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付値環を用いた数論と代数幾何学
内容の概略 ここでは簡単のために、数論とは有理整数環上分離有限型な整スキームとその関数体の理論を意味するものとし、代数幾何学とは代数閉体上分離有限型な整スキームとその関数体の理論を意味するものとする。スキームに関するものを双正則理論あるいは幾何学的理論といい、関数体に関するものを双有理理論あるいは代数学的理論という。 付値環のつくる局所環空間を用いて数論と代数幾何学を研究すること、特に双有理理論を考察することが本稿の主な内容である。またこれらの共通の一般化として、ネター整環上分離有限型な整スキームとその関数体の理論、整閉整環上分離有限型な整スキームとその関数体の理論、ヒルベルト整環上分離有限型な整スキームとその関数体の理論、等々も考察の対象としたい。 体 K とその部分環 A に対して、A を含む K の付値環の全体を Zar(K|A)と表す。これは局所環空間の構造をもつ。 整環 Aを固定するとき、Aを含む体 K のつくる圏と局所環空間 Zar(K|A)のつくる圏とは反同値となる。従って K/A の研究は Zar(K|A) の研究に帰着される。 ネター整環 A とその商体上有限生成な拡大体 K および K を関数体とする SpecA 上固有な整スキーム X に対して、局所環空間の射
ΦX : Zar(K|A) −→ X
が定義される。連続写像 ΦX は全射かつ閉写像であり、また付随する層の射Φ ♯X が同形であるための必要十分条件は X が正規となることである。従って
K を関数体とする SpecA 上固有な正規整スキーム X は Zar(K|A) の商局所環空間として表される。同様に K を関数体とする SpecA 上分離有限型な正規整スキームが Zar(K|A) のある開集合の商局所環空間となることも解る。さらに Zar(K|A) は K を関数体とする SpecA 上固有な整スキームの射影極限となることも示される。p 以上により数論や代数幾何学に関するいくつかの考察が、少なくとも原理的には、付値環のつくる局所環空間とその商局所環空間の研究に帰着されることが解る。例えば k を完全体、K をその有限生成な拡大体とするとき、K を関数体とする Spec k 上固有な整スキームのつくる圏で常に特異点の解消が可能であるための必要条件が Zar(K|k) の言葉で記述できる。このようなことの徹底的追求がこの稿の具体的な内容である。
次に各章ごとの概要を述べる。第 0章から第 3章までは準備であり、予備知識の確認と整理を兼ねている。
第 0章. カテゴリー論 この章では圏、関手、自然変換の定義と基本的な性質および後に必要となる例を挙げる。
0.1. 圏0.2. 関手0.3. 自然変換
第 1章. 順序集合論1.1. 順序集合と順序写像1.2. 順序単射
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1.3. 全順序集合1.4. Zornの補題1.5. 順序群
第 2章. 位相空間論2.0. 準備2.1. 既約空間2.2. 共変関手 t : (Top.) → (Top.)2.3. 自然変換 α : id(Top.) → t
2.4. 生成点と閉点2.5. 既約成分2.6. ヒルベルト位相空間2.7. 次元2.8. ネター空間2.9. 位相群2.10. 位相環と位相体
第 3章. 可換環論3.1. 反変関手 Spec : (Rings) → (Sets)3.2. 素イデアルと乗法系3.3. 準素イデアル3.4. 形式的無限級数3.5. A 加群の性質3.6. 整拡大と整閉整環3.7. 局所環3.8. 付値環・プリューファー環3.9. ヒルベルト環3.10. クルル次元3.11. ネター環3.12. 分数イデアルとイデアル群3.13. DVR・デデキント環3.14. 正則局所環3.15. 完備化3.16. 体論3.17. Witt ベクトル
第 4章. 代数的世界から位相的世界への架け橋4.1. ラディカルイデアルとザリスキ位相4.2. 反変関手 Spec : (Rings) → (Top.)4.3. 写像 Specφ : SpecB → SpecA の性質4.4. 幾何学的素因子4.5. 代数学的素因子とイデアルの分解4.6. SubA(N)4.7. 関手 Loc : (Fields) → (Top.)4.8. 反変関手 Zar : (P.Fields) → (Top.)4.9. Zar と Spec
第 5章. 前層と層の理論5.1. 前層と層の定義
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5.2. 層化5.3. Intersection Sheaf5.4. 前層の押し出しと引き戻し
第 6章. 環空間と局所環空間6.1. 定義と例6.2. 環空間に関するいくつかの条件6.3. 反変関手 Γ : (R.S.) → (Rings)6.4. 反変関手 Rat : (R.S.; dom) → (Rings)6.5. 共変関手 t : (R.S.) → (R.S.)6.6. 埋入と商空間6.7. 環空間上の加群層
第 7章. アフィンスキーム7.1. 反変関手 Spec : (Rings) → (L.R.S.)7.2. 自然変換 π : id(L.R.S.) → Spec Γ7.3. 条件 (∗)7.4. 写像のつくる層7.5. 条件 (∗∗)7.6. 加群に付随するアフィンスキーム上の前層
第 8章. スキーム8.1. スキームの定義とその性質8.2. 射影スキーム8.3. 分離性と固有性8.4. スキーム上の連接層8.5.
第 9章. ザリスキ環空間9.1. 反変関手 Zar : (P.Fields) → (L.R.S.)9.2. Zar と Spec9.3. プリューファー環とデデキント環9.4. ヒルベルト環9.5. 付値論的分離性、付値論的固有性9.6. 永田の定理9.7. 集合 Zar(K|A) の要素の分類9.8. 付値環のつくる局所環空間の直積
第 10章. 代数多様体10.1. アフィン多様体10.2. 射影多様体10.3. 代数多様体
第 11章. 高次元代数的三位一体論11.1. K/A と Zar(K|A) の反同値性11.2. Zar(K|A) と Zar(K|A)cl の同値性11.3. Zar(K|A) の商空間11.4. 正則微分型式11.5.
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第 12章. 多変数代数関数体の理論12.1. 付値環を用いた特異点の分類および特異点の解消12.2. 多重種数の性質、小平次元、余接次元の定義と性質12.3. 一変数代数関数体の理論、特にリーマン・ロッホの定理12.4. 一変数代数関数体のアーベル拡大、特に p拡大の類対論12.5.
第 13章. 高次元大域体の理論 類体論とその一般化。特に準有限体を係数体とする多変数代数関数体の類体論(守屋美賀雄の夢)とその局所理論の構成。また関連事項として準有限体を係数体とする多変数冪級数体の類体論の構成。Zar K に対するアラケロフ理論の類似(付値環に対応しない実付値の処理)。双有理不変ゼータ関数の定義とその性質(ラングランズ哲学の双有理版)。
第 14章. 既約方程式系の双有理理論 方程式系の捉え方の三段階論(ヴェイユ:零点集合、グロタンディック:スキーム、この稿:付値環のつくる局所環空間)。 二段階の本地垂迹(商空間と値点)。 例. ガロアの理論、一次方程式系、谷山・志村予想。
参 考 文 献
集合・位相・位相群
[1] 松坂和夫、集合・位相入門、岩波書店 (1968).[2] 森田紀一、位相空間論、岩波全書 331 (1981).[3] ポントリヤーギン、連続群論(上、下)岩波書店 (1957-1958).(柴岡泰光、杉浦光夫、宮崎功 共訳)
可換環論
[1] 河田敬義、ホモロジー代数 I, II,岩波基礎数学講座 (1976-1977).[2] 藤崎源二郎、体とガロア理論、岩波基礎数学講座 (1977-1978).[3] 松村英之、可換環論、共立出版 (1980).[4] 永田雅宜、可換環論、紀伊国屋出版 (1974).[5] 山崎圭次郎、環と加群 I, II, III,岩波基礎数学講座 (1976-1978).[6] ブルバキ、数学原論、可換代数 1,2,3,4, 東京図書 ().[7] M.F. Atiyah, I.G. Macdonald, Introduction to Commutative
Algebra, Addison-Wesley Publishing Company (1969).[8] L. Gillman, M. Jerison, Rings of Continuous Functions,
Springer-Verlag (1960).[9] R. Gilmer, Multiplicative Ideal Theory, Marcel Dekker, INC.
(1972).[10] I. Kaplansky, Commutative Rings, Allyn and Bacon, INC.,
Boston (1970).[11] S. Komoto, T. Watanabe, Presheaves associated to mod-
ules over subrings of Dedekind domains, Tokyo J. Math. 22(1999), 341-351.
[12] K. Sekiguchi, Prufer domain and affine scheme, Tokyo J.Math. 13 (1990), 259-275.
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[13] K. Sekiguchi, On presheaves associated to modules, TokyoJ. Math. 21 (1998), 49-59.
[14] K. Sekiguchi, S. Komoto, T. Watanabe, Sheaf-theoretic char-acterizations of Hilbert rings, in preparation.
[15] K. Sekiguchi, On valuative regularity, in preparation.[16] O. Zariski, P. Samuel, Commutative Algebra I, II, Springer-
Verlag (1960).
代数幾何学
[1] 堀川頴二、複素代数幾何学、岩波書店 (1990).[2] 飯高茂、代数幾何学、岩波講座 基礎数学、岩波書店 (1976-
1977).[3] 飯高茂、上野健爾、浪川幸彦、デカルトの精神と代数幾何 [増補版]、日本評論社 (1993).
[4] 岩沢健吉、代数函数論、岩波書店 (1952).[5] 河田敬義、代数曲線論入門、至文堂 (1968).[6] 宮西正宜、代数幾何学、裳華房 (1990).[7] 永田雅宜、宮西正宜、丸山正樹、抽象代数幾何学、共立出版株式会社 (1972).
[8] D. Eisenbud, J. Harris, Schemes : The Language of ModernAlgebraic Geometry, Wadsworth and Brooks/Cole Mathe-matics Series (1992).
[9] R. Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer-Verlag (1977).[10] S. Iitaka, Algebraic Geometry, Springer-Verlag (1982).[11] F. Sakai, Symmetric powers of the cotangent bundle and clas-
sification of algebraic varieties, Lecture notes in mathematics732 Algebraic Geometry, 545-563, Springer-Verlag (1978).
[12] K. Sekiguchi, Ringed spaces of valuation rings and projectivelimits of schemes, Tokyo J. Math. 16 (1993), 191-203.
[13] K. Sekiguchi, Differential forms on ringed spaces of valuationrings, Tokyo J. Math. 18 (1995), 133-145.
[14] K. Sekiguchi, Ringed spaces of valuation rings over Hilbertrings, Tokyo J. Math. 18 (1995), 425-435.
[15] O. Zariski, Collected papers, Vol I, MIT press (1972).
数論
[1] 弥永昌吉(編)、数論 [現代数学 10]、岩波書店 (1969).[2] 河田敬義、関口晃司、標数 p の局所類体論、上智大学数学講究録 30 (1989).
[3] K. Kanesaka, K. Sekiguchi, Representation of Witt vectorsby formal power series and its applications, Tokyo J. Math.2 (1979), 349-370.
[4] K. Kato, A generarization of class field theory by using K-groups I, II, III, J. Fac. Sci. Univ. Tokyo, I ; 26 (1979),303-376. II ; 27 (1980), 603-683. III ; 29 (1982), 31-43.
[5] K. Kato, S. Saito, Global class field theory of arithmeticschemes, Contemporary Math. 55, I, (1986), 255-331.
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[6] Y. Kawada, I. Satake, Class formations II, J. Fac. Sci. Univ.Tokyo, 7 (1956), 353-389.
[7] S. Lang, Unramified class field theory over function fields inseveral variables, Annals of Math. 64 (1956), 285-325.
[8] K. Sekiguchi, Class field theory of p-extensions over a formalpower series field with a p-quasifinite coefficient field, TokyoJ. Math. 6 (1983), 167-190.
[9] K. Sekiguchi, The Lubin-Tate theory for formal power se-ries fields with finite coefficient fields, J. Number Theory 18(1984), 360-370.
[10] K. Sekiguchi, On abelian p-extensions of formal power seriesfields, Tokyo J. Math. 27 (2004), 493-518.
[11] J.P. Serre, Local fields, Springer-Verlag (1979).
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第 0章. カテゴリー論この章では圏、関手、自然変換の定義と基本的な性質をまとめ、後に必要
となる例をいくつか挙げる。
0.1. 圏圏 C とは、次の無定義用語 : object, morphism, composition およびそれ
らに関する公理系より成る概念である。
(o) C の object と呼ばれるものが決まる。
(m) C の object X, Y に対して、集合 MorC(X,Y ) が決まる。このときf ∈ MorC(X,Y ) を C の morphism といい f : X → Y と表す。
(c) C の object X, Y , Z に対して、写像
MorC(X,Y )×MorC(Y, Z) −→ MorC(X,Z)
∈ ∈
(f, g) 7−→ g fが決まる。このとき morphism g f : X → Z を morphism f : X → Yと g : Y → Z との composition という。
これらに関して次の公理をおく:
(a.1) C の object W , X, Y , Z と morphism f : W → X, g : X → Y ,h : Y → Z に対して
h (g f) = (h g) fが成り立つ。
(a.2) C の任意の object X に対し morphism 1X : X → X が存在して、C の任意の object W , Y と morphism f :W → X, g : X → Y に対して
1X f = f, g 1X = g
が成り立つ。
即ち圏を具体的に定義するためには、条件 (a.1), (a.2) が成り立つようにobject, morphism, composition を定めてやればよい。以下では集合と写像の言葉を用いて構成可能な圏のみを扱う。このような圏が 20世紀の数学の主な研究対象であった。
注意. (i) 圏 C の object の全体を ob C と書くことがある。一般に ob C は集合にはならなくてもよい。また (a.2) の 1X は X に対して一意的に定まることにも注意する。
(ii) 圏の公理に
(a.3) C の object X1, X2, Y1, Y2 に対して
MorC(X1, Y1) ∩MorC(X2, Y2) = ∅ =⇒ X1 = X2, Y1 = Y2
が成り立つ。
を追加することもあるが、ここではこれを仮定しないこととする。
例 1. (1) 集合を object, 写像を morphism, 写像の合成を composition として圏が定義される。これを集合と写像のつくる圏といい (Sets) と表す。以下に現れる圏の composition はすべて写像の合成であるからこれについ
ては略す。1
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(2) 順序集合を object, 順序写像を morphism として定義される圏を(Ord.Sets) と表す。
(3) 位相空間を object,連続写像を morphismとして定義される圏を (Top.)と表す。
(4) 群を object, 群準同形を morphism として定義される圏を (Groups)と表す。同様に可換群を object とする圏を (C.Groups) と表す。
(5) 単位元をもつ可換環を object, 単位元を単位元に移す環準同形を mor-phism とする圏を (Rings) と表す。環 A の零因子の全体を Z(A) と書く。即ち
Z(A) = a ∈ A | ∃b ∈ A, b = 0, ab = 0
と表す。環 A は Z(A) = 0 となるならば整であるといわれる。整環と単射環準同形のつくる圏を (I.Rings ; inj) と表す。また、環 A のイデアル p は剰余環 A/p が整であれば素イデアルであるといわれる。環 A の素イデアルの全体を SpecA と書く。環 A の可逆元の全体を A の単元群といい UA または A× と書く。即ち
UA = a ∈ A | ∃b ∈ A, ab = 1
と表す。環 A は UA = A−0 となるならば体であるといわれる。体と環準同形のつくる圏を (Fields) と表す。また、環 A のイデアル m は剰余環 A/mが体であれば極大イデアルであるといわれる。環 A の極大イデアルの全体をm.SpecA と書く。環 A は集合 m.SpecA が一点より成るならば局所環であるといわれる。局所環の間の環準同形 φ : A → B は φ−1(m(B)) = m(A) となるならば局所的であるといわれる。ここで m(A) は局所環 A の唯一の極大イデアルを表す。局所環と局所的環準同形のつくる圏を (L.Rings) と表す。
(6) 環 A に対して、A加群と A加群準同形のつくる圏を (A-Mod.) と表す。A が有理整数環 Z の場合 (A-Mod.) は単に (Mod.) と書かれる。A加群 M のトーションパートを Mtor と書く。即ち
Mtor = x ∈M | ∃a ∈ A− Z(A), ax = 0
と表す。このとき Mtor は M の部分A加群となる。従って、A加群
Mt.f =M/Mtor
も定義される。
(7) 環 A に対して、A多元環のつくる圏を (A-Rings) と表す。
(8) 位相群のつくる圏を (Top.Groups) と表す。また、可換な位相群のつくる圏を (Top.C.Groups) と表す。
圏 C, C′ が次の 3条件を満たすならば、C′ は C の部分圏であるといわれる:(i) C′ の object はすべて C の object である。
(ii) C′ の object X, Y に対して MorC′(X,Y ) ⊂ MorC(X,Y ) となる。
(iii) C′ の object X, Y , Z に対して、(c) で定められた写像:
MorC′(X,Y )×MorC′(Y, Z) −→ MorC′(X,Z)
は写像:MorC(X,Y )×MorC(Y,Z) −→ MorC(X,Z)
の制限となる。即ち、C′ の composition は C の composition と一致する。2
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特に (ii) でMorC′(X,Y ) = MorC(X,Y )
となるならば、C′ は C の full subcategory であるといわれる。
例 2. (1) (C.Groups) は (Groups) の full subcategory である。
(2) (Fields) は (L.Rings) の full subcategory であり、(I.Rings ; inj) のfull subcategory でもある。
(2′) (L.Rings) は (Rings) の部分圏であるが full subcategory ではない。
(3) (Top.) は (Sets) の部分圏ではない。
C1, C2 を圏 C の部分圏とする。このとき、圏 C1 の object でありかつ圏 C2の object でもあるものを object とし、 C1 の morphism でありかつ C2 のmorphism でもあるものを morphism とすることにより定義される C の部分圏を C1 と C2 の共通部分といい C1 ∩ C2 と表す。
圏 C の morphism f : X → Y は g f = 1X , f g = 1Y となる morphismg : Y → X が存在するならば isomorphism であるといわれる。C の objectX, Y に対して isomorphism f : X → Y が存在するならば、X と Y は同形であるといわれ X ∼= Y と表される。これは ob C の同値関係となる。この同値類、即ち ob C/∼= の要素を C に付随する構造という。
例 3. 圏 (Sets) の isomorphism とは全単射のことである。従って (Sets)に付随する構造とは基数 (= 濃度)のことである。圏 (Ord.Sets) に付随する構造を順序構造、圏 (Top.) に付随する構造を位相構造、圏 (Groups) に付随する構造を群構造、圏 (Rings) に付随する構造を環構造という。
注意. ob C/∼= を具体的に表せ、という問題を Moduli 問題という。
圏 C の object X から X 自身への isomorphism の全体を AutC(X) と書く。これは composition により群となり X の自己同形群と呼ばれる。
圏 C の morphism f : X → Y は、C の任意の morphism u, v : Y → Z に対して
u f = v f =⇒ u = v
が成り立つならば、epimorphism であるといわれる。圏 C の morphism f : X → Y は、C の任意の morphism u, v :W → X に
対してf u = f v =⇒ u = v
が成り立つならば、monomorphism であるといわれる。f が isomorphism であれば epimorphism でありかつ monomorphism で
ある。しかし一般に逆は成り立たない。
例 4. 集合 R, R2 を通常の位相で位相空間とし
X = [0, 2π), Y = (x, y) ∈ R2 | x2 + y2 = 1
にその相対位相を導入する。このとき、写像
f :X −→ Y
∈ ∈
t 7−→ (cos t, sin t)
は epimorphismでありかつmonomorphismであるが isomorphismではない。3
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例 5. (1) 圏 (Sets) では
epimorphism ⇐⇒ 全射
monomorphism ⇐⇒ 単射
が成り立つ。圏 (Top.) でも同様である。
(2) 位相空間の射 f : X → Y は f(X) = Y が成り立つならば dominantであるといわれる。このとき、T2位相空間と連続写像のつくる圏では
epimorphism ⇐⇒ dominant
が成り立つ。
圏 C の object i は、C の任意の object X に対して MorC(i,X) が一点集合となるならば、initial であるといわれる。圏 C の object f は、C の任意の object X に対して MorC(X, f) が一点集
合となるならば、final であるといわれる。initial object は存在しないこともある。もし存在すればすべて同形である。
final object についても同様である。
例 6. (1) 圏 (Sets) の initial object は空集合、final object は一点集合である。圏 (Top.) でも同様である。
(2) 圏 (Groups) では単位群が initial object かつ final object となる。(3) 圏 (Rings) では整数環が initial object, 零環が final object である。圏
(Fields) には initial object も final object も存在しない。標数を決めておけば素体が initial object となる。
圏 C の object S をひとつ固定する。このとき、C の object X と C のmorphism f : X → S との対 (X, f) を object とし、条件 f = g φ を満たす C の morphism φ : X → Y を morphism : (X, f) → (Y, g) とすることにより定義される圏を C/S と書く。(S, 1S) は C/S の final object となる。同様に、矢印の向きを反対にして圏 S/C が定義される。例 7. C = (Rings) で S が環 A であれば、S/C は (A-Rings) に等しい。即
ち A/(Rings) = (A-Rings) となる。
注意. 一般に、圏 C/S は圏の追加公理 (a.3) を満たさない。
0.2. 関手圏 C1 から C2 への共変関手 T : C1 → C2 とは、次の無定義用語:object対
応、morphism対応およびそれらに関する公理系より成る概念である。
(o) C1 の object X に対して C2 の object TX が決まる。これを object対応という。
(m) C1 の morphism f : X → Y に対して C2 の morphism
Tf : TX −→ TY
が決まる。即ち C1 の object X, Y に対して、写像
T : MorC1(X,Y ) −→ MorC2(TX, TY )
が定まる。これをmorphism対応という。
これらに関して次の公理をおく:4
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(a.4) C1 の morphism f : X → Y , g : Y → Z に対して
T (g f) = Tg Tfが成り立つ。
(a.5) C1 の任意の object X に対して
T (1X) = 1TX
が成り立つ。
圏 C1 から C2 への反変関手 T : C1 → C2 とは、次の無定義用語:object対応、morphism対応およびそれらに関する公理系より成る概念である。
(o) C1 の object X に対して C2 の object TX が決まる。これを object対応という。
(m) C1 の morphism f : X → Y に対して C2 の morphism
Tf : TY −→ TX
が決まる。即ち C1 の object X, Y に対して、写像
T : MorC1(X,Y ) −→ MorC2(TY, TX)
が定まる。これをmorphism対応という。
これらに関して次の公理をおく:
(a.6) C1 の morphism f : X → Y , g : Y → Z に対して
T (g f) = Tf Tgが成り立つ。
(a.7) C1 の任意の object X に対して
T (1X) = 1TX
が成り立つ。
例 1. (1) 圏 C の object, morphism に対してそれ自身を対応させることにより定義される共変関手を C の恒等関手といい idC と表す。
(2) forgetful functor : 例えば、順序集合の順序構造を忘れることにより共変関手 : (Ord.Sets) → (Sets) が定義され、位相空間の位相構造を忘れることにより共変関手 : (Top.) → (Sets) が定義され、群の群構造を忘れることにより共変関手 : (Groups) → (Sets) が定義される。また、乗法を忘れることにより共変関手 : (Rings) → (Mod.) が定義され
る。さらに、圏 C とその object S に対して、S への morphism を忘れることにより共変関手 : C/S → C が定義される。
(3) 圏 C とその object X を固定する。C の object Y に対し
hXY = MorC(X,Y )
とおき、C の morphism f : Y1 → Y2 に対し写像
MorC(X,Y1) −→ MorC(X,Y2)hXf = f∗ : ∈ ∈
g 7−→ f g
を定めれば、共変関手 hX : C → (Sets) が定義される。5
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同様に、C の object W に対し
hXW = MorC(W,X)
とおき、C の morphism f :W1 →W2 に対し写像
MorC(W2, X) −→ MorC(W1, X)hXf = f∗ : ∈ ∈
g 7−→ g f
を定めれば、反変関手 hX : C → (Sets) が定義される。
(4) 環 A, B と環準同形 f : A → B を固定する。A 加群 M に対してTM = B ⊗AM とおき、A加群準同形 φ :M → N に対して Tφ = 1B ⊗A φとおくことにより、共変関手 T : (A-Mod.) → (B-Mod.) が定義される。これを A から B への係数拡大という。
(4′) 環 A と A の乗法系 S を固定すれば、共変関手 S−1 : (A-Mod.) →(S−1A-Mod.) が定義される。A加群 M に対して S−1M ∼= S−1A ⊗A M となるから、関手 S−1 は係数拡大の一例である。また、関手 S−1 は完全であるから S−1A は平坦A加群となる。平坦性については第 3章 (3.5) を参照のこと。
(5) 環 A に対し A の単元群 UA = A× を対応させることにより、共変関手 U : (Rings) → (C.Groups) が定義される。
(6) n を自然数とする。局所環 A に対し U (n)A = 1 +m(A)n とおくことにより、共変関手 U (n) : (L.Rings) → (C.Groups) が定義される。
(7) 局所環 A に対し r(A) = A/m(A) とおくことにより、共変関手 r :(L.Rings) → (Fields) が定義される。
(8) 環 A は A = UA ∪ Z(A) が成り立つならば全商環であるといわれる。環準同形 φ : A → B は φ−1(Z(B)) ⊂ Z(A) となるならば fractional であるといわれる。QA = (A−Z(A))−1A とおくことにより、環と fractional な環準同形のつくる圏から全商環のつくる圏への共変関手 Q が定義される。これを制限すれば、共変関手 Q : (I.Rings ; inj) → (Fields) が得られる。環 A が整であれば QA = (A− 0)−1A を A の商体という。
(9) 整環 A に対し A のイデアル群を対応させることにより、共変関手I : (I.Rings ; inj) → (C.Groups) が定義される。イデアル群については第 3章 (3.12) を参照のこと。
(10) 環 A を任意にとり固定する。A加群 M に対し A加群 Mtor を対応させることにより、共変関手:(A-Mod.) → (A-Mod.) が定義される。同様に、A加群 M に対し A加群 Mt.f を対応させることにより、共変関手:(A-Mod.) → (A-Mod.) が定義される。
共変関手 T : C1 → C2 は、C1 の任意の object X, Y に対して写像 T :MorC1(X,Y ) → MorC2(TX, TY ) が全射となるならば、full であるといわれる。反変関手についても同様に定義される。
共変関手 T : C1 → C2 は、C1 の任意の object X, Y に対して写像 T :MorC1(X,Y ) → MorC2(TX, TY ) が単射となるならば、faithful であるといわれる。反変関手についても同様に定義される。
共変関手 T : C1 → C2 は、C1 の任意の object X, Y に対して写像 T :MorC1(X,Y ) → MorC2(TX, TY ) が全単射となるならば、full and faithful であるといわれる。反変関手についても同様に定義される。
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例 2. (1) 圏 C の恒等関手 idC : C → C は full and faithful である。(2) forgetful functor : (Top.) → (Sets) は faithful であるが fullではない。(3) 共変関手 T : (Mod.) → (Mod.) を全ての加群 M に対して TM = 0
とおくことにより定める。このとき、関手 T は full であるが faithful ではない。
(4) A = Z, S = Z − 0 とおく。このとき、例 1, (4′) で定義された共変関手 S−1 : (A-Mod.) → (S−1A-Mod.) は full でも faithful でもない。
(5) 例 1, (5) で定義された共変関手 U : (Rings) → (C.Groups) は full でも faithful でもない。
関手 T : C1 → C2 と関手 S : C2 → C3 に対して、関手 S T : C1 → C3 がobject対応および morphism対応の合成により定義される。S, T が共に共変関手であれば S T も共変関手となる。S, T が共に反変関手であれば S Tは共変関手となる。それ以外であれば S T は反変関手となる。圏 C1 と C2 は、S T = idC1 かつ T S = idC2 となる共変関手 T : C1 → C2
と S : C2 → C1 が存在するならば、同形であるといわれる。S, T が共に反変関手であれば反同形であるといわれる。
例 3. 圏 C が initial object i をもてば C と i/C とは同形となる。同様に圏 C が final object f をもてば C と C/f とは同形となる。例 4. 離散位相の入った位相空間のつくる圏を (Top∗.) と表し、密着位相の
入った位相空間のつくる圏を (Top∗.) と表す。このとき、圏 (Sets), (Top∗.),(Top∗.) はすべて同形である。
0.3. 自然変換圏 C1 から C2 への共変関手 S, T : C1 → C2 が与えられたとする。このと
き、C1 の各 object X に C2 の morphism ΦX : SX → TX を対応させる規則(機能)Φ は、条件
f ∈ MorC1(X,Y ) =⇒ Tf ΦX = ΦY Sfを満たすならば、S から T への自然変換であるといわれ Φ : S → T と表される。S, T が共に反変関手であるときも同様に自然変換 Φ : S → T が定義される。
共変関手 R, S, T : C1 → C2 および自然変換 Φ : R → S, Ψ : S → T に対して、自然変換 Ψ Φ : R → T が (Ψ Φ)X = ΨX ΦX により定義される。これを Φ, Ψ の合成と呼ぶ。R, S, T : C1 → C2 がすべて反変関手であるときも同様に自然変換 Ψ Φ : R→ T が定義される。
例 1. 共変関手 U Q, I : (I.Rings ; inj) → (C.Groups) に対して、自然変換 Φ : U Q→ I が、整環 A に対して
(QA)× −→ IAΦA : ∈ ∈
x 7−→ xA
と定めることにより定義される。このとき
CI(A) = Coker ΦA = IA/Im ΦA
を整環 A のイデアル類群という。7
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自然変換 Φ : S → T は、C1 の任意の object X に対して ΦX : SX → TXが C2 の isomorphism となるならば、自然同形であるといわれる。
圏 C1 と C2 は、関手 S T と idC1 の間に自然同形があり関手 T S と idC2の間に自然同形があるような共変関手 T : C1 → C2 と S : C2 → C1 が存在するならば、同値であるといわれる。S, T が共に反変関手であるときは反同値であるといわれる。
例 2.(三位一体論)次の 3つの圏C1:C 上の 1変数代数関数体とその有限次拡大のつくる圏C2:C 上の非特異完備代数曲線と定数ではない正則写像のつくる圏C3:コンパクトリーマン面と定数ではない複素解析的写像のつくる圏を考える。このとき、C2 と C3 は同値、C1 と C2 および C1 と C3 は反同値となる。
圏 C の object に関する条件 P を固定する。共変関手 T : C → C と自然変換 Φ : idC → T が次の 2条件:
(a) C の任意の object X に対して TX は P を満たす
(b) C の任意の object X に対して
X は P を満たす ⇐⇒ ΦX : X → TX は isomorphism
が成り立つ
を満たすならば、対 (T,Φ) は圏 C の P 化であるといわれる。ここで idC は圏 C の恒等関手を表す。自然変換 Φ : T → idC に対しても同様である。前者を type 1, 後者を type 2 ということにする。
例 3. (type 1)
(1) 群 G に対して、TG = G/[G : G] とおき、ΦG : G → TG を標準的全射とすれば、(T,Φ) は群のアーベル化となる。
(2) 環 A に対して、TA = A/nil(A) とおき、ΦA : A→ TA を標準的全射とすれば、(T,Φ) は環の被約化となる。
(3) 整環Aに対して、AのQAにおける整閉包を TAと書き、ΦA : A→ TAを標準的単射とすれば、(T,Φ) は整環の正規化となる。
(4) 整環 A に対して、TA = QA とおき、ΦA : A → TA を標準的単射とすれば、(T,Φ) は整環の体化となる。
(5) 局所環 A に対して、TA = A/m(A) とおき、ΦA : A → TA を標準的全射とすれば、(T,Φ) は局所環の体化となる。
(6) A加群 M に対して、TM = Mt.f とおき、ΦM : M → TM を標準的全射とすれば、(T,Φ) はA加群のトーションフリー化となる。
(7) 位相群 G に対して、TG = G/e とおき、ΦG : G→ TG を標準的全射とすれば、(T,Φ) は位相群の分離化となる。
(8) 距離空間 X の距離関数を d と書き、X のコーシー列の全体を C(X)と表す。このとき、x = (xn)
+∞n=1, y = (yn)
+∞n=1 ∈ C(X) に対して
x ∼ y ⇐⇒ limn→+∞
d(xn, yn) = 0
により関係 ∼ を定義すれば、これは C(X) の同値関係となる。さらに、商集合 X = C(X)/∼ は距離空間となる。このとき、距離空間 X に対して、
8
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TX = X とおき、写像 ΦX : X → TX を ΦX(x) = (x, x, x, · · · )(定点列の属する類)と定めれば、(T,Φ) は距離空間の完備化となる。
例 4. (type 2)
(1) 環 A を任意にとり固定する。A加群 M に対して、TM =Mtor とおき、ΦM : TM → M を標準的単射とすれば、(T,Φ) は A加群のトーション化となる。
(2) 素数 p を任意にとり固定する。加群 M に対して
M (p) = x ∈M | ∃n ∈ N, pnx = 0
とおけば、M (p) はM の部分加群となる。これを加群M のトーション pパートという。このとき、加群M に対して、TM =M (p) とおき、ΦM : TM →Mを標準的単射とすれば、(T,Φ) は加群のトーション p化となる。
Universal mapping property.universal mapping property をもつ object を圏の initial object や final
object としてとらえることができる。
例 5. 直積、剰余環、分数環、テンソル積、外積、ケーラー微分加群、帰納極限、射影極限、等。
注意. (i) 圏 C の object の全体 ob C が集合となるならば、圏 C は smallcategory であるといわれる。
(ii) 圏 C1, C2 がどちらも small category であるとする。このとき、共変関手 T : C1 → C2 の object 対応は写像
T : ob C1 −→ ob C2で表される。
(iii) 圏 C1 が small category であるとする。このとき、関手 S から T への自然変換 Φ : S → T は条件 Tf ΦX = ΦY Sf
(∀f ∈ MorC1(X,Y ))を
満たす写像Φ : ob C1 −→ MorC2(SX, TX)
に他ならない。
例 6. 集合 X の部分集合を object とし、X の部分集合 U , V に対し
MorC(U, V ) =
iU,V (U ⊂ V のとき)
∅ (U ⊂/ V のとき)
と定めれば small category C が定義される。ここで iU,V : U → V は標準的単射である。これを X の部分集合のつくる圏といい P(X) と表す。このとき、X は P(X) の final object となるから、P(X) を (Sets/X) の部分圏とみなすことができる。
例 7. 位相空間 X の開集合を object とし、X の開集合 U , V に対し
Moropen(X)(U, V ) =
iU,V (U ⊂ V のとき)
∅ (U ⊂/ V のとき)
と定めれば small category open(X)が定義される。このとき、X は open(X)の final object となるから、open(X) を (Top./X) の部分圏とみなすことができる。
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例 8. 測度論では、可測関数の合成が可測関数にはならない例が示されている。従って、可測集合を object, 可測関数を morphism, 可測関数の合成をcomposition として圏を定義することはできない。
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第 1章. 順序集合論この章では順序集合の基本的な性質について述べる。
1.1. 順序集合と順序写像順序集合と順序写像の定義を既知とする。順序集合と順序写像のつくる圏を (Ord. Sets) と表す。
例 1. 集合 Z, Q, R はすべて通常の大小関係により順序集合となる。例 2. 集合 X の部分集合の全体 P(X) は通常の包含関係により順序集合
となる。
最大元、最小元、極大元、極小元の定義と基本的な性質を既知とする。上界、下界、上限、下限についても同様である。順序集合 (A, ≦) に対して、関係 ≦−1 を
a ≦−1 b ⇐⇒ b ≦ a (a, b ∈ A)
により定義すれば、≦−1 は A の順序となる。これを ≦ の双対順序といい、(A, ≦−1) を (A, ≦) の双対順序集合という。
1.2. 順序単射(A, ≦), (A′, ≦′) を順序集合とする。写像 f : A→ A′ は、任意の a, b ∈ A
に対してa ≦ b ⇐⇒ f(a) ≦′ f(b)
が成り立つならば、順序単射であるといわれる。
例 1. 順序集合 Z, Q, R の間の包含写像はすべて順序単射となる。注意. 順序単射は順序写像かつ単射となるが、逆は成り立たない。
例 2. 正の整数の全体 A に通常の大小関係 ≦ と整除関係 ≦′ を導入する。このとき、集合 A の恒等写像 (A, ≦′) → (A, ≦) は順序写像かつ単射であるが順序単射ではない。
1.3. 全順序集合順序集合 (A, ≦) は、任意の a, b ∈ A に対して
a ≦ b または b ≦ a
が成り立つならば、全順序であるといわれる。
例 1. 集合 Z, Q, R はすべて通常の大小関係により全順序集合となる。例 2. 集合 X の部分集合の全体 P(X) が包含関係により全順序集合とな
るための必要十分条件は cardX ≦ 1 である。
例 3. 順序集合 (A, ≦) が全順序であることと (A, ≦−1) が全順序であることは同値である。
1.4. Zornの補題とNoetherの条件
補題 1. (A, ≦) を順序集合とする。このとき、(A, ≦) の任意の全順序部分集合が上に有界であれば (A, ≦) は極大元をもつ。
注意. 補題 1を Zorn の補題という。1
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補題 2. 順序集合 (A, ≦) に関する次の 2条件:(a) A の要素 ai (i = 1, 2, 3, · · · ) に対して
a1 ≦ a2 ≦ a3 ≦ · · · =⇒ ∃i0 ∈ N, ∀i ≧ i0, ai0 = ai
が成り立つ
(b) A の部分集合は空でなければ極大元をもつは同値である。
注意. 補題 2の条件 (a), (b) を Noether の条件という。
1.5. 順序群集合 M の 2項演算 · と関係 ≦ が次の 3条件:
(a) (M, · ) は可換群(b) (M, ≦ ) は全順序集合(c) x, y, z ∈M, x ≦ y ⇒ x · z ≦ y · zを満たすならば、(M, · , ≦ ) は順序群であるといわれる。M = (M, · , ≦ ) と略記することもある。
注意. 順序群はより詳しく全順序可換群または全順序アーベル群と呼ばれることもある。
順序群は、群演算が加法で表されていれば、順序加群であるといわれる。
例 1. 集合 Z, Q, R はすべて通常の加法と大小関係で順序加群となる。例 2. 区間 (0,+∞) は通常の乗法と大小関係で順序群となる。集合 R× は
通常の乗法と大小関係では順序群にはならない。
例 3. (M, · , ≦ ) が順序群であれば (M, · , ≦−1) も順序群となる。
例 4. 付値環 R に対して、可換群 (QR)×/R× の順序を
αmodR× ≦ βmodR× ⇐⇒ α ∈ βR(α, β ∈ (QR)×
)により定めれば (QR)×/R× は順序群となる。これを付値環 R の値群という。
注意. 例 4が全順序アーベル群の研究の動機のひとつと思われる。
順序群を object とし、群準同形かつ順序写像を morphism として定義される圏を (Ord.Groups) と表す。以下では群演算を加法で表す。
順序加群 M は、条件
a, b ∈M, a ≧ 0, a = 0 =⇒ ∃n ∈ N, na ≧ b
を満たすならば、アルキメデス的であるといわれる。
例 5. 順序加群 Z, Q, R はすべてアルキメデス的である。順序加群 M と a ∈M に対して
|a| = maxa,−a ∈M
とおく。このとき、M の部分群 N は、条件
a ∈M, b ∈ N, |a| ≦ |b| =⇒ a ∈ N
を満たすならば、M の孤立部分群であるといわれる。順序群 M の孤立部分群の全体を i.Sub(M) と表す。
2
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例 6. 順序加群 M の部分群 0 = 0, M はどちらも M の孤立部分群である。即ち 0,M ∈ i.Sub(M) となる。
補題 1. 順序加群 M の孤立部分群の全体 i.Sub(M) は包含関係に関して全順序集合となる。
順序加群 M に対して
rankM = cardN | N ∈ i.Sub(M), N =Mとおき M のランクという。
注意. 順序加群 M のランクは
rankM = cardN | N ∈ i.Sub(M), N = 0と表すこともできる。
定理 1. 順序加群 M (M = 0) に関する次の 4条件:(a) i.Sub(M) = 0,M(b) rankM = 1
(c) M はアルキメデス的(d) M は R のある部分群と圏 (Ord.Groups) において同形または逆同形は同値である。
注意. M が乗法群であれば、条件 (c) は(c′) M は区間 (0,+∞) のある部分群と圏 (Ord.Groups) において同形
または逆同形
と表されることもある。
定理 1の証明はここでは略す。藤崎、体とガロア理論、第 6章 §6.8, 定理6.20 (p.460) を参照のこと。
集合 S の 2項演算 · と関係 ≦ が次の 4条件:(a) (S, · ) は単位元をもつ可換半群(b) (S, ≦ ) は全順序集合(c) x, y, z ∈ S, x ≦ y ⇒ x · z ≦ y · z(d) ∃s0 = minS かつ S − s0 は群を満たすならば、S = (S, · , ≦ ) は添加順序群であるといわれる。
例 7. 区間 [0,+∞) は添加順序群である。
補題 2. 添加順序群 S と s0 = minS に対して
x · s0 = s0 · x = s0 (x ∈ S)
が成り立つ。また、群S − s0
は順序群となる。
注意. 添加順序群の定義で条件 (d) を (d) または(d′) ∃s0 = maxS かつ S − s0 は群に緩めることもある。このとき次が成り立つ。
例 8. (S, · , ≦ ) が添加順序群であれば (S, · , ≦−1) も添加順序群となる。
例 9. R ∪ +∞ は添加順序群である。3
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この節の最後に添加順序群の付値論への応用を述べる。
例 10. 付値環 R の商体 QR における関係を
α ∼ β ⇐⇒ ∃γ ∈ R× ; α = βγ (α, β ∈ QR)
により定める。このとき(i) ∼ は QR の同値関係となる。また、α ∈ QR に対して
α = x ∈ QR | α ∼ xとおけば
α = αR×
と表される。特に 0 = 0 が解る。さらに、商集合はQR/∼ = 0 ∪ (QR)×/R×
と表される。(ii) 商集合 QR/∼ の 2項演算を
α · β = αβ (α, β ∈ QR)
により定めれば、QR/∼ は単位元をもつ可換半群となる。(iii) 商集合 QR/∼ の関係を
α ≦ β ⇐⇒ α ∈ βR (α, β ∈ QR)
により定めれば、QR/∼ は全順序集合となる。(iv) 商集合 QR/∼ は (ii) の演算と (iii) の関係により添加順序群となる。
注意. 群 (QR)×/R× は例 4で定義された付値環 R の値群である。これは順序群となる。例 10が添加順序群の研究の動機のひとつと思われる。
以下では(QR)/R× = QR/∼ = 0 ∪ (QR)×/R×
と表すことにする。このとき、写像
QR −→ (QR)/R×
φ : ∈ ∈
α 7−→ α
を付値環 R に付随する乗法付値という。これについては第 3章 (3.8), 補題 7で再び扱う。
注意. 既に例 4, 例 10でみたように、付値論においては順序群、添加順序群は乗法的に表されていることも多い。また、順序も順序加群 の双対順序が用いられていることもある。そこで、後に混乱を招かないために、次の定義をしておく。
定義 1. G を順序群とする。(i) a ∈ G に対して
|a| = maxa, a−1 ∈ G
とおく。(ii) G の部分群 H は、条件
a ∈ H, b ∈ G, |a| ≦ |b| =⇒ b ∈ H
を満たすならば、G の孤立部分群であるといわれる。
あるいは次の定義も良いかもしれない。4
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定義 2. G を順序群とする。G の部分群 H は、条件
x ∈ G ; ∃a, b ∈ H, a ≦ x ≦ b =⇒ x ∈ H
を満たすならば、G の孤立部分群であるといわれる。
5
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第 2章. 位相空間論この章では既約性に重点をおいて、後に必要となる位相空間の性質の概略
を述べる。最後に位相群、位相環および位相体についてまとめる。
2.0. 準備集合 X に、開集合系、閉集合系、開核作用素、閉包作用素、近傍系のいず
れを用いても、位相を定めることができる。
補題 1. 集合 X の位相の全体は強弱関係により完備束をなす。
分離公理群;T1, T2, 正則、完全正則、正規、を既知とする。
補題 2. 位相空間 X に関する次の 2条件:(a) x, y ∈ X, x = y ⇒ ∃U : open, x ∈ U , y /∈ U or
∃V : open, x /∈ V , y ∈ V
(b) x, y ∈ X, x = y ⇒ x = y
は同値である。
位相空間 X は補題 2の条件 (a), (b) を満たすならば T0空間であるといわれる。T1空間は T0空間となるが、逆は成り立たない。
例 1. 位相空間 X に対して、写像
X −→ X ×X∆ : ∈ ∈
x 7−→ (x, x)
を定める。このとき(i) 写像 ∆ は単射かつ連続である。(ii) 位相空間 X に関する次の 3条件:
(a) X は T2空間(b) ∆(X) は X ×X の閉集合(c) ∆ : X → X ×X は閉写像は同値である。
連結性、コンパクト性も既知とする。ただしコンパクトには T2 を仮定しない。従って quasi-compact という言葉は用いない。
補題 3.(河本)位相空間 X とその部分集合 W に対して(i) 次の 2条件:
(a) W を含む X の開集合は X しかない(b) W と交わらない X の閉集合は空しかないは同値である。
(ii) X, W が (i) の条件 (a), (b) を満たすならば
W はコンパクト ⇐⇒ X はコンパクト
が成り立つ。
注意. 位相空間 X の部分集合 U , V に対して
U, V はコンパクト =⇒ U ∩ V はコンパクトが成り立つとは限らない。
1
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例 2. X を無限集合とする。B = x1, x2 ⊂ X (x1 = x2) とおき、集合 Xに
O | O ⊂ X, O ∩B = ∅ ⇒ X −O : finiteを開集合系とする位相を導入する。このとき U = X − x1, V = X − x2とおけば、U , V はコンパクトであるが U ∩ V はコンパクトではない。注意. 例 2の位相空間 X は T1空間ではあるが T2空間ではない。
例 3. T2空間 X の部分集合 U , V に対して
U, V はコンパクト =⇒ U ∩ V はコンパクトが成り立つ。
注意. 例 3は U がコンパクトでなくても X の閉集合であれば成り立つ。
基本近傍系、開集合の基底、準基底、および第一可算公理、第二可算公理を既知とする。開集合の基底は開基と略すこともある。
2.1. 既約空間位相空間 X は、X = ∅ でありかつ条件
O1, O2 : open in X, O1 = ∅, O2 = ∅ =⇒ O1 ∩O2 = ∅を満たすならば、既約であるといわれる。また、位相空間 X の部分集合 Eは相対位相に関して既約であれば X の既約部分集合であるといわれる。X の部分集合 E (E = ∅) が既約であることと、E が条件
F1, F2 : closed in X, E ⊂ F1 ∪ F2 =⇒ E ⊂ F1 or E ⊂ F2
を満たすことは同値である。
補題 1. X, Y を位相空間とする。(i) X の部分集合 E に対して
Eは既約 ⇐⇒ E は既約
が成り立つ。(ii) 連続写像 f : X → Y と X の部分集合 E に対して
Eは既約 =⇒ f(E) は既約
が成り立つ。(iii) X が既約で O が X の空でない開集合であれば O = X となる。従っ
て O も既約となる。
注意. 補題 1, (ii) の逆は成り立たない。
例 1. T2空間 X の部分集合 E に対して
Eは既約 ⇐⇒ Eは既約閉 ⇐⇒ Eは一点集合
が成り立つ。
例 2. 位相空間 X に対して
X は既約 =⇒ X は連結
が成り立つ。
注意. 例 2の逆は成り立たない。2
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2.2. 共変関手 t : (Top.) → (Top.)
位相空間 X に対して
tX = E | EはX の既約閉部分集合 とおく。
補題 1. X を位相空間とする。
(i) F が X の閉集合であれば
tF = E ∈ tX | E ⊂ Fと表すことができる。
(ii) X の閉集合 F1, F2, Fi (i ∈ I), F に対して
F1 ⊂ F2 ⇐⇒ tF1 ⊂ tF2
tF1 ∪ tF2 = t(F1 ∪ F2)∩i∈I
tFi = t(∩i∈I
Fi)
F = ∅ ⇐⇒ tF = ∅が成り立つ。
系. 集合 tX は tF | F はXの閉集合 を閉集合系として位相空間となる。X, Y を位相空間とする。連続写像 f : X → Y に対して、第 2章 (2.1)の
補題 1, (i), (ii) より、写像
tX −→ tYtf : ∈ ∈
E 7−→ f(E)
が定義される。
補題 2. X, Y , Z を位相空間とする。
(i) 連続写像 f : X → Y と Y の閉集合 F に対して
(tf)−1(tF ) = t(f−1(F ))
が成り立つ。従って、写像 tf : tX → tY は連続である。
(ii) 連続写像 f : X → Y , g : Y → Z に対して
t(g f) = (tg) (tf)が成り立つ。
(iii) t1X = 1tX が成り立つ。
系. 共変関手 t : (Top.) → (Top.) が定義される。
補題 3. X を位相空間とする。
(i) tX は T0空間となる。
(ii) X の閉集合 E に対して
Eは既約 ⇐⇒ tEは既約
が成り立つ。従って t(tX) = tE | E ∈ tX と表すこともできる。(iii) E ∈ tX に対して E = tE が成り立つ。
3
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例 1. 位相空間 X に対して
X は既約 ⇐⇒ tX は既約
X は連結 ⇐⇒ tX は連結
X はコンパクト ⇐⇒ tX はコンパクトが成り立つ。しかし、一般に
X : T0空間 ⇐⇒ tX : T0空間
X : T1空間 ⇐⇒ tX : T1空間
X : T2空間 ⇐⇒ tX : T2空間
等は成り立たない。
2.3. 自然変換 α : id(Top.) → t
位相空間 X に対して、第 2章 (2.1)の補題 1, (i) より、写像
X −→ tXαX : ∈ ∈
x 7−→ xが定義される。
補題 1. X, Y を位相空間とする。(i) X の閉集合 F に対して
α−1X (tF ) = F, αX(F ) = tF ∩ αX(X)
が成り立つ。従って、写像 αX : X → tX は連続である。また、終集合を値域に制限した写像 αX : X → αX(X) は閉写像である。
(ii) 連続写像 f : X → Y に対して
αY f = (tf) αX
が成り立つ。
系. 自然変換 α : id(Top.) → t が定義される。
例 1. X を位相空間とする。(i) 連続写像 αX : X → tX に対して
αXは全射 ⇐⇒ αXは閉写像
αXは全単射 ⇐⇒ αXは位相同形
X は T0空間 ⇐⇒ αXは単射
X は T2空間 =⇒ αXは位相同形
が成り立つ。(ii) 位相空間 X が T0空間であれば、終集合を値域に制限した写像
αX : X −→ αX(X)
は位相同形となる。
注意. T2空間ではないが αX : X → tX が位相同形となるような位相空間X は数多く存在する。
位相空間 X に対して、集合 tX は包含関係に関して順序集合となる。4
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補題 2. 位相空間 X に対して、写像 αtX : tX → t(tX) は順序同形かつ位相同形で αtX(E) = E = tE (E ∈ tX) と表される。
例 2. T0空間 X に対して
x ≦ y ⇐⇒ x ∈ y (x, y ∈ X)
により ≦ を定義すれば、(X,≦) は順序集合となり αX : (X,≦) → (tX,⊂)は順序単射となる。特に X が T1空間であれば
x ≦ y ⇐⇒ x = y (x, y ∈ X)
となる。
2.4. 生成点と閉点X を位相空間とする。点 x ∈ X は x = X となるならば X の生成点で
あるといわれる。また x = x となるならば X の閉点であるといわれる。位相空間 X の閉点の全体を Xcl と表す。即ち
Xcl =x ∈ X | x = x
と定める。
例 1. X を位相空間とする。(i) X が生成点をもてば既約となる。(ii) Xcl は T1空間となる。(iii) αX(Xcl) ⊂ (tX)cl ⊂ αX(X) が成り立つ。(iv) X に関する次の 3条件:
(a) X は T1空間(b) Xcl = X
(c) X は T0空間かつ αX(X) = (tX)clは同値である。従って、X が T1空間であれば、写像
αX : X −→ (tX)cl
は位相同形となる。(v) X の任意の部分集合 F に対して F ∩Xcl ⊂ Fcl が成り立つ。さらに
F が X の閉集合であればF ∩Xcl = Fcl
も成り立つ。(vi) X の閉集合 Fi (i ∈ I) に対して(∪
i∈IFi
)cl
⊃∪i∈I
(Fi)cl
が成り立つ。さらに∪
i∈I Fi も X の閉集合であれば(∪i∈I
Fi
)cl
=∪i∈I
(Fi)cl
が成り立つ。
注意. (i) 例 1, (i) の逆は成り立たない。(ii) X = ∅ であっても Xcl = ∅ となることはある。また x ∈ Xcl であれ
ば x は X の極小既約閉集合となる。5
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定理 1. 位相空間 X に関する条件
P : X の任意の既約閉集合は唯ひとつの生成点をもつ
を導入する。このとき、共変関手
t : (Top.) −→ (Top.)
と自然変換α : id(Top.) −→ t
の対 (t, α) は圏 (Top.) の P 化となる。
2.5. 既約成分
位相空間 X の極大既約部分集合を X の既約成分という。位相空間 X の既約成分の全体を c(X) と表す。
補題 1. X を位相空間とする。
(i) c(X) ⊂ tX が成り立つ。
(ii) X の任意の既約部分集合 E に対して、E ⊂ F となる F ∈ c(X) が存在する。
系. 位相空間 X をX =
∪F∈c(X)
F
と表すことができる。これを X の既約分解という。また
X = ∅ ⇐⇒ c(X) = ∅
X は既約 ⇐⇒ c(X) = Xが成り立つことも解る。
例 1. X を T2空間とする。このとき、任意の F ⊂ X に対して
F ∈ c(X) ⇐⇒ ∃x ∈ X, F = xが成り立つ。従って X の既約分解は
X =∪x∈X
x
となる。
補題 2. 位相空間 X が E1, · · · , Es ∈ tX により
X =
s∪i=1
Ei
と表されていると仮定する。このとき
(i) c(X) ⊂ E1, · · · , Es が成り立つ。(ii) E1, · · · , Es が条件
1 ≦ i, j ≦ s, i = j =⇒ Ei ⊂/ Ej
を満たせばc(X) = E1, · · · , Es
も成り立つ。6
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系. 位相空間 X の既約成分の全体 c(X) が有限集合であれば、c(X) の真の部分集合は X を被覆しない。
2.6. ヒルベルト位相空間この節ではヒルベルト位相空間を定義し、その基本的な性質を調べる。
定理 1. 位相空間 X に関する次の 3条件:(a) X の任意の閉集合 F に対して Fcl = F が成り立つ
(b) 任意の E ∈ tX に対して Ecl = E が成り立つ(c) 包含写像 iX : Xcl → X より定まる写像
t(iX) : t(Xcl) −→ tX
は位相同形
は同値である。
位相空間 X は定理 1の条件 (a), (b), (c) を満たすならばヒルベルト位相空間であるといわれる。
例 1. ヒルベルト位相空間 X が (2.4), 定理 1の条件 P を満たすならば、写像
α−1X t(iX) : t(Xcl) −→ X
は位相同形となる。
例 2. T1空間はヒルベルト位相空間である。
補題 1. ヒルベルト位相空間 X の閉集合 F はヒルベルト位相空間となる。
例 3. 位相空間 X に関する条件Q : t(αX) = αtX
Q′ : X の任意の閉集合 F に対して αF : F → tF は dominant
を導入する。このとき
tX はヒルベルト位相空間 =⇒ Q′ =⇒ Q
が成り立つ。さらに αX(X) = (tX)cl であれば
tX はヒルベルト位相空間 ⇐⇒ Q′ ⇐⇒ Q
も成り立つ。
補題 2. 位相空間 X がヒルベルト位相空間であれば tX もヒルベルト位相空間となる。
注意. 補題 2の逆は成り立たない。(2.8), 例 6を参照のこと。
2.7. 次元位相空間 X の次元
dimX ∈ 0, 1, 2, · · · ∪ ±∞を負でない整数 n に対して
dimX ≧ n ⇐⇒ ∃E0, · · · , En ∈ tX, E0 ⫋ · · · ⫋ En
dimX = −∞ ⇐⇒ X = ∅により定義する。
7
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補題 1. X を位相空間とする。(i) dimX = dim tX が成り立つ。(ii) W ⊂ X であれば dimW ≦ dimX が成り立つ。(iii) dimX = supdimE | E ∈ c(X) が成り立つ。(iv) X =
∪i∈I
Oi を X の開被覆とすれば
dimX = supdimOi | i ∈ Iが成り立つ。
(v) X が有限次元既約空間であれば、X の閉集合 W に対して
dimW = dimX =⇒ W = X
が成り立つ。(vi) 任意の点 x ∈ X に対して
x ∈ Xcl =⇒ dim x = 0
が成り立つ。さらに X が T0空間であれば
x ∈ Xcl ⇐⇒ dim x = 0
も成り立つ。
例 1. 位相空間 X が T2空間で X = ∅ であれば dimX = 0 となる。
例 2. 自然数 n に対して X = 1, 2, 3, · · · , n とおく。また、F0 = ∅ とおき、自然数 k (k ≦ n) に対して Fk = 1, 2, 3, · · · , k とおく。このとき、集合X に F0, F1, F2, · · · , Fnを閉集合系とする位相を導入すれば dimX = n−1となる。
例 3. X がヒルベルト位相空間であれば
dimXcl = dimX
が成り立つ。
補題 2. 位相空間 X から Y への連続写像 f : X → Y に関する条件
(⋆) E ∈ tX =⇒ dim f(E) ≦ dimE
および
(⋆′) x ∈ X =⇒ dim f(x) ≦ dim xを導入する。このとき
(i) 連続写像 f : X → Y , g : Y → Z がどちらも条件 (⋆) を満たすならば、合成写像 g f : X → Z も条件 (⋆) を満たす。
(ii) 連続写像 f : X → Y , g : Y → Z がどちらも条件 (⋆′) を満たすならば、合成写像 g f : X → Z も条件 (⋆′) を満たす。
系. 位相空間と条件 (⋆) を満たす連続写像は圏 (Top.) の部分圏をつくる。これを (Top. ; ⋆) と表す。同様に圏 (Top. ; ⋆′) も定義される。
補題 3. 位相空間 X から Y への連続写像 f : X → Y に対して
f は条件 (⋆)を満たす⇐⇒ tf は条件 (⋆′)を満たす
f は条件 (⋆)を満たす =⇒ f は条件 (⋆′)を満たす8
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が成り立つ。さらに、写像 αX が全射であれば
f は条件 (⋆)を満たす⇐⇒ f は条件 (⋆′)を満たす
も成り立つ。
系. 連続写像 f : X → Y に対して
f : (⋆) =⇒ f : (⋆′)
⇑tf : (⋆) ⇐⇒ tf : (⋆′)
が成り立つ。さらに、写像 αX が全射であれば
f : (⋆) ⇐⇒ f : (⋆′)
tf : (⋆) ⇐⇒ tf : (⋆′)
も成り立つ。
例 4. 位相空間 X に対して、連続写像 αX : X → tX は条件 (⋆) および(⋆′) を満たす。
例 5. 位相空間 X から T1空間 Y への連続写像 f : X → Y は条件 (⋆′) を満たす。
補題 4. 位相空間 X から T0空間 Y への連続写像 f : X → Y が条件 (⋆′)を満たすならば
f(Xcl) ⊂ f(X) ∩ Ycl ⊂ f(X)cl
が成り立つ。
系. 共変関手t : (Top. ; ⋆) −→ (Top. T0 ; ⋆)
( )cl : (Top. T0 ; ⋆′) −→ (Top. T1)
が定義される。
例 6. 集合としては X = Y とし、X には離散位相を、Y には密着位相を導入する。また f : X → Y を恒等写像とする。このとき、写像 f は連続で条件 (⋆) を満たすが、集合 X = Y が 2点以上を含めば f(Xcl) ⊂ Ycl は成り立たない。
定理 1. (2.4), 定理 1の条件 P を満たすヒルベルト位相空間 X と条件 (⋆)を満たす連続写像のつくる圏を C0 と表す。また、T1空間 W と条件 (⋆) を満たす連続写像のつくる圏を C1 と表す。このとき、共変関手
t : C1 −→ C0( )cl : C0 −→ C1
が定義され、これらにより圏 C0 と C1 は同値となる。例 7. 集合 X (X = ∅) に離散位相を導入する。また、集合 Y = y0, y1
(y0 = y1) に ∅, y0, Y を閉集合系とする位相を導入する。さらに、写像f : X → Y を
f(x) = y1 (x ∈ X)
により定義する。このとき、写像 f は連続であるが条件 (⋆′) を満たさない。9
![Page 31: 付値環を用いた数論と代数幾何学 - kochi-tech.ac.jp...付値環を用いた数論と代数幾何学 内容の概略 ここでは簡単のために、数論とは有理整数環上分離有限型な整スキームと](https://reader035.vdocuments.us/reader035/viewer/2022062311/5eaa8d21f6728e62605869d2/html5/thumbnails/31.jpg)
注意. 位相空間 X, Y はどちらも定理 1で定義された圏 C0 の object であるが、連続写像 f は C0 の morphism ではない。
以下では、集合 S の有限部分集合の全体を P0(S) と表す。
例 8. 集合 X = R に P0(X)∪ X を閉集合系とする位相を導入する。また、集合 Y = R2 に P0(Y )∪ℓ∪F | F ∈ P0(Y )∪Y を閉集合系とする位相を導入する。ここで ℓ = (0, b) | b ∈ R である。さらに、写像 f : X → Yを
f(x) = (x, 0) (x ∈ X)
により定義する。このとき、X, Y は T1 空間であり、写像 f は連続で条件(⋆′) を満たすが条件 (⋆) を満たさない。
注意. 位相空間 X, Y はどちらも定理 1で定義された圏 C1 の object であるが、連続写像 f は C1 の morphism ではない。
2.8. ネター空間この節ではネター空間を定義し、その基本的な性質を調べる。
補題 1. 位相空間 X に関する次の 4条件:(a) X の開集合 Oi (i = 1, 2, 3, · · · ) に対して
O1 ⊂ O2 ⊂ O3 ⊂ · · · =⇒ ∃i0 ∈ N, ∀i ≧ i0, Oi0 = Oi
が成り立つ
(b) X の開集合よりなる集合系は空でなければ極大元をもつ(c) X の閉集合 Fi (i = 1, 2, 3, · · · ) に対して
F1 ⊃ F2 ⊃ F3 ⊃ · · · =⇒ ∃i0 ∈ N, ∀i ≧ i0, Fi0 = Fi
が成り立つ
(d) X の閉集合よりなる集合系は空でなければ極小元をもつは同値である。
位相空間 X は補題 1の条件 (a), (b), (c), (d) を満たすならばネター空間であるといわれる。
補題 2. X をネター空間とする。(i) W ⊂ X であれば W もネター空間となる。(ii) X はコンパクトである。(iii) c(X) は有限集合となる。(iv) X が T0空間であれば
X = ∅ ⇐⇒ Xcl = ∅が成り立つ。
補題 3. 位相空間 X に関する次の 4条件:(a) X はネター空間(b) tX はネター空間(c) X の部分集合はすべてコンパクト(d) X の開集合はすべてコンパクトは同値である。
10
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注意. 位相空間 X に関する条件:(e) X の閉集合はすべてコンパクトは条件 (a), (b), (c), (d) とは同値ではない。実際、有界閉区間 X = [a, b] は条件 (e) を満たすが条件 (a) を満たさない。
例 1. 位相空間 X に対して
X はネターかつ T2空間 ⇐⇒ X は有限かつ離散
が成り立つ。
注意. (i) X がネター空間であっても無限次元となることはある。また、X がネター空間でなくても有限次元となることはある。即ち、位相空間のネター性と次元の有限性とは無関係である。
(ii) O がネター空間 X の稠密開集合であっても dimO < dimX となることはある。
例 2. X = N とおく。また、自然数 k に対して Fk = 1, 2, 3, · · · , k とおき、集合 X に ∅, F1, F2, · · · , X を閉集合系とする位相を導入する。このとき、X はネター空間であるが dimX = +∞ となる。
例 3. 実数の全体 R に通常の位相を導入する。このとき、位相空間 R はネター空間ではないが dimR = 0 となる。
例 4. 第 2章 (2.7),例 2で定められた位相空間 X の開集合 Ok = k, · · · , n(1 ≦ k ≦ n) は X で稠密であるが dimOk = n− k となる。
例 5. 集合 X (X = ∅) に離散位相を導入する。このとき(i) Xcl = X となる。また、X が生成点をもつことと X が一点集合であ
ることは同値である。(ii) dimX = 0 となる。(iii) X はヒルベルト位相空間となる。(iv) X がネター空間であることと X が有限集合であることは同値である。
例 6. 集合 X (X = ∅) に密着位相を導入する。このとき(i) すべての点 x ∈ X が X の生成点となる。(ii) dimX = 0 となる。(iii) 次の 3条件:
(a) X はヒルベルト位相空間(b) Xcl = ∅(c) X は一点集合は同値である。
(iv) X はネター空間となる。(v) tX はヒルベルト位相空間となる。
例 7. 無限集合 X に
F | F はX の有限部分集合 ∪ Xを閉集合系とする位相を導入する。このとき
(i) X は T1空間となる。(ii) dimX = 1 となる。(iii) X はネター空間となる。
11
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2.9. 位相群位相群の定義を既知とする。
補題 1. 位相群 G とその部分群 H に対して
H は G の開集合 =⇒ H は G の閉集合
が成り立つ。
注意. 補題 1の逆は成り立たない。
補題 2. 位相群 G に対して
Gは T0空間 ⇐⇒ Gは T2空間
が成り立つ。
位相群 G は T0空間であれば分離的であるといわれる。
注意. 補題 2より強く、位相群 G に対して
Gは T0空間 ⇐⇒ Gは完全正則空間
が成り立つこと、および完全正則空間ではあるが正規空間ではない位相群 Gが存在することが知られている。ポントリャーギン、連続群論、§19, 例 32(p.118) を参照のこと。
補題 3. 位相群 G とその正規部分群 N に対して
G/N は分離的 ⇐⇒ N はGの閉集合
が成り立つ。
系. 位相群 G の単位元を e と表せば
Gは分離的 ⇐⇒ e ∈ Gcl
が成り立つ。
例 1. (i) 位相群 R/Z, Q/Z はどちらも分離的である。(ii) 位相群 R/Q, Zp/Z はどちらも分離的ではない。
補題 4. 分離的位相群 G とその部分群 H に対して
H は G の離散部分集合 =⇒ H は G の閉集合
が成り立つ。
注意. 補題 4は位相群 G が分離的でないと成り立たない。また、H が Gの部分群でないと成り立たない。次の例 2, 例 3を参照のこと。
例 2. 加群としては G1 = G2 = R とし、G1 には密着位相をいれ G2 には通常の位相をいれる。このとき G = G1 ×G2, H = 0 ×Z とおけば、H はG の離散部分群であるが閉集合ではない。
例 3. G = R を通常の位相と加法演算で位相群とする。このとき、群 G の部分集合 H = 1
n | n ∈ N は離散集合であるが閉集合ではない。補題 5. 群 G の正規部分群より成る集合系 Σ に関して(i) 次の 2条件:
(a) G を位相群とし、Σ を G の単位元 e の基本近傍系とするようなG の位相が唯ひとつ存在する
(b) 任意の U , V ∈ Σ に対して W ⊂ U ∩ V となる W ∈ Σ が存在する12
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は同値である。(ii) (i) の条件 (a) の位相が分離的であるための必要十分条件は
(c)∩U∈Σ
U = e
である。
例 4. K を体、L を K の(無限次)ガロア拡大とし G = Gal(L/K) とおく。このとき
Σ = Gal(L/F ) | K ⊂ F ⊂ L, F/K は有限次ガロア拡大 とおけば、集合系 Σ は補題 5の条件 (b), (c) を満たす。従って、G を分離的位相群とし、Σ を G の単位元の基本近傍系とするような G の位相が唯ひとつ存在する。これをガロア群 G = Gal(L/K) のクルル位相という。
2.10. 位相環と位相体位相環と位相体の定義を既知とする。
例 1. 有理整数環 Z は通常の位相で位相環となる。例 2. 有理数体 Q, 実数体 R, 複素数体 C はすべて通常の位相で位相体と
なる。
補題 1. 環 A のイデアルより成る集合系 Σ に関して(i) 次の 2条件:
(a) A を位相環とし、Σ を A の零元 0 の基本近傍系とするようなA の位相が唯ひとつ存在する
(b) 任意の U , V ∈ Σ に対して W ⊂ U ∩ V となる W ∈ Σ が存在するは同値である。
(ii) (i) の条件 (a) の位相が分離的であるための必要十分条件は
(c)∩U∈Σ
U = 0
である。
例 3. A = Z とする。p を素数としΣ1 = nZ | n ∈ N, Σ2 = n!Z | n ∈ N, Σ3 = pnZ | n ∈ N
とおく。これらはすべて補題 1の条件 (b), (c) を満たすから、環 A = Z を分離的位相環とする。また、Σ1 と Σ2 は同じ位相を定め、この位相は Σ3 の定める位相より強い。実際、Σ3 の定める位相では p と素な任意の自然数 m に対して mZ = Z となる。
13
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今後の発展の課題
[2.1] (2.2), 補題 1, (i) は次のように一般化される。
補題 2.1.1. 位相空間 X の任意の部分集合 F に対して
tF = E | E ∈ tX, E = E ∩ Fと表すことができる。また
tF = E ∩ F | E ∈ tX, E ∩ F = Eと表すこともできる。
これらを用いて (2.2), 補題 1, (i) および次の結果を導くことができる。
補題 2.1.2. 位相空間 X に対して
t(Xcl) = Ecl | E ∈ tX, Ecl = Eと表すことができる。
補題 2.1.2の応用を考えよ。
[2.2] (2.6), 補題 2で
X はヒルベルト位相空間 =⇒ tX はヒルベルト位相空間
が成り立つことを示した。この応用を考えよ。
[2.3] 条件 (⋆) について
(2.7), 補題 2で導入した連続写像に関する条件 (⋆) より強い条件について考える。
補題 2.3.1. 位相空間 X から Y への連続写像 f : X → Y に関する条件
(⋆) F が X の閉集合 =⇒ dim f(F ) ≦ dimF
を導入する。このとき(⋆) =⇒ (⋆)
が成り立つ。しかし、一般に
(⋆) ⇐= (⋆)
は成り立たない。
例 2.3.1. 無限集合 X に離散位相を導入した位相空間を X1 とし、(2.8),例 7の位相を導入した位相空間を X2 とする。また f : X1 → X2 を X の恒等写像とする。このとき、写像 f は連続で条件 (⋆) を満たすが条件 (⋆) を満たさない。
注意. 例 2.3.1は連続写像に関する条件 (⋆)が強すぎることを暗示している。
[2.4] (2.7), 補題 4の系で、共変関手
( )cl : (Top. T0 ; ⋆) −→ (Top. T1 ; ⋆)
が定義されるか否かを判定せよ。
[2.5] (2.8), 補題 3の後の注意の反例は一般化できる。実際、ユークリッド空間 Rn の有界閉集合 X は条件 (e) を満たすが、X が無限集合であれば条件 (a) を満たさない。
14
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[2.6]
[2.7]
[2.8]
15
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第 3章. 可換環論この章では素イデアルに重点をおいて、後に必要となる可換環とその上の
加群の性質の概略を述べる。
3.1. 反変関手 Spec : (Rings) → (Sets)
環 A のイデアル a に対して√a = a ∈ A | ∃n ∈ N, an ∈ a
とおけば、これは a を含む A のイデアルとなる。√a を a のラディカルとい
う。また√a = a となる a を A のラディカルイデアルという。
√a は A の
ラディカルイデアルである。
例 1. 環 A とそのイデアル a, b に対して
a ⊂ b =⇒√a ⊂
√b
√a ∩ b =
√a ∩
√b
a+ b = A ⇐⇒√a+
√b = A
√ae =
√a (e ∈ N)
が成り立つ。また
nil(A) = a ∈ A | ∃n ∈ N, an = 0
rad(A) = a ∈ A | 1− aA ⊂ A×はどちらも A のラディカルイデアルで
nil(A) =√0, nil(A) ⊂ rad(A)
が成り立つ。
例 2. 環 A, B と環準同形 φ : A→ B および B のイデアル b に対して√φ−1(b) = φ−1
(√b)
が成り立つ。
例 3. 環 A のイデアル a のラディカル√a が有限生成であれば
√a
e ⊂ a
となる自然数 e ∈ N が存在する。従って、イデアル nil(A) が有限生成であれば
nil(A)e = 0
となる自然数 e ∈ N が存在することも解る。
補題 1. 環 A に関する次の 11条件:(a) A = 0 (b) 0 = 1 in A (c) Z(A) = ∅ (c′) 0 /∈ Z(A)
(d) A× = A (d′) 0 ∈ A× (e) SpecA = ∅ (f) m.SpecA = ∅(g) nil(A) = A (h) rad(A) = A (i) nil(A) ⊂/ Z(A)は同値である。
補題 2. 環準同形 φ : A→ B に対して
q ∈ SpecB =⇒ φ−1(q) ∈ SpecA
が成り立つ。1
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環準同形 φ : A→ B に対して、補題 2より、写像
SpecB −→ SpecASpec φ : ∈ ∈
q 7−→ φ−1(q)
が定義される。さらに Spec φ は包含関係に関して順序写像となる。
補題 3. A, B, C を環とする。(i) 環準同形 φ : A→ B, ψ : B → C に対して
Spec (ψ φ) = (Spec φ) (Spec ψ)が成り立つ。
(ii) Spec 1A = 1SpecA が成り立つ。
系. 反変関手 Spec : (Rings) → (Sets) が定義される。
注意. 補題 3の系では、反変関手
Spec : (Rings) −→ (Ord.Sets)
が定義されている。この結果はあまり表に出ることはないがよく用いられる。
2
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3.2. 素イデアルと乗法系環 A の乗法系 S と分数環 S−1A の定義と基本的な性質を既知とする。
補題 1. 環 A のイデアル a と乗法系 S に対して定義される環準同形
A −→ S−1A/S−1aφ : ∈ ∈
a 7−→ a
1mod S−1a
より定まる写像
Spec φ : Spec (S−1A/S−1a) −→ SpecA
は包含関係に関して順序単射となる。
注意. 補題 1で S = 1 とおくと φ : A → A/a となり、a = 0 とおくとφ : A→ S−1A となる。
以下では順序単射 Spec φ により Spec (S−1A/S−1a) を SpecA の部分集合とみなすことがある。
補題 2. A を環とする。(i) A のイデアル a と乗法系 S に対して
a ∩ S = ∅ ⇐⇒ S−1a = S−1A
p ∈ SpecA | a ⊂ p, p ∩ S = ∅ = Spec (S−1A/S−1a)
が成り立つ。ここで p と S−1p/S−1a を同一視している。(ii) A のイデアル a に対して V (a) = p ∈ SpecA | a ⊂ p とおけば
Spec (A/a) = V (a), m.Spec (A/a) = V (a) ∩m.SpecAが成り立つ。
定理 1. A を環とする。(i) A のイデアル a と乗法系 S が条件 a ∩ S = ∅ を満たせば a ⊂ p,
p ∩ S = ∅ となる A の素イデアル p が存在する。(ii) A のイデアル a が条件 a = A を満たせば a ⊂ m となる A の極大イ
デアル m が存在する。
系 1. 環 A のイデアル a に対して√a =
∩p∈V (a)
p
が成り立つ。
系 2. 環 A に対して
A−A× =∪
p∈SpecAp =
∪m∈m.SpecA
m
が成り立つ。また
A× =∩
p∈SpecA(A− p) =
∩m∈m.SpecA
(A−m)
nil(A) =∩
p∈SpecAp, rad(A) =
∩m∈m.SpecA
m
と表すこともできる。3
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系 3. 補題 1で a = 0 とおいて得られる環準同形 φ : A→ S−1A に関する次の 3条件:(a) φ : A→ S−1A は環同形(b) Specφ : Spec (S−1A) → SpecA は全射(c) S ⊂ A×
は同値である。
注意. 系 3の条件 (a) を「φ は全単射」に変えてもよい。また、条件 (b)を「Specφ は全単射」に変えてもよい。
次に、環 A の乗法系 S と SpecA の部分集合 E の間の対応を定義し、その基本的な性質を調べる。A を環とする。環 A の乗法系 S に対して
S = a ∈ A | aA ∩ S = ∅ = a ∈ A | ∃b ∈ A, ab ∈ Sとおく。また、SpecA の部分集合 E に対して
E = p ∈ SpecA | p ⊂∪q∈E
q
とおく。
補題 3. A を環とする。
(i) A の乗法系 S に対して、S は A の乗法系で S ⊂ S = ˜S が成り立つ。
(ii) SpecA の部分集合 E に対して E ⊂ E = ˜E が成り立つ。(iii) A の乗法系 S に対して
A− S =∪
p∈SpecAp∩S=∅
p
が成り立つ。従って
S = A−∪
p∈SpecAp∩S=∅
p =∩
p∈SpecAp∩S=∅
(A− p)
と表すこともできる。(iv) E が SpecA の有限部分集合であれば
E =∪q∈E
Spec (Aq)
と表すこともできる。また A が単項イデアル環であれば、SpecA の任意の部分集合 E に対して E は上記のように表示される。
A を環とする。環 A の乗法系 S に対して
ES = p ∈ SpecA | p ∩ S = ∅とおく。また、SpecA の部分集合 E に対して
SE = a ∈ A | p ∈ E ⇒ a /∈ p =∩p∈E
(A− p)
とおく。4
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補題 4. A を環とする。(i) A の乗法系 S に対して ES = ES , SES
= S が成り立つ。また、Aの乗法系 S1, S2 に対して
S1 ⊂ S2 =⇒ ES2 ⊂ ES1
が成り立つ。(ii) SpecA の部分集合 E に対して、SE は A の乗法系で SE = SE ,
ESE= E が成り立つ。また、SpecA の部分集合 E1, E2 に対して
E1 ⊂ E2 =⇒ SE2 ⊂ SE1
が成り立つ。
定理 2. 環 A に対して
S = S ⊂ A | Sは乗法系、S = S
E = E ⊂ SpecA | E = Eとおく。このとき
(i) 写像S −→ E
∈ ∈
S 7−→ ES
E −→ S
∈ ∈E 7−→ SE
はどちらも包含関係を逆に保つ全単射であり、互いに他の逆写像となる。(ii) A の乗法系 S に対して
S−1A ∼= S−1A, Spec (S−1A) = ES
が成り立つ。
例 1. A を環とする。(i) S = 1, E = m.SpecA とおけば S = SE = A×, E = ES = SpecA
となる。従って、定理 2, (i) の写像で S = A× と E = SpecA が対応する。また、定理 2, (i) の写像で S = A と E = ∅ が対応する。
(ii) S = A − Z(A), E = p ∈ SpecA | p ⊂ Z(A) とおけば、S は A の乗法系で S = SE = S, E = ES = E となる。従って、定理 2, (i) の写像で Sと E が対応する。さらに
Z(A) =∪
p∈SpecAp⊂Z(A)
p
と書けることも解る。(iii) イデアル p1, · · · , pn ∈ SpecA に対して
S =n∩
i=1
(A− pi), E = p1, · · · , pn
とおけば、S は A の乗法系で
S = SE = S, E = ES =n∪
i=1
SpecApi
となる。従って、定理 2, (i) の写像で S = S と E が対応する。5
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(iv) f ∈ A に対して
S = 1, f, f2, f3, · · · , E = D(f) = p ∈ SpecA | f /∈ pとおけば、S は A の乗法系で
S = SE = a ∈ A | f ∈√aA, E = ES = D(f)
となる。従って、定理 2, (i) の写像で S = a ∈ A | f ∈√aA と E = E が
対応する。(v) A のイデアル a に対して
S = 1 + a, E = p ∈ SpecA | a+ p = Aとおけば、S は A の乗法系で
S = SE = a ∈ A | a+ aA = AE = ES = p ∈ SpecA | a+ p = A
となる。従って、定理 2, (i)の写像で S = a ∈ A | a+aA = Aと E = E が対応する。また a = A であれば S ⊂ A−
√a となる。さらに
√a ∈ m.SpecA
であればS = A−
√a
と表される。(vi) A = Z, m ∈ Z (m ≧ 2) とする。このとき、S = 1+mZ は A の乗法
系でS = b ∈ Z | (b,m) = 1
が成り立つ。さらに
S−1A = a
mn − 1
∣∣∣ a ∈ Z, n ≧ 1
と表すこともできる。また m が素数 p のべき乗であれば
S = Z− pZと表される。
注意. 例 1, (v) において
(i) S1 = 1 +√a とおけば S ⊂ S1, S = S1, ES = ES1 となる。
(ii) 環 A の素イデアル p に対して S = 1 + p とおいても S = A− p が成り立つとは限らない。次の例 2を参照のこと。
例 2. 体 k 上の 2変数多項式環 A = k[x, y] に対して
p = xA, S = 1 + p
とおけば、y /∈ S かつ y /∈ pより
S ⫋ A− p
が解る。
補題 5. 環 A のイデアル p ∈ SpecA と乗法系 S が条件 p ∩ S = ∅ を満たすならば、環同形
Ap∼= (S−1A)S−1p
が成立する。従って q ∈ V (p) であれば
Ap∼= (Aq)pq
も成り立つ。6
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注意. 環 A が整であれば、任意のイデアル p ∈ SpecA に対して環 Ap も整となる。しかし、この逆は成り立たない。次の例 3を参照のこと。
例 3. 環 A, B の直積を A×B と表す。このとき(i) 環 A×B の素イデアルに関して
p×B | p ∈ SpecA ∪ A× q | q ∈ SpecB = Spec (A×B)
が成り立つ。さらに、写像 p 7→ p×B, q 7→ A× q より定まる写像
SpecA ⨿ SpecB −→ Spec (A×B)
は全単射となる。また、任意のイデアル p ∈ SpecA, q ∈ SpecB に対して、環同形
(A×B)/(p×B) ∼= A/p, (A×B)/(A× q) ∼= B/q
が成立する。(ii) 任意のイデアル p ∈ SpecA, q ∈ SpecB に対して、環同形
(A×B)p×B∼= Ap, (A×B)A×q
∼= Bq
が成立する。
以下ではSpec (A×B) = SpecA ⨿ SpecB
と表すことがある。
例 4. 環 A のイデアル a と乗法系 S に対して
a ∩ S = ∅ ⇐⇒√a ∩ S = ∅
が成り立つ。
7
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3.3. 準素イデアル環 A のイデアル a は、a = A でありかつ条件
a, b ∈ A, ab ∈ a, a /∈ a =⇒ b ∈√a
を満たすならば、準素であるといわれる。
補題 1. A, B を環とする。(i) 環 A のイデアル a に対して
aは準素イデアル ⇐⇒ nil(A/a) = Z(A/a)
が成り立つ。(ii) a が素イデアルであれば準素イデアルである。(iii) a が準素イデアルであれば
√a は素イデアルとなる。
(iv)√a が極大イデアルであれば a は準素イデアルである。
(v) m が極大イデアルで e ∈ N であれば a = me は準素イデアルとなる。(vi) 環準同形 φ : A→ B に対して
bはBの準素イデアル =⇒ φ−1(b)はAの準素イデアル
が成り立つ。
注意. 一般に、補題 1, (iii), (iv) の逆は成り立たない。また、準素イデアルと素イデアルの累乗となるイデアルとは無関係である。次の例 1を参照のこと。
例 1. k を体、x, y, z を k 上の不定元とする。(i) 環 A = k[x, y] のイデアル a = (x2) は準素イデアルであるが
√a = (x)
は極大イデアルではない。(ii) 環 A = k[x, y] のイデアル a = (x, y2) は準素イデアルであるが素イデ
アルの累乗ではない。(iii) 環 A = k[x, y, z]/(xy − z2) のイデアル p = (x, z) は素イデアルであ
るが a = p2 は準素イデアルではない。
例 2. 有理整数環 Z のイデアル a に関する次の 3条件:(a) a は準素イデアルかつ a = 0
(b) a = (pe) となる素数 p と自然数 e が存在する(c) a = me となる極大イデアル m と自然数 e が存在するは同値である。
補題 2. A を環、n ∈ N とする。このとき、A の準素イデアル a1, · · · , anが条件
√a1 = · · · = √
an を満たせば
a = a1 ∩ · · · ∩ an
も A の準素イデアルとなり√a =
√a1 = · · · =
√an
が成り立つ。
環 A のイデアル a と c ∈ A に対して
(a : c) = x ∈ A | cx ∈ aとおく。これは aを含む Aのイデアルとなる。また c ∈ aであれば (a : c) = Aとなる。
8
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補題 3. A を環、a を A の準素イデアル、c ∈ A とする。このとき(i) c /∈ a であれば (a : c) は A の準素イデアルで a ⊂ (a : c) ⊂
√a とな
る。従って√
(a : c) =√a となることも解る。
(ii) c /∈√a であれば (a : c) = a となる。
環 A のイデアル a は、A の準素イデアル a1, · · · , an を用いてa = a1 ∩ · · · ∩ an
と表されるならば、準素イデアル分解可能であるといわれる。また、上記表示を a の準素イデアル分解と呼ぶ。
環 A の準素イデアル a1, · · · , an が次の 2条件:(D1) 1 ≦ i, j ≦ n, i = j =⇒ √
ai = √aj
(D2) 1 ≦ i ≦ n =⇒n∩
j=1j =i
aj ⊂/ ai
を満たすならば、A のイデアル a の準素イデアル分解
a = a1 ∩ · · · ∩ an
は最短表示であるといわれる。
補題 4. 環 A のイデアル a が準素イデアル分解可能であれば(i) イデアル a の準素イデアル分解の最短表示が存在する。(ii) イデアル a の準素イデアル分解
a = a1 ∩ · · · ∩ an
が最短表示であれば
√a1, · · · ,
√an = SpecA ∩
√(a : c) | c ∈ A
=
p ∈ SpecA | ∃c ∈ A, (a : c)は準素イデアルで p =
√(a : c)
が成り立つ。
系. 補題 4, (ii) の仮定と記号のもと
c ∈ A | c mod a ∈ Z(A/a) =√a1 ∪ · · · ∪
√an
= c ∈ A | (a : c) = a =∪
x∈A−a
(a : x) =∪
x∈A−a
√(a : x)
が成り立つ。従って
Z(A/a) = (√a1/a) ∪ · · · ∪ (
√an/a)
=∪
x∈A−a
(a : x)/a =∪
x∈A−a
√(a : x)/a
が成り立つことも解る。
注意. (i) 補題 4, (ii) より、自然数 n と集合 √a1, · · · ,√an は、準素イデ
アル分解の表示に依存することなく、イデアル a だけから定まることが解る。(ii) 標準的環準同形 φ : A→ A/a を用いれば、補題 4の系を
φ−1(Z(A/a)
)=
√a1 ∪ · · · ∪
√an = · · ·
と表すこともできる。9
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例 3. 環 A のイデアル 0 が準素イデアル分解可能であれば Z(A) は有限個の素イデアルの和集合となる。
注意. 例 3と類似の結果がある。(3.2), 例 1, (ii) および (3.5), 例 1, (iii) を参照のこと。また、ネター環に対してはより詳しい結果が得られる。第 4章(4.5), 補題 1の系 (ii) および例 1を参照のこと。
補題 5. A を環、S を A の乗法系、φ : A→ S−1A を標準的環準同形とする。このとき
(i) 等式
Kerφ = a ∈ A | ∃c ∈ S ; ca = 0 =∪c∈S
(0 : c)
が成り立つ。
(ii) 環 S−1A のイデアル b に対して
S−1(φ−1(b)) = b
が成り立つ。
(iii) 環 A のイデアル a に対して
φ−1(S−1a) =∪c∈S
(a : c) ⊃ a
が成り立つ。従って
a =∪c∈S
(a : c) ⇐⇒ a = φ−1(S−1a)
が成り立つことも解る。
(iv) 環 A の準素イデアル a に関する次の 4条件:
(a) a ∩ S = ∅(b) S−1a = S−1A
(c) a =∪c∈S
(a : c)
(d) a = φ−1(S−1a)
は同値である。
系 1. 縮小イデアルにより定まる写像:
b | bは S−1Aのイデアル −→ aはAのイデアル | a =∪c∈S
(a : c)
∈ ∈
b 7−→ φ−1(b)
は包含関係を保つ全単射で、拡大イデアルにより定まる写像:
aはAのイデアル | a =∪c∈S
(a : c) −→ b | bは S−1Aのイデアル
∈ ∈
a 7−→ S−1a
はその逆写像となる。10
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系 2. 環 A の準素イデアルの全体を q.SpecA と表す。このとき、縮小イデアルにより定まる写像:
q.Spec (S−1A) −→ a ∈ q.SpecA | a ∩ S = ∅
∈ ∈
b 7−→ φ−1(b)
は包含関係を保つ全単射で、拡大イデアルにより定まる写像:
a ∈ q.SpecA | a ∩ S = ∅ −→ q.Spec (S−1A)
∈ ∈
a 7−→ S−1a
はその逆写像となる。
注意. 補題 5の系 2を
q.Spec (S−1A) = a ∈ q.SpecA | a ∩ S = ∅と略記すれば
Spec (S−1A) = p ∈ SpecA | p ∩ S = ∅の一般化であることが明示される。
補題 6. 環 A のイデアル a と乗法系 S に対して
S−1√a ⊂
√S−1a
が成り立つ。さらに、a が A の準素イデアルであれば
S−1√a =
√S−1a
も成り立つ。
例 4. A を環、p ∈ SpecA, φ : A → Ap を標準的環準同形とする。このとき
(i) a が A の準素イデアルで p =√a であれば ap は Ap の準素イデアル
で√ap = pp = m(Ap) および
a = φ−1(ap)
が成り立つ。(ii) 任意の自然数 e ∈ N に対して φ−1(m(Ap)
e) は A の準素イデアルで
pe ⊂ φ−1(m(Ap)e) ⊂ p
が成り立つ。さらに、p ∈ m.SpecA であれば
pe = φ−1(m(Ap)e)
も成り立つ。
11
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3.4. 形式的無限級数環 A に対して AZ はA加群となる。また
((A)) = (an)n∈Z ∈ AZ | ∃n0 ∈ Z, n < n0 ⇒ an = 0
[[A]] = (an)n∈Z ∈ AZ | n < 0 ⇒ an = 0[A] = (an)n∈Z ∈ [[A]] | ∃n1 ∈ Z, n > n1 ⇒ an = 0
とおけば、これらはすべて AZ の部分A加群となる。
補題 1. A を環とする。(i) a = (an)n∈Z, b = (bn)n∈Z ∈ ((A)) に対して
(ab)n =∑k∈Z
akbn−k ∈ A (n ∈ Z)
により積 ab ∈ ((A)) を定めることができる。(ii) ((A)) は環となる。(iii) [[A]] は ((A)) の部分環となる。(iv) [A] は [[A]] の部分環となる。(v) A を [A] の部分環とみなすことができる。
系 1. 共変関手 (( )), [[ ]], [ ] : (Rings) → (Rings) が定義される。
系 2. 環 A に対して X ∈ [A] を
X1 = 1, Xn = 0 (n ∈ Z, n = 1)
により定めれば、X は A 上の不定元となる。また、任意に (an)n∈Z ∈ [A](n > n1 ⇒ an = 0) をとれば
(an)n∈Z =
n1∑n=0
anXn
と表すことができる。
注意. 環 A 上の不定元 X を用いて
((A)) = A((X)), [[A]] = A[[X]], [A] = A[X]
などと表すこともある。また、((A)) = A((X)) を A 上の形式的ローラン級数環、[[A]] = A[[X]] を A 上の形式的冪級数環、[A] = A[X] を A 上の多項式環と呼ぶ。
多項式 f = (an)n∈Z ∈ [A] に対して
deg(f) = maxn ∈ Z | an = 0 ∈ −∞, 0, 1, 2, · · · とおく。ここで deg(0) = max∅ = −∞ であることに注意する。このとき、任意の多項式 f , g ∈ [A] に対して
deg(f + g) ≦ maxdeg(f), deg(g)deg(f) = deg(g) =⇒ deg(f + g) = maxdeg(f), deg(g)
deg(fg) ≦ deg(f) + deg(g)
が成り立つ。さらに、環 A が整であれば
deg(fg) = deg(f) + deg(g)
も成り立つ。12
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補題 2. A を環、n ∈ N とし、f(X) = Xn + a1Xn−1 + · · · + an ∈ A[X],
g(X) ∈ A[X] とする。このとき(i) 条件
g(X) = f(X)q(X) + r(X), deg(r(X)) < deg(f(X))
を満たす多項式 q(X), r(X) ∈ A[X] が存在する。(ii) 環 A が整であれば、(i) の多項式 q(X), r(X) ∈ A[X] は一意的に定
まる。
補題 3. A を環とする。ローラン級数 f = (an)n∈Z ∈ ((A)) に対して
ord((A))(f) = min n ∈ Z | an = 0 ∈ Z ∪ +∞とおく。ここで ord((A))(0) = min∅ = +∞ であることに注意する。このとき、任意のローラン級数 f , g ∈ ((A)) に対して
ord((A))(f + g) ≧ minord((A))(f), ord((A))(g)ord((A))(f) = ord((A))(g) =⇒ ord((A))(f + g) = minord((A))(f), ord((A))(g)
ord((A))(fg) ≧ ord((A))(f) + ord((A))(g)
が成り立つ。さらに、環 A が整であれば
ord((A))(fg) = ord((A))(f) + ord((A))(g)
も成り立つ。
系. 環 A に対して
Aは整 ⇐⇒ [A]は整 ⇐⇒ [[A]]は整 ⇐⇒ ((A))は整
が成り立つ。
補題 4. A を環とする。写像 d : ((A))× ((A)) → R をd(f, g) = exp(−ord((A))(f − g))
(f, g ∈ ((A))
)により定義する。ここで exp(−∞) = 0 とする。このとき
(i) 写像 dは ((A))上の距離関数となる。即ち(((A)), d
)は距離空間となる。
(ii) 整数 n ∈ Z に対してVn = f ∈ ((A)) | ord((A))(f) ≧ n
とおけば、Vn は ((A)) の開部分A加群となり
Σ0 = Vn | n ∈ Nは ((A)) の零元 0 の基本近傍系となる。また ((A)) は d が定める位相により分離的かつ完備な位相環となる。
(iii) ローラン級数 f = (an)n∈Z ∈ ((A)) を任意にとれば
f = (an)n∈Z =
+∞∑n=ord((A))(f)
anXn
と表すことができる。また、冪級数 f = (an)n∈Z ∈ [[A]] を
f = (an)n∈Z =
+∞∑n=0
anXn
と表すこともできる。13
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系. ローラン級数よりなる列 (fn)+∞n=0 に関する次の 3条件:
(a) limn→+∞
ord((A))(fn) = +∞
(b) limn→+∞
fn = 0
(c) 級数+∞∑n=0
fn は ((A)) で収束する
は同値である。
補題 5. A を環とする。このとき、冪級数 f ∈ [[A]] を
f = f(X) = 1 + a1X + a2X2 + · · ·
により定めれば f ∈ [[A]]× となる。即ち
1 +XA[[X]] ⊂ [[A]]×
が成り立つ。
系. 環 A に対して
[[A]]× = A× × (1 +XA[[X]])
((A))× = XZ × [[A]]× = A× ×XZ × (1 +XA[[X]])
が成り立つ。
補題 6. 環 A が整であれば
Q[A] = (QA)(X)
および
Q[[A]] = Q((A)) =fb| f ∈ ((A)), b ∈ A, b = 0
= (A− 0)−1((A))
が成り立つ。
系. A を体とする。このとき
Q[A] = A(X)
が成り立つ。また ((A)) も体となり
Q[[A]] = ((A))
が成り立つ。
注意. 一般に、補題 6とその系より、整環 A に対して
Q[[A]] = Q((A)) ⫋ ((QA))
となることが解る。
例 1. A = Z とする。素数 p に対して
f = f(X) =
+∞∑k=1
1
pkXk
とおけば f ∈ Q((X)) = Q((Q)) かつ f /∈ Q(Z[[X]]) = Q([[Z]]) となる。
14
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3.5. A加群の性質
環 A に対して、A加群 M の定義と基本的な性質を既知とする。
A加群 M と x ∈M に対して
AnnA(x) = a ∈ A | ax = 0
AnnA(M) = a ∈ A | ∀x ∈M, ax = 0とおく。これらはどちらも A のイデアルで
AnnA(M) =∩x∈M
AnnA(x)
が成り立つ。また AnnA(M) = 0 が成り立つならば M は忠実A加群であるといわれる。
例 1. A を環とする。
(i) 任意のA加群 M は忠実 A/AnnA(M) 加群と考えられる。
(ii) A加群 M と x ∈M に対して
x = 0 ⇐⇒ AnnA(x) = A
M = 0 ⇐⇒ AnnA(M) = A
が成り立つ。
(iii) 環 A をA加群とみなせば
AnnA(A) = 0, Z(A) =∪x∈Ax =0
(0 : x) =∪x∈Ax =0
AnnA(x)
が成り立つ。
補題 1. 環 A のイデアル a と有限生成A加群 M に対して aM =M が成り立つと仮定する。このとき
(i) a ≡ 1 mod a となる a ∈ AnnA(M) が存在する。
(ii) a ⊂ rad(A) であれば M = 0 となる。
系 1. A を環、a を rad(A) に含まれる A のイデアル、M を A加群とする。このとき、N が M の部分 A加群で M/N が有限生成 A加群かつM = N + aM となるならば N =M となる。
系 2. A を環、M を有限生成 A加群とする。このとき、A加群準同形φ :M →M が全射であればA加群同形となる。
系 3. R を局所環、m = m(R), k = R/m(R), M を有限生成 R加群とする。このとき、x1, · · · , xn ∈M に関する次の 2条件:
(a) M =
n∑i=1
Rxi
(b) M/mM =
n∑i=1
k xi
は同値である。ここで M/mM は k線形空間となることに注意する。また、x ∈M に対して x = xmodmM ∈M/mM と表す。
注意. 補題 1を中山の補題という。15
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環 A の乗法系 S とA加群 M に対して、S−1A加群 S−1M の定義と基本的な性質を既知とする。従って、イデアル p ∈ SpecA に対して、Ap加群 Mp
の定義と基本的な性質も既知とする。A加群 M に対して
SuppA(M) = p ∈ SpecA |Mp = 0とおく。
補題 2. 環 A と A の乗法系 S に対して
S−1A = 0 ⇐⇒ 0 ∈ S
が成り立つ。従ってp ∈ SpecA =⇒ Ap = 0
が成り立つことも解る。
系. 環 A をA加群とみなせば
SuppA(A) = SpecA
が成り立つ。
補題 3. 環 A の乗法系 S とA加群 M に対して
S−1M = 0 ⇐⇒ ∀x ∈M, AnnA(x) ∩ S = ∅が成り立つ。従って
SuppA(M) =∪x∈M
V(AnnA(x)
)と表せることも解る。さらに、M が有限生成A加群であれば
SuppA(M) = V(AnnA(M)
)も成り立つ。
補題 4. 環 A とA加群 M に関する次の 5条件:(a) M = 0
(b) 任意の p ∈ SpecA に対して Mp = 0
(b′) SuppA(M) = ∅(c) 任意の m ∈ m.SpecA に対して Mm = 0
(c′) SuppA(M) ∩m.SpecA = ∅は同値である。
環 A とA加群 M に対して MZ はA加群となる。また
((M)) = (xn)n∈Z ∈MZ | ∃n0 ∈ Z, n < n0 ⇒ xn = 0
[[M ]] = (xn)n∈Z ∈MZ | n < 0 ⇒ xn = 0[M ] = (xn)n∈Z ∈ [[M ]] | ∃n1 ∈ Z, n > n1 ⇒ xn = 0
とおけば、これらはすべて MZ の部分A加群となる。
補題 5. 環 A とA加群 M に対して(i) ((M)) は ((A))加群となる。(ii) [[M ]] は [[A]]加群となる。(iii) [M ] は [A]加群となる。
16
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例 2. 環 A のイデアル a と乗法系 S に対して(i) SuppA(A/a) = V (a) が成り立つ。(ii) SuppA(S
−1A) = p ∈ SpecA | p ∩ S = ∅ が成り立つ。(iii) SuppA(S
−1A/S−1a) = p ∈ SpecA | a ⊂ p, p∩S = ∅ が成り立つ。(iv) SuppA([A]) = SpecA が成り立つ。(v) SuppA([[A]]) = SpecA が成り立つ。(vi) SuppA
(((A))
)= SpecA が成り立つ。
以下では、A加群 M , N のテンソル積 M ⊗A N の定義とその基本的な性質を既知とする。一般に、環準同形 φ : A → B により B加群 N を A加群とみなすことは
できる。実際、定数倍を
ay = φ(a)y (a ∈ A, y ∈ N)
により定義すればよい。逆に、A加群を自然にB加群とみなすことはできない。そこで、テンソル積の場合は次のように定義する。環準同形 φ : A→ B,A加群 M , B加群 N に対して、A加群 M ⊗A N を
b(x⊗A y) = x⊗A (by) (b ∈ B, x ∈ m, y ∈ N)
によりB加群とみなす。
補題 6. A, B を環とする。(i) A のイデアル a, A の乗法系 S およびA加群 M に対して
S−1(A/a)⊗A M ∼= S−1M/S−1(aM) (S−1(A/a)加群の同形)
(A/a)⊗A M ∼= M/aM (A/a加群の同形)
(S−1A)⊗A M ∼= S−1M (S−1A加群の同形)
[A]⊗A M ∼= [M ] ([A]加群の同形)
が成り立つ。(ii) 環準同形 φ : A → B により B を A加群とみなす。このとき A のイ
デアル a に対して b = φ(a)B とおけば
(A/a)⊗A B ∼= B/b (環同形)
が成り立つ。また p ∈ SpecA を任意にとり b = φ(p)B, S = φ(A− p) とおけば
Q(A/p)⊗A B ∼= S−1B/S−1b (環同形)
が成り立つ。
系. 環 A と A のイデアル a および A の乗法系 S を固定する。このとき(i) 共変関手 ∗/a : (A-Mod.) → (A/a-Mod.) が定義される。(ii) 共変関手 S−1 : (A-Mod.) → (S−1A-Mod.) が定義される。(iii) 共変関手 [ ] : (A-Mod.) → ([A]-Mod.) が定義される。
注意. (i) 一般に、補題 6, (i) の類似:
((A))⊗A M ∼= ((M))(((A))加群の同形
)[[A]]⊗A M ∼= [[M ]] ([[A]]加群の同形)
は成立しない。17
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(ii) 補題 6の系の共変関手はどれも係数拡大の一例である。係数拡大については第 0章 (0.2), 例 1, (4) を参照のこと。
補題 7. 環 A と A のイデアル a および A の乗法系 S に対して(i) M , N がどちらもA/a加群であれば
M ⊗A N ∼= M ⊗A/a N (A/a加群の同形)
が成り立つ。(ii) M , N がどちらも S−1A加群であれば
M ⊗A N ∼= M ⊗S−1A N (S−1A加群の同形)が成り立つ。
注意. 一般に、M , N が共に [A]加群であってもM ⊗A N ∼= M ⊗[A] N ([A]加群の同形)
は成り立たないことが補題 6, (i) より解る。
A加群 M は、圏 (A-Mod.) において
0 → N1 → N2 (exact) =⇒ 0 →M ⊗A N1 →M ⊗A N2 (exact)
が成り立つならば、平坦であるといわれる。さらに M は、
0 → N1 → N2 (exact) ⇐⇒ 0 →M ⊗A N1 →M ⊗A N2 (exact)
が成り立つならば、忠実平坦であるといわれる。
例 3. 自由A加群 ⇒ 忠実平坦A加群 ⇒ 平坦A加群
比較. 自由A加群 ⇒ 射影的A加群 ⇒ 平坦A加群
環準同形 φ : A → B は、環 B を φ により A加群とみなして平坦であるならば、平坦であるといわれる。環準同形 φ : A→ B が忠実平坦であることも同様に定義される。
例 4. 環 A と A のイデアル a および A の乗法系 S に対して(i) 標準的環準同形 A→ A/a は一般に平坦ではない。例えば、イデアル a
が条件a ⊂ Z(A)/ , a = A
を満たせば、環準同形 A→ A/a は平坦ではない。(ii) 標準的環準同形 A→ S−1A は平坦である。(ii′) 標準的環準同形 φ : A→ S−1A に関する次の 4条件:
(a) φ は環同形(b) Specφ は全射(c) S ⊂ A×
(d) φ は忠実平坦は同値である。
(iii) 標準的環準同形 A→ [A] は忠実平坦である。
補題 8. 平坦A加群 M に関する次の 3条件:(a) M は忠実平坦A加群(b) A加群 N に対して M ⊗A N = 0 ならば N = 0
(c) 任意の m ∈ m.SpecA に対して mM =M
は同値である。18
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系. 局所環 A, B の間の局所的環準同形 φ : A→ B に対しては、平坦と忠実平坦とは同値になる。
補題 9. 環準同形 φ : A→ B とB加群 M に関する次の 3条件:(a) M は平坦A加群(b) 任意の q ∈ SpecB に対して、Mq は平坦Aφ−1(q)加群
(c) 任意の n ∈ m.SpecB に対して、Mn は平坦Aφ−1(n)加群
は同値である。従って、次の 3条件:(a′) 環準同形 φ : A→ B は平坦(b′) 任意の q ∈ SpecB に対して、環準同形 Aφ−1(q) → Bq は平坦
(c′) 任意の n ∈ m.SpecB に対して、環準同形 Aφ−1(n) → Bn は平坦
も同値であることが解る。
この節の最後に多元環のテンソル積について考える。
例 5. 環 A 上の多元環 B, C に対して、テンソル積 B ⊗A C は B と C の圏 (A-Rings) における直和となる。即ち
B ⨿A C = B ⊗A C
と表すことができる。
19
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3.6. 整拡大と整閉整環
この節では環の整拡大と整閉整環の定義と基本的な性質について述べる。
A ⊂ B を環の拡大とする。x ∈ B は、任意の n ≧ 1 に対して 1, x, · · · , xnが A 上線形独立となるならば、A 上超越的であるといわれる。超越的でなければ、即ち a0+a1x+ · · ·+anxn = 0 となる n ≧ 1 と a0, · · · , an ∈ A, an = 0が存在するならば、x は A 上代数的であるといわれる。特に an = 1 ととれるならば、x は A 上整であるといわれる。環 B のすべての要素が A 上整であれば、環の拡大 A ⊂ B は整であるといわれる。同様にB のすべての要素が A 上代数的であれば、環の拡大 A ⊂ B は代数的であるといわれる。A上超越的な B の要素が存在すれば、環の拡大 A ⊂ B は超越的であるといわれる。環の拡大 A ⊂ B と x ∈ B に対して、環準同形
[A] −→ Bx∗ : ∈ ∈
f 7−→ f(x)
を定義する。ここで f = (a0, a1, · · · , an, 0, · · · ) に対して
x∗(f) = f(x) = a0 + a1x+ · · ·+ anxn
とおく。また Im x∗ = A[x] と書く。このとき
xは A 上超越的である ⇐⇒ Ker x∗ = 0
が成り立つ。従って x が A 上超越的であれば [A] ∼= A[x] となることも解る。
環準同形 φ : A→ B は、Im φ ⊂ B が整拡大であれば、整であるといわれる。同様に、環準同形 φ : A→ B が代数的であることおよび超越的であることも定義される。
例 1. 環 A と A のイデアル a および A の乗法系 S に対して
(i) 標準的環準同形 A→ A/a は整である。
(ii) 標準的環準同形 A→ S−1A は代数的である。
(ii′) 標準的環準同形 φ : A→ S−1A に関する次の 5条件:
(a) φ は環同形
(b) Specφ は全射
(c) S ⊂ A×
(d) φ は忠実平坦
(e) φ は整
は同値である。
(iii) 標準的環準同形 A→ [A] は超越的である。
(iv) A が体であれば「A 上整」と「A 上代数的」とは同値になる。
補題 1. 環の拡大 A ⊂ B と x ∈ B に関する次の 4条件:
(a) x は A 上整
(b) A[x] は有限生成A加群
(c) B の部分環で x を含みA加群として有限生成であるものが存在する
(d) 忠実なA[x]加群でA加群として有限生成であるものが存在する
は同値である。20
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系. (i) A ⊂ B を環の拡大とする。このとき、x1, · · · , xn ∈ B がすべて A上整であれば A[x1, · · · , xn] は有限生成A加群であり A の整拡大である。
(ii) A ⊂ B を環の拡大とする。このとき、A 上整である B の要素の全体は B の部分環となる。
(iii) 環の拡大 A ⊂ B ⊂ C において、A ⊂ B と B ⊂ C がどちらも整拡大であれば A ⊂ C も整拡大となる。
(iv) 環の拡大 A ⊂ B に対して
Bは有限生成A加群 ⇐⇒ Bは A 上有限型かつ整
が成り立つ。
A ⊂ B を環の拡大とする。環 A 上整である B の要素の全体がつくる Bの部分環を A の B における整閉包という。環 A の B における整閉包は Bで整閉であることが系 (iii) より解る。環 A の B における整閉包が A に等しければ、A は B において整閉であるといわれる。整環 A が商体 QA において整閉であれば単に整閉であるといわれる。環 A は、任意のイデアル p ∈ SpecA に対して Ap が整閉整環となるなら
ば、正規であるといわれる。
注意. 正規環が整であるとは限らない。第 4章 (4.6), 例 4, 例 5を参照のこと。
補題 2. A ⊂ B を環の整拡大とする。このとき(i) B のイデアル b に対して A/A ∩ b → B/b は整拡大となる。(ii) A の乗法系 S に対して S−1A → S−1B は整拡大となる。
補題 3. A ⊂ B を環の拡大、S を A の乗法系とする。このとき A の Bにおける整閉包を A′ とすれば、S−1A の S−1B における整閉包は S−1A′ となる。
系. A が整閉整環であれば S−1A も整閉整環となる。
例 2. 環 B の部分環 Ai (i ∈ I) がすべて B で整閉であれば、それらの共通部分
∩i∈I Ai も B で整閉となる。
例 3. A を体、K を A の商体、L を K の代数拡大、B を A の L における整閉包とする。このとき
L = (A− 0)−1B
と表される。従って L = QB となることも解る。
任意の有限生成イデアルが単項イデアルとなるような環をベズー環と呼ぶ。
補題 4. A をベズー整環とする。このとき(i) A は条件
∀α ∈ QA, ∃a, b ∈ A ; b = 0, α =a
b, aA+ bA = A
を満たす。(ii) A は整閉整環である。
PID, UFD の定義を既知とする。
例 4. 次が成り立つ。(i) PID ⇒ UFD ⇒ 整閉整環
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(ii) Z ⇒ PID, 体上の 1変数多項式環 ⇒ PID
(iii) 体上の多項式環 ⇒ UFD
補題 5. 環の整拡大 A ⊂ B に対して
Aは体かつBは整環 ⇐⇒ Bは体
が成り立つ。
定理 1. 体 k 上有限型な整環 A に対して
Aは k の整拡大 ⇐⇒ Aは体
が成り立つ。さらに A が体であれば、A は k の有限次拡大となる。
注意. 定理 1 (の ⇐ の部分)をヒルベルトの零点定理弱形という。本来のヒルベルトの零点定理については第 10章 (10.1) を参照のこと。
定理 2. 体 k と自然数 n に対して、k 上の n変数多項式環を A = [k]n =k[X1, · · · , Xn] と表し、写像
kn −→ SpecAΦk,n : ∈ ∈
(a1, · · · , an) 7−→ (X1 − a1, · · · , Xn − an)
を定める。このとき(i) 写像 Φk,n は単射であり Φk,n(k
n) ⊂ m.SpecA が成り立つ。(ii) 体 k に関する次の 2条件:
(a) k は代数的閉体である(b) 任意の n ∈ N に対して Φk,n(k
n) = m.SpecA が成り立つは同値である。
補題 6. A を整閉整環、X を A 上の不定元とする。このとき monic 多項式 f(X), g(X) ∈ K[X] に対して
f(X)g(X) ∈ A[X] =⇒ f(X), g(X) ∈ A[X]
が成り立つ。
補題 7. A が整閉整環であれば [A] も整閉整環となる。
注意. A が整閉整環であっても [[A]] や ((A)) が整閉整環になるとは限らない。第 3章 (3.10), 例 7および (3.11), 補題 11を参照のこと。
A ⊂ B を環の拡大、a を A のイデアルとする。このとき x ∈ B は、xn + a1x
n−1 + · · ·+ an = 0 となる n ∈ N と a1, · · · , an ∈ a が存在するならば、a 上整であるといわれる。また、a 上整である B の要素の全体を a の Bにおける整閉包という。
補題 8. A ⊂ B を環の拡大、a を A のイデアルとする。このとき、A のB における整閉包を A1 とし a1 = aA1 とおけば、a の B における整閉包は√a1 となる。従って
√a = A ∩√
a1 が成り立つことも解る。
補題 9. A を整閉整環、a を A のイデアル、B を整環とし A ⊂ B であるとする。このとき、x ∈ B が a 上整であれば x は QA 上代数的で、x の QA上の最小多項式を
Xn + a1Xn−1 + · · ·+ an ∈ (QA)[X]
と表せば a1, · · · , an ∈√a となる。
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系. x ∈ B が A 上整であれば x は QA 上代数的で、x の QA 上の最小多項式を
Xn + a1Xn−1 + · · ·+ an ∈ (QA)[X]
と表せば a1, · · · , an ∈ A となる。
補題 10. A を整環、K = QA, L を K の有限次拡大とする。このとき Lの部分環 B が条件 A ⊂ B, L = QB を満たすならば、A 上整である B の元β1, · · · , βn が存在して
L =n⊕
i=1
Kβi
が成り立つ。
定理 3. k を体、A を k 上有限型な整環とする。このとき、次の 2条件:(N1) x1, · · · , xn は k 上代数的に独立(N2) k[x1, · · · , xn] ⊂ A は整拡大を満たす x1, · · · , xn ∈ A が存在する。
注意. 定理 3をネターの正規化定理という。
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3.7. 局所環この節では局所環の基本的な性質について述べる。補題 1. R が局所環であれば
R = R× ∪m(R)
が成り立つ。
例 1. 環 A とその素イデアル p に対して、Ap は局所環となり
pp = m(Ap)
が成り立つ。
補題 2. 環 A が整であれば
A =∩
m∈m.SpecA
Am =∩
p∈SpecAAp ⊂ QA
が成り立つ。
系. 整環 A に関する次の 3条件:(a) A は整閉整環(b) 任意のイデアル p ∈ SpecA に対して Ap は整閉整環(c) 任意のイデアル m ∈ m.SpecA に対して Am は整閉整環は同値である。
補題 3. 環 A に対して、写像
m.Spec [[A]] −→ m.SpecA
∈ ∈
n 7−→ A ∩ n
は全単射となり、写像
m.SpecA −→ m.Spec [[A]]
∈ ∈
m 7−→ m⊕XA[[X]]
はその逆写像となる。ここで [[A]] = A[[X]] とする。
系. 環 A に対して
Aは局所環 ⇐⇒ [[A]]は局所環
が成り立つ。さらに A, [[A]] が局所環であれば
m(A) = A ∩m([[A]]), m([[A]]) = m(A)⊕XA[[X]]
も成り立つ。
例 2. 環 A に対して
Aは体 ⇐⇒ ((A))は体
が成り立つ。
補題 4. R を局所整閉整環とし、x ∈ QR が
a0xn + a1x
n−1 + · · ·+ an−1x+ an = 0 (a0, · · · , an ∈ R)
という関係式を満たすとする。このとき a0, · · · , an の中の少なくともひとつが単元であれば、x ∈ R または x−1 ∈ R が成り立つ。
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環の拡大 A ⊂ B に対して
Loc(B|A) = R | A ⊂ R ⊂ B, Rは局所環 とおけば、写像
Loc(B|A) −→ SpecAπB|A : ∈ ∈
R 7−→ A ∩m(R)
が定義される。
以下では B が体である場合を考える。
補題 5. 体 K とその部分環 A に対して、写像
Loc(K|A) −→ SpecAπK|A : ∈ ∈
R 7−→ A ∩m(R)
および写像SpecA −→ Loc(K|A)
ΨA|K : ∈ ∈p 7−→ Ap
を定める。このとき(i) 写像 πK|A, ΨA|K に対して
πK|A ΨA|K = 1SpecA
が成り立つ。従って、写像 πK|A : Loc(K|A) → SpecA は包含関係を逆に保つ全射であり、写像 ΨA|K : SpecA → Loc(K|A) は包含関係を逆に保つ単射である。
(ii) 任意のイデアル p ∈ SpecA に対して
π −1K|A(p) = π −1
K|Ap(pp)
が成り立つ。さらに
A =∩
R∈Loc(K|A)
R, Ap =∩
R∈π −1K|A(p)
R
が成り立つことも解る。
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3.8. 付値環・プリューファー環
この節では付値環とプリューファー環の定義と基本的な性質について述べる。
整環 R は、条件
x ∈ QR, x /∈ R =⇒ x−1 ∈ R
を満たすならば、付値環であるといわれる。
補題 1. R を付値環とする。このとき
(i) QR の部分R加群の全体は包含関係に関して全順序集合となる。
(ii) R は局所環であり
R = QR− x ∈ (QR)× | x−1 ∈ m(R)と表される。
(iii) R の任意の有限生成イデアルは単項である。
(iv) R は整閉整環である。
系. 整環 R に対して
Rは付値環 ⇐⇒ Rは局所環かつ任意の有限生成イデアルは単項
が成り立つ。
補題 2. R を付値環とし、QR の部分環 R′ が R を含むとする。このとき
(i) R′ は付値環となる。
(ii) m(R′) ∈ SpecR となり
R′ = Rm(R′)
と表される。
(iii) 剰余環 R/m(R′) は R′/m(R′) を商体とする付値環となる。
例 1. k が体であれば [[k]] は ((k)) を商体とする付値環となる。
体 K とその部分環 A に対して、K を商体とし A を含む付値環の全体をZar(K|A) または ZarAK と表す。このとき Zar(K|A) ⊂ Loc(K|A) が成り立つ。
注意. A = Z または A = Fp (p は素数) であれば
ZarK = Zar(K|A) = ZarAK
と略記する。このとき ZarK は K を商体とする付値環の全体を表す。
定理 1. 体 K とその部分環 A に対して、写像
Zar(K|A) −→ SpecAΦK|A : ∈ ∈
R 7−→ A ∩m(R)
を定める。このとき
(i) 任意のイデアル p ∈ SpecA に対して
Φ −1K|A(p) = Φ −1
K|Ap(pp)
が成り立つ。
(ii) 写像 ΦK|A : Zar(K|A) → SpecA は包含関係を逆に保つ全射となる。26
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系. (i) 整環 A の体 K における整閉包は∩R∈Zar(K|A)
R
に等しい。(ii) 任意のイデアル p ∈ SpecA に対して、環 Ap の K における整閉包は∩
R∈Φ −1K|A(p)
R
に等しい。
補題 3. 整環 A を含む体の拡大 K ⊂ L に対して
Q ∈ Zar(L|A) =⇒ K ∩Q ∈ Zar(K|A)が成り立つ。
整環 A を含む体の包含写像 iK|L : K → L に対して、補題 3より、写像
Zar(L|A) −→ Zar(K|A)ZarA(iK|L) : ∈ ∈
Q 7−→ K ∩Qが定義される。さらに ZarA(iK|L) は包含関係に関して順序写像となる。
補題 4. K, L, M を整環 A を含む体とする。(i) 包含写像 iK|L : K → L, iL|M : L →M に対して
ZarA(iK|M ) = ZarA(iK|L) ZarA(iL|M )
が成り立つ。(ii) ZarA(1K) = 1Zar(K|A) が成り立つ。
系. 整環 A を含む体と包含写像のつくる圏を (A-Fields) と表せば、反変関手 ZarA : (A-Fields) → (Sets) が定義される。
定理 2. 整環 A に関する次の 3条件:(a) 任意のイデアル p ∈ SpecA に対して Ap は付値環(b) 任意のイデアル m ∈ m.SpecA に対して Am は付値環(c) A は整閉整環で写像 ΦQA|A : Zar(QA|A) → SpecA は単射
は同値である。
整環 A は定理 2の条件 (a), (b), (c) を満たすならばプリューファー環であるといわれる。
A がプリューファー環であれば、第 3章 (3.7), 補題 4で定義された写像ΨA|K は ΨA|K : SpecA→ Zar(K|A) とみなすことができる。
例 2. A をプリューファー環、K = QA とする。このとき、写像
ΦK|A : Zar(K|A) −→ SpecA
は順序逆同形となり、写像
ΨA|K : SpecA −→ Zar(K|A)
はその逆写像となる。27
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例 3. 環 R に関する次の 3条件:(a) R は付値環(b) R は局所環かつプリューファー環(c) R は局所環かつベズー整環は同値である。
補題 5. A をプリューファー環、K を A の商体、L を K の代数拡大、Bを A の L における整閉包とする。このとき、B もプリューファー環となる。
系. 代数的整数の全体はプリューファー環となる。
補題 6. A を整閉整環、B を A の整拡大とする。このとき、B がプリューファー環であれば A もプリューファー環となる。
次に付値環の乗法付値について述べる。第 1章 (1.5), 例 4, 例 10の復習から始める。
体 K と R ∈ ZarK に対して、K における関係を
α ∼ β ⇐⇒ ∃γ ∈ R× ; α = βγ (α, β ∈ K)
により定めれば、∼ は K の同値関係となり α ∈ K が属する類 α は
α = αR×
と表される。特に 0 = 0 が解る。また、商集合 K/∼ はK/∼ = K/R× = 0 ∪K×/R×
と表される。さらに、商集合 K/R× の 2項演算 · をα · β = αβ (α, β ∈ K)
により定め、順序 ≦ をα ≦ β ⇐⇒ α ∈ βR (α, β ∈ K)
により定めれば、K×/R× は順序群となり K/R× は添加順序群となる。
補題 7. 体 K と R ∈ ZarK に対して、写像 φ : K → K/R× を
φ(α) = α (α ∈ K)
により定める。このとき(i) 任意の α, β ∈ K に対して
α = 0 ⇐⇒ φ(α) = 0
φ(αβ) = φ(α)φ(β)
φ(α+ β) ≦ maxφ(α), φ(β)が成り立つ。
(ii) 写像 φ を用いれば
R = α ∈ K | φ(α) ≦ 1R× = α ∈ K | φ(α) = 1m(R) = α ∈ K | φ(α) < 1
と表すことができる。
注意. (i) 補題 7の写像 φ : K → K/R× を付値環 R に付随する乗法付値という。
28
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(ii) 補題 7が添加順序群の研究の動機のひとつと思われる。
補題 8. K を体、R ∈ ZarK とし φ : K → K/R× を付値環 R に付随する乗法付値とする。このとき
(i) α1, · · · , αn ∈ K に対して
φ(α1 + · · ·+ αn) ≦ max φ(αi) | 1 ≦ i ≦ nが成り立つ。さらに α1, · · · , αn が条件
i = j =⇒ φ(αi) = φ(αj)
を満たすならば
φ(α1 + · · ·+ αn) = max φ(αi) | 1 ≦ i ≦ nも成り立つ。
(ii) α1, · · · , αn ∈ K, α1 + · · ·+ αn = 0 であれば、条件
i = j, φ(αi) = φ(αj)
を満たす i, j (1 ≦ i, j ≦ n) が存在する。
例 4. 付値環 R が体ではない PIDであれば K×/R× ∼= Z となる。
この節の最後に付値環の分岐指数と相対次数について述べる。
補題 9. K ⊂ L を体の拡大、A を K の部分環、Q ∈ Zar(L|A), R =K ∩Q ∈ Zar(K|A) とする。このとき
(i) R× = K× ∩Q× = K ∩Q× が成り立つ。(ii) m(R) = R ∩m(Q) = K ∩m(Q) が成り立つ。
K ⊂ L を体の拡大、A を K の部分環、Q ∈ Zar(L|A), R = K ∩ Q ∈Zar(K|A) とする。このとき、補題 9より
K×/R× → L×/Q×, R/m(R) → Q/m(Q)
とみなすことができる。そこで
e(Q|R) = (L×/Q× : K×/R×) (群の指数)
f(Q|R) = [Q/m(Q) : R/m(R)] (体の拡大次数)
とおき、それぞれ Q|R の分岐指数、相対次数と呼ぶ。補題 10. K ⊂ L を体の有限次拡大、A を K の部分環、Q ∈ Zar(L|A),
R = K ∩Q ∈ Zar(K|A) とする。このとき e(Q|R), f(Q|R) ∈ N およびe(Q|R) f(Q|R) ≦ [L : K]
が成り立つ。
29
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3.9. ヒルベルト環この節ではヒルベルト環の定義と基本的な性質について述べる。整環 A は商体 QA が A 上有限型であるならばG整環であるといわれる。
注意. G は Goldman の頭文字である。
補題 1. A がG整環であれば
QA = A[b−1]
となる b ∈ A (b = 0) が存在する。
例 1. (i) 体はG整環である。(ii) 付値環が PIDであればG整環となる。(iii) 有理整数環 Z や体 k 上 1変数多項式環 [k] はG整環ではない。
例 2. UFD A がG整環であるための必要十分条件は A の単項素イデアルが有限個しか存在しないことである。
補題 2. 整環の拡大 A ⊂ B に関して、次の 2条件:(a) A はG整環で QA ⊂ QB は代数拡大(b) B はG整環を導入する。このとき
(a) =⇒ (b)
が成り立つ。さらに B が A 上有限型であれば
(a) ⇐⇒ (b)
も成り立つ。
注意. 補題 2 の (a) ⇐ (b) を用いるとヒルベルトの零点定理弱形 ((3.6),定理 1の ⇐ ) をより簡単に示すことができる。
環 A のイデアル p は剰余環 A/p がG整環であるならばGイデアルであるといわれる。環 A のGイデアルの全体を G.SpecA と表す。このとき
m.SpecA ⊂ G.SpecA ⊂ SpecA
が成り立つ。
補題 3. 整環 A に対して
AはG整環 ⇐⇒∩
p∈SpecA−0
p = 0
が成り立つ。
系. 環 A のイデアル p ∈ SpecA に対して
p ∈ G.SpecA ⇐⇒ p ⫋∩
p′∈V (p)−p
p′
が成り立つ。
補題 4. 環 A のイデアル a に対して√a =
∩p∈V (a)∩G.SpecA
p
が成り立つ。30
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環 A は A の任意の素イデアルが極大イデアルの共通部分として表されるならばヒルベルト環であるといわれる。即ち
Aはヒルベルト環 ⇐⇒ ∀p ∈ SpecA ; p =∩
m∈V (p)∩m.SpecA
m
と定義する。
例 3. (i) 体はヒルベルト環である。(ii) 有理整数環 Z はヒルベルト環である。(iii) 体 k 上 1変数多項式環 [k] はヒルベルト環である。(iv) 体ではない局所整環はヒルベルト環ではない。(v) A がヒルベルト環であれば rad(A) = nil(A) が成り立つ。
定理 1. 環 A に関する次の 3条件:(a) A はヒルベルト環(b) m.SpecA = G.SpecA
(c) A のイデアル a に対して√a =
∩m∈V (a)∩m.SpecA
m が成り立つ
は同値である。
系. 環 A に対して
AはG整環かつヒルベルト環 ⇐⇒ Aは体
が成り立つ。
例 4. 環 A に関する次の 3条件:(a) A はヒルベルト環(b) A の任意のイデアル a に対して rad(A/a) = nil(A/a) が成り立つ(c) A の任意の素イデアル p に対して rad(A/p) = 0 が成り立つは同値である。
補題 5. A がヒルベルト環で a が A のイデアルであれば、剰余環 A/a もヒルベルト環となる。
補題 6. 環 A に対して
Aはヒルベルト環 ⇐⇒ [A]はヒルベルト環
が成り立つ。
定理 2. ヒルベルト環上有限型な環はヒルベルト環となる。
系. (i) 体上有限型な環はヒルベルト環となる。(ii) 有理整数環上有限型な環はヒルベルト環となる。
注意. この節ではアフィン座標環の系列として、体または有理整数環上有限型な環とその抽象化であるヒルベルト環について述べた。
31
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3.10. クルル次元この節では環のクルル次元の定義と基本的な性質について述べる。環 A のクルル次元
dimA ∈ 0, 1, 2, · · · ∪ ±∞を負でない整数 n に対して
dimA ≧ n ⇐⇒ ∃p0, · · · , pn ∈ SpecA, p0 ⫋ · · · ⫋ pn
dimA = −∞ ⇐⇒ A = 0
により定義する。
例 1. (i) 環 A に対して
dimA = 0 ⇐⇒ m.SpecA = SpecA = ∅Aは整かつ dimA = 0 ⇐⇒ Aは体
が成り立つ。(ii) 環 A に対して
Aは整かつ dimA = 1 ⇐⇒ SpecA = m.SpecA ∪ 0, 0 /∈ m.SpecA
が成り立つ。さらに、環 A が整であることを前提とすれば
dimA = 1 ⇐⇒ m.SpecA = SpecA− 0も成り立つ。
(iii) 環 A のイデアル a と乗法系 S に対して
dim(A/a) ≦ dimA, dim(S−1A) ≦ dimA
が成り立つ。(iv) 環 A に対して
dimA+ 1 ≦ dim[A], dimA+ 1 ≦ dim[[A]]
が成り立つ。(v) 有理整数環 Z も体 k 上の 1変数多項式環 [k] も 1次元である。
例 2. 環 A に対して
dimA = supdim(A/p) | p ∈ SpecA= supdimAp | p ∈ SpecA= supdimAm | m ∈ m.SpecA
が成り立つ。
例 3. 環 A が PID であれば dimA ≦ 1 となる。
例 4. 1次元整環 A に対して
Aはヒルベルト環 ⇐⇒ rad(A) = 0
が成り立つ。
補題 1. 環 A のイデアル p ∈ SpecA に対して
dim(A/p) + dimAp ≦ dimA
が成り立つ。
注意. 補題 1で等号が成立するとは限らない。次の例 5を参照のこと。32
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例 5. p を素数とし A = Z(p)[X], p = (pX − 1) とおけば p ∈ SpecA となる。このとき
dim(A/p) = 0, dimAp = 1, dimA ≧ 2
が成り立つ。従って
dim(A/p) + dimAp < dimA
が成り立つことも解る。
注意. 第 4章 (4.5), 定理 3を用いれば、例 5で dimA = 2 が成り立つことが解る。
例 6. R が付値環であれば、任意のイデアル p ∈ SpecR に対して
dim(R/p) + dimRp = dimR
が成り立つ。
例 7. R が付値環で dimR ≧ 2 であれば、整環 [[R]] も ((R)) も整閉ではない。
補題 2. 体 K とその部分環 A (A = K), R に関する次の 2条件:
(a) R ∈ Zar(K|A), dimR = 1
(b) R は集合系 B | A ⊂ B = K, BはK の部分環 の極大元は同値である。
系. 1次元付値環 R に対して K = QR とおけば
Zar(K|R) = K,Rとなる。
注意. 補題 2より1次元付値環を極大整環と呼ぶことがある。
補題 3. 付値環 R に対して、写像
Zar(QR|R) −→ i.Sub((QR)×/R×)
∈ ∈
P 7−→ P×/R×
は順序同形となる。従って
dimR = rank((QR)×/R×)
が成り立つ。
系. 付値環 R が1次元であることとR の値群 (QR)×/R× が区間 (0,+∞)の部分群 ( = 1) と順序群同形となることは同値である。注意. 補題 3の系より1次元付値環を実付値環と呼ぶことがある。
補題 4. R を1次元付値環とし K = QR とおく。このとき
(i) 写像 ψ1 : K → [0,+∞) が存在して、任意の α, β ∈ K に対して
α = 0 ⇐⇒ ψ1(α) = 0
ψ1(αβ) = ψ1(α)ψ1(β)
ψ1(α+ β) ≦ maxψ1(α), ψ1(β)が成り立つ。
33
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(ii) 写像 ψ1 を用いれば
R = α ∈ K | ψ1(α) ≦ 1R× = α ∈ K | ψ1(α) = 1m(R) = α ∈ K | ψ1(α) < 1
と表すことができる。(iii) 写像 d : K ×K → [0,+∞) を
d(α, β) = ψ1(α− β)
により定義すれば d は K の距離関数となる。
注意. 補題 4, (i) の 3条件を満たす写像 ψ1 : K → [0,+∞) を体 K の乗法的実付値と呼ぶ。同様に、次の補題 5, (i) の 3条件を満たす写像 ψ0 : K →R ∪ +∞ を体 K の加法的実付値と呼ぶ。
補題 5. R を1次元付値環とし K = QR とおく。このとき(i) 写像 ψ0 : K → R ∪ +∞ が存在して、任意の α, β ∈ K に対して
α = 0 ⇐⇒ ψ0(α) = +∞ψ0(αβ) = ψ0(α) + ψ0(β)
ψ0(α+ β) ≧ minψ0(α), ψ0(β)が成り立つ。
(ii) 写像 ψ0 を用いれば
R = α ∈ K | ψ0(α) ≧ 0R× = α ∈ K | ψ0(α) = 0m(R) = α ∈ K | ψ0(α) > 0
と表すことができる。
補題 6. K ⊂ L を体の代数拡大、A を K の部分環、Q ∈ Zar(L|A),R = K ∩Q ∈ Zar(K|A) とする。このとき
R = K ⇐⇒ Q = L
およびdimR = 1 ⇐⇒ dimQ = 1
が成り立つ。
34
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3.11. ネター環
この節ではネター環の定義と基本的な性質について述べる。
補題 1. A を環とする。A加群 M に関する次の 2条件:
(a) M の部分A加群 Ni (i = 1, 2, 3, · · · ) に対してN1 ⊂ N2 ⊂ N3 ⊂ · · · =⇒ ∃i0 ∈ N, ∀i ≧ i0, Ni0 = Ni
が成り立つ
(b) M の部分A加群よりなる集合系は空でなければ極大元をもつ
は同値である。
A加群 M は補題 1の条件 (a), (b) を満たすならばネターA加群であるといわれる。
補題 2. A を環とする。A加群 M に関する次の 3条件:
(a) M はネターA加群
(b) M の任意の部分A加群は有限生成A加群
(c) M の任意の部分A加群 N に対して、N も剰余A加群 M/N もネターA加群
は同値である。
系. Mi (1 ≦ i ≦ n) がすべてネター A加群であれば、直和n⊕
i=1
Mi もネ
ターA加群となる。
補題 3. 環 A に関する次の 2条件:
(a) A のイデアル ai (i = 1, 2, 3, · · · ) に対してa1 ⊂ a2 ⊂ a3 ⊂ · · · =⇒ ∃i0 ∈ N, ∀i ≧ i0, ai0 = ai
が成り立つ
(b) A のイデアルよりなる集合系は空でなければ極大元をもつ
は同値である。
環 A は補題 3の条件 (a), (b) を満たすならばネター環であるといわれる。
注意. 環 A がネター環であることと A をA加群とみてネターA加群となることは同値である。
補題 4. 環 A に関する次の 3条件:
(a) A はネター環
(b) A のイデアルはすべて有限生成
(c) A の素イデアルはすべて有限生成
は同値である。
系. 付値環がネター環でもあれば PID となる。
注意. (i) 補題 4の (c) ⇒ (a) の部分をコーエンの定理という。
(ii) 環 A の極大イデアルがすべて有限生成であっても、A がネター環になるとは限らない。第 4章 (4.2), 例 2を参照のこと。
補題 5. ネター環 A 上有限生成なA加群 M はネターA加群となる。35
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補題 6. A を環、a を A のイデアル、S を A の乗法系とする。このとき
Aはネター環 =⇒ A/aも S−1Aもネター環
が成り立つ。また
Aはネター環 ⇐⇒ [A]はネター環 ⇐⇒ [[A]]はネター環
=⇒ ((A))はネター環
も成り立つ。
定理 1. ネター環上有限型な環はネター環となる。
系. (i) 体上有限型な環はネター環となる。
(ii) 有理整数環上有限型な環はネター環となる。
例 1. 環 A に対して
A は単項イデアル環 ⇐⇒ A はネター環かつベズー環
が成り立つ。
補題 7. 整環 A に関する次の 2条件:
(a) 任意のイデアル p ∈ m.SpecA に対して Ap はネター環
(b) 任意の a ∈ A (a = 0) に対して p ∈ m.SpecA | a ∈ p は有限集合を導入する。このとき
(a), (b) =⇒ Aはネター環
が成り立つ。
補題 8. ネター環 A のイデアル a と有限生成A加群 M に対して
N =+∞∩n=1
anM
とおく。このとき、N は M の部分A加群で N = aN となる。
系. (i) a = A とする。このとき Mtor = 0 であれば+∞∩n=1
anM = 0
が成り立つ。従って、M = A とおけば+∞∩n=1
an = 0
が成り立つことも解る。
(ii) a ⊂ rad(A) であれば+∞∩n=1
anM = 0,+∞∩n=1
an = 0
が成り立つ。
注意. 一般に A がネター環でないと補題 8の系は成り立たない。次の例 2を参照のこと。
36
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例 2. R が付値環で dimR ≧ 2 であれば+∞∩n=1
m(R)n = 0
が成り立つ。
補題 9. A を整環とし x ∈ QA に関する次の 3条件:(a) x は A 上整(b) ∃a ; A のイデアルで a = 0, ax ⊂ a を満たす(c) ∃a ∈ A ; a = 0, ∀n ∈ N に対して axn ∈ A を満たすを導入する。このとき
(a) =⇒ (b) =⇒ (c)
が成り立つ。さらに、A がネター環であれば
(a) ⇐⇒ (b) ⇐⇒ (c)
も成り立つ。
例 3. 整環 A に対し、A の商体 QA における整閉包を A′ と表し、条件(c) を満たす x ∈ QA の全体を A′′ と表す。このとき、A′′ は QA の部分環となり
A ⊂ A′ ⊂ A′′ ⊂ QA
が成り立つ。さらに、A がネター環であれば
A ⊂ A′ = A′′ ⊂ QA
も成り立つ。
整環 A は A = A′′ が成り立つならば完整閉であるといわれる。
例 4. 整環 A に対して
Aは完整閉 =⇒ Aは整閉
が成り立つ。さらに、A がネター環であれば
Aは完整閉 ⇐⇒ Aは整閉
も成り立つ。
補題 10. 整環 A が完整閉であれば、整環 [[A]] も ((A)) も完整閉となる。
注意. ここでは必要ないが、整環 A が完整閉であれば整環 [A] も完整閉となる。
補題 11. ネター整環 A が整閉あれば、ネター整環 [[A]] も ((A)) も整閉となる。
例 5. 付値環 R に対して
Rは完整閉 ⇐⇒ dimR ≦ 1
が成り立つ。
37
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3.12. 分数イデアルとイデアル群
この節では分数イデアルとイデアル群の定義と基本的な性質について述べる。
A を整環とする。QA の部分A加群 I に対して
I−1 = x ∈ QA | xI ⊂ A
とおく。このとき I−1 も QA の部分A加群となる。
QA の部分A加群 I に対して∃a ∈ A− 0, aI ⊂ A ⇐⇒ I−1 = 0
が成り立つ。QA の部分 A加群 I はこれら 2条件を満たすならば A の分数イデアルであるといわれる。
QA の部分A加群 I は IJ = A となる QA の部分A加群 J が存在するならば可逆であるといわれる。
例 1. 整環 A に対して
(i) A のイデアル 0 は可逆ではない分数イデアルで 0−1 = QA となる。
(ii) A = QA とする。このとき (QA)−1 = 0 となるから QA は A の分数イデアルではない。
(iii) 任意の x ∈ (QA)× に対して、単項分数イデアル I = xA は可逆で
I−1 = x−1A
が成り立つ。特に、イデアル A は可逆で A−1 = A が成り立つ。
(iv) QA の部分A加群 I に対して
I は可逆 ⇐⇒ II−1 = A
が成り立つ。
(v) QA の部分A加群 I, J に対して
I ⊂ J =⇒ J−1 ⊂ I−1
が成り立つ。
補題 1. A を整環とする。このとき
(i) QA の部分A加群 I に対して
I は可逆 =⇒ I は有限生成 =⇒ I は分数イデアル
が成り立つ。
(ii) 整環 A の可逆分数イデアルの全体はイデアルの積に関して可換群となる。
整環 A の可逆分数イデアル全体のつくる群を IA と表し、A のイデアル群という。
注意. 補題 1, (i) の逆はどちらも成り立たない。次の例 2を参照のこと。
例 2. (i) 体 k 上の 2変数多項式環 A = k[x, y] の極大イデアル m = (x, y)は条件 m−1 = A を満たす。従って、イデアル m は有限生成であるが可逆ではない。また、環 A のイデアル 0 は有限生成であるが可逆ではない。
(ii) 環 A がネターではないとすれば、有限生成ではない A のイデアル aが存在する。このとき、a は分数イデアルであるが有限生成ではない。
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例 3. (i) A が PID であれば、QA の部分A加群 I (I = 0) に対して
I は単項分数イデアル ⇐⇒ I は可逆
⇐⇒ I は有限生成 ⇐⇒ I は分数イデアルが成り立つ。
(ii) R が付値環であれば、QR の部分R加群 I (I = 0) に対して
I は単項分数イデアル ⇐⇒ I は可逆 ⇐⇒ I は有限生成
が成り立つ。
補題 2. 整環 A の分数イデアル I (I = 0) に関する次の 3条件:(a) I は可逆(b) I は有限生成で A の任意のイデアル p ∈ SpecA に対して
Ip は Ap の単項イデアル
(c) I は有限生成で A の任意のイデアル m ∈ m.SpecA に対してIm は Am の単項イデアル
は同値である。
系. 整環 A に対して
Aはプリューファー環 ⇐⇒ Aの 0 でない有限生成イデアルは可逆
が成り立つ。
注意. 補題 2の条件 (a), (b), (c) は(d) I は射影的A加群(即ち I はある自由A加群の直和因子となる)とも同値になる。
整環 A に対して、写像
(QA)× −→ IAΦA : ∈ ∈
x 7−→ xA
を定める。このとき ΦA は群準同形で
KerΦA = A×
が成り立つ。また
CI(A) = Coker ΦA = IA/Im ΦA
とおき、整環 A のイデアル類群と呼ぶ。定義より
CI(A) = 1 ⇐⇒ ΦAは全射
が成り立つ。
例 4. (i) A が PID であれば
IA = xA | x ∈ (QA)× ∼= (QA)×/A×, CI(A) = 1
が成り立つ。(ii) R が付値環であれば
IR = xR | x ∈ (QR)× ∼= (QR)×/R×, CI(R) = 1
が成り立つ。
39
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3.13. DVR・デデキント環
この節ではDVR とデデキント環の定義と基本的な性質について述べる。
補題 1. 整環 R に関する次の 7条件:
(a) R は体ではないネター付値環
(b) R は局所環で体ではない PID
(c) R はネター局所環で m(R) は単項かつ m(R) = 0
(d) R は局所環で m(R) は単項かつ
m(R) = 0,
+∞∩n=1
m(R)n = 0
が成り立つ
(e) R は局所環で m(R) は単項かつ 0 でも R でもないイデアル a はすべて
a = m(R)e (e ∈ N)と表される
(f) 全射群準同形 ψ : (QR)× → Z が存在してR = α ∈ (QR)× | ψ(α) ≧ 0 ∪ 0
と表される
(g) R は付値環で (QR)×/R× ∼= Zは同値である。
注意. 補題 1の (f) において、条件
ψ(α+ β) ≧ minψ(α), ψ(β) (α, β ∈ (QR)×)
は必要ない。
整環 R は補題 1の 7条件を満たすならば DVR であるといわれる。
注意. 付値環 R のイデアル m(R) が単項あっても、R が DVR になるとは限らない。第 4章 (4.2), 例 2を参照のこと。
例 1. k が体であれば [[k]] は DVR となる。
例 2. R が DVR であれば dimR = 1 となる。
例 3. R を DVR, K = QR とし、写像 ordR : K → Z ∪ +∞ を
ordR(α) =
e (α = 0)
+∞ (α = 0)
により定める。ここで e は α ∈ K× に対して
ΦR(α) = αR = m(R)e ∈ IR
により定まる整数である。このとき、任意の α, β ∈ K に対して
α = 0 ⇐⇒ ordR(α) = +∞
ordR(αβ) = ordR(α) + ordR(β)
ordR(α+ β) ≧ minordR(α), ordR(β)が成り立つ。即ち、写像 ordR は付値環 R に付随する加法的実付値となる。
40
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補題 2. R を環とする。このとき、R が DVR であるための必要十分条件は R がネター整閉整環で唯ひとつの 0 でない素イデアルをもつことである。
補題 3. A をネター整環とする。このとき、イデアル p ∈ SpecA が可逆であれば Ap は DVR となる。
補題 4. K ⊂ L を体の有限次拡大、A を K の部分環、Q ∈ Zar(L|A),R = K ∩Q ∈ Zar(K|A) とする。このとき
R は DVR ⇐⇒ Q は DVR
が成り立つ。
補題 5. K を体、R1, · · · , Rn ∈ ZarK とする。このとき、任意の α ∈ Kに対して
(1 + α+ · · ·+ αs)−1, α(1 + α+ · · ·+ αs)−1 ∈n∩
i=1
Ri
となる自然数 s が存在する。従って、整環∩n
i=1 Ri の商体が K であることも解る。
注意. 補題 5を永田の補題という。
補題 6. K を体とする。R1, · · · , Rn が K を商体とする DVR であれば、任意の e ∈ N, β1, · · · , βn ∈ K に対して、条件
α− βi ∈ m(Ri)e (1 ≦ i ≦ n)
を満たす α ∈ K が存在する。
体 K に対して
n.ZarK = R ∈ ZarK | Rはネター環 とおく。また、集合 W ⊂ ZarK に関する条件:(W0) W = ∅(W1) R1, R2 ∈W , R1 ⊂ R2 ⇒ R1 = R2
を導入する。
定理 1. K を体とする。(i) K を商体とし有限個の極大イデアルをもつプリューファー環 A に対
してW = Am | m ∈ m.SpecA
とおけば、W は条件 (W0), (W1) を満たす ZarK の有限部分集合となる。さらに
A =∩
R∈WR
が成り立つ。(ii) 条件 (W0), (W1) を満たす有限集合 W ⊂ ZarK に対して
A =∩
R∈WR
とおけば、A は K を商体とし有限個の極大イデアルをもつプリューファー環となる。さらに
W = Am | m ∈ m.SpecAが成り立つ。
41
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(iii) K を商体とし有限個の極大イデアルをもつプリューファー環 A の全体と条件 (W0), (W1) を満たす有限集合 W ⊂ ZarK の全体との間の写像
A 7−→W = Am | m ∈ m.SpecA
W 7−→ A =∩
R∈WR
は包含関係を逆に保つ全単射で互いに他の逆写像となる。
系. (i) 定理 1, (iii) で A と W が対応しているならば
Aはネター環 ⇐⇒ W ⊂ n.ZarK ⇐⇒ Aは PID
が成り立つ。(ii) K を商体とし有限個の極大イデアルをもつ PID Aの全体と条件 (W0),
(W1) を満たす有限集合 W ⊂ n.ZarK の全体との間の写像
A 7−→W = Am | m ∈ m.SpecA
W 7−→ A =∩
R∈WR
は包含関係を逆に保つ全単射で互いに他の逆写像となる。
環 A は、次の 3条件:(D1) A は整閉整環(D2) dimA = 1
(D3) A はネター環を満たすならば、デデキント環であるといわれる。
補題 7. A をデデキント環とする。(i) m ∈ m.SpecA であれば Am は DVR となる。(ii) p ∈ SpecA であれば Ap はネター付値環となる。
補題 8. 体ではない PID はデデキント環である。
系. (i) 有理整数環 Z はデデキント環である。(ii) 体 k 上の多項式環 [k] はデデキント環である。
例 4. 環 R に対して
Rは DVR ⇐⇒ Rは局所環かつデデキント環
が成り立つ。
定理 2. 整環 A に関する次の 3条件:(a) A はデデキント環(b) A = QA かつ A の 0 でない分数イデアルはすべて可逆(c) A はプリューファー環かつネター環で体ではないは同値である。
系. A をデデキント環とする。このとき
m.SpecA ⊂ IAが成り立つ。また A のイデアル a (a = 0, A) は有限個の極大イデアルの積として表される。従って、環 A のイデアル群 IA は m.SpecA が生成する自由アーベル群となる。
42
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注意. 定理 2の系の逆、即ち「整環 A のイデアル a (a = 0, A) がすべて有限個の極大イデアルの積として表されるならば A はデデキント環となる」も成り立つ。これを松下の定理という。(カプランスキ、可換環論 (2.3), p.68を参照のこと)
例 5. 有限個の極大イデアルをもつデデキント環は PID である。
K を体とし、集合 W ⊂ ZarK に関する条件:(W0′) K ∈W
(W2) 任意の x ∈ K に対し R ∈W | x /∈ R は有限集合を導入する。
整環 A は、条件 (W0′), (W2) を満たす集合 W ⊂ n.ZarK (K = QA) が存在して
A =∩
R∈WR
と表されるならば、クルル環であるといわれる。
例 6. クルル環は完整閉整環である。
補題 9. K を体、A を K の部分環、W を Zar(K|A) の部分集合とする。このとき K = QA であれば、条件 (W2) は(W2′) 任意の a ∈ A (a = 0) に対し R ∈W | a ∈ m(R) は有限集合と同値である。
補題 10. クルル環 A が条件 (W0′), (W2) を満たす集合 W ⊂ n.ZarK により A =
∩R∈W
R と表されているとする。
(i) 環 A の乗法系 S に対して
WS = R ∈W | S−1A ⊂ Rとおけば、WS ⊂ n.ZarK も条件 (W0′), (W2) を満たし
S−1A =∩
R∈WS
R
が成り立つ。従って S−1A もクルル環となる。(ii) 環 A のイデアル p ∈ SpecA に対して
Wp = R ∈W | A ∩m(R) ⊂ pとおけば、Wp ⊂ n.ZarK も条件 (W0′), (W2) を満たし
Ap =∩
R∈Wp
R
が成り立つ。従って Ap もクルル環となる。(iii) dimA = 1 であれば、環 A の任意のイデアル p ∈ SpecA に対して
Wp = K,Ap = Zar(K|Ap)
が成り立つ。従って、A はプリューファー環で
W = Ap | p ∈ SpecA = K ∪ Am | m ∈ m.SpecA = Zar(K|A)が成り立つことも解る。
43
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補題 11. クルル環 A が条件 (W0′), (W2) を満たす集合 W ⊂ n.ZarK により A =
∩R∈W
R と表されているとする。このとき
W1 = Ap | p ∈ SpecA, dimAp = 1
とおけば W1 ⊂W かつA =
∩R∈W1
R
が成り立つ。
系. クルル環 A に対して K = QA とおけば
p ∈ SpecA, dimAp ≦ 1 =⇒ Ap ∈ n.ZarK
が成り立つ。
例 7. B をクルル環、L を B の商体、K を L の部分体とする。このとき
A = K ∩B
もクルル環となる。
例 8. A を整環、K を A の商体、L を K の拡大体とする。L に含まれるクルル環の族 (Bi)i∈I が次の 2条件:
(a) a ∈ A, a = 0 ⇒ i ∈ I | a /∈ B×i は有限集合
(b) A =∩i∈I
Bi
を満たすならば A もクルル環となる。
補題 12. 環 A に関する次の 3条件:
(a) A はデデキント環
(b) A はクルル環かつ dimA = 1
(c) A はプリューファー環かつクルル環で体ではない
は同値である。
例 9. UFD はクルル環である。
例 10. A がクルル環であれば多項式環 [A] もクルル環となる。
注意. (4.5), 例 4で、A がクルル環であれば環 [[A]] も ((A)) もクルル環となることを証明する。
次に、デデキント環に対して定理 1, (iii) の類似を考える。
K を体とし、集合 W ⊂ ZarK に関する条件:
(W0′′) W = ∅, K /∈W
(W0′′′) K ⫋W
(W3) R1, R2 ∈W , U (1)R1 ∩m(R2) ∩∩
R∈WR = ∅ ⇒ R1 = R2
(W3′) R1, R2 ∈W − K, U (1)R1 ∩m(R2) ∩∩
R∈WR = ∅ ⇒ R1 = R2
を導入する。44
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例 11. K を体とする。集合 W ⊂ ZarK に対する条件に関して
(W0′′′) =⇒ (W0′) =⇒ (W0)
(W0′′) =⇒ (W0)
(W3) =⇒ (W1)
が成り立つ。
定理 3. K を体とする。このとき、K を商体とするデデキント環 A の全体と条件 (W0′′), (W2), (W3) を満たす集合 W ⊂ n.ZarK の全体との間の写像
A 7−→W = Am | m ∈ m.SpecAW 7−→ A =
∩R∈W
R
は包含関係を逆に保つ全単射で互いに他の逆写像となる。
定理 3で (W0′′) を (W0′′′) に変え (W3) を (W3′) に変えれば、極大イデアルを素イデアルに変えることもできる。
定理 3′. K を体とする。このとき、K を商体とするデデキント環 A の全体と条件 (W0′′′), (W2), (W3′) を満たす集合 W ⊂ n.ZarK の全体との間の写像
A 7−→W = Ap | p ∈ SpecAW 7−→ A =
∩R∈W
R
は包含関係を逆に保つ全単射で互いに他の逆写像となる。
定理 4. デデキント環 A に対して
Aは PID ⇐⇒ CI(A) = 1
が成り立つ。
この節の最後にクルル環と UFD の関係を補足する。UFD がクルル環であることは既に例 9で示した。さらに、群を用いてこの差をはかることもできる。
クルル環 A に対して
W = Ap | p ∈ SpecA, dimAp = 1 ⊂ n.Zar(QA|A)とおく。また W が生成する自由アーベル群を D(A) と表し、A の因子群と呼ぶ。即ち
D(A) =⊕R∈W
ZR
と定める。さらに、写像 divA : (QA)× → D(A) を
divA(x) =∑R∈W
ordR(x)R (x ∈ (QA)×)
により定義する。ここで、写像 ordR : (QA)× → Z は例 3で定められた付値環 R ∈W に付随する加法的実付値である。
補題 13. クルル環 A に対して、写像 divA : (QA)× → D(A) は群準同形で
Ker divA = A×
が成り立つ。45
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またCD(A) = Coker divA = D(A)/ImdivA
とおき、クルル環 A の因子類群と呼ぶ。定義より
CD(A) = 0 ⇐⇒ divAは全射
が成り立つ。
例 12. 環 A に対して
E = p ∈ SpecA | dimAp = 1とおく。このとき、A がクルル環であれば、写像
W −→ E
∈ ∈R 7−→ A ∩m(R)
E −→ W
∈ ∈
p 7−→ Ap
はどちらも包含関係を逆に保つ全単射であり、互いに他の逆写像となる。
補題 14. A をクルル環とする。(i) 任意の x ∈ A (x = 0) に対して
ΦA(x) = xA =∩
R∈Wm(R)ordR(x)
が成り立つ。(ii) R ∈W , p = A ∩m(R) ∈ E に対して
p(0) = A, p(e) = A ∩m(R)e (e ∈ N)と定める。さらに、任意の x ∈ A (x = 0) に対して
ep = ordR(x) ∈ 0, 1, 2, · · · と定めれば
ΦA(x) = xA =∩p∈E
p(ep)
が成り立つ。
系. (i) A をクルル環、R ∈W , p = A ∩m(R) ∈ E とする。このとき、任意の x ∈ A (x = 0) に対して
divA(x) = R ⇐⇒ ΦA(x) = xA = p
が成り立つ。(ii) クルル環の単項イデアルは準素イデアル分解可能である。
補題 15. 整環 A に関する次の 3条件:(a) A はUFD
(b) p ∈ SpecA, p = 0 であれば p は素元を含む(c) p ∈ SpecA, dimAp = 1 であれば p は単項イデアルを導入する。このとき
(a) ⇐⇒ (b) =⇒ (c)
が成り立つ。さらに、A がクルル環であれば
(a) ⇐⇒ (b) ⇐⇒ (c)
も成り立つ。46
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定理 5. クルル環 A に対して
Aは UFD ⇐⇒ CD(A) = 0
が成り立つ。
注意. (i) 定理 5は定理 4の一般化である。実際、A がデデキント環であればクルル環であり、因子群 D(A) とイデアル群 I(A) は群同形となるから、因子類群 CD(A) とイデアル類群 CI(A) も群同形となる。また
Aはデデキント環かつ UFD ⇐⇒ Aは体ではない PID
が成り立つ。従って、定理 5で A をデデキント環とすれば定理 4が導かれる。即ち、類似方程式
デデキント環 : PID = クルル環 : UFD
が成立する。同様の類似方程式として
デデキント環 : DVR = プリューファー環 : 付値環
を挙げておく。(ii) (3.6), (3.8), (3.13) では、整数論の系列ともいうべき PID, UFD, 付値
環、プリューファー環、DVR, デデキント環、クルル環を中心に整閉整環について述べた。
47
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3.14. アルティン環この節ではアルティン環の定義と基本的な性質について述べる。
補題 1. A を環とする。A加群 M に関する次の 2条件:(a) M の部分A加群 Ni (i = 1, 2, 3, · · · ) に対して
N1 ⊃ N2 ⊃ N3 ⊃ · · · =⇒ ∃i0 ∈ N, ∀i ≧ i0, Ni0 = Ni
が成り立つ
(b) M の部分A加群よりなる集合系は空でなければ極小元をもつは同値である。
A加群 M は補題 1の条件 (a), (b) を満たすならばアルティンA加群であるといわれる。
補題 2. A を環とする。A加群 M に関する次の 2条件:(a) M はアルティンA加群(b) M の任意の部分A加群 N に対して、N も剰余A加群 M/N も
アルティンA加群
は同値である。
系. Mi (1 ≦ i ≦ n) がすべてアルティンA加群であれば、直和n⊕
i=1
Mi も
アルティンA加群となる。
補題 3. 環 A に関する次の 2条件:(a) A のイデアル ai (i = 1, 2, 3, · · · ) に対して
a1 ⊃ a2 ⊃ a3 ⊃ · · · =⇒ ∃i0 ∈ N, ∀i ≧ i0, ai0 = ai
が成り立つ
(b) A のイデアルよりなる集合系は空でなければ極小元をもつは同値である。
環 A は補題 3の条件 (a), (b) を満たすならばアルティン環であるといわれる。
注意. 環 A がアルティン環であることと A をA加群とみてアルティンA加群となることは同値である。
補題 4. アルティン環 A 上有限生成な A加群 M はアルティン A加群となる。
例 1. (i) 環 A のイデアルが有限個しか存在しなければ A はアルティン環となる。
(ii) 体はアルティン環である。さらに、体の有限直積はアルティン環である。(iii) n ≧ 1 であれば Z/nZ はアルティン環である。(iv) 有理整数環 Z はアルティン環ではない。(v) 体 k 上の多項式環 [k] はアルティン環ではない。(vi) アルティン環 A と A のイデアル a および A の乗法系 S に対して
A/a も S−1A もアルティン環となる。
注意. 後の (4.3), 例 2, 例 3と (4.4), 定理 1を用いると、環 [A], [[A]] はどちらもアルティン環ではないことが解る。
48
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例 2. A が体であれば、A加群 M に関する次の 3条件:(a) M はアルティンA加群(b) M はネターA加群(c) dimAM < +∞は同値である。
補題 5. 環 A に対して
Aはアルティン整環 ⇐⇒ Aは体
が成り立つ。
系. A をアルティン環とする。このとき m.SpecA = SpecA が成り立つ。従って
dimA = 0, nil(A) = rad(A)
が成り立つことも解る。
補題 6. A をアルティン環とする。このとき(i) m.SpecA は有限集合となる。(ii) nil(A)e = 0 となる自然数 e ∈ N が存在する。補題 7. A を環とし
m1 · · ·mn = 0
となるイデアル m1, · · · , mn ∈ m.SpecA が存在すると仮定する。このとき
Aはアルティン環 ⇐⇒ Aはネター環
が成り立つ。
注意. 補題 7で極大イデアル m1, · · · , mn のなかに重複があってもよい。
補題 8. A, B を環、φ : A→ B を環準同形、M をB加群とする。このとき、M がアルティンA加群であれば、M はアルティンB加群となる。
系. A多元環 B がアルティンA加群であれば、Bはアルティン環となる。
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3.15. 完備化環 A の位相が A のイデアルよりなる集合 Σ により定義されているとす
る。このときA = proj. lim A/a (a ∈ Σ)
とおいて、A の完備化という。
補題 1. 自然な環準同形 A→ A が単射となるための必要十分条件は A が分離的となることである。
例 1. 環 A 上の多項式環 [A] = A[X] に対して
Σ = XnA[X] | n ∈ Nと定める。このとき [A] = A[X] は分離的位相環となり
[A] = [[A]]
が成り立つ。
補題 2. 局所環 R がネター環であれば∞∩n=1
m(R)n = 0
が成り立つ。従って R のm(R)進位相は分離的となる。
例 2. 局所環 R に対して、R のイデアルよりなる集合系
Σ = m(R)n | n ∈ Nは R に位相を定義し、これにより R は位相環となる。この位相を R のm(R)進位相という。このとき
R = proj. lim R/m(R)n (n ∈ N)を R のm(R)進位相に関する完備化という。
補題 3. k を体とする。このとき、k 上の冪級数環 R = [[k]] は ((k)) を商体とし k を剰余体とする完備な DVR となる。
注意. 既に (3.11), 例 1で示したように 2次元以上の付値環 R に対してはR の m(R)進位相は分離的ではない。従って、付値環に対しては別の位相を導入する必要がある。
局所整環 R に対して、R のイデアルよりなる集合系
Σ = αm(R) | α ∈ R, α = 0は R の商体 QR に位相を定義し、これにより QR は分離的位相環となる。この位相を QR の付値位相という。このとき
R = proj. lim R/αm(R) (α ∈ R, α = 0)
を R の付値位相に関する完備化という。
例 3. 付値環 R に対して、R のm(R)進位相と付値位相とが一致するための必要十分条件は R がネター環であることである。
局所整環 R は R ≃ R が成り立つならば付値位相に関して完備であるといわれる。
以下では特に断ることなしに、局所整環には付値位相を導入するものする。50
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定理 1. 局所整環 R に対して
Rは付値環 ⇐⇒ Rは付値環
が成り立つ。さらに R が付値環であれば
R/m(R) ∼= R/m(R), (QR)×/R× ∼= (QR)×/R×
も成り立つ。
定理 2. R を付値環とする。(i) 写像
Zar(QR|R) −→ Zar(QR|R)∈ ∈
A 7−→ QR ∩Aは順序同形で
Zar(QR|R) −→ Zar(QR|R)
∈ ∈
B 7−→ B
はその逆写像となる。(ii) 体 QR の部分体 k に対して
R = k ⊕m(R) ⇐⇒ k ⊂ QR, R = k ⊕m(R)
が成り立つ。(iii) 完全列
1 → R× → (QR)× → (QR)×/R× → 1
が分裂すれば、完全列
1 → R× → (QR)× → (QR)×/R× → 1
も分裂する。(iv) QR の付値位相が距離づけ可能であれば、R は R の距離空間として
の完備化となり、QR は QR の距離空間としての完備化となる。
注意. 完備化 R が整環にはならない局所整環 R が存在する。次の例 4,(iii) を参照のこと。
例 4. k を体、t を k 上の不定元とする。a, b ∈ k に対して
R = k[t2 + at+ b, t3 + at2 + bt](t2+at+b,t3+at2+bt)
とおけば、R は局所整環となる。このとき(i) t2 + at+ b ∈ k[t] が既約であれば
R = k ⊕ (t2 + at+ b)k′[[t2 + at+ b]], QR = k′((t2 + at+ b))
となる。ここで k′ = k[t]/(t2 + at+ b) である。(ii) t2 + at+ b = 0 が重解 t = α ∈ k をもてば
R = k ⊕ (t− α)2k[[t− α]], QR = k((t− α))
となる。(iii) t2 + at+ b = 0 が異なるふたつの解 t = α, β ∈ k をもてば
R = (f, g) ∈ k[[t− α]]× k[[t− β]] | f(α) = f(β)
QR = k((t− α))× k((t− β))51
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となる。
補題 4. 環 A と順序加群 Γ に対して
A((Γ)) = x ∈ AΓ | γ ∈ Γ | x(γ) = 0は Γ の整列部分集合 とおく。このとき
(i) A((Γ)) は通常の加法で AΓ の部分A加群となる。(ii) x, y ∈ A((Γ)) に対して、積 xy ∈ A((Γ)) を
Γ −→ Axy : ∈ ∈
γ 7−→∑α∈Γ
x(α) y(γ − α)
により定義すれば A((Γ)) は環となる。(iii) 環 A((Γ)) の部分集合
A[[Γ]] = x ∈ A((Γ)) | γ ∈ Γ, x(γ) = 0 ⇒ γ ≧ 0は A((Γ)) の部分環となる。
(iv) 環 A[[Γ]] の部分集合
A[Γ] = x ∈ A[[Γ]] | γ ∈ Γ, x(γ) = 0は有限集合 は A[[Γ]] の部分環となる。
(v) 環 A[Γ] の部分集合
n = x ∈ A[Γ] | x(0) = 0は A[Γ] のイデアルで A[Γ] = A⊕ n となる。
(vi) 環 A が整であれば、環 A((Γ)), A[[Γ]], A[Γ] はすべて整となる。
環 A が整であるとする。このとき、整環 A[Γ] の商体を A(Γ) と表す。また R(A,Γ) = A[Γ]n とおけば、R(A,Γ) は局所整環となる。
定理 3. 体 k と順序加群 Γ に対して(i) k[[Γ]]は k((Γ))を商体、k を剰余体、Γを値群とする完備付値環となる。(ii) R(k,Γ) は k(Γ) を商体、k を剰余体、Γ を値群とする付値環となる。
52
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3.16. 体論
体の代数拡大の理論体の超越拡大の理論特に分離拡大、準素拡大、正則拡大について体の合成の理論
K ⊂ L を体の拡大とする。体 L の部分集合 B は、次の 2条件:
(B1) 集合 B は K 上代数的に独立
(B2) 体 L は体 K(B) の代数拡大
を満たすならば、K ⊂ L の超越基底であるといわれる。
補題 1. 体の拡大 K ⊂ L に対して
(i) K ⊂ L の超越基底が存在する。
(ii) B, C を K ⊂ L の超越基底とすれば
cardB = cardC
が成り立つ。
体の拡大 K ⊂ L に対して
tr. degKL = cardB
とおき、K ⊂ L の超越次数という。
注意. 体の拡大の超越次数は、位相空間の次元や環のクルル次元とは異なり、基数(濃度)として定義される。超越次数が有限ではないとき
tr. degKL = +∞
と表す。
例 1. 体の拡大 K ⊂ L に対して
K ⊂ Lは代数拡大 ⇐⇒ tr. degKL = 0
が成り立つ。
補題 2. 体の拡大 F ⊂ K ⊂ L に対して
tr.degFL = tr. degFK + tr. degKL
が成り立つ。
系. 体の拡大 F ⊂ K ⊂ L に対して
tr.degFK ≦ tr. degFL
が成り立つ。
補題 3. K ⊂ L を体の拡大で tr. degKL < +∞ であると仮定する。このとき
(i) K が有限体であれば cardK ≦ cardL ≦ ℵ0 が成り立つ。
(ii) K が無限体であれば cardK = cardL が成り立つ。
系. 体 k が高々可算集合であれば
tr. degk((k)) = +∞
が成り立つ。53
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例 2. 体 k 上の不定元 X に対して、形式的冪級数
s(X) =+∞∑n=0
Xn! ∈ k[[X]]
は体 k(X) 上超越的である。
証明は O. Zariski - P. Samuel, Commutative Algebra, II, Springer, (1975),p.220 - p.221 を参照のこと。
補題 3の系より強く、次が成り立つ。
定理 1. 任意の体 k に対して
tr. deg(k)((k)) = +∞が成り立つ。
証明は O. Zariski - P. Samuel, Commutative Algebra, I, II, Van Nostrand,(1958, 1960), new edition from Springer, (1975), p.220 - p.221 を参照のこと。また、松村、可換環論、p.142 - p.143 も参照のこと。
系. 任意の体 k に対して
tr. degk((k)) = +∞が成り立つ。
素体上有限生成な体を大域体という。大域体 K に対して
d =
tr. degQK + 1 (K の標数は 0)tr. degFp
K (K の標数は p)
とおき、これを K の次元と呼ぶ。また K を d次元大域体と呼ぶ。ここで pは素数である。
例 3. (i) 有理数体 Q は 1次元大域体である。(ii) 標数 p の素体 Fp は 0次元大域体である。(iii) 有理数体 Q 上代数的に独立な不定元 X1, · · · , Xn−1 に対して、有理
関数体 Q(X1, · · · , Xn−1) は n次元大域体である。(iv) 標数 p の素体 Fp 上代数的に独立な不定元 X1, · · · , Xn に対して、有
理関数体 Fp(X1, · · · , Xn) は n次元大域体である。
体 k の拡大体 K は、k 上有限生成であり k が K で代数的に閉じているならば、k 上の代数関数体であるといわれる。特に、n = tr. degkK であればK は k 上の n変数代数関数体であるといわれる。
例 4. (i) 体 k は k 上の 0変数代数関数体である。(ii) 体 k 上代数的に独立な不定元 X1, · · · , Xn に対して、有理関数体
k(X1, · · · , Xn) は k 上の n変数代数関数体である。
54
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3.17. Witt ベクトル完全体を剰余体とする離散付値に関して完備な体の構成:
定理 1. k を標数 pの完全体とする。このとき、k 上の長さ無限の Witt ベクトル環 R =W∞k は k を剰余体とする標数 0の完備な DVR となる。
注意. 定理 1は (3.15), 補題 3と類似な結果である。
標数 p の体のアーベル p拡大の理論:標数 p の体 K に対して
WK =W∞K/℘(W∞K)⊗ (Q/Z)(p)
とおく。このとき
WK ∼= ind. limWnK/℘(WnK)
が成り立つ。
標数 p の体 K の最大分離 p拡大を K[p]s と表し、最大アーベル p拡大を
K[p]ab と表す。さらに
ΓK = Gal(K[p]ab /K)
とおく。Witt ベクトル b ∈ W∞K を任意にとれば ℘B = b となる Witt ベクトル
B ∈W∞K[p]ab が存在する。このとき、任意の σ ∈ ΓK に対して σB−B の値
は、このような B のとりかたに依らず b と σ だけから定まり、W∞Fp に属する。従って、写像
ΓK ×W∞K −→ W∞Fp
⟨ , ⟩ΓK∞ : ∈ ∈
(σ, b) 7−→ σB −B
が定義される。これより、群対
⟨ , ⟩ΓK : ΓK ×WK −→ R/Zも定義される。
定理 2. 標数 pの体 K に対して、群対
⟨ , ⟩ΓK : ΓK ×WK −→ R/Zは直交ペアとなる。従って、コンパクトアーベル群 ΓK と離散アーベル群WK は互いに他のポントリャーギン双対となる。
定理 3. 標数 pの体 K に対して、K ⊂ K[p]ab の中間体 L と加群 WK の
部分加群 Q とは一対一に対応し、コンパクトアーベル群 Gal(L/K) と離散アーベル群 Q は互いに他のポントリャーギン双対となる。
55
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今後の発展の課題
[3.1] 縮小イデアルと拡大イデアルに関する補足次の結果はいわば常識として特に断ることなく用いた。
補題 3.1. A, B を環とする。環準同形 φ : A→ B に対して、環 B のイデアル b の環 A への縮小イデアルを φ−1(b) と表し、環 A のイデアル a の環B への拡大イデアルを φ(a)B と表す。このとき
(i) 環 B のイデアル b1, b2 に対して
b1 ⊂ b2 =⇒ φ−1(b1) ⊂ φ−1(b2)
φ−1(b1 ∩ b2) = φ−1(b1) ∩ φ−1(b2)
φ−1(b1 + b2) ⊃ φ−1(b1) + φ−1(b2)
φ−1(b1b2) ⊃ φ−1(b1)φ−1(b2)
が成り立つ。(ii) 環 A のイデアル a1, a2 に対して
a1 ⊂ a2 =⇒ φ(a1)B ⊂ φ(a2)B
φ(a1 ∩ a2)B ⊂ φ(a1)B ∩ φ(a2)Bφ(a1 + a2)B = φ(a1)B + φ(a2)B
φ(a1a2)B = φ(a1)B φ(a2)B
が成り立つ。
系. 環 A の乗法系 S と標準的環準同形 φ : A→ S−1A に対して(i) 環 A のイデアル a の環 S−1A への拡大イデアルは S−1a と表される。
即ちS−1a = φ(a)S−1A
が成り立つ。(ii) 環 A のイデアル a1, a2 に対して
a1 ⊂ a2 =⇒ S−1a1 ⊂ S−1a2
S−1(a1 ∩ a2) ⊂ S−1a1 ∩ S−1a2
S−1(a1 + a2) = S−1a1 + S−1a2
S−1(a1a2) = S−1a1 S−1a2
が成り立つ。
[3.2] (3.3) で準素イデアル分解が可能ではないイデアルの実例を挙げよ。
例えば、第 4章 (4.2), 例 2のイデアル tB は環 B の準素イデアルとなるか否かを判定せよ。また、イデアル tB が環 B の準素イデアルではないとして、準素イデアル分解可能か否かを判定せよ。
[3.3] (3.4), (3.5) で次の結果に注意する。
例 3.1. 環 A と A のイデアル a に対して(i) a [A] = [a] が成り立つ。即ち、イデアル [a] は a の [A] への拡大イデ
アルである。(ii) a [[A]] ⊂ [[a]] が成り立つ。しかし一般に等号は成立しないから、イデ
アル [[a]] は a の [[A]] への拡大イデアルではない。56
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(iii) a ((A)) ⊂ ((a)) が成り立つ。しかし一般に等号は成立しないから、イデアル ((a)) は a の ((A)) への拡大イデアルではない。
(iv) (ii), (iii) で等号が成立しない例を挙げておく。体 k 上の可算変数多項式環 A = k[T1, T2, T3, · · · ] とそのイデアル a = (T1, T2, T3, · · · ) に対して
a [[A]] ⫋ [[a]], a ((A)) ⫋ ((a))
が成り立つ。(v) (ii), (iii) で等号が成立する例も挙げておく。A を任意の環とする。こ
のとき a が A の有限生成イデアルであれば
a [[A]] = [[a]], a ((A)) = ((a))
が成り立つ。
注意. 例 3.1, (v) より、A がネター環であれば A の任意のイデアル a に対して、[[a]] は a の [[A]] への拡大イデアルとなり、((a)) は a の ((A)) への拡大イデアルとなることが解る。
[3.4] (3.5), AnnA(M) の性質の補足
補題 3.2. 環 A とA加群 M に対して(i) N が M の部分A加群であれば AnnA(M) ⊂ AnnA(N) が成り立つ。(ii) x ∈M であれば AnnA(x) = AnnA(Ax) が成り立つ。(iii) A のイデアル a に対して
AnnA(A/a) = a
が成り立つ。さらに、任意の c ∈ A に対して
AnnA(c mod a) = (a : c)
も成り立つ。(iv) A のイデアル a に対して
a =∩c∈A
(a : c) =∩
c∈A−a
(a : c)
=∩c∈A
AnnA(c mod a) =∩
c∈A−a
AnnA(c mod a)
が成り立つ。(v) M = Ax1 + · · ·+Axn であれば
AnnA(M) =
n∩i=1
AnnA(xi)
が成り立つ。
系. M = Ax1 + · · ·+Axn であれば
V (AnnA(M)) =n∪
i=1
V (AnnA(xi)) =∪x∈M
V (AnnA(x))
が成り立つ。
注意. 補題 3.2の系は (3.5), 補題 3の最後の式の別証明を与えている。
[3.5] (3.8), 補題 6に証明をつけよ。57
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補題 6については、R. Gilmer, Multiplicative Ideal Theory, Marcel Dekker(1972), p.278, (22.4) を参照のこと。(関口、プリューファー環とアフィンスキーム、p.269, 補題 17も参照のこと)補題 5については、R. Gilmer, Multiplicative Ideal Theory, Marcel Dekker
(1972), p.277, (22.3) を参照のこと。(関口、プリューファー環とアフィンスキーム、p.269, 補題 16も参照のこと)
[3.6] (3.11), 補題 6に関連して、次の命題の真偽を判定せよ。
命題 3.1. 環 A に対して ((A)) がネター環であれば A もネター環となる。
注意. 同じことではあるが、次の命題の真偽を判定するほうがよいかも知れない。
命題 3.2. 環 Aに対して ((A))がネター環であれば [[A]]もネター環となる。
このとき、S = 1, X,X2, X3, · · · とおけば((A)) = S−1[[A]] = [[A]][X−1]
となることに注意する。
[3.7] (3.13), 例 7で K = QA が成り立つか否かを判定せよ。
[3.8] (3.13) で、ネター整閉整環やクルル環を
E = p ∈ SpecA | dimAp = 1W = Ap | p ∈ E, W ′ =W ∪ K, n.Zar(K|A)
等を用いて定理 1, 定理 3, 定理 3′と同じような形式で特徴づけよ。クルル環 A に対して K = QA とおけば、写像
ΨA|K : E −→ n.Zar(K|A)は well-defind かつ単射で W = ImΨA|K となる。従って、写像
ΨA|K : E −→ W
は全単射となり、写像ΦK|A : W −→ E
はその逆写像となる。(3.13), 例 12を参照のこと。そこで、写像
ΦK|A : n.Zar(K|A)− K −→ E
が well-defind になるか否かを判定せよ。一般に
W ⫋ n.Zar(K|A)− Kが成り立つと思われるが、この差がどのくらいあるのかを調べよ。体 K に対して、W ⊂ ZarK に関する条件
R1, R2 ∈W, R1 ⫋ R2 =⇒ R2 = K
が使えないかを調べよ。
[3.9] (3.14) で、A が体であれば ((A)) も体となる。A が体ではないアルティン環であるとき、((A)) はアルティン環となるか否かを判定せよ。
注意. 次の結果は証明できている。
補題 3.3. A を環とする。58
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(i) A のイデアル a に対して、環同形
((A))/((a)) ∼= ((A/a))
が成立する。従って
a ∈ SpecA ⇐⇒ ((a)) ∈ Spec ((A))
a ∈ m.SpecA ⇐⇒ ((a)) ∈ m.Spec ((A))
が成り立つ。(ii) A のイデアル a に対して a = A ∩ ((a)) が成り立つ。(iii) 不等式
dimA ≦ dim((A))
が成り立つ。
注意. 補題 3.3で
q ∈ Spec ((A)), p = A ∩ q =⇒ q = ((p))
が成り立てば、標準的環準同形 φ : A→ ((A)) に対して、写像
Specφ : Spec ((A)) −→ SpecA
は包含関係を保つ全単射となるから、等式
dimA = dim((A))
が成立する。従って
Aはアルティン環 =⇒ ((A))はアルティン環
が証明できる。
[3.10] (3.15) には、関口、Linear Topologies on a Field and Completionsof Valuation Rings および On the Structure of Strictly Complete ValuationRings の内容を加える。
[3.11] (3.16) には、藤崎、体とガロア理論の内容を加える。
[3.12] (3.17) には、河田、関口、標数 p の局所類体論および On Abelianp-Extensions of Formal Power Series Fields の内容を加える。
59
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第 4章. 代数的世界から位相的世界への架け橋この章では環や体など代数的な対象のつくる圏から位相空間のつくる圏へ
の関手をいくつか定義し、それらの性質を調べる。
4.1. ラディカルイデアルとザリスキ位相A を環とする。SpecA の部分集合 E に対して
I(E) = a ∈ A | p ∈ E ⇒ a ∈ p =∩p∈E
p
とおく。これは A のラディカルイデアルとなる。
補題 1. A を環とする。SpecA の部分集合 E1, E2 に対して
E1 ⊂ E2 =⇒ I(E2) ⊂ I(E1)
I(E1 ∪ E2) = I(E1) ∩ I(E2)
I(∅) = A
が成り立つ。
環 A の部分集合 F に対して
V (F ) = p ∈ SpecA | F ⊂ pとおく。これは SpecA の部分集合となる。
補題 2. 環 A の部分集合 F1, F2, Fi (i ∈ I) に対して
F1 ⊂ F2 =⇒ V (F2) ⊂ V (F1)
V (F1) ∪ V (F2) = V (F1F2)∩i∈I
V (Fi) = V (∪i∈I
Fi)
V (∅) = V (0) = SpecA
V (A) = V (1) = ∅が成り立つ。
系. 集合 SpecA は V (F ) | F ⊂ A を閉集合系として位相空間となる。この位相を SpecA のザリスキ位相と呼ぶ。
注意. (i) 集合 F の生成する A のイデアルを a とすれば V (F ) = V (a) となる。よって F を A のイデアルと考えてもよい。
(ii) 一般に V (F1) ∪ V (F2) = V (F1 ∩ F2) は成り立たないが、F1, F2 がどちらも A のイデアルであれば成り立つ。即ち、環 A のイデアル a1, a2 に対して
V (a1) ∪ V (a2) = V (a1a2) = V (a1 ∩ a2)
が成り立つ。
定理 1. A を環とする。(i) A のイデアル a と SpecA の部分集合 E に対して
I(V (a)) =√a, V (I(E)) = E
が成り立つ。従って、写像 V I は SpecA のザリスキ位相の閉包作用素となる。また、V と I は A のラディカルイデアルの全体と SpecA の閉集合の全体との間の包含関係を逆に保つ全単射となる。
1
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(ii) SpecA の部分集合 E と A のイデアル a に対して
Eは既約 ⇐⇒ I(E)は素イデアル
a ∈ SpecA =⇒√a ∈ SpecA ⇐⇒ V (a)は既約
が成り立つ。従って V と I は SpecA と t(SpecA) との間の包含関係を逆に保つ全単射となる。
系. A を環とする。(i) p ∈ SpecA に対して V (p) = p となる。従って SpecA が T0 空間と
なることおよび m.SpecA = (SpecA)cl が解る。(ii) 環 A のイデアル a に対して
Spec (A/a) = V (a)
およびm.Spec (A/a) = V (a) ∩m.SpecA = V (a)cl
が成り立つ。(iii) 写像 αSpecA : SpecA→ t(SpecA) は包含関係を逆に保つ全単射かつ
位相同形となり、写像 V の制限写像となる。(iv) I(SpecA) = nil(A), I(m.SpecA) = rad(A) となる。従って
SpecA = V (nil(A)), m.SpecA = V (rad(A))
が解る。さらに
m.SpecA = SpecA ⇐⇒ nil(A) = rad(A)
SpecAは既約 ⇐⇒ nil(A) ∈ SpecA
m.SpecAは既約 ⇐⇒ rad(A) ∈ SpecA
Aは整環 ⇐⇒ Aは被約かつ SpecAは既約も解る。
注意. 定理 1, (ii) で、環 A のイデアル a に対して
a ∈ SpecA ⇐= V (a)は既約
は成り立たない。次の例 1を参照のこと。
例 1. 環 A のイデアル p ∈ SpecA と自然数 e (e ≧ 2) に対して a = pe とおけば、V (a) は既約となるが a は素イデアルではない。
補題 3. 環 A と f ∈ A に対して
D(f) = A− V (fA)
とおく。このとき(i) f , g ∈ A に対して
D(f) ∩D(g) = D(fg)
D(f) = ∅ ⇐⇒ f ∈ nil(A)
が成り立つ。(ii) 環 A のイデアル a に対して
SpecA− V (a) =∪f∈a
D(f)
が成り立つ。2
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系. 集合系D(f) | f ∈ A, f /∈ nil(A)
は SpecA の開集合の基底となる。
例 2. 環 A のイデアル a と乗法系 S に対して
Spec (S−1A/S−1a) = p ∈ SpecA | a ⊂ p, p ∩ S = ∅ = V (a) ∩∩f∈S
D(f)
が成り立つ。従って
Spec (A/a) = p ∈ SpecA | a ⊂ p = V (a)
Spec (S−1A) = p ∈ SpecA | p ∩ S = ∅ =∩f∈S
D(f)
が成り立つことも解る。
例 3. R を付値環とする。(i) SpecR の空でない閉集合は既約である。(ii) R のイデアル a に対して
a ∈ SpecR ⇐⇒√a = a = R
が成り立つ。
3
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4.2. 反変関手 Spec : (Rings) → (Top.)
環準同形 φ : A→ B に対して、第 3章 (3.1) で定義された写像
SpecB −→ SpecASpec φ : ∈ ∈
q 7−→ φ−1(q)
について考える。
補題 1. A, B を環、φ : A→ B を環準同形とする。このとき(i) 任意の F ⊂ A, f ∈ A に対して
(Spec φ)−1(V (F )) = V (φ(F ))
(Spec φ)−1(D(f)) = D(φ(f))
が成り立つ。(ii) 写像 Spec φ : SpecB → SpecA は連続である。
系. 反変関手 Spec : (Rings) → (Top.) が定義される。
例 1. 環 A のイデアル a と乗法系 S に対して、第 3章 (3.2), 補題 1で定義された環準同形 φ より導かれる包含関係に関する順序同形
Spec (S−1A/S−1a) ∼= p ∈ SpecA | a ⊂ p, p ∩ S = ∅は位相同形でもある。従って
Spec (A/a) ∼= V (a), m.Spec (A/a) ∼= V (a) ∩m.SpecA = V (a)cl
Spec (S−1A) ∼= p ∈ SpecA | p ∩ S = ∅Spec (Ap) ∼= p′ ∈ SpecA | p′ ⊂ p (p ∈ SpecA)
Spec (Af ) ∼= D(f) (f ∈ A)
などはすべて順序同形かつ位相同形となる。
注意. 以下では Spec (S−1A/S−1a) を順序集合としても位相空間としてもSpecA の部分集合とみなすことがある。
補題 2. 環 A に対して(i) 位相空間 SpecA, m.SpecA はどちらもコンパクトである。(ii) 任意の f ∈ A に対して、SpecA の開集合 D(f) はコンパクトである。
系. (i) SpecA の開集合 U に関する次の 3条件:(a) U はコンパクト
(b) U =
n∪i=1
D(fi) となる f1, · · · , fn ∈ A が存在する
(c) I(SpecA− U) =√f1A+ · · ·+ fnA となる f1, · · · , fn ∈ A が存在する
は同値である。(ii) SpecA のコンパクトな開集合の全体 Σ は SpecA の開集合の基底と
なり、条件U, V ∈ Σ =⇒ U ∩ V ∈ Σ
を満たす。
以上の準備のもと、環 A より定まる位相空間 SpecA と位相同形になる位相空間を特徴づけることができる。
4
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定理 1.(ホッホスター)位相空間 X に関する次の 2条件:(a) X ≃ SpecA(位相同形)となる環 A が存在する(b) X はコンパクト、αX は全単射、かつ X のコンパクトな開集合の全体
Σ は X の開集合の基底となり条件
U, V ∈ Σ =⇒ U ∩ V ∈ Σ
を満たす
は同値である。
以下では、定理 1の条件 (b) をホッホスターの条件ということにする。
補題 3. 環 A に関する次の 3条件:(a) SpecA はネター位相空間である(b) 環 A のラディカルイデアル ai (i = 1, 2, 3, · · · ) に対して
a1 ⊂ a2 ⊂ a3 ⊂ · · · =⇒ ∃i0 ∈ N, ∀i ≧ i0, ai0 = ai
が成り立つ
(c) 環 A のラディカルイデアルはすべて A の有限生成イデアルのラディカルとなる
は同値である。
補題 4. 環 A に対して
Aはヒルベルト環 ⇐⇒ SpecAはヒルベルト位相空間
dimA = dimSpecA
Aはネター環 =⇒ SpecAはネター空間が成り立つ。
系. A がヒルベルト環であれば、位相同形
t(m.SpecA) ≃ SpecA
が存在する。
注意. 一般に
Aはネター環 ⇐= SpecAはネター空間
は成り立たない。次の例 2を参照のこと。
例 2. A を DVR, K = QA, t を K 上の不定元とし B = A⊕ tK[[t]] とおく。このとき
(i) p = tK[[t]], m = m(A)⊕ tK[[t]] とおけば
SpecB = 0, p,m (0 ⫋ p ⫋ m)
となる。従って SpecB はネター位相空間であることも解る。(ii) m(A) = πA であれば m = m(B) = πBとなる。
(iii) p = tK[[t]]は有限生成イデアルではないが p =√tB と表される。従っ
て B はネター環ではないことも解る。(iv) B のイデアル a に対して
a ∈ SpecB ⇐⇒√a = a = B
が成り立つ。5
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例 3. 環 A のイデアル p ∈ SpecA に対して
dim p = dimV (p) = dim(A/p)
が成り立つ。
環 A は SpecA がネター空間であるならば準ネター環であるといわれる。
例 4. (i) ネター環は準ネター環である。(ii) 準ネター環 A のイデアル a と乗法系 S に対して、A/a も S−1A も準
ネター環となる。(iii) 2次元以上の有限次元付値環は準ネター環であるが、ネター環では
ない。
6
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4.3. 写像 Spec φ : SpecB → SpecA の性質ここでは環準同形 φ : A → B より定まる連続写像 Spec φ : SpecB →
SpecA の性質をまとめる。
補題 1. A, B を環、φ : A→ B を環準同形とする。このとき(i) 環 B のイデアル b に対して
I((Spec φ)(V (b))) =√φ−1(b) = φ−1
(√b)
(Spec φ)(V (b)) = V (φ−1(b))
が成り立つ。従って
(Spec φ)(SpecB) = V (Kerφ)
Spec φは dominant ⇐⇒ Kerφ ⊂ nil(A)
が成り立つことも解る。(ii) p ∈ SpecA に対して b = φ(p)B, S = φ(A− p) とおけば
(Spec φ)−1(p) = q ∈ SpecB | b ⊂ q, q ∩ S = ∅ = Spec (S−1B/S−1b)
p ∈ (Spec φ)(SpecB) ⇐⇒ p = φ−1(b)
が成り立つ。従って
(Spec φ)−1(p) ∼= Spec (Q(A/p)⊗A B) (順序同形、位相同形)
が成り立つことも解る。
系. 写像 Spec φ : SpecB → SpecA に関する次の 2条件:(a) Spec φ は閉写像である(b) 任意の q ∈ SpecB に対し p = (Spec φ)(q) ∈ SpecA とおけば
(Spec φ)(Spec (B/q)) = Spec (A/p)
が成り立つ
を導入する。このとき(a) =⇒ (b)
が成り立つ。
注意. (4.4) で SpecB がネター空間であれば逆も成り立つことを示す。
例 1. A を環とする。(i) A のイデアル a に対して B = A/a とおく。このとき、標準的環準同
形 φ : A→ B より定まる写像 Spec φ : SpecB → SpecA は単射かつ閉写像であるが、一般に全射でも開写像でもない。また、任意に q ∈ SpecB をとりp = (Spec φ)(q) ∈ SpecA とおけば
(Spec φ)(Spec (B/q)) = Spec (A/p)
が成り立つ。(ii) f ∈ A に対して B = Af とおく。このとき、標準的環準同形 φ :
A → B より定まる写像 Spec φ : SpecB → SpecA は単射かつ開写像であるが、一般に全射でも閉写像でもない。また、任意に q ∈ SpecB をとりp = (Spec φ)(q) ∈ SpecA とおけば
(Spec φ)(Spec (Bq)) = Spec (Ap)
が成り立つ。7
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(iii) A を DVR とし B = QA とおく。このとき、包含写像 φ : A → B より定まる写像 Spec φ : SpecB → SpecA は単射かつ開写像であるが、全射でも閉写像でもない。また
q ∈ SpecB, p = (Spec φ)(q) =⇒ (Spec φ)(Spec (Bq)) = Spec (Ap)
は成立しない。
補題 2. A, B を環、φ : A→ B を環準同形とする。このとき、B加群 Mに対して、M を φ によりA加群とみて忠実平坦であれば
(Spec φ)(SuppB(M)) = SpecA
が成り立つ。
系. (i) 環準同形 φ : A→ B が忠実平坦であれば、写像 Spec φ : SpecB →SpecA は全射となる。
(ii) 環準同形 φ : A→ Bが平坦であるとする。このとき、任意に q ∈ SpecBをとり p = (Spec φ)(q) ∈ SpecA とおけば
(Spec φ)(Spec (Bq)) = Spec (Ap)
が成り立つ。
補題 3. A, B を環とし、環準同形 φ : A→ B が整であるとする。このとき(i) 任意に q ∈ SpecB をとり p = (Spec φ)(q) ∈ SpecA とおけば
p ∈ m.SpecA ⇐⇒ q ∈ m.SpecB
が成り立つ。(ii) q1, q2 ∈ SpecB に対して
q1 ⊂ q2, (Spec φ)(q1) = (Spec φ)(q2) =⇒ q1 = q2
が成り立つ。(iii) (Spec φ)(SpecB) = V (Kerφ) となる。
系. 環準同形 φ : A→ B が単射かつ整であれば Spec φ : SpecB → SpecAは全射となる。
補題 4. A, B を環とし、環準同形 φ : A→ B が整であるとする。このとき(i) B の任意のイデアル b に対して
(Spec φ)(V (b)) = V (φ−1(b))
が成り立つ。従って Spec φ : SpecB → SpecA は閉写像となる。(ii) 任意に q ∈ SpecB をとり p = (Spec φ)(q) ∈ SpecA とおけば
(Spec φ)(Spec (B/q)) = Spec (A/p)
が成り立つ。
補題 5. A を整閉整環、B を整環とし、環準同形 φ : A → B が単射かつ整であるとする。このとき
(i) 任意の g ∈ B に対して、g の QA 上の最小多項式を
Xn + f1Xn−1 + · · ·+ fn ∈ (QA)[X]
とすれば、f1, · · · , fn ∈ A かつ
(Spec φ)(D(g)) =
n∪i=1
D(fi)
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が成り立つ。従って Spec φ : SpecB → SpecA は開写像となる。(ii) 任意に q ∈ SpecB をとり p = (Spec φ)(q) ∈ SpecA とおけば
(Spec φ)(Spec (Bq)) = Spec (Ap)
が成り立つ。
補題 6. 環準同形 φ : A → B が整であれば、任意のイデアル p ∈ SpecAに対して
dim(Q(A/p)⊗A B
)= dim
((Spec φ)−1(p)
)≦ 0
が成り立つ。
系 1. 環の拡大 A ⊂ B が整であれば
dimA = dimB
が成り立つ。従って、A のイデアル a と B のイデアル b に対して
a = A ∩ b =⇒ dim(A/a) = dim(B/b)
が成り立つ。
系 2. A が整閉整環、B が整環で A ⊂ B が整拡大であれば、任意のイデアル p ∈ SpecA, q ∈ SpecB に対して
p = A ∩ q =⇒ dimAp = dimBq
が成り立つ。
例 2. A を環とする。(i) φ : A → [A] が標準的環準同形であれば、任意のイデアル p ∈ SpecA
に対して
dim((Spec φ)−1(p)
)= dim
(Q(A/p)⊗A [A]
)= 1
が成り立つ。(ii) 不等式
1 + dimA ≦ dim[A] ≦ 1 + 2dimA
が成り立つ。
例 3. A を代数的整数の全体とする。任意にイデアル p ∈ m.SpecA をとり R = Ap とおく。このとき R は 1次元付値環となるが DVR ではない。
注意. 一般に m.Spec : (Rings) → (Top.) という反変関手は存在しない。しかし、圏 (Rings) を次のように制限すれば関手となる。
補題 7. (i) m.Spec は 環と整な環準同形のつくる圏から (Top.) への反変関手となる。
(ii) 体 k を固定する。このとき、m.Spec は k 上有限型な環と k多元環の準同形のつくる圏から (Top.) への反変関手となる。
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4.4. 幾何学的素因子環 A に対し、SpecA の包含関係に関する極小元を A の極小素イデアルと
いう。環 A の極小素イデアルの全体を o.SpecA と表す。
例 1. 環 A に対して
o.SpecA = p ∈ SpecA | dimAp = 0Aは整環 ⇐⇒ o.SpecA = 0
dimA = 0 ⇐⇒ o.SpecA = SpecA = ∅が成り立つ。
補題 1. 環 A に対して、写像
V : o.SpecA −→ c(SpecA)
は全単射となりI : c(SpecA) −→ o.SpecA
はその逆写像となる。従って、位相空間 SpecA の既約分解は
SpecA =∪
p∈o.SpecAV (p)
と表される。またA = 0 ⇐⇒ o.SpecA = ∅
nil(A) =∩
p∈o.SpecAp
dimA = supdim(A/p) | p ∈ o.SpecAが成り立つことも解る。
環 A のイデアル a に対し、V (a) の極小元を a の極小素因子または幾何学的素因子という。この全体を V0(a) と表す。
例 2. 環 A のイデアル 0 の幾何学的素因子は A の極小素イデアルであり、逆も成り立つ。即ち
V0(0) = o.SpecA
が成り立つ。また、A のイデアル a と p ∈ SpecA に対して√a = p =⇒ V0(a) = p
も成り立つ。
補題 2. 環 A のイデアル a に対して
V0(a) = o.Spec (A/a)
が成り立つ。また、写像
V : V0(a) −→ c(V (a)
)は全単射となり
I : c(V (a)
)−→ V0(a)
はその逆写像となる。従って、位相空間 V (a) の既約分解は
V (a) =∪
p∈V0(a)
V (p)
と表される。またa = A ⇐⇒ V0(a) = ∅
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√a =
∩p∈V0(a)
p
dim(A/a) = supdim(A/p) | p ∈ V0(a)dimV (a) = supdimV (p) | p ∈ V0(a)
が成り立つことも解る。
系. 環 A のイデアル a と p ∈ V (a) に対して
a ⊂ p0 ⊂ p
となる p0 ∈ V0(a) が存在する。
例 3. 環 A のイデアル a が p1, · · · , pn ∈ SpecA により
a = p1 ∩ · · · ∩ pn
と表されていると仮定する。このとき(i) a は A のラディカルイデアルで V0(a) ⊂ p1, · · · , pn が成り立つ。(ii) p1, · · · , pn が条件
1 ≦ i, j ≦ n, i = j =⇒ pi ⊂/ pj
を満たせばV0(a) = p1, · · · , pn
も成り立つ。
例 4. 環 A のイデアル a の準素イデアル分解の最短表示を
a = a1 ∩ · · · ∩ an
とすればV0(a) ⊂
√a1, · · · ,
√an
が成り立つ。
注意. 例 4でV0(a) =
√a1, · · · ,
√an
が成り立つとは限らない。(4.5), 例 3を参照のこと。即ち、準素イデアル分解の最短表示の条件 (D1), (D2) から条件
1 ≦ i, j ≦ n, i = j =⇒√ai ⊂/
√aj
は導かれない。
補題 3. A を環、M をA加群 (M = 0) とする。このとき
p ∈ V0(AnnA(M)) =⇒ p ⊂∪x∈Mx=0
AnnA(x)
が成り立つ。
系. 環 A に対して
p ∈ o.SpecA =⇒ p ⊂ Z(A)
が成り立つ。
例 5. 環 A に対して
dimA = 0 =⇒ A = A× ∪ Z(A)が成り立つ。
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次に、準ネター環の性質をまとめる。
補題 4. A を準ネター環とする。このとき o.SpecA は有限集合となる。また、A のイデアル a に対して V0(a) も有限集合となる。
系 1. 準ネター環 A のイデアル a (a = A) をとれば V0(a) = p1, · · · , pnと表すことができる。このとき
√a = p1 ∩ · · · ∩ pn
が成り立つ。
系 2. B が準ネター環であれば、写像 Spec φ : SpecB → SpecA に関する次の 2条件:(a) Spec φ は閉写像である(b) 任意の q ∈ SpecB に対し p = (Spec φ)(q) ∈ SpecA とおけば
(Spec φ)(Spec (B/q)) = Spec (A/p)
が成り立つ
は同値となる。
環 A に対してE = p ∈ SpecA | dimAp = 1
とおく。
補題 5. 準ネター整環 A に対して
I(E) = 0 =⇒ Eは有限集合
が成り立つ。
系. A がG整環かつ準ネター環であれば E は有限集合となる。
次に、アルティン環とネター環の間の関係を補足する。
定理 1. 環 A に関する次の 2条件:(a) A はアルティン環で A = 0
(b) A はネター環で dimA = 0
は同値である。
定理 2. 整環 A に関する次の 2条件:(a) A は体ではなく、0, A 以外の任意のイデアル a に対して
A/a はアルティン環
(b) A はネター環で dimA = 1
は同値である。
次に、ネター環のクルル次元について補足する。
補題 6. R をネター局所整環、a = a1R+ · · ·+ anR (a1, · · · , an ∈ R) とする。このとき、m(R) ∈ V0(a) であれば dimR ≦ n となる。
定理 3. A をネター環、a = a1A+ · · ·+ anA (a1, · · · , an ∈ A) とする。このとき
p ∈ V0(a) =⇒ dimAp ≦ n
が成り立つ。
注意. 定理 3をクルルの次元定理という。12
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補題 7. ネター局所環 R に対して k = R/m(R) とおく。このとき
(i) 剰余加群 m(R)/m(R)2 は体 k 上有限次元の線形空間となる。
(ii) d = dimk m(R)/m(R)2 とおけば、イデアル m(R) は R加群として d個の元で生成され、d− 1 個以下の元では生成されない。
(iii) n = dimRとおけば、イデアル a = x1R+· · ·+xnRが条件√a = m(R)
を満たすような x1, · · · , xn ∈ R が存在する。
ネター環 A のイデアル a に対して、a の生成元の個数の最小値を
δ(A, a) ∈ N
と表す。また、ネター局所環 R に対して
δ(R) = minδ(R, a) | aはRのイデアルで√a = m(R)
とおく。
定理 4. ネター局所環 R に対して
dimR = δ(R) ≦ δ(R,m(R)) = dimR/m(R)m(R)/m(R)2
が成り立つ。
注意. 定理 4をネター局所環の次元定理という。
補題 8. 環 A とイデアル p ∈ SpecA に対して
(i) 環同形[A]/[p] ∼= [A/p]
が成立する。従って [p] ∈ Spec [A] となることも解る。
(ii) φ : A→ [A]を標準的環準同形とすれば、イデアル [p]は (Specφ)−1(p)の包含関係に関する最小元となる。また
[p] ⫋ p⊕XA[X] ∈ (Specφ)−1(p)
も成り立つ。
(iii) 不等式 dimAp ≦ dim [A][p] が成り立つ。
(iv) A がネター環であれば、任意のイデアル q ∈ (Specφ)−1(p) に対して
[p] = q =⇒ dim [A]q = dimAp
および[p] ⫋ q =⇒ dim [A]q = 1 + dimAp
が成り立つ。
定理 5. 環 A に対して
1 + dimA ≦ dim [A] ≦ 1 + 2dimA
が成り立つ。さらに A がネター環であれば
dim [A] = 1 + dimA
も成り立つ。
系. ネター環 A 上代数的に独立な不定元 X1, · · · , Xn に対して
dimA[X1, · · · , Xn] = n+ dimA
が成り立つ。13
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例 6. 体 k 上代数的に独立な不定元 X1, · · · , Xn に対して
dim k[X1, · · · , Xn] = tr. degk k(X1, · · · , Xn) = n
が成り立つ。また、任意のイデアル q ∈ Spec k[X1, · · · , Xn] に対して
dim(k[X1, · · · , Xn]/q) + dim k[X1, · · · , Xn]q = n
も成り立つ。
定理 6. 体 k 上有限型な整環 A に対して
dimA = tr. degkQA
が成り立つ。また、任意のイデアル p ∈ SpecA に対して
dim(A/p) + dimAp = dimA
も成り立つ。
注意. (i) ネター環 A 上代数的に独立な不定元 X1, · · · , Xn に対して
dim [[A]] = 1 + dimA, dimA[[X1, · · · , Xn]] = n+ dimA
が成り立つ。(ii) 体 k 上代数的に独立な不定元 X1, · · · , Xn に対して
dim k[[X1, · · · , Xn]] = n
が成り立つ。また、任意のイデアル q ∈ Spec k[[X1, · · · , Xn]] に対して
dim(k[[X1, · · · , Xn]]/q) + dim k[[X1, · · · , Xn]]q = n
も成り立つ。
証明は松村、可換環論、p.142, 定理 15.4および O. Zariski - P. Samuel,Commutative Algebra, II, Springer, (1975), p.218, Theorem 33, Theorem34, Corollary 1 を参照のこと。
次に、G整環とヒルベルト環および UFD について補足する。
環 A に対してE = p ∈ SpecA | dimAp = 1
とおく。
補題 9. ネター整環 A とイデアル p ∈ SpecA (p = 0) に対して
SpecAp は有限集合 =⇒ p ∈ E
が成り立つ。
定理 7. ネター環 A に関する次の 4条件:(a) A はG整環(b) A は整環で dimA ≦ 1 かつ E は有限集合(c) A は整環で dimA ≦ 1 かつ SpecA は有限集合(d) A は整環で dimA ≦ 1 かつ m.SpecA は有限集合は同値である。
定理 8. ネター環 A に関する次の 2条件:(a) A はヒルベルト環(b) p ∈ SpecA, dim(A/p) = 1 であれば m.Spec (A/p) は無限集合は同値である。
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定理 9. 整環 A に関する次の 3条件:(a) A はUFD
(b) p ∈ SpecA, p = 0 であれば p は素元を含む(c) p ∈ SpecA, dimAp = 1 であれば p は単項イデアルを導入する。このとき
(a) ⇐⇒ (b) =⇒ (c)
が成り立つ。さらに、A がクルル環またはネター環であれば
(a) ⇐⇒ (b) ⇐⇒ (c)
も成り立つ。
注意. 第 3章 (3.13), 補題 15も参照のこと。
この節の最後に 1次元ネター整環の性質を補足する。
補題 10. A を 1次元ネター整環、K を A の商体とし、K の部分環 B が条件 A ⊂ B ⫋ K を満たすと仮定する。このとき
(i) ∀a ∈ A (a = 0), ∃n ∈ N ; B ⊂ a−nA+ aB.
(ii) 任意の a ∈ A (a = 0) に対して B/aB は有限生成A加群となる。(iii) B は 1次元ネター整環となる。
定理 10. A を 1次元ネター整環、K を A の商体、L を K の有限次拡大とする。このとき、L の部分環 B が A を含むならば、B は体または 1次元ネター整環となる。
注意. 定理 10をクルル・秋月の定理という。
系. A を 1次元ネター整環、K を A の商体、L を K の有限次拡大、Bを A の L における整閉包とする。このとき B はデデキント環となる。
定理 11. A をデデキント環、K を A の商体、L を K の有限次拡大、Bを A の L における整閉包とする。このとき、B もデデキント環となる。
系. 有限次代数体の整数環はデデキント環である。
15
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4.5. 代数学的素因子環 A とA加群 M に対して
AssA(M) = SpecA ∩ AnnA(x) | x ∈Mとおき、その元を M の素因子という。
補題 1. A を環、M をA加群とする。このとき、環 A のイデアルより成る集合
A = AnnA(x) | x ∈M, x = 0の極大元が存在すれば、それは M の素因子となる。
系. A がネター環であれば(i) 任意のA加群 M に対して
M = 0 ⇐⇒ AssA(M) = ∅が成り立つ。
(ii) 任意の x ∈ M (x = 0) に対して AnnA(x) ⊂ p となる p ∈ AssA(M)が存在する。従って ∪
x∈Mx=0
AnnA(x) =∪
p∈AssA(M)
p
およびZ(A) =
∪p∈AssA(A)
p
が成り立つ。
A を環とする。A のイデアル a に対して
V1(a) = AssA(A/a)
とおき、その元を a の代数学的素因子という。
例 1. ネター環 A に対して
Z(A) =∪
p∈V1(0)
p
が成り立つ。
補題 2. A を環、a を A のイデアルとする。このとき
V1(a) = SpecA ∩ (a : c) | c ∈ Aと表すことができる。従って
V1(a) ⊂ V (a)
が成り立つ。また、環 A のイデアルより成る集合
A = (a : c) | c ∈ A− aの極大元が存在すれば、それは a の代数学的素因子となる。
系. A がネター環であれば、A のイデアル a に対して
a = A ⇐⇒ V1(a) = ∅が成り立つ。
16
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注意. 以下の展開では補題 2の
V1(a) = SpecA ∩ (a : c) | c ∈ Aを代数学的素因子の定義としてもよい。
例 2. 環 A のイデアル a が準素であれば
V0(a) = V1(a) =√
a
が成り立つ。
環 A のイデアル a は、a = A でありかつ A の任意のイデアル b, c に対して
a = b ∩ c =⇒ a = b or a = c
が成り立つならば、既約であるといわれる。
補題 3. ネター環 A のイデアル a に対して
aは素 =⇒ aは既約 =⇒ aは準素
およびaは既約イデアル =⇒ V (a)は既約空間
が成り立つ。
補題 4. ネター環 A のイデアル a は、a = A であれば、有限個の既約イデアルの共通部分として表すことができる。
系. ネター環 A のイデアル a に対して
a = A ⇐⇒ aは準素イデアル分解可能
が成り立つ。
定理 1. ネター環 A のイデアル a (a = A) は準素イデアル分解の最短表示
a = a1 ∩ · · · ∩ an
をもちV0(a) ⊂
√a1, · · · ,
√an = V1(a)√
a1 ∪ · · · ∪√an = c ∈ A | (a : c) = a
が成り立つ。従って、自然数 n と集合 √a1, · · · ,√an は、表示に依存する
ことなく、イデアル a だけから定まることが解る。
系. A がネター環であれば、A の任意のイデアル a に対して V1(a) は有限集合となり
V0(a) ⊂ V1(a) ⊂ V (a)
およびaは準素 ⇐⇒ V1(a)は 1点集合
が成り立つ。
注意. (i) (3.2) の記号を用いれば、ネター環 A に対して
V1(0) = p ∈ SpecA | p ⊂ Z(A)と表すことができる。
(ii) 定理 1の系でV0(a) ⫋ V1(a)
となることがある。このとき、素イデアル p ∈ V1(a)−V0(a) をイデアル a の埋没素因子という。
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例 3. k を体、x, y を k 上の不定元、A = k[x, y] とし、環 A のイデアルa = (x2, xy) の準素イデアル分解を考える。イデアル p = (x), m = (x, y) に対して
a1 = p, a2 = m2, a3 = (x2, y)
とおけばa = a1 ∩ a2 = a1 ∩ a3
はどちらも a の準素イデアル分解の最短表示であり
V0(a) = p, V1(a) = p,m
となる。従って m は a の埋没素因子である。
補題 5. デデキント環 A のイデアル a に対して
aは準素 ⇐⇒ V0(a)は 1点集合
および
aは準素かつ a = 0 ⇐⇒ ∃p ∈ m.SpecA, ∃e ∈ N, a = pe
が成り立つ。
定理 2. デデキント環 A のイデアル a (a = 0, A) の準素イデアル分解の最短表示は
a = pe11 · · · penn (p1, · · · , pn ∈ m.SpecA, e1, · · · , en ∈ N)
と表すこともできる。これを a の素イデアル分解という。このとき
V (a) = V0(a) = V1(a) = p1, · · · , pn ⊂ m.SpecA
p1 ∪ · · · ∪ pn = c ∈ A | (a : c) = aが成り立つ。従って、自然数 n と集合 p1, · · · , pn, e1, · · · , en はイデアルa だけから定まることが解る。
系. デデキント環 A のイデアル群 IA は m.SpecA が生成する自由アーベル群となる。
注意. (i) デデキント環の素イデアル分解はネター環の準素イデアル分解の特別な場合であるが埋没素因子は存在しない。
(ii) 定理 2の系は (3.13), 定理 2の系の再録であるが、準素イデアル分解と関連させて導いた点に意味があると思われる。
この節の最後にネター整環の性質を補足する。
環 A に対してE = p ∈ SpecA | dimAp = 1
とおき、条件:
(N1) a ∈ A, a /∈ A×, a /∈ Z(A) ⇒ V1(aA) ⊂ E
(N2) p ∈ E ⇒ Ap は DVR
を導入する。
注意. (4.4), 定理 3より、ネター環 A に対して
a ∈ A, a /∈ A×, a /∈ Z(A) =⇒ V0(aA) ⊂ E
が成り立つことが解る。これをクルルの単項イデアル定理という。18
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補題 6. ネター整環 A に対して
(N1) =⇒ A =∩p∈E
Ap
が成り立つ。
定理 3. ネター整環 A に対して
Aは整閉 ⇐⇒ (N1), (N2)
が成り立つ。従って A がネター整閉整環であれば
A =∩p∈E
Ap
が成り立つことも解る。
系. ネター整閉整環はクルル環である。
例 4. A がクルル環であれば環 [A], [[A]], ((A)) はすべてクルル環となる。
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4.6. 次数環 Ga(A)
この節では (4.8) で述べる正則局所環の性質を証明するための準備を整える。次数環 A = ⊕+∞
k=0Ak と次数 A加群 M = ⊕+∞k=0Mk の定義と基本的な性
質を既知とする。
環 A とそのイデアル a (a = A) に対して
Ga(A) =+∞⊕k=0
ak/ak+1 (a0 = A)
とおく。また、A加群 M に対して
Ga(M) =
+∞⊕k=0
akM/ak+1M (a0 = A)
とおく。
補題 1. 環 A とそのイデアル a (a = A) およびA加群 M に対して
(i) Ga(A) は次数環の構造をもつ。
(ii) Ga(M) は次数Ga(A)加群の構造をもつ。
補題 2. 環 A のイデアル a (a = A) が
a = x1A+ · · ·+ xnA (x1, · · · , xn ∈ a)
と表されているとする。このとき
(i) 任意の e ∈ N に対して、集合
xe11 · · ·xenn | 0 ≦ e1, · · · , en ≦ e, e1 + · · ·+ en = e
はイデアル ae を生成する。
(ii) 任意の i ∈ 1, · · · , n に対して
xi = ximod a2 ∈ a/a2 ⊂ Ga(A)
とおけばGa(A) = (A/a)[x1, · · · , xn]
と表される。従って、環 A/a 上代数的に独立な不定元 X1, · · · , Xn をとれば、写像 ψ : (A/a)[X1, · · · , Xn] → Ga(A) が ψ(Xi) = xi (1 ≦ i ≦ n) により定義されて全射かつ次数環の準同形となる。
(iii) A加群 M が
M = Ay1 + · · ·+Ays (y1, · · · , ys ∈M)
と表されているとする。このとき、任意の j ∈ 1, · · · , s に対して
yj = yj mod aM ∈M/aM ⊂ Ga(M)
とおけばGa(M) = Ga(A) y1 + · · ·+Ga(A) ys
が成り立つ。即ち、M が有限生成A加群であれば、Ga(M) は有限生成次数Ga(A)加群となる。
系. 環 A がネターであれば、環 Ga(A) もネターとなる。20
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例 1. 環 A のイデアル a が条件+∞∩i=1
ai = 0
を満たすと仮定する。このとき、次の 2条件:(a) 任意の自然数 i ∈ N に対して ai = 0 が成り立つ(b) 任意の自然数 e ∈ N に対して ae = ae+1 が成り立つは同値である。
環 A のイデアル a が条件+∞∩i=1
ai = 0
を満たすと仮定する。このとき
A =
+∞∪e=0
(ae − ae+1) ∪ 0 (直和)
が成り立つから、写像 ord : A→ Z ∪ +∞ を
ord(α) =
e (α = 0)
+∞ (α = 0)
により定めることができる。ここで e は α ∈ A− 0 に対してα ∈ ae − ae+1
により定まる整数である。従って
ord(α) = maxe ∈ Z | α ∈ aeと表すこともできる。このとき、任意の α, β ∈ A に対して
α = 0 ⇐⇒ ord(α) = +∞
ord(αβ) ≧ ord(α) + ord(β)
ord(α+ β) ≧ minord(α), ord(β)が成り立つ。
注意. 一般に、写像 ord は加法的実付値には拡張されない。また
ord(A) = 0 ∪ N ∪ +∞が成り立つとは限らない。
補題 3. 環 A のイデアル a が条件+∞∩i=1
ai = 0
を満たすとする。このとき
Ga(A)は整環 =⇒ Aは整環
が成り立つ。
系. 環 Ga(A) が整であれば、写像 ord : A→ Z∪ +∞ は K = QA の加法的実付値 ord : K → Z ∪ +∞ に拡張される。
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補題 4. 環 A のイデアル a が条件+∞∩i=1
(cA+ ai) = cA (∀c ∈ A)
を満たすとする。このとき
Ga(A)は完整閉整環 =⇒ Aは完整閉整環
が成り立つ。
注意. 環 A とそのイデアル a に対して
ΣA = ai | i ∈ Nを 0の基本近傍系とする A の位相が存在する。これを A の a進位相と呼ぶ。このとき、環 A の任意のイデアル b に対して
b =
+∞∩i=1
(b+ ai)
が成り立つ。同様にA加群 M に対して
ΣM = aiM | i ∈ Nを 0の基本近傍系とする M の位相が存在する。これを M の a進位相と呼ぶ。このとき、A加群 M の任意の部分A加群 N に対して
N =
+∞∩i=1
(N + aiM)
が成り立つ。
補題 5. ネター環 A と A のイデアル a および有限生成A加群 M に関する次の 4条件:
(a) M の a進位相は分離的
(b)
+∞∩i=1
aiM = 0
(c) a ∈ 1 + a, x ∈M , ax = 0 ⇒ x = 0
(d) p ∈ AssA(M) ⇒ p+ a = A
は同値である。
系. A をネター環、a を A のイデアル、M を有限生成A加群、N を Mの部分A加群とする。このとき、次の 4条件:
(a′) N は M の a進位相に関して閉集合
(b′)+∞∩i=1
ai (M/N) = 0
(c′) a ∈ 1 + a, x ∈M , ax ∈ N ⇒ x ∈ N
(d′) p ∈ AssA(M/N) ⇒ p+ a = A
は同値である。
注意. (i) 補題 5で (a) ⇔ (b) ⇒ (c) は A がネター環でなくても成り立つ。系についても同様である。
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(ii) 補題 5の系 (d′) で AssA(M/N) = SpecA ∩ (N : x) | x ∈ M と表すこともできる。
補題 6. ネター環 A とそのイデアル a に関する次の 6条件:(a) a ⊂ rad(A)
(b) 1 + a ⊂ A×
(c) 任意の有限生成A加群 M に対して
M = aM =⇒ M = 0
が成り立つ
(d) 任意の有限生成A加群 M に対して、M の部分A加群はすべて M のa進位相に関して閉集合
(e) 任意の有限生成A加群 M に対して、M の a進位相は分離的(f) 環 A のイデアルはすべて A の a進位相に関して閉集合は同値である。
注意. 補題 6をザリスキの補題という。また、補題 6の 6条件を満たすネター環 A とそのイデアル a に対して、(A, a) をザリスキペアと呼ぶ。
例 2. ネター局所環 R に対して、(R,m(R)) はザリスキペアとなる。
定理 1. ネター局所環 R に対して m = m(R) とおけば
Gm(R)は整閉整環 =⇒ Rは整閉整環
が成り立つ。
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4.7. 不変量 d(A)
この節では (4.6) に引き続き (4.8) で述べる正則局所環の性質を証明するための準備を整える。
補題 1. 次数環 A =⊕+∞
k=0Ak に関する次の 2条件:
(a) A はネター環(b) A0 はネター環で
A = A0[x1, · · · , xs] (xi ∈ Aki , ki ∈ N, 1 ≦ i ≦ s)
と表すことができる
は同値である。
補題 2. A =⊕+∞
k=0Ak をネター次数環、M =⊕+∞
k=0Mk を有限生成次数A加群とする。このとき、任意の整数 k ≧ 0 に対して Mk は有限生成 A0加群となる。
環 A0 を固定して、有限生成A0加群のつくる圏を C と表す。このとき、写像 λ : ob(C) → Z は、C の任意の完全列
0 →M ′ →M →M ′′ → 0
に対して
λ(M ′)− λ(M) + λ(M ′′) = 0
が成り立つならば、加法的であるといわれる。
例 1. A0 = k を体として、C を k 上有限次元の線形空間のつくる圏とする。このとき、写像
ob(C) −→ Zdimk : ∈ ∈
V 7−→ dimk V
は加法的である。
補題 3. A0 を環、C を有限生成A0加群のつくる圏とし、写像 λ : ob(C) → Zが加法的であるとする。このとき
(i) λ(0) = 0 が成り立つ。
(ii) 圏 C の object M , N に対して
M ≃ N =⇒ λ(M) = λ(N)
が成り立つ。
(iii) C の任意の完全列
0 →M0 →M1 → · · · →Mn → 0
に対してn∑
i=0
(−1)i λ(Mi) = 0
が成り立つ。24
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有限生成 A0加群のつくる圏を C と表し、加法的写像 λ : ob(C) → Z をひとつ固定する。このとき、ネター次数環 A =
⊕+∞k=0Ak および有限生成次数
A加群 M =⊕+∞
k=0Mk に対して
P (M, t) =
+∞∑k=0
λ(Mk) tk ∈ Z[[t]]
とおき、M のポアンカレ級数と呼ぶ。定理 1. ネター次数環 A =
⊕+∞k=0Ak を補題 1の通りとする。このとき、
有限生成次数 A加群 M =⊕+∞
k=0Mk のポアンカレ級数 P (M, t) は t の有理式で
P (M, t) =f(t)∏s
i=1 (1− tki)∈ Q(t) (f(t) ∈ Z[t])
という形をしている。
注意. 定理 1をヒルベルト・セールの定理という。
既約. 以下では特に断ることなしに、写像 λ : ob(C) → Z に関する条件M が Cの object =⇒ λ(M) ≧ 0
を仮定する。
例 2. 有限生成次数 A加群 M =⊕+∞
k=0Mk とポアンカレ級数 P (M, t) に関する次の 3条件:(a) λ(Mk) = 0 となる整数 k (k ≧ 0) は無限個存在する(b) P (M, t) /∈ Z[t](c) lim
t→1P (M, t) = ∞
は同値である。従って、ポアンカレ級数 P (M, t) が多項式でなければ t = 1は P (M, t) の極になることが解る。
有限生成次数A加群 M =⊕+∞
k=0Mk に対して、有理関数 P (M, t) の t = 1における極位数を d1(M) ∈ N ∪ 0 と表す。即ち
d1(M) = −ordt=1P (M, t)
とおく。特に、ネター次数環 A =⊕+∞
k=0Ak に対しても
d1(A) = −ordt=1P (A, t)が定義される。
例 3. 定理 1の仮定と記号のもと、さらに k1 = · · · = ks = 1 であると仮定する。このとき
(i) 0 ≦ d1(M) ≦ s となる。(ii) 有理数係数多項式 ∆M
a = ∆Ma (t) ∈ Q[t] が存在して
deg∆Ma = d1(M)− 1
および∃N ∈ N ; k ∈ N, k ≧ N =⇒ ∆M
a (k) = λ(Mk)
が成り立つ。
(iii) d = d1(M) とおく。このとき、多項式 ∆Ma の最高次の係数は
a
(d− 1)!(a ∈ N) という形をしている。
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注意. 通常、多項式 0 の次数は −∞ と定義する。しかし、ここでは特例として deg 0 = −1 と定める。その結果、例 3, (ii) は d1(M) = 0 でも成り立つ。
補題 4. ネター次数環 A =⊕+∞
k=0Ak を補題 1の通りとする。このとき、有限生成次数 A加群 M =
⊕+∞k=0Mk と x ∈
∪+∞k=1Ak が条件
m ∈ M, xm = 0 =⇒ m = 0
を満たすならばd1(M/xM) = d1(M)− 1
が成り立つ。
A を環とする。A加群 M の長さ (length)
ℓ(M) ∈ 0, 1, 2, · · · ∪ +∞を負でない整数 n に対して
ℓ(M) ≧ n ⇐⇒ ∃M0, · · · ,Mn ; M の部分A加群, M0 ⫋ · · · ⫋Mn
により定義する。
例 4. アルティン環 A0 を固定する。(i) 有限生成A0加群のつくる圏を C と表せば、写像 ℓ : ob(C) → Z は加法
的となる。(ii) 環 A0 上代数的に独立な不定元 x1, · · · , xs をとり A = A0[x1, · · · , xs]
を次数環と考える。このとき、写像 ℓ を用いてポアンカレ級数 P (A, t) を定義すれば
P (A, t) =1
(1− t)s
となる。従ってd1(A) = s (= dimA)
であることも解る。
次にネター局所環の特性多項式を定義する。A を環、a (a = A) を A のイデアル、M をA加群とする。このとき、M
の部分A加群よりなる列
M =M0 ⊃M1 ⊃ · · · ⊃Mk ⊃ · · ·を M のフィルトレーションと呼び (Mk)
+∞k=0 と表す。M のフィルトレーショ
ン (Mk)+∞k=0 は、任意の自然数 k に対して aMk−1 ⊂ Mk が成り立つならば
aフィルトレーションであるといわれ、十分大きな任意の自然数 k に対してaMk−1 =Mk が成り立つならば安定 aフィルトレーションであるといわれる。例えば (akM)+∞
k=0 は M の安定 aフィルトレーションである。A加群 M の a
フィルトレーション (Mk)+∞k=0 に対してM =
⊕+∞k=0Mk/Mk+1 は次数Ga(A)加
群となる。特に M のフィルトレーション (akM)+∞k=0 に対しては M = Ga(M)
となる。
補題 5. A を環、a (a = A) を A のイデアル、M を A加群とする。このとき、(Mn)
+∞n=0, (M
′n)
+∞n=0 がどちらも M の安定 aフィルトレーションであれ
ば、自然数 n0 が存在して、任意の整数 n (n ≧ 0) に対して
Mn+n0 ⊂M ′n, M ′
n+n0⊂Mn
が成り立つ。26
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定理 2. A をネター局所環、m = m(A), a を A のイデアルで√a = m を
満たすとする。また M を有限生成A加群とし (Mk)+∞k=0 を M の安定 aフィ
ルトレーション、M =⊕+∞
k=0Mk/Mk+1 を次数Ga(A)加群とする。このとき(i) 任意の整数 k ≧ 0 に対して ℓ(M/Mk) < +∞ となる。
(ii) 有理数係数多項式 χMa = χM
a (t) ∈ Q[t] が存在して
degχMa = d1(M) ≦ δ(A, a)
および∃N ∈ N ; k ∈ N, k ≧ N =⇒ χM
a (k) = ℓ(M/Mk)
が成り立つ。
(iii) d = degχMa とおく。このとき、多項式 χM
a の最高次の係数はa
d!(a ∈ N) という形をしている。
(iv) 多項式 χMa の最高次の係数と次数 degχM
a は a と M だけから決まりM のフィルトレーション (Mk)
+∞k=0 には依存しない。
系. (i) 等式
degχMa = degχ
Ga(M)a
が成り立つ。また、多項式 χMa と χ
Ga(M)a の最高次の係数は等しい。
(ii) 有限生成A加群 M , N がA加群同形であれば
degχMa = degχN
a
が成り立つ。また、多項式 χMa と χN
a の最高次の係数は等しい。
以下では多項式 χMa の理論をネター局所環 A 上有限生成 A加群 M の安
定 aフィルトレーションが (akM)+∞k=0 である場合に応用する。従って、対応
する次数Ga(A)加群は M = Ga(M) となる。このとき、定理 2, (ii) より
degχMa = d1(Ga(M)) ≦ δ(A, a)
および∃N ∈ N ; k ∈ N, k ≧ N =⇒ χM
a (k) = ℓ(M/akM)
が成り立つ。特に M = A のとき χa = χ
Ga(A)a と略記し、多項式 χa をイデアル a の特
性多項式と呼ぶ。イデアル a の特性多項式 χa の最高次の係数は
e(a)/d! (e(a) ∈ N, d = degχa)
という形をしている。このとき、自然数 e(a) をイデアル a の重複度という。
補題 6. A をネター局所環、m = m(A), a を A のイデアルで√a = m を
満たすとする。このとき
degχm = degχa = d1(Ga(A)) ≦ δ(A, a)
および∃N ∈ N ; k ∈ N, k ≧ N =⇒ χa(k) = ℓ(A/ak)
が成り立つ。
系. ネター局所環 A に対して m = m(A) とおけば
degχm = d1(Gm(A))
が成り立つ。27
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ネター局所環 A に対して、補題 6の系より
d(A) = degχm = d1(Gm(A))
とおくことができる。
次に、これまでの結果をネター局所環の次元論に応用する。ネター環 A のイデアル a に対して、a の生成元の個数の最小値を
δ(A, a) ∈ Nと表す。また、ネター局所環 R に対して
δ(R) = minδ(R, a) | aはRのイデアルで√a = m(R)
とおく。このとき、ネター局所環 R に対して
dimR = δ(R) ≦ δ(R,m(R)) = dimR/m(R)m(R)/m(R)2
が成り立つ。以上の結果を (4.4), 定理 4で示した。
補題 7. ネター局所環 A に対して
d(A) ≦ δ(A)
が成り立つ。
環 A とそのイデアル a (a = A) に対して
Ha(A) =
+∞⊕k=0
ak (a0 = A)
とおく。また、A加群 M とその aフィルトレーション (Mk)+∞k=0 に対して
Ha(M) =
+∞⊕k=0
Mk
とおく。このとき、Ha(A) は次数環となり、Ha(M) は次数Ha(A)加群となる。さらに A がネター環であれば
a = x1A+ · · ·+ xnA (x1, · · · , xn ∈ a)
と表される。このとき
Ha(A) = A[x1, · · · , xn]となるから Ha(A) はネター次数環となる。
補題 8. A をネター環、a (a = A) を A のイデアル、M を有限生成 A加群、(Mk)
+∞k=0 を M の aフィルトレーションとする。このとき、次の 2条件:
(a) Ha(M) は有限生成次数Ha(A)加群
(b) (Mk)+∞k=0 は M の安定 aフィルトレーション
は同値である。
補題 9. A をネター環、a (a = A) を A のイデアル、M を有限生成 A加群、(Mk)
+∞k=0 を M の安定 aフィルトレーションとする。このとき、M の任
意の部分A加群 N に対して、(N ∩Mk)+∞k=0 は N の安定 aフィルトレーショ
ンとなる。
注意. 補題 9をアルティン・リ-スの補題という。28
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補題 10. A をネター局所環、m = m(A), a を A のイデアルで√a = m を
満たすとする。また M を有限生成A加群とし、x ∈ A が条件
m ∈M, xm = 0 =⇒ m = 0
を満たすとする。このとき、M ′ =M/xM , M = Ga(M), M′ = Ga(M′) とお
けばdegχM′
a ≦ degχMa − 1
が成り立つ。
系. ネター局所環 A と x ∈ m(A)− Z(A) に対して
d(A/xA) ≦ d(A)− 1
が成り立つ。
補題 11. ネター局所環 A に対して
dimA ≦ d(A)
が成り立つ。
定理 3. ネター局所環 A に対して
dimA = δ(A) = d(A)
が成り立つ。
系. ネター局所環 A と x ∈ m(A)− Z(A) に対して
dim(A/xA) ≦ dimA− 1
が成り立つ。
例 5. 自然数 n と負でない整数 k に対して
Ink = (e1, · · · , en) ∈ Zn | e1, · · · , en ≧ 0, e1 + · · ·+ en = kとおけば
card Ink =(k + n− 1)× · · · × (k + 1)
(n− 1)!=
(k + n− 1n− 1
)が成り立つ。また、環 A1 上代数的に独立な不定元 x1, · · · , xn をとり、環
A = A1[x1, · · · , xn]および A のイデアル
a = x1A+ · · ·+ xnA
を定めればak =
∑(e1,··· ,en)∈Ink
Axe11 · · ·xenn
が成り立つ。従って
ak =⊕
(e1,··· ,en)∈Ink
A1 xe11 · · ·xenn
とおけば
A =k−1⊕e=0
ae ⊕ ak
が成り立つ。29
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例 6?. A0 をアルティン環、A1 を A0 上整かつ有限型な多元環とする。環A1 上代数的に独立な不定元 x1, · · · , xn をとり、環
A = A1[x1, · · · , xn]および A のイデアル
a = x1A+ · · ·+ xnA
を定める。このとき、環 A のイデアル a の特性多項式は
χa(t) = ℓ(A1)(t+ n− 1)× · · · × t
n!= ℓ(A1)
(t+ n− 1
n
)となる。従って degχa = n, e(a) = ℓ(A1) も解る。
補題 12. n次元ネター局所環 R に対して m = m(R) とおき、R のイデアル a = x1R+ · · ·+ xnR (x1, · · · , xn ∈ R) が条件
√a = m を満たすと仮定す
る。このとき、任意の s次同次多項式
F (X1, · · · , Xn) =∑
i1+···+in=s
ai1···inXi11 · · ·Xin
n ∈ R[X1, · · · , Xn]
に対して
F (x1, · · · , xn) ∈ as+1 =⇒ F (X1, · · · , Xn) ∈ m[X1, · · · , Xn]
が成り立つ。
系. n次元ネター局所環 R に対して m = m(R) とおき
m = x1R+ · · ·+ xnR (x1, · · · , xn ∈ R)
と表すことができると仮定する。このとき、任意の s次同次多項式
F (X1, · · · , Xn) =∑
i1+···+in=s
ai1···inXi11 · · ·Xin
n ∈ R[X1, · · · , Xn]
に対して
F (x1, · · · , xn) ∈ ms+1 =⇒ F (X1, · · · , Xn) ∈ m[X1, · · · , Xn]
が成り立つ。
注意. 補題 12の系には暗に δ(R,m) = n が仮定されている。
定理 4. n次元ネター局所環 R に対して m = m(R), k = R/m(R) とおく。このとき、次の 3条件:(a) δ(R,m) = n
(b) dimk m/m2 = n
(c) Gm(R) ∼= k[X1, · · · , Xn] (次数環の同形)
は同値である。
注意. 次の補題からも定理 4, (a) ⇒ (c) を導くことができる。
補題 13. n次元ネター局所環 R に対して m = m(R) とおき、R のイデアル a = x1R+ · · ·+ xnR (x1, · · · , xn ∈ R) が条件
√a = m を満たすと仮定す
る。このときe(a) ≦ ℓ(R/a)
が成り立つ。さらに
e(a) = ℓ(R/a) ⇐⇒ Ga(R) ∼= (R/a)[X1, · · · , Xn]
も成り立つ。30
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(ザリスキ・サミュエル、p.296, Theorem 23を参照のこと)
系. n次元ネター局所環 R に対して m = m(R), k = R/m(R) とおき
m = x1R+ · · ·+ xnR (x1, · · · , xn ∈ R)
と表すことができると仮定する。このとき
Gm(R) ∼= k[X1, · · · , Xn]
が成り立つ。
証明. 補題 13で ℓ(R/m) = 1 となるから、e(m) = 1 が解る。従って
e(m) = ℓ(R/m) = 1
が成り立つからGm(R) ∼= k[X1, · · · , Xn]
が解る。
注意. 補題 13の系には暗に δ(R,m) = n が仮定されている。
注意. 自然数 n に対して、多項式
Pn(t) =(t+ n− 1)× · · · × t
n!∈ Q[t]
を定める。また
P0(t) = 1, Pn(t) = 0 (nは負の整数)
とおく。このとき、n ∈ N であれば、多項式 Pn(t) の最高次の係数は 1n! と
なりdegPn(t) = n, Pn(0) = 0, Pn(1) = 1
が成り立つ。また、任意の整数 n ∈ Z に対してPn(t)− Pn(t− 1) = Pn−1(t)
が成り立つ。さらに、自然数 n と負でない整数 k に対して
card Ink = Pn−1(k + 1)
が成り立つ。この多項式を用いると例 5, 例 6を見通しよく示すことができる。
31
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4.8. 正則局所環この節では正則局所環の定義と基本的な性質について述べる。正則局所環
は非特異点のストークとして幾何学的に重要である。ネター局所環 R は、等式
dimR = dimR/m(R)m(R)/m(R)2
が成り立つならば、正則局所環であるといわれる。
例 1. 環 R に対して
Rは 0次元正則局所環 ⇐⇒ Rは体
Rは 1次元正則局所環 ⇐⇒ Rは DVR
が成り立つ。即ち、体も DVR も正則局所環である。
補題 1. 正則局所環は整閉整環となる。
系. 正則局所環はクルル環となる。
注意. 補題 1より強く、正則局所環は UFD となるが、ここでは証明できない。証明はザリスキ・サミュエル、Appendix 7, Theorem (p.406), または松村、可換環論、p.197, 定理 20.3を参照のこと。
例 2. k を代数的閉体、X1, · · · , Xn を k 上代数的に独立な不定元とし、既約多項式 f ∈ k[X1, · · · , Xn] と点 α = (a1, · · · , an) ∈ kn が条件 f(α) = 0 を満たすとする。このとき、f ∈ (X1 − a1, · · · , Xn − an) に注意して
A = k[X1, · · · , Xn]/(f), m = (X1 − a1, · · · , Xn − an)/(f) ∈ m.SpecA
とおけば、次の 2条件:(a) Am は正則局所環
(b)( ∂f∂X1
(α), · · · , ∂f∂Xn
(α))= (0, · · · , 0)
は同値である。(アティヤー・マクドナルド、p.125, Exercise 1, または山 、環と加群、
p.423, 例 6.45を参照のこと)
補題 2. A をネター環とし、p ∈ SpecA, dimAp = n とする。このとき(i) n個の A の元 a1, · · · , an が存在して a = a1A+ · · ·+ anA とおけば
p ∈ V0(a)
が成り立つ。(ii) ai = a1A+ · · ·+ aiA (1 ≦ i ≦ n) とおけば
dim(A/ai)p/ai = n− i
が成り立つ。
n次元正則局所環 R に対して
m(R) =
n∑i=1
xiR
となる x1, · · · , xn ∈ m(R) を R の正則パラメータ系という。
補題 3. n次元正則局所環 R と x1, · · · , xi ∈ m(R) (1 ≦ i ≦ n) に関する次の 3条件:(a) x1, · · · , xi ∈ m(R) を含む R の正則パラメータ系が存在する
32
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(b) x1, · · · , xi ∈ m(R) の m(R)/m(R)2 における像は R/m(R) 上線形独立(c) R/(x1R+ · · ·+ xiR) は n− i次元正則局所環は同値である。
系. x1, · · · , xn ∈ m(R) が R の正則パラメータ系であれば、任意の整数 i(1 ≦ i ≦ n) に対して
x1R+ · · ·+ xiR ∈ SpecR
となる。
補題 3′. R を n次元ネター局所環とする。(i) 任意の整数 i ∈ 1, · · · , n に対して
p ∈ V (x1R+ · · ·+ xiR) =⇒ dimRp ≧ i
が成り立つような x1, · · · , xn ∈ R が存在する。このとき
p ∈ V0(x1R+ · · ·+ xiR) =⇒ dimRp = i
も成り立つ。(ii) a = x1R+ · · ·+ xnR とおけば
V (a) = m(R),√a = m(R), m(R) ∈ V0(a)
が成り立つ。(iii) 整数 i ∈ 1, · · · , n に対して ai = x1R+ · · ·+ xiR とおけば
dim(R/ai) = dim(R/ai)m(R)/ai = n− i
が成り立つ。
系. R をネター局所環とする。このとき、x ∈ m(R), x /∈ Z(R) であれば
dim(R/xR) = dimR− 1
が成り立つ。
ネター環 A は任意のイデアル p ∈ SpecA に対して Ap が正則局所環となるならば正則であるといわれる。
補題 4. 正則環は正規環である。従って、正則環が整であれば整閉整環となる。(松村、可換環論、p.190, 定理 19.4を参照のこと)
例 3. A を環、S を A の乗法系とする。このとき、環 A が正則であれば環 S−1A も正則となる。
定理 1. デデキント環は正則である。
定理 2. 体 k 上代数的に独立な不定元 x1, · · · , xn に対し、n変数多項式環A = k[x1, · · · , xn] は正則である。注意. 正則環が整であるとは限らない。
例 4. A = Z×Z とおく。このとき、環 A は整ではないが、任意のイデアル p ∈ SpecA に対して Ap は体または DVR となる。従って、環 A は正則である。
例 5. 体 k 上の不定元 X に対して A = k[X] × k[X] とおく。このとき、環 A は整ではないが、任意のイデアル p ∈ SpecA に対して Ap は体またはDVR となる。従って、環 A は正則である。
33
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定理 3. 正則局所環 A に対して
p ∈ SpecA =⇒ Apも正則局所環
が成り立つ。
系. (i) ネター環 A は、任意のイデアル m ∈ m.SpecA に対して Am が正則局所環となるならば、正則となる。
(ii) 正則局所環は正則である。
注意. 定理 3をセールの定理という。これを用語の表面的な解釈により自明であると考えてはいけない。実際、定理 3の証明は簡単ではない。(松村、可換環論、p.190, 定理 19.3を参照のこと)
補題 5. 環 A が正則であれば環 [A], [[A]], ((A)) はすべて正則となる。(松村、可換環論、p.190, 定理 19.5を参照のこと)
注意. 正則局所環はコーエン・マコーレイ環に一般化されるが、これについてはここでは述べることができない。松村、可換環論、p.166, 定理 17.8を参照のこと。
松村、可換環論、p.188 のまとめも重要である。
目標:正則整環の付値論的特徴づけ。
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4.9. SubA(N)
環 A0 に対し、圏 (A0-Mod.) または (A0-Rings) を A と書く。A の objectN に対して N の subobject の全体を SubA(N) と表す。また N の部分集合E を含む N の subobject の全体を SubA(N |E) と表す。即ち
SubA(N |E) = M ∈ SubA(N) | E ⊂Mと定める。
補題 1. 圏 A の object N の部分集合族 (Ei)i∈I に対して
SubA(N |∪i∈I
Ei) =∩i∈I
SubA(N |Ei)
SubA(N |∩i∈I
Ei) ⊃∪i∈I
SubA(N |Ei)
が成り立つ。
系. 集合系
SubA(N |E) | EはN の有限部分集合 を開集合の基底とする SubA(N) の位相が存在する。これを SubA(N) のザリスキ位相という。
N を圏 A の object とする。位相空間 SubA(N) の部分集合 X に対して、この相対位相を X のザリスキ位相という。
補題 2. N を圏 A の object とし、X を位相空間 SubA(N) の部分集合とする。このとき
(i) 任意の M ∈ X に対して
M = M ′ ∈ X |M ′ ⊂Mが成り立つ。従って X は T0 空間となる。また
M ∈ Xcl ⇐⇒ M はX の極小元
も解る。(ii) X の既約閉部分集合 Y に対して
ξY =∪
M∈YM
とおけばξY ∈ SubA(N)
となる。さらにY = M ∈ X |M ⊂ ξY
が成り立つ。(iii) X の既約閉部分集合 Y が生成点をもつための必要十分条件は
ξY ∈ X
となることである。
系. 位相空間 SubA(N |E) の任意の既約閉部分集合は唯ひとつの生成点をもつ。
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4.10. 関手 Loc : (Fields) → (Top.)
体 K の部分環で局所環であるもの全体を LocK と書けば
LocK ⊂ Sub(Rings)(K)
となるから LocK のザリスキ位相が考えられる。体 K の部分集合 E を含むK の部分局所環の全体を Loc(K|E) と表す。このとき
Loc(K|E) = LocK ∩ Sub(Rings)(K|E)
より、この位相は集合系
Loc(K|E) | EはK の有限部分集合 を開集合の基底とすることが解る。
補題 1. K, L を体、φ : K → L を環準同形とする。このとき(i) 写像:LocK → LocL が Q 7→ φ(Q) により定義されて連続となる。(ii) 写像:LocL→ LocK が R 7→ φ−1(R) により定義されて連続となる。
系. Loc : (Fields) → (Top.) は共変関手とも反変関手ともみなすことができる。
注意. 以下では Loc を反変関手とみなすことが多く、共変関手とみなすことは少ない。
補題 2. 体 K とその部分環 A に対して、位相空間 Loc(K|A) の任意の既約閉部分集合は唯ひとつの生成点をもつ。
補題 3. 体 K とその部分環 A に対して(i) 第 3章 (3.7), 補題 5で定義された写像
πK|A : Loc(K|A) −→ SpecA
は全射、連続かつ閉写像である。(ii) 第 3章 (3.7), 補題 5で定義された写像
ΨA|K : SpecA −→ Loc(K|A)は単射かつ連続である。
補題 4. 体 K とその部分環 A に対して
Loc(K|A)cl = ΨA|K(m.SpecA) = Am | m ∈ m.SpecAが成り立つ。
系. 位相空間 Loc(K|A), Loc(K|A)cl はどちらもコンパクトである。定理 1. 体 K とその部分環 A に対して、位相空間 Loc(K|A) はホッホス
ターの条件を満たす。
課題 1. 体 K とその部分環 A に対して
Loc(K|A) ≃ SpecB (位相同形)
となる環 B を K と A から具体的に構成するアルゴリズムを求めよ。
36
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4.11. 反変関手 Zar : (P.Fields) → (Top.)
ここでは射影体のつくる圏を定義し、その基本的な性質を調べる。
体 K と K に属さない要素 ∞ に対して K∞ = K ∪ ∞ とおき、K の演算 +, · を
a ∈ K =⇒ a+∞ = ∞+ a = ∞a ∈ K× =⇒ a · ∞ = ∞ · a = ∞
∞ ·∞ = ∞により K∞ に拡張する。このとき K∞ を体 K より定まる射影体という。
注意. 和 ∞+∞ および積 0 · ∞, ∞ · 0 は定義しない。
射影体の間の写像 φ : K∞ → L∞ は、次の 3条件:
(a) φ(1K) = 1L
(b) α, β ∈ K∞ に対して、和 φ(α) + φ(β) ∈ L∞ が定義されれば和 α+ β ∈ K∞ も定義されて
φ(α+ β) = φ(α) + φ(β)
が成り立つ
(c) α, β ∈ K∞ に対して、積 φ(α) · φ(β) ∈ L∞ が定義されれば積 α · β ∈ K∞ も定義されて
φ(α · β) = φ(α) · φ(β)が成り立つ
を満たすならば、射影体の射であるといわれる。
射影体と射影体の射のつくる圏を (P.Fields) と表す。
補題 1. 射影体の射 φ : K∞ → L∞ に対して
R ∈ Zar L =⇒ φ−1(R) ∈ ZarK
が成り立つ。
補題 2. 付値環 R に対して、写像 φR : (QR)∞ → (R/m(R))∞ を
φR(α) =
α mod m(R) (α ∈ Rのとき)
∞ (α /∈ Rのとき)
により定めれば、φR は射影体の射となる。これを付値環 R に付随する標準的射という。
体 K に対して
ZarK ⊂ LocK ⊂ Sub(Rings)(K)
となるから ZarK のザリスキ位相が考えられる。体 K の部分集合 E を含み K を商体とする付値環の全体を Zar(K|E) で表す。このとき
Zar(K|E) = ZarK ∩ Sub(Rings)(K|E)
より、この位相は集合系
Zar(K|E) | EはK の有限部分集合
を開集合の基底とすることが解る。37
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補題 3. K, L を体、φ : K∞ → L∞ を射影体の射とする。このとき、写像
Zar L −→ ZarKZar φ : ∈ ∈
R 7−→ φ−1(R)
が定義されて連続となる。
系. 反変関手 Zar : (P.Fields) → (Top.) が定義される。
補題 4. 体 K とその部分環 A を固定する。このとき、R ∈ Zar(K|A) に付随する標準的射 φR より定まる写像
Zar φR : Zar(R/m(R)|A/A ∩m(R)
)−→ Zar(K|A)
は単射、連続かつ閉写像で、値域は R となる。従って、位相同形Zar
(R/m(R)|A/A ∩m(R)
) ∼= Rが定まる。
補題 5. 体 K とその部分環 A に対して、位相空間 Zar(K|A) の任意の既約閉部分集合は唯ひとつの生成点をもつ。
補題 6. 体 K とその部分環 Aに対して、位相空間 Zar(K|A), Zar(K|A)clはどちらもコンパクトである。
定理 1. 体 K とその部分環 A に対して、位相空間 Zar(K|A) はホッホスターの条件を満たす。
課題 2. 体 K とその部分環 A に対して
Zar(K|A) ≃ SpecB (位相同形)
となる環 B を K と A から具体的に構成するアルゴリズムを求めよ。
注意. 自然な共変関手:(Fields) → (P.Fields) が存在する。これにより、圏 (Fields) を圏 (P.Fields) の部分圏とみなすこともある。
例 1. 第 3章 (3.13) で導入した条件 (W2) は「W の W 以外の閉集合は有限集合」と同値である。
38
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4.12. Zar と Spec
補題 1. 体 K とその部分環 A に対して、第 3章 (3.8), 定理 1で定義された写像
ΦK|A : Zar(K|A) −→ SpecA
は全射、連続かつ閉写像である。
証明. 写像 ΦK|A は R ∈ Zar(K|A) に対して ΦK|A(R) = A ∩ m(R) により定義されることに注意する。
補題 2. 体 K とその部分環 A に関する次の 4条件:(a) Zar(K|A) = K(b) dimZar(K|A) = 0
(c) K は A の整拡大(d) A は体で K は A の代数拡大は同値である。
補題 3. 体 K とその部分環 A に対して(i) 不等式
dimA+ tr.degQAK ≦ dimZar(K|A)が成り立つ。
(ii) K, A が次の 5条件:(a) dimZar(K|A) ≦ 1
(b) A はネター環で dimZar(K|A) = 2
(c) A はプリューファー環で K は QA の代数拡大(d) A は K の部分体上有限型かつ tr. degQAK は有限
(e) A は有理整数環上の多項式環の整拡大であり tr. degQAK は有限
のうちの少なくともひとつを満たせば (i) で等号が成り立つ。
系. 大域体 K に対して dimZarK は大域体としての次元を表す。
注意. 補題 3を次元公式という。
例 1. 環準同形 φ : A→ B が整であれば、連続写像
Spec φ : SpecB −→ SpecA
は第 2章 (2.7), 補題 2の条件 (⋆) を満たす。
例 2. k を体、A, B を k 上有限型な環、φ : A → B を k多元環の準同形とすれば、連続写像
Spec φ : SpecB −→ SpecA
は第 2章 (2.7), 補題 2の条件 (⋆) を満たす。
例 3. 体 K とその部分環 A に対して、連続写像
πK|A : Loc(K|A) −→ SpecA
は第 2章 (2.7), 補題 2の条件 (⋆) を満たす。
例 4. 体 K とその部分環 A に対して、連続写像
ΦK|A : Zar(K|A) −→ SpecA
は第 2章 (2.7), 補題 2の条件 (⋆) を満たす。39
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補題4. K を体、AをK の部分環とする。このとき、任意の R ∈ Zar(K|A)に対して
dim R = dimZar(R/m(R)|A+m(R)/m(R)
)= dimZar
(R/m(R)|A/A ∩m(R)
)および
dimR = dimZar(K|R)が成り立つ。さらに
dim R+ dimR ≦ dimZar(K|A)も成り立つ。
注意. 補題 4で等式
dim R+ dimR = dimZar(K|A)が成り立つとは限らない。次の例 5を参照のこと。
例 5. k を体、t を k 上の不定元とする。k(t) ⊂ k((t)) の中間体 K をとり
R = K ∩ k[[t]] ∈ Zar(K|k[t])とおく。このとき、R ∈ n.Zar(K|k[t]) であり
dim R = 0, dimR = 1
が成り立つ。また tr. degkK ≧ 2 となる中間体 K が存在する。このとき
dimZar(K|k) ≧ 2
となる。従ってdim R+ dimR < dimZar(K|k)
が成り立つ。
注意. 体 k に対してtr.degk((k)) = +∞
が成り立つならば、K として n変数有理関数体がとれる。
40
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今後の発展の課題
[4.1] (4.5), 例 2に関連して次が成り立つ。
補題. ネター環 A のイデアル a に対して
aは準素イデアル ⇐⇒ V1(a)は 1点集合
が成り立つ。
飯高茂、代数幾何学 I, p.75を参照のこと。これを、例 2に追加することはできないので、定理 1の系に追加する。
[4.2] (4.5), 補題 3より、ネター環 A のイデアル a に対して
aは既約イデアル =⇒ V (a)は既約空間
が成り立つ。これを補題 3に追加する。
[4.3] (4.5), 例 1の類似として、ネター環 A に対して
Z(A) =∪
p∈o.SpecAp
が成り立つか否かを判定せよ。包含関係
Z(A) ⊃∪
p∈o.SpecAp
が成り立つことは (4.4), 補題 3の系より解る。
[4.4] (4.6), 補題 5, 補題 6で環 A がネターであることが必要な部分と必要でない部分とを分離せよ。例えば (3.11), 補題 8の N = aN の証明に環 A がネターであることは本当に必要かを確かめよ。また、次の結果が応用できないかを調べよ。
補題 7. A を環、a を A のイデアル、M をA加群、N を M の部分A加群とする。このとき、完全列
0 →+∞⊕k=0
(akM ∩ (ak+1M +N)
)/ak+1M → Ga(M) → Ga(M/N) → 0
が定まる。
(ザリスキ・サミュエル、p.250を参照のこと)
系. 環 A のイデアル a, b に対して、完全列
0 →+∞⊕k=0
(ak ∩ (ak+1 + b)
)/ak+1 → Ga(A) → Ga(A/b) → 0
が定まる。
補題 8. A を環とする。A のイデアル a, m に対して
m = (m+ a)/a ⊂ A/a41
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とおけばGm(A/a) ≃ Gm(A/a)
が成り立つ。さらに
a ∈ SpecA =⇒+∞∩k=1
(a+mk) ∈ SpecA
も成り立つ。
(ザリスキ・サミュエル、p.250, Theorem 2を参照のこと)
[4.5] (4.7), 例 3, 例 4で
card(m1, · · · ,ms) ∈ Zs | m1, · · · ,ms ≧ 0, m1 + · · ·+ms = n
=(n+ s− 1s− 1
)および
(1− t)−s =+∞∑n=0
(n+ s− 1s− 1
)tn
が成り立つことを用いた。
[4.6] (4.8) で既約元が出てきた。定義をキチンとしておく:整環 A の元 a ∈ A は、a /∈ A× であり条件
b, c ∈ A, a = bc =⇒ b ∈ A× or c ∈ A×
を満たすならば、既約元であるといわれる。
[4.7] (4.8) で正則局所環が UFD であることを示すための第一歩は次の補題である。これを証明せよ。
補題. 局所整環 A に関する次の 4条件:(a) A は UFD
(b) A の既約元は素元(c) 任意の a, b ∈ A に対して aA ∩ bA は A の単項イデアル(d) 任意の a, b ∈ A (a, b = 0) に対して aA+ bA ≃ F/F ′ (A加群同形) とな
る自由A加群 F , F ′ (F ′ ⊂ F ) が存在する
は同値である。
[4.8]
[4.9]
[4.10] ネター性体 K とその部分環 A に対して
n.Zar(K|A) = R ∈ Zar(K|A) | Rはネター環 42
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とおく。このとき、次の命題とその系が成り立つか否かを判定せよ。
命題. ネター整環 A とその商体 QA 上有限生成な拡大体 K に対して
ΦK|A(n.Zar(K|A)) = SpecA
が成り立つ。
系. A をネター整環、K を QA 上有限生成な拡大体とする。このとき
(i) A の K における整閉包は ∩R∈n.Zar(K|A)
R
に等しい。
(ii) p ∈ SpecA に対して、Ap の K における整閉包は∩R∈Φ −1
K|A(p)∩n.Zar(K|A)
R
に等しい。
[4.11] 付値論的正則性
体 K の部分環 A は、A が条件
dim R+ dimR = dimZar(K|A)を満たす R ∈ Zar(K|A) の共通部分として表されるならば、K において付値論的に正則であるといわれる。K が A の商体であれば A は単に付値論的正則であるといわれる。
例 1. 体 K とその部分環 A に対して、条件
tr.degQ(A/A∩m(R))R/m(R) ≧ dimZar(K|A)− 1
を満たす付値環 R の全体を N(K|A) と表す。このとき(i) A がネター整環で K が QA 上有限生成な体であれば
N(K|A) ⊂ n.Zar(K|A)が成り立つ。
(ii) R ∈ N(K|A) であれば
dim R+ dimR = dimZar(K|A)が成り立つ。
注意. R ∈ n.Zar(K|A) であっても
dim R+ dimR = dimZar(K|A)が成り立つとは限らない。
例 2. k(t) ⊂ K ⊂ k((t)) として R = K ∩ k[[t]] ∈ Zar(K|k) とおく。このとき、R ∈ n.Zar(K|k) であり
dim R = 0, dimR = 1
が成り立つ。43
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また K として n変数有理関数体がとれることを示すために
tr.degk((k)) = +∞が成り立つことを証明せよ。
注意. 任意の体 k に対して
tr. deg(k)((k)) = +∞
が成り立つ。松村、可換環論、p.142-p.143を参照のこと。但し、証明はなし。
問題 1. 次が成り立つか否かを判定せよ。ネター局所整環 A に対して
Aは正則 ⇐⇒ Aは付値論的正則
が成り立つ。特に A が完全体上有限型な環である場合に、第 11章、定理 6と関連させ
て考えよ。
もしこれらの条件だけでは不十分であれば次の概念を導入して、より強い付値論的正則性を定義する。
[4.12] 正則鎖体 K とその部分環 A に対して dimZar(K|A) = n であると仮定する。こ
のとき Zar(K|A) の増大列R0 ⊂ R1 ⊂ · · · ⊂ Rn−1 ⊂ Rn
は、任意の整数 i (1 ≦ i ≦ n) に対して Ri−1/m(Ri) が DVR となるとき、正則鎖であるといわれる。付値環 R を経由する正則鎖が存在するような R ∈ Zar(K|A) の全体を
r.Zar(K|A)と表す。体 K の部分環 A は
A =∩
R∈r.Zar(K|A)
R
と表されるならば、K において付値論的に正則であるといわれる。K = QAであれば A は単に付値論的正則であるといわれる。
注意. 任意の整数 i (1 ≦ i ≦ n) に対して
Ri−1/m(Ri) ∈ Zar(Ri/m(Ri)|A+m(Ri)/m(Ri)
)となることは (3.8), 補題 2, (iii) より解る。
例 3. 体 K とその部分環 A に対して
R ∈ r.Zar(K|A) =⇒ dim R+ dimR = dimZar(K|A)が成り立つ。
例 4. 0次元または 1次元の正則局所環は付値論的正則である。
問題 2. 次が成り立つか否かを判定せよ。ネター局所整環 A に対して
Aは正則 ⇐⇒ Aは付値論的正則44
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が成り立つ。
45
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第 5章. 前層と層の理論この章では前層と層の定義と基本的な性質を述べる。
5.1. 前層と層の定義
補題 1. 位相空間 X とその部分集合 E に対して
Σ(E) = U | U : open in X, E ⊂ UΣE = U | U : open in X, E ⊂ U ∩ E
とおく。このときΣ(E) ⊂ ΣE
U, V ∈ Σ(E) =⇒ U ∩ V ∈ Σ(E)
U, V ∈ ΣE =⇒ U ∩ V ∈ ΣE
が成り立つ。また、E が既約であれば
ΣE = U | U : open in X, U ∩ E = ∅と表すこともできる。
位相空間 X の開集合のつくる圏 open(X) から圏 A への反変関手を X 上の A 値前層という。位相空間 X 上の A 値前層 FX に対して、X の開集合U ⊂ V より定まる圏 A の morphism FX(iU,V ) : FX(V ) → FX(U) を制限射といい ρV, U と表す。また F = FX と略記することもある。以下では圏 A を A = (A0-Rings) または A = (A0-Mod.) に限ることとす
る。ここで A0 は環である。これらの圏には帰納極限が常に存在するという特徴がある。この場合 ρV, U : FX(V ) → FX(U) は制限写像と呼ばれる。
位相空間 X 上の A 値前層 FX と X の部分集合 E に対して
FX(E) = ind. lim FX(U) (U ∈ Σ(E))
FX,E = ind. lim FX(U) (U ∈ ΣE)
とおく。
補題 2. 位相空間 X 上の A 値前層 FX : open(X) → A は反変関手FX : P(X) −→ A
に拡張される。
補題 3. 位相空間 X 上の A 値前層 FX と X の部分集合 E に対して
ΣE = ΣE , FX,E = FX, E
が成り立つ。
例 1. 位相空間 X 上の A 値前層 FX に対して、X の部分集合 E が一点集合であれば
Σ(E) = ΣE , FX(E) = FX,E
が成り立つ。
注意. 補題 3と例 1に関連して、一般に
Σ(E) = Σ(E), FX(E) = FX(E)
は成り立たない。
以下では点 x ∈ X に対して
Σx = Σx = Σx, FX,x = FX,x = FX,x
1
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と表す。
補題 4. 位相空間 X と点 x ∈ X に対して∩U∈Σx
U =y ∈ X | x ∈ y
が成り立つ。
補題 5. 位相空間 X と X 上の環の前層 FX に対して∀x ∈ X, FX,x : local ⇐⇒ ∀E : X の既約部分集合, FX,E : local
が成り立つ。
位相空間 X 上の A 値前層 FX から GX への自然変換 φX : FX → GX とE ⊂ X に対して、帰納極限の性質より、圏 A の morphism
φX,E : FX,E −→ GX,E
が定まる。特に E = x のときは、これをφX,x : FX,x −→ GX,x
と表す。
位相空間 X 上の A 値前層 FX は、X の任意の開被覆
U =∪i∈I
Ui
に対して次の 2条件:(a) α ∈ FX(U) が任意の i ∈ I に対して
ρU,Ui(α) = 0
となるならば α = 0 となる
(b) (αi)i∈I ∈∏i∈I
FX(Ui) が任意の i, j ∈ I に対して
ρUi, Ui∩Uj (αi) = ρUj , Ui∩Uj (αj)
となるならば、α ∈ FX(U) で任意の i ∈ I に対して ρU,Ui(α) = αi となるものが存在する
を満たすとき、層であるといわれる。
注意. (a) を局所一意性条件といい、(b) を局所存在条件という。これらをまとめて局所条件という。即ち、層とは局所条件を満たす前層のことである。
例 2. 位相空間 X の開集合 U から R への連続写像の全体を C 0X(U) と表
せば、C 0X は X 上の環の層となる。
例 3. n, r を自然数とし、X = Rn とおく。このとき、X の開集合 U からR への Cr 級関数の全体を C r
X(U) と表せば、C rX は X 上の環の層となる。
同様に X 上の環の層 C∞X も定義される。
例 4. X = Cn とする。このとき、X の開集合 U から C への正則関数の全体を HX(U) と表せば、HX は X 上の環の層となる。
注意. 例 3は微分可能多様体上の環の層に一般化され、例 4は複素多様体上の環の層に一般化される。
2
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位相空間 X と圏 A を固定する。このとき、X 上の A 値前層を object とし、X 上の A 値前層の間の自然変換を morphism として圏が定義される。これを X 上の A 値前層のつくる圏といい (A-P. Sheaf/X) と表す。同様に、位相空間 X 上の層のつくる圏が定義される。これを (A-Sheaf/X) と表す。圏 (A-Sheaf/X) は (A-P. Sheaf/X) の full subcategory となる。圏 A を明示する必要のないときは
(P. Sheaf/X) = (A-P.Sheaf/X), (Sheaf/X) = (A-Sheaf/X)
などと略記することもある。
5.2. 層化
位相空間 X と X 上の前層 F に対して
F ♯ =⨿x∈X
Fx
とおく。即ち、条件
x, y ∈ X, Fx ∩ Fy = ∅ =⇒ x = y
を仮定して和集合をつくる。従って、任意の P ∈ F ♯ に対して P ∈ Fx となる点 x ∈ X が唯ひとつ存在するから、写像
πF : F ♯ −→ X
が πF (P ) = x (P ∈ Fx) により定義される。即ち、圏 (Sets/X) の object(F ♯, πF ) が定義された。また、任意の点 x ∈ X に対して
π−1F (x) = Fx
が成り立つから、写像 πF : F ♯ → X は全射である。
位相空間 X 上の前層の射 φ : F → G に対して、点 x ∈ X を任意にとればmorphism φx : Fx → Gx が定まるから、写像
φ♯ : F ♯ −→ G♯
が自然に定義されπG φ♯ = πF
が成り立つ。従って、共変関手
( )♯ : (P. Sheaf/X) −→ (Sets/X)
が定義される。
注意. 写像 φ♯ : F ♯ → G♯ を
φ♯ =⨿x∈X
φx
と表すこともある。
次に、集合 F ♯ に位相を導入する。U を位相空間 X の開集合とすれば、任意の s ∈ F(U) に対して、写像
U −→ F ♯
s+ : ∈ ∈
x 7−→ ρU, x(s)3
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が定義される。ここで ρU, x : F(U) → Fx は標準的写像である。このとき
πF s+ = iU,X
が成り立つ。従って、写像 s+ : U → F ♯ は単射である。また
Σ = s+(U) | U : open in X, s ∈ F(U)
とおく。
補題 1. 位相空間 X と X 上の前層 F に対して(i) F ♯ の部分集合系 Σ は次の 2条件:
∀P ∈ F ♯, ∃O ∈ Σ, P ∈ O
O1, O2 ∈ Σ, P ∈ O1 ∩O2 =⇒ ∃O3 ∈ Σ, P ∈ O3 ⊂ O1 ∩O2
を満たす。
(ii) X の開集合 V に対して
π−1(V ) =∪
s+(U) | U : open in X, U ⊂ V, s ∈ F(U)
が成り立つ。
系. 集合 F ♯ には Σ を開集合の基底とする位相が存在する。これを F ♯ のエタール位相という。このとき、写像 πF : F ♯ → X は連続かつ開写像となる。さらに πF は局所位相同形となる。
補題 2. 位相空間 X 上の前層の射 φ : F → G より定まる写像
φ♯ : F ♯ −→ G♯
は連続である。
系. 共変関手
( )♯ : (P. Sheaf/X) −→ (Top./X)
が定義される。
注意. 対 (F ♯, πF ) を (X, F) のエタール空間という。
次に、位相空間 X 上の前層 F に対して、X 上の層 F+ を定義する。
補題 3. X を位相空間とする。このとき
(i) X 上の前層 F と X の開集合 U に対して
F+(U) = f ∈ Mor(Top.)(U, F ♯) | πF f = iU,X
とおき、X の開集合 U ⊂ V に対して、定義域を制限することにより、写像
ρ +V, U : F+(V ) −→ F+(U)
を定めれば、F+ は X 上の層となる。
(ii) X 上の前層の射 φ : F → G と X の開集合 U に対して
F+(U) −→ G+(U)φ+(U) : ∈ ∈
f 7−→ φ♯ f
とおくことにより、X 上の層の射 φ+ : F+ → G+ が定まる。4
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系. 位相空間 X を固定する。このとき、X 上の前層 F に TF = F+ を対応させ、X 上の前層の射 φ : F → G に Tφ = φ+ : F+ → G+ を対応させることにより、共変関手
T = ( )+ : (P. Sheaf/X) −→ (P.Sheaf/X)
が定義される。
補題 4. X を位相空間とする。
(i) X 上の A 値前層 F に対して、X の開集合 U と s ∈ F(U) より定まる写像
s+ : U −→ F ♯
は連続となる。従って、圏 A の morphism
F(U) −→ F+(U)ΦF (U) : ∈ ∈
s 7−→ s+
が定義される。
(ii) ΦF : F → F+ は圏 (A-P. Sheaf/X) の morphism となる。さらに、任意の点 x ∈ X に対して
ΦF , x : Fx −→ F+x
は圏 A の isomorphism となる。
(iii) Φ : id(A-P. Sheaf/X) → T は自然変換となる。
系. 位相空間 X を固定する。このとき、対 (T, Φ) は圏 (A-P. Sheaf/X)の層化となる。
5.3. Intersection Sheaf
第 4章 (4.6) で定義した記号 SubA(N), SubA(N |E) を用いる。X を位相空間、s : X → SubA(N) を写像とする。位相空間 X の空でない
開集合 V に対してF(V ) =
∩x∈V
s(x)
とおく。また F(∅) = 0 とおく。X の開集合 U ⊂ V をとる。もし U = ∅ならば F(V ) ⊂ F(U) ⊂ N となるから ρV, U を包含写像と定義する。もしU = ∅ ならば ρV, U = 0 とおく。このとき F は X 上の前層となる。さらにX の空でない開集合の族 (Vi)i∈I に対して
F(∪i∈I
Vi) =∩i∈I
F(Vi)
が成り立つ。
補題 1. X, A, N , s, F を上記の通りとする。このとき(i) 前層 F は局所一意性条件を満たす。(ii) X の空でない部分集合 E に対して
F(E) ≃∪
V ∈Σ(E)
F(V ) ⊂∩x∈E
s(x)
5
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が成り立つ。特に E = x とおけば
Fx ≃∪
V ∈Σx
F(V ) ⊂ s(x)
となる。(iii) X が既約であるかまたは空集合であれば F は局所存在条件を満たす。
また F(X) が二点以上を含めば
X は既約 ⇐⇒ F は局所存在条件を満たすも成り立つ。
(iv) 次の 3条件:(a) 写像 s は連続である(b) X の空でない任意の部分集合 E に対して∪
V ∈Σ(E)
F(V ) =∩x∈E
s(x)
が成り立つ
(c) 任意の点 x ∈ X に対して ∪V ∈Σx
F(V ) = s(x)
が成り立つ
は同値である。
系. 位相空間 X が既約で写像 s が連続であれば、前層 F は X 上の層となり、任意の点 x ∈ X に対して Fx = s(x) が成り立つ。さらに、X の空でない任意の開集合 V に対して
F(V ) =∩x∈V
Fx
と表される。このとき、層 F を写像 s により定義される X 上の intersectionsheaf という。
5.4. 前層の押し出しと引き戻し位相空間 X, Y とその間の連続写像 f : X → Y を固定する。このとき、共
変関手 f−1 : open(Y ) → open(X) が定まる。位相空間 X, Y とその間の連続写像 f : X → Y に対して、X 上の前層 F
に Y 上の前層 f∗F = F f−1 を対応させ、X 上の前層の射 φ : F1 → F2 にY 上の前層の射 f∗φ = φ f−1 を対応させることにより、共変関手
f∗ : (P. Sheaf/X) −→ (P. Sheaf/Y )
が定義される。共変関手 f∗ を前層の押し出しという。
補題 1. X, Y を位相空間、f : X → Y を連続写像とする。このとき、Fが位相空間 X 上の層であれば、f∗F は位相空間 Y 上の層となる。
系. 前層を層に制限することにより、共変関手
f∗ : (Sheaf/X) −→ (Sheaf/Y )
も定義される。これを層の押し出しという。6
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位相空間 X, Y とその間の連続写像 f : X → Y を固定する。このとき、共変関手 f : open(X) → P(Y ) が定まる。位相空間 X から Y への連続写像 f : X → Y に対して、Y 上の前層 G に
X 上の前層 fG = G f を対応させ、Y 上の前層の射 ψ : G1 → G2 に X 上の前層の射 fψ = ψ f を対応させることにより、共変関手
f : (P. Sheaf/Y ) −→ (P. Sheaf/X)
が定義される。共変関手 f を前層の引き戻しという。
注意. 連続写像 f : X → Y に対して、G が位相空間 Y 上の層であっても、fG が位相空間 X 上の層になるとは限らない。そこで層化することを考える。
補題 2. X, Y を位相空間、f : X → Y を連続写像とする。このとき、位相空間 Y 上の層 G に X 上の層 f⋄G = (fG)+ を対応させ、Y 上の層の射ψ : G1 → G2 に X 上の層の射 f⋄ψ = (fψ)+ : f⋄G1 → f⋄G2 を対応させることにより、共変関手
f⋄ : (Sheaf/Y ) −→ (Sheaf/X)
が定義される。共変関手 f⋄ を層の引き戻しという。
例 1. 第 4章 (4.6) で定めた記号を用いる。既約位相空間 X, Y と連続写像 f : X → Y を固定する。また、連続写像 s : Y → SubA(N) により定義される Y 上の intersection sheaf を G と表し、連続写像 s f : X → SubA(N)により定義される X 上の intersection sheaf を F と表す。このとき
(i) fG = f⋄G = F が成り立つ。(ii) Y の開集合 V に対して、f−1(V ) = ∅ であれば
G(V ) ⊂ F(f−1(V ))
が成り立つ。従って、f ♯(V ) : G(V ) → F(f−1(V )) を包含写像または零写像と定めることにより Y 上の環の層の射 f ♯ : G → f∗F が 定義される。特に、写像 f : X → Y が全射であれば、層の射 f ♯ は同形となり、f∗F = G
が成り立つ。
7
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第 6章. 環空間と局所環空間
この章では環空間と局所環空間の定義と基本的な性質をまとめる。
6.1. 定義と例
位相空間 X とその上の環の層 OX との対 (X,OX) を環空間という。環空間 (X,OX), (Y,OY ) に対して、連続写像 f : X → Y と Y 上の環の
層の射 f ♯ : OY → f∗OX との対 (f, f ♯) を環空間 (X,OX) から (Y,OY ) への射といい
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY )
と表す。また、環空間 (X,OX), (Y,OY ), (Z,OZ) の間の射
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY ), (g, g♯) : (Y,OY ) −→ (Z,OZ)
の合成を
(g, g♯) (f, f ♯) = (g f, (g∗f ♯) g♯) : (X,OX) −→ (Z,OZ)
と定める。このとき、環空間と環空間の射は圏をつくる。これを (R.S.) と表す。
補題 1. 環空間 (X,OX) に関する次の 2条件:
(a) 任意の点 x ∈ X に対して OX,x は局所環となる
(b) X の任意の既約部分集合 E に対して OX,E は局所環となる
は同値である。
証明. 第 5章 (5.1), 補題 5より明らか。
環空間 (X,OX) は、X 上の環の層 OX が補題 1の条件 (a), (b) を満たすとき、局所環空間であるといわれる。
補題 2. 環空間の射 (f, f ♯) : (X,OX) → (Y,OY ) と点 x ∈ X に対して、環準同形
f ♯x : OY, f(x) −→ OX,x
が定まる。
局所環空間 (X,OX) から局所環空間 (Y,OY ) への環空間の射 (f, f ♯) :
(X,OX) → (Y,OY ) は、補題 2で定められた環準同形 f ♯x : OY, f(x) → OX,x
がすべての点 x ∈ X において局所的となるとき、局所環空間の射であるといわれる。局所環空間を object とし、局所環空間の射を morphism とする (R.S.) の
subcategory を (L.R.S.) と表す。
注意. 圏 (L.R.S.) は (R.S.) の full subcategory ではない。
例 1. 微分可能多様体、複素多様体は局所環空間となる。
定理 1. K, L を体、φ : K → L を環準同形とする。このとき
(i) 包含写像:LocK → Sub(Rings)(K) により定義される位相空間 LocK
上の intersection sheaf を LK とすれば
LocK = (LocK, LK)
は局所環空間となる。1
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(ii) LocK の開集合 V に対して、(Locφ)−1(V ) = ∅ であればφ(LK(V )) ⊂ LL
((Locφ)−1(V )
)が成り立つ。従って、環準同形 φ の制限または零写像により、環準同形
(Locφ)♯(V ) : LK(V ) −→ LL
((Locφ)−1(V )
)が定義される。
(iii) (Locφ)♯ : LK → (Locφ)∗LL は位相空間 LocK 上の環の層の射となる。
(iv) Locφ = (Locφ, (Locφ)♯) : (LocL, LL) → (LocK, LK) は局所環空間の射となる。
系. 反変関手 Loc : (Fields) → (L.R.S.) が定義される。
注意. 共変関手 Loc : (Fields) → (L.R.S.) は定義されない。
例2. K を体、AをK の部分環とする。このとき、包含写像 i : Loc(K|A) →LocK に対して
LK|A = iLK = i⋄LK
とおけばLoc(K|A) = (Loc(K|A), LK|A)
は局所環空間となる。
例 3. X を既約位相空間、K を体、A を K の部分環、s : X → Loc(K|A)を連続写像とし
OX = sLK|A = s⋄LK|A
とおく。このとき(i) OX は写像 s と包含写像 Loc(K|A) → Sub(Rings)(K) との合成写像に
より定義される X 上の intersection sheaf である。従って、X の開集合 Uが空集合でなければ
OX(U) =∩x∈U
s(x)
が成り立つ。(ii) (X,OX) は局所環空間となる。
例 4. K を体、A を K の部分環、X を Loc(K|A) の既約部分集合、i : X → Loc(K|A) を包含写像とし
OX = iLK|A = i⋄LK|A
とおく。このとき(i) OX は包含写像 X → Sub(Rings)(K) により定義される X 上の inter-
section sheaf である。従って、X の開集合 U が空集合でなければ
OX(U) =∩R∈U
R
が成り立つ。(ii) (X,OX) は局所環空間となる。
定理 2. K, L を体、φ : K∞ → L∞ を射影体の射とする。このとき(i) 包含写像 i : ZarK → LocK に対して
OK = iLK = i⋄LK
2
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とおけばZarK = (ZarK,OK)
は局所環空間となる。(ii) ZarK の開集合 V に対して、(Zar φ)−1(V ) = ∅ であれば
φ(OK(V )) ⊂ OL
((Zar φ)−1(V )
)が成り立つ。従って、射影体の射 φ の制限または零写像により、環準同形
(Zar φ)♯(V ) : OK(V ) −→ OL
((Zar φ)−1(V )
)が定義される。
(iii) (Zar φ)♯ : OK → (Zar φ)∗OL は位相空間 ZarK 上の環の層の射となる。
(iv) Zarφ = (Zar φ, (Zar φ)♯) : (Zar L,OL) → (ZarK,OK) は局所環空間の射となる。
系. 反変関手 Zar : (P.Fields) → (L.R.S.) が定義される。
注意. 正確には ZarK∞ = (ZarK,OK) と表すべきであるが、以下ではZarK = (ZarK,OK) と略記する。
例 5. K を体、A を K の部分環とする。このとき(i) 包含写像 i : Zar(K|A) → LocK に対して
OK|A = iLK = i⋄LK
とおけばZar(K|A) = (Zar(K|A), OK|A)
は局所環空間となる。(ii) OK|A は包含写像 Zar(K|A) → Sub(Rings)(K) により定義される
Zar(K|A) 上の intersection sheaf である。従って、Zar(K|A) の開集合 Uが空集合でなければ
OK|A(U) =∩R∈U
R
が成り立つ。
6.2. 環空間に関するいくつかの条件
例 1. 位相的な条件:例えば (i) 連結性、 (ii) 既約性、 (iii) コンパクト性、(iv) 分離公理、 (v) 次元、 (vi) ヒルベルト性、 (vii) 射の dominant性、等々。
補題 1. 局所環空間 (X,OX) に関する次の 2条件:(a) X の任意の開集合 V に対して OX(V ) は被約である(b) 任意の点 x ∈ X に対して OX, x は被約であるは同値である。
局所環空間 (X,OX) は、補題 1の条件 (a), (b) を満たすとき、被約であるといわれる。
局所環空間 (X,OX) は、X の空でない任意の開集合 V に対して OX(V )が整環となるとき、整であるといわれる。
補題 2. 局所環空間 (X,OX) が整であれば既約かつ被約となる。3
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局所環空間 (X,OX) は、任意の点 x ∈ X に対して OX,x が整閉整環となるとき、正規であるといわれる。
局所環空間 (X,OX) は、任意の点 x ∈ X に対して OX,x が正則局所環となるとき、正則であるといわれる。
補題 3. 局所環空間 (X,OX) は正則であれば正規となる。
注意. 局所環空間が整であるという条件に関しては補題 1の類似は成立しない。実際、次の 2条件:(c) X の任意の開集合 V (V = ∅) に対して環 OX(V ) は整である(d) 任意の点 x ∈ X に対して環 OX,x は整であるは同値ではない。次の例 1を参照のこと。局所環空間が正規または正則であるという条件に関しても同様である。また、アフィンスキームの初歩を既知とすれば、第 3章 (3.2), 例 3を用いてこれらの反例を構成することもできる。
例 1. 複素数体 C 上の正則関数のつくる層を HC と書けば、対 (C,HC) は局所環空間となる。このとき
(i) C の開集合 V (V = ∅) に対して、環 HC(V ) が整であるための必要十分条件は V が連結であることである。
(ii) 任意の点 α ∈ C に対して環 HC,α は整である。
例 2. 体 K とその部分環 A に対して(i) 局所環空間 Loc(K|A) = (Loc(K|A), LK|A) は整である。
(ii) 局所環空間 Zar(K|A) = (Zar(K|A), OK|A) は整かつ正規である。
注意. 局所環空間 Loc(K|A) が正規になるとは限らない。また、局所環空間 Zar(K|A) が正則になるとは限らない。
6.3. 反変関手 Γ : (R.S.) → (Rings)
環空間 (X,OX) に環 Γ(X,OX) = OX(X) を対応させ、環空間の射
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY )
に環準同形Γ(f, f ♯) = f ♯(Y ) : OY (Y ) −→ OX(X)
を対応させることにより、反変関手 Γ : (R.S.) → (Rings) が定義される。全く同様に、反変関手 Γ : (L.R.S.) → (Rings) も定義される。
例 1. 体 K とその部分環 A に対して(i) (X,OX) = Loc(K|A) = (Loc(K|A), LK|A) とおけば
Γ(X,OX) = A
となる。(i′) (X,OX) = LocK = (LocK, LK) とおけば
Γ(X,OX) =
Z (ch(K) = 0 のとき)
Fp (ch(K) = p のとき)
となる。(ii) (X,OX) = Zar(K|A) = (Zar(K|A), OK|A) とおけば、Γ(X,OX) は
A の K における整閉包となる。4
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6.4. 反変関手 Rat : (R.S. ; dom) → (Rings)
環空間 (X,OX) に対して Rat(X,OX) = OX,X とおく。即ち
Rat(X,OX) = ind. lim OX(U) (U ∈ ΣX)
と定める。この環の要素を X の有理函数という。標準的環準同形 : OX(U) →Rat(X,OX) を s 7→ ⟨U, s⟩X と表す。環空間の射
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY )
が dominant であれば、環準同形
Rat(Y,OY ) −→ Rat(X,OX)Rat(f, f ♯) : ∈ ∈
⟨V, t⟩Y 7−→ ⟨f−1(V ), f ♯(V )(t)⟩Xが定まる。環空間 (X,OX) に環 Rat(X,OX) を対応させ、dominant な環空間の射
(f, f ♯) : (X,OX) → (Y,OY ) に環準同形
Rat(f, f ♯) : Rat(Y,OY ) −→ Rat(X,OX)
を対応させることにより、反変関手 Rat : (R.S. ; dom) → (Rings) が定義される。全く同様に、反変関手 Rat : (L.R.S. ; dom) → (Rings) も定義される。
環空間 (X,OX) と α ∈ RatX に対して
dom(α) =∪
U ∈ ΣX | ∃s ∈ OX(U), α = ⟨U, s⟩X
とおく。このとき、位相空間 X の開集合 dom(α) を有理函数 α の定義域という。
例 1. 体 K とその部分環 A に対して(i) (X,OX) = Loc(K|A) = (Loc(K|A), LK|A) とおけば
Rat(X,OX) = K
となる。また、任意の α ∈ K に対して
dom(α) = Loc(K|A[α])が成り立つ。従って、Loc(K|A) の位相は集合系 dom(α) | α ∈ K により生成されることが解る。
(ii) (X,OX) = Zar(K|A) = (Zar(K|A), OK|A) とおけば
Rat(X,OX) = K
となる。また、任意の α ∈ K に対して
dom(α) = Zar(K|A[α])が成り立つ。従って、Zar(K|A) の位相は集合系 dom(α) | α ∈ K により生成されることが解る。
6.5. 共変関手 t : (R.S.) → (R.S.)
ここでは環空間における生成点の添加について述べる。まず、共変関手 t : (R.S.) → (R.S.) を定義する。環空間 (X,OX) に対して
t(X,OX) = (tX,OtX) = (tX, αX∗OX)5
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とおく。これは環空間となる。環空間の射
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY )
に対して、環空間の射
t(f, f ♯) : t(X,OX) −→ t(Y,OY )
をt(f, f ♯) = (tf, αY ∗f
♯) : (tX, αX∗OX) −→ (tY, αY ∗OY )
と定める。環空間 (X,OX) に環空間 t(X,OX) を対応させ、環空間の射
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY )
に環空間の射t(f, f ♯) : t(X,OX) −→ t(Y,OY )
を対応させることにより、共変関手 t : (R.S.) → (R.S.) が定義される。全く同様に、共変関手 t : (L.R.S.) → (L.R.S.) も定義される。次に、自然変換 α : id(R.S.) → t を定義する。環空間 (X,OX) に対して、環空間の射
α(X,OX) : (X,OX) −→ t(X,OX)
を、tX 上の層の恒等射 α ♯X : OtX → αX∗OX を用いて
α(X,OX) = (αX , α♯X) : (X,OX) −→ (tX,OtX)
とおくことにより定める。環空間 (X,OX) に環空間の射
α(X,OX) : (X,OX) −→ t(X,OX)
を対応させることにより、自然変換 α : id(R.S.) → t が定義される。
定理 3. 環空間 (X,OX) に関する条件P : 位相空間 X の任意の既約閉集合は唯ひとつの生成点をもつを導入する。このとき、共変関手
t : (R.S.) −→ (R.S.)
と自然変換α : id(R.S.) −→ t
の対 (t, α) は圏 (R.S.) の P 化となる。対 (t, α) はまた、圏 (L.R.S.) の P 化にもなる。
環空間 (X,OX) と包含写像 i : Xcl → X に対して
OXcl= i⋄OX
とおけば、環空間 (Xcl,OXcl) が定まる。(X,OX) が局所環空間であれば
(Xcl,OXcl) も局所環空間となる。
定理 4. 定理 3の条件 P を満たすヒルベルト環空間と条件 (⋆) を満たす環空間の射のつくる圏を C1 と表す。また、第 2章 (2.4), 定理 3の条件 Q を満たす T1環空間と条件 (⋆) を満たす環空間の射のつくる圏を C2 と表す。このとき、共変関手
( )cl : C1 −→ C26
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t : C2 −→ C1が定義され、これらにより圏 C1 と C2 は同値となる。局所環空間に限っても同様のことが成り立つ。
6.6. 埋入と商空間ここでは開埋入、閉埋入および商空間を定義して、その例をいくつか挙げる。(X,OX) を局所環空間、V を X の開集合とする。このとき、包含写像
i : V → X に対してOV = iOX = i⋄OX
とおけば、局所環空間 (V,OV ) が定まる。これを (X,OX) の開部分局所環空間という。
注意. 制限写像の記号をまねて
OX |V = iOX = i⋄OX
と表すこともある。
局所環空間の射
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY )
は、(X,OX) から (Y,OY ) の開部分局所環空間への同形となるとき、開埋入であるといわれる。
例 1. (X,OX) を局所環空間、V を X の開集合、i : V → X を包含写像とする。このとき、X の開集合 U に対して、環準同形
i♯(U) : OX(U) −→ (i∗OV )(U)
を制限写像 ρU,U∩V : OX(U) → OX(U ∩ V ) と定めることにより、開埋入
(i, i♯) : (V,OV ) −→ (X,OX)
が定義される。
局所環空間の射
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY )
は次の 2条件:(a) f(X) は Y の閉集合で、f : X → f(X) は位相同形
(b) 任意の x ∈ X に対して、環準同形 f ♯x : OY, f(x) → OX,x は全射
を満たすとき、閉埋入であるといわれる。
例 2. A を環とし、K∞, L∞ を (A-P.Fields) の object とする。このとき、(A-P.Fields) の射 φ : K∞ → L∞ が全射であれば、局所環空間の射
ZarA φ : ZarA L −→ ZarAK
は閉埋入となる。
局所環空間の射
(f, f ♯) : (X,OX) −→ (Y,OY )
は次の 3条件:(a) f : X → Y は全射(b) Y の位相は X の位相の f による誘導位相
7
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(c) OY = f∗OX
を満たすとき、商射であるといわれる。局所環空間 (X,OX), (Y,OY ) に対して、商射 (f, f ♯) : (X,OX) → (Y,OY )
が存在するとき、(Y,OY ) を (X,OX) の商局所環空間という。
例 3. (X,OX) を局所環空間とし、∼ を X の同値関係とする。このとき、Y = X/∼ とおき、標準的写像 f : X → Y を用いて集合 Y に X の位相のf による誘導位相を導入し OY = f∗OX とおけば、(Y,OY ) は (X,OX) の商局所環空間となる。
6.7. 環空間上の加群層(X,OX) を環空間とする。このとき、位相空間 X 上の加群の層 F は、X
の任意の開集合 V に対して F(V ) が OX(V ) 加群となり、X の任意の開集合 U ⊂ V に対して制限写像 OX(V ) → OX(U) と F(V ) → F(U) より定まる図式:
OX(V )×F(V ) −→ F(V )−→ −→
OX(U)×F(U) −→ F(U)
が可換になるとき、OX 加群層であるといわれる。
例 1. 環空間 (X,OX) に対して、位相空間 X のすべての開集合 V に対して F(V ) = 0 とおいて定まる X 上の加群の層 F は OX 加群層となる。
8
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今後の発展の課題
[6.1] 局所環空間の直積後に示すように、スキーム S 上のスキームのつくる圏 (Sch./S) は直積を
もつ。この一般化として次の問題が生ずる。
問題 6.1.1. 局所環空間のつくる圏 (L.R.S.) は直積をもつか? また局所環空間 S 上の局所環空間のつくる圏 (L.R.S./S) は直積をもつか?
この問題が肯定的に解決すれば、スキームの場合と同様に、係数体の変更、分離性と固有性、等の理論が局所環空間のつくる圏で展開できる。また、絶対整局所環空間も次のように定義できる:
定義. k を体とする。このとき、k 上の局所環空間 (X,OX) は、k の任意の代数拡大体 k′ に対して局所環空間の直積 (X,OX) ×k Spec k
′ が整となるとき、k 上絶対整であるといわれる。
注意. もし、問題 6.1.1が否定的に解決すれば、上記定義を次のように修正することが必要となる。
定義. k を体とする。このとき、k 上の局所環空間 (X,OX) は、k の任意の代数拡大体 k′ に対して局所環空間の直積 (X,OX) ×k Spec k
′ が存在して整となるとき、k 上絶対整であるといわれる。
問題 6.1.2. どのような体の拡大 k ⊂ k′, k ⊂ K に対して
Zar(k′K|k′) = Zar(K|k)×k Spec k′
が成り立つのかを確かめよ。
記号:(これらの記号を第 6章以降で用いる。)
A/a A/a A
/a
Φ ΦK/A ΦK|ASpecA SpecA Spec Am.SpecA m.SpecA m.Spec A
SpecA = (SpecA, A)
Zar(K|A) = (Zar(K|A), OZ)
ΦK|A = (ΦK|A, Φ♯
K|A)
(ΦK|A, Φ♯
K|A) : (Zar(K|A), OZ) −→ (SpecA, A)
Zar(K|A) −→ SpecAΦK|A : ∈ ∈
R 7−→ A ∩m(R)
s : X → Loc KπK|A : Loc(K|A) → SpecA
に対してA = (πK|A)∗OL
となる。
9
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第 7章. アフィンスキームこの章では環 A に対してアフィンスキーム SpecA = (SpecA, A) を定義
し、その基本的な性質をまとめる。
7.1. 反変関手 Spec : (Rings) → (L.R.S.)
始めに、環 A より定まる位相空間 SpecA 上の前層 A の定義を述べ、その性質を調べる。
補題 1. A を環とする。位相空間 SpecA の開集合 U に対して
A(U) = S−1U A
とおく。ここで SU は第 3章 (3.2)で定義された Aの乗法系である。このとき(i) A は SpecA 上の環の前層となる。(ii) 任意の f ∈ A に対して
A(D(f)) = Af
が成り立つ。(iii) 任意の p ∈ SpecA に対して
Ap = Ap
が成り立つ。
次に、環 A に対して SpecA 上の前層 A の層化として構造層 A を定義する。
補題 2. A を環とする。位相空間 SpecA 上の環の前層 A の層化を A と表す。即ち
A = A+
と定める。このとき(i) 任意の p ∈ SpecA に対して
Ap = Ap
が成り立つ。(ii) 任意の f ∈ A に対して
A(D(f)) = Af
が成り立つ。(iii) (SpecA, A) は局所環空間となる。
環 A に対してSpecA = (SpecA, A)
とおき、A により定義されるアフィンスキームという。
補題 3. A, B を環、φ : A→ B を環準同形とする。(i) SpecA の開集合 V に対し U = (Specφ)−1(V ) とおく。このとき、任
意に s ∈ A(V ) をとり
t =( ⨿q∈U
φq
) (s Specφ) : U −→ B♯
と定めればt ∈ B(U) = B
((Specφ)−1(V )
)1
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となる。ここで φq : Aφ−1(q) → Bq は環準同形 φ より引き起こされる局所的環準同形である。さらに、写像
A(V ) −→ B((Specφ)−1(V )
)(Specφ)♯(V ) : ∈ ∈
s 7−→ t
は環準同形となる。
(ii) (Specφ)♯ : A → (Specφ)∗B は位相空間 SpecA 上の環の層の射となる。
(iii) Specφ =(Specφ, (Specφ)♯
): SpecB → SpecA は局所環空間の射
となる。
系. 反変関手 Spec : (Rings) → (L.R.S.) が定義される。
定理 1. 環 A が整であれば、位相空間 SpecA の構造層 A は第 3 章(3.7), 補題 4で定義された写像 ΨA|QA : SpecA → Loc(QA|A) と包含写像:Loc(QA|A) → Sub(Rings)(QA) との合成写像により定義される intersection
sheaf となる。従って、SpecA の開集合 U が空集合でなければ
A(U) =∩p∈U
Ap
が成り立つ。
例 1. (i) 自然数 n に対して
AnZ = Spec [Z]n
とおく。これを有理整数環 Z 上の n次元アフィン空間という。
(ii) 自然数 n と体 k に対して
Ank = Spec [k]n
とおく。これを体 k 上の n次元アフィン空間という。
例 2. 体 K とその部分環 A に対して、第 3章 (3.7), 補題 4で定義された写像 πK|A, ΨA|K を用いれば
A = (πK|A)∗LK|A = Ψ A|KLK|A = Ψ ⋄
A|KLK|A
と表される。またLK|A = π
K|AA = π ⋄K|AA
と表すこともできる。
注意. 一般に LK|A = (ΨA|K)∗A は成り立たない。
例 3. 体 K とその部分環 A に対して
(i) 位相空間 SpecA 上の環の層の射 π ♯K|A : A → (πK|A)∗LK|A を恒等関
手と定めることにより、局所環空間の射
(πK|A, π♯
K|A) : Loc(K|A) −→ SpecA
が定義される。
(ii) 位相空間 Loc(K|A) の開集合 V を任意にとり、環準同形 Ψ ♯A|K(V ) :
LK|A(V ) → A(Ψ−1A|K(V )) を包含写像または零写像と定めれば、Loc(K|A) 上
2
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の環の層の射 Ψ ♯A|K : LK|A → (ΨA|K)∗A が定義される。従って、局所環空間
の射ΨA|K = (ΨA|K , Ψ
♯A|K) : SpecA −→ Loc(K|A)
が定義される。
(iii) 位相空間 SpecA の開集合 V を任意にとり、環準同形 Φ ♯K|A(V ) :
A(V ) → OK|A(Φ−1K|A(V )) を包含写像または零写像と定めれば、SpecA 上の
環の層の射 Φ ♯K|A : A → (ΦK|A)∗OK|A が定義される。従って、局所環空間
の射ΦK|A = (ΦK|A, Φ
♯K|A) : Zar(K|A) −→ SpecA
が定義される。
例 4. 環 A に対して (X,OX) = SpecA = (SpecA, A) とおけば
Γ(X,OX) = A
が成り立つ。また、環 A が整であれば
Rat(X,OX) = QA
も成り立つ。
次に、開埋入、閉埋入と商射の例を挙げる。
例 5. A を環、f ∈ A とする。このとき、標準的環準同形 φ : A → Af より定まる局所環空間の射
Specφ : SpecAf −→ SpecA
は開埋入となる。
例 6. A, B を環とする。このとき、環準同形 φ : A→ B が全射であれば、局所環空間の射
Specφ : SpecB −→ SpecA
は閉埋入となる。
例 7. 体 K とその部分環 A に対し、A が K で整閉であれば、局所環空間の射
ΦK|A : Zar(K|A) −→ SpecA
は商射となる。
7.2. 自然変換 π : id(L.R.S.) → Spec Γここでは自然変換 π : id(L.R.S.) → Spec Γ を定義し、その基本的な性質を
調べる。
補題 1. 局所環空間 (X,OX) に対して(i) 写像
X −→ SpecOX(X)πX : ∈ ∈
x 7−→ ρ −1X,x(m(OX,x))
が定義されて、連続となる。ここで ρX,x : OX(X) → OX,x は標準的環準同形である。
3
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(ii) SpecOX(X) の開集合 V に対し U = π−1X (V ) とおく。このとき、任
意に s ∈ OX(X)(V ) をとり
t =( ⨿x∈U
ρX,x
) (s πX) : U −→ O ♯
X
と定めればt ∈ OX(U) = OX(π−1
X (V ))
となる。ここで ρX,x : OX(X)πX(x) → OX,x は環準同形 ρX,x より引き起こされる局所的環準同形である。さらに、写像
OX(X)(V ) −→ OX(π−1X (V ))
π ♯X(V ) : ∈ ∈
s 7−→ t
は環準同形となる。
(iii) π ♯X : OX(X) → πX∗OX は位相空間 SpecOX(X) 上の環の層の射と
なる。
(iv) π(X,OX) = (πX , π♯
X) : (X,OX) → Spec OX(X) は局所環空間の射となる。
系. 自然変換 π : id(L.R.S.) → Spec Γ が定義される。
例 1. 体 K とその部分環 A に対して
(X,OX) = Loc(K|A) = (Loc(K|A),LK|A)
とおけば (πX , π♯
X) = (πK|A, π♯
K|A) となる。
定理 2. 対 (Spec Γ, π) は圏 (L.R.S.) のアフィンスキーム化となる。
定理 3. (Adjoint Property) 環 A と局所環空間 (X,OX) に対して、写像:
Mor(Rings)
(A, OX(X)
)−→ Mor(L.R.S.)
((X,OX), SpecA
)
∈ ∈
φ 7−→ (Spec φ) π(X,OX)
は全単射となる。
系. 反変関手 Spec : (Rings) → (L.R.S.) は full and faithful である。
環 A に対し、A 上の局所環空間のつくる圏を
(L.R.S./A) = (L.R.S./SpecA)
により定める。このとき、定理 3は (X,OX) が (L.R.S./A) の object となることと OX(X) が (A-Rings) の object となることが同値であることを示している。
例 2. 環 A を固定する。このとき(i) 圏 (A-Fields) = (A-Rings) ∩ (Fields) の object K に対して
LocAK = Loc(K|A)とおくことにより、反変関手
LocA : (A-Fields) −→ (L.R.S./A)
が定義される。4
![Page 161: 付値環を用いた数論と代数幾何学 - kochi-tech.ac.jp...付値環を用いた数論と代数幾何学 内容の概略 ここでは簡単のために、数論とは有理整数環上分離有限型な整スキームと](https://reader035.vdocuments.us/reader035/viewer/2022062311/5eaa8d21f6728e62605869d2/html5/thumbnails/161.jpg)
(ii) 圏 (A-P.Fields) = (A-Rings) ∩ (P.Fields) の object K∞ に対して
ZarAK∞ = ZarAK = Zar(K|A)とおくことにより、反変関手
ZarA : (A-P.Fields) −→ (L.R.S./A)
が定義される。
環 A 上の局所環空間 (X,OX), (Y,OY ) に対して
Y (X) = Mor(L.R.S./A)
((X,OX), (Y,OY )
)とおき、この集合の要素を Y の A 上の X 値点という。特に B がA多元環で X = SpecB のとき
Y (B) = Y (SpecB)
と表し、この要素を Y の A 上の B 値点という。
例 3. A を環とし、A多元環 B と f1, · · · , fs ∈ A[x1, · · · , xn] に対してX = SpecB, Y = Spec
(A[x1, · · · , xn]/(f1, · · · , fs)
)とおく。このとき
Y (B) = (b1, · · · , bn) ∈ Bn | f1(b1, · · · , bn) = · · · = fs(b1, · · · , bn) = 0となる。特に f1 = · · · = fs = 0 であれば Y (B) = Bn となる。
注意. 例 3は連立方程式
f1(x1, · · · , xn) = · · · = fs(x1, · · · , xn) = 0
の環 B における解が局所環空間 Y の A 上の B 値点として得られることを示している。
補題 2. A を環、B, C を A多元環とする。このとき、アフィンスキームSpec(B ⊗A C) はアフィンスキーム SpecB と SpecC の圏 (L.R.S./A) における直積となる。即ち
SpecB ×A SpecC = Spec(B ⊗A C)
と表される。
7.3. 条件 (∗)局所環空間 (X,OX) に関する条件:
(∗) πV が dominant であるような開集合 V よりなる X の開基が存在する
を導入する。
例 1. 微分可能多様体、複素多様体、アフィンスキームはすべて条件 (∗) を満たす。
例 2. 体 K とその部分環 A に対して(i) Loc(K|A) は条件 (∗) を満たす整局所環空間である。(ii) Zar(K|A) は条件 (∗) を満たす整局所環空間である。補題 1. 局所環空間 (X,OX) が条件 (∗) を満たすならば
(X,OX)は整 ⇐⇒ (X,OX)は既約かつ被約
が成り立つ。5
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補題 2. 局所環空間 (X,OX) が整かつ条件 (∗) を満たすとする。このとき(i) Rat(X,OX) は体となる。(ii) 任意の点 x ∈ X と x を含む開集合 V に対して
OX(V ) ⊂ OX, x ⊂ Rat(X,OX)
となる。 従ってOX,x =
∪V ∋x
OX(V )
OX(V ) =∩x∈V
OX,x
Rat(X,OX) =∪x∈X
OX,x =∪V =∅
OX(V )
も成り立つ。
系. 条件 (∗) を満たす整局所環空間と dominant射のつくる圏から体のつくる圏への反変関手 Rat が定義される。
即ち「整かつ (∗)」は有理函数のなす環が体となるための有力な十分条件である。このとき Rat(X,OX) を (X,OX) の函数体という。
補題 3. 条件 (∗) を満たす整局所環空間 (X,OX) に対して、局所環空間の射
(X,OX) −→ Loc(Rat(X,OX)|Γ(X,OX)
)Ψ(X,OX) = (ΨX , Ψ
♯X) : ∈ ∈
x 7−→ OX,x
が定義される。このとき、写像 ΨX により誘導される X の位相は集合系
dom(α) | α ∈ Rat(X,OX)で生成される。
注意. (i) 位相空間 Loc(Rat(X,OX)|Γ(X,OX)
)上の環の層の射 Ψ ♯
X の定義は略す。
(ii) 補題 2, 補題 3は層 OX が写像 ΨX により定義される intersection sheafであることを示している。
定理 4. 位相空間 X に関する次の 2条件:(a) X 上の環の層 OX が存在して (X,OX) は条件 (∗) を満たす整局所環空間となる
(b) X は既約であり、体 K と dominant な連続写像 s : X → LocK が存在する
は同値である。これらが成り立つとき、s(x) = OX,x, OX = sLK = s⋄LK
かつ K = Rat(X,OX) となる。
7.4. 写像のつくる層(X,OX) を局所環空間、k を体とする。このとき、層 OX は、X の任意の
開集合 V に対して OX(V ) が Mor(Sets)(V, k) の k部分環と同形であり、層の制限射が写像の制限で与えられるとき、k への写像のつくる層であるといわれる。これに対して次が成り立つ。
6
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定理 5. (X,OX), (Y,OY ) を局所環空間、k を体とする。このとき(i) 局所環空間 (X,OX) と体 k に関する次の 2条件:
(a) OX は k への写像のつくる層である(b) (X,OX) は被約かつ条件 (∗) を満たす Spec k 上の局所環空間であり、任意の x ∈ X に対して x の剰余体が k と同形となる
は同値である。(ii) 局所環空間 (X,OX), (Y,OY ) と体 k が (i) の条件 (a), (b) を満たす
とする。このとき、連続写像 f : X → Y に関する次の 2条件:(c) f : X → Y は k上の局所環空間の射と考えられる(d) Y の任意の開集合 V に対して
s ∈ OY (V ) =⇒ s (f |f−1(V )
)∈ OX(f−1(V ))
が成り立つ
は同値となる。
系. (i) 実 Cr 級多様体 (r = 0, 1, 2, · · · ,∞, ω) のつくる圏は (L.R.S./R)の充満部分圏である。
(ii) 複素多様体のつくる圏は (L.R.S./C) の充満部分圏である。(iii) k を代数的閉体とするとき、k 上の代数多様体のつくる圏は (L.R.S./k)
の充満部分圏である。
7.5. 条件 (∗∗)局所環空間 (X,OX) に関する条件:
(∗∗) 任意の点 x ∈ X に対して SpecOX,x ≃y ∈ X | x ∈ y
であり、
p と y とが対応しているとき (OX,x)p = OX, y となる
を導入する。ここで y ∈ X | x ∈ y は x の開近傍全ての共通部分であることに注意する。第 5章 (5.1), 補題 4を参照のこと。即ち、開近傍の共通部分が Spec で表されると仮定するのである。
例 1. (i) アフィンスキームは条件 (∗∗) を満たす。(ii) 微分可能多様体、複素多様体は条件 (∗∗) を満たさない。補題 1. 体 K とその部分環 A に対して(i) 局所環空間 Loc(K|A) は条件 (∗∗) を満たす。(ii) 局所環空間 Zar(K|A) は条件 (∗∗) を満たす。
7.6. 加群に付随するアフィンスキーム上の前層A を環、M を A加群とする。このとき、(7.1) の補題 1, 補題 2と同様に、
位相空間 SpecA 上の前層 M および層 M が定まる。層 M は A加群層となる。これを A加群 M に付随するアフィンスキーム SpecA 上の加群層という。このとき、環 A および f ∈ A, p ∈ SpecA に対して
M(D(f)) =Mf
Mp =Mp
が成り立つ。7
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アフィンスキーム SpecA上の A加群層 F は、A加群M が存在して F = Mと表されるとき、準連接的であるといわれる。このとき M = F(SpecA) が成り立つことも解る。
8
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今後の発展の課題
[7.1] 環とアフィンスキーム
§7.2, 定理 3の系より、環 A 上の多元環のつくる圏 (A-Rings) と環 A 上のアフィンスキームのつくる圏 (Aff.Sch./A) とが反同値となることが解る。これを表に出した方が良いのではないか。
[7.2] 絶対整局所環空間
問題 7.2.1. 次の結果が正しいか確かめよ。k を体、(X,OX) を条件 (∗) を満たす k 上の局所環空間とする。このとき
X は k上絶対整 ⇐⇒ X は整かつRat(X,OX)は kの正則拡大
が成り立つ。特に k ⊂ K を体の拡大とするとき
Zar(K|k)は k上絶対整 ⇐⇒ K は kの正則拡大
が成り立つ。
[7.3]
[7.4]
[7.5]
9
![Page 166: 付値環を用いた数論と代数幾何学 - kochi-tech.ac.jp...付値環を用いた数論と代数幾何学 内容の概略 ここでは簡単のために、数論とは有理整数環上分離有限型な整スキームと](https://reader035.vdocuments.us/reader035/viewer/2022062311/5eaa8d21f6728e62605869d2/html5/thumbnails/166.jpg)
第 8章. スキームこの章ではスキームを定義しその基本的な性質をまとめる。
8.1. スキームの定義とその性質
まず、スキームを定義する。局所環空間 (X,OX) は、X の開被覆
X =∪i∈I
Ui
が存在して X の開部分空間 (Ui,OX |Ui) がすべての i ∈ I に対してアフィンスキームと同形となるとき、スキームであるといわれる。スキームと局所環空間の射のつくる圏を (Sch.) と表す。また、スキーム S
上のスキームのつくる圏を (Sch./S) と表す。
例 1. 圏 (Sch.) は圏 (L.R.S.) の full subcategory となる。
補題 1. スキームは条件 (∗), (∗∗) を満たす。系. スキーム (X,OX) が整であれば(i) Rat(X,OX) は体となる。(ii) X の開集合 U が空でなければ
OX(U) =∩x∈U
OX,x
が成り立つ。
定理 1. S をスキームとする。このとき、S 上の任意のスキーム X, Y に対して、圏 (Sch./S) における直積 X ×S Y が存在する。
問題 1. 定理 1で S 上のスキームの直積 X ×S Y は圏 (L.R.S./S) における直積となるのか? (7.2), 補題 2を参照のこと。
スキームの射 f : X → Y により X を Y 上のスキームとみなす。このとき、スキームの直積に付随する射影 p : X ×Y X → X に対して、条件
idX = p ∆を満たすスキームの射 ∆ : X → X ×Y X が唯ひとつ存在する。これを射f : X → Y より定まる対角射という。
例 2. 環準同形 φ : A→ B に対して X = SpecB, Y = SpecA, f = Specφとおけば、アフィンスキーム X はスキームの射 f により Y 上のスキームとみなすことができる。また、環準同形 ψ : B ⊗A B → B を
ψ(b⊗ b′) = bb′ (b, b′ ∈ B)
により定義することができる。このとき、スキームの射
Specψ : SpecB −→ Spec(B ⊗A B)
は対角射 ∆ : X → X ×Y X に一致する。
スキームの射 f : X → Y は、Y 上の任意のスキーム Y ′ に対して定まる射影 X ×Y Y
′ → Y ′ が閉写像となるとき、絶対閉であるといわれる。スキームの射 f : X → Y は、Y 上の任意のスキーム Y ′ に対して定まる射
影 X ×Y Y′ → Y ′ が整となるとき、絶対整であるといわれる。
1
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定理 2. k を体、A を k 多元環とする。このとき
SpecAは k上絶対整 ⇐⇒ Aは整かつQAは kの正則拡大
が成り立つ。
定理 3. k を体、X を k 上有限型なスキームとする。このとき
X は k上絶対整 ⇐⇒ X は整かつRatX は kの正則拡大
が成り立つ。
問題 2. 定理 3で X が k 上有限型であるという条件を落とせないか?
8.2. 射影スキームまず、次数環 S を定義する。A を環とする。A多元環 S は、部分A加群 Sd (d = 0, 1, 2, · · · ) により
S =∞⊕d=0
Sd, Sd · Se ⊂ Sd+e
と表されるとき、A次数環であるといわれる。
例 1. nを自然数、Aを環とする。このとき、A上n変数多項式環 S = [A]n
の d次同次多項式の全体を Sd とすれば、S はA次数環となる。
次に、同次イデアルを定義する。A次数環 S のイデアル a は
a =
∞⊕d=0
(a ∩ Sd)
と表されるとき同次イデアルであるといわれる。
例 2. A次数環 S のイデアル
S+ =∞⊕d=1
Sd
は S の同次イデアルである。
A次数環 S に対して
Proj S = p | pは Sの同次素イデアル, S+ ⊂/ pとおく。
補題 1. A次数環 S と p ∈ Proj S に対して
S(p) =ab∈ Sp | ∃d ≧ 0, a, b ∈ Sd
とおく。このとき
(i) S(p) は Sp の部分環となる。
(ii) S(p) は局所環で
m(S(p)) =ab∈ m(Sp) | ∃d ≧ 0, a, b ∈ Sd
と表される。
2
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A次数環 S に対して Proj S ⊂ Spec S となるから、Proj S は Spec S の相対位相により位相空間となる。即ち、環 S のイデアル a に対し
V+(a) = V (a) ∩ Proj Sとおけば、集合系 V+(a) | aは Sのイデアル は位相空間 Proj S の閉集合系となる。また、f ∈ S に対し
D+(f) = D(f) ∩ Proj Sとおけば、集合系 D+(f) | f ∈ S は位相空間 Proj S の開集合の基底となる。
補題 2. A次数環 S が整であれば、位相空間 Proj S は既約となる。
最後に、A次数環 S が整である場合、局所環空間 ProjS を定義する。位相空間 X = Proj S 上の環の層 OX を Proj S の空でない開集合 U に
対してOX(U) =
∩p∈U
S(p)
とおくことにより定義する。このとき、任意の p ∈ Proj S に対して
x = p ∈ Proj S = X
と表せばOX,x = S(p)
が成り立つ。従って、局所環空間
ProjS = (X,OX)
が定義される。
注意. A次数環 S が整でない場合も X = Proj S 上の環の層 OX を定義して (X,OX) を局所環空間とすることができるがここでは略す。
定理 1. A次数環 S に対して(i) 局所環空間 ProjS は A 上のスキームとなる。(ii) A次数環 S が整であれば ProjS は整スキームとなる。
例 3. 自然数 n と環 A に対して
PnA = Proj [A]n+1
はスキームとなる。これを A 上の n次元射影空間という。環 A が整であればスキーム Pn
A も整となる。ここで多項式環 [A]n+1 を次数環と考える。例 1を参照のこと。
8.3. 分離性と固有性ここではスキームの射が分離的であることおよび固有であることを定義し、
それらの付値環を用いた判定法を紹介する。まず、スキームの射の分離性を定義する。スキームの射 f : X → Y は、対角射 ∆ : X → X ×Y X が閉埋入であると
き、分離的であるといわれる。
例 1. アフィンスキームの間の射はすべて分離的である。
補題 1. スキームの射 f : X → Y が分離的であるための必要十分条件は∆(X) が X ×Y X の閉集合であることである。
3
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定理 1. X をネタースキーム、Y をスキームとする。このとき、スキームの射 f : X → Y に関する次の 2条件:(a) f は分離的である(b) Y 上の任意の付値環 R と包含写像 i : R → QR より定まる写像
Mor(Sch./Y )(SpecR, X) −→ Mor(Sch./Y )(SpecQR, X)(Spec i)∗ : ∈ ∈
g 7−→ g (Spec i)は単射である
は同値である。
注意. 定理 1を分離性の付値論的判定法という。
次に、スキームの射の固有性を定義する。スキームの射 f : X → Y は、分離有限型でありかつ絶対閉であるとき、固
有であるといわれる。
定理 2. X をネタースキーム、Y をスキームとする。このとき、スキームの射 f : X → Y に関する次の 2条件:(a) f は固有である(b) Y 上の任意の付値環 R と包含写像 i : R → QR より定まる写像
Mor(Sch./Y )(SpecR, X) −→ Mor(Sch./Y )(SpecQR, X)(Spec i)∗ : ∈ ∈
g 7−→ g (Spec i)は全単射である
は同値である。
注意. 定理 2を固有性の付値論的判定法という。
8.4. スキーム上の連接層
定理 1. k を体、(X,OX) を Spec k 上固有なスキーム、F を連接OX 加群層とする。このとき、F(X) は有限次元 kべクトル空間となる。
注意. 定理 1を有限性定理という。この結果はコホモロジー群に一般化される。
4
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今後の発展の課題
[8.1] (8.1) で、スキームの射が整であることの定義を書き落としてしまった。キチンと書いておこう。
定義 1. スキームの射 f : X → Y は、Y の任意のアフィン開集合 V に対して f−1(V ) が X のアフィン開集合となるならば、アフィンであるといわれる。
定義 2. スキームの射 f : X → Y は、アフィンでありかつ Y の任意のアフィン開集合 V に対して定まる制限射 f : f−1(V ) → V より定義される環準同形 Γf : ΓV → Γ(f−1(V )) が整となるならば、整であるといわれる。
注意. これらの定義については、飯高茂、代数幾何学 I, 岩波書店、§1.33(p.52-p.53) を参照のこと。
[8.2]
[8.3]
[8.4]
5
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第 9章. ザリスキ環空間この章では付値環のつくる局所環空間の定義とその基本的な性質をまとめる。
9.1. 反変関手 Zar : (P.Fields) → (L.R.S.)
K を体、X を ZarK の部分集合とする。X の空でない開集合 V に対し
OX(V ) =∩R∈V
R
とおけば、X 上の環の前層 OX を得る。このとき
補題 1. X が既約であれば OX は X 上の環の層となり、任意の R ∈ X に対して OX,R = R となる。従って (X,OX) は局所環空間となる。
こうして得られる局所環空間をザリスキ環空間といい、この全体の作る圏を (Z.R.S.) と表す。以下 ZarK の部分集合 X については、常にこの位相と環の前層を導入する。
補題 2. 反変関手 Zar : (P.Fields) → (L.R.S.) は full and faithful である。
例 1. 局所環空間 Zar(K|A) は T0, コンパクト、正規かつ整であり、条件(∗), (∗∗) を満たす。
9.2. Zar と Spec
補題 1. 体 K とその部分環 A に対して、局所環空間の射
ΦK|A : Zar(K|A) −→ SpecA
が ΦK|A(R) = A∩m(R) により定義される。ここで m(R) は局所環 R の唯一の極大イデアルを表す。ΦK|A は全射かつ閉写像である。また付随する層の射
Φ ♯K|A が同形であるための必要十分条件は A が K で整閉となることである。
系. (i) 体 K で整閉な部分環 A に対して SpecA は Zar(K|A) の商局所環空間として表される。
(ii) プリューファー環 A とその商体 K に対して
Zar(K|A) ≃ SpecA
が成り立つ。
例 1. (i) 代数体 K とその整数環 A に対して
ZarK ≃ SpecA
が成り立つ。(ii) 体 k 上の1変数代数函数体 K に対して Zar(K|k) はスキームである。
例えば K = k(t) のとき
Zar(K|k) = Zar(K|k[t]) ∪ Zar(K|k[t−1])
Zar(K|k[t]) ≃ Spec k[t]
となる。
補題 2. 有理整数環 Z 上有限な整閉整環 A と有限次代数体 K とは
A 7−→ K = QA, K 7−→ AはK の整数環
により一対一に対応しZar(K|A) ≃ SpecA
1
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が成り立つ。
9.3. プリューファー環とデデキント環
定理 1. 局所環空間 (X,OX) がザリスキ環空間でありかつアフィンスキームでもあるための必要十分条件は、(X,OX) = Zar(QA|A) となるプリューファー環 A が存在することである。従って関手 Γ と Spec によりプリューファー環のつくる圏と (Z.R.S.) ∩ (Aff.Sch.) とは反同値となる。
系. 定理 1において (X,OX) がネターであることと A がデデキンド環または体となることは同値である。
この定理の応用として、特別なザリスキ環空間については、それがスキームとなるための必要十分条件が求まる。
定理 2. 体 K とそのネター部分環 A に対してZar(K|A) がスキーム ⇐⇒ dim Zar(K|A) ≦ 1
⇐⇒ dim A+ tr. degQAK ≦ 1
が成り立つ。
系. 体 K に対して(i) ZarK が整数環上有限型のスキームであるための必要十分条件は K が
0次元または 1次元の大域体となることである。(ii) 体 K とその部分体 k に対して Z = Zar(K|k) とおく。このとき、K
が k 上の1変数代数函数体であるための必要十分条件は Z が Spec k 上有限型のスキームでありかつ k = OZ(Z) = K となることである。
かくして Zar と Spec のかかわりを通じて代数体や1変数代数函数体の特徴づけができた。これらは Artin-Whaples の理論の類似である。
補題 1. 体 K とその部分環 A に関する次の 3条件:(a) Loc(K|A) は条件 (∗∗) を満たす(b) Loc(K|A) = Zar(K|A)(c) A はプリューファー環かつ K = QA
は同値である。
(Prufer domain and affine scheme の内容)
問題. 付値環によるクルル環の特徴づけ。
9.4. ヒルベルト環局所環空間 (X,OX) および (W,OW ) に関する条件:
(⋄) t(Xcl,OX |Xcl) ≃ (X,OX)
(⋄⋄) SpecOW (W ) の任意の閉集合 F に対し πW (π−1W (F )) = F となる
を導入する。
補題 1. 整環 A に対して X = SpecA, W = m.SpecA とおく。このとき、次の 4条件:(a) X は条件 t(m.SpecA) ∼= SpecA を満たす(a′) X は条件 (⋄) を満たす(b) W は既約でありかつ条件 (⋄⋄) を満たす
2
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(c) A はヒルベルト環であるは同値である。
補題 2. 体 K とその部分環 A に対して X = Loc(K|A), W = Loc(K|A)clとおく。このとき
(i) X が条件 (⋄) を満たすための必要十分条件は A が K を商体とするプリューファー環でありかつヒルベルト環となることである。
(ii) W が既約でありかつ条件 (⋄⋄) を満たすための必要十分条件は A がヒルベルト環となることである。
さらに次が成り立つ。
補題 3. 体 K とその部分環 A に対して X = Zar(K|A), W = Zar(K|A)clとおく。このとき、次の 3条件:(a) X は条件 (⋄) を満たす(b) W は既約でありかつ条件 (⋄⋄) を満たす(c) A はヒルベルト環である。は同値である。
9.5. 付値論的分離性と付値論的固有性ここでは局所環空間の射の分離性、固有性について考える。スキームの理
論ではこれらは直積を用いて定義された。第 8章 (8.3) を参照のこと。しかし局所環空間全体の作る圏が直積をもつとは限らない。そこで分離性、固有性に関する付値論的判定法を思い出す。これらについても第 8章 (8.3), 定理4, 定理 5を参照のこと。
注意. その他、例えば [9], Theorem 4.3および Theorem 4.7を参照のこと。
これらを一般化して局所環空間の射に関する性質としたものが、付値論的分離性及び付値論的固有性である。
定義 1. X, Y を局所環空間とする。このとき、局所環空間の射 f : X → Yは、Y 上の任意の付値環 R と包含写像 i : R → QR より定まる写像
Mor(L.R.S./Y )(SpecR, X) −→ Mor(L.R.S./Y )(SpecQR, X)(Spec i)∗ : ∈ ∈
g 7−→ g (Spec i)が単射であるとき、付値論的分離であるといわれる。
定義 2. X, Y を局所環空間とする。このとき、局所環空間の射 f : X → Yは、Y 上の任意の付値環 R と包含写像 i : R → QR より定まる写像
Mor(L.R.S./Y )(SpecR, X) −→ Mor(L.R.S./Y )(SpecQR, X)(Spec i)∗ : ∈ ∈
g 7−→ g (Spec i)が全単射であるとき、付値論的固有であるといわれる。
定理 3. 体 K とその部分環 A に対して、局所環空間 (X,OX) が次の 3条件:(a) 位相空間 X は第 2章、定理 1の条件 P を満たす(b) 局所環空間 (X,OX) は整かつ条件 (∗), (∗∗) を満たす(c) K = Rat(X,OX)
3
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を満たすと仮定する。このとき(i) 局所環空間の射 f : X → SpecA が付値論的分離であることと、任意
の R ∈ Zar(K|A) に対してcardx ∈ X | R は OX,x を支配する ≦ 1
が成り立つことは同値である。(ii) 局所環空間の射 f : X → SpecA が付値論的固有であることと、任意
の R ∈ Zar(K|A) に対してcardx ∈ X | R は OX,x を支配する = 1
が成り立つことは同値である。
系. ネター整スキーム (X,OX) が SpecA 上固有で関数体 K をもつならば、任意の R ∈ Zar(K|A) に対して
cardx ∈ X | R は OX,x を支配する = 1
が成り立つ。
9.6. 永田の定理
定理 4. ネター整スキーム上分離有限型な整スキームは固有整スキームへ埋め込み可能である。
定理 4に Zar を用いた別証明をつける。
9.7. 集合 Zar(K|A) の要素の分類(特に A が体上有限型な整環または整数環の場合)付値環 R ∈ Zar(K|A) に対して
h(R) = dimZar(R/m(R) | A/A ∩m(R)
)∈ 0, 1, 2, · · ·
およびd(R) = dimR ∈ 0, 1, 2, · · ·
を用いて Zar(K|A) を分類する。補題 1. 付値環 R ∈ Zar(K|A) に対して(i) 等式 h(R) = dim R が成り立つ。(ii) 等式 d(R) = dimZar(K|R) が成り立つ。系. 不等式
h(R) + d(R) ≦ dimZar(K|A)が成り立つ。
例 1. 体 K とその部分環 A に対して
Zar(K|A)cl = R ∈ Zar(K|A) | h(R) = 0が成り立つ。
例 2. 体 K とその部分環 A に対して
d(R) = dimZar(K|A) =⇒ R ∈ Zar(K|A)clh(R) ≧ dimZar(K|A)− 1 =⇒ R ∈ n.Zar(K|A)
が成り立つ。4
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例 3. h(K) = dimZar(K|A), d(K) = 0 が成り立つ。
問題. 補題 1と関連して、どのような付値環 R ∈ Zar(K|A) に対してh(R) = dim(A/A ∩m(R)) + tr. degQ(A/A∩m(R))R/m(R)
が成り立つのかを調べよ。
5
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今後の発展の課題
[9.1] 付値環のつくる局所環空間の直積局所環空間のつくる圏 (L.R.S.) には一般に直積は存在しないと思われる。
一方、スキームのつくる圏には直積が存在した。ここでは「付値環のつくる局所環空間に直積は存在するのか」について考える。
注意. 次は一般には成り立たない。(i) 体の拡大 K/k および k′/k に対して
Zar(K|k)×k Spec k′ = Zar(Kk′|k′)
となる。(ii) 標数 0の体 K と有限次代数体 k に対して
ZarK × Spec k = Zar(Kk|k)となる。
(iii) 体の拡大 K/k および L/k に対して
Zar(K|k)×k Zar(L|k) = Zar(KL|k)となる。
問題 9.1. 体の拡大 K/k および L/k に対して、K ⊗k L が局所環でなければ直積 Zar(K|k)×k Zar(L|k) は存在しないのではないか?
[9.2] つぎの類似方程式
Zar : Spec = Rat : Γ = ? :コホモロジー群
を解け。
♯ #
6
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第 10章. 代数多様体
この章では、体 k 上のアフィン空間および射影空間内の零点集合に位相と環の層を導入して局所環空間とし、その性質を調べる。
10.1. アフィン多様体
ここではアフィン空間内の零点集合に位相と環の層を導入する。環の層はアフィンスキームの構造層の引き戻しにより定義し、零点集合が既約であるときは intersection sheaf となることを示す。また、k が代数的閉体であるとき、この層は写像のつくる層となることを示す。
例 1. 自然数 n に対して
Y = Spec [Z]n = Spec(Z[x1, · · · , xn])
とおく。このとき、任意の体 k に対して Y (k) = kn となる。
注意. 例 1は集合 kn がアフィンスキーム Y の Z 上の k 値点の全体として得られることを示している。
体 k と自然数 n を固定し A = [k]n = k[x1, · · · , xn] とおく。また、多項式f ∈ A と A のイデアル a に対して
Z(f) = P ∈ kn | f(P ) = 0, Z(a) =∩f∈a
Z(f)
と定める。
補題 1. 体 k と自然数 n を固定し A = [k]n とおく。このとき、環 A のイデアル a1, a2, ai (i ∈ I) に対して
a1 ⊂ a2 =⇒ Z(a2) ⊂ Z(a1)
Z(a1) ∪ Z(a2) = Z(a1a2) = Z(a1 ∩ a2)∩i∈I
Z(ai) = Z(∪i∈I
ai)
Z(0) = kn, Z(A) = ∅が成り立つ。
系. 集合 kn は Z(a) | aは Aのイデアル を閉集合系として位相空間となる。この位相を kn のザリスキ位相と呼ぶ。
集合 kn のザリスキ位相に関する閉集合を kn のアフィン零点集合という。
補題 2. 第 3章 (3.6), 定理 3で定めた写像 Φk,n : kn → SpecA に対して、環 A のイデアル a を任意にとれば
Z(a) = Φ −1k,n (V (a)) = Φ −1
k,n
(Spec(A/a)
)が成り立つ。
系. (i) 集合 kn のザリスキ位相は SpecA のザリスキ位相の写像 Φk,n による誘導位相である。
(ii) k が代数的閉体であれば、終集合を値域に制限した写像
Φk,n : kn −→ m.SpecA
は位相同形となる。1
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補題 3. 体 k と自然数 n に対して、位相空間 kn は既約であり
dim kn = n
が成り立つ。
定理 1. 体 k と自然数 n に対して A = [k]n とおき、位相空間 kn 上の環の層を
Okn = Φ ⋄k,nA
と定める。このとき(i) 環の層 Okn は写像 Φk,n : kn → SpecA と ΨA|QA : SpecA →
Loc(QA|A) の合成写像により定義される intersection sheaf である。従って、kn の開集合 U が空集合でなければ
Okn(U) =∩P∈U
AΦk,n(P ) =∩
m∈Φk,n(U)
Am
が成り立つ。(ii) (kn, Okn) は条件 (∗) を満たす整局所環空間となる。(iii) 局所環空間の射
Φk,n = (Φk,n, Φ♯k,n) : (kn, Okn) −→ SpecA
が定義される。(iv) k が代数的閉体であれば、環の層 Okn は k への写像のつくる層と
なる。
以上により、局所環空間 (kn, Okn) の定義と基本的な性質が明らかになった。次に、kn のアフィン零点集合に対してもこれと同様の結果が成立することを示す。
例 2. 多項式 f1, · · · , fs ∈ Z[x1, · · · , xn] に対してY = Spec
(Z[x1, · · · , xn]/(f1, · · · , fs)
)とおく。このとき、任意の体 k に対して
Y (k) = (b1, · · · , bn) ∈ kn | f1(b1, · · · , bn) = · · · = fs(b1, · · · , bn) = 0となる。即ち
Y (k) = Z(f1, · · · , fn)が成り立つ。
注意. 例 2は kn のアフィン零点集合がアフィンスキーム Y の Z 上の k値点の全体として得られることを示している。kn のアフィン零点集合 Z に kn のザリスキ位相の相対位相を導入して位
相空間とする。
補題 4. 体 k と自然数 n に対して、位相空間 kn の零点集合 Z は単射Φk,n : kn → SpecA により SpecA の部分集合とみなすことができる。従って、環 A のラディカルイデアル a = I(Z) が定まる。このとき
Φk,n(Z) ⊂ V (a) = Spec(A/a)
となる。
系. (i) 写像 Φk,n の制限により、単射かつ連続な写像
ΦZ : Z −→ Spec(A/a)2
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が定義される。(ii) k が代数的閉体であれば、終集合を値域に制限した写像
ΦZ : Z −→ m.Spec(A/a)
は位相同形となる。
定理 2. 体 k と自然数 n に対して A = [k]n とおく。位相空間 kn の零点集合 Z に対して a = I(Z) とおき、Z 上の環の層を
OZ = Φ ⋄Z (A/a)
と定める。このとき(i) (Z, OZ) は被約な局所環空間となる。(ii) 局所環空間の射
ΦZ = (ΦZ , Φ♯Z ) : (Z, OZ) −→ Spec(A/a)
が定義される。(iii) 零点集合 Z が既約であれば、a ∈ SpecA となり、環の層 OZ は写像
ΦZ : Z → Spec(A/a) と Ψ(A/a)|Q(A/a) : Spec(A/a) → Loc(Q(A/a)|A/a) の合成写像により定義される intersection sheaf となる。従って、Z の開集合 Uが空集合でなければ
OZ(U) =∩P∈U
(A/a)ΦZ(P ) =∩
m∈ΦZ(U)
(A/a)m
が成り立つ。(iv) k が代数的閉体であれば、環の層 OZ は k への写像のつくる層となる。
既約なアフィン零点集合 Z に対して定まる局所環空間 (Z,OZ) をアフィン多様体という。
環 A と包含写像 i : m.SpecA → SpecA に対して
A = i⋄A
とおけば、局所環空間
m.SpecA = (m.SpecA, A)
が定まる。
補題 5. (i) m.Spec は環と整な環準同形のつくる圏から (L.R.S.) への反変関手となる。
(ii) 体 k を固定する。このとき、m.Spec は k上有限型な環と k多元環の準同形のつくる圏から (L.R.S./k) への反変関手となる。
次に、反変関手 m.Spec と Γ の双対性について述べる。即ち次が成り立つ。
定理 3. 代数的閉体 k を固定する。このとき(i) k 上有限型で被約な環 A と k多元環の準同形のつくる圏と k 上のア
フィン零点集合 (Z,OZ) と k 上の局所環空間の射のつくる圏とは反変関手m.Spec と Γ により反同値となる。
(ii) k 上有限型な整環 A と k多元環の準同形のつくる圏と k 上のアフィン多様体 (Z,OZ) と k 上の局所環空間の射のつくる圏とは反変関手 m.Specと Γ により反同値となる。
注意. 定理 3で (Z,OZ) = m.SpecA であれば t(Z,OZ) = SpecA となる。3
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10.2. 射影多様体
始めに、体 k と自然数 n に対して、k 上の n次元射影空間 Pn(k) を定義する。線形空間 kn+1 における零ベクトルを
0 = (0, · · · , 0) ∈ kn+1
と表す。このとき、集合 kn+1 − 0 における関係 ∼ を (a0, a1, · · · , an),(b0, b1, · · · , bn) ∈ kn+1 − 0 に対して
(a0, a1, · · · , an) ∼ (b0, b1, · · · , bn)⇐⇒ ∃λ ∈ k×, (a0, a1, · · · , an) = λ(b0, b1, · · · , bn)
により定めれば、これは kn+1 − 0 の同値関係となる。このときPn(k) = kn+1 − 0/
∼
とおき、体 k上のn次元射影空間という。ここで (a0, a1, · · · , an) ∈ kn+1−0の属する同値類を (a0 : a1 : · · · : an) と書けば
Pn(k) =(a0 : a1 : · · · : an) | (a0, a1, · · · , an) ∈ kn+1 − 0
と表される。
次に、射影スキームと射影代数多様体との関連を調べる。
10.3. 代数多様体k を体とする。k 上の局所環空間 (V,OV ) は、任意の点 P ∈ V に対して
となるとき、k 上の代数多様体であるといわれる。
補題 1. 代数多様体は条件 (∗) を満たす整局所環空間である。補題 2. V を代数多様体とする。このとき、任意の点 P ∈ V に対して
P が V の非特異点 ⇐⇒ OV, P が正則局所環
が成り立つ。
以下ではスキームと代数多様体の間の関係を調べる。代数閉体上の代数多様体の既約閉集合の全体がスキームとなること。逆に
このスキームの閉点全体を考えると、はじめの代数多様体が再現されることを示す。これは既に局所環空間に一般化して考えられている。
4
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今後の発展の課題
[10.4]
5
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第 11章. 高次元代数的三位一体論この章ではザリスキ環空間 Zar(K|A)および Zar(K|A)cl の性質をまとめる。
11.1. K/A と Zar(K|A) の反同値性定理 1. 整環 A を固定する。(i) 次の 2つの圏:
(a) A を含む体 K のつくる圏(b) 局所環空間 Zar(K|A) のつくる圏は反同値である。
(ii) A がネターかつ K が QA の有限生成拡大体であるとき
Zar(K|A) ≃ proj. lim X
となる。ここで X は K を函数体とする SpecA 上固有な整スキームの全体を動く。固有は射影にかえてもよい。
ここでは定理 1の補足をする。はじめに、定理 1, (ii) の射影極限の意味を考える。この主張する具体的な内容は次の通り:
(1) K を函数体とする SpecA 上固有な整スキーム X, X ′ の間の射 f :X → X ′ に対して ΦX′ = f ΦX となる。
(2) 任意の X に対して (1)と同様の性質を満たす対象 Y と射 fX : Y → Xがあれば、射 g : Y → Zar(K|A) が唯一存在して fX = ΦX g となる。ここで問題となるのは (2) の対象 Y と (1), (2) の射 f , fX , g の正体であ
る。圏 (L.R.S./A) においてこれらが成り立つわけではない。即ち、定理 1,(ii) を正確に述べるためには Zar(K|A) と K を函数体とする SpecA 上固有な整スキームをすべて含む圏で (L.R.S./A) より狭いものが必要となる。
スキームと局所環空間 Zar(K|A) とに共通な位相的条件として(3) X は生成点をもつ T0位相空間である
を導入すれば射影極限について正確に述べられる。即ちK を函数体とし SpecA上付値論的固有で条件 (3), (∗), (∗∗) を満たす整局所環空間の作る圏の中で(1), (2) が成り立つことが示せる。さらに条件:
(4) X の位相は dom(α) | α ∈ RatX で生成される(5) 任意の x ∈ X に対して OX,x は付値環となる
(6) 構造射 X → SpecA は dominant かつ付値論的固有
を導入すれば、これらにより Zar(K|A)が特徴づけられる。いいかえれば、定理 1, (i), (b) の圏が記述できる。以上をまとめて次を得る。
定理 2. 整域 A を固定する。(i) 条件 (3), (4), (5), (6), (∗), (∗∗) を満たす整局所環空間の作る圏は (b)
と一致する。このとき Zar と Rat は (a) と (b) の間の反同値を与える。ここで圏 (a), (b) は定理 1, (i) の通りとする。
(ii) A をネター環、K を QA の有限生成拡大体とする。定理 1, (ii) の射影極限について、K を函数体とし SpecA 上付値論的固有で、条件 (3), (∗),(∗∗) を満たす整局所環空間のなす圏の中で (1), (2) が成り立つ。
11.2. Zar(K|A) と Zar(K|A)cl の同値性1
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定理 3. ヒルベルト整環 A を固定する。
(i) 次の 2つの圏:
(b) 局所環空間 Zar(K|A) のつくる圏(c) 局所環空間 Zar(K|A)cl のつくる圏は同値である。ここで K は A を含む体を走り、Xcl は位相空間 X の閉点の全体を表す。
(ii) A が代数閉体 k であり K が k の有限生成拡大体であるとき
Zar(K|k)cl ≃ proj. limV
となる。ここで V は K を函数体とする k 上の完備代数多様体を動く。完備は射影にかえてもよい。
注意. (b), (c) の object を局所環空間に関する条件により特徴づけることができる。定理 9を参照のこと (K を用いないことが大事)。
証明. 関手 t が (i) の圏 (b), (c) の同値を与える。また (ii) は関手 t の性質を用いて定理 1, (ii) より導かれる。
問題. 複素数体上の 4っ目を考えよ。
比較. 高次元幾何学的三位一体論(セールの GAGA)。
これら 2つの定理は、体 K に関する考察を Zar(K|A) や Zar(K|A)cl に関するものに帰着させること及び固有整スキームの双有理不変量やこのようなスキームの全体がつくる圏の持つ性質の研究を Zar(K|A) の研究に帰着させることが、少なくとも原理的には可能であることを示す。
次に、いくつかの場合に於てこれらのことを実践してみよう。
11.3. Zar(K|A) の商空間補題 1. ネター整環 A とその商体上有限生成な拡大体 K および K を関
数体とする SpecA 上固有な整スキーム X に対して、局所環空間の射 ΦX :Zar(K|A) → X が定義される。ΦX は全射かつ閉写像であり、また付随する層の射 Φ ♯
X が同形であるための必要十分条件は X が正規となることである。
系. K を関数体とする SpecA 上固有な正規整スキーム X は Zar(K|A)の商空間として表される。同様に K を関数体とする SpecA 上分離有限型な正規整スキームが Zar(K|A) のある開集合の商空間となることも解る。A をネター整環、K を QA の有限生成拡大体とする。K を函数体とする
SpecA 上固有な整スキーム X をとる。このような X は必ず存在する。定理1, (ii) より局所環空間の射 ΦX : Zar(K|A) → X が定義されるが、これは次の性質:R ∈ Zar(K|A), x ∈ X に対して
ΦX(R) = x ⇐⇒ R は OX,x を支配する
を満たす。
補題 2. このとき ΦX : Zar(K|A) → X は全射かつ閉写像である。よってΦX に付随する同値関係を ∼ と書けば、位相同形
Zar(K|A)/∼ ≃ X
を得る。2
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定理 4. K を体、A をその部分環とし Z = Zar(K|A) とおく。A がネターであり K が QA の有限生成拡大体であるとき
(i) K を函数体とする SpecA 上固有な整スキーム X に対して
X が正規 ⇐⇒ Φ ♯X が同形射
⇐⇒ OX = ΦX∗OZ
が成り立つ。即ちこのとき、sheaf も込めて X は Zar(K|A) の商空間として表せる。
(ii) K を函数体とする SpecA 上固有な正規整スキームの同型類の全体はZar(K|A) の適当な条件を満たす同値関係の集合により表される。注意. Zar(K|A) の上記の同値関係が満たすべき条件を具体的に書き表す
ことは可能であるがここでは略す。
11.4. 正則微分型式k を体、K をその有限生成拡大体とする。このとき
tr. degk R/m(R) ≧ tr. degkK − 1
となる R ∈ Zar(K|k) の全体を N = N(K|k) と書けば、N も局所環空間の構造をもつ。Z = Zar(K|k) とおく。任意の R ∈ Z に対して ΩZ,R = (ΩR|k)t.f となる
OZ 加群層 ΩZ が存在する。これを Z 上の正則微分型式のつくる層という。W = Zar(K|k)cl, N = N(K|k) に対しても同様に ΩW , ΩN が定義される。もちろんスキーム X に対しても ΩX が定義される。
例 1. 局所環空間 Z, W を上記の通りとする。このとき、i : W → Z に対して ΩW = i−1ΩZ , ΩZ = i∗ΩW となる。よって特に ΩZ(Z) = ΩW (W ) を得る。
次に ΩZ と ΩN の関係をみよう。まず i : N → Z に対し、ΩN = i−1ΩZ
となることに注意する。さらに
定理 5. k を完全体、K をその有限生成拡大体とし Z = Zar(K|k), N =N(K|k) とおく。このとき
(i) K を函数体とする Spec k 上固有な整スキームの全体が regular objectX をもつならば ΩX = ΦX∗ΩZ = (ΦX |N )∗ΩN となる。よって特に ΩX(X)が双有理不変であること及び射 f : Y → X に対して f∗ΩY = ΩX となることがわかる。
(ii) K を函数体とする Spec k 上固有な整スキームの全体が十分多くのregular objects をもつならば ΩZ = i∗ΩN となる。ここで固有を射影にかえてもよい。
即ち正規と正則という見地にしぼって定理 4と定理 5をまとめれば、固有整スキーム X に対して
X : normal ⇐⇒ OX = ΦX∗OZ
X : regular =⇒ ΩX = ΦX∗ΩZ
が成り立つ。また定理 5を知った上で例 1をみれば、双有理不変である不正則数が Z =
Zar(K|k) 及び W = Zar(K|k)cl を用いて記述されることが解る。これを多重種数に一般化することは容易である。
3
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今後の発展の課題
[11.5]
補題 1. ネター整環 A とその商体上有限生成な拡大体 K および K を関数体とする SpecA 上固有な整スキーム X に対して
ΦX
(n.Zar(K|A)
)= X
が成り立つ。
Ringed spaces of valuation rings and projective limits of schemes,Differential forms on ringed spaces of valuation rings,Ringed spaces of valuation rings over Hilbert ringsの内容をまとめること。
4
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第 12章. 多変数代数関数体の理論この章では局所環空間 Zar(K|k) を用いて多変数代数関数体 K/k の性質を
調べる。
12.1. 付値環を用いた特異点の分類および特異点の解消
12.2. 多重種数の性質、小平次元、余接次元の定義と性質
12.3. 一変数代数関数体の理論、特にリーマン・ロッホの定理
問題. 多変数代数関数体のリーマン・ロッホの定理を定式化せよ。(双有理不変リーマン・ロッホ)
第 13章. 高次元大域体の理論類体論とその一般化特に準有限体を係数体とする多変数代数関数体の類体論(守屋美賀雄の夢)
とその局所理論、即ち準有限体を係数体とする多変数冪級数体の類体論の構成
ZarK に対するアラケロフ理論の類似(付値環に対応しない実付値の処理)
双有理不変ゼータ関数の定義とその性質(ラングランズ哲学の双有理版)
13.1. 高次元局所類体論とその一般化
13.2. 高次元大域的類体論とその一般化
13.3. 多変数代数関数体の類体論
第 14章. 既約方程式系の双有理理論
14.1. 方程式系の捉え方の三段階論ヴェイユ:零点集合グロタンディック:スキームこの稿:付値環のつくる局所環空間
14.2. 二段階の本地垂迹商空間と値点
例 1. ガロアの理論
例 2. 一次方程式系
例 3. 谷山・志村予想
付値環 2 ; 2015年 7月 7日版
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