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C hapter 4 学校建築の環境性能向上手法 須永修通 今日、学校建築では、室内環境を教育に適したものにすること、また、 エネルギー消費量(地球環境への負荷)を少なくすると同時に環境教 育ができるようにすることが、緊急の課題となっています。 本章では、この環境性能向上に関して、まず,ストック活用の対象と なる旧来の学校建築の特徴を、次に、環境性能を向上させるための考 え方と方法について、建築のハード(建物)とソフト(運用)の両面か ら示しています。どうしたら環境性能の良い校舎にできるか、学校 建築に採用可能な手法はどのようなものか、何が必要なのか、を分 かり易く説明しています。また、教育委員会などの学校建築関係者, 教師および児童生徒が、建築と環境について理解し、環境共生意識を 自然と高めていくことの重要性も述べています。

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Page 1: Chapter 4 - さくらのレンタルサーバ37 Chapter 4 学校建築の環境性能向上手法 b. 冬季 図4-2は、改修の対象となる学校の代表的な教室の冬季の室

Chapter 4学校建築の環境性能向上手法

須永修通

今日、学校建築では、室内環境を教育に適したものにすること、また、エネルギー消費量(地球環境への負荷)を少なくすると同時に環境教育ができるようにすることが、緊急の課題となっています。本章では、この環境性能向上に関して、まず,ストック活用の対象となる旧来の学校建築の特徴を、次に、環境性能を向上させるための考え方と方法について、建築のハード(建物)とソフト(運用)の両面から示しています。どうしたら環境性能の良い校舎にできるか、学校建築に採用可能な手法はどのようなものか、何が必要なのか、を分かり易く説明しています。また、教育委員会などの学校建築関係者,教師および児童生徒が、建築と環境について理解し、環境共生意識を自然と高めていくことの重要性も述べています。

Page 2: Chapter 4 - さくらのレンタルサーバ37 Chapter 4 学校建築の環境性能向上手法 b. 冬季 図4-2は、改修の対象となる学校の代表的な教室の冬季の室

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1 環境性能に関係する建築的な特徴 学校建築の環境性能に関係する特徴はいろいろありますが、改修の対象となる校舎の主なものを表4-1に示します。一言でいえば、写真4-1のように、断熱や日除けがなく、窓の大きな建物、換言すれば、環境性能の低い建物と言えます。また、室内に多くの人員が在室し、人間による熱と二酸化炭素の発生量が多いことも特徴です。 教室の熱・光環境に大きく影響する校舎の形態・方位については、南向き一文字形校舎が一般的と思われていますが、意外にL字形校舎も多くみられます。つまり、南向き教室だけではなく、日射が室内に入りやすい東(西)向き教室も多いということです。写真4-2はそのような校舎の廊下の例で、日射が強烈に入射しています。 逆に、このような充分な日照が得られることや、広い敷地と樹木、低層建物であることなどは、学校建築の利点でもあります。

■4-1  学校建築の環境性能上の特徴(問題点と利点)

2 教室の環境的な特徴(問題点)① 熱環境 a.夏季(冷房のない教室)

 学校は夏休みがあるなどの理由で、教室に冷房は設置されてきませんでした。近年、ヒートアイランド現象や家庭でのエアコン普及などから、都心などで普通教室でも冷房が設置されるようになってきましたが、多くの教室には冷房はありません。図4-1は、東京都内の小学校における夏の教室内の赤外線放射カメラによる撮影結果です。気温が34℃程度、周囲の表面温度は35℃以上と過酷な状況になっています。これは、写真4-1、4-2のように、校舎に断熱がなく、窓が大きいこと、しかもその窓に日除けもないことが主な原因です。また、教室内には児童が在室し、1人100W以上の発熱をしているため、40人いれば合計4kW以上の発熱があることも原因の一つです。 また、この教室は3階(最上階)で最高室温が34℃程度でしたが、同じ日に2階の教室は最高31℃程度、1階は29℃程度と、1

階は比較的過ごしやすく、上階、特に最上階の温度が高くなっていることも学校建築の特徴です。

建築的特徴 環境的な影響

敷地・配置

住宅地(住居専用地域)にある場合が多い 建築物の高さ制限が10m校庭があり、敷地が広い

夏、校庭の表面温度が高くなり、風の温度があがる多くの場合、南側に広い校庭、北側に校舎樹木が(周辺部に)多い 周辺部に陰をつくり夏の暑さを緩和

建物(校舎形態)

階数は3~4階 最上階の温度が高く、1階は低い南向き一文字型校舎で長い建物であることが多い 冬の日射の影響が大きいL字型校舎、クシ型校舎 東・西向きの教室は夏の日射が厳しい中廊下型校舎、ロの字型校舎 風が通らないことが多い

建物(仕様)RC造 熱容量が大きく、熱を蓄える性質がある断熱はされていないか、あっても薄い 冬の寒さ、夏の暑さの主原因窓は、単層ガラス+金属サッシ 熱損失が大きい、寒さのもう一つの原因

教室

天井高が3m程度ある 気積が大きい窓の面積が大きい 熱損失、日射取得が大きい庇・ベランダがないことが多い 直射光が入りすぎ光・熱環境が悪化窓は2段で、廊下側にも上部に窓がある場合が多い 上部の窓は開けられないことが多い在室人員が多い(40人学級だと約0.5人/㎡) 内部発熱・CO2発生量が多い

設備

換気装置なし 特に冬季の空気質が悪い冷房設備なし(特殊教室は冷房あり) 夏、過酷な暑さになる場合が多い扇風機(天井扇)がついている場合がある 暑さを緩和するが気温がおよそ34℃を超えると効果なし暖房装置はほぼ完備されているが、近年はFF型ストーブが多い FF型ストーブは温度差が大きくつき、室内が乾燥する

表4-1 環境性能に関係する学校建築の特徴

写真4-1 典型的な学校校舎外観     (窓が大きく、庇(ひさし)もない)

写真4-2 西廊下の例     (窓が大きく、日射が浸入している)

図4-1 夏季の教室温度(熱画像)

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Chapter 4 学校建築の環境性能向上手法

b. 冬季 図4-2は、改修の対象となる学校の代表的な教室の冬季の室内温度分布を、模式的に示したものです。・�窓際は、日射が当たるとともに温風ヒーターもしくはストーブがあるため、暑い状態(時には30℃近くになることもあります)

・�中央付近は、足下は寒いが、体全体としては暑くも寒くもない状態

・�廊下側は、暖房機から遠いこと、また廊下の冷たい空気が入ってくるため、寒い状態

というのが、一般的な教室の状態です。 このように暖房時には、天井付近の温度が高く、床付近の温度が低くなっています。これは、温風ヒーターやストーブなど空気対流型の暖房機を用いていること、建物の断熱性が低いことが主な原因です。暖房による暖かい空気は室上部に上がり、廊下の低い温度の空気、あるいは窓(極端な場合は壁も)により冷やされた空気が床面に沿って流れ*1、上下の温度差が大きくなります。 また、寒さの他、温風暖房などで空気が乾燥すること、窓からの日射が児童生徒の顔に直接当たり暑いこと、などが問題となっています。建物全体としては、1階の温度が低く寒いことも一般的な問題と言えます。注�*1)このような現象を、コールド・ドラフトといいます。

②空気環境 これまでの教室には換気設備がなく、図4-3、図4-4のように、冬季暖房時には二酸化炭素濃度が基準値(ビル管法1,000ppm、

文部科学省基準1,500ppm)をはるかに超えることが常態化しています。先生方の指導で、休み時間に窓あけによる換気が行われていることが救いです。

③光環境 教室には大きな窓があり、日除けがないことも多いため、直射光が入射し、眩しさやグレア(物が見えにくい状態)が生じることがあります。特に冬季は太陽高度が低いため、光は教室の奥まで射し込み、暖かさを得るにはよいですが、光環境としての不快の原因となり、また、顔に当たったりして暑さの原因にもなっていることがあります。 図4-5は、庇のない教室の冬季の日射の入射状況を放射カメラの画像とともに示したものです。可視画像では直射が教室の1/3程度までしか入っていないように見えますが、これは、この教室の上部の窓がすりガラスのためで、熱画像でみると、教室の半分以上まで日射の影響を受けていることがわかります。 なお、すりガラスは直射光を拡散しますが、窓の輝度を上げ、眩しさの原因となることもありますので注意が必要です。

④音環境 学校はコンクリート造のため、特に廊下の音が響くなどの問題が多く聞かれます。オープンプラン・スクールでは特に配慮が必要です。

⑤心理・イメージ 学校、特に廊下は、コンクリート造であること、白色系の蛍光灯であることなどから、「冷たい」、「夜は恐い」などのイメージがあります。

断熱なし

吸気式の換気扇→給排気口を利用する

だるまストーブの排気口

欄間開口は気密をしっかりとって、暖かい空気が逃げないようにする

外断熱

あつい 快適 さむい

快適 快適 快適

隙間の多い間仕切壁

寒い廊下

断熱なし

外断熱

排気口→天井近くに設ける

地窓は操作性を考慮。隙間から、暖かい空気が廊下の床近くに排出される

冷たい空気

暑い空気

できれば床暖

8 9 10 11 12 13

1,000

0

2,000

3,000 25

20

15

10

[ppm] [℃]

[h]

CO 2濃度

室温

時刻

CO2濃度

廊下側扉開放生徒不在

室温

図4-2 冬季の教室内温度分布 1)

図4-4 二酸化炭素濃度頻度分布 2)

図4-3 二酸化炭素濃度変動状況 2)

0

10

1,000 2,000 3,000 4,000

20

30

40

50

60

CO2濃度[ppm]

教室数

開始中間終了

図4-5 日射の入射状況 3)

高窓部分 高窓部分

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3 使用(運営)上の問題点・改善点①照明器具の点灯

 教室では、自然光により充分明るくても蛍光灯を全部点灯していることが非常に多いですね。この原因はどこにあるのかを考えてみます。窓面積が床面積の1 / 5以上という建築基準で学校が造られてきたことから、先生方も教室は明るければ明るいほど良いと考えている、(明るさに合わせて)消灯すると父兄からクレームがつく、窓が明るすぎるのでそれに慣れた目で見ると廊下側や手元が暗く感じる、などが考えられます。いずれにせよ、無駄は省かねばなりません。 片側に窓がある一般の教室では、日中、窓側は照度が高く(学習には明るすぎる場合もある)、廊下側の照度が低く(照度基準を充分に満たしていても相対的に暗く感じる)なっていますので、少なくとも窓側では人工照明は必要ありません。このことをまず、皆さんに理解していただきたいと思います。写真4-3のように、少なくとも窓側1列は消灯して欲しいと思います。 また、照明は、1灯消灯すればその分、確実に省エネルギーになることはもちろんですが、熱の発生もなくなることをご存じでしょうか? 教室に設置されている蛍光灯は、通常1灯40Wで、1教室に12 〜 18 灯+黒板灯 2 灯で計 14 〜 20 灯設置されていることが多いようです。仮に20灯あるとすると教室全体で800Wとなり、

写真4-3 窓側の照明を消している例(合志小学校、熊本県)

写真4-4 典型的なカーテンによる日射遮蔽     (風が通らない)

図4-6 戸締まりによる室温への影響 4)

家庭用の電気ヒーター 1台分の消費電力、および、発熱があることになります。 もし、1 つの教室で 18 灯の 1 / 3 の 6 灯が消灯できたら、1

クラス当たり 240W、1 学年 3 クラスの小学校ですと 18 クラスありますから合計 4,320W(1 日 8 時間点灯したとすると34,560Wh/日、年間200日とすれば約7,000kWh/年)の電力が削減できます。電気エネルギーは質の高いエネルギーですから、この削減効果は大変大きいものがあります。また、その分発熱もなくなりますから、夏季には学校全体の温度上昇防止(冷房している場合には冷房エネルギー削減)にもなります。 『不要な照明は消す』、この習慣を徹底することが必要です。子供たちにも生活習慣として身につけさせることにもなります。なお、削減の建築的な解決方法は4-2をご覧下さい。

②夏季の熱環境 夏季は、冷房のついていない教室では、窓を大きく開けて通風を図る必要があります。しかしながら、それができていない場合があります。光化学スモッグ注意報が出て、窓を閉めなければならないときや、雨が降ってきたとき(庇がないため、窓を閉めざるを得ない)、あるいは強風で物が飛んでしまうとき、などの気象条件によるものは仕方がないとしても、次のような場合は如何でしょう?

a.高窓を開けない 高窓(の鍵)に手が届かないため、開け閉めが面倒くさいため、あるいは、高窓に絵や習字などを貼ってあるなどの理由で、開閉しない。写真4-4のように、庇がないため、カーテンを閉めている場合も通風が阻害されます。風によってカーテンがひらひらするので、窓を開けないということもあるようです。 高窓を開けると、教室上部の高い温度の空気が排出されるため、通風・排熱に効果がありますので、建築的にも、運用としても、簡単に高窓を開閉できるようにする必要があります。

25

27

8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00

29

31

33

35 [℃]

温度

時刻

職員室

1F

3F

2F

屋外

戸締まり

室温:あまり下がらない

外気温:低下

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Chapter 4 学校建築の環境性能向上手法

表4-2 エコスクールパイロットモデル認定事業の類型と認定数

b.児童生徒の下校後、窓を閉める:防犯上閉めざるを得ない 児童生徒の下校後、戸締まりをするのは防犯上当然のことです。しかし、図4-6のように、日中の高い室温が外気温の低下とともに下がってきた夕方に窓をしめてしまうと、閉めてすぐに室温は1〜2℃高くなり、その後翌朝まであまり下がりません。これは、コンクリートに熱が蓄えられているためです。防犯を図れて、かつ、夜間でも通風のできる建築的な工夫が切望されます。通風できれば、夜の間にコンクリートが冷やされるので、翌日の昼間の室温上昇を緩和することができます。

③冬季の熱環境 冬季の温熱環境に影響することでは、よく見られるのが、扉、特に昇降口の扉の開け放しではないでしょうか。 昇降口は廊下を介して階段とつながっているために、上階から暖かい空気が外に出て行くと、冷たい外気が1階の昇降口などから浸入してきます*2。その冷気が廊下にも流れていきます。ですから、「開けたら閉める」を徹底することが必要です。電灯と同じように、児童生徒の生活習慣として身につけさせることにもなります。 なお、扉が閉まっていても、外気が扉周辺の隙間からも入ってきます。これは、写真4-5、写真4-6のように、扉の断熱性能だけでなく、気密性能も悪いためです。従って、ガラス面が多く熱損失が大きい昇降口では、断熱・気密性の良い扉を採用するという建築的な配慮も必要です。注�*2)これを煙突効果といいます。

4 エコスクール認定校の問題点 平成9年から、文部科学省により、表4-2のような工夫をすると、建設時に補助金が支給されるエコスクール・パイロットモデル事業が行われ、平成18年度までに計609校が認定されています 5)。ところが、このエコスクール認定を受けた学校は、太陽光発電やビオトープ(自然共生)などの手法を取り入れただけのものが多く、また、省エネルギー・省資源型でも省エネ設備、雨水利用などの手法を含んでいますので、校舎自体の建物性能は旧来のままで、教室の環境は改善されていないものが多いと思われます(筆者らは、どの程度環境負荷削減に寄与しているかについて明らかにすべく、平成18年度にアンケート調査を行い、現在、解析を行っています)。 また、エコスクール認定校として新築・改修された学校では、プールや特別教室の一般開放が行われる場合が多く、従来の学校とは使用方法が変わるので、エネルギー消費量が大幅に増える場合もあります 6)。

5 建築・環境教育上の問題点 環境教育の重要性が謳われ、環境省 7)などによる実践的な試みも始まっていますが、もっとも重要なことは、子供たちに環境を意識させること、モラルを持たせること、そして、良い生活習慣を持たせることだと思います。 ところが、現在の学校建築はそのような教育ができるようには造られていません。また、諸外国では小学校から建物や生活に関する教育が行われていますが、日本では、まったくと言っていいくらい行われていないのです。つまり、施設も教育プログラムもない状況です。

写真4-5 昇降口平成9~ 13年度(157校) 平成14~ 18年度(452校)

太陽光発電型 114 太陽光発電型 275

太陽熱利用型 20 太陽熱利用型 31

新エネルギー活用型 9 新エネルギー活用型 38

緑化推進型 26 省エネルギー・省資源型 188

中水利用型 68 自然共生型 76

その他省エネルギー・省資源型 24 木材利用型 192

資源リサイクル型 34

その他 44

計 261 計 878写真4-6 すきま

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外気温

室温

快適範囲

夏/暑熱気候

建築的手法

機械的手法

図4-7 パッシブデザインの考え方

1 学校として改修する場合①考え方と方法a.「どうしたら改善できるか」を知る

 日本では、高校まで建築に関する教育がされないので、大学の建築系学科を卒業した人以外の多くの人、いや、建築系の大学を卒業した人も含めて、どうしたら建築の環境性能、あるいは室内環境を向上できるかについて、大多数の人がよく知らないというのが実情です。学校の環境性能を向上させるためには、まず、先生や教育委員会などの学校関係者の方々が、どうしたらこれらを向上させ得るかを知る必要があります。 というのは、4-1の3で述べましたように、建築の性能を発揮させるには、使用者がその建物を理解して、その建物に合った使い方をする必要があるからです。また、校舎を計画・発注する人がどのような手法があり、その効果がどの程度であるかを知らなければ、良い校舎はできません。

b.校舎の基本性能を高める 前節4-1の4で述べましたように、太陽光発電装置やビオトープなどを設置しても、校舎の性能そのものを向上させなければ、教室の環境は改善されません。校舎の性能を向上させるには、屋根や壁への断熱材の設置、窓を高性能なものに変える、日除けの設置など、建物そのもの(=建物の基本性能)を良くすることが必要です。 冷房を設置する場合も、この建物性能を向上させなければ、いたずらにエネルギー消費(光熱費)を増やすだけです。そんな学校が増えれば地球環境負荷を大幅に増やすことになってしまいます。 建物性能を高くし、建物そのものの工夫で室内環境を向上させる方法を建築的手法と言います。一方、暖房機などの機械で室内環境を調整する手法は、機械的手法と言います。機械的手法はエネルギーを消費しますので、地球環境時代の現在、建築的手法によりできる限り快適な環境を得る必要があります。このような考え方を取る、建築・環境の設計手法をパッシブデザイン(4-2-1 ②参照)と言いますが、皆さんにも、この考え方や手法の概要を理解していただく必要があります。

c.建築・環境教育にも使うことを考慮して計画する これからの学校建築は、建築・環境教育に利用でき、地球環境に対する意識・生活習慣を育めることが求められます。校舎の環境性能向上は、建築・環境教育に格好の教材となります。その効果をより高めるためには、生徒に日々意識させるような工夫も同時に考えるべきです。例えば、各教室の電力消費量を黒板脇などにリアルタイムで表示します。すると、日光で明るいから蛍光灯を一列消せば、それだけ消費量が減ることが目で解ります。さらに、1 ヶ月でどれだけ減ったかなどをクラス間で競争するのはどうでしょう? 楽しく、自然と、生活習慣として身についていくと思います。もちろん、表示する項目は気象データなど様々なものが考えられます。

d.予算を再考する! 上述のように建物の基本性能を向上させ、環境性能を向上さ

せるには、予算(イニシャル・コスト(建設費)、ランニング・コスト(光熱費などの運用費)の両方とも)を抜本的に考え直す必要があります。 なぜなら、これまでの学校建築には、関東以西の平野部にある学校を例に取れば、窓は一重で、断熱材も庇もなく、また、換気扇などの設備すらないものが一般的でした。ですから、予算をたてるとき、このような校舎の単価と同じ単価にしてしまっては、よい学校を建てられないことは明白です。さらに、これからの学校は、災害時の拠点として、また、地域交流の拠点としての機能も求められていますから、計画時には庁舎並みの建設単価を見込んでもおかしくないと思いますし、必要と思います。 また、ランニング・コストも見込んでおく必要があります。一般開放するのであれば、前述のように使用時間が長くなりますから、電気代などが増えるのは当然です。緑化をすれば、草木の管理や落ち葉の清掃などの費用が発生します。さらに極端な例をあげれば、熱交換型の換気扇を設置したが、清掃とフィルター交換の予算が付かなかったため、2年くらいで壊れたという話も聞きました。 附言すれば、このように予算が増えてしまうからという理由で、性能向上に向けた取り組みを止めてしまうというのは本末転倒です。確かに予算は増えます(もともとの予算が低すぎたのですから !)。しかし、その代わりに我々は、よりよい環境の学校と地域の拠点とを得ることができます。

e.やれるところからやる 学校の改修は、自治体の予算の関係もあり、全部の学校ですぐにできるわけではありません。そこで、その順番を待つ間に、少しでも現状を改善するために、・運用に起因するものは、それを改善する。[→4-1の3�参照]・比較的簡単に(低予算で)改善できるものは、やってみる。[→ 4-2の1③a�参照]ことが必要と思います。

②どうしたら環境性能の良い校舎にできるかa.パッシブデザインを行う

 それは、パッシブデザインを行うことです。パッシブデザインとは、その地域の気候風土に合わせて建築のデザインを行い、できるだけエネルギーを使わずに、快適な室内環境を得る設計手法のことです。パッシブデザインでは、図4-7のように、外部条件の大きな変動に対して、さまざまな建物自体の工夫(建築的手法)を適切に組合せて、熱や光や空気の流れをコントロー

■4-2 環境性能向上の考え方とその方法

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Chapter 4 学校建築の環境性能向上手法

表4-3 地域ごとに必要な断熱材の厚さ 8)

図4-9 断熱材の熱伝導率 8)

ルし、できるだけ快適な室内環境とします。そして、不足分のみを機械装置(機械的手法)により賄います。 パッシブデザインは,次のような手順を踏みます(図4-8)。① まず、建物のコンセプト(あり方・目的)や性能の目標値を定

めます。② 次に、対象地域の気候特性や風土を十分に把握します(防御

すべきものと利用可能なものを抽出します)。③ 断熱・気密性能,日射遮蔽性能など、建築の基本的な性能を

高めます。④ 気候の特徴を活かした、冬季、夏季における自然エネルギー

利用の工夫を行います。⑤ 設計が終わったら、意図した性能が発揮されるかをチェック

します。足りない場合は③,④にもどり、さらに工夫します。⑥ 最後に、使い方 (住まい方 )マニュアル等を作成し、建物の性

能が発揮されるように、使い方を示します。 パッシブデザインの詳細は参考文献8)を参照していただきたいと思いますが、最も重要な③については、次のb.で概要を説明します。

b.これからの校舎に求められる環境性能 現在の、あるいは、これからの学校建築には、環境的な観点からは、次の2つが求められています。 A.�建築として:少ないエネルギー消費で教育に適した環境を得られること

 B.�教育の場として:建築・環境教育に利用でき、地球環境に対する意識・生活習慣を育めること

 Bについては既に述べましたので、ここでは、Aの建築としての性能について述べます。Aは、前述のパッシブデザインを

図4-8 パッシブデザインの    フロー

上手に行うことで達成されます。中でも、フロー③の建物の基本性能である断熱性と日射の遮蔽性を高めることが重要です。 ⑴断熱性能 断熱を充分に行うと、暖房しているときの建物内から外部への熱損失が少なくなり、暖房エネルギー消費量を大幅に削減できるだけでなく、断熱により室内の表面温度が室温に近くなることから寒さを感じにくくなり、温熱快適性が向上します。さらに、その結果として、断熱が不十分な部屋よりも室温を下げることが可能となり、より省エネになります。 断熱性については、住宅では1999年に省エネルギー基準(通称 :次世代省エネ基準)9)が定められています。学校建築の性能を向上させるのに充分な基準はまだありませんが、1日の大半を過ごす学校では、少なくても住宅と同じ性能が求められると思います。表4-3に、地域ごとに必要な断熱材の厚さと窓およびサッシ(窓枠)の次世代省エネ基準を示します。 この表で注意しなければいけないことは、まず、「基準」は「最低目標」であり、これ以上の性能を持たせることに何ら問題はないということです。なお、この表は木造住宅のもので、RC造の場合は、この表より少し小さくなっていますが、上述のように多い分には問題ないので、これらを学校建築の目安として用いて良いと思います。 次に、図4-9のように、断熱材の種類によって性能が2.5倍も違うことを知ってください。つまり、断熱材の厚さに違いがでます。表中の「GW」はグラスウールの略ですが、このGW(10K)に比べ性能の良い(熱伝導率の小さい)フェノールフォームでは、半分以下の厚さになっています。 なお、断熱すると熱損失が少なくなりますが、これは夏季も

地域区分(代表的都市) Ⅰ地域(札幌) Ⅱ地域(盛岡) Ⅲ~Ⅴ地域(仙台~鹿児

島) Ⅵ地域(那覇)

断熱材の種類 GW(10K)

ウレタンフォーム

フェノールフォーム

GW(10K)

ウレタンフォーム

フェノールフォーム

GW(10K)

ウレタンフォーム

フェノールフォーム

GW(10K)

ウレタンフォーム

フェノールフォーム

木造住宅(充填断熱)の外気に接する部分

屋根 33 24 13 23 17 9 23 17 9 23 17 9

天井 29 21 11 20 14 8 20 14 8 20 14 8

外壁 17 12 7 11 8 4 11 8 4 11 8 4

床 26 19 10 26 19 10 17 12 7 — — —

窓とサッシ 単板ガラス三重建具、低放射複層ガラス+断熱サッシ等

二重または複層ガラス建具(Ⅲ地域はⅠ,Ⅱ地域と同等が望ましい)

ガラス単板入り建具

0.00

フェノールフォーム

発泡ウレタン 1種 1号

発泡ポリスチレン 1種

高性能GW(16K)

GW(16K)

GW(10K)

0.02 0.04 0.06熱伝導率(W/mK)

0

5.8

3

2.5

2.3

1.8

0.53外壁(Ⅳ地域)

三重ガラス

真空ガラス

低放射複層

複層(3-6-3)

単層(3mm)

5熱貫流率(W/m2・K)

0.00

フェノールフォーム

発泡ウレタン 1種 1号

発泡ポリスチレン 1種

高性能GW(16K)

GW(16K)

GW(10K)

0.02 0.04 0.06熱伝導率(W/mK)

0

5.8

3

2.5

2.3

1.8

0.53外壁(Ⅳ地域)

三重ガラス

真空ガラス

低放射複層

複層(3-6-3)

単層(3mm)

5熱貫流率(W/m2・K)

①目標を定める

②気候・風土を知る

③ 断熱、日射遮蔽などの 建物の基本性能を高める

④ 自然エネルギー利用の 工夫をする

⑤ 建物の性能をチェック する

⑥ 使い方(住まい方) マニュアルを作る

図4-10 窓の熱貫流率 8)

*屋根と天井はどちらか一方でよい。

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図4-11 太陽の動き 10)

同様です。夏季には、夜間など外気温が低いときに通風を図るなど、室内で発生する熱を外に逃がす工夫をする必要があります。 また、表4-3には、窓とサッシの仕様も書かれていますが、実は、この基準は諸外国に比べて低いものとなっています。また、窓は、図4-10のように、壁などに比べて熱の損失量(熱貫流率)が大きい部位です。ガラスが1枚の場合は、壁の5倍以上も熱が失われます。学校建築では、窓面積が非常に大きいので、特に注意が必要なことがお解りいただけると思います。東京以西の平野部(表4-3のⅣ地域)であっても、最低でも「複層ガラス+断熱サッシ」、できれば、「低放射複層ガラス+木製サッシ」以上の性能としたいところです。このような窓にして断熱性能が向上すると、冬季の表面温度が上昇して、窓付近の児童・生徒が放射で冷やされる現象や、窓面で冷やされた空気が床近くに流れるコールド・ドラフト現象が少なくなり、寒さがかなり緩和されます。もちろん暖房エネルギーも少なくなります。さらに断熱すると暖房がほとんどいらないようにすることも可能です。 ⑵日射遮蔽性能 次に、日射の遮蔽性能については、夏季は教室内に入射する直達日射(直射光)を終日ゼロとし、冬季は、室内に日射は入ってもいいのですが、光・熱環境の問題から生徒の顔や机上面、黒板には当たらないようにする必要があります。つまり、夏も冬も1年を通じて生徒の顔や机上面には直射光が当たらないようにすべきということになります(ただし、理科で植物を育成するためなどに直射光が必要な場合がありますので、そのような場所を考慮する必要もあります)。

 このためには、窓には、庇などの日除けを取り付ける必要があります。この日除けの形状は、図4-11のような1年を通しての太陽の動きを考慮して決める必要があり、南向きの教室には水平の庇、東・西向きの教室には垂直な日除けを、窓の外側に設けることが基本です(写真4-7、写真4-8)。しかし、建築の意匠、あるいは室内から見たときの感じ、教室は明るいものだという過剰なまでの意識(直射光が入ってこないと暗いと思ってしまう)など、様々な問題を含んでいます。直射の問題の解決策として、南側に廊下を北側に教室を取る方法がありますが、この「教室は明るいものだという先入観」により、先生方から大反対される場合があります。しかしながら、1年を経過するとそれは肯定的な意見へと変わります。 また、「日除けは窓の外側に付ける」と効果的です。なぜなら、ガラスが太陽日射は透過するが長波長放射は透過しないという性質を持っているからです。例えば、室内側のカーテンやブラインドが日射熱を吸収して温度が高くなると長波長放射で熱を発散しますが、ガラスはそれを透過しないのです。従って、室内側の日除けは窓に入射する日射熱のおおよそ70〜90%くらいを室内側に透過してしまいますが、逆に外側の日除けは85%くらい遮蔽します。

③学校建築に採用可能な(具体的な)環境性能向上手法 ここでは、パッシブデザイン手法のうち、比較的簡単にできるもの、また、効果の高いものを紹介します。

設計図には、「断熱材○○mm」ではなく、例えば「発泡ポリスチレン第1種□□mm」などと断熱材の種類と厚さをきちんと書いてもらってください。そうしないと、性能の悪い断熱材に変更されてしまうかも知れません。

コラム

6

N

E

S

W

8

10 12

1478° 55°32°

16

18

30°

30°

夏至

春秋分

冬至

O

写真4-7 水平庇の例(Minai High-School、オーストラリア)

写真4-8 垂直ルーバーの例    (Sunshine Coast University、オーストラリア)

設計図には断熱材の種類と厚さを明記する

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Chapter 4 学校建築の環境性能向上手法

a.比較的簡単に出来る方法 ⑴�教師・教育委員会担当者への建築環境研修(運用による改善の促進)

 どのようにすれば教室の環境を改善できるのか、どのような校舎が良いのかを現場の先生や教育委員会の担当者に知ってもらえれば、①d.に述べたように、改修を待つ間、運用によって、少しでも教室環境を改善できます。そのためには、専門家を講師に招き、研修を行うのが良いと思います。 ⑵運用による改善 4-1の3に述べたように、照明の調節、夏季の通風、冬季の扉の開け放し防止などを行います。昇降口などの扉に、すきまテープ(材)を貼るなどの対応をするのも良いと思います。 ⑶日除けの設置(よしず、簾

すだれ、植栽(窓、屋上)など)

 夏の日射に対しては、窓の外への日除けの設置が重要と述べました。外付けの日除けは工事を待たなければなりませんが、よく住宅の窓などに吊されている簾やよしずなどは、それほど費用もかかりませんし、その割に効果的なので、設置してみては如何でしょうか。よしずは、ベランダのある教室などでは、たてかけるだけで済みます。写真4-9、写真4-10は、簾を吊した例です。簡単な器具で巻き上げることができるようになっています。ただし、簾をつるす手間、下ろしたり上げたりする手間などがかかります。よしずも簾も、強風の時に飛ばされないようにしなければなりません。こう書きますと、「面倒だから、責任が伴うから、止めよう」と思われた方もおられるでしょう。しかし、夏休み前の時期の、その少しの手間で、暑さが改善されますし、その結果として、子供たちの授業に対する集中力も改善されるはずです。 屋上植栽は、写真4-11のように、鉢やトレーに入れた土と植物を屋上に並べることででもできます(たくさん載せる場合は建物への荷重の問題が生じる場合がありますので、専門家にご相談下さい)。木製の「すのこ」も屋根の日除けになります。壁面植栽は、キュウリやヘチマなどの蔓植物を、ベランダに置いたトレーや地上の花壇からネットなどを用いてのばします。屋上植栽は最上階の教室の暑さ改善に大きな効果がありますし、壁面植栽は簾などと同様、窓から入射する日射熱を軽減するとともに外壁への日除けにもなり、外壁が暖まるのを防ぎ、室内の温度上昇を緩和します。また、屋上植栽も壁面植栽もヒート

アイランド防止にも役立ちます。しかし、植栽の設置は、毎日、水をやる手間を増します。また、中には、虫が来たり、秋に枯れるのがいやだという子供もいるそうです。しかし、そうしたことや収穫の喜びや哀しみなどの「自然」を教育し、体験させることこそが、今、最も求められているのではないでしょうか。

b.建築工事を伴うもの(基本的な性能アップ手法) ⑴�断熱強化(外断熱+窓性能向上):熱環境 窓を含む断熱の重要性は、既に述べたとおりです。 屋根・外壁・床の断熱については、コンクリート造の場合、コンクリートの内側に断熱材を設置する内断熱と、外側に設置する外断熱、あるいは、両側に設置する両面断熱があります。 改修の場合は、図4-12のような、外断熱が推奨されます。その理由は、内断熱をすると断熱材と仕上げ材の厚さの分だけ室内が小さくなり、また、工事の期間、建物が使えなくなりますが、外断熱ではそのようなデメリットがないだけではなく、断熱材によってコンクリートがくるまれることで、コンクリートが室温に近い温度に保たれるからです。これは、コンクリートの熱を蓄える力(熱容量)が大きいためで、断熱がしっかりしていれば、翌朝までの室温の低下を1〜2℃にすることも可能です。 具体的な工法はいろいろありますので、どの工法を選択するかは設計者に相談することになります。費用の面では、屋根・外壁の防水塗装などの改修工事と一緒に施工すると節約になります。また、屋根・外壁と伴に1階床の断熱も同時に行うことが重要です。

図4-12 既存校舎の外断熱改修のイメージ 1)

写真4-11 屋上にビオトープを設置した例     (浜田山小学校、杉並区)

写真4-9 簾(すだれ)を設置した例(外観)    (杉並区第七小学校)

写真4-10 簾(すだれ)を設置した例(内観)     (杉並区第七小学校)

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 窓の断熱性能向上には、窓自体の取り替えと断熱戸設置の2

つの方法があります。窓自体を低放射複層ガラスなどに取り替えることが推奨されます。値段が高いことが欠点ですが、その効果は今まで述べてきたとおりですから、予算をけちることなく良い窓にしていただきたいと思います。 断熱戸は、高性能断熱材を中心とした断熱戸を窓に設置するもので、断熱材が厚ければその効果は窓自体の取り替えよりも大きくなります。下校時に閉め、登校時に開けるという作業を行い、翌朝の暖かい室温を体感することで、大きな教育効果も得られます。難点は、日中、断熱戸をしまう場所が必要になることで、この問題を解決する必要があります。 なお、教室とともに廊下の窓も同時に改修する必要があることに留意してください。廊下の窓も大きく、また、教室と違って発熱がないため温度が低くなりがちです。この低い温度の空気が教室内に流入し、室内に温度分布をつくり、寒さの原因となるからです。 ⑵日除け・ライトシェルフの設置:光・熱環境 教室に直射光が入らないようにするために、窓の外に日除けを設けますが、前述のように、南に面する窓には水平の庇、東西に面する窓には垂直のルーバー状(できれば可動)の日除けが基本です。しかし、教室の窓は高さが高いので、南向きの教室でも窓の上端に庇をつけて窓全部を陰にしようとするとかなりの長さが必要になります。そこで、図4-13のように上窓の下側の枠のところに中

なか

庇びさし

をつけると庇の出が小さくなり、効果的です。 この中庇の上面を反射性の仕上げとして、直射光を室内の天井に反射して、自然光を照明に用いる方法があります。これをライトシェルフといいます。ライトシェルフをつけると直射光

(熱)が室内に入りますが、直射光により明るくなる分照明を消すことができ、照明器具からの発熱を減らせます。また、その分電力消費も少なくなります。

 ⑶昇降口、廊下の冷気防止(扉・カーテンの設置):熱環境 4-1の3③で、昇降口の温度が低いことや煙突効果について述べましたが、これらの解決策としては、出入り口扉に断熱性・気密性を持たせることが重要です。また、昇降口を北国に見られる風除け室のようする、すなわち、廊下との境に扉もしくはカーテンを設けることがあげられます。また、階段室と廊下との間に、扉(カーテン)を設けることで煙突効果を防ぐことができます。写真4-1211)はオープンスペースと階段室を仕切る引き戸、写真4-1311)は昇降口の引き戸の例です。児童の衝突事故を防ぐために半透明の材料を使用しています。が、もう少し断熱性が高い方が望ましいです。なお、これらの扉は、緊急時の避難などの関係で、建築関係法規により規制を受ける可能性がありますので、注意が必要です。 ⑷換気(給気)装置の設置:空気・熱環境 シックハウス対策のため、教室にも24時間換気(換気回数*30.3

回/h)が義務づけられました。しかし、二酸化炭素濃度から見た教室の換気量は、児童生徒が40名いる場合、1人1時間当たり20〜30m3 必要ですから、800〜1200m3/h(換気回数ですと教室の大きさを8m×10m×3m、室容積240m3 とすると3.3〜5.0

回/h)にもなります。規定では、幼稚園・小学校2.2回/h、中学校3.2回/h、高校4.4回/hとなっています 12)。 冬季にこの風量を換気扇(多くの場合部屋の上部についている)で「排気」しますと、部屋上部の暖かい空気を排出し、廊下や窓などから冷たい空気が教室内に入ることになります。結果として、上下温度差を助長し、寒さの原因になります。これを防ぐためには、筆者は、図4-14のように、教室上部に新鮮外気を「給気」するようにすると、暖房で暖まった空気と冷たい外気が混ざり、上下温度差が小さくなり、また、部屋に空気が供給されるため、室内の圧力が高くなり、廊下などからの冷気の浸入が少なくなると考えています。注�*3)換気回数 : 対象の部屋の空気が 1時間にどれだけ入れ替わるかを表す指標。0.3 回 /h はその部屋の容積の 30%の量の空気が入れ替わる、1回 /h はその部屋の容積と同じ体積の空気が入れ替わることを示す。

既存部改修イメージ

北緯 35°の夏至の太陽高度は 78.5°

直達日射除けパネル(脱着可)

増築部イメージ

冬至の太陽高度は 31.5°

中庇がライトシェルフとしても機能する

フックでパネルなどが吊れるようにしておく

外断熱

中庇:既存サッシの無目に取付

写真4-12 階段室との仕切り扉  (河東学園,会津若松市)11)

写真4-13 昇降口の仕切り扉の例     (河東学園,会津若松市)11)図4-13 ライトシェルフのイメージ 1)

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Chapter 4 学校建築の環境性能向上手法

 ⑸�教室照明器具の点灯スイッチ改善・照度センサー・高効率器具の採用:省エネ・熱環境

 照明は1灯でも消灯すればその分、確実に省エネルギーになるとともに、熱の発生もなくなり、照明の適正使用による削減効果は大変大きいことを4-1の3の①で述べました。 さて、片側に窓がある一般の教室では、前述のように、日中、窓側は照度が高く、廊下側の照度が低くなっていますので、日中は、窓側の器具は消灯し、中央は状況に応じて消灯、廊下側は点灯する必要があります。このような要求に応えられるよう、照明器具のスイッチを再構成します。普通教室では、窓側・中央・廊下側+黒板灯という4系統の構成になります。ただし、最近は液晶プロジェクターなどを使う場合が増えていますので、教室の前後方向で点灯、消灯が分けて行えることも必要になっています。つまり、(窓側・中央・廊下側)×(前後)+黒板灯で7系統になります。既に、視聴覚教室などはこうなっている学校もあると思いますが、普通教室もこうした方がよいと思います。 このような照明器具のON/OFFを自動で行う方法もあります。照度センサーを天井に設置し、明るさに応じて、窓側から順に消灯していくシステムです。天候にかかわらず、いつも定められた明るさ以上の照度が得られます。 高効率器具は、その名の通り、同じ照度をより少ない電力で供給できるもので、1灯につき数パーセントの電力消費および発熱を削減できます。学校中の照明器具を全部交換すれば、学校全体の照明用電力消費を数パーセント削減できます。

 ⑹�廊下・トイレなどへの人感センサー設置および光色変更:省エネ・光環境

 人感センサーは、人がいるかいないかを判断してスイッチをON/OFFするものです。廊下やトイレなどに設置すると消し忘れをなくすことができます。しかし、これがあると、「人がいないときは消灯する」という生活上の習慣をつけることができなくなります。ですから、学校ではこの装置はつけない方がいいかもしれません。ただし、夜間、この装置があると、人がいると点灯しますので、防犯上の効果があります。 一方、学校の廊下は冷たい感じがするという意見が多いですが、蛍光灯を電球色に替えると暖かみのある光色により、印象が変わると思います。また、電球色の光色では、通常の蛍光灯の光色に比べて、低い照度でも快適な感じを受けるので、灯数を減らすことができる可能性もあります。なお、教室は、生徒の活性度を上げるため、昼間の自然光に近い光色(透明・白色)の蛍光灯(今使われているもの)とすべきです。

c.自然エネルギー利用などの手法(より建築的な手法) 上記以外の建築的な手法、および、太陽熱、太陽光、風、地中熱、蒸発冷却などの自然エネルギー利用手法については、紙面の都合もありますので、参考文献8)を見ていただくか、専門家にご相談下さい。

照明ゾーニングイメージ

オープンスペース(学年学習スペース)は使い方によって用件等

スイッチ系統を分けて、窓側が明るいときは消すようにすると省エネにつながる

廊下とトイレはランプ色で、照度が低くても温かみのある雰囲気にする

クラスルームは現状どおり

ランプ色を変更して照度を低くても気にならないようにする

壁を白くしてランプ色を反映させる

天井の更新に合わせて、高効率の照明器具に変更すると省エネにつながる

断熱なし

給気式の換気扇→給排気口を利用する

だるまストーブの排気口→桜台小学校は柱をふかして埋め込んである

欄間開口は気密をしっかりとって、暖かい空気が逃げないようにする

外断熱

あつい 快適 さむい

快適 快適 快適

隙間のおおい間仕切壁

寒い廊下

断熱なし

外断熱

給気口→天井近くに設ける

地窓は操作性を考慮。隙間から、暖かい空気が廊下の床近くに排出される

既存イメージ図

冷たい空気

暑い空気

できれば床暖房

図4-14 給気により、室温上下差が解消されるイメージ 1)

図4-15 照明器具の配置とスイッチ、廊下の光色 1)

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2 学校以外の用途に転用する場合 学校建築を別の用途に転用する場合の環境性能向上も、これまで述べてきたこととほぼ同様です。パッシブデザインの手順に従い、まず、その用途でのコンセプトおよび性能の目標値を定める必要があります。しかし、その後の、気候条件の把握、建物基本性能向上以下の手順は同じです。特に、断熱・日射遮蔽性能が極めて低い建物ですから、別の用途にする場合も、この点については充分に配慮する必要があります。 建築的には、軸線が長い、同じ条件の部屋が続く、RC造で天井高が3mある、窓が大きいといった、特徴がありますから、これらを活かすような計画が望まれます。

3 まとめ —環境性能向上と建築・環境教育—これまで述べてきましたことをまとめますと、学校建築の環境性能向上のためには、 ①�学校関係者が環境性能を向上させるための方法を知り、それを実践すること(運用面と建築計画の両面で)

 ②�学校建築の予算を抜本的に考え直すこと(これまでの予算は低すぎたこと、したがって環境性能を向上させるにはそれなりの予算が必要であることを認識すること)

 ③�これまでの校舎の基本性能は非常に低いことを認識し、特に断熱性能と日射遮蔽性能を高めること

 ④�学校での生活により児童生徒の環境共生意識・生活習慣が自然と高まることを意識して計画すること

が特に大切なこととなります。 建築そのものの環境性能向上がこの章の目的ですが、こうしてみると、学校関係者(教育委員会、施設担当者など)、教師、そして児童生徒が建築を通して環境共生意識を高めることが重要なテーマとなっていることに気がつきます。繰り返しになりますが、日本では「建築教育」が建築学科以外ではほとんど行われていません。学校で環境教育を行うには、生活を通して学び、身につけることが必要で、それには学校という建築がそのようになっていること、また、児童生徒がそのしくみを充分に知ることが必要です。 「建築と環境」を早急に小中学校の正規の授業とする必要があることを最後に強調して、この章を終わりたいと思います。〈謝辞〉本稿の一部は、平成 18 〜 19 年度文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)「学校建築の設計基準改定に向けたエコスクール認定校の実態把握・性能評価」(研究代表者 須永修通)の成果による。

〈出典・参考文献〉1藤江創、須永修通作成2伊藤直明、須永修通、他、「学校建築の開口部における熱・光・風環境調整に関する総合的研究」(科研費報告書)、p.80, p.64, 1990 年 3 月3深澤たまき、倉斗綾子、須永修通、「環境を考慮した学校施設(エコスクール ) の整備推進に関するパイロット・モデル研究委嘱実施報告書」〈3.2.2 教室の光・温熱環境〉、p.46、横浜市教育委員会、2007 年 3 月4伊藤紗加、須永修通、「学校および自宅における児童・生徒の温熱環境実態調査」、『日本建築学会大会学術講演梗概集』D-2 分冊、オーガナイズドセッション、2007 年 8 月5文部科学省 ホームページ http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/06070311.htm6池澤知子、須永修通、「エコスクールモデル校のエネルギー消費量に関する調査研究 —東京都内のモデル校と一般校の比較—」、

『日本建築学会大会学術講演梗概集』D-2 分冊、pp.577-578, 2006 年 9 月7環境省 ホームページ http://www.env.go.jp/policy/edu/8須永修通、『建築設計資料集成(環境編)』「パッシブデザイン」、丸善、pp.76-81, 2007 年 1 月9建築環境・省エネルギー機構 ホームページ http://www.ibec.or.jp/pdf/index.htm および「住宅の省エネルギー基準の解説」10)木村建一・木内俊明、『建築士技術全書 2 環境工学』、彰国社p.32, 1993 年版を参考に作成11)㈱ SD 設計研究所撮影12)「学校環境衛生の基準」 —抜粋—、〈第 1 章 定期環境衛生検査、

[教室等の空気]、5. 判定基準、(3) 換気〉、出典:http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/04062201/026.htm