田口雄一郎 - 東京工業大学taguchi/nihongo/15calculus-text.pdf2 1.2. 連続函数....

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Version 2015.7.30 目次 1. 一変 2. (偏 3. 一変 4. 記号:して ふ: N : 0 める) Z : Q : R : C : [a, b]= {x R| a x b} (a, b)= {x R| a x b} [a, b)= {x R| a x b} (a, b]= {x R| a x b} 1. 一変 1.1. 実数の連続性. Q い。 x 2 =2 たす x い、 いふ に、「 だらけ」 ある。 2 ̸Q しく A = {x Q| x 2 < 2}, B = {x Q| x 2 > 2}, おく き、Q を「 A B にきつちり けられる、 Q = A B, A B = ける、が、そ x = 2 A B ちらに い、 いふ ある。 R について こら い、 いふ を以て「R ある」 つてゐる。 ち、R を「 A B けて R = A B, A B = き、そ る一つ x する、 ち、A = (−∞,x] かつ B =(x, +) るか A =(−∞,x) かつ B =[x, +) るか、 ちらか ある。 Q から R して、 R るが、ここ りせず、 して める にする。 1

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Page 1: 田口雄一郎 - 東京工業大学taguchi/nihongo/15calculus-text.pdf2 1.2. 連続函数. 一般に、函数1 f (function) とは、或る“領域” X の各 元x ∈ X に対し(実数や複素数等の)値f(x)

Version 2015.7.30

微分積分学

田口 雄一郎

目次1. 一変数の微分法2. 二変数の微分法(偏微分)3. 一変数の積分法と微分方程式4. 二変数の積分法(重積分)

記号:この講義では一貫して次の記号を使ふ:N : 自然数全体の集合(0 も含める)Z : 整数全体の集合Q : 有理数全体の集合R : 実数全体の集合C : 複素数全体の集合区間の記号:

[a, b] = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b}(a, b) = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b}[a, b) = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b}(a, b] = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b}

1. 一変数の微分法

1.1. 実数の連続性. 有理数全体の集合 Q は「連続」でない。例へばx2 = 2 を満たす有理数 x は存在しない、といふ様に、「穴だらけ」である。

√2 ∈ Q をもう少し詳しく言ふと、A = {x ∈ Q| x2 < 2},

B = {x ∈ Q| x2 > 2}, とおくとき、Q を「上半分」 A と「下半分」 Bにきつちり分けられる、即ち

Q = A ∪B, A ∩B = ∅

と書ける、が、その「境界」の x =√2 は A と B のどちらにも属さ

ない、といふ事である。実数全体の集合 R についてはこの様な事が起こらない、といふ事を以て「R は連続である」と言つてゐる。即ち、Rを「上半分」 A と「下半分」 B に分けて

R = A ∪B, A ∩B = ∅

書くとき、その「境界」となる一つの実数 x が存在する、即ち、A =(−∞, x] かつ B = (x,+∞) となるかA = (−∞, x) かつ B = [x,+∞)となるか、どちらかである。実数論を本格的にやれば、Q から R を構成して、上の様な R の性

質も証明出来るが、ここでは深入りせず、事実として認める事にする。1

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1.2. 連続函数. 一般に、函数1 f (function) とは、或る “領域” X の各元x ∈ X に対し(実数や複素数等の)値 f(x)を対応させる規則の事である。(より一般に、X と Y が集合であるとき、X から Y への写像(map, mapping) f : X → Y とは、X の各元 x に対して Y の元 f(x)

を対応させる規則の事である。)f が X 上の実数値または複素数値の函数である事を記号で

f : X → R または f : X → Cと記す。この講義では主に実数値の場合を扱ふ。上で、函数に付けられた「名前」は f であるが、「変数」として x

といふ文字を使ふ事を明記するために「函数 f(x)」と書く事も多い。

例. f(x) が実数係数の多項式であるとき、X = R として、f(x) は X上の実数値函数を定める。(X = C とすると f(x) は X 上の複素数値函数を定める— この場合 f(x) は複素数係数の多項式でよい。)

例. f(x) = g(x)/h(x) が実数係数の有理式(即ち g(x), h(x) は実数係数の多項式で、h(x) は零多項式でない)であるとき、

X = {x ∈ R| h(x) = 0}とおくと、f(x) は X 上の実数値函数を定める。

例. f(x) = sinx, cosx, ex, log x 等はX = R 上の実数値函数を定める。

例. x ∈ R に対し [x] により「x を超えない最小の整数」を表す。また、⟨x⟩ = x− [x] とおく。f(x) = [x], g(x) = ⟨x⟩ はそれぞれ X = R 上の実数値函数を定める。

以下では主にX が R の区間である場合を扱ふ。区間 (interval) I とは次の形の R の部分集合である:

[a, b] = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b}, (a, b) = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b},

[a, b) = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b}, (a, b] = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b}.これらのうち [a, b]を閉区間、(a, b)を開区間、[a, b)と (a, b]を半開区間と呼ぶ。a, b が −∞ や +∞ のときは適宜解釈する。

f : I → R が区間 I 上の函数であるとき、xy-平面内の「曲線」

Γ = {(x, y)| y = f(x)}を函数 f(x) の(または y = f(x) の)グラフ (graph) と言ふ。

f が a ∈ I で連続 (continuous) とは、直観的には、y = f(x) のグラフが点 (a, f(a)) の近傍で「途切れてゐない」事である。「途切れてゐる」といふのは、「x が a の近くにあるのに f(x) は f(a) の近くにない」といふ事だから、f が a で連続であるとは、「x が a の近くにあるならば f(x) は f(a) の近くにある」といふ事である。しかし「近

1関数と書く人もゐる。

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くにある」といふ言ひ方は曖昧である。ここでは「f(x) をいくらでもf(a) に近付けられる」といふ事が重要である。これを式で表せば

「どんなに小さい実数 ε > 0 が与へられても(x が a に十分近ければ)|f(x)− f(a)| < ε が成り立つ」

となる。「x が a に十分近ければ」も曖昧なので、ここも式で表せば「(ε に応じて)うまく小さい実数 δ > 0 を取れば、|x− a| < δ を満たす全ての実数 x ∈ I に対して」

といふ事である。纏めて言ひ直すと:

定義. 函数 f が a ∈ I で連続であるとは、どんな ε > 0 に対しても或る δ > 0 をうまく取れば |x − a| < δ を満たす全ての x ∈ I に対し|f(x)− f(a)| < ε が成り立つ事である。

先程は「小さい」云々の修飾が入るてゐたが、それは「気分」を表すために書いただけで、論理的には必要ないので、上の定義では省略してある。この定義に基いて函数の連続性を証明したりする議論を ε-δ論法と呼ぶ。さらに:

定義. 函数 f が I 上で連続であるとは、全ての a ∈ I に対し f は aで連続である事である。

例. 多項式 f(x) の定める I = R 上の函数 f は I 上で連続である。ここでは例として f(x) = x2 が a ∈ I で連続である事を証明してみよう。

ε > 0 が与へられたとする。ここで δ > 0 を「うまく取る」のだが、その取り方は少し計算してからでないと分からないので保留しておき、取り敢へず「|x− a| < δ」といふ仮定の下で次の計算をする:

|f(x)− f(a)| = |x2 − a2| = |x− a||x+ a|= |x− a||x− a+ 2a| ≦ |x− a|2 + 2|a(x− a)|< δ2 + 2|a|δ.

この最後の δ2 + 2|a|δ が ε 以下になればよいから、例へば

δ =

{min(

√ε/2, ε/4|a|) (a = 0 のとき)√

ε/2 (a = 0 のとき)

とおけば2

|x− a| < δ =⇒ |f(x)− f(a)| < ε

が成り立つ。

例. f(x) = [x] とする。y = f(x) のグラフを見れば、f(x) は a が整数でないとき x = a において連続、a が整数であるとき x = a において不連続、である事が見て取れる。この後半を ε-δ論法で証明してみよう。a を整数とする。「どんな ε > 0 に対しても或る δ > 0 をうまく取れば○○が成り立つ」の否定は

2ここで min(A,B) は「A,B のうち小さい方」を表す。

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「或る ε > 0 に対してはどんな δ > 0 を取つても○○が成り立たない」である。ここで○○は「|x− a| < δ を満たす全ての x ∈ I に対し |f(x)− f(a)| < ε が成り立つ」であり、これが成り立たないとは「|x − a| < δ を満たすのに |f(x) − f(a)| < ε が成り立たない(即ち|f(x)− f(a)| ≧ ε が成り立つ)様な x ∈ I が存在する」である。今の場合「或る ε」として 1 を取り、次を示せば十分である:「どんな δ > 0 を取つても、|x− a| < δ を満たすのに |[x]− [a]| ≧ 1 となる様な x ∈ R が存在する。」実際、どんな δ > 0 に対しても a− δ < x < a を満たす x ∈ R が存在するが、今 a は整数だから [x] ≦ a− 1 = [a]− 1, 従つて |[x]− [a]| ≧ 1である。

問. R 上の函数 f(x) を次の様に定義する:

f(x) =

{x (x が有理数のとき)

0 (x が無理数のとき).

(1) y = f(x) のグラフを描け。(2) f(x) が(各 a ∈ R で)連続かどうかを判定せよ。

ε-δ論法を使ふと次の命題が証明出来る:

命題. (1) f(x), g(x) が I 上の函数であり、ともに a ∈ I で連続であるとき、函数の和 f(x)+ g(x), 差 f(x)− g(x), 積 f(x)g(x), 定数倍 cf(x)(c ∈ R) もまた a で連続である。また、g が I で 0 にならないならば商 f(x)/g(x) も a で連続である。(2) f(x), g(x) が(適当な区間で定義された)函数であり、g(x) が a で連続かつ f(x) が g(a) で連続ならば、合成函数 f(g(x)) は a で連続である。

連続函数についての重要な定理として次がある:

中間値の定理. 閉区間 [a, b]で定義された連続函数 f(x)は f(a)と f(b)の間の全ての値を(少なくとも一度は)取る。[より詳しく述べると:f(x)を閉区間 [a, b]で定義された連続函数とし、pを f(a) ≦ p ≦ f(b) (または f(a) ≧ p ≧ f(b))

なる実数とする。このとき、a ≦ c ≦ b なる実数 c であつて f(c) = p を満たすものが存在する。]

ここでは簡単のため f(x) は R 全体で定義された単調増加な連続函数であると仮定して、f(x) が全ての実数値を取る事を証明してみよう。実数 p が与へられたとする。これに対し

A = {x ∈ R| f(x) ≦ p}, B = {x ∈ R| f(x) > p}

とおく。すると

R = A ∪B かつ A ∩B = ∅

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が成り立つ。「実数の連続性」(§1.1) により、或る実数 c に対して

A = (−∞, c] かつ B = (c,+∞)

またはA = (−∞, c) かつ B = [c,+∞)

となる。ここで実は f(c) = p が成り立つ(従つて上の二つのうち最初の方が成り立つ)事を示す。実際、もし f(c) < p と仮定すると、ε =p−f(c) (> 0)とおくとき、どんな δ > 0に対しても c−δ < x < cとなるxが存在するが、この xに対し |f(x)−f(c)| = f(c)−f(x) ≦ f(c)−p = εとなり、これは f(x) が c で連続である事に反する。f(c) > p と仮定しても同様にして矛盾が生じるから、f(c) = p でなければならない。

1.3. 極限と微分. まづ函数の極限を定義する:定義. I を開区間とし、a ∈ I とする。f(x) を I (の a 以外の点)で定義された函数とする。実数 b が、x が a に近づくときの f(x) の極限 (limit) であるとは、「x を a に近づければ f(x) はいくらでも bに近づく」事、即ち(ε-δ式に書けば)どんな ε > 0 に対しても或るδ > 0 をうまく取れば 0 < |x − a| < δ を満たす全ての x ∈ I に対し|f(x)− b| < ε が成り立つ事である。この事を記号で

limx→a

f(x) = b

またはx → a のとき f(x) → b

等と記す。連続性の定義を思ひ出すと、(f(x) が x = a でも定義されてゐると

して)「f(x) が a で連続」とは

limx→a

f(x) = f(a)

と同値である事が分かる。極限については次の公式が成り立つ事が ε-δ論法を用ゐて容易に証

明出来る:

命題.

limx→a

(f(x)±g(x)) = limx→a

f(x)±limx→a

g(x), limx→a

(f(x)g(x)) = limx→a

f(x) limx→a

g(x).

さらに、limx→a g(x) = 0 なら

limx→a

f(x)

g(x)=

limx→a f(x)

limx→a g(x).

f(x) は開区間 I で定義された函数とし、a ∈ I とする。f(x) の a に於ける微分係数 f ′(a) とは、直観的に言へば、y = f(x) のグラフの点(a, f(a)) に於ける接線の傾きである。それは

f(x)− f(a)

x− a

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の x → a としたときの極限であるから、次の様に定義する:

定義. 極限値

limx→a

f(x)− f(a)

x− aが存在するとき、その値を f ′(a) と記し、函数 f(x) の a に於ける微分係数と言ふ。f(x) が a で微分可能とは f ′(a) が存在する事である。函数 f(x) が I で微分可能とは、全ての a ∈ I に於いて f(x) が微分可能である事である。このとき、各 a に対し f ′(a) を対応させる規則は I 上の函数であり、この函数を f ′(x) と記し、f(x) の導函数と呼ぶ。

例. f(x) = xn (n は自然数) のとき f ′(x) = nxn−1.

命題. (1) f, g が開区間 I で微分可能であるとき (f + g)′ = f ′ + g′,(fg)′ = f ′g + fg′, (cf)′ = cf ′ (c ∈ R). また、g(x) = 0 である限り(f/g)′ = (f ′g − fg′)/g2.

(2) f が I 上微分可能、g が J 上微分可能で、g の値が I に属する時、合成函数 f ◦ g も J 上微分可能であり、(f ◦ g)′(x) = f ′(g(x))g′(x).

上の例と命題により、多項式や有理式が微分可能であり、さらに導函数も容易に計算出来る事が分かる。

問. 次の函数の導函数を求めよ。

f(x) = x3 + 3x2 + 6x+ 1, g(x) =x3 + 3x

x2 + 1.

次の命題も(定義に基いて)容易に証明出来る。

命題. 微分可能な函数は連続である。

函数 f は連続でも微分可能とは限らない。一回微分出来ても、その導函数 f ′ が連続とは限らない。それが連続でも微分可能とは限らない。微分可能な場合、これを微分したもの、即ち f を二回微分したものを、f ′ と記す。一般に f が n回微分出来るとき、n回微分したものを f (n) と記し、f の n次導函数と呼ぶ。

1.4. 導函数と不等式. この節でも函数 f(x) は開区間 I で定義されたものとする。

定義. f(x) が区間 I に於いて単調増加であるとは、任意の s, t ∈ I に対し

s < t =⇒ f(s) < f(t)

が成り立つ事である。上の「f(s) < f(t)」の代りに「f(s) ≦ f(t)」としたものを単調弱増加とか広義単調増加等と呼ぶ。「単調減少」等も同様に定義する。

定理. f(x) が I で微分可能であり、常に f ′(x) > 0 ならば、f(x) は Iで単調増加である。[この定理で、仮定を「f ′(x) ≧ 0 ならば」と変へれば結論を「f(x) は単調弱増加」として同様の定理が成り立つ。]

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証明:s < t かつ f(s) ≧ f(t) となる s, t があつたとする。

p(x) =

{f(x)−f(s)

x−s(x = s)

f ′(s) (x = s)

とおくと、これは I 上の連続函数で、p(s) = f ′(s) > 0 かつ p(t) < 0だから、中間値の定理により或る c ∈ (s, t) に対し p(c) = 0 となる。この様な c の中で実は最小のものがある (cf. [斎藤], 定理 1.2.5.2)。cをその最小のものとすると、x ∈ [s, c) のとき p(x) > 0, 従つて f(x) =f(s) + p(x)(x− s) ≧ f(s) = f(c), 故に

f(x)− f(c)

x− c≦ 0,

x を下から c に近付けると f ′(c) ≦ 0 を得る。ところが f ′(c) > 0 といふ仮定だつたから、矛盾。 □次の命題は上の定理から容易に導かれるが、函数の値を「評価」す

るときに便利である:

命題. 函数 f(x), g(x) は閉区間 [a, b] で定義され開区間 (a, b) で微分可能とする。さらに (a, b) で f ′(x) ≦ g′(x) と仮定する。このとき、s, t ∈ [a, b] に対し

s ≦ t =⇒ f(t)− f(s) ≦ g(t)− g(s)

が成り立つ。

次に述べる幾つかの定理は重要であるが、ここでは証明は略する。

Rolle の定理. 函数 f(x) は閉区間 [a, b] で連続かつ開区間 (a, b) で微分可能とする。このとき、f(a) = f(b) ならば f ′(c) = 0 を満たすc ∈ (a, b) が存在する。

平均値の定理. 函数 f(x) は閉区間 [a, b] で連続かつ開区間 (a, b) で微分可能とする。このとき、

f ′(c) =f(b)− f(a)

b− a

を満たす c ∈ (a, b) が存在する。[これの f(a) = f(b) の場合が Rolle の定理。]

Cauchy の平均値の定理. 函数 f(x), g(x) は閉区間 [a, b] で連続かつ開区間 (a, b) で微分可能とする。このとき、g(a) = g(b) かつ g′(x) = 0(x ∈ (a, b)) ならば

f ′(c)

g′(c)=

f(b)− f(a)

g(b)− g(a)

を満たす c ∈ (a, b) が存在する。[これの g(x) = x の場合が平均値の定理。]

de l’Hopital の定理. 函数 f(x), g(x) は a を含む開区間 I で定義されてゐて微分可能であるとする。

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(1) limx→a f(x) = limx→a g(x) = 0 かつ極限値 limx→af ′(x)g′(x)

が存在するならば

limx→a

f(x)

g(x)= lim

x→a

f ′(x)

g′(x).

(2) limx→a f(x) = limx→a g(x) = ∞ かつ極限値 limx→af ′(x)g′(x)

が存在するならば

limx→a

f(x)

g(x)= lim

x→a

f ′(x)

g′(x).

問. ロピタルの定理を用ゐて極限値 limx→0e2x−cosx

xを求めよ。

f(x) は開区間 I で定義された函数とする。f の I に於ける最大値(maximum)、最小値 (minimum) については周知であらう。3 ここでは極大値と極小値を定義する。大雑把に言へば、極大値とは「局所的な最大値」、極小値とは「局所的な最小値」の事である:

定義. f が c ∈ I に於いて極大値 (local maximum) を取るとは、c を含む或る十分小さい開区間 (c−δ, c+δ)があつて、f をここに制限して考へると、f は c で最大値を取る事である。さらに、x ∈ (c− δ, c+ δ)に対し、x = c を除き f(c) > f(x) であるとき、f は c で強極大値(strict local maximum)を取ると言ふ。極小値 (local minimum)、強極小値(strict local minimum) についても同様。極大値と極小値の両方を合せて極値 (local extremum) と呼ぶ。

命題. f は I で微分可能とし、c ∈ I とする。(1) f が c で極値を取るならば f ′(c) = 0.

(2) f は I で 2回連続微分可能4 であり、かつ f ′(c) = 0 と仮定する。このとき、f ′′(c) > 0 ならば f は c で強極小値を取り、f ′′(c) < 0 ならば f は c で強極大値を取る。

f(x) は区間 I で定義された微分可能な函数とする。y = f(x) のグラフは平面内の曲線 C となる。C 上の点 P(c, f(c)) に於ける C の接線を L とする:

L : y − f(c) = f ′(c)(x− c).

C が(または f(x) が)P に於いて(または c に於いて)下に凸であるとは、P の十分近くで、P 以外の点に於いては C が L よりも上にある事である。C が(または f(x) が)区間 I で下に凸であるとは、全ての c ∈ O に於いて C が下に凸である事である。「上に凸」も同様に定義する。また、点 P の前後で曲線 C と接線 L の上下が逆転するとき、P は曲線 C の(または函数 f(x) の)変曲点であると言ふ。

問. 上で、「上・下に凸」「変曲点」等の定義を直観的に述べたが、これらを不等式を使つて厳密に定義せよ。

3ここでは弱い意味で解釈する。即ち、f が c ∈ I に於いて最大値を取るとは、全ての x ∈ I に対し f(c) ≧ f(x) である事。

42階導函数 f ′′ が存在してそれが連続である事。

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問. 次の曲線の極値、凹凸、変曲点を調べ、その概形を描け。(1) y = 2x2

√x− 5x2,

(2) y =log x

x.

1.5. 逆函数. f を区間 I で定義された函数とし、

J = {f(x)| x ∈ I}とおく。もし各 y ∈ J に対し f(x) = y となる x ∈ I が唯一つ存在するならば、y にこの x を対応させる事により J で定義された函数が得られる。これを f の逆函数と言ひ、f−1 で表す(従つて y = f(x) ならば x = f−1(y) である)。f の逆函数は常に存在するとは限らない。然し次が成り立つ:

命題. f が区間 I で定義された単調増加(または単調減少)な連続函数ならば、その逆函数 f−1 が存在する。実際、I は閉区間 [a, b] としてよく、このとき単調増加性と連続性と

中間値の定理により f の値域は J = [f(a), f(b)] になる。各 y ∈ J に対し f(x) = y となる x ∈ I が唯一つである事も単調増加性より明らかである。 □また、命題の条件の下、f が単調増加(単調減少)なら f−1 も単調

増加(単調減少)である事も(少し議論すると)分かる。逆函数の意味を考へると、y = f−1(x) のグラフは y = f(x) のグラ

フを直線 y = x に関して折り返したものになつてゐる事が分かる。

問. (1) n を自然数 ≧ 1 とする。区間 [0,∞) に於いて連続函数 f(x) =xn は単調増加であるから逆函数を持つ。これを g(x) = n

√x と書く。

y = g(x) のグラフを描け。(2) 連続函数 f(x) = sinx は区間 [−π/2, π/2] に於いて単調増加であるから、逆函数 g(x) を持つ。y = g(x) のグラフを描け。cos x, tanx についても同様に逆函数のグラフを描け(単調増加となる区間が異なるので注意せよ)。

方程式の近似解を求める方法として次のNewton 法がある:

命題. f(x) 閉区間 [a, b] で定義された 2回微分可能な函数で、次の条件を満たすと仮定する:(1) f(a) < 0, f(b) > 0,(2) f ′(x) > 0, f ′′(x) > 0 (x ∈ [a, b]).このとき方程式 f(x) = 0 は(連続性、単調増加性と中間値の定理により)区間 [a, b] に唯一つの解 α を持つ。数列 (cn)n∈N を

c0 = b, cn+1 = cn −f(cn)

f ′(cn)

により定義すると、(cn)n∈N は単調減少であり、α に収束する。これは曲線 y = f(x) の点 (cn, f(cn)) に於ける接線を考へると分か

る。この命題は他の(区間 [a, b] で f ′, f ′′ の符号が一定である様な)状況でも成り立つ。

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10

問. f(x) = x2 − 3, a = 1, b = 2 の場合に Newton 法を適用して(上の記号で)c3 まで計算し

√3 の近似値を求めよ。

1.6. Taylor の定理. a を含む閉区間 I で定義された n 回微分可能な函数 f(x) を (n − 1)次多項式で近似するものとして、次の Taylor の定理がある:

Taylor の定理.上の仮定の下、各 x ∈ I に対し、次を満たす c ∈ I がa と x の間に存在する:

f(x) = f(a)+f ′(a)(x−a)+f ′′(a)

2!(x−a)2+· · ·+f (n−1)(a)

(n− 1)!(x−a)n−1+

f (n)(c)

n!(x−a)n.

この右辺の最後の項は、もし f (n)(x) が連続ならば、次の様な表示も出来る: ∫ x

a

f (n)(t)(x− t)n−1

(n− 1)!dt.

もし f が無限回微分可能で、f (n) が a を中心とする半径 r の開区間 (即ち |x− a| < r の範囲) で、n に依らず或る連続函数 g により

|f (n)(x)| ≦ g(x)

と押さへられてゐるならば、Taylor 展開

f(x) = f(a)+f ′(a)(x−1)+f ′′(a)

2!(x−a)2+ · · ·+ f (n)(a)

n!(x−a)n+ · · ·

が成り立つ。 □

1.7. 初等函数. 有名な初等函数として三角函数、指数函数およびそれらの逆函数を説明すべき所だが、時間の都合で指数函数と(その逆函数である)対数函数についてのみごく簡単に解説するに止める。先づ、正の実数 a > と任意の実数 x に対し ax (a の x乗) を定義

する。x が整数のときは ax の定義はよく知られてゐる通りである (xが正の整数のときは ax =「a を x 回かけたもの」 、x = 0 のときはa0 = 1, a が負の整数のときは ax = 1/a−x). x が有理数 p/q (p, q は整数で q > 0) のときは ax = q

√ap と定義する。問題は x が無理数のとき

である。このとき、x に収束する有理数列 x0, x1, x2, . . . を選び、

ax = limn→∞

axn

と定義する(勿論この極限がちやんと存在する事やその値が有理数列(xn) の選び方に依らない事等確認する必要あり)。この函数 ax を(a を底とする)指数函数と呼ぶ。指数函数は次の

性質を持つ:

命題. (1) 指数函数 ax は R 上連続である。(2) ax は、a > 1 のとき単調増加、a < 1 のとき単調減少、a = 1 のとき恒等的に 1x = 1 である。(3) ax+y = axay.

(4) axy = (ax)y.

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11

(5) (ab)x = axbx.

これらはいづれも指数 x, y が有理数のときは容易に確かめられ、一般の場合は「連続性により」それに帰着出来る。

指数函数 f(x) = ax の微分を考へる。定義に依り、極限

limh→0

ax+h − ax

h

の値が存在するとき ax は x で微分可能と言ふのだつた。少し考へると、0 < h < 1 に対し ah < 1 + h(a− 1) が示せ、これを使つて(さらに少し考へると)y = ax のグラフは下に凸である事もわかる。従つてa > 1, 0 < h < 1 のとき

ax+h − ax

h= ax

ah − 1

h

は h に関して単調増加で、上の極限値が存在する事もわかる。特にlimh→0(a

h − 1)/h = f ′(0) だから、一般の x に対して

(1.1) f ′(x) = axf ′(0)

である。f ′(0) の値は a によつて定まるので、これを log a と書く:

定義. 実数 a > 0 に対し、指数函数 ax の x = 0 での微分係数を a の自然対数と呼び、log a と記す。

この定義と上の等式 (1.1) より

(1.2) (ax)′ = ax log a

が成り立つ。

問. a > 0, b > 0 とする。R で定義された函数 abx2を x で 2回微分

せよ。

a を動かして log a を a の函数と思つたもの(変数を x に置き換へて log x とも書く)を対数函数と呼ぶ。対数函数の性質を以下に纏めておく(証明については [斎藤], §2.2 を参照)。命題. (1) 対数函数 log x は x > 0 で定義された単調増加な連続函数であり、limx→+0 log x = −∞, limx→∞ = ∞.

(2) log 1 = 0.

(3) log(xy) = log x+ log y.

(4) log ab = (log a)b.

(5) log x は微分可能であり、その導函数は 1/x である。

問. a > 0 とする。開区間 (0,∞) で定義された函数 xlog(1+ a/x) を xで 2回微分せよ。

定義. log e = 1を満たす実数 eが唯一つ存在するが、これを自然対数の底と呼ぶ。Napier の数とも呼ばれる。

e = 2.71828182845904523536028747135... である。[斎藤] では e はe = 21/ log 2 と定義してゐる(勿論上の定義と同じ値になる)。

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12

等式 (1.2) より

(1.3) (ex)′ = ex

が成り立つ。

命題. (1) log x は ex の逆函数である。(2) ex = limn→∞(1 + x

n)n.

複利計算について:お金を借りて、一定期間後に 100x% の利子を付けて返済する事にすると、返す額は元の額の (1 + x) 倍である。もしこの期間の半分に分け、前半期に (100x/2)% の利子を付け、後半期にも(100x/2)% の利子を付けるとすると、返す額は元の額の (1 + x/2)2 倍である。期間を n等分して同様にすると、返す額は元の額の (1+x/n)n

倍である。この値は n に関して単調増加5 なので、この方式で利子を取るならばなるべく細かく分割した方が得であるが、いくら細かく分割しても上限は ex 倍である。

5記号を変へて f(x) = (1+ a/x)x (a, x > 0) とおき、F (x) = log f(x) = x log(1+a/x) の増減を調べる。F ′(x) = log(1 + a/x) − (a/x)/(1 + (a/x)). G(y) = log(1 +y)− y/(1+ y) とおくとG(0) = 0, G′(y) = y/(1+ y)2 > 0 if y > 0, だから、a, x > 0ならば F ′(x) > 0 である。

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2. 二変数の微分法

この章ではX を “xy-平面” R2 = {(x, y)| x, y ∈ R} 内の領域6 とし、f(x, y) は X で定義された二変数函数とする。

2.1. 二変数函数と連続性. 二変数函数 f(x, y) が点 (a, b) ∈ X であるといふ事を定義したい。一変数函数 f(x) の場合は「f(x) が a で連続」とは「x を a に十分近づければ f(x) が f(a) にいくらでも近く出来る」即ち「|x − a| を十分小さくすれば |f(x) − f(a)| をいくらでも小さく出来る」事であつた。二変数函数でも値は一つの実数だから|f(x, y) − f(a, b)| は意味を持つ。一方「点 (x, y) を (a, b) に十分近づければ」は平面上の距離

|(x, y)− (a, b)| =√

(x− a)2 + (y − b)2

を使つて定義すればよい。

定義. X で定義された函数 f(x, y) が点 (a, b) ∈ X で連続であるとは、どんな実数 ε > 0 に対しても或る実数 δ > 0 を上手く取れば全ての (x, y) ∈ X に対し

|(x, y)− (a, b)| < δ =⇒ |f(x, y)− f(a, b)| < ε

が成り立つ事である。f(x, y)がX で連続であるとは、全ての (a, b) ∈ Xに対し f(x, y) は (a, b) で連続である事である。

例. 二変数の多項式は xy-平面全体で連続な函数を定義する。

例. c を実数として、xy-平面上の函数 f(x, y) を

f(x, y) =

{2xy

x2+y2((x, y) = (0, 0) のとき)

c ((x, y) = (0, 0) のとき)

と定義すると、f(x, y)は原点 (0, 0)以外では連続であるが、原点では不連続である。原点で不連続である事は次の様にして分かる:原点を通る直線 y = tx (tは定数)上を点 (x, y) = (0, 0)が原点に近づいて行く状況を考へる。y = txを f(x, y)の定義式に代入すると f(x, y) = 2t/(1+t2)となり、これは (x, y) には依らず、直線の傾き t のみ依存する一定値である(因みに t = tan(θ/2) とおくと 2t/(1 + t2) = sin θ であるから、これは −1 から 1 までの任意の値を取る)。従つて、2t/(1 + t2) = c なる t の方向から (x, y) が原点に近づく時、f(x, y) の極限は = c なので、f(x, y) は原点で不連続である。

f(x, y) が二変数函数のとき、z = f(x, y) のグラフは xyz-空間内の曲面となる。

問. 上の例の f(x, y) に対し、z = f(x, y) のグラフがどんな曲面になるか考察せよ。

6ここでは開部分集合の事としておく。

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2.2. 二変数函数の微分. 二変数函数 f(x, y) の微分を考へる。まづは fを「x方向」「y方向」にそれぞれ微分する事が考へられる。二つの変数のうち一方、例へば yを y = bと固定する。xの函数 f(x, b)が x = aで微分可能であるとき、f(x, y)は (a, b)で x に関して偏微分可能であると言ひ、その微分係数を f(x, y)の (a, b)に於ける x に関する偏微分係数と呼び、∂f

∂x(a, b)または fx(a, b)で表す。xを固定した場合も同様に、「y

に関して偏微分可能」「yに関する偏微分係数」「∂f∂y(a, b)」「fy(a, b)」が定

義される。x, y の両方に関して偏微分可能であるとき、単に偏微分可能と言ふ。また、a, bを動かして、偏導函数 ∂f

∂x(x, y) = fx(x, y),

∂f∂y(x, y) =

fy(x, y) を考へる。

例. f(x, y) = sin x+ cos y のとき

∂f

∂x(x, y) = cosx,

∂f

∂y(x, y) = − sin y.

例.

f(x, y) =

{2xy

x2+y2((x, y) = (0, 0) のとき)

c ((x, y) = (0, 0) のとき)

のとき

∂f

∂x(x, y) =

{−2y x2−y2

(x2+y2)2((x, y) = (0, 0) のとき)

0 ((x, y) = (0, 0) のとき),

∂f

∂y(x, y) =

{2x x2−y2

(x2+y2)2((x, y) = (0, 0) のとき)

0 ((x, y) = (0, 0) のとき).

二変数函数の微分としては x, y 両方に関して偏微分可能といふだけでは十分ではない。7 一変数函数 f(x) の場合、x = a に於ける微分係数 f ′(a) とは幾何的には y = f(x) のグラフの点 (a, f(a)) に於ける接線の傾きであつた。二変数函数 y = f(x, y) の場合、z = f(x, y) のグラフは 3次元空間内の曲面になるから、接線ではなく、点 (a, b, f(a, b))に於ける接平面を考へる事になる。与へられた点を通る平面は法線ベクトルで決まるから、微分係数 f ′(a, b) は(一つの数ではなく)ベクトルになる。点 (a, b, f(a, b)) を通る平面(で「垂直」でないもの)の方程式は一般に

z = f(a, b) + p(x− a) + q(y − b) (p, q は実数)

の形である。これが z = f(x, y) のグラフの接平面であるとは f(x, y)が上の等式の右辺で近似される事であるから、次の様に定義する:

7例へば、両方に関して偏微分可能だが、その点で連続ですらない函数は存在する。§2.1 の例を参照。

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定義. 或る実数 p, q に対し

(2.1) lim(x,y)→(a,b)

f(x, y)− (f(a, b) + p(x− a) + q(y − b))

|(x, y)− (a, b)|= 0

が成り立つ時、f(x, y) は (a, b) で微分可能8 であると言ひ、ベクトルf ′(a, b) = (p q) を f(x, y) の (a, b) に於ける微分係数と呼ぶ。

f(x, y) が X で微分可能とは、f(x, y) が全ての点 (a, b) ∈ X で微分可能である事である。

今、f(x, y) が (a, b) で微分可能と仮定し、f(x, y) を (a, b) に於いてx に関して偏微分する事を考へる。式 (2.1) で y = b とすると

limx→a

f(x, b)− (f(a, b) + p(x− a))

|x− a|= 0,

即ち

limx→a

f(x, b)− f(a, b)

|x− a|= p

となり、これは f(x, b) の x = a での微分係数が p である事、即ち∂f∂x(a, b) = p である事、を示してゐる。同様に、∂f

∂y(a, b) = q である。

纏めると:

命題. f(x, y) が点 (a, b) ∈ X に於いて微分可能であるとき、f(x, y) はこの点で x, y 両方に関して偏微分可能であり、

f ′(a, b) =

(∂f

∂x(a, b)

∂f

∂y(a, b)

)である。また、曲面 z = f(x, y) の点 (a, b) に於ける接平面の方程式は

z = f(a, b) +∂f

∂x(a, b)(x− a) +

∂f

∂y(a, b)(y − b)

である。

命題. f(x, y) は X で偏微分可能であり、偏導函数 ∂f∂x(x, y), ∂f

∂y(x, y) が

ともに (a, b) ∈ X で連続ならば f(x, y) は (a, b) で微分可能である。

問. f(x, y) = x2 + y2 とする。(1) f(x, y) の x 及び y に関する偏導函数を求めよ。(2) z = f(x, y) のグラフの点 (1, 2, 5) での接平面の方程式を求めよ。

合成函数の微分法. ここでは次の特別な場合のみ考へる:x = x(t),y = y(t) が t の函数であるとする。このとき次が成り立つ:

命題. f(x, y) が(二変数函数として)微分可能であり、x(t), y(t) が tの函数として微分可能ならば、g(t) = f(x(t), y(t)) は t の函数として微分可能であり、次が成り立つ:

dg

dt(t) =

∂f

∂x(x(t), y(t))

dx

dt(t) +

∂f

∂y(x(t), y(t))

dy

dt(t)

8偏微分との対比で全微分可能とも言ふ。

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即ちg′(t) = fx(x(t), y(t))x

′(t) + fy(x(t), y(t))y′(t).

問. f(x, y) = x3 + y3 − 3xy, x(t) = cos t, y(t) = sin t のとき、t の函数g(t) = f(x(t), y(t)) の導函数を求めよ。

2.3. 偏導函数と函数の極値. 二変数函数の極大、極小も一変数の時と同様に「局所的な最大、最小」として定義する。即ち、函数 f(x, y) を点 (a, b) ∈ X の或る近傍に制限して考へると、そこで (a, b) で最大値、最小値を取る時、f(x, y) は (a, b) で極大値、極小値を取ると言ふ。また、f が (a, b) で極大値を取り、かつ (a, b) の近傍の (a, b) 以外の点(x, y) では f(x, y) < f(a, b) であるとき、f(x, y) は (a, b) で強極大値を取ると言ふ。極小値についても同様。さて、f は偏微分可能と仮定する。一変数の時と同様、もし f が (a, b)

で極値を取るためには「接平面が水平」即ち ∂f∂x(a, b) = ∂f

∂y(a, b) = 0 が

必要である事が分かる。実際に極値を取るための十分条件は 2次の偏微分を使つて与へられる。以下 f は「2回連続偏微分可能」即ち

∂x

(∂f

∂x

),

∂y

(∂f

∂x

),

∂x

(∂f

∂y

),

∂y

(∂f

∂y

)が全て9 存在して連続である、と仮定する。これらはまた

∂2f

∂x2,

∂2f

∂y∂x,

∂2f

∂x∂y,

∂2f

∂y2

或いはfxx, fxy, fyx, fyy

等とも記す。10 もし ∂2f∂y∂x

, ∂2f∂x∂y

がともに連続ならば

(2.2)∂2f

∂y∂x=

∂2f

∂x∂y即ち fxy = fyx

である事が知られてゐる。偏微分係数 fx(a, b), fy(a, b) とは

f(a, b) + fx(a, b)(x− a) + fy(a, b)(y − b)

が f(x, y) の(点 (a, b) の近傍に於ける)一次式に依る最良の近似となる様な値であつた。今、これらの値が 0 であるとすると、f(x, y) を二次式で近似する事が考へられ、その様な最良の二次式は

(2.3) f(a, b)+fxx(a, b)(x−a)2+2fxy(a, b)(x−a)(y−b)+fyy(a, b)(y−b)2

である事が期待出来る。11

斉次二次函数については次が成り立つ:

9ここで、函数の後の (x, y) は記号簡略化のため省略した。10同様に ∂f

∂x ,∂f∂y をそれぞれ fx, fy とも記す。

11詳しくは二変数の Taylor の定理を参照(例へば [斎藤], p. 204; ここでは省略する)。fxy の項については等式 (2.2) に注意。

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補題. 二次函数 q(x, y) = u(x− a)2 + 2v(x− a)(y− b) +w(y− b)2 (但し u = 0 とする)に対しH = det(uv

vw) とおく。u > 0 のとき、q(x, y)

は(1) H > 0 ならば (x, y) = (a, b) で最小値 0 を取り、(2) H = 0 ならば原点を通る或る直線上で最小値 0 を取り、(3) H < 0 ならば最大・最小を持たない。

u < 0 のときは、上で「最小」を「最大」と書き換へたものが成り立つ。

実際、一寸行列についての知識を使へば、適当な変数変換によりq(x, y)は

x2 + y2, x2, x2 − y2

のどれかに変形出来るが、これらについては上の (1), (2), (3) がそれぞれ成り立つ事が容易に確かめられる。さて、2回連続偏微分可能な函数 f(x, y)に戻つて、fx(a, b) = fy(a, b) =

0 のとき、二次函数 (2.3) が点 (a, b) の近傍で f(x, y) を近似してゐるとすると、極大極小の様子も同様であると期待出来、実際

H = det

(fxx(a, b) fyx(a, b)fxy(a, b) fyy(a, b)

)= fxx(a, b)fyy(a, b)− fxy(a, b)fyx(a, b)

とおく(これを f の (a, b) に於けるヘッセ行列式 (Hessian) と呼ぶ)と、次が成り立つ:

定理. fx(a, b) = fy(a, b) = 0 と仮定する。H > 0 のとき、fxx(a, b) > 0ならば f(x, y) は (a, b) に於いて強極小値を取り、fxx(a, b) < 0 ならば f(x, y) は (a, b) に於いて強極大値を取る。H < 0 のとき f(x, y) は(a, b)に於いて極値を取らない(このとき f(x, y)は (a, b)に於いて「峠点」になる)。

問. 次の函数の極値を求めよ。(1) f(x, y) = x3 + y3 − 3xy.(2) f(x, y) = 1− 2x2 − xy − y2 + 2x− 3y.

2.4. 陰函数定理と Lagrange 乗数法. 二変数の方程式 g(x, y) = 0 は平面内の曲線を表すと考へられるが、その曲線は(適当な状況下では)局所的に或る函数 y = φ(x) のグラフとなつてゐる。この事を詳しく述べたものが次の定理である:

陰函数定理. g(x, y)が 1回連続微分可能で、g(a, b) = 0かつ gy(a, b) = 0ならば、a を含む或る開区間で定義された微分可能な函数φ(x) であつて g(x, φ(x)) = 0 を満たすものが存在する。さらに次が成り立つ:

φ′(x) = −gx(x, φ(x))

gy(x, φ(x)).

Lagrange 乗数法. 二変数函数 f(x, y) の極値問題を g(x, y) = 0 といふ制約条件の下で考へる(ここで g(x, y) は別の二変数函数である)。g(x, y) = 0は平面内の曲線を定めるが、陰函数定理によりそれは(適当

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な状況下では)局所的に或る函数 y = φ(x)のグラフとなつてゐるから、g(x, y) = 0 の下での f(x, y) の極値問題は、局所的には、一変数函数f(x, φ(x)) の極値問題に帰着する。この事を用ゐて、Lagrange 乗数法(または Lagrange の未定係数法)は次の様に定式化される:

命題. g(x, y) = 0 なる条件の下で、f(x, y) が点 (a, b) で極値を持つとする。λ を変数として、

F (x, y, λ) = f(x, y)− λg(x, y)

とおくと、gx(a, b) = gy(a, b) = 0 でないならば

Fx(a, b, c) = Fy(a, b, c) = Fλ(a, b, c) = 0

を満たす c が存在する。

この命題は極値の候補を見つけるのに役立つ。最大最小を求めるだけなら、候補となる点での値を片端から計算してやれば求まる。

例題. 条件 x2 + y2 = 1, x ≧ 0 の下で函数 f(x, y) = 36x+ 25y3 の最大値と最小値を求めよ。(略解)F (x, y, λ) = 36x+ 25y3 − λ(x2 + y2 − 1) とおくとFx = 36− 2λx, Fy = 75y2 − 2λy, Fλ = −x2 − y2 + 1.

これら = 0 を解く。y = 0 のとき x = 1, λ = 18 (x ≥ 0 に注意).

y = 0 のとき、最初の二つの等式から 25xy = 12 を得、これと第三式を連立して(x, y) = (4/5, 3/5), (3/5, 4/5).

これらの点では(上の命題の)「gx(a, b) = gy(a, b) = 0 でない」といふ条件が成り立つてゐる。そこでこれらが極値点の候補。さらに円弧 x2 + y2 = 1, x ≧ 0, の両端点でも最大最小を取る可能性がある。これらの点の座標を f(x, y) に代入すると、f(1, 0) = 36, f(4/5, 3/5) = 171/5, f(3/5, 4/5) = 172/5, f(0,±1) = ±25. 故に最大値は f(1, 0) = 36, 最小値は f(0,−1) = −25.

上の命題だけでは、求めた極値点候補が本当に極値点であるかどうか分からない。それを判定するには次の命題を用ゐる:

命題. これまでの記号と仮定に加へて、f(x, y), g(x, y) は二回連続微分可能と仮定する。Fx = Fy = Fλ = 0 の解 (x, y, λ) = (a, b, c) に対し

D = Fxx(a, b, c)gy(a, b)2−2Fxy(a, b, c)gx(a, b)gy(a, b)+Fyy(a, b, c)gx(a, b)

2

とおく。このとき、条件 g(x, y) = 0 の下、f(x, y) はD > 0 ならば(x, y) = (a, b) で強極小値を取り、D < 0 ならば (x, y) = (a, b) で強極大値を取る。

問. 条件 x2 + y2 = 2 の下で函数 f(x, y) = y − x の極値を調べよ。

Lagrange 乗数 λ の意味について (cf. [CW], pp. 489–490): Lagrange乗数法に於いて、条件 g(x, y) = 0 を少しずらして g(x, y) = c (c は定数) にする事を考へる。上の議論で g(x, y) を g(x, y) − c に置き換へ、(後で c を動かすので)F (x, y, λ, c) = f(x, y)− λ(g(x, y)− c) とおき、

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19

Fx = Fy = Fλ = 0 の解の一つを (xc, yc, λc) とする12;即ちfx(xc, yc, λc)−λcgx(xc, yc) = fy(xc, yc, λc)−λcgy(xc, yc) = g(xc, yc) = 0.この点は函数 f(x, y) 極値点の候補なので、Z(c) = F (xc, yc, λc, c) =f(xc, yc) は何らかの意味で f(x, y) の「最適値候補」であると考へられる。この値が c とともにどう変化するか調べるために微分すると、

dZ

dc(c) = Fx(xc, yc, λc, c)

dx

dc(c) + Fy(xc, yc, λc, c)

dy

dc(c)

+ Fλ(xc, yc, λc, c)dλ

dc(c) + Fc(xc, yc, λc, c)

= λc.

即ち、λc は c を動かした時の「最適値候補」Z(c) の変化率に等しい。

12xc, yc, λc は c を与へるごとに必ずしも一意的に定まるわけではないが、適当な条件設定をすれば c の函数と思ふ事が出来る。

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20

3. 一変数の積分法と微分方程式

一変数の積分法には「二つの顔」がある。一つは「微分の逆」としての不定積分であり、もう一つは「面積」または「体積」としての定積分である。まづ不定積分から説明する。

3.1. 不定積分. f(x) を或る区間 I で定義された連続函数とする。

定義. I 上の函数 F (x) であつて微分すると f(x) になるもの(即ちF ′(x) = f(x) なるもの)を f(x) の不定積分または原始函数と呼

び、∫

f(x)dx なる記号で表す。f(x) の不定積分は f(x) に対して一

意的に決まる訳ではない。G(x) も f(x) の不定積分であるとすると、(F (x)−G(x))′ = 0であるから、二つの不定積分の差は定数である。即ち、不定積分は定数の差を除いて一意的に定まる。そのため∫

f(x)dx = F (x) + C (C は積分定数)

の様な書き方がされる。例へば:∫xndx =

1

n+ 1nn+1 + C (n = −1),

∫1

xdx = log x+ C,∫

exdx = ex + C,

∫log xdx = x log x− x+ C∫

sin xdx = − cos x+ C,

∫cos xdx = sin x+ C,

(いづれも C は積分定数)等となる。

問. 次の不定積分を求めよ:∫cos(2x)dx,

∫xe−x2

dx.

定理. f(x) が連続ならその不定積分 F (x) は存在する。さらに、c ∈ Iと実数 d を取りF (c) = d なる条件を課すと、F (x) は一意的に定まる。

この定理の「存在」の証明については後ほど解説する。後半については、不定積分の一つを F1(x) とするとき、F (x) = F1(x)− F1(c) + dが求めるものである。

不定積分について、次の性質(線型性)が成り立つ:

命題. ∫(f(x) + g(x))dx =

∫f(x)dx+

∫g(x)dx,∫

cf(x)dx = c

∫f(x)dx (c は定数).

これらの等式も「定数の差を除いて成り立つ」といふ意味である。証明は「両辺を微分してみれば等しいから」である。

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21

「積の微分」の公式 (fg)′ = f ′g + fg′ より次の「部分積分」の公式が得られる:

命題. ∫f ′(x)g(x)dx = f(x)g(x)−

∫f(x)g′(x)dx.

例.∫log xdx = x log x−

∫x(log x)′dx = x log x− x.

「合成函数の微分」の公式 F (x(t))′ = F ′(x(t))x′(t) より次の「置換積分」の公式が得られる:

命題. x = x(t) が t の連続微分可能な函数であるとき、∫f(x)dx =

∫f(x(t))x′(t)dt.

3.2. 定積分. F (x)が f(x)の不定積分(の一つ)であるとき、実数 a, b ∈I に対し、差 [F (x)]ba = F (b)− F (a) は不定積分 F (x) の選び方(即ち積分定数の選び方)によらずに定まる。この値を∫ b

a

f(x)dx

と記し、f(x)の aから bまでの不定積分と呼ぶ(これが「面積」と関係する事は後の節で説明する)。b の方を変数 x としてみると (F (x)−F (a))′ = f(x) だから

d

dx

∫ x

a

f(t)dt = f(x)

である。

定積分について、次の性質が成り立つ:

命題. (1) f(x) ≦ g(x) ならば∫ b

af(x)dx ≦

∫ b

ag(x)dx.

(2) a ≦ b ≦ c のとき∫ c

af(x)dx =

∫ b

af(x)dx+

∫ c

bf(x)dx.

3.3. 微分方程式. 「F (x, y, y′) = 0を満たす函数 y = f(x)を求めよ」といふタイプの問題を考へる。この方程式 F (x, y, y′) = 0は y の微分(導函数)y′ (= f ′(x))を含んでゐるので、微分方程式 (differential equation)

と呼ばれる。一階微分だけでなく高階の微分 y′′, y′′′, . . . を含んでゐてもよい。一般に、微分方程式の解 y = f(x)は一意的には定まらないが、「x = a

のとき y = b」(即ち f(a) = b)等の条件を課すと一意的に定まる事もある。この種の条件を初期条件と言ひ、初期条件付きの微分方程式の求解問題を初期値問題と言ふ。微分方程式論に於いては「いつ解が存在するか」とか「その解がど

の程度一意的か」等の問題が基本的であるが、ここでは理屈はあまり考へずに、幾つかの典型的なタイプの微分方程式の例を考察する。

3.3.1. 微分の公式を知つてゐれば直ちに解けるもの.(以下に於いて C,D は任意の定数。)

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(1) xy′ = ny (n は実数) の解は y = Cxn (但し n が整数でないときは定義域に制限が付く)。(2) y′ = αy (α は定数) の解は y = Ceαx.(3) xy′ = 1 の解は y = log x+ C.(4) y′′ = −y の解は y = C cosx+D sin x.

3.3.2. 変数分離形の微分方程式とは

(3.1) y′ = p(x)q(y), q(y) = 0,

の形のものの事である。このとき、y′

q(y)= p(x)

の両辺を x で積分して ∫dy

q(y)=

∫p(x)dx.

そこで、この両辺が計算出来れば x と y の関係式が得られ、それが yについて解ければ (3.1) の解が求まる。例へば、

y′ = −2xy

のとき、y′/y = −2x より log y = −x2 + c (c は積分定数)、故に y =

e−x2+c. C = ec と置き y = Ce−x2.

さらに(例へば)「x = 0 のとき y = 1」といふ初期条件を課すとC = 1 となるから、y = e−x2

.

3.3.3. 完全微分形. f(x, y) が連続微分可能な函数であるとき、

(3.2) fx(x, y) + fy(x, y)y′ = 0

の形の微分方程式を完全微分形と言ふ。この左辺は(y を x の函数と思つて)f(x, y) を x で微分したものであるから、この微分方程式より

f(x, y) = C (C は定数)

が従ふ。そこで、これが y について解ければ (3.2) の解が求まる。例へば、微分方程式

y + xy′ = 0

は丁度 f(x, y) = xy としたときの (3.2)になつてゐるから、完全微分形で、解は xy = C を満たす、即ち y = C/x である。もしさらに「x = 1のとき y = 1」等の初期条件が課されてゐれば y = 1/x 等と決まる。

3.3.4. 定数係数線型微分方程式とは、

(3.3) cny(n) + · · ·+ c1y

′ + c0y = 0 (c0, . . . , cn は定数)

の形の微分方程式の事である。これは解き方がよく知られてゐるが、ここでは簡単のため適当な条件下で (3.3) の解き方を解説する。先頭項の係数 cn は = 0 としてよい。n次方程式13

(3.4) cnxn + · · ·+ c1x+ c0 = 0

13この様な「普通の」方程式を代数方程式と言ふ。

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を考へ、これが実数解 α を持つと仮定する。すると y = Ceαx (C は任意の定数) は (3.3) の解である事が簡単に確かめられる。より一般にα, β が (3.4) の解であるとき、y = Ceαx +Deβx (C,D は任意の定数)も (3.3) の解である。一般に次が知られてゐる:

定理. n次方程式 (3.4) が n 個の相異なる実数解 α1, . . . , αn を持つとき、微分方程式 (3.3) の一般解は

y = C1eα1x + · · ·+ Cne

αnx (C1, . . . , Cn は任意の定数)

で与へられる。

問. 次の微分方程式を解け:

y′′ + 3y′ + 2y = 0.

また、条件「y(0) = e かつ y(1) = 1」を満たす解を求めよ。

3.4. Riemann 積分. f(x) を区間 I = [a, b] で定義された連続函数とする(a < b とし、また a = −∞ や b = +∞ は除外する)。簡単のため、この区間上で常に f(x) ≧ 0 であると仮定する。y = f(x) のグラフと x軸とに挟まれた(区間 I 上の)部分 S の面積 |S| はどの様にして求められるだらうか?I を細かい小区間に分割し、S を「棒グラフ」状の図形で近似すれば、この図形の面積として |S| の近似値が求まる。分割をどんどん細かくして行けば真の値に近づくであらう。これを具体的に式で表すと、以下の様になる。区間 I を n等分して、

ai = a+b− a

ni (i = 0, 1, . . . , n)

とおく(特に a0 = a, an = b である)。すると、S を近似する棒グラフ状の図形の面積は

(3.5)n−1∑i=0

f(ai)b− a

nまたは

n∑i=1

f(ai)b− a

n

である。或いは、各「柱」の立つ小区間の代表点を ai 以外に取つてもよい。即ち、ai ≦ ξi ≦ ai+1 なる ξi (i = 0, . . . , n− 1) を任意に選び、

(3.6)n−1∑i=0

f(ξi)b− a

n

を考へてもよい(この形の和を Riemann 和と呼ぶ)。これらの値が、n → ∞ とするとき収束すれば、その値は S の面積 |S| に等しいと考へられる。だが、本当に等しいだらうか?実は図形の面積といふのはこの様にして定義するのである。さて、上の議論では I 上で f(x) ≧ 0 と仮定してゐたが、(3.5) や

(3.6) の和自体は f(x) ≧ 0 でなくても考へられ、次が成り立つ:

定理. f(x) が区間 I = [a, b] で定義された連続函数であるとき、各 nに対して小区間 [ai, ai+1] の代表点 ξi をどの様に選んでも、n → ∞ とする時、和 (3.6) は或る実数値に収束する。

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定義. 上の極限値を f(x) の区間 I = [a, b] 上の Riemann 積分または

(単に)積分と言ひ、記号∫I

f(x)dx で表す。即ち

(3.7)

∫I

f(x)dx = limn→∞

n−1∑i=0

f(ξi)b− a

n

と定義する。

注意. 上では区間を n等分したが、この分割は不均等でも構はない(最も大きい小区間の長さが n → ∞ のとき 0 に収束すればよい)。また、積分される函数(被積分函数)f(x) が連続でなくても上の極限が存在する事はあり得る(即ち、連続でなくても積分可能な場合がある)が、この講義では連続函数に限つて考察する。

さて、区間 I の右端を動かすことにして Ix = [a, x]と書き、xの函数

F (x) =

∫Ix

f(t)dt

を考察する。F (x) の x での微分係数(が存在するとすればそれ)は

limh→0

F (x+ h)− F (x)

h

であつた。一方 F (x) の定義は

limn→∞

n−1∑i=0

f(ξi)x− a

n

だから、h = (x− a)/n としてみると

F (x+ h)− F (x)

h= f(ξn)

を得る。ここで n → ∞ とすると、h → 0, ξn → x であり、

F ′(x) = f(x),

即ち F (x) は f(x) の原始函数である事が分かる。しかも定義から

F (a) = 0 であるから、結局∫Ix

f(t)dt =

∫ x

a

f(t)dt, 或いは記号を変

へて ∫[a,b]

f(t)dt =

∫ b

a

f(t)dt

である事が分かつた。纏めると:我々は f(x) の定積分を、不定積分 F (x) を使つて∫ b

a

f(t)dt = F (b)− F (a)

と定義し、一方で Riemann 積分を極限値 (3.7) として定義したが、これらは一致するのである。

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4. 二変数の積分法(重積分)

前節では一変数函数に対しその不定積分、定積分、Reimann 積分を定義した。これらのうち Riemann 積分は素直に多変数の場合に拡張される。即ち、(二変数の場合ならば)平面内の有界閉集合 D と、そこ

で定義された連続函数 f(x, y) に対し、積分∫D

f(x, y)dxdy は次の様に

定義される:先づ D を有限個の小領域 D1, . . . , Dn に分割し、各 Di から代表点 Pi(ξi, ηi) を選び、Riemann 和

n∑i=1

f(Pi)m(Di)

を作り、分割をどんどん細かくして行つた極限として積分を定義する:∫D

f(x, y)dxdy = “ lim ”n∑

i=1

f(Pi)m(Di).

但し m(Di) は Di の面積であり、これを先づ定義する必要がある。

4.1. 面積. 平面内の有界閉集合 D に対し、その面積 m(D)を次の様に定義する:(1) D が長方形のときは m(D) = (縦の長さ)×(横の長さ).(2) D 有限個の長方形 D1, . . . , Dn に分割出来るとき(このとき、(ここだけの用語で)D はモザイク形であると言ふ事にする)はm(D) =m(D1) + · · ·+m(Dn). [この定義が D の分割の仕方に依らない事は証明する必要があるが、ここでは略する。]

(3) 一般の D のとき、D をモザイク形 C, E で内側と外側から近似し、m(C), m(E) の「極限」として m(D) を定義する。即ち、次の条件 (M) を満たす実数 m が唯一つ存在するとき、D は面積確定であると言ひ、m(D) = m と定義する。[面積確定でない D も存在する。]

(M) 任意のモザイク形 C,E であつて C ⊂ D ⊂ E なるものに対し  m(C) ≦ m ≦ m(E) が成り立つ。

前節で、区間 [a, b] 上、f(x) ≧ 0 なる函数 f(x) のグラフと x軸と

によつて囲まれた領域 D の面積は∫[a,b]

f(x)dx であると述べた。これ

が上に定義した面積 m(D) と一致するか気になるところであるが、定義をよく見比べてみ(さらに一寸考察を加へ)ると、一致する事が分かる。より一般に、縦線集合の面積について、次が示せる:

命題. 区間 [a, b]で定義された函数 f(x), g(x)はこの区間で f(x) ≦ g(x)を満たすとする。このとき、縦線集合

D = {(x, y)| a ≦ x ≦ b, f(x) ≦ y ≦ g(x)}は面積確定であり、次が成り立つ:

m(D) =

∫ b

a

(g(x)− f(x))dx.

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4.2. Riemann 和と積分. 面積 m(D) が定義出来たので、次は「D の分割」と、それを「どんどん細かくして行く」といふ事を定義する。以下で、D や Di は空集合ではないと仮定する。面積確定有界閉集合 Dの分割 ∆ = (D1, . . . , Dn) とは、有限個の面積確定有界閉集合 Di の組であつてD = D1 ∪ · · · ∪Dn, かつ i = j ならばm(Di ∩Dj) = 0 なるものの事である。特に、(D1, . . . , Dn) が D の分割であるとき、「面積の加法性」によりm(D) = m(D1) + · · ·+m(Dn) が成り立つ。

Di の直径 d(Di)とは、Di に属する二点 P,Qの距離の最大値の事である。分割∆ = (D1, . . . , Dn)の直径m(∆)とはmax(d(D1), . . . , d(Dn))の事である。以上の言葉の準備の下、積分(二変数なので二重積分または重積分

とも言ふ)が次の様に定義出来る:

定義. ∫D

f(x, y)dxdy = limd(∆)→0

n∑i=1

f(Pi)m(Di).

ここに、右辺の Pi は Di の(任意の)代表点であり、極限は直径 d(∆)が 0 に収束する様な任意の分割∆ = (D1, . . . , Dn) の列に関するもの14

である。

重積分を∫∫

D

f(x, y)dxdy なる記号で表す事も少なくないが、ここ

では単に∫を用ゐる事にする。

重積分について、次の諸性質が成り立つ(以下で D,E は xy平面内の面積確定有界閉集合、f, g は連続、とする):

命題.

(1)

∫D

(f(x, y) + g(x, y))dxdy =

∫D

f(x, y)dxdy +

∫D

g(x, y)dxdy,

(2)

∫D

cf(x, y)dxdy = c

∫D

f(x, y)dxdy (c は定数),

(3)

∫D∪E

f(x, y)dxdy =

∫D

f(x, y)dxdy+

∫E

f(x, y)dxdy−∫D∩E

f(x, y)dxdy.

(4) D 上 m ≦ f(x, y) ≦ M ならば

m ·m(D) ≦∫D

f(x, y)dxdy ≤ M ·m(D)

(5) m(D) = 0 ならば∫D

f(x, y)dxdy = 0.

14ε-δ 式に書けば、右辺の極限 = S であるとは「どんな ε > 0 に対しても或るδ > 0 を上手く取ると d(∆) < δ である様などんな分割 ∆ = (D1, . . . , Dn) とどんな代表点 Pi ∈ Di に対しても ∣∣∣∣∣

n∑i=1

f(Pi)m(Di)− S

∣∣∣∣∣ < ε

となる事」である。

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実際に重積分を計算するときは次の逐次積分の公式を使ふ事が多い:

命題. D が縦線集合

D = {(x, y)| a ≦ x ≦ b, l(x) ≦ y ≦ u(x)}

(l(x), u(x) は [a, b] 上の連続函数で l(x) ≦ u(x) なるもの) であるとき、∫D

f(x, y)dxdy =

∫ b

a

(∫ u(x)

l(x)

f(x, y)dy

)dx.

[右辺の∫ u(x)

l(x)f(x, y)dy は x の連続函数である事に注意されたい。]

例題. D = {(x, y)| x ≧ 0, y ≧ 0, x+ y ≦ 1} のとき、∫D(1− (x+ y))dxdy =

∫ 1

0(∫ 1−x

0(1− x− y))dy)dx =∫ 1

0[(1− x)y − y2/2]1−x

0 dx =∫ 1

0(1− x)2/2dx = [−(1− x)3/6]10 = 1/6.

平面内の縦線集合の面積のときと同様、3次元の縦線集合の体積は次で与へられる:

命題. xy平面内の面積確定有界閉集合 D 上定義された二つの連続函数f(x, y), g(x, y) (f(x, y) ≦ g(x, y)) のグラフに挟まれた縦線集合

V = {(x, y, z)| f(x, y) ≦ z ≦ g(x, y)}

は体積確定であり、その値は∫D

(g(x, y)− f(x, y))dxdy

で与へられる。

問. a, b, c > 0 とする。次の領域 V の体積を求めよ。

V = {(x, y, z)| x ≧ 0, y ≧ 0, z ≧ 0,x

a+

y

b+

z

c≦ 1}.

4.3. 変数変換公式. 重積分∫D

f(x, y)dxdy を計算するのに

(4.1)

{x = x(s, t)

y = y(s, t)

といふ変数変換をして計算すると便利な事がある。ここでx(s, t), y(s, t)は二変数 s, tの連続微分可能な函数であり、ある面積確定有界閉集合 E上で定義されてゐるとする。また、(s, t) ∈ Eのとき (x(s, t), y(s, t)) ∈ Dであり、この対応

(s, t) 7→ (x(s, t), y(s, t))

は E から D への一対一の上への写像を定めると仮定15する。

15実は厳密に一対一でなくても「殆ど一対一」ならば以下に述べる変数変換公式は成り立つ。

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定義. 変数変換 (4.1) の Jacobi 行列式 (Jacobian) J(s, t) を

J(s, t) = det

(gs(s, t) gt(s, t)hs(s, t) ht(s, t)

)= gs(s, t)ht(s, t)− gt(s, t)hs(s, t)

により定義する。

命題. 上の記号と仮定の下、次が成り立つ:∫D

f(x, y)dxdy =

∫E

f(x(s, t), y(s, t))|J(s, t)|dsdt.

問. D = {(x, y)| 13x2−16xy+5y2 ≤ 1}とする。積分∫D

√4x2 − 4xy + y2dxdy

の値を、変数変換 {x = 2s+ t

y = 3s+ 2t

を使つて求めよ。

次の極座標への変数変換はよく使ふ:

(4.2)

{x = r cos θ

y = r sin θ.

(但し(普通は)r ≧ 0, 0 ≦ θ ≦ 2π とする。)このとき Jacobian は

J = det

(cos θ −r sin θsin θ r cos θ

)= r

であるから、この場合の変数変換公式は∫D

f(x, y)dxdy =

∫E

f(r cos θ, r sin θ)rdrdθ

となる。

例題. 半径 a の球の体積を求めよ。

(略解)D を xy平面内の半径 a の円盤とすると、求める体積は2∫D

√a2 − x2 − y2dxdy. 極座標に変数変換すると

= 2∫ 2π

0

∫ a

0

√a2 − r2rdrdθ = 4π[− 1

3 (a2 − r2)3/2]a0 = 4πa3/3.

最後に重積分の応用として Gauss 積分∫ ∞

−∞e−x2

dx の値を求めよう。

そのために重積分∫R2

e−x2−y2dxdy を二通りに計算する。この積分領域

R2 は有界でないので、広義積分になる。一つ目の計算方法は平面 R2

を原点を中心とする半径R の円盤 CR で近似する方法:∫R2

e−x2−y2dxdy = limR→∞

∫CR

e−x2−y2dxdy

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である。ここで極座標 x = r cos θ, y = r sin θ を使つて変数変換すると、右辺は

(4.3) limR→∞

∫ 2π

0

∫ R

0

e−r2rdrdθ = 2π limR→∞

[−1

2e−r2

]R0

= π

となる。一方、R2 を原点を中心とする一辺の長さが 2Rの正方形DR =[−R,R]× [−R,R] で近似すると、∫

R2

e−x2−y2dxdy = limR→∞

∫DR

e−x2−y2dxdy

である。逐次積分の公式により、右辺は

(4.4) limR→∞

∫[−R,R]

e−x2

dx · limR→∞

∫[−R,R]

e−y2dy =

(∫ ∞

−∞e−x2

dx

)2

となるから、(4.3), (4.4) より∫ ∞

−∞e−x2

dx =√π

となる。

参考文献

[斎藤] 斎藤毅『微積分』(東京大学出版会)[杉浦] 杉浦光夫『解析入門I』(東京大学出版会)[高木] 高木貞治『解析概論』(岩波書店)[三宅] 三宅敏恒『入門微分積分』(培風館)[CW] A. C. チャン、K. ウェインライト『現代経済学の数学基礎』   (上・下)(CAP出版)

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「小テスト」で出題した問題

(1) sin x, εx, log x の定義を述べよ。(2) 次の函数が x = 0 で連続かどうか判定せよ。

f(x) = |x|,

f(x) =

{sin(1x

)(x = 0)

0 (x = 0),

f(x) =

{x sin

(1x

)(x = 0)

0 (x = 0),

(3) 次の函数の導函数を求めよ。

f(x) = x3 + 3x2 + 6x+ 1, g(x) =x3 + 3x

x2 + 1.

(4) y =log x

xの極大・極小を求めよ。

(5) Newton 法で√3 の近似値を求めよ。

(6) 次の函数を 2回微分せよ。

f(x) = abx2

,

g(x) = x log(1 +

a

x

)(a, b は正の実数).

(7) f(x, y) = 2xy/(x2 + y2), (x, y) = (0, 0), を x, y に関し偏微分せよ。

(8) f(x, y) = x3 + y3 − 3xy, x(t) = cos t, y(t) = sin t のとき、g(t) = f(x(t), y(t)) として g′(t) を求めよ。

(9) ∂f∂x(a, b) の定義を lim

∗→∗

∗ ∗ ∗ ∗ ∗∗∗ ∗ ∗ ∗ ∗∗

の形で述べよ。

(10) f(x, y) = x3 + y3 − 3xy の 2次の偏導函数を全て求めよ。(11) f(x, y) = x3 + y3 − 3xy の極値を求めよ。(12) f(x, y) = 1− 2x2 − xy − y2 + 2x− 3y の極値を調べよ。(13) 条件 x2 + y2 = 1, x ≥ 0, の下、函数 f(x, y) = 36x+ 25y3 の最

大最小を求めよ。(14) 条件 x2 + y2 = 2 の下で函数 f(x, y) = y − x の極値を調べよ。(15) 次の不定積分を求めよ:∫

cos(2x)dx,

∫xe−x2

dx.

(16) 微分方程式 y′′ + 3y′ + 2y = 0 を初期条件 y(0) = e, y(1) = 1 の下で解け。

(17) y = xex は微分方程式

y′′ − 2y′ + y = 0

の解である事を確かめよ。また、初期条件

y(0) = 1, y(1) = 2e

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を満たす解を求めよ。(18) 変数分離型の微分方程式

yy′ = cos x sin x

を、初期条件 y(π/2) = 1 の下で解け。(19) D =

{(x, y)

∣∣ 0 ≦ x ≦ π

2, −x ≦ y ≦ x

}のとき、重積分∫

D

cos ydxdy

の値を求めよ。