cambodia 港への高い信頼が 海の玄関口を支える多...

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ECDIS西貿特集 空港・港湾 世界への扉を開く ECDIS使JICA12 貿IHO貿公共事業運輸省水路部のヴァンナクさん (中央)。情報処理に関する豊富な知識を データの解析作業に生かしている 船上での水路測量 作業の様子。目に見 えない海底の深さや 地形などの測定を行 うためには、高 度な 技術を要する From Cambodia カンボジア 日本の支援で作成した シハヌークビル港 周 辺 の電子海図 外国の船も頻繁に出入りするシハヌークビル港 シハヌークビル港 データ処理技術を教える朝日航洋のキッティサックさん。「私が10代のころに暮らしていた 懐かしい母国の情景を思い出すほど、タイとカンボジアはよく似ていました」と話す August 2017 12 13 August 2017

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(ECDIS)の搭載を義務化し

た。このことが、カンボジア南西

部のシハヌークビル港にある難題

を突きつけている。「シハヌーク

ビル港はカンボジアで唯一外海に

面し、水深が深く大型船が寄港で

きる港で、国際貿易の重要な拠点

として整備が進められています。

しかし、港周辺の海図は1900

年代前半にフランスと旧ソ連が作

成したものを再編集した紙海図し

かないので、情報が古く正確さに

欠けていました。さらに問題なの

は、そもそもカンボジアには港湾

開発に伴う海図の更新を行う機関

特集 空港・港湾世界への扉を開く

がなかったことです」。こう説明

するのは、さまざまな国で海図作

成プロジェクトを手掛けてきた朝

日航洋株式会社の田村尚美さん

だ。

 現時点ではECDISの搭載義

務化は新造船に限られているが、

今後は既存の船舶にも拡大される

と見込まれているため、最新の水

路測量に基づく電子海図がなけれ

ば港の国際競争力が著しく低下す

ることになる。そこで2013年、

日本はカンボジア政府からの要請

を受け、港周辺の電子海図の作成

と、海図の作成・更新に関する技

術移転を目的としたプ

ロジェクトを始めた。

 タイ出身で、200

9年に朝日航洋に入社

したワンキットウォー

ラクン・キッティサッ

クさんは、今回のプロ

ジェクトで水路測量全

般を担当。カンボジア

の公共事業運輸省水路

部の職員らと共に船に

乗り、水深の測定(測

深)や、データの収集、

解析などを行った。「現

地の職員は海の測深シ

ステムに関する知識は

ほぼ皆無でしたが、メ

コン川をはじめ河川に

おける測深の経験はあ

ったため、それを糸口

として今回の手法と比較しなが

ら教えました」とキッティサッ

クさん。基礎から丁寧に教える

ことを心掛けたといい、機材の

設置や接続状況について説明す

る際には写真撮影を、操作方法

やデータ処理の手順を説明する

際には動画撮影を行うことで、

指導者がいなくてもそれを使っ

て復習できるようにした。

 河川と違い、波や風の影響を

受けるのが海上作業ならではの

難しさだ。当初、多くの職員が

船酔いに苦しめられ、技術移転

どころではなかったという。そこ

で、キッティサックさんは職員

を2班に分け、船上での測深作

業と室内での解析作業を1週間

交代で行った他、短時間でのロ

ーテーションを組めるように作

業工程ごとに担当者を決めた。

こうして収集・解析したデータ

をもとに、実際に海図を編集す

る技術を職員に教えた結果、プ

ロジェクト開始から2年後、カ

ンボジア初の電子海図が完成し

た。

 プロジェクトを通じて、多く

の職員が水路測量や海図編集の

技術を習得した。その一人であ

るソック・ヴァンナクさんは、も

ともと情報処理の知識が豊富で、

港への高い信頼が

国の発展につながる

課題は人材育成

船上で実践的な経験を積む

今回のプロジェクトではデータの

解析や補正処理の管理を任され

た。昨年は、水路測量の技術者を

養成するためのJICAの研修に

も参加。その経験を他の若手職員

にも共有するなど、自分が先頭に

立って事業を引っ張っていく意欲

に満ちた期待の星だ。

 昨年12月には、公共事業運輸省

水路部の主催で「電子海図セミナ

ー」を開催。多岐にわたる分野の

政府機関や民間の港湾管理者、物

流・貿易会社などが参加し、海図

事業の重要性について理解を深め

た。港湾公社の関係者からは、「新

しい海図ができたことで、豪華ク

ルーズ船の寄港回数が増えるなど

経済的な効果も出始めた」との手

応えを感じる声も聞かれている。

 これからカンボジアが取り組ま

なければならない課題について、

朝日航洋の田村さんは、「海図の

改善などにより航海の安全を促進

することを目指す国際水路機関

(IHO)に加盟することと、領

海内を船舶が安全に航行できる交

通安全基盤を整備することです。

古い紙海図の電子化や、港湾開発

に伴う海図の更新のために、さら

に技術を磨いていくことも、もち

ろん大切です」と話す。

 国際貿易の玄関口となるシハヌ

ークビル港の信頼性が高まること

で、カンボジアの社会と経済のさ

らなる発展が期待されている。

公共事業運輸省水路部のヴァンナクさん(中央)。情報処理に関する豊富な知識をデータの解析作業に生かしている

かい

船上での水路測量作業の様子。目に見えない海底の深さや地形などの測定を行うためには、高度な技術を要する

From Cambodiaカンボジア

発展へと導く海の案内図

日本が行う空港・港湾分野の支援は、施設整備だけではない。

カンボジアでは、船舶の安全な航行に欠かせない「海図」の作成に協力。

海の玄関口を支える多くの人材が、現地に生まれている。

       

 私たちが日常生活の中で用いる

市街地図や道路地図のように、海

にも地図があることをご存知だろ

うか。海底の地形や水深、灯台の

位置などを図に表した「海図」と

呼ばれるものだ。海図は紙海図と、

紙海図に記載されている情報をデ

ジタル化した電子海図に分けら

れ、航海の安全を確保するために

欠かせない。

 2012年、国際海事機関(I

MO

)は、国際航海に従事する

500トン以上の旅客船と、30

00トン以上のタンカーや貨物船

に対して、電子海図表示システム

日本の支援で作成したシハヌークビル港周辺の電子海図

外国の船も頻繁に出入りするシハヌークビル港シハヌークビル港

データ処理技術を教える朝日航洋のキッティサックさん。「私が10代のころに暮らしていた懐かしい母国の情景を思い出すほど、タイとカンボジアはよく似ていました」と話す

かい

August 2017 1213  August 2017