るが、スマトラ島でのガス生産は無く、逆に ConocoPhillips などガス生産者から自社油田 2 次回収用に
ガスを購入している。Chevron のガス資産は、Unocal 買収で継承した東カリマンタン沖合深海鉱区深
海ガス田群である(Gendalo,Gehem 等)。
図 4 カリマンタン沖合、Chevron 深海鉱区ガス田
Chevron は Total、VICO と共にボンタン LNG 基地への原料ガス供給者であるが、既存鉱区(東カリ
マンタン、アタカ)のガス供給量は減少している。これに代わって、Unocalが1999~2003年に発見した
Ganal、Repak 等深海鉱区ガス田を開発することで Chevron のボンタン LNG 基地向けガス供給比率
を増加させる計画であった(Ganal、Repak 鉱区のガス埋蔵量約 6 Tcf)。しかし、インドネシア政府のガ
ス供給政策が定まらないため、同国の新規ガス開発案件は大きな影響を被っている。インドネシアは国
内市場向けガス供給を優先させるため、ボンタン LNG 輸出契約量を2010~11 年に大きく削減させる。
最大輸出先の日本向け数量は年間 1,200 万トンがわずか 300 万トンへと激減する。代わって西ジャワ、
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東ジャワ、北スマトラを含む LNG 受入基地を建設して、LNG を国内消費に振り向ける計画である。しか
し、国内ガス需要家向け価格は定まらず、供給インフラ等が未整備であることから、計画通りの国内
LNG 消費が実施される目処が立っていない。Chevron の当初ガス田開発計画も遅れを余儀なくされ
た。
Chevron の深海ガス田開発は高コスト事業であり、開発移行には事業採算の目処が必要である。ガス
田開発計画は2008年に政府承認を得て、Gendalo,Gehemガス田生産開始は2016年頃と見られてい
る。しかしインドネシアのガス政策の不明確さによって、国内向け LNG 供給の売価は定まっていない。
Chevron は、ガス田開発の前提条件が変われば開発計画見直しが必要になるとの見解を表明している。
Chevron にとって、インドネシア深海ガス田開発はなお頭の痛い案件である。
b. ベトナム
Chevron は52/97および48/95 & B鉱区にそれぞれ約42~43%の権益を持つオペレーターである。
Chevron のベトナム権益は Unocal 買収によって継承した資産であり、1997~2008 年にかけて、同上
鉱区でコンデンセートと約 4 Tcf のガスが発見されている。非随伴ガス田としては、BP の Lan Tay/Lan
Do ガス田(当初埋蔵量約2.3 Tcf)を凌ぐベトナム最大のガス田となる。Chevron は 2009 年7 月に国営
石油会社 PetroVietnam と 52/97 および 48/95 & B 鉱区ガス田開発に係る覚書(HOA)を締結し、
FEED 作業を開始した。生産ガスは、海底 380km、陸上 50km のパイプラインを経由して、ベトナム南
部に建設される O Mon 発電所(2,800 MW)で燃料として消費される。FEED 作業が順調に進展すれ
ば、2010年にガス売買契約が締結され、2014年にも生産開始が見込まれる。2017年に480MMcfdの
プラトー生産に至り、約 20 年の長期にわたって生産を維持する大規模プロジェクトになる。ガス価格は
石油価格をベースに基本合意されていると見られるが、詳細は明らかにされていない。
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図 5 ベトナム南部のガスパイプライン(計画)
しかし、ベトナムのガス事業環境は未熟な段階にある。1990 年代後半にガス利用が開始され、ガス利
用期間が 10 年余りと短いために、ガス供給に伴う法令、輸送インフラ、価格設定問題のいずれもが未整
備である。輸出も難しい状況にある。ガス消費のほとんどが発電用需要であり、現時点で発電所向け以
外の輸送インフラが無いために、今後もガス需要の 70~80%は発電用燃料に占められる可能性が高い。
産業化の進展とともに産業用ガス需要が徐々に拡大する可能性もあるが、現時点では未知数である。マ
レーシア、タイなど ASEAN 域内先進地域に比べてベトナムは経済開発始動の遅れたために産業界の
購買力が乏しく、エネルギー供給価格が安く設定されている。電力料金にも補助金が使われて、安価に
供給される。2002 年に生産開始された Lan Tay/Lan Do ガス田事業が同国初めての非随伴ガス販売
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事業であり、今後のガス事業の規範になるものと考えられる。しかし供給先が国営発電公社に限定され
るため、ガス供給者は販売条件交渉において不利な立場にあると見られる。
(4) LNG 事業; 西豪州沖合ガス田開発
Chevronの豪州LNG案件は、同社LNG事業の根幹を成す。Chevronは既存のNWS LNGでは、
権益16.7%を保有するノン・オペレーターである。Chevronの主力案件はオペレーターを務める西豪州
沖合の大型案件 Gorgon(液化能力 1,500 万トン/年)および Wheatstone LNG(当初液化能力 860
万トン/年)のである。同社の埋蔵量比率の高いアジア太平洋の中でも、豪州 LNG 案件は特に期待度
の高い案件である。
図 6 西豪州北西大陸棚の LNG 案件、探鉱鉱区
豪州では、西豪州沖合ガス田、クイーンズランド州のCBM開発案件共に多くのLNG案件が計画され
ており、中期的に LNG 需給緩和が想定される中でマーケティング環境が厳しくなっている。その中で
Chevron の Gorgon および Wheatstone LNG は順調に東アジアの有力需要家との売買契約もしくは
覚書を締結している。Chevron の LNG 案件は、Woodside の Pluto LNG と共に、豪州の新規 LNG
案件の中で優位な位置にあると考えられる。Gorgonは2009年9月に最終投資決定を決め、2014年の
生産開始を計画している。Wheatstoneは2011~12年に最終投資決定、生産開始は2016年以降と想
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定される。Chevron は Gorgon、Jantz ガス田西方の深海フロンティア地域に広い探鉱鉱区面積を保有
しており、ガス発見があれば Wheatstone LNG 拡張用に充填すると見られる。従って、同LNG 案件の
発展性も高い。
Chevron の西豪州沖合 LNG 案件の売買契約を順調に締結できたのは、LNG 事業実績のある IOC
上位企業としての同社への信頼性、および該当 LNG 案件が東アジア伝統市場の好む高カロリーLNG
供給であるためである。また同社は LNG 購入者に上流・液化部門権益の一部を放出することにより、購
入条件を魅力的なものにしている。豪州と共に有力な LNG 供給国であるカタール LNG 事業は国営カ
タール石油の統制色が強くて機動性のある販売方法を採り難いと見られ、豪州 LNG 案件の動静を強く
意識している。
表 2 オセアニア新規 LNG 案件の売買契約締結動向
(出所)各種情報・報道
一方、豪州LNG案件にはマイナス要因もある。2014年以降生産開始を予定するLNG案件が多いた
め、資機材調達、エンジニア・労働者など労働力を必要とする時期が集中し、同時期に実施できる開発
案件数が限定される。豪州は外国からの労働力移入に制限を設けているため、労働力不足に伴う開発
作業の制限が予想される。また豪州沖合ガス田開発は高コストと認識される。
Chevron の新規 LNG 案件は、先述したように売買契約を順調に締結して早期に最終投資決定を決
めるなど事業を有利に進めており、豪州案件の中では優位にある。従って資機材・労働力不足に伴う事
業遅れの懸念は小さいと考えられる。しかし依然として高コスト体質であり、将来のマーケティングおよび
事業採算性への懸念が残る。
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3. Chevron事業に見るアジア太平洋事業の特徴
Chevron にとって、アジア太平洋は、北米、西アフリカと共にコア・エリアの一つであり、将来の発展性
が大きい。しかし市場の観点から見ると、アジア太平洋は地理的広がりが大きく、また経済発展段階が国
によって大きく異なり、市場の統一性はない。Chevron の事業も、各国毎に市場成熟度・整備段階が大
きく異なり、事業環境はさまざまである。経済発展途上の市場はポテンシャルが大きいが、現時点の市場
環境が不備であってリスクを抱えるケースがある。Chevron のアジア太平洋事業を類型ごとに分けると、
次のような特徴がみられる。
(1) 原油、液分生産事業: インドネシア・スマトラ、タイ・シャム湾のコンデンセート生産
原油、コンデンセートは国際商品であって、生産地域に拘わらず国際市場価格での販売が可能である。
従って事業リスクはほとんどない。しかしアジア太平洋の原油残存ポテンシャルは世界的には低いと見
られる。Chevron の既存資産ではインドネシア・スマトラ陸上油田は既に生産減退が進行しており、シャ
ム湾のコンデンセート生産は 2010 年代前半に生産ピークを迎えると見られる。現時点では、アジア太平
洋地域で原油目的の大規模探鉱は予定されていない。現時点で原油生産の発展性は限定的と考えら
れる。
(2) ガス生産(市場価格販売):タイ、ミャンマー
アジア太平洋は一般にガスポテンシャルが高い。Chevron はインドネシア、タイ・シャム湾ではガス田
開発を進め、豪州では LNG 事業推進と共に積極的なガス探鉱を実施している。
アジアのパイプラインガス事業で、いわゆる市場価格で(に準じて)取引されるのは、シンガポールお
よびタイ市場に限定される(同市場ではシンガポール市場石油製品準拠)。タイはマレーシアと並び、東
南アジアでは政策的に国産ガスの利用が図られてきた市場である。ガスの輸送インフラも整備されてい
る。この観点から、タイ市場にガスを販売するシャム湾ガス生産事業およびミャンマーYadana ガス田は、
事業期間が長く、採算性も高く、Chevron 収益への貢献度の高い事業と考えられる。
ただし、ミャンマー事業は、高い政治リスクを抱える。今後のミャンマー政治動向によっては、再度米国
政府の対ミャンマー経済制裁強化、米国企業Chevron に対するミャンマー事業実施への非難再発の可
能性がある。資源開発は発展途上経済圏で行われるケースが多く、カントリーリスクが高い対象国も多
い。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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(3) ガス生産(統制価格、商業化に課題):ベトナム、インドネシア、中国
アジアの発展途上圏では、先述のタイとマレーシアを除くと、多くの国でガス利用の制度、設備が十分
整備されていない。また多くの国で、ガスは統制価格である。ガス発見があっても、商業化が難しいケー
スも多い。こうした国のガス市場は、経済発展ポテンシャルが高いため将来は有望な市場に発展する可
能性が高いものの、現時点での課題が多い。Chevron のアジアでのガス開発にも難しいケースがある。
ベトナム 52/97 および 48/95 & B 鉱区では 4 Tcf のガス埋蔵量が見込まれ、O Mon 等発電所向け供
給による事業化が合意されている。しかし同国のガス価格は東南アジアで最も低い水準にあり、同国政
府および PetroVietnam の許認可手続きの遅さ、官僚的な対応等がしばしば指摘されている。
PetroVietnam など当局側と協力しながら、事業の採算性を確保しつつ、まだ黎明期にあるベトナムの
ガス事業体制を整えていくのは、なお骨の折れる業務と考えられる。
インドネシアは LNG 輸出の長い歴史を持つガス生産国である。しかし資源ナショナリズム的見解が支
配的な議会の影響力が強く、国内市場向けガス供給優先が叫ばれる中で、ガス供給政策が定まってい
ない。課題は、ガス(LNG)輸出量の大幅削減が決まり国内市場向けにLNG供給が割り振られたものの、
国内需要家の支払い能力に疑問が残る中で価格政策が定まらず、また輸送インフラなど関連施策も進
展していないことである。2010~11 年にかけては、国内市場で吸収できずに宙に浮く LNG が数百万ト
ン生じると見込まれる。長期的には国内需要家の LNG 消費も定着してくると見られるが、短中期的に国
内価格方針を含むガス政策が定まる事は期待しにくい。Chevron はカリマンタン沖合深海ガス田に纏ま
ったガス埋蔵量を持つものの、高額の開発投資を正当化できるだけの事業採算を見定め難く、課題が残
る。
中国は将来性の高いガス市場だが、国内価格は統制価格である。また外資に公開される資源開発案
件には技術的に難しいケースが多い。CNPC/ Chevron が 2011 年の生産開始を計画する四川省川東
北ガス田も硫化水素を含むガス田であり、販売政策面も併せて課題が残る。
(4) 豪州 LNG 事業
先述したように、Chevronのガス資産中、豪州のLNG開発案件は最も埋蔵量規模が大きく、マーケテ
ィングも先行している。Chevron の開発案件の中でも有望案件であって期待度も高い。
Gorgon、Wheatstone LNG は豪州 LNG 案件の中では進展が早く優位な位地にある。しかし、豪州
LNG 案件全体が抱える高コスト、開発が集中する時期の資機材・人材確保、熾烈になると考えられるマ
ーケティングへの対処等の課題は残る。
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4. アジア太平洋事業での事業実施に際して
アジア太平洋はエネルギー市場規模拡大の観点からは世界で最もポテンシャルが高い。ポテンシャ
ルの高い市場向けのエネルギー供給案件を多く持つことは一つの優位性と考えられる。特にガス供給
はグローバル市場向けでは無く、それぞれ独立する地域市場に対するエネルギー供給事業である。ア
ジア市場に対するガス供給案件を豊富に持つことは、企業としてのガス事業ポテンシャルの高さを裏付
ける。
しかし、アジアのガス市場には黎明期または発展段階にある市場が多く、市場環境の整備度が低い。
各国政府はガス価格を市場価格に近づけようと努力をしているものの、実現にはなお時間を要する。現
在、ガス統制価格を用いている市場、ガス供給方針が定まっていない生産国でのガス開発案件の商業
化には、ある程度の難しさがなお続くと考えられる。